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明細書 :プロトン伝導性有機金属錯体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5094694号 (P5094694)
公開番号 特開2010-140748 (P2010-140748A)
登録日 平成24年9月28日(2012.9.28)
発行日 平成24年12月12日(2012.12.12)
公開日 平成22年6月24日(2010.6.24)
発明の名称または考案の名称 プロトン伝導性有機金属錯体
国際特許分類 H01M   8/02        (2006.01)
H01M   8/10        (2006.01)
H01B   1/06        (2006.01)
C07F   5/06        (2006.01)
C07C  63/26        (2006.01)
C07C  63/38        (2006.01)
C07D 233/56        (2006.01)
FI H01M 8/02 P
H01M 8/10
H01B 1/06 A
C07F 5/06 D
C07C 63/26 Z
C07C 63/38
C07D 233/56
請求項の数または発明の数 11
全頁数 22
出願番号 特願2008-315799 (P2008-315799)
出願日 平成20年12月11日(2008.12.11)
審査請求日 平成22年1月15日(2010.1.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】北川 進
【氏名】ブリケオ サリーヤ
【氏名】堀毛 悟史
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】守安 太郎
参考文献・文献 特開2005-075870(JP,A)
特開2007-063448(JP,A)
国際公開第2006/098318(WO,A1)
特開2004-259593(JP,A)
調査した分野 H01M 8/02
H01B 1/06
特許請求の範囲 【請求項1】
細孔性有機金属錯体の細孔内にプロトン伝導性含窒素複素環物質を保持した複合体。
【請求項2】
細孔性有機金属錯体の細孔の大きさが、4.3Å×3.7Åよりも大きい、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
細孔性有機金属錯体が、(1)2A族、3A族又は遷移金属に属する金属原子と、(2)前記金属原子と配位可能な基を2個以上有する芳香族化合物から成る1つ以上の第一配位子とを含む繰り返し単位を有する、請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項4】
前記芳香族化合物が、以下の式1~14:
【化1】
JP0005094694B2_000011t.gif
で表される炭素骨格を有する請求項3に記載の複合体。
【請求項5】
前記金属と配位可能な基が、-COOH、-SH、-CHS2H又は-SO3Hである、請求項3又は4に記載の複合体。
【請求項6】
細孔性有機金属錯体が、さらに(3)O、S、トリエチレンジアミン又はピラジンを第二配位子として繰り返し単位に含む、請求項3~5のいずれかに記載の複合体。
【請求項7】
細孔性有機金属錯体が、一般式I:[MRL]n又は一般式II[ML]n(ここで、Mは金属であり、Rは第一配位子であり、Lは第二配位子であり、nは整数である)で表される、請求項6に記載の複合体。
【請求項8】
プロトン伝導性含窒素化合物がオキサジアゾール、イソオキサジアゾール、ベンゾオキサゾール、プリン、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズトリアゾール及びこれらの誘導体、並びにこれらのオリゴマー及びポリマーから選択される、請求項1~7のいずれかに記載の複合体。
【請求項9】
100℃以上の温度条件における電気伝導度が、10-5S/cm以上である、請求項1~8のいずれかに記載の複合体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の複合体を含む、プロトン伝導性高分子膜。
【請求項11】
請求項10に記載のプロトン伝導性高分子膜を含む、燃料電池。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導性を有する細孔性有機金属錯体の複合体に関する。より詳しくは、本発明は、細孔性有機金属錯体の細孔内にプロトン伝導性含窒素複素環物質を保持することにより、熱安定性に優れ、且つ、無水条件下で優れたプロトン伝導性を有する複合体に関する。当該複合体は、固体高分子形燃料電池の電解質膜の原料等として有用である。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、燃料極(負極)、固体高分子膜(電解質膜)、空気極(正極)を貼り合わせて一体化した膜/電極接合体 (Membrane Electrode Assembly, MEA) と呼ばれる基本構造を有する。電極は、通常カーボンブラック担体上に白金触媒、あるいはルテニウム-白金合金触媒を担持したものが用いられる。燃料極では、一般的に燃料として供給された水素やエタノールが、例えば、H2 → 2H++ 2e-という反応によって、プロトンと電子に分解される。この電子は導線を通って空気極へと移動し、一方でプロトンは電解質膜内を空気極へと移動する。そして空気極では、これらのプロトン及び電子と酸素とが反応してエネルギーを生成する。
【0003】
電解質膜として現在最も一般的に使用されているのは、デュポン社のナフィオン(登録商標)に代表される、スルホン酸基を有するフッ素系のポリマーである。このような電解質膜において、プロトンはスルホン酸基によって形成された親水性のイオンクラスターに存在する水を随伴しながら、スルホン酸基を伝って正極へと移動する。したがって、反応が進むにつれて、膜中の水分が燃料極から空気極へと移動するため、燃料極側では水分が徐々に失われる。そこで、このような電解質膜を使用する場合は、水素と共に水分も供給する必要がある。また、プロトン伝導に水の存在を必要とするため、このような電解質膜を用いた燃料電池は、0℃以下や100℃以上の温度での使用が困難であるという問題がある。これらは、特に自動車用の燃料電池の開発において大きな欠点となる。温度を100℃以下に維持するための冷却器や加湿器が必要であるため、燃料電池の小型化が妨げられるためである。そのため、プロトン伝導に水を必要とせず、高温条件下でも使用可能な電解質膜の開発が望まれている。水の影響を受けにくいプロトン伝導体として、イミダゾールなどの複素環化合物を利用することが提案されているが(特許文献1及び特許文献2)、十分な耐熱性、化学安定性、及び十分なプロトン伝導率を備えた電解質膜は未だ報告されていない。
【0004】
一方、細孔性有機金属錯体とは、金属原子と第一配位子とからなる三次元構造の高分子錯体であり、ナノメートルオーダーの孔を有する。細孔性有機金属錯体は、ガスの吸蔵や分離及び化学反応の触媒等としての機能を有することが報告されている(特許文献3、特許文献4、特許文献5)。しかし、細孔性金属錯体を燃料電池の電解質膜の原料として使用することに関する知見は未だ報告されていない。

【特許文献1】特開2007-109634号公報
【特許文献2】特開2008-169337号公報
【特許文献3】特開2000-117100号公報
【特許文献4】特開2004-161675号公報
【特許文献5】特開2007-63448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
斯かる現状の下、本発明は、100℃以上の条件下で優れたプロトン伝導性を発揮し、燃料電池の電解質膜の材料としても使用し得る、新たなプロトン伝導性物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、細孔性有機金属錯体にプロトン伝導性含窒素複素環物質をドープすることにより、錯体の細孔内に導電性物質が保持されたプロトン伝導性を有する複合体が得られ、この複合体は100℃以上でも安定であり、且つ、温度上昇に伴ってより高いプロトン伝導性を発揮する性質を有することを見出した。本発明は係る知見に基づき、更に研究を重ねた結果完成したものであり、以下の態様の発明を提供する。
項1.細孔性有機金属錯体の細孔内にプロトン伝導性含窒素複素環物質を保持した複合体。
項2.細孔性有機金属錯体の細孔の大きさが、4.3Å×3.7Åよりも大きい、項1に記載の複合体。
項3.細孔性有機金属錯体が、(1)2A族、3A族又は遷移金属に属する金属原子と、(2)前記金属原子と配位可能な基を2個以上有する芳香族化合物から成る1つ以上の第一配位子とを含む繰り返し単位を有する、項1又は2に記載の複合体。
項4.前記芳香族化合物が、以下の式1~14:
【0007】
【化1】
JP0005094694B2_000002t.gif

【0008】
で表される炭素骨格を有する項3に記載の複合体。
項5.前記金属と配位可能な基が、-COOH、-SH、-CHS2H又は-SO3Hである、項3又は4に記載の複合体。
項6.細孔性有機金属錯体が、さらに(3)O、S、トリエチレンジアミン又はピラジンを第二配位子として繰り返し単位に含む、項3~5のいずれかに記載の複合体。
項7.細孔性有機金属錯体が、一般式I:[MRL]n又は一般式II[ML]n(ここで、Mは金属であり、Rは第一配位子であり、Lは第二配位子であり、nは整数である)で表される、項6に記載の複合体。
項8.プロトン伝導性含窒素化合物がオキサジアゾール、イソオキサジアゾール、ベンゾオキサゾール、プリン、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズトリアゾール及びこれらの誘導体、並びにこれらのオリゴマー及びポリマーから選択される、項1~7のいずれかに記載の複合体。
項9.100℃以上の温度条件における電気伝導度が、10-5S/cm以上である、項1~8のいずれかに記載の複合体。
項10.項1~9のいずれかに記載の複合体を含む、プロトン伝導性高分子膜。
項11.項10に記載のプロトン伝導性高分子膜を含む、燃料電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明の細孔性有機金属錯体の細孔内にプロトン伝導性含窒素複素環物質を保持した複合体は、100℃以上の温度条件下でも安定的なプロトン伝導性を有する。好適な一実施形態において、本発明の複合体は、100℃以上の温度で10-5S/cm以上のプロトン伝導率を有し、より好ましくは2.2×10-5S/cm以上のプロトン伝導率を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、細孔性有機金属錯体の細孔内にプロトン伝導性含窒素複素環物質を保持した複合体を提供する。
【0011】
細孔性有機金属錯体
本発明に使用される細孔性有機金属錯体は、プロトン伝導性含窒素複素環物質(以下、プロトン伝導性物質とも称する)を収容可能な細孔を有する有機金属錯体である。よって、プロトン伝導性物質を収容可能なサイズの細孔を有する有機金属錯体であれば、任意の錯体を本発明の細孔性有機金属錯体として使用することができる。よって、本発明に使用される有機金属錯体は、プロトン伝導性物質を収容可能である限り、当該技術分野において公知のものだけでなく、今後新たに開発される有機金属錯体をも含む。本発明において使用可能な公知の細孔性有機金属錯体としては、例えば、特開2007-63448号公報、特開2005-75870号公報、及び特開2004-161675号公報、及び特開2005-93181号広報等に開示されるものを挙げることができる。また、前記の文献に記載の有機金属錯体を以下の説明に基づいて改良したものも好適に使用することが出来る。本発明において、有機金属錯体とは、金属原子と第一配位子及び必要に応じて第二配位子との結合によって形成される立体的な格子構造を繰り返し単位として有する集積型の高分子錯体結晶を意味する。第一配位子とは、金属原子と配位結合可能な基が有機骨格に結合した第一配位子である。第二配位子とは、有機配位子であってもよく、無機配位子であってもよい。本発明の細孔性有機金属錯体は、金属原子及び第一配位子のみを繰り返し単位として有してもよく、更に第二配位子を繰り返し単位に含んでいてもよい。細孔性有機金属錯体が金属原子と第一配位子と第二配位子とを繰り返し単位に含む場合、第一配位子は金属原子と結合することで平面的な格子構造を形成し、第二配位子は、前記平面的な格子構造を立体的に(アキシャル方向に)積層するように金属原子と配位結合する。
【0012】
細孔の構造及び機能
細孔性有機金属錯体が有する細孔とは、金属原子と第一配位子とによって形成される平面的な格子構造が立体的に積み重なることによって形成される空間を意味し、チャンネルとも呼ばれる(図1参照)。当該細孔は、その中でプロトン伝導性物質がホッピング運動によりプロトンを伝導するためのフレームとして機能する。よって、当該細孔は、少なくともプロトン伝導性物質を収容可能な細孔径を有し、プロトン伝導性物質によるプロトン伝導が起こり得る状態でプロトン伝導性物質を保持することが出来る限り、その化学的構造や物理的形状は特に制限されない。
【0013】
安定的なプロトン伝導を可能にする観点から、好ましくは、細孔は、その中でプロトン導電性物質が規則的に整列した状態で存在し得るように、断面積が実質的に均一な角筒状である。ここで、断面積が均一であるとは、1つの孔の一方の端から他方の端までの断面積が実質的に一定であるという意味である。
【0014】
細孔性有機金属錯体は、断面積の異なる複数種類の孔を有していても良い。細孔性有機金属錯体が複数種類の細孔を有する場合、少なくとも1種類の孔がプロトン伝導性物質を収容することができればよい。好適な一実施形態においては、全ての細孔がプロトン導電性物質を収容可能であることが好ましい。より高密度でプロトン伝導性物質を収容することにより、より高いプロトン伝導性を発揮することが可能である。
【0015】
細孔の大きさ
細孔性有機金属錯体の細孔は少なくともプロトン伝導性物質を収容することができる大きさを有する。本明細書において細孔の大きさは、細孔の断面積を正方形又は長方形と仮定した場合の一辺×一辺の大きさ、又は細孔径で規定される。細孔径とは、細孔の直径を意味する。細孔の大きさは、収容するプロトン伝導性物質の分子サイズに応じて適宜設計することができる。即ち、プロトン伝導性物質の分子サイズが比較的大きい場合は、それを収容するために十分なサイズの細孔が必要である。比較的分子サイズが小さいイミダゾールの分子サイズは、4.3Å×3.7Åである。よって、好適な一実施形態において、有機金属錯体は、断面積が4.3Å×3.7Åよりも大きい細孔を有することが好ましく、より好ましくは、4.3Å×4.3Åよりも大きい細孔を有することが好ましい。他の好適な一実施形態において、有機金属錯体は、細孔径が4.3Åよりも大きい細孔を有することが好ましく、より好ましくは、細孔径が4.7Åよりも大きい細孔を有し、更に好ましくは、細孔径が5.0Åよりも大きい細孔を有する。
【0016】
プロトン導電性物質は、温度上昇に伴ってより高い運動エネルギーを獲得する。分子運動によってプロトン伝導性物質が細孔から抜け出してしまうことは高いプロトン伝導性を安定に維持する観点から望ましくない。よって、細孔は、高温(例えば100℃以上)条件下でもプロトン伝導性物質が細孔から抜け出さない程度に、プロトン伝導性物質の大きさに対して大き過ぎない断面積を有することが望ましい。一実施形態において、有機金属錯体は、以下の条件を満たす細孔を有することが好ましい。
【0017】
好ましい条件:(短径+0.2Å)≦ 細孔径 ≦(短径+5Å)
より好ましい条件:(短径+0.4Å)≦ 細孔径 ≦(短径+4.5Å)
更に好ましく条件:(短径+0.6Å)≦ 細孔径 ≦(短径+4Å)
より更に好ましい条件:(短径+0.8Å)≦ 細孔径 ≦(短径+3.5Å)
特に好ましい条件:(短径+1Å)≦ 細孔径 ≦(短径+3Å)
他の好適な実施形態においては、有機金属錯体は、以下の条件を満たす細孔を有することが好ましい。
【0018】
好ましい条件:(短径+0.2Å)≦ 細孔径 ≦(長径+3.5Å)
より好ましい条件:(短径+0.4Å)≦ 細孔径 ≦(長径+3Å)
更に好ましく条件:(短径+0.6Å)≦ 細孔径 ≦(長径+2.5Å)
より更に好ましい条件:(短径+0.8Å)≦ 細孔径 ≦(長径+2.0Å)
特に好ましい条件:(短径+1Å)≦ 細孔径 ≦(長径+1.5Å)
また別の好適な実施形態においては、有機金属錯体は、以下の条件を満たす細孔を有することが好ましい。
【0019】
好ましい条件:(長径+0.2Å)≦ 細孔径 ≦(長径+3.5Å)
より好ましい条件:(長径+0.4Å)≦ 細孔径 ≦(長径+3Å)
更に好ましく条件:(長径+0.6Å)≦ 細孔径 ≦(長径+2.5Å)
より更に好ましい条件:(長径+0.8Å)≦ 細孔径 ≦(長径+2.0Å)
特に好ましい条件:(長径+1Å)≦ 細孔径 ≦(長径+1.5Å)
ここで、短径とは、プロトン伝導性物質を平面的に観た場合のより短い方の分子径であり、長径とはより長い方の分子径である。
【0020】
例えば、プロトン伝導性物質としてイミダゾール又はトリアゾールを使用する場合、イミダゾール及びトリアゾールの分子サイズは、約4.3Å×3.7Åであるため、一実施形態において、細孔径は、好ましくは3.9~8.7Åであり、より好ましくは4.1~8.2Åであり、更に好ましくは4.3~7.7Åであり、より更に好ましくは4.5~7.2Åであり、特に好ましくは 4.7~6.7Åである。
【0021】
プロトン導電性物質としてベンズイミダゾールを使用する場合、ベンズイミダゾールの分子サイズは、約5.7Å×3.7Åであるため、一実施形態において格子径は、好ましくは3.9~9.2Åであり、より好ましくは4.1~8.7Å、更に好ましくは4.3~8.2Åであり、更により好ましくは4.5~7.7Å、特に好ましくは4.7~7.2Åである。
【0022】
プロトン導電性物質として、ビイミダゾールを使用した場合、ビイミダゾールの分子サイズは、約7.3×3.7Åであるため、一実施形態において、細孔径は、好ましくは、3.9Å~10.8Åであり、より好ましくは4.1Å×10.3Åであり、更に好ましくは4.3Å~9.8Åであり、更により好ましくは4.5~9.3Åであり、特に好ましくは、4.7Å~8.8Åである。
【0023】
上記に例示するようなプロトン伝導性物質の誘導体やこれらのプロトン伝導性物質のオリゴマーやポリマーをプロトン伝導性物質として使用する場合も、モノマーの場合と同様の細孔径を有する細孔を使用することができ、また細孔に導入する際の物質の大きさを考慮して、モノマーの場合よりも大きい細孔径を有する細孔を使用することも可能である。また、ここに例示する以外のプロトン伝導性物質を使用する場合にも、導入する分子の大きさを考慮して、適宜細孔径を設計することが出来る。
【0024】
有機金属錯体の三次元構造や細孔径は、X線回折パターンの解析及び窒素やアルゴン吸着による細孔径分布解析といった手段を用いて確認することができる。
【0025】
上述するように、プロトン伝導性物質は細孔内においてホッピング運動によってプロトンを伝導する。よって、金属原子と第一配位子及び必要に応じて第二配位子とで形成される細孔は、収容するプロトン伝導性物質によるホッピング運動を妨げないことが好ましい。従って、好適な一実施形態において、細孔の内部には、プロトン伝導性物質と反応性を有する基が露出していないことが好ましい。
【0026】
金属原子
上記のような細孔を有する有機金属錯体は、金属原子と第一配位子及び必要に応じて第二配位子とが配位結合することによって形成される。このような有機金属錯体を構成する金属原子としては、第一配位子及び必要に応じて第二配位子と結合することによって上述するような細孔を有する集積型の錯体を形成することができる限り、任意の金属原子を使用することが出来る。好ましい金属原子は、周期表の2A族、3B族、又は遷移金属に属する金属原子である。好適な一実施形態においては、2価又は3価の金属イオンになり得る金属原子を使用することが好ましい。好ましい具体的な金属原子としては、アルミニウム、カルシウム、マンガン、銅、ニッケル、クロム、鉄、バナジウム、チタン、コバルト、ジルコニウム、プラチナ、タングステン、モリブデン、亜鉛、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、銀、カドミウム、オスミウム、レニウム、イリジウム、テルビウム、及び金を挙げることが出来る。
【0027】
好適な一実施形態において、第一配位子及び必要に応じて第二配位子と5配位の立体構造をとり得る金属原子が好ましく、そのような金属原子としては、銅、ニッケル、タングステン、パラジウム、クロム、ロジウム、モリブデン、亜鉛、ジルコニウム、マンガン、鉄、ルテニウム、オスミウム、銀、カドミウム、レニウム、イリジウム、コバルト、及び金を挙げることができる。本実施形態におけるより好ましい金属原子は、銅、亜鉛、レニウムである。
【0028】
他の好適な実施形態においては、第一配位子及び必要に応じて第二配位子と6配位の立体構造をとり得る金属原子が好ましく、そのような金属原子としては、アルミニウム、マンガン、鉄、チタン、コバルト、バナジウム、クロム、ジルコニウム、プラチナ、モリブデン、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、及びテルビウムである。本実施形態におけるより好ましい金属原子は、アルミニウム、鉄、クロム、バナジウムである。
【0029】
第一配位子
上記のような金属原子と配位結合する第一配位子は、金属原子との結合によってプロトン伝導性物質を収容する格子構造を形成することができるものであれば特に限定されず、任意の有機配位子を使用することができる。金属原子と第一配位子とが配位結合によって、プロトン導電性物質を収容できる立体的な格子構造を形成するためには、第一配位子は金属原子と配位結合可能な基(以下、配位結合基と称する場合もある)を2個以上有していることが好ましく、より好ましくは、配位結合基を2個以上有する芳香族化合物である。配位結合基が単座配位基である場合、第一配位子は、好ましくは、配位結合基を2~4個有し、より好ましくは3~4個有し、特に好ましくは4個有する。配位結合基が二座配位基である場合、第一配位子は、好ましくは、配位結合基を2~4個有し、より好ましくは2~3個有し、特に好ましくは2個有する。配位結合基が三座配位基である場合、第一配位子は、好ましくは2個以上の配位結合基を有する。
【0030】
前記2個以上の配位結合基は、プロトン導電性物質を収容できる規則的な立体構造を形成することが可能である限り、互いに同一の基であっても、異なる基であってもよいが、好ましくは同一である。
【0031】
配位結合可能な基
配位結合基は、第一配位子の炭素骨格と金属原子とを配位結合させることによって、プロトン伝導性物質を収容できる格子を形成できるものであれば特に制限はない。例えば、カルボキシル基、チオール基、アミノ基、シアノ基、スルホン酸基、ヒドロキシル基、硝酸基、硫酸基、炭酸基及びリン酸基等を挙げることが出来る。好適な一実施形態において、好ましい配位結合基は、二座配位可能な基であり、具体的にはカルボキシル基及びジチオカルボキシル基である。他の実施形態において、好ましい配位結合基は、カルボキシル基(-COOH)、チオール基(-SH)、ジチオカルボキシル基(-CSH)又はスルホン酸基(-SO3H)であり、より好ましくはカルボキシル基、ジチオカルボキシル基、又はスルホン酸基であり、更に好ましくは、カルボキシル基及びジチオカルボキシル基である。尚、厳密には、第一配位子が金属原子と配位結合する際に、前記各配位結合基はイオン化しており、水素原子は存在しないが、本明細書においては、慣用的に水素原子が有する状態の基を記載する。
【0032】
炭素骨格
上述するように、本発明の細孔性有機金属錯体は、プロトン伝導性物質を収容し、且つ、高温条件下におけるプロトン伝導性物質の脱落を防止できるような適切に制御された大きさの均一な孔を有することが望ましい。このような観点から、一実施形態において、第一配位子は以下の一般式1~14:
【0033】
【化2】
JP0005094694B2_000003t.gif

【0034】
で表される炭素骨格を有する芳香族化合物のいずれかを有することが好ましい。炭素骨格の大きさ(幅)によって格子(細孔)の大きさが大きく左右されるため、これらの炭素骨格を有する第一配位子は、格子の中に収容するプロトン伝導性物質の大きさを考慮して、適宜選択することが重要である。
【0035】
例えば、プロトン伝導性物質が単環式含窒素複素環物質(例えば、イミダゾール及びトリアゾール)である場合、第一配位子は、好ましくは、上記一般式1~10、12及び13で表される炭素骨格を有し、より好ましくは、上記一般式5~8、12及び13で示される炭素骨格を有する。プロトン伝導性物質が二環式含窒素複素環物質(例えば、ベンズイミダゾール)である場合、第一配位子は、好ましくは、上記一般式5~11及び14で示される炭素骨格を有し、より好ましくは、上記一般式5~8で示される炭素骨格を有する。
【0036】
上記のような特定の炭素骨格を第一配位子が有する場合、当該第一配位子が有する配位結合基は、金属原子と当該炭素骨格とを結合することによってプロトン伝導性物質を収容できる格子を形成できるものであれば特に制限はない。好ましい配位結合基としては、カルボキシル基、チオール基、ジチオカルボキシル基又はスルホン酸基であり、より好ましくはカルボキシル基、ジチオカルボキシル基、又はスルホン酸基であり、更に好ましくはカルボキシル基及びジチオカルボキシル基である。配位結合基が、チオール基のように単座配位基である場合、二つの配位結合基が隣接する炭素に結合した配位結合基群が、上記炭素骨格上に二個離れて存在することが好ましい。
【0037】
配位結合基は、第一配位子と金属原子とが配位結合することによって、上述するようなプロトン伝導性物質がプロトン伝導をするために適した細孔を形成する格子骨格を形成することができる限り、上記一般式1~14で表される炭素骨格に存在するいずれの炭素に結合していてもよい。また配位結合基は、一般式1~14で表される炭素骨格に存在する炭素に直接結合していても良く、他の原子(例えば、酸素、硫黄等)や炭化水素構造(例えば、メチレン基、エチレン基、ピラジン、トリエチレンジアミン等)等のリンカーを介して間接的に結合していてもよい。例えば、ピラジンを介して第一配位子を炭素骨格と結合させることもでき、そうすることにより、より細孔径の大きい細孔を形成することが可能となる。
【0038】
一実施形態においては、規則性の高い錯体を形成するという観点から、第一配位子は、以下の一般式においてRで示す位置に配位結合基が存在することが望ましい。即ち、第一配位子が、一般式1~4で示すような六員環と五員環とが縮合した形状の骨格を有する場合、第一配位子は、下記の一般式15(但し、二重結合の表示は省略する)においてRで示す位置に配位結合基を2個有していることが好ましい。
【0039】
【化2】
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【0040】
第一配位子が、一般式5~8に示すようなナフタレン又はナフタレンに類似した形状の炭素骨格を有する場合、第一配位子は、以下の一般式16又17(但し、二重結合は省略する)においてRで示す位置に2つの配位結合基を有していることが好ましい。
【0041】
【化3】
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【0042】
さらに、プロトン伝導性物質が比較的分子サイズの小さい単環式含窒素複素環物質である場合、プロトン伝導性物質を収容可能であり、且つ、高温条件下でも該物質が容易に細孔内から抜け出さないような密な格子構造を形成するという観点から、第一配位子は上記一般式16においてRで示す位置に2つの配位結合基を有することが好ましい。同様の観点から、プロトン伝導性物質が二環式含窒素複素環物質である場合、第一配位子は、上記一般式17においてRで示す位置に2つの配位結合基を有することが好ましい。配位結合基がリンカーを介して炭素骨格に結合する場合は、プロトン伝導性物質が二環式含窒素複素環物質であっても、一般式15においてRで示す位置に好適に配位結合基を有し得る。
【0043】
第一配位子が一般式9で示す炭素骨格又はこれに類似する炭素骨格を有する場合、第一配位子は、下記の一般式18又は19においてRで示す位置に配位結合基を2個有することが好ましい。
【0044】
【化4】
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【0045】
プロトン伝導性物質が比較的分子サイズの小さい単環式含窒素複素環物質である場合、プロトン伝導性物質を収容可能であり、且つ、高温条件下でも該物質が容易に細孔内から抜け出さないような密な格子構造を形成するという観点から、第一配位子は、上記一般式18においてRで示す位置に2つの配位結合基を有することが好ましい。同様に、プロトン伝導性物質二環式含窒素複素環物質である場合、第一配位子は、上記一般式19においてRで示す位置に2つの配位結合基を有することが好ましい。
【0046】
第一配位子が一般式10に示すようなアントラセン又はアントラセンに類似した構造を有する場合、第一配位子は、以下の一般式20~22に示すRの位置に2つの配位結合基を有することが好ましい。
【0047】
【化5】
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【0048】
プロトン伝導性物質が単環式含窒素複素環物質である場合、プロトン伝導性物質を収容可能であり、且つ、高温条件下でも該物質が容易に細孔内から抜け出さないような密な格子構造を形成するという観点から、第一配位子は、上記一般式20又は21においてRで示す位置に配位結合基を有することが好ましい。同様に、プロトン伝導性物質が二環式含窒素複素環物質である場合、第一配位子は、上記一般式22においてRで示す位置に2つの配位結合基を有することが好ましい。
【0049】
第一配位子が一般式13に示す炭素骨格又はこれと類似した炭素骨格を有する場合、第一配位子は、以下の一般式23においてRで示す位置に2つの配位結合基を有することが好ましい。
【0050】
【化6】
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【0051】
第一配位子が一般式14で示す炭素骨格又はこれと類似する炭素骨格を有する場合、第一配位子は、以下の一般式24においてRで示す位置に2つの配位結合基を有することが好ましい。
【0052】
【化7】
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【0053】
第一配位子が一般式15に示す炭素骨格又はこれと類似する炭素骨格を有する場合、第一配位子は、以下の一般式25においてRで示す位置に2つの配位結合基を有することが好ましい。
【0054】
【化8】
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【0055】
プロトン伝導性物質が単環式含窒素複素環物質である場合、プロトン伝導性物質を収容可能であり、且つ、高温条件下でも該物質が容易に細孔内から抜け出さないような密な格子構造を形成するという観点から、第一配位子は、一般式15、16、18、20、21、23及び24においてRで示す位置に2つの配位結合基を有することが好ましく、より好ましくは、一般式15、16、23及び24においてRで示す位置に2つの配位結合基を有する。同様の理由により、プロトン伝導性物質が二環式含窒素複素環物質である場合、第一配位子は、一般式17、19、22、及び25に示されるRの位置に2つの配位結合基を有することが好ましく、より好ましくは、第一配位子は、一般式17及び19に示されるRの位置に2つの配位結合基を有する。プロトン伝導性物質が二環式含窒素複素環物質である場合、上記配位結合基が適切なリンカーを介して炭素骨格に結合することにより、一般式15、16、20、21、23及び24においてRで示す位置に2つの配位結合基を有する第一配位子を好適使用することも可能である。
【0056】
一般式1~14で示される炭素骨格を有する第一配位子は、プロトン伝導性物質によるプロトン伝導を妨げない限り、配位結合基が結合する炭素以外の炭素に任意の置換基を有するものであってもよい。好適な一実施形態において、プロトン伝導性物質の収容及びプロトン伝導物質によるホッピング運動を妨げないという観点から、前記置換基は、プロトン伝導性物質と反応性を有さない基であることが好ましい。好ましくは、メチル基、エチル基又はハロゲンであり、より好ましくはメチル基又はハロゲンである。また別の実施形態においては、置換基を有していないことが好ましい。
【0057】
細孔性有機金属錯体は、金属原子と第一配位子のみを繰り返し単位の構成要素として含んでいてもよく、さらに第二配位子を繰り返し単位に含んでいてもよい。第二配位子とは、有機配位子であってもよく、無機配位子であってもよい。細孔性有機金属錯体が金属原子と第一配位子と第二配位子とを繰り返し単位に含む場合、第一配位子は金属原子と結合することで平面的な格子構造を形成し、第二配位子は、前記平面的な格子構造を立体的に(アキシャル方向に)積層するように金属原子と配位結合する。よって、第二配位子は、金属原子と第一配位子とで形成される平面的格子構造を立体的に積層して、プロトン伝導性物質が抜け出さないような細孔を形成することができるものであればよく、有機配位子であっても、無機配位子であってもよい。このような目的から好ましい第二配位子は、酸素原子、硫黄原子、トリエチレンジアミン、又はピラジンであり、さらに好ましくは酸素原子、又は硫黄原子であり、特に好ましくは酸素原子である。これらの第二配位子は、金属原子と配位結合するこおたできる限り、他の原子と結合していてもよく、例えば、酸素原子は、水素原子と結合したOHの状態であってもよい。
【0058】
好適な一実施形態において、細孔性有機金属錯体は、一般式I:[MRL]n(ここで、Mは金属原子であり、Rは第一配位子であり、Lは第二配位子であり、nは整数である。)で表される繰り返し単位構造を有する。本実施形態において好ましい金属原子は、6配位構造をとり得る金属原子、又は3価の金属イオンとなり得る金属原子である。具体的な好ましい金属原子としては、アルミニウム、マンガン、鉄、チタン、コバルト、バナジウム、クロム、ジルコニウム、プラチナ、モリブデン、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、及びテルビウムである。本実施形態におけるより好ましい金属原子は、アルミニウム、鉄、クロム、バナジウムである。
【0059】
好適な他の実施形態において、細孔性有機金属錯体は、一般式II:[ML]n(ここで、Mは金属原子であり、Rは第一配位子であり、Lは第二配位子であり、nは整数である。)で表される繰り返し単位構造を有する。第二配位子は、好ましくは酸素又は硫黄であり、より好ましくは酸素である。本実施形態において、細孔性有機金属錯体は、正方晶系の結晶構造を有する。本実施形態において好ましい金属原子は、5配位構造をとり得る金属原子又は二価の金属イオンとなり得る金属原子である。具体的な好ましい金属原子としては、銅、ニッケル、タングステン、パラジウム、クロム、ロジウム、モリブデン、亜鉛、ジルコニウム、マンガン、鉄、ルテニウム、オスミウム、銀、カドミウム、レニウム、イリジウム、コバルト、及び金を挙げることができる。本実施形態におけるより好ましい金属原子は、銅、亜鉛、レニウムである。本実施形態の細孔性有機金属錯体は、例えば、特開2005-93181号公報の記載に準じて得ることが出来る。
【0060】
細孔性有機金属錯体の製造方法
本発明に使用できる細孔性有機金属錯体は、当該技術分野に公知の方法に従って製造することができる。例えば、予め別個の溶媒に溶解した金属原子と配位子とを混合し、金属原子と配位子との錯体を沈殿物として生成することができる。細孔性有機金属錯体が第一配位子と第二配位子とを有する場合は、金属原子と第一配位子とを溶媒中で混合して金属原子と第一配位子との有機金属錯体を形成した後、さらに第二配位子を当該溶媒に添加し、前記錯体と混合することによって、目的とする有機金属錯体を得ることができる。また、金属原子と第二配位子とを溶媒中で混合し、金属原子と第二配位子との錯体を形成した後、第一配位子を当該溶媒に添加し、混合することによって、目的とする有機金属錯体を得ることもできる。溶媒中に析出した錯体を濾過により回収し、洗浄し、乾燥させることによって、目的の錯体を得ることが出来る。
【0061】
低温では錯体の形成反応の進行が遅いが、温度が高過ぎる場合は副反応により目的とする錯体の収量の減少を引き起こすため、錯体の形成は通常-10℃~120℃で行い、好ましくは30℃~80℃で行う。必要に応じて反応溶媒を撹拌することが好ましい。錯体の乾燥は、通常0℃~150℃程度、好ましくは30℃~100℃で行われる。
【0062】
溶媒としては、有機金属錯体を製造に通常使用される溶媒を特に制限なく使用することができ、原料化合物と生成される錯体の溶解度を考慮して適宜選択することができる。好ましくは、原料化合物を容易に溶解することが可能であり、目的とする有機金属錯体が析出し易い溶媒が使用される。具体的には、水、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル、テトラハイドロフラン、ジエチルエーテル、ジメチルホルムアミド、ヘキサン、アセトン、又はこれらの混合溶媒を使用することができる。
【0063】
本発明で使用される第一配位子は、商業的に入手可能なものをそのまま使用することも可能であり、また定法に従って製造することも可能である。金属原子は、通常金属塩を溶媒に溶解することによって供給される。そのような金属塩としては、各種金属の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、過塩素酸塩等の無機塩や蟻酸塩及び酢酸塩等の有機酸塩を使用することができる。
【0064】
このようにして得られる有機金属錯体の三次元構造や細孔径は、X線回折パターンの解析及び窒素やアルゴン吸着による細孔径分布解析といった手段を用いて確認することができる。
【0065】
プロトン伝導性物質
上述する細孔性有機金属錯体の細孔内にプロトン伝導性物質を保持させることによって、本発明の複合体を得ることができる。プロトン伝導性物質とは、ホッピング運動によって互いにプロトンを伝導することが可能な分子構造を有する含窒素複素環物質である。好ましいプロトン伝導性物質としては、2個以上の窒素原子を有する分子構造を有する複素環物質を挙げることが出来る。具体的な好ましいプロトン伝導性物質としては、オキサジアゾール、イソオキサジアゾール、ベンゾオキサゾール、プリン、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズトリアゾール及びこれらの誘導体、並びにこれらのオリゴマー及びポリマーを挙げることができる。これらのプロトン伝導性物質は、商業的に入手可能であり、また公知の方法に従って合成することができる。前記誘導体としては、例示したプロトン伝導性物質の炭素原子にアルキル基等の置換基を有しているものを挙げることができる。プロトン伝導性物質は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。好適な一実施形態においては、1種のプロトン伝導性物質のみが使用される。
【0066】
複合体の製造方法
プロトン伝導性物質の細孔内への収容は、当該技術分野において公知の方法を用いて行うことができる。例えば、Angew. Chem. Int. Ed. 1999, vol. 38, p. 140に記載の方法に準じて、プロトン伝導性物質を気体又は液体の状態で細孔性有機金属錯体と接触させることによって細孔内に収容することが可能である。具体的には、気体の状態でプロトン伝導性物質を細孔内に収容する場合は、プロトン伝導性物質を、必要に応じて減圧下で、沸点以上に加熱して気化し、これを細孔性有機金属錯体と接触させることによって、細孔内に導入することができる。液体の状態でプロトン伝導性物質を細孔内に導入する場合は、プロトン伝導性物質を任意の溶媒に溶解し、得られた溶液を細孔性有機金属錯体と接触させることで細孔内に導入することができる。ここで使用する溶媒としては、プロトン伝導性物質を溶解することができるものであれば特に制限なく使用することができる。例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素などを使用することができる。
【0067】
プロトン伝導性物質がオリゴマー、又はポリマーである場合、モノマー分子を細孔内に収容した後、細孔内で重合することができる。細孔内での重合は、例えば、特開2006-225579号公報に記載の方法に準じて行うことができる。例えば、有機金属錯体の細孔内にポリビニルイミダゾールを収容する場合は、ビニルイミダゾールを上述したような手法により、細孔内に導入し、次いでラジカル重合開始剤を添加することによって重合を開始させ細孔内でポリマーとすることができる。このようにして細孔性有機金属錯体の細孔内にポリマー状のプロトン伝導性物質を収容した本発明の複合体を得ることができる。当該複合体のプロトン伝導率は、当該技術分野に公知に方法に従って、測定することが出来る。
【0068】
一実施形態において、本発明は、細孔性有機金属錯体の細孔内にプロトン伝導性物質を収容した複合体を含むプロトン伝導性高分子膜を提供する。本発明の複合体を含むプロトン伝導性高分子膜は、当該技術分野に公知の方法を用いて製造することができる。たとえば、本発明のプロトン伝導性複合体を適当なバインダーと混合し、製膜することができる。溶液を平板上にキャストするキャスト法、ダイコータ、コンマコータ等により平板上に溶液を塗布する方法、溶融したイオン伝導性材料を延伸等する方法等の一般的な方法を使用することができる。本発明のプロトン伝導性複合体は、1種のみを膜中に配合しても良く、2種以上を混合して配合してもよい。2種以上の複合体を組み合わせて用いる場合、2種以上の細孔性有機金属錯体を予め積層し、1つの複合体を形成して膜に配合することもできる。
【0069】
プロトン伝導性高分子膜は、電解質膜としてナフィオンの代替として使用することができる。また、水素センサー用隔離材料、エレクトロミックディプレイ材料、水素発生用電気分解セル等に応用することも可能である。
【実施例】
【0070】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
実施例1
細孔性有機金属錯体[Al(OH)(1,4-ndc)]の合成
硝酸アルミニウム(Al(NO3)3×9H2O:0.375g, 1.0mmol)及び1,4-ナフタレンジカルボン酸(1,4-ndcと略す;0.108g, 0.5mmol)を10mlの脱イオン水中で混合した。硝酸アルミニウム及び1,4-ナフタレンジカルボン酸は、和光純薬工業(株)から購入した。混合溶液をテフロン(登録商標)オートクレーブ中に配置して、1日間180℃に過熱した。反応開始時の反応溶液のpHは2.5であり、終了時のpHは2.0であった。反応終了後、反応溶液をろ過し、蒸留水で洗浄して、淡黄色の粉末状の錯体結晶[Al(OH)(1,4-ndc)]を得た(収率80%)。得られた結晶を2時間150℃に加熱し、細孔をゲストフリーの状態にした。得られた粉末結晶についてX線回折パターン解析を行い、立体構造を決定した(図1)。
図1から明らかなように、[Al(OH)(1,4-ndc)]錯体結晶は、4個のアルミニウム原子と4個の第一配位子(1,4-ナフタレンジカルボン酸)とによって形成される略正方形の格子が連続的に繰り返された二次元構造の複数のシートが互いに酸素原子(第二配位子)を介して積層した三次元構造を有する。図1で示されるように、[Al(OH)(1,4-ndc)]錯体は、規則性のある多数の孔を有するが、ナフタレンの向きにより2種類の細孔が存在する。一方の細孔はナフタレンが孔の中心に対して外を向いた状態で存在しており、他方の細孔はナフタレンが孔の内部に突出した状態で存在する。よって、前者の孔の大きさは、約7.7Å×7.7Åであり、後者の孔(約3.0Å×3.0Å)よりも大きいことが分かる。
【0072】
実施例2
細孔性有機金属錯体[Al(OH)(1,4-bdc)]nの合成
硝酸アルミニウム(1.30g, 3.5mmol)及び1,4-ベンゼンジカルボン酸(1,4-bdcと略す;0.288g, 2.5mmol)を10mlの脱イオン水中で混合した。硝酸アルミニウム及び1,4-ベンゼンジカルボン酸は、和光純薬工業(株)から購入した。混合溶液をテフロン(登録商標)オートクレーブ中に配置し、3日間120℃に過熱した。その後、反応液をろ過し、脱イオン水で洗浄して、白色粉末の錯体結晶[Al(OH)(1,4-bdc)]nを得た。この結晶を3日間、330℃に加熱することによって細孔内の1,4-bdcを除去し、ゲストフリーの状態にした。得られたゲストフリーの結晶粉末についてX線回折パターン解析を行い、立体構造を決定した(図2)。実施例1で得た錯体結晶と同様に、[Al(OH)(1,4-bdc)]n錯体は、4個のアルミニウム原子と第一配位子(1,4-ベンゼンジカルボン酸)とによって形成されるダイアモンド型の格子が連続的に繰り返された二次元構造の複数のシートが互いに酸素原子(第二配位子)を介して積層した三次元構造を有する。実施例1で得た錯体結晶とは異なり、[Al(OH)(1,4-bdc)]n錯体は、均一なサイズ(約8.5Å×8.5Å)の一種類の孔を有する。
【0073】
実施例3
細孔内にイミダゾールを収容した複合体の作製
実施例1で得た[Al(OH)(1,4-ndc)]錯体結晶粉末及び実施例2で得た[Al(OH)(1,4-bdc)]n錯体結晶粉末を減圧下で12時間120℃に過熱して、細孔内のガスを除いてゲストフリーにした。次いで、120℃でイミダゾールを蒸発させ、前記ゲストフリーの各結晶粉末と接触させることにより、イミダゾールを細孔内に導入し、複合体を作成した。それぞれの複合体を[Al(OH)(1,4-ndc)]複合体及び[Al(OH)(1,4-bdc)]n複合体と称する。イミダゾールを導入後、各複合体粉末についてX線回折パターン分析を行った。その結果を図3に示す。図3Aは、[Al(OH)(1,4-ndc)]錯体に関し、水を包摂した錯体のX線データに基づいた計算上のパターン(a)とイミダゾールが収容されていない場合のパターン(b)とイミダゾールを収容した複合体のパターン(c)とが互いに類似していることから、この錯体はイミダゾールの収容によってその構造が変化しない強固な性質を有することが分かる。一方、図3Bは、[Al(OH)(1,4-bdc)]n錯体に関し、理論上のパターン(a)とイミダゾールが収容されていない場合のパターン(b)とイミダゾールを収容した複合体のパターン(c)とが大きくずれていることから、Al(OH)(1,4-bdc)]n錯体はイミダゾールの収容によって構造が変化することが分かる。これは、Al(OH)(1,4-bdc)]n錯体が、イミダゾールと格子を形成する酸素原子とが相互作用し易い構造を有していることに起因していると考えられる。
【0074】
実施例4
収容イミダゾール量の測定
熱重量分析(TG)により、室温から400℃における各錯体の細孔内に保持されたイミダゾールの量を測定した。その結果を図4に示す。実施例1で作製した[Al(OH)(1,4-ndc)]錯体の場合(実線)、温度を上げることによって、最大で14%の重量が減少することが分かる。この減少分がイミダゾールに相当し、[Al(OH)(1,4-ndc)]錯体は、1個のアルミニウム原子に対して0.6個のイミダゾールを収容できることが分かる。また、孔からのイミダゾールの放出が125℃の時点で始まることが分かる。一方で、実施例2で作製した[Al(OH)(1,4-bdc)]n錯体の場合(破線)、1個のアルミニウム原子に対して1.3個のイミダゾールが収容されている。また、100℃を超えた辺りから細孔からのイミダゾールの放出が始まる。このように[Al(OH)(1,4-bdc)]n複合体からのイミダゾールの放出がより低い温度で開始するのは、[Al(OH)(1,4-bdc)]n錯体が有する細孔の大きさがイミダゾールの分子サイズと比較して大きすぎるため、結果としてイミダゾールが抜け易いためである。
【0075】
実施例1で記載するように、[Al(OH)(1,4-ndc)]錯体が有する一方の孔の大きさは3.0Å×3.0Åであり、イミダゾールの分子サイズが4.3Å×3.7Åであることから、イミダゾールはこのサイズの孔には収容されておらず、サイズの大きいほうの孔のみに収容されていると考えられる。これは、[Al(OH)(1,4-ndc)]錯体に収容されたイミダゾールの量が、[Al(OH)(1,4-bdc)]n錯体に収容された錯体と比較して約半分であることから妥当と考えられる。
【0076】
実施例5
プロトン導電率の測定
実施例3で作製した[Al(OH)(1,4-ndc)]複合体及び[Al(OH)(1,4-bdc)]n複合体の粉末を、各々金でコーティングした電極(半径3mm)で挟み、電極と粉末との十分な接触を維持した状態で、プロトン伝導率を測定した。また、交流インピーダンス分光計(Solartron SI 1260 Impedence/Gain-Phase analyze)を用いて、各複合体の熱に依存した伝導率を測定した。各複合体の120℃(窒素雰囲気下)におけるナイキストプロットを図5に示す。また、25℃~120℃(無水条件)におけるプロトン伝導率を図6に示す。図6から、イミダゾールを収容していない状態の[Al(OH)(1,4-ndc)]錯体の伝導率は、10-14S/cmであることが分かる。[Al(OH)(1,4-ndc)]複合体と[Al(OH)(1,4-bdc)]n複合体のいずれもが、イミダゾールを収容することによってプロトン伝導性を獲得し、それが温度上昇に伴って上昇することが分かる。上述したように、[Al(OH)(1,4-ndc)]複合体に収容されたイミダゾールの密度は、[Al(OH)(1,4-bdc)]n複合体のものよりも低いが、[Al(OH)(1,4-ndc)]複合体の方がより高いプロトン伝導率を有し、120℃において2.2×10-5S/cmのプロトン伝導率を有する。これは、[Al(OH)(1,4-bdc)]n複合体の場合は、その構造から、格子を形成する酸素原子とイミダゾールとが相互作用を起こすため、イミダゾールのホッピング運動が妨げられてしまうためと考えられる。このように、細孔性有機金属錯体の細孔内にプロトン伝導性物質を収容することで、その複合体にプロトン伝導性を付与することが可能であり、細孔がイミダゾールと相互作用を有しないような環境である場合により高いプロトン伝導性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は、実施例1で作成した錯体の立体構造を示す。
【図2】図2は、実施例2で作成した錯体の立体構造を示す。
【図3】図3Aは、[Al(OH)(1,4-ndc)]錯体のX線回折パターンを示す[(a):理論上のパターン、(b):イミダゾールが収容されていない場合のパターン、(c):イミダゾールを収容した複合体のパターン]。図3Bは、[Al(OH)(1,4-bdc)]n錯体のX線回折パターンを示す[(a):理論上のパターン、(b):イミダゾールが収容されていない場合のパターン、(c):イミダゾールを収容した複合体のパターン]。
【図4】図4は、[Al(OH)(1,4-ndc)]錯体の場合(実線)及び[Al(OH)(1,4-bdc)]n錯体の場合(破線)についての熱重量分析(TG)結果を示す。
【図5】図5は、[Al(OH)(1,4-ndc)]複合体(A)及び[Al(OH)(1,4-bdc)]n複合体(B)についてのナイキストプロットを示す。
【図6】図6は、25℃~120℃(無水条件)におけるプロトン伝導率を示す。黒丸:イミダゾール含有[Al(OH)(1,4-ndc)]複合体、白丸:イミダゾール含有[Al(OH)(1,4-bdc)]n複合体、二重四角:イミダゾールを含有しない[Al(OH)(1,4-bdc)]n錯体
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5