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明細書 :植物生長調整剤及びその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5452022号 (P5452022)
登録日 平成26年1月10日(2014.1.10)
発行日 平成26年3月26日(2014.3.26)
発明の名称または考案の名称 植物生長調整剤及びその利用
国際特許分類 A01N  41/12        (2006.01)
A01N  37/46        (2006.01)
A01P  21/00        (2006.01)
A01G   7/06        (2006.01)
FI A01N 41/12
A01N 37/46
A01P 21/00
A01G 7/06 Z
請求項の数または発明の数 13
全頁数 54
出願番号 特願2008-549309 (P2008-549309)
出願日 平成19年12月10日(2007.12.10)
国際出願番号 PCT/JP2007/073795
国際公開番号 WO2008/072602
国際公開日 平成20年6月19日(2008.6.19)
優先権出願番号 2006333635
優先日 平成18年12月11日(2006.12.11)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成22年11月29日(2010.11.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小川 健一
【氏名】逸見 健司
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
審査官 【審査官】福井 悟
参考文献・文献 特開2004-352679(JP,A)
国際公開第01/080638(WO,A1)
Nature,1960年,Vol.187,p.81-82
調査した分野 A01N
A01G
CAplus/REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
グルタチオンを含む、植物の収穫指数を向上させるための組成物。
【請求項2】
上記グルタチオンは、酸化型グルタチオンであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
植物の種子及び/又は花の数を増加させるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
植物のわき芽及び/又は分げつの数を増加させるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
植物、または栽培すべき植物に用いる培地にグルタチオンを供給する工程、上記植物を栽培する工程、および野生型または未処理の植物よりも収穫指数が向上した植物を選択する工程を包含する、野生型または未処理の植物よりも収穫指数が向上した植物を調製する方法。
【請求項6】
上記グルタチオンは、酸化型グルタチオンであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
栄養生長期から生殖生長期への転換時期の前後にグルタチオンを投与することを特徴とする請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
植物、または栽培すべき植物に用いる培地にグルタチオンを供給する工程、上記植物を栽培する工程、および野生型または未処理の植物よりも種子及び/又は花の数が増加した植物を選択する工程を包含する、野生型または未処理の植物よりも種子及び/又は花の数が増加した植物を調製する方法。
【請求項9】
上記グルタチオンは、酸化型グルタチオンであることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項10】
植物、または栽培すべき植物に用いる培地にグルタチオンを供給する工程、上記植物を栽培する工程、および野生型または未処理の植物よりもわき芽及び/又は分げつの数が増加した植物を選択する工程を包含する、野生型または未処理の植物よりもわき芽及び/又は分げつの数が増加した植物を調製する方法。
【請求項11】
上記グルタチオンは、酸化型グルタチオンであることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上記植物は、植物ホルモンの合成機能及び/又は応答機能に変異を有するものであることを特徴とする請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
上記植物ホルモンは、ジベレリンであることを特徴とする請求項12に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生長を調整する植物生長調整剤及びその利用技術に関し、より詳細には、グルタチオンを用いて、収穫指数を向上させること等が可能な植物生長調整剤及びその利用技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、植物は、食糧としてだけでなく、鑑賞用や、紙や薬品などの工業材料や燃料として多種多様な場において人類と深くかかわってきた。また、近年では、化石燃料に替わるバイオマスエネルギーとしても注目を集めている。
【0003】
このような様々な用途に利用される植物の発芽、成長、開花等のメカニズムについては未だ明らかとなっていない点も多い。このため、植物は、経験や勘により栽培されることが主であり、気候などの自然の影響により収穫が大きく左右されていた。それゆえ、植物の発芽、成長、開花のメカニズムを解明して、それらを調整・制御することは、鑑賞用の草花や、穀物・野菜等の食糧の収量増加において重要なだけでなく、森林における木材の育成や、さらにバイオマスエネルギーに関しても極めて重要なことである。
【0004】
これまで植物の成長を調整する手段として、温室などの人工的な気候環境により開花時期を調整したり、エチレンなどの化学薬品を用いて成長を促進させたりするなどの努力が行われてきた。しかし、これら従来手法の多くも植物の成長を経験と勘により調整するものであり、植物の成長の過程を科学的の判断できる材料に基づくものではない。
【0005】
そこで、本発明者らは植物の発芽、成長、開花のメカニズムについて研究を進めてきた。その結果、本発明者らは、これまでに活性酸素(ROS)が生合成の基質としてばかりでなく植物の発育における制御因子として必要であることを示してきた(特許文献1参照)。具体的には、上記特許文献1には、細胞の酸化還元状態調節物質を含有する細胞または器官の分化の調節剤、該調節剤を用いて生物の分化・形態形成を制御する方法、及びそのようにして得られる生物が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、植物生長調整補助剤、及び該植物生長調整補助剤を使用した再分化植物体の作製方法が開示されている。具体的には、植物体、例えばイネ、トルコギキョウ等、の一部から誘導されたカルスを、グルタチオン、好ましくは酸化型グルタチオン(以下、単にGSSGとも称する場合がある)、を含有する再分化培地で培養することにより、発根を促進し、効率よく短期間でカルスから再分化体が得られることが記載されている。

【特許文献1】国際公開特許公報「WO01/080638(公開日:平成15(2003)年7月22日)」
【特許文献2】日本国公開特許公報「特開2004-352679(公開日:平成16(2004)年12月16日)」
【発明の開示】
【0007】
上述した特許文献1には、確かに植物の酸化還元状態を調整する物質により、植物に分化や形態形成を制御する技術が開示されている。しかしながら、その制御機構についても十分には解明されておらず、どのような物質が植物の生育の制御因子になっているかはよくわかっていない。また、上記特許文献2には、再分化植物体を作製するための技術を開示してはいるが、やはりそれだけでは十分とはいえず、バイオマス量・種子収量・後代種子の質等を制御するための新たな技術が必要である。
【0008】
植物の成長の過程を科学的に把握し、開花時期を科学的に予測し、調整することは、鑑賞用の草花や食糧用の植物だけでなく、森林やバイマスエネルギー用の植物資源においても極めて重要なことである。それゆえ、植物の制御因子を特定し、効率的に植物の発芽、成長、開花等を制御する技術の開発が強く求められていた。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物の制御因子を特定し、効率的に植物の発芽、成長、開花等を制御する技術を提供することにある。
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、グルタチオンを用いて植物の栽培を行うことにより、当該栽培植物の種子の数・花の数を著しく増加させることができることを見いだした。さらに、植物ホルモン(例えば、ジベレリン)の合成機能又は応答機能に変異を有する植物体を、グルタチオンを用いて栽培することにより、わき芽を顕著に増加させることができ、それに伴って花(鞘)の数も増加させることができることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づき、本発明を完成させるに至った。本発明は、かかる新規知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
【0011】
(1)グルタチオンを含み、収穫指数を向上させることを特徴とする植物生長調整剤。
【0012】
(2)上記グルタチオンは、酸化型グルタチオンであることを特徴とする(1)に記載の植物生長調整剤。
【0013】
(3)植物の種子及び/又は花の数を増加させるものである(1)または(2)に記載の植物生長調整剤。
【0014】
(4)植物のわき芽及び/又は分げつの数を増加させるものである(1)または(2)に記載の植物生長調整剤。
【0015】
(5)グルタチオンを用いて、植物を栽培し、該植物の収穫指数を向上させることを特徴とする植物の栽培方法。
【0016】
(6)上記グルタチオンは、酸化型グルタチオンであることを特徴とする(5)に記載の植物の栽培方法。
【0017】
(7)グルタチオンを間欠的に投与することを特徴とする(5)または(6)に記載の植物の栽培方法。
【0018】
(8)栄養生長期から生殖生長期への転換時期の前後にグルタチオンを投与することを特徴とする(5)~(7)のいずれかに記載の植物の栽培方法。
【0019】
(9)グルタチオンを用いて、植物の種子及び/又は花の数を増加させる方法。
【0020】
(10)上記グルタチオンは、酸化型グルタチオンであることを特徴とする(9)に記載の方法。
【0021】
(11)グルタチオンを用いて、植物のわき芽及び/又は分げつの数を増加させる方法。
【0022】
(12)上記グルタチオンは、酸化型グルタチオンであることを特徴とする(11)に記載の方法。
【0023】
(13)上記植物は、植物ホルモンの合成機能及び/又は応答機能に変異を有するものである(11)または(12)に記載の方法。
【0024】
(14)上記植物ホルモンは、ジベレリンである(13)に記載の方法。
【0025】
(15)上記(5)~(14)のいずれかに記載の方法で得られ、収穫指数が向上していることを特徴とする植物。
【0026】
本発明の他の目的、特徴、及び優れた点は、以下に示す記載によって十分分かるであろう。また、本発明の利点は、添付図面を参照した次の説明によって明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】水、GSSG溶液、又はH溶液でそれぞれ処理したシロイヌナズナの播種3および4週間後における状態を示す図である。
【図2】水、GSSG溶液、又はH溶液でそれぞれ処理したシロイヌナズナの播種6週間後における状態を示す図である。
【図3】水、GSSG溶液、又はH溶液でそれぞれ処理したシロイヌナズナの播種7週間後における状態を示す図である。
【図4】水、GSSG溶液、又はH溶液でそれぞれ処理したシロイヌナズナの播種8週間後における状態を示す図である。
【図5】水、GSSG溶液、又はH溶液でそれぞれ処理したシロイヌナズナから得られた種子の収量及び状態を示す図である。
【図6】酸化型グルタチオンの濃度がシロイヌナズナの生育へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図7】酸化型グルタチオンの濃度がシロイヌナズナの生育へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図8】酸化型グルタチオンがシロイヌナズナ種子へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図9】酸化型グルタチオンがシロイヌナズナのジベレリン合成変異体へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図10】酸化型グルタチオンの処理時期及び処理濃度がシロイヌナズナの種子量へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図11】酸化型グルタチオンの処理時期及び処理濃度がシロイヌナズナの種子量へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図12】酸化型グルタチオンの処理時期及び処理濃度がシロイヌナズナの種子量へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図13】酸化型グルタチオンの処理時期がシロイヌナズナの種子量へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図14】酸化型グルタチオンの処理時期がシロイヌナズナの種子量へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図15】酸化型グルタチオンの処理時期がシロイヌナズナの種子量へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図16】酸化型グルタチオンの処理時期及び処理濃度がシロイヌナズナの種子量、乾燥重量、及び収穫指数へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図17】酸化型グルタチオンがバラ(品種;パティオヒット アリカンテ)の生育へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図18】酸化型グルタチオンがバラ(品種;イングリッシュローズ)の生育へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図19】酸化型グルタチオンがナタネの一種チュウゴクサイシン(中国菜心)の生育へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図20】酸化型グルタチオンがダイズの生育へ及ぼす影響を調べた圃場試験におけるダイズ各個体の配置を示す図である。
【図21】酸化型グルタチオンがダイズの生育へ及ぼす影響を調べた圃場試験において、酸化型グルタチオンを投与した方法を示す図である。
【図22】酸化型グルタチオンがダイズの生育へ及ぼす影響を調べた圃場試験において、種子重量、総バイオマス量、及び収穫指数を調べた結果を示す図である。
【図23】酸化型グルタチオンがトウモロコシの花芽形成へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図24】酸化型グルタチオンがトウモロコシの収穫量へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図25】酸化型グルタチオンがトウモロコシの個体あたりの実、地上部、及び実以外の部分のそれぞれのバイオマス量、並びに収穫指数へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図26】酸化型グルタチオンの処理時期がトウモロコシの個体あたりの実、地上部、及び実以外の部分のそれぞれのバイオマス量、並びに収穫指数へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図27】酸化型グルタチオンの処理方法が個体あたりのトウモロコシの実、及び地上部のそれぞれのバイオマス量、並びに収穫指数へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図28】酸化型グルタチオンの処理方法及び処理時期がトウモロコシの収穫指数へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図29】酸化型グルタチオンがトウモロコシの生育へ及ぼす影響を調べた圃場試験におけるスイートコーン各個体の配置を示す図である。
【図30】酸化型グルタチオンがトウモロコシの生育へ及ぼす影響を調べた圃場試験において、酸化型グルタチオンの処理時期が面積あたりの総バイオマス量、面積あたりの雌蕊収穫量、及び収穫指数へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図31】酸化型グルタチオンがトウモロコシの生育へ及ぼす影響を調べた圃場試験において、酸化型グルタチオンの処理時期が個体あたりの実、地上部、及び実以外の部分のそれぞれのバイオマス量へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図32】窒素欠乏条件下において、酸化型グルタチオンがトウモロコシの収穫量へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図33】窒素欠乏条件下において、酸化型グルタチオンがトウモロコシの個体あたりの実、地上部、及び実以外の部分のそれぞれのバイオマス量、並びに収穫指数へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図34】酸化型グルタチオンがバラ(品種;パプルローズ)の新芽の生育及び開花へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図35】酸化型グルタチオンがバラ(品種;JJスカーレット、及びJJアプリコット)の新芽の生育及び開花へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図36】酸化型グルタチオン及び還元型グルタチオンがトルコギキョウの根系の発達へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図37】酸化型グルタチオンがバラの花芽誘導へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図38】酸化型グルタチオンがバラの花芽誘導へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図39】酸化型グルタチオン及び還元型グルタチオンがイチゴ(エミネントガーデンシリーズ 欲張りイチゴ 紅(SUMIKA))の生育および増殖(ランナー数)へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図40】酸化型グルタチオンが、gFBAの遺伝子を導入したシロイヌナズナの形質転換体の生育へ及ぼす影響を調べた実験における植物各個体の栽培時の配置と、酸化型グルタチオンの投与時期とを示す図である。
【図41】野生型およびgFBA1の遺伝子を導入したシロイヌナズナの形質転換体の収穫指数、総バイオマス量、及び種子量に対して硝酸アンモニウム量の向上効果が飽和する濃度を調べた結果を示す図である。
【図42】窒素施肥の効果が飽和している条件下において、gFBAの遺伝子を導入した形質転換体の収穫指数、総バイオマス量、及び種子量に対する酸化型グルタチオンの効果を調べた結果を示す図である。
【図43】窒素施肥の効果が飽和している条件下において、酸化型グルタチオン、還元型グルタチオン及び硫酸アンモニウムが、gFBAの遺伝子を導入したシロイヌナズナの形質転換体の収穫指数、総バイオマス量、及び種子量へ及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
【図44】gFBAの遺伝子を導入したシロイヌナズナの形質転換体及び野生型シロイヌナズナの種子収穫量に対するGSSG施肥濃度の効果を調べた結果を示す図である。
【図45】gFBAの遺伝子を導入したシロイヌナズナの形質転換体及び野生型シロイヌナズナの収穫指数に対するGSSG施肥濃度の効果を調べた結果を示す図である。
【図46】gFBAの遺伝子を導入したシロイヌナズナの形質転換体の種子収穫量に対して、硫黄源としてのGSSG、GSH、及び硫酸アンモニウム施肥が及ぼす効果を調べた結果を示す図である。
【図47】gFBAの遺伝子を導入したシロイヌナズナの形質転換体の収穫指数に対して、硫黄源としてのGSSG、GSH、及び硫酸アンモニウム施肥が及ぼす効果を調べた結果を示す図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではないことを念のため付言しておく。
【0029】
本発明に係る植物生長調整剤は、グルタチオンを含有していればよく、濃度、その他の成分等の具体的な構成については特に限定されるものではない。上記グルタチオンは、還元型グルタチオン(以下、「GSH」ともいう)であっても、酸化型グルタチオン(以下、「GSSG」ともいう)であってもよいが、GSSGであることが好ましい。
【0030】
GSHは、当業者によく知られているように、酸化されやすい性質を有する。したがって、本発明に係る植物生長調整剤に、グルタチオンとしてGSHを含有させると、通常、該植物生長調整剤には、GSSGが少なからず含まれている。つまり、本発明に係る植物生長調整剤には、グルタチオンとして、GSHとGSSGとが混合した状態で含まれていてもよい。
【0031】
本発明に係る植物生長調整剤は、グルタチオンとしてGSHを含有させ、その保存時もしくは使用時に、該GSHをGSSGに酸化させる形態とすることができる。また、植物に投与後に、GSHがGSSGに酸化される形態としてもよい。
【0032】
なお、GSHをGSSGに酸化する方法は特に限定されるものではない。例えば、空気酸化により、GSHをGSSGに容易に変換することができる。また、従来公知のあらゆる人為的な方法で、GSHをGSSGに変換してもよい。
【0033】
本発明でいう「酸化型グルタチオン」とは、当業者によってよく知られた物質であり特段の説明は不要であるが、例えば、2分子の還元型グルタチオンがジスルフィド結合によってつながった分子であると定義できる。
【0034】
通常、生物の細胞内のグルタチオンは、ほとんど(98%以上)が還元型であることが知られている。このため、当業者にとってグルタチオンといえば還元型のグルタチオンを思い浮かべるのであり、酸化型のグルタチオンの使用は一般的ではない。また、当業者にとって、酸化型グルタチオンは生育を悪化させるイメージもある。それゆえ、酸化型グルタチオンを植物栽培に使用するという本発明に至る動機付けはない。
【0035】
このような状況下において、本発明者らは、カルビン回路の酵素であるフルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼがグルタチオンとの結合によって機能が制御されることを発見し、その結合に必要なグルタチオンの酸化型を外部から添加することによって、バイオマス生産性並びに収穫量の大幅な向上に成功したのである。
【0036】
つまり、本発明者らは、これまで植物栽培において一般に用いられていなかった“酸化型グルタチオン(GSSG)”を用いて植物の栽培を行うことにより、当該栽培植物の種子の数・花の数を著しく増加させることができることを見いだし、本発明を完成させたのである。したがって、本発明は極めて独創的な発明といえる。
【0037】
本発明の植物生長調整剤は、グルタチオンを含み、植物の収穫指数(harvest index、ハーベストインデックス)を向上させるものである。
【0038】
本明細書において、「収穫指数」とは、植物全体の重さに対する収穫物の重さの割合が意図される。換言すれば、植物個体の全バイオマス量に対する収穫物のバイオマス量の割合が意図される。
【0039】
なお、本明細書において、「収穫物」とは、その植物において食糧となる部分、例えば、実を食する植物の場合は実、種子を食する植物の場合は種子、茎を食する植物の場合は茎、根を食する植物の場合は根、花を食する植物の場合は花、葉を食する植物の場合は葉等が意図されるが、これだけではなく、食糧とならないが、該植物において栽培の目的産物を含む部分も含まれる。具体的には、例えば、観賞に用いられる植物の場合、上記収穫物には、観賞の対象となる花、茎、葉、根、及び種子等が含まれる。
【0040】
また、本発明において、「収穫指数を向上させる」とは、本発明の植物生長調節剤を投与しない条件と比較して収穫指数を向上させる効果を意味し、単位面積収穫量を最大限得られるように最適化した従来の標準的な施肥条件でも、全バイオマス量に対する収穫物のバイオマス量の割合を増加させることを意味する。植栽密度を上げることで単位面積あたりの収穫量は向上するが、その効果は一定の植栽密度で飽和する。本発明において、「収穫指数を向上させる」とは、こうした植栽条件でも、全バイオマス量に対する収穫物のバイオマス量の割合を増加させる効果を意味する。
【0041】
したがって、本発明の植物生長調整剤によれば、植物の収穫指数を増加させることができるため、単位面積あたりの食糧やバイオマス資源の増産を可能とするのみならず、産業上、利用されうる植物及びそれらから得られる収穫物の増産に大きく貢献することができる。
【0042】
また、本発明の植物生長調整剤は、植物の種子及び/又は花の数を増加させるものであることが好ましい。後述の実施例に示すように、本発明に係る植物生長調整剤を用いることにより、種子の数や花の数が増加することが明確に実証されている。また本植物生長調整剤の他の作用として、植物の寿命が長くなったり、葉が丸く大きくなったり、草丈が短くなったり、茎が太くなったりすることも確認されている。
【0043】
これにより、例えば、種子の収量が増加するため、種子そのものを販売する場合のみならず、種子が油脂や他の有効成分を含む場合には、これら油脂等の収量も増加するため、産業上の有用性はかなり高いといえる。また、バイオマス資源としても利用可能である。
【0044】
また、植物の寿命が長くなるという作用は、例えば、観葉植物や街路樹等に対して利用した場合、植物の枯れによる交換の間隔を延ばすことができる。これにより、観葉植物や街路樹等のメンテナンスの作業負担を軽減できる。また、葉を丸くしたり、大きくしたりする作用は、例えば、見た目の変化した珍しい観葉植物を作製する手段として利用できる。また、植物の草丈を短くしたり、茎を太くしたりする作用も、観葉植物に利用できるし、さらに農作物について強風等への耐性を向上させることもできる。
【0045】
また、本発明に係る植物生長調整剤は、植物のわき芽及び/又は分げつの数を増加させるものであることが好ましい。これは、後述する実施例に示すように、植物ホルモン(例えば、ジベレリン)の合成機能あるいは応答機能に変異を有する植物体を、酸化型グルタチオンを用いて栽培した場合、わき芽が顕著に増加するという新規知見からなされた発明である。わき芽及び/又は分げつの数の増加に伴って花(鞘)の数も増加する。
【0046】
したがって、上記植物生長調整剤によれば、例えば、イネ科植物等の分げつが収量に大きく影響を及ぼす植物に対して用いることにより、種子収量を増加させることができる。
【0047】
なお、上記植物生長調整剤を用いる対象植物としては、特に、植物ホルモンの合成機能及び/又は応答機能に変異を有するものであることが好ましい。これは、上記変異体または同様の機能を有する形質転換体にグルタチオン、好ましくは酸化型グルタチオンを作用させることによって、より酸化型グルタチオンの作用を引き出すことができることを意図している。
【0048】
ここで、「植物ホルモンの合成機能及び/又は応答機能に変異を有する植物」とは、植物ホルモンの生合成系の酵素、植物ホルモンの受容体、あるいは植物ホルモンの情報伝達系の生体物質等の少なくともいずれかに変異を有する植物体であって、植物ホルモンの機能が野生型と同様に働かない植物体、あるいは変異によって植物ホルモンに対して高感受性(獲得型)となる植物体のいずれをも含む意である。なかでも特に、植物ホルモンの機能が野生型に比べて低下している、あるいは植物ホルモンの機能が実質的に無くなっている植物変異体が好ましい。
【0049】
上記植物体としては、例えば、後述する実施例に示すように、植物ホルモンの生合成系の酵素をコードする遺伝子にT-DNA等のDNAフラグメントが挿入されている変異体を挙げることができる。
【0050】
また、上記植物ホルモンは、ジベレリンであることが好ましい。酸化型グルタチオンは、ジベレリン等の植物ホルモンの下流で、あるいは植物ホルモンと協調する形で機能すると考えられる。
【0051】
また、本発明に係る植物生長調整剤は、植物の新芽の生育、花芽誘導、及び/又は開花を促進させるものであることが好ましい。後述の実施例に示すように、本発明に係る植物生長調整剤を用いることにより、植物の新芽の生育や、花芽誘導、開花が促進されることが明確に実証されている。
【0052】
これにより、植物の栽培期間を短くすることが可能となり、該植物の生産性を向上させることができる。該作用は、食糧に用いられる植物では、食糧増産に寄与することができる。また、上記植物生長調整剤によれば、開花や生育を制御できるため、観賞に用いられる植物に適用した場合、植物の効率的な生産をすることが可能になり、市場の需要に応じて、該植物の市場への供給を調節することができる。
【0053】
さらに、本発明に係る植物生長調整剤は、植物の根系の発達を促進させるものであることが好ましい。後述の実施例に示すように、本発明に係る植物生長調整剤を用いることにより、植物の根系の発達が促進されることが明確に実証されている。
【0054】
これにより、根を収穫物とする植物において、短期間で多くの収穫物を取得することができる。したがって、例えば、根を食する植物に対して投与することにより、食糧の増産を実現することができる。
【0055】
また、本発明に係る植物生長調整剤は、窒素欠乏により生育の低下を抑制するものであることが好ましい。通常、植物は、窒素源が不足又は欠乏すると、生育が低下することが知られている。これに対して、後述の実施例に示されているように、窒素源が欠乏した条件下で栽培された植物であっても、本発明に係る植物生長調整剤を投与することにより、窒素源の欠乏による生育低下を抑制することができる。
【0056】
したがって、上記植物生長調整剤によれば、窒素欠乏により生育が低下した植物であっても、該植物生長調整剤の投与により、生長を促進させることができる。
【0057】
上記植物生長調整剤に酸化型グルタチオンを含有させる場合、該植物生長調整剤に含まれる酸化型グルタチオンの量は特に限定されるものではないが、例えば、シロイヌナズナの場合、10μM~20mMであることが好ましく、より好ましくは0.2mM~5mM、さらには0.5mM~2mMであることが好ましい。
【0058】
一方、上記植物生長調整剤に還元型グルタチオンを含有させる場合、該植物生長調整剤に含まれる還元型グルタチオンの量は、酸化型グルタチオンを含有させる場合よりも多いことが好ましい。具体的には、例えば、シロイヌナズナの場合、100μM~40mMであることが好ましく、0.4mM~20mMであることがより好ましく、4mM~10mMであることがさらに好ましい。
【0059】
還元型グルタチオンの含有量が上記範囲内であれば、該植物生長調整剤の保存中、もしくは使用時に、還元型グルタチオンが、例えば、50%酸化されることにより、該植物生長調整剤中の酸化型グルタチオンの濃度が少なくとも1mM~2.5mMの範囲となる。したがって、酸化型グルタチオンを1mM~2.5mM含有させた場合と同程度効果を奏することとなる。なお、植物生長調整剤に含まれる還元型グルタチオンを、50%酸化させることは、還元型グルタチオンの性質から容易に起こりうるものである。このことは、当業者には容易に理解されるであろう。
【0060】
後述する実施例に示すような特定の量の溶液を与える場合、酸化型グルタチオン又は還元型グルタチオンの含有量が上記の範囲内であれば、植物の生長を好適に制御できる。なお、上述した濃度範囲は、あくまで特定の量の溶液でシロイヌナズナに投与した場合の好適な範囲であり、投与量を変えたり、植物種を変えたり(例えば、樹木等)した場合には、より高濃度の酸化型グルタチオン又は還元型グルタチオンでも適用できる可能性があり、場合によってはより低濃度でも本発明の植物生長調整剤の作用を発現する可能性があるといえる。
【0061】
本発明の趣旨は、酸化型グルタチオンが、植物の種子及び/又は花の数を増加させたり、植物の寿命を長くしたり、葉を丸く大きくしたり、あるいはわき芽及び/又は分げつの数を増加させたり、またわき芽等の増加に伴って花(鞘)の数を増加させ種子収量を増加させる作用を有することを見出したことにあるのであり、それ以外の限定を意図していない。それゆえ、本発明は、上述した濃度範囲に限られるものではないことを念のため付言しておく。
【0062】
また、植物に対する上記植物生長調整剤の使用方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の植物生長調整剤と同様に使用することができる。例えば、液剤や乳剤の場合、植物の生長点のみならず、茎,葉をはじめとする植物体の一部又は全体に散布,滴下,塗布することができる。また、固形剤や粉剤の場合には、たとえば地中から根に吸収させることもできる。また、植物がウキクサ等の水草の場合には、底床添加剤として根から吸収させたり、固形剤を水中で除々に溶解させたりすること等も可能である。なかでも、地上の植物に対して使用する場合は、例えば、上記植物生長調整剤を水溶液として、溶液栽培することが好ましい。
【0063】
また、本発明の植物生長調整剤は、上述のグルタチオン(GSH及び/又はGSSG)を含有していればよく、その他の具体的な成分は任意のものを適用できる。例えば、底床添加剤又は固形剤である場合、担体成分としては、概ねタルク,クレー,バーミキュライト,珪藻土,カオリン,炭酸カルシウム,水酸化カルシウム,白土,シリカゲル等の無機質や小麦粉,澱粉等の固体担体が例示される。また液剤である場合は、概ね水、キシレン等の芳香族炭化水素類、エタノール,エチレングリコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ジオキサン,テトラヒドロフラン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の液体担体が例示される。
【0064】
さらに、本発明の植物生長調整剤には、他の補助剤を適宜配合することができる。そのような補助剤として、例えばアルキル硫酸エステル類,アルキルスルホン酸塩,アルキルアリールスルホン酸塩,ジアルキルスルホコハク酸塩等の陰イオン界面活性剤、高級脂肪族アミンの塩類等の陽イオン界面活性剤、ポリオキシエチレングリコールアルキルエーテル,ポリオキシエチレングリコールアシルエステル,ポリオキシエチレングリコール多価アルコールアシルエステル,セルロース誘導体等の非イオン界面活性剤、ゼラチン,カゼイン,アラビアゴム等の増粘剤、増量剤、結合剤等が挙げられる。
【0065】
必要に応じて、他の植物生長調節剤、例えば安息香酸,ニコチン酸,ニコチン酸アミド,ピペコリン酸等を、本発明の所期の効果を損なわない限度において、製剤中に配合することもできる。また、従来公知の肥料を、製剤中に配合してもよい。
【0066】
上記植物生長調整剤が対象となる植物としては、特に制限されるものではなく、種々の単子葉植物、双子葉植物、樹木等の植物全般に適用することができる。例えば、単子葉植物としては、例えばウキクサ属植物(ウキクサ)及びアオウキクサ属植物(アオウキクサ,ヒンジモ)が含まれる,うきくさ科植物、カトレア属植物,シンビジウム属植物,デンドロビューム属植物,ファレノプシス属植物,バンダ属植物,パフィオペディラム属植物,オンシジウム属植物等が含まれる,らん科植物、がま科植物、みくり科植物、ひるむしろ科植物、いばらも科植物、ほろむいそう科植物、おもだか科植物、とちかがみ科植物、ほんごうそう科植物、いね科植物、かやつりぐさ科植物、やし科植物、さといも科植物、ほしぐさ科植物、つゆくさ科植物、みずあおい科植物、いぐさ科植物、びゃくぶ科植物、ゆり科植物、ひがんばな科植物、やまのいも科植物、あやめ科植物、ばしょう科植物、しょうが科植物、かんな科植物、ひなのしゃくじょう科植物等を例示することができる。
【0067】
また、双子葉植物としては、例えばアサガオ属植物(アサガオ),ヒルガオ属植物(ヒルガオ,コヒルガオ,ハマヒルガオ),サツマイモ属植物(グンバイヒルガオ,サツマイモ),ネナシカズラ属植物(ネナシカズラ,マメダオシ)が含まれるひるがお科植物、ナデシコ属植物(カーネーション等),ハコベ属植物,タカネツメクサ属植物,ミミナグサ属植物,ツメクサ属植物,ノミノツヅリ属植物,オオヤマフスマ属植物,ワチガイソウ属植物,ハマハコベ属植物,オオツメクサ属植物,シオツメクサ属植物,マンテマ属植物,センノウ属植物,フシグロ属植物,ナンバンハコベ属植物が含まれるなでしこ科植物、もくまもう科植物、どくだみ科植物、こしょう科植物、せんりょう科植物、やなぎ科植物、やまもも科植物、くるみ科植物、かばのき科植物、ぶな科植物、にれ科植物、くわ科植物、いらくさ科植物、かわごけそう科植物、やまもがし科植物、ぼろぼろのき科植物、びゃくだん科植物、やどりぎ科植物、うまのすずくさ科植物、やっこそう科植物、つちとりもち科植物、たで科植物、あかざ科植物、ひゆ科植物、おしろいばな科植物、やまとぐさ科植物、やまごぼう科植物、つるな科植物、すべりひゆ科植物、もくれん科植物、やまぐるま科植物、かつら科植物、すいれん科植物、まつも科植物、きんぽうげ科植物、あけび科植物、めぎ科植物、つづらふじ科植物、ろうばい科植物、くすのき科植物、けし科植物、ふうちょうそう科植物、あぶらな科植物、もうせんごけ科植物、うつぼかずら科植物、べんけいそう科植物、ゆきのした科植物、とべら科植物、まんさく科植物、すずかけのき科植物、ばら科植物、まめ科植物、かたばみ科植物、ふうろそう科植物、あま科植物、はまびし科植物、みかん科植物、にがき科植物、せんだん科植物、ひめはぎ科植物、とうだいぐさ科植物、あわごけ科植物、つげ科植物、がんこうらん科植物、どくうつぎ科植物、うるし科植物、もちのき科植物、にしきぎ科植物、みつばうつぎ科植物、くろたきかずら科植物、かえで科植物、とちのき科植物、むくろじ科植物、あわぶき科植物、つりふねそう科植物、くろうめもどき科植物、ぶどう科植物、ほるとのき科植物、しなのき科植物、あおい科植物、あおぎり科植物、さるなし科植物、つばき科植物、おとぎりそう科植物、みぞはこべ科植物、ぎょりゅう科植物、すみれ科植物、いいぎり科植物、きぶし科植物、とけいそう科植物、しゅうかいどう科植物、さぼてん科植物、じんちょうげ科植物、ぐみ科植物、みそはぎ科植物、ざくろ科植物、ひるぎ科植物、うりのき科植物、のぼたん科植物、ひし科植物、あかばな科植物、ありのとうぐさ科植物、すぎなも科植物、うこぎ科植物、せり科植物、みずき科植物、いわうめ科植物、りょうぶ科植物、いちやくそう科植物、つつじ科植物、やぶこうじ科植物、さくらそう科植物、いそまつ科植物、かきのき科植物、はいのき科植物、えごのき科植物、もくせい科植物、ふじうつぎ科植物、りんどう科植物、きょうちくとう科植物、ががいも科植物、はなしのぶ科植物、むらさき科植物、くまつづら科植物、しそ科植物、なす科植物、ごまのはぐさ科植物、のうぜんかずら科植物、ごま科植物、はまうつぼ科植物、いわたばこ科植物、たぬきも科植物、きつねのまご科植物、はまじんちょう科植物、はえどくそう科植物、おおばこ科植物、あかね科植物、すいかずら科植物、れんぷくそう科植物、おみなえし科植物、まつむしそう科植物、うり科植物、ききょう科植物、きく科植物等を例示することができる。
【0068】
また、上記植物生長調整剤が対象となる植物は、上記例示した植物の野生型のみならず、変異体や形質転換体であってもよい。後述の実施例にも示すように、特定の遺伝子が導入された形質転換植物に対して、本発明に係る植物生長調整剤を適用すると、本発明に係る植物生長調整剤の効果が増強される(換言すれば、野生型植物に適用する場合よりも、本発明に係る植物生長調整剤の効果が強くなる)。
【0069】
したがって、そのような形質転換植物は、本発明に係る植物生長調整剤の好適な適用対象となりうる。
【0070】
かかる形質転換体としては、具体的には、例えば、グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ(以下、「gFBA」ともいう)をコードする遺伝子を導入した形質転換植物を挙げることができる。
【0071】
後述の実施例に示すように、gFBAの遺伝子を導入した形質転換植物に本発明に係る植物生長調整剤を与えることにより、該植物生長調整剤による収穫指数の上昇効果がより増強されることが実証されている。
【0072】
なお、gFBAの遺伝子を導入した形質転換植物、及びその製造方法については、例えば、国際公開公報WO2007/091634A1(2007年8月16日公開)等に記載されている。したがって、該国際公開公報の内容は、参照として本明細書に援用される。
【0073】
本発明の植物生長調整剤は、その剤形に応じた方法で種々の生物個体もしくは器官、もしくは組織、もしくは細胞に用いることができる。
【0074】
また、本発明の植物生長調整剤を用いて処理した植物から得られた種子も、産業上有用であり、本発明に含まれる。かかる種子については、後述する実施例に示すように、熟度(発芽率)を調べたところ、通常の種子より早い発芽が認められた。したがって、グルタチオン、好ましくは酸化型グルタチオンを用いて栽培した植物より得られた種子は、熟度が向上しているといえる。
【0075】
また、本発明の植物生長調整剤による処理は、対象となる植物の種子またはカルスの通常の栽培方法の開始前及び/又は栽培中に、適当な濃度の植物生長調整剤を使用することで行うことができる。通常、対象植物の性質(長日性、短日性など)に応じた処理を行いながら使用することが効果的である。そのような処理方法は、当業者にとって十分知られたことであるため、ここでは詳細な説明は省略するが、例えば、相対長日植物の場合には、一定の光強度以上の光照射を行いながら本発明の植物生長調整剤を用いることが効果的であると考えられる。
【0076】
したがって、本発明には、当該技術分野で通常用いられている任意の植物の育成方法、すなわち植物の生産方法における植物生長調整剤の使用をも含まれる。
【0077】
本発明の植物生長調整剤は、有効成分であるグルタチオン単独であってもよいが、上述のごとく、それぞれの植物に適用可能な剤形、例えば液剤,固形剤,粉剤,乳剤,底床添加剤等の剤形で用いることが好ましい。そのような製剤は、それぞれの分野で、製剤学上適用することが可能な公知の担体成分、製剤用補助剤等を、本発明の植物生長調整剤の作用効果が損なわれない限度において、有効成分であるグルタチオンに適宜配合し既知の方法で製造することができる。
【0078】
さらに、本発明には、上述した植物生長調整剤を用いた植物の栽培方法も含まれる。すなわち、本発明に係る植物の栽培方法は、グルタチオンを用いて、植物を栽培し、該植物の収穫指数を向上させるものであればよく、その他の具体的な工程、条件等の構成については特に限定されるものではない。なお、該植物の栽培方法においても、グルタチオンとしては、GSH及び/又はGSSGを用いうるが、GSSGを含むことが好ましい。
【0079】
ここで、本発明に係る植物の栽培方法の一実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【0080】
本発明に係る植物の栽培方法では、植物が、グルタチオンを常に吸収可能な条件で投与してもよいし、栽培期間を通して、間欠的にグルタチオンを吸収可能な条件(例えば、週1回や週2回といった間隔で投与する条件)で投与してもよい。また、特定の時期、換言すれば、特定の生育時期にのみ、グルタチオンを投与してもよい。
【0081】
間欠的にグルタチオンを投与することにより、グルタチオンの投与量を減少させることができる。それゆえ、植物栽培にかかるコストを低減することができる。なお、間欠的にグルタチオンを投与する場合、一定の時間間隔で投与することが好ましいが、これに限定されず、不定の時間間隔で投与してもよい。
【0082】
また、グルタチオンを投与する時間間隔は特に限定されるものではなく、投与するグルタチオンの濃度、投与対象となる植物、及びグルタチオンを投与する時期(より詳しくは生育時期)等に応じて決定すればよい。一般的には、適用対象となる植物が草本植物の場合、週1回~週2回とするか、追肥時期と同時期に行うことが好ましい。
【0083】
特定の時期にのみ、グルタチオンを投与する場合、栄養生長期から生殖成長期への転換時期の前後(栄養生長期から生殖成長期への転換時期を含む)、もしくは、その後の花芽形成期、もしくは目的収穫物への転流が起きる時期に投与することが好ましい。このような構成によれば、グルタチオンの投与効果を効果的に得ることができる。また、上記構成では、特定の時期にのみグルタチオンを投与するため、植物栽培にかかるコストを低減することができる。
【0084】
特定の時期にのみ、グルタチオンを投与する場合、特定の時期の一定期間、植物がグルタチオンを常に吸収可能な条件で投与してもよいし、特定の時期の一定期間、間欠的にグルタチオンを吸収可能な条件で投与してもよい。特定の時期の一定期間、間欠的にグルタチオンを投与することにより、植物の栽培コストをより一層低減することができる。
【0085】
また、グルタチオンを用いて、植物の種子及び/又は花の数を増加させる方法も本発明に含まれる。該方法においても、グルタチオンとしては、酸化型グルタチオン、及び還元型グルタチオンを用いうるが、酸化型グルタチオンを含むことが好ましい。
【0086】
また、該方法において、植物にグルタチオンを投与する時期及び投与量等は特に限定されないが、上記植物の栽培方法で説明した条件で、投与することが好ましい。
【0087】
さらにいえば、上記の方法で得られる植物体も本発明に含まれる。本発明に係る植物体は、収穫指数が向上している。したがって、本発明に係る植物は、通常推奨される条件で栽培した場合よりも収穫指数が向上していることから、収穫指数を測定することにより、本発明の方法以外の方法で得られた植物体と明確に区別することができる。
【0088】
また、かかる植物体は、植物体中の酸化型グルタチオンの量や割合を調べることにより、簡易に調べることができ、本発明の方法以外の方法で得られた植物体と明確に区別できる。植物体中の酸化型グルタチオンの量・濃度を調べる方法以外にも、例えば、DNAマイクロアレイ等を用いて遺伝子発現パターンを比較することによっても調べることができる。具体的には、酸化型グルタチオンを投与して栽培した植物体の遺伝子発現パターンを予め調べ、他の方法で栽培された植物体のそれと比較して、酸化型グルタチオンを投与した場合に特有の発現パターン(GSSG発現パターン)を特定しておく。そして、調査対象の植物体の発現パターンを調べ、上記GSSG発現パターンと比較することにより、簡便に調べることができる。
【0089】
さらに、かかる植物体は、該植物体の収穫指数を測定することにより、本発明の方法以外の方法で得られた植物体と明確に区別することができる。
【0090】
上記例示した方法(換言すれば、本発明に係る植物を鑑定する方法)は単独で行ってもよいし、複数を組み合わせて行ってもよい。複数を組み合わせて行うことにより、本発明に係る植物体と、本発明の方法以外の方法で得られた植物体とをより明確に区別することができる。
【0091】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0092】
<1:酸化型グルタチオンのシロイヌナズナの生育への影響>
シロイヌナズナを100μE/mの強さの光で16時間明期/8時間暗期の日長条件のもと22℃で、培地として、下層にバーミキュライト(旭工業)2、中層にクレハ育苗培土(クレハ)1、上層にバーミキュライト(旭工業)1の割合で重層して形成される土壌を用いて、植物の生育実験を行った。なお、通常この条件で生育させたシロイヌナズナは新たな追肥なしでも窒素欠乏の兆候を示さない。
【0093】
本実験では、植物に対して、水のみ、1mMの酸化型グルタチオン(GSSG)溶液、または5mMのH溶液にて処理して、植物の生育状態を観察した。具体的には、65(W)×65(D)×50(H)mm程度のポットに2~3個体程度となるようにし、処理液を適宜与えた。
【0094】
処理の効果をロゼット葉数、花茎の伸長速度、花の数、種子の数に基づいて評価した。その結果を図1~図5に示す。
【0095】
図1に示すように、1mM GSSG溶液を添加して栽培した植物体は、播種後3~4週間後において、水のみを添加して栽培した植物体及び5mMのH溶液を添加して栽培した植物体に比べて、葉が大きく丸く生長することがわかった。
【0096】
また、図2(a),図2(b)に示すように、6週間後では、1mM GSSG溶液を添加して栽培した植物体は、水のみを添加して栽培した植物体及び5mMのH溶液を添加して栽培した植物体に比べて、草丈が短く、茎が太く、葉が大きく生長することがわかった。なお、図2(a)と図2(b)とは、同一のサンプルを異なる角度から撮影したものである。
【0097】
また、図3に示すように、7週間後では、1mM GSSG溶液を添加して栽培した植物体は、水のみを添加して栽培した植物体及び5mMのH溶液を添加して栽培した植物体に比べて、花の数及び葉面積が著しく増加していることがわかった。
【0098】
また、図4に示すように、8weeks後では、水のみを添加して栽培した植物体及び5mMのH溶液を添加して栽培した植物体は、枯れはじめているが、これに対して1mM GSSG溶液を添加して栽培した植物体は、まだ緑が色濃く残っており、寿命が延びていることがわかった。
【0099】
また、図5に示すように、1mM GSSG溶液を添加して栽培した植物体は、水のみを添加して栽培した植物体及び5mMのH溶液を添加して栽培した植物体に比べて、著しく種子の収量が増加することがわかった。測定の結果、約3~4倍程度に種子の有効着粒数が増えていることがわかった(図5の上部パネル参照)。
【0100】
また、種子の形状や大きさに変化が出ているか否かを調べた。その結果を図5の下側パネルに示す。同図に示すように、1mM GSSG溶液を添加して栽培した植物体から得られた種子は、水のみを添加して栽培した植物体から得られた種子と比較しても、大きさ、形状等は特段の差がないことがわかった。なお、5mMのH溶液を添加して栽培した植物から得られた種子は、若干巨大化していることがわかった。
【0101】
以上のように、酸化型グルタチオンを用いて植物を栽培した場合、種子及び/又は花の数が増加することが明らかである。
【0102】
<2:酸化型グルタチオンの濃度がシロイヌナズナの生育へ及ぼす影響>
次に、酸化型グルタチオンの濃度がシロイヌナズナの生育へ及ぼす影響を調べた。具体的には、65(W)×65(D)×50(H)mm程度のポットにつめた土壌を0mM,0.01mM,0.2mM,1mM,2mM又は5mMのGSSG溶液に浸した。1ポットあたり3個体程度となるようにシロイヌナズナの種子を播き、3週間後から経時的に観察した。
【0103】
その結果を図6,図7に示す。これらの図に示すように、葉を丸くする作用および寿命を長くする作用が顕著に現れる濃度は0.2~2mMであり、茎を太くする作用が顕著に現れる濃度は1~2mMであった。なお、GSSGの濃度が0.01mMでは水栽培(0mM)とほとんど差がなく、5mMでは生育が著しく抑制され、枯死するものが多かった。
【0104】
<3:酸化型グルタチオンがシロイヌナズナ種子へ及ぼす影響>
次いで、酸化型グルタチオンを用いて栽培したシロイヌナズナから取得した種子の熟度について調べた。具体的には、水またはGSSG溶液栽培した植物体から回収した種子を1/2 MS培地に播種して経時的に発芽率を調べた。
【0105】
その結果を図8(a),図8(b)に示す。同図に示すように、GSSG溶液で栽培した植物体由来の種子は、通常栽培の植物体由来の種子より早い発芽が認められた。特に、播種後、2日目での発芽率が有意に高かった。ただし、播種後7日目の生育には両者間でほとんど差は見られなかった。
【0106】
<4:酸化型グルタチオンのジベレリン合成変異体に対する効果>
次に、シロイヌナズナのジベレリン(GA)合成変異体に対する酸化型グルタチオンの効果を調べた。具体的には、シロイヌナズナのGA合成変異体ga20ox1を播種時から水またはGSSG(1mM)で栽培し、生育状態を観察した。
【0107】
図9に、播種から8週間後の植物体の様子を示す。図9の上部パネルは植物体を正面から観察したものであり、下パネルは植物体を斜め上から観察したものである。図中、「Col」は、野生型Columbiaを示し、「ga20ox1」は、GA生合成系の酵素をコードするGA20オキシダーゼ遺伝子にT-DNAが挿入された変異体を示す。また、「ga20ox1-1」と「ga20ox1-2」とは、それぞれ異なる部位にT-DNAが挿入された独立の変異体である。
【0108】
同図に示すように、GSSG栽培したGA変異体ga20ox1は、水のみで栽培の植物体に比べて顕著にわき芽が増加した。また、このわき芽の増加に伴って花(鞘)の数も増加した。さらに、図9の右側に示すように、種子量も有意に増加した。
【0109】
それゆえ、この方法は、植物ホルモンの合成や応答の変異体にGSSGを作用させることにより、種子収量を増やすことができる。特に、イネ科植物など収量が分げつに大きく依存する植物に対して有効である。イネ(秋田63号)を標準施肥量5 kgN/10aで水耕栽培し、幼穂形成期及び減数分裂期に2kgN/10aづつの追肥管理で生育させた場合、追肥時に各試験区(0.1 m2)に0.2 gNを基準にGSSGを投与することで、約1.4倍の穂数となることからも明らかである。
【0110】
本発明に係る植物生長調整剤は、酸化型グルタチオンを有しているゆえに、植物の生長を促進させることができる。例えば、植物の種子及び/又は花(鞘)の数を増加させることができるという効果を奏する。
【0111】
また、特に植物ホルモン(例えば、ジベレリン)の合成又は応答機能に変異を有する変異体を、酸化型グルタチオンを用いて栽培することにより、わき芽を顕著に増加させることができ、それに伴って花(鞘)の数も増加させることができるという効果を奏する。これにより、例えば、イネ科植物等の分げつが収量に大きく影響を及ぼす植物に対して用いることにより、種子収量を増加させることができる。
【0112】
<5:酸化型グルタチオンの処理条件がシロイヌナズナ種子へ及ぼす影響1>
0mM、0.01mM、0.2mM、1mM、2mM、又は5mMのGSSGに浸漬した土を入れたポットに、シロイヌナズナの種子を播種した。播種して2日後、1週間後、2週間後、3週間後、又は4週間後に、ポットを、GSSGを含まない水が入ったトレーに移した。
【0113】
なお、上述した点を除いては、<1:酸化型グルタチオンのシロイヌナズナの生育への影響>に記載した条件で、シロイヌナズナを栽培した。
【0114】
こうして栽培したシロイヌナズナ(1ポットにつき3個体)から得られた1ポットあたりの種子量を測定した。その結果を図10~図12に示す。nは最終的に収穫可能な個体の数である。
【0115】
なお、図10において、Ratioは、終始、GSSGを含まない水が入ったトレーで栽培した植物の種子量を1としたときの割合を表す。
【0116】
図10~図12に示すように、与えるGSSG量(GSSG濃度)及びGSSGを与える時期によって、シロイヌナズナのGSSGに対する感受性が異なることがわかった。長期間投与する場合には高濃度のGSSGよりは低濃度のGSSGで効果が認められ、短期間の投与であれば、高濃度のGSSGであることが望ましいことが分かる。
【0117】
<6:酸化型グルタチオンの処理条件がシロイヌナズナ種子へ及ぼす影響2>
水に浸漬した土を入れたポットに、シロイヌナズナの種子を播種した。播種して2日後、1週間後、2週間後、3週間後、4週間後、5週間後、6週間後、又は7週間後に、ポットを、1mM GSSGを含む水が入ったトレーに移した。また、1mM GSSGを含む水には移さず、終始、GSSGを含まない水が入ったトレーに入れたポットも用意した。
【0118】
なお、上述した点を除いては、<1:酸化型グルタチオンのシロイヌナズナの生育への影響>に記載した条件で、シロイヌナズナを栽培した。
【0119】
こうして栽培したシロイヌナズナ(1ポットにつき3個体)から得られた1ポットあたりの種子量を測定した。
【0120】
その結果、図13に示すように、与えるGSSG濃度が同一であっても、処理時期によって、得られる種子量に大きな違いが見られ、最適な投与時期があることが分かった。その一方で、処理時期がいずれの場合であっても、GSSG処理により、GSSG未処理と比較して得られる種子量が増加した。
【0121】
<7:酸化型グルタチオンの処理条件がシロイヌナズナ種子へ及ぼす影響3>
水に浸漬した土を入れたポットに、シロイヌナズナの種子を播種した。播種してから1週目(0日目~7日目)、2週目(8日目~14日目)、3週目(15日目~21日目)、4週目(22日目~28日目)、5週目(29日目~35日目)、6週目(36日目~42日目)、又は7週目(43日目~49日目)のそれぞれ1週間のみ、ポットを、1mM GSSGを含む水が入ったトレーに移して栽培した。つまり、特定の生育時期の1週間のみ、1mM GSSGで処理した。
【0122】
なお、1mM GSSGを含む水には移さず、終始、GSSGを含まない水が入ったトレーに入れたポット、及び播種から終始、1mM GSSGを含む水が入ったトレーに入れたポットも用意した。
【0123】
なお、上述した点を除いては、<1:酸化型グルタチオンのシロイヌナズナの生育への影響>に記載した条件で、シロイヌナズナを栽培した。
【0124】
こうして栽培したシロイヌナズナ(1ポットにつき3個体)から得られた1ポットあたりの種子量を測定した。
【0125】
その結果、図14に示すように、特定の生育時期の1週間のみ、GSSGを与えても、終始、GSSGを与える場合よりは効果が小さいものの、GSSG未処理の場合と比較して有意に種子量が増加した。
【0126】
また、この場合にも、GSSG処理の時期によって、種子量の増加レベルに違いが見られた。特に、播種後4週目に酸化型グルタチオンを与えた場合、得られた種子量が最も多かった。なお、播種後4週目は、抽だい前後の時期に相当する。
【0127】
<8:酸化型グルタチオンの処理条件がシロイヌナズナ種子へ及ぼす影響4>
水に浸漬した土をポットに、シロイヌナズナの種子を播種した。播種してから1週目~2週目(0日目~14日目)、2週目~3週目(8日目~21日目)、3週目~4週目(15日目~28日目)、4週目~5週目(22日目~35日目)、5週目~6週目(29日目~42日目)、又は6週目~7週目(36日目~49日目)のそれぞれ2週間のみ、ポットを、1mM GSSGを含む水が入ったトレーに移して栽培した。つまり、特定の生育時期の2週間のみ、1mM GSSGで処理した。
【0128】
なお、1mM GSSGを含む水には移さず、終始、GSSGを含まない水が入ったトレーに入れたポット、及び播種から終始、1mM GSSGを含む水が入ったトレーに入れたポットも用意した。
【0129】
上述した点を除いては、<1:酸化型グルタチオンのシロイヌナズナの生育への影響>に記載した条件で、シロイヌナズナを栽培した。
【0130】
こうして栽培したシロイヌナズナ(1ポットにつき3個体)から得られた1ポットあたりの種子量を測定した。
【0131】
その結果、図15に示すように、特定の生育時期の2週間のみ、酸化型グルタチオンを与えても、終始、酸化型グルタチオンを与える場合よりは効果が小さいものの、GSSG未処理の場合と比較して有意に種子量が増加した。
【0132】
また、この場合にも、GSSGで処理する時期によって、種子量の増加レベルに違いが見られた。
【0133】
<9:酸化型グルタチオンの処理条件がシロイヌナズナ種子へ及ぼす影響5>
水に浸漬した土を入れたポットに、シロイヌナズナの種子を播種した。播種してから1週目~2週目(0日目~14日目)、3週目~4週目(15日目~28日目)、5週目~6週目(29日目~42日目)、又は7週目~8週目(43日目~56日目)のそれぞれ2週間のみ、ポットを、0.2mM又は1mM GSSGを含む水が入ったトレーに移して栽培した。つまり、特定の生育時期の2週間のみ、0.2mM又は1mM GSSGで処理した。
【0134】
なお、0.2mM又は1mM GSSGを含む水には移さず、終始、GSSGを含まない水が入ったトレーに入れたポット、及び播種から終始、0.2mM又は1mM GSSGを含む水が入ったトレーに入れたポットも用意した。
【0135】
上述した点を除いては、<1:酸化型グルタチオンのシロイヌナズナの生育への影響>に記載した条件で、シロイヌナズナを栽培した。
【0136】
こうして栽培したシロイヌナズナ(1ポットにつき3個体)から得られた種子量、乾重量、及び収穫指数(ハーベストインデックス)を測定し、各処理3ポットの平均値を算出した。
【0137】
その結果、図16に示すように、0.2mM GSSGで処理した場合、GSSG未処理と比較して、乾重量はほとんど増加せず、種子量が増加することで収穫指数が上昇した。
【0138】
一方、1mM GSSGで処理した場合は、得られた種子量、乾重量及び収穫指数は、播種後1週目及び2週目にGSSG処理した場合の収穫指数を除いて、GSSG未処理の場合よりも明らかに増加した。
【0139】
なお、図16において、アステリスクはt検定による通常栽培(水)とGSSG処理との間の顕著な差を示す(*P<0.05, **P<0.01)。以上、<5:酸化型グルタチオンの処理条件がシロイヌナズナ種子へ及ぼす影響1>~<9:酸化型グルタチオンの処理条件がシロイヌナズナ種子へ及ぼす影響5>の結果から、シロイヌナズナの生育時期により、酸化型グルタチオンに対する感受性が異なることがわかった。より詳しくは、酸化型グルタチオンの処理期間が1週間又は2週間の場合、播種後4週目~5週目に処理すると、種子収量が効果的に増加する傾向がみられた。本生育条件では、播種してから2週間目前後が栄養生長期から生殖生長期への転換時期に相当し、播種後4週目~5週目は、シロイヌナズナの抽だい前後の時期に相当する。つまり、栄養生長期から生殖生長期への転換時期から抽だい前後の時期を含む時期に酸化型グルタチオンで処理することにより、種子収量を効果的に増加させることができることが明らかとなった。
【0141】
<10:酸化型グルタチオンがバラ(品種;パティオヒット アリカンテ)の生育へ及ぼす影響>
バラ(品種;パティオヒット アリカンテ)を、4ヶ月間、0.5mM GSSG液を50mLずつ、週2回、液肥として施肥後、完全に切り戻して栽培した。なお、GSSG以外は、2週間おきに2gのS604号の追肥した。
【0142】
その結果、図17に示すように、GSSG処理した植物(図面の左側のトレーに配置された植物)のほうが、GSSG処理していない植物(図面の右側のトレーに配置された植物)よりも有意に新しい花芽の生長が促進されることが分かった。
【0143】
<11:酸化型グルタチオンがバラ(品種;イングリッシュローズ)の生育へ及ぼす影響>
バラ(品種;イングリッシュローズ)を、4ヶ月間、0.5mM GSSG液を50mLずつ、週2回、液肥として施肥後、完全に切り戻して栽培した。なお、GSSG以外は、2週間おきに2gのS604号の追肥した。
【0144】
その結果、図18に示すように、GSSG処理した植物(図面の上段の植物)のほうが、GSSG処理していない植物(図面の下段の植物)よりも有意に出芽時期が早く、新芽の生長が促進されていた。
【0145】
<12:酸化型グルタチオンがチュウゴクサイシン(中国菜心、サカタのタネ)の生育へ及ぼす影響1>
チュウゴクサイシンを、2週間の育苗後、圃場に植え替えて、GSSG処理もしくは無処理で生育させた。窒素肥料は、くみあい燐硫安加里S604号にて10アールあたり20kg Nとなるように施肥し、3週間後に5kg Nを追肥した。
【0146】
また、GSSG処理管理区には、0.5mMもしくは5mM GSSG液を1区画(3m)あたり1L、週2回、葉面散布した。
【0147】
その結果、図19に示すように、GSSG処理管理区の植物は、通常窒素管理区(GSSG無処理)の植物よりも有意に生長量が増加した。
【0148】
<13:酸化型グルタチオンがダイズの生育及び種子収量へ及ぼす影響2>
ダイズ(品種;ツルムスメ)及びダイズ(品種;トヨムスメ)を、2週間の育苗後、図20の配置となるように、圃場に植え替えて、GSSG処理もしくは無処理で生育させた。窒素肥料はくみあい燐硫安加里S604号にて10アールあたり20kg Nとなるように施肥し、3週間後に5kg Nを追肥した。
【0149】
また、GSSG処理管理区には、0.5mMGSSG液を、1回につき、1個体あたり50mL、週に2回、茎の基部(図21の矢印部を参照)あたりに、茎を伝わらせて与えた。
【0150】
なお、GSSG溶液は、雨が降ると予想される場合は、雨が降った後に与えた。水遣りを行う場合も同様に、水遣りをしてから、GSSG溶液を与えるようにした。また、コントロール(すなわち、通常窒素管理区)の植物の収穫時期が近づいたら、GSSG処理管理区の植物にGSSG溶液を与えることを止めた。
【0151】
こうして得られたGSSG処理管理区の植物について、相対種子重量(対通常窒素管理区の植物)、相対バイオマス量(対通常窒素管理区の植物)、及び相対収穫指数(対通常窒素管理区の植物)を測定した。
【0152】
その結果、図22に示すように、いずれの品種においても、GSSG処理管理区の植物は、通常窒素管理区の植物よりも、種子重量、バイオマス量、及び収穫指数の全てが高かった。
【0153】
<14:トウモロコシの生産性に対する酸化型グルタチオンの効果1>
スイートコーン(キャンベラ90、タキイ種苗)を播種して、2週後に、培養土(下層バーミキュライト6L、中層クレハ園芸培土3L、上層バーミキュライト3L)を詰めた水耕栽培用鉢(2千分の1アール)に植え替え、4週後及び6週後にくみあい燐硝安加里S-604号3gを追肥した。また、GSSG処理植物には、発芽後から12週間、0.5mM GSSG 200mLを週2回、根元に与えた。なお、GSSGの処理時期は、図25の(c)にも記載しているので、参照されたい。図25の(c)において、ハッチングされている時期が、GSSGの処理時期である。
【0154】
その結果、図23に示すように、GSSG処理した植物(図23の左側(a))は、GSSG処理していない植物(図23の右側(b))よりも、花芽形成が促進された。
【0155】
また、図24に示すように、GSSG処理した植物から得られた実(図24の上パネル左側(a))は、GSSG処理していない植物から得られた雌ずい(図24の上パネル右側(b))よりも大きく、可食の種子粒数も増加していた。
【0156】
さらに、GSSG処理した植物から得られた種子(図24の下パネル左側(c))は、GSSG処理していない植物から得られた種子(図24の下パネル右側(d))よりも大きかった。
【0157】
つまり、トウモロコシにおいて、GSSG処理を行うことにより、収穫量が増加することが明らかとなった。
【0158】
次に、GSSG処理した植物と、GSSG処理していない植物とについて、実、地上部、及び実以外の部分のそれぞれのバイオマス量を測定したところ、図25の(a)に示すように、実以外の部分のバイオマス量には、両者で大きな違いがなく、実及び地上部のバイオマス量が、GSSG処理した植物で有意に高かった。
【0159】
そこで、収穫指数を算出したところ、図25の(b)に示すように、GSSG処理した植物は、GSSG処理していない植物よりも収穫指数が有意に高かった。
【0160】
<15:トウモロコシの生産性に対する酸化型グルタチオンの効果2>
酸化型グルタチオンの処理時期がトウモロコシの生産性に及ぼす効果を調べた。
【0161】
スイートコーン(キャンベラ90、タキイ種苗)を播種して2週後に、培養土(下層バーミキュライト6L、中層クレハ園芸培土3L、上層バーミキュライト3L)を詰めた水耕栽培用鉢(2千分の1アール)に植え替え、4週後及び6週後にくみあい燐硝安加里S-604号3gを追肥した。
【0162】
播種してから2週経過後から2週間、または4週経過後から2週間、6週経過後から2週間の期間に、50mLの0.2mMGSSG溶液を根元に4回(週当たり2回)与えた。また、播種後2週経過後から11週間の期間に同様に計22回、0.2mM GSSGを与えた処理区と全く与えない処理区も用意した。なお、GSSGの処理時期は、図26の(c)にも記載しているので、参照されたい。図26の(c)において、ハッチングされている時期が、GSSGの処理時期である。
【0163】
こうして得られた植物について、個体あたりの実の量及び地上部バイオマス量を測定し、収穫指数を算出した。
【0164】
その結果、図26の(a)に示すように、播種後、4週経過後から2週間及び6週経過後から2週間GSSG処理した植物、並びに、播種2週後から11週間GSSG処理した植物で、GSSG未処理の植物よりも収穫指数が増加した。特に、播種後、4週経過後から2週間GSSG処理した植物、並びに、播種後、2週経過後から11週間GSSG処理した植物で、収穫指数の増加レベルが大きかった。
【0165】
個体あたりの実の量及び地上部バイオマス量を見ると、図26の(b)に示すように、播種4週後から2週間GSSG処理した植物、並びに、播種2週後から11週間GSSG処理した植物では、GSSG未処理の植物よりも増加した。しかし、播種後、6週目から2週間GSSG処理した植物では、GSSG未処理の植物よりも個体あたりの実の量及び地上部バイオマス量は減少した。
【0166】
<16:トウモロコシの生産性に対する酸化型グルタチオンの効果3>
播種後6週後から2週間の間に4回のGSSG投与を茎葉散布にて行い、GSSG処理区とし、葉面散布で投与したことを除いて、<15:トウモロコシの生産性に対する酸化グルタチオンの効果2>に記載した条件でスイートコーンを栽培した。なお、GSSGの処理時期は、図27の(c)にも記載しているので、参照されたい。図27の(c)において、ハッチングされている時期が、GSSGの処理時期である。
【0167】
こうして得られた植物について、個体あたりの実の量及び地上部バイオマス量を測定し、収穫指数を算出した。
【0168】
その結果、図27の(a)及び(b)に示すように、茎葉散布であっても、GSSG処理によって、個体あたりの実の量及び地上部バイオマス量、並びに収穫指数はいずれも増加した。
【0169】
<17:トウモロコシの生産性に対する酸化型グルタチオンの効果4>
GSSG処理を、播種後2週間後から2週間根元に溶液投与もしくは茎葉散布、2週目から11週間根元に溶液投与もしくは茎葉散布、4週後から2週間に溶液投与もしくは茎葉散布、6週目から2週間根元に溶液投与もしくは茎葉散布とし、さらに、1回あたりのGSSG投与条件を、0.2mMを20mLとしたことを除いて、<15:トウモロコシの生産性に対する酸化グルタチオンの効果2>に記載した条件でスイートコーンを栽培した。なお、GSSGの処理時期は、図28の(b)にも記載しているので、参照されたい。図28の(b)において、ハッチングされている時期が、GSSGの処理時期である。
【0170】
こうして得られた植物について、収穫指数を測定した。その結果、図28の(a)に示すように、いずれの処理条件であっても、GSSG未処理の場合と比較して、収穫指数は有意に上昇した。
【0171】
<18:トウモロコシの生産性に対する酸化型グルタチオンの効果5>
スイートコーンを、図29に示す配置(密度:約12000個体/10a)となるように、圃場に配置して栽培した。
【0172】
GSSG処理は、播種後2週目から2週間、3週目から2週間、4週目から2週間、5週目から2週間、6週目から2週間、もしくは2週目から7週間、週2回の根元散布(1回につき0.5mM GSSG 20mL);GSSG未処理;又は播種後2週目から7週間の週2回の茎葉散布(1回につき、1個体あたり0.5mM GSSG 20mL);とした。なお、GSSGの処理時期は、図30の(b)にも記載しているので、参照されたい。図30の(b)において、ハッチングされている時期が、GSSGの処理時期である。
【0173】
こうして得られた植物のうち、群落内部に植栽した植物について、面積あたりの総バイオマス量及び雌蕊(実)の収穫量を測定し、収穫指数を算出した。
【0174】
その結果、図30の(a)、(c)、及び(d)に示すように、いずれのGSSG処理条件であっても、GSSG未処理の場合よりも、面積あたりの総バイオマス量には有意な差は見られないが、雌蕊(実)の収穫量が増加し、収穫指数の向上が認められた。
【0175】
さらに、上記植物について、個体あたりの実、地上部、及び実以外の部分のそれぞれのバイオマス量を測定した。その結果、図31に示すように、実のバイオマス量(すなわち、実の量)は、いずれのGSSG処理条件であっても、GSSG未処理の場合よりも、増加した。
【0176】
しかし、実以外の部分のバイオマス量は、いずれのGSSG処理条件の場合も、GSSG未処理の場合よりも減少した。また、地上部のバイオマス量も、GSSG未処理の場合とほぼ同じか、減少した。特に、播種後2週目から7週間、GSSGを茎葉散布した場合には、実以外の部分のバイオマス量及び地上部のバイオマス量は、GSSG未処理の場合よりも、大きく減少した。
【0177】
以上の結果、酸化型グルタチオンは、トウモロコシの地上部バイオマス量を増加させることなく、収穫物である実の量を増加させ、収穫指数を増加させることが分かる。
【0178】
<19:窒素欠乏条件下でのトウモロコシの生産性に対する酸化型グルタチオンの効果>
スイートコーンを播種して、播種後84日間(7週間)、窒素源を与えずに栽培した。その後、30kg N/10aの窒素源を与えて栽培した。GSSGの処理は、0mM、0.2mM、0.5mM、1.0mMの濃度のGSSG液を1回につき50mLずつ、播種後8週目から(すなわち、窒素源を与え始めてから)、週に2回与えた。なお、栽培条件については、図33の(c)にも記載しているので、参照されたい。
【0179】
こうして得られた植物は、図32の(a)及び(b)に示すように、図32の図(c)に示すGSSG未処理の植物よりも、実の量が多かった。
【0180】
これらの植物について、より詳細に生産量を調べるため、実、地上部、及び実以外の部分のそれぞれのバイオマス量を測定し、収穫指数を算出した。
【0181】
その結果、図33の(a)及び(b)に示すように、実、地上部、及び実以外の部分のそれぞれのバイオマス量、並びに収穫指数はともに、GSSG処理した植物において、GSSG未処理の植物よりも増加していた。
【0182】
以上の結果から、栄養生育期間に窒素欠乏を経験して生育が制限された場合、通常、実の収穫量が減少するが、GSSGの処理により、窒素欠乏条件によって生育が制限された後でも収穫量の減少を抑制できることは明らかである。
【0183】
<20:酸化型グルタチオンによるバラの新芽および花芽の生育促進効果1>
ホームセンターでバラの苗(品種;パプルローズ)を購入し、イネ水耕栽培用ポットに植え替えて栽培した。GSSGの処理は、0.5mM GSSG液を50mLずつ、週2回、液肥として施肥した。GSSG以外は2週間おきに2gのS604号を追肥した。
【0184】
その結果、GSSG処理した植物(図34の実線の丸で囲んでいる植物)は、施肥後1ヶ月で、GSSG処理していない植物(図34の破線の丸で囲んでいる植物)よりも生長が促進された。また、開花した花の数もGSSG処理によって有意に増加した。
【0185】
以上の結果から、GSSG処理により、バラ(品種;パプルローズ)の新芽および花芽の生育促進が明らかである。
【0186】
<21:酸化型グルタチオンによるバラの新芽および花芽の生育促進効果2>
ホームセンターでバラの苗(品種;JJスカーレット及びJJアプリコット)を購入し、イネ水耕栽培用ポットに植え替えて栽培した。GSSGは、0.5mM GSSG液を50mLずつ、週2回、液肥として施肥した。GSSG以外は2週間おきに2gのS604号を追肥した。
【0187】
その結果、GSSG処理した植物(図35の(a)及び(c))では、施肥後4日目及び8日目で、GSSG処理していない植物(図35の(b)及び(d))よりも新芽の生育が促進されていた。
【0188】
なお、図35の(a)~(d)において、3個体の植物の品種は、左からの順に、JJスカーレット、JJアプリコット、JJスカーレットである。
【0189】
<22:酸化型グルタチオンによるトルコギキョウの根系の発達促進効果>
トルコギキョウの種子を、1mM GSSG又はGSHを含むMS培地で発芽させ、そのまま1ヶ月間、生育させた後、プランターに移植した。プランターには、下層2:中層1:上層1の割合でバーミキュライト、クレハ園芸培土、及びバーミキュライトの層をつくり、そこに、上記植物を移植した。
【0190】
その結果、図36に示すように、GSSG処理した植物で、GSSG未処理の植物よりも顕著に根が発達した。一方、GSH処理した植物では、GSSG未処理の植物よりも根の発達が抑制された。
【0191】
<23:酸化型グルタチオンによるバラの花芽誘導促進効果1>
バラ(品種;パティオヒット アリカンテ)を、ホームセンターで購入後、0.5mM GSSG液を50mLずつ、週2回、液肥として施肥後、約3ヶ月半後にGSSG処理区と未処理区の植物を比較した。
【0192】
その結果、GSSG処理した植物(図37の(a)、図38の(a))は、GSSG未処理の植物(図37の(b)、図38の(b))よりも、開花した花の数が顕著に多かった。
【0193】
以上の結果から、酸化型グルタチオンによって、バラの花芽誘導が促進されることが明らかである。
【0194】
<24:酸化型グルタチオンがイチゴの生育へ及ぼす影響>
ホームセンターで、イチゴ(品種;エミネントガーデンシリーズ 欲張りイチゴ 紅(SUMIKA))の苗を購入し、栽培した。GSSGは、0.5mM GSSG液を50mLづつ、週2回、液肥として施肥した。GSSG以外は2週間おきに2gのS604号を追肥した。
【0195】
その結果、図39に示すように、施肥後4ヶ月後では、Cont区(GSSG未処理区)で株あたり2~3本のランナーが見られるのに対して、GSSG処理区ではランナーの数が株あたり数十本と顕著に多かった。
【0196】
一方、GSH処理区では、株あたりのランナーの数がCont区に比べて増加したがGSSGに比較するとその効果は3分の1程度であった。
【0197】
以上の結果から、イチゴにおいても、酸化型グルタチオンは、生育を促進させ、ランナーの数を増やすことによって、株の増殖を促進する効果を示すことが明らかである。
【0198】
<25:酸化型グルタチオンがgFBAをコードする遺伝子を導入したシロイヌナズナの形質転換体の生育へ及ぼす影響1>
まず、グルタチオン結合性プラスチド型フルクトース-1,6-ビスリン酸アルドラーゼ(以下、「gFBA」ともいう)をコードする遺伝子を導入したシロイヌナズナの形質転換体及び野生型シロイヌナズナ(コロンビア;Col)を、液肥として、0mM、3mM、9mM、又は18mMの硝酸アンモニウムを3個体あたり25mL、週1回、与えたことを除いて、<1:酸化型グルタチオンのシロイヌナズナの生育への影響>に記載した条件で栽培した。
【0199】
施肥は、秤量皿でポットを受け、該秤量皿に、硝酸アンモニウムの溶液を入れることにより行った。なお、植物の栽培条件については、図40にも記載しているので、参照されたい。
【0200】
こうして得られた植物について、総バイオマス量及び種子量を測定し、収穫指数を算出した。その結果、図41に示すように、いずれの植物でも、総バイオマス量及び種子量は、施肥する硝酸アンモニウム濃度の上昇に伴い、増加したが、9mMで増加の程度が鈍くなり、18mMでその効果は飽和した。
【0201】
一方、収穫指数は、いずれの植物でも3mM及び9mMの硝酸アンモニウムを施肥した場合には、上昇したが、18mMの硝酸アンモニウムを施肥すると、硝酸アンモニウムを施肥しない場合よりも低下した。こうした収穫指数の低下は一般的に窒素過剰施肥時に見られる現象で、この場合さらに施肥N量をあげると収穫物の低下が認められるようになる。作物などの場合は、こうした過剰N施肥による収穫量の減少という弊害を避けるため、通常は収穫量に最適な標準施肥N量情報が農業試験場や種苗会社から提示されている。
【0202】
このようにN施肥量に対して収穫物量の向上効果が飽和している施肥条件(18mM硝酸アンモニウム)で、GSSGの投与の効果を未投与の場合と比較した。gFBAの遺伝子を導入したシロイヌナズナの形質転換体及び野生型シロイヌナズナ(コロンビア;Col)を、液肥として、1mM GSSGのみ、18mM硝酸アンモニウムのみ、又は18mM硝酸アンモニウムと1mM GSSGの両方を、図41の硝酸アンモニウム投与と同様に施肥して栽培した。
【0203】
こうして得られた植物について、総バイオマス量、及び種子量を測定し、収穫指数を算出した。その結果、図42に示すように、酸化型グルタチオンのみの施肥によっても、収穫指数、総バイオマス量、及び種子量のいずれもが増加したが、酸化型グルタチオンの効果は硝酸アンモニウムの種子の増収効果が飽和した条件でも認められた。
【0204】
さらに、酸化型グルタチオンと硝酸アンモニウムとの併用の効果は、野生型よりも、gFBAの遺伝子を導入した形質転換体でより大きかった。
【0205】
以上の結果、gFBAの遺伝子を導入した形質転換体を、酸化型グルタチオンと硝酸アンモニウムとを併用して与えることにより、より一層、収穫指数、総バイオマス量、及び種子量を増加させるGSSGの効果を高めることが可能であることが分かる。
【0206】
<26:酸化型グルタチオン及び還元型グルタチオンがgFBAをコードする遺伝子を導入したシロイヌナズナの形質転換体の生育へ及ぼす影響2>
図42の条件で1mMのGSSGの代わりに、GSHもしくは硫酸アンモニウムをN量で同量投与し、GSSGの効果との比較を行った。gFBAの遺伝子を導入したシロイヌナズナの形質転換体及び野生型シロイヌナズナ(コロンビア;Col)を、液肥の条件以外は図41及び図42と同様に栽培した。液肥としては、18mM硝酸アンモニウム、18mM硝酸アンモニウム+1mM GSSG、18mM硝酸アンモニウム+2mM GSH、又は18mM硝酸アンモニウム+2mM硫酸アンモニウムを用いた。
【0207】
施肥は、秤量皿でポットを受け、該秤量皿に、上記養液を入れることにより行った。なお、植物の栽培条件については、図40にも記載しているので、参照されたい。
【0208】
こうして得られた植物について、総バイオマス量及び種子量を測定し、収穫指数を算出した。その結果、図43に示すように、gFBA遺伝子を導入した形質転換体に酸化型グルタチオンと硝酸アンモニウムとを併用して与えた場合、他の処理を行った場合より、収穫指数、総バイオマス量、及び種子量の向上が顕著に認められた。
【0209】
また、収穫指数についてみれば、還元型グルタチオンと硝酸アンモニウムとを併用して与えた場合でも、酸化型グルタチオンと硝酸アンモニウムとの併用の場合よりも効果は低いものの、何も施肥しない場合や、硝酸アンモニウムのみを施肥する場合よりも、顕著に増加した。
【0210】
以上の結果、酸化型グルタチオン及び還元型グルタチオンともに、硝酸アンモニウムと併用することにより、収穫指数を顕著に増加させ、収穫量を有意に増加させることが可能であることが明らかとなった。また、その効果は、gFBAの遺伝子を導入した植物の場合により増強されることが明らかとなった。さらに、収穫指数を向上させ、収穫量を有意に向上させる能力は還元型グルタチオンよりも酸化型グルタチオンのほうが高いことがわかった。
【0211】
<27:酸化型グルタチオンのgFBAを導入したシロイヌナズナの形質転換体の生育へ及ぼす影響3>
図41~図43と同様な条件で、与える液肥としてはGSSGのみを与え、gFBAの遺伝子を導入したシロイヌナズナの形質転換体及び野生型シロイヌナズナ(コロンビア;Col)を栽培した。与えるGSSGの濃度は0mM~5mMまで変えた。
【0212】
こうして得られた植物の全バイオマス量及び種子収量を測定し、収穫指数を算出した。種子収量の結果を図44に、収穫指数の結果を図45に示す。種子収量はGSSGの濃度が増すにつれて増加し、試験した濃度ではその効果は飽和しなかった。さらに、その傾向はgFBAの遺伝子を導入したシロイヌナズナの形質転換体の方が高かった。
【0213】
一方、収穫指数は、GSSGの濃度の増加とともに向上し、その効果はGSSGの濃度が約2mMで飽和した。GSSG処理による種子増収効果及び収穫指数向上効果は、硝酸アンモニウムによる窒素施肥効果の最大値を大きく上回った。
【0214】
以上の結果から、GSSGの種子増収効果及び収穫指数向上効果は硝酸アンモニウムよりも高いことが分かり、その効果を高めるためにはgFBAの遺伝子を増強すればよいことが分かる。
【0215】
<28:硫黄源としての酸化型グルタチオン、還元型グルタチオン、及び硫酸アンモニウムの生育に対する影響の比較>
図41~図45と同様な条件で、与える液肥としてはGSSG、GSH、及び硫酸アンモニウムのいずれかを与え、gFBAの遺伝子を導入した形質転換体の生育に対する影響を比較した。液肥としてそれぞれ与えた量は、S量として濃度が同じになるように設定した。こうして得られた植物の種子量及び全バイオマス量を測定し、収穫指数を算出した。種子量の結果を図46に、収穫指数の結果を図47に示す。
【0216】
窒素肥料として一般に用いられる硫酸アンモニウム(硫安)の種子増収効果は、硝酸アンモニウム(硝安)の効果と同様な値で飽和した。一方、GSSG及びGSHは試験した濃度では、その効果が飽和せず、硫安よりも高い種子増収効果を示した。一方、収穫指数向上効果は、いずれの液肥でも、N量が12mMで最大に達したが、3つのうちではGSSGが一番高い効果を示した。
【0217】
以上の結果から、グルタチオンの効果はこれまでの肥料の効果を上回ることが明らかになり、GSHよりはGSSGのほうが効果が高いことが分かった。
【0218】
発明の詳細な説明の項においてなされた具体的な実施形態又は実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する請求の範囲内において、いろいろと変更して実施することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0219】
本発明によれば、植物の収穫指数を向上させることができる。また、植物の種子又は花の数を増加させることができる。さらに、わき芽や分げつを増加させることもでき、種子収量を増加させることも可能である。それゆえ、例えば、鑑賞用の草花や食糧用の植物だけでなく、森林やバイマスエネルギー用の植物資源において花の数や収量を増加させることができる。したがって、農業だけでなく、食品産業、エネルギー産業等の広範な産業上の利用可能性があるといえる。
図面
【図11】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図33】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図23】
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【図24】
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【図32】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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