TOP > 国内特許検索 > 色材と照明の組合せによる表現態様及び/又はパターン変化を含んでなる演出システム > 明細書

明細書 :色材と照明の組合せによる表現態様及び/又はパターン変化を含んでなる演出システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5257979号 (P5257979)
公開番号 特開2009-295472 (P2009-295472A)
登録日 平成25年5月2日(2013.5.2)
発行日 平成25年8月7日(2013.8.7)
公開日 平成21年12月17日(2009.12.17)
発明の名称または考案の名称 色材と照明の組合せによる表現態様及び/又はパターン変化を含んでなる演出システム
国際特許分類 F21S   2/00        (2006.01)
F21S  10/02        (2006.01)
A63J   5/02        (2006.01)
B44F   1/08        (2006.01)
F21Y 101/02        (2006.01)
FI F21S 2/00 621
F21S 10/02
A63J 5/02
B44F 1/08
F21Y 101:02
請求項の数または発明の数 1
全頁数 36
出願番号 特願2008-149132 (P2008-149132)
出願日 平成20年6月6日(2008.6.6)
審査請求日 平成23年4月28日(2011.4.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
発明者または考案者 【氏名】坂東 敏博
個別代理人の代理人 【識別番号】110000475、【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
審査官 【審査官】横溝 顕範
参考文献・文献 特開2002-225500(JP,A)
実開昭63-198599(JP,U)
特開2005-321729(JP,A)
調査した分野 B44F 1/08
A63J 5/02
F21S 2/00
F21S 10/02
特許請求の範囲 【請求項1】
色材と照明の組合せによる表現態様及び/又はパターンの変化を少なくとも一部に含んでなる演出システムであって、
照明として、白色光を発する、互いに分光分布が異なる複数の照明が用いられ、
i)前記照明の違いに応じた色の見えの変化が小さい色材を背景に、
ii)前記照明の違いに応じて色の見えが大きく変化する顔料が混合された、前記照明の違いに応じた色の見えの変化の大きい色材、または前記顔料単体からなる、前記照明の違いに応じた色の見えの変化の大きい色材を組み合わせることにより、
次元からなる表現態様を予め被照明体の表面に形成しておき、前記照明の違いに応じて前記色材の組み合わせ体の表現態様及び/又は見た目のパターンを看者に対し変化させ、
それにより、前記照明の違いに応じて前記色材の組み合わせ体の表現態様及び/又はパターンに変化をもたせることが可能であることを利用してユーザー及び看者に対し有効な演出システムを提供し得ることを可能ならしめることを特徴とする、
色材と照明の組合せによる表現態様及び/又はパターンの変化を少なくとも一部に含んでなる演出システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、色材と照明の組合せによる表現態様及び/又はパターン変化を含んでなる演出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
[基本的考え]
まずはじめに、本発明の考え方を説明するに当たっての序論として、基本的考えを説明する。
従来、たとえば、せっかく服を購入したのにお店で見るのと、自宅で見るのでは印象が異なっているということがよくあるが、それは照明環境に主に原因があると言える。この印象の違いというのは、色の本体がもつ分光反射率特性と照明光の分光分布との関係によって生じているのである。色と照明は密接にかかわっているのだが、一般に照明光のもつ分光分布と太陽光のもつ分光分布には大きな違いがある。照明によって色が変わって見えてしまうという現象は多くの場合、厄介なものとされてきた。
【0003】
このように、従来、新しい照明の開発・改良においては、演色性を良くすることを求め、自然光での色の見えと異なるような照明は良くないとされている。
なお、色の見えは、(照明の分光分布)×(光を反射する色材の分光反射率分布)によって決まる。
よって、適当な分光反射率分布を持った色材を設計すると、分光分布特性の異なった照明の下で劇的に色の見えが変化するようにできる。これをうまく用いた例として、麹塵という染め方で染めた染織物が挙げられる。
【0004】
この麹塵という染め方は、太陽光下で見た時と、電球下で見た時ではっきりと色が異なって見えるもので、照明種によって見える色が変わるもの、すなわち、照明光によって色そのものが変わってしまう色材の例として知られている。
この麹塵は、昼間の太陽光では鮮やかな黄緑色に見えるが、夕日やロウソク、或いはかがり火や行灯の光の下では、オレンジ色・エンジ色に見えるという性質を持っている。
【0005】
このように、これまでの、色材や照明における開発思想は、「照明変化があっても色の見えが変化しないように」というものであって、「色の見えの変化を積極的の演出して使おう」という考えはなかった。

【特許文献1】特開平7-34389号公報
【特許文献2】特開平7-34390号公報
【特許文献3】特開2002-225500号公報
【非特許文献1】「絵具の科学」 ホルベイン工業技術部編 中央公論美術出版
【非特許文献2】「色彩工学」 第2版 大田登 著 東京電機大学出版 日本色彩学会推薦図書
【非特許文献3】「色彩工学の基礎」 (株)朝倉書店 池田光男 著
【非特許文献4】「色彩学概論」 (財)東京大学出版会 千々岩英彰 著
【非特許文献5】「色再現工学の基礎」 大田登著 コロナ社
【非特許文献6】コニカミノルタ 色色雑学 http://konicaminolta.jp/entertainment/colorknowledge/index.html
【非特許文献7】クラボウ 知識の部屋 http://www.kurabo.co.jp/el/room/index.html
【非特許文献8】財団法人日本色彩研究所 色の広場 http://www.jcri.jp/index.html
【非特許文献9】シーアイ化成(株) 超微粒子マテリアル ナノテック http://www.cik.co.jp/product/nanotek/japanese/index.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明は、照明と色材の組み合わせを工夫することにより、例えば、照明変化により色相が変化する色材と変化しない色材の組み合わせを作り、照明のコントロールひとつで模様を浮き上がらせたり消したり、あるいは模様を変化させたりできる「照明によるパターン変化の演出法」を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく種々検討を重ねた結果、本願出願人は、
i)まず、色の見え方は、
(照明の分光分布)×(光を反射する色材の分光反射率分布)
によって決まるので、適当な分光反射率分布を持った色材を選定あるいは合成することによって、異なった照明下で色相の変わる色材と変化しない色材の組合せが得られること、を見い出し、
ii)従って、それら2種類の色材の適当な組合せでパターンを作り、分光分布特性の異なった照明との組合せを設計すると、照明の切り替えによってパターンを出したり消したり、あるいはパターンを変化させることが可能となることを見い出し、
本発明を完成した。
【0008】
また併せて、本願出願人は、現在開発の盛んなLED照明は、
i)分光分布の幅の狭いことと、
ii)様々な分光分布のものを得ることができること、
との特徴がある点に鑑み、つまり、LED照明であれば、分光分布の幅の狭いとの特徴を利用することにより、人の目には照明の色が変わったと認識しない程度の照明変化で、パターンの変化を認識させることが可能となることを見い出し、本発明の更なる改良発展を完成した。
【0009】
上記課題を解決可能な本発明の色材と照明の組合せによるパターン変化の演出法或いはシステムは、(1)色材と照明の組合せによる表現態様及び/又はパターンの変化を少なくとも一部に含んでなる演出システムであって、
照明として、白色光を発する、互いに分光分布が異なる複数の照明が用いられ、
i)前記照明の違いに応じた色の見えの変化が小さい色材を背景に、
ii)前記照明の違いに応じて色の見えが大きく変化する顔料が混合された、前記照明の違いに応じた色の見えの変化の大きい色材、または前記顔料単体からなる、前記照明の違いに応じた色の見えの変化の大きい色材を組み合わせることにより、
次元からなる表現態様を予め被照明体の表面に形成しておき、前記照明の違いに応じて前記色材の組み合わせ体の表現態様及び/又は見た目のパターンを看者に対し変化させ、
それにより、前記照明の違いに応じて前記色材の組み合わせ体の表現態様及び/又はパターンに変化をもたせることが可能であることを利用してユーザー及び看者に対し有効な演出システムを提供し得ることを可能ならしめることを特徴とするものである。
【0012】
なお、本明細書において「演色性」とは、被照射体の色映りのことを指し示すものとする。演色性なる用語は、照明メーカー、顔料、染料メーカー等々においても日常的に用いられている。
【0013】
一般に、ある照明だと、あるものの表面にあらわされた模様が見えない一方で、別の照明では、それが見えるといった場合がある。従来技術の下では、そのように照明が変わることによって見える色が変わることはダメなこと、というのが常識であった。つまり、照明を変えても、見える色が変わらない色材を究極は目指していた。
しかし、これを逆手に取り、照明によって色の見えの変わることを利用して、インパクトのあるものの見せ方を実現しようというのが本発明である。
すなわち、本発明では発想の転換を行い、例えば演色性悪い色材等、照明が変わることによって見える色が変わる色材を使うと、何か面白いことが出来ないか、というのが本発明の思想の根底に流れている。
本願発明者による発想の転換に至った背景には、
(1)人間が見える色というのは色材と照明の組合せであって、Aを照明の分光分布、Bを色材の分光反射率(反射特性)とすると、人による色の見え方はA×Bで決まること、
そして、
(2)LED照明は、
i) 分光分布の幅の狭いことと、
ii) 様々な分光分布のものを得ることができること、
との特徴があることを認識していること、
が挙げられる。
【0014】
上記の通り、本発明は、照明によって色が変わって見えてしまうという現象は多くの場合厄介なものとされてきた現象を逆手にとり、照明、特にLEDを用いた照明によって色が変わることで何か面白い表現ができないだろうかという所から始まったものである。特に本発明の目的は、色材とLEDを用いた照明の組み合わせにより効果的な表現手法となるようなものを生み出すことにある。
【0015】
また本発明は、新しい(照明)表現手法の設計の行い方として、照明によって色が変わって見えてしまうという現象を採り入れる事により、目的の「見え」を自由自在に巧みにコントロールすることにある。
【0016】
このために、本願発明者はまず、人間が色を感じるのに必要なデータについてメーカーの公開しているものや測定機よって採取したものについてデータベース化を行った。実際には、そのデータを基にシミュレータによる検討を重ね、実際に色材を作成し実際の照明下で人間の目にどのようの見えるかという内容の実験を繰り返すことにより、試行錯誤の末、本発明は完成された。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、舞台装置、衣装、緞帳等の劇場照明、建築意匠の演出、広告照明等で、見る人に「照明変化をあまり意識させず」に、対象物のパターンの変化を意識させることが可能となる。
また、異なった照明の下で劇的に色の見えが変化するものと変化しないものを組み合わせると、そこにパターンを出したり消したりすることが可能となる。例えば、
i)照明の切り替えによって(白色LEDの分光分布を切り替える等の操作を行い)、劇場の緞帳に今まで見えていなかったパターンを出現させたり、
ii)昼間は何の模様も見えなかった壁面に夕日を浴びたときだけにある壁画が浮かび上がるような演出、或いは、
iii)昼間は見えなかったエンブレムが夜の照明の下で浮かび上がる自動車の塗装等、
が考えられる。
この際用いる照明として、LED照明は、
i)本来の分光分布の幅が狭い点と、
ii)いろいろな種類のLEDを組み合わせるによって様々な分光分布のものを作ることができる点、
で適しており、様々な特性のLEDが開発されつつある現在、その利用分野の一つとして極めて有用と考える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明するにあたり、一例を挙げて解説を進めるものとする。
【0019】
本実施形態はLED照明を用いることによって色の見えが変化することを利用した応用色材の設計手法につき説明するものである。
より具体的には、本実施形態はLED照明により色の見えの変わりやすい(≒見えの変化の大きい)色材と色の見えの変わりにくい(≒見えの変化が小さい)色材について調べ、それらを利用し、組み合わせることによって、
i)今までにない応用色材を設計すること、
またそのような色材を活用することで、
ii)今までには無い印象的な表現や演出が可能となることを見い出すこと、
にある。
【0020】
[色材の設計]
先ず、本実施形態では、実際に(応用)色材を設計するために行った一連の流れについて順に説明する。
【0021】
本実施形態では、上記の通り、人間が色を感じるのに必要なデータについてメーカーの公開しているものや測定機よって採取したものについて予めデータベース化を行ったが、その際作成した分光データは、各色材の分光反射率、各照明光の分光分布、各視野での等色関数の3つである。等色関数はCIEに定められたものを使用した。
また本実施形態では、上述したとおり予めシミュレータによって効果的な結果を示したものを、実際に油絵具により色材を設計した。油絵具を選定した理由については後段にて詳述する。なおシミュレータを用いたのは、照明が変わることで色の見えの変化するものを発見し、色が変わることを利用した表現を考えるにあたって、闇雲に色材とLED照明を集めて実験を行うのは非効率であることによる。
【0022】
ここでいう色材とは、大きさ5cm×10cmの透明OHPフィルムに油絵具の単色、または、ある比率での複数色の混合の色を均等に塗ったものである。2つの照明で比較を行なうために色材は2つずつ用意した。また、異なる色材同士がある照明下で条件等色となり、かつ照明が変わると条件等色からはずれると予測される組み合わせ色材も作成した。
【0023】
またここで、応用色材を作成するのに不可欠な条件等色について念の為説明しておく。たとえばオレンジ色のみのオレンジ色の波長と、赤と黄の波長を混ぜた作ったオレンジ色の波長は、物理的には異なるが、人間の視覚では同じ色に見える。一方、人工照明の下では同じ色に見える二つの服が、太陽光の下では違った色に見える場合もある。これは、人工照明に含まれていた波長のうちのいずれかの範囲を、二つの服が吸収・反射したために起こった現象で、このように物理的に異なる光(物体色)が、特定の条件の下で同じに見える現象を条件等色(メタメリズム)という。この現象は、照明、着色料や素材の働きによって引き起こされる。例えば、広く実用化しているカラー写真・印刷・テレビでは、被写体本来の色と再現色の色とは、一般に同じではないので、それらの色再現は、すべて条件等色に基づいているといえる。
【0024】
[絵具について]
ところで、色材として空の青や草の緑といった自然の光がつくりだす色は直接使いたくても、絵具として使うことはできない。この自然の光が作りだす現象を別の物質で置き換えた物が絵具である。
別な物質とは顔料と染料で、絵具には顔料を用いる。染料には溶解性があるが、絵具は着色成分である顔料、これを固着させる固着成分、そして乾燥剤や安定剤などの補助成分によってできている。本実施形態では、絵具としては油絵の具を使用した。
【0025】
[照明源について]
本実施形態では、後述する色材NanoTek Powderの分光反射率を設計するに当たり、照明源として市販の三波長(RGB)蛍光灯を用いたのではRGBそれぞれのピーク周波数を自由に設定することができないことから、LEDを用いることを念頭に検討を進めた。検討に際し、LEDは白色LEDのほかに、RGBそれぞれの単色LEDや、黄色橙色など様々な色があり、ピーク周波数も様々な種類が開発されているほか、白色LEDだけでなく、RGBのLEDをそれぞれ加法混色することによって、これからの次世代の照明として新たな活用方法があるのではないかと考えた。
【0026】
[色材の一例について]
以上のような検討を踏まえ、実際の色材設計に役立つと考えられる色材の一例を挙げると凡そ次のとおりである。
なお、撮影機器はCanonデジタル一眼レフカメラDS126151、撮影環境としては同志社大学田辺校地創考館SOB07内暗室、照明は東芝D65色評価用蛍光灯である。
まず、照明によって色の見えの変化が小さい色材としては、Shell Pinkのほか、Verditer Blueが挙げられる。
一方、照明によって色の見えの変化の大きい色材としては、Ivory White、Com G、Lemon Yellowのほか、Nickel Yellow、Misty Blue、Nano Tek等が挙げられる。
【0027】
[用意したLEDの一例について]
本実施形態においては、用意したLEDは、RGBそれぞれ2種類ずつ、合計6種類のLEDである。このLEDをRGBが固まらないようにずらしつつ、9×9に配置した。また、このLEDの周波数にも注意を払った。後述するNanoTek Powderのもつ分光反射率が450nm、540nm、650nmの時にそれぞれ反射率が下がる性質をもっているため、この周波数と一致するピーク周波数をもつ単色LEDと、この周波数と若干ずれた周波数にピーク周波数をもつ単色LEDをRGBそれぞれにおいて用意した。今回用意したものはピーク周波数が465nm、490nm、517nm、540nm、612nm、644nmの6種類である(表1参照)。これらのRGBのLEDの光をまぜあわせることによって、白色光を作り出した。使用したLED単体の明るさについては、照度計、またはメーカーのデータシートから最高照度と最低照度を計測した。他にも、LEDとの比較の為に使用した電球や照明のデータを掲載した。
【0028】
【表1】
JP0005257979B2_000002t.gif

【0029】
[色評価BOXによる検証]
本実施形態においては、例えば シミュレータでよい結果が出たものなど、色材と照明の組合せを実際に照明の下で見るために色評価BOXというものを自作し、使用した。これは市販のカラーBOXホワイトの各棚に口金26E型の電球用ソケットを着け、観察に使う照明を容易に交換できるようにしたものである。
【0030】
なお、色の環境条件としては次のように定められている。
(1)明順応状態で見ること。
(2)視野の大きさは、視角2度または10度であること。
(3)視野内の光の分光分布は、空間的にも時間的にも一様であること。
(4)周辺視野は、無彩色であること。
(5)物体の色を見るときは、物体表面に対して直角の位置から見るようにし、照明光は45度方向からあたるようにすること。
ここで、(4)の無彩色のうち黒の方が色の恒常性が一番働きにくいのであるが、あえて恒常性の働きやすい白背景で実験を行うことで日常的な色の恒常性が起こる条件の中でもどれだけ色の変化が現れるのかを判定するために、あえて白を使用した。この、色の恒常性であるが、照明及び観測条件が異なっても、主観的には物体の色があまり変化しないようにみえる現象を色の恒常性(color constancy)と言っている。通常、人間の視覚にはこの現象が生じている。
【0031】
例えば、図1(A)~(C)の3つの図を見比べたときに、リンゴにだけ青色の照明光が当たっている図1(B)と不自然な青いリンゴに見えて違和感があるが、図全体に青い照明光が当たっていれば図1(C)、相対的にリンゴは元画像に近いバランスで赤く見える。これは、見えている画像に照射されている光の色を視覚系が推定し、元の色になるように補正して知覚しているためと考えられている。
つまり、例えばシミュレーションで照明によって色が変わるという結果が出たものであっても、色の恒常性が起こるために、色の変化を知覚しにくくなっていると考えられる。
そのような傾向も踏まえて、本実施形態では、シミュレータの色差が大きいもの等を優先的に、評価に供してみることとした。
【0032】
[色評価BOXの実験結果に基づいた応用色材の設計]
本実施形態においては、色材設計としては、
i)(a)照明によって色の見えの変化が小さい色材、を背景に、
(b)見えの変わる色材、を埋め込むデザインと、
ii)(a)背景も(b)埋め込んだ色材も(a)、(b)両方とも色が変化するデザインの2種類を考えた。
このような色材設計を行えば、照明光の変化による色の変わりようが顕著となるからであることによる。なおここでの,照明によって色の見えの変わりにくい(≒色の見えの変化が小さい)色材とは、例えば2つの異なる照明で条件等色(前記)となる色材のことをいう。
【0033】
本実施形態において実際に色材設計に重用したのは、シーアイ化成(株)が量産化に成功した粉体であるNanoTek Powderである。このNanoTek Powderは特殊な分光反射率(RGBそれぞれにおいて、とある周波数の分光反射率だけ低い)をもっており、これは適宜、太陽光と三波長蛍光灯との間で色を大きく変化させることが可能である。詳細な用い方については次の通り、後段にて説明する。
【0034】
そこで、本実施形態では、この粉体を他の顔料と混合することにより、より様々な色の変化を作り出すことができる可能性があるのではないかと考えた。ここで、この色の変化の仕組みはナノテクノロジーによるものである。
ところが、このNanoTek Powderは顔料であり、そのものは粉体であるため、このままでは絵の具として油絵の具と混合して使用することができない。そのために、本実施形態ではNanoTek Powderを顔料としたオリジナルの油絵の具をホルベイン工業の協力のもと製作し、使用した。
【0035】
また、キャンバスに顔料を固着させるために固着成分が必要となるが、今回は混合する色材に油絵の具を使用するために、NanoTek Powderの固着成分にも油を使用した。油は液体であるので、溶剤を使わなくとも練状の絵具を作ることができ、展色材としての役割を初めから合わせ持った固着成分である。
本実施形態では、NanoTek Powderと展色材をなるべく控えめに加え、なじませてから練り板の上におき、練り棒を用いて充分に練り合わせていった。そして、粘度、なじみ、光沢などに注意しながら、通常は30分以上かけて練り上げた。出来上がった絵具は、へらでかき集めて容器にいれ、密封保存した。
【0036】
ここで、NanoTek Powderの特徴を以下に示す。
・無機系の超微粒子顔料(平均粒径約20nm)である
・耐熱性、耐候性、耐薬品性を持つ
・太陽光と三波長蛍光灯との間で色が変化する
・色変化は熱や紫外線等で消失することはない
・他の顔料や色素との組み合わせができる
・様々な樹脂に練り込むことが可能である
・塗料化、インキ化が可能である
【0037】
本実施形態では、以上の前提、及び上記した分光データベースのデータをもとに、様々な照明と色材の組み合わせを検証した。
本実施形態では、今回は特に、NanoTek Powderの色材としての性質をふまえて、太陽光と三波長蛍光灯、あるいはLED照明を比較する形をとった。
また以下では、予め行ったシミュレーションの中でも、実際の応用色材の設計に役立ちそうであると思ったものを色材として作成し、実際に色評価BOXで目視した結果について考察として説示する。
【0038】
[評価結果及び考察]
上述の通り、本実施形態においては予めシミュレータで検討してから実際に色材設計を行なったが、ものによってはシミュレーション通りの結果がでないものもあったことを付言しておく。以下の考察では、必要に応じて分光データと色評価BOXでの結果を参照しつつ、実際に色材設計を行なった結果について説明する。
【0039】
まず、考察を行った対象について以下に列記する。
1.照明によって色の見えの変わりにくい(≒変化が小さい)色材
(1)シェルピンクとNanoTek Powderの1対1混合(図2参照、(A):シェルピンクとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):セリック人工太陽の分光分布、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)465-517-612(R、G、Bの各LEDのピーク周波数[nm]。以下同様)のLED混合の分光分布)
(2)バヂターブルーとNanoTek Powderの1対1混合(図3参照、(A):バヂターブルーとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):セリック人工太陽の分光分布、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)465-517-612のLED混合の分光分布)
【0040】
2.照明によって色の見えの変わりやすい(≒変化の大きい)色材
(1)NanoTek Powder単体(図4参照、(A):NanoTek Powderの分光反射率図、(B):セリック人工太陽の分光分布、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)490-540-644のLED混合の分光分布)
(2)ニッケルイエローとNanoTek Powderの1対1混合(図5参照、(A):ニッケルイエローとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):セリック人工太陽の分光分布、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)490-517-644のLED混合の分光分布)
(3)ミスティブルーとNanoTek Powderの1対1混合(図6参照、(A):ミスティブルーとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):セリック人工太陽の分光分布、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)490-517-644のLED混合の分光分布)
(4)アイボリーホワイトとNanoTek Powderの1対1混合(図7参照、(A):アイボリーホワイトとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):セリック人工太陽の分光分布、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)490-517-644のLED混合の分光分布)
(5)コンポーズグリーンとNanoTek Powderの1対1混合(図8参照、(A):コンポーズグリーンとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):セリック人工太陽の分光分布、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)490-540-644のLED混合の分光分布)
(6)レモンイエローとNanoTek Powderの1対1混合(図9参照、(A):レモンイエローとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):セリック人工太陽の分光分布、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)490-540-644のLED混合の分光分布)
【0041】
3.照明によって色の見えに変化がでる色材の組み合わせ
(1)シェルピンクとNanoTek Powderの1対1混合とNanoTek Powderの組み合わせ(図10参照、(A):シェルピンクとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):NanoTek Powderの分光反射率、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)490-540-644のLED混合の分光分布)並びに、(図11参照、(A)色評価BOX、評価1、(B)色評価BOX、評価2)
(2)ニッケルイエローとNanoTek Powderの1対1混合とNanoTek Powderの組み合わせ(図12参照、(A):ニッケルイエローとNanoTek Powderの1対1混合の分光反射率、(B):NanoTek Powderの分光反射率、(C):パルックボールパルックday色の分光分布、(D)490-540-644のLED混合の分光分布)並びに、(図13参照、(A)色評価BOX、評価1、(B)色評価BOX、評価2)
【0042】
今回は、NanoTek Powderのもつ、太陽光と三波長蛍光灯との間で色が変化するという性質を利用し、さらに三波長蛍光灯ではなくLEDを用いることで更に色の変化が引き出せるのではないかという点に着目した。
【0043】
まず、1.照明によって色の見えの変わりにくい色材、について考察する。
(1)のシェルピンクとNanoTek Powderの1対1混合、
(2)のバヂターブルーとNanoTek Powderの1対1混合の場合、
は、シミュレータでは色差があらわれたものの、実際に色評価BOXで評価してみると、目に見える大きな変化が現れなかった。シェルピンクはNanoTek Powderとの混合により、640nmの周波数の分光反射率が低くなっていたため、それとずらす形で612nmにRのピーク周波数をもってきたのだが(図2(A)、(C)、(D)参照)、実際には(ピンクのままで)目に見える変化は現れなかった。なお予め用いたシミュレータでは緑っぽい色に変化したことを参考の為付言しておく。今回の結果を踏まえると、Rのピークを612nmではなく、650nmより高い周波数にもってくるほうが赤が強調され、より赤くなる変化のほうが恒常性が働きにくいのではないかと考察される。
【0044】
バヂターブルーの場合も、三波長蛍光灯のもつピークとLEDのピークの位置をずらしてバヂターブルーのもつ分光反射率と合わしてみたが(図3(A)、(C)、(D)参照)、今回予め用いたシミュレータのような目に見える変化は現れなかった。460nmのボトムとLEDの周波数を合わせてみたのだが、もう少し分光反射率が低ければもっと色の変化が目にみえて現れるかもしれないと考察される。また、実際には色の変化は起こっているのかもしれないが、色の恒常性が働き、人間の目ではわかりにくいのではないかとも考察される。
【0045】
次に、2.照明によって色の見えの変わりやすい色材、について考察する。
まず、(1)特殊な分光反射率をもつNanoTek Powder単体の場合、太陽光と三波長蛍光灯の間では、実際に色評価BOXで評価してみると肌色っぽい色からピンクへの色の変化であったものが、LEDを用いることによって、肌色っぽい色から薄い緑色への変化を起こすことができた。この変化の確認は、実際に色評価BOXで評価して行ったものである。また予め用いたシミュレーションの結果ともほぼ一致している。これは、Bの分光分布をNanoTek Powderのボトムの位置とずらして490nmにしたことによって、三波長の蛍光灯のときとは違った位置に照明のピークをもってくることができ、更にRの分光分布をNanoTek Powderのボトムとあわせ打ち消しあったことによって、490nmのあたりの周波数が増幅されて見えたことが原因であると考察される。
【0046】
このように、本実施形態によれば、三波長蛍光灯だけでは見られない変化がLEDを用いることによって現れることが明らかとなった。更にこの例は、色の恒常性が働いても色に差があるといえる。
このように、本実施形態によれば、ピークが異なる組み合わせによって色の違いが作り出すことが可能であるということが実証できた。
【0047】
なお、(2)ニッケルイエローとNanoTek Powderの1対1混合、
(3)ミスティブルーとNanoTek Powderの1対1混合、
といった油絵の具とNanoTek Powderの1対1混合の場合も同じような結果がみられた。
【0048】
(2)ニッケルイエローとNanoTek Powderの1対1混合の変化は、三波長蛍光灯を用いた場合は黄色からオレンジがかった色合いへ、LED照明を用いた場合は、黄色から緑がかった色合いへと変化した。これは、三波長蛍光灯の場合はRの分光分布のピークと色材がもつ分光反射率のボトムがずれたことによってRの色合いが強調され、オレンジがかった色合いに変化しているが、LED照明の場合には、Rの分光分布のピークが色材がもつ分光反射率のボトムによって打ち消されているために緑がかった色合いへと変化したと考えられる。
【0049】
(3)ミスティブルーとNanoTek Powderの1対1混合の変化は、三波長蛍光灯を用いた場合は薄暗い水色からピンクがかった色合いへ、LED照明を用いた場合は、薄暗い水色から青みがかった色合いへと変化した。これも三波長蛍光灯とLED照明においてのRの分光分布のピークの位置が異なっていることにより、変化が起こったと考えられる。両者とも、三波長蛍光灯ではみられなかった色合いへの変化がLED照明を用いることによって、可能となっていることが証明できる。
【0050】
(4)アイボリーホワイトとNanoTek Powderの1対1混合、
(5)コンポーズグリーンとNanoTek Powderの1対1混合、
(6)レモンイエローとNanoTek Powderの1対1混合、
においては、人口太陽と三波長蛍光灯の分光分布は大きく異なるため、実際には色の見えとして差があるといえるはずなのだが、しかし,この程度の色差の場合は色の恒常性が働くので、2つは同じものと認識できてしまう組み合わせである。しかし、このような場合でもLED照明の場合は三波長蛍光灯の場合よりもはっきりとした色差が現れるものが多い。
【0051】
(4)アイボリーホワイトとNanoTek Powderの1対1混合の変化は、本実施形態にて使用したシミュレータでは三波長蛍光灯よりも、LED照明の場合に大きな色差がみられる。色の変化はNanoTek Powderの変化に似ているが、NanoTek Powderのときよりもはっきりとは変わりにくい印象を受ける。三波長蛍光灯のときと比較して、GとBの周波数をずらし、Rの分光分布のピークを打ち消されたことによって、緑っぽい色合いとなっている。
【0052】
(5)同様にコンポーズグリーンとNanoTek Powderの1対1混合の場合も、本実施形態にて用いたシミュレータでは三波長蛍光灯よりも、LED照明の場合に大きな色差がみられた。実際の判断でも、同じ緑色という範囲はでなかったが、黄緑色に近かった色が、エメラルドグリーンのような少しやわらかい色に変化したといえる。これは、RとGの分光分布のピークを打ち消し、Bの490nmあたりの分光分布の色合いが強調された結果ではないかと考えられる。
【0053】
(6)レモンイエローとNanoTek Powderの1対1混合の場合は、Rの分光分布のピークを打ち消されたことによって、Rの要素が弱くなり、黄色から緑っぽい色へと強調されたのではないかと考えられる。実際の変化では色の恒常性が働き、少し変化が見えにくい傾向がある。緑と黄色はスペクトルの隣同士の色であるが、恒常性が働いても違う色であると多くの場合において認識できる。
【0054】
以上のことを踏まえると、やはり混色のものよりも、単体のもののほうがシミュレーション或いは予想しやすいことがわかる。本実施形態では、NanoTek Powder単体のものは、ほぼシミュレーションに近い変化がみられたが、油絵の具とNanoTek Powderの混色になると、変化はみられるが恒常性の影響を受けたり、シミュレーションの予測がうまくできにくい傾向がみられる。
また、今回使用した6種類のLEDでは、油絵の具がどのような色であっても、NanoTek Powderを混ぜることで緑っぽく見えるような変化がおきやすい傾向にある。それは、スペクトルにおいて緑の幅は広く黄色の幅は狭いことや、450nmよりも低いピーク周波数をもつより青の成分を強調するLEDや、650nmよりも高いピーク周波数をもつより赤の成分を強調するLEDを使用していないということも関係しているのではないかと考察される。
【0055】
さらに、3.照明によって見えに変化がでる組み合わせ、では、
i)(a)色の変わらない背景色に、(b)変化する色材を埋め込んだタイプの組み合わせと、
ii)(a)背景色も(b)色材も両方(a,b)変化する組み合わせ、
の2種類を考えた。
すなわち、本実施形態では
(1)シェルピンクとNanoTek Powderの1対1混合とNanoTek Powderの組み合わせ、である。これは、(背景色として)(a)色が変わらないシェルピンクに、(b)変化する色材としてNanoTek Powderを埋め込んだものである。太陽光のもとでは、ピンクと黄色っぽい縞模様にみえるが、これが三波長蛍光灯のもとではNanoTek Powderの変化によってピンク一色に見える。また、LED照明のもとでは、NanoTek Powderの変化によって、ピンクと緑の縞模様となり、まったく違った色合いとなる(図11参照)。なお本実施形態にて用いたシミュレータの結果では、シェルピンクも緑色になるという結果がでるが、色の恒常性が働くためか、目立った変化は現れず、NanoTek Powderの変化が際立つ形となった。
【0056】
したがって、三波長蛍光灯の下では試料2つは同じ色、しかし照明が変化するとNanoTek Powderの色みが大きく変わって見える組み合わせとなる。
これは、普段は同じ色であっても、ある一定の照明をあてたときにだけ文字を浮き上がらせたりするなどといった場面で応用が可能である。
また、太陽光とLED光で浮き出る色を異ならせることもできるので、応用の幅が広がると考えられる。
【0057】
(2)ニッケルイエローとNanoTek Powderの1対1混合とNanoTek Powderの組み合わせ、
は、両者ともに照明の変化によって色を変化させる組み合わせである。太陽光のもとでは、
黄色と薄い黄色っぽい縞模様にみえるが、これが三波長蛍光灯のもとではNanoTek Powderの変化によって黄色とピンクの縞模様にみえる。また、LED照明のもとでは、両者とも変化が起こるので、黄緑と緑の縞模様といったまったく異なった色味の色材へと変化する(図13参照)。変化の様子もほぼ本実施形態の下で用いたシミュレータの結果と一致している。
【0058】
この組み合わせは、両色とも太陽光の元では黄色系の淡い色合いを発するが、三波長蛍光灯の下ではNanoTek Powderの変化によってピンクの色合いが増え、更にLED照明の下では、背景色から異なるため、当初の印象とがらっと異なる印象を与えることが可能となる。これは、たとえば昼と夜などで印象を変えたいレストランなどの壁などに応用が可能ではないかと考えられる。
【0059】
本実施形態の考察結果からも明らかな通り、本発明によれば、照明の変化によりある部分が浮き出る応用色材を作成することが可能となる(上記3.、図15及び下記実施例2参照)。この応用色材は色の恒常性が働いた上でも、照明の変化により部分的に大きく色が変わったと知覚できる。
【0060】
[シミュレーションによる予測方法の検証]
なお、本実施形態にて予備的に用いた、各照明下での色材の見え方をシミュレーションで予測する手法について、シミュレーション結果とそれに基づき実際に色材を作成し色評価BOXでの実験結果とを比較した結果について説明する。本実施形態にて用いたシミュレーションでの結果はあくまで人間の恒常性を考慮していない。
よって、検証を行うと恒常性のおかげで分光分布と分光反射率からの計算で得られる答えほどの明確な差が視覚的には生じないことが多かったが、色味の特定という点においては本実施形態にて用いたシミュレータは大いに役立った。
【0061】
以上の通り、本実施形態によれば、照明により色の変化する色材を設計し、その応用色材を完成することができた。したがって、本実施形態により、本発明の目的とするところである新しい色材の設計の例とその方法について説明することができた。
【0062】
[照明によって色が変わる色材の設計のしかた]
最後に、本実施形態を締め括るに際し、本実施形態を実際に進めるに際してキーポイントとなった2点、i)照明によって色が変わる色材の設計のしかた、ii)LED照明、について念の為付言する。
【0063】
まず、色の変化を作り出すのに使用する2つの照明を決める。その方法には2種類ある。i)それぞれの照明の分光分布において共通したピークを一つもち、どちらかの照明が共通したピークの波長とは離れた部分にもう一つのピークをもつ照明を探すか、
ii)片方の照明は分光分布のなるべく平坦なものを用い、もう片方の照明に三波長の照明を用いるか、
である。本実施形態において主眼を置いたのは、後者である。
【0064】
次にその照明がもつピークの波長域に大きい反射率を持った色材、あるいはピーク波長域に小さな反射率をもった色材を用意する。このとき、大きい反射率をもっていればいる程、小さな反射率をもっていればいるほど、色の見えとして大きな違いが出る。大きな反射率をもっていればその周波数の色がよりはっきりと現れ、小さな反射率をもっていれば、その周波数の色が打ち消され、元の色とは異なって見える。
【0065】
なお、等色関数の特性として、Blueの感度は幅が狭い分Red、Greenより大きな値になっているという事実がある。これはBlueの数値は、短波長側の分光反射率ならびに分光分布の狭い範囲の高低に左右されやすいこと、Red、Greenの数値はBlueよりも広範囲の波長域に左右されるということを示している。
【0066】
[LED照明]
本実施形態では、6種類のLEDを選定した。この6種類はNanoTek Powderを基準として選んだものであるが、この6種類以外のものを用いても当然また異なった結果が出る物と考察される。たとえば、450nmよりも低いピーク周波数をもつLEDや、650nmよりも高いピーク周波数をもつLEDは本実施形態では用いなかったので、変形例として是非実施の対象として挙げることが好ましい。
LEDは企業によって分光分布にばらつきがあり、ピーク周波数を異なったものを見つけやすいので、その利点を生かせればよいものと考察される。
【0067】
また、本実施形態ではいかにうまくRGBをまぜて白色光とするかという点が最も難点であった。公知の通り、必ずしも同じ比率でまぜると白色になるわけではなく、演色性が悪くなってしまうことの方が多い。今後は、本実施形態をより簡易に実施化する上でも、より簡単にRGBを混ぜて白色とできるシステムが必要となるものと考察される。
【実施例1】
【0068】
[白色LED照明の分光分布を生かした色材設計]
以下、本発明の一実施例として、白色LED照明の分光分布を生かした色材設計につき説明する。図14は本実施例に係る色材設計を行う際の一例を示す図である。
【0069】
1.はじめに
近年の青色発光ダイオードの発明によって、発光ダイオード(LED)だけで全ての色彩の表現が可能になり、LEDの照明利用が注目されている。早くも昨年は、様々な場所でLED照明が使用され話題となった。博物館・展示会などの大型ディスプレイでも、大規模な照明として使用される日もそう遠くないだろう。
【0070】
一般的に照明は、より太陽光の分光分布に近づけることばかりに注目されるが、白色LEDは特定の波長領域に高い分布と低い分布をみせる。つまり、照明としてはまだまだ不完全である。
【0071】
本実施例ではこれを逆手に取り、LED照明光と顔料の組み合わせによって見える色が劇的に変化するパターンを見つけ出すことをその目的とする。
なお、冒頭で挙げた通り、照明光によって色そのものが変わってしまう色材の例としては、京都の麹塵という着物がある。この着物は太陽光下で見た時と、電球下で見た時ではっきりと色が異なって見える。
【0072】
2.表色系(RGB系・HSV系)
本実験では、Spectral Color Reproduction手法(物体の分光反射率を記録、再現する方法。全く同じものを複製するという手法)を用いて測色した。
実際に我々の見える色というのは、錐体と呼ばれる視細胞からの情報である。この錐体には赤・緑・青と3色の強さを感知する3種類が存在し、この3種の錐体反応の強さ比から色を識別している。この3種の強さを表す表色系の中で、RGB表色系・HSV表色系を選択した。測色シミュレートではRGB系を利用し、色の比較にはHSV表色系に変換し、シミュレートした。
【0073】
3.色彩に関する計算式
作成した色彩測色シミュレーションでは各波長において、照明の分光分布・物体の分光反射率・等色関数、の3値をかけることでR・G・Bの強さを計算し、RGB値・実際の色の見えを出力する。
【0074】
次の式でRGBの輝度wR・wG・wBを求める.
wR=ΣE(λ)O(λ)r(λ)Δλ ・・・ (1)
wG=ΣE(λ)O(λ)g(λ)Δλ ・・・ (2)
wB=ΣE(λ)O(λ)b(λ)Δλ ・・・ (3)
E(λ)…光源の輝度、O(λ)…物体の分光反射率、
r(λ)g(λ)b(λ)…等色関数、Δλ…測定飛び幅
【0075】
4.実験の流れ
(1)顔料・色材DBの作成
・顔料DB(イタリア色彩研究所)、
・物体の分光反射率(財団法人日本色彩研究所)
(2)白色LED照明DBの作成
・各種白色LEDの分光分布データを採取
本実施例では、日亜化学、豊田合成、松下電工、住友電工、ビーバーエレクトロニクス、Lumileds、HLV照明、京都電機器、及び星和電器工業の各社製の白色LEDの分光分布データを採取した。
・JIS標準光源DBの作成(太陽光、白熱球、蛍光灯)
(3)色彩測色シミュレータの改良
(4)光源と色材の組み合わせシミュレーション
(5)HSV変換を行い、色相差を判定する
その他、本実施例では、上記したような、色彩測色シミュレータの改良、及び光源と色材の組み合わせシミュレーション等の改良を行なった後、HSV変換を行い、色相差を判定した。
【0076】
5.実験結果について
図14(A)に、紫陽花(青)の分光反射率を示す。また、図14(B)に、色彩測色シミュレータによる出力(紫陽花青)を示す。
【0077】
図14(B)は、色彩測色シミュレータによる日亜化学白色LED照明の下で見た紫陽花青(図14(A))のシミュレーション結果をRGB値出力したものである。青系の色に多く見られる特徴を持っている紫陽花(青)は、短波長領域にピークを持ち、640nm以降に再び高くなっていく。多くのLED照明下では青系の色を示したが、長波長領域に強く反応した電球色型白色LEDとJIS規格白熱球は、紫系の色を示した。
【0078】
【表2】
JP0005257979B2_000003t.gif

【0079】
上記表2は、その他の特徴的な変化結果について示すものである。
なお、表2中、
CY=Cadmium Yellow、
VL=VermilionとLight Cobalt Greenの混合、
VC=VermilionとCamlean Blueの混合、
ATT=紫陽花(青)とAzuriteとTin Yellowの3種混合、
をあらわしている。
また、表2中の各R、G、B値の記載、麹塵の青系対応箇所は、標準太陽光によるものである。
一例によれば、R、G、Bそれぞれのピーク周波数[nm]につき、CY、VL、VC、AAT、麹塵の順に記載すると、
i)標準型LEDでは255-188-15、255-191-135、155-148-255、79-158-255、156-255-51である。
ii)青系型LEDでは255-197-56、182-166-255、54-87-255、10-84-255、169-255-77である。
iii)電球色型LEDでは255-168-16、255-107-35、255-95-59、255-233-171、255-170-23である。
iv)特殊型LEDでは255-235-15、255-116-56、255-133-147、214-221-255、255-237-43である。
v)JIS規格白熱球では255-105-2、255-87-20、255-97-54、255-186-112、255-177-20である。
【0080】
表2の結果より、Cadmium Yellowは、標準型・青系型白色LED下ではオレンジ色に見え、その他の照明下では黄色に見える。これは、色の恒常性でほとんど違いはない。
【0081】
一方、VermilionとLight Cobalt Greenの混合は、青系型白色 LED下では寒色に見えるが、白熱球などの照明下では虹色に見える。
【0082】
VermilionとCarulean Blueの混合は、最も劇的な変化を見せた混合となった。標準型・青系白色LED下では鮮やかな青色に見えるが、白熱球下ではオレンジ色、OYGB型LED(Orange Yellow Green and Blueの各成分からなる、特殊型白色LEDの一種)下では紫色に見える。
【0083】
紫陽花(青)とAzuriteとTin Yellowの3種混合は、標準型、青系型、特殊型の各LEDの下では青系色に見えるが、白熱球下、あるいは電球色型LED下では黄土色に見える。
【0084】
最後に、冒頭に挙げた麹塵は、昼間の太陽光では鮮やかな黄緑色に見えるが、夕日やロウソク、或いはかがり火や行灯の光の下では、オレンジ色・エンジ色に見えるという性質を持っている。
【0085】
6.考察
[白色LED照明の分類について]
i) 標準型白色LED…短波長領域、中波長領域に高いピークを持ち、長波長領域に関しては反応が乏しいものである。
ii) 青系白色LED…短波長領域に高いピークを持ち、長・中波長領域に関しては、反応が乏しいものである。
iii) 電球色型白色LED…中波長領域にピークを持ち、全体的に高くなだらかな分布を持つものである。
iv) 特殊型白色LED…R・G・BのそれぞれのLEDを用いて、光量を調節することで、白色を表現したものものである。
【0086】
[色の見えの違いを作り出す光源と顔料混合の組み合わせ条件]
i)短波長領域(特に430nmから480nm)に高いピークをみせる標準型・青系型LEDと同調して高いピークを持ち、ii)中波長領域は比較的低い分布、iii)長波長領域は再び高い分布(610nm以降)を持つ色材の分光反射率を設計すれば、標準型・青系型白色LEDでは鮮やかな青色、電球色型白色LED・白熱球は鮮やかな朱色、また例えば特殊型白色LEDの一種であるOYGB型LED等、RGB独立型白色LEDでは鮮やかな紫色を表すこととなる。
【0087】
また、麹塵の分光反射率のように中波長領域(特に560nm付近)にピークを持ち、610nm付近でかなり低い分布を持つものであれば、測色し難かった緑系の色を表すこととなる。
これは、等色関数でいうG波長・R波長のピークと同調し、その他の分布の影響をほとんど受けていない。このことから、ピーク同士が同調した分布では、基本的な赤・緑・青の色を極めて鮮やかに表すことが考えられる。
なお、本発明の演出システムに用いる照明を、複数のLEDの組合せからなるものとする場合、ピーク波長が20nmから30nm程度異なるLEDを組み合わせることで、本発明の効果をより良く得ることができる。
【0088】
7.今後の変形例
最後に、本実施例の今後の変形例としては、
i)実際の白色LED照明と顔料を使い、実環境で測色を行う(照明効果を測る環境条件)ことのほか、
ii)各企業で違ってくる赤・緑・青色単色LEDを複数組み合わせることで、分光分布の違ったRGB独立型白色LEDを複数作り出し、測色することでより多くのデータ収集を行うこと、
等が挙げられる。
【実施例2】
【0089】
[光源が変わると色の見え方はどのように変化するのか/色材と照明の組合せによるパターン変化の演出]
図15(A)及び(B)に、本実施例のイメージ図を示す。図15(A)は、本実施例の被照射物表面にいわゆる昼光色照明(JISでは5700K~7100K。通常は6500K程度。蛍光灯の区分では記号D。晴天の正午の日光の色である場合のことを指し示すものとする。)を照射した場合のイメージ図を、図15(B)は、本実施例の被照射物表面にいわゆる電球色照明(JISでは色温度2600K~3150K。通常2800K~3000K。蛍光灯の区分では記号L。白熱電球の色(これ自体幅がある)である場合のことを指し示すものとする。)を照射した場合のイメージ図を夫々示している。
本実施例からも明らかな通り、本発明については、照明源に関してLEDに特に限定されるものではない。その一方であくまで、照明と色材の適当な組合せを見い出せば良い。
【0090】
本実施例の被照射物表面には、中央に“B”の大文字が配されている(図15(B)参照)。
ここで、本実施例の被照射物表面の背景には、照明如何で色の見え方が変わらない普通の色材が使われている一方、被照射物表面に配された文字については、照明如何で色の見え方が変わる色材が使われている。
なお、本実施例の被照射物表面の背景の色材は緑色をしている。次に、被照射物表面に配された文字の色材については、イメージ的には前述の麹塵と近似した様な性質、すなわち、昼光色照明では鮮やかな黄緑色に見えるが、電球色照明の光の下では、オレンジ色・エンジ色に見えるという性質を持っているものとする。
【0091】
したがって、本実施例の被照射物表面にいわゆる昼光色照明を照射した場合には、図15(A)にイメージ図を示したように被照射物表面に“B”の大文字は浮かび上がって来ない。
一方、本実施例の被照射物表面にいわゆる電球色照明を照射した場合には、図15(B)にイメージ図を示したように被照射物表面に“B”の大文字は浮かび上がって来る。
【0092】
このように、本実施例の様に
i)被照射物の色材構成、そして
ii)照明種、
を上手く組合せることによって、
色材と照明の組合せによるパターン変化を巧く演出することが可能となる。
【0093】
[変形例]
以上、本発明の内容を、実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例の構成に何ら限定されず、種々の変形が可能である。
【0094】
例えば、上記実施例においては基本的に二次元で議論を進めたが、これに限定されず、照明光によって色そのものが変わってしまう色材が基材に対して例えば三次元的に配されていたとしても、本発明の作用効果を十分に発揮する。もちろん、下記のように色材を配する基材或いは対象物自体が三次元的なものであっても構わない。
【0095】
また、照明源につき、上記実施例においては基本的にLEDで議論を進めたが、これに限定されず、有機EL等に代表される他の照明源であっても構わない。
【0096】
[将来の可能性]
上記した本発明は、建築、ディスプレイ、照明、広告業界等、今後種々の具体例に対して適用可能と考えられるが、その中でも将来の可能性が特に高いものにつき、以下に紹介する。
【0097】
[具体例1]舞台の緞帳(織物)
例えば、NanoTek等を混入した染料等で緞帳の織物に文字や図柄を予め描いておく。一方、舞台照明については、LED波長を変えることで公演中に(白色)LED照明の分光分布が変わるように予めセットしておく。
このように予め準備しておくことにより、公演中に舞台照明のLED波長を変えることで、上記実施例2と同じような態様で、緞帳に予め描いておいた文字や図柄を見せたり、あるいは逆に消したりすると言った対応が可能となる。
【0098】
[具体例2]自動車
例えば、NanoTek等を混入した塗料等で車体のボディの一部表面にエンブレム等を予め描いておく。
一方、照明側については、LED波長を変えることで必要に応じ(白色)LED照明の分光分布が変わるように予めセットしておく。
このように予め準備しておくことにより、必要に応じ照明側のLED波長を変えることで、ボディに予め描いておいたエンブレム等を見せたり、あるいは逆に消したりすると言った対応が可能となる。
このような対応が実現できれば、ある意味、「透かし」のような機能を今後持たせることも可能である。
【0099】
[具体例3]モニュメント
例えば、NanoTek等を混入した材料等で、モニュメントの一部(例えば隅の部分等)表面にエンブレム等を予めあらわしておく。
一方、照明側については、LED波長を変えることで必要に応じ(白色)LED照明の分光分布が変わるように予めセットしておく。
このように予め準備しておくことにより、必要に応じ照明側のLED波長を変えることで、モニュメントに予めあらわしておいたエンブレム等を見せたり、あるいは逆に消したりすると言った機構としても良い。
【0100】
[具体例4]街頭デザイン等への利用
たとえば、街頭のポスターが昼と夜とで異なった照明を当てることで色や、文字に変化があれば、1枚の広告で2つの魅力をもつことが可能となる。今までのポスターとは違うものができあがるので,印象的なものとなる。また、レストランなどの壁への塗料として用いれば、昼と夜とで雰囲気の異なった内装をもたせることが可能となる。
【0101】
[具体例5]電車の塗装への利用
例えば、太陽光の下で見える車体の色と夜の照明下で見える車体の色に変化が起きたらおもしろいのではないかと考えられる。毎日人が利用し、同じ場所を走ることから、車体を広告塔として使う例が最近増えているが、この広告塔としての塗装にも、昼夜で変化を持たせることができる等の応用が可能となる。
【0102】
[具体例6]舞台演出への利用
上記具体例1で記した舞台演出による利用手法を更に進め、照明と役者の着る衣装の色材との関係に本発明を適用することにで、より印象的な演出が可能となる。
【0103】
[具体例7]商品偽造の防止への利用
偽造通貨、偽造商品の流通を防止するために、ある特殊な照明によってだけ色が変わるような色を用いる。一般光の下では変わらないので見分けはつかないが、LED光をあてるだけでいいので、偽者かの判断がすぐにつきやすく便利になる。
【0104】
このように、本発明は、照明と色材の組み合わせを工夫することにより、照明変化により色相が変化する色材と変化しない色材の組み合わせを作り、照明のコントロールひとつで模様を浮き上がらせたり消したり、あるいは模様を変化させたりできる「照明によるパターン変化の演出法」を提供する、新規かつ有用なるものであることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】色の恒常性について説明する図である((A):元画像、(B):リンゴ青色光照射、(C):全体に青色光照射)。
【図2】本実施形態の要領に従い実際に色材設計を行った際の一態様を示す図である。
【図3】本実施形態の要領に従い実際に色材設計を行った際の一態様を示す図である。
【図4】本実施形態の要領に従い実際に色材設計を行った際の一態様を示す図である。
【図5】本実施形態の要領に従い実際に色材設計を行った際の一態様を示す図である。
【図6】本実施形態の要領に従い実際に色材設計を行った際の一態様を示す図である。
【図7】本実施形態の要領に従い実際に色材設計を行った際の一態様を示す図である。
【図8】本実施形態の要領に従い実際に色材設計を行った際の一態様を示す図である。
【図9】本実施形態の要領に従い実際に色材設計を行った際の一態様を示す図である。
【図10】本実施形態の要領に従い実際に色材設計を行った際の一態様を示す図である。
【図11】照明によって色の見えに変化が出る色材を組み合わせた際における、色評価BOXの様子の一例を示す図である。
【図12】本実施形態の要領に従い実際に色材設計を行った際の一態様を示す図である。
【図13】照明によって色の見えに変化が出る色材を組み合わせた際における、色評価BOXの様子の一例を示す図である。
【図14】本実施例に係る色材設計を行う際の一例を示す図である。
【図15】照明によって色の見えに変化が出る色材を組み合わせた際における、本発明の一実施例を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14