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明細書 :亜鉛の電解採取用陽極および電解採取法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4516617号 (P4516617)
公開番号 特開2009-293117 (P2009-293117A)
登録日 平成22年5月21日(2010.5.21)
発行日 平成22年8月4日(2010.8.4)
公開日 平成21年12月17日(2009.12.17)
発明の名称または考案の名称 亜鉛の電解採取用陽極および電解採取法
国際特許分類 C25C   7/02        (2006.01)
C25C   1/16        (2006.01)
FI C25C 7/02 307
C25C 1/16 A
請求項の数または発明の数 6
全頁数 10
出願番号 特願2008-151007 (P2008-151007)
出願日 平成20年6月9日(2008.6.9)
審査請求日 平成22年2月19日(2010.2.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
発明者または考案者 【氏名】盛満 正嗣
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】110000475、【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
審査官 【審査官】瀧口 博史
参考文献・文献 特開2007-146215(JP,A)
特開2004-238697(JP,A)
特開平7-258897(JP,A)
特開昭63-203800(JP,A)
調査した分野 C25C 7/02
C25C 1/16
特許請求の範囲 【請求項1】
亜鉛の電解採取に用いられる陽極であって、導電性基体と、該導電性基体上に形成された触媒層を有し、該触媒層が非晶質の酸化イリジウムを含むことを特徴とする亜鉛の電解採取用陽極。
【請求項2】
該触媒層が非晶質の酸化イリジウムと、チタン、タンタル、ニオブ、タングステン、およびジルコニウムから選ばれた金属の酸化物とを含むことを特徴とする請求項1に記載の亜鉛の電解採取用陽極。
【請求項3】
該触媒層が非晶質の酸化イリジウムおよび非晶質の酸化タンタルを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の亜鉛の電解採取用陽極。
【請求項4】
該触媒層が非晶質の酸化イリジウム、結晶質の酸化イリジウム、および非晶質の酸化タンタルを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の亜鉛の電解採取用陽極。
【請求項5】
該触媒層と該導電性基体の間に中間層を有していることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の亜鉛の電解採取用陽極。
【請求項6】
亜鉛の電解採取法であって、陽極に請求項1から5のいずれかに記載の電解採取用陽極を用いて電解することを特徴とする亜鉛の電解採取法。





発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電解によって電解液から亜鉛を採取する際に用いる電解採取用陽極および亜鉛の電解採取法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛の電解採取では、亜鉛鉱から亜鉛イオンの抽出を行い、得られた亜鉛イオンを含む溶液(以下、電解液)に陽極と陰極を浸漬させて通電し、陰極上に高純度の亜鉛を析出させる。この電解液は通常硫酸で酸性とした水溶液であり、したがって陽極上での主反応は酸素発生である。しかし、酸素発生以外にも陽極上で生じる反応がある。その反応は電解液中に含まれる+2価のマンガンイオンの酸化である。このマンガンイオンは亜鉛イオンの抽出工程において、電解液中に混入する。すなわち、亜鉛イオンの抽出工程では、亜鉛鉱を酸化焙焼した後に硫酸溶液で亜鉛イオンを浸出するが、この焙焼の際に亜鉛鉱中の一部の亜鉛と鉄との反応によって亜鉛フェライトが形成される。この亜鉛フェライトは亜鉛イオンの浸出が困難な化合物であるため、浸出過程においてマンガン鉱もしくは二酸化マンガンや過マンガン酸カリウムを酸化剤として加えて、この亜鉛フェライトを酸化して除去することが行われている。このようにして亜鉛フェライトを除去することは可能となるが、最終的に亜鉛イオンを抽出した硫酸酸性の電解液には、+2価のマンガンイオンが存在する。
【0003】
一方、亜鉛の電解採取では、鉛または鉛合金が陽極として使用されているが、酸素発生電位が高く、酸素発生に必要なエネルギー消費が大きいことや、陽極から溶解した鉛イオンによって陰極上で析出する亜鉛の純度が低下するなどの理由から、このようなデメリットを克服する陽極として、チタンなどの導電性基体上を貴金属または貴金属酸化物を含む触媒層で被覆した不溶性電極が用いられてきている。例えば、特許文献1には酸化イリジウムを含有する活性コーティングを被覆した不溶性電極を用いる銅の電解採取法が開示されている。酸化イリジウムを含む触媒層、特に酸化イリジウムと酸化タンタルから構成される触媒層で導電性基体となるチタンを被覆した不溶性電極は、酸性水溶液からの酸素発生に対して高い触媒性と耐久性を有し、鋼板への電気亜鉛めっきや電気すずめっきにおける酸素発生用陽極、また電解銅箔製造における酸素発生用陽極として利用されている。例えば、本発明者は、特許文献2において、銅めっきまたは電解銅箔製造に適した酸素発生用の不溶性陽極として、電解時の陽極上への二酸化鉛の生成を抑制することが可能な酸素発生用陽極を開示している。このような不溶性陽極は、近年金属の電解採取においてもその応用が検討されている。

【特許文献1】特開2007-162050号公報
【特許文献2】特許3914162号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酸化イリジウムを含む触媒層で被覆した不溶性電極は、従来の鉛電極や鉛合金電極に比べて酸素発生電位を下げることが可能で、また酸性水溶液中での酸素発生に対する耐久性も高いことから、金属の電解採取でも電解に伴う電力消費の低減や長期にわたる安定した電解環境を提供できる可能性があることなどのメリットを有する。しかし、この電極を亜鉛の電解採取に用いると、このような優れた特性が失われることがある。これは、電解液中に含まれる+2価のマンガンイオンの酸化反応に伴うものである。非特許文献1に開示されているように、不溶性陽極を亜鉛の電解採取に用いられるような硫酸酸性の水溶液中で電解した場合、電解液中に+2価のマンガンイオンが存在すると、酸素発生よりも先に+2価から+3価へのマンガンイオンの酸化が起こるとともに、+3価のマンガンイオンはその後の化学反応または電気化学反応を通して不溶性のオキシ水酸化マンガンまたは二酸化マンガンへと変化し、かつこれらのマンガン化合物は陽極上へ析出する。亜鉛の電解採取においては、+2価の亜鉛イオンおよび+2価のマンガンイオンを含む電解液が陽極と陰極の間に連続的に供給され、一定量の亜鉛が陰極上に析出して回収が必要となるまで連続的に電解が行われるため、+2価のマンガンイオンの濃度は陽極付近において低下することなく、陽極上では酸素発生とともにマンガン化合物の析出が継続されて、マンガン化合物が陽極上に蓄積することになる。マンガン化合物は不溶性電極の触媒層のような酸素発生に対する高い触媒性を有しないため、マンガン化合物の析出とともに、不溶性電極が本来有する高い触媒性が発揮されなくなり、酸素発生電位が上昇し、電解電圧が高くなる。さらに、このマンガン化合物は導電性が低いため、その析出によって陽極上での電流分布を不均一にし、これに伴って陰極上での亜鉛の析出が不均一となって、デンドライト成長した亜鉛が陽極に到達してショートするといった不具合を引き起こす。このような不具合を防止するために、回収に相当する十分な亜鉛が析出する以前の段階もしくは定期的に電解を休止して、陽極を電解液から取り出し、マンガン化合物を除去することが必要となる。このような除去作業では、密着したマンガン化合物を取り除く際に、同時に陽極の触媒層表面の一部が剥ぎ取られたり、触媒層表面の損傷を引き起こし、結果的に陽極の寿命を短くする原因となる。
<nplcit num="1"><text>S. Nijjer,J. Thonstad,G.M. Haarberg,Electrochimica Acta,Vol. 46,No. 23,pp. 3503-3508 (2001).</text></nplcit>
【0005】
上記に述べたように、亜鉛の電解採取において、導電性基体上に酸化イリジウムを含む触媒層を形成した不溶性電極を陽極に用いると、電解初期には低い酸素発生電位を示し、鉛電極や鉛合金電極に比べて電解電圧を下げることができるが、電解液中に存在する+2価のマンガンイオンが陽極上で酸化されることでマンガン化合物が析出し、これとともに酸素発生電位が高くなって電解電圧が上昇し、電力消費が大きくなるという課題があった。また、このマンガン化合物の影響を除くため、電解を休止して陽極上のマンガン化合物を取り除く必要があり、連続的な電解を阻害するという課題があった。さらに、マンガン化合物の除去では、触媒層の一部を損傷したり、マンガン化合物とともに触媒層までが不溶性電極から剥ぎ取られたりすることによって、不溶性電極の耐久性を低下させるという課題があった。さらに、析出したマンガン化合物が陽極上での電流分布を不均一にすることによって、陰極上での亜鉛の析出も不均一となり、デンドライト成長した亜鉛が陽極へ到達することで、電解セルのショートを引き起こして電解の継続が困難になるという課題があった。また、鉛電極や鉛合金電極では電解とともに電極が消耗してその厚みが変化し、これが陽極と陰極の極間距離を変える理由となるのに対して、不溶性電極は触媒層の溶解がないため陽極と陰極の極間距離の変化がより小さいメリットが本来あるが、マンガン化合物の析出やこれに伴う亜鉛のデンドライト成長の可能性から、本来鉛系電極を使用する場合に対して不溶性電極の場合にはより短くできる極間距離を短くすることができずに、電解液のオーム損による電解電圧の増加を生じるという課題があった。
【0006】
上記の課題に対して、本発明は、+2価の亜鉛イオンを含む水溶液から電解によって陰極上へ亜鉛を析出させる電解採取に用いられる陽極であって、酸素発生電位が低くかつ電解によるマンガン化合物の陽極上への析出を抑制することが可能な電解採取用陽極の提供を目的とし、また本発明は亜鉛の電解採取法であって、電解採取時にマンガン化合物が陽極に析出することを抑制することが可能な電解採取法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するために種々検討した結果、非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層を用いることによって、電解採取用陽極上へのマンガン化合物の析出が抑制されることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、亜鉛の電解採取に用いられる陽極であって、導電性基体と、導電性基体上に形成された触媒層を有し、触媒層が非晶質の酸化イリジウムを含むことを特徴とする亜鉛の電解採取用陽極である。ここで、導電性基体とは、チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ等のバルブ金属やチタン-タンタル、チタン-ニオブ、チタン-パラジウム、チタン-タンタル-ニオブ等のバルブ金属を主体とする合金または導電性ダイヤモンド(例えば、ホウ素をドープしたダイヤモンド)が好適であり、その形状は板状、網状、棒状、シート状、管状、線状、多孔板状や真球状の金属粒子を結合させた三次元多孔体などの種々の形状を取りえる。また、上記の金属、合金、導電性ダイヤモンドを鉄、ニッケルなどのバルブ金属以外の金属または導電性セラミックス表面に被覆させたものでもよい。
【0009】
触媒層における非晶質の酸化イリジウムは、結晶質の酸化イリジウムに比較して、酸素発生に対する触媒能が高く、したがって酸素発生の過電圧が小さく、より低い電位で酸素を発生する。本発明者は、この酸素発生を促進する作用がマンガン化合物の陽極上への析出を抑制することに有効であることを見出した。すなわち、+2価のマンガンイオンが酸化されると+3価のマンガンイオンとなり、その後、水と反応してオキシ水酸化マンガン(MnOOH)となる。このオキシ水酸化マンガンがさらに酸化されると二酸化マンガン(MnO2)に変化する。このオキシ水酸化マンガンと二酸化マンガンの生成は、いずれもプロトン(H+)の生成を伴う。特に、+3価のマンガンイオンと水からオキシ水酸化マンガンとプロトンが生成する化学反応は、この反応が生じる水溶液中のpHが低い(プロトン濃度が高い)と、相対的に反応が抑制され、pHが高い(プロトン濃度が低い)と促進される。一方、酸素発生は水が酸化されて酸素を生じる反応であるが、同時にプロトンも生成される。ここで、一定の電流で電解採取を行う場合を考えれば、同じ陽極上で同時に進行する可能性のある酸素発生とマンガン化合物の生成において、電流は+2価のマンガンイオンが+3価または+4価のマンガンイオンになる反応と酸素発生に分担される可能性があるが、酸素発生が促進されると電流は酸素発生のほうにより消費されることになる。このように、非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層上では、+2価のマンガンイオンの酸化よりも酸素発生に、より電流が消費されるような酸素発生の促進がなされること、さらにこの酸素発生の促進がマンガン化合物の生成を抑制するプロトン濃度の増加を陽極表面で引き起こすことによって、マンガン化合物の生成を抑制することが可能となる。このように非晶質の酸化イリジウムがマンガン化合物の析出を抑制するという作用機構は、以下に述べるように本発明者による新規な知見である。
【0010】
すでに、本発明者は、電気銅めっきまたは電解銅箔製造の陽極として導電性基体上に非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層を形成した酸素発生用電極を用いると、陽極上で酸素発生と同時に生じる二酸化鉛の生成を抑制できることを特許文献2において開示した。この非晶質の酸化イリジウムによって二酸化鉛の生成が抑制される作用機構は、非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層が二酸化鉛を生成する反応に対して高い結晶化過電圧を有することによる。すなわち、電解液中に+2価の鉛イオンが存在する際に酸素発生と同時に二酸化鉛の析出が生じる反応は、+2価の鉛イオンが酸化されて+4価になると同時に水と反応して非晶質の二酸化鉛となる電気化学反応と、非晶質の二酸化鉛が結晶質の二酸化鉛へ変化する結晶化反応の2段階で構成される。ここで、酸化イリジウムと二酸化鉛は同じ結晶系に属し、その構造が類似していることから、結晶質の酸化イリジウムを含む触媒層を形成した不溶性陽極上では、上記の結晶化反応が容易に進行し、したがって結晶化した二酸化鉛が触媒層上に析出し、強固に付着して蓄積することになる。これに対して、非晶質の酸化イリジウム上では二酸化鉛の結晶化に対して大きなエネルギーが必要で、上記の結晶化反応は容易に進まない。一般に知られる化学反応速度論からは全体の反応が連続する2つの反応から構成される場合、第1または第2のいずれかの反応が遅くなれば、全体の反応が進まなくなることは明らかであり、実際に本発明者は上記の二酸化鉛の結晶化に必要なエネルギー(結晶化過電圧)が結晶質の酸化イリジウムに対して非晶質の酸化イリジウムでは著しく高くなることをすでに明らかにした。
【0011】
これに対して本発明では、非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層において、+2価のマンガンイオンがマンガン化合物として析出することを抑制できることを見出した。マンガン化合物のうち先に生成するオキシ水酸化マンガンは、二酸化鉛のような結晶質ではなく、非晶質の生成物である。すなわち、オキシ水酸化マンガンの生成過程には結晶化反応を伴わない。これを抑制するためには、マンガンイオンの+2価から+3価への電気化学反応の進行を遅くするか、その後の+3価のマンガンイオンと水との化学反応の進行を遅くする必要があるが、電荷移動を伴う電気化学反応の反応性は触媒層を構成する物質自体に強く依存することから、酸化イリジウムを用いる場合に、その構造が結晶質であるか非晶質であるかという違いによってこの電気化学反応の進行を制御することは困難である。一方、この電気化学反応に後続する化学反応は平衡移動の法則から、化学反応に含まれる化学種のいずれかの濃度が増加すると、化学反応はその化学種の濃度が小さくなる方向へ進む。すなわち、オキシ水酸化マンガンを生成する化学反応では、+3価のマンガンイオンと水からオキシ水酸化マンガンとプロトンが生成するが、このとき別の反応によってプロトンが増加する状況が生じると、オキシ水酸化マンガンの生成は抑制される。
【0012】
本発明は、このプロトンの増加を非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層によって達成するという作用機構を以下のように成立させる。非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層は結晶質の酸化イリジウムを含む触媒層に比べて、酸化イリジウムの非晶質化によって触媒層の有効表面積が増加する。この有効表面積は幾何学的な面積ではなく、酸素発生が生じる活性点によって決まる実質的な反応表面積である。また、非晶質化はこの活性点基準での酸素発生に対する触媒性も向上させる。このような有効表面積の増加と活性点基準での触媒性の向上が酸素発生を促進する。したがって、触媒層の幾何学的な面積が同じであっても、結晶質の酸化イリジウムに対して非晶質の酸化イリジウムでは酸素発生がより促進されることで、酸素発生に伴うプロトンの生成もより促進される。これらの反応は触媒層と電解液が接する触媒層表面で生じることから、非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層表面では結晶質の酸化イリジウムを含む触媒層表面に比べて、プロトンの濃度が飛躍的に高くなる。この触媒層表面でのプロトン濃度の増加とともに、電流が+2価から+3価へのマンガンイオンの酸化よりも酸素発生により消費されることによって、オキシ水酸化マンガンの生成は効果的に抑制されることになる。この抑制作用は、電解液中のプロトン濃度や生成する+3価のマンガンイオン濃度、言い換えれば最初に電解液中に存在する+2価のマンガンイオン濃度の影響ももちろん受けるが、本発明ではこのような抑制作用が現れにくいと考えられる高濃度の+2価のマンガンイオンと高濃度のプロトンが存在する電解液中でも、オキシ水酸化マンガンの生成が効果的に抑制されることを見出した。上記のように、本発明は非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層を導電性基体上に形成した電解採取用陽極に対して新たに見出された作用機構に基づくものであり、したがって本発明者が先に開示した特許文献2の発明とは大きく異なっており、本発明における作用機構によるマンガン化合物の析出抑制を容易に見出すことは困難である。なお、特許文献1では、金属の電解採取において、通電停止時に非伝導性物質が陽極として用いられる不溶性電極の一部に偏って析出し、通電再開時に非伝導性物質が析出していない部分への電流集中によりデンドライトが生成してショート事故が発生することを防止する方法が開示されているが、対象となる非伝導性物質はアンチモンであり、この生成は電解を停止したときに生じ、かつその防止方法は陽極のみを電解液に浸漬した際の電解液面より下方に位置する表面のみに触媒層となる陽極物質を被覆した陽極を使用するとなっており、防止対象としている析出物質とその生成機構およびこれを防止するための解決方法のいずれを取っても本発明とは全く異なり、かつ特許文献1に開示された内容から本発明の創作へ至らないことは明らかである。
【0013】
以下に本発明の内容をさらに詳細に説明する。導電性基体上に非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層を形成する方法には、イリジウムイオンを含む前駆体溶液を導電性基体上に塗布した後、所定の温度で熱処理する熱分解法の他、スパッタリング法やCVD法など各種の物理蒸着法、化学蒸着法などを用いることが可能である。ここで、本発明の電解採取用陽極を作製する方法の中で、特に熱分解法による作製方法についてさらに述べる。例えば、イリジウムイオンを溶解したブタノール溶液をチタン基体上に塗布し、これを400℃から340℃の範囲で熱分解すると、チタン基体上に非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層が形成される。また、イリジウムイオンとタンタルイオンを溶解したブタノール溶液をチタン基体上に塗布してこれを熱分解するとき、例えばブタノール溶液中のイリジウムとタンタルのモル比が80:20であれば、熱分解温度を420℃から340℃とすると、非晶質の酸化イリジウムを含む酸化イリジウムと酸化タンタルからなる触媒層が形成され、また例えばブタノール溶液中のイリジウムとタンタルのモル比が50:50であれば、熱分解温度が470℃から340℃のようなより広い温度範囲において、非晶質の酸化イリジウムを含む酸化イリジウムと酸化タンタルからなる触媒層が形成される。このように熱分解法において非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層を導電性基体上に形成する方法では、チタン基体に塗布する溶液中に含まれる金属成分、金属成分の組成、熱分解温度などによって触媒層中に非晶質の酸化イリジウムが含まれるかどうかが変化する。この際、塗布する溶液に含まれる金属成分以外の成分が同じであり、かつイリジウムとタンタルのように溶液が2つの金属成分を含む場合では、上記のように溶液中のイリジウムの組成比が低いほうが非晶質の酸化イリジウムが得られる熱分解温度の範囲は広くなる。さらに、このような金属成分の組成比だけでなく、非晶質の酸化イリジウムが含まれる触媒層を形成する条件は、塗布する溶液に用いる溶媒の種類や熱分解を促進するために塗布する溶液に追加されるような添加剤の種類や濃度によっても変化する。したがって、本発明における非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層を形成する際の条件は、上記に述べた熱分解法おけるブタノール溶媒の使用、イリジウムとタンタルの組成比やこれに関連した熱分解温度の範囲に限定されたものではない。なお、非晶質の酸化イリジウムの生成については、一般的に用いられるX線回折法によって、酸化イリジウムに対応する回折ピークが観察されないか、またはブロード化することによって知ることができる。
【0014】
また、本発明は、触媒層が非晶質の酸化イリジウムと、チタン、タンタル、ニオブ、タングステン、およびジルコニウムから選ばれた金属の酸化物とを含むことを特徴とする亜鉛の電解採取用電極である。非晶質の酸化イリジウムに、チタン、タンタル、ニオブ、タングステン、およびジルコニウムから選ばれた金属の酸化物を添加することによって、酸化イリジウムの消耗および導電性基体からの剥離・脱落などが抑制され、触媒層の脆化を防ぐことによって、電極の耐久性を向上させることができるという作用を有する。この際、触媒層中の金属元素については、酸化イリジウムは金属換算で45~99原子%、特に50~95原子%であり、酸化イリジウムと混合する金属酸化物は金属換算で55~1原子%、特に50~5原子%が好適である。
【0015】
また、本発明は、触媒層が非晶質の酸化イリジウムおよび非晶質の酸化タンタルを含むことを特徴とする亜鉛の電解採取用電極である。触媒層に非晶質の酸化イリジウムとともに非晶質の酸化タンタルが含まれると、酸化タンタルは触媒層中における酸化イリジウムの分散性を高め、また酸化イリジウムを微粒子化する作用を持ち、かつ酸化イリジウム単独の場合に比べてバインダー的な作用で触媒層の緻密性を向上させることによって、酸素発生に対する過電圧をより低くすると同時に、耐久性を高めるという作用を有する。また、非晶質の酸化タンタルは酸化イリジウムの非晶質化を促進するという作用を有する。
【0016】
また、本発明は、触媒層が非晶質の酸化イリジウム、結晶質の酸化イリジウム、および非晶質の酸化タンタルを含むことを特徴とする亜鉛の電解採取用陽極である。触媒層に非晶質の酸化イリジウムとともに、結晶質の酸化イリジウムが混在していることによって、結晶質の酸化イリジウムが導電性基体に対して触媒層の付着力を高めるアンカー効果を生じ、非晶質の酸化イリジウムの脆化を抑制することで、酸化イリジウムの消耗を低減する作用を有する。また、これらとともに非晶質の酸化タンタルを混合すると、非晶質の酸化タンタルが結晶質の酸化イリジウムおよび非晶質の酸化イリジウム間を結着させることによって、触媒層全体の消耗・剥離・脱落・クラックの生成などを抑制し、触媒層の耐久性を向上させることができるという作用を有する。
【0017】
また、本発明は、導電性基体と触媒層との間に耐食性の中間層を有することを特徴とする亜鉛の電解採取用陽極である。ここで、耐食性の中間層としては、タンタル又はその合金などが好適であり、長期間の使用において触媒層を浸透した酸性電解液が導電性基体を酸化・腐食させることを防止することにより、電解採取用陽極の耐久性を向上させることができるという作用を有する。中間層の形成方法としては、スパッタリング法、イオンプレ-ティング法、CVD法、電気めっき法などが使用される。
【0018】
また、本発明は、上記に示したいずれかの電解採取用陽極を用いて電解することを特徴とする亜鉛の電解採取法である。
【0019】
なお、本発明は亜鉛の電解採取に用いる電解採取用陽極および亜鉛の電解採取法であり、亜鉛鉱から抽出した+2価の亜鉛イオンを含む電解液を用いるプロセスを通して説明したが、このようなプロセスで製造された高純度の亜鉛が様々な目的や用途に対して使用され、その後使用済みの亜鉛を回収して再び+2価の亜鉛イオンを抽出し、電解によって高純度の亜鉛を製造するようなリサイクルプロセスまたは回収プロセスの場合にも、もちろん有効である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば下記の効果を奏する。
1)亜鉛の電解採取において、酸素発生の電位が低く、かつマンガン化合物による電位の上昇が抑制されることから、電解電圧を大幅に低減することが可能となり、同量の亜鉛金属を採取するのに必要な消費電力を大幅に低減することができるという効果を有する。
2)また、消費電力を低減できることによって、電解コストおよび亜鉛の製造コストを大幅に削減することが可能になるという効果を有する。
3)また、陽極上へのマンガン化合物の析出が抑制されることから、これが起こる場合にマンガン化合物によって陽極上の有効表面積が制限され、または陽極上での電解可能な面積が不均一となり、陰極上に亜鉛が不均一に析出して回収が容易でなくなったり、平滑性の乏しい亜鉛が生成して、採取される亜鉛金属の品質が低下するのを抑制することができるという効果を有する。
4)また、上記のような理由で陰極上に不均一に成長した亜鉛が、陽極に達してショートし、電解採取ができなくなることを防止することができるという効果を有する。
5)また、上記のようにマンガン化合物によって亜鉛が不均一にかつデンドライト成長することが抑制されるため、陽極と陰極の極間距離を短くすることができ、電解液のオーム損による電解電圧の増加を抑制できるという効果を有する。
6)また、陽極上へのマンガン化合物の析出が抑制されることから、定期的にこれを取り除く作業が低減され、かつマンガン化合物の除去のために電解を休止する必要性が抑えられるため、連続的により安定した電解採取が可能になるという効果を有する。
7)また、マンガン化合物の析出による陽極の劣化や、強固に密着したマンガン化合物を除去する際に、陽極の触媒層が剥離するといった除去作業にともなう陽極の劣化が抑制されるため、陽極の寿命が長くなるという効果を有する。
8)また、電解採取に用いられる溶液中の+2価のマンガンは、電解中に陽極上で消費される反応が抑制されるため、電解後には+2価のマンガンが濃縮されてマンガンの採取・回収に利用可能な溶液が得られるという効果を有する。
9)また、上記のようにマンガン化合物の陽極への析出による様々な問題が解消されることによって、安定で連続的な電解採取が可能になり、電解採取における保守・管理作業を低減することができるとともに、得られる亜鉛金属の製品管理が容易になるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施例、比較例を用いてより詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
市販のチタン板(長さ5cm、幅1cm、厚さ1mm)を10%のシュウ酸溶液中に90℃で60分間浸漬してエッチング処理した後、水洗し、乾燥した。6vol%の濃塩酸を含むブタノール(n-C4H9OH)溶液に、塩化イリジウム酸(H2IrCl6・H2O)と塩化タンタル(TaCl5)がモル比で80:20となるように、かつイリジウムとタンタルの合計が金属換算で70mg/mlとして塗布液を調製した。この塗布液を上記チタン板に塗布した後、120℃で10分間乾燥し、次いで360℃に保持した電気炉内で20分間熱分解した。上記の塗布、乾燥、焼成を5回繰り返して、チタン板上に触媒層を形成した電極を作製した。この電極をX線回折法により構造解析した結果、X線回折像にはIrO2に相当する回折ピークは認められず、またTa2O5に相当する回折ピークも認められなかったことから、この電極の触媒層が非晶質の酸化イリジウムと非晶質の酸化タンタルから形成されていることを確認した。次に、この電極の触媒層をポリテトラフルオロエチレン製テープで被覆して面積を1cm2に規制したものを陽極に、白金板を陰極として、2mol/Lの硫酸水溶液に0.1 mol/L の硫酸マンガンを溶解した硫酸マンガン溶液中で、電流密度10 mA / cm2、温度40℃、電解時間20分として、定電流電解した。電解前後における陽極表面の状態には大きな変化は見られなかったが、電解前後の重量変化を測定した結果から、電解によって0.9mg/cm2のマンガン化合物が析出していることが判った。尚、電解によって100%の電流効率でマンガン化合物が析出すると仮定した重量増加の計算値は11mg/cm2であり、したがって上記の析出量はこの計算値の8%となった。
【0023】
(実施例2)
実施例1における電極の作製方法において、熱分解温度を360℃から380℃に変えた以外は同じ方法で電極を作製した。得られた電極をX線回折法により構造解析した結果、IrO2に相当する回折線がブロードになるとともに弱いピークが重なり、またTa2O5に相当する回折ピークは認められなかったことから、触媒層が非晶質の酸化イリジウムと結晶質の酸化イリジウムと非晶質の酸化タンタルから形成されていることを確認した。次に、実施例1に記した方法・条件で定電流電解を行った。電解前後の重量変化から、電解によって2.3mg/cm2のマンガン化合物が析出していることが判った。
【0024】
(比較例1)
実施例1における電極の作製方法において、熱分解温度を360℃から470℃に変えた以外は同じ方法で電極を作製した。得られた電極をX線回折法により構造解析した結果、IrO2に相当するシャープな回折ピークは認められたが、Ta2O5に相当する回折ピークは認められなかったことから、触媒層が結晶質の酸化イリジウムと非晶質の酸化タンタルから形成されていることを確認した。次に、実施例1に記した方法・条件で定電流電解を行った。電解後には、触媒層上に明らかに析出物が観察され、電解前後の陽極の重量変化を調べた結果、電解によって5mg/cm2のマンガン化合物が析出していることが判った。
【0025】
以上のように、触媒層の酸化イリジウムが非晶質である実施例1では、非晶質の酸化イリジウムを触媒層に含まない比較例1に対して、マンガン化合物の析出量を82%も抑制できることが判った。また、実施例2についても比較例1に比べて、マンガン化合物の析出量を54%も抑制できることが判った。一方、硫酸溶液中での電気二重層容量の測定結果から、実施例1や実施例2の電極は比較例1の電極に対して有効表面積が増加しており、特に実施例1は比較例1に対して電極の有効表面積が6倍以上となり、酸素発生が極めて促進されていたことも明らかとなった。さらに、硫酸溶液中での酸素発生電位を比較した結果、50
mA/cm2での酸素発生電位は比較例1に対して実施例1では0.2Vほど低くなり、酸素発生電位を大幅に低くできることも明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、亜鉛鉱から+2価の亜鉛イオンを抽出した溶液を用いて高純度の亜鉛を電解によって採取する亜鉛の電解採取や、リサイクルのために回収された亜鉛含有物から+2価の亜鉛イオンを溶解させた溶液を用いて電解によって亜鉛金属を回収するなどの亜鉛の電解採取に利用可能である。