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明細書 :コバルトの電解採取用陽極および電解採取法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4516618号 (P4516618)
公開番号 特開2010-001556 (P2010-001556A)
登録日 平成22年5月21日(2010.5.21)
発行日 平成22年8月4日(2010.8.4)
公開日 平成22年1月7日(2010.1.7)
発明の名称または考案の名称 コバルトの電解採取用陽極および電解採取法
国際特許分類 C25C   7/02        (2006.01)
C25C   1/08        (2006.01)
FI C25C 7/02 307
C25C 1/08
請求項の数または発明の数 9
全頁数 13
出願番号 特願2008-163714 (P2008-163714)
出願日 平成20年6月23日(2008.6.23)
審査請求日 平成22年2月19日(2010.2.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
発明者または考案者 【氏名】盛満 正嗣
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】110000475、【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
審査官 【審査官】瀧口 博史
参考文献・文献 特開2007-146215(JP,A)
特開2004-238697(JP,A)
特開平7-258897(JP,A)
特開昭63-203800(JP,A)
調査した分野 C25C 7/02
C25C 1/08
特許請求の範囲 【請求項1】
コバルトの電解採取に用いられる陽極であって、導電性基体と、該導電性基体上に形成された触媒層を有し、該触媒層が非晶質の酸化イリジウムまたは非晶質の酸化ルテニウムを含むことを特徴とするコバルトの電解採取用陽極。
【請求項2】
該触媒層が非晶質の酸化イリジウムと、チタン、タンタル、ニオブ、タングステン、およびジルコニウムから選ばれた金属の酸化物とを含むことを特徴とする請求項1に記載のコバルトの電解採取用陽極。
【請求項3】
該触媒層が非晶質の酸化イリジウムおよび非晶質の酸化タンタルを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のコバルトの電解採取用陽極。
【請求項4】
該触媒層が非晶質の酸化ルテニウムと酸化チタンを含むことを特徴とする請求項1に記載のコバルトの電解採取用陽極。
【請求項5】
該触媒層と該導電性基体の間に中間層を有していることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のコバルトの電解採取用陽極。
【請求項6】
コバルトの電解採取法であって、陽極に請求項1から5のいずれかに記載のコバルトの電解採取用陽極を用いて電解することを特徴とするコバルトの電解採取法。
【請求項7】
コバルトの電解採取法であって、塩化物系電解液を用いて電解することを特徴とする請求項6に記載のコバルトの電解採取法。
【請求項8】
コバルトの電解採取法であって、硫酸系電解液を用いて電解することを特徴とする請求項6に記載のコバルトの電解採取法。
【請求項9】
コバルトの電解採取法であって、請求項3に記載の電解採取用陽極を用いて電解することを特徴とする請求項7または8に記載のコバルトの電解採取法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電解によって電解液からコバルトを採取する際に用いるコバルトの電解採取用陽極およびコバルトの電解採取法に関する。
【背景技術】
【0002】
コバルトの電解採取では、コバルト含有鉱から+2価のコバルトイオンを抽出し、得られたコバルトイオンを含む溶液(以下、電解液)に陽極と陰極を浸漬させて通電し、陰極上に高純度のコバルトを析出させる。この溶液は一般に酸性水溶液であり、代表的な電解液としては、通常塩酸によって酸性とした塩化物イオンを含む水溶液中に+2価のコバルトイオンが溶解した塩化物系電解液や、硫酸によって酸性とした水溶液中に+2価のコバルトイオンが溶解した硫酸系電解液がある。コバルトの電解採取は、電解液に陽極と陰極を浸漬し、陰極上に一定量のコバルトを析出させた後、陰極を取り出してコバルトを回収する。一方、陽極での反応は、通常、塩化物系電解液を用いる場合は塩素発生が主たる反応となり、硫酸系電解液を用いる場合は酸素発生が主たる反応となる。ただし、陽極がどのような反応に対する触媒性を有するかによって、陽極上で生じる主たる反応は変化し、また塩素発生と酸素発生がともに起こることもある。
【0003】
コバルトの電解採取では、鉛または鉛合金などの鉛系電極が陽極として主に使用されているが、陽極反応に対する電位が高く、したがって陽極反応に必要なエネルギー消費が大きいことや、陽極から溶解した鉛イオンによって陰極上で析出するコバルトの純度が低下するなどのデメリットがある。また、鉛系電極を陽極に用いる場合、陽極での主反応である塩素または酸素の発生と同時に、電解液中に含まれる+2価のコバルトイオンが酸化され、陽極上にオキシ水酸化コバルト(CoOOH)を生成し、この反応によって本来陰極上で還元されるべき電解液中の+2価のコバルトイオンが陽極で無駄に消費されるという副反応がある。一方、このようなオキシ水酸化コバルトの生成においては、コバルトイオンまたはオキシ水酸化コバルトと鉛系電極の電極材料との反応も同時に進行して電極上に化合物を生成し、これが鉛系電極の安定化に一部寄与することも知られているが、+2価のコバルトイオンが陽極で反応して消費されることは、陰極上へ析出する+2価のコバルトイオンの減少となることから、陽極自体が高い耐久性を有するものであれば、本来は不要な副反応である。上記のような鉛系電極に関するデメリットを克服する陽極として、チタンなどの導電性基体上を貴金属または貴金属酸化物を含む触媒層で被覆した不溶性電極が検討されている。例えば、非特許文献1には塩化物系電解液で不溶性電極を陽極に用いるコバルトの電解採取が記載されている。

【非特許文献1】T. Akre, G. M. Haarberg, S. Haarberg, J. Thonstad, and O. M.Dotterud, ECS Proceedings, PV 2004-8, pp. 276-287 (2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1にも記載されているように、不溶性電極を陽極に用いた場合も、陽極上ではオキシ水酸化コバルトが生成し、この場合オキシ水酸化コバルトは単なる非電導性物質として陽極を被覆するだけとなり、陽極の安定性向上には何ら寄与しないばかりでなく、陽極の触媒層が本来有する塩素または酸素に対する高い触媒性がオキシ水酸化コバルトによって失われるとともに、電解液中に存在する+2価のコバルトイオンが不要に陽極上で消費される。すなわち、コバルトの電解採取では、+2価のコバルトイオンを含む電解液が陽極と陰極の間に連続的に供給され、一定量のコバルトが陰極上に析出して回収が必要となるまで連続的に電解が行われるため、+2価のコバルトイオンの濃度は陽極付近において低下することなく、陽極上では塩素または酸素の発生とともにオキシ水酸化コバルトの析出が継続されて、オキシ水酸化コバルトが陽極上に蓄積する。不溶性電極は、塩素発生や酸素発生のみが陽極反応として生じる場合には、鉛系電極に比べて低い陽極電位を示すとともに高い耐久性を有するが、オキシ水酸化コバルトは不溶性電極の触媒層のような酸素発生に対する高い触媒性を有しないため、オキシ水酸化コバルトの析出とともに、不溶性電極が本来有する高い触媒性が発揮されなくなり、塩素または酸素の発生電位が上昇し、電解電圧が高くなるとともに陽極の寿命を短くする原因となる。さらに、このオキシ水酸化コバルトは導電性が低いため、その析出によって陽極上での電流分布を不均一にし、これに伴って陰極上でのコバルトの析出が不均一となって、デンドライト成長したコバルトが陽極に到達してショートするといった不具合を引き起こす。このような不具合を防止するために、十分な量のコバルトが析出する以前の段階もしくは定期的に電解を休止して、陽極を電解液から取り出し、オキシ水酸化コバルトを除去することが必要となる。このような除去作業では、密着したオキシ水酸化コバルトを取り除く際に、同時に陽極の触媒層表面の一部が剥ぎ取られたり、触媒層表面の損傷を引き起こし、結果的に陽極の寿命を短くする原因となる。
【0005】
上記に述べたように、コバルトの電解採取において、導電性基体上に貴金属または貴金属酸化物を含む触媒層で被覆した不溶性電極を用いると、電解初期には低い陽極電位を示し、鉛系電極に比べて電解電圧を下げることができるが、電解液中に存在する+2価のコバルトイオンが陽極上で酸化されることでオキシ水酸化コバルトが析出し、これとともに陽極電位が高くなって電解電圧が上昇し、電力消費が大きくなるという課題があった。また、本来陰極で還元されるべき+2価のコバルトイオンが陽極上で不要に消費されるという課題があった。また、このオキシ水酸化コバルトの影響を除くため、電解を休止して陽極上のオキシ水酸化コバルトを取り除く必要があり、連続的な電解を阻害するという課題があった。さらに、オキシ水酸化コバルトの除去では、触媒層の一部を損傷したり、オキシ水酸化コバルトとともに触媒層までが不溶性電極から剥ぎ取られたりすることによって、不溶性電極の耐久性を低下させるという課題があった。さらに、析出したオキシ水酸化コバルトが陽極上での電流分布を不均一にすることによって、陰極上でのコバルトの析出も不均一となり、デンドライト成長したコバルトが陽極へ到達することで、電解セルのショートを引き起こして電解の継続が困難になるという課題があった。また、鉛電極や鉛合金電極では電解とともに電極が消耗してその厚みが変化し、これが陽極と陰極の極間距離を変える理由となるのに対して、不溶性電極は触媒層の溶解がないため陽極と陰極の極間距離の変化がより小さいというメリットが本来あるが、オキシ水酸化コバルトの析出やこれに伴うコバルトのデンドライト成長の可能性から、本来鉛系電極を使用する場合に対して不溶性電極の場合にはより短くできる極間距離を短くすることができずに、電解液のオーム損による電解電圧の増加を生じるという課題があった。
【0006】
上記の課題に対して、本発明は、+2価のコバルトイオンを含む水溶液から電解によって陰極上へコバルトを析出させる電解採取に用いられる陽極であって、陽極での塩素や酸素の発生に対する電位が低くかつ電解によるオキシ水酸化コバルトの陽極上への析出を抑制することが可能なコバルトの電解採取用陽極の提供を目的とし、また本発明はコバルトの電解採取法であって、電解採取時にオキシ水酸化コバルトが陽極に析出することを抑制することが可能なコバルトの電解採取法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するために種々検討した結果、非晶質すなわち結晶性の低い酸化イリジウムまたは酸化ルテニウムを含む触媒層を用いることによって、コバルトの電解採取用陽極上へのオキシ水酸化コバルトの析出が抑制されることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、コバルトの電解採取に用いられる陽極であって、導電性基体と、導電性基体上に形成された触媒層を有し、触媒層が非晶質の酸化イリジウムまたは非晶質の酸化ルテニウムを含むことを特徴とするコバルトの電解採取用陽極である。ここで、導電性基体とは、チタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ等のバルブ金属やチタン-タンタル、チタン-ニオブ、チタン-パラジウム、チタン-タンタル-ニオブ等のバルブ金属を主体とする合金または導電性ダイヤモンド(例えば、ホウ素をドープしたダイヤモンド)が好適であり、その形状は板状、網状、棒状、シート状、管状、線状、多孔板状や真球状の金属粒子を結合させた三次元多孔体などの種々の形状を取りえる。また、上記の金属、合金、導電性ダイヤモンドを鉄、ニッケルなどのバルブ金属以外の金属または導電性セラミックス表面に被覆させたものでもよい。
【0009】
次に、本発明の電解採取用陽極の触媒層の作用についてより詳細に説明する。まず、触媒層に非晶質の酸化イリジウムが含まれる場合、非晶質の酸化イリジウムは結晶質の酸化イリジウムに比較して、酸素発生に対する触媒能が高く、したがって酸素発生の過電圧が小さく、より低い電位で酸素を発生する。本発明者は、この酸素発生を促進する作用がオキシ水酸化コバルトの陽極上への析出を抑制することに有効であることを見出した。すなわち、+2価のコバルトイオンが酸化されると+3価のコバルトイオンとなり、その後、水と反応してオキシ水酸化コバルトとなる。このオキシ水酸化コバルトの生成は、同時にプロトン(H+)の生成を伴う。この+3価のコバルトイオンと水からオキシ水酸化コバルトとプロトンが生成する化学反応は、この反応が生じる水溶液中のpHが低い(プロトン濃度が高い)と相対的に反応が抑制され、pHが高い(プロトン濃度が低い)と促進される。一方、酸素発生は水が酸化されて酸素を生じる反応であるが、同時にプロトンも生成される。すなわち、陽極上で酸素発生が促進されることによって、陽極表面でのプロトン濃度が上昇する。さらに、一定の電流で電解採取を行う場合を考えれば、同じ陽極上で同時に進行する可能性のある酸素発生とオキシ水酸化コバルトの生成において、電流は+2価のコバルトイオンが+3価のコバルトイオンになる反応と酸素発生に分担される可能性があるが、酸素発生が促進されると電流は酸素発生のほうに、より消費されることになる。このように、非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層上では、オキシ水酸化コバルトよりも酸素発生に、より電流が消費されるような酸素発生の促進がなされること、さらにこの酸素発生の促進がオキシ水酸化コバルトの生成を抑制するプロトン濃度の増加を陽極表面で引き起こすことによって、オキシ水酸化コバルトの生成を抑制することが可能となる。
【0010】
上記の作用機構について、電解液の種類との関係をさらに説明する。まず、コバルトの電解採取に用いられる代表的な2種類の電解液、すなわち硫酸系電解液と塩化物系電解液では、硫酸系電解液の場合、陽極の主たる反応は酸素発生であり、したがって上記に述べた作用機構によってオキシ水酸化コバルトの生成が抑制される。一方、塩化物系電解液の場合、通常陽極の主たる反応は塩素発生であるが、酸化イリジウムを含む触媒層を陽極に用いると、酸化イリジウムが酸素発生に対して高い触媒活性を有することから、塩素発生と同時に酸素発生も生じる。すなわち、塩化物系電解液を用いるコバルトの電解採取に非晶質の酸化イリジウムが含まれる触媒層を形成した陽極を使用すると、塩素発生だけでなく、酸素発生も生じ、かつ結晶質の酸化イリジウムに比べて酸素発生がより促進されることで、塩素発生反応だけでは本来起こらないプロトンの生成が陽極表面で生じるとともに、陽極表面のプロトン濃度が結晶質の酸化イリジウムに比べて非常に高くなる。このように硫酸系電解液だけでなく、塩化物系電解液を用いるコバルトの電解採取においても、本発明の非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層を形成した陽極はオキシ水酸化コバルトの生成を抑制する作用を有する。
【0011】
次に、本発明の電解採取用陽極について、非晶質の酸化ルテニウムが含まれる触媒層の作用についてより詳細に説明する。非晶質の酸化ルテニウムは結晶質の酸化ルテニウムに比較して、塩素発生に対する触媒能が高く、したがって塩素発生の過電圧が小さく、より低い電位で塩素を発生する。本発明者は、この塩素発生を促進する作用がオキシ水酸化コバルトの陽極上への析出を抑制することに有効であることを見出した。但し、その作用機構は非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層を形成した陽極の場合とは異なる。すなわち、酸化ルテニウムを含む触媒層を形成した陽極を塩化物系電解液中で用いる場合、上記の酸化イリジウムの場合のような酸素発生はほとんど生じない。したがって、陽極上での酸素発生に伴うプロトン生成の促進によってオキシ水酸化コバルトの生成が抑制される作用機構は、酸化ルテニウムを含む触媒層を形成した陽極には当てはまらない。しかし、本発明者は、非晶質の酸化ルテニウムが結晶質の酸化ルテニウムに比べて著しく塩素発生を促進し、これが陽極上でのオキシ水酸化コバルトの生成を抑制する作用を有することを見出した。このような作用機構には、オキシ水酸化コバルトの生成に消費される電流の分担率が減少することが関係していると考えられる。すなわち、一定の電流で電解採取を行う場合を考えれば、同じ陽極上で同時に進行する可能性のある塩素発生とオキシ水酸化コバルトの生成において、電流は+2価のコバルトイオンが+3価のコバルトイオンになる反応と塩素発生に分担される可能性があるが、塩素発生が促進されると電流は塩素発生のほうにより消費されることになる。このように、非晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層上では、オキシ水酸化コバルトよりも塩素発生に、より電流が消費されるような塩素発生の促進がなされることによって、オキシ水酸化コバルトの生成が抑制されていると考えられる。なお、非晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層を形成した陽極を硫酸系電解液で用いると酸素発生を生じ、非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層を形成した陽極を用いた場合と同じ作用機構によってオキシ水酸化コバルトの析出が抑制されるが、硫酸系電解液に対しては非晶質の酸化ルテニウムよりも非晶質の酸化イリジウムを主成分として含む触媒層を形成した陽極のほうが耐久性に優れることからより好適である。
【0012】
上記のように非晶質の酸化イリジウムまたは非晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層を導電性基体上に形成した陽極が、オキシ水酸化コバルトの析出を抑制するという作用機構は、以下に述べるように本発明者による新規な知見に基づくものである。本発明者は、すでに電気銅めっきまたは電解銅箔製造の陽極として導電性基体上に非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層を形成した酸素発生用電極を用いると、陽極上で酸素発生と同時に生じる二酸化鉛の生成を抑制できることを特許文献1において開示した。この非晶質の酸化イリジウムによって二酸化鉛の生成が抑制される作用機構は、非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層が二酸化鉛を生成する反応に対して高い結晶化過電圧を有することによる。すなわち、電解液中に+2価の鉛イオンが存在する際に酸素発生と同時に二酸化鉛の析出が生じる反応では、+2価の鉛イオンが酸化されて+4価になると同時に水と反応して非晶質の二酸化鉛となる電気化学反応と、非晶質の二酸化鉛が結晶質の二酸化鉛へ変化する結晶化反応の2段階で構成される。ここで、酸化イリジウムと二酸化鉛は同じ結晶系に属し、その構造が類似していることから、結晶質の酸化イリジウムを含む触媒層上では、上記の結晶化反応が容易に進行し、したがって結晶化した二酸化鉛が触媒層上に析出し、強固に付着して蓄積することになる。これに対して、非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層上では二酸化鉛の結晶化に対して大きなエネルギーが必要で、上記の結晶化反応は容易に進まない。一般に知られる反応速度論からは全体の反応が連続する2つの反応から構成される場合、第1または第2のいずれかの反応が遅くなれば、全体の反応が進まなくなることは明らかであり、実際に本発明者は上記の二酸化鉛の結晶化に必要なエネルギー(結晶化過電圧)が結晶質の酸化イリジウムに対して非晶質の酸化イリジウムでは著しく高くなることをすでに明らかにした。
<patcit num="1"><text>特許3914162号</text></patcit>
【0013】
これに対して本発明では、非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層において、+2価のコバルトイオンがオキシ水酸化コバルトとして析出することを抑制できることを見出した。ここで、オキシ水酸化コバルトは二酸化鉛のような結晶質ではなく、非晶質の生成物である。すなわち、オキシ水酸化コバルトの生成過程には結晶化反応を伴わない。これを抑制するためには、コバルトイオンの+2価から+3価への電気化学反応の進行を遅くするか、その後の+3価のコバルトイオンと水との化学反応の進行を遅くする必要があるが、電荷移動を伴う電気化学反応の反応性は触媒層を構成する物質自体に強く依存することから、酸化イリジウムを用いる場合に結晶質と非晶質という構造の違いでこの電気化学反応の進行を制御することは困難である。一方、この電気化学反応に後続する化学反応は平衡移動の法則から、化学反応に含まれる化学種のいずれかの濃度が増加すると、化学反応はその化学種の濃度が小さくなる方向へ進む。すなわち、オキシ水酸化コバルトを生成する化学反応では、+3価のコバルトイオンと水からオキシ水酸化コバルトとプロトンが生成するが、このとき別の反応によってプロトンが増加する状況があれば、オキシ水酸化コバルトの生成は抑制される。
【0014】
本発明は、このプロトンの増加を非晶質の酸化イリジウムによって達成するという作用機構を以下のように成立させる。非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層は結晶質の酸化イリジウムを含む触媒層に比べて、酸化イリジウムの非晶質化によって触媒層の有効表面積が増加する。この有効表面積は幾何学的な面積ではなく、酸素発生が生じる活性点によって決まる実質的な反応表面積である。また、非晶質化はこの活性点基準での酸素発生に対する触媒性も向上させる。このような有効表面積の増加と活性点基準での触媒性の向上が酸素発生を促進する。したがって、触媒層の幾何学的な面積が同じであっても、結晶質の酸化イリジウムに対して非晶質の酸化イリジウムでは酸素発生がより促進されることで、酸素発生に伴うプロトンの生成もより促進される。これらの反応は触媒層と電解液が接する触媒層表面で生じることから、非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層表面では結晶質の酸化イリジウムを含む触媒層表面に比べて、プロトンの濃度が飛躍的に高くなる。この触媒層表面でのプロトン濃度の増加とともに、電流が+2価から+3価へのコバルトイオンの酸化よりも酸素発生により消費されることによって、オキシ水酸化コバルトを生成する際の化学反応は効果的に抑制されることになる。この抑制作用は、電解液中のプロトン濃度や生成する+3価のコバルトイオン濃度、言い換えれば最初に電解液中に存在する+2価のコバルトイオン濃度の影響ももちろん受けるが、本発明ではこのような抑制作用が現れにくいと考えられる高濃度の+2価のコバルトイオンと高濃度のプロトンが存在する電解液中でも、オキシ水酸化コバルトの生成が効果的に抑制されることを見出した。
【0015】
さらに、本発明では、塩化物系電解液で非晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層を形成した陽極を用いると、非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層上で達成される結晶化過電圧の増加やプロトンの増加を伴わない非晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層上においても、塩素発生の促進によってオキシ水酸化コバルトの生成が効果的に抑制されることを見出した。また、硫酸系電解液で非晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層を形成した陽極を用いる場合、非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層を形成した陽極と同じ作用機構で、オキシ水酸化コバルトの生成が効果的に抑制されることを見出した。なお、本発明のコバルトの電解採取用陽極には、非晶質の酸化イリジウムと非晶質の酸化ルテニウムをともに含む触媒層を導電性基体上に形成した陽極も当然に含まれる。
【0016】
上記のように、本発明は非晶質の酸化イリジウムまたは非晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層を導電性基体上に形成したコバルトの電解採取用陽極に対して新たに見出された作用機構に基づくものであり、したがって本発明者が先に開示した特許文献1の発明とは大きく異なっており、本発明における作用機構によるオキシ水酸化コバルトの析出抑制を容易に見出すことは一般に考えて困難である。なお、特許文献2の発明では、金属の電解採取において、通電停止時に非伝導性物質が陽極として用いられる寸法安定性電極の一部に偏って析出し、通電再開時に非伝導性物質が析出していない部分の電流集中によりデンドライトが生成してショート事故が発生することを防止する方法が開示されているが、対象となる非伝導性物質はアンチモンであり、この生成は電解を停止したときに生じ、かつその防止方法は陽極のみを電解液に浸漬した際の電解液面より下方に位置する表面のみに触媒層となる陽極物質を被覆した陽極を使用するとなっており、防止対象としている析出物質とその生成機構およびこれを防止するための解決方法のいずれを取っても本発明とは全く異なり、かつ特許文献2に開示された内容から本発明の創作へ至らないことは明らかである。
<patcit num="2"><text>特開2007-162050号公報</text></patcit>
【0017】
以下に本発明の内容をさらに詳細に説明する。導電性基体上に非晶質の酸化イリジウムまたは非晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層を形成する方法には、イリジウムイオンまたはルテニウムイオンやルテニウム含有化合物を含む前駆体溶液を導電性基体上に塗布した後、所定の温度で熱処理する熱分解法の他、スパッタリング法やCVD法など各種の物理蒸着法、化学蒸着法を用いることが可能である。
【0018】
ここで、本発明のコバルトの電解採取用陽極を作製する方法の中で、特に熱分解法による作製方法についてさらに述べる。例えば、イリジウムイオンを溶解したブタノール溶液をチタン基体上に塗布し、これを400℃から340℃の範囲で熱分解すると、チタン基体上に非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層が形成される。また、イリジウムイオンとタンタルイオンを溶解したブタノール溶液をチタン基体上に塗布してこれを熱分解するとき、例えばブタノール溶液中のイリジウムとタンタルのモル比が80:20であれば、熱分解温度を400℃から340℃とすると、非晶質の酸化イリジウムを含む酸化イリジウムと酸化タンタルからなる触媒層が形成され、また例えばブタノール溶液中のイリジウムとタンタルのモル比が50:50であれば、熱分解温度を470℃から340℃のようなより広い温度範囲において、非晶質の酸化イリジウムを含む酸化イリジウムと酸化タンタルからなる触媒層が形成される。このように熱分解法において非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層を導電性基体上に形成する方法では、チタン基体に塗布する溶液中に含まれる金属成分、金属成分の組成、熱分解温度によって触媒層中に非晶質の酸化イリジウムが含まれるかどうかが変化する。この際、塗布する溶液に含まれる金属成分以外が同じであり、かつイリジウムとタンタルのように溶液が2つの金属成分を含む場合では、上記のように溶液中のイリジウムの組成比が低いほうが非晶質の酸化イリジウムが得られる熱分解温度は広くなる。さらに、このような金属成分の組成比だけでなく、非晶質の酸化イリジウムが含まれる触媒層を形成する条件は、塗布する溶液に用いる溶媒の種類や熱分解を促進するために塗布する溶液に追加されるような添加剤の種類や濃度によっても変化する。したがって、本発明における非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層を形成する際の条件は、上記に述べた熱分解法におけるブタノール溶媒の使用、イリジウムとタンタルの組成比やこれに関連した熱分解温度の範囲に限定されたものではない。なお、非晶質の酸化イリジウムの生成については、一般的に用いられるX線回折法によって、酸化イリジウムに対応する回折ピークが観察されないか、またはブロード化することによって知ることができる。
【0019】
さらに、本発明のコバルトの電解採取用陽極を作製する方法の中で、熱分解法によって導電性基体上に非晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層を形成する方法について述べる。例えば、ルテニウムイオンまたはルテニウム含有化合物を溶解したブタノール溶液をチタン基体上に塗布し、これを360℃で熱分解すると、チタン基体上に非晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層が形成される。また、ルテニウムイオンまたはルテニウム含有化合物とチタンイオンまたはチタン含有化合物を溶解したブタノール溶液をチタン基体上に塗布してこれを熱分解するとき、例えばブタノール溶液中のルテニウムとチタンのモル比が30:70であれば、熱分解温度を400℃から340℃の範囲にすると、非晶質の酸化ルテニウムを含む酸化ルテニウムと酸化チタンからなる触媒層が形成される。このように熱分解法において非晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層を導電性基体上に形成する方法では、チタン基体に塗布する溶液中に含まれる金属成分、金属成分の組成、熱分解温度によって触媒層中に非晶質の酸化ルテニウムが含まれるかどうかが変化する。さらに、非晶質の酸化ルテニウムが含まれる触媒層を形成する条件は、塗布する溶液に用いる溶媒の種類や熱分解を促進するために塗布する溶液に追加されるような添加剤の種類や濃度によっても変化する。したがって、本発明における非晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層を形成する際の条件は、上記に述べた熱分解法におけるブタノール溶媒の使用、ルテニウムとチタンの組成比やこれに関連した熱分解温度の範囲に限定されたものではない。なお、非晶質の酸化ルテニウムの生成については、一般的に用いられるX線回折法によって、酸化ルテニウムに対応する回折ピークまたは酸化ルテニウムを含む固溶体に対応する回折ピークが観察されないか、またはブロード化することによって知ることができる。
【0020】
また、本発明は、触媒層が非晶質の酸化イリジウムと、チタン、タンタル、ニオブ、タングステン、およびジルコニウムから選ばれた金属の酸化物とを含むことを特徴とするコバルトの電解採取用陽極である。非晶質の酸化イリジウムに、チタン、タンタル、ニオブ、タングステン、およびジルコニウムから選ばれた金属の酸化物を添加することによって、酸化イリジウムの消耗および導電性基体からの剥離・脱落などが抑制され、触媒層の脆化を防ぐことによって、電極の耐久性を向上させることができるという作用を有する。この際、触媒層中の金属元素については、酸化イリジウムは金属換算で45~99原子%、特に50~95原子%であり、酸化イリジウムと混合する金属酸化物は金属換算で55~1原子%、特に50~5原子%が好適である。
【0021】
また、本発明は、触媒層が非晶質の酸化イリジウムおよび非晶質の酸化タンタルを含むことを特徴とするコバルトの電解採取用陽極である。触媒層に非晶質の酸化イリジウムとともに非晶質の酸化タンタルが含まれると、酸化タンタルは触媒層中における酸化イリジウムの分散性を高め、かつ酸化イリジウム単独の場合に比べてバインダー的な作用で触媒層の緻密性を向上させることによって、酸素発生に対する過電圧をより低くすると同時に、耐久性を高めるという作用を有する。また、非晶質の酸化タンタルは酸化イリジウムの非晶質化を促進するという作用を有する。
【0022】
また、本発明は、触媒層が非晶質の酸化ルテニウムと酸化チタンを含むことを特徴とするコバルトの電解採取用陽極である。触媒層に非晶質の酸化ルテニウムとともに酸化チタンが含まれると、酸化チタンは触媒層中における酸化ルテニウムの非晶質化を促進し、かつ酸化ルテニウム単独の場合に比べてバインダー的な作用で触媒層全体の消耗・剥離・脱落・クラックの生成などを抑制し、塩素発生に対する過電圧をより低くすると同時に、耐久性を高めるという作用を有する。
【0023】
また、本発明は、導電性基体と触媒層との間に耐食性の中間層を有することを特徴とするコバルトの電解採取用陽極である。ここで、耐食性の中間層としては、タンタル又はその合金などが好適であり、長期間の使用において触媒層を浸透した酸性電解液が導電性基体を酸化・腐食させることを防止することにより、電極の耐久性を向上させることができるという作用を有する。中間層の形成方法としては、スパッタリング法、イオンプレ-ティング法、CVD法、電気めっき法などが使用される。
【0024】
また、本発明は、上記に示したいずれかのコバルトの電解採取用陽極を用いて電解することを特徴とするコバルトの電解採取法である。
【0025】
また、本発明は、上記のコバルトの電解採取法であって、塩化物系電解液を用いることを特徴とするコバルトの電解採取法、または硫酸系電解浴を用いて電解することを特徴とするコバルトの電解採取法である。ここで、塩化物系電解液と硫酸系電解液はいずれもコバルトの電解採取に一般に用いられる電解液を含み、塩化物系電解液では少なくとも+2価のコバルトイオンと塩化物イオンが含まれ、かつpHが酸性に調整されており、また硫酸系電解液では少なくとも+2価のコバルトイオンと硫酸イオンが含まれ、かつpHが酸性に調整された電解液である。塩化物系電解液中で、非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層を導電性基体上に形成した電解採取用陽極を用いてコバルトの電解採取を行うと、先に述べたように陽極上での酸素発生が促進されることで、オキシ水酸化コバルトの生成が抑制される。また、塩化物系電解液中で、非晶質の酸化ルテニウムを含む触媒層を導電性基体上に形成した電解採取用陽極を用いてコバルトの電解採取を行うと、先に述べたように陽極上での塩素発生が促進されることで、オキシ水酸化コバルトの生成が抑制される。さらに、硫酸系電解液中または塩化物系電解液中で、非晶質の酸化イリジウムを含む触媒層を導電性基体上に形成した電解採取用陽極を用いてコバルトの電解採取を行うと、酸素発生が著しく促進されることによってオキシ水酸化コバルトの生成をほぼ完全に抑止することができる。さらに、本発明は、硫酸系電解液中で、非晶質の酸化イリジウムおよび非晶質の酸化タンタルを含む触媒層を導電性基体上に形成した電解採取用陽極を用いることを特徴とするコバルトの電解採取法であり、オキシ水酸化コバルトの生成を抑止する効果が極めて顕著になるとともに、電解採取用陽極の耐久性が高いことで安定した電解採取が長期間可能になる。
【0026】
なお、本発明はコバルトの電解採取に用いる電解採取用陽極およびコバルトの電解採取法であり、コバルト鉱から抽出した+2価のコバルトイオンを含む電解液を用いるプロセスを通して説明したが、このようなプロセスで製造された高純度のコバルトが様々な目的や用途に対して使用され、その後使用済みのコバルトを回収して再び+2価のコバルトを抽出し、電解によって高純度のコバルトを製造するようなリサイクルプロセスまたは回収プロセスの場合にももちろん有効である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば下記の効果を奏する。
1)コバルトの電解採取において、酸素発生または塩素発生の電位が低く、かつオキシ水酸化コバルトによる電位の上昇が抑制されることから、電解電圧を大幅に低減することが可能となり、同量のコバルト金属を採取するのに必要な使用電力を大幅に低減することができるという効果を有する。
2)また、使用電力を低減できることによって、電解コストおよびコバルトの製造コストを大幅に削減することが可能になるという効果を有する。
3)また、陽極上へのオキシ水酸化コバルトの析出が抑制されることから、これらが起こる場合にオキシ水酸化コバルトによって陽極上の有効表面積が制限され、または陽極上での電解可能な面積が不均一となり、陰極上にコバルトが不均一に析出して回収が容易でなくなったり、平滑性の乏しいコバルトが生成して、採取されるコバルト金属の品質が低下するのを抑制することができるという効果を有する。
4)また、上記のような理由で陰極上に不均一に成長したコバルトが、陽極に達してショートし、電解採取ができなくなることを防止することができるという効果を有する。
5)また、上記のようにオキシ水酸化コバルトによってコバルトが不均一にかつデンドライト成長することが抑制されるため、陽極と陰極の極間距離を短くすることができ、電解液のオーム損による電解電圧の増加を抑制できるという効果を有する。
6)また、陽極上へのオキシ水酸化コバルトの析出が抑制されることから、定期的にこれを取り除く作業が低減され、かつオキシ水酸化コバルトの除去のために電解を休止する必要性が抑えられるため、連続的により安定した電解採取作業が可能になるという効果を有する。
7)また、オキシ水酸化コバルトの析出による陽極の劣化や、強固に密着したオキシ水酸化コバルトを除去する際に、陽極の触媒層が剥離するといった除去作業にともなう陽極の劣化が抑制されるため、陽極の寿命が長くなるという効果を有する。
8)また、電解採取に用いられる電解液中の+2価のコバルトイオンが電解中に陽極上で消費されることが少なくなるため、電解液からの+2価のコバルトイオンの無駄な消費を抑制することができるという効果を有する。
9)また、上記のようにオキシ水酸化コバルトの陽極への析出による様々な問題が解消されることによって、安定で連続的な電解採取が可能になり、コバルトの電解採取における保守・管理作業を低減することができるとともに、得られるコバルト金属の製品管理が容易になるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施例、比較例を用いてより詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
市販のチタン板(長さ5cm、幅1cm、厚さ1mm)を10%のシュウ酸溶液中に90℃で60分間浸漬してエッチング処理した後、水洗し、乾燥した。6vol%の濃塩酸を含むブタノール(n-C4H9OH)溶液に、塩化イリジウム酸六水和物(H2IrCl6・6H2O)と五塩化タンタル(TaCl5)がモル比で80:20となるように、かつイリジウムとタンタルの合計が金属換算で70mg/mLとして塗布液を調製した。この塗布液を上記チタン板に塗布した後、120℃で10分間乾燥し、次いで360℃に保持した電気炉内で20分間熱分解した。上記の塗布、乾燥、焼成を5回繰り返して、チタン板上に触媒層を形成した電極を作製した。この電極をX線回折法により構造解析した結果、X線回折像にはIrO2に相当する回折ピークは認められず、またTa2O5に相当する回折ピークも認められなかったことから、この電極の触媒層が非晶質の酸化イリジウムと非晶質の酸化タンタルから形成されていることを確認した。次に、この電極の触媒層をポリテトラフルオロエチレン製テープで被覆して面積を1cm2に規制したものを作用極、白金板を対極として、0.3
mol/LのCoCl2を蒸留水に溶解し、さらに塩酸を加えてpHを2.4とした塩化物系電解液を用いて、液温60℃、走査速度5mV/sの条件でサイクリックボルタモグラムを測定した。この際、参照電極にはKCl飽和溶液に浸漬したAg/AgCl電極を用いた。
【0030】
(比較例1)
実施例1における電極の作製方法において、熱分解温度を360℃から470℃に変えた以外は同じ方法で電極を作製した。得られた電極をX線回折法により構造解析した結果、IrO2に相当する回折ピークは認められたが、Ta2O5に相当する回折ピークは認められなかったことから、触媒層が結晶質の酸化イリジウムと非晶質の酸化タンタルから形成されていることを確認した。次に、実施例1に記した条件・方法でサイクリックボルタモグラムを測定した。
【0031】
実施例1および比較例1で得られたサイクリックボルタモグラムを図1に示した。図1から、比較例1では大きな酸化電流とピークを伴う大きな還元電流が見られたのに対して、実施例1では酸化電流が比較例1よりも非常に小さく、かつ還元電流は見られなかった。比較例1で見られた酸化電流はオキシ水酸化コバルトの生成であり、またピークを伴う大きな還元電流は電極上に付着したオキシ水酸化コバルトの還元である。一方、実施例1では酸化電流が見られたが、還元電流は見られなかったことから、酸化反応はオキシ水酸化コバルトの生成ではなく酸素および塩素の発生である。すなわち、実施例1では比較例1に対してオキシ水酸化コバルトの生成が顕著に抑制された。
【0032】
(実施例2)
市販のチタン板(長さ5cm、幅1cm、厚さ1mm)を10%のシュウ酸溶液中に90℃で60分間浸漬してエッチング処理した後、水洗し、乾燥した。次に、ブタノール(n-C4H9OH)に
塩化ルテニウム三水和物(RuCl3・3H2O)とチタニウム‐n‐ブトキシド(Ti(C4H9O)4)がモル比で30:70となるように、かつルテニウムとチタンの合計が金属換算で70mg/mLとして塗布液を調製した。この塗布液を上記チタン板に塗布した後、120℃で10分間乾燥し、次いで360℃に保持した電気炉内で20分間熱分解した。上記の塗布、乾燥、焼成を5回繰り返して、チタン板上に触媒層を形成した電極を作製した。この電極をX線回折法により構造解析した結果、X線回折像にはRuO2に相当する回折角にピークは見られず、RuO2とTiO2の固溶体に相当する弱くブロードな回折線が見られたことから、この電極の触媒層に非晶質の酸化ルテニウムが含まれていることを確認した。次に、この電極の触媒層をポリテトラフルオロエチレン製テープで被覆して面積を1cm2に規制したものを作用極、白金板を対極として、0.9
mol/LのCoCl2を蒸留水に溶解し、さらに塩酸を加えてpHを1.6とした塩化物系電解液を用いて、液温60℃、走査速度25mV/sの条件でサイクリックボルタモグラムを測定した。この際、参照電極にはKCl飽和溶液に浸漬したAg/AgCl電極を用いた。
【0033】
(比較例2)
実施例2における電極の作製方法において、熱分解温度を360℃から500℃に変えた以外は同じ方法で電極を作製した。得られた電極をX線回折法により構造解析した結果、X線回折像にはRuO2、およびRuO2とTiO2の固溶体に相当する明確な回折ピークが見られたことから、この電極の触媒層には結晶質の酸化ルテニウムはあるが、非晶質の酸化ルテニウムは含まれていないことを確認した。次に、実施例2に記した条件・方法でサイクリックボルタモグラムを測定した。
【0034】
実施例2および比較例2で得られたサイクリックボルタモグラムを図2に示した。図2から、比較例2では大きな酸化電流とピークを伴う大きな還元電流が見られたのに対して、実施例2では酸化電流が比較例2よりも小さく、かつ還元電流も大幅に減少した。比較例2で見られた酸化電流はオキシ水酸化コバルトの生成であり、またピークを伴う大きな還元電流は電極上に付着したオキシ水酸化コバルトの還元である。一方、実施例2では酸化電流と還元電流はともに比較例2に対して小さくなり、実施例2では比較例2に対してオキシ水酸化コバルトの生成が顕著に抑制された。
【0035】
(実施例3)
実施例2と同じ方法で電極を作製した。この電極の触媒層をポリテトラフルオロエチレン製テープで被覆して面積を1cm2に規制したものを陽極、白金板を陰極として、0.9
mol/ LのCoCl2を蒸留水に溶解し、さらに塩酸を加えてpHを1.6とした塩化物系電解液を用いて、液温60℃、電流密度10mA/cm2、電解時間40分として定電流電解した。また、電解前と電解後の陽極の質量を測定した。
【0036】
(比較例3)
比較例2と同じ方法で電極を作製した。次に、実施例3に記した条件・方法で定電流電解し、また電解前と電解後の陽極の質量を測定した。
【0037】
実施例3と比較例3において、電解後に比較例3の陽極上には析出物が見られ、電解前後の質量変化から6.9mg/cm2のオキシ水酸化コバルトが析出していた。一方、実施例3の陽極で析出したオキシ水酸化コバルトは1.2mg/cm2であり、比較例3の析出量の17%にまで大きく減少した。
【0038】
(実施例4)
実施例1における電極の作製方法において、熱分解温度を360℃から340℃に変えた以外は同じ方法で電極を作製した。この電極をX線回折法により構造解析した結果、X線回折像にはIrO2に相当する回折ピークは認められず、またTa2O5に相当する回折ピークも認められなかったことから、この電極の触媒層が非晶質の酸化イリジウムと非晶質の酸化タンタルから形成されていることを確認した。次に、この電極の触媒層をポリテトラフルオロエチレン製テープで被覆して面積を1cm2に規制したものを作用極、白金板を対極として、0.3
mol/LのCoSO4・7H2O を蒸留水に溶解し、さらに硫酸を加えてpHを2.4とした硫酸系電解液を用いて、液温60℃、走査速度5mV/sの条件でサイクリックボルタモグラムを測定した。この際、参照電極にはKCl飽和溶液に浸漬したAg/AgCl電極を用いた。図3に示したサイクリックボルタモグラムから、この電極では酸化電流は流れるが、還元電流は見られなかった。すなわち、オキシ水酸化コバルトの生成は完全に抑止された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、コバルト鉱から+2価のコバルトイオンを抽出した溶液を用いて高純度のコバルトを電解によって採取するコバルトの電解採取や、リサイクルのために回収されたコバルト含有物から+2価のコバルトイオンを溶解させた溶液を用いて電解によってコバルト金属を回収するなどのコバルトの電解採取に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例1と比較例1で得られたサイクリックボルタモグラムである。
【図2】実施例2と比較例2で得られたサイクリックボルタモグラムである。
【図3】実施例4で得られたサイクリックボルタモグラムである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2