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明細書 :ドーパミンシグナル伝達阻害剤のスクリーニング方法、スクリーニング用組成物及び組成物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5307565号 (P5307565)
公開番号 特開2010-164505 (P2010-164505A)
登録日 平成25年7月5日(2013.7.5)
発行日 平成25年10月2日(2013.10.2)
公開日 平成22年7月29日(2010.7.29)
発明の名称または考案の名称 ドーパミンシグナル伝達阻害剤のスクリーニング方法、スクリーニング用組成物及び組成物
国際特許分類 G01N  33/15        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
FI G01N 33/15 Z
G01N 33/50 Z
G01N 33/48 N
請求項の数または発明の数 3
全頁数 7
出願番号 特願2009-008572 (P2009-008572)
出願日 平成21年1月19日(2009.1.19)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2008年8月22日 日本味と匂学会第42回大会事務局発行の「日本味と匂学会第42回大会 プログラム・予稿集」に発表
審査請求日 平成23年12月21日(2011.12.21)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】木村 幸太郎
【氏名】桂 勲
個別代理人の代理人 【識別番号】100078662、【弁理士】、【氏名又は名称】津国 肇
【識別番号】100113653、【弁理士】、【氏名又は名称】束田 幸四郎
【識別番号】100116919、【弁理士】、【氏名又は名称】齋藤 房幸
【識別番号】100141357、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 音哉
審査官 【審査官】加々美 一恵
参考文献・文献 生化学,2007年,抄録CD ,Page3P-0834
Neuroscience Research,2008年,Vol.61, No.Supplement 1,,Page S48 01-H03
AROMA RESEARCH,2011年,Vol.12, No.1,p50-51
調査した分野 G01N 33/15
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
事前処理として線虫の洗浄工程にメッシュカラムを用い、ドーパミンD2型レセプターと候補物質とを接触させることを含む、事前刺激による匂い忌避行動の増強を阻害する物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
ハロペリドールおよび/またはロキサピンを含む、事前刺激による匂い忌避行動の増強を阻害する物質のスクリーニング用組成物。
【請求項3】
ハロペリドールおよび/またはロキサピンを含む、事前刺激による匂い忌避行動の増強を阻害するための組成物。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ドーパミンシグナル伝達阻害剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感覚応答における可塑性は、動物における神経機能の基礎の一つである。この可塑性の一つの単純な形態は、たとえば、順応や慣れのような、刺激に対する事前曝露後の感覚応答の低下である。対照的に、動物の感覚応答の増強、特に、外的無条件刺激を伴わないときについては、極めて限られた研究しかなされていない。よく研究された二つの例は、哺乳類の末梢痛覚における感受性の増加(感作)及びアメフラシにおける鰓引き込み反射の感作であり、これらの双方とも、おそらくさらなる障害から動物を防護するために、侵害刺激によって生じる。非侵害刺激については、事前刺激後の増強された匂い応答が、マウス及びヒトにおいて報告されている。これらの増強された匂い応答は、生殖及び生存において重大な役割を奏すると考えられるが、その分子的な基礎はいまだ知られていない。
【0003】
最近本発明者らは、線虫(C. elegans)が嫌いな匂いで事前に刺激されると、嫌いな匂いをより強く避けるようになることを発見した(非特許文献1)。しかし、この線虫における事前刺激による匂い忌避行動の増強の下方制御については、何らの知見も得られていなかった。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】木村幸太郎及び桂勲、日本味と匂学会第第42回大会、線虫C. elegansの事前刺激による匂い忌避行動の増強はドーパミンによって制御される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、ドーパミンシグナル伝達阻害剤のスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、線虫C. elegansの事前刺激による匂い忌避行動の増強が、ドーパミンD2レセプターのアンタゴニストであるハロペリドールによって抑制されることを見出して、本発明を完成するに到った。すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0007】
[1]ドーパミンD2型レセプターと候補物質とを接触させることを含む、事前刺激による匂い忌避行動の増強を阻害する物質のスクリーニング方法。
[2]ドーパミンD2型レセプターアンタゴニストを含む、事前刺激による匂い忌避行動の増強を阻害する物質のスクリーニング用組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の事前刺激による化学物質刺激応答の増強を制御する物質のスクリーニング方法は、動物におけるドーパミンシグナル伝達の解明のためのリサーチツールとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】D2型ドーパミンレセプターのアンタゴニストは、2-ノナノン忌避の増強を抑制する。動物を90nLの2-ノナノンへの事前刺激の3~6時間前及び曝露中にアンタゴニストで処理した。SCH23390又はロキサピンをdHOに溶解させ、ハロペリドールを1%アスコルビン酸に溶解させた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の「ドーパミンレセプター」とは、主に中枢神経系にあるGタンパク質結合レセプターの一種であり、神経伝達物質であるドーパミンと結合する。哺乳類には5つのドーパミンレセプター(D1-D5)が存在し、これらはD1型とD2型に分類される。本発明のドーパミンレセプターは、好ましくは、ドーパミンD2型レセプターである。

【0011】
本発明の「事前刺激」とは、化学刺激に対する応答行動のアッセイ前に、特定の化学刺激に一定時間曝すことである。「化学刺激」とは揮発性化学物質(匂い)、水溶性化学物質(味)、または匂いや味以外の形で神経細胞に感知される化学物質である。本発明での化学刺激は、好ましくは2-ノナノンである。また、「一定時間曝す」とは分~日の間でさまざまな時間が考えられ、さらに曝す条件もその時間連続して曝露する場合と反復して曝露する場合がある。本発明での好適な条件は、1時間程度の連続した曝露である。

【0012】
本発明の「化学物質刺激応答」とは、動物が揮発性化学物質(匂い)や水溶性化学物質(味)に対して、行動レベルや神経細胞のレベルにおいて、活動の変化を示すことである。本発明での好適な条件は、匂い物質2-ノナノンに対する忌避行動である。

【0013】
本発明の「化学物質刺激応答」の測定方法としては、従来公知の方法を用いることができるが、たとえば、Bargmannらに記載された方法(Bargmann, C. I., et al., Odorant-selective genes and Neurons Mediate Olfactin in C. elegans. Cell 74, 515-527 (1993))を挙げることができる。


【0014】
本発明の「事前刺激による化学物質刺激応答の制御のための組成物」は、有効成分として、ドーパミンレセプターアンタゴニストを含むことを特徴とし、ドーパミンレセプターアンタゴニストの事前刺激による化学物質刺激応答の制御機能を損なわない限り、媒体等の従来公知の任意の成分を追加することができる。
【実施例1】
【0015】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
線虫株
C.elegansの培養及び取り扱い方法は、基本的に、Brennerに記載されたとおりに行った(The genetics of Caenorhabditis elegans. Genetics 77, 71-94 (1974))。野生型C.elegans変種Bristol株(N2)を米国ミネソタ大学のCaenorhabditis Genetics Centerから入手した。
【実施例1】
【0017】
行動アッセイ
行動分析のための動物の培養のために、標準的な直径6cmのNGM寒天プレートを用いた。各プレートは、E.coli株OP50をプレート上に塗布し、室温で2日間増殖させた菌叢を含んだ。
【実施例1】
【0018】
匂い忌避アッセイを、下記の変更点を除き、Troemel et al.と同様な方法で行った(Troemel, E.R., et al., Reprogramming chemotaxis response: sensory neurons define olfactory preferences in C. elegans. Cell 91, 161-169 (1977))。
【実施例1】
【0019】
(1)培養、事前処理及びアッセイにおけるバッファー及び培地の組成変化の解釈における複雑性を排除するために、事前処理、アッセイ及び培養についてNGM寒天培地及びNGMバッファー(寒天を除きNGM寒天培地と同じ組成)を使用した。また、不快な匂い刺激によって寒天内に動物が掘り進むことを防ぐために、事前処理には1.8%、アッセイには2.5%の高濃度寒天を用いた。寒天は細菌培養培地用を用いた(和光純薬)。
【実施例1】
【0020】
(2)通常の方法では10分以上を要する、線虫の洗浄工程における時間の消費を最小限にするために、P1000チップの広い方の端を少し焼き、ナイロンメッシュ(φ32μm又は20μm、NBC)上に押し付け、封をした。次いで、このメッシュをチップの直ぐ外側でカットし、チップを広い端から約1/3でカットし、他方を開放させた。成体線虫を培養プレートからNGMバッファーで洗い落とし、このメッシュカラム内に入れた。メッシュカラムの底を折り畳んだキムワイプ上に押し付け、バッファーを急いで除去した。さらに線虫をカラム内でNGMバッファーを用いて一度洗浄し、~50μlのNGMバッファーに懸濁し、約20~40個体の線虫を含む3μlの懸濁液を細菌のいない9cmのNGMプレートの中央に置いた。このバッファーが1.5分程度で乾燥した直後に、2つのスポットに匂いをスポットすることでアッセイを開始した。洗浄の開始からアッセイの開始までは、5分以内に終了した。アッセイの開始後12分で各プレートの蓋にCHClを添加することによってアッセイを停止した。各条件のアッセイ及び各株についてのアッセイを3枚ずつ平行して行い、このアッセイを2-4日で反復した。
【実施例1】
【0021】
(3)忌避インデックスを算出するために、9cmのプレートを同一の幅の6つの区画に分けた。各区画内の線虫数を数え、忌避インデックスを下記式を用いて算出した。
忌避インデックス=ΣWiNi/N
式中Wiは、各区画の重みであり(区画1-6について、それぞれ-2.5、-1.5、-0.5、+0.5、+1.5及び+2.5)、Niは、各区画の線虫数であり、そしてNは、プレートの全ての6つの区画の線虫の総数である。プレートの中央から動かなかった線虫は数えなかった。重みは、プレートの中央から各区画の中央への距離に比例することから、忌避インデックスは、プレート上の線虫の位置の平均重心を示す。
【実施例1】
【0022】
事前刺激をColbert and Bargmann(Odorant-specific adaptation pathways generate olfactory plasticity in C. Elegans. Neuron 14, 803-812 (1995))に記載された方法にいくつかの修正を加えて行った。3-6枚のNGMプレート上で成長させた線虫をNGMバッファーで洗浄し、新鮮な3枚のNGMプレート(表面に生育させた細菌有り又は無し)に移した。バッファーの乾燥後に、匂い物質をプレートの蓋の6つのNGM寒天小片(五角形及び中心)の表面から揮発させ、このプレートをパラフィルムで密封した。室温で60-70分間放置した後、線虫をNGMバッファーで洗浄し、忌避アッセイに付した。曝露に用いた匂い物質の量は、30又は90nLの1-オクタノール(1%又は3%の3μL)、又は30又は90nLの2-ノナノン(5%又は15%の0.6μL)であった。
【実施例1】
【0023】
薬物処理
ハロペリドール(10mM、Sigma)、ロキサピン(5mM、Sigma)又はSCH23390(10mM、Sigma)を1%アスコルビン酸(ハロペリドール)又はdHO(他の薬剤)に溶解させた。1%アスコルビン酸又はdHOを無薬剤コントロールとして用いた。全ての溶液は、調製の間の他の細菌のコンタミネーションを防止するために250μg/mlストレプトマイシンを含んだ。0.1mlの上記薬剤溶液をNGM寒天プレート上に塗布し、10-20分放置し、乾燥させた。2-ノナノンへの事前刺激の前の飼育に用いるプレートについては、50μLの濃縮細菌OP-50(100mlのLB培地中で37℃で一晩増殖させ、遠沈し、2mlのdHOに懸濁した)と250mg/mlのストレプトマイシンを、等量の薬剤溶液と混合し、薬剤プレート上に注いだ。翌日、通常のNGMプレート上で培養した線虫をOP-50と一緒に薬剤プレートに移し、3~5時間20℃で維持した。そして線虫を忌避アッセイに直接用いるか(未処理)又は偽処理か事前刺激のためにOP-50無しの薬剤プレートに移した。
【実施例1】
【0024】
C.elegans体表の不透過性のために高濃度の薬剤を用いた。この研究に用いた濃度は、以前の研究と相違しない。たとえば、Weinshenker et al.による以前の研究(Genetic and pharmacological analysis of neurotransmitters controlling egg laying in C. elegans. J. Neurosci. 15, 6975-6985(1995))では、この研究と同様に、ドーパミンアンタゴニストを、0.75mg/mlの0.7mlの量をNGM寒天プレートの表面に塗布している(=0.53mg/プレート)。本研究のハロペリドールの場合には、プレート当たり0.1(事前刺激)又は0.125mL(事前の餌有りでの飼育)の3.75mg/ml(10mM;=0.38又は0.47mg)を塗布した。
【実施例1】
【0025】
統計解析
特に断りのない場合、各忌避インデックスは9回の独立した忌避アッセイから計算した。通常は、20-40匹の線虫を一つのプレートアッセイに用い、9回のアッセイで合計約200-300匹の線虫を用い、平均忌避インデックス(±SEM)を算出した。一つの株又は一つの条件の未処理、偽処理及び事前刺激線虫間の忌避インデックスの多重比較について、一方向性ANOVAとpost hoc Tukey test又はNewman-Keuls testをPrism ver.5.0(GraphPad Software)を用いて行った。
【実施例1】
【0026】
ドーパミンシグナル伝達は、2-ノナノン忌避の増強を制御する。
ドーパミンシグナル伝達の関与を確認するために、ドーパミンレセプターアンタゴニストを用いた薬理分析を行った。ドーパミンレセプターは、D1及びD2サブタイプに分類することができ、その機能は、それぞれ、cAMPシグナル伝達の上方制御及び下方制御のように、細胞内シグナル伝達を逆に制御する。向精神薬としても用いられるD2特異的アンタゴニストであるハロペリドールは、事前刺激線虫の増強を特異的に抑制した(図1、レーン13-15)。構造的には関連のないD1/D2アンタゴニストであり、向精神薬であるロキサピンも、この増強を完全に抑制した(図1、レーン7-9)。ロキサピンによる2-ノナノンに対する未処理での忌避行動の抑制(図1、レーン7)は、この薬剤の選択性が低いためである可能性が高い。対照的に、D1アンタゴニストであるSCH23390は、2-ノナノン忌避の増強には影響しなかった(図1、レーン4-6)。SCH23390を除き、ハロペリドール及びロキサピンが2-ノナノンの増強を抑制するという事実は、D2タイプのドーパミンレセプターが2-ノナノン忌避の増強に関与していることを示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の事前刺激による化学物質刺激応答の増強を制御する物質のスクリーニング方法は、線虫におけるドーパミンシグナル伝達の解明のためのリサーチツールとして有用である。
図面
【図1】
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