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明細書 :歯科・整形外科用樹脂組成物、その製造方法及び歯科・整形外科用成形品の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4517148号 (P4517148)
公開番号 特開2006-199622 (P2006-199622A)
登録日 平成22年5月28日(2010.5.28)
発行日 平成22年8月4日(2010.8.4)
公開日 平成18年8月3日(2006.8.3)
発明の名称または考案の名称 歯科・整形外科用樹脂組成物、その製造方法及び歯科・整形外科用成形品の製造方法
国際特許分類 A61K   6/00        (2006.01)
A61K   6/10        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
C08F   2/44        (2006.01)
A61C  13/007       (2006.01)
A61C  13/01        (2006.01)
FI A61K 6/00 D
A61K 6/10
A61L 27/00
C08F 2/44 C
A61C 13/01
請求項の数または発明の数 15
全頁数 16
出願番号 特願2005-013231 (P2005-013231)
出願日 平成17年1月20日(2005.1.20)
審査請求日 平成18年3月10日(2006.3.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】田仲 持郎
【氏名】鈴木 一臣
個別代理人の代理人 【識別番号】100113181、【弁理士】、【氏名又は名称】中務 茂樹
【識別番号】100114535、【弁理士】、【氏名又は名称】森 寿夫
【識別番号】100075960、【弁理士】、【氏名又は名称】森 廣三郎
審査官 【審査官】鶴見 秀紀
参考文献・文献 特開平11-140128(JP,A)
特開平07-049470(JP,A)
調査した分野 A61K 6/00
A61K 6/10
A61L 27/00
C08F 2/44
A61C 13/007
A61C 13/01
特許請求の範囲 【請求項1】
エステル基を有する繰り返し単位から構成される重合体(A)と、ビニルエステル単量体(B)とからなる樹脂組成物であって、ビニルエステル単量体(B)の炭素数が15以下であることを特徴とする歯科・整形外科用樹脂組成物。
【請求項2】
重合体(A)がポリアルキル(メタ)アクリレートである請求項1記載の歯科・整形外科用樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアルキル(メタ)アクリレートが、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート及びメチルメタクリレート-エチルメタクリレート共重合体からなる群から選択される少なくとも一種である請求項2記載の歯科・整形外科用樹脂組成物。
【請求項4】
ビニルエステル単量体(B)が、カルボン酸のビニルエステルである請求項1~3のいずれか記載の歯科・整形外科用樹脂組成物。
【請求項5】
ビニルエステル単量体(B)の炭素数が6以上である請求項1~4のいずれか記載の歯科・整形外科用樹脂組成物。
【請求項6】
ビニルエステル単量体(B)が分子内に2個以上のビニル基を有する請求項1~5のいずれか記載の歯科・整形外科用樹脂組成物。
【請求項7】
重合体(A)100重量部に対してビニルエステル単量体(B)20~200重量部を含有する請求項1~6のいずれか記載の歯科・整形外科用樹脂組成物。
【請求項8】
更に重合開始剤(C)を含有する請求項1~7のいずれか記載の歯科・整形外科用樹脂組成物。
【請求項9】
歯科用樹脂組成物である請求項1~8のいずれか記載の歯科・整形外科用樹脂組成物。
【請求項10】
粘膜調整材、機能印象材、裏装材、義歯床材及びマウスピース材からなる群から選択される少なくとも一種の歯科用樹脂組成物である請求項9記載の歯科・整形外科用樹脂組成物。
【請求項11】
重合体(A)の粉剤と、ビニルエステル単量体(B)の液剤とを混合して増粘させることを特徴とする請求項1~10のいずれか記載の歯科・整形外科用樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
重合体(A)の粉剤の平均粒子径が2~200μmである請求項11記載の歯科・整形外科用樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
更に重合開始剤(C)も加えて混合して増粘させる請求項11又は12記載の歯科・整形外科用樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項11~13のいずれか記載の方法によって製造された樹脂組成物を、増粘させた後に賦形する歯科・整形外科用成形品の製造方法。
【請求項15】
賦形した後、重合反応を進行させる請求項14記載の歯科・整形外科用成形品の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル基を有する繰り返し単位から構成される重合体とビニルエステル単量体とからなる医療用樹脂組成物、特に歯科用樹脂組成物に関する。また、樹脂組成物の製造方法及び成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
義歯を長期間使用することにより、歯槽堤の吸収などが発生し、次第に義歯粘膜面と義歯床下粘膜面の適合が悪くなる。その結果、床下粘膜面に局部的な過剰圧が加わることにより、義歯床下粘膜や歯槽堤に異常が発生する。義歯床下粘膜や歯槽堤に異常がある場合、義歯粘膜面を軟性樹脂組成物である粘膜調整材などで裏装することにより、咬合時に義歯から床下粘膜面に加わる圧力を緩和し、正常な状態へと回復させる。
【0003】
このような軟性樹脂組成物は、使用に際して、粉剤と液剤を混合することによりペースト状から餅状を経て、ゴム状へと、すなわち、粘性体から弾性体へと物理的に性状が変化することにその特徴がある。粉剤と液剤の混合物は、粘性状態で義歯粘膜面に流し込まれ、流動状態で口腔内に装着されて、義歯粘膜面と義歯床下粘膜面の空隙を満たし、時間とともに流動性の無い粘弾性体、あるいは弾性体へと物理的に性状が変化していく。粘弾性体、あるいは弾性体へと変化した軟性樹脂組成物は、通常3日~10日程度、長い場合では30日程度義歯床下粘膜面に接触した状態で口腔内に保持される。
【0004】
現在、市販されている軟性樹脂組成物の組成は、粉剤として、ポリアルキル(メタ)アクリレート、液剤としてフタル酸ジブチル(DBP)、ブチルフタリルグリコール酸ブチル(BPBG)、フタル酸ジベンジルブチル等に代表されるフタル酸エステル系の可塑剤とエタノールとの混合物が広く使用されている。しかし、フタル酸エステル系可塑剤は、エンドクリン阻害物質として生体に影響を与える可能性が指摘されており、除去が望まれている。また、エタノールは、粉剤と液剤を混合する際のポリアルキル(メタ)アクリレートの膨潤速度を大きくさせるために添加されるが、口腔内に刺激を与えたり、唾液中へ溶出したりする問題を有している。また、エタノールは、接触する義歯床に対しても膨潤性も有するため、義歯床の物性低下や変形などの問題を引き起こす場合もあった。
【0005】
特許文献1には、ブチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体又はポリブチルメタクリレートとポリエチルメタクリレートとの混合物からなる粉剤と、フタル酸エステルなどの芳香族カルボン酸エステルからなる液剤とを混合して使用される粘膜調整材が記載されている。特許文献1によれば、当該粘膜調整材はエタノールを含有しないために、使用時に刺激や臭気による患者の不快感がなくなるとされている。しかしながら、フタル酸エステル等はエンドクリン阻害物質であるし、その他の芳香族カルボン酸エステルも、生体に対する影響が懸念されている。
【0006】
特許文献2には、(メタ)アクリレート単量体と、酸エステル系可塑剤と、ポリアルキル(メタ)アクリレートと重合開始剤とからなる義歯床用軟性樹脂組成物が記載されている。特許文献2によれば、当該樹脂組成物においては、フタル酸エステル系可塑剤を使用する代わりに酸エステル系可塑剤を使用することによって、エンドクリン阻害物質を使用しないでも、義歯床用軟性樹脂材料に求められる適度な柔らかさ及び義歯床と口腔粘膜との適合性等の性能を満たすことができるとされている。しかしながら、酸エステル系可塑剤を使用した場合には、ポリアルキル(メタ)アクリレートの膨潤速度が遅く、作業性が低下するという問題を有しており、特許文献2の実施例においてはエタノールを配合する場合もあった。また、アクリル系モノマーを使用するので、それによる口腔内への刺激も問題になりやすかった。
【0007】
特許文献3には、不飽和二重結合を有する重合性モノマーと、ポリアルキル(メタ)アクリレートと、重合触媒とが混合されてなり、前記ポリアルキル(メタ)アクリレートの少なくとも一部が前記重合性モノマー中に溶解していることを特徴とする義歯床用樹脂材料が記載されている。これにより、粉剤と液剤とを計量、混合、練和して一定時間放置する操作が必要なく、予めペースト状となっていて操作が簡略化できるとされている。しかしながら、熱や紫外線などを利用して硬化させる必要があるために、口腔内での印象採取には必ずしも適さない場合も多かった。
【0008】

【特許文献1】特開平3-20204号公報
【特許文献2】特開2002-104913号公報
【特許文献3】特開2000-254152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、刺激性の物質の溶出が抑制され、エンドクリン阻害物質等による人体への悪影響が低減し、しかも操作性よく調製することの可能な、医療用途に適した樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、エステル基を有する繰り返し単位から構成される重合体(A)と、ビニルエステル単量体(B)とからなる樹脂組成物であって、ビニルエステル単量体(B)の炭素数が15以下であることを特徴とする歯科・整形外科用樹脂組成物を提供することによって解決される。このとき、重合体(A)がポリアルキル(メタ)アクリレート、特に、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート及びメチルメタクリレート-エチルメタクリレート共重合体からなる群から選択される少なくとも一種であることが好適である。また、ビニルエステル単量体(B)が、カルボン酸のビニルエステルであること、ビニルエステル単量体(B)の炭素数が6以上であること、ビニルエステル単量体(B)が分子内に2個以上のビニル基を有することが、いずれも好適である。
【0011】
前記樹脂組成物において、重合体(A)100重量部に対してビニルエステル単量体(B)20~200重量部を含有することが好適である。また、更に重合開始剤(C)を含有することも好適である。本発明の歯科・整形外科用樹脂組成物の好適な実施態様は歯科用樹脂組成物であり、具体的には、粘膜調整材、機能印象材、裏装材、義歯床材及びマウスピース材からなる群から選択される少なくとも一種として好適に使用される。
【0012】
また、上記課題は、重合体(A)の粉剤と、ビニルエステル単量体(B)の液剤とを混合して増粘させることを特徴とする前記歯科・整形外科用樹脂組成物の製造方法を提供することによっても解決される。このとき、重合体(A)の粉剤の平均粒子径が2~200μmであることが好適である。また、更に重合開始剤(C)も加えて混合して増粘させることも好適である。前記方法によって製造された樹脂組成物を、増粘させた後に賦形する歯科・整形外科用成形品の製造方法も本発明の好適な実施態様である。このとき、賦形した後、重合反応を進行させることも好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の樹脂組成物は、刺激性の物質の溶出が抑制され、エンドクリン阻害物質等による人体への悪影響も低減されているので、人体、特に口腔内に対して、安全に使用することができる。また、粉剤と液剤とを混合する際の粘度増加速度も適切な範囲に設定できるので、操作性も良好である。しかも、必要に応じて架橋反応を進行させることも可能であるから、樹脂組成物からの溶出成分をさらに低減し、適度な硬さの成形品を得ることも容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の樹脂組成物は、エステル基を有する繰り返し単位から構成される重合体(A)と、ビニルエステル単量体(B)とからなるものである。
【0015】
本発明の樹脂組成物を、粉剤と液剤を混合することによって調製する場合には、粉剤と液剤を混合することにより水あめ状から餅状を経てゴム状へと、すなわち、粘性体から弾性体へと物理的に性状が変化する。例えば、口腔内の形状にきれいに沿わせるためには、流動性を未だ保っている水あめ状のときに口腔内へ導入し、患者の負担にならない時間内で弾性体に変化することが好ましい。したがって、上記性状の変化が早すぎても遅すぎても好ましくない。従来液剤として広く使用されていたフタル酸エステルは、従来粉剤として広く使用されていたポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレートあるいはメチルメタクリレート-エチルメタクリレート共重合体を膨潤させる速度が遅く、エタノールの併用を必要としていた。また、脂肪酸エステル系の可塑剤も提案されているが、本件明細書の比較例にも記載されているように、やはりそれらの重合体を膨潤させる速度が十分ではなかった。
【0016】
これに対して、本発明の樹脂組成物では、エステル基を有する繰り返し単位から構成される重合体(A)と混合する化合物として、ビニルエステル単量体(B)を使用することを最大の特徴とする。ビニルエステル単量体(B)は、通常は重合性モノマーとして使用されることが多いものであるが、ここでは可塑剤としての性能にも着目したのである。実際、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレートあるいはメチルメタクリレート-エチルメタクリレート共重合体からなる粉剤と混合してみたところ、十分に速い速度で粉剤を膨潤させられることが明らかになった。したがって、従来の可塑剤であるフタル酸エステル類や脂肪族エステル類を使用するときのようにエタノールを配合する必要がない。
【0017】
また従来、医療用樹脂組成物、特に歯科材料用樹脂組成物においては、樹脂組成物中で重合反応を進行させるための単量体としてはアルキル(メタ)アクリレートが広く用いられてきた。その主たる理由は、重合反応性が良好なためであり、重合反応後に未反応の残存モノマーが少ない樹脂組成物が得られるのが特徴であった。しかしながら、反応性が良好であるために、時には反応熱や反応時の収縮が問題になることがあるし、生体に対する刺激性に問題を有する場合もあった。これに対し、ビニルエステル単量体(B)を使用した場合には、確かに重合反応性は低下するが、十分に実用的なレベルでの重合反応が可能である。しかも、ポリビニルエステルはポリアルキル(メタ)アクリレートに比べてTgが低く柔軟であり、重合反応後に得られる成形品を強靭なものとすることも容易である。また、仮に未反応の残存モノマーが残ったとしても、それほど溶出するわけではなく、重合反応の進行によって溶出は効果的に抑制されるし、生体に対する安全性も高い化合物である。
【0018】
まず、重合体(A)について説明する。重合体(A)は、エステル基を有する繰り返し単位から構成されるものである。ここで、繰り返し単位に含まれるエステル基は、ポリアルキル(メタ)アクリレートやポリビニルエステルのように側鎖に含まれるものであっても構わないし、ポリエステルのように主鎖に含まれるものであっても構わない。
【0019】
なかでも重合体(A)として好適に使用されるのが、ポリアルキル(メタ)アクリレートである。ポリアルキル(メタ)アクリレートは、比較的ガラス転移温度の高い非晶性の重合体であり、懸濁重合によって本発明の実施に好適な粒径の粉剤を容易に得ることも可能である。中でも、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート及びメチルメタクリレート-エチルメタクリレート共重合体からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。この場合には、ガラス転移点が高いために、膨潤した後も室温付近で形態保持性の良好な成形体になりやすい。より硬度の高い成形体を得たい場合には、ポリメチルメタクリレートを使用することが好適であるが、膨潤速度を考慮すれば、ポリエチルメタクリレート又はメチルメタクリレート-エチルメタクリレート共重合体が好適である。
【0020】
重合体(A)として好適に使用される他のものとしては、ポリエステル、特に脂肪族ポリエステルが例示される。脂肪族ポリエステルは生分解性を有するものが多く、生体適合性が良好で、医療用の樹脂材料として好適に使用されるものである。脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトンなどが例示されるが、これらは、他の共重合成分が共重合されたものであってもよい。なかでも、生分解性と生体親和性との観点からポリ乳酸が好適である。このような脂肪族ポリエステルからなる粉剤とビニルエステル単量体(B)からなる液剤とを混合した場合には、比較的速やかに増粘させることが可能である。
【0021】
重合体(A)の分子量は特に限定されないが、通常5,000~2,000,000程度の重量平均分子量を有するものが使用される。分子量が低すぎる場合には、樹脂組成物が柔軟になりすぎて、得られる成形物の形態保持性が悪化するおそれがある。分子量はより好適には50,000以上であり、さらに好適には100,000以上である。一方、分子量が高すぎる場合には、樹脂組成物が硬くなりすぎるおそれがある。分子量はより好適には1,500,000以下であり、さらに好適には1,000,000以下である。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
【0022】
ビニルエステル単量体(B)としては、特に限定されるものではなく、カルボン酸のビニルエステル、リン酸(フォスフェート)のビニルエステル、スルホン酸のビニルエステルなどを使用することができる。これらのうちでも、カルボン酸のビニルエステル又はリン酸のビニルエステルが好適に使用され、特にカルボン酸のビニルエステルが、安全性や入手の容易さなどの観点から好適である。
【0023】
カルボン酸のビニルエステルとしては、モノビニルエステルを使用することもできるし、ジビニルエステル、トリビニルエステル等、分子内に2個以上のビニル基を有するもののいずれを使用することもできる。カルボン酸のモノビニルエステルとしては、蟻酸ビニル(n=3)、酢酸ビニル(n=4)、プロピオン酸ビニル(n=5)、酪酸ビニル(n=6)、カプロン酸ビニル(n=8)、カプリル酸ビニル(n=10)、カプリン酸ビニル(n=12)、ラウリル酸ビニル(n=14)、ミリスチン酸ビニル(n=16)、パルミチン酸ビニル(n=18)、ステアリン酸ビニル(n=20)などの直鎖飽和アルキルビニルエステル;ウンデシレン酸ビニル(n=13)、ソルビン酸ビニル(n=8)などの直鎖不飽和アルキルビニルエステル;イソ酪酸ビニル(n=6)、2-メチル酪酸ビニル(n=7)、イソ吉草酸ビニル(n=7)、ピバリン酸ビニル(n=7)、2,2-ジメチルブタン酸ビニル(n=8)、2-エチル-2-メチルブタン酸ビニル(n=9)、2,2-ジメチルペンタン酸ビニル(n=9)、2-エチルヘキサン酸ビニル(n=10)、ネオノナン酸ビニル(n=11)、ネオデカン酸ビニル(n=12)などの分岐アルキルビニルエステル;シクロヘキサンカルボン酸ビニル(n=9)などのシクロアルキルビニルエステル;安息香酸ビニル(n=9)、p-メチル安息香酸ビニル(n=10)、桂皮酸ビニル(n=11)、4-tert-ブチル安息香酸ビニル(n=13)などの芳香族ビニルエステル;モノクロロ酢酸ビニル(n=4)、トリフロロ酢酸ビニル(n=4)などのハロゲン化アルキルビニルエステル;セバシン酸メチルビニル(n=13)などのジカルボン酸アルキルビニルなどが例示される。カルボン酸のジビニルエステルとしては、シュウ酸ジビニル(n=6)、マロン酸ジビニル(n=7)、コハク酸ジビニル(n=8)、グルタル酸ジビニル(n=9)、アジピン酸ジビニル(n=10)、アゼライン酸ジビニル(n=11)、スベリン酸ジビニル(n=12)、セバシン酸ジビニル(n=14)、マレイン酸ジビニル(n=8)、フマル酸ジビニル(n=8)、フタル酸ジビニル(n=12)、イソフタル酸ジビニル(n=12)、テレフタル酸ジビニル(n=12)などが例示される。カルボン酸のトリビニルエステルとしては、ヘミメリト酸トリビニル(n=15)、トリメリット酸トリビニル(n=15)、トリメシン酸トリビニル(n=15)などが例示される。上記括弧内の数字は、ビニルエステル単量体(B)に含まれる炭素原子数である。
【0024】
ビニルエステル単量体(B)の揮発性が高いと、臭気が発生したり、溶出しやすかったりするので好ましくない場合がある。また、重合反応を進行させる場合には、収縮率が大きくなりやすいので、寸法精度の点から好ましくない場合もある。一般に、ポリビニルエステルは、ポリアルキル(メタ)アクリレートよりもガラス転移温度が低く、特に炭素数の大きい脂肪族のビニルエステル単量体(B)を重合させたものは、室温以下のガラス転移温度を有することも多い。したがって、本発明の樹脂組成物においてビニルエステル単量体(B)の重合反応を進行させた場合に、炭素数を大きくすることによって、重合反応を進行させても硬度の上昇を少なく抑えることができ、この場合、柔軟でありながらも低溶出性である成形品を得ることができる。したがって、ビニルエステル単量体(B)の炭素数が6以上であることが好ましい。炭素数は、より好適には8以上であり、さらに好適には10以上である。一方、炭素数が大きすぎると重合体(A)からなる粉剤とビニルエステル単量体(B)からなる液剤を混合した場合に膨潤する速度が低下するので、ビニルエステル単量体(B)の炭素数が20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましい。
【0025】
ビニルエステル単量体(B)が分子内に2個以上のビニル基を有するものであることが好ましい。分子内に複数の官能基を有することによって、分子量の大きいビニルエステル単量体(B)であっても、重合体(A)からなる粉剤とビニルエステル単量体(B)からなる液剤を混合した場合に膨潤する速度が早くなる。分子量が大きいビニルエステルであっても操作性良く使用することが可能になるので、結果として、刺激性、溶出性の抑制された樹脂組成物を得ることができる。さらに、ビニルエステル単量体(B)を網目状に重合させることができるので、重合反応を進行させた場合には、重合率がそれほど高くなくても溶出性を大きく抑制することができる。
【0026】
エンドクリン阻害性など、生体に対する悪影響の発生する可能性を考慮すると、ビニルエステル単量体(B)が芳香環を含まない構造であることが望ましい。したがって、脂肪族ビニルエステルや脂環式ビニルエステルなどが好適に使用される。得られる樹脂組成物の柔軟性も考慮すれば、脂肪族のビニルエステルが好適に使用される。脂肪族ビニルエステルは、直鎖アルキルビニルエステルであっても分岐アルキルビニルエステルであっても構わない。また、モノビニルエステルであっても、分子内に2個以上のビニル基を有するビニルエステルであっても構わない。
【0027】
ビニルエステル単量体(B)は、一種類のみを使用しても良いし、複数種類のビニルエステル単量体(B)を混合して使用しても構わない。例えば、モノビニルエステルと、分子内に2個以上のビニル基を有するビニルエステルとを混合して使用してもよい。また、炭素数の少ないビニルエステルと炭素数の多いビニルエステルとを混合して使用しても良い。さらに、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば、ビニルエステル単量体(B)と共重合可能な他の種類の単量体、例えば(メタ)アクリレート単量体、スチレン単量体、塩化ビニル単量体などを併用しても構わない。エタノールなどのアルコールは、溶出の弊害があるので併用しない方が望ましい。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、重合体(A)100重量部に対してビニルエステル単量体(B)20~200重量部を含有するものであることが好ましい。ビニルエステル単量体(B)の含有量が、重合体(A)100重量部に対して20重量部未満の場合には、重合体(A)を十分に可塑化できず、例えば口腔内の印象を採取するのに十分な流動性を得ることが困難になるおそれがある。より好適には30重量部以上であり、さらに好適には50重量部以上である。一方、ビニルエステル単量体(B)の含有量が、重合体(A)100重量部に対して200重量部を超える場合には、混合後の樹脂組成物の粘度が低くなりすぎたり、長時間経過後も形態保持が可能な程度に硬化しなかったりするおそれがある。より好適には150重量部以下であり、さらに好適には120重量部以下である。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、更に重合開始剤(C)を含有することが好ましい。これにより、必要に応じてビニルエステル単量体(B)を温和な条件で効果的に重合させることができる。使用される重合開始剤(C)は、ビニルエステル単量体(B)を重合させることのできるものであれば特に限定されず、ラジカル重合開始剤や光重合開始剤などが使用される。ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物や有機アゾ化合物が好適に使用される。これらのラジカル重合開始剤は加熱することによってラジカルを発生させるものであっても構わないし、アミンなどと混合することによって常温でラジカルを発生させるものであっても構わない。また、光重合開始剤を使用する場合には増感剤と還元剤の組み合わせなどが採用される。
【0030】
重合開始剤(C)を配合する際の好適な含有量は、ビニルエステル単量体(B)100重量部に対して0.01~10重量部である。0.01重量部未満の場合には、重合反応を促進する効果が十分でなくなるおそれがあり、より好適には0.1重量部以上である。一方、10重量部を超える場合には、重合反応を促進する効果が頭打ちになるとともに、重合開始剤(C)に由来する溶出成分が増加するおそれもある。配合量は、より好適には5重量部以下である。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、上記重合体(A)、ビニルエステル単量体(B)及び重合開始剤(C)以外の成分を含有しても構わない。例えば、フィラー、着色料、抗菌剤、香料などを用途に応じて配合することができる。
【0032】
本発明の樹脂組成物の好適な製造方法は、エステル基を有する繰り返し単位から構成される重合体(A)の粉剤と、ビニルエステル単量体(B)の液剤とを混合して増粘させる方法である。上記粉剤と液剤とを混合する際には、増粘速度を向上させたり、全体を均質にしたりするために撹拌することが好ましい場合が多い。しかしながら、樹脂組成物内部への気泡の混入を防止したい場合には、液剤中に粉剤を散布するか、粉剤中に液剤を浸み込ませるかした後、撹拌せずに静置して増粘させる方が好ましい場合もある。
【0033】
ここで使用される重合体(A)の粉剤の平均粒子径が2~200μmであることが好ましい。平均粒子径が2μm以下の場合には、取り扱いが困難になるとともに製造が困難になる。平均粒子径は、より好適には10μm以上である。一方、平均粒子径が200μmを超える場合には、重合体(A)の粉剤とビニルエステル単量体(B)の液剤とを混合する際に、増粘速度が低下して操作性が悪化したり、得られる樹脂組成物の機械強度が低下したりするおそれがある。平均粒子径は、より好適には100μm以下である。
【0034】
重合体(A)及びビニルエステル単量体(B)に加えて、更に重合開始剤(C)を加えて混合して増粘させることによって、効果的に重合反応を進行させることができる。この場合、重合開始剤(C)を、重合体(A)又はビニルエステル単量体(B)のいずれかに予め混合しておくことが、操作を簡便にできて好ましい。液剤の方が均一に混合しやすいので、ビニルエステル単量体(B)に重合開始剤(C)を予め混合しておくことが好適である。また、重合開始剤(C)が複数種類の化合物を混合してラジカルを発生させるものである場合には、その一方を重合体(A)に、他方をビニルエステル単量体(B)に、予め混合しておくこともできる。
【0035】
重合体(A)の粉剤とビニルエステル単量体(B)の液剤とを混合することによって、重合体(A)の中にビニルエステル単量体(B)が浸透し、重合体(A)が膨潤して徐々に粘度が上昇する。このようにして増粘させた後に賦形して成形品を製造することが好ましい。賦形する際の樹脂組成物は、十分に粘度が上昇していながらも流動性を保った状態であることが好ましい。賦形は、型に押し付けることによって、あるいは充填することによって行われる。医療用途に使用する場合であれば、ここでいう「型」とは、身体又はその構成部分そのものであったり、それらから写し取った型である場合が多い。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、賦形された後にもさらに増粘し、多くの場合実質的に流動性を失って、主として弾性体としての性質を有するものとなる。この状態のままで使用することもできるし、その後、含まれるビニルエステル単量体(B)を重合させても構わない。室温で重合反応が進行するような重合開始剤(C)を使用する場合には、混合しただけでも増粘と同時に重合反応が進行するが、熱や光を用いて重合反応を進行させる場合には、熱や光で処理するまでは実質的に重合反応は進行しない場合が多い。
【0037】
以上のようにして賦形した後、重合反応を進行させることも可能である。これによって、成形品内に存在するビニルエステル単量体(B)の溶出を効果的に抑制することができる。また、ビニルエステル単量体(B)の種類やその重合度を調整することによって、樹脂組成物の硬度を上昇させることもできるから、所望の硬度を有する成形品を容易に得ることができ、軟質の樹脂組成物から硬質の樹脂組成物まで、用途に応じて任意の硬度を有する樹脂組成物を得ることができる。また、加熱することや、光照射することによって、賦形した後で重合反応を進行させることができるが、作業性を考慮すれば加熱する方法が好適である。例えば、温水に浸漬するだけでも簡単に重合反応を進行させることができる。また、加熱条件によっては、重合開始剤(C)を使用しなくても重合反応を進行させることもできる。
【0038】
以上説明した本発明の樹脂組成物は、低溶出性であり、生体に対する安全性が高いことから、医療用樹脂組成物として好適に使用することができる。なかでも、口腔内の粘膜に接触した際に刺激が少なく、唾液中への溶出物質も少なく、操作性よく調製することができ患者の負担も少なくできるから、歯科用樹脂組成物として好適である。
【0039】
歯科用途に使用する場合の好適な実施態様は、具体的には、粘膜調整材、機能印象材、裏装材、義歯床材及びマウスピース材などである。
【0040】
粘膜調整剤は、義歯床下粘膜面に局部的な過剰圧が加わることにより、床下粘膜や歯槽堤に異常が発生した場合に、咬合時に義歯から床下粘膜面に加わる圧力を緩和し、正常な状態へと回復させるために使用されるものである。本発明の樹脂組成物が高粘度の流動状態にあるときに義歯粘膜面に流し込んで口腔内に装着して、義歯粘膜面と義歯床下粘膜面の空隙を満たし、所定時間のうちに実質的に流動性が失われた弾性体になるものである。患者の口腔内での弾性体になることが要求されるので、膨潤速度の速い樹脂組成物が望まれており、重合体(A)が、ポリエチルメタクリレート又はメチルメタクリレート-エチルメタクリレート共重合体であることが好ましく、またビニルエステル単量体(B)の炭素数が15以下であることが好ましい。また、柔軟性の要求される用途なので、ビニルエステル単量体(B)の重合反応は実質的に進行させなくても良く、進行させるとしても重合率は低くても良い。重合率を高めて裏装材に移行させることも可能である。
【0041】
機能印象材は、実際の使用状態における義歯の不適合を調整するために、義歯を装着した状態で一定の時間使用した上で印象を採取するためのものである。患者の口腔内への装着方法は上記粘膜調整剤と同様であるが、使用中も一定の流動性を保っている必要があり、膨潤速度は粘膜調整剤ほど速くなくても良い。したがって、ビニルエステル単量体(B)の炭素数は8以上であることが好ましく、10以上であることがさらに好ましい。こうして採取された印象を用いて、義歯床の裏面が調整される。重合反応を進行させる必要性については、上記粘膜調整剤と同様である。重合率を高めて裏装材に移行させることも可能である。
【0042】
裏装材は、義歯床の不適合部分を修正する目的で義歯床の裏面に接着させるものである。上記粘膜調整剤や機能印象材と同様の方法で、本発明の樹脂組成物を患者の口腔内へ装着して印象を採取して、そのまま裏装しても良い。また、別途採取した印象から作成した型を使用し、本発明の樹脂組成物を用いて裏装しても良い。裏装材は、上記粘膜調整剤や機能印象材よりは長期間、例えば1ヶ月以上使用することも多いので、ある程度の強度を有し、しかもクッション性も良好であるものが望ましい。したがって、重合反応を少し進行させることが好ましい場合もある。重合率を調整することにより硬さの調整が可能である。
【0043】
義歯床やマウスピースを製造する際、本発明の樹脂組成物を用いて直接口腔内で成形品を製造する場合は少なく、既に採取された印象を用いて本発明の樹脂組成物からなる成形品を製造することが多い。これらの用途では機械的強度が要求されるので、本発明の樹脂組成物を賦形した後に重合反応を進行させることが好ましい。本発明の樹脂組成物は、靭性に優れているので、このような用途にも好適に使用される。
【0044】
また、本発明の樹脂組成物は、低溶出性であり、生体に対する安全性が高く、しかも反応熱の発生や収縮も少ないので、例えば、整形外科分野での骨セメントなどとしての使用にも適していると考えられる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。実施例に記載された測定方法、評価方法は以下の方法に従って行った。
【0046】
(1)平均粒子径
日機装株式会社製マイクロトラック粒度分布測定装置HRA(レーザー回折散乱法)を用いて、試料投入量0.1g、計測時間20秒の条件で2回測定し、その平均値を重合体(A)の粉体の平均粒子径(μm)とした。
【0047】
(2)広がり試験
重合体(A)からなる粉剤2gと液剤1.8mLとを混合し、30秒間攪拌してから、1mLの混合物を試料採取用ジグに流し込んだ。試料採取用ジグは、内径10mmのガラス管とシリコーンゴム製のピストンとからなるものであり、ピストンの上に付着防止用のプラスチックフィルムを敷いてから、その上に混合物を流し込んだ。加重開始時間の30秒前にピストンを押して、混合物を試料採取用ジグからガラス板(70mm×70mm×1mm)の上に押し出した。ここで、加重開始時間は、粉剤と液剤との混合を開始してからの時間である。加重開始時間になったら、おもりを載せたガラス板(70mm×70mm×1mm)で上記混合物を挟んで荷重を加えた。このとき、おもりとガラス板の合計重量である100gの荷重が加わることになる。この後30秒間荷重を加えて、広がった樹脂組成物の最長径と最短径を計測し、その平均値を平均直径(mm)として求めた。
【0048】
(3)ゴム硬度測定
ガラス板の上にプラスチックフィルムを載せ、その上に内径25mm、高さ10mmのリング金型を載せた。次に、重合体(A)からなる粉剤6gと液剤5mLとを混合し、30秒間攪拌してから、上記金型内に流し込んだ。金型の上にプラスチックフィルムを載せてからガラス板を載せ、混和開始から2分後に2枚のガラス板に挟んだ状態で37℃の水中に1時間浸漬した。水から取り出した試料を金型からはずしてフィルムを取り除き、ゴム硬度を測定した(0日)。その後、試料を37℃の脱イオン水に浸漬し、1日後、3日後及び7日後に脱イオン水から取り出してゴム硬度を測定した。ゴム硬度(タイプC)は、高分子計器株式会社製デュロメーター「アスカーゴム硬度計C2型」を使用し、JIS K7312-1996「熱可塑性ポリウレタンエラストマー成型物の物理試験方法」の付属書2「スプリング硬さ試験タイプC試験方法」に準拠した方法で測定した。
【0049】
実施例1(広がり試験)
重合体(A)からなる粉剤として平均粒子径が約40μmのポリエチルメタクリレート(PEMA)の粉体2gを使用し、液剤として1重量%のベンゾイルパーオキシド(C:重合開始剤)を含有する下記の様々なビニルエステル単量体(B)などの液体1.8mLを用いて、上記方法に従って広がり試験を行った。ここで、上記PEMAの、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量は約400,000である。また、フタル酸ジブチルにエタノール15重量%を混合したもの(Standard)は、現在市販されている粘膜調整材の処方に相当するものであり、広がり試験の結果がこれと同程度であれば、粘膜調整剤として使用する際の操作性が良好であるという基準になるものである。
【0050】
[直鎖アルキルビニルエステル]
・カプリル酸ビニル(VO:n=10:分子量170.25)
・カプリン酸ビニル(VD:n=12:分子量198.3)
[分岐アルキルビニルエステル]
・2-メチル酪酸ビニル(V2MB:n=7:分子量128.17)
・イソ吉草酸ビニル(V3MB:n=7:分子量128.17)
・ピバリン酸ビニル(N5-VE:n=7:分子量128.17)
・2,2-ジメチルブタン酸ビニル(VDMB:n=8:分子量142.2)
・2-エチル-2-メチルブタン酸ビニル(VEMB:n=9:分子量156.22)
[シクロアルキルビニルエステル]
・シクロヘキサンカルボン酸ビニル(VCHC:n=9:分子量154.21)
[不飽和アルキルビニルエステル]
・ウンデシレン酸ビニル(VUD:n=13:分子量210.31)
・ソルビン酸ビニル(VS:n=8:分子量138.16)
[芳香族ビニルエステル]
・安息香酸ビニル(VB:n=9:分子量148.16)
・p-メチル安息香酸ビニル(VMB:n=10:分子量162.19)
・桂皮酸ビニル(VC:n=11:分子量174.2)
・4-tert-ブチル安息香酸ビニル(VTBB:n=13:分子量204.26)
[ジカルボン酸アルキルビニル]
・セバシン酸メチルビニル(MVS:n=13:分子量242.31)
[ジビニルエステル]
・アジピン酸ジビニル(DVA:n=10:分子量198.22)
・セバシン酸ジビニル(DVS:n=14:分子量254.32)
[その他の液剤]
・アジピン酸ジブチル(DBA:n=14:分子量258.4)
・セバシン酸ジブチル(DBS:n=18:分子量314.47)
・フタル酸ジブチル(n=16:分子量278.35)にエタノール15重量%を混合したもの(Standard)
【0051】
横軸に加重開始時間(分)をとり、縦軸に平均直径(mm)をプロットしたグラフを図1~4に示す。図1には直鎖アルキルビニルエステルを使用した例を、図2には分岐アルキルビニルエステルを使用した例を、図3にはその他のビニルエステルを使用した例をそれぞれ示す。また、図4にはジビニルエステルを使用した例とジカルボン酸アルキルビニルを使用した例と、脂肪族ジカルボン酸ジアルキルを使用した例とを対比して示した。ビニルエステル単量体(B)の種類を選択することによって、広がり速度を幅広くコントロールできることがわかる。なかでも、炭素数10の直鎖アルキルビニルエステルであるカプリル酸ビニル(VO:分子量170.25)及び炭素数10のジビニルエステルであるアジピン酸ジビニル(DVA:分子量198.22)が、粘膜調整剤として使用するのに適当な広がり速度を有することがわかる。
【0052】
また、上記図1~4に示したグラフにおいて平均直径がちょうど30mmになると想定される加重開始時間(分)を算出した。図5は、ビニルエステル単量体(B)などの分子量を横軸にして、縦軸に平均直径30mmの加重開始時間(分)をプロットしたグラフである。ここで、フタル酸ジブチルとエタノールとの混合物である「Standard」における平均直径30mmの加重開始時間4.1分については、グラフ上に横軸と平行な点線で示した。
【0053】
図5からわかるように、同種の化合物であれば、分子量が高いほど増粘速度が低下する。また、同程度の分子量であれば直鎖アルキルビニルエステル(飽和、不飽和とも)>シクロアルキルビニルエステル>分岐アルキルビニルエステルの順に、増粘速度が速いことがわかる。増粘速度が同じであれば、分子量が高い方が揮発性や溶出性の観点からは有利なので、この点からは、分子骨格としては直鎖の骨格を有するものの方が好ましいと考えられる。また、芳香族ビニルエステルは、直鎖アルキルビニルエステル同様に比較的増粘速度が早いが、エンドクリン阻害性など、生体に対する安全性に配慮しながら使用する必要があると思われる。
【0054】
また、図4及び図5からわかるように、ジビニルエステルは、同程度の分子量であれば直鎖アルキルビニルエステルよりも増粘速度が早いので、揮発性や溶出性の観点からはさらに有利である。さらに重合反応を進行させる場合には、重合性官能基を複数個有するために、一段と溶出防止性能を向上させることができる。したがって、ジビニルエステルは本発明の樹脂組成物に使用するビニルエステル単量体(B)としては、最も有用なものであることがわかる。ジカルボン酸アルキルビニルが有するビニルエステル基は1つであるが、他のエステル基をさらに1つ有しているので、増粘速度はジビニルエステルよりも少し遅いだけであり、これも有用であることがわかる。ただし、エステル基のみを2つ有し、ビニル基を有さないアジピン酸ジブチル(DBA:n=14:分子量258.4)については、セバシン酸ジビニル(DVS:n=14:分子量254.32)と炭素数が同じで、分子量も同程度であるにもかかわらず、増粘速度が大きく低下しており、ビニルエステル基を有することが、膨潤性の点から重要であることがわかる。
【0055】
実施例2(ゴム硬度試験)
重合体(A)からなる粉剤として、実施例1と同じポリエチルメタクリレート(PEMA)の粉体6gを使用し、液剤として1重量%のベンゾイルパーオキシド(C:重合開始剤)を含有する下記の様々なビニルエステル単量体(B)などの液剤5mLを用いて、上記方法に従ってタイプC硬度を測定した。
【0056】
[直鎖アルキルビニルエステル]
・カプリル酸ビニル(VO:n=10:分子量170.25)
[シクロアルキルビニルエステル]
・シクロヘキサンカルボン酸ビニル(VCHC:n=9:分子量154.21)
[芳香族ビニルエステル]
・p-メチル安息香酸ビニル(VMB:n=10:分子量162.19)
・桂皮酸ビニル(VC:n=11:分子量174.2)
[ジビニルエステル]
・アジピン酸ジビニル(DVA:n=10:分子量198.22)
[その他の液剤]
・フタル酸ジブチル(n=16:分子量278.35)にエタノール15重量%を混合したもの(Standard)
【0057】
図6は、横軸に水への浸漬時間(日)をとり、縦軸にタイプC硬度をプロットしたグラフである。ビニルエステル単量体(B)を使用した例では、「Standard」よりも柔軟な成形品を得ることができた。必要に応じて、ビニルエステル単量体(B)を後から重合させて硬度をさらに上昇させることも可能であるから、幅広い硬度のゴム硬度の成形品を得ることが可能であることがわかる。また、エタノールを含有する「Standard」は、エタノールの水中への溶出に由来すると思われる硬度上昇が認められるが、ビニルエステル単量体(B)を使用した例では、そのような硬度上昇は認められず、低溶出性であることがわかる。
【0058】
実施例3(重合試験)
平均粒子径が約50μmのメチルメタクリレート(MMA:40重量%)-エチルメタクリレート(EMA:60重量%)共重合体の粉体2gとベンゾイルパーオキサイドを1重量%含有するアジピン酸ジビニル(DVA)1gとを混合して30秒間攪拌した。ここで、上記MMA-EMA共重合体の、GPCで測定した重量平均分子量は約500,000である。得られた混和物を2mm×2mm×25mmの試験片が成型できる金型に填入し、3トンの荷重をかけながら100℃で10分間保持して重合反応を進行させた。自然放冷後、金型から取り出した試験片を空気中に一日放置した後、万能試験機(インストロン5544)で三点曲げ試験(支点間距離:20mm、クロスヘッドスピード:0.5mm/分)を行い、曲げ強さ、曲げ弾性係数、破断エネルギー及び最大撓み量を測定した。また、重合反応前後の試料について、近赤外分光光度計において吸光スペクトル測定を行い、末端メチレン基に由来する吸収ピークの高さから残存モノマー量を算出し、重合率(%)を求めた。比較例としてアジピン酸ジビニルの代わりにメチルメタクリレートを使用した試料も同様に評価した。評価結果を表1にまとめて示す。
【0059】
【表1】
JP0004517148B2_000002t.gif

【0060】
ビニルエステル単量体(B)であるアジピン酸ジビニル(DVA)を使用した場合には、メチルメタクリレート(MMA)を使用した場合に比べると重合率が低く、ビニルエステル単量体(B)はアルキル(メタ)アクリレートよりも反応性が低いことがわかる。そのため、DVAを使用した場合の曲げ弾性率と曲げ弾性係数は、MMAを使用した場合よりもやや低い値を示した。しかしながら、DVAを使用した場合の破断エネルギーと最大撓み量はMMAを使用した場合よりもはるかに大きな値になっており、靭性に優れた成形品が得られたことがわかる。このような靭性に優れた成形品は、歯科材料用途であれば、義歯床材やマウスピース材として好適に使用できる可能性がある。
【0061】
実施例4(ポリ乳酸の使用)
重合体(A)として、脂肪族共重合ポリエステル樹脂である、乳酸(75モル%)-グリコール酸(25モル%)共重合体(和光純薬株式会社製「PLGA-7510:分子量10,000」)の粉体0.5gを混和カップに入れ、そこにプロピオン酸ビニルを0.45mL滴下して、30秒間攪拌して、物理的性状変化を観察した。その結果、「Standard」とほぼ同様の速度で膨潤(溶解)が進行し、数分後には見かけ上均一で粘調な液体となった。ただし、一晩経過後でも粘度は増しているもののゴムというよりは、更に粘度が増加した液体であり、ある形を作っても1時間後にはその形が無くなってしまう程度に流動性を持っていた。また、プロピオン酸ビニルの代わりにアジピン酸ジビニル(DVA)を使用したところ、その膨潤(溶解)速度は極めて遅く、同様の性状になるのに半日要した。したがって、混合するだけで弾性体を得る必要があるような用途には使用が困難であることがわかった。しかしながら、架橋させれば流動性をなくすることは可能なはずであり、生分解性の要求される用途に対しては有用な材料であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】直鎖アルキルビニルエステルを使用した例について、横軸に加重開始時間(分)をとり、縦軸に平均直径(mm)をプロットしたグラフである。
【図2】分岐アルキルビニルエステルを使用した例について、横軸に加重開始時間(分)をとり、縦軸に平均直径(mm)をプロットしたグラフである。
【図3】その他のビニルエステルを使用した例について、横軸に加重開始時間(分)をとり、縦軸に平均直径(mm)をプロットしたグラフである。
【図4】ジビニルエステルを使用した例とジカルボン酸アルキルビニルを使用した例と、脂肪族ジカルボン酸ジアルキルを使用した例とを対比して、横軸に加重開始時間(分)をとり、縦軸に平均直径(mm)をプロットしたグラフである。
【図5】分子量を横軸にして、縦軸に平均直径30mmの加重開始時間(分)をプロットしたグラフである。
【図6】横軸に水への浸漬時間(日)をとり、縦軸にタイプC硬度をプロットしたグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5