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明細書 :微生物を用いたスフィンゴ糖脂質の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4825963号 (P4825963)
公開番号 特開2003-061663 (P2003-061663A)
登録日 平成23年9月22日(2011.9.22)
発行日 平成23年11月30日(2011.11.30)
公開日 平成15年3月4日(2003.3.4)
発明の名称または考案の名称 微生物を用いたスフィンゴ糖脂質の製造方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   9/24        (2006.01)
C12P  19/44        (2006.01)
C12R   1/01        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 9/24
C12P 19/44
C12P 19/44
C12R 1:01
請求項の数または発明の数 1
微生物の受託番号 IPOD FERM P-18416
全頁数 36
出願番号 特願2001-249782 (P2001-249782)
出願日 平成13年8月21日(2001.8.21)
審査請求日 平成20年8月20日(2008.8.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
発明者または考案者 【氏名】伊東 信
【氏名】末吉 紀行
【氏名】澄田 智美
審査官 【審査官】白井 美香保
参考文献・文献 Mol Gen Genet,1989年,vol.217,pp.70-76
Database GenBank,1997年 4月14日,Z94045,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/1938209?sat=OLD02&satkey=117256
Database GenBank,1998年 3月12日,U92808,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/2952029
調査した分野 IPC
C12N 15/00-15/90
DB名
CA/BIOSIS/MEDLINE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
CiNii
WPI
特許請求の範囲 【請求項1】
エキソ型ガングリオシド分解酵素産生菌Paenibacillus
sp.TS12 FERM P-18416をGD1a、GD1b、GM1、GM2およびGM3から選ばれるガングリオシドと共培養してアシアロGM1、アシアロGM2、ラクトシルセラミドおよびグルコシルセラミドから選ばれるスフィンゴ糖脂質を得ることを特徴とするスフィンゴ糖脂質の製造方法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、微生物を用いたスフィンゴ糖脂質の製造方法に関するものである。詳細には、ガングリオシドを分解する新規バクテリア、および新規エキソグリコシダーゼとそれらの遺伝子並びにそれらを用いたスフィンゴ糖脂質の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
スフィンゴ糖脂質は、スフィンゴシン塩基を含むセラミドを脂質部分として持つ糖脂質の総称で、なかでもガングリオシドはシアル酸を分子内に有するスフィンゴ糖脂質の一群につけられた名称である。ガングリオシドという名称は、神経節(ガングリオン)に由来しているが、実際に脳や神経系に豊富に存在している(Ledeen, R. W. (1989) Biosynthesis, metabolism, and biological effects of gangliosides, In Neurobiology of Glycoconjugates;Margolis, R. U. and R. K. Margolis, eds)。ガングリオシドは、成長因子受容体などの膜貫通型タンパク質の機能(多くはリン酸化)を調節することで細胞増殖を制御したり、神経系では軸索の伸長やシナプスの形成にも重要な機能を果たしていると考えられている。一方、ある種の病原菌や毒素の受容体としても注目されている。例えば、ある種のガングリオシドはインフルエンザウイルスのレセプターとして、また、GM1ガングリオシドはコレラ毒素の受容体として知られている。最近になって、ガングリオシドを含むスフィンゴ糖脂質は、スフィンゴミエリンやコレステロールとともに細胞膜ミクロドメインを形成し、同じくミクロドメインに集積するsrc-family キナーゼやGPI型タンパク質と相互作用することで細胞機能を調節している可能性が指摘されている。ガングリオシドは、分子内に十数個のシアル酸を有しており、骨格となる中性糖鎖の構造に基づいておよそ5つの系統に分類される。なかでも、Galβ1-3GalNAcβ1-4Galβ1-4Glcβ1-1'Cer (セラミド)という4糖を骨格に持つガングリオテトラオース系列は、神経系に比較的豊富に存在している。ガングリオテトラオース系列のうち、シアル酸を1個有するGM1(モノシアロガングリオテトラオシルセラミド)はこれまで最もよく研究されてきたガングリオシドの1つで、現在までにアルツハイマー(Svennerholm, L., (1994) Life Sci. 55, 2125-2134)やパーキンソン病(Schneider J. S., Roeltgen, D. P., Rothblat, D.S., Chapas-Crilly, J., Seraydarian, L., and Rao, J., (1995) Neurology 45, 1149-1154)、脊髄損傷(Geisler, F. H., Dorsey, F. C., and Coleman, W. P., (1991) New England J. Med. 324, 1829-1838)、脳卒中(Argentino, C., Sacchetti, M. L., Toni, D., Savoini, G., D'Arcangelo, E., Erminio, G. A., Ponari, O., Rebucci, G., Senin, U., and Fieschi, C., (1989) Stroke 20, 1143-1149)、胎児アルコール障害(Basalingappa, L. H., Donald, R. C., and Vinayak, G.S. (1994) Alcohol Clin. Exp. Res. 18, 1248-1251)などの様々な神経疾患への臨床応用が試みられている。スフィンゴ糖脂質の調製は、それぞれのスフィンゴ脂質が豊富に含まれていると思われる動物組織から行われている。例えば、ガングリオテトラオース系ガングリオシドであるGT1a, GD1a, GD1b, GM1は、ウシ脳から単離される。GM2は、正常な脳組織には殆ど存在せず、Tay-Sachs病の患者脳から単離される。GM3は、ヒト赤血球から単離される。ラクトシルセラミド(LacCer)は、ウシやブタの臓器から単離される。グルコシルセラミド(GlcCer) は、Gaucher病患者の脾臓から単離される。セラミドは、ウシ脳から調製される。これらの天然物由来の標品以外に化学合成法によっても調製されているが、非常に高価である。従って、これらの各種ガングリオシドやスフィンゴ糖脂質を大量にしかも安価に調製する方法の開発が待たれている。
動物の生体内でのガングリオシドの分解は、リソソームに存在する種々の糖加水分解酵素よって段階的に進められる。つまり、糖鎖の非還元末端から順次単糖が外れ、最終的にはセラミドが生成する。このセラミドは、リソソームに存在する酸性セラミダーゼによってスフィンゴシン塩基と脂肪酸に代謝される。一方、自然界ではどのようにしてガングリオシドやスフィンゴ糖脂質が分解されているのは明らかでない。自然界では、これらの複合脂質の分解に微生物が関与していることは漠然と推測されているが、ガングリオシドやスフィンゴ糖脂質を単独で完全に分解できる微生物は知られていない。現在までに報告のあるガングリオシドあるいはスフィンゴ糖脂質に作用する微生物起源の酵素としては、非還元末端のα位のシアル酸に作用するシアリダーゼ(Sugano,K., Saito, M., and Nagai, Y.,(1978)FEBS Lett. 89, 321-325)、スフィンゴ糖脂質のオリゴ糖鎖とセラミド間のグリコシド結合を加水分解するエンドグリコセラミダーゼ(EGCase)(Ito, M. and Yamagata, T. (1986) J. Biol. Chem. 261, 14278-14282)、また、スフィンゴ糖脂質のセラミド内にあるスフィンゴシン塩基と脂肪酸との酸アミド結合を加水分解するグリコスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼ(Hirabayashi, Y., Kimura, Matsumoto, M.,Yamamoto, K., Kadowaki, S, Tochikura, T. (1988) J. Biochem.(Tokyo)103, 1-4)およびスフィンゴ糖脂質のみならずスフィンゴミエリンのセラミドの酸アミド結合も加水分解するスフィンゴ脂質セラミドN-デアシラーゼ (SCDase) (Ito, M., Kurita, T., and Kita, K.(1995) J. Biol. Chem. 270, 24370-24374)などがある。しかし、シアリダーゼを除いてガングリオシドを含むスフィンゴ糖脂質糖鎖の非還元末端に作用する微生物起源のエキソグリコシダーゼは未だ報告がない。
【0003】
グリコシダーゼは、その性質によってエキソ型とエンド型に分けられる。エキソ型酵素は、糖鎖の非還元末端の糖に作用し、単糖を遊離する。一方、エンド型酵素は、糖鎖の内部グリコシド結合に作用し、単糖ではなくオリゴ糖あるいはより大きな糖鎖を遊離する。一般に、微生物由来のエキソグリコシダーゼは、動物起源の酵素と比較すると糖鎖部分の構造に対する特異性が厳密である。この性質を利用して糖タンパク質やオリゴ糖鎖の構造解析に繁用されてきた。しかし、ガングリオシドを含むスフィンゴ糖脂質糖鎖に作用する微生物由来のエキソ型グリコシダーゼは、シアリダーゼ以外には知られておらず、植物や動物臓器由来の酵素を使用することを余儀無くされてきた。安価で大量に調製可能な微生物起源のエキソ型グリコシダーゼの開発が待たれている。微生物由来のエキソグリコシダーゼは、糖鎖配列自動決定装置(糖鎖シーケンサー)の開発にも欠かせない。
また、エキソ型グリコシダーゼを動物や植物の培養細胞に作用させ、細胞表面の糖鎖をトリミングすることによって、細胞の増殖、分化、サイトカインや増殖因子との応答性の変化を調べ、糖鎖の機能を知ることもできる。さらに、糖鎖をトリミングすることで積極的に細胞機能を変化させる細胞工学的な試みも可能であろう。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、ガングリオシドを分解する微生物について鋭意研究・検討した結果、ある種の微生物が単独でGD1a, GM1等のガングリオシドを完全に分解することを見出した。さらに検討を続けた結果、本菌は培地中にガングリオシドに作用する特異性の高いエキソ型グリコシダーゼを産生することを突き止めた。そこで、発現クローニング法を用いて、幾つかのエキソ型グリコシダーゼの遺伝子を取得し、この発明を完成した。
【0005】
今回適用した発現クローニング法は、酵素生産菌のゲノムDNAを制限酵素で適当な大きさに切断し、発現ベクターに繋いで大腸菌に導入した後、寒天プレート上で大腸菌の酵素活性を判定し、目的の遺伝子をクローン化する方法である。この方法は、煩雑なタンパク精製を行わずに直接目的遺伝子を得ることができ、今回のように一つのバクテリアから多数の遺伝子を単離する場合に、効力を発揮する。目的酵素の人工発色基質が手に入るかどうかが鍵であるが、今回は市販の基質が利用できることが判明した。この方法は、大腸菌で発現する遺伝子のみにしか単離できないが、そのことは逆に遺伝子を取得できれば、大腸菌で必ず発現できることを意味しているし、大量生産も可能な場合が多い。実際、今回単離した4つの遺伝子(hex36およびglc4, glc8, glc28)は全て大腸菌で発現させることができた。
【0006】
この発明の目的は、(1)ガングリオシドを含むスフィンゴ糖脂質を単独で完全に分解できるバクテリアを提供すること、(2)微生物起源の特異性の高いエキソ型グリコシダーゼ遺伝子を提供すること、(3)糖脂質の糖鎖に作用する新規なエキソ型グリコシダーゼを提供すること、(4)微生物を使用した簡便なフィンゴ糖脂質の製造方法を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、まず、この発明は、ガングリオシドを分解できる微生物の単離を試み、ガングリオシドを完全分解できる細菌Paenibacillus sp. TS12 FERM P-18416を提供する。
次に、この発明は、Paenibacillus sp. TS12株のゲノムDNAライブラリーを作製し、蛍光基質4-メチルウンベリフェリル-グリコシド類(4MU-glycosides)を用いた発現クローニング法によって得られる各種グリコシダーゼ遺伝子を提供する。
さらに、この発明は、クローン化した遺伝子を大腸菌で大量発現させ、糖脂質の糖鎖に作用する新規なエキソグリコシダーゼを提供する。
また、この発明は、ガングリオシド分解酵素生産菌であるPaenibacillus sp. TS12 FERM P-18416を粗ガングリオシドと共培養して、糖鎖トリミングによってスフィンゴ糖脂質を製造する方法を提供する。
【0008】
この発明を実施例によって更に詳細に説明する。
【実施例】
この発明を実施例により更に詳細に説明する。
実施例1:ガングリオシド分解菌TS12株の単離と同定および分解機序の検討
(ガングリオシド分解菌TS12株の単離)
福岡県福岡市東区箱崎の土壌から採集したサンプルを、モノシアロガングリオテトラオシルセラミド (GM1) を含む合成培地(0.05% GM1, 0.05% NH4Cl, 0.05% K2HPO4, 0.5% NaCl, 0.05% タウロデオキシコール酸ナトリウム, pH 7.2-7.4)100μl中に加え、30℃で2日間培養した。その後、培養上清を20μl乾燥させ、クロロホルム/ メタノール ( 2 / 1 、v/v) 5μlに溶解してTLCに負荷した。薄層クロマトグラフィー (TLC) はクロロホルム/ メタノール/ 0.02% CaCl2( 5 / 4 / 1, v/v) で展開し、糖脂質はオルシノール硫酸で発色させた。その結果、12番のサンプルに活性が見られた(図1(A))。
TS12株によるGM1の分解の時間変化をTLCを用いて調べた結果、GM1は、時間経過とともにアシアロGM1、アシアロGM2、ラクトシルセラミド(LacCer)、グルコシルセラミド(GlcCer)の順に分解された。この結果は、本菌がGM1に作用するエキソ型のシアリダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-ヘキソサミニダーゼを生産していることを示している(図1(B))。
次に、セラミドの脂肪酸のω位に蛍光でラベルされたNBD-GM1を用いてGlcCerから先に分解が進むかを調べた。その結果、TS12株はGlcCerに作用してグルコースを遊離し、セラミドを生成するβ-グルコシダーゼも生産していることが分かった。また、TS12株は、GM1だけでなくGD1a, GD1b, GT1a等の複数のシアル酸を持つガングリオシド、GM2、GM3等の短鎖のガングリオシド、LacCerのような中性スフィンゴ糖脂質を分解してGlcCerを生成した。しかし、スルファチドやグロボシドは分解しなかった。
【0009】
(ガングリオシド分解菌TS12株の同定)
単離した菌株TS12株の同定は、基本的にはBergey's Manual(第8版)(Bergey's manual of determinative bacteriology, 8th ed., (1974))に基づいて行った。培養温度は30℃で行った。運動性、グラム染色の判定は光学顕微鏡観察で行った。オキシダーゼテストはKovacsらの方法(Kovacs, N. (1956) Nature , 178, 703)を用い、グルコースの利用(O-Fテスト)はHughとLeifsonの方法(Hugh, R., and Leifson, E. (1953) J. Bacteriol. 66, 24-26)を用いた。16S rDNA解析は平石の方法(Bulletin of Japanese Society of Microbial Ecology Vol. 10, No. 2, 81-102, (1995))に従った。
その結果、TS12株は、運動性のある短桿菌で、電子顕微鏡観察の結果、周毛を有していた。また、TS12株は、グラム染色陰性、カタラーゼ陰性、オキシダーゼ陽性、GC含量49%であった(表1)。さらに、16S rDNAによる解析を行った結果、本菌は、Paenibacillus属の一種であると同定された。本菌はFERMに P-18416として寄託している。
【0010】
JP0004825963B2_000002t.gif【0011】
(TS12株によるGM1の分解)
TS12株を、前述のGM1合成培地250μlに植菌し、30℃で54時間培養し、6時間ごとに培地中のGM1の分解をTLCにて確認したところ、分解は時間経過とともに進行し、最終的にGM1はGlcCerに変換された。なお、TLCは、クロロホルム/メタノール/ 0.02% CaCl2( 5 / 4 / 1, v / v )で展開し、糖脂質はオルシノール硫酸で発色させた。発色させた糖脂質の吸光度(540 nm)をデンシトメータ(SHIMADZU CS-9300 PC)で定量した結果、時間経過とともに培地中のGM1は減少してアシアロGM1(AsGM1)が増加し、さらにLacCerに変換され、最終的にGM1はGlcCerに変換された(図2)。
以上の結果から、TS12株は、GM1に作用するエキソ型のシアリダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-ヘキソサミニダーゼを生産していることが明らかとなった。
【0012】
(TS12株によるNBD-GM1の分解)
オルシノール硫酸法は、糖鎖の検出試薬であるため、糖脂質は検出できるが、セラミドは検出できない。そこで、セラミドの脂肪酸部位が蛍光標識されているNBD-GM1を用いてGlcCerからさらにセラミドにまで分解が進むかどうかを調べた。TS12株をNBD-GM1を250 pmol含む合成培地50 μlに植菌し、30℃で3日間培養した上清を20 μl回収し、TLCに負荷した。TLCはクロロホルム/メタノール/ 0.02% CaCl2( 5 / 4 / 1, v / v )で展開し、トランスイルミネーターで紫外線照射し、NBD-GM1の分解を調べた。その結果、NBD-GM1はセラミドにまで分解されることが判明した(図3)。
以上の結果から、TS12株はGlcCerに作用するβ-グルコシダーゼも生産していることが分かった。また、NBD-GM1の分解の様子から、本菌は、ガングリオシド糖鎖の非還元末端の糖を順に遊離し、資化していることが推測された。
【0013】
(TS12株による各種スフィンゴ糖脂質の分解)
TS12株を、ガングリオシドを含む各種スフィンゴ糖脂質(GQ1b, GT1b, GD1a, GD1b, GM1, GM2, GM3, LacCer, グロボシド, スルファチド)1 μgを含む合成培地20μlに植菌し、30℃で3日間培養し、全量を乾燥し、TLCに負荷した。TLCはクロロホルム/メタノール/ 0.02% CaCl2( 5 / 4 / 1, v / v )で展開し、糖脂質はオルシノール硫酸で発色させた。
上述のようにして、TS12株を各種スフィンゴ糖脂質とともに培養してそれぞれの分解をしらべた。その結果、TS12株は各種ガングリオシドおよびLacCerを分解してGlcCerに変換したが、グロボシド、スルファチドは分解しなかった。また、LacCerの分解速度はガングリオシドに比べて遅いことが判明した。
以上の結果から、Paenibacillus属の細菌であると同定されたTS12株は、単独で各種ガングリオシドを分解することが明らかになった。また、本菌が自然界においてガングリオシドを分解・資化していることが示唆された。
【0014】
実施例2:TS12株の各種エキソグリコシダーゼ遺伝子の発現クローニング
微生物起源の特異性の高いエキソ型グリコシダーゼは、糖鎖構造を決定する糖鎖自動シーケンサーの開発、特定のガングリオシドや糖脂質の大量調製、および動・植物細胞表面糖脂質糖鎖のトリミング等、糖鎖生物学、糖鎖工学における大きな貢献が期待される。ここでは、Paenibacillus sp. TS12株が生産する各種グリコシダーゼ遺伝子の発現クローニング法について記載する。
【0015】
(蛍光基質の検討)
発現クローニングを行う前に、TS12株の生産する各種グリコシダーゼが蛍光基質である4-メチルウンベリフェリル-グリコシド類(4MU-glycosides)に作用するか調べた。その結果、TS12株のコロニーは4MU-グリコシド類と反応して蛍光を発することが確認された。これは、基質である4MU-グリコシド類がコロニー(細胞)中に取り込まれ、分解を受けて4MUの蛍光を発しているものと考えられる。
具体的には、TS12株をLB平板培地にスプレッダーで播き、30℃で2日間培養した。生えてきたコロニーを2 cm四方のバイオダインAに写し取り、20μlの4MU-シアル酸 (4MU-NeuAc) 溶液(0.3 mM 4MU-シアル酸, 10 mM 酢酸バッファー, pH 4.0)、4-MU-β-D-ガラクトシド(4MU-Gal)溶液(0.3 mM 4MU-Gal, 10 mM 酢酸バッファー, pH 4.0)、4-MU-β-D-N-アセチルガラクトサミン(4MU-GalNAc)溶液(0.3 mM 4MU-GalNAc, 10 mM 酢酸バッファー, pH 4.0)、4-MU-β-D-グルコシド(4MU-Glc)溶液(0.3 mM 4MU-Glc, 10 mM 酢酸バッファー, pH 4.0)のそれぞれに浸した。これを37℃で30分間反応させ、紫外線照射により活性を確認した。
【0016】
(発現クローンニングの方法)
TS12株のゲノムDNAをSau3AIで限定分解し、pBluscriptII SKベクターのBamHIサイトに組み込んでゲノムライブラリーを作製した。続いて、作製したゲノムライブラリーを大腸菌DH5αにトランスフェクトし、各種4MU-glycosidesと反応させ、宿主にはないグリコシダーゼを新たに生産するコロニーをスクリーニングした。
具体的には、TS12株を300 mlのPY培地で30℃、3日間振とう培養し、8,000 rpmで5分間遠心し、菌体を回収した。集めた菌体を4 mlのTE buffer(10 mM Tris-HCl, pH 8.0, 1 mM EDTA)に懸濁し、4 mgのリゾチームを加え37℃で10分間インキュベートした。さらに1 mlの10% SDS(ラウリル硫酸ナトリウム)を加え、菌体を溶菌させた後に750μlの5 M NaClを加えた。5 mlの平衡化フェノールを加え、よく転倒飽和した後に5,000 rpmで10 分間遠心して水層とフェノール層に分離し、水層を回収した。タンパク質の中間層がなくなるまでこの操作を繰り返し行った。次に等量のクロロホルムを加え転倒混和し、5,000 rpmで10 分間遠心して、水層とクロロホルム層に分離し、水層を回収した。得られた水層に等量のイソプロピルアルコールを加えてDNAを沈澱させ、このDNAを70%エタノールで洗浄した後にTE buffer 4 mlに溶解した。このDNA溶液にRNase(20 mg / ml)を10 μl加え、50℃で1時間インキュベートしてRNAを分解した。さらに5 M NaClを100μl、10% SDSを200μl、Proteinase K(20 mg / ml)を25μlを加えて37℃で1時間インキュベートし、残りのタンパク質を分解した。
続いて、上記と同様の方法でフェノール処理、クロロホルム処理、イソプロピルアルコール沈澱を行い、70%エタノールで洗浄したものを2 mlのTE bufferに溶かし、分光光度計(Ultrospec 3000, Amersham Pharmacia Biotech)にて定量した。50μgのゲノムDNAをSau3AIで限定分解し、約2k-8 kbpの部分を4フラクションに切り出し、それぞれをSephaglas BandPrep Kit(Amersham Pharmacia Biotech)を用いてゲルより抽出した。これをpBluscriptII SKベクターのBamHIサイトにLigation Pack(日本ジーン)を用いて組み込んだ。反応溶液をエタノール沈澱し、10μlの滅菌水に溶かし、ゲノムDNAライブラリーとした。
【0017】
(β-N-アセチルヘキソサミニダーゼ遺伝子の単離)
4MU-β-N-アセチルガラクトサミンを基質とした時に、本基質を分解するコロニーを1つ得た。形質転換した大腸菌の細胞抽出液を用いて基質特異性を検討したところ、本酵素は、AsGM2には作用したがGM2には作用しなかった。また、4MU-β-N-アセチルガラクトサミンのみならず、4MU-β-N-アセチルグルコサミンにも作用することが判明し、本酵素は、β-N-アセチルヘキソサミニダーゼと同定された。2,934 bpからなるβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ遺伝子(hex36)(配列番号7、8)は、978アミノ酸をコードし、その推定分子量は105,208、推定等電点は5.00であった。また、アミノ酸レベルでStreptomyces coelicolor, Vibrio cholerae, Homo sapiens, Mus musculusのβ-ヘキソサミニダーゼとそれぞれ41%, 26%, 26%, 25%一致した。TS12株のヘキソサミニダーゼは他のヘキソサミニダーゼと比べて、C末が長く、分子量が大きいことが特徴としてあげられる。
【0018】
以下、方法を具体的に記載する。4MU-GalNAc と反応して蛍光を発する1クローン(Hex36)からプラスミド(pHex36)を抽出し、インサートを解析した結果、このプラスミドにはβ-ヘキソサミニダーゼ遺伝子が含まれているものの、その全長は含まれておらず、C末部分が欠如していることが分かった。そこで、下線部をプローブとして、ヘキソサミニダーゼのC末断片をサザンブロッティング、コロニーハイブリダイゼーションで取得し、Hex36の3'部分と入れ替えて全長の入ったクローンHex36Tを取得した。Hex36Tの取得は、次のような方法で行った。TS12株のゲノムDNA 500 ngを各種制限酵素で消化し、0.7%のアガロースゲルで泳動した。DNAをアガロースゲルからナイロンメンブレン(Hybond-N、Amarsham Pharmacia Biotech)に写し取った。このメンブレンを80℃で2時間乾燥させ、三方をシールしたハイブリバックにいれた。ここにハイブリダイゼーション溶液(1 mM EDTAと7% SDSを含む0.5 M チャーチリン酸バッファー(pH 7.0))を加え、ポリシーラーで閉じ、1時間プレハイを行った。プローブはReady-To-Go DNA labeling kit(Amersham Pharmacia Biotech)を使用して[α-32P]dCTPでラベルし、ハイブリダイゼーションに使用した。ハイブリダイゼーションはハイブリダイゼーション溶液中で65℃、16時間行った。ハイブリダイゼーションさせた後、メンブレンは 1% SDSを含む40 mMチャーチリン酸バッファー(pH 7.0)で3回洗浄し、imaging plateに曝した。20分後にBAS1500 imaging analyzer(FujiFilm)にて解析した。サザンブロッティングを行った結果、HindIIIで消化した約1.5 kbpのフラグメントにβ-ヘキソサミニダーゼのC末部分が含まれていると予想されたので、このフラグメントを取得するために、TS12株のゲノムDNA 5μgをHindIIIで消化して、0.7%のアガロースゲルで泳動した。約1.5 kbpのフラグメントを切り出し、ゲルから抽出した。これをpBluscriptII SKベクターのHindIIIサイトにLigation Packを用いて組み込んだ。反応溶液をエタノール沈澱し、DH5αに導入し、ヘキソサミニダーゼのC末断片の遺伝子を含むゲノムライブラリーを作製して、32Pでラベルしたプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションを行った(参考文献:実験医学 17(2), 172-174, 17(3), 517-514 1999)。
【0019】
(TS12株のβ-ヘキソサミニダーゼの基質特異性)
GM2(1μgGM2, 0.1% TDC)10μlとHex36Tのライセート10μlを37℃で16時間反応させた。反応溶液には終濃度0.05%のTDCを加えた。反応させたサンプルを乾燥させ、クロロホルム/メタノール( 2 / 1 )5μlに溶解してTLCに負荷した。TLCはクロロホルム/メタノール/ 0.02% CaCl2( 5 / 4 / 1, v / v )で展開し、糖脂質はオルシノール硫酸で発色させた。TS12株のβ-N-アセチルヘキソサミニダーゼ36(Hex36)は、AsGM2には作用したが、GM2には作用しなかった。Bacillus属のAT173-1株もβ-N-アセチルガラクトサミニダーゼを生産することが報告されているが(Tanaka, A and Ozaki, S. (1997) J. Biochem. , 122, 330-336)、AT173-1株の生産するβ-N-アセチルガラクトサミニダーゼは、オリゴ糖末端のGalNAcには作用するが、糖脂質の末端GalNAcには作用しない。よって、この発明に係るβ-ヘキソサミニダーゼは、糖脂質に作用することが示されたので、新規のβ-ヘキソサミニダーゼであるといえる。
【0020】
(β-グルコシダーゼの発現クローニング)
さらに、4MU-β-Glcを用いて、β-N-アセチルヘキソサミニダーゼと同様な方法で発現クローニングを行った結果、約3,000個のコロニーから、3個の4MUの蛍光を発するコロニーが得られた。これら3個のpositiveクローン(クローンGlc8, クローンGlc4, クローンGlc28)の細胞抽出液を4MU-β-Glcとエッペンチューブ中で反応させたところ、分解が確認されたので、これら3クローンはβ-グルコシダーゼを生産していることが分かった。
それぞれのクローンが持っていたプラスミドpGlc8, pGlc4, pGlc28のインサートを解析した結果、glc8(配列番号3、4)は4,098 bpからなり、1,366アミノ酸をコードし、推定分子量145,254、推定pIは4.64だった。glc4(配列番号1、2)は、2,493 bpからなり、831アミノ酸をコードし、推定分子量90,706、推定pIは5.34だった。glc28(配列番号5、6)は、1,713 bpからなり、571アミノ酸をコードし、推定分子量63,628、推定pIは5.09だった。得られた3クローンの配列は、相互に一致しなかったため、それぞれ異なるβ-グルコシダーゼをコードしていることが明らかとなった。
【0021】
(β-グルコシダーゼの基質特異性)
NBD-GlcCer溶液(100 pmol NBD-GlcCer, 0.1% TDC)10μlとβ-グルコシダーゼ遺伝子で形質転換した大腸菌の細胞抽出液10μlを37℃で16時間反応させた。反応させたサンプルを乾燥させ、クロロホルム/メタノール( 2 / 1 、v/v)5μlに溶解してTLCに負荷した。TLCはクロロホルム/メタノール/ 0.02% CaCl2( 5 / 4 / 1, v / v )で展開し、分解の様子を紫外線照射で確認した。
その結果、グルコシダーゼ4(Glc4)はNBD-GlcCerに作用してグルコースを遊離し、Cerを生成したが、グルコシダーゼ8(Glc8), グルコシダーゼ28(Glc28)はNBD-GlcCerには作用しないことが判明した。
【0022】
(DNAシーケンスとその解析)
発現クローニングで取得したpositiveコロニーをLB培地で16時間培養し、アルカリミニプレップ法でプラスミドを抽出し、得られたプラスミドのインサートの塩基配列をBigdye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit(Applied Biosystems)を用いDNAシーケンサー(Applied Biosystem 377型)にてチェインターミネーター法で解析した。DNAの配列の分析はDNASIS(Hitachi Software Engineering)にて行った。
【0023】
【発明の効果】
この発明で以下のような効果が期待される。
微生物起源の特異性の厳格なエキソ型グリコシダーゼを用いることによって糖鎖シーケンサーの開発。
TS12株を用いたGlcCerの製造。
シアリダーゼ阻害剤等を併用して、GM2, GM3 等の短鎖ガングリオシドの製造
セラミドの製造。
高度に精製した酵素を用いて細胞表面糖鎖のトリミング法の開発。
TS12株には、グルコシダーゼおよびヘキソサミニダーゼ以外に、ガングリオシドに作用するガラクトシダーゼ及びシアリダーゼが存在する。それゆえ、TS12株は、これら新規遺伝子の取得の材料を提供する。
【0024】
【配列表】
JP0004825963B2_000003t.gifJP0004825963B2_000004t.gifJP0004825963B2_000005t.gifJP0004825963B2_000006t.gifJP0004825963B2_000007t.gifJP0004825963B2_000008t.gifJP0004825963B2_000009t.gifJP0004825963B2_000010t.gifJP0004825963B2_000011t.gifJP0004825963B2_000012t.gifJP0004825963B2_000013t.gifJP0004825963B2_000014t.gifJP0004825963B2_000015t.gifJP0004825963B2_000016t.gifJP0004825963B2_000017t.gifJP0004825963B2_000018t.gifJP0004825963B2_000019t.gifJP0004825963B2_000020t.gifJP0004825963B2_000021t.gifJP0004825963B2_000022t.gifJP0004825963B2_000023t.gifJP0004825963B2_000024t.gifJP0004825963B2_000025t.gifJP0004825963B2_000026t.gifJP0004825963B2_000027t.gifJP0004825963B2_000028t.gifJP0004825963B2_000029t.gif
【図面の簡単な説明】
【図1】ガングリオシド分解酵素生産菌の1次スクリーニングを示す薄層クロマトグラフ。
【図2】TS12株によるGM1の分解様式を示す薄層クロマトグラフ。
【図3】TS12株のNBD-GM1の分解様式を示す示すグラフ。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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