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明細書 :医療用高分子ナノ・マイクロファイバー

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4496360号 (P4496360)
公開番号 特開2004-321484 (P2004-321484A)
登録日 平成22年4月23日(2010.4.23)
発行日 平成22年7月7日(2010.7.7)
公開日 平成16年11月18日(2004.11.18)
発明の名称または考案の名称 医療用高分子ナノ・マイクロファイバー
国際特許分類 A61F   2/06        (2006.01)
A61L  17/00        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
D04H   1/42        (2006.01)
FI A61F 2/06
A61L 17/00
A61L 27/00 P
A61L 27/00 V
A61L 27/00 Y
D04H 1/42 W
D04H 1/42 X
請求項の数または発明の数 2
全頁数 12
出願番号 特願2003-120266 (P2003-120266)
出願日 平成15年4月24日(2003.4.24)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 2002年11月29~30日早稲田大学国際会議場において開催された第24回日本バイオマテリアル学会大会で発表
審査請求日 平成18年3月31日(2006.3.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
発明者または考案者 【氏名】松田 武久
【氏名】木戸秋 悟
個別代理人の代理人 【識別番号】100092783、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 浩
【識別番号】100095360、【弁理士】、【氏名又は名称】片山 英二
【識別番号】100120134、【弁理士】、【氏名又は名称】大森 規雄
【識別番号】100104282、【弁理士】、【氏名又は名称】鈴木 康仁
審査官 【審査官】辰己 雅夫
参考文献・文献 国際公開第02/049536(WO,A1)
国際公開第02/049535(WO,A1)
国際公開第02/102276(WO,A1)
国際公開第03/026532(WO,A1)
国際公開第2004/028583(WO,A1)
国際公開第03/086234(WO,A1)
特開2004-162244(JP,A)
特開2004-068161(JP,A)
特開2002-320629(JP,A)
調査した分野 A61L15/00-33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ナノメートルから90マイクロメートルの外径を有するコラーゲン、ゼラチン及びポリウレタンの繊維を用いて作製された人工血管であって、当該血管の内腔側にコラーゲンの繊維、中間層にゼラチンの繊維、外周側にポリウレタンの繊維が積層された前記人工血管
【請求項2】
ナノメートルから90マイクロメートルの外径を有するコラーゲン、ゼラチン及びポリウレタンの繊維を積層することを特徴とする人工血管の製造方法であって、当該血管の内腔側にコラーゲンの繊維、中間層にゼラチンの繊維、外周側にポリウレタンの繊維を積層する前記方法
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は機能性ナノファイバー製不織布を含む医用材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種疾患により十分な機能を果たすことができなくなった臓器又は組織の代替として、種々の医用材料が用いられている。これらの医用材料のほとんどは生体内に埋め込まれるため、生体適合性の観点から極めて厳格な材料の性質、例えば、毒性、抗原性、血栓形成性等がなく、かつ十分な耐久性を有することが要求されている。
【0003】
医用材料に要求されるこのような機能性化を獲得するために、例えば可撓性重合体チューブに種々の生体高分子を固定あるいは含浸させた人工血管などが臨床応用されている。この人工血管は、例えば、高弾性セグメント化ポリウレタンチューブの内面に抗血栓性材料を被覆し、外面にコラーゲンまたはゼラチンを被覆したというものである(特開昭60-242857号公報:特許文献1)。しかしながら、そのような人工血管は内皮細胞の接着性はよいが、血小板の粘着性が大きく、内腔側表面に内皮細胞が増殖する前に、血栓により人工血管が閉塞するという問題点がある。さらに、異物反応、発熱、被覆物剥離、抗原性、毒性、耐久性、炎症反応などが起こるため、安全性等の面でも課題を残している。
【0004】
一方、人工血管を作製する方法として、特開昭59-11864号公報(特許文献2)及び米国特許第4,552,707号公報(特許文献3)記載の方法が知られている。しかし、これらの方法では、血管組織本来の機能的階層構造を実現する方法が未開発であるため、改善の余地がある。
【0005】
【特許文献1】
特開昭60-242857号公報
【0006】
【特許文献2】
特開昭59-11864号公報
【0007】
【特許文献3】
米国特許第4,552,707号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、数ナノメートルから数十マイクロメートルの外径を有する医療用高分子の繊維を基本骨格として高弾性支持層を設けつつ、理想的な生体適合的な器具化を可能とした、より機能的な医用材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、各種高分子原料について電界紡糸を行い、得られる繊維の層を積層することにより優れた機能を有する医用材料を作製することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)数ナノメートルから数十マイクロメートルの外径を有する医療用高分子の繊維を用いて作製された不織布を含む医用材料。
(2)数ナノメートルから数十マイクロメートルの外径を有する医療用高分子の繊維を用いて作製された不織布が少なくとも2層に積層された医用材料。
(3)上記医用材料において、医療用高分子としては天然高分子及び/又は合成高分子が挙げられる。ここで、天然高分子は、コラーゲン、ゼラチン、プロテオグリカン、デキストラン、キチン、キトサン、絹、ヒアルロン酸、アルブミン、エラスチン、核酸、ヘパリン及びヘパラン硫酸からなる群から選ばれる少なくとも1つ又はそれらの誘導体を使用することができる。また、合成高分子は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリラクチド、ポリグルタミン酸、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリ-p-ジオキサン、ポリα-リンゴ酸及びポリ-β-ヒドロキシ酪酸、並びにポリ乳酸とポリカプロラクトンとの共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1つ、あるいは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレングリコール、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタラート、ナイロン、ポリNイソプロピルアクリルアミド、ポリビニルクロライド、ポリメタクリル酸メチル、ポリジメチルシロキサン、ポリアリルスルホン及びポリスルホンからなる群から選ばれる少なくとも1つを使用することができる。
【0011】
本発明の医用材料において、医療用高分子は、コラーゲン、ゼラチン及びポリウレタンからなる群から選ばれる少なくとも1つ、より好ましくは、コラーゲン、ゼラチン及びポリウレタンを選択することができる。
【0012】
さらに、本発明の医用材料は、人工神経管、人工食道、人工気管、人工血管、人工弁、人工胸壁、人工心膜、人工横隔膜、人工腹膜、人工靭帯、人工腱、人工角膜、人工皮膚、人工関節、人工関節軟骨、歯科材料、外科用縫合糸、外科用補填材、外科用補強材、創傷保護材、骨折接合材、コンタクトレンズ、眼内レンズ、メッシュ、医療用不織布、輸液・血液バッグ、チューブ、手術用手袋、ガウン、シーツ又はフィルターの用途のために使用される。特に好ましくは人工血管用である。
(4)数ナノメートルから数十マイクロメートルの外径を有する医療用高分子の繊維を用いて作製された不織布が少なくとも2層に積層された人工血管。
【0013】
人工血管に使用される医療用高分子としては、例えばコラーゲン、ゼラチン及びポリウレタンが挙げられる。
(5)数ナノメートルから数十マイクロメートルの外径を有する医療用高分子の繊維を用いて作製された不織布を少なくとも2層に積層することを特徴とする人工血管の製造方法。
【0014】
本発明の方法に使用される医療用高分子としては、例えばコラーゲン、ゼラチン及びポリウレタンが挙げられる。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明は、数ナノメートルから数十マイクロメートルの外径(太さ)を有する繊維を用いて作製された不織布を含む医用材料である。この繊維は、医療用高分子を用いて電界紡糸されたものである。特に、本発明の医用材料は、高弾性エラストマーであるセグメント化ポリウレタン、光ゲル化ゼラチン、コラーゲンの各高分子を、それぞれ電界紡糸法によりナノ・マイクロファイバー化した不織布とし、これらを階層的に積層化又は混合化したものである。その結果、高弾性支持体の基本骨格層を形成するとともに、内腔側と外側に異なる生体適合性を付与するという設計概念を具体化することができる。
1.電界紡糸装置
本発明は、医療用高分子(ポリマー)を電解紡糸させることにより得られる繊維の不織布を医用材料として使用するものである。電界紡糸(Electrospinning (ELSP))とは、高電圧電場を用いたポリマー紡糸法であり、他の紡糸法では得ることが困難なナノ又はマイクロスケールサイズの直径のファイバーを生成することが可能である。この紡糸方法は、天然の細胞外マトリックスの微視的構造によく似た、ナノスケールファイバーから成る不織布を作製することが可能であるため、近年、骨格基材等の組織工学材料への応用が注目されている。
【0017】
ELSP装置は、直流高電圧電源(5~30kV)、インフュージョンポンプ、ステンレスニードルシリンジ、及び金属コレクタを備えている(図1)。ニードルシリンジの先端は、ポリマー溶液を噴射するためのノズルとなっている。ポリマー濃度、溶媒、流速、印加電圧、シリンジ-コレクタ間距離(「エアギャップ」ともいう)などの条件を適宜設定した後、ポリマー溶液をシリンジから噴射すると、コレクタ上に繊維が堆積し、不織布の層を作ることができる。
【0018】
ポリマー濃度は、使用するポリマーの種類により適宜設定することができるが、一般には1~30 wt%、好ましくは2~15 wt%である。また、ポリマーとしてセグメント化ポリウレタンを用いる場合は、5~20 wt%、好ましくは7~15 wt%である。溶媒は、使用するポリマーによって適宜選択され、例えばクロロホルム、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
【0019】
流速は、0.1~10 ml/hr、好ましくは1~3 ml/hrである。
【0020】
印加電圧は、0~40 kV、好ましくは10~20kVである。
【0021】
シリンジ-コレクタ間距離は、5~50 cm、好ましくは10~30 cmである。
【0022】
上記ELSP装置により紡糸すると、得られるファイバーの外径(太さ)は、数ナノメートルから数十マイクロメートル、例えば1ナノメートルから90マイクロメートル、好ましくは10ナノメートルから10マイクロメートル、より好ましくは10ナノメートルから1マイクロメートル、さらに好ましくは10ナノメートルから100ナノメートルとなる。
【0023】
上記各種条件において、使用するポリマーの濃度、流速、印加電圧、シリンジーコレクタ間距離を各々の好ましい条件域に設定することにより、ほぼ同じ太さの繊維で構成される不織布を作ることができ、特にポリマー濃度をより高濃度に設定することにより、異なる太さの繊維が混合する不織布を作ることができる。また、使用する溶媒を、ELSPの過程で容易に蒸散しやすい沸点の低い溶媒と、蒸散しにくい沸点の高い溶媒の混合溶媒とし、その混合比を変化させ、特に後者の溶媒の比率を高く設定することにより、繊維同士が一部結合したメッシュ状の不織布を作ることができる。
2.医療用高分子
医療用高分子とは、人工臓器又は人工組織、医療用器具などに使用されるポリマーであり、天然高分子及び合成高分子のいずれも含まれる。
【0024】
天然高分子としては、例えばコラーゲン、ゼラチン、プロテオグリカン、デキストラン、キチン、キトサン、絹、ヒアルロン酸、アルブミン、エラスチン、核酸、ヘパリン及びヘパラン硫酸が挙げられ、これらの1つ又は複数種を適宜選択する。特に、コラーゲンは、生体親和性及び組織適合性に優れ、抗原性が低く、生体内で完全に分解吸収されることから、医用材料の素材として特に優れた特性を有している。例えば、I~V型コラーゲン(特に細胞外マトリックスとして有用なI型コラーゲン)は、ウシ、ブタ、トリなどの動物の皮膚、骨、軟骨又は腱等から抽出及び精製されるが、一般には市販のものを使用することができる。
【0025】
合成高分子としては、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリラクチド、ポリグルタミン酸、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリ-p-ジオキサン、ポリα-リンゴ酸、ポリ-β-ヒドロキシ酪酸など、あるいはポリ乳酸とポリカプロラクトンとの共重合体などが挙げられ、これらを1つ又は複数種選択して使用する。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレングリコール、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタラート、ナイロン、ポリNイソプロピルアクリルアミド、ポリビニルクロライド、ポリメタクリル酸メチル、ポリジメチルシロキサン、ポリアリルスルホン及びポリスルホンなどの1つ又は複数種を適宜選択することも可能である。
【0026】
ここで、医療用高分子に要求される性質として、生体内における親和性、細胞接着性、生分解性、光反応性、機械的耐久性、機械的柔軟性などが挙げられる。但し、本発明においては1種類のポリマーが上記すべての性質を備える必要はなく、1つの性質を有するポリマーを適宜組み合わせることにより、目的とする性質を備えるようにすればよい。
【0027】
親和性は、抗原抗体反応などの生体内における不必要な免疫反応を起こさないようにする性質であり、この性質を満たすポリマーとしてポリメタクリル酸メチル、ポリジメチルシロキサン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレンが挙げられる。
【0028】
また、細胞接着性は、種々の細胞が材料表面上に安定して接着し生存することを可能にする性質であり、医用材料の表面に適切な機能を有する細胞を固定し配置して用いるために要求される。細胞接着性を有するポリマーとしては、例えばコラーゲン、ゼラチンなどが挙げられる。
【0029】
生分解性は、生体内に存在する酵素あるいは単に加水分解によってその高分子の主鎖が分解を受けて生体内で吸収される性質であり、体内に埋め込まれてのち、生体の機能あるいは組織が修復・再建されてくる適当な期間で分解しつつそれらの組織と置換される必要性のために要求される。生分解性を有するポリマーとしては、例えばポリグルタミン酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸とポリカプロラクトンとの共重合体、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリ-p-ジオキサン、ポリα-リンゴ酸、ポリ-β-ヒドロキシ酪酸などが挙げられる。
【0030】
但し、用途によっては生分解性ポリマーである必要がない場合もある。そのような場合に使用されるポリマーとして、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレングリコール、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、シリコーン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタラート、ナイロン、ポリNイソプロピルアクリルアミド、ポリビニルクロライド、ポリメタクリル酸メチル、ポリジメチルシロキサン、ポリアリルスルホン及びポリスルホンなどがある。
【0031】
光反応性は、光を照射することにより化学反応が誘起され、その高分子どうしが架橋されるなどによるハイドロゲルの形成などが引き起こされるという性質であり、薬剤を埋包しており、含水条件で膨潤することによりそれら薬剤を徐放する機能を有するハイドロゲルの形成のために要求される。光反応性を有するポリマーとして、天然高分子の誘導体、例えばスチレン化ゼラチン、ジチオカルバミル化ゼラチンなどのゼラチン誘導体が挙げられる。なお、スチレン化ゼラチンとは、ゼラチンにスチレン基を化学結合させたものを意味し、ジチオカルバミル化ゼラチンは、同様にゼラチンにジチオカルバミル基を導入したものを意味する。
【0032】
機械的耐久性は、医用材料としての使用においてその構造および力学特性を可能な限り長期間にわたって安定に維持する性質であり、生体内での長期間の使用に耐え得る医用材料の製造のために要求される。機械的柔軟性とは、力学的負荷に対する応答において、その構造変形が力負荷により鋭敏に起こるとともに負荷の除去によって元の形状への回復も速やかである性質であり、生体内で使用する医用材料を体内の動的力学環境変化に適切に応答させるために要求される。セグメント化ポリウレタンは機械的耐久性と機械的柔軟性を合わせ持つポリマーである。セグメント化ポリウレタンとは、結晶性固体化するポリマー領域(ハードセグメント)と非晶性のポリマー領域(ソフトセグメント)から構成されることによりミクロ相分離構造を呈するブロック共重合体型ポリウレタンを総称する。
【0033】
本発明においては、コラーゲン、ゼラチン及びポリウレタンの組合せが好ましい。特に、ゼラチンを使用する場合は上記の通りスチレン化ゼラチンが好ましい。ゼラチンは、例えば、牛骨、牛皮又は豚皮からアルカリ法又は酸性法によって工業的に得られる市販ゼラチン、あるいはコラーゲンを熱変性させて調製したゼラチンを使用することができる。ポリウレタンを使用する場合はセグメント化ポリウレタンとするのが好ましい。コラーゲンにより細胞接着性が付与され、スチレン化ゼラチンにより光反応性が付与され、セグメント化ポリウレタンにより機械的耐久性及び柔軟性が付与される。これらの性質は、後述する人工血管用に特に好ましい。
3.電界紡糸
本発明の医用材料は、上記ポリマーを電界紡糸し、紡糸ノズルから噴射される繊維を堆積させることにより不織布の形態として得ることができる。この不織布は、1種類のポリマーにより作製されたものでもよいが、複数のポリマーを混合して紡糸したり、紡糸の際に複数のポリマーを個別にそれぞれ同時に紡糸することもできる。複数のポリマーの各々を順次堆積させて複数の層にしてもよい。例えば、図2に示す通り、2つのジェットを用いて紡糸する場合において、一方のジェット(ノズルA)からポリマーaを、他方のジェット(ノズルB)からポリマーbを噴射すると仮定する。ノズルA及びノズルBからそれぞれポリマーa、ポリマーbを同時に噴射すると、両ポリマーが混合し、それぞれのポリマーが相互侵入したメッシュ構造の不織布を得ることができる(図2)。また、ポリマーa又はポリマーbのいずれか一方をまず噴射して1層の不織布を作製し、次に他方のポリマーを当該不織布上に噴射すると、異なるポリマーの繊維による2層の不織布が得られる(図3)。従って、目的に応じて、2種類のポリマーを同時又は別々に噴射することもでき、3種類以上のポリマーを順次積層することもできる(図3)。「積層」とは、あるポリマー繊維の不織布の上に別のポリマーを紡糸及び堆積させて、不織布の層を重ねることを意味する。但し、重ねるべき不織布を個別に作製しておいて、それぞれの不織布を重ね合せることも、本発明における「積層」に含まれる。積層数は特に限定するものではないが、医用材料としての目的を達成するためには、2層以上であることが好ましく、3層又はそれより多層(例えば3~10層)であることがさらに好ましい。なお、複数のポリマーを使用する場合は、天然高分子同士を組み合わせても、合成高分子同士を組み合わせても、天然高分子と合成高分子とを組み合わせてもよい。
【0034】
本発明の医用材料は、シート状である必要はなく、図4に示すように、回転担体上にポリマーを噴射することによって、円筒形(管状)の医用材料にすることが可能である。回転担体を回転させながら、紡糸ノズルからポリマーを噴射し、担体を回転軸方向に往復移動させることにより、管状の医用材料を作製することができる。この場合も、2種類のノズルから同時にポリマーを噴射すれば、繊維同士が相互侵入した混合化医用材料が得られ、順次積層すれば、複数の層を有する積層化医用材料が得られる。
4.医用材料の用途
本発明の医用材料の用途は、特に限定されるものではないが、例えば人工神経管、人工食道、人工気管、人工血管、人工弁、人工胸壁、人工心膜、人工横隔膜、人工腹膜、人工靭帯、人工腱、人工角膜、人工皮膚、人工関節、人工関節軟骨、歯科材料、外科用縫合糸、外科用補填材、外科用補強材、創傷保護材、骨折接合材、コンタクトレンズ、眼内レンズ、メッシュ、医療用不織布、輸液・血液バッグ、チューブ、手術用手袋、ガウン、シーツ又はフィルターのために使用される。
【0035】
人工血管を作製するには、上記回転担体を用いて3層構造を有するようにするとよい(図4,5)。すなわち、本発明の人工血管の設計思想は、高弾性支持体の基本骨格層を有し、異なる生体適合性や生理的機能を有する生体高分子のナノ・マイクロファイバーメッシュの積層化又は混合化による多機能性の付与にある。この多機能性は、それぞれ異なった生体適合性を有するポリマーにより紡糸された繊維を使用することにより獲得される。具体的には、内腔側には血管内皮細胞またはその前駆細胞を安定して接着させ得るコラーゲンのメッシュ層を、中間層には細胞増殖因子や薬剤を徐放し得る光反応性ゼラチンのメッシュ層を、そして外側には機械的耐久性・柔軟性に優れたセグメント化ポリウレタンのメッシュ層をそれぞれ設け、これら全体が安定した結合組織によって連絡されることにより、血管の内腔側設計と外側設計を区別しかつ充分な機械的強度・耐久性・弾性特性を付与した人工血管を設計することができる。なお、人工血管の内径(中空部の直径)は、紡糸のときに直径の異なる担体を使用することにより、1~10mmの範囲で適宜調節することができる。
【0036】
本発明の人工血管は、内腔側からは内皮細胞層に裏打ちされた仮性内膜組織により、外側からは繊維間隙へ侵入してきた結合組織により覆われて自己化を獲得すると同時に、その内外層を安定して支持する高弾性担体で補強されているのが理想的である。これを細胞レベルで言い換えると、人工血管内腔側は、内皮細胞が覆うことができるように内皮細胞に対する細胞接着性を有しつつも、血小板、白血球などが付着しないように血球細胞に対する細胞非接着性が要求され、人工血管外側は、繊維芽細胞などへの細胞接着、遊走性及び増殖性が求められる。そのためには、人工血管の基本骨格(血管の外周)には高弾性体の支持層であるセグメント化ポリウレタンのナノファイバーを、内腔側には細胞接着マトリックスであるコラーゲンを、外周と内腔との間には生理活性物質を含むゼラチンナノファイバーを設営することが好ましい。
【0037】
【実施例】
以下、本発明の具体的実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
〔実施例1〕セグメント化ポリウレタンを用いた医用材料の作製
セグメント化ポリウレタンを10%濃度で、テトラヒドロフランに溶かし、送液速度3ml/hr、電場距離30cm、印加電圧30kVの条件で、電界紡糸した。コレクタ上に堆積した産物は、走査電子顕微鏡により観察すると、図6に示すようなマイクロメートルスケールの外径(1μm~10μm)を有するファイバーからなる不織布を形成していた。 また、ファイバーの一部は、他のファイバーと融合して架橋点を形成していた。このことは、作製された不織布が伸縮性に富むことを意味する。
【0039】
形成されたセグメント化ポリウレタンの不織布をコレクタより回収し引っ張り試験を行ったところ、電界紡糸によらない方法で作成したセグメント化ポリウレタンのシートより、数倍程度以上の弾性を示し、丈夫かつしなやかなシートを形成した。
【0040】
〔実施例2〕光ゲル化ゼラチンを用いた医用材料の作製
スチレン基を導入した光ゲル化ゼラチンを2.5から12.5%濃度で、カンファキノン1%とともに1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノールに溶かし、送液速度3ml/hr、電場距離10cm、印加電圧12kVの条件で、電界紡糸した。コレクタ上に堆積した産物は、走査電子顕微鏡により観察すると、図7に示すような数十から数百ナノメートルスケールの外径を有するファイバーからなる不織布を形成していた。
【0041】
光ゲル化ゼラチンの濃度が5%のときは、ビーズに糸を通した形態、いわゆるネックレス状のファイバーが形成された。また、7.5%のときは太さの異なるファイバーが形成された(太さ10~500nm)。10.0%のときは、100nm~5μmの太さのファイバーが形成された。
【0042】
このように、光ゲル化ゼラチンの濃度を変えることで、生成するファイバーの直径を制御することが可能であった。そして、直径が異なるファイバーが集合して不織布を形成すると、ファイバー径の不均一分布に起因して、細胞接着挙動や薬剤徐放挙動などの発現機能の特性が空間的に不均化・多様化するという効果を生じる。
【0043】
また、光ゲル化ゼラチンのナノファイバーからなり、カンファキノンを含む不織布に、60mW/cm2強度の可視光を照射したところ、不織布はゲル化し、水不溶性を示した。
【0044】
〔実施例3〕コラーゲンを用いた医用材料の作製
コラーゲンを1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノールに溶かし、送液速度3ml/hr、電場距離15cm、印加電圧25kVの条件で、電界紡糸した。コレクタ上に堆積した産物は、走査電子顕微鏡により観察すると、図8に示すようなマイクロメートルスケールの外径(1μm~10μm)を有するファイバーからなる不織布を形成していた。
【0045】
〔実施例4〕2種類のポリマーを用いた医用材料の作製
セグメント化ポリウレタンおよび光ゲル化ゼラチン、または、光ゲル化ゼラチンおよびコラーゲンをそれぞれ実施例1、2、3に記載した操作条件の下、図2に示すような二本のシリンジから同時に同一のコレクタ上に向けて電界紡糸した。その際、射出する異なる種類の高分子溶液に予め異なる蛍光色素を微量混合しておいた。その結果、形成された不織布を共焦点レーザー顕微鏡によって観察すると、異なる高分子のナノファイバーが相互侵入したメッシュ構造が形成されていた。
【0046】
〔実施例5〕3種類のポリマーを用いた3層構造を有する医用材料の作製
セグメント化ポリウレタン、光ゲル化ゼラチン、コラーゲンをそれぞれ実施例1、2、3に記載した操作条件の下、図3に示すように異なるシリンジから同一のコレクタ上に順次、連続して電界紡糸を行った。その際、射出する異なる種類の高分子溶液に予め異なる蛍光色素を微量混合しておいた。その結果、形成された不織布を共焦点レーザー顕微鏡によって観察すると、異なる高分子のナノファイバーが順次、積層化されたメッシュ構造が形成されていた(図9)。図9において、下の層の蛍光は、上の層に覆われると消失することから、確かに不織布が積層されていることが分かる。これは、断面像の観察により3層構造をとっていることを確認することができる(図9)。
【0047】
〔実施例6〕人工血管の作製
実施例4および5の方法により、図4に示すような軸方向に任意の速度で往復運動しつつ回転する金属シャフト(直径1~3ミリメートル)へ向けて、コラーゲン、光ゲル化ゼラチン、セグメント化ポリウレタンを混合又は積層化電界紡糸した。その後、混合・積層されたナノ・マイクロファイバー不織布をシャフトより抜き取ると、しなやかな弾性を示す人工血管が製造された。この人工血管は図5に示すような階層的構造を有していた。すなわち、内腔には細胞接着性のマトリックスとして作用するコラーゲンのナノ・マイクロファイバー層、中間層には生理活性物性を貯え、水溶液中で徐放可能な光ゲル化ゼラチンのナノ・マイクロファイバー層、そして外側層には高弾性支持骨格としてのセグメント化ポリウレタンのナノ・マイクロファイバー層を有する機能的人工血管が形成できた。
【0048】
〔実施例7〕 細胞を固定させた人工血管の構築
実施例6にて作製された人工血管に対して、ヒト臍帯静脈壁より採取された血管内皮細胞を播種したところ、コラーゲンのナノ・マイクロファイバーを有する内面層上にそれらの血管内皮細胞はよく接着した。すなわち内壁に血管内皮細胞を接着固定させた機能的人工血管を構築することができた(図10)。また、細胞を蛍光色素DiOにより蛍光ラベルしたところ、緑色の蛍光を発していた(図10)。
【0049】
【発明の効果】
本発明により、医療用高分子の繊維を用いて作製された不織布の医用材料が提供される。本発明の医用材料には多機能・高機能性が付与されている。従って、例えば弾性特性の強化及び異なる生体高分子・合成高分子のナノ・マイクロファイバーは、人工血管に有用である。本発明における器具化を可能ならしめる諸特性の最適化は、電界紡糸する際の、高分子の種類、紡糸条件の設定によって可能である。また、本発明の人工血管はさらなる他の人工血管、例えばハイブリッド型人工血管の基本材料としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】電界紡糸装置の概念図である。
【図2】二つのジェットを用いる電界紡糸によるナノファイバーの混合化を示す図である。
【図3】二つのジェットを用いる電界紡糸によるナノファイバーの積層化を示す図である。
【図4】二つのジェットを用いて混合・積層化されたナノファイバーからなるチューブの作製法の概要を示す図である。
【図5】積層化ナノファイバーメッシュによる人工血管壁の階層的構造設計を示す図である。
【図6】セグメント化ポリウレタンのマイクロファイバーの走査電子顕微鏡写真である。
【図7】光ゲル化ゼラチンの電界紡糸産物の走査電子顕微鏡写真である。
【図8】コラーゲンのナノ及びマイクロファイバーを示す走査電子顕微鏡写真である。
【図9】積層化ナノ及びマイクロファイバーの作製例を示す図である。
【図10】積層化ナノ・ミクロンファイバーメッシュによる人工血管の作製例を示す走査電子顕微鏡写真、および、その内面に播種された血管内皮細胞の蛍光顕微鏡写真である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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