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明細書 :光学活性なブテノライド類の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3991104号 (P3991104)
公開番号 特開2004-277399 (P2004-277399A)
登録日 平成19年8月3日(2007.8.3)
発行日 平成19年10月17日(2007.10.17)
公開日 平成16年10月7日(2004.10.7)
発明の名称または考案の名称 光学活性なブテノライド類の製造方法
国際特許分類 C07D 307/58        (2006.01)
B01J  31/22        (2006.01)
C07B  61/00        (2006.01)
FI C07D 307/58
B01J 31/22 Z
C07B 61/00 300
請求項の数または発明の数 12
全頁数 20
出願番号 特願2003-316517 (P2003-316517)
出願日 平成15年9月9日(2003.9.9)
優先権出願番号 2003047834
優先日 平成15年2月25日(2003.2.25)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成15年9月11日(2003.9.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】391012501
【氏名又は名称】九州大学長
発明者または考案者 【氏名】香月 勗
【氏名】松岡 悠子
個別代理人の代理人 【識別番号】100072051、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 興作
審査官 【審査官】當麻 博文
参考文献・文献 SZLOSEK, M. and FIGADERE, B.,Angew. Chem. Int. Ed.,ドイツ,2000年,Vol.39/No.10,p.1799-1801
SZLOSEK, M. et al.,Heterocycles,2000年 3月 1日,Vol.52/No.3,p.1005-1013
AIKAWA, K. et al.,Tetrahedron,2001年 1月28日,Vol.57/No.5,p.845-851
MIHARA, J. et al.,Heterocycles,2001年 1月 1日,Vol.54/No.1,p.395-404
調査した分野 C07D 307/58
B01J 31/22
C07B 61/00
CAOLD(STN)
CAplus(STN)
CASREACT(STN)
REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
溶媒中で、下記式(I)又は下記式(II)で表されるCr(サレン)錯体を触媒として使用し、下記式(III)で表されるフラン類を下記式(IV)で表されるアルデヒド類に付加させる工程を含むことを特徴とする光学活性なブテノライド類の製造方法。
【化1】
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【化2】
JP0003991104B2_000025t.gif

(式(I)及び式(II)において、Ar1は、それぞれ独立して炭素数10~16のアリール基を表し、X-は一価の陰イオンを表す。)
【化3】
JP0003991104B2_000026t.gif

(式中、R1は、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、又はt-ブチルジメチルシリル基を示す。)

2-CHO ・・・ (IV)

(式中、R2は、炭素数1~20の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~15のアリール基、又は炭素数7~15のアラルキル基を示す。)
【請求項2】
溶媒中で、上記式(I)又は式(II)で表されるCr(サレン)錯体を触媒として使用し、上記式(III)で表されるフラン類を上記式(IV)で表されるアルデヒド類に付加させ下記式(V)で表されるブテノライド類を生成させる工程と、
該式(V)のブテノライド類を酸で加水分解する工程とを含むことを特徴とする下記式(VI)で表される光学活性なブテノライド類の製造方法。
【化4】
JP0003991104B2_000027t.gif

(式中、R1及びR2は、上記と同義である。)
【化5】
JP0003991104B2_000028t.gif

(式中、R2は、上記と同義である。)
【請求項3】
前記Cr(サレン)錯体が下記式(VII)又は下記式(VIII)で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学活性なブテノライド類の製造方法。
【化6】
JP0003991104B2_000029t.gif

【化7】
JP0003991104B2_000030t.gif

(式(VII)及び式(VIII)において、X-は一価の陰イオンを表す。)
【請求項4】
上記X-がBF4-、PF6-又はSbF6-であることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の光学活性なブテノライド類の製造方法。
【請求項5】
前記式(III)で表されるフラン類が2-(トリメチルシリルオキシ)フランであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学活性なブテノライド類の製造方法。
【請求項6】
前記式(IV)で表されるアルデヒド類が、3-フェニルプロパナール、n-ヘプタナール、n-オクタナール、4-フェニルブタナール、シクロヘキサンカルバルデヒド又はベンズアルデヒドであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学活性なブテノライド類の製造方法。
【請求項7】
前記光学活性なブテノライド類が、前記式(V)又は前記式(VI)で表されるブテノライド類であることを特徴とする請求項1に記載の光学活性なブテノライド類の製造方法。
【請求項8】
前記式(VI)で表されるブテノライド類において、R2が2-フェニルエチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、3-フェニルプロピル基、シクロヘキシル基又はフェニル基であることを特徴とする請求項7に記載の光学活性なブテノライド類の製造方法。
【請求項9】
前記酸がトリフルオロ酢酸であることを特徴とする請求項2に記載の光学活性なブテノライド類の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒が、ジクロロメタンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光学活性なブテノライド類の製造方法。
【請求項11】
前記溶媒に、更に水及びアルコールの少なくとも一方を添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の光学活性なブテノライド類の製造方法。
【請求項12】
前記アルコールが添加された溶媒中で、上記式(I)又は式(II)で表されるCr(サレン)錯体を触媒として使用し、上記式(III)で表されるフラン類を上記式(IV)で表されるアルデヒド類に付加させて上記式(VI)で表される光学活性なブテノライド類を生成させることを特徴とする請求項1に記載の光学活性なブテノライド類の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性なブテノライド類の製造方法に関するものである。このような光学活性なブテノライド類は、医農薬品の合成に使用できる。
【背景技術】
【0002】
5-置換ブテノライド誘導体は、有機合成におけるビルディングブロックとして有用であり、多くの合成方法が知られている。これら既知の合成方法の中でも、2-トリメチルシリルオキシフランと、アルデヒド、ケトン及びエノン等とのルイス酸を触媒とした反応が最も工程の短い合成方法である。そのため、ルイス酸を触媒として、2-トリメチルシリルオキシフランから5-置換ブテノライド誘導体への不斉合成が活発に研究されている。
【0003】
本発明者らは、スカンジウム-3,3'-ビス(ジエチルアミノメチル)-1,1'-ビ-2-ナフトール及び銅(II)-ビス(オキサゾリン類)錯体が、2-(トリメチルシリルオキシ)フランの3-[(E)-2-ブテノイル]-1,3-オキサゾリン-2-オンへのエナンチオ選択的なマイケル付加の触媒として機能することを報告した(非特許文献1参照)。
【0004】
また、Evansらは、Cu(I)-ビス(オキサゾリン類)錯体の存在下、2-(トリメチルシリルオキシ)フランのピルビン酸メチルへの付加反応が高いエナンチオ選択性且つ高いジアステレオ選択性を示すことを報告している(非特許文献2参照)。
【0005】
一方、Figadereらは、Ti-BINOL錯体を触媒とした、2-(トリメチルシリルオキシ)フランのアルデヒド類への付加反応が高エナンチオ選択的且つ低ジアステレオ選択的に進行することを報告した。更に、彼らは、エナンチオ選択的な反応が、反応の進行に従いオートキャタリシスにより増加することも報告している(非特許文献3参照)。
【0006】

【非特許文献1】北島及び香月,シンレット(Synlett),1997年,p.568
【非特許文献2】エバンス(Evans),バーゲイ(Burgey),コツロフスキー(Kozlowski)及びトレゲイ(Tregay),ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(J. Am, Chem. Soc.),1999年,121巻,p.686
【非特許文献3】スツロセック(Szlosek),フランク(Franck),フィガデア(Figadere)及びケイブ(Cave),ジャーナル・オブ・オルガニック・ケミストリー(J. Org. Chem.),1998年,63巻,p.5169
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、光学活性な6-ヒドロキシ-ブテノライド類を生成するこの種の付加反応は、未だ充分に検討されていない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、光学活性な6-ヒドロキシ-ブテノライド類を生成できる新規な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定のCr(サレン)錯体を触媒として使用することにより、特定のフラン類から光学活性なブテノライド類を製造でき、該ブテノライド類は容易に6-ヒドロキシ-ブテノライド類に変換できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明の光学活性なブテノライド類の製造方法は、溶媒中で、下記式(I)又は下記式(II)で表されるCr(サレン)錯体を触媒として使用し、下記式(III)で表されるフラン類を下記式(IV)で表されるアルデヒド類に付加させる工程を含むことを特徴とする。
【化1】
JP0003991104B2_000002t.gif

【化2】
JP0003991104B2_000003t.gif

(式(I)及び式(II)において、Ar1は、それぞれ独立して炭素数10~16のアリール基を表し、X-は一価の陰イオンを表す。)
【化3】
JP0003991104B2_000004t.gif

(式中、R1は、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、又はt-ブチルジメチルシリル基を示す。)

2-CHO ・・・ (IV)

(式中、R2は、炭素数1~20の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~15のアリール基、又は炭素数7~15のアラルキル基を示す。)
【0011】
また、本発明の光学活性なブテノライド類の他の製造方法は、溶媒中で、上記式(I)又は式(II)で表されるCr(サレン)錯体を触媒として使用し、上記式(III)で表されるフラン類を上記式(IV)で表されるアルデヒド類に付加させ下記式(V)で表されるブテノライド類を生成させる工程と、該式(V)のブテノライド類を酸で加水分解して下記式(VI)で表されるブテノライド類を生成させる工程(但し、後述のように、溶媒にアルコールを添加する場合、この工程を省くことができる)とを含むことを特徴とする。ここで、該酸としては、トリフルオロ酢酸が好ましい。
【化4】
JP0003991104B2_000005t.gif

(式中、R1及びR2は、上記と同義である。)
【化5】
JP0003991104B2_000006t.gif

(式中、R2は、上記と同義である。)
【0012】
本発明の光学活性なブテノライド類の製造方法の好適例においては、前記Cr(サレン)錯体が、下記式(VII)又は下記式(VIII)で表される。
【化6】
JP0003991104B2_000007t.gif

【化7】
JP0003991104B2_000008t.gif

(式(VII)及び式(VIII)において、X-は一価の陰イオンを表す。)
【0013】
本発明の光学活性なブテノライド類の製造方法の他の好適例においては、上記X-が、BF4-、PF6-又はSbF6-である。
【0014】
本発明の光学活性なブテノライド類の製造方法の他の好適例においては、前記式(III)で表されるフラン類が2-(トリメチルシリルオキシ)フランである。
【0015】
本発明の光学活性なブテノライド類の製造方法の他の好適例においては、前記式(IV)で表されるアルデヒド類が、3-フェニルプロパナール、n-ヘプタナール、n-オクタナール、4-フェニルブタナール、シクロヘキサンカルバルデヒド又はベンズアルデヒドである。
【0016】
本発明の光学活性なブテノライド類の製造方法の他の好適例においては、前記光学活性なブテノライド類が、前記式(V)又は前記式(VI)で表されるブテノライド類である。ここで、該式(VI)で表されるブテノライド類において、R2が2-フェニルエチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、3-フェニルプロピル基、シクロヘキシル基又はフェニル基であるのが更に好ましい。
【0017】
本発明の光学活性なブテノライド類の製造方法の他の好適例においては、前記溶媒が、ジクロロメタンである。
【0018】
本発明の光学活性なブテノライド類の製造方法の他の好適例においては、前記溶媒に、更に水及びアルコールの少なくとも一方を添加する。ここで、溶媒にアルコールを添加した場合、上記式(I)又は式(II)で表されるCr(サレン)錯体を触媒として使用し、上記式(III)で表されるフラン類を上記式(IV)で表されるアルデヒド類に付加させるだけで上記式(VI)で表される光学活性なブテノライド類を生成させることができ、式(V)のブテノライド類を酸で加水分解する工程を省略することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方法によれば、フラン類及びアルデヒド類から高いエナンチオ選択性でブテノライド類を製造することができ、該光学活性なブテノライド類は、医農薬品の合成における、キラルなビルディングブロックとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の光学活性なブテノライド類の製造方法では、上記式(I)又は上記式(II)で表されるCr(サレン)錯体を触媒として使用する。ここで、式(II)の錯体は、式(I)の錯体の鏡像異性体である。式(I)及び式(II)において、Ar1はそれぞれ独立して炭素数10~16のアリール基を表し、該炭素数10~16のアリール基としては、1-ナフチル基、2-ビフェニル基、2-フェニル-1-ナフチル基、2-メチル-1-ナフチル基、2-[3,5-ジメチルフェニル]-1-ナフチル基、2-[4-メチルフェニル]-1-ナフチル基、2-{4-[t-ブチルジフェニルシリル]フェニル}-1-ナフチル基、2-メトキシ-1-ナフチル基等が挙げられる。これらの中でも、触媒活性及びエナンチオ選択性の観点から2-フェニル-1-ナフチル基が好ましく、この場合、前記Cr(サレン)錯体は上記式(VII)又は式(VIII)で表される。
【0021】
また、式(I)及び式(II)において、X-は一価の陰イオンを表し、該一価の陰イオンとしては、BF4-、PF6-、SbF6-、ClO4-、BPh4-等が挙げられ、これらの中でも、エナンチオ選択性の観点からBF4-、PF6-及びSbF6-が好ましい。
【0022】
上記Cr(サレン)錯体の使用量は、後述する式(IV)で表されるアルデヒド類のモル量に対し、0.5~10mol%、好ましくは1~3mol%の範囲である。
【0023】
本発明の製造方法で使用するフラン類は上記式(III)で表される。式(III)において、R1は、トリメチルシリル(TMS)基、トリエチルシリル基、又はt-ブチルジメチルシリル基を示す。これらの中でも、エナンチオ選択性の観点から、トリメチルシリル基が好ましい。
【0024】
上記式(III)のフラン類の使用量は、後述する式(IV)のアルデヒド類に対し、1~2当量(eq)、好ましくは1.1~1.3当量(eq)の範囲である。
【0025】
本発明の製造方法で使用するアルデヒド類は上記式(IV)で表される。式(IV)において、R2は、炭素数1~20の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~15のアリール基、炭素数7~15のアラルキル基を示す。ここで、炭素数1~20の直鎖若しくは分岐のアルキル基としては、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基等が挙げられ、炭素数3~20のシクロアルキル基としては、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、4-メチルシクロヘキシル基等が挙げられ、炭素数6~15のアリール基としては、フェニル基、o-トルイル基、m-トルイル基、p-トルイル基、3,5-ジメチルフェニル基等が挙げられ、炭素数7~15のアラルキル基としては、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等が挙げられる。
【0026】
上記式(IV)のアルデヒド類において、R2としては、生成物の鏡像体過剰率の点から、アルキル基、シクロアルキル基及びアラルキル基が好ましい。
【0027】
本発明の製造方法においては、上記Cr(サレン)錯体に配位した式(IV)のアルデヒド類の一方のエナンチオ面を光学活性なサレン配位子がブロックし、その結果、式(III)のフラン類がエナンチオ面のもう一方の側から接近し、式(III)のフラン類と式(IV)のアルデヒド類とが立体選択的に結合し、エナンチオ選択的にブテノライド類が生成する。
【0028】
本発明の製造方法で得られるブテノライド類は、光学活性なブテノライド類であり、具体的には、上記式(V)又は式(VI)で表される。なお、反応溶媒に上記アルデヒドに対して後述するアルコールを1当量以上添加すると、生成するブテノライド類は式(VI)の化合物に限られる。ここで、式(V)で表されるブテノライド類は、酸による加水分解により容易に式(VI)で表される6-ヒドロキシ-ブテノライド類に変換できる。
【0029】
上記酸としては、式(V)のブテノライド類を加水分解できる限り、特に限定されず、例えば、トリフルオロ酢酸(TFA)、トルエンスルホン酸等の有機酸、希塩酸等の無機酸が挙げられる。これら酸の中でも、生成物の安定性の観点から、トリフルオロ酢酸が好ましい。上記酸の使用量は、上記式(IV)のアルデヒド類のモル量に対し、0.05~10mol%、好ましくは1~5mol%の範囲である。
【0030】
上記式(V)又は式(VI)で表されるブテノライド類は、不斉炭素を2個有するため、2種類のジアステレオマーが存在し、その夫々について一対のエナンチオマーが存在する。例えば、式(VI)のブテノライド類のジアステレオマーとしては、下記式(VI-anti)で表されるアンチ体(anti)と、下記式(VI-syn)で表されるシン体(syn)とが存在する。
【0031】
【化8】
JP0003991104B2_000009t.gif

(式中、R2は、上記と同義である。)
【化9】
JP0003991104B2_000010t.gif

(式中、R2は、上記と同義である。)
【0032】
本発明の製造方法では、生成物のエナンチオ選択性が高いため、光学純度の高いブテノライド類を得ることができる。本発明の製造方法では、式(I)のCr(サレン)錯体と式(II)のCr(サレン)錯体との使い分けにより、アンチ体とシン体のそれぞれについて、光学活性なブテノライド類の両鏡像異性体が得られる。一方、本発明の製造方法では、生成物のジアステレオ選択性は必ずしも高くはないが、ジアステレオマーは物理的性質が異なるため、分離が容易であり、ジアステレオ選択性は特に問題ではない。
【0033】
本発明の製造方法は、溶媒中で行う。ここで、該溶媒としては、特に限定されるものではないが、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、フルオロベンゼン等が挙げられる。これら溶媒の中でも、反応のエナンチオ選択性の観点から、ジクロロメタンが好ましい。溶媒の使用量は、式(IV)のアルデヒド類1mmolに対し、0.5~10mL、好ましくは0.8~2mLの範囲である。
【0034】
上記溶媒には、更に水及び/又はアルコールを添加するのが好ましい。溶媒に水及び/又はアルコールを加えることにより、生成物の鏡像体過剰率を向上させることができる。ここで、アルコールとしては、メタノール、エタノール、トリフルオロエタノール、イソプロパノール、t-ブチルアルコール等が挙げられ、これらの中でも、イソプロパノールが好ましい。イソプロパノールを用いた場合、反応のジアステレオ選択性が向上(シン選択性が向上)する。上記水の添加量は、前記Cr(サレン)錯体に対し、2~30当量(eq)、好ましくは8~12当量(eq)の範囲である。一方、上記アルコールの添加量は、前記アルデヒドに対し1当量以上であることが望ましく、好ましくは1.2~1.5当量の範囲である。
【0035】
本発明の製造方法においては、下記に示すように、式(III)のフラン類と式(IV)のアルデヒド類との付加反応が、エナンチオ面決定段階で且つ可逆反応であり、そのため、R1で表される基(例えば、トリメチルシリル基)の転位が速やかに起こることが、高いエナンチオ選択性を達成する上で重要であると考えられる。一方、適当な求核試薬が反応溶液中に存在する場合、エステルのカルボニル基上のR1で表される基は脱離し、逆反応が減少すると考えられる。本発明の製造方法において、上記水及びアルコールは、かかる求核試薬として機能するものと考えられる。そのため、溶媒に水及び/又はアルコールを添加した場合、式(V)のブテノライド類の生成が抑制され、式(VI)のブテノライド類の生成が増加する。そして、アルデヒドに対してアルコールを1当量以上用いた場合、生成するブテノライド類は式(VI)の化合物に限られる。
【0036】
【化10】
JP0003991104B2_000011t.gif

【0037】
本発明において生成物のジアステレオマー比は、1H-NMRで分析できる。M. Szlosek and B. Figadere, Angew. Chem. Int. Ed., 39, 1799(2000).には、オクタナール及びシクロヘキサンカルバルデヒドに由来するブテノライド類において、シン-体のカルビノール炭素に付加したプロトンは、アンチ体の対応するプロトンよりも0.1ppm高いところに現れることが報告されている。一方、本発明において生成物のエナンチオ選択性は、光学活性カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定することができる。
【0038】
本発明の製造方法は、室温(25℃)以下で行うのが好ましく、生成物の鏡像体過剰率の点からは0~-20℃が更に好ましい。
【0039】
本発明では、上記フラン類、アルデヒド類、溶媒及び触媒の混合溶液を、撹拌することにより光学活性なブテノライド類を製造することができる。撹拌方法は、混合溶液の均一性を確保できさえすれば特に限定されず、公知の方法が適用できる。また、反応時間も特に限定されず、上記反応温度に合わせて適宜選択される。反応温度が高い場合は反応時間を短く、反応温度が低い場合は反応時間を長くすることが好ましい。
【0040】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、 本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
(錯体合成例1)
(1R,2R)-1,2-シクロヘキサンジアミン[環境科学センター株式会社](85.3mg, 0.77mmol)をエタノール(10mL)に溶解させる。次に、(R)-3-フォルミル-2-ヒドロキシ-2'-フェニル-1,1'-ビナフチル[H. Sasaki, R. Irie, T. Hamada, K. Suzuki, and T.Katsuki, Tetrahedron, 50(41), 11827-11838(1994)等に記載の方法にて合成](576.6mg, 1.54mmol)を加え、この溶液を6時間撹拌する。反応終了後、生じた沈殿物をろ取し、減圧下1時間加熱乾燥する。その後、ろ取物を窒素雰囲気下にて無水テトラヒドロフラン(20mL)に溶解させ、塩化クロム(II)[Aldrich Chem. Co.](113.6mg, 0.9mmol)を加えて3時間撹拌した後、空気にさらす。更に6時間撹拌後、ジクロロメタン(50mL)を加える。得られた溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液(60mL)で3回、更に飽和塩化ナトリウム水溶液(60mL)で3回洗浄する。有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥した後、ロータリーエバポレーターで濃縮する。残渣を、ジクロロメタン/メタノール(=9/1)を展開溶媒としてシリカゲルカラムで分離する。得られた錯体(76.1mg, 0.082mmol)を、窒素雰囲気下にて無水ジクロロメタン(4mL)に溶かした後、遮光してヘキサフルオロホスフェイト酸銀[Aldrich Chem. Co.](25.3mg, 0.1mmol)を加える。6時間後、セライト上で濾過し、ろ液を濃縮して、下記式(VII-a)で表される錯体(80.6mg, 収率96%)を得た。
【0042】
【化11】
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【0043】
上記の方法で得られた錯体の元素分析の結果は、H 4.29%、C 64.15%、N 2.45%であり、C604422CrPF6・CH2Cl2・2H2Oの理論値(H 4.41%、C 64.10%、N 2.45%)と非常に良く一致していた。
【0044】
(錯体合成例2)
(1R,2R)-1,2-シクロヘキサンジアミン[環境科学センター株式会社](85.3mg, 0.77mmol)をエタノール(10mL)に溶解させる。次に、(R)-3-フォルミル-2-ヒドロキシ-2'-フェニル-1,1'-ビナフチル(576.6mg, 1.54mmol)を加え、この溶液を6時間撹拌する。反応終了後、生じた沈殿物をろ取し、減圧下1時間加熱乾燥する。その後、ろ取物を窒素雰囲気下にて無水テトラヒドロフラン(20mL)に溶解させ、塩化クロム(II)[Aldrich Chem. Co.](113.6mg, 0.9mmol)を加えて3時間撹拌した後、空気にさらす。更に6時間撹拌後、ジクロロメタン(50mL)を加える。得られた溶液を飽和塩化アンモニウム水溶液(60mL)で3回、更に飽和塩化ナトリウム水溶液(60mL)で3回洗浄する。有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥した後、ロータリーエバポレーターで濃縮する。残渣を、ジクロロメタン/メタノール(=9/1)を展開溶媒としてシリカゲルカラムで分離する。得られた錯体(72.8mg, 0.08mmol)を、窒素雰囲気下にて無水ジクロロメタン(3mL)に溶かした後、遮光してヘキサフルオロアンチモン酸銀[Aldrich Chem. Co.](36.0mg, 0.1mmol)を加える。6時間後、セライト上で濾過し、ろ液を濃縮して、下記式(VII-b)で表される錯体(84.5mg, 収率95%)を得た。
【0045】
【化12】
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【0046】
上記の方法で得られた錯体の元素分析の結果は、H 4.11%、C 56.54%、N 2.35%であり、C604422CrSbF6・2CH2Cl2・2H2Oの理論値(H 3.97%、C 56.47%、N 2.12%)と非常に良く一致していた。
【0047】
(実施例1)
室温(25℃)、窒素下にて、上記式(VII-a)で表される錯体(2.5mg, 2.5μmol)をジクロロメタン(CH2Cl2)(250μL)に溶解させる。この溶液に3-フェニルプロパナール(13μL, 0.10mmol)を加え、更に、2-(トリメチルシリルオキシ)フラン(20μL, 0.12mmol)を加え24時間撹拌する。次に、該混合液にトリフルオロ酢酸(TFA)の10%テトラヒドロフラン(THF)溶液(500μL, 0.2mmol)を加えて反応を終了させた。得られた混合液を減圧下で濃縮し、ヘキサン/酢酸エチル(=6/4)混合液を用いシリカゲルでクロマトグラフ分離し、対応するブテノライド類を得た。
【0048】
得られたブテノライド類のジアステレオマー比は、1H-NMR(400MHz)で分析した。上述のように、M. Szlosek and B. Figadere, Angew. Chem. Int. Ed., 39, 1799(2000).によると、オクタナールとシクロヘキサンカルバルデヒドに由来するブテノライド類において、シン-体のカルビノール炭素に付加したプロトンは、アンチ体の対応するプロトンよりも0.1ppm高いところに現れる。そこで、本実施例においては、生成物の立体配置を、該論文に従い、ケミカルシフトの小さい方をシン-体とした。
【0049】
また、得られたブテノライド類の鏡像体過剰率をダイセル・キラルパックAS-H(DAICEL CHIRALPAK AS-H)及びヘキサン/イソプロパノール(=9/1)混合液を用い高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。結果を表1に示す。
【0050】
(実施例2)
室温(25℃)、窒素下にて、上記式(VII-a)で表される錯体(2.5mg, 2.5μmol)をジクロロメタン(250μL)に溶解させる。この溶液に3-フェニルプロパナール(13μL, 0.10mmol)を加え、得られた混合液を0℃に冷却する。更に、該混合液に2-(トリメチルシリルオキシ)フラン(20μL, 0.12mmol)を加え0℃にて24時間撹拌する。次に、該混合液にトリフルオロ酢酸(TFA)の10%テトラヒドロフラン(THF)溶液(500μL, 0.2mmol)を加えて反応を終了させた。得られた混合液を実施例1と同様にしてクロマトグラフ分離し、対応するブテノライド類を得た。また、該ブテノライド類のジアステレオマー比及び鏡像体過剰率を実施例1と同様にして分析した。結果を表1に示す。
【0051】
(実施例3及び4)
式(VII-a)で表される錯体(2.5μmol)を式(VII-b)で表される錯体(2.5μmol)に変更する以外は実施例1又は2と同様にして行った。結果を表1に示す。
【0052】
【表1】
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【0053】
表1の実施例1~4に対応する反応式を下記に示す。
【化13】
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【0054】
表1から、本発明の製造方法は、ジアステレオ選択性は低いものの、エナンチオ選択性が高いことが分かる。また、室温よりも低温で反応を行うことにより、生成物の光学純度が著しく向上することが分かる。
【0055】
(実施例5)
室温(25℃)、窒素下にて、予め減圧下70℃で乾燥した上記式(VII-b)で表される錯体(2.8mg, 2.5μmol)を、水(0.09μL, 5μmol)を含むジクロロメタン(250μL)に溶解させる。この溶液に3-フェニルプロパナール(13μL, 0.10mmol)を加え、得られた混合液を-20℃に冷却する。更に、該混合液に2-(トリメチルシリルオキシ)フラン(20μL, 0.12mmol)を加え-20℃にて24時間撹拌する。次に、該混合液にトリフルオロ酢酸の10%テトラヒドロフラン(THF)溶液(500μL, 0.2mmol)を加えて反応を終了させた。得られた混合液を実施例1と同様にしてクロマトグラフ分離し、対応するブテノライド類を得た。また、該ブテノライド類のジアステレオマー比及び鏡像体過剰率を実施例1と同様にして分析した。結果を表2に示す。
【0056】
(実施例6~9)
ジクロロメタンに含まれる水の量を表2に示す量に変更する以外は実施例5と同様にして行った。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
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【0058】
表2の実施例5~9に対応する反応式を下記に示す。
【化14】
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【0059】
表2から、添加する水の量を増加するに従い、反応のエナンチオ選択性が向上することが分かる。
【0060】
(実施例10)
水(5μmol)に代えて、イソプロパノール(125μmol, 触媒量の50倍のモル量)をジクロロメタンに含ませること、及びトリフルオロ酢酸処理を行わないこと以外は、実施例5と同様にして行った。その結果、アンチ体:シン体=32:68(モル比)で、アンチ体の鏡像体過剰率が98%eeで、シン体の鏡像体過剰率が96%eeであった。このことから、溶媒にイソプロパノールを添加することで、ジアステレオ選択性(シン選択性)が向上し、且つエナンチオ選択性も著しく高いことが分かる。
【0061】
(実施例11)
3-フェニルプロパナール(0.10mmol)をn-ヘプタナール(0.10mmol)に代える以外は、実施例8と同様にして行った。結果を表3に示す。また、反応式を下記に示す。
【化15】
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【0062】
(実施例12)
3-フェニルプロパナール(0.10mmol)をn-オクタナール(0.10mmol)に代える以外は、実施例8と同様にして行った。なお、生成物の立体配置は、M. Szlosek and B. Figadere, Angew. Chem. Int. Ed., 39, 1799(2000).に記載の方法で決定した。結果を表3に示す。また、反応式を下記に示す。
【化16】
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【0063】
(実施例13)
3-フェニルプロパナール(0.10mmol)を4-フェニルブタナール(0.10mmol)に代える以外は、実施例8と同様にして行った。結果を表3に示す。また、反応式を下記に示す。
【化17】
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【0064】
(実施例14)
3-フェニルプロパナール(0.10mmol)をシクロヘキサンカルバルデヒド(0.10mmol)に代える以外は、実施例8と同様にして行った。なお、生成物の立体配置は、M. Szlosek and B. Figadere, Angew. Chem. Int. Ed., 39, 1799(2000).に記載の方法で決定した。結果を表3に示す。また、反応式を下記に示す。
【化18】
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【0065】
(実施例15)
3-フェニルプロパナール(0.10mmol)をベンズアルデヒド(0.10mmol)に代える以外は、実施例8と同様にして行った。結果を表3に示す。また、反応式を下記に示す。
【化19】
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【0066】
【表3】
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【0067】
(実施例16)
3-フェニルプロパナール(0.10mmol)をベンズアルデヒド(0.10mmol)に代える以外は、実施例10と同様にして行った。その結果、アンチ体:シン体=15:85(モル比)で、アンチ体の鏡像体過剰率が75%eeで、シン体の鏡像体過剰率が93%eeであった。
【0068】
表3から、生成物の鏡像体過剰率の観点からは、式(IV)のアルデヒド類において、R2は、アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基であるのが好ましいことが分かる。なお、ベンズアルデヒドを用いる場合、アルコール添加の条件を用いることが望ましかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の方法で製造できる光学活性なブテノライド類は、医農薬品の合成におけるキラルなビルディングブロックとして利用できる。