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明細書 :木材腐朽担子菌を用いたプリオンの分解方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4568835号 (P4568835)
公開番号 特開2005-287322 (P2005-287322A)
登録日 平成22年8月20日(2010.8.20)
発行日 平成22年10月27日(2010.10.27)
公開日 平成17年10月20日(2005.10.20)
発明の名称または考案の名称 木材腐朽担子菌を用いたプリオンの分解方法
国際特許分類 C12N   1/14        (2006.01)
C12N   9/08        (2006.01)
C12N   9/02        (2006.01)
C12N   1/00        (2006.01)
B09B   3/00        (2006.01)
FI C12N 1/14 ZABE
C12N 9/08
C12N 9/02
C12N 1/00 R
B09B 3/00 304Z
請求項の数または発明の数 6
全頁数 22
出願番号 特願2004-103382 (P2004-103382)
出願日 平成16年3月31日(2004.3.31)
審査請求日 平成19年3月30日(2007.3.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
発明者または考案者 【氏名】近藤 隆一郎
【氏名】堤 祐司
【氏名】毛利 資郎
【氏名】松浦 裕一
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】六笠 紀子
調査した分野 C12N 1/00-7/08
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
Science Direct
CiNii
特許請求の範囲 【請求項1】
マンガンペルオキシダーゼ(MnP)を産生する木材腐朽担子菌の菌体又はその処理物、あるいはマンガンペルオキシダーゼ(MnP)を産生する木材腐朽担子菌の培養液又はその処理物を用いることを特徴とする、プリオンの分解方法。
【請求項2】
プリオンが異常プリオンである、請求項1に記載のプリオンの分解方法。
【請求項3】
木材腐朽担子菌が、リグニン分解酵素を産生する菌である、請求項1又は2に記載のプリオンの分解方法。
【請求項4】
マンガンペルオキシダーゼ(MnP)を産生する木材腐朽担子菌の菌体又はその処理物、あるいはマンガンペルオキシダーゼ(MnP)を産生する木材腐朽担子菌の培養液又はその処理物のうちの少なくとも1つを用いる、プリオン分解剤又はバイオリアクター。
【請求項5】
プリオンが異常プリオンである、請求項4に記載のプリオン分解剤又はバイオリアクター。
【請求項6】
木材腐朽担子菌が、リグニン分解酵素を産生する菌である、請求項4又は5に記載のプリオン分解剤又はバイオリアクター。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、木材腐朽担子菌を用いたプリオンの分解方法に関する。より詳細には、本発明は、リグニン分解酵素を産生する木材腐朽担子菌を用いたプリオンの分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
神経変性病の一種である伝達性海綿状脳症(TSE ; Transmissible spongiform encephalopathies)はプリオン病と呼ばれ、人間や動物に大きな影響を与えている[非特許文献1]。プリオン病にはヒトのCJD(Creutzfelt-Jakob-disease)、GSS(Gerstmann-Straussler-Scheinker)やクールー、そしてヒツジ・ヤギのスクレイピー、狂牛病と呼ばれるウシのBSE(Bovine spongiform encephalopathy)が代表的なものとして挙げられる。これらプリオン病は異常プリオンが脳に蓄積されることにより、脳がスポンジ状になることよって生ずる脳神経疾患である。しかしながら、プリオン病に関してはまだ十分な知見が得られていない[非特許文献2]。プリオンタンパク(PrP)には正常プリオンタンパク(PrPc)と異常プリオンタンパク(PrPsc)が存在する。構造的、生化学的変化によってPrPcからPrPscへの変化は引き起こされ、この変化がTSEにおける重要な原因と考えられる[非特許文献3及び4]。PrPcはα-ヘリックス構造を多く含み、タンパク質分解酵素によって分解・消化される。これに対してPrPscはβ-シート構造を多く含みタンパク質分解酵素による分解を非常に受けにくく、通常タンパクを不活化する熱処理や化学処理に対して頑強な抵抗性を示す[非特許文献5及び6]。また病原体の病原性を失うはずの熱処理や化学処理に対しても強い抵抗性を示す。
【0003】
プリオン病の感染はレンダリングサイクルによって拡大する。レンダリングサイクルとは、家畜が食肉として処理され、食肉として使用される部位以外は肉骨粉や飼料として利用される。さらに家畜がこれらの肉骨粉や飼料を餌として食べるというサイクルを指す。感染がレンダリングサイクルを通して拡大し、PrPsc汚染の疑いがある肉骨粉や飼料が国内にだけでも8万トン以上残存している。現在それら肉骨粉や飼料を最も効果的に処理する方法は高温焼却処分しかないが、それには多くの手間と経費、エネルギーが必要とされることから、焼却処理以外での、低エネルギーかつ低コストで不活化処理する方法が求められている。
【0004】
また、家畜やヒトにおいてプリオン病の感染が疑われた場合、検査・診断・手術を行わなければならない。その結果、プリオン病に対して陽性であると判断された場合、検査・診断・手術に用いられた器具や機器は高価なものまでも処分しなければならない。したがって、安全かつ容易に不活化・消毒する方法が求められている。
【0005】
植物細胞壁中の高分子リグニンを分解可能な唯一の生物として白色腐朽担子菌が知られている。さらに、白色腐朽担子菌はダイオキシンの無機化や[非特許文献7]、生分解を受けにくいとされるポリエチレン[非特許文献8及び9]、ナイロン[非特許文献10及び11]に対しても高い分解能を有することが報告されている。これら分解反応には、白色腐朽担子菌が産生するリグニン分解酵素が関与すると考えられ、リグニン分解酵素としてリグニンペルオキシダーゼ(LiP)、マンガンペルオキシダーゼ(MnP)、Laccaseが知られている。特にナイロンの分解においてはMnPが分解に関与するとされており、その分解機構は、MnPの作用により生成したMn3+錯体により、アミド結合に隣接するメチレン(CH2)基から水素が引き抜かれ、次いで酸素が付加されて非酵素的に分解が起こる、と考えられている[非特許文献12]。しかしながら、高分子リグニンを分解できる白色腐朽担子菌が、PrPscを分解したり不活化できるかどうかは全く不明であった。
【0006】

【非特許文献1】J Collinge. Variant Creutzfeldt-Jakob disease, THE LANCET 1999 ; 354 : 317-323
【非特許文献2】Prusiner, S. B. Novel proteinaceous infectious particles cause scrapie, Science 1982 ; 216 : 136-144
【非特許文献3】Prusiner, S. B. Molecular biology of prion diseases. Science 1991 ; 252 : 1515-1522
【非特許文献4】Kopacek J, Sakaguchi S, Shigematsu K, Nishida N, Atarashi R, Nakaoke R, Moriuchi R, Niwa M, Katamine S, Upregulation of the genes encoding lysosomal hydrolases, a perforin-like protein, and peroxidases in the brains of mice affected with an experimental prion disease. Journal of virology 2000 ; 74 ; 411-417
【非特許文献5】Prusiner, S. B. Michael R, Scott, Stephen J. DeArmond, Fred E. Cohen. Prion Protain Biology, Cell 1998 ; 93 : 337-348
【非特許文献6】Rachidi W, Mange A, Senator A, Guiraud P, Riondel J, Benboubetra M, Favier A, Lehmann S, Prion infection impairs copper binding of cultured cells. The journal of biological chemistry 2003 ; 278 : 14595-14598
【非特許文献7】Mori T, Kondo R, Oxidation of chlorinated dibenzo-p-dioxin and dibenzofuran by white-rot fungus, Phlebia lindtneri. FEMS Microbiol, Lett. 2002 ; 213 : 127-131
【非特許文献8】Y. Iiyoshi, Y. Tsutsumi, T. Nishida, Polyethylene degradation by lignin-degrading fungi and manganese peroxidase, J. Wood Sci. 1998 ; 44 : 222-229
【非特許文献9】K. Ehara, Y. Tsutsumi, T. Nishida. Role of Tween 80 in biobleaching of unbleached hardwood kraft pulp with manganese peroxidase. J. Wood Sci. 2000 ; 46 : 137-142
【非特許文献10】T. Deguchi, M. Kakezawa, T. Nishida, Nylon Biodegradation by Lignin-Degrading Fungi, Appl. Environ Microbiol. 1997 ; 63 : 329
【非特許文献11】T. Deguchi, Y. Kitaoka, M. Kakezawa, T. Nishida, Appl. Environ Microbiol. 1998 ; 64 : 1368
【非特許文献12】T. Nishida. リグニン分解菌及びその酵素によるポリエチレンとナイロンの分解.化学と工業 2001 ; 54 : 903-906
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、微生物を用いたプリオンの分解方法を提供することを解決すべき課題とした。さらに本発明は、低エネルギーかつ低コストでプリオンを分解する方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として、高分子化合物に対して高い分解能力を有する木材腐朽担子菌およびそのリグニン分解酵素を用いてプリオンの分解と不活化が可能かどうかを検証した結果、驚くべきことに、木材腐朽担子菌を用いることによりプリオンを分解できることを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成したものである。
【0009】
即ち、本発明によれば、木材腐朽担子菌の菌体又はその処理物、木材腐朽担子菌の培養液又はその処理物、あるいは木材腐朽担子菌が産生するプリオン分解酵素を用いることを特徴とする、プリオンの分解方法が提供される。
【0010】
本発明の別の側面によれば、木材腐朽担子菌の菌体又はその処理物、木材腐朽担子菌の培養液又はその処理物、あるいは木材腐朽担子菌が産生するプリオン分解酵素のうちの少なくとも1つを用いる、プリオン分解剤又はバイオリアクターが提供される。
【0011】
好ましくは、プリオンは異常プリオンである。
好ましくは、木材腐朽担子菌は、リグニン分解酵素を産生する菌である。
好ましくは、木材腐朽担子菌は、Pycnoporus coccineus、Trametes versicolor、Trametes hirsuta、Ceriporia lacerate、Phanerochaete chrysosporium、Phanerochaete sordida、Phanerochaete sordida、Phlebia tremellosus、Schizophyllum commune、Phlebia sp.、Xylobolus subpileatum、及びGloeophyllum trabeumから成る群から選ばれる菌である。
さらに好ましくは、木材腐朽担子菌は、Pycnoporus coccineus SFFPS01、Trametes versicolor IFO6482、Trametes hirsuta YK505、Ceriporia lacerate MZ-340、Phanerochaete chrysosporium ME-446、Phanerochaete sordida YK624、Phanerochaete sordida 2001070705、Phlebia tremellosus BMC9152、Schizophyllum commune TMIC34597、Phlebia sp. MG-60、Xylobolus subpileatum IFO7076、及びGloeophyllum trabeum IFO6430から成る群から選ばれる菌株である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低エネルギーかつ低コストでプリオンを分解する方法を提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明者らは以下の実施例で示す通り、リグニン分解能、成長速度等をもとに選抜した白色腐朽担子菌14菌株及び褐色腐朽担子菌1菌株を用いて異常プリオンタンパク(PrPsc)の分解と不活化について検討を行った。まず、生菌処理によるPrPの分解を試みた結果、PrPcにおいては15菌株中12菌株で分解が観察された。PrPscにおいては15菌株中9菌株(表3)で分解が観察された。実施例において、完全にPrPscのバンドが消失しなかった4菌株でも、PrPscが明らかに減少していたことから、今回用いた木材腐朽担子菌の中でXylobolus spectabilisとOligoporus caesiusを除く全ての菌株がPrPscの分解能を要する可能性が考えられた。次いで、菌体外酵素によるPrPの分解を試みた。PrPc及びPrPscともに反応1日目で分解された。さらにPrPの分解にはMnPが強く関与していることが示されたが、PrPの分解にはMnPだけではなく、他の要因も存在することが考えられた。
【0014】
これまで様々な化合物を用いてPrPscのaggregationの阻害[Cordeiro Y, 他、J. Biol. Chem. Manuscript 2003 ; 279 : 5346-52]、PrPcからPrPscへの変化を阻害するもの[Remi Demaimay,他、J. Neurochem. 1998 ; 71 : 2534-2541; Bayron Caughey, 他、J. Virology 2003 ; 77 : 5499-5502;David A. 他、J. Virology 2003 ; 77 : 10288-10294;Winslow S. 他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1998 ; 95 : 12117-12122;Suzette A., 他、Science 2000 ; 287 : 1503-1506;Richard H. 他、Antimicrobial Agents And Chemotherapy 1986 ; 30 : 409-413;及び Bayron Caughey,他、J. Virology 1993 ; 67 : 643-650]が数多く報告されてきた。しかし、in vitroでは効果を表すものの、in vivoでは効果的な知見を得ることに成功していない。これまでに生物を用いた生分解によりPrPscが分解されたとする報告は本発明者が知る限りなく、本発明において白色腐朽担子菌及びそれが産生するMnPがPrPscを分解することが初めて示された。また、これまでにPrPscを分解することができる酵素はプロテアーゼの一種であるケラチナーゼしか報告されておらず、それに関しても感染性・病原性消失の報告はされていない。今回、PrPscの分解酵素として見出したMnPはオキシドレクターゼであり、ケラチナーゼとは全く異なった分解機構である。さらに、分解における活性種はMn3+であることから、分解反応には非特異的に進行し、標的となるPrPscはランダムに切断された小さなフラグメントまで分解されると推測される。したがって、in vivoにおいて感染性の消失が確認されれば、PrPscを完全に分解し不活化する初めての酵素であり、今後の応用が期待できる。
【0015】
また、PrPscの分解にMnP以外の要因も関与していることが考えられた。可能性として考えられるのは、白色腐朽菌が産生するMnP以外のリグニン分解酵素であるリグニンペルオキシダーゼ(LiP)とLaccase、そして担子菌が産生するプロテアーゼである。LiPもMnP同様にH2O2存在下で活性状態になるため、分解に関与した可能性が十分に考えられた。しかし、LiPを産生する菌株は多く確認されておらず、今回分解能を有した菌株の中にもLiPの産生が確認されていないものがある。したがって、分解にLiPが関与した可能性は低いと思われる。またLaccaseはPhanerochaete chrysosporiumと褐色腐朽菌においては産生されないことが知られている。
【0016】
生菌処理においてもPhanerochaete chrysosporiumによる顕著なPrPscの分解が観察され、Phanerochaete chrysosporiumから調整した菌体外酵素による分解実験において、明らかなPrPscの分解が確認された。このことから、LaccaseはPrPsc分解に関与していないと考えられる。先にも述べたように、現在のところPrPscを分解することができるプロテアーゼはケラチナーゼしか報告されておらず、MnPに加えてPrPsc分解能を有する新規なプロテアーゼ発見につながる可能性も期待される。
【0017】
本発明のプリオンの分解方法は、木材腐朽担子菌の菌体又はその処理物、木材腐朽担子菌の培養液又はその処理物、あるいは木材腐朽担子菌が産生するプリオン分解酵素を用いることを特徴とする。
【0018】
本発明で用いる木材腐朽担子菌の具体例としては、Pycnoporus coccineus、Trametes versicolor、Trametes hirsuta、Ceriporia lacerate、Phanerochaete chrysosporium、Phanerochaete sordida、Phanerochaete sordida、Phlebia tremellosus、Schizophyllum commune、Phlebia sp.、Xylobolus subpileatum、又はGloeophyllum trabeumが挙げられる。
【0019】
本発明で用いることができる腐朽担子菌の具体例な菌株の例としては、Pycnoporus coccineus SFFPS01、Trametes versicolor IFO6482、Trametes hirsuta YK505、Ceriporia lacerate MZ-340、Phanerochaete chrysosporium ME-446、Phanerochaete sordida YK624、Phanerochaete sordida 2001070705、Phlebia tremellosus BMC9152、Schizophyllum commune TMIC34597、Phlebia sp. MG-60、Xylobolus subpileatum IFO7076、及びGloeophyllum trabeum IFO6430が挙げられる。
【0020】
上記の菌株のうちTrametes versicolor IFO6482、Xylobolus subpileatum IFO7076、及びGloeophyllum trabeum IFO6430は、財団法人・発酵研究所(大阪市淀川区十三本町2-17-85)に寄託されており、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部・生物遺伝資源部門(NBRC)から入手可能である。
【0021】
Pycnoporus coccineus に属する菌株としては、IFO9768などが挙げられ、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部・生物遺伝資源部門(NBRC)から入手可能である。
【0022】
Trametes hirsutaに属する菌株としては、ATCC MYA-828などが挙げられ、ATCCから入手可能である。また、Phanerochaete sordida に属する菌株としては、ATCC90872などが挙げられ、ATCCから入手可能である。
【0023】
Phanerochaete chrysosporiumに属する菌株としては、IFO31249などが挙げられ、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部・生物遺伝資源部門(NBRC)から入手可能である。
【0024】
Schizophyllum communeに属する菌株としては、IFO30749などが挙げられ、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部・生物遺伝資源部門(NBRC)から入手可能である。
【0025】
本発明で用いる木材腐朽担子菌を培養するための培地組成としては、通常これらの木材腐朽担子菌が生育しうるものであれば天然培地及び合成培地のいずれも使用できる。また、培地は固体または液体培地のいずれでもよい。培地は通常、炭素源、窒素源、無機物を含む。炭素源としては、グルコース、マルトース、デキストロース、スターチ、オートミール、アラビノース、キシロース、シュクロースなどを単独または混合して用いることができる。窒素源としては、酵母エキス、肉エキス、ペプトン、カゼイン、ポリペプトン、大豆ペプトン、コーンスチープリカー、マルトエキス、綿実粕、グルテンミールおよび大豆粉、各種アミノ酸等の有機窒素類、また硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム等の各種無機窒素を単独または混合して用いることができる。その他の無機物として、カリウム塩、マグネシウム塩、鉄塩、カルシウム塩などの無機塩類などを必要に応じて適宜使用することができる。
【0026】
本発明で用いる木材腐朽担子菌の培養は、通常の方法で行うことができる。培養温度は菌が生育する限り特に限定されないが、例えば、15~45℃であり、より好ましくは20~40℃である。培養のpHは例えば4~9であり、好ましくは4.5~7.5である。培養は震盪あるいは通気撹拌などの好気条件下で行うことができる。
【0027】
本発明においては、上記した培養により得られた微生物の菌体、培養液、または該微生物が産生するプリオン分解酵素を使用することによって、プリオンの分解反応を行うことができる。
【0028】
プリオンの分解に用いる菌体は、生菌体のままで使用してもよく、菌体処理物、例えば、菌体破砕物、凍結乾燥などの処理を施した処理物を使用してもよい。また、木材腐朽担子菌の培養液を使用することもでき、さらにまた木材腐朽担子菌が産生するプリオン分解酵素を使用することもできる。木材腐朽担子菌が産生するプリオン分解酵素としては、具体的には、マンガンペルオキシダーゼ(MnP)が挙げられる。上記酵素は、慣用の方法を適宜組み合わせて精製することにより得ることができる。上記した木材腐朽担子菌の菌体やその菌体が産生する酵素は、光架橋性樹脂プレポリマー、たとえばENT3400(関西ペイント(株)製)などや、ウレタン・プレポリマー、たとえばPU-9(東洋ゴム製)などやκ-カラギナンなどの多糖類に固定化してから反応に用いることもできる。反応系における菌体濃度は、目的化合物の光学純度および反応速度が低下しない範囲で適宜選択できる。
【0029】
上記の通り、本発明においては、培養により得られた木材腐朽担子菌の菌体そのものを使用する以外に、例えば、培養中の菌体を含む培養液に処理対象物を接触さえるか、培養終了後、遠心分離または濾過により分離した菌体を破砕処理してその産生する酵素を抽出しこれに処理対象物を接触させて、プリオンを分解することもできる。
【0030】
本発明のプリオンの分解方法においては、前記菌体などを含有する溶液中で振とう操作、通気攪拌培養操作等に付して好気条件下で行うことができる。例えば、pH5~9、18~37℃で1~10日間振とう攪拌することが好ましい。また、必要により酸素気流下で反応することができる。これらの反応によりプリオンを分解することができる。
【0031】
本発明による木材腐朽担子菌を用いるプリオンの分解方法は、木材腐朽担子菌の菌体又はその処理物、木材腐朽担子菌の培養液又はその処理物、あるいは木材腐朽担子菌が産生するプリオン分解酵素を、プリオン(特に、異常プリオン)を含む処理対象物(例えば、異常プリオン汚染の疑いがある肉骨粉や飼料、又はプリオン病感染者の検査・診断・手術に用いられた器具や機器など)に接触させ、木材腐朽担子菌又は酵素の作用により該対象処理物中のプリオン(特に、異常プリオン)を分解し、無毒化する方法である。
【0032】
木材腐朽担子菌の菌体又はその処理物、木材腐朽担子菌の培養液又はその処理物、あるいは木材腐朽担子菌が産生するプリオン分解酵素は、プリオン分解剤として使用することができる。また、木材腐朽担子菌を担体に固定化し、処理対象物を通過させるタンク内にこの担体を設置することによって、プリオン分解用のバイオリアクターを構築することができる。バイオリアクターには、制御装置、ポンプ、各種センサー等を設置してもよい。
【0033】
担体としては、木材腐朽担子菌を固定化することができるものであればどのようなものでもよい。例えば、アルギン酸、ポリビニールアルコール、ゲランガム、アガロース、セルロース、デキストラン等のゲル状物質に包括固定する方法や、ガラス、活性炭、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、木材、シリカゲル等の表面に吸着固定する方法を挙げることができる
【0034】
固定法の具体例としては、木材腐朽担子菌の菌株の培養液を担体に流し込むだけの固定法、アスピレーターを用いて担体を減圧下におき、菌株の培養液を担体に流し込むことからなる固定法、および菌株の培養液を滅菌した培地と担体との混合物に流し込み、振盪培養し、前記混合物から取り出した担体を自然乾燥する方法などが挙げられる。
【0035】
本発明のバイオリアクターを用いるプリオンの分解処理は、回分式、半回分式、連続式などの任意の様式により行うことができる。処理対象物の温度を15~35℃前後、好ましくは20~30℃前後、より好ましくは25℃前後に調整して処理することができる。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
実施例1:生菌処理による正常プリオンタンパク(PrPc)の分解
実施例1では、試料としてマウスの脳を破砕した脳乳剤を用いるが、脳乳剤にはプリオンタンパク以外のタンパク質が大量に含まれている。そこでスケールダウンした培養条件下でマウス正常脳乳剤が菌糸の成長やMnPの産生に与える影響を検討した。また、正常脳乳剤の分解の有無を確認した。
【0037】
(方法)
(1)使用菌株のスクリーニング
難分解性高分子リグニンに対する分解能力が高く、成長速度が速く、かつ生物的封鎖レベルが低いかもしくはその必要性がないことを指標として、14株の白色腐朽担子菌、また比較対照としてリグニン分解酵素を産生しない1株の褐色腐朽担子菌を選抜した。選抜した15菌株の学名及び和名(あるもの)を表1に示す。表1のGloeophyllum trabeumは褐色不朽担子菌で、その他は白色不朽担子菌である。また、本明細書では、褐色不朽担子菌と白色不朽担子菌を総称して木材腐朽担子菌という。
【0038】
【表1】
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【0039】
(2)脳乳剤の作製
正常mouse(C57BL/6J)より採取した脳をPBSと共にMultibease Shocker(2500rpm, 2min)で破砕した。これを遠心分離(3000rpm, 10min, 4℃)し、上清を回収した。この上清を再び遠心分離(3000rpm, 10min, 4℃)し、回収した上清を正常脳乳剤試料とした。
【0040】
(3)供試菌
上記の表1に示す菌株を用いた。
【0041】
(4)菌体懸濁液と正常脳乳剤の共培養
供試菌15菌株をPDA(Potato Dextrose Agar)培地に植菌後、30℃で培養し、菌をシャーレに蔓延させた。菌体マット一枚と滅菌水25mlをワーリングブレンダーでホモジナイズし、菌体懸濁液(a)を調整した。200ml三角フラスコにKirk培地(下記に組成を示す)50mlと菌体懸濁液(a)5mlを加え、30℃で5日間静置培養した。前培養終了後、菌体及び培養液を共にワーリングブレンダーでホモジナイズした。遠心分離(7000×g,5min)後、上清を捨てKirk培地を50mlを加えた。次いでこれを十分に懸濁し、菌体懸濁液(b)とした。24 well plateに調整した菌体懸濁液(2)450μlと正常脳乳剤50μlを加え、室温で8日間静置培養した。培養後、培養上清を回収しサンプルとした。
【0042】
<Kirk trace element solution 1L pH4.5>
ニトリロ三酢酸ナトリウム 9g
MgSO4・7H2O 3g
MnSO4 2.73g
NaCl 6g
FeSO4・7H2O 0.6g
CoSO4・7H2O 1.1g
CaCl2・2H2O 0.6g
ZnSO4・7H2O 1.1g
CuSO4・5H2O 60mg
AlK(SO4)2・12H2O 110mg
H3BO3 60mg
Na2MoO4・2H2O 70mg
【0043】
<Kirk salt solution 1L pH4.5>
KH2PO4 20g
MgSO4・7H2O 5g
CaCl2・2H2O 1.3g
Thiamine-HCl 10mg
Kirk trace element solution 16.7ml
【0044】
<Kirk培地 1L pH4.5>
グルコース 10g
酢酸ナトリウム 1.64g
Tween80 1g
酒石酸アンモニウム LN;0.22g
HN;2.21g
Kirk salt solution 100ml
Kirk trace element solution 60ml
【0045】
(5)SDS-PAGE
13.5%アクリルアミド分離ゲル液をゲル板に流し込み、Pure Waterを重層後、45分以上静置した。分離ゲルの組成は以下のとおりである。Pure Water 5.5ml、30% Acryl Mix 9.0ml、1.5M Tris-HCl(pH8.8)5.0ml、10% SDS 0.2ml、10% APS 0.2ml、TEMED 8μl。上層のPure Waterを捨て、濃縮ゲル液で洗浄した。新たに濃縮ゲル液を加え、コームを差し込み30分以上静置した。濃縮ゲルの組成は以下のとおりである。Pure Water 3.4ml、30% Acryl Mix 1.0ml、0.5M Tris-HCl(pH6.8)1.5ml、10% SDS 60μl、10% APS 60μl、TEMED 6μl。サンプルに対して1/2容量の3×SDS Loading Bufferを加え、100℃で5分ボイルし泳動サンプルを調整した。10×泳動Buffer(25mM Tris、192mM Glycine、0.1% SDS in H2O)100mlをH2O 900mlで希釈したものを泳動bufferとした。先に調整した泳動用サンプル24μlをアプライし、定電圧200V(約100mA)で約40分間泳動した。
【0046】
(6)Western Blotting
電気泳動後のゲルを転写Buffer(48mM Tris、39mM Glycine、20% Methanol)に15分間浸漬しゲルのBuffer交換を行い、これを2度行った。PVDFメンブレンをメタノールで前処理した後、転写Bufferに15分間浸した。Bufferに浸したろ紙の上にメンブレン、ゲルの順に重ね、さらにBufferに浸漬したろ紙をゲルの上に重ねた。定電圧15V(約320mA)で約35分間転写を行った。転写後、メンブレンをTBS(20mM Tris、150mM NaCl、pH7.4)に15分程度浸漬し、3 %BSAを含むTTBS(1% Tween 20 in TBS)に浸漬し30分間振蕩した。SAF83(prion抗体)を1% BSAを含むTTBSで2500倍希釈した抗体希釈液にメンブレンを4℃で一晩浸漬した。一次抗体処理後のメンブレンをTTBS中で15分間振蕩しながら洗浄した。これを2回行った。α-MoIgG(anti-mouse抗体)を3% Low Fat Milkを含むTTBSで20000倍希釈した抗体希釈液にメンブレンを浸漬し、室温で1時間振蕩した。次いでメンブレンをTTBS中で15分間振蕩しながら洗浄し、これを3回行った。ECLplus(Amersham Biosciences RPN2132)検出液に正確に5分浸した後、Hyperfilm ECL(Amersham RPN2114K)に感光させた(2分間及び5分間)。
【0047】
(7)共培養8日目のMnP活性と共培養におけるMnP活性の経時的変化
培養後回収したサンプルのMnP活性を測定した。MnP測定は以下の方法で行った。50mMマロン酸buffer(pH4.5)700μl、1.0mM MnSO4 50μl、H2O 100μl、培養上清50μl、0.2mM H2O2 100μlを加え、270nmにおける吸光度を分光光度計を用いて、30℃で1分間測定した[Frederic H. 他、Appl. Environ Microbiol, 1991 ; 57 : 2240-2245;Wariishi, H.他、Biochem, Biophys. Res. Commun, 1991 ; 176 : 260-275;及び、Wariishi, H.他、J. Biol. Chem. 1992 ; 267 : 23688-23695]。
【0048】
(結果)
(1)生菌処理によるPrPcの分解
スモールスケール培養条件下での菌体懸濁液と正常脳乳剤の共培養において、大部分の菌株は正常な成長を示したがXylobolus spectabilisとOligoporus caesiusにおいては菌糸の成長が観察されなかった。
【0049】
生菌処理によるPrPcの分解結果を図1に示す。Positive controlとしてリン酸buffer+正常脳乳剤(PBS)、Kirk基本液体培地(HCLN)+正常脳乳剤(Kirk)、野生型マウスより調製した脳乳剤(PrPc)を用いた。またnegative controlとして菌体懸濁液のみ(菌体のみ)、PrP発現遺伝子Prnpをknock outしたマウスより調整した脳乳剤(KO)を用いた。Positive controlでバンドが出現したのに対し、15菌株中Bjerkandera adusta、Xylobolus spectabilis、Oligoporus caesiusの3菌株を除く12菌株においてバンドが消失した。
【0050】
共培養8日目におけるMnP活性を表2に示す。正常脳乳剤との共培養においてMnPの産生が確認されない菌株があった。さらに6種の菌株(Phanerochaete chrysosporium、Phanerochaete sordida YK624、Phanerochaete sordida 2001070705、Xylobolus spectabilis、Phlebia tremellosus BMC9152、Gloeophyllum trabeum)を用いて共培養におけるMnP活性の経時的変化を測定した結果を図2に示す。Phanerochaete chrysosporium、Phanerochaete sordida YK624、Phanerochaete sordida 2001070705、Phlebia tremellosus BMC9152ではMnPが産生され、培養3日目から5日目で活性ピークとなった。Xylobolus spectabilis、Gloeophyllum trabeumではMnPは産生されなかった。
【0051】
脳乳剤と白色腐朽担子菌を共培養した結果、大部分の菌株については脳乳剤に菌糸成長に対する阻害的な要因はないと考えられた。図1より15菌株中Bjerkandera adusta、Xylobolus spectabilis、Oligoporus caesiusの3菌株を除く12菌株においてPrPcのバンドが消失したため、PrPcは完全に分解されたと考えられた。そこで、PrPc分解とMnP活性の相関を得るために共培養におけるMnP活性を測定した。表2より、PrPcの分解とMnP産生にはおおむね相関が見られたが、MnPの産生がなくともPrPcが消失している菌株もいくつかあり、この結果からMnPとPrPcの分解を直接関連づけることは困難であると思われた。しかし、培養8日目以前にMnPが産生される可能性が考えられたため、6種の菌株についてMnP活性の経時的変化を測定した。図2に示すように、培養3日目から5日目で活性のピークとなる菌株もあることや、培養8日目ではMnP活性が低下している菌株もあることから、表2においてMnPが産生されなかった菌株も、早い段階で活性のピークを迎え、8日目には活性がなくなったことも予想される。表2においてPhanerochaete chrysosporiumは培養8日目でMnP活性が検出されていないが、図2に示すようにMnPの産生は培養5日目でピークとなり、培養8日目ではMnP活性が大きく低下している。したがって、表2の実験においてもPhanerochaete chrysosporiumは培養期間の早い時期にMnPを産生していたと考えられる。上記結果では、Bjerkandera adusta、Xylobolus spectabilis及びOligoporus caesiusのようにMnPを産生しない菌株では、PrPcの分解が認められないことからMnPはPrPcの分解に関与する可能性を強く示唆している。
【0052】
【表2】
JP0004568835B2_000003t.gif

【0053】
実施例2:生菌処理による異常プリオンタンパク(PrPsc)の分解
実施例1において白色腐朽担子菌は脳乳剤との共培養において菌糸成長やリグニン分解酵素であるMnPの産生を阻害されることなく、PrPcの顕著な分解が確認された。そこで、実施例2では白色腐朽担子菌による異常プリオンタンパク(PrPsc)の分解を試みた。
【0054】
(方法)
(1)脳乳剤の作製
プリオン病を発病したmouse(C57BL/6J)より採取した脳をPBSと共にMultibease Shocker(2500rpm, 2min)で撹拌した。これを遠心分離(3000rpm, 10min, 4℃)し、上清を回収した。この上清を再び遠心分離(3000rpm, 10min, 4℃)し、回収した上清を異常脳乳剤試料とした。なお、今回感染に用いた異常プリオンFukuoka-1株はヒトのCJD由来のPrPscである。
【0055】
(2)供試菌
表1に示す菌株を用いた。
【0056】
(3)菌体懸濁液と異常脳乳剤の共培養
実施例1の方法の(4)の方法に従い菌体懸濁液(b)を調整した。24 well plateに調整した菌体懸濁液(b)450μlと異常脳乳剤50μlを加えた。室温で8日間静置培養し、培養上清と菌体を回収した。
【0057】
(4)メタノール濃縮
回収した培養上清100μlをメタノール1mlに加え、-80℃で一晩静置した。静置後、遠心分離(15000rpm, 15min, 4℃)し、メタノールを除去した。残渣に2×SDS Loading Buffer 8μlを加え、ホモジナイズした後、100℃で5分ボイルして泳動サンプルを調整し、SDS-PAGEに供した。さらに回収した菌体はPBSと共にMultibease Shocker(2500rpm, 2min)で破砕し、SDS 処理を行った。3×SDS Loading Buffer 8μlを加え、ホモジナイズした。100℃で5分ボイルした後、遠心分離(12000rpm, 15min)により上清を回収した。回収した上清を泳動サンプルとしSDS-PAGEに供した。
【0058】
(5)SDS-PAGE、Western Blotting
実施例1の(方法)の(5)と(6)の方法に従った。上述の各泳動サンプル24μlをアプライした。
【0059】
(結果)
(1)生菌処理によるPrPsc(Fukuoka-1)の分解
結果を図3に示す。Positive controlとして野生型マウスより調製した脳乳剤(Wild)、リン酸Buffer+異常脳乳剤(PBS)、Kirk基本液体培地(HCLN)+異常脳乳剤(Kirk)を用いた。またnegative controlとしてPrP発現遺伝子Prnpをknock outしたマウスより調整した脳乳剤(KO)を用いた。さらにPKで処理した異常脳乳剤(PK cont)もcontrolとして用いた。
【0060】
15菌株中8菌株(Pycnoporus coccineus、Trametes versicolor、Trametes hirsuta YK505、Ceriporia lacerate MZ-340、Phanerochaete chrysosporium、Phanerochaete sordida YK624、Phanerochaete sordida 2001070705、Phlebia tremellosus BMC9152)においてPrPscのバンドが消失したことからPrPscは分解されたと判断した。また、4菌株(Schizophyllum commune、Phlebia sp. MG-60、Xylobolus subpileatum、Gloeophyllum trabeum)においてもPrPscのバンドが明瞭に薄くなったため、これらの菌株もPrPscの分解能を有すると判断できる。一方、Bjerkandera adusta、Xylobolus spectabilis、Oligoporus caesiusではPrPsc量はcontrolと変わらず、分解は起こらなかったと考えられる。しかしながら、図3においてPrPscのバンドが薄くなった原因として、PrPscが菌体に吸着された可能性も考えられるため、菌体へ吸着されたタンパクを可溶化し、Western Blottingを行った。その結果を図4に示す。Gloeophyllum trabeumでは若干ではあるがPrPscの吸着が確認された。また、Trametes hirsuta、Phanerochaete sordida YK624でもわずかではあるがPrPscと思われるバンドが確認された。
【0061】
生菌処理によるPrPscの分解において、15菌株中8菌株(表3)においてバンドが消失したため、PrPscは分解されたと考えられた。PrPscのバンドが完全消失あるいは薄くなった菌株では正常な菌糸の成長が観察された。一方、PrPscのバンドがcontrolと変わらず、分解しなかったと考えられた菌株は、ほとんど菌糸の成長が観察されなかったことから、菌株の成長の程度が分解力の違いに現れた可能性も考えられた。しかし、例外的にBjerkandera adustaは菌糸の成長は旺盛であったが、PrPscの分解が全く見られなかったため、PrPsc分解に関与する酵素が産生されていないという可能性が考えられた。先の実験(実施例1)において、MnPがPrPcの分解に関与する可能性を述べたが、Bjerkandera adustaが本実験での培養条件下でもMnPを産生していないと仮定すればPrPscでの分解の結果も説明できる。
【0062】
なお、Gloeophyllum trabeum、Trametes hirsuta、Phanerochaete sordida YK624で若干の菌体への吸着が確認されたが、その量はcontrolに比べ非常に少なかった。また、それ以外の菌株では吸着が見られないことからも白色腐朽担子菌はPrPsc分解能を有すると判断できる。
【0063】
【表3】
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【0064】
実施例3:菌体外酵素によるPrPcの分解
実施例2では今回用いた白色腐朽担子菌14菌株中8菌株がPrPscの完全分解しうることを示した。また、白色腐朽担子菌が産生するリグニン分解酵素の一つであるMnPがPrPscの鍵酵素である可能性が強く示唆された。実施例3では、MnPがPrPcを分解しうるかを確認するために、Phanerochaete chrysosporiumの菌体外粗酵素液を用いてPrPscの分解を試みた。
【0065】
(方法)
(1)脳乳剤の作製
実施例1の(方法)の(2)の方法に従った。
【0066】
(2)供試菌
Phanerochaete chrysosporiumを使用した。
【0067】
(3)菌体外酵素液の調製
Phanerochaete chrysosporiumの菌体をPDA培地で培養し蔓延させた。直径9cmの菌体プレートの1/4をホモジナイズした後、Kirk基本液体培地(HCLN)200mlを含む500ml三角フラスコに添加し、30℃、150rpmで振とう培養した。培養3日目にベラトリアルアルコールを最終濃度7.5mMとなるように添加後、毎日酸素パージを行い一週間培養した。菌体を除去し、培養液をろ過した後、さらに10kDa cut offの限外ろ過膜を用いて濃縮し、これを粗酵素液とした。
【0068】
(4)菌体外酵素液と正常脳乳剤の反応
マロン酸buffer(pH4.5)、脳乳剤、粗酵素液(MnP活性として40unit)、MnSO4(0.2mM)、Glucose(25mM)、Glucose oxidase(40unit)を加え、室温で反応させた。1、3、5、7日に回収した。なお、反応液組成を表4に示す。
【0069】
【表4】
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【0070】
(5)SDS-PAGE、Western Blotting
実施例1の(方法)の(5)と(6)の方法に従った。泳動サンプル24μlをSDS-PAGEに供した。
【0071】
(結果)
(1)菌体外酵素によるPrPcの分解
実施例3では、図5に示すMnPの触媒作用により、PrPが分解されると期待した[Wariishi, H., 他、Biochemistry 1988 ; 27 : 5365-5370;及びWariishi, H., 他、Biochemistry 1989 ; 28 : 6017-6023]。結果を図6に示す。controlとして正常脳乳剤のみ(control1)、正常脳乳剤無添加(control2)、H2O2を発生させない(control3)の3つの系を用いた。MnPの触媒作用が機能するcompleteでは反応1日目から完全にバンドが消失し、脳乳剤を加えていないcontrol2と同様の結果が得られた。脳乳剤のみのcontrol1では反応1日目では十分にPrPcが確認できるが、反応3日目以降はバンドが急激に薄くなっていた。control3ではcontrol1に比べバンドが薄くなっており、反応時間の経過とともに徐々にバンドは薄くなり、反応7日目にはほとんどバンドが消失した。
【0072】
control3の反応1日目ではPrPcはわずかに分解を受けたにとどまり、大部分が残っていたが、completeでは1日目から完全にバンドが消えた。このことから、PrPcの分解にはMnPが関与していることが示された。一方、脳乳剤のみを含むcontrol1においても反応日数が増すにつれてバンドが薄くなっていた。これは脳乳剤に含まれるプロテアーゼによりPrPcが徐々に分解されたためだと考えられる。また、MnPが活性状態にないcontrol3ではcontrol1に比べ、PrPcのバンドが薄くなっていた。このことから、粗酵素液に含まれるMnP以外の酵素も微弱ながらPrPcの分解に関与していることが考えられた。
【0073】
実施例4:菌体外酵素によるPrPscの分解
実施例3では白色腐朽担子菌より調製した菌体外酵素がPrPcを分解し、MnPが主要な酵素であることを確認した。そこで実施例4では菌体外酵素によるPrPscの分解が可能であるか試みると同時に、PrPc分解に強く関与したと考えられるMnPがPrPscに対しても分解能を有するか検討した。
【0074】
(方法)
(1)脳乳剤の作製
実施例2の(方法)の(1)の方法に従った。
【0075】
(2)供試菌
Phanerochaete chrysosporiumを使用した。
【0076】
(3)菌体外酵素液の調製
実施例3の(方法)の(3)の方法に従った。
【0077】
(4)菌体外酵素液と異常脳乳剤の反応
実施例3の(方法)の(4)の方法に従った。
【0078】
(5)メタノール濃縮
実施例2の(方法)の(4)の方法に従った。
【0079】
(6)SDS-PAGE、Western Blotting
実施例1の(方法)の(5)及び(6)の方法に従った。泳動サンプル24μlをSDS-PAGEに供した。
【0080】
(結果)
(1)菌体外酵素によるPrPscの分解
結果を図7に示す。先の実験と同様にcontrolとして異常脳乳剤のみ(control1)、異常脳乳剤無添加(control2)、H2O2を発生させない(control3)の3つの系を用いた。Complete反応系の1日目では、PrPscの大幅な減少が確認されたが、それ以降PrPscの減少は見られなかった。異常脳乳剤のみのcontrol1では反応1日目から7日目までPrPscの減少がほとんど見られなかったが、H2O2を発生しないcontrol3では反応日数の経過につれてわずかながらバンドが薄くなった。
【0081】
MnPが機能するcomplete反応系ではPhanerochaete chrysosporiumの菌体外酵素により反応1日目でPrPcが完全に分解された。さらに、本章のPrPscの分解においてもcomplete反応系1日目でPrPscは大きく減少していたことから、大部分のPrPscは24時間以内に分解されたと判断できる。control3に比べ、complete系でのPrPscは明らかに減少していることから、PrPscの分解にはMnPが強く関与していることが明らかになった。図6のcontrol1の結果より、正常プリオンタンパクPrPcは脳乳剤中に含まれるプロテアーゼで分解することが考えられたが、図7のcontrol1ではPrPscのバンドにはほとんど変化が認められないため、脳乳剤中のプロテアーゼによる分解は考えにくい。このことから、図7のcontrol3においてゆるやかながらPrPscのバンドが減少している原因として、菌体外粗酵素中にMnP以外にもPrPscを分解しうる要因の寄与を考える必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は、生菌処理によるPrPcの分解実験の結果を示す。
【図2】図2は、正常脳乳剤との共培養におけるMnP活性の経時的変化を示す。
【図3】図3は、生菌処理によるPrPsc(Fukuoka-1株)の分解実験の結果を示す。
【図4】図4は、PrPsc(Fukuoka-1株)の菌体への吸着実験の結果を示す
【図5】図5は、H2O存在下でのMnPの触媒作用によるPrPの分解模式図を示す。
【図6】図6は、菌体外酵素によるPrPcの分解実験の結果を示す。
【図7】図7は、菌体外酵素によるPrPsc(Fukuoka-1株)の分解実験の結果を示す。
図面
【図2】
0
【図5】
1
【図1】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図6】
5
【図7】
6