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明細書 :お茶からの成分抽出法および抽出物

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5234725号 (P5234725)
公開番号 特開2009-051797 (P2009-051797A)
登録日 平成25年4月5日(2013.4.5)
発行日 平成25年7月10日(2013.7.10)
公開日 平成21年3月12日(2009.3.12)
発明の名称または考案の名称 お茶からの成分抽出法および抽出物
国際特許分類 C07D 311/62        (2006.01)
A23F   3/16        (2006.01)
C08B  15/08        (2006.01)
FI C07D 311/62
A23F 3/16
C08B 15/08
請求項の数または発明の数 7
全頁数 18
出願番号 特願2007-222806 (P2007-222806)
出願日 平成19年8月29日(2007.8.29)
審査請求日 平成22年8月27日(2010.8.27)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
発明者または考案者 【氏名】近藤 哲男
【氏名】笠井 稚子
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100075270、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 泰
【識別番号】100080137、【弁理士】、【氏名又は名称】千葉 昭男
【識別番号】100096013、【弁理士】、【氏名又は名称】富田 博行
【識別番号】100135415、【弁理士】、【氏名又は名称】中濱 明子
審査官 【審査官】深谷 良範
参考文献・文献 国際公開第2006/012238(WO,A1)
特開2005-270891(JP,A)
調査した分野 C07D 311/
A23F 3/
C08B 15/
REGISTRY/CAPLUS(STN)
J Dream II
特許請求の範囲 【請求項1】
茶葉の分散液を一対のノズルから70~250MPaの高圧でそれぞれ噴射させると共に、その噴射流を互いに衝突させて茶葉を微細粉砕する工程を有することを特徴とする、カテキン類の製造方法。
【請求項2】
茶葉の分散液を一対のノズルから70~250MPaの高圧でそれぞれ噴射させると共に、その噴射流を互いに衝突させて茶葉を微細粉砕し、カテキン類を水に溶解した状態およびナノセルロース表面に吸着した状態で得る工程を有することを特徴とする、カテキン類の製造方法。
【請求項3】
茶葉の分散液を一対のノズルから70~250MPaの高圧でそれぞれ噴射させると共に、その噴射流を互いに衝突させて茶葉を微細粉砕する工程を有することを特徴とする、ナノセルロース表面にカテキン類が吸着した物質の製造方法。
【請求項4】
前記カテキン類が、エピガロカテキンガレート、エピガロカテキン、エピカテキンガレートおよびエピカテキンから選択される少なくとも一種以上のカテキンを含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
茶葉の分散液を一対のノズルから70~250MPaの高圧でそれぞれ噴射させると共に、その噴射流を互いに衝突させて茶葉を微細粉砕することにより得られる、ナノセルロース表面にカテキン類が吸着した物質を含有する溶液およびナノ分散液
【請求項6】
請求項6に記載の溶液を乾燥させることにより得られる、ナノセルロース表面にカテキン類が吸着した物質を含有する粉末
【請求項7】
前記カテキン類が、エピガロカテキンガレート、エピガロカテキン、エピカテキンガレートおよびエピカテキンから選択される少なくとも一種以上のカテキンを含むことを特徴とする、請求項5に記載の溶液または請求項6に記載の粉末。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、水中対向処理衝突法を用いた茶葉からの成分の抽出方法および抽出物、並びに茶葉の対向処理衝突物の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
1.カテキン類
茶葉中には多くのカテキン類が存在する。カテキン類は、抗酸化作用、抗癌作用、血中コレステロール低下作用、抗菌作用、消臭作用等の作用を持つといわれる。茶葉中にはカテキン類が10~20%程度存在し、その熱湯抽出物(カテキン含量約30%)や精製カテキン(カテキン含量60~90%)が食品、健康食品として利用されており、より簡便に大量に低コストでカテキン類を抽出する技術が望まれている。また、茶カス中にはカテキン類が残存していると考えられ、これらのカテキン類を抽出することができれば廃棄物の有効利用にもつながる。
【0003】
緑茶においてはタンニンとも呼ばれるカテキン類はいくつかのポリフェノール化合物の総称で、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)の4種が主に含まれ、その含有量は、茶種、品質等により差があるが、合計量で茶葉乾燥重量の10~15%程度が一般的である(非特許文献1:Goto,T., Y.Yoshida, I.Amano and H.Horie:Foods and Food Ingradients J.Japan,170,46-52(1996))。それぞれのカテキン成分の薬理活性が異なるといわれている。茶葉には、植物性アルカロイドであるカフェインも含まれる。カフェインについては、興奮作用や利尿作用等の生理活性が知られている。
【0004】
茶葉からのカテキン類の抽出方法としては、まず茶葉を蒸熱処理することによって熱水抽出で一段抽出を行い、次に残存するカテキン類を有機溶媒(エタノール)抽出において抽出するのが、従来の方法である。この方法は、防爆設備等の設備および溶媒回収が必要であり、コストがかかるという問題がある。
【0005】
2.セルロース
セルロースは植物の細胞壁の主成分であり、ツバキ科ツバキ属の木本性常緑樹である茶の葉(茶葉)の成分でもある。セルロースはβ-グルコースが1→4グルコシド結合で直鎖状に縮合した繊維状高分子であり、化学的に安定で加水分解しにくいが、酵素や濃酸または濃アルカリのような薬剤によって分解されると目的に応じて溶解性や親水性バランス、疎水性を自由に変えることができ、工業製品や食品など幅広い用途がある。
【0006】
一方、本発明者らは、セルロースに水中で対向衝突(カウンターコリジョン)処理を施し、その重合度を含めて化学構造を変化させることなくセルロースをナノ微細化する技術を開発している(特許文献1:特開2005-270891)。この水中対向衝突処理は、高圧式ホモジナイザーを用いて水中で処理対象を微細粉砕する技術であり、セルロース等の多糖類の分子はほぼ水中に分散した状態にまで粉砕される。この処理自体はケミカルフリーかつ低エネルギーで行われる。
【0007】
セルロースは、グルコピラノース骨格からなる多糖である。この糖骨格分子構造には、骨格に平行な方向へ水酸基に由来する親水性、及び骨格に垂直な方向へC-H基に由来する疎水性サイトが存在する(図1)。そのような分子が集合したセルロース天然繊維表面でも同様に、それぞれ性質が異なる親水性・疎水性サイトに分かれる。例えば、親水性面が固体表面に現れれば水と親和するが、疎水性面が表面に配列した場合、その表面はテフロン(登録商標)並みの撥水性を有することになる(図2)。
【0008】
ナノサイズの天然繊維においては、比表面積が大きく、相手物質との界面で、強い相互作用が可能になると推定される。とくに、この両親媒性(親水と疎水)を有する界面相互作用しやすい天然セルロースナノ繊維で材料表面をコーティングすれば、似た性質を示す繊維側の面が材料表面に吸着し、得られる表面は逆の性質を示す繊維の影響が現れてくる。すなわち、親水表面はより疎水化され、疎水表面はより親水化され、その性質の変更が可能になると期待される。本発明者らは、このような性質を利用して、バクテリアセルロース又は草本植物由来のセルロース繊維を対向衝突処理して得られるセルロースナノ繊維から形成されるセルロースナノ繊維被膜で基材表面を被覆することによる、基材表面の改質方法を考案している(未公開国際出願:PCT/JP2007/51810)。

【特許文献1】特開2005-270891
【非特許文献1】Goto,T., Y.Yoshida, I.Amano and H.Horie:Foods and Food Ingradients J.Japan,170,46-52(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、茶葉からの新規で低コストのカテキン類抽出法を提供するとともに、茶葉セルロースの有効利用につながる独創的な手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、水中対向衝突法(カウンターコリジョン法)を用いることでカテキン類およびカフェインなどの有効成分を分離できるかどうか検討した結果、茶カス中に残存するこれらの成分を分離できること、さらにはナノセルロースも一緒に作ることができることを見出した。
【0011】
すなわち、一段目の熱水抽出処理の後、従来法のエタノール抽出の代わりに、水中対向衝突で茶葉をナノ微細化した処理溶液からカテキン類およびカフェインなどの成分を抽出可能であることを見出した。さらに、茶葉由来のナノセルロースがカテキン類をトラップしている可能性を示唆する知見を得た。
【0012】
このような知見に基き、本発明者らは以下の発明を完成するに至った。
(1)水中対向処理衝突法により茶葉を微細粉砕する工程を有することを特徴とする、カテキン類の製造方法。
(2)水中対向処理衝突法により茶葉を微細粉砕する工程を有することを特徴とする、ナノセルロースの製造方法。
(3)水中対向処理衝突法により茶葉を微細粉砕する工程を有することを特徴とする、茶葉を原料とする新規な材料の製造方法。
(4)前記材料が、カテキン類およびナノセルロースを含有することを特徴とする、(3)の製造方法。
(5)前記カテキン類が、エピガロカテキンガレート、エピガロカテキン、エピカテキンガレートおよびエピカテキンから選択される少なくとも一種以上のカテキンを含むことを特徴とする、(1)の製造方法。
(6)水中対向処理衝突法により茶葉を微細粉砕することにより得られる、茶葉を原料とする新規な材料。
(7)カテキン類とナノセルロースの混合物を含有することを特徴とする、(6)の材料。
【発明の効果】
【0013】
茶葉から低コストでカテキンを抽出する新規な方法が提供される。また、本発明により、カテキンおよびナノセルロースを一緒に作るという画期的な技術も提供される。その結果、茶葉カテキンの有する様々な生理学的機能とナノセルロースの機能を併せ持つ新規な材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、茶葉に水中対向衝突処理を施して、茶葉に含まれているカテキン類やカフェインなどの有効成分、および茶葉由来のナノセルロースを得ることを特徴とする。
【0015】
本発明に使用する原料である茶葉は、生茶から乾燥茶(仕上げ茶)まで通常の製造工程のいずれの段階のものでもよく、かつ発酵の程度も不発酵茶、半発酵茶および発酵茶など各種形態のものが使用可能である。さらに、本発明の方法は、熱水抽出に供する前の茶葉にも、茶葉を熱水抽出した後の抽出カスである茶葉(茶カス)にも適用できる。茶カスは、カテキン類を始めとする熱水に易溶解性の成分が除去されたあとの残渣であり、熱水抽出に供する前の茶葉と比較してカテキン類およびカフェインの約30%程度が除去されているが、本発明によるカテキン類の抽出では、残渣である茶カスに残存する有効成分を有機溶媒を使用せずにさらに抽出できることが利点である。従って、原料茶葉として茶カスを用いる場合に、本発明の利点がより有効に生かされると思われる。
【0016】
茶葉を熱水抽出する場合には、その方法は、通常の、いわゆるお茶の入れ方で行えばよく、特別な制限はない。お茶の入れ方については、例えば、「美味しい八女茶の入れ方講座」 http://www.kisc.co.jp/yamasaki/ocyaire/ocyaire.htmなどを参考にすることができ、煎茶であれば90℃の熱水中で1分程度浸出するなどして、行うことができる。
【0017】
本発明では、茶葉あるいは熱水抽出後の茶カスに対して、対向衝突処理を行って、茶葉を微細粉砕する。対向衝突処理は、超高圧流体を噴流衝突させて材料を超微粒化する湿式粉砕方法であり、材料の分散液を一対のノズルから70~250MPaの高圧でそれぞれ噴射させると共に、その噴射流を互いに衝突させて材料を粉砕する。対向衝突処理は、他の粉砕化方法、ビーズミル、ジェットミル、撹拌機、高圧ホモジナイザー等と比較し、様々な優れた利点を有する。例えば、粉砕媒体を使用しないため媒体の磨耗粉の混入がなく、また媒体攪拌式より均一でシャープな粒度分布が得られ、さらに連続処理、大容量化が容易、大気との接触時間が少なく、処理品の酸化を極力抑えることができる等の点を挙げることができる。この方法の詳細は、特開2005-270891(特許文献1)に開示されている。本明細書においては、茶葉の分散媒体液として水を用いるので「水中対向衝突処理」と称することもあるが、単に「対向衝突処理」ともいう。
【0018】
茶葉あるいは熱水抽出後の茶カスは、対向衝突処理を行う前にある程度粉砕しておくことが必要であるが、その粉砕方法に特に制限はない。例えば、対向衝突処理を行う前の粉砕は、ナイフやはさみを用いて刻む、あるいはミル又はミキサーにかけるなどの適当な方法で簡便に行うことができる。粉砕される茶葉あるいは茶カスは、乾燥状態のものでも、湿った状態でも、適量の水を加えて粉砕しても、いずれの状態でも構わず、粉砕方法に合わせて適宜選択すればよく、特に制限はない。要は、水中対向衝突処理の際、茶カスは水に分散され、分散スラリー(茶カス液)として配管を通過するので、配管が目詰まりしない程度に、例えば長径2mm以下、好ましくは1mm以下、さらに好ましくは0.5mm以下に予め粉砕されていればよい。また、水中対向衝突処理の際の分散濃度も、分散スラリーとして配管を通過するのに適当な濃度であることが好ましく、例えば0.1~10(w/w)%が好ましい。
【0019】
対向衝突処理のための装置としては、高圧洗浄装置又は粉砕・分散・乳化等のための高圧ホモジナイザー装置を利用することができる。例えば、三和機械社製の「ホモジナイザー」、スギノマシン(株)製の「アルティマイザーシステム(またはスターバーストシステム)」、みずほ工業社製の「マイクロフルイダイザー」、ゴーリン社製の高圧ホモジナイザーなどが挙げられるが、特にアルティマイザーシステム(またはスターバーストシステム)が好ましく、特許第3151706号公報に記載されているような噴流液体の衝合角度が変えられるチャンバーを有する装置、特開2005-270891号公報に図示されるもの等が例として挙げられる。
【0020】
対向衝突処理においては、分散液を一対のノズルから70~250MPaの高圧でそれぞれ噴射させると共に、その噴射流を互いに衝突させて粉砕するが、上記一対のノズルから噴射される分散液の高圧噴射流の角度を、噴射流同士が各々のノズル出口より先方の一点で適正な角度において衝合衝突するように調製するか、又は高圧流体の噴射回数を調整して粉砕回数を調整することにより、茶葉の平均粒子長を1/4以下又は10μm以下にまで粉砕することができる一方で、茶葉セルロースの重合度の低下を抑制することもできる。
【0021】
衝合角度θとしては、95~178°、例えば、100~170°とすることができる。95°より小さい場合、例えば90°で衝合するようにすると、構造的に衝合分散液はチャンバーの壁部分に直接衝突してしまう部分が生じやすくなり、1回の衝突で茶葉セルロースの重合度の低下が10%を超えることが多くなる。一方、178°より大きい場合、例えば衝合が180°、すなわち正面対向して衝突させる場合には、その衝突のエネルギーが大きく、1回の衝突での重合度の低下が激しくなることがある。
【0022】
また、衝突回数としては、1~200回、例えば5~120回、~60回、~30回、~15回、~10回とすることができる。粉砕回数が多いと、茶葉セルロースの重合度の低下が10%を超えることがある。
【0023】
衝合角度及び/又は衝突回数は、セルロースによる分解効率等を加味して、適宜設計することができる。衝合角度及び/又は衝突回数の調整により、衝突処理後の茶葉セルロースの平均粒子長が、処理前の1/4以下、1/5~1/100、1/6~1/50、1/7~1/20とすることができる。同様に、平均粒子長は、10μm以下、0.01~9μm、0.1~8μm、0.1~5μmとすることができる。セルロース繊維は、平均粒子長に対して直角方向に粒子幅が存在することになる。この幅を平均粒子幅というが、これも、衝合角度及び/又は衝突回数の調整により、10μm以下、0.01~9μm、0.1~8μmとすることができる。
【0024】
対向衝突処理は、回数を重ねるに従い、処理物の温度が上昇するので、一度衝突処理された後の処理物は、必要に応じ、例えば、4~20℃、又は5~15℃に冷却してもよい。対向衝突処理装置に、冷却のための設備を組み込むこともできる。
【0025】
本発明者らは、特に目的物であるカテキン類の抽出効率を念頭に、衝突圧、衝合角度及び衝突回数を検討した。その結果、衝突圧を100~250Mpa、好ましくは150~250Mpa、最も好ましくは200Mpa、衝合角度を100~170°、より好ましくは120~170°、衝突回数を3~7回、好ましくは4~6回、最も好ましくは5回とすれば、カテキンの抽出に好適な程度に微細粉砕されることがわかった。本発明においてこのように茶葉を対向衝突処理して「微細粉砕」するとは、処理後の平均粒子長を、10μm以下、例えば0.01~9μm、好ましくは0.1~8μm、さらに好ましくは0.1~5μmとすることをいう。
【0026】
本明細書において、「カテキン類」というときは、特別な場合を除き、3-オキシフラバンのポリオキシ誘導体をいう。これには、カテキン、ガロカテキン、及びそれらの3-ガロイル体が含まれ、またそれらの異性体及びラセミ体、並びにそれらのメチル化体が含まれる。具体的には、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート(gallocatechin-3-O-gallate;GCG);主要な緑茶カテキンであるエピカテキン(epicatechin;EC)、エピガロカテキン(epigallocatechin;EGC)、エピカテキンガレート(epicatechin-3-O-gallate;ECG)及びエピガロカテキンガレート(epigallocatechin-3-O-gallate;EGCG); EGCGのメチル化体であるエピガロカテキンメチルガレート(epigallocatechin-3-O-gallate;EGCGMe)、具体的には、epigallocatechin-3-O-(3-O-methyl) gallate;EGCG3”Me、epigallocatechin-3-O-(4-O-methyl) gallate;EGCG4”Meが含まれる。カテキン類のうち、エピガロカテキンガレート(EGCG)は、茶のカテキンの約50%を占める主用成分である。茶には、他にエピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピカテキン(以下それぞれ、EGC、ECG、ECとも記す)等が含まれる。
【0027】
カテキン類のうち、エピガロカテキン(EGC)は比較的抽出されやすく、茶カスを冷水に分散して攪拌するだけでも抽出することができるが、他のカテキン成分であるEC、EGCg、ECgおよびカフェイン(CAF)は対向衝突することでより多く抽出される。
【0028】
また、本発明においては、茶葉を水中対向衝突することにより、茶葉由来のセルロースナノ繊維であるナノセルロースを得ることができる。
ナノセルロースは、平均幅及び平均厚みが100nm以下であるセルロース繊維である。セルロース繊維の平均幅及び平均厚みは、光散乱装置、レーザー顕微鏡、電子顕微鏡等の当業者には周知の手法によって計測することができる。平均幅は、計測される長さのうち、長いほうのものを数点、例えば10~200点、好ましくは30~80点を測定し、その平均値をとったものである。平均厚みは、計測される長さのうち、短いほうのものを数点、例えば10~200点、好ましくは30~80点測定し、その平均値をとったものである。本発明において得られる茶葉由来のナノセルロースは、平均幅及び平均厚みが、例えば平均幅25nm以下、好ましくは20nm以下、より好ましくは15nm以下、さらに好ましくは8~12nmであり、平均厚み8~12nmである。
【0029】
ナノセルロースは、ナノサイズまで微細化され、毛羽立っていることから、他の物質表面との接点が非常に多くなるので、セルロース分子は他の物質を構成する分子と引き合う分子間力が働き、他の物質を吸着してしまう効果を有する。茶葉を対向衝突処理した溶液中では、茶葉由来のナノセルロース表面にカテキン類が吸着していると考えられる。
【0030】
このようにして得られる、カテキン類をトラップしたナノセルロースは、様々な形態で製品化することができる。カテキン類をトラップしたナノセルロースは、カテキン類とナノセルロースの混合物であり、カテキンの有する作用とナノセルロースの有する作用を併せ持つものであると考えられ、このような物質はこれまでに例がない。従って、本発明により、水中対向処理衝突法により茶葉を微細粉砕することにより得られる、茶葉を原料とする新規で有用な材料が提供される。
【0031】
茶のカテキン類の生理作用としては、抗酸化、抗癌、血漿コレステロール上昇抑制、血圧上昇抑制、血小板凝集抑制、血糖上昇抑制、痴呆予防、抗潰瘍、抗炎症、抗アレルギー、抗菌・抗虫歯、抗ウイルス、解毒、腸内フローラ改善、消臭等が報告され、このような作用に基き、食品素材、医薬品、消臭剤、抗菌剤などの様々な用途開発が進められている。また、セルロースは製紙材料、綿繊維の衣料品、人工絹糸原料、食品、医薬品、化粧品、コーティング剤、生分解性プラスチック、逆浸透膜(RO膜)、写真フィルム、フィルタ、透明板など、様々な用途に使用される。セルロースは通常、その強固な水素結合のために水に不溶である。しかし、対向衝突により得られるナノセルロースは、分子間の相互作用は除去されるが、重合度の低下をほとんど起こすことなく、分子レベルに近い状態で水中に分散した状態、すなわちほぼ水溶液化した状態で得られる。従って、通常のセルロースに比べて成型加工が容易であり、且つセルロースのポリマーとしての性質を利用した様々な用途に利用可能である。また、ナノセルロースはサイズが小さいということばかりでなく、水中対向衝突のもう一つの効果である比表面積の向上された繊維であり、高い吸着力を発揮する。
【0032】
本発明による、水中対向処理衝突法により茶葉を微細粉砕することにより得られる、茶葉を原料とする材料は、まず、水中対向衝突処理された後の溶液(対向衝突処理溶液)として得られる。この対向衝突処理溶液は、必要に応じて濃縮してもよいし、このまま用いてもよい。あるいは、対向衝突処理溶液は、乾燥させて粉末化してもよい。
【0033】
本発明による、水中対向処理衝突法により茶葉を微細粉砕することにより得られる、茶葉を原料とする材料は、ナノセルロース表面にカテキン類が吸着した状態で存在するので、そのままカテキン類およびナノセルロースの効能を持った状態で使うことができる。さらに、煩雑なカラム精製などの行程をせずに、簡便にカテキン類が取り出せるので、カテキン類の従来の用途にそのまま利用可能である。
【0034】
例えば、茶葉を微細粉砕することにより得られる対向衝突処理溶液は、セルロースナノ繊維被膜で基材表面を被覆することによる基材表面の改質方法に利用することができ(例えば前述の未公開国際出願:PCT/JP2007/51810に記載された方法に類似する方法)、この場合には、対向衝突処理溶液を溶液状態のまま利用できる。あるいは健康食品、抗菌性用コーティング剤などへの利用は、具体的な用途に応じて、溶液状態または乾燥させた状態のいずれでも利用可能である。
【0035】
以下、本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらのみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
茶カスの水中対向衝突:分光光度計による測定
UV(231nm)吸光度測定により、カテキン類およびカフェインの合計量を測定することができる。
【0037】
(1)試料の調製
図3に従って試料の調製を行った。脱イオン水1200mlをわかして90度にする。この中に茶葉(八女の煎茶)30gを1分間浸漬させる。1分間抽出したら茶葉を絞って茶ガラ(茶カス)とした。
【0038】
このとき得られたお茶を熱水抽出液として2ml回収した。
茶ガラに脱イオン水を加え、家庭用ミキサー(サンヨー SM-KM37)で3分処理し、全量で1200mlとなるようにした。処理液を2.5ml回収した。この1200mlの茶ガラ液を水中対向衝突処理した(スギノマシン(株)製 アルティマイザーシステムの改良機を使用)。条件は、衝突圧200Mpa、衝突回数は5,10,30,60回である。各回数ごとに処理液を2.5ml回収した。このときの試料の濃度は2.1%(w/w)であった。
【0039】
ミキサー処理した溶液と対向衝突処理した溶液について、2.5ml中2mlを遠心分離にかけて上澄み1.5mlを回収した。遠心分離の条件としては、装置としてTOMY MX-300、ローター TMA-25BH、40ml チューブを使用し、20000g x 20minかけた。対向衝突処理した溶液の上澄みの濃度は0.7%(w/w)であった。
【0040】
(2)吸光度測定
お茶の熱水抽出液、ミキサー処理液の上澄み、対向衝突処理液(5回、10回、30回、60回)の上澄みおよび全部(未遠心の処理液)の吸光度(UV強度)を測定した。UV検出器としてHITACHI U-2000A、検出波長 231nm、セルは石英12.5x12.5x45mm(光路長10mm、光路幅10mm)を使用し、上澄みに対しては、水3000mlに対して試料20μlの希釈倍率で測定し、全部に対しては、水3000mlに対して試料10μlの希釈倍率で測定した。上澄みと全部の濃度が同じときのUV 強度を求めるために、全部の強度を2倍にした。
【0041】
結果を図4に示す。
ミキサー処理したものよりも、対向衝突処理したもの、さらに処理回数の多いものが吸光度が高かった。この結果から、水中対向衝突法を用いることで、茶カス中に含まれていたカテキン類およびカフェインなどの有効成分を分離できる可能性が示唆された。さらに、水中対向衝突法により抽出されたカテキン類は、水に溶解した状態になるため遠心分離をかけても沈殿することはない。しかし、遠心分離後の上澄みのUV強度が、全部よりも半分におちていることから、茶カス中のナノセルロースにカテキン類が吸着し、遠心の際にナノセルロースが沈殿したためカテキンも同時に沈殿し、抽出された。すなわち、ナノセルロース表面にカテキン類が吸着していることが明らかとなった。
【実施例2】
【0042】
茶カスの水中対向衝突:HPLCによる測定
高速液体クロマトグラフィーにより、緑茶中の主要なカテキン類4種(EC、EGC、ECg、EGCg)、および緑茶中に少量含まれる主要カテキン類のエピマーである、カテキン(C)、ガロカテキン(GC)、カテキンガレート(Cg)、ガロカテキンガレート(GCg)の4種のカテキン類(以下、微量カテキン類)と、カフェインの分子種ごとの定量分析が可能である。本実施例においては、定量方法の詳細は、独立行政法人 食品総合研究所のマニュアル「緑茶中のカテキン類及びカフェインの定量法」http://www.nfri.affrc.go.jp/yakudachi/manual/1-3-1.htmlを参考にした。
【0043】
(1)試料の調製
図5に従って、実施例1とほぼ同様の手順で茶カスを得た。
茶カス15g(含水状態)に脱イオン水750mlを加え、攪拌した。攪拌10分以内に回収した上澄みを冷水抽出液とした。
【0044】
さらに、家庭用ミキサー(サンヨー SM-KM37)で3分処理し、処理液を回収した。
ミキサー処理液を水中対向衝突処理した。条件は、衝突圧200Mpa、衝突回数は5,10,30,60回である。各回数ごとに処理液を回収した。このときの試料の濃度は0.43%(w/w)であった。
【0045】
ミキサー処理した溶液と対向衝突処理した溶液を、遠心分離(20000g x 20min)にかけた。対向衝突処理した溶液の上澄みの濃度は0.21%(w/w)であった。
(2)HPLCを用いた成分分析
冷水抽出液と、ミキサー処理液および対向衝突処理液を遠心分離した上澄みについて、ポアサイズ0.45μmのフィルターでろ過したものを水で5倍に希釈し、逆相HPLCで分析した。分析条件を図6に示す。
【0046】
カテキン類の分離検出の結果を図7に示す。対向処理した茶カスの上澄みからカテキン類が検出されたことがわかる。
試料ごとのカテキン類の割合を図8に示す。EGC(エピガロカテキン)は冷水でも多く抽出することができるが、他のカテキン成分は対向衝突することで多く抽出できる可能性が示唆された。
【0047】
HPLCは定量性があり、量はAreaとして換算される。図7のクロマトグラムのAreaを測定した結果を図9に示す。
以外なことに、HPLCのAreaからは、ミキサーで処理したときが最も多くカテキン類が検出されるという結果となった。また、測定中、ピークのリテンションタイムが遅くなっていた。
【0048】
対向衝突により茶カスはナノ微細化されているので、ミキサーで粉砕したときよりも茶カスは細かくなっているので、対向衝突処理溶液からもっとカテキン類が検出されるはずである。また、HPLCに供した溶液について、HPLCで検出している波長(231nm)の吸光度測定を行った結果(図10)においては、ミキサー処理したものよりも、対向衝突処理したもの、さらに処理回数の多いものが吸光度が高かった。つまり、HPLCのカラムで分離される前の試料においては、ミキサー処理したものよりも、対向衝突処理したものの方がカテキン類の量は多かったと考えられる。
【0049】
(3)考察
対向処理衝突した茶カス上澄みのHPLC測定においてピークのリテンションタイムが遅くなった理由として、カラムが詰まったことが考えられる。また、HPLCで検出された対向処理衝突した溶液中のカテキン類は実際量よりも少なかったことが考えられる。
【0050】
このような現象の原因として、本発明者らは、対向処理衝突した溶液中のナノセルロースがカテキン類を吸着したと考えている。カラムのつまりの原因もナノセルロースによるものと考えている。
〔参考例〕
煎茶のアセトニトリル抽出:HPLCによる測定
茶ガラ(茶カス)との成分の比較およびアセトニトリルを用いた抽出と対向処理衝突を用いた抽出効率の比較のため、上述の食品総合研究所のマニュアル「緑茶中のカテキン類及びカフェインの定量法」に記載された抽出法を用いた。
【0051】
(1)試料の調製
1. 粉砕した緑茶約500mgを精秤し、メスフラスコに入れた。
2. アセトニトリルと水の等量混合液約80mlを加え、25~30℃で40分間ゆっくり振とうした。
3. 同じ液で100mlに定容し、良く混合し、しばらく静置した後、上清2mlをフィルターで濾過し、水で5倍に希釈した。以下、茶カスと同条件でHPLCで測定した。
【0052】
(2)HPLCを用いた成分分析
結果を図11に示す。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】セルロース分子の親水性サイトと疎水性サイトとを示した図である。セルロース、キチン等の分子には、骨格に平行な方向へ水酸基に由来する親水性、及び骨格に垂直な方向へC-H基に由来する疎水性サイトが存在する。
【図2】表面におけるグルコース環の配向角度が表面特性に与える影響を示した図である。親水性面が固体表面に現れれば水と親和するが、疎水性面が表面に配列した場合、その表面はテフロン(登録商標)並みの撥水性を有することになる。
【図3】吸光度測定用試料の調製を示す(実施例1)。
【図4】吸光度測定の結果を示す(実施例1)。
【図5】HPLC測定用試料の調製を示す(実施例2)。
【図6】HPLC分析の条件を示す(実施例2)。
【図7】カテキン類の分離検出の結果を示す(実施例2)。
【図8】試料ごとのカテキン類の割合を示す(実施例2)。
【図9】カテキン類の定量結果を示す(実施例2)。
【図10】HPLCに供した溶液の吸光度測定結果を示す(実施例2)。
【図11】煎茶のアセトニトリル抽出のHPLC測定結果を示す(参考例)。
図面
【図7】
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【図9】
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【図1】
2
【図2】
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【図3】
4
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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