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明細書 :プラズマCVD法を用いたナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜の形成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2008-101271 (P2008-101271A)
公開日 平成20年5月1日(2008.5.1)
発明の名称または考案の名称 プラズマCVD法を用いたナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜の形成方法
国際特許分類 C23C  16/26        (2006.01)
C23C  16/02        (2006.01)
C23C  16/511       (2006.01)
FI C23C 16/26
C23C 16/02
C23C 16/511
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2007-239742 (P2007-239742)
出願日 平成19年9月14日(2007.9.14)
優先権出願番号 2006253385
優先日 平成18年9月19日(2006.9.19)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】堤井 君元
【氏名】池田 知弘
出願人 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091443、【弁理士】、【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
審査請求 未請求
テーマコード 4K030
Fターム 4K030AA09
4K030AA16
4K030AA17
4K030BA27
4K030BA28
4K030BB04
4K030BB06
4K030CA04
4K030DA02
4K030FA01
4K030JA01
4K030JA06
要約 【課題】 原料ガスとしてアセチレンを用いてナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜を短時間で確実に形成することを可能にするプラズマCVD法を用いたナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜の形成方法を提供する。
【解決手段】 前処理において、シリコン単結晶基板13の表面を炭化処理して炭化処理層を形成する。その後炭化処理層の表面にダイヤモンド粒子を用いてスクラッチ処理を行う。スクラッチ処理をした炭化処理層の表面に、原料ガスとしてアセチレンを用いて、プラズマCVD装置1によりナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜を形成する。
【選択図】 図2
特許請求の範囲 【請求項1】
プラズマCVD法を用いたナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜の形成方法であって、
シリコン単結晶基板の表面を炭化処理して炭化処理層を形成し、
その後前記炭化処理層の表面にダイヤモンド粒子を用いてスクラッチ処理を施し、
前記スクラッチ処理を施した前記炭化処理層の表面に、原料ガスとしてアセチレンを用いて、プラズマCVD法によりナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜を形成することを特徴とするプラズマCVD法を用いたナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜の形成方法。
【請求項2】
プラズマCVD法を用いたナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜の形成方法であって、
炭化処理が可能な基板の前記表面を炭化処理して炭化処理層を形成し、
その後前記炭化処理層の表面にダイヤモンド粒子を用いてスクラッチ処理を施し、
前記スクラッチ処理を施した前記炭化処理層の表面に、原料ガスとしてアセチレンを用いて、プラズマCVD法によりナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜を形成することを特徴とするプラズマCVD法を用いたナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜の形成方法。
【請求項3】
前記炭化処理を、メタンプラズマを用いて実施することを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマCVD法を用いたナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜の形成方法。
【請求項4】
前記メタンプラズマを用いた前記炭化処理では、メタンガス雰囲気中においてメタンプラズマを発生し、前記メタンプラズマの高周波放電により前記シリコン単結晶基板の前記表面に10オングストローム~300オングストロームの炭化珪素層と該炭化珪素層の上にアモルファスカーボン層を形成することを特徴とする請求項3に記載のプラズマCVD法を用いたナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜の形成方法。
【請求項5】
前記アモルファスカーボン層は、1μm~10μmの厚みを有している請求項4に記載のプラズマCVD法を用いたナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜の形成方法。
【請求項6】
前記スクラッチ処理では、前記アモルファスカーボン層の表面にダイヤモンド粒子懸濁液を塗布し、前記ダイヤモンド懸濁液に超音波振動を加えることにより、前記ダイヤモンド粒子によって前記アモルファスカーボン層の大部分を除去して、しかも前記炭化珪素層をスクラッチ処理することを特徴とする請求項1または2に記載のプラズマCVD法を用いたナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜の形成方法。
【請求項7】
前記プラズマCVD法が、アセチレンに濃度が70%以上になるようにアルゴンを添加した原料ガスを用いたマイクロ波プラズマCVD法である請求項1または2に記載のプラズマCVD法を用いたナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜の形成方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の方法で製造されたナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD法を用いたナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマを用いた化学的気相蒸着(CVD)法によるダイヤモンド薄膜の低圧合成技術の発見により、ダイヤモンドをシリコンと同様にエレクトロニクス分野に利用する研究が活発になされてきた。ダイヤモンドは単一の物質としては、最も優れた電気的特性を有しており、電子分野への応用研究はいずれもシリコンのように完全性を高めた単結晶、あるいは大粒径多結晶の利用が前提となっている。通常プラズマCVD法によって得られるダイヤモンドはマイクロメートル粒径の大きさであるが、プラズマの条件を制御することによってナノメートル粒径のダイヤモンドが得られる。これらナノダイヤモンドは、表面が平滑で摩擦係数が小さい、電界放出のしきい電圧が低い、光透過性が良いなどの利点がある。
【0003】
ナノダイヤモンド薄膜の作製方法は、大別して二通りある。第一に、水素—メタンプラズマ中において、基板に数百ボルトの負バイアス電圧を加える方法である。第二に、メタンに高濃度(90%超)のアルゴンなどの希ガスを添加する方法である。前者は基板バイアスによって誘起されるイオン衝撃によって、ダイヤモンドの結晶性低下が予想されるのに対し、後者はイオン衝撃を必要としないため、比較的高い結晶性が期待される。なお上記堆積手法によって得られるナノダイヤモンド薄膜は、いずれもナノダイヤモンド粒子がアモルファスカーボンマトリックス中に分散した複合膜である。
【0004】
このような複合膜を形成する前には、シリコン基板の表面の核ぬれ性を高める(核生成サイトを導入する)ために、通常シリコン基板の表面を前処理する。この前処理には、従来、大別して二通りある。第1の前処理法は、例えば特許文献1(特開平7-89793号公報)に示されるように、シリコン基板の表面を炭化処理する方法である。また第2の前処理法は、特許文献2(特開2005-41718号公報)に示されるように、シリコン基板の表面をダイヤモンド粒子を用いてスクラッチ処理する方法である。

【特許文献1】特開平7-89793号公報(請求項1及び2)
【特許文献2】特開2005-41718号公報([0029]欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者の研究によると、炭化処理を行う第1の前処理方法は、主構成原料ガスとしてメタンを使用する場合には、ナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜を形成するために有効であるが、アセチレンガス等のその他の希ガスを使用する場合には、有効ではないことが判った。また第2のスクラッチ処理も、主構成原料ガスとしてメタンを使用する場合には、有効であるが、アセチレンガス等のその他の希ガスを使用する場合には、有効ではないことが判った。なお特許文献2には、主構成原料ガスとして、アセチレンを使用できることも記載されているが、実際にアセチレンを主構成原料ガスとして使用して、長い時間の堆積を行っても十分なナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜を形成することは難しい。
【0006】
本発明の目的は、原料ガスとしてアセチレンを用いてナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜を確実に形成することを可能にするプラズマCVD法を用いたナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜の形成方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、原料ガスとしてアセチレンを用いてナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜を短い時間で形成することを可能にするプラズマCVD法を用いたナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のプラズマCVD法を用いたナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜の形成方法では、まず前処理において、炭化処理が可能な基板(シリコン単結晶基板、シリコン基板、Ti基板、Mo基板等)の表面を炭化処理して炭化処理層を形成し、その後炭化処理層の表面にダイヤモンド粒子を用いてスクラッチ処理を行う。そしてスクラッチ処理を施した炭化処理層の表面に、原料ガスとしてアセチレンを用いて、プラズマCVD法によりナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜を形成する。本発明のように、前処理において、炭化処理とスクラッチ処理とを行うと、スクラッチ処理を施した炭化処理層の表面には、多数の微細な溝が形成された炭化珪素の層と、これらの溝の内部にスクラッチ処理用のダイヤモンド粒子が残留した表面状態とが形成される。このような表面状態が形成されていると、プラズマCVD法により成膜を開始した当初は、溝内に残留したダイヤモンド粒子が核となって膜の形成が始まるものと考えられる。溝の内部から成膜が開始されると、その後は溝を埋めるようにして、更に膜が形成されていくものと考えられる。そしてこのような状態になると、溝内に形成された膜の一部がアンカーとなって、以後確実に膜が成長する。原料ガスとしてアセチレンを用いる場合には、前述の炭化処理だけを行っただけでは、炭素過飽和度が高く、基板表面の濡れ性は良いが、ダイヤモンドの核が生成しにくく、殆ど成膜を開始しない。また炭化処理をせずに、ダイヤモンド粒子を用いたスクラッチ処理だけを施した場合には、残留するダイヤモンド粒子が核になるため、その核からは一部膜が形成される。しかしながら残留するダイヤモンド粒子の周囲の状況は、原料ガスとしてアセチレン(C)を用いる場合には、必ずしも炭素過飽和度が高くかつ濡れ性が良い状態にはなっていない。そのため部分的に膜が成長はするものの、基板表面全体に膜が成長することはない。このようなことから本発明は、従来の方法と比べて、原料ガスとしてアセチレンを用いることを十分に可能なものとした。
【0009】
炭化処理の方法は任意であるが、メタンプラズマを用いて炭化処理を行うと、短い時間でしかも確実にシリコン単結晶基板等の基板の表面を炭化処理することができる。なおメタンプラズマを用いた炭化処理では、メタン(CH4 )ガス雰囲気中において導波管からガスに高周波電圧を印加してメタンプラズマを発生する。そしてメタンプラズマの高周波放電によりシリコン単結晶基板等の基板の表面に10オングストローム~300オングストロームの炭化珪素層と該炭化珪素層の上にアモルファスカーボン層を形成する。この炭化珪素層の膜厚の下限値及び上限値は、後のスクラッチ処理を施しても、必要な量の炭化珪素層が残ることを保証するものとして実験から定められたものである。なおこの範囲の下限値より下では、スクラッチ処理後に炭化珪素層が殆ど残らない。またこの範囲の上限値より上では、スクラッチ処理の時間が長く必要となる。またアモルファスカーボン層を形成すると、後のスクラッチ処理によって、炭化珪素層が削られ過ぎるのを防止することができる。このようなことから、アモルファスカーボン層は、1μm~10μmの厚みを有しているのが好ましい。アモルファスカーボン層の厚みが下限値より小さいと、炭化珪素層が削られ過ぎる結果となり、厚みが上限値より大きいと、スクラッチ処理の時間だけが長くなる。このアモルファスカーボン層の厚みは、スクラッチ処理で使用するダイヤモンド粒子の平均粒子径寸法とスクラッチ処理の時間とによって決まることになる。ダイヤモンド粒子の平均粒子径寸法が大きくなるほど、アモルファスカーボン層の厚み寸法を厚くする必要があり、またスクラッチ処理の時間が長くなるほど、アモルファスカーボン層の厚み寸法を厚くする必要がある。
【0010】
スクラッチ処理は、例えば、アモルファスカーボン層の表面にダイヤモンド粒子懸濁液を塗布し、ダイヤモンド懸濁液に超音波振動を加えることにより、ダイヤモンド粒子によってアモルファスカーボン層の大部分を除去して、しかも炭化珪素層をスクラッチする(炭化珪素層の表面に微細な溝を多数ランダムに形成する)ようにしてもよい。このような方法を用いると、簡単に且つ短い時間で、スクラッチ処理を行うことができる。
【0011】
プラズマCVD法を用いて成膜する場合に、アセチレンに濃度が70%以上になるようにアルゴンを添加した原料ガスを用いると、短い時間でしかも確実にナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜を形成することができる。なおアルゴンの濃度を70%よりも低くすると、炭素過飽和度が著しく低下し、ダイヤモンドの粒径がマイクロメートルオーダーに増加する。逆にアルゴン濃度を増加すると膜堆積速度が減少するため、この濃度の上限は、堆積速度によって決まることになる。
【0012】
本発明の方法を用いて製造したナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜は、膜中水素密度が高く、エッチング耐性のある安定なポリマー状構造を備えている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、原料ガスとしてアセチレンを用いる場合において、ナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜を確実に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
ここで、図1は、代表的なダイヤモンド膜の製造装置であるベルジャー型マイクロ波CVD装置の構成を示している。このマイクロ波CVD装置1は、ガス導入管3と、ガス排出管5と、石英管7によって囲まれた反応容器8と、基台9とを備えている。そして、石英管7内にプラズマを発生できるように、図示しないマイクロ波電源からは導波管10を介してマイクロ波が入力され、アンテナ11を介してマイクロ波が反応容器8の上部に放射される。炭化処理が可能な基板で簡単に入手できるシリコン単結晶基板13は、基台9の上に置かれる。この装置で、マイクロ波を入射すると、直径5-10cm程度のボール状のプラズマの発生が可能である。基板13はプラズマからの輻射によって加熱されるが、基台9が水冷および加熱機構を兼ね備えることによって温度制御が可能である。基板13の温度は、図示しない放射温度計によって測定できる。
【0016】
ガス導入管3の上流には、水素ガス供給タンク、アセチレンガス供給タンク及びアルゴンガス供給タンクが配置されている。
【0017】
以下、図2を参照して、気相反応によりシリコン単結晶基板13上にナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜を製造する方法の例について説明する。ここで使用するシリコン単結晶基板13の結晶方位は(100)である。まず、ダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜を基板13上に製膜する際には、基板13の表面を炭化処理して炭化処理層を形成する。この例では、炭化処理を、プラズマCVD装置を用いて行った。メタンプラズマを用いた炭化処理では、ガスとして容量割合で0乃至50%の水素希釈したメタン(CH4 )ガスを使用し、ガス圧を0.1乃至100Torr、基板温度を700乃至1000℃にして形成したプラズマ中に、基板バイアスを0乃至-50Vとして、30乃至60分間曝すことにより炭化処理を行った。基板バイアスが0Vであれば、通常の炭化処理になる。そして負バイアスを加えると、より短時間で炭化処理を行うことができ、また炭化珪素層の厚みが大きくなる。その結果、スクラッチに耐える膜厚の炭化珪素層を容易に得ることができる。
【0018】
図3(B)は、このようにして基板13の表面に形成した炭化処理層の断面写真の一例を示している。図3(B)に示すように、メタンプラズマの高周波放電によりシリコン単結晶基板(Si基板)の表面には、10オングストローム~300オングストロームの炭化珪素層(SiC層)と,炭化珪素層(SiC層)の上にアモルファスカーボン層(amorphous)が形成されている。このようなアモルファスカーボン層を形成すると、後のスクラッチ処理によって、炭化珪素層が削られ過ぎるのを防止することができる。このようなことから、アモルファスカーボン層は、1μm~10μmの厚みを有しているのが好ましい。この炭化処理によって、図2に示す基板13の表面の過飽和度が増加する。図3(A)は、炭化処理により形成された炭化処理層について、ラマンスペクトルにより評価をした結果を示している。この評価結果からは、スペクトル中にアモルファスカーボンであることを示す二つのピークが現れていることが判る。
【0019】
図2に戻って、炭化処理の後に、ダイヤモンド粒子を用いたスクラッチ処理を行う。このスクラッチ処理は、基板13表面上にダイヤモンド粒子を存在させることで、ダイヤモンドの核発生密度を高くできて、しかも気相合成ダイヤモンド膜の形成が容易となるという認識に基づいて実施した。まず基板13の表面に、ダイヤモンド懸濁液(またはダイヤモンドスラリー)を塗布し、その後ダイヤモンド懸濁液に超音波処理を行ってダイヤモンド懸濁液中のダイヤモンド粒子を微細に振動させて、スクラッチ処理を行った。具体的には、基板をエタノール液によって希釈したダイヤモンド粒子の懸濁液(粒径100~1000nmクラスターダイヤモンド)に入れた。そして基板13を10乃至60分間超音波振動させ、表面のダイヤモンド粒子の懸濁液を均一塗布状態とした。このスクラッチ処理を終了した後は、図2に示すようにエタノール液により表面洗浄を行った。
【0020】
表面洗浄後の基板13の表面には、炭化処理で形成したアモルファスカーボンは殆ど残っていない。そして炭化珪素層の表面から基板13の表面内部中まで延びるような深さ百nm~1μmの多数の溝が形成されている。またこの多数の溝の内部には、スクラッチ処理で使用した複数のダイヤモンド粒子が一部食い込んだ状態で残留している。このような表面状態が形成されていると、後のプラズマCVD法により、原料ガスとしてアセチレンを用いて成膜を開始した当初は、溝内に残留したダイヤモンド粒子が核となって膜の形成が始まるものと考えられる。溝の内部から成膜が開始されると、その後は溝を埋めるようにして、更に膜が形成されていくものと考えられる。そしてその後、溝内に形成された膜の一部がアンカーとなって、以後確実に膜が成長する。なお原料ガスとしてアセチレンを用いる場合には、前述の炭化処理を行っただけでは、炭素過飽和度が高く、基板表面の濡れ性は良いが、ダイヤモンドの核が生成しにくく、殆ど成膜を開始しない。また炭化処理をせずに、ダイヤモンド粒子を用いたスクラッチ処理だけを施した場合には、残留するダイヤモンド粒子が核になるため、その核からは一部膜が形成される。しかしながら残留するダイヤモンド粒子の周囲の状況は、原料ガスとしてアセチレン(C)を用いる場合には、必ずしも炭素過飽和度が高くかつ濡れ性が良い状態にはなっていない。そのため部分的に膜が成長するものの、基板表面全体に成膜することはない。これらの現象は、発明者の実験により確認されている。そこで本発明では、原料ガスとしてアセチレンを用いる場合の前処理として、炭化処理とスクラッチ処理とを併用している。
【0021】
このような前処理をした基板上に、マイクロ波CVD法を用いたダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜を形成した。先ず、上記のように前処理した基板13を基台9の上に置き、その後チャンバー内を図示しない真空ポンプで排気して、チャンバー内を約100Torrにした。そして原料ガスとしてアセチレンガスを用い、アセチレンガス中に53~94vol.%のアルゴンガスおよび5~46vol.%の水素ガスを添加したものをガス供給口3から供給した。そして基板13を550~900度の温度まで加熱した。
【0022】
次に、マイクロ波を入射して、直径5~10cm程度で800Wのボール上のプラズマを装置内部に発生させた。成膜時間は、約1時間であった。この成膜時間は、スクラッチ処理のみを施して成膜した場合と比べて短く、実用化が可能なレベルである。このようにして、基板13の表面全面にダイヤモンド粒径15~25nm、膜厚が1~2μmのナノダイヤモンド/アモルファス複合膜を得た。
【0023】
以下原料ガスとしてメタンを用いた場合と、本発明の方法の実施例(アセチレンを用いた場合)について比較して、原料ガスとしてアセチレンを使用することの優位性を説明する。Ar/H/CHおよびAr/H/CプラズマにおけるC(Swan band:5165Å)の発光強度とアルゴン濃度の関係を図4に示す。この図からは、アセチレン原料の方がCの発光は3倍程度強く、多くの活性なCが生成していることが判る。アセチレンからCが生成する主要なプロセスは、C+Ar→C+H+Ar(Arとの反応)であるのに対し、メタンではArや準安定Arとの反応によってCが生成し、さらにArとの反応によって最終的にCが生成する。一方Cが消滅する主要プロセスはC+H→CH+H(Hとの反応)である。したがって添加アルゴン濃度の増加(水素濃度の減少)によって、生成速度の増加に加え、消滅速度の減少によってCの密度が増加することが分かり、発光強度の測定傾向と一致する。
【0024】
図5にAr/H/CHおよびAr/H/Cプラズマによって得られた薄膜のラマンスペクトルを示す。メタンの場合、アルゴン濃度94%以上でナノ粒径になったが、ダイヤモンドピークはアモルファス“D”ピークに隠れ、不明瞭である。アセチレンの場合、メタンに比べ低いアルゴン濃度(71%以上)でナノ粒径になったが、アモルファス“D”ピーク強度が減少し、ダイヤモンドピークが現れる。また僅かにポリアセチレンのピークが出現しており、膜中水素濃度の増加が予想される。
【0025】
次に図6に、二つのガス系に対応する代表的なFTIRスペクトルを示す。アモルファス層中のC-H結合に対応する吸収ピークが存在しており、2850、2875、2920 cm-1のピークはそれぞれsp-CH、sp-CH、sp-CHの伸縮モードによるものである。アセチレンで得られた膜のほうが全体的な吸収強度が高く、膜中水素密度が高いことが分かり、これはラマン散乱の結果とも一致する。以上よりアセチレンを前駆体とするとき、アモルファス層の生成抑制によってダイヤモンド成分の増加に効果があること、膜中水素密度の増加によってアモルファス層内に安定なポリマー状構造が形成されることが分かる。
【0026】
上記実施の形態では、炭化処理が可能な基板としてシリコン単結晶基板を用いたが、シリコン単結晶基板に限らず、シリコン基板、Ti(チタン)基板、Mo(モリブデン)基板、Nb(ニオブ)基板、Zr(ジルコニウム)基板、W(タングステン)基板、V(バナジィウム)基板、Hf(ハフニウム)基板等を用いても上記実施の形態と同様の結果を得られる。金属基板の代表例として、Ti基板及びMo基板を用いて行った試験結果について説明する。試験に使用したダイヤモンド膜の製造装置は図1に示したベルジャー型マイクロ波CVD装置と同じものである。そして気相反応によりTi基板及びMo基板上にナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜を製造する方法は、図2に示す製造過程と同じである。すなわちダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜をTi基板及びMo基板に製膜する際には、基板の表面を炭化処理して炭化処理層を形成する。炭化処理はメタンプラズマを用いて行った。メタンプラズマを用いた炭化処理では、ガスとして容量割合で0乃至50%の水素希釈したメタン(CH4 )ガスを使用し、ガス圧を0.1乃至100Torr、基板温度を700乃至1000℃にして形成したプラズマ中に、基板バイアスを0乃至-50Vとして、30乃至60分間曝すことにより炭化処理を行った。
【0027】
炭化処理の後に、ダイヤモンド粒子を用いたスクラッチ処理を行った。まず基板の表面に、ダイヤモンド懸濁液(またはダイヤモンドスラリー)を塗布し、その後ダイヤモンド懸濁液に超音波処理を行ってダイヤモンド懸濁液中のダイヤモンド粒子を微細に振動させて、スクラッチ処理を行った。具体的には、基板をエタノール液によって希釈したダイヤモンド粒子の懸濁液(粒径100~1000nmクラスターダイヤモンド)に入れた。そして基板13を10乃至60分間超音波振動させ、表面のダイヤモンド粒子の懸濁液を均一塗布状態とした。このスクラッチ処理を終了した後は、エタノール液により表面洗浄を行った。
【0028】
次に、このような前処理をした基板上に、マイクロ波CVD法を用いたダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜を形成した。先ず、上記のように前処理したTi基板及びMo基板を図1の基台9の上に置き、その後チャンバー内を図示しない真空ポンプで排気して、チャンバー内を約100Torrにした。そして原料ガスとしてアセチレンガスを用い、アセチレンガス中に53~94vol.%のアルゴンガスおよび5~46vol.%の水素ガスを添加したものをガス供給口3から供給した。そして基板13を550~900度の温度まで加熱した。
【0029】
次に、マイクロ波を入射して、直径5~10cm程度で800Wのボール上のプラズマを装置内部に発生させた。成膜時間は、約1時間であった。このようにして、Ti基板及びMo基板の表面全面にダイヤモンド粒径15~25nm、膜厚が1~2μmのナノダイヤモンド/アモルファス複合膜を得た。
【0030】
図7にAr/H/Cプラズマによって得られた薄膜のラマンスペクトルを示す。図5と図7とを比較すると判るように、Ti基板及びMo基板のいずれを用いた場合においても、アモルファス“D”ピークの近くにダイヤモンド(diamond)ピークが出現している。なおTi基板の場合には、アルゴン濃度70%以上でナノ粒径になった。またMo基板の場合には、アルゴン濃度70%以上でナノ粒径になった。
【0031】
なお本発明の方法を用いれば、その他のシリコン基板、Nb基板、Zr基板、W基板、V基板、Hf基板等の炭化処理が可能な基板を用いても同様に、原料ガスとしてアセチレンを用いる場合において、ナノダイヤモンド/アモルファスカーボン複合膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】代表的なダイヤモンド膜の製造装置であるベルジャー型マイクロ波CVD装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の方法の実施の形態の一例のプロセスを示す図である。
【図3】(A)は炭化処理で形成されたアモルファスカーボンのラマンスペクトルによる評価結果を示す図であり、(B)は炭化処理層の断面写真の一例である。
【図4】メタンとアセチレンの二つのガス系のC発光強度の比を示す図である。
【図5】メタンとアセチレンの二つのガス系において得られた膜のラマンスペクトルの比較を示す図である。
【図6】メタンとアセチレンの二つのガス系において得られた膜のFTIRスペクトルの比較結果を示す図である。
【図7】基板としてTi基板及びMo基板を用いた場合において得られた膜のラマンスペクトルの比較を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 マイクロ波CVD装置
3 ガス導入管
5 ガス排出管
7 石英管
8 反応容器
9 基台
11 アンテナ
13 シリコン単結晶基板
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6