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明細書 :ラマン分光分析に用いる分析用基板及び分析用基板組合体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4491616号 (P4491616)
登録日 平成22年4月16日(2010.4.16)
発行日 平成22年6月30日(2010.6.30)
発明の名称または考案の名称 ラマン分光分析に用いる分析用基板及び分析用基板組合体
国際特許分類 G01N  21/65        (2006.01)
FI G01N 21/65
請求項の数または発明の数 10
全頁数 14
出願番号 特願2007-542322 (P2007-542322)
出願日 平成18年10月18日(2006.10.18)
国際出願番号 PCT/JP2006/320703
国際公開番号 WO2007/049487
国際公開日 平成19年5月3日(2007.5.3)
優先権出願番号 2005309337
優先日 平成17年10月25日(2005.10.25)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成21年10月15日(2009.10.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
発明者または考案者 【氏名】小名 俊博
【氏名】村上 修一
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100089705、【弁理士】、【氏名又は名称】社本 一夫
【識別番号】100075270、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 泰
【識別番号】100080137、【弁理士】、【氏名又は名称】千葉 昭男
【識別番号】100096013、【弁理士】、【氏名又は名称】富田 博行
【識別番号】100114487、【弁理士】、【氏名又は名称】山崎 幸作
審査官 【審査官】横井 亜矢子
参考文献・文献 特開2005-077362(JP,A)
国際公開第02/073164(WO,A1)
特表2003-510065(JP,A)
特表2003-511666(JP,A)
調査した分野 G01N 21/62-21/74
G01N 33/48-33/98
JSTPlus(JDream2)
特許請求の範囲 【請求項1】
ラマン分光分析に用いる分析用基板であって、所定の透明基板と、この透明基板の表面に不均一に付着した金属粒子とからなり、
前記金属粒子は、前記透明基板上の所定の領域ではナノオーダーの間隔で密集し、それ以外の領域ではマイクロオーダーの間隔で分散していることを特徴とする分析用基板。
【請求項2】
前記金属粒子は金、銀、銅、白金、パラジウム、アルミニウム、チタン又はコバルトからなることを特徴とする請求項1に記載の分析用基板。
【請求項3】
前記透明基板は、板状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分析用基板。
【請求項4】
前記透明基板は、円筒状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分析用基板。
【請求項5】
前記透明基板は、直方体状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の分析用基板。
【請求項6】
少なくとも2枚の上記請求項に記載の板状の分析用基板を相互に平行に配列したことを特徴とする分析用基板組合体。
【請求項7】
上記請求項に記載の円筒状の分析用基板と、この円筒状の分析用基板の内部に挿入される少なくとも1枚の上記請求項に記載の板状の分析用基板とからなることを特徴とする分析用基板組合体。
【請求項8】
直径の異なる少なくとも2つの上記請求項に記載の円筒状の分析用基板を備え、直径の大きな分析用基板の内部に直径の小さな分析用基板を配置したことを特徴とする分析用基板組合体。
【請求項9】
上記請求項に記載の直方体状の分析用基板と、この直方体状の分析用基板の内部に挿入される少なくとも1枚の上記請求項に記載の板状の分析用基板とからなることを特徴とする分析用基板組合体。
【請求項10】
前記複数の分析用基板には、相互に異なる金属粒子が付着されていることを特徴とする請求項6~の何れか一項に記載の分析用基板組合体。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ラマン分光分析に用いる分析用基板及び分析用基板組合体に係り、特に、試料内の物質を高感度に分析することができる分析用基板及び分析用基板組合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ラマン分光法は、光の非弾性散乱(ラマン散乱)を利用した分光法である。ラマン散乱は、光を照射した分子の各振動に起因するため、このラマン散乱を測定することにより、物質固有の振動に起因するスペクトルを得ることができる。ラマン分光法は赤外分光と同様に状態分析ができること、種々の形状の試料測定が可能で、特に水分の影響を受けないこと、波数精度が良いこと、測定時間が短いことなどから工学、薬学および農学分野など多くの分野から注目されている。また、製造業における品質管理手法としての利用も考えられている。しかし、ラマンスペクトルの検出感度は本質的には低く、微量成分の分析には適していない。また、再現性や定量性などの問題から癌診断の臨床医学に応用された例もない。
【0003】
ラマン分光法を改良したSERS(表面増強ラマン分光法)は金属ナノ構造体に吸着した分子のラマン散乱が通常よりも増強する現象を用いた分光法である。原理として、分子が金属表面に吸着すると、金属表面の凹凸により電磁場の局所的増強(電磁場効果)と、局所的に増強された場における吸着分子の空軌道への電荷移動(化学効果)の2つの効果の重畳により、ラマン散乱の増強が起きると考えられている。SERSにより迅速に微量成分の分析が可能なことから、環境ホルモン、残留農薬および有毒成分などの検出の目的のために研究が行われている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、微量成分分析法の一つである表面増強ラマン分光法(SERS)は、金属ナノ構造体に吸着した化学分子によるラマン散乱の増強程度が最大10,000倍になる現象を用いた分光法である。従来では、金属粒子を付着させた基板を試料中に入れ、これに単一のレーザ光を照射し、反射した散乱光を検出していた。このため、一回の測定で一度しかSERSは発生せず、理論的な検出限界に拘束されていた。また、基板に付着させる金属の種類の違いにより、増強を起こす化学物質が異なることが報告されており、水溶液中の多成分の同時検出が困難であるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、通常のSERSを応用し、ナノオーダーの金粒子を蒸着によりガラス基板上に形成する際に、部分的にナノオーダーの間隔で狭く配置し、他の部分はマイクロオーダーの間隔で広く配置した複数の基板を平行に配置し、レーザ光を通過させながら、更に反射光を検出することにより、多重に近接場も用い、SERS測定を行う方法を開発した。これは、透過型多重増強ラマン分光法(MERS)と呼ぶことにする。本手法の特長は、単一のレーザ光を平行に配置した複数の基板に透過させることにより、複数回のSERS測定が同時に可能となることである。これに加えて、一定容量の溶液中に複数の基板を配置することによる、発光現象やラマン散乱光との共鳴による増強も考えられる。また、複数の基板を用いる場合には、測定分子が基板に吸着する機会が増加するため、増強、感度は基板の枚数に単純に比例する以上に増加する。ピリジンの測定例では、通常のSERSでは検出限界が128ppbであるのに対し増強回数5回(基板3枚)では0.96ppbという結果が得られている。
【0006】
上記のような結果を得るために、本発明では、ラマン分光分析に用いる分析用基板であって、所定の透明基板と、この透明基板の表面に不均一に付着した金属粒子とからなることを特徴とする。
【0007】
また、前記金属粒子は、前記透明基板上の所定の領域ではナノオーダーの間隔で密集し、それ以外の領域ではマイクロオーダーの間隔で分散していることを特徴とする。
【0008】
また、前記金属粒子は金、銀、銅、白金、パラジウム、アルミニウム、チタン又はコバルトからなることを特徴とする。
【0009】
また、前記透明基板は、板状であることを特徴とする。
【0010】
また、前記透明基板は、円筒状であることを特徴とする。
【0011】
また、前記透明基板は、直方体状であることを特徴とする。
【0012】
また、少なくとも2枚の板状の上記分析用基板を相互に平行に配列したことを特徴とする。
【0013】
また、円筒状の上記分析用基板と、この円筒状の分析用基板の内部に挿入される少なくとも1枚の上記板状の分析用基板とからなることを特徴とする。
【0014】
また、直径の異なる少なくとも2つの円筒状の上記分析用基板を備え、直径の大きな分析用基板の内部に直径の小さな分析用基板を配置したことを特徴とする。
【0015】
また、上記直方体状の分析用基板と、この直方体状の分析用基板の内部に挿入される少なくとも1枚の板状の上記分析用基板とからなることを特徴とする。
【0016】
更に、前記複数の分析用基板には、相互に異なる金属粒子が付着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、レーザ光の透過による複数回のSERS測定が可能で、SERS測定以上の増強度が得られる。また、基板数の増減により増強程度の制御が可能であり、複数の異種金属膜基板を組み合わせることによる多成分検出が可能である点が、既存技術に対して優位である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る分析用基板の側面図である。
【図2】図1に開示した分析用基板に付着している金粒子の原子間力顕微鏡写真である。
【図3】従来からラマン分光法に用いられてきた円筒状基板を示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る分析用基板組合体を示す断面図である。
【図5】本発明の更に他の実施形態に係る分析用基板組合体を示す断面図である。
【図6】本発明の更に他の実施形態に係る分析用基板組合体を示す断面図である。
【図7】本発明の更に他の実施形態に係る分析用基板組合体を示す断面図である。
【図8】本発明の更に他の実施形態に係る分析用基板組合体を示す断面図である。
【図9】図6に開示した分析用基板組合体を用いたラマン分光の原理を説明する概念図である。
【図10】本発明に係る分析用基板組合体の応用例を示す図である。
【図11】本発明に係る分析用基板組合体の他の応用例を示す図である。
【図12】本発明に係る分析用基板組合体の更に他の応用例を示す図である。
【図13】本発明に係る分析用基板組合体の更に他の応用例を示す図である。
【図14】本発明に係る分析用基板組合体の更に他の応用例を示す図である。
【図15】本発明を用いて得られたラマンシフトとラマン強度との関係を示すグラフである。
【図16】増強回数0回と本発明を用いた増強回数1回による検出限界濃度と検出感度増強度を比較した図である。
【図17】本発明を用いた増強回数3回と増強回数5回による検出限界濃度と検出感度増強度を比較した図である。
【図18】本発明を用いて得られたラマンピーク強度とピリジン濃度との関係を示すグラフである。
【図19】重金属に対して本発明を用いて得られたラマンシフトとラマン強度との関係を示すグラフである。
【図20】重金属の測定において、増強回数0回と本発明を用いた増強回数1回と3回による検出限界濃度と検出感度増強度を比較した図である。
【図21】菌に対して本発明を用いて得られたラマンシフトとラマン強度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0019】
1 分析用基板
3 ガラス基板
5 金粒子
7 密集領域
9 分散領域
21 分析用基板組合体
23 円筒状ガラス基板
25a 金粒子
25b 板状ガラス基板
31 分析用ガラス基板
33 金粒子
35 円筒状ガラス基板
41 分析用基板組合体
43 円筒状分析用基板
45 板状分析用基板
51 分析用基板組合体
53 円筒状分析用基板(大直径)
55 円筒状分析用基板(小直径)
61 分析用基板組合体
63 板状分析用基板
71 分析用基板組合体
73 板状分析用基板
75 容器
81 分析用基板組合体
101 分析用基板組合体
103 分析用基板
105 分析用基板
111 分析用基板組合体
113 分析用基板
115 分析用基板
121 分析用基板組合体
123 分析用基板
125 分析用基板
127 分析用基板
L レーザ光
R ラマン散乱
S 測定分子
T 試料
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、図面を用いて本発明の一実施形態について説明する。
【0021】
図1は、透明基板である板状ガラスからなるガラス基板3の表面に金粒子5を付着させた分析用基板1の例を示す側面図であり、図2はこの分析用基板1の一部表面の原子間力顕微鏡写真である。図1においては、説明の便宜上、蒸着された金粒子5の層の厚さを誇張して記載している。図2の原子間力顕微鏡写真は、4×4μm角の大きさである。図2中の白い部分は金粒子が密集している領域7であり、黒い部分は金粒子が分散している領域9である。密集領域7では金粒子同士がナノオーダーで近接しており、分散領域9では金粒子同士はマイクロオーダーで分散している。このような不均一な分布としたのは、ラマン分光に用いるレーザ光が分析用基板1を透過することができ、さらに密集領域7においてラマン散乱の増強を起こさせるためである。尚、用いる金属粒子は金に限定されるものではなく、銀、銅、白金、パラジウム、アルミニウム、チタン又はコバルトなどの金属粒子であってもよい。また、金属粒子は、ナノロッド等の金属ナノ構造体も含むナノメートルオーダーの金属ナノ粒子である。
【0022】
金粒子の密集及び分散の度合いについては種々の設定が可能であるが、物質の濃度が低濃度の試料であっても確実に分析できるようにするために、以下の条件を満たすことが必要である。
【0023】
【数1】
JP0004491616B2_000002t.gif

【0024】
ここでは、試料中における測定分子の濃度が、通常のラマン分光分析では不可能な場合を想定している。先ず、式中のnは光が金蒸着面を透過する回数である。これは増強回数と言い換えることもできる。また、式中のIr(x)はx番目に透過したガラス基板で発生した試料のラマン散乱が検出部に到達した時のラマン散乱強度、式中のN(n)はn回透過したときに検出されるノイズの総量、そして式中のDは測定装置(検出器)のラマンシグナル検出下限値である。
【0025】
本実施形態に係る分析用基板1は、市販されているイオンコーターを用いて、金蒸着法によって作製される。実際の蒸着工程では、ガラス基板3をターゲット中心部から4.5cm離れた高さ7cmの位置に傾けて配置し、蒸着時間30分で行った。そのときの蒸着電圧は1.2kVであり、蒸着電流は5.5mAとした。但し、当該条件は用いるイオンコーターごとに最適に設定する必要がある。また、円筒状ガラスからなる分析用基板も上記と同様に金蒸着法により作製した。蒸着条件は、円筒状ガラスをターゲット真上から1.5cm離れた位置に配置し、蒸着時間30分で行った。そのときの蒸着電圧は1.2kVであり、蒸着電流は5.5mAとした。尚、本発明では、不均一な金属(例えば、金)粒子の分布が形成されればよいので、イオンコーターでなく、他の装置を用いて分析用基板を作製してもよい。例えばナノメートルオーダーの穴をマイクロメートルオーダー間隔であけた状態の単分子膜を基板に作成し、金属ナノコロイドを塗布し、その後単分子膜を除き、目的分析基板を作成する方法のように単分子膜や金属コロイドを用い作成することも可能である。また、ナノリソグラフィー法やレーザーアブレーション法による作成も可能である。
【0026】
上記した板状ガラスからなる分析用基板1は、円筒状ガラスからなる分析用基板の内部に配置することも考慮し、3×15mm角から4×15mm角程度の大きさのものを用いた。また、円筒状ガラスは、市販の測定用NMRガラスチューブ(5mmφ)を長さ約3cmに切断して用いた。尚、上記説明では板状若しく円筒状の透明基板を用いた分析用基板について記載しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、直方体形状のガラスセルなどのガラス容器を透明基板として用いてもよい。もちろん、立方体形状であっても良いことは言うまでもない。更に、透明であればよいので、これらの透明基板を透明プラスチック或いはサファイアガラスなどで作製してもよい。
【0027】
次に、分析用基板及び分析用基板組合体の様々な具体例について説明する。図3は通常のラマン測定(多重増強回数0回)に用いる基板11であり、試料T(約300μl)を通常の円筒状ガラス内13に充填したものである。図4はSERS測定(多重増強回数1回)に用いる分析用基板組合体21であり、試料T(約300μl)を通常の円筒状ガラス23内に充填し、更に金粒子25aが蒸着された板状ガラス25bの分析用基板25を配置したものである。図5はMERS測定(多重増強回数3回)に用いる分析用基板31であり、試料T(約300μl)を金粒子33が蒸着された円筒状ガラス35の分析用基板内31に充填したものである。図6はMERS測定(多重増強回数5回)に用いる分析用基板組合体41であり、試料T(約300μl)を金粒子43aが蒸着された円筒状ガラス43bからなる分析用基板43内に充填し、更にその内部に金粒子45aが蒸着された板状ガラス45bの分析用基板45を挿入したものである。図7は、MERS測定(多重増強回数7回)に用いる分析用基板組合体51であり、試料T(約300μl)を金粒子53aが蒸着された円筒状ガラス53bからなる分析用基板内53に充填し、更にその内部に金粒子55aが蒸着された小直径の円筒状ガラス55bからなる分析用基板55を挿入したものである。図8は、MERS測定(多重増強回数9回)に用いる分析用基板組合体61であり、図7の構成に金粒子63aが蒸着された板状ガラス63bの分析用基板63を加えたものである。
【0028】
図9は、図6に示す分析用基板組合体41を用いてラマン分光分析をした場合の増強原理を説明する概念図である。図6では円筒状の分析用基板43を組み合わせているが、図9では説明の便宜上全て平面状の分析用基板で説明する。この図に示すように、分析用基板組合体41の左方からレーザ光Lが照射される。レーザ光Lの一部は第1(左側)の分析用基板43の測定分子Sによってラマン散乱Rを生じさせ、これを図示しない光源側に反射させる。一方、レーザ光Lの残りの部分は第1の分析用基板43を通過して、第2の分析用基板45に照射される。ここでもレーザ光Lの一部は分析用基板45の測定分子Sによってラマン散乱Rを生じさせ、光源側に反射される。更に、第2の分析用基板45を通過したレーザ光Lは、第3(右側)の分析用基板43に到達し、ここでも測定分子Sによってラマン散乱Rを生じさせる。これらに加え、第2の分析用基板45から光源側に反射する光は第1の分析用基板43でもラマン散乱Rを生じさせ、更に、第3の分析用基板43から反射する光は第2及び第1の分析用基板45,43でもラマン散乱Rを生じさせることとなる。このように、光源からのレーザ光Lが反射するまでには、分析用基板43,45を最高5回通過若しくは反射することになる。このようなことから、検出感度の増強が図られる。
【0029】
図10は、分析用基板組合体の応用例を示す。当該分析用基板組合体71では、板状ガラス73aからなる複数の分析用基板73が相互に平行に配列され、これが所定の容器75に収容されているものである。ここで用いられる分析用基板73の表面には、金粒子73bを覆うようにサブミクロンオーダーの厚さの被覆層73cが施されている。容器75内には測定分子が含まれた水溶液が満たされている。そして、この分析用基板組合体71にレーザ光が照射され、ラマン散乱Rを分光器によって測定する。
【0030】
図11は、分析用基板組合体の他の応用例を示す。当該分析用基板組合体81では、直線部83と曲線部85からなる蛇行したガラス管を用いた分析用基板組合体81であり、直線部分53が所定間隔を隔てて相互に平行で同一平面上に配列されている。ガラス管の内部には金粒子が蒸着されている。分析に際しては、ガラス管内に測定分子を含む水溶液を満たし、直線部分83に対して垂直な方向からレーザ光Lが照射され、ラマン散乱Rを分光器で測定する。
【0031】
図12は、分析用基板組合体の更に他の応用例を示す。当該分析用基板組合体101は、中空の直方体若しくは立方体形状の分析用基板103と、この内部に配置される板状の分析用基板105とからなる分析用基板組合体101である。分析用基板103は中空で直方体状のガラスからなる透明基板103bと、この透明基板103の内壁に付着される金粒子103aとからなる。また、内部に配置される板状の分析用基板105は、板状のガラス基板105bとその表面に付着される金粒子105aとからなる。分析用基板組合体101の内部には試料Tが充填されている。当該構成の分析用基板組合体101では、外部から光が入射して反射するまでに金粒子を最高5回通過するので、図6に記載した分析用基板組合体と同様の効果が得られる。
【0032】
図13は、分析用基板組合体の更に他の応用例を示す。当該分析用基板組合体111は、中空の直方体若しくは立方体形状の分析用基板113と、この内部に配置される板状の分析用基板115とからなる分析用基板組合体111である。分析用基板113は中空で直方体状のガラスからなる透明基板113bと、この透明基板113bの内壁に付着される金粒子113aとからなる。また、内部に配置される板状の分析用基板115は、板状のガラス基板105cとその両側表面に付着される金粒子115a、115bとからなる。分析用基板組合体111の内部には試料Tが充填されている。当該構成の分析用基板組合体111では、外部から光が入射して反射するまでに金粒子を最高7回通過するので、図7に記載した分析用基板組合体と同様の効果が得られる。
【0033】
図14は、分析用基板組合体の更に他の応用例を示す。当該分析用基板組合体121は、円筒状の分析用基板123と、この内部に配置される2枚の板状の分析用基板125,127とからなる分析用基板組合体121である。分析用基板123は中空で円筒状のガラスからなる透明基板123bと、この透明基板123bの内壁に付着される金粒子123aとからなる。また、内部に配置される板状の分析用基板125、127は、それぞれ板状のガラス基板125b、127bとその表面に付着される金粒子125a、127aとからなる。分析用基板組合体121の内部には試料Tが充填されている。当該構成の分析用基板組合体121では、外部から光が入射して反射するまでに金粒子を最高7回通過するので、図7に記載した分析用基板組合体と同様の効果が得られる。
【0034】
次に、具体的な測定及び分析について説明する。ラマン測定には、市販されているラマン分光計を用いた。このラマン分光計の測定範囲は300~2400cm-1である。分析用基板を励起するレーザ光の励起波長は785nmであり、検出器はCCDを用い積算回数1秒×5(合計5秒)にて測定を行った。測定方法としては、市販されているプローブを用いる方法を採用した。また、試料としてはピリジン水溶液を用いた。ピリジン水溶液は表面増強ラマン分光法(SERS)研究において広く用いられる増強確認成分である。ピリジン水溶液の調製には超純水を用いた。薄膜測定には市販のスラブ型光導波路を用いる。尚、光導波路を用いたラマン測定では、上記の条件に加え、入射角40°、積算回数1秒×10(合計10秒)にて測定を行う。光導波路はシグナル検出部の反対側の端面をレーザ光が反射するように蒸着を施したのち、上面を上記の金蒸着法で蒸着した。
【0035】
図15に、一例として、1Mのピリジン水溶液に対する通常(増強回数0回)ラマンスペクトル(A)、10-4Mピリジン水溶液の通常ラマンスペクトル(B-1)および多重増強ラマンスペクトル(増強回数3回)による増強スペクトル(B-2)を示す。これらは実際の測定前に円筒状ガラス内に純水を充填してラマンスペクトルを得て、試料のラマンスペクトルから差し引くことでバックグランド補正を行っている。図15に示すように、1Mのピリジン水溶液の通常ラマンスペクトル(A)ではピークが観察される。しかし、10-4Mピリジン水溶液の通常ラマンスペクトル(B-1)では濃度が薄いため、何もピークは認められない。一方、多重増強回数3回による10-4Mのピリジン水溶液(B-1)では、高濃度の水溶液のラマンスペクトル(A)と同様にラマンシフトのピークが認められ、ラマン散乱の増強が確認された。
【0036】
ピリジン水溶液のラマンスペクトルにおけるピーク強度と濃度の関係については、各増強または多重増強回数のラマン測定において、ピリジンのC-H面内変角振動に帰属するラマンシフト1013cm-1ピーク強度をX軸に、その時の濃度をY軸にプロットし検量線を作成することにより求めた。(図18参照)。ラマンシフト1013cm-1のラマンピーク強度は下記の式で算出した。
【0037】
ピーク強度=〔ラマンシフト1013cm-1散乱強度(ピリジンのC-H面内変角振動)〕
-〔ラマンシフト1013cm-1ピーク両端の散乱強度の平均値〕
その結果、ピーク強度の増加に伴う、濃度の増加が認められ、定量性の存在が確認された。そこで、それぞれの増強および多重増強回数において検出限界濃度と検出感度増強度を算出した。検出限界濃度はS/N(signal to noise ratio)=3におけるピリジン水溶液の濃度として計算を行った。ノイズ値は、ラマンスペクトルにおいてピークが何も認められない2300-2350cm-1における二乗平均平方根(RMS)を用いた。得られた検出限界シグナル値は図18の検量線と照らし合わせて検出限界濃度を計算した。検出限界増強度は増強回数0回における検出限界濃度を1と設定し算出した。その結果を図16および図17に示す。その結果、通常のラマン測定(増強回数0回)では検出限界が220ppmであるのに対し、SERS(増強回数1回)では129ppbとなり、検出感度増強度は1,700倍となった(図16参照)。一方、MERS(多重増強回数5回)では0.96ppbとなり、通常のラマン測定に対して検出感度増強度は209,900倍となった(図17参照)。つまり、MERSを用いることにより通常のラマン分光計による検出感度に対して10,000倍を超えるラマン散乱の増強が確認された。
【0038】
それらから、多重増強回数を増やすにつれ検出感度増強度が増加していることがわかった。これは、単一のレーザ光源により、複数回のSERS測定が同時に可能であることに加えて、一定容量の溶液中に複数の基板を配置することによる発光現象やラマン散乱光との共鳴による増強も考えられる。また、測定分子が基板に吸着する機会が増加するため、検出感度増強度は基板の枚数に単純に比例する以上に増加することが示唆された。以上から、多重増強ラマン分光法の有効性が確認された。
【0039】
また、蒸着基板表面を非晶性フッ素樹脂(商品名サイトップ)を用いサブミクロンオーダーでコーティングした場合でも、ラマン散乱増強は認められ、コーティングが可能であることが示唆された。
【0040】
本手法を用いて、内分泌撹乱物質として疑われており、残留農薬としての制限があるカーバメイト系殺虫剤Carbaryl(1-naphthyl methyl carbamate)の測定を行った結果、ピリジン水溶液と同等の感度増強を確認した。
【0041】
また、本発明を用いて重金属の測定も行った。測定する重金属としては、6価クロムを有するニクロム酸カリウム(K2Cr2O7)を用いた。超純水を用い、適切な濃度に調製し測定に用いた。測定用基板は、市販の金属イオンコーターを用い、金を基板に蒸着して作成した。ラマン測定は、一例として、市販されているプロセスラマン分光計PI-200(プロセスインスツルメンツ社製)を用いた。測定範囲300-2400cm-1、励起波長785 nm、検出器CCD、積算回数1秒×5(合計5秒)にて測定を行い、測定方法としては、一例として、市販されているプローブ(インフォトニックス社製)を用いる方法を採用した。
【0042】
通常のラマン測定(多重増強回数0回)には、試料(約300 ml)をガラスチューブに充填し測定を行った。また、SERS測定(多重増強回数1回)には、ガラスチューブに蒸着カバーガラスを入れ測定を行った。更に、MERS測定(多重増強回数3回)には試料(約300 ml)を蒸着ガラスチューブに充填し測定を行った。
【0043】
図19に、0.4 Mのニクロム酸カリウム水溶液の通常ラマンスペクトル(A)、10-4 Mニクロム酸カリウム水溶液の多重増強回数3回による増強スペクトル(B-1:実線)、超純水の多重増強回数3回による増強スペクトル(B-2:点線)および10-3 Mニクロム酸カリウム水溶液の通常のラマンスペクトル(B-3:破線)を示す。図19のB-2からラマン散乱の増強が認められた。よって、ラマン散乱増強の確認された803 cm-1の散乱強度と濃度との関係をプロットし、検量線を作成し、各増強回数における検出限界と増強度を算出した。検出限界はS/N比(signal to noise ratio)=3として計算を行った。ノイズ値は、増強スペクトルにおいてピークが何も認められない2300-2350cm-1における二乗平均平方根(RMS)を用いた。増強度は増強回数0回における検出限界を1と設定し、各増強回数の検出限界を算出した。結果を図20に示す。これらから、重金属のMERS測定が可能であることがわかった。
【0044】
更に、本発明を用いて菌の測定も実施した。供試菌株としては、大腸菌(Esherichia coli O157 H:7)および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)を用いた。各菌を37℃で一晩振とう培養後、培養液10 mlから遠心集菌(4℃、8000 g、5分)と滅菌水による洗浄を5回繰り返し行った。その後、滅菌水1 mlに混合させ、適切な濃度に希釈し測定に用いた。測定用基板は、市販の金属イオンコーターを用い、銀を基板に蒸着して作成した。ラマン測定は、一例として、市販されているプロセスラマン分光計PI-200(プロセスインスツルメンツ社製)を用いた。測定範囲300-2400cm-1、励起波長785 nm、検出器CCD、積算回数1秒×5(合計5秒)にて測定を行い、測定方法としては、一例として、市販されているプローブ(インフォトニックス製)を用いる方法を採用した。測定には、試料300 ml用いた。
【0045】
図21にMERSを用いた大腸菌(A)および黄色ブドウ球菌(B)のラマンスペクトルを示す。図中の(A)において603および743cm-1にピークが認められたのに対し、図中の(B)において567および919cm-1にピークが認められたことから、食中毒菌のMERS測定が可能であり、また大腸菌および黄色ブドウ球菌の判別が可能であることがわかった。
【0046】
この他、光導波路を用いた測定においては、ポリ塩化ビニリデンが主成分である食品包装用ラップフィルムの測定を行った。その結果、フィルム表面の微量添加物の明瞭なスペクトルを得ることができた。以上から、水溶液以外の固体表面微量物質の測定も可能であることが示唆された。
【0047】
その他、MERSを用いて、アミノ酸、タンパク質、核酸、毒素、菌類、ポリアミン、木粉、紙、ポリイミド、黒鉛多環芳香族、ガス、プラスチック、導電性ポリマーなどが測定可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
低濃度の物質を感度良く分析することが可能となるため、環境、食料或いは医療分野における様々な物質分析に利用することができる。具体的には、河川、農地、飲料水、工業排水中の残留農薬・環境ホルモンなどの有害成分の迅速な検出や、生体内のたんぱく質・ペプチド・菌の検出、更には大気中の有害成分の分析などに利用できる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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