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明細書 :イネの粒長を制御するLk3遺伝子およびその利用

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4997508号 (P4997508)
登録日 平成24年5月25日(2012.5.25)
発行日 平成24年8月8日(2012.8.8)
発明の名称または考案の名称 イネの粒長を制御するLk3遺伝子およびその利用
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
C07K  14/415       (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 103
A01H 5/00 A
C07K 14/415
請求項の数または発明の数 17
全頁数 19
出願番号 特願2007-521205 (P2007-521205)
出願日 平成18年4月12日(2006.4.12)
国際出願番号 PCT/JP2006/307745
国際公開番号 WO2006/112327
国際公開日 平成18年10月26日(2006.10.26)
優先権出願番号 2005116968
優先日 平成17年4月14日(2005.4.14)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成20年4月8日(2008.4.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
発明者または考案者 【氏名】吉村 淳
【氏名】安井 秀
【氏名】土井 一行
【氏名】久保 貴彦
【氏名】甲斐 典子
個別代理人の代理人 【識別番号】100140109、【弁理士】、【氏名又は名称】小野 新次郎
【識別番号】100075270、【弁理士】、【氏名又は名称】小林 泰
【識別番号】100080137、【弁理士】、【氏名又は名称】千葉 昭男
【識別番号】100096013、【弁理士】、【氏名又は名称】富田 博行
【識別番号】100113309、【弁理士】、【氏名又は名称】野▲崎▼ 久子
審査官 【審査官】小暮 道明
参考文献・文献 ACTA GENETICA SINICA(2004 Nov),Vol.31,No.11,p.1275-1283
Breeding Science(2002),Vol.52,p.319-325
Rice Genetics Newsletter(2001),Vol.18,p.26-28
調査した分野 C12N15/
A01H1/,5/
C07K14/
C12N5/
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
UniProt/GeneSeq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
下記の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)または(g)のポリヌクレオチド:
(a)配列番号:1、2、7または8に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号:1、2、7または8に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号:1、2、7または8に記載の塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、および/または付加された塩基配列からなり、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(d)配列番号:1、2、7または8に記載の塩基配列と少なくとも95%以上の同一性を有し、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(e)配列番号:3または9に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(f)配列番号:3または9に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列をコードし、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(g)配列表の配列番号3または9に記載のアミノ酸配列と少なくとも95%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードし、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド。
【請求項2】
下記の(a')、(b')、(c')、(d')、(e')、(f')または(g')のポリヌクレオチド:
(a')配列番号:4または5に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b')配列番号:4または5に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(c')配列番号:4または5に記載の塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、および/または付加された塩基配列からなり、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(d')配列番号:4または5に記載の塩基配列と少なくとも95%以上の同一性を有し、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(e')配列番号:6に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(f')配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列をコードし、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(g')配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列と少なくとも95%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードし、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド。
【請求項3】
イネ属植物由来である、請求項1または2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項1または2に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項5】
請求項4に記載のベクターにより形質転換された、形質転換植物体またはその一部。
【請求項6】
イネ属植物である、請求項5に記載の形質転換植物体またはその一部。
【請求項7】
請求項1に記載のポリヌクレオチドからなる遺伝子を機能可能に有する植物を、該遺伝子の機能を低下させるように形質転換する工程を含む、植物の形質転換方法。
【請求項8】
植物を改変する方法であって:
請求項4に記載のベクターを植物組織に導入し、形質転換体を得る工程;
該形質転換体を再生し、形質転換植物体を得る工程;および
該形質転換植物体を所望の形質について選抜する工程
を含む、前記方法。
【請求項9】
所望の形質が、粒長が長くなること(長粒長性)である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
植物が、イネ品種である、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1に記載のポリヌクレオチドからなる遺伝子を機能可能に有するイネ品種に由来し、該遺伝子の機能を低下させるように形質転換された、長粒長性イネ品種。
【請求項12】
請求項9に記載の長粒長性イネ品種の繁殖材料。
【請求項13】
請求項10に記載の長粒長性イネ品種を利用することにより得られる、収穫物。
【請求項14】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを利用することを特徴とする、植物の粒長の制御方法。
【請求項15】
請求項1に記載のポリヌクレオチドを利用することが、請求項1に記載のポリヌクレオチドからなる遺伝子を機能可能に有する植物で該遺伝子の機能を低下させることであるか、または請求項1に記載のポリヌクレオチドからなる遺伝子が機能していない植物に請求項1に記載のポリヌクレオチドを機能可能に導入することである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1または2に記載のポリヌクレオチドの相補体を含み、植物に導入することにより、粒長が長くなる表現型または粒長が短くなる表現型を生じる、ポリヌクレオチド。
【請求項17】
下記の(e")、(f")または(g")のタンパク質:
(e")配列番号:3または9に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質;
(f")配列番号:3または9に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有し、かつ植物の粒長を制御する機能を有するタンパク質;
(g")配列表の配列番号3または9に記載のアミノ酸配列と少なくとも95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ植物の粒長を制御する機能を有するタンパク質。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の新規遺伝子に関する。より詳細には、植物の種子の粒長を制御する遺伝子およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
イネの収量に関与する要因の一つに種子(子実粒。「もみ」ということもある。)の形(粒形)があり、これは、粒長、粒幅、粒厚によって規定される。この粒形に関する遺伝解析は古くから行われ、これまでrk1座(染色体4)、rk2座(染色体10)、Rk3座(染色体5)、Lkf座座(染色体3)等の粒形に関与する遺伝子が突然変異や品種に内在する変異を利用して見い出されている。近年、DNAマーカーがイネの遺伝解析に利用されるようになって、粒形のような複雑な遺伝に従う形質の遺伝解析(量的形質遺伝子座(QTL)のマッピング)が進展した。
【0003】
長粒遺伝子座lk3(long kernel 3)はイネ第3染色体上に見いだされた量的形質遺伝子座(Quantitative Trait Locus、QTL)であり、これまでの遺伝学的な研究によって、単一劣性遺伝子座としてRFLPマーカーC1677とR19の間に位置づけられていた (図1)。さらに、同遺伝子座では、インド型イネ品種IR24がもつ対立遺伝子lk3がイネの粒長を長くする作用をもち、あそみのりが有する野生型対立遺伝子Lk3に対して劣性に作用することが明らかになっていた(非特許文献1)。また、あそみのりの遺伝的背景にIR24のlk3対立遺伝子を交雑移入した染色体断片置換系統(AIS22)が得られていた(非特許文献2)。

【非特許文献1】Kubo et al.、Rice Genetics Newsletter 18: 26-28、2001
【非特許文献2】Kubo et al.、Breeding Science 52: 319-325、2002
【発明の開示】
【0004】
本発明者らは、AIS22とあそみのりを通常の圃場条件で栽培し、それらの粒長を調査した。結果、AIS22はあそみのりと比較して0.95mm粒長が長くなっていることを見いだした(実施例1)。さらに本発明者らは、大規模分離集団によるlk3座の詳細な連鎖解析により同定したlk3座について、塩基配列解析、遺伝子予測を行った。そして推定したLk3遺伝子について形質転換によりその機能を確認し、本発明を完成した。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】lk3遺伝子座の染色体上での位置を示す図である。
【図2】あそみのりの遺伝的背景にIR24のlk3対立遺伝子を交雑移入した染色体断片置換系統(AIS22)とあそみのりの粒形を比較した写真である。
【図3】lk3遺伝子座の高精度連鎖地図および物理地図を示す図である。上図は、1600個体の分離集団とDNAマーカーを用いて作成した連鎖地図である。地図上の記号はDNAマーカー、地図下の数値は各マーカー間で検出された組換え個体数を示す。下図は、候補遺伝子ゲノム領域を含むBACクローンOSJNBa0002D18(145662bp)上のSNPの位置、Lk3予測遺伝子の位置、形質転換に用いたゲノムDNA断片を示す。lk3はSNP マーカー13-469と13-13487の間に位置づけられ、lk3とこれらのSNPマーカーの間の組換え個体はそれぞれ1、3個体であった。SNP マーカー13-469と13-13487近傍の塩基配列はイネ品種日本晴由来のBACクローンOSJBa0002D18(145662bp)に含まれていた。
【図4】図Aは、Lk3候補遺伝子の構造を示す図である。細線はゲノム塩基配列を、白四角はエクソン部を示す。上に示したATG、TGC、およびTGAはあそみのりにおける開始コドン、55番目のシステインのコドン、および終止コドンの位置をそれぞれ示し、下部のTGAはIR24における55番目のシステインがIR24において終止コドンに変化していることを示した。図Bは、Lk3の遺伝子産物がカルボキシル末端部にもつvon Willebrand factor type Cドメインの位置を示す図である。図Cは、あそみのりのLk3遺伝子のcDNA配列を示した図であり、予測される開始コドンから転写終了点までの配列を示した。また、cDNA配列の下に各コドンに対応するアミノ酸を示した。*は終止コドン(TGA)である。矢印は、IR24における塩基配列変異(C→A)の位置を示した。これによりこのコドンがシステイン(C)から終止コドンとなり、IR24がもつlk3対立遺伝子はLk3遺伝子の有する機能を喪失していると考えられる。
【図5】形質転換当代個体の粒形を示す写真である。長粒系統AIS22に、日本晴由来の7kb XmnI DNA断片を導入した個体では、粒長が短くなった(A)。ベクター( pPZP2H-lac )だけを導入した個体の粒長はAIS22と同様、長粒となった(B)。
【発明の詳細な説明】
【0006】
本発明は、Lk3遺伝子またはそのホモログ、例えば下記の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)または(g)のポリヌクレオチドを提供する。
(a)配列番号:1、2、7または8に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号:1、2、7または8に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号:1、2、7または8に記載の塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、および/または付加された塩基配列からなり、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(d)配列番号:1、2、7または8に記載の塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有し、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(e)配列番号:3または9に記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド;
(f)配列番号:3または9に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列をコードし、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(g)配列表の配列番号3または9に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードし、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド。
【0007】
本発明はまた、lk3遺伝子またはそのホモログ、例えば下記の(a')、(b')、(c')、(d')、(e')、(f')または(g')のポリヌクレオチドからなる遺伝子を提供する:
(a')配列番号:4または5に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b')配列番号:4または5に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(c')配列番号:4または5に記載の塩基配列において1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、および/または付加された塩基配列からなり、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(d')配列番号:4または5に記載の塩基配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有し、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(e')配列番号:6に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(f')配列番号:6に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有するタンパク質をコードし、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド;
(g')配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の配列同一性を有するタンパク質をコードし、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド。
【0008】
本発明はまた、配列番号:3または9に記載のアミノ酸配列からなるLk3タンパク質、およびそれらと構造的に類似しており、植物の粒長を制御する機能を有するタンパク質、例えば下記の(e")、(f")または(g")のタンパク質を提供する:
(e")配列番号:3または9に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質;
(f")配列番号:3または9に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を有し、かつ植物の粒長を制御する機能を有するタンパク質;
(g")配列表の配列番号3または9に記載のアミノ酸配列と少なくとも80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ植物の粒長を制御する機能を有するタンパク質。
【0009】
本発明でいう「ストリンジェントな条件」とは、特別な場合を除き、6M尿素、0.4% SDS、0.5×SSCの条件またはこれと同等のハイブリダイゼーション条件を指し、温度は約65℃とする
【0010】
また、本発明で「1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、および/または付加された塩基配列」というときの置換等されるヌクレオチドの個数は、その塩基配列からなるポリヌクレオチドが所望の機能を有する限り特に限定されないが、1~9個又は1~4個程度であるか、同一または性質の似たアミノ酸配列をコードするような置換等であれば、所望の機能を消失しないであろう。また、本発明で「1若しくは複数の塩基が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列」というときの置換等されるアミノ酸の個数は、そのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが所望の機能を有する限り特に限定されないが、1~9個又は1~4個程度であるか、同一または性質の似たアミノ酸配列をコードするような置換等であれば、所望の機能を消失しないであろう。そのような塩基配列またはアミノ酸配列に係るポリヌクレオチドを調製するための手段には、例えば、site-directed mutagenesis法(Kramer W & Fritz H-J: Methods Enzymol 154: 350、 1987)がある。
【0011】
本発明には、配列番号:1、2、4、5、7または8に記載の塩基配列と高い同一性を有し、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチドが含まれる。塩基配列に関し、高い同一性とは、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を指す。また、本発明には、配列番号:3、6または9に記載のアミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列をコードし、かつ植物の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチドが含まれる。アミノ酸配列に関し、高い同一性とは、少なくとも50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を指す。塩基配列またはアミノ酸配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268、 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873、 1993)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul SF、 et al: J Mol Biol 215: 403、 1990)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。
【0012】
本発明のポリヌクレオチドは、天然の植物組織材料から調製することができる。本発明のポリヌクレオチドを調製するためには、ハイブリダイゼーション技術(Southern EM: J Mol Biol 98: 503、 1975)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki RK、 et al: Science 230: 1350、 1985、Saiki RK、 et al: Science 239: 487、 1988)を利用することができる。例えば、Lk3またはlk3領域のゲノム塩基配列(配列番号:1、4もしくは7)、Lk3 cDNAの塩基配列(配列番号:2、5もしくは8)、または、その一部をプローブとして、また、Lk3またはlk3領域のゲノム塩基配列、Lk3 cDNAの塩基配列に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、イネや他の植物からLk3遺伝子と高い同一性を有するDNAを単離することができる。
【0013】
本発明のポリヌクレオチドには、ゲノムDNA、cDNAおよび化学合成DNAが含まれる。本発明のポリヌクレオチドは、一本鎖DNAおよび二本鎖DNAであり得る。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段により行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、Lk3遺伝子(本明細書において本発明を説明するとき、本発明のポリヌクレオチドのうちLk3遺伝子を例に説明することがあるが、特別な場合を除き、その説明はLk3遺伝子のホモログ、lk3遺伝子、lk3遺伝子のホモログにも当てはまる。)を有するイネ品種からゲノムDNAを抽出し、ゲノミックライブラリー(ベクターとしては、例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、BAC、PACなどが利用できる)を作製し、これを展開して、本発明のポリヌクレオチド(例えば、配列番号:1、2、4、5、7または8)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことで調製できる。また、本発明のポリヌクレオチド(例えば、配列番号:1、2、4、5、7または8)に特異的なプライマーを作製し、これを利用したPCRを行って調製することも可能である。cDNAは、例えば、Lk3遺伝子を有するイネ品種から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、これをλZAPなどのベクターに挿入してcDNAライブラリーを作製し、これを展開して、上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションあるいはプラークハイブリダイゼーションを行うことで、またPCRを行うことにより調製できる。
【0014】
本明細書において粒長とは、特別な場合を除き、種子の長径の長さをいう。種子形状に関する尺度としては、長径の他に、粒幅、粒厚がある。
【0015】
本明細書において粒長に関し「制御(する)」というときは、特別な場合を除き、粒長の長さを調節することを指し、これには粒長を短くするように調節することと粒長を長くするように調節することとが含まれる。粒長を調節する際に、他の種子形状に関する尺度も同時に調節することがある。粒長を短くするように調節することには、粒長を短くする機能を有するポリヌクレオチド(例えば、本発明のLk3遺伝子)を、植物に導入してその機能を発揮させることにより、粒長をより短くすることが含まれる。粒長を長くするように調節することには、内在の粒長を短くする機能を有するポリヌクレオチドからなる遺伝子(例えば、本発明のLk3遺伝子)の機能を低下させることにより、粒長を長くすることが含まれる。
【0016】
本明細書において「粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチド」というときは、特別な場合を除き、そのポリヌクレオチドが粒長を長くするかまたは短くする表現型を生じさせるものであるとき(例えは、配列番号:1、2、7または8に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド)と、そのポリヌクレオチドが、粒長を長くするかまたは短くする表現型を生じさせる遺伝子の対立遺伝子となりうるものであるとき(例えは、配列番号:4または5に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド)とが含まれる。あるポリヌクレオチドが粒長を長くするかまたは短くする表現型を生じさせるものであるか否かは、例えば本明細書の実施例4に記載した方法に従って、対象ポリヌクレオチドが導入された植物の種子長が変化するか否かを観察することで検証することができる。変化の程度は、対象ポリヌクレオチドが導入される前の粒長を100としたとき、約0.1%以上、約0.5%以上、約1%以上、約5%以上、約10%以上、約15%以上、約20%以上、約25%以上であり得る。
【0017】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを含む組み換えベクター、そのようなベクターにより形質転換された形質転換植物体またはその一部を提供する。本発明はさらに、本発明の粒長を短くする機能を有するポリヌクレオチドからなる遺伝子を機能可能に有する植物を、該遺伝子の機能を低下させるように形質転換する工程(例えば、本発明のベクターにより形質転換する工程)を含む、植物の形質転換方法も提供する。
【0018】
本明細書で「植物体」というときは、特別な場合を除き、植物個体の意味で用いており、また植物体に関して「その一部」というときは、特別な場合を除き、種子(発芽種子、未熟種子を含む)、器官又はその部分(葉、根、茎、花、雄蕊、雌蘂、それらの片を含む)、植物培養細胞、カルス、プロトプラストを含む。植物体またはその一部は、繁殖材料も含む。
【0019】
本発明のポリヌクレオチドが挿入されるベクターは、植物細胞内で挿入物の機能を発揮させることが可能なものであれば特に制限はない。例えば、植物細胞内で恒常的に遺伝子を発現させるためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクターや、外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることもできる。ここでいう「植物細胞」には、種々の形態の植物細胞、例えば、種子、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。
【0020】
植物細胞へのベクターの導入には、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など、当業者に公知の種々の方法を用いることができる。アグロバクテリウム(例えば、EHA101)を介する方法においては、例えば、超迅速単子葉形質転換法(特許第3141084号)を用いることが可能である。また、パーティクルガン法においては、例えば、バイオラッド社のものを用いることが可能である。
【0021】
形質転換植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Toki S、 et al: Plant Physiol 100: 1503、 1995)。
【0022】
例えば、イネにおいて形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールを用いてプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(インド型イネ品種が適している)を再生させる方法(Datta SK: In Gene Transfer To Plants (Potrykus I and Spangenberg、 Eds) pp.66-74、 1995)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(日本型イネ品種が適している)を再生させる方法(Toki S、 et al: Plant Physiol 100: 1503、 1992)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou P、 et al: Biotechnology 9: 957、 1991)、およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei Y、 et al: Plant J 6: 271、 1994)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。
【0023】
ゲノム内に本発明のポリヌクレオチドが導入された形質転換植物体がいったん得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることができる。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラストなど)を得て、それらを基に植物体を量産することも可能である。
【0024】
なお、本発明で「形質転換植物(体)」というときは、特別な場合を除き、本発明の方法により組換え植物細胞を得て、該植物細胞を植物体に再生させることにより得た形質転換植物(体)(T0世代)のみならず、該形質転換植物より得られた後代(T1世代等)の植物(体)も、目的の形質が維持されている限り含む。
【0025】
本発明の形質転換の対象となる植物は、本発明のポリヌクレオチドの作用により、粒長を制御することができるものであれば特に限定されないが、好ましくは被子植物であり、より好ましくは単子葉植物網に属する植物であり、さらに好ましくはツユクサ亜網に属する植物であり、最も好ましくはイネ科(Poaceae(Gramineae))に属する植物、例えばイネ(Oryza)、オオムギ、ライムギ、パンコムギ、イヌムギ、ハトムギ、サトウキビ、トウモロコシ、モロコシ、アワ、キビ、ヒエいずれかの属に属する植物である。イネ科に属する植物のうちでは、好ましくはイネ属に属する植物であり、より好ましくはイネ(Oryza sativa L.)であり、粒長を長くするという観点からは、粒長が比較的短いジャポニカ型のイネが好ましい。
【0026】
本発明はまた、以下の行程を含む植物を改変する方法を提供する。
(1)請求項4に記載のベクターを植物組織に導入し、形質転換体を得る工程;
(2)該形質転換体を再生し、形質転換植物体を得る工程;および
(3)該形質転換植物体を所望の形質について選抜する工程。ここでいう所望の形質とは、粒長が長いこと(長粒長性)、粒長が短いことを含む。本発明の改変方法はまた、イネの育種(品種改良)に適用することができる。
【0027】
本発明はまた、本発明の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチドを有するイネ品種に由来し、本発明の粒長を制御する機能を有するポリヌクレオチドにより形質転換されたイネ品種、例えば、本発明のLk3遺伝子(またはそのホモログ)を機能可能に有するイネ品種に由来し、該遺伝子の機能を低下させるように形質転換された長粒長性イネ品種、あるいは本発明のlk3遺伝子(またはそのホモログ)を有する長粒長性のイネ品種に由来し、本発明のLk3遺伝子(またはそのホモログ)によって形質転換された粒長の短いイネ品種を提供する。さらに本発明はまた、本発明のLk3遺伝子(またはそのホモログ)を機能可能に有するイネ品種に由来し、該遺伝子の機能を低下させるように形質転換された、長粒長性イネ品種、そのようなイネ品種の繁殖材料、およびそのようなイネ品種を利用することにより得られる、収穫物も提供する。「本発明のLk3遺伝子(またはそのホモログ)を機能可能に有するイネ品種」には、ジャポニカ型の品種、例えば日本晴、ヒノヒカリ、コシヒカリ、あきたこまち、はえぬき、ササニシキ、ひとめぼれが含まれる。
【0028】
本明細書でいう「繁殖材料」とは、特別な場合を除き、植物体の全部または一部で繁殖の用に供されるもの(「種苗」ということもある。)をいい、例えば、種子、苗、細胞、カルス、幼芽がある。本明細書でいう「収穫物」とは、特別な場合を除き、通常の意味で用いており、植物体の全部または一部で繁殖の用に供されないもの、例えば、植物がイネ属に属するものである場合、収穫物には、もみ、玄米、精米された米が含まれる。
【0029】
本発明はまた、本発明のLk3遺伝子(またはそのホモログ)を利用することを特徴とする、植物の粒長の制御方法を提供する。ここでいう「本発明のLk3遺伝子(またはそのホモログ)を利用すること」には、Lk3遺伝子を機能可能に有する植物で該遺伝子の機能を低下させるようにすること、および該遺伝子が機能していない植物に請求項該遺伝子を機能可能に導入することが含まれる。
【0030】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドまたはその断片の相補体を含み、植物に導入することにより、粒長が長くなる表現型または粒長が短くなる表現型を生じるポリヌクレオチド、およびそのような機能を発揮しうるポリヌクレオチドの設計方法を提供する。本発明のポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAであり、アンチセンス核酸、リボザイム、リボザイムをコードするDNA、RNAiに重要や役割を果たすもの、橋抑制を生じるものを含み、また一本鎖のものまたは二本鎖のものを含む。
【0031】
粒長が長くなる表現型を生じるには、例えばLk3遺伝子の発現を抑制するポリヌクレオチドを適当なベクターに挿入して、後述する方法で、これを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させることによる。ここでいう「Lk3遺伝子の発現の抑制」には、遺伝子の転写の抑制、転写物のスプライシングの抑制、およびタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、遺伝子の発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。また、翻訳されたタンパク質が植物細胞内で本来の機能を発揮することの抑制も含まれる。
【0032】
植物における特定の内在性遺伝子の発現を抑制する方法としては、アンチセンス技術を利用する方法が当業者によく利用されている。植物細胞におけるアンチセンス効果は、電気穿孔法で導入したアンチセンスRNAが植物においてアンチセンス効果を発揮することをエッカーらが示したことで初めて実証された(Ecker JR & Davis RW: Proc Natl Acad Sci USA 83: 5372、 1986)。その後、タバコやペチュニアにおいてもアンチセンスRNAの発現により標的遺伝子の発現が低下した例が報告されており(van der Krol AR、 et al: Nature 333: 866、 1988)、現在では、アンチセンス技術は植物における遺伝子発現を抑制させる手段として確立している。
【0033】
アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造が作られた部位とのハイブリッド形成による転写阻害、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエクソンとの接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング阻害、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害;mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行阻害、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング阻害、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始阻害、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳阻害、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻害、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現阻害などである。このようにアンチセンス核酸は、転写、スプライシングまたは翻訳など様々な過程を阻害することで、標的遺伝子の発現を抑制する(平島および井上: 新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現 (日本生化学会編、 東京化学同人) pp.319-347、 1993)。
【0034】
本発明で用いられるアンチセンス配列は、上記のいずれの作用により標的遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。また、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用することができる。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むDNAも、本発明で利用されるアンチセンスDNAに含まれる。
【0035】
使用されるアンチセンスDNAは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製されたDNAは、公知の方法を用いることで、所望の植物へ導入できる。
【0036】
アンチセンスDNAの配列は、形質転換される植物が持つ内在性遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に抑制できる限りにおいて、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス配列を用いて標的遺伝子の発現を効果的に抑制するには、アンチセンスDNAの長さは少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。通常用いられるアンチセンスDNAの長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。
【0037】
内在性遺伝子の発現の抑制は、また、リボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子のことを指す。リボザイムには種々の活性を有するものが存在するが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムに焦点を当てた研究により、RNAを部位特異的に切断するリボザイムの設計が可能となった。
【0038】
リボザイムには、グループIイントロン型やRNase Pに含まれるM1 RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子: 蛋白質核酸酵素、 35: 2191、 1990)。
【0039】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15という配列のC15の3'側を切断するが、その活性にはU14とA9との塩基対形成が重要とされ、C15の代わりにA15またはU15でも切断され得ることが示されている(Koizumi M、 et al: FEBS Lett 228: 228、 1988)。
【0040】
基質結合部位が標的部位近傍のRNA配列と相補的なリボザイムを設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することができる(Koizumi M、 et al: FEBS Lett 239: 285、 1988、小泉誠および大塚栄子: 蛋白質核酸酵素 35: 2191、 1990、 Koizumi M、 et al: Nucl Acids Res 17: 7059、 1989)。例えば、Lk3遺伝子(配列番号:1、2、7または8)中には、標的となり得る部位が複数存在する。
【0041】
また、ヘアピン型リボザイムも本発明の目的に有用である。このリボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan JM: Nature 323: 349、 1986)。ヘアピン型リボザイムからも、標的特異的なRNA切断リボザイムを作出できることが示されている(Kikuchi Y & Sasaki N: Nucl Acids Res 19: 6751、 1991、菊池洋: 化学と生物 30: 112、 1992)。
【0042】
標的を切断できるように設計されたリボザイムは、植物細胞中で転写されるように、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターなどのプロモーターおよび転写終結配列に連結される。このとき、転写されたRNAの5'端や3'端に余分な配列が付加されていると、リボザイムの活性が失われることがあるが、こういった場合は、転写されたリボザイムを含むRNAからリボザイム部分だけを正確に切り出すために、リボザイム部分の5'側や3'側にシスに働く別のトリミングリボザイムを配置させることも可能である(Taira K、 et al: Protein Eng 3: 733、 1990、Dzianott AM & Bujarski JJ: Proc Natl Acad Sci USA 86: 4823、 1989、Grosshans CA & Cech TR: Nucl Acids Res 19: 3875、 1991、Taira K、 et al: Nucl Acids Res 19: 5125、 1991)。また、このような構成単位をタンデムに並べ、標的遺伝子内の複数の部位を切断できるようにすることで、より効果を高めることもできる(Yuyama N、 et al: Biochem Biophys Res Commun 186: 1271、 1992)。このように、リボザイムを用いて本発明における標的遺伝子の転写産物を特異的に切断することで、該遺伝子の発現を抑制することができる。
【0043】
内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二本鎖RNAを用いたRNA interferance(RNAi)によっても行うことができる。RNAiとは、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二重鎖RNAを細胞内に導入すると、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも抑制される現象のことを指す。RNAiの機構の詳細は明らかではないが、最初に導入した二本鎖RNAが小片に分解され、何らかの形で標的遺伝子の指標となることにより、標的遺伝子が分解されると考えられている。RNAiは植物においても効果を奏することが知られている(Chuang CF & Meyerowitz EM: Proc Natl Acad Sci USA 97: 4985、 2000)。例えば、植物体におけるLk3遺伝子の発現をRNAiにより抑制するためには、Lk3遺伝子(配列番号:1、2、7または8)の配列の一部またはこれと類似した配列を有する小分子の二本鎖RNAを目的の植物へ導入し、得られた植物体から野生型植物体と比較して長粒長性を示した植物を選択すればよい。
【0044】
RNAiに用いる小分子の二本鎖RNAの配列は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を有する部分を含む。また、配列の同一性は上述した手法により決定できる。このような小分子の二本鎖RNAの長さは、例えば15~100塩基対であり、好ましくは300塩基対であり、さらに好ましくは400~700塩基対、例えば500塩基対である。あるいは、このような小分子の二本鎖RNAの長さは、例えば5~50塩基対であり、好ましくは10~50塩基対であり、さらに好ましくは15~30塩基対、例えば20塩基対である。RNAiには二本鎖RNAを構築可能な公知の発現ベクター、例えばpANDA (Miki D and Shimamoto K: Plant Cell Physiol. 45: 490-495、2004)を利用することができる。
【0045】
内在性遺伝子の発現の抑制は、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有するDNAによる形質転換によって起こる共抑制によっても達成できる。「共抑制」とは、植物に標的内在性遺伝子と同一もしくは類似した配列を有する遺伝子を形質転換により導入すると、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも抑制される現象のことを指す。共抑制の機構の詳細は明らかではないが、少なくともその機構の一部はRNAiの機構と重複していると考えられている。共抑制は植物においても観察される(Smyth DR: Curr Biol 7: R793、 1997、Martienssen R: Curr Biol 6: 810、 1996)。例えば、Lk3遺伝子が共抑制された植物体を得るためには、Lk3遺伝子またはこれと類似した配列を有するDNAを発現できるように作製したベクターDNAを目的の植物へ形質転換し、得られた植物体から野生型植物体と比較して長粒長性を示した植物を選択すればよい。
【0046】
共抑制に用いる遺伝子は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を有する。また、配列の同一性は上述した手法により決定できる。共抑制に用いるDNAの長さは、例えば50塩基であり、好ましくは100塩基であり、さらに好ましくは500塩基である。あるいは、共抑制に用いるDNAの長さは、例えば50~6000塩基であり、好ましくは100~5000塩基であり、例えば500塩基である。
【0047】
従来、イネの品種改良は(1)交雑による有望系統の選抜、(2)放射線や化学物質による突然変異誘起などによって行われてきた。これらの作業は長期間を要することや変異の程度や方向性を制御できないことなどの問題があった。今回の発明により、遺伝子の塩基配列が明らかとなった粒長を制御する遺伝子Lk3は、その機能低下によりイネの粒を長くしうる。そのため、機能のあるLk3遺伝子をもつ系統をLk3のアンチセンス鎖で形質転換することにより、イネの粒長の増加を図ることができる。一方、Lk3遺伝子の機能が低下または喪失している品種、例えばIR24にセンス方向に遺伝子を導入することにより、イネの粒長を減少させることができる。形質転換に要する期間は交配による遺伝子移入に比較して極めて短期間であり、他の形質の変化を伴わないで粒長の制御が可能となる。単離したLk3遺伝子を利用することにより、イネの粒長を変化させることができ、より多収のイネや、異なる人々の嗜好に適応したイネ品種育成に貢献できると考えられる。
【0048】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0049】
lk3対立遺伝子の粒長増大作用:
本実施例では、あそみのりの遺伝的背景にIR24のlk3対立遺伝子を交雑移入した染色体断片置換系統(AIS22)(Kubo et al.、Breeding Science 52: 319-325、2002)とあそみのりを通常の圃場条件で栽培した。
【0050】
AIS22とあそみのりの粒形の比較写真を図2に示した。また、それぞれの粒長、粒幅、粒厚の測定結果を下表に示した。
【0051】
【表1】
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【0052】
AIS22はあそみのりより0.95mm(12.6%)粒長が長く、明確な差が認められた。粒幅に関しては0.14mm (4.3%)減少しており、この差は有意であった(P=0.0022)。粒厚に関しては有意差はなかった。これらの結果から、IR24由来のlk3対立遺伝子は粒幅をわずかに減少させるものの、粒厚には関与せず、粒長を顕著に増大させることが明らかとなった。
【実施例2】
【0053】
高精度連鎖解析:
本実施例においては、マップベースクローニングによる遺伝子単離に不可欠な大規模分離集団によるlk3座の詳細な連鎖解析を行なった。連鎖解析用の集団はあそみのりとIR24との戻し交雑後代を用いた。lk3座領域がヘテロ型となった個体の自殖後代1600個体からlk3座を挟み込むCAPS (Cleaved Amplified Polymorphic Sequence)マーカーC1677 (プライマー5'-TAAGTCTGCTCCCACCACTGG-3'(配列番号:11)および5'-GCCATCACAAACAATCCAAATTTG-3'(配列番号:12)、制限酵素EcoRV) およびRFLPマーカーR19の極近傍に位置するCAPSマーカーS13580 (プライマー5'-GACCTCAGATGAGAATAAACCAAG-3'(配列番号:13)および5'-TGCTTCAGCTTACCAATCCA-3'(配列番号:14)、制限酵素BsrBI) を利用して、lk3座近傍に組換えが生じた染色体をもつ個体を選抜した。lk3座の遺伝子型決定は、当代および後代検定によって行なった。CAPS、SSR (Simple Sequence Repeat)、およびSNP (Single Nucleotide Polymorphism)などの各種DNAマーカーを作成しつつ連鎖解析を進めた結果、lk3座はCAPSマーカー13-469 (プライマー5'-CAAGGCCCAAAATCCAAATCA-3'(配列番号:15)および5'-GGCCGACGGGCCTAACTATT-3'(配列番号:16)、制限酵素NdeI)およびSNPマーカー13-13487 (プライマー5'-CAGGGATCTCAGGCTCTCGT-3'(配列番号:17)および5'-ACTGACGGCTACGTGTGTGG-3'(配列番号:18))の間に位置づけられ、それぞれのマーカーと1個体および3個体の組換え個体が同定できた。また、CAPSマーカー13-5669 (プライマー5'-ACGACAGTACTTGCTGTCTAGCTTT-3'(配列番号:19)および5'-AACGGTCAAAGTTCATGATCAAA-3'(配列番号:20)、制限酵素PstI)とlk3座は完全に連鎖していた(図3)。
【実施例3】
【0054】
候補遺伝子の塩基配列解析および発現解析:
公開されたイネのゲノム塩基配列を利用し、IR24とあそみのりについてCAPSマーカー13-469および13-13487の間の領域のゲノム塩基配列解析を行い、遺伝子予測および類似性検索を行なった。
【0055】
ゲノム塩基配列解析の結果、CAPSマーカー13-469および13-13487の間にはCAPSマーカー13-5669に相当するSNPの他に二カ所だけ変異が存在した。そこで、これらの塩基配列変異を含む遺伝子をRiceGAAS (http://ricegaas.dna.affrc.go.jp/)により予測したところ、13-5669に相当する塩基配列変異がIR24において終止コドンに変化していることが示唆された。
【0056】
そこで、この予測遺伝子のcDNA塩基配列を解析した。その際には、全長約2cmの幼穂をあそみのりおよびAIS22から採種し、バイオラッド社のAurum Total RNA Miniキットを使用して抽出した全RNAを鋳型とし、TOYOBO社のReverTra Ace-αキットにより逆転写して得られたcDNAを用いた。cDNAを鋳型とするPCR (RT-PCR)では、候補遺伝子のcDNAを増幅するプライマーとして5'-TGAGATCAAAACTAGCTACTACCAGCTAGA-3'(配列番号:21)および5'-CATGGCAATGGCGGCGGCGCCCCGGCCCAA-3'(配列番号:22)を用いた。
【0057】
その結果、この候補遺伝子のあそみのり対立遺伝子は5つのエクソンからなり、232アミノ酸からなるタンパク質をコードしており(図4A、B)、カルボキシル末端付近にvon Willebrand Factor type C (VWFC)ドメインと呼ばれるアミノ酸配列を有していた。ところが、IR24においては13-5669における変異のため55番目のアミノ酸がシステインから終止コドンに変化し、遺伝子の機能が欠失していると考えられた(図4C)。
【実施例4】
【0058】
Lk3候補遺伝子の機能証明:
上記の解析から、Lk3の候補遺伝子が推定できたため、形質転換による機能証明を行なった。
<形質転換用ベクターの調製>
形質転換には、機能のあるLk3対立遺伝子をもつと推定される日本型品種日本晴のゲノムDNA断片を用いた。まず、日本晴のゲノムDNAから作成されたBAC(Bacterial Artificial Chromosome)クローンOSJNBa0002D18 (Chen et al.、The Plant Cell 14: 537-545、2002) 1μgを制限酵素XmnIにより37℃で1時間消化後、65℃で15分間処理し、制限酵素を失活させた。XmnIを用いたのは、ゲノム塩基配列情報およびRT-PCRから得られた情報により、プロモーター領域を含むLk3遺伝子の全長を有し、他の遺伝子は含まないDNA断片を切り出すことができたためである。これとは別にTi-プラスミドベクターpPZP2H-lac (Fuse et al.、Plant Biotechnol. 18: 219-222、2001) 1μgを制限酵素SmaIにより37℃で1時間消化後、65℃で15分間処理し、制限酵素を失活させた。消化したプラスミドベクターは、アルカリフォスファターゼ(Roche社のPhosphatase alkaline, shrimp)にて脱リン酸化処理を37℃で1時間行った後、65℃で15分間処理し、アルカリフォスファターゼを失活させた。上記のBACクローン消化産物とプラスミドベクターを混合し、TOYOBO社のLigation highを使用して16℃で1晩ライゲーション反応を行った。得られたライゲーション液はTOYOBO社のCOMPETENT high DH5αを用いて大腸菌に組み込み、この菌液をストレプトマイシンを20mg/l、X-gal (5-Bromo-4-chloro-3-indolyl-β-D-galactopyranoside)を20mg/l、IPTG (Isopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside)を0.02%含むLB寒天培地にプレーティングし、37℃で1晩培養した。得られたコロニーのうち、白いものをストレプトマイシン(20mg/l)を含むLB液体培地にピックアップ後、37℃で1時間培養し、スクリーニングを行なった。すなわち、得られた菌液を鋳型にプライマー対5'-GGGAATAGGGATTCCACACG-3'(配列番号:23)、5'-AATGGTGATGCCCAGCTTTT-3'(配列番号:24)にてPCR増幅した。このPCRによって産物が得られた菌液、すなわち、ねらいとするLk3遺伝子の配列を含むベクターをもつ菌液をストレプトマイシンを20mg/l含むLB液体培地に接種し、37℃で1晩培養して、BIO RAD社 Quantum Prep Plasmid Miniprep Kitによりプラスミドを抽出し、Lk3遺伝子を含む7kbのゲノムDNA(配列番号:10)を含むベクターを得た。
<形質転換カルスの調製>
得られたベクター2μgを凍結融解法を用いてアグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens EHA101)に導入し、カナマイシンを50mg/l、ハイグロマイシンを50mg/l含むLB固形培地で30℃、3日間培養した。得られたコロニーをプライマー5'-GGGAATAGGGATTCCACACG-3'(配列番号:23)、5'-AATGGTGATGCCCAGCTTTT-3'(配列番号:24)にてPCR増幅し、増幅が確認されたコロニーをカナマイシン(50mg/l)、ハイグロマイシン(50mg/l)を含むLB固形培地に接種し、30℃で1晩培養した。このアグロバクテリウムをミニスパーテルで1さじ掻き取り、アセトシリンゴン(20mg/l)を含むAAM溶液50mlに懸濁した。これとは別に、2,4-D(2mg/l)を含むカルス誘導培地(N6D培地)にAIS22の種子を播種し、30℃の明所で培養し、4週間後に胚盤由来カルスを得た。シュートと胚乳部分を除去したカルスを50mlのプラスチック試験管に入れ、上記のアグロバクテリウム懸濁液50mlを加え、1分30秒間ゆっくり転倒混和し、アグロバクテリウムをカルスに付着させた。余分な菌液を除去した後、アセトシリンゴン(10mg/l)および2,4-D(2mg/l)を含む2N6AS培地上で25℃の暗所にて3日間共存培養することによりアグロバクテリウムをカルスに感染させ、ベクター上のDNA断片をカルスに導入した。このカルスを滅菌水およびカルベニシリン溶液(500mg/l)で洗浄してアグロバクテリウムを除去後、カルベニシリン(500mg/l)、ハイグロマイシン(50mg/l)および2,4-D(2mg/l)を含む除菌・選抜培地(2N6DS培地)上で30℃の明所にて4週間培養することにより形質転換カルスを得た。
<植物体への再分化>
得られた形質転換カルスはキネチン(2mg/l)およびナフタレン酢酸(0.02mg/l)を含む再分化培地(Regeneration medium III培地)に移し、30℃の明所で12週間?16週間培養することにより再分化シュートを得た。このシュートを再生培地(MSホルモンフリー培地)に移し、幼植物を得た。この再分化植物を温室に移して25℃で育成した。
<解析>
日本型品種日本晴のゲノムDNA断片を形質転換に用いた再分化当代(T0)の植物について粒長を調査した結果、32個体中16個体で粒長が短くなっていた(図5)。この16個体のうち、粒長が短くなっていた2個体から自殖種子を得て2系統のT1系統を育成し、粒長を調査した。また、T1各個体について、導入したDNA断片の有無をCAPSマーカー13-5669(プライマー5'-ACGACAGTACTTGCTGTCTAGCTTT-3'(配列番号:19)および5'-AACGGTCAAAGTTCATGATCAAA-3'(配列番号:20)、制限酵素PstI)により判別し、導入遺伝子を持つ個体と持たない個体の粒長の平均値をF検定により比較した。その結果、いずれのT1系統においても、導入遺伝子を有する個体の粒長は導入遺伝子を持たない個体の粒長より有意に小さくなっていた(下表)。一方、pPZP2H-lacのみを形質転換に用いた個体では粒の長い個体のみが観察された(図5)。以上の結果から、VWFC様タンパク質をコードする候補遺伝子はLk3であることが証明された。
【0059】
【表2】
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図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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