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明細書 :カルボニル還元酵素、カルボニル還元酵素遺伝子及びアルコールの製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4945761号 (P4945761)
公開番号 特開2008-245528 (P2008-245528A)
登録日 平成24年3月16日(2012.3.16)
発行日 平成24年6月6日(2012.6.6)
公開日 平成20年10月16日(2008.10.16)
発明の名称または考案の名称 カルボニル還元酵素、カルボニル還元酵素遺伝子及びアルコールの製造方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   9/02        (2006.01)
C12P   7/22        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 9/02
C12P 7/22
請求項の数または発明の数 7
全頁数 12
出願番号 特願2007-087505 (P2007-087505)
出願日 平成19年3月29日(2007.3.29)
審査請求日 平成21年10月6日(2009.10.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
発明者または考案者 【氏名】渡辺 修治
【氏名】原 正和
【氏名】道羅 英夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100079049、【弁理士】、【氏名又は名称】中島 淳
【識別番号】100084995、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 和詳
【識別番号】100085279、【弁理士】、【氏名又は名称】西元 勝一
【識別番号】100099025、【弁理士】、【氏名又は名称】福田 浩志
審査官 【審査官】小暮 道明
参考文献・文献 日本農芸化学会2006年度大会講演要旨集, 2006, p.167
日本農芸化学会2005年度大会講演要旨集, 2005, p.173
調査した分野 C12N15/
C12N9/
CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列からなるカルボニル還元酵素。
【請求項2】
配列番号1のアミノ酸配列において1若しくは2以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなるカルボニル還元酵素。
【請求項3】
配列番号2のアミノ酸配列からなるカルボニル還元酵素。
【請求項4】
配列番号2のアミノ酸配列において1若しくは2以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなるカルボニル還元酵素。
【請求項5】
配列番号3の塩基配列からなるカルボニル還元酵素遺伝子。
【請求項6】
配列番号4の塩基配列からなるカルボニル還元酵素遺伝子。
【請求項7】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のカルボニル還元酵素とカルボニル化合物とを接触させる工程を含むアルコールの製造方法。

発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボニル還元酵素、カルボニル還元酵素遺伝子及びアルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルコールはカルボニル化合物を還元することによって合成できる。カルボニル化合物の還元には、金属触媒を用いた水素化反応や、金属水素化化合物による水素化反応が用いられるが、このような化学合成による方法は環境への負荷が大きい。これに対して、微生物に由来する酸化還元酵素を用いてカルボニル化合物を還元してアルコールを製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。

【特許文献1】特開2005-95022号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
酸化還元酵素を用いてアルコールを製造する方法においては、酸化還元酵素が還元反応のみならず逆反応の酸化反応をも触媒することが多く、反応効率の点で問題があった。また、酸化還元酵素による還元反応は基質特異性が高く、種々の基質に対して効率よく還元反応を行うことは困難であった。
本発明は、種々のカルボニル化合物を基質とすることができ、効率よくカルボニル還元反応を触媒することができるカルボニル還元酵素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様は、配列番号1のアミノ酸配列からなるカルボニル還元酵素である。また、本発明の第2の態様は、配列番号1のアミノ酸配列において1若しくは2以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなるカルボニル還元酵素である。また、本発明の第3の態様は、配列番号2のアミノ酸配列からなるカルボニル還元酵素である。また、本発明の第4の態様は、配列番号2のアミノ酸配列において1若しくは2以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなるカルボニル還元酵素である。
また、本発明の第5の態様は、配列番号3の塩基配列からなるカルボニル還元酵素遺伝子である。また、本発明の第6の態様は、配列番号4の塩基配列からなるカルボニル還元酵素遺伝子である。
更に、本発明の第7の態様は、上記カルボニル還元酵素とカルボニル化合物とを接触させる工程を含むアルコールの製造方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、種々のカルボニル化合物を基質とすることができ、効率よくカルボニル還元反応を触媒することができるカルボニル還元酵素を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のカルボニル還元酵素は、図1及び配列番号1又は図2及び配列番号2のアミノ酸配列を有することを特徴とする。
本発明のカルボニル還元酵素は、植物、特にバラ(例えば、Rosa damascena Mill.、Rosa ‘Hoh-Jun’等)の花弁に由来する還元酵素である。本発明のカルボニル還元酵素は、後述するように種々のカルボニル化合物を基質として、カルボニル還元反応を触媒し、対応するアルコールを生成することができる。また、本発明のカルボニル還元酵素は、一般の酸化還元酵素とは異なり、通常の条件では還元反応のみを触媒し、酸化反応を触媒しないことを特徴としている。これにより、カルボニル化合物の還元反応をより効率的に行うことができ、対応するアルコールをより効率的に生成することができる。
また、本発明のカルボニル還元酵素は、本来的に光学活性なタンパク質であることから、カルボニル化合物として、カルボニル基の両側の置換基が互いに異なる非対称ケトン類を基質とした場合には、キラルな2級アルコールを生成することができる。
【0007】
また、本発明の配列番号1のアミノ酸配列からなるカルボニル還元酵素は、シロイヌナズナ(Arbidopsis thaliana)に由来するオキシド還元酵素と約68%の相同性を有する酵素タンパク質である。一方、本発明の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるカルボニル還元酵素は、シロイヌナズナ(Arbidopsis thaliana)に由来するアルド-ケト還元酵と約77%の相同性を有する酵素タンパク質である。アミノ酸配列の相同性は、例えば、NCBIのBLAST検索などを利用して、各種アミノ酸配列データベース、核酸データベースを対象にして相同性検索を行うことで求めることができる。データベースには、例えば、DAD、SWISS-PROT、PIRなどのタンパク質のアミノ酸配列に関するデータベースやDDBJ、EMBL、あるいはGenebankなどのDNA配列に関するデータベース、DNA配列を元にした予想アミノ酸配列に関するデータベースなどを用いることができる。
【0008】
本発明のカルボニル還元酵素は、種々のカルボニル化合物をその反応基質とすることができる。これにより、汎用性の高いアルコールの製造方法を提供することができる。
本発明のカルボニル還元酵素は、芳香族及び脂肪族のいずれのカルボニル化合物もその基質とすることができる。具体的には、例えば、アルキルケトン類、アルケニルケトン類、芳香族ケトン類、アルキルアルデヒド類、アルケニルアルデヒド類、芳香族アルデヒド類等を基質とすることができる。
【0009】
本発明のカルボニル還元酵素は、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列を有するカルボニル還元酵素のホモログを含む。本発明のカルボニル還元酵素のホモログとしては、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列において1若しくは2以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列を有するカルボニル還元酵素と機能的に同等なカルボニル還元酵素を挙げることができる。
例えば、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列において、好ましくは30以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは10以下、あるいは5以下のアミノ酸残基の変異は許容される。
【0010】
一般にタンパク質の機能の維持のためには、置換するアミノ酸は、置換前のアミノ酸と類似の性質を有するアミノ酸であることが好ましい。このようなアミノ酸残基の置換は、保存的置換と呼ばれている。例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe、Trpは、共に非極性アミノ酸に分類されるため、互いに似た性質を有する。また、非荷電性としては、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、Glnが挙げられる。また、酸性アミノ酸としては、Asp及びGluが挙げられる。また、塩基性アミノ酸としては、Lys、Arg、Hisが挙げられる。これらの各グループ内のアミノ酸置換は好ましく許容される。
【0011】
本発明におけるアミノ酸置換の具体例としては、例えば、配列番号1のアミノ酸配列において、27番目のバリン残基をアラニン残基に置換したホモログ、55番目又は56番目のアスパラギン残基をアスパラギン酸残基に置換したホモログ、79番目のグルタミン残基をロイシン残基に置換したホモログ、104番目のバリン残基をイソロイシン残基に置換したホモログ、135番目のシステイン残基をアルギニン残基に置換したホモログ、146番目のプロリン残基をアラニン残基に置換したホモログ、153番目のイソロイシン残基をバリン残基に置換したホモログ、157番目のバリン残基をロイシン残基に置換したホモログ、162番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したホモログ、169番目のアラニン残基をスレオニン残基に置換したホモログ、218番目のイソロイシン残基をフェニルアラニン残基に置換したホモログ、231番目のグルタミン残基をヒスチジン残基に置換したホモログ等を挙げることができる。
【0012】
また本発明のカルボニル還元酵素は、その酵素活性が損なわれない限り、アミノ酸が欠失、挿入されたものであってもよい。欠失、挿入されたアミノ酸は配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列中の任意の位置のアミノ酸であることができる。
更に本発明のカルボニル還元酵素は、その酵素活性が損なわれない限り、アミノ酸が付加したものであってもよい。このような付加可能なアミノ酸としては、発現されたポリペプチドを効率よく精製するためのアミノ酸等を挙げることができる。具体的には、例えば、複数のヒスチジン残基で構成されたタグ配列等を挙げることができる。
【0013】
また本発明において、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列を有するカルボニル還元酵素と機能的に同等なカルボニル還元酵素とは、カルボニル化合物から対応するアルコールへの還元反応を触媒し、対応するアルコールからカルボニル化合物への酸化反応を触媒しないカルボニル還元酵素であって、種々のカルボニル化合物の還元反応を触媒することができるカルボニル還元酵素を意味する。
【0014】
本発明のカルボニル還元酵素は、バラの花弁から常法によって抽出及び精製した天然物であることができる。抽出のために用いられるバラとしては特に制限はないが、芳香族アルデヒドから生成する2-フェニルエタノールを始めとする芳香族アルコールを多量発散するバラであればよく、例えばRosa damascena Mill.及びR.‘Hoh-Jun’等を挙げることができる。また花弁は、新鮮花弁であってもよく、凍結乾燥花弁であってもよい。花弁から抽出及び精製する場合には、常法に従って行えばよく、酵素安定性の観点から低温、好ましくは10℃以下、更に好ましくは4℃で迅速に行うことが好ましい。
【0015】
また本発明のカルボニル還元酵素は、カルボニル還元酵素をコードする遺伝子を含む発現ベクターを用いて遺伝子工学的に生成したものであることができる。このような発現ベクターを用いることは、大量且つ簡便に、また高い純度で本発明のカルボニル還元酵素を得ることができるため、好ましい。
カルボニル還元酵素をコードする遺伝子としては、例えば、配列番号3又は配列番号4の塩基配列からなるポリヌクレオチド等を挙げることができるが、これらの詳細については後述する。
【0016】
本発明における「発現ベクター」は、本発明のカルボニル還元酵素を発現可能な塩基配列を有する発現カセットをベースベクター内に挿入結合することによって作製することができる。したがって、発現カセットは、ベースベクターの任意のクローニングサイトに対応した制限酵素配列を有することが好ましい。「ベースベクター」は、たとえば動物細胞用ベクター、昆虫細胞用ベクター、酵母用ベクター、大腸菌用ベクター、また酵母・大腸菌等といった複数種用のシャトルベクター等の種々のベースベクターがあるが、これらベースベクターは宿主細胞や目的に応じて適宜に選択することができる。また、適当な宿主細胞で外来タンパク質を発現させるための既存のベクターDNAを一部改変して使用することもできる。たとえば、宿主細胞として大腸菌等の微生物を利用する場合には、複製開始点(ori)、プロモータ、ターミネータ等を有するpBR系、pUC系、pBluescript系やpET系システム等が使用することができるが、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0017】
また、この発現ベクターを導入する際に利用する細菌や細胞は、本発明の酵素を安定に発現することのできるものであれば、特に限定されるものではなく、大腸菌や酵母類、各種植物細胞等を例示することができる。
発現ベクターに本発明のカルボニル還元酵素を発現可能なポリヌクレオチドを挿入する場合には、1つの発現ベクターに2以上の酵素を発現可能なポリヌクレオチドを挿入してもよい。また、それぞれ1つの酵素を発現可能な発現ベクターを複数同時に用いてもよい。
【0018】
本発明においては、発現効率の点から、配列番号3又は配列番号4の塩基配列からなるポリヌクレオチドをpET系発現ベクターに組込み、この発現ベクターを用いて大腸菌を形質転換し、形質転換した大腸菌を培養し、発現したカルボニル還元酵素を回収して、カルボニル還元酵素を得ることが好ましい。
また、酵素活性の点から、得られたカルボニル還元酵素を更に精製することが好ましい。カルボニル還元酵素の精製には公知のタンパク質精製方法を特に制限なく用いることができる。例えば、ヒスチジンタグカラム、イオン交換カラム、ゲル濾過カラム等を用いてカルボニル還元酵素を精製することができる。
【0019】
本発明のカルボニル還元酵素遺伝子は、配列番号3又は配列番号4の塩基配列からなるものである。本発明のカルボニル還元酵素遺伝子は、本発明のカルボニル還元酵素が含むアミノ酸配列をコードすることができる。従って本発明のカルボニル還元酵素遺伝子を用いて、上述した遺伝子工学的手法により、本発明のカルボニル還元酵素を効率よく製造することができる。
【0020】
本発明のカルボニル還元酵素遺伝子は、例えば、バラ花弁の全RNAから以下のようにして得ることができる。
公知のバラEST情報(例えば、Guterman et.al.,The Plant Cell, Vol.14, 2325-2338(2002))から、バラ花弁で発現している脱水素酵素の遺伝子断片情報Aを得ることができる。その遺伝子断片の情報を基に、第1のPCRプライマーを設計し、3’-RACE法によって第1のPCRプライマーの下流に存在する脱水素酵素の遺伝子断片情報Bを得ることができる。この遺伝子断片情報を基に、遺伝子断片中に存在する終止コドンより上流に位置する第2のPCRプライマーを設計し、5’-RACE法によって第2のPCRプライマーの上流に存在する脱水素酵素の遺伝子断片情報Cを得ることができる。上記で得られた遺伝子断片情報B及びCを基に、バラ花弁で発現している脱水素酵素の全遺伝子配列を取得することができる。
【0021】
また本発明のカルボニル還元酵素遺伝子は、以下のようにしても取得することができる。例えば、バラ花弁のESTライブラリを構築する。このESTライブラリから還元酵素をコードする遺伝子情報を選択する。次に選択した遺伝子情報に対して、上記と同様な手法を適用することによって、還元酵素をコードする遺伝子の全遺伝子配列を取得することができる。
【0022】
本発明のカルボニル還元酵素をコードする遺伝子としては、前記配列番号3又は配列番号4の塩基配列を有するポリヌクレオチドに加えて、その塩基配列がコードするアミノ酸配列を有するカルボニル還元酵素の酵素活性を損なわないヌクレオチドの付加、削除及び/又は置換を有するものであってもよい。
このような付加可能なポリヌクレオチドとしては、発現されたポリペプチドを効率よく精製するためのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。例えば、複数のヒスチジン残基で構成されたタグ配列を発現可能なポリヌクレオチド等を挙げることができる。
また、削除、置換可能なヌクレオチド及びその部位としては、その塩基配列がコードするアミノ酸配列を有するカルボニル還元酵素の酵素活性を損なわない限り特に制限はない。
【0023】
本発明のアルコールの製造方法は、上記カルボニル還元酵素とカルボニル化合物とを接触させる工程を含む。上記カルボニル還元酵素は種々のカルボニル化合物を基質とすることができ、また、逆反応を触媒しないことから、本発明のアルコールの製造方法は汎用性が高く、また、反応効率の高いものである。
本発明におけるカルボニル還元酵素とカルボニル化合物とを接触させる工程においては、NADHを更に共存させることが好ましい。これにより還元反応を促進することができる。
【0024】
本発明におけるカルボニル還元酵素としては、上述のカルボニル還元酵素の少なくとも1種を用いる。カルボニル還元酵素は、例えば、バラの花弁から抽出してものであっても、遺伝子工学的手法により調製したものであってもよい。また、カルボニル還元酵素は、少なくとも1種の精製工程によって精製したものであることが好ましい。カルボニル還元酵素の精製工程については、既述の精製方法をを好適に適用することができる。
本発明においては、カルボニル還元酵素が、配列番号1及び配列番号2のアミノ酸配列を有するカルボニル還元酵素の少なくとも一方であることが好ましい。
【0025】
本発明におけるカルボニル化合物としては、アルデヒド類及びケトン類を用いることができる。カルボニル化合物としてアルデヒド類を用いることで1級アルコールを製造することができる。また、カルボニル化合物としてケトン類を用いることで、例えば、キラルな2級アルコールを製造することができる。
また、本発明におけるカルボニル化合物としては、芳香族カルボニル化合物及び脂肪族カルボニル化合物を用いることができる。具体的には、例えば、アルキルケトン類、アルケニルケトン類、芳香族ケトン類、アルキルアルデヒド類、アルケニルアルデヒド類、芳香族アルデヒド類等を用いることができる。
【0026】
本発明において、カルボニル還元酵素とカルボニル化合物とを接触させる方法には、特に制限はなく、例えば、適当な溶媒中で、カルボニル還元酵素とカルボニル化合物と混和させる方法が挙げられる。ここで用いられる溶媒としては、例えば、通常用いられる緩衝液を挙げることができる。具体的には、例えば、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等を挙げることができる。中でも、反応効率の点から、リン酸緩衝液を用いることが好ましい。
【0027】
カルボニル還元酵素とカルボニル化合物の接触温度としては、特に制限はないが、反応効率の点から、25~40℃であることが好ましく、30~35℃であることがより好ましい。また接触時のpHとしては、酵素活性が損なわれなければよく、反応効率の点から、pH6~8であることが好ましく、pH7.0であることがより好ましい。
また、接触時間としては、1分~60分とすることができる。
【0028】
本発明のアルコールの製造方法においては、カルボニル還元酵素の濃度を、例えば、10~30質量%とし、カルボニル化合物の濃度を、例えば、1~10mMとしてカルボニル還元酵素とカルボニル化合物とを接触させることができる。
また、本発明においてはNADHの濃度を、例えば、0.01~10mMとすることができる。
【0029】
本発明の製造方法は、接触工程の後に、得られたアルコールを回収・精製する回収工程を設けてもよい。回収・精製手段としては、例えば、硫安沈殿、アフィニティークロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイト等のカラムクロマトグラフィー。他には電気泳動(ネイティブページ、等電点電気泳動)等、通常この目的のために用いられる手段をそのまま使用することができる。
【0030】
本発明のアルコールの製造方法は、前記カルボニル還元酵素を用いることによって、種々のカルボニル化合物を基質として、対応するアルコールを製造することができる汎用性の高い製造法である。また、前記カルボニル還元酵素は逆反応であるアルコールの酸化反応を触媒しないため、効率よくアルコールを製造することができる。更に、前記カルボニル還元酵素は光学活性なアミノ酸から構成されるタンパク質であることから、非対称ケトン類を基質とすることでキラルな2級アルコールを製造することができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。また市販のキットを使用した場合、特記しない限り、メーカー指定の条件、手順に準じて操作を行った。
【0032】
(実施例1)
・カルボニル還元酵素(RDH1)遺伝子の調製
RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて、Rosa ‘Hoh-Jun’の花弁(St.5)より抽出した全RNAと、プライマーとして下記表1に示すプラマーRDH1.fullとM13M4を用い、TaKaRa RNA PCR Kit (AMV) Ver.3.0 (タカラバイオ社製)を用いて、RT-PCR(94℃で30秒、60℃で30秒、72℃で1分間、を30サイクル)を行い、約1000bpのPCR産物を得た。
得られたPCR産物1μlと、pCR2.1(インビトロジェン社製)2μlと、10×ligation buffer 1μlと、T4 DNA Ligase 1μlと、蒸留水5μlとで14℃30分間インキュベートし、TAクローニングを行った。
【0033】
【表1】
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【0034】
上記で得られたプラスミドを用いてヒートショック法により大腸菌DH5αを形質転換した。得られた形質転換体をカナマイシン耐性LB寒天培地にて1晩37℃で培養し、形質転換体クローンを得た。
得られたクローンから、GFX Micro plasmid prep kit(GEヘルスケア社製)を用いてプラスミドを抽出し、制限酵素(ECOR I)処理後のインサートをシークエンス解析し、アミノ酸レベルでシロイヌナズナ(Arabiopsis thaliane)のoxidoreductase(NP_1933054.1)と約67%の相同性を示すインサートを有するクローンをスクリーニングした。尚、シークエンス解析は、Thermo Sequenase Cycle Sequencing Kit (usb社製)を用い、DNAシークエンサー(Li-COR社モデル4200Lシリーズ)によって行った。
【0035】
上記により得たクローンが有するプラスミドと、下記表2に示すプライマーRDH.Hind2とRDH.Xho2と、TaKaRa EX Taq(タカラバイオ社製)とを用いて、PCR(94℃で30秒、65℃で30秒、72℃で1分間、を30サイクル)行い、約790bpのPCR産物を得た。得られたPCR産物の開始コドンから終止コドンまでの塩基配列を、配列番号3に示した。
次いで、得られたPCR産物1μlと、pCR2.1(インビトロジェン社製)2μlと、10×ligation buffer 1μlと、T4 DNA Ligase 1μlと、蒸留水5μlとで14℃30分間インキュベートし、TAクローニングを行った。
【0036】
【表2】
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【0037】
上記で得られたプラスミドを用いてヒートショック法により大腸菌DH5αを形質転換した。得られた形質転換体をカナマイシン耐性LB寒天培地にて1晩37℃で培養し、形質転換体クローンを得た。
得られたクローンから、GFX Micro plasmid prep kit(GEヘルスケア社製)を用いてプラスミドを抽出し、制限酵素(HindIII、XhoI)処理して、常法により、発現用プラスミド(pET28a)に組換えた。
【0038】
・RDH1の発現
上記で得た発現用プラスミド(pET28a)を用いて、ヒートショック法により発現用大腸菌BL21(DE3)を形質転換した。
得られた形質転換体をカナマイシン耐性LB培地50mlに植菌し、37℃でOD600=0.6まで培養してこれを前培養溶液とした。
RDH1発現は、まずカナマイシン耐性LB培地250mlに前培養溶液を5ml (2%)植菌し、37℃、200rpmでOD600=0.5となるまで培養した。ここに1MのIPTGを25μl添加し、さらに37℃、200rpmでOD600=1.5まで培養した。
培養した大腸菌溶液を遠心分離(6000g、10min.、4℃)して集菌した後、上清を捨ててRDH緩衝液(EDTA、グリセロール、CHAPS、DTTを含むリン酸ナトリウム緩衝液、pH=7.0)10mlを加えて懸濁した。これを大腸菌液とし、-80℃で凍結保存した。
【0039】
得られた大腸菌液を水上で融解させ、氷冷しながら超音波破砕して菌体からのタンパク質抽出をした。これを遠心分離(15000g、8min.、4℃)して、上清をエッペンドルフチューブに移し、さらに遠心分離(15000g、8min.,4℃)して可溶化画分を得た。この可溶化画分にプロテアーゼインヒビターカクテル(PIC、calbiochem社製)50μlを添加し、Hisタグカラム(GEヘルスケア社製)で精製した。
SDS-PAGE、Hisタグ抗体を用いたウエスタンブロッティングにより、 30kDa付近にRDH1の発現を確認した。
発現したRDH1のアミノ酸配列を配列番号1に示した。
【0040】
(実施例2)
・カルボニル還元酵素(RRD34)遺伝子の調製
RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて、Rosa ‘Hoh-Jun’の花弁(St.5)より抽出した全RNAと、プライマーとして下記表3に示すプラマーRRD.NdeとRRD.Salとを用い、TaKaRa RNA PCR Kit (AMV) Ver.3.0(タカラバイオ社製)を用いて、RT-PCR(94℃で30秒、60℃で30秒、72℃で1分間、を35サイクル)を行い、約1100bpのPCR産物を得た。得られたPCR産物の開始コドンから終止コドンまでの塩基配列を、配列番号4に示した。
得られたPCR産物1μlと、pCR2.1(インビトロジェン社製)2μlと、10×ligation buffer 1μlと、T4 DNA Ligase 1μlと、蒸留水5μlとで14℃30分間インキュベートし、TAクローニングを行った。
【0041】
【表3】
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【0042】
上記で得られたプラスミドを用いてヒートショック法により大腸菌jm109を形質転換した。得られた形質転換体をカナマイシン耐性LB寒天培地にて1晩37℃で培養し、形質転換体クローンを得た。
得られたクローンから、GFX Micro plasmid prep kit(GEヘルスケア社製)を用いてプラスミドを抽出し、制限酵素(EcoR I)処理後のインサートをシークエンス解析し、アミノ酸レベルでシロイヌナズナ(Arabiopsis thaliane)のaldo-keto reductase(アルデヒド‐カルボニル還元酵素)と約77%の相同性を示すインサートを有するクローンをスクリーニングした。
【0043】
得られたクローンから、GFX Micro plasmid prep kit(GEヘルスケア社製)を用いてプラスミドを抽出し、制限酵素(NdeI、SalI)処理して、常法により、発現用プラスミド(pET28a)に組換えた。
【0044】
・RRD34の発現
上記で得た発現用プラスミド(pET28a)を用いて、ヒートショック法により発現用大腸菌BL21(DE3)を形質転換した。
得られた形質転換体をカナマイシン耐性LB培地50mlに植菌し、37℃でOD600=0.6まで培養してこれを前培養溶液とした。
RDH1発現は、まずカナマイシン耐性LB培地250mlに前培養溶液を5ml植菌し、37℃、200rpmでOD600=0.5となるまで培養した。ここに1MのIPTGを25μl添加し、さらに37℃、200rpmでOD600=1.5まで培養した。
培養した大腸菌溶液を遠心分離(6000g、10min.、4℃)して集菌した後、上清を捨ててRDH緩衝液(1mM EDTA、5%グリセロール、1%CHAPS、1mM DTT(PIC set I、calbiochem社製)を含む
0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液、pH=7.0)10mlを加えて懸濁した。これを大腸菌液とし、-80℃で凍結保存した。
【0045】
得られた大腸菌液を水上で融解させ、氷冷しながら超音波破砕して菌体からのタンパク質抽出をした。これを遠心分離(15000g、8min.、4℃)して、上清をエッペンドルフチューブに移し、さらに遠心分離(15000g、8min.、4℃)して可溶化画分を得た。この可溶化画分にプロテアーゼインヒビターカクテル(PIC set I、calbiochem社製)50μlを添加し、Hisタグカラム(GEヘルスケア社製)で精製した。
SDS-PAGE、Hisタグ抗体を用いたウエスタンブロッティングにより、40kDa付近にRRD34の発現を確認した。
発現したRRD34のアミノ酸配列を配列番号2に示した。
【0046】
(実施例3)
上記で得られたカルボニル還元酵素溶液(RDH1及びRRD34)を用いて、種々のカルボニル化合物について還元反応を行った。還元反応の進行確認は、反応系に加えたNADHの減少率を340nmの吸光度変化率として測定することで行った。
カルボニル還元酵素溶液40μl、1mM NADH 20μl、10mM カルボニル化合物溶液 40μl、50mM リン酸緩衝液A 100μlとを混合し、30℃で5分間インキュベートした。その後、アセトニトリル300μlを加えて遠心分離(10000g、1min.)した。上清の340nmにおける吸光度を測定し、カルボニル還元酵素溶液を加えなかった場合の吸光度を100とした場合の相対値を算出した。
カルボニル還元酵素としてRDH1を用いた場合の結果を図3に、RRD34を用いた場合の結果を図4に示した。
【0047】
また、カルボニル化合物溶液の代わりにフェニルエタノール溶液を用い、NADHの代わりにNADを用いた場合には、340nmにおける吸光度変化は認められなかった。
【0048】
図3及び図4から、本発明のカルボニル還元酵素は、種々のカルボニル化合物を基質として、還元反応を触媒できることが分かる。
また、基質としてアルコールを用いた場合の結果から、本発明のカルボニル還元酵素は、逆反応である酸化反応を触媒しないことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のカルボニル還元酵素RDH1の構造(配列番号1及び配列番号3)を示す図である。
【図2】本発明のカルボニル還元酵素RRD34の構造(配列番号2及び配列番号4)を示す図である。
【図3】カルボニル還元酵素RDH1の種々のカルボニル化合物に対する還元能を示すグラフである。
【図4】カルボニル還元酵素RRD34の種々のカルボニル化合物に対する還元能を示すグラフである。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3