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明細書 :パルス励起原子線とパルス紫外光の生成方法およびその装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第2939540号 (P2939540)
公開番号 特開平11-211898 (P1999-211898A)
登録日 平成11年6月18日(1999.6.18)
発行日 平成11年8月25日(1999.8.25)
公開日 平成11年8月6日(1999.8.6)
発明の名称または考案の名称 パルス励起原子線とパルス紫外光の生成方法およびその装置
国際特許分類 G21K  5/00      
H01J 27/08      
H05H  3/02      
FI G21K 5/00 Z
H01J 27/08
H05H 3/02
請求項の数または発明の数 4
全頁数 6
出願番号 特願平10-019922 (P1998-019922)
出願日 平成10年1月30日(1998.1.30)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用申請有り 1997年10月秋田大学手形キャンパスにおいて開催された社団法人応用物理学会第58回応用物理学会学術講演会において、「第58回応用物理学会学術講演会 講演予稿集 NO.2」第651頁「講演番号:3a-ZK-6」「題名:準安定ヘリウム原子ビーム源の開発▲II▼-パルス化とスピン偏極-」の文章をもって発表。
審査請求日 平成10年1月30日(1998.1.30)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】390002901
【氏名又は名称】科学技術庁金属材料技術研究所長
発明者または考案者 【氏名】山内 泰
【氏名】倉橋 光紀
【氏名】岸本 直樹
審査官 【審査官】田邉 英治
参考文献・文献 特開 平1-243349(JP,A)
特開 平3-283478(JP,A)
特開 平2-44633(JP,A)
特開 平7-320896(JP,A)
特開 平8-250295(JP,A)
調査した分野 G21K 1/00 - 7/00
H05H 3/00 - 3/06
特許請求の範囲 【請求項1】
真空中でガスを噴出する絶縁性ノズル中の電極とスキマー間でパルス放電を生起させ、パルス励起原子線とパルス紫外光を同時に生成させる方法であって、
前記絶縁性ノズル中の電極とスキマー間でのパルス放電を、絶縁性ノズルの中の電極とスキマー間に介在させたトリガ電極へ電圧を印加することで安定化させることを特徴とするパルス励起原子線とパルス紫外光の生成方法。

【請求項2】
真空中でガスを噴出する絶縁性ノズル中の電極とスキマー間でパルス放電を生成させ、パルス励起原子線とパルス紫外光を同時に生成させる方法であって、可変直流電圧の上に重畳されたパルス電圧前記絶縁性ノズル中の電極に印加することを特徴とするパルス励起原子線とパルス紫外光の生成方法。

【請求項3】
ガスがHeであることを特徴とする請求項1または2のパルス励起原子線とパルス紫外光の生成方法。

【請求項4】
先端にガス噴出孔が穿設されるとともに内部に針状電極が配設された絶縁性ノズルと、絶縁性ノズルのガス噴出孔から離れた位置に、漏斗状で先端に開口部を備えたスキマーとを具備し
開口を備えたトリガ電極が、前記絶縁性ノズルのガス噴出孔と前記スキマーの開口部との間の位置に介在されていることを特徴とするパルス励起原子線とパルス紫外光の生成装置。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【01】

【発明の属する技術分野】この出願の発明は、パルス化された励起原子線と紫外光とを高速度で生成させる方法及び装置に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、表面科学を対象とする計測や材料の創製等の分野における発明であって、例えば、物質表面や表面内部数層の電子状態を調べるためのプローブとして、または、表面化学反応により、物質表面の汚染物質の除去や表面への積層化合物の創製において好適に使用できるパルス化された励起原子線と紫外光とを高強度で生成させる方法及び装置に関するものである。

【02】

【従来の技術】励起原子線を物質表面に照射すると、原子の励起状態から基底状態に遷移する際に放出されるエネルギーをもらって電子が飛び出し、この電子のエネルギーを分析することで、物質の表面状態を分析することができることになる。しかも、励起原子線によって飛び出す電子によって得られる情報は、物質表面最外層の電子状態を示すことから、励起原子線は有力な計測手段等として期待されている。また、紫外光の照射により物質表面から飛び出す電子は、物質表面からある程度の深さまでの物質の平均的な情報を得られることから、例えば、紫外線光電子分光として利用されている。

【03】
この出願の発明者等は、既に、電子衝撃型のHe励起原子線源を開発してパルスビームを得るとともに、放電型のHe励起原子線源により高強度の連続ビームが得られることを確認している(第44回応用物理学関係連合講演会講演予稿集(1997)426参照)。He励起原子線を電子衝撃や放電によって生成すると、連続したHe励起原子線と紫外光が同時に生成する。このため、連続ビームを用いて物質表面の状態を計測したりするには、機械式のチョッパーによってビームをパルス化するとともに飛行時間計測法(TOF)を組み合わせて励起原子線と紫外光を区別する必要がある。例えば、Heガスを0.1mm程度のノズルから超音速状態として噴出させ、その直後にスキマーと呼ばれる先端に1mm程度の開口部を持つ漏斗状の構造物で強度の強い中央部分以外を取り除くようにし、ノズルとスキマーとの間に300V程度の電圧を印加する。そして、10mA程度の放電電流によって連続放電を起こし連続した励起原子線と紫外光を同時に生成させることができるが、パルス励起原子線やパルス紫外光を得るためには、機械式チョッパーを組み込むことが必要となっている。このような機械式チョッパーを用いてビームをパルス化する構造は、He励起原子線源自体の構造は簡単なものの、機械式チョッパーを備えることで全体として複雑で大型化することになり、また、He励起原子線源と物質表面までの距離が長くならざるを得ず、物質表面上でのHe励起原子線の強度が弱くなることになる。こういったことから、He励起原子線源が簡単な構造であるとの利点を失うことになる。また、放電電流を上げてHe励起原子線の強度を上げようとするとHe励起原子線源の熱的強度に限界があることから、放電電流には上限がある。He励起原子線源をパルス駆動することができれば好ましいことであるが、放電型は放電開始電圧が維持電圧よりもかなり高いため、パルス駆動が困難となっている。原子励起線プローブによって量子効果を高精度に計測するには、高強度の原子線が不可欠であり、また、励起原子線のみによる効果を精密に計測するには、原子線のパルス化が必要とされているものの、未だ充分に満足のできる、パルス原子励起線やパルス紫外光を得るまでには至っていないのが実情である。

【04】

【発明が解決しようとする課題】この出願の発明は、上記のような実情に鑑み鋭意研究の結果創案されたものであり、機械式チョッパー等の付加装置を必要とすることなく、パルス原子励起線やパルス紫外光を高強度で得ることができる方法とそのための装置を提供することを目的とする。

【05】

【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、この出願の発明のパルス励起原子線とパルス紫外光の生成方法は、真空中でガスを噴出する絶縁性ノズル中の電極とスキマー間でパルス放電を生起させ、このパルス放電を、絶縁性ノズル中の電極とスキマー間に介在させたトリガ電極へ所定電圧を印加することで安定化させて、パルス励起原子線とパルス紫外光を同時に生成させることを特徴としている。また、この出願の発明のパルス励起原子線とパルス紫外光の生成装置は、先端にガス噴出孔が穿設されるとともに内部に針状電極が配設された絶縁性ノズルと、絶縁性ノズルのガス噴出孔から所定距離離れた位置に、漏斗状で先端に開口部を備えたスキマーとを具備し、開口を備えたトリガ電極が、絶縁性ノズルのガス噴出孔とスキマーの開口部との間の位置に介在されていることを特徴としている。

【06】

【発明の実施の形態】以上のとおりの特徴を有するこの出願の発明によって、すなわち、絶縁性ノズルから超音速でガスを噴出させながら、絶縁性ノズル中の電極とスキマーとの間で繰り返しパルス放電を起こすと、絶縁性ノズルから噴出する原子は、パルス放電により励起され、強力なパルス励起原子線と紫外光が生成されることになる。生成されたパルス励起原子線と紫外光は、先端に1mm程度の開口部を持つ漏斗状のスキマーの開口部を通過し、開口部以外のパルス励起原子線と紫外光が取り除かれてビームとされ、物質表面に照射される。このようにして、放電をパルス化することにより、機械的チョッパーが不要で、構造が簡単という利点を最大限に生かすことができるだけでなく、原子源と試料までの距離を短くでき、物質面上でのパルス励起原子線と紫外光強度を大きく保つことができる。そして、生成されたパルス励起原子線または紫外光を、例えば、パルス励起原子線を真空中におかれた物質表面に照射することにより、表面上の電子状態を計測するのに用いることができるものであり、また、同時に生成された紫外光を同様に物質表面に照射することにより、表面内部数層の電子状態を計測するのに用いることができる。さらに、パルス励起原子線および/または紫外光を表面化学反応に使用することで、物質表面汚染の除去や表面への化合物の積層に使用することができる。

【07】
以下、詳しく発明の実施の形態について説明すると、まず、この発明における前記の絶縁性ノズルとしては、パイレックス等のガラスが採用できる。この絶縁性ノズルの先端のガス噴出孔の口径は、一般的には0.1~1.0mm、より好ましくは0.2~0.5mmとする。この口径の大きさは、ノズル内のガス圧と原子源チャンバーの圧力を最適に保つことの理由により定められる。

【08】
また、前記絶縁性ノズルの内部に配設される針状電極としては、タンタル、タングステン、モリブデン等が採用でき、その直径は、0.2~2.0mm、より好ましくは0.5~1.0mmが、放電の安定性を高めながら放電による損耗に耐える必要があることの理由から好ましい。放電電圧、ガス圧、電極間距離を調節することにより放電の安定化を図ることができるが、とりわけ、開口を備えたトリガ電極を、前記絶縁性ノズルのガス噴出孔と前記スキマーの開口部との間の所定位置に介在させる構造を採用することが好ましく、トリガ電極へ所定電圧を印加することで前記絶縁性ノズル中の電極とスキマー間でのパルス放電が安定化されることになる。

【09】
トリガ電極の開口径は、絶縁性ノズルの先端のガス噴出孔の口径、トリガ電極とガス噴出孔までの距離、または、トリガ電極とスキマーの開口部までの距離等によるもので特に限定されるものではない。可変直流電圧の上に重畳されたパルス電圧が前記絶縁性ノズル中の電極に印加されるようにしてもよいものである。

【10】
なお、パルス放電の安定化のための手段としては、上述のようなトリガ電極(11)以外にも、たとえば、応答時間が0.1マイクロ秒以下で100マイクロ秒の間100mAの一定電流を繰り返し流すことのできる、10kV程度の高速高圧パルス定電流電源であれば用いることができる。また、前記針状電極の回りに、蛍光灯に用いられているような熱電子発生用フィラメントを付加することによっても、トリガ電極と同様なパルス放電安定化効果を得ることができると考えられる。

【11】
ガスとしては、希ガスが好ましく、とりわけ、Heが、励起状態のエネルギーが20eVと大きいとの理由から望ましい。図1は、この発明の方法を実施するためのパルス励起原子線および紫外光生成装置の一例を示した概略図であり、以下においては、装置は、Heを原子源としたものとして説明する。

【12】
図1に示されるように、この装置の絶縁性ノズル(2)は、パイレックス製で筒状をしており、丸く閉じた先端の中央部にガス噴出孔(2a)が穿設されている。該ガス噴出孔(2a)は、例えば、超音波加工によって穿設すればよい。絶縁性ノズル(2)は原子源チャンバー(3)内に取り付けられており、該絶縁性ノズル(2)の後端は、図示していないHeガス供給源に接続されており、高圧のHeガス(1)が供給されるようになっている。原子源チャンバー(3)内は、例えば、図示していないターボ分子ポンプにより所定の真空度に設定できるようになっている。

【13】
絶縁性ノズル(2)内にはHeガス(1)の通過を可能とするステンレス製の円筒(4)が内設されており、該円筒(4)には、タンタルからなる針状電極(5)の先端が、絶縁性ノズル(2)のガス噴出孔(2a)の中心方向に向かうようにスポット溶接されている。針状電極(5)は、陰極とされており、ステンレス製の円筒(4)に接続された引出線が絶縁性ノズル(2)の側方に設けられた引き出し部(2b)から引き出され、抵抗(6)を介して定電流モードで作動する直流電源(7)の陰極に接続されており、該直流電源(7)の陰極側は接地されている。

【14】
絶縁性ノズル(2)から所定距離離れた位置に、漏斗状で先端に開口部(8a)を備えたスキマー(8)が設けられている。該スキマー(8)は、原子源チャンバー(3)と緩衝チャンバー(9)とを区画する真空壁(10)に取り付けられている。そして、スキマー(8)は抵抗を介することなく直接接地されている。

【15】
前記直流電源(7)は、所定の定電流を与えることができるようにされており、直流電源(7)による所定の可変電圧に図示していないパルス電源から発生した所定パルス巾の固定電圧を重畳できるものであって、スキマー(8)との間でパルス放電を起こすことができるようになっている。絶縁性ノズル(2)のガス噴出孔(2a)とスキマー(8)の開口部(8a)との間の絶縁性ノズル近傍位置に、ほぼ中央に開口(11a)を備えたトリガ電極(11)が配設されており、接地抵抗(12)を介して接地されている。

【16】
針状電極(5)に所定の可変直流電圧の上に固定した所定のパルス電圧を重畳した電圧を印加することによって、針状電極(5)とスキマー(8)間で生じたパルス放電により、準安定He原子からなるパルスHe励起原子線と紫外光とが同時に生成される。安定したパルス放電を実現するためには、放電の主なパラメーターである放電電圧、ガス圧、電極間距離等を適宜調節して行うことになるが、針状電極(5)とスキマー(8)間にトリガ電極(11)を介在させ、放電電圧を制御することで、容易かつ確実に安定したパルス放電を実現することができる。パルス放電により生じるパルス放電電流は、針状電極(5)に直列に接続された抵抗(6)により大まかではあるがパルス巾に比べ十分早く安定化することになり、また、定電流モードで動作する直流電源により低速ではあるが精密に安定化するように異なる2つの時定数によって制御できるようになっている。2つの時定数のうちの一つは、抵抗(6)(たとえば1kΩ)と円筒(4)および針状電極(5)周りの浮遊容量(たとえば数10pF)とで0.1マイクロ秒以下の高速であり、もう一つは、直流電源(7)の応答時間でミリ秒以上の低速である。

【17】
そして、針状電極(5)の軸線は、絶縁性ノズル(2)のガス噴出孔(2a)の中心、トリガ電極(11)のガス通過用の開口(11a)の中心、スキマー(8)の開口部(8a)の中心を結ぶ軸線と一致するように設定されている。図1においては、原子源の性能を調べるために原子線の全線量密度とTOFスペクトルを測定できる構造を採用している。このため、超高真空チャンバー(13)を差動排気用の緩衝チャンバー(9)を挟んで原子源チャンバー(3)に接続している。そして、超真空チャンバー(13)内に試料(14)を設置し、超真空壁(15)に穿設した通過孔(15a)を通過したパルスHe励起原子線と紫外光が試料(14)に照射されるようになっている。試料(14)を中心軸からずらすことによってHe原子および紫外光は試料(14)の後方に設けられた検出器(16)によって直接検出され、パルス電源の参照パルスと連動した多チャンネルスケーラー(MCS)(17)で計算できるようになっている。検出器としては、2次電子増倍管を採用しているがこれに限定されるものではない。試料(14)は直接接地され、ターゲット電流が流れることで、常時一定の電位に維持できるようになっている。なお、超真空チャンバー(13)は、例えば、図示していないターボ分子ポンプにより所定の超真空度に設定できるようになっている。

【18】
緩衝チャンバー(9)は、例えば、図示していないターボ分子ポンプで所定の真空度に設定できるようになっており、緩衝チャンバー(9)内には、荷電粒子やリュードベリ(Rydberg)原子を除去するための板状の偏向電極(18)が設置されている。該偏向電流(18)は直流電源(19)に接続され所定電圧に維持される。

【19】
たとえば以上の構成のこの発明の装置とこれを用いた方法について以下に実施例を説明する。もちろん、この発明は以下の例に限定されることはない。

【20】

【実施例】(実施例1)前述した装置において、絶縁性ノズルとしては外径9mmのパイレックス製で先端に0.3mm径のガス噴出孔を穿設したものを用いた。また、直径0.8mmのタンタル製の針状電極を使用した。ガス噴出孔からトリガ電極間までの距離、スキマーの開口部までの距離、試料までの距離、2次電子増倍管までの距離をそぞれ、1mm、6mm、700mm、1,100mmに設定した。試料としては、ステンレス鋼板を用いた。トリガ電極の開口径は1.3mmとした。原子源チャンバーは1,000l/sのターボ分子ポンプで排気し、動作時の真空度を2~0.2Paとした。緩衝チャンバーは250l/sのターボ分子ポンプで排気し、動作時の真空度を10-2Paとした。超真空チャンバーは320l/sのイオンポンプで排気し、動作時の真空度を10-3Paとした。針状電極と接続した抵抗は1kΩ、接地抵抗は200kΩに設定した。針状の電極には、抵抗を通して600Vの可変直流電圧の上に固定した900Vの電圧パルスを重畳した電圧を印加した。偏向電極の電圧は、120Vとした。パルス放電電流は、異なる2つの時定数で制御した。まず、直列に入れた抵抗によって大まかにではあるが0.01~0.1msのパルス巾に比べて十分速く安定化するとともに定電流モードで動作する直流電源により、低速ではあるが精密に安定した。放電電流はパルスのデューティー比を考慮して直流電源により設定した。このように設定して、Heガスを絶縁性ノズルに供給し、針状電極とスキマーとの間でパルス放電させ、準安定He原子からなるパルスHe励起電子線と紫外光とを同時に生成させ、MCSで計数した。図2に、原子源チャンバー圧力、0.8Pa、MSCの送り時間、2μsでの飛行時間スペクトルを示す。図2におけるチャンネル4~20の鋭いピークは原子源からの紫外光によるもので、ピークの形はパルス放電電流の波形をよく反映している。チャンネル100~300の広いピークは、準安定He原子の予想される飛行時間とよく一致していることを示す。なお、パルス放電電流の典型的な値は、ノズル・スキマー間の電圧600Vに対し、200mAであった。これは、従来の低電力型の連続放電原子線のノズル・スキマー電圧300Vでの放電電流10mAと比べて、1桁大きいものである。

【21】
また、全線量密度は、10mm角のステンレスターゲットに中性の励起原子線を照射した時のターゲットの電流によって決定できる。すなわち、たとえば、励起He原子がステンレス鋼板に照射されると原子1個あたり0.7個の電子がステンレス鋼板から放出されること(Dunning 等 Rev. Sci. Instrum. 46 (1975)697参照)と、原子線源からターゲットまでの距離で決まる照射立体角、およびパルスのデューティー比を勘案して、単位立体角当たりの全線量密度が算出される。

【22】
(実施例2)原子は、その内部に電子スピンのいくつかの自由度を持つ場合があるが、通常はバラバラの向きとなっている。この原子内部の電子スピンを揃えると、固体表面に照射した際に放出される電子のエネルギー分布などに影響を与えると考えられ、固体最表面に存在する電子のスピン状態を知ることができる。

【23】
そこで、本発明により得られる3重項状態に励起されたHe原子に、1083nmの円偏光を照射したところ、スピン偏極パルス励起電子線を得ることができた。このスピン偏極は、永久磁石と軟鉄製ポールピースで形成する均一な不整磁場中を原子線を通してスピンの異なるものを弁別する、いわゆるStern-Gerlach実験を行うことによって、確認できた。

【24】
図3は、得られたStern-Gerlach スペクトルを例示したものである。この図3に示したように、円偏光を照射すると、スピン+1、0の励起原子がほぼ無くなってスピン-1へ偏り、また、円偏光の回転の向きを逆にすると全く逆のスピン+1へ偏るようになる。

【25】

【発明の効果】この発明は、以上詳しく説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。本発明の方法および装置によれば、機械式チョッパーを組み込むことを必要とせずに、パルス励起原子線やパルス紫外光を得ることができることになる。すなわち、表面科学を対象とする計測や材料の創製等の分野において有用であって、例えば、物質表面や表面内部数層の電子状態を調べるためのプローブとして、または、表面化学反応により、物質表面の汚染物質の除去や表面への積層化合物の創製において好適に使用できるパルス化された励起原子線と紫外光とを高強度で生成させることができることになる。

【26】
より具体的には、たとえば、Ti,Zr,V等の遷移金属の表面に吸着した酸素などの原子が表面原子の上に存在するのか下に存在するのかが従来より盛んに研究され、議論され続けているが、本発明により得られるパルス励起He電子線および紫外光を、上記遷移金属の表面に照射した際に放出される電子のエネルギー分布を計測することにより、表面の最も上に存在する原子の電子状態ならびに表面数層に分布する原子の平均の電子状態を知ることができ、この異なる深さの電子状態の違いから吸着した原子の位置を推定することができるようになる。

【27】
また、SiやGaAsの半導体素子の製造においては、素子の本体となる部分を半導体単結晶基板の上に分子線エピタキシー法によって作成しており、この際の基板表面の洗浄度が、品位を大きく左右するので、工業的に重要な課題となっている。基板表面の洗浄化処理には、従来、オゾン等により汚染物を酸化して除去する方法が注目されているが、この方法では基板表面も酸化されてしまうといった問題があった。そこで、本発明を用いて得られる、内部に20eVの高いエネルギーを持つパルス励起He原子および紫外光を基板表面に照射すれば、基板表面から強力に電子を奪うことにより汚染物の表面との化学結合を切り、基板表面を酸化することなく汚染物を除去することができる。

【28】
本発明の方法および装置によって生成されたパルス励起原子線並びにパルス紫外光源は、最表面の電子状態を調べる表面電子分光装置の重要かつ標準的なプローブとして新たな市場を形成するものと見込まれる。また、半導体産業等においては、材料表面の汚染を除去する非反応性のダメージフリーで応用範囲の広いクリーニング手段として、歩留まり等の生産性を向上させることになると期待される。

【29】
このようなことから、表面解析における性能の向上と、表面での原子レベル材料創製の完全性を高め得ることになる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2