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明細書 :テラヘルツ波発生装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5354582号 (P5354582)
公開番号 特開2010-204488 (P2010-204488A)
登録日 平成25年9月6日(2013.9.6)
発行日 平成25年11月27日(2013.11.27)
公開日 平成22年9月16日(2010.9.16)
発明の名称または考案の名称 テラヘルツ波発生装置
国際特許分類 G02F   1/377       (2006.01)
FI G02F 1/377
請求項の数または発明の数 2
全頁数 13
出願番号 特願2009-051189 (P2009-051189)
出願日 平成21年3月4日(2009.3.4)
審査請求日 平成23年9月26日(2011.9.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】水津 光司
【氏名】澁谷 孝幸
【氏名】纐纈 薫
【氏名】筒井 俊博
【氏名】川瀬 晃道
個別代理人の代理人 【識別番号】110000110、【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
審査官 【審査官】吉田 英一
参考文献・文献 特開平01-244433(JP,A)
特開平02-287519(JP,A)
特開2003-324226(JP,A)
特開2002-072269(JP,A)
調査した分野 G02F 1/377
G02F 1/39
特許請求の範囲 【請求項1】
周波数の異なる2種類のレーザ光を2次の非線形性を有する非線形光学結晶に入射し、前記2種類のレーザ光の差周波数を持つテラヘルツ波をチェレンコフ型位相整合方式により放射するテラヘルツ波発生装置であって、
前記2種類のレーザ光は、前記非線形光学結晶のレーザ光が入射される入射面にコリニアに入射されており、
前記入射面の厚みは前記テラヘルツ波の前記非線形光学結晶における半波長よりも小さく形成されており、
前記非線形光学結晶のテラヘルツ波を放射する放射面の少なくとも1つの面上に、可視光から近赤外の周波数帯域における屈折率が、前記非線形光学結晶の可視光から近赤外の周波数帯域における屈折率よりも小さく設定されている緩衝層が形成されており、
前記緩衝層の表面にプリズムが設けられており、
前記非線形光学結晶の可視光から近赤外の周波数帯域における屈折率n1(OPT)と、前記非線形光学結晶のテラヘルツ波の周波数帯域における屈折率n1(THz)と、前記プリズムのテラヘルツ波の周波数帯域における屈折率n2(THz)が、
arccos(n1(OPT)/n1(THz))>π/2-arcsin(n2(THz)/n1(THz))
を満たすように構成されており、
前記プリズムのテラヘルツ波を放射する放射面が、前記プリズム内を進行するテラヘルツ波の放射方向に対して垂直となるように形成されていることを特徴とするテラヘルツ波発生装置。
【請求項2】
前記非線形光学結晶のテラヘルツ波を放射する放射面の2つの面上に、前記緩衝層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波発生装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波(電波)と赤外線(光波)の間の周波数を有するテラヘルツ波を発生する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電波と光波の中間の周波数を有するテラヘルツ波は、セラミックの内部欠陥検査や試薬検査、鏡像異性体含有量分析等の光源として大変に有効であり、実用化に向けて高出力が可能な光源の開発が盛んに行われている。図7に、現在までに公表されている光源の周波数と出力の関係を示す。図7に示すように、0.1THz未満の周波数帯域及び数十THzよりも高い周波数帯域では、複数種類の光源が公表されている。その一方、その間の周波数帯域では、未だに有効な光源が公表されていない周波数帯域も存在する。広い周波数帯域で高出力が可能なテラヘルツ波光源が望まれている。
【0003】
特許文献1に、差周波発生法を用いてテラヘルツ波を発生する技術の1つが開示されている。この技術では、2つの異なる周波数を有するレーザ光をテラヘルツ波発生用結晶に入射し、その周波数差に相当するテラヘルツ波を発生させる。レーザ光をテラヘルツ波発生用結晶に入射する際には、レーザ光とテラヘルツ波の位相条件が整合するように入射する。一般に、テラヘルツ波の周波数帯域における屈折率はレーザ光の周波数帯における屈折率にくらべて大きい。そのため、特許文献1の技術では、レーザ光とテラヘルツ波の位相を整合させる際に、周波数の異なる2本のレーザ光の間に有限の角度差をつけて2本のレーザ光をテラヘルツ波発生用結晶に入射する。特許文献1の技術を用いることで、0.6~2.6THzの周波数を有するテラヘルツ波が発生することが確認されている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2006-215222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、テラヘルツ波の光源の開発にとって大変有効な技術である。
しかしながら、特許文献1の技術では、テラヘルツ波の周波数が低くなるにつれて2本のレーザ光をテラヘルツ波発生用結晶に入射する際の角度差が小さくなる。角度差が小さくなると、角度差を正しく調整することが難しく、レーザ光からテラヘルツ波を発生させる際のエネルギー変換効率が悪化してしまう。図6に、特許文献1の技術を用いて発生させたテラヘルツ波の周波数とエネルギー変換効率の関係を点線で示す。図6に示すように、周波数が1THz未満の領域では、周波数の低下に伴ってテラヘルツ波のエネルギー変換効率が悪化する事象が観測されている。また、テラヘルツ波がテラヘルツ波発生用結晶内を進行すると、テラヘルツ波発生用結晶内を進行する距離に応じてテラヘルツ波がテラヘルツ波発生用結晶に吸収される。一般に、テラヘルツ波のテラヘルツ波発生用結晶への吸収は、高周波において顕著となる。そのため、図6に点線で示すように、周波数が2THz以上の領域では、周波数の上昇に伴ってテラヘルツ波のエネルギー変換効率が悪化する事象が観測されている。テラヘルツ波のエネルギー変換効率が悪化すると、高出力のテラヘルツ波を出力することが難しい。高出力のテラヘルツ波を発生させるために、エネルギー変換効率の向上が望まれる。
上記の問題を鑑み、本発明は、広い周波数帯域において、テラヘルツ波のエネルギー変換効率を向上させる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、チェレンコフ型位相整合方式を用いてテラヘルツ波を発生させ、さらにテラヘルツ波発生用結晶である非線形光学結晶の厚さを工夫することで、レーザ光からテラヘルツ波を発生させる際のエネルギー変換効率を向上させることに成功した。
本発明は、テラヘルツ波発生装置に具現化される。このテラヘルツ波発生装置は、周波数の異なる2種類のレーザ光を2次の非線形性を有する非線形光学結晶に入射し、2種類のレーザ光の差周波数を持つテラヘルツ波をチェレンコフ型位相整合方式により放射する。
本発明のテラヘルツ波発生装置では、2種類のレーザ光が非線形光学結晶の入射面にコリニアに入射されている。「入射面」とは、非線形光学結晶の表面のうち、レーザ光が入射される表面を意味する。また、入射面の厚みは、テラヘルツ波の非線形光学結晶における半波長よりも小さく設定されている。また、非線形結晶の放射面の少なくとも1つの面上に緩衝層が形成されている。「放射面」とは、非線形光学結晶の表面のうち、テラヘルツ波を放射する表面を意味する。この緩衝層の可視光から近赤外の周波数帯域における屈折率は、非線形光学結晶の可視光から近赤外の周波数帯域における屈折率よりも小さく設定されている。
【0007】
非線形光学結晶にレーザ光を入射すると、結晶内に非線形分極が生じる。2次の非線形を有する非線形光学結晶では、周波数の異なる2つのレーザ光を入射した場合に、その2つのレーザ光の差周波数に応じた周期を有する非線形分極が生じる。また、非線形光学結晶では、レーザ光の入射によりエネルギー状態が励起し、元のエネルギー状態に戻る際にエネルギー波が放射される。非線形光学結晶が非線形分極している場合、その分極の周波数に対応するエネルギー波が放射される。非線形光学結晶がテラヘルツ波の周波数を有して分極している場合、非線形光学結晶からテラヘルツ波が放射される。しかし、一般にテラヘルツ波の屈折率はレーザ光の屈折率にくらべて大きく、非線形光学結晶における光の伝播速度は非線形光学結晶におけるテラヘルツ波の伝播速度を超える。そのため、テラヘルツ波は非線形光学結晶からチェレンコフ放射される。テラヘルツ波は、非線形光学結晶からチェレンコフ型位相整合条件を満たす放射角へと放射される。本発明では、上記のチェレンコフ型位相整合方式によってテラヘルツ波を放射する。
【0008】
本発明では、チェレンコフ型位相整合方式によってテラヘルツ波を放射する。チェレンコフ型位相整合方式では、非線形光学結晶に生じた非線形分極に基づいてテラヘルツ波が放射される。また、非線形分極を生じさせる際に、2本のレーザ光の間に角度差をつける必要がない。そのため、第1レーザ光と第2レーザ光を非線形光学結晶にコリニアに入射することができる。第1レーザ光と第2レーザ光を所定の角度差に調整する特許文献1の技術に比べて、第1レーザ光と第2レーザ光の角度関係を正確に調整することができ、テラヘルツ波の低周波域でのエネルギー変換効率を向上させることができる。
【0009】
また、本発明のテラヘルツ波発生装置では、入射面の厚みがテラヘルツ波の非線形光学結晶における半波長よりも小さく形成されている。
非線形光学結晶に入射されるレーザ光のビーム径は、有限の照射面積を有しており、その内部に無数の微小レーザ光が入射されている。微小レーザ光は入射された部位における非線形光学結晶を非線形分極させ、それぞれの部位から微小テラヘルツ波を放射する。この結果、非線形光学結晶から微小テラヘルツ波の集まり(微小テラヘルツ波群)であるテラヘルツ波が放射される。非線形光学結晶の各々の位置から放射された微小テラヘルツ波の非線形光学結晶の放射面における位相は、その位置の入射面の厚み方向の距離に基づいて決定される。テラヘルツ波の中に、非線形光学結晶の放射面における位相が逆位相となる微小テラヘルツ波が含まれていると、微小テラヘルツ波がお互いに打ち消しあって弱められ、非線形光学結晶から放射されるテラヘルツ波のエネルギー変換効率が悪化する。
本発明では、上記のように設定されることで、微小テラヘルツ波群の中に逆位相となる微小テラヘルツ波が含まれることが抑制される。これにより、テラヘルツ波が弱められることが抑制され、テラヘルツ波の高周波域でのエネルギー変換効率を向上させることができる。
【0010】
上記のように非線形光学結晶の入射面の厚みを小さくが設定されることで、非線形光学結晶内でテラヘルツ波が吸収される量を抑制する効果も得ることができる。
テラヘルツ波が非線形光学結晶内を進行すると、非線形光学結晶内を進行する距離に応じてテラヘルツ波が非線形光学結晶に吸収される。非線形光学結晶が上記のように設定されることで、テラヘルツ波が非線形光学結晶内を進行する距離を短くすることができ、テラヘルツ波が非線形光学結晶で吸収される量を抑制することができる。これによって、テラヘルツ波のエネルギー変換効率を向上させることができる。
【0011】
また、本発明のテラヘルツ波発生装置では、放射面の少なくとも1つの面上に緩衝層が形成されおり、その緩衝層の可視光から近赤外の周波数帯域における屈折率が、非線形光学結晶の可視光から近赤外の周波数帯域における屈折率よりも小さく設定されている。
本発明によれば、非線形光学結晶に入射された第1レーザ光と第2レーザ光が、非線形光学結晶と緩衝層の境界部において全反射されやすい。つまり、第1レーザ光と第2レーザ光が非線形光学結晶から漏れ出ることが抑制され、非線形光学結晶を第1レーザ光と第2レーザ光が通過する導波路として機能させることができる。これによって、非線形光学結晶に入射された第1レーザ光と第2レーザ光が減衰することが抑制され、テラヘルツ波のエネルギー変換効率を向上させることができる。
【0012】
緩衝層の表面にはプリズムが設けられていることが好ましい。非線形光学結晶の可視光から近赤外の周波数帯域における屈折率をn1(OPT)とし、非線形光学結晶のテラヘルツ波の周波数帯域における屈折率をn1(THz)とし、プリズムのテラヘルツ波の周波数帯域における屈折率をn2(THz)とすると、この屈折率n1(OPT)と屈折率n1(THz)と屈折率n2(THz)は数1の関係を満たすように構成されている。
【0013】
【数1】
JP0005354582B2_000002t.gif

【0014】
図5にテラヘルツ波L3が非線形光学結晶26からプリズム30へと放射される様子を示す。図5においては、緩衝層を省略して図示する。第1レーザ光L1及び第2レーザ光L2の進行方向に対するテラヘルツ波の放射角θは、位相条件によって決定される。つまり、第1レーザ光L1の波長をλ1とし、第2レーザ光L2の波長をλ2とし、テラヘルツ波の真空における波長をλ(THz)とし、非線形光学結晶の可視光から近赤外の周波数帯域における第1レーザ光L1の屈折率をn11(OPT)とし、非線形光学結晶の可視光から近赤外の周波数帯域における第2レーザ光L2の屈折率をn12(OPT)とすると、数2のように表され、近似することで数3のように表すことができる。
【0015】
【数2】
JP0005354582B2_000003t.gif
【数3】
JP0005354582B2_000004t.gif

【0016】
テラヘルツ波が非線形光学結晶26からプリズム30へと放射される際の臨界角α0は、プリズムのテラヘルツ波の周波数帯域における屈折率n2(THz)を用いて数4のように表される。テラヘルツ波は、非線形光学結晶26からプリズム30へと放射される入射角αが数5の関係を満たす場合に、非線形光学結晶26からプリズム30へと放射される。また、入射角αと放射角θは数6の関係を有する。数3~数6を用いることで、数1の関係を得ることができる。
【0017】
【数4】
JP0005354582B2_000005t.gif
【数5】
JP0005354582B2_000006t.gif
【数6】
JP0005354582B2_000007t.gif

【0018】
本発明では、数1の関係を満たすことで、非線形光学結晶から放射されたテラヘルツ波をプリズムへと入射することができる。
本発明によれば、プリズムを用いてテラヘルツ波を所望の位置に放射することができる。また、プリズムの材質として、テラヘルツ波の吸収量が少ない材質を選ぶことで、テラヘルツ波のエネルギー変換効率が悪化することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、広い周波数帯域において、テラヘルツ波のエネルギー変換効率を向上させることができる。これにより、テラヘルツ波光源の出力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】テラヘルツ波発生装置10とテラヘルツ波測定装置60を模式的に示した図である。
【図2】導波路デバイス20の構成を模式的に示した図である。
【図3】テラヘルツ波が放射される様子を説明する図である。
【図4】テラヘルツ波が放射される様子を説明する図である。
【図5】テラヘルツ波が放射される様子を説明する図である。
【図6】本実施例のテラヘルツ波発生装置10から放射されるテラヘルツ波の周波数とエネルギー変換効率の関係を示す。
【図7】現在までに公表されているテラヘルツ波光源の周波数と出力の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に説明する実施例の主要な特徴を整理する。
(特徴1)第1レーザ光と第2レーザ光は、可視光から近赤外の周波数帯域における周波数を有している。
(特徴2)非線形光学結晶は、層状に形成されている。非線形光学結晶の側面が入射面に相当し、非線形光学結晶の上面と底面のうちの少なくとも一方が放射面に相当する。
(特徴3)緩衝層の厚みは、第1レーザ光と第2レーザ光の染み出し長よりも大きい。
(特徴4)緩衝層の厚みは、テラヘルツ波の緩衝層における波長よりも小さい。
(特徴5)緩衝層は、テラヘルツ波に対する吸収係数が小さい物質で形成されている。
【実施例1】
【0022】
本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。図1に、本発明のテラヘルツ波発生装置10と、そのテラヘルツ波発生装置10から放射されたテラヘルツ波L3を測定するテラヘルツ波測定装置60を模式的に示す。テラヘルツ波発生装置10は、YAGレーザ発振機12とKTP光パラメトリック発振機(KTP-OPO)14とレンズ16と導波路デバイス20を備えている。テラヘルツ波測定装置60は、ボロメータ62とA/D変換機64とPC66を備えている。テラヘルツ波発生装置10及びテラヘルツ波測定装置60の間には、テラヘルツ波L3を集光するためのレンズ68が配置されている。
【実施例1】
【0023】
本発明のテラヘルツ波発生装置10について説明する。YAGレーザ発振機12は、Ndイオンを添加したYAG結晶を用いたレーザ発振機であり、532nmの波長のレーザ光L0をKTP-OPO14に入射している。KTP-OPO14は、KTP結晶を用いた光パラメトリック発振機であり、YAGレーザ発振機12から入射されたレーザ光から約3倍の波長を有するレーザ光群(波長:1300nm~1550nm)を生成している。KTP-OPO14は、生成したレーザ光群から周波数ω1の第1レーザ光(ポンプ光と呼ばれることがある)と周波数ω2の第2レーザ光(アイドラー光と呼ばれることがある)を選択し、レンズ16を通してこの2つのレーザ光を導波路デバイス20にコリニアに入射する。KTP-OPO14では、第1レーザ光L1と第2レーザ光L2の差周波数ω3(=ω1-ω2)が、所望のテラヘルツ波の周波数となるように設定されている。
【実施例1】
【0024】
図2に、導波路デバイス20の構成を模式的に示す。導波路デバイス20は、結晶台22と接着層24と非線形光学結晶26と緩衝層28プリズム30がその順に積層されて構成されている。
結晶台22は非線形光学結晶26を配置するための台であり、その上面に接着層24を介して層状の非線形光学結晶26が積層されている。非線形光学結晶26は、2次の非線形性を有した結晶であり、例えばLiNbO3、LiTaO3、DAST、ZnTe、GaAs、ZnSe、GaSe、GaP等の結晶である。非線形光学結晶26は、その厚さが、周波数ω3を有するテラヘルツ波の非線形光学結晶26における波長の半分よりも小さく設定されている。ここで、周波数ω3を有するテラヘルツ波の非線形光学結晶26における波長は、テラヘルツ波L3の真空における波長λ(THz)と非線形光学結晶26のテラヘルツ波の周波数帯域における屈折率n1(THz)を用いて、λ(THz)/n1(THz)と表される。非線形光学結晶26は、後述するように、その側面26aに第1レーザ光L1と第2レーザ光L2が入射されると、その上面26bから周波数ω3のテラヘルツ波を放射する。
テラヘルツ波が放射される非線形光学結晶26の上面26bには、緩衝層28が積層されており、緩衝層28の上面にはプリズム30が積層されている。
【実施例1】
【0025】
緩衝層28の厚さdは、第1レーザ光L1と第2レーザ光L2の染み出し長ξよりも厚く形成されている。また、緩衝層28は、可視光から近赤外の周波数帯域における屈折率n3(OPT)が、非線形光学結晶26の可視光から近赤外の周波数帯域における屈折率n1(OPT)よりも低い物質で形成されている。導波路デバイス20では、非線形光学結晶26に入射された第1レーザ光L1と第2レーザ光L2が緩衝層28へと染み出すことが抑制されており、非線形光学結晶26を導波路として機能させることができる。
その一方、緩衝層28の厚さdは、テラヘルツ波の緩衝層における波長にくらべて薄く設定されている。また、緩衝層28は、テラヘルツ波に対する吸収係数が小さい物質で形成されている。そのため、テラヘルツ波が非線形光学結晶26から緩衝層28を介してプリズム30に伝播される際に、テラヘルツ波が緩衝層28において減衰することが抑制される。そのため以後の説明では、テラヘルツ波の非線形光学結晶26からプリズム30への伝播を考える際に緩衝層28を省略して考えることがある。
【実施例1】
【0026】
次に、テラヘルツ波測定装置60について説明する。ボロメータ62はSiボロメータであり、測定口62aを備えている。ボロメータ62は、測定口62aを通して入射されたテラヘルツ波のエネルギーを、入射したテラヘルツ波の周波数に対応付けて測定する。測定口62aは、レンズ68を介して導波路デバイス20に対向配置されている。詳しくは、導波路デバイス20からテラヘルツ波が放射される方向に向けられている。ボロメータ62は、測定したエネルギー値であるアナログ値をPC66へと伝達する。ボロメータ62から伝達されたエネルギー値は、A/D変換機64によってデジタル化され、PC66に伝達される。PC66では、伝達されたエネルギー値を用いて、テラヘルツ波発生装置10から放射されたテラヘルツ波の周波数とエネルギー値の関係を算出する。
【実施例1】
【0027】
導波路デバイス20からテラヘルツ波が放射される様子を、図面を参照しながら説明する。上記したように、テラヘルツ波が非線形光学結晶26からプリズム30への伝播される際は、緩衝層28を省略して考えることができ、以下の説明に用いる図では緩衝層28を省略して図示している。
図3に示すように、非線形光学結晶26の側面26aに第1レーザ光L1と第2レーザ光L2が入射されると、レーザ光L1、L2の進行方向に沿って非線形光学結晶26に非線形分極が生じる。図3の下部に示す波は、非線形光学結晶26の内部の分極の様子を模式的に示している。非線形光学結晶26が2次の非線形性を有している場合、非線形光学結晶26がレーザ光L1、L2の差周波数ω3に応じた周期2Lcを有する非線形分極が生じる。ここで、周期2Lcは、第1レーザ光L1の波長λ1と第2レーザ光L2の波長λ2と非線形光学結晶26の可視光から近赤外の周波数帯域における第1レーザ光L1の屈折率n11(OPT)と非線形光学結晶26の可視光から近赤外の周波数帯域における第1レーザ光L1の屈折率n12(OPT)を用いて、数7のように表される。
【実施例1】
【0028】
【数7】
JP0005354582B2_000008t.gif
【実施例1】
【0029】
非線形光学結晶26では、第1レーザ光L1と第2レーザ光L2の入射によってエネルギー状態が励起する。励起した非線形光学結晶26は、元の状態に戻る際にエネルギー波を放射する。非線形光学結晶26が差周波数ω3に応じて分極している場合、差周波数ω3を有するテラヘルツ波L3を放射する。このとき、可視光の非線形光学結晶26における伝播速度が、テラヘルツ波L3の非線形光学結晶26における伝播速度を超え、非線形光学結晶26においてテラヘルツ波L3がチェレンコフ放射される。
非線形光学結晶26では、第1レーザ光L1と第2レーザ光L2が入射された側面26a側の点X1からテラヘルツ波L3が球面状に放射され、次に点X2からテラヘルツ波L3が球面状に放射される。点X2から放射されるテラヘルツ波L3は、点X1から放射されるテラヘルツ波L3と比べて位相が同じであり1周期遅れる。同様に、点X3からは、点X2から放射されるテラヘルツ波L3と比べて位相が同じであり、1周期遅れたテラヘルツ波L3が球面状に放射される。点X4からは、点X3から放射されるテラヘルツ波L3と比べて位相が同じであり、1周期遅れたテラヘルツ波L3が球面状に放射される。点X5からは、点X4から放射されるテラヘルツ波L3と比べて位相が同じであり、1周期遅れたテラヘルツ波L3が球面状に放射される。
【実施例1】
【0030】
各点X1~X5から同時に放射されたテラヘルツ波L3は、各々の波面の共通接線に垂直な方向へと伝播する。レーザ光の進行方向に対するテラヘルツ波L3の放射角θ(チェレンコフ角と呼ばれることがある)は、波長λ(THz)と屈折率n1(THz)と周期2Lcを用いて、数8のように表される。数7と数8から数2の関係を得ることができ、さらに近似することによって数3の関係を得ることができる。図3の上部には、非線形光学結晶26の内部においてテラヘルツ波L3が放射角θを持って放射される様子を模式的に示している。
【実施例1】
【0031】
【数8】
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【実施例1】
【0032】
非線形光学結晶26に入射される第1レーザ光L1と第2レーザ光L2は、有限の照射面積を有している。そのため、図4に示すように、第1レーザ光L1と第2レーザ光L2が非線形光学結晶26の異なる深さ位置P1、P2に同時に入射され、位置P1、P2からそれぞれテラヘルツ波L3が放射される。一般に、位置P1から放射されるテラヘルツ波L3と位置P2から放射されるテラヘルツ波の非線形光学結晶26の上面26bにおける位相は異なる。位置P1から放射されたテラヘルツ波L31と位置P2から放射されたテラヘルツ波L32の非線形光学結晶26の上面26bにおける位相が逆位相となった場合、各々の位置から放射されたテラヘルツ波L3が打ち消しあい、非線形光学結晶26から出力されるテラヘルツ波L3が弱められる。
【実施例1】
【0033】
本実施例の非線形光学結晶26では、その厚さDが、周波数ω3のテラヘルツ波L3の非線形光学結晶26における波長λ(THz)/n1(THz)の半分よりも薄く設定されている。そのため、最も位相の異なる非線形光学結晶26の上面26bから放射されたテラヘルツ波L3と非線形光学結晶26の下面26cから放射されたテラヘルツ波L3の非線形光学結晶26の上面26bにおける位相の差を「π」よりも小さく抑えることができる。これにより、非線形光学結晶26の異なる深さ位置から放射されたテラヘルツ波L3がお互いに弱め合うことが抑制される。
【実施例1】
【0034】
本実施例の非線形光学結晶26では、上記のように非線形光学結晶26の厚さDを薄く設定しておくことで、テラヘルツ波L3が非線形光学結晶26内を進行する距離を短縮することができる。これによって、非線形光学結晶26に吸収されるテラヘルツ波L3の量を減少させることができる。
【実施例1】
【0035】
非線形光学結晶26の各点から放射されたテラヘルツ波L3は、非線形光学結晶26の上面から緩衝層28を通ってプリズム30へと放射される。上記したように、プリズム30のテラヘルツ波L3の周波数帯域における屈折率n1(THz)は、非線形光学結晶26のテラヘルツ波L3の周波数帯域における屈折率n2(THz)よりも小さく設定されている。そのため、図5に示すように、非線形光学結晶26から放射されたテラヘルツ波L3がプリズム30に入射する際に屈折する。
【実施例1】
【0036】
テラヘルツ波L3のプリズム30への入射角αは、放射角θを用いて数6のように表される。また、テラヘルツ波L3が非線形光学結晶26からプリズム30へと入射される際の臨界角α0は数4のように表される。そのため、入射角αが数5の関係を満たす場合に、テラヘルツ波L3が非線形光学結晶26からプリズム30へと放射される。上記の数3~数6から、数1の関係が得られる。本実施例の導波路デバイス20では、数1の関係を満たす場合に、非線形光学結晶26で発生したテラヘルツ波L3がプリズム30へと放射される。プリズム30に放射されたテラヘルツ波は、プリズム30の上面30aから大気中へと放射される。
【実施例1】
【0037】
図6にテラヘルツ波測定装置60を用いて測定した本実施例のテラヘルツ波発生装置10から放射されるテラヘルツ波L3の周波数とエネルギー変換効率の関係を示す。図6には、特許文献1のテラヘルツ波発生装置を用いて放射させたテラヘルツ波の周波数とエネルギー変換効率の関係を比較として点線で示す。
本実施例のテラヘルツ波発生装置10では、導波路デバイス20の非線形光学結晶26に第1レーザ光L1と第2レーザ光L2をコリニアに入射する。特許文献1の技術のように、第1レーザ光L1と第2レーザ光L2の間に角度差を設ける必要がない。そのため、第1レーザ光L1と第2レーザ光L2を正確に調整することができ、テラヘルツ波L3のエネルギー変換効率を向上させることができる。
【実施例1】
【0038】
また、本実施例のテラヘルツ波発生装置10では、非線形光学結晶26の厚さDが、周波数ω3を有するテラヘルツ波L3の非線形光学結晶26における波長λ(THz)/n1(THz)の半分よりも薄く設定されている。これにより、非線形光学結晶26から放射されるテラヘルツ波L3が非線形光学結晶26において減衰することが抑制され、テラヘルツ波L3のエネルギー変換効率を向上させることができる。
【実施例1】
【0039】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
例えば、本実施例のプリズム30では、その上面30aがテラヘルツ波L3の放射方向に対して垂直となるように形成されていることが好ましい。プリズム30の上面30aが上記のように形成されていることで、テラヘルツ波L3がプリズム30から大気中に放射される際に、エネルギーが損失することが抑制され、テラヘルツ波L3の取り出し効率を高くすることができる。
【実施例1】
【0040】
非線形光学結晶26とプリズム30の境界部においても同様である。非線形光学結晶26では、その上面26bがテラヘルツ波L3の放射方向に対して垂直となるように形成されていることが好ましい。これによって、テラヘルツ波L3が非線形光学結晶26からプリズム30に放射される際に、エネルギーが損失することが抑制され、テラヘルツ波L3のエネルギー変換効率を高くすることができる。
【実施例1】
【0041】
本実施例の導波路デバイス20では、非線形光学結晶26の上面26bからテラヘルツ波L3を放射しているが、非線形光学結晶26の下面26cからテラヘルツ波L3を放射してもよい。さらには、非線形光学結晶26の上面26bと下面26cの両面から同時にテラヘルツ波L3を放射してもよい。テラヘルツ波L3を両面から放射することで、テラヘルツ波L3のエネルギー変換効率を向上させることができる。
【実施例1】
【0042】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0043】
10 テラヘルツ波発生装置
12 YAGレーザ発振機
14 KTP光パラメトリック発振機
16 レンズ
20 導波路デバイス
22 結晶台
24 接着層
26 非線形光学結晶
28 緩衝層
30 プリズム
60 テラヘルツ波測定装置
62 ボロメータ
64 A/D変換機
68 レンズ
L0 レーザ光
L1 第1レーザ光(ポンプ光)
L2 第2レーザ光(アイドラー光)
L3 テラヘルツ波
α 入射角
α0 臨界角
θ 放射角(チェレンコフ角)
ω1 第1レーザ光の周波数
ω2 第2レーザ光の周波数
ω3 テラヘルツ波の周波数
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6