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明細書 :キチンを出発源とした架橋キトサンによるモリブデン、タングステンおよびバナジウムなどのオキソアニオンの回収方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5489033号 (P5489033)
公開番号 特開2010-260028 (P2010-260028A)
登録日 平成26年3月7日(2014.3.7)
発行日 平成26年5月14日(2014.5.14)
公開日 平成22年11月18日(2010.11.18)
発明の名称または考案の名称 キチンを出発源とした架橋キトサンによるモリブデン、タングステンおよびバナジウムなどのオキソアニオンの回収方法
国際特許分類 B01D  15/00        (2006.01)
B01J  20/24        (2006.01)
B01J  20/34        (2006.01)
C08B  37/08        (2006.01)
FI B01D 15/00 N
B01J 20/24 B
B01J 20/34 G
C08B 37/08 A
請求項の数または発明の数 2
全頁数 12
出願番号 特願2009-114732 (P2009-114732)
出願日 平成21年5月11日(2009.5.11)
審査請求日 平成24年5月2日(2012.5.2)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
発明者または考案者 【氏名】馬場 由成
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100180862、【弁理士】、【氏名又は名称】花井 秀俊
審査官 【審査官】池田 周士郎
参考文献・文献 特開2004-074128(JP,A)
特開平03-278834(JP,A)
特開平03-262531(JP,A)
特開2002-020404(JP,A)
特開2004-358292(JP,A)
特開2007-224333(JP,A)
調査した分野 B01J 20/00-20/34
B01D 15/00-15/08
C08B 37/08
特許請求の範囲 【請求項1】
モリブデン、タングステンおよびバナジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンを、
架橋基によってキトサン分子間を架橋せしめた構造を有する架橋キトサンであって、キトサン分子を構成するグルコサミン単位として式(I):
【化1】
JP0005489033B2_000008t.gif

(式中、R1またはR2は、それぞれ独立して、異なるキトサン分子を構成する他のグルコサミン単位のR1またはR2と一緒になって架橋基を形成しているか、または水素であり、ただしR1およびR2が同時に水素であることはない)
で表される単位を含み、前記架橋基が、式(II):
【化2】
JP0005489033B2_000009t.gif

(式中、*印は結合位置を表す)
で表される部分構造を含む架橋基である前記架橋キトサンを含み、
前記架橋キトサンが、キチンの水酸基に架橋基を導入して架橋キチンを得る工程と、前記工程で得られた架橋キチンの構成糖であるグルコサミン単位に含まれるC-2位アセチルアミノ基を、濃アルカリ条件で脱アセチル化して架橋キトサンを得る工程とを含む方法によって製造される、金属イオンの吸着剤に接触させることを特徴とする、モリブデン、タングステンおよびバナジウムの吸着方法。
【請求項2】
モリブデン、タングステンおよびバナジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンを、
架橋基によってキトサン分子間を架橋せしめた構造を有する架橋キトサンであって、キトサン分子を構成するグルコサミン単位として式(I):
【化3】
JP0005489033B2_000010t.gif

(式中、R1またはR2は、それぞれ独立して、異なるキトサン分子を構成する他のグルコサミン単位のR1またはR2と一緒になって架橋基を形成しているか、または水素であり、ただしR1およびR2が同時に水素であることはない)
で表される単位を含み、前記架橋基が、式(II):
【化4】
JP0005489033B2_000011t.gif

(式中、*印は結合位置を表す)
で表される部分構造を含む架橋基である前記架橋キトサンを含み、
前記架橋キトサンが、キチンの水酸基に架橋基を導入して架橋キチンを得る工程と、前記工程で得られた架橋キチンの構成糖であるグルコサミン単位に含まれるC-2位アセチルアミノ基を、濃アルカリ条件で脱アセチル化して架橋キトサンを得る工程とを含む方法によって製造される、金属イオンの吸着剤に接触させる接触工程;ならびに
該吸着剤を酸性溶液または塩基性溶液で処理して、金属イオンを吸着剤から脱離させる脱離工程;
を含むことを特徴とする、モリブデン、タングステンおよびバナジウムの回収方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋キトサンを含む、モリブデン、タングステンおよびバナジウムなどのレアメタルの吸着剤およびそれらの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、レアメタルと呼ばれる希少金属は、パソコン、携帯電話およびデジタル機器のような製品への使用によって消費量が増加したことに加え、中国をはじめとする新興国が消費国に転じたことにより、世界的な価格高騰や供給不安の問題が生じつつある。とりわけ、モリブデン、タングステンおよびバナジウムは、レアメタル国家備蓄制度の対象に指定されていることが示すように、我が国において極めて重要な金属と位置づけられている。
【0003】
モリブデン、タングステンおよびバナジウムは、ステンレス鋼、構造用合金鋼、高張力鋼、合金工具鋼、鋳鍛鋼、スーパーアロイなどの原料として添加され、主として硬度、強度および靭性を高めるとともに、耐食性および耐熱性を向上させる役割を果たしている。また、モリブデンは触媒や皮革の染料に、タングステンは電球のフィラメントや携帯電話の振動子にも使用されている。
【0004】
モリブデンの場合、その世界生産の6割以上が銅生産の副産物として生産されている。また、モリブデンのリサイクル動向としては、使用済み触媒についてソーダ焙焼法による回収が工業的に行われているが、この方法ではニッケル、コバルトなどの金属はほとんど回収されない。タングステンの場合、スクラップや使用済み製品は、鉱石から湿式処理、溶解処理、溶媒抽出により不純物を除去し、高純度APT(パラタングステン酸アンモニウム)を製造することで金属へ転換して再生利用を図っている。しかしながら、上記の方法は複雑な工程を含むことに加えて選択性が低いため、高純度のモリブデンやタングステンを得るためには多くの時間とプロセスが必要となる。
【0005】
ところで、一次産業を多く抱える宮崎県では、農業、漁業や食品加工業の現場から大量のバイオマス廃棄物(柑橘果汁滓やカニおよびエビの殻など)が発生している。環境保護意識の高まりによって廃棄物の海洋投棄ができなくなった現在では、上記のようなバイオマス廃棄物の処理技術や有効利用技術の開発も急を要する課題となっている。
【0006】
前記バイオマス廃棄物のうち、例えばカニおよびエビなどの甲殻類の殻は、構成成分として多糖類のキチンを大量に含有している。キチンはN-アセチルグルコサミンの重合体であり、脱アセチル化によってキトサンを製造することができる。キトサンは第一級アミノ基を有するカチオン性多糖であることから、かかるアミノ基および糖鎖骨格の水酸基を利用した機能性材料として、様々な用途が提案されている。例えば、金属吸着剤の用途として、キトサンのアミノ基に4-(アルキルチオ)ベンジル基を導入したキトサン誘導体からなる、金イオンを選択的に分離可能な吸着剤(特許文献1)などが提案されている。上記のように、キトサンを金属吸着剤に使用する場合、金属イオンの配位子として作用する置換基をアミノ基に導入する手法が慣用されているが、導入する置換基によっては、吸着処理を行う溶液のpHを調整した際に、キトサン誘導体自体が溶解する問題が生じる場合がある。かかる問題点を解決するため、本発明者は、化学的に安定な分子間架橋構造を有する架橋キトサンを含む金属イオンの吸着剤を開発した。例えば、分子間架橋構造を有する架橋キトサンであって、C-2位アミノ基にピリジン環を含む置換基および/またはチオフェンを含む置換基を有し、金、パラジウム、白金などを選択的に吸着する、貴金属イオンの捕集剤およびその製法(特許文献2)、エピクロロヒドリンなどによって形成された架橋キトサンを用いる金属イオンの選択的回収方法であって、該キトサンのC-2位アミノ基にピリジルメチル基を導入することにより、亜鉛イオンに対する選択性を高めた回収方法(特許文献3)、分子間架橋構造および金属イオン配位子を有する架橋キトサンであって、配位子を有する架橋基を用いることによって製造工程を簡略化し、かつ金、パラジウムおよび白金に対する吸着選択性を高めた、架橋キトサンの製造方法(特許文献4)などである。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2004-255302号公報
【特許文献2】特開平6-227813号公報
【特許文献3】特開2007-224333号公報
【特許文献4】特開2008-95072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、金、パラジウム、白金などの貴金属を選択的に回収できる技術はすでに開発されているが、モリブデン、タングステンおよびバナジウムのようなレアメタルを効率よく回収できる技術は未だ知られていない。いわゆる都市鉱山から排出されるレアメタルを回収する場合、廃棄物中に含まれるレアメタル含有量は微量であることから、かかる用途に適用される回収方法は、対象となる金属に対する選択性が高いこととともに、低ランニングコストで実施できることが不可欠となる。それ故本発明は、バイオマス廃棄物を有効利用することによって、モリブデン、タングステンおよびバナジウムを効率的に回収することができる、架橋キトサンを含む吸着剤を用いたモリブデン、タングステンおよびバナジウムの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、架橋キトサンを金属イオン吸着剤として用いることによって、モリブデン、タングステンおよびバナジウムを選択的に分離できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)架橋基によってキトサン分子間を架橋せしめた構造を有する架橋キトサンであって、キトサン分子を構成するグルコサミン単位として式(I):
【化1】
JP0005489033B2_000002t.gif
(式中、R1またはR2は、それぞれ独立して、異なるキトサン分子を構成する他のグルコサミン単位のR1またはR2と一緒になって架橋基を形成しているか、または水素であり、ただしR1およびR2が同時に水素であることはない)
で表される単位を含む前記架橋キトサンを含む、金属イオンの吸着剤。
【0011】
(2)前記架橋基が、式(II):
【化2】
JP0005489033B2_000003t.gif
(式中、*印は結合位置を表す)
で表される部分構造を含む架橋基であることを特徴とする、前記(1)の吸着剤。
【0012】
(3)モリブデン、タングステンおよびバナジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンを、前記(1)または(2)の吸着剤に接触させることを特徴とする、モリブデン、タングステンおよびバナジウムの吸着方法。
(4)モリブデン、タングステンおよびバナジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンを、前記(1)または(2)の吸着剤に接触させる接触工程;ならびに
該吸着剤を酸性溶液または塩基性溶液で処理して、金属イオンを吸着剤から脱離させる脱離工程;
を含むことを特徴とする、モリブデン、タングステンおよびバナジウムの回収方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、モリブデン、タングステンおよびバナジウムを効率的に回収することができる、架橋キトサンを含む吸着剤を用いたモリブデン、タングステンおよびバナジウムの回収方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の金属イオンの吸着剤による、各種金属イオンの吸着率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
1.金属イオンの吸着剤
本発明によって提供される金属イオンの吸着剤は、架橋基によってキトサン分子内または分子間を架橋せしめた構造を有する架橋キトサンを含む。本明細書において、「架橋キトサン」は、1,4’-β-グリコシド結合によって結合したグルコサミンの重合体からなる複数のキトサン分子を、C-3位またはC-6位水酸基に導入された架橋基を介して、さらに分子内または分子間架橋した重合体を意味する。前記架橋キトサンは、キトサン分子を構成するグルコサミン単位として式(I):
【化3】
JP0005489033B2_000004t.gif
で表される単位を含むことを特徴とする。なお、上記の式中、R1またはR2は、それぞれ独立して、同一または異なるキトサン分子を構成する他のグルコサミン単位のR1またはR2と一緒になって架橋基を形成しているか、または水素であり、
ただしR1およびR2が同時に水素であることはなく、
前記架橋基の少なくとも1つは、異なるキトサン分子間に形成された架橋基である。前記架橋基は、限定するものではないが、例えば、エピクロロヒドリン、ジエポキシアルカン、ジエポキシアルケン、ジアルデヒド類(グルタルアルデヒド等)、ジイソシアネート類(トルエンジイソシアネート等)、またはメチレンビスアクリルアミドなどの二官能基を有する架橋剤によって形成される架橋基であることが好ましい。より好ましくは、前記架橋基は、エピクロロヒドリンによって形成される、式(II):
【化4】
JP0005489033B2_000005t.gif
(式中、*印は結合位置を表す)
で表される部分構造を含む架橋基、好ましくは該構造からなる架橋基(このとき、*印はグルコサミン単位のC-3位またはC-6位の酸素との結合位置を示す)である。

【0016】
架橋キトサンに含まれる末端グルコサミン単位のC-1位およびC-4位水酸基は、それぞれ独立して、未置換の水酸基として存在していてもよく、またはメチル基のようなアルキル基などの別の置換基によってさらに置換されていてもよい。

【0017】
より典型的には、前記架橋キトサンは、架橋基によってキトサン分子間を架橋せしめた構造を有する架橋キトサンであって、上記の式(I)中、R2は水素であり、R1は他のグルコサミン単位のR1と一緒になって、式(II)で表される部分構造を含む架橋基を形成している。

【0018】
非架橋のキトサンは、中性溶液に対しては不溶性であるものの、塩酸その他の酸による酸性溶液中では、構成糖であるグルコサミン単位に含まれるC-2位アミノ基が解離性の塩を形成するため溶解する。これに対して、本発明に使用される架橋キトサンは、上記のように強固な架橋構造を有するために、酸性溶液中で解離性の塩を形成しても、重合体分子全体が溶解することはない。また、前記架橋基は、エーテル結合を介してキトサン分子と結合しているため化学的に安定であり、耐アルカリ性も高い。それ故、上記のような架橋キトサンを用いることによって、金属イオンの吸着および/または脱離に適した酸性および塩基性溶液中でも実質的に溶解することのない、化学的に安定な吸着剤を得ることが可能となる。

【0019】
本発明の金属イオンの吸着剤は、上記の架橋キトサンが不溶性の樹脂に保持された形態で使用してもよい。しかしながら、上記の構造を有する架橋キトサンは、水和してもほとんど膨潤しない。それ故、本発明に使用される金属イオンの吸着剤は、上記の架橋キトサン自体を金属イオンの吸着樹脂として使用することが好ましい。これにより、樹脂への保持工程を追加することなく吸着剤を得ることが可能となり、かつ膨潤に伴う体積変動などの好ましくない影響を生じることのない、操作性の高い吸着剤を得ることが可能となる。

【0020】
本発明に使用される上記の架橋キトサンは公知の物質であって、例えば、本発明者によって完成された特開2007-224333号公報に記載の方法によって製造することができる。まず、上記で説明した架橋剤を用いて、出発物質であるキチンの水酸基に架橋基を導入して架橋キチンを得る。出発物質として用いられるキチンは、カニおよびエビなどの甲殻類の殻から分離・精製したものを使用してもよく、あらかじめ工業的に精製されたキチンを使用してもよい。次いで、架橋キチンの構成糖であるグルコサミン単位に含まれるC-2位アセチルアミノ基を、水酸化ナトリウムなどの濃アルカリ条件で脱アセチル化して、本発明に使用される架橋キトサンを得ることができる。上記の方法で架橋キトサンを製造することにより、低コストかつ高収率で本発明の金属イオンの吸着剤を得ることが可能となる。

【0021】
本発明の金属イオンの吸着剤に含まれる架橋キトサンは、グルコサミン単位のC-2位にアミノ基を、C-3位もしくはC-6位、および場合により架橋基に水酸基を有する。それ故、本発明に使用される架橋キトサンは、これらの官能基に含まれる窒素原子や酸素原子を介して、モリブデン、タングステン、バナジウム、ガリウム、インジウム、鉄、パラジウム、銅およびクロムなどの金属イオンを高い吸着率で吸着することができる。このうち、モリブデン、タングステン、バナジウムおよびクロムはオキソアニオンとしても存在しうる金属であり、これらの金属イオンを含む溶液中では、pH変化に依存して複数のイソポリ酸のイオン種を含むオキソアニオンの平衡混合物が存在する。これらの金属のオキソアニオンは、主として前記C-2位アミノ基によって、架橋キトサンに強く吸着される。それ故、グルコサミン単位にアミノ基を有する上記の架橋キトサンを吸着剤に含むことにより、オキソアニオンとして存在するモリブデン、タングステン、バナジウムおよびクロムのような金属イオンを高い吸着率で吸着することが可能となる。

【0022】
2.金属イオンの吸着方法
本発明の金属イオンの吸着方法は、少なくとも一種の金属イオンを、本発明によって提供される金属イオンの吸着剤に接触させることを特徴とする。本発明の金属イオンの吸着方法に使用される吸着剤は、上記で説明した架橋キトサンを含む金属イオンの吸着剤であることが好ましい。この場合において、使用される吸着剤の重量は、吸着すべき金属イオンの種類および/または濃度に依存して適宜設定される。例えば、以下に説明する好適な条件の場合、使用される吸着剤の重量は、金属イオン1 mmolに対して0.2~1 gであることが好ましい。

【0023】
本発明の吸着方法の対象となる金属イオンとしては、上記で説明した本発明の金属イオンの吸着剤の特性から、モリブデン(VI)、タングステン(VI)、バナジウム(V)、ガリウム(III)、インジウム(III)、鉄(III)、パラジウム(II)、銅(II)およびクロム(VI)の各イオンであることが好ましく、モリブデン、タングステンおよびバナジウムの各イオンであることが特に好ましい。これらの金属イオンに対して、上記の構成の吸着剤を使用することにより、高い吸着率で金属イオンを吸着することが可能となる。

【0024】
本発明の吸着方法において、金属イオンを吸着剤に接触させる方法としては、限定するものではないが、例えば(1)金属イオンを含む溶液に、金属イオンの吸着剤を加えて浸漬し、混合する(バッチ法);(2)カラムに金属イオンの吸着剤を充填し、金属イオンを含む溶液をカラム端部の一方から通液する(カラム法);などの方法のいずれか1つまたはそれらを組み合わせて実施することが可能である。金属イオンを含む溶液が少量の場合には、高い吸着率を達成できることからカラム法を用いることが好ましい。しかしながら、処理すべき金属イオンの溶液が大量の場合には、溶液の体積に比例してカラム作製に要するコストおよび労力が上昇する。それ故、大量の溶液を処理する場合には、バッチ法を用いることがより好ましい。

【0025】
バッチ法を用いて実施する場合、混合は容器内に設置した撹拌装置により実施してもよく、外部に設置した振盪装置によって容器全体を振盪することにより実施してもよい。撹拌速度および振盪速度は、使用する容器の形状および/または溶液の体積に依存して変動しうるが、撹拌速度は100~200 rpm程度であることが好ましく、振盪速度は100~200 rpm程度であることが好ましい。吸着剤に対する金属イオンの吸着が平衡状態に達するまでに必要となる時間は、対象となる金属イオンの種類に依存して変動しうるが、4~12時間であることが好ましい。また、平衡状態に達するまでの温度は、20~30℃であることが好ましい。上記の方法で金属イオンを吸着剤に接触させることにより、効率的に本発明の吸着方法を実施することが可能となる。

【0026】
本発明の吸着方法において、「金属イオンを含む溶液」は、少なくとも一種の対象となる金属イオンを含む溶液を意味し、一種以上の別の金属イオンをさらに含んでいてもよい。それ故、例えば使用済み触媒の回収液、電子部品・電子機器のスクラップ廃液などを、前記金属イオンを含む溶液としてそのまま使用してもよく、適宜前処理を行って、不溶性残渣や対象となる金属イオン以外の様々な夾雑物を除いた後に使用してもよい。本発明の吸着方法において、前記溶液中の対象となる金属イオンの濃度は、0.1~1 mmol dm-3であることが好ましい。上記の濃度で溶液中に含まれる金属イオンを、吸着剤に接触させることにより、高い吸着率で対象となる金属イオンを吸着することが可能となる。

【0027】
上記で説明したように、本発明の吸着方法に特に好適な金属イオンであるモリブデン、タングステンおよびバナジウムイオンは、pH変化に依存して複数のイソポリ酸のイオン種を含むオキソアニオンの平衡混合物として存在する。このため、pH変化に依存してより重合度の高いイソポリ酸に平衡状態が遷移すると、本発明の吸着剤に対する吸着率もより高くなる。それ故、所望の金属について、より重合度の高いイソポリ酸に平衡状態が遷移するように、金属イオンを含む溶液のpHを適宜調整することが好ましい。例えば、モリブデン(VI)を選択的に吸着するためには、平衡pH 3~4となるように溶液のpHを調整することが好ましい。タングステン(VI)を選択的に吸着するためには、平衡pH 1~5となるように溶液のpHを調整することが好ましい。バナジウム(V)を選択的に吸着するためには、平衡pH 4~8となるように溶液のpHを調整することが好ましい。かかるpH調整は、金属イオンを吸着剤に接触させる前まで、および/または金属イオンを吸着剤に接触させた後から金属イオンの吸着が平衡状態に達するまでの間に実施することが好ましい。上記のように、金属イオンを含む溶液のpHを調整することにより、所望の金属イオンを選択的に吸着することが可能となる。

【0028】
3.金属イオンの回収方法
本発明の金属イオンの回収方法は、少なくとも一種の金属イオンを、本発明によって提供される金属イオンの吸着剤に接触させる接触工程;ならびに該吸着剤を酸性溶液または塩基性溶液で処理して、金属イオンを吸着剤から脱離させる脱離工程;を含む。本発明の回収方法に使用される金属イオンの吸着剤、および対象となる金属イオンは、上記で説明した金属イオンの吸着方法の場合と同様である。

【0029】
本発明の金属イオンの回収方法において、接触工程は、少なくとも一種の金属イオンを、本発明によって提供される金属イオンの吸着剤に吸着させることを目的とする。本工程は、上記で説明した金属イオンの吸着方法と同様の態様で実施することができる。所望の金属イオンが吸着された吸着剤は、例えば濾過などの方法によって、他の金属イオンを含む溶液から分離されることが好ましい。

【0030】
本発明の金属イオンの回収方法において、脱離工程は、金属イオンを吸着剤から脱離させることを目的とする。本工程において使用される酸性溶液は、限定するものではないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、または酢酸、クエン酸、シュウ酸などの有機酸を少なくとも一種含むことが好ましい。また、本工程において使用される塩基性溶液は、限定するものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムを少なくとも一種含むことが好ましい。前記酸性溶液または塩基性溶液に含まれる酸または塩基の当量は、それらの種類に依存して異なるが、吸着剤より脱離させる金属イオンに対して1~10 mol当量であることが好ましい。また、前記酸性溶液または塩基性溶液の濃度は、例えば塩酸酸性溶液の場合では、1~5 mol dm-3であることが好ましく、1~3 mol dm-3であることがより好ましい。また、水酸化ナトリウム水溶液の場合では、0.1~3 mol dm-3であることが好ましく、0.1~1 mol dm-3であることがより好ましい。

【0031】
以上説明したように、本発明の金属イオンの吸着剤は、モリブデン、タングステンおよびバナジウムを高い吸着率で吸着することができる。それ故、前記吸着剤を用いる金属イオンの吸着方法および回収方法は、モリブデン、タングステンおよびバナジウムの分離回収に利用することができる。また、本発明の金属イオンの吸着剤は、化学的に非常に安定であることに加えて、吸着された金属イオンを酸性溶液または塩基性溶液で容易に脱離させることが可能であることから、工業的な規模で長期にわたって使用することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
1.架橋キトサン(CLAC)の調製
CLACの合成スキームを以下に示す。110 gのキチンを、600 cm3のエピクロロヒドリンおよび400 cm3のジメチルスルホキシド(DMSO)混合溶液と混合し、氷浴中で3時間撹拌した。上記の溶液に、600 cm3の0.5 mol dm-3 水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)を加えてさらに混合した。架橋反応の際に起こりうる、NaOHによる脱アセチル化を防ぐために、上記の反応溶液を氷浴中で48時間撹拌した。反応によって生じた架橋キチンを脱アセチル化するために、上記の反応溶液を40重量% NaOHと混合し、130℃で3時間、加熱撹拌した。得られた反応溶液を中和し、濾過した後、濾過残渣を蒸留水、エタノール、酢酸、塩酸、水酸化ナトリウム水溶液で順次洗浄した。次いで、濾液のpHが中性になるまで、前記濾過残渣を蒸留水で繰り返し洗浄した。洗浄後、前記濾過残渣を乾燥機内で乾燥させて、架橋キトサン(CLAC)を得た。なお、生成物の確認はFT-IR(SIMADZU FT-IR-8200)を用いて行った。
【実施例】
【0033】
【化5】
JP0005489033B2_000006t.gif
【実施例】
【0034】
2.CLACによる硝酸アンモニウム水溶液に含まれる各種金属の吸着
25 mmol dm-3の各種金属イオン溶液を、0.1 mol dm-3または1 mol dm-3硝酸アンモニウム水溶液(NH4NO3)を用いて、金属イオン濃度が1 mmol dm-3となるように希釈し、1N HNO3と1N NH3を用いて、それぞれ所定のpH(pH 0~8)に調整した。各15 cm3の金属イオン溶液に、上記の手順で調製したCLACを0.05 gずつ加え、吸着試料とした。前記吸着試料を、30℃の恒温槽中で、振盪速度120 rpmで24時間振盪し、その後濾紙で濾過した。各濾液の平衡pHを、pHメーターを用いて測定するとともに、平衡後および平衡前の金属イオン濃度を、原子吸光光度計(PERKIN ELMER Analyst 100)およびICP発光分光装置(ICPS-7000)を用いて測定し、各金属イオンの吸着率を算出した。結果を図1に示す。
【実施例】
【0035】
図1に示すように、Mo(VI)はpH3付近、W(VI)は低pH領域、V(V)は高pH領域でそれぞれ100%近い吸着率を示した。同じ金属イオンであってもpHによって吸着率に違いが生じたのは、上記の金属イオンはすべて多価イオンであり、オキソアニオンの平衡混合物を形成するため、pHに依存して多くの化学種が存在することに起因すると推測される。各金属イオンについて高い吸着率を示した上記のpH範囲では、各金属元素が重合することにより、イソポリ酸を形成していると考えられている。それ故、CLACとも重合を形成することにより、高い吸着率を示したと推測される。前記推測は、いずれの金属イオンについても、重合を形成しないpH範囲においては吸着率が低下していることからも支持される。
【実施例】
【0036】
3.CLACからの各種金属の脱離
上記と同様の方法により、Mo(VI)、W(VI)およびV(V)の各金属イオン濃度が1 mmol dm-3の溶液をそれぞれ4検体ずつ調製(Mo(VI):pH 1.8、W(VI):pH 1.6、V(V):pH 2.0)し、それぞれに0.05 gのCLACを加えて、上記の条件で金属イオンを吸着させた。吸着処理終了後、吸着剤を濾取し、水で洗浄した。洗浄済の吸着剤を、0.1および1 mmol dm-3 HCl、ならびに0.1および1 mmol dm-3 NaOH(各15 cm3)の各脱離溶液に、30℃で 24 時間浸漬して、金属イオンを吸着剤から脱離させた。その後、吸着剤を含む溶液を濾紙で濾過し、濾液を回収した。吸着前後の濾液について、上記と同様の方法により金属イオン濃度を測定し、各金属イオンの脱離率を算出した。結果を表1に示す。
【実施例】
【0037】
【表1】
JP0005489033B2_000007t.gif
【実施例】
【0038】
表1に示すように、Mo(VI)は、1.0 mmol dm-3HClで処理することにより、ほぼ90%の脱離率を達成した。これに対して、W(VI)は、1.0 mmol dm-3 HClでも4%程度しか脱離せず、0.1 mmol dm-3 NaOHによって100%脱離した。また、V(V)は、0.1 mmol dm-3 HClで処理するのみで100%脱離した。
【実施例】
【0039】
以上の結果を考察する。上記で説明したように、各金属イオンはより高い重合度のイソポリ酸を形成しうる至適pH範囲で高い吸着率を示していると考えられる。それ故、金属イオンを吸着した吸着剤を酸性溶液または塩基性溶液で処理することで、至適pH範囲外にpHを変化させると、オキソアニオンの平衡状態が遷移して吸着剤より脱離すると推測される。したがって、吸着工程および脱離工程のpHを適宜調整することにより、各金属イオンを選択的に回収できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、使用済み触媒からのモリブデンの回収、スクラップおよび/もしくは使用済み製品からのタングステンの回収など、レアメタルのリサイクル事業に利用することができる。また、本発明の金属イオンの吸着剤に含まれる架橋キトサンは、カニおよびエビなどの甲殻類の殻から安価に製造することができるため、レアメタルの回収コストを低廉に抑えることが可能となるとともに、バイオマス廃棄物の有効活用を図ることが可能となる。
図面
【図1】
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