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明細書 :光応答性二酸化炭素吸収材料および二酸化炭素回収方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5392902号 (P5392902)
登録日 平成25年10月25日(2013.10.25)
発行日 平成26年1月22日(2014.1.22)
発明の名称または考案の名称 光応答性二酸化炭素吸収材料および二酸化炭素回収方法
国際特許分類 B01D  53/62        (2006.01)
B01D  53/14        (2006.01)
C08F 220/10        (2006.01)
FI B01D 53/34 135Z
B01D 53/14 102
B01D 53/14 103
C08F 220/10
請求項の数または発明の数 14
全頁数 20
出願番号 特願2009-59478 (P2009-59478)
出願日 平成21年3月12日(2009.3.12)
審査請求日 平成24年2月23日(2012.2.23)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
発明者または考案者 【氏名】鈴木 隆之
個別代理人の代理人 【識別番号】100083806、【弁理士】、【氏名又は名称】三好 秀和
【識別番号】100100712、【弁理士】、【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
【識別番号】100100929、【弁理士】、【氏名又は名称】川又 澄雄
【識別番号】100095500、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 正和
【識別番号】100101247、【弁理士】、【氏名又は名称】高橋 俊一
【識別番号】100098327、【弁理士】、【氏名又は名称】高松 俊雄
特許請求の範囲 【請求項1】
重合可能なエチレン性不飽和結合と、下式(I)又は(II)で示される基とを有する光応答性化合物と、
重合可能なエチレン性不飽和結合を有する四級化アミン化合物、前記不飽和結合を有するスルホベタイン化合物及び前記不飽和結合を有するカルボベタイン化合物、並びに(メタ)アクリルアミド化合物及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも一種の、親水基を有する化合物と
を含む単量体成分を共重合させてなる共重合体を用いる二酸化炭素回収方法であって、
暗所下で、二酸化炭素を含む気相と前記共重合体を含む水とを接触させ、二酸化炭素を水に溶解させ、前記共重合体に水中のプロトンを吸着させた後、可視光照射下で、前記共重合体に吸着したプロトンを水中に脱離させ、水中に溶解した二酸化炭素を気相中に放出させ、回収することを特徴とする二酸化炭素回収方法。【化1】
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(式(I)及び(II)中、Xは水素原子が一個結合した炭素原子、又は窒素原子であり、Yは酸素原子又は硫黄原子である。R、Rは独立に水素原子又はアルキル基であり、Rはアルキル基である。)
【請求項2】
水中のプロトンを吸着させた前記共重合体を含む水を、回収用の気相下に移動させた後に、前記可視光照射を行う、請求項1記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項3】
前記共重合体は非水溶性であって、
水中のプロトンを吸着させた前記共重合体を取りだし、回収用の気相下の別の水中に移動させた後に、前記可視光照射を行う、請求項1記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項4】
前記光応答性化合物が、
1´,3´,3´-トリメチル-6-(アクリロイルオキシ)スピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2´-インドール)及び
1´,3´,3´-トリメチル-6-(メタクリロイルオキシ)スピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2´-インドール)の少なくともいずれかを含む請求項1~3のいずれか記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項5】
前記親水基を有する化合物が、重合可能なエチレン性不飽和結合を有する四級化アミン化合物及び重合可能なエチレン性不飽和結合を有するスルホベタイン化合物の少なくとも一方を含み、
前記共重合体を含む水は更に、塩化物イオン、臭素イオン及びヨウ素イオンからなる群から選ばれる一種以上と、ナトリウムイオン、カリウムイオン及びマグネシウムイオンからなる群から選ばれる一種以上とを含む、請求項1~4のいずれか記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項6】
前記共重合体を含む水は、塩化物イオン及びナトリウムイオンを含む請求項5記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項7】
前記共重合体は非水溶性であって、
水中のプロトンを吸着させた前記共重合体を取りだし、回収用の気相下の前記イオンのいずれも含まない水中に移動させた後に、前記可視光照射下に代えて暗所下で、前記プロトンを水中に脱離させる、請求項5又は6記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項8】
前記四級化アミン化合物は、下式(IV)で示される基及び下式(V)で示される基の少なくとも一方を有する請求項1~7のいずれか記載の二酸化炭素回収方法。【化2】
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【化3】
JP0005392902B2_000013t.gif

【請求項9】
前記四級化アミン化合物が、
N,N,N-トリメチル-N-アクリロイルオキシエチルアンモニウムクロリド、
N,N,N-トリメチル-N-メタクリロイルオキシエチルアンモニウムクロリド、
[2-(アクリロイルオキシ)エチル]-ジメチル-(3-スルホプロピル)-アンモニウムヒドロキシド及び
[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]-ジメチル-(3-スルホプロピル)-アンモニウムヒドロキシドからなる群から選ばれる一種以上を含む請求項1~8のいずれか記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項10】
前記共重合体は基材に担持されている請求項1~9のいずれか記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項11】
前記基材が、ガラス、酸化金属、酸化珪素、シリカゲル、珪藻土、スチレンの重合体、アクリル酸の重合体及びメタクリル酸の重合体からなる群から選ばれる一種以上である請求項10記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項12】
前記共重合体は、さらに架橋剤及びカップリング剤の少なくとも一方を用いて得られる請求項1~11のいずれか記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項13】
繊維、細粒及び細管からなる群から選ばれる一種以上に前記共重合体が担持されている請求項10~12のいずれか記載の二酸化炭素回収方法。
【請求項14】
前記共重合体に吸着する前記プロトンが、水と、水に溶解した二酸化炭素とから生じた炭酸の解離によるプロトンである請求項1~13のいずれか記載の二酸化炭素回収方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光応答性二酸化炭素吸収材料と、それを用いた二酸化炭素回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場、火力発電所等から排出される排気に通常の大気中濃度(約0.03~0.04%)よりも高濃度の二酸化炭素が含まれる場合、効率良く二酸化炭素を回収する方法が、環境汚染防止、温室効果ガス削減の理由から望まれている。
【0003】
二酸化炭素を含む空気から二酸化炭素を除去する方法には、吸収材料としてアミンや炭酸カリウムなどのアルカリ性水溶液を用いる化学吸収法(例えば、特許文献1参照。)、メタノールやポリエチレングリコールを用いる物理吸収法、ゼオライト等の多孔質材料を用いるPSA法等が実用化されている。これらの方法で空気を処理した後、二酸化炭素を吸収材料から分離し、貯蔵するステップが設けられている。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開平11-267442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような吸収材料による二酸化炭素回収方法にあたっては、稼動の際の加熱・加圧エネルギー、およびそれによる処理コストが多大である。また、大規模な装置や、高温高圧に対する安全性を確保する必要がある。
【0006】
そこで、本発明者は、光可逆的にプロトンが結合する化合物に着目し、水中に溶解した二酸化炭素(CO)が、炭酸(HCO)となり、引き続き、炭酸水素イオン(HCO)や炭酸イオン(CO2-)へとプロトンが解離していく可逆反応の平衡関係を制御することにより、二酸化炭素を回収する本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(12)に関する。
【0008】
(1) 気相中の二酸化炭素の回収に用いられる吸収材料であって、
水中でプロトンの吸着及び脱離の転移を光照射の有無により可逆的に示す光応答性化合物と、親水基を有する化合物とを含む単量体成分を共重合させてなる共重合体を含むことを特徴とする光応答性二酸化炭素吸収材料。
【0009】
(2) 前記光応答性化合物は、下式(I)または(II)で示される基と、重合可能なエチレン性不飽和結合とを有する化合物である前記(1)記載の光応答性二酸化炭素吸収材料。【化1】
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【0010】
(式(I)および(II)中、Xは水素原子が一個結合した炭素原子、または窒素原子であり、Yは酸素原子または硫黄原子である。R、Rは独立に水素原子またはアルキル基であり、Rはアルキル基である。
【0011】
(3) 前記光応答性化合物が、
1´,3´,3´-トリメチル-6-(アクリロイルオキシ)スピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2´-インドール)または
1´,3´,3´-トリメチル-6-(メタクリロイルオキシ)スピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2´-インドール)
である前記(1)または(2)記載の光応答性二酸化炭素吸収材料。
【0012】
(4) 前記親水基を有する化合物は、重合可能なエチレン性不飽和結合を有する四級化アミン化合物、前記不飽和結合を有するスルホベタイン化合物、前記不飽和結合を有するカルボベタイン化合物、(メタ)アクリルアミド化合物またはヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートである前記(1)~(3)のいずれか記載の光応答性二酸化炭素吸収材料。
【0013】
(5) 前記親水基を有する化合物が、重合可能なエチレン性不飽和結合を有し、四級化アミン化合物またはスルホベタイン化合物であって、前記共重合体は、塩化物イオンおよびナトリウムイオンを含む水中で、暗所下でプロトンを吸着し、可視光照射下でプロトンを脱離する前記(1)~(4)のいずれか記載の光応答性二酸化炭素吸収材料。
【0014】
(6) 前記四級化アミン化合物は、下式(IV)で示される基または下式(V)で示される基を有する前記(4)または(5)記載の光応答性二酸化炭素吸収材料。【化2】
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【0015】
(7) 前記四級化アミン化合物が、
N,N,N-トリメチル-N-アクリロイルオキシエチルアンモニウムクロリド、
N,N,N-トリメチル-N-メタクリロイルオキシエチルアンモニウムクロリド、
[2-(アクリロイルオキシ)エチル]-ジメチル-(3-スルホプロピル)-アンモニウムヒドロキシドまたは
[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]-ジメチル-(3-スルホプロピル)-アンモニウムヒドロキシドである前記(6)記載の光応答性二酸化炭素吸収材料。
【0016】
(8) 基材に前記共重合体が担持されている前記(1)~(7)のいずれか記載の光応答性二酸化炭素吸収材料。
【0017】
(9) 基材が、ガラス、酸化金属、酸化珪素、シリカゲル、珪藻土、スチレンの重合体、アクリル酸の重合体、メタクリル酸の重合体のいずれかである前記(8)記載の光応答性二酸化炭素吸収材料。
【0018】
(10) 前記単量体成分にさらに架橋剤またはカップリング剤を含む前記(1)~(9)のいずれか記載の光応答性二酸化炭素吸収材料。
【0019】
(11) 繊維、細粒、または細管に共重合体が担持されている前記(8)~(10)のいずれか記載の光応答性二酸化炭素吸収材料。
【0020】
(12) 前記(1)~(11)のいずれか記載の光応答性二酸化炭素吸収材料を用いて、水中のプロトンを吸着した後に脱離することにより、気相中の二酸化炭素を、別の気相へ回収することを特徴とする二酸化炭素回収方法。
【0021】
(13) 前記光応答性二酸化炭素吸収材料内の共重合体と、プロトンとを、暗所下の水中で吸着させる工程と、
回収用の気相下で、水中の前記プロトンを共重合体から脱離させる工程とを含む前記(12)記載の二酸化炭素回収方法。
【0022】
(14) 前記プロトンが、水と気相から水へ溶解した二酸化炭素とから生じた炭酸の解離によるプロトンである前記(12)または(13)記載の二酸化炭素回収方法。
【0023】
(15) 光応答性二酸化炭素吸収材料内の共重合体を形成する、前記親水基を有する化合物は、重合可能なエチレン性不飽和結合を有する、四級化アミン化合物またはスルホベタイン化合物であって、水中に塩化物イオンおよびナトリウムイオンを含む前記(12)~(14)のいずれか記載の二酸化炭素回収方法。
【0024】
(16) プロトンを共重合体から脱離させる工程を、塩化物イオンおよびナトリウムイオンのいずれも含まない水中で行う前記(15)記載の二酸化炭素回収方法。
【0025】
(17) プロトンを共重合体から脱離させる工程において、可視光を照射してプロトンを脱離させる前記(13)~(16)のいずれか記載の二酸化炭素回収方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、二酸化炭素を、常温・常圧で回収できるため、回収に必要なエネルギーが低く、作業性がよく、また装置を小規模化できる。
【0027】
本発明の二酸化炭素吸収材料、二酸化炭素回収の媒体として使用される水および回収を効率化する塩類は、いずれもアルカリのように生体に特に悪影響を及ぼさないため、二酸化炭素回収時の吸収材料溶液は取り扱いが安全で、作業性が良く、前記溶液が劣化した後も廃棄が容易である。
【0028】
さらに本発明の二酸化炭素吸収材料および回収方法は、色調変化による二酸化炭素センサーとしても利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例1の、各種二酸化炭素濃度の気相と接触した共重合体P(TMMEACl-SPAA)水溶液の暗所下での紫外可視吸収スペクトルを測定したグラフであり、Aは二酸化炭素濃度0%(窒素100%)、Bは0.3%、Cは1%、Dは2%、Eは3%、Fは100%のスペクトルである。
【図2】本発明の実施例2の暗所下および可視光照射下の共重合体P(TMMEACl-SPAA)水溶液の紫外可視吸収スペクトルを測定したグラフであり、Aは暗所下、気相内の二酸化炭素濃度約0.03%(大気)、Bは暗所下、0.3%、Cは暗所下、3%、Dは前記Cへ可視光を照射したスペクトルである。
【図3】本発明の実施例3の塩化ナトリウム存在下の、各種二酸化炭素濃度の気相と接触した暗所下での共重合体P(TMMEACl-SPAA)水溶液の紫外可視吸収スペクトルを測定したグラフであり、(a)は塩化ナトリウム濃度1質量%で、Aは二酸化炭素0%(窒素100%)、Bは、0.3%、Cは1%、Dは2%、Eは3%のスペクトルであり、(b)は塩化ナトリウム濃度2質量%で、二酸化炭素濃度は(a)と同じとしたスペクトルである。
【図4】本発明の実施例4において気相中の窒素増加に対する共重合体P(TMMEACl-SPAA)水溶液の紫外可視吸収スペクトルを測定したグラフであり、Aは気相中二酸化炭素約0.03%(大気)、Bは二酸化炭素3%、Cは窒素100%(二酸化炭素0%)のスペクトルである。
【図5】本発明の実施例5において光可逆的な二酸化炭素移動に対するHPTSの蛍光スペクトルを測定したグラフであり、(a)はHPTSの純水への水溶液の暗所下で、実線は窒素100%、破線は二酸化炭素3%、点線は前記二酸化炭素3%窒素の状態から再度窒素100%の各気相と接触させて測定した蛍光スペクトルである。(b)はP(TMMEACl-SPAA)水溶液と気相で繋いだHPTSの蛍光スペクトルを測定したグラフであり、点線は暗所下で気相中二酸化炭素0.3%、実線はその可視光照射時、破線は、再度暗所下へ放置して蛍光強度が増大中のスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を説明する。

【0031】
本発明の光応答性二酸化炭素吸収材料に含まれる共重合体の単量体成分は、
光照射の有無に応答してプロトンを可逆的に液中で吸着・脱離する、光応答性化合物と、
親水基を有する化合物とを含む。

【0032】
光応答性化合物として、本発明では、下式(I)または(II)で示される基と、重合可能なエチレン性不飽和結合とを有する化合物が使用される。前記二種の基はメロシアニン構造を取り得る、スピロピラン化合物やスピロオキサジン化合物に由来する。【化4】
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【0033】
(式(I)および(II)中、Xは水素原子が一個結合した炭素原子、または窒素原子であり、Yは酸素原子または硫黄原子である。R、Rは独立に水素原子またはアルキル基であり、Rはアルキル基である。また、アルキル基は、具体的にはメチル基、エチル基、ドデシル基等が例示され、メチル基が好ましい。

【0034】
式(I)(II)中、ベンゼン環に結合している水素原子は置換されていてもよい。この場合の置換基は例えばメチル基、メトキシ基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン基、シアノ基、等が例示され、プロトンとの結合効率の点からは、置換しないかまたはメトキシ基、メチル基、アミノ基等の電子供与性の置換基が好ましい。置換する場合の置換基数は、1つのベンゼン環に1または2が好ましい。また、この置換基は、隣接する二つの炭素原子に環状に結合することにより、前記ベンゼン環と共にナフタレン環を形成してもよい。

【0035】
なお、Xが炭素原子でYが酸素原子の場合がスピロピラン、Xが窒素原子でYが酸素原子の場合はスピロオキサジンである。以下、共重合体がスピロピランから得られる場合について具体的に説明するが、スピロオキサジンを用いても同様の光応答性を示す。

【0036】
これら光応答性化合物は、共重合体に一種類用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。

【0037】
光照射により分子量を変えずに吸収スペクトルの異なる2つの状態間を異性化する、フォトクロミズムの機構は下式(III)のように考えられている。スピロピランは、可視光(>420nm)照射によってスピロピラン構造体と、メロシアニン構造体とに可逆的に異性化する。可視光照射下であるスピロピラン構造体は水中で閉環しており、電気的に中性である。可視光照射を停止してスピロピラン構造体を暗所下に置くと、メロシアニン構造体となる。これは、開環しており、分子内に双性イオンを有する。Yの原子は、電子密度が高く、この部位で、陽イオンと錯形成することができる。また、スピロピラン構造体と異なる色を呈する。この錯形成はメロシアニン構造体がスピロピラン構造体に戻ると解消する。

【0038】
可視光照射を止めて暗所下とするには、紫外光の照射で代用しても良い。この場合次に可視光を照射するときは同時に紫外光照射を停止する。

【0039】
以上のスピロピランの挙動はRやRの基でエステル結合してさらに共重合しても同様である。【化5】
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【0040】
式(III)中、R、Rは独立に水素原子またはアルキル基である。RとRは一方が水素または重合可能な1価の置換基であり、残りの一方がアルキル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基またはアミド基である。ここで、単量体成分に用いるため、前記置換基は、重合可能なエチレン性不飽和結合を有するのが好ましく、例えば(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基が挙げられる。

【0041】
共重合体のための単量体成分として使用する、具体的な光応答性化合物は、スピロピラン化合物が好ましい。特に、1´,3´,3´-トリメチル-6-(アクリロイルオキシ)スピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2´-インドール)が好ましく、以下、SPAAまたはスピロピランアクリレートともいう。また、前記SPAAのアクリロイルオキシ基がメタクリロイルオキシ基である化合物も好ましく、以下、SPMAとも、またはスピロピランメタクリレートともいう。

【0042】
前記光応答性化合物と重合する単量体成分である、親水基を有する化合物(以下、親水性化合物ともいう。)は、重合可能な基と、共重合体が水に溶けるかまたは水に馴染むような、親水基とを有しているものであればよい。例えば、重合可能なエチレン性不飽和結合を有する四級化アミン化合物、前記エチレン性不飽和結合を有する、スルホベタイン化合物やカルボベタイン化合物が挙げられる。また、(メタ)アクリルアミド化合物、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは必要に応じて置換基を有しても良い。

【0043】
親水基として、カチオン性置換基、アニオン性置換基および両性置換基のうち、ヒドロキシル基、アミノ基、オキシエチレン基、アミド基等が例示される。親水基の数は特に制限されない。

【0044】
なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートの少なくとも一方を示す。(メタ)アクリルも同様である。

【0045】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのヒドロキシアルキル基は、モノヒドロキシプロピル基、モノヒドロキシヒドロキシエチル基が原料入手の点で好ましい。ここで、ヒドロキシル基の位置は特に限定されず、例えばモノヒドロキシプロピル基の場合、1-ヒドロキシプロピル基と2-ヒドロキシプロピル基のいずれでもよい。これらの単量体成分として、モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを使用できる。

【0046】
(メタ)アクリルアミド化合物は、N-アルキル(メタ)アクリルアミドが好ましく、例えばN-イソプロピルアクリルアミドが挙げられる。

【0047】
これら親水性化合物は、共重合体に一種類用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。

【0048】
前記四級化アミン化合物は、下式(IV)または式(V)で示される基、および重合可能なエチレン性不飽和結合を有するのが好ましい。【化6】
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【0049】
第一の実施態様として、式(IV)の基を含むN,N,N-トリメチル-N-メタクリロイルオキシエチルアンモニウムクロリドが挙げられる。以下、TMMEMAClともいう。

【0050】
第二の実施態様として、式(V)の基を含む[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]-ジメチル-(3-スルホプロピル)-アンモニウムヒドロキシドが挙げられる。以下、MDSAともいう。

【0051】
上記のメタクリロイル基はアクリロイル基とどちらでもよく、重合可能なエチレン性不飽和結合を有している。

【0052】
光応答性化合物と親水性化合物との重合は、ブロック状の共重合であっても、交互やランダムな共重合であっても良く、特に限定されない。

【0053】
重合比は、親水性とプロトン吸着能とのバランスに合わせて適宜選択される。光応答性化合物の比率が多ければ、光応答性化合物内のプロトンとの吸着部位の数も単純に増加する。

【0054】
例えばランダムな共重合の場合、光応答性化合物:親水性化合物のモル分率(モル比)は、特に限定されないが、それぞれn、(1-n)とすると、0<n≦0.5が好ましい。それ以外のブロック状やグラフト状の共重合の場合は、前記モル分率は特に限定されない。

【0055】
以下、光応答性化合物がスピロピランアクリレート(SPAA)、親水性化合物が四級化アミン化合物のTMMEMAClである場合を挙げて、本発明の吸着材料を用いる二酸化炭素の回収方法を説明する。

【0056】
SPAAとTMMEMAClとの共重合体を、P(SPAA-TMMEMACl)と表記する。この構造および挙動を下式(VI)~(VIII)に示す。【化8】
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【0057】
回収すべき二酸化炭素を含む気相中から、水中に二酸化炭素が溶解すると、炭酸が生じる。この炭酸は炭酸水素イオンとプロトンに解離し、さらに炭酸水素イオンは炭酸イオンとプロトンに解離する。この解離は下記平衡式(1)~(3)のように示される。これらの酸解離定数は25℃においてK=4.4×10-7、K=5.6×10-11となる。【化9】
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【0058】
一方、光応答性化合物であるスピロピラン部位を有するP(SPAA-TMMEMACl)(上記式(VI)の化合物)は、式(VII)のような開環体の電子密度の高い酸素原子に、プロトンが式(VIII)のように結合する。これに可視光を照射すると環が式(VI)のように閉じてプロトンが脱離する。水中にこのプロトンが増加すると、上記の解離が逆方向に進行し、炭酸を経て二酸化炭素が空気中へ排出される。

【0059】
本発明では、平衡式(1)~(3)のように気相から水中への二酸化炭素供給によって発生したプロトンを、光応答性親水性高分子化合物で光制御する。これにより、プロトン吸着による系内のプロトン濃度を制御できる。結果として、この一連の平衡移動の関係から二酸化炭素の光可逆的な放出および吸収が可能である。

【0060】
具体的に説明すると、まず、P(SPAA-TMMEMACl)の粉末を水中に溶解させた水溶液を用意する。暗所下で保持した後、回収すべき二酸化炭素を含む気相と、この水溶液を接触させる。二酸化炭素は水溶液に溶解し、上記平衡式(1)~(3)のように炭酸を経てプロトンを発生し、このプロトンがSPAAセグメントの開環部位の酸素原子と結合する。紫外可視光吸収スペクトルを測定すると、空気中の二酸化炭素濃度が上昇するにつれ、プロトン化した開環体に由来する425nm付近の吸収帯が上昇し、代わって、フリーな開環体に由来する530nm付近の吸収帯が減衰する。

【0061】
攪拌などにより、気液間の接触面積を増加させると、二酸化炭素溶解が促進される。また、気相中の、回収すべき二酸化炭素の濃度は、特に制限はない。

【0062】
この状態で可視光を照射すると、閉環してプロトンが遊離し、増加したプロトンにより二酸化炭素が気相へ放出される。また、425nm付近の吸収帯が消失する。この水溶液をまた、回収すべき二酸化炭素を含む気相下へ移動させ、繰り返し使用できる。

【0063】
以上から、二酸化炭素が気相から水中に溶解したこと、および水中から二酸化炭素が気相へ放出されたことを、色調変化で検知できる。このことを利用して、本発明の二酸化炭素吸収材料を二酸化炭素センサーに使用することもできる。

【0064】
なお、親水性化合物として前記四級化アミン化合物またはスルホベタイン化合物を共重合体に用いた場合、水溶液に塩化ナトリウム(食塩)を溶解させて塩化物イオンおよびナトリウムイオンを水中に含むのが、プロトン結合能の上昇の点で好ましい。なお、塩化物イオンの代わりに同じハロゲン化物イオンである臭素イオンまたはヨウ素イオン、また、ナトリウムイオンの代わりにカリウムイオンまたはマグネシウムイオンの存在下でも、同様に暗所下でプロトンを吸着できるが、吸着能の高さから、塩類のうち、塩化ナトリウムが好ましい。溶液中の塩化物イオン、ナトリウムイオン濃度が高いほどプロトン結合能は上昇し、塩化ナトリウム飽和水溶液(約23質量%)であっても良い。

【0065】
共重合体は、水溶性に作製することも、ゲル状の非水溶性に作製することもでき、使用条件に応じて適宜選択する。非水溶性にして形状付与する場合、N,N’-メチレンビスアクリルアミド等の架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤は、一般に用いられる架橋剤を使用できる。含有量は共重合成分中、数モル%程度で充分である。これにより共重合体は不溶のゲル状になり、例えば水槽の内部に投入して、プロトンを結合させた後、取りだして、回収用の気相下の水中へ移動できる。

【0066】
さらに、共重合体は、以上に挙げた以外の単量体成分を必要に応じて吸着材料の吸着・脱離作用を妨げない範囲で含んで重合しても良い。これには、例えば親水性を促進する単量体成分、光増感剤、可撓剤等が挙げられる。共重合体は、以上の単量体成分に、重合開始剤、溶剤、反応停止剤などを適宜用いて、従来公知の重合反応で得られる。

【0067】
TMMEMAClの代わりにMDSAを用いた場合も同様にプロトンと反応し、TMMEMACl含有共重合体よりも、MDSA含有共重合体が、形状付与しやすい傾向がある。

【0068】
温度依存性の相転移温度を有するMDSAやN-アルキル(メタ)アクリルアミドを用いると、熱応答性を共重合体に付与することができる。例えばMDSAを含む共重合体は、固有の相転移温度よりも低温では疎水性、高温では親水性である。よって、基材や架橋剤なしで、温度差を利用して、プロトンが結合している吸着材料を水中から取り出すこともできる。

【0069】
上記の共重合体、またはそのゲルを、本発明の光応答性二酸化炭素吸収材料として使用してもよいが、他に、基材に共重合体を担持させたものを本発明の光応答性二酸化炭素吸収材料としてもよい。基材は、光応答性二酸化炭素吸収材料を担持することができるものであれば特に限定されないが、光応答性二酸化炭素吸収材料が、可逆的にプロトンを吸着/脱離でき、繰り返し使用されることを考慮すると、担体である基材は、機械的安定性、化学的安定性の高い材料であることが重要である。また、多孔性であることが好ましい。

【0070】
例えば、無機材料では、アルミナ、シリカ・アルミナ、マグネシア、ジルコニア、酸化亜鉛などの酸化金属、ガラス、結晶性アルミノシリケート、酸化珪素、シリカゲル、珪藻土、タルク、炭化珪素等の珪素化合物、粘土鉱物(層間化合物を含む)、活性炭等のカーボン及びこれらの混合物などが挙げられる。また、有機材料では、合成ポリマ、例えばスチレン、アクリル酸、メタクリル酸等を重合した透明なポリマが挙げられる。有機材料は強度が充分であり、無機材料は耐化学腐食性の点で好ましい。

【0071】
吸着したプロトンの脱離を可視光の照射によって行うため、また、プロトンの吸着/脱離を溶液の色の変化で判定するため、透明材料を基材材料とすることが好ましく、特にガラスが好ましい。

【0072】
さらに、光応答性二酸化炭素吸収材料の担持効率を高めるとの観点から、基材の単位量当たりの表面積は大きいほうがよく、また光の透過性能を高めるとの観点から、高い空隙率を有する基材が好ましい。これらから、例えばガラス繊維等の繊維で不織布を作製すれば、シート形状など任意の形状に基材を成形できる。繊維のほかに、ビーズのような細粒、中空の細管に成形した基材も好ましい。

【0073】
また、溶液との接触圧力による損傷を避けたり、溶液と接触する吸着材料の表面積を増加させたりするために、多孔性材料の空隙や孔は、ある程度残して吸着材料を担持させるのが好ましい。

【0074】
これらの基材に共重合体を担持させるには、共重合させる際に、基材を重合系に加えておいて、モノマーの重合と同時に基材に担持させる方法、共重合体の溶液を調製し、該溶液に基材を浸漬させる含浸法、さらに含浸させた後に溶媒を蒸発乾固させる方法、基材に上記溶液を塗布する方法などが挙げられる。特に管状の基材の管内壁に担持させるには、溶液の流入や浸漬が好ましい。

【0075】
上記担持方法のうち、モノマーの重合と同時に基材に担持させる方法が、工程を簡略化できる点で好ましい。また、含浸法も簡便で効率的に担持できるので好ましい。

【0076】
さらに、共重合体中に上記シランカップリングを形成する単量体成分を加える担持方法も、シランカップリング部がガラス等の基材と化学結合により強固に担持されるので、製造上効率的で好ましい。この場合、シランカップリング用の単量体成分は、重合時に加えてもよいし、又は基材に担持させた後、重合時に基材を重合系に加えておいて、重合と同時に基材に担持させてもよい。

【0077】
以上のように共重合体は、架橋剤、カップリング剤、基材と組みあわせて、ゲル状、担持されたシート、ビーズ、チューブなど、二酸化炭素が溶解する水溶液と接触させやすい任意の形状に成形することができる。

【0078】
さらに、塩化ナトリウム等の塩またはその水溶液を、前記四級化アミン化合物もしくはスルホベタイン化合物を用いた共重合体または担持されたその共重合体との、セットとしてもよい。

【0079】
本発明における二酸化炭素の回収方法は、上記光応答性二酸化炭素吸収材料を用いて、水中のプロトンを吸着し、その後に脱離することにより、気相中の二酸化炭素を、別の気相へ回収することを特徴とする。

【0080】
例えば、前記光応答性二酸化炭素吸収材料内の共重合体と、プロトンとを、暗所下の水中で吸着させる工程と、
回収用の気相下で、水中の前記プロトンを共重合体から脱離させて回収用気相へ回収する工程とを含む。

【0081】
具体的にはまず、前記光応答性二酸化炭素吸収材料が水溶性の場合、空気中の回収すべき二酸化炭素を、前記吸収材料を含む水溶液と、接触させて、液相内に二酸化炭素を溶解させる。これと水とから炭酸(H2CO3)が生じる。

【0082】
増加した炭酸から、液相内の酸解離平衡により、プロトンが生成される。水溶液を暗所下に保持して、このプロトンを、吸収材料内の共重合体の電子密度の高い原子、例えば光応答性化合物が上述のスピロピラン化合物であれば酸素原子に吸着させる。

【0083】
ついで、吸収材料にプロトンを吸着させたまま、回収用気相内へ移動し、可視光を照射して、プロトンを吸収材料から脱離させる。水溶液内にプロトンが増加することにより、炭酸が生成され、これが分離して液相から二酸化炭素が気相へ放出される。この気相で、二酸化炭素を回収、濃縮する。

【0084】
また、吸収材料が非水溶性の場合は、水に浸漬させて、プロトンが吸着した後、水から取り出して回収用の溶媒へ移動しても良い。

【0085】
前記四級化アミン化合物またはスルホベタイン化合物を用いた非水溶性の吸収材料を、塩化物イオンおよびナトリウムイオンを含む水に浸漬してプロトンを吸着させ、さらに回収用の溶媒中で分離させる場合は、回収用溶媒が水のように塩化物イオンおよびナトリウムイオンのいずれもを含まなければ、照射光の有無に関わらずプロトンは結合しにくいので脱離することができる。また、吸着材料を吸着時の水溶液に浸漬したままで、可視光を吸着材料に照射してプロトンを脱離させてもよい。このようにしてプロトンの増加により、二酸化炭素が気相へ放出され、回収用気相中に回収できる。
【実施例】
【0086】
以下に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、本実施例により本発明を限定するものではない。なお、スペクトル測定は全て10℃で行った。
【0087】
<スピロピランアクリレート(SPAA)の合成>
(1) スピロピランとして、1´,3´,3´-トリメチル-6-ヒドロキシスピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2´-インドール) 4.72g(0.0161mol)(ACROS ORGANICS社製、純度99%、Fw 293.37、品番42192-0050)を、トルエン(関東化学株式会社製(蒸留後使用)、特級、純度99.5%、沸点110.625℃) 28.3ミリリットルに溶解させた。
【0088】
(2) アクリル酸クロライド(ACROS ORGANICS社製) 2.91g(0.0322mol)を、トルエン(同上) 14.2ミリリットルに溶解させた。
【0089】
(3) 別に、トリエチルアミン(以下、TEAという。)(和光純薬工業株式会社製(蒸留後使用)、純度99%、品番202-02646) 1.79g(0.0114mol)を用意した。また、アンモニア(関東化学株式会社製、純度28.0~30.0%、品番01266-00) 400ミリリットルの純水 100ミリリットル溶液を1単位として、5単位用意した。
【0090】
(4) 二口なすフラスコ内に上記(1)で得たスピロピランのトルエン溶液と、上記(3)のTEAとを投入し、二口なすフラスコの一つの口には球入冷却器、もう一方の口には円筒型分液ロートを装着した。二口なすフラスコを60℃に保温しながら円筒型分液ロートで上記(2)のアクリル酸クロライドのトルエン溶液を少しずつ滴下した後、24時間反応させた。なお、この反応で発生した塩酸は、TEAで中和された。24時間後に、反応溶液から未反応のアクリル酸クロライドとTEAを取り除くために、反応溶液をトルエン100ミリリットルで希釈し、次いで分液ロート内に移して上記(3)のアンモニア水溶液を1単位加えた。分液ロートを振り混ぜ、静置して下層のアンモニア水溶液を取り出し、残りの(3)のアンモニア水溶液の1単位を加え、同様にして分液を計5回繰り返した。
【0091】
(5) アンモニア水溶液の代わりに純水を100ミリリットル加え、同様にしてpHが7になるまで計5回分液を繰り返した。
【0092】
(6) 分液ロート上層の液を、エバポレータによりトルエンを蒸発させ、次いで減圧乾燥させた。これによって得られた褐色固体をジクロロメタンに溶かしてカラムクロマトグラフィにかけ、不純物を分離した。カラムはシリカゲル(関東化学株式会社製、品番:9385-4M、Rf:0.86)、展開溶媒はジクロロメタンを使用した。
【0093】
(7) カラムから排出した液を、エバポレータでジクロロメタンを蒸発させ、次いで減圧乾燥させてSPAA単量体である、1´,3´,3´-トリメチル-6-(アクリロイルオキシ)スピロ(2H-1-ベンゾピラン-2,2´-インドール)を1.34g(収率24.0%)得た。
【0094】
<合成例1 共重合体P(TMMEACl-SPAA)の合成>
TMMEACl(株式会社興人製)を4.9×10-3モル(705μl)、SPAA単量体を1.0×10-4モル(34.7mg)を、またエタノールを2ml、重合開始剤AIBN 13.7mg(8.3×10-5モル)用意した。
【0095】
TMMEACl、SPAAおよびエタノールをサンプルびんに入れ、びん内に純窒素を1時間フローしつつ攪拌してびん内から湿気および空気を除去した。AIBNを加えてさらに30分間窒素フローしつつ攪拌した。オイルバスでびん内温度を60℃に上げ窒素フローしつつさらに1.5時間反応させた後、重合禁止剤としてハイドロキノンを加えて反応を止めた。
【0096】
びん内の反応生成物を、大量のアセトン中に少しずつ滴下して沈殿精製した。この沈殿をろ紙で濾別し、減圧乾燥して共重合体P(TMMEACl-SPAA)(収率58.7%)を得た。この共重合体中の各セグメントのモル比を、H-NMRの積分値の結果から算出したところ、TMMEACl:SPAAはモル比で98:2であった。
【0097】
(実施例1 共重合体のプロトン吸着性)
上記合成例1で得た重合比98:2の共重合体P(TMMEACl-SPAA)をSPAA濃度が0.2mMとなるように純水に溶解した。
【0098】
この溶液に、暗所下に放置後、二酸化炭素が下記濃度で残りが窒素ガスである気相を接触させた。(A)0%(窒素100%)、(B)0.3%、(C)1%、(D)2%、(E)3%、(F)100%。これらA~Fの紫外可視吸収スペクトルを測定した結果を図1に示す。
【0099】
図1から、二酸化炭素濃度が上昇するにつれ、プロトン化した開環体に由来する425nm付近の吸収帯が上昇し、代わって、フリーな開環体に由来する530nm付近の吸収帯が減衰することが確認できた。これは二酸化炭素の供給で発生したプロトンがフリーな開環体のスピロピランをプロトン化させていることを示す。
【0100】
(実施例2 共重合体のプロトン吸着および脱離の光応答性)
実施例1で調製した共重合体水溶液(SPAA濃度0.2mM)に、暗所下に放置後、二酸化炭素が下記濃度で残りが窒素ガスである気相を接触させた。(A)暗所下二酸化炭素約0.03%(大気)、(B)暗所下、0.3%、(C)暗所下、3%。さらに前記(C)溶液へ可視光を照射した(D)。これらA~Dの紫外可視吸収スペクトルを測定した結果を図2に示す。図2から、可視光照射により完全に425nm付近および530nm付近の吸収帯が消失したことを確認した。よって、二酸化炭素供給によるスピロピランのプロトン化から閉環体へは光制御可能であり二酸化炭素が放出される。
【0101】
(実施例3 塩濃度による共重合体のプロトン吸着性)
実施例1で調製した共重合体水溶液に、暗所下に放置後、塩化ナトリウムが1質量%になるように溶解させた。それぞれ、暗所下で、二酸化炭素が下記濃度で残りが窒素ガスである気相を接触させた。(A)0%(窒素100%)、(B)0.3%、(C)1%、(D)2%、(E)3%。これらA~Eの紫外可視吸収スペクトルを測定した結果を図3(a)に示す。
【0102】
また、塩化ナトリウム濃度を1質量%の代わりに2質量%とした以外は同様に行った結果を、図3(b)に示す。
【0103】
図3から、暗所下にて二酸化炭素を供給すると425nm付近の吸収帯が塩濃度が0%のときに比べさらに増大し、代わって535nm付近の吸収帯はさらに減衰した。塩濃度が1質量%から2質量%ではさらに吸収および減衰が増幅されたことがわかる。
【0104】
(実施例4 窒素供給によるスペクトル変化)
実施例1で調製した共重合体水溶液に、暗所下に放置後、塩化ナトリウムが4質量%になるように溶解させた。二酸化炭素が(A)0.03%(大気)、および(B)3%の気相を接触させた。さらに(B)状態の系内に窒素ガス(二酸化炭素0%)を供給すると425nm付近の吸収帯は消失し代わって、535nm付近の吸収帯が大幅に増大した(C)。これらA~Cの紫外可視吸収スペクトルを測定した結果を図4に示す。
【0105】
BからCへの挙動は物理的に溶解していたCO2を窒素ガスで強制的に除去したことによる水溶液中の炭酸の減少に伴う、系内のプロトン激減であり、減少した系内のプロトンを補うべく脱プロトン化開環体が急増したと考えられる。よって、増大した脱プロトン化開環体分は平衡式(1)~(3)に示す平衡に関与しているため、二酸化炭素放出に深く関与していることが確認できた。
【0106】
(実施例5 光可逆的な二酸化炭素移動)
ヒドロキシピレン-3-スルフィン酸(HPTS)の純水への水溶液を用意した。これは、二酸化炭素溶存する濃度変化に応じてpH変化で蛍光強度の変化を示すことができる。
【0107】
暗所下で窒素ガス100%(二酸化炭素0%)を供給すると、蛍光スペクトルで、非常に強いHPTSの発光が513nmに観測された。このスペクトルを図5(a)の実線で示す。続いて、平衡状態になるまで二酸化炭素3%(残部窒素)を供給すると図5(a)の破線で示すように蛍光は消光した。再度の窒素100%の供給により再び元の位置まで増大した。このスペクトルを図5(a)の点線で示す。以上からHPTSは溶存する二酸化炭素の濃度変化に応じて敏感にキャッチするセンサーとして使用が出来ることを確認した。
【0108】
気液相間を光可逆的にCOが移動するかどうかを確認するため、次の操作を行った。一つのセルに上記HPTS水溶液を注入し、もう一つのセルには上記で合成したP(TMMEACl-SPAA)がSPAA濃度で0.5mM、および塩化ナトリウムが4質量%溶解した水溶液を注入した。
【0109】
これら二つのセルの気相部に、最初に窒素ガスを供給し、大気中の二酸化炭素を完全に系内から取り除いたあと、暗所下でチュービングポンプで二酸化炭素0.3%(残部窒素)を平衡状態になるまで循環させた。その後、二つのセルの間を気相部で繋いで密閉し、チュービングポンプでセルの間の気相部を循環させ、平衡状態を蛍光スペクトル測定により確認した。結果を図5(b)の点線のスペクトルで示す。
【0110】
続いて、可視光を照射すると、図5(b)の実線で示すようにHPTSの蛍光強度は減少した。これは、可視光を照射したことによって、プロトン化した開環体が閉環体となり、プロトンが放出されたためと考えられる。すなわち上記平衡式(1)~(3)に関与するスピロピラン分の二酸化炭素が放出されと考えられる。よって、HPTS側ではCO2の物理溶解量が増え、それと同時に炭酸濃度が増大し、pHが下がったと考えられる。
【0111】
さらに、この溶液を暗所下放置すると図5(b)に破線で示すように蛍光強度は増大し最終的に点線のスペクトルに戻った。これは、可視光を照射で強制的に放出された二酸化炭素がP(TMMEACl-SPAA)側の溶液に再び溶解し、プロトン化した開環体となったためであると考えられる。これより、二酸化炭素の光可逆的な吸収、放出を定性的に確認できた。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4