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明細書 :イットリウム・アルミニウム複合酸化物の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第2934859号 (P2934859)
登録日 平成11年6月4日(1999.6.4)
発行日 平成11年8月16日(1999.8.16)
発明の名称または考案の名称 イットリウム・アルミニウム複合酸化物の製造方法
国際特許分類 C01F 17/00      
FI C01F 17/00 B
請求項の数または発明の数 6
全頁数 7
出願番号 特願平10-214278 (P1998-214278)
出願日 平成10年7月29日(1998.7.29)
審査請求日 平成10年7月29日(1998.7.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】390002901
【氏名又は名称】科学技術庁金属材料技術研究所長
発明者または考案者 【氏名】桜井 健次
【氏名】郭 暁梅
審査官 【審査官】大工原 大二
参考文献・文献 特開 平8-268751(JP,A)
Mater.Chem.Phys.Vol.38(4)(1994)Minkova,N et al,p383-386
調査した分野 C01F 17/00
要約 【課題】 イットリウム・アルミニウム複合酸化物の単相多結晶体を容易に、そして低コストで大量に製造することを可能にする。
【解決手段】 イットリウム・アルミニウム複合酸化物の多結晶体を製造する際に、組成制御された原料粉末から室温付近での固相反応により非平衡状態の粉末を合成し、次いで900 ~1200℃に昇温して結晶化させる。
特許請求の範囲 【請求項1】
イットリウム・アルミニウム複合酸化物の多結晶体の製造方法であって、組成制御された原料粉末から室温付近での固相反応により非平衡状態の粉末を合成した後に、900 ~1200℃に昇温して結晶化させることを特徴とするイットリウム・アルミニウム複合酸化物の製造方法。

【請求項2】
ボールミル内で固相反応を起こし、非平衡状態の粉末を合成する請求項1記載のイットリウム・アルミニウム複合酸化物の製造方法。

【請求項3】
イットリウム・アルミニウム複合酸化物は、焼結助剤を副成分として含む請求項1又は2記載のイットリウム・アルミニウム複合酸化物の製造方法。

【請求項4】
イットリウム・アルミニウム複合酸化物は、原子番号58から71までのランタン系列希土類元素を結晶の特定サイトに含む請求項1乃至3いずれかに記載のイットリウム・アルミニウム複合酸化物の製造方法。

【請求項5】
イットリウム・アルミニウム複合酸化物は化学量論組成Y3Al5 12で示されるイットリウム・アルミニウム・ガーネットである請求項1乃至4いずれかに記載のイットリウム・アルミニウム複合酸化物の製造方法。

【請求項6】
イットリウム・アルミニウム複合酸化物は化学量論組成YAlO3 で示されるイットリウム・アルミニウム・ぺロブスカイトである請求項1乃至4いずれかに記載のイットリウム・アルミニウム複合酸化物の製造方法。
発明の詳細な説明 【発明の詳細な説明】

【01】

【発明の属する技術分野】この出願の発明は、イットリウム・アルミニウム複合酸化物の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、各種光学材料に用いられているイットリウム・アルミニウム・ガーネット、イットリウム・アルミニウム・ぺロブスカイト等のイットリウム・アルミニウム複合酸化物の単相多結晶体を容易に、そして低コストで大量に製造することを可能とするイットリウム・アルミニウム複合酸化物の製造方法に関するものである。

【02】

【従来の技術】イットリウム・アルミニウム・ガーネット(化学量論組成Y3 Al5 12、YAG)、イットリウム・アルミニウム・ぺロブスカイト(化学量論組成YAlO3 、YAP)等のイットリウム・アルミニウム複合酸化物は重要な光学材料の一つとして知られている。このイットリウム・アルミニウム複合酸化物は、従来では、(1)酸化イットリウム(イットリア)及び酸化アルミニウム(アルミナ)を出発原料とした1500℃以上の高温プロセス、(2)上記(1)において、フラックス材を添加し、反応温度を数百度程度下げたプロセス、(3)アルコール化合物、シュウ酸塩、硝酸塩、尿素等を用いるゾル・ゲルプロセス、共沈法、その他の溶液反応を用いる合成法、等々により製造されている。

【03】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記(1)の方法の場合には、特殊な高温装置が必要であり、また、様々な副反応や相転移、そして同時進行する分解反応を考慮して合成反応を起こす必要もあり、効率的な工業生産に有利とは言えない。上記(2)の方法は反応温度を下げられるという点に有効性が見出されるが、フラックスとして使用される物質の多くは蛍光を発するため、光学材料としての機能が損なわれることがしばしばあり、その除去に手間とコストを要するという問題もある。

【04】
上記(3)の方法における反応は低温で進行するため、注目され、近年盛んに技術開発されている。しかしながらその一方で、多段階でかつ長時間の反応が必要であり、また、収率が余り高くない。しかもこの方法には高価な原料物質が必要であり、大量の工業生産に適しているとは言いにくい。この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、光学材料として有用なイットリウム・アルミニウム・ガーネット、イットリウム・アルミニウム・ぺロブスカイト等のイットリウム・アルミニウム複合酸化物の単相多結晶体を容易に、そして低コストで大量に製造するのを可能とするイットリウム・アルミニウム複合酸化物の製造方法を提供することを目的としている。

【05】

【課題を解決するための手段】この出願は、上記の課題を解決するものとして、請求項1に係る発明は、イットリウム・アルミニウム複合酸化物の多結晶体の製造方法であって、組成制御された原料粉末から室温付近での固相反応により非平衡状態の粉末を合成した後に、900 ~1200℃に昇温して結晶化させることを特徴とするイットリウム・アルミニウム複合酸化物の製造方法を提供する。

【06】
この出願の発明では、ボールミル内で固相反応を起こし、非平衡状態の粉末を合成すること(請求項2)をはじめ、イットリウム・アルミニウム複合酸化物は、焼結助剤を副成分として含む(請求項3)、及び/又は原子番号58から71までのランタン系列希土類元素を結晶の特定サイトに含む(請求項4)ことを好ましい態様の一つとしている。

【07】
さらにこの出願の発明は、イットリウム・アルミニウム複合酸化物は、化学量論組成Y3 Al5 12で示されるイットリウム・アルミニウム・ガーネット(請求項4)、又は化学量論組成YAlO3 で示されるイットリウム・アルミニウム・ぺロブスカイトである(請求項5)ことをも好ましい態様として包含するものである。

【08】

【発明の実施の形態】この出願の発明のイットリウム・アルミニウム複合酸化物の製造方法では、上記の通り、組成制御された原料粉末から室温付近での固相反応により非平衡状態の粉末を合成した後に、900 ~1200℃に昇温して結晶化させてイットリウム・アルミニウム複合酸化物の多結晶体を製造する。得られる多結晶体は、非晶質状態から昇温により平衡状態に戻るため、その組成において安定に存在する単相の酸化物となる。この多結晶体の形態は、粉体、成形体等のいずれであっても構わない。成形体とする場合には、結晶化のための熱処理に先立って非平衡状態の粉末をペレット成形等の適当な形態に成形することができる。

【09】
このように、この出願の発明のイットリウム・アルミニウム複合酸化物の製造方法では、非平衡状態の粉末の製造は室温付近での固相反応を利用し、結晶化のための熱処理は高々900 ~1200℃の温度範囲で行うことができるため、製造条件に制約はなく、特殊な装置を必要としない。また、得られるイットリウム・アルミニウム複合酸化物は、上記の通りの単相の多結晶体である。したがって、従来のどの製造方法よりも低コストであり、高効率である。実験室規模で言えば、たとえば、非平衡状態の粉末の合成のために高エネルギーボールミル等のボールミルを一昼夜使用し、その後市販の電気炉で1~数時間程度熱処理を行うだけで、10~数十gのイットリウム・アルミニウム複合酸化物の単相多結晶体が得られる。このように、非平衡状態の粉末の合成にボールミルを、また、結晶化熱処理に通常の電気炉を使用できるので、イットリウム・アルミニウム複合酸化物の非平衡状態の粉末並びに単相多結晶体は簡便に得られる。また、装置及び条件の特殊性は全くないため、スケールアップは容易であり、工業的な大量生産が十分望める。

【10】
なお、この出願の発明において、固相反応により非平衡状態の粉末を合成する際の室温付近の温度とは、通常、室温若しくは常温とされる温度又はその近傍を意味し、一般的には15~30℃の範囲が例示され、より具体的には18~23℃の20℃前後が例示される。また、ボールミルを組成制御された非平衡状態の粉末を得るために用いることは酸化物に関しては一般的でなく、イットリウム・アルミニウム複合酸化物の製造に適用された例はこれまでにない。使用可能なボールミルの種類は特に制限はなく、たとえば遊星型ボールミル等を例示することができ、粉砕エネルギーは、一般に5G(Gは重力加速度)以上あればよく、通常は10G前後を例示することができる。もちろんこれに限定されることはなく、使用により容器やボールから不純物が粉末中に混入するこのない範囲で適宜調整することができる。

【11】
さらにこの出願の発明では、イットリウム・アルミニウム複合酸化物は、焼結助剤を副成分として含有することができ、また、光学材料としての応用を意図して原子番号58から71までのランタン系列希土類元素を結晶の特定サイトに含有することもできる。ランタン系列希土類元素は、置換によりイットリウム・アルミニウム複合酸化物の結晶の特定サイトに位置させることができる。これら焼結助剤並びに原子番号58から71までのランタン系列希土類元素は、イットリウム・アルミニウム複合酸化物に単独に存在又は共存することができる。

【12】
以下実施例を示し、この出願の発明のイットリウム・アルミニウム複合酸化物の製造方法についてさらに詳しく説明する。

【13】

【実施例】(実施例1)

【14】

【表1】
JP0002934859B1_000002t.gif【0015】
【表2】
JP0002934859B1_000003t.gif【0016】表1に示す市販の原料粉末をY:Al=1:1の割合で混合し、表2に示す条件において遊星型の高エネルギーボールミル中で固相反応を起こし、非平衡状態の粉末を合成した。なお、この実施例では、ステンレス製容器とアルミナ製ボールを使用した。高エネルギーボールミルを運転すると、アルミナ製ボールは著しく磨耗し、試料粉末中のAl濃度を高める。このようなミリング過程での組成変化を計算に入れて原料粉末の混合割合は決定された。

【17】
約一昼夜のミリングにより非平衡状態の粉末が合成された。図1(b)のX線回折図形に示されているように、結晶構造に対応するピークはほぼ消失し、ハローパターンが現れている。この事実から得られた粉末が結晶構造の消失した非平衡状態にあることが確認される。なお、図1(a)は、原料混合粉末のX線回折図形である。

【18】
次いでこの非平衡状態の粉末をアルミナ製るつぼの中に入れ、市販の電気炉内で大気中で熱処理を行った。昇温は、毎時100 ~数百℃で行い、そして、1100℃で2時間保持した。この時の熱処理温度の選定は、図2に示した示差熱分析の結果より得られる結晶化の発熱ピーク位置、すなわち930 ℃を指標にして行った。得られた物質のX線回折図形は図1(c)に示す通りであり、この回折図形はデータベースにあるイットリウム・アルミニウム・ガーネット(Y3 Al5 12、YAG)の回折図形(図1(c)の下段)とよく対応しており、単相のイットリウム・アルミニウム・ガーネットが合成されたことが確認される。

【19】
図3は、このようにして得られたイットリウム・アルミニウム・ガーネット多結晶粉末の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示している。この図3の走査電子顕微鏡写真から明らかなように、得られたイットリウム・アルミニウム・ガーネット多結晶粉末は、0.1 ~10ミクロン径の丸い形状を有し、平滑な表面を持つ粒子であり、他の製造方法で製造される粉末と比べ何ら遜色は認められない。
(実施例2)表1に示した市販の原料粉末をY:Al=3:5の割合で混合し、表2に示した条件において遊星型の高エネルギーボールミル中で固相反応を起こし、非平衡状態の粉末を合成した。なお、この実施例では、タングステンカーバイト製の容器とボールを使用した。アルミナ粉末は研磨剤としても知られているが、タングステンカーバイトは非常に硬い物質であるため、研磨されることはなく、ミリング過程でY:Alの組成比に変化は生じない。このため、原料粉末の混合割合をイットリウム・アルミニウム・ガーネットの化学量論組成、すなわちY3 Al512におけるY:Al=3:5とした。

【20】
約一昼夜のミリングにより、実施例1と同様に非平衡状態の粉末が合成された。タングステンカーバイトに起因する非平衡状態の粉末のわずかな汚染はその後の反応にほとんど影響を与えない。次いで得られた非平衡状態の粉末を実施例1と同様にして熱処理し、イットリウム・アルミニウム・ガーネットの単相の多結晶粉末が得られた。
(実施例3)表1に示した原料粉末をY:Al=1:1とし、実施例2で使用したのと同様の容器とボールを使用して表2に示した条件において遊星型の高エネルギーボールミル中で固相反応を起こした。得られた粉末は、図4(a)のX線回折図形に示されるように結晶構造の消失した非平衡状態にある。

【21】
次いで実施例1と同様にして結晶化のための熱処理を行った。図5は、その示差熱分析を示したグラフであるが、結晶化温度は実施例1のイットリウム・アルミニウム・ガーネットとさほど差はなく、880 ℃であり、通常の安価な電気炉が使用可能である。得られた粉末は、そのX線回折図形(図4(b))とデータベースにあるイットリウム・アルミニウム・ぺロブスカイト(YAlO3 、YAP)の回折図形(図4(b)の下段)との対比から明らかなように、単相のイットリウム・アルミニウム・ぺロブスカイトであると認められる。

【22】
図6は、このようにして得られたイットリウム・アルミニウム・ぺロブスカイト多結晶粉末の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示しているが、この図6の走査電子顕微鏡写真から明らかなように、得られたイットリウム・アルミニウム・ぺロブスカイト多結晶粉末は、0.1 ~10ミクロン径の粒子であり、他の製造方法で製造される粉末と比べ何ら遜色は認められない。

【23】
もちろんこの出願の発明は、以上の実施形態によって限定されるものではない。原料の種類、粒径、純度をはじめ、焼結助剤や光学材料への応用を意図した所定の希土類金属の添加、さらには固相反応及び結晶化熱処理の条件及び使用する装置等の細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。

【24】

【発明の効果】以上詳しく説明した通り、この出願の発明によって、イットリウム・アルミニウム複合酸化物の単相多結晶体を容易に、しかも低コストで大量に製造することが可能となる。生産性向上が望める。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5