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明細書 :金属材料の水素分析装置及び方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5288471号 (P5288471)
公開番号 特開2010-210353 (P2010-210353A)
登録日 平成25年6月14日(2013.6.14)
発行日 平成25年9月11日(2013.9.11)
公開日 平成22年9月24日(2010.9.24)
発明の名称または考案の名称 金属材料の水素分析装置及び方法
国際特許分類 G01N  21/63        (2006.01)
FI G01N 21/63 Z
請求項の数または発明の数 4
全頁数 10
出願番号 特願2009-055768 (P2009-055768)
出願日 平成21年3月9日(2009.3.9)
審査請求日 平成23年12月9日(2011.12.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
発明者または考案者 【氏名】香川 喜一郎
【氏名】福元 謙一
【氏名】仁木 秀明
個別代理人の代理人 【識別番号】100111855、【弁理士】、【氏名又は名称】川崎 好昭
審査官 【審査官】横井 亜矢子
参考文献・文献 丸山忠司 他,レーザー誘起プラズマによるジルカロイ中の水素分析(その2),日本原子力学会秋の大会予稿集,日本,2006年 8月17日,Vol.2006,Page.I39
Ramli M et al,,Hydrogen analysis in solid samples by utilizing He metastable atoms induced by TEA CO2 laser plasma in He gas at 1 atm,Spectrochimica Acta Part B: Atomic Spectroscopy,2007年,Vol.62, No.12,Page.1379-1389
鷲田淳市 他,レーザーブレークダウン分光法を用いたジルカロイ中の水素分析,日本原子力学会春の年会予稿集,日本,2009年 3月 6日,Vol.2009,Page.C52
調査した分野 G01N 21/62-21/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
ヘリウムガスを供給して金属材料表面の測定部位をヘリウムガス雰囲気に設定するガス供給手段と、前記測定部位に向かってレーザーを照射して前記測定部位にアブレーションが生じないようにヘリウムガスをプラズマ化するレーザー照射手段と、レーザー照射中においてプラズマ化したヘリウムガスの内部で発生する光を測定する測定手段と、測定された水素の発光波長の発光強度を測定された酸素の発光波長の発光強度に基づいて補正して前記測定部位に含まれる水素を定量的に分析する分析手段とを備えていることを特徴とする金属材料の水素分析装置。
【請求項2】
前記レーザー照射手段は、パワー密度108~5×109W/cm2でパルス幅50~500ナノ秒の炭酸レーザーを用いることを特徴とする請求項1に記載の水素分析装置。
【請求項3】
前記測定手段は、水素の発光波長に対応した光を通過させて水素以外の原子の発光波長に対応した光を通過させない光学フィルタ及び光学フィルタを通過した光を検出する光検出器を用いて測定を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の水素分析装置。
【請求項4】
ヘリウムガスを供給して金属材料表面の測定部位をヘリウムガス雰囲気に設定し、前記測定部位に向かってレーザーを照射して前記測定部位にアブレーションが生じないようにヘリウムガスをプラズマ化し、レーザー照射中においてプラズマ化したヘリウムガスの内部で発生する光を測定し、測定された水素の発光波長の発光強度を測定された酸素の発光波長の発光強度に基づいて補正して前記測定部位に含まれる水素を定量的に分析することを特徴とする金属材料の水素分析方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料中に微量に含まれる水素を定量的に分析する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料では、例えば、ジルカロイ等のジルコニウム系材料、チタン系材料、鉄鋼等の鉄系材料といった材料において内部に取り込まれた水素による脆化が問題となっており、金属材料中の水素分析が重要な課題となっている。
【0003】
金属材料中の水素を定量的に分析する場合、材料の一部を取り出して電気炉内で溶融し、発生する水素をガズクロマトグラフィ法により定量的に分析することができるが、分析に時間がかかる上に材料を取り出す必要があるため、分析可能な場所についても制約がある。
【0004】
こうした分析手法に対して、特許文献1では、レーザーを金属材料表面に照射し、その際に発生するガスを質量分析計に導入して元素の定量分析を行う方法が提案されている。
【0005】
また、本発明者らは、大気圧ヘリウム雰囲気中においてジルカロイの表面にTEACO2レーザー及びYAGレーザーを照射してレーザープラズマ分光分析を行い、水素プラズマ発光強度とジルカロイ中の水素濃度との間に相関関係があることを確認しており、大気圧下のヘリウム雰囲気中での二重パルスレーザー照射プラズマ分光分析法による水素濃度の定量分析手法を報告している(非特許文献1から3参照)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2000-028580号公報
【0007】

【非特許文献1】福元謙一、「レーザー光による原子炉材料中のオンサイト水素分析技術の開発」原子力システム研究開発事業成果報告会資料集、独立行政法人科学技術振興機構、平成20年1月22日
【非特許文献2】Muliadi Ramli et al.,"Hydrogen analysis in solid samples by utilizing He metastable atoms induced by TEA CO2 laser plasma in He gas at 1 atm", Spectrochimica Acta Part B 62, ELSEVIER, 2007.10.10, pp.1379-1389
【非特許文献3】Muliadi Ramli et al.,"New Method of Laser Plasma Spectroscopy for Metal Samples Using Metastable He Atoms Induced by Transversely Excited Atomspheric-Pressure CO2 Laser in He Gas at 1 atm", Japanese Journal of Applied Physics, Vol.47, No.3, 2008, pp.1595-1601
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した先行文献では、レーザーを金属材料表面に照射することで水素濃度を定量的に分析することができるものの、レーザー照射の際に金属材料中の母体元素等の水素以外の原子も発光するため、水素原子の発光(Hα;波長652.2nm)のみを精度よく計測できないといった課題がある。
【0009】
そこで、本発明は、ヘリウムガス雰囲気中で金属材料表面をレーザー照射して発光する水素の発光強度により金属材料中の水素を精度よく分析することができる水素分析装置及び方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る金属材料の水素分析装置は、ヘリウムガスを供給して金属材料表面の測定部位をヘリウムガス雰囲気に設定するガス供給手段と、前記測定部位に向かってレーザーを照射して前記測定部位にアブレーションが生じないようにヘリウムガスをプラズマ化するレーザー照射手段と、レーザー照射中においてプラズマ化したヘリウムガスの内部で発生する光を測定する測定手段と、測定された水素の発光波長の発光強度を測定された酸素の発光波長の発光強度に基づいて補正して前記測定部位に含まれる水素を定量的に分析する分析手段とを備えていることを特徴とする。さらに、前記レーザー照射手段は、パワー密度108~5×109W/cm2でパルス幅50~500ナノ秒の炭酸レーザーを用いることを特徴とする。さらに、前記測定手段は、水素の発光波長に対応した光を通過させて水素以外の原子の発光波長に対応した光を通過させない光学フィルタ及び光学フィルタを通過した光を検出する光検出器を用いて測定を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る金属材料の水素分析方法は、ヘリウムガスを供給して金属材料表面の測定部位をヘリウムガス雰囲気に設定し、前記測定部位に向かってレーザーを照射して前記測定部位にアブレーションが生じないようにヘリウムガスをプラズマ化し、レーザー照射中においてプラズマ化したヘリウムガスの内部で発生する光を測定し、測定された水素の発光波長の発光強度を測定された酸素の発光波長の発光強度に基づいて補正して前記測定部位に含まれる水素を定量的に分析することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記のような構成を有することで、測定部位にアブレーションが生じないようにヘリウムガスをプラズマ化し、レーザー照射に伴って測定部位がわずかに溶融し測定部位から水素が離脱するようになり、ガスプラズマ中に飛散した水素がヘリウム準安定状態と衝突して発光するようになる。この場合、測定部位にアブレーションが生じていないので、金属材料の母体元素等がガスプラズマ中に飛散して発光することはないが、水素原子は他の原子に比べて軽いために金属材料のわずかな溶融によって容易に離脱してガスプラズマ中に飛散するようになる。そのため、ガスプラズマ中で発光する光を測定して水素の発光波長の発光強度に基づいて水素を分析すれば、水素以外の原子による発光の影響をほとんど受けることなく精度のよい分析を定量的に行うことができる。
【0013】
測定部位に設定されたヘリウムガス雰囲気中に水蒸気又は金属材料表面に付着した水分といった水に由来する水素の影響を除去するために、測定された酸素の発光波長の発光強度に基づいて水由来の水素による発光強度を補正すれば、より精度の高い水素の定量分析を行うことができる。
【0014】
また、水素以外の原子の発光がほとんどない状態で水素の発光強度を測定することができるので、水素の発光波長に対応した光を通過させて水素以外の原子の発光波長に対応した光を通過させない光学フィルタ及び光学フィルタを通過した光を検出する光電子増倍管等の光検出器を用いて測定を行えば、きわめて簡単な構成で水素の発光強度の測定を高精度で行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る実施形態に関する概略構成図である。
【図2】金属材料表面の測定部位にレーザー光を照射した場合の状態を示す模式図である。
【図3】ジルカロイからなる金属材料の内部に高濃度の重水素を内蔵させた場合における重水素の発光(Dα)の測定結果を示すグラフである。
【図4】図3に示す測定結果において重水素の別の発光(Dβ)に関する波長領域について高解像度で分析した測定結果を示すグラフである。
【図5】水素濃度が600ppmのジルカロイに関する測定結果を示すグラフである。
【図6】基準データに基づいて作成した検量線を示すグラフである。
【図7】重水素を含むチタン材料に関する測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。

【0017】
図1は、本発明に係る実施形態に関する概略構成図である。水素分析装置1は、分析する金属材料Sを載置する載置台3を収容する密閉容器2を備えており、密閉容器2にはレーザー照射部5から出力されるレーザー光が通過する窓部4が設けられている。

【0018】
レーザー照射部5は、パルス発生器6からのパルス信号によりパルス状のレーザー光を出力する。出力されたレーザー光は、窓部4を通過して金属材料Sの表面に向かって照射されるようになる。

【0019】
出力されるレーザー光は、金属材料S表面にアブレーションを生じない程度で表面近傍にガスプラズマを生成するエネルギー密度を有している。例えば、炭酸ガスレーザーを用いる場合には、パワー密度108~5×109W/cm2でハルス幅50~500ナノ秒のレーザー照射装置を用いればよい。なお、対象となる金属材料に対してアブレーションを起こさずにガスプラズマのみ発生させることが可能であれば、炭酸ガスレーザー以外の赤外レーザー又は遠赤外レーザーを用いてもよく、特に限定されない。

【0020】
密閉容器2には、ヘリウムガスを収容したガスボンベ8が供給管7を介して接続されており、供給管7に設けられた弁9により密閉容器2内に供給されるヘリウムガスの量が制御されるようになっている。また、密閉容器2には、吸気ポンプ10が排出管11を介して接続されており、排出管11に設けられた弁12により密閉容器2内からの排気量が制御されるようになっている。そして、密閉容器2内の気体圧力を検知する圧力センサ13からの検知信号に基づいて圧力制御部14が弁9及び12を制御して密閉容器2内の圧力が一定に維持されるようになっている。こうしたヘリウムガスの供給制御により密閉容器2内は一定圧力のヘリウムガス雰囲気に保持されるようになる。

【0021】
密閉容器2内の圧力は、大気圧又はそれよりわずかに低い減圧状態か大気圧より高い加圧状態に設定すればよい。大気圧に設定する場合には、密閉容器を用いずにガスボンベ内のヘリウムガスを直接金属材料表面に吹き付けてヘリウムガス雰囲気を保持するようにしてもよい。

【0022】
金属材料Sは、表面の所定の測定部位がレーザー照射部5から出力されるレーザー光の光軸に一致するように位置決めされている。金属材料としては、水素を内蔵する金属材料であれば、分析対象とすることができる。特に、水素による脆化が問題となるジルカロイ等のジルコニウム系材料、チタン系材料、鉄鋼等の鉄系材料といった金属材料を分析する場合に好適である。

【0023】
金属材料Sの測定部位の近傍に生じるガスプラズマ中における発光状態を測定するために光ファイバ15が密閉容器2に取り付けられている。光ファイバ15に入射した光は分析部16に入力され、分析部16は入力された光を分析して表示部17に送信し、表示部17では分析結果を表示する。

【0024】
分析部16は、入力された光を分光して波長毎の発光強度を測定し、後述するように、水素の発光波長(Hα;656.2nm)及び酸素の発光波長(777.1nm)の発光強度に基づいて測定部位に含まれる水素を定量的に分析する。

【0025】
なお、光ファイバ15の代わりに所定範囲の光波長のみを通過させる光学フィルタ(例えば、干渉フィルタ)を装着した光電増倍管を密閉容器2に取り付けて、水素の発光波長に対応する光のみを光電増倍管に入射させて測定し、分析するようにしてもよい。また、分析に必要な他の元素(例えば、酸素)についてもそれに対応する光のみを通過させる光学フィルタを用いて測定すればよい。

【0026】
図2は、金属材料S表面の測定部位にレーザー光を照射した場合の状態を示す模式図である。レーザー光Lを金属材料S表面の測定部位に照射すると、表面にアブレーションは生じないが、表面近傍に供給されているヘリウムガスがプラズマ化されてガスプラズマPが発生し、多量のヘリウム準安定状態が形成される。

【0027】
ガスプラズマPは高温状態になるため、金属材料表面がガスプラズマPの温度によりわずかに溶融して溶融領域Mが形成される。溶融領域Mに含まれる水素は、他の原子に比べて軽量であるため、溶融領域Mから容易に離脱することができガスプラズマPの中に飛散するようになる。ガスプラズマP中にはヘリウム準安定状態が形成されているため、飛散した水素原子がヘリウム準安定状態に衝突して励起され発光するようになる。一方、金属材料に含まれる母体元素等の水素以外の原子についてアブレーションが生じないため、ガスプラズマP中に飛散することはない。そのため、ガスプラズマP中の発光現象を分析すれば、測定部位に含まれる水素を精度よく定量分析することができる。

【0028】
図3は、ジルカロイ(ジルコニウムの含有量約98%)からなる金属材料の内部に高濃度(2050ppm)の重水素を内蔵させたものに、炭酸レーザー(エネルギー1.5J、パルス幅200ナノ秒)を照射し、ガスプラズマ中で発光する光を多チャンネル型分光器(ATAGO Macs-320)により測定した結果を示すグラフである。縦軸に光強度をとり、横軸に発光波長をとっている。

【0029】
図3に示すグラフをみると、ヘリウム(He)の発光波長(667.8nm)及び水素(重水素及び水素)の発光波長(重水素Dα653.8nm、水素Hα656.2nm)においてピークがみられ、ジルカロイの母体元素であるジルコニウム(Zr)の発光波長領域(640~650nm)ではほとんどピークがみられない。

【0030】
図4は、図3に示す測定結果において重水素及び水素の別の発光(重水素Dβ486.0nm、水素Hβ486.1nm)に関する波長領域について高解像度で分析した測定結果を示すグラフである。図3に示すグラフでは重水素と水素との間の発光強度が明確に区別できないが、図4に示すグラフでは両者の発光強度が明確に区別することができ、重水素(Dβ)の強いピークと水素(Hβ)の弱いピークが測定されている。したがって、金属材料に含まれる重水素が発光していると確認することができる。

【0031】
以上の実験結果からみると、図2で説明したように、金属材料表面に向かってレーザーを照射することで、金属材料に含まれる水素がガスプラズマ中に飛散して発光していることが証明される。

【0032】
図4では、重水素以外に水素がわずかに発光していることが測定されているが、その発光している水素は、ガスプラズマ中の水蒸気や金属材料表面に付着している水分といった水に由来する水素が発光しているものと考えられる。金属材料に含まれる水素以外の水素については、金属材料に含まれる水素の発光(Hα)に上乗せして測定されるためその分を補正する必要があるが、補正すべき水素の発光強度を特定することは困難である。しかしながら、水由来の水素は水に由来する酸素と密接に関係しているので、酸素の発光波長(777.1nm)の発光強度に基づいて水由来の水素分の発光強度を推定することができる。

【0033】
水由来の水素の発光強度を定量的に分析する場合には、水素を全く含まない金属材料に対して上述のようにレーザー照射して水素及び酸素の発光強度を測定しその強度比を予め算出しておけば、実際に測定された酸素の発光強度及び算出された強度比に基づいて水由来の水素の発光強度を推定することができる。本発明者らの実験に用いた測定装置では、水に由来する水素及び酸素の発光強度の強度比は、H:O=4:1と算出された。

【0034】
なお、金属材料に酸素が含まれている場合、レーザー照射により金属材料から酸素がガスプラズマ中に飛散することが考えられる。例えば、ジルカロイといった金属材料にはそれ自体に0.1%程度の酸素が含まれている。本発明者らは、酸素を含まないジルコニウムからなる純度の高いZr金属及び酸素を取り込んでいないジルカロイについて同じようにレーザー照射をして酸素の発光強度を測定したところ、発光強度に差はないことを確認した。すなわち、ジルカロイからガスプラズマ中に酸素が飛散していれば、ジルカロイの方が酸素の発光強度が高くなるはずであるが、両者に差がなかったことから、ガスプラズマ中では水由来の酸素のみ発光していると考えられる。

【0035】
以上のことから、酸素の発光強度に基づいて水由来の水素の発光強度を精度よく定量分析することができ、その分を測定された水素の発光強度から差し引くことで金属材料の測定部位に含まれる水素の発光強度を精度よく定量的に分析することができる。

【0036】
そこで、金属材料に含まれる水素濃度がわかっているサンプルを異なる濃度で複数準備し、各サンプルに図1に示すようにレーザー照射を行って水素及び酸素の発光波長の発光強度を測定し、酸素の発光強度を4倍して水由来の水素の発光強度を算出し、測定された水素の発光強度から水由来の水素の発光強度を差し引いて金属材料に含まれる水素の発光強度を算出する。こうして金属材料に含まれる水素の濃度及び発光強度を定量的に関連づけた基準データを得ることができる。そして、得られた基準データを用いれば、測定した発光強度から金属材料の測定部位における水素濃度を精度よく定量的に求めることが可能となる。

【0037】
水素を異なる濃度(0ppm、100ppm、200ppm、400ppm、600ppm)で含む5つのジルカロイを用いて基準データを作成する実験を行った。

【0038】
実験には、図1に示す装置において、レーザー照射には、TEACO2レーザー(エネルギー1.5J、パルス幅200ナノ秒、スポットサイズ2mm×2mm)を用い、容器内は大気圧に設定した。実験を行う前に、容器内を50℃に温度設定して30分間真空状態にし、容器内及びサンプルに付着した水分を除去した。そして、高純度のヘリウムガスを4リットル/分で容器内に供給し、容器内の圧力を790mmHgに保持するように設定した。なお、測定を行う前に予備的にレーザー照射を行って、測定部位の表面の水分を除去するようにしてもよい。

【0039】
測定部位に向かってレーザーを照射することで、測定部位の近傍に半径10mm程度のオレンジ色のガスプラズマ領域が観察された。

【0040】
基準データは、1回の測定でレーザー照射を20ショット行い、材料表面の異なる位置で4回繰り返して測定して得られた測定結果の平均値を求めて作成した。

【0041】
図5は、基準データに基づいて作成した検量線を示すグラフである。縦軸にヘリウムと水素の発光強度の比をとり、横軸に水素濃度をとっている。グラフAは、各濃度の測定結果をプロットして描画したグラフであり、水素濃度と発光強度との間に直線的な相関関係があることがわかる。そして、グラフAが水素濃度0ppmで発光強度比が0となっていないのは、上述したように水由来の水素によるものと考えられる。

【0042】
そこで、酸素の発光強度に基づいて水由来の水素の発光強度を算出して測定された水素の発光強度から差し引いて補正を行い、その結果をプロットして描画したのがグラフBである。グラフBは、原点を通る直線として描くことができ、測定結果のばらつきも少ないことから、グラフBを検量線として実際の測定結果の分析に使用することで金属材料に含まれる水素濃度を精度よく定量的に分析することができる。

【0043】
図6は、水素濃度が600ppmのジルカロイにレーザー照射を行った場合にガスプラズマ中で発生した光を測定した結果を示すグラフである。縦軸に発光強度をとり、横軸に波長をとっている。図6では、ヘリウム(He)及び水素(H)の発光波長に関して発光強度のピークが明確に表れており、それ以外の原子についてはほとんど測定されていない。

【0044】
そして、ピークがシャープで狭い範囲となっているので、S/N比が非常に高くなっており、測定を高い精度で行えることがわかる。この測定結果をみると、分析感度を30ppmまで高めることが可能である。スペクトル測定結果が、このように水素の発光のみ生じ、その発光波長付近に水素以外の母体元素等の原子の発光が生じないので、性能の良い光学フィルタ(例えば、水素の発光(Hα)を通過させてヘリウム(He)の発光を通過させない干渉フィルタ)及び光電子増倍管を併用して、水素の発光強度のみを高精度で測定することが可能となる。こうした構成を用いれば、水素の検出感度はさらに向上させることができ、より高精度の分析がを行える。

【0045】
図7は、重水素を数百ppm含むチタン材料にレーザー照射を行った場合にガスプラズマ中で発生した光を測定した結果を示すグラフである。縦軸に発光強度をとり、横軸に波長をとっている。図7においても図5と同様に、ヘリウム(He)及び重水素(D)の発光波長に関して発光強度のピークが明確に表れており、それ以外の原子についてはほとんど測定されていない。したがって、チタン材料に含まれる水素についても同様に精度よく定量的な分析が可能となる。

【0046】
なお、上述した例では、水由来の水素に関して酸素の発光強度により補正を行うようにしているが、有機物由来の水素が含まれる場合には、炭素の発光波長(247nm等)の発光強度に基づいて補正することができる。

【0047】
以上説明したように、コンパクトな装置構成で金属材料に含まれる水素を高精度で定量的に分析することができる。そして、金属材料の測定部位を所定間隔ずつずらして測定すれば、2次元的に分析を行うことができる。測定部位を所定間隔ずつ移動させる場合には、例えば、レーザー光をミラー等により反射させてミラー角度を変更することで照射位置を移動させればよい。

【0048】
また、金属材料の表面からの深さ方向の測定部位に含まれる水素を分析する場合には、紫外線レーザー等を用いてアブレーションにより金属材料に所定深さまで穴を形成し、形成した穴の底面にレーザー照射して測定を行えば、その深さにおける水素濃度を分析することができる。穴の深さを所定深さずつ掘り下げることで深さ方向の水素を定量的に分析することが可能となる。

【0049】
また、高感度分析を行うことができるので、図4に示す水素及び重水素の発光に関するグラフのように発光波長が近接している場合でも分析可能で、水素、重水素及び三重水素といった同位体の分析についても精度よく行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、水素による脆化が問題となるジルカロイ等のジルコニウム系材料、チタン系材料、鉄鋼等の鉄系材料といった金属材料を分析する場合に好適である。また、コンパクトな装置構成で金属材料にほとんどダメージを与えることがなく、大気圧状態でも測定できるため、原子炉、ビル、橋梁といった構造物の金属製の構造材に対して測定することが可能であり、幅広い分野における水素の定量分析に用いることができる。
【符号の説明】
【0051】
L レーザー光
M 溶融領域
P ガスプラズマ
S 金属材料
1 水素分析装置
2 密閉容器
3 載置台
4 窓部
5 レーザー照射部
6 パルス発生器
7 供給管
8 ガスボンベ
9 弁
10 吸気ポンプ
11 排出管
12 弁
13 圧力センサ
14 圧力制御部
15 光ファイバ
16 分析部
17 表示部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6