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明細書 :自動車運転認知行動評価装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5366248号 (P5366248)
公開番号 特開2011-059269 (P2011-059269A)
登録日 平成25年9月20日(2013.9.20)
発行日 平成25年12月11日(2013.12.11)
公開日 平成23年3月24日(2011.3.24)
発明の名称または考案の名称 自動車運転認知行動評価装置
国際特許分類 G09B   9/052       (2006.01)
G09B   9/05        (2006.01)
FI G09B 9/052
G09B 9/05 E
請求項の数または発明の数 5
全頁数 15
出願番号 特願2009-207313 (P2009-207313)
出願日 平成21年9月8日(2009.9.8)
審査請求日 平成24年9月6日(2012.9.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
発明者または考案者 【氏名】小林 正義
個別代理人の代理人 【識別番号】100088306、【弁理士】、【氏名又は名称】小宮 良雄
【識別番号】100126343、【弁理士】、【氏名又は名称】大西 浩之
審査官 【審査官】中澤 言一
参考文献・文献 特開2007-264055(JP,A)
特開2007-272834(JP,A)
特開平8-173407(JP,A)
特開2008-58459(JP,A)
特開2005-177406(JP,A)
尾崎晃,外5名,“自動車運転行動のマルチモーダル信号コーパス”,電子情報通信学会技術研究報告,社団法人電子情報通信学会,2008年11月13日,Vol.108,No.312,p.33-38
調査した分野 G09B 9/00 - 9/056
G08G 1/00 - 1/16
A61B 5/18
特許請求の範囲 【請求項1】
模擬運転席の前方に配されたディスプレイに、車両運転に際して注意を要する要注意状況を含む走行路の映像を表示させる映像表示装置と、
該模擬運転席に着座する運転者の手掌部に装着されてその発汗量を検出する発汗量センサと、
該手掌部に装着されてその皮膚電位反射を検出する皮膚電位センサと、
該模擬運転席に設けられた操作デバイスの操作量を検出する操作量センサと、
これらの各センサによって検出される各々の検出値を記録する記録部とを、備え
該映像表示装置が該要注意状況の映像を表示させた時点から、該皮膚電位センサによって検出される該皮膚電位反射が最初に所定値を超えて変動する時を判別して、さらにその変動が開始し始める反応開始時点を特定し、この反応開始時点までの反応潜時を計測して、該反応潜時を該記録部に記録する反応潜時計測部と、
該発汗量センサによって検出される該発汗量が、該反応開始時点の後に最初に迎えるピーク値を特定し、このピーク値を反応量として該記録部に記録する反応量検知部とを、さらに備えていることを特徴とする自動車運転認知行動評価装置。
【請求項2】
前記映像表示装置に表示させる前記映像が、前記走行路を運転者の視線から見た映像であることを特徴とする請求項1に記載の自動車運転認知行動評価装置。
【請求項3】
前記反応潜時および前記反応量に基づいて前記運転者の運転特性を判定する判定部を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車運転認知行動評価装置。
【請求項4】
前記映像表示装置は、先に表示させる前記要注意状況による前記手掌部の発汗が終了する所定の時間間隔を少なくとも空けてから、次の該要注意状況を表示させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の自動車運転認知行動評価装置。
【請求項5】
前記操作デバイスが、ブレーキペダル、アクセルペダル、および/またはハンドルであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の自動車運転認知行動評価装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、車両運転をシミュレートさせて、運転者の運転能力を評価しうる自動車運転認知行動評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
運転シミュレータを用いて、自動車の運転を模擬的に行わせて、運転者の運転能力や運転傾向などの運転特性を評価することが行われている。このような運転シミュレータは、自動車教習所や運転免許センターなどに設置されて、運転者の運転特性を把握することが行われている。特に近年では、高齢者による自動車事故の増加が問題となっており、高齢者の免許更新の講習にも運転シミュレータが使用されている。
【0003】
例えば特許文献1には、アイカメラを装着した運転者に、安全運転のために注意を要すべき走行路と相対的に注意を要しない走行路とをそれぞれ模擬的に走行させ、運転者の視線の移動量を検出して、その移動量に基づいて運転能力が優れているか否かを判別する運転シミュレータ装置が開示されている。
【0004】
この特許文献1に記載された運転シミュレータでは、一時停止交差点や五交差路において、大きく視線が移動している運転者ほど運転能力が高いと判別している。
【0005】
しかしながら、自動車の運転では、例えば、信号が青から黄色に変わった状況や、信号待ちの車両に近づいて停車する状況、子供が集団で歩いている状況など、数多くの安全運転のために注意を要すべき状況(要注意状況)がある。さらにこれらの中にも、注意を要する程度の異なる状況、つまり、危険性の低いものから高いものまで種々の状況がある。特許文献1に記載された運転シミュレータでは、このような種々の状況を含む映像を表示させたときに、運転者がその状況に応じて、危険性の高低を正確に認知し、または予測しているかを判別することは難しい。
【0006】
ここで危険性の認知とは、人の飛び出し状況のように、状況そのものに高い危険性があって運転者がその危険性を直接認知することをいい、危険性の予測とは、見通しの悪い交差点のように、人の飛び出しなどの潜在的な危険性を有する状況で、運転者がその危険性が生じるかもしれないことを予測(推測)することをいう。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2005-326504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、運転者に映像を提示して模擬運転をさせたときに、その映像から運転者がどの程度の危険性があると認知、予測しているかを把握することができ、さらにその危険性に対応した行動をとっているかを把握することのできる自動車運転認知行動評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された自動車運転認知行動評価装置は、模擬運転席の前方に配されたディスプレイに、車両運転に際して注意を要する要注意状況を含む走行路の映像を表示させる映像表示装置と、
該模擬運転席に着座する運転者の手掌部に装着されてその発汗量を検出する発汗量センサと、
該手掌部に装着されてその皮膚電位反射を検出する皮膚電位センサと、
該模擬運転席に設けられた操作デバイスの操作量を検出する操作量センサと、
これらの各センサによって検出される各々の検出値を記録する記録部とを、備え
該映像表示装置が該要注意状況の映像を表示させた時点から、該皮膚電位センサによって検出される該皮膚電位反射が最初に所定値を超えて変動する時を判別して、さらにその変動が開始し始める反応開始時点を特定し、この反応開始時点までの反応潜時を計測して、該反応潜時を該記録部に記録する反応潜時計測部と、
該発汗量センサによって検出される該発汗量が、該反応開始時点の後に最初に迎えるピーク値を特定し、このピーク値を反応量として該記録部に記録する反応量検知部とを、さらに備えていることを特徴とする。
【0010】
同じく請求項2に記載された自動車運転認知行動評価装置は、前記請求項1に記載の自動車運転認知行動評価装置であって、前記映像表示装置に表示させる前記映像が、前記走行路を運転者の視線から見た映像であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載された自動車運転認知行動評価装置は、請求項1または2に記載されたもので、前記反応潜時および前記反応量に基づいて前記運転者の運転特性を判定する判定部を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載された自動車運転認知行動評価装置は、請求項1から3のいずれかに記載されたもので、前記映像表示装置は、先に表示させる前記要注意状況による前記手掌部の発汗が終了する所定の時間間隔を少なくとも空けてから、次の該要注意状況を表示させることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載された自動車運転認知行動評価装置は、請求項1から4のいずれかに記載されたもので、前記操作デバイスが、ブレーキペダル、アクセルペダル、および/またはハンドルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の自動車運転認知行動評価装置によれば、手掌部の発汗量を検出する発汗量センサ、および手掌部の皮膚電位反射を検出する皮膚電位センサの検出値を、映像の進行に合わせて記録部が記録することにより、その記録から、要注意状況映像が表示されたときの発汗量の大小で運転者が認知、予測した危険性の高低を装置オペレータが把握できる。手掌部の発汗量は個人差があることから、エクリン汗腺の活動指標となる皮膚電位反射を検出することで、その変動の開始時点によって運転者の反応開始時点を同定できるので反応潜時を把握することができる。したがって、運転者が要注意状況の映像を視認してからどの程度の時間で危険性を認知、予測したかの反応潜時、および運転者の認知、予測した危険性の程度がわかるので、本装置を運転者の運転特性の評価に用いることができる。つまり短時間で危険性を認知、予測し、かつ、要注意状況の危険性の程度を正しく認知、予測している運転者は、運転特性が優れていると把握できる。逆に、反応潜時が長かったり、危険性を正しく認知、予測できていない運転者は、運転特性が劣っていると把握できる。また、模擬運転席に設けられた操作デバイスの操作量が記録されるので、要注意状況に対応して運転者が正しく運転操作を行ったか否かを装置オペレータが把握して、運転特性を判断することができる。
【0015】
本装置を運転教習所に設置することで、受講者の運転特性に応じた教習を行うことができる。例えば、要注意映像が表示されているにも関わらず、受講者の反応潜時が遅かったり、危険性を正しく認知、予測していないと把握されるときには、要注意映像のどの部分に注意する必要があって、どのように運転操作すればよいかを、指導者は教えることができる。また、指導後に再度本装置を使わせることで、受講者の運転特性が向上しているか否かを確認することができる。
【0016】
また、高齢者を対象とする免許更新の講習に本装置を用いることで、運転の際に一番重要な危険性の認知、予測に対する運転特性が把握できるので、運転特性が低いと把握される高齢者には充分に講習を行うことで交通事故の発生を防止することができる。また、本装置を病院に設置することで、患者の反応がわかるので、リハビリテーションに用いてもよい。
【0017】
本発明の自動車運転認知行動評価装置によれば、反応潜時計測部が要注意状況の表示された時点から反応開始時点までの反応潜時を計測し、反応量検知部が反応開始時点後に最初に迎えるピーク値を反応量として記録するため、装置オペレータは、記録を確認するだけで反応潜時および反応量を簡便に把握でき、ひいては運転者の運転特性を簡便に把握することができる。
【0018】
本発明の自動車運転認知行動評価装置によれば、判定部が、反応潜時および反応量に基づいて運転者の運転特性を判定するため、装置オペレータの判断が不要になるので、誰でも本装置を扱うことができるし、いずれの場所にも本装置を設置することができる。
【0019】
本発明の自動車運転認知行動評価装置によれば、映像表示装置が、前の要注意状況の映像を表示させてから、少なくとも手掌部の発汗が終了する所定の時間間隔を空けて、次の要注意状況の映像を表示させることにより、いずれの要注意映像による反応であるかを明確に切り分けることができるため、要注意状況に応じた運転者の反応を正確に把握することができる。
【0020】
本発明の自動車運転認知行動評価装置によれば、ブレーキペダル、アクセルペダル、および/またはハンドルの操作量が記録されるので、運転者の運転操作を把握することができる。ブレーキペダルの操作量を記録すると、危険性に応じてブレーキが踏まれたか否かを判断でき、アクセルペダルの操作量を記録すると、危険性に応じてアクセルが戻されているか否かを判断でき、ハンドルの操作量を記録すると危険を避けているか否か、またふら付いた操作をしているか否かを把握することができる。したがって、運転者の運転特性を操作面から把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を適用する自動車運転認知行動評価装置の概要を示す構成図である。
【図2】上記の自動車運転認知行動評価装置のディスプレイに表示させる要注意状況を含む走行路の映像の一例を示す図である。
【図3】要注意状況を連続して表示させた場合の手掌部発汗量の一例を示す波形図である。
【図4】手掌部発汗量および手掌部の皮膚電位反射の一例を示す波形図である。
【図5】本発明を適用する別の自動車運転認知行動評価装置の電気構成図である。
【図6】本発明の自動車運転認知行動評価装置で記録した「市街地コース」映像による各反応波形図である。
【図7】本発明の自動車運転認知行動評価装置で記録した「市街地コース」映像による被験者30名の平均反応波形図である。
【図8】本発明の自動車運転認知行動評価装置で記録した「住宅地コース」映像による被験者30名の平均反応波形図である。
【図9】本発明の自動車運転認知行動評価装置で記録した「市街地コース」と「住宅地コース」映像の中から手掌部発汗量が多かった場面と少なかった場面の反応量を比較したグラフである。
【図10】本発明の自動車運転認知行動評価装置で記録した「市街地コース」映像を用いて2回実験したときの1回目と2回目の25名の平均波形図である。
【図11】本発明の自動車運転認知行動評価装置で記録した「歩行者飛び出し」映像を表示したときの手掌部発汗、皮膚電位反射、ブレーキ動作の各反応波形図である。
【図12】本発明の自動車運転認知行動評価装置で記録した「歩行者飛び出し」映像を表示したときの手掌部発汗、皮膚電位反射、ブレーキ動作の被験者30名の潜時を比較したグラフである。
【図13】20歳女性と80歳男性を被験者としたときの「市街地コース」映像による各反応波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。

【0023】
本発明の自動車運転認知行動評価装置の一態様を、図1を参照しながら説明する。自動車運転認知行動評価装置1は、模擬運転席2に操作デバイスとしてブレーキペダル3、アクセルペダル4、およびハンドル5が設けられると共に、ブレーキペダル踏込量センサ3a、アクセルペダル踏込量センサ4a、発汗量センサ6、皮膚電位センサ7、ディスプレイ8、映像表示装置9、コンピュータ10、A/D(アナログ/ディジタル)変換器11、スピーカー12を備えている。

【0024】
模擬運転席2は、自動車の運転席を模したもので、非図示の椅子に運転者を着座させて、運転者にブレーキペダル3、アクセルペダル4、およびハンドル5の運転操作を模擬させるものである。

【0025】
ブレーキペダル3の根元には、その踏み込み量を検出してその検出値を電気信号で出力するブレーキペダル踏込量センサ3a(操作量センサの一例)が付されている。同様に、アクセルペダル4の根元には、その踏み込み量を検出してその検出値を電気信号で出力するアクセルペダル踏込量センサ4a(操作量センサの他の一例)が付されている。センサ3a,4aは、一例として、ポテンショメータであり、非図示の電源が接続されて、踏込量に応じたアナログ電気信号を出力する。踏込量センサ3a,4aは、A/D変換器11に接続されている。

【0026】
発汗量センサ6は、そのプローブが模擬運転席2に着座する運転者の手掌部(共に非図示)に装着されて、手掌部の発汗量を検出して電気信号で出力するものである。

【0027】
皮膚電位センサ7は、そのプローブが手掌部に装着されて皮膚電位反射(SPR:Skin Potential Response)を検出して電気信号で出力するものである。皮膚電位反射は、皮膚電位の反応成分(交流成分)である。

【0028】
発汗量センサ6および皮膚電位センサ7の出力は、各々A/D変換器11に接続されている。発汗量センサ6および皮膚電位センサ7としては、公知の各種のものを用いることができる。

【0029】
模擬運転席2の前方には、一例として液晶パネルのディスプレイ8が配置されている。ディスプレイ8は、スクリーンおよびプロジェクタで構成してもよい。ディスプレイ8の両脇にはスピーカー12が配置されている。ディスプレイ8およびスピーカー12は、各々映像表示装置9に接続されている。

【0030】
映像表示装置9は、ディスプレイ8に、車両運転に際して注意を要する要注意状況を含む走行路の映像を表示させるものである。具体的には、映像は、車両運転に際して相対的に注意を要しない例えば信号のない直線路を走行する映像の途中に要注意状況を出現させるものである。この要注意状況には、すでに前述したものの他にも、一時停止標識が現れる状況、駐車車両を追い越す状況、脇道から人や自転車等が飛び出しそうになる、または飛び出してしまった状況などの種々の状況がある。図2に、一例として、自転車22が交差点で走行路21に急に飛び出しそうになる要注意状況を含む走行路の映像(要注意映像)20を模式的に示す。

【0031】
映像に、このような様々な要注意状況を表示させる場合、先の要注意状況を表示させてから次の要注意状況を表示させるまでの時間間隔は、先の要注意状況の発汗反応が終了するだけの所定の時間間隔を少なくとも空けることが好ましい。図3に手掌部の発汗量の変動波形の一例を示す。同図に示すように、比較的短い時間間隔のタイミングS1、S2で要注意状況を表示する場合には、発汗反応が重なり合ってしまい、いずれの要注意状況による反応か区別がつきにくくなる。そのため、同図に示すように、タイミングS1’で表示させた要注意状況の発汗反応が終了する所定の時間間隔を開けてからタイミングS2’で要注意状況を表示させる方がよい。この所定の時間間隔は、要注意状況の危険性の程度によって異なるが、一例として、10~30秒程度である。また、先の要注意状況と後の要注意状況の間には、運転者を安心させるために停車映像や見通しの良い直線路を入れることが好ましい。

【0032】
図1に示す映像表示装置9は、必要に応じて、スピーカー12から運転中の周囲音を出力させてもよい。周囲音をスピーカー12から流すことで、運転の臨場感が増すため好ましい。またその場合、スピーカー12を模擬運転席2の近くに配置した方が運転者に対して大きな音量で聞かせることが出来るので一層好ましい。

【0033】
映像表示装置9は、映像をディスプレイ8に表示させるものであれば特に限定されず公知の装置を用いることができる。一例として、このような映像およびその周囲音をDVD(Digital Versatile Disc)に予め録画しておきDVD再生機で再生することで視聴覚映像を表示させてもよい。図1では、映像表示装置9として、DVD再生機能付きのパーソナルコンピュータでDVDの映像を再生させる例を図示している。この場合、映像は記録されたものであるので、模擬運転席2の操作に対応して車速や進行方向の変化は無いが、後述する実験結果に示すように、DVDに記録された映像であっても、運転者の危険性の認知、予測の程度を把握することができる。なお、映像表示装置9は、コンピュータを用いて、模擬運転席2の操作に対応させて車速や進行方向などを変化させる映像(コンピュータ グラフィックス映像)を生成するものであってもよい。

【0034】
A/D変換器11は、センサ3a,4a,6,7から出力される各々のアナログ電気信号を、一例としてサンプリング周波数10Hzでディジタル電気信号に変換して、コンピュータ10に出力する。

【0035】
コンピュータ10は、例えば市販のパーソナルコンピュータであって、本発明における記録部に相当し、A/D変換器11を介して入力されるセンサ3a,4a,7,8の検出した検出値を、内蔵するハードディスクに記録する。またコンピュータ10は、記録したそれら検出値を画面上にグラフ表示させてもよく、プリンター(非図示)に印刷させてもよい。

【0036】
次に、自動車運転認知行動評価装置1の動作および使用方法について説明する。

【0037】
予め模擬運転席2に着座する運転者の手掌部に、発汗量センサ6および皮膚電位センサ7を装着する。装置オペレータが映像表示装置9にDVDの再生を開始させると同時に、コンピュータ10にセンサ3a,4a,7,8の検出値の記録を開始させる。これによりコンピュータ10は、映像表示装置9が表示させる映像の進行に合わせてこれら検出値を記録する。

【0038】
運転者は、ディスプレイ8に表示される走行路の映像を見ながら模擬運転を行う。この際に、スピーカー12からは映像を録画した際の周囲音が流れる。

【0039】
映像の進行と共に、走行路に要注意状況が現れる。その際に記録される発汗量センサ6および皮膚電位センサ7の検出値の記録波形例を図4に示す。同図では、時間の進行と共に検出値をグラフ表示している。

【0040】
同図に示すように、要注意状況が出現したとき、発汗量は増加する。その発汗量の大小で運転者の反応の程度を把握することができるが、変動が小さい場合には反応開始時点を同定しにくい。一方皮膚電位反射は反応量の評価はし難いが、同図に示すように反応開始時点を把握しやすい。つまり、要注意状況の現れた後に皮膚電位反射が大きく変動を開始した時を、反応開始時点とすることができるので反応潜時を評価することができる。また、その反応開始時点からの発汗量の増加の程度で運転者がどの程度の危険性があると認知、予測したかを評価することができる。

【0041】
また、要注意状況に応じてブレーキペダル5およびアクセルペダル6が正しく操作されているかを記録から把握することもできる。

【0042】
なお、図1に波線で示すように、ハンドル5の軸部にハンドルの回転量を検出する回転量センサ5a(操作量センサの一例)を備え、その検出値を記録することもできる。操作量センサは、ブレーキペダル3、アクセルペダル4およびハンドル5のいずれか一つにまたはこれらを組み合わせて配して、その操作量を記録してもよい。その中でも危険性を回避するために最も操作が必要なブレーキペダル3に操作量センサを配することが好ましい。

【0043】
また、映像表示装置9とコンピュータ10とを電気的に接続して、映像の開始に同期させてコンピュータ10にセンサ3a~7の検出値の記録を自動的に開始させ、映像の終了に同期させて記録を自動的に終了させてもよい。

【0044】
また、模擬運転席2、ディスプレイ8、映像表示装置9、コンピュータ10、A/D変換器11、およびスピーカー12を一体的に構成してもよい。

【0045】
次に本発明の自動車運転認知行動評価装置の別の一態様を、図5を参照しながら説明する。同図は、自動車運転認知行動評価装置1aの電気系統図である。なお、すでに説明した構成には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。

【0046】
同図に示す自動車運転認知行動評価装置1aは、自動車運転認知行動評価装置1のコンピュータ10をコンピュータ10aに換えた点、および映像評価装置9をこのコンピュータ10aに接続した点が、自動車運転認知行動評価装置1と異なっている。

【0047】
コンピュータ10aは、例えば市販のパーソナルコンピュータであって、本発明における記録部、反応潜時計測部、反応検知部、判定部に相当するものである。このコンピュータ10aは、センサ3a~7の検出値をハードディスク(記録部)に記録する。また、コンピュータ10aは、反応潜時計測部として、映像表示装置9が要注意状況の映像を表示させた時点から、皮膚電位センサ7によって検出される皮膚電位反射が最初に所定値を超えて変動する時を判別して、さらにその変動が開始し始める反応開始時点を特定し、要注意映像の表示時点からこの反応開始時点までの反応潜時を計測して、この反応潜時を要注意映像に対応させて、ハードディスク(記録部)に記録する。

【0048】
またコンピュータ10aは、反応量検知部として、発汗量センサ6によって検出される発汗量が、反応潜時計測部の検出した反応開始時点の後に最初に迎えるピーク値を特定し、このピーク値を反応量として要注意映像に対応させて記録部に記録する。コンピュータ10aは、ハードディスクに、センサ3a~7による検出値と、反応潜時および反応量とを区別可能に別個に記録する。

【0049】
またコンピュータ10aは、判定部として、反応潜時および反応量に基づいて運転者の運転特性を判定する。

【0050】
具体的には、コンピュータ10aは、例えば、映像表示装置9を制御したり、映像表示装置9から出力される映像開始からの経過時間(以下単に映像経過時間ともいう)を入力されることで、映像の表示開始時点や、映像経過時間を特定可能に構成されている。コンピュータ10aは、各センサ3a~7の検出値を、映像経過時間と共に記録部に記録する。また、コンピュータ10aの記録部には、予め、要注意状況が表示開始される映像経過時間(以下、要注意状況開始時間ともいう)が記録されている。

【0051】
反応潜時計測部は、要注意状況開始時間が経過した時点から、皮膚電位センサ7によって検出される皮膚電位反射の絶対値が、例えば0.1mVなどの所定の電圧値を超えて変動するか否かを監視する。反応潜時計測部は、この所定の電圧値を超えたと判別したときに、すでに記録部に記録されている皮膚電位反射値から、その変動が開始し始める、つまり皮膚電位反射値が0から僅かに(例えば0.02mV)増加し始める時の映像経過時間を特定して反応開始時点とする。反応潜時計測部は、要注意状況が表示されてから反応開始時点までの時間間隔を、皮膚電位反射の反応潜時として、いずれの要注意状況の反応潜時か識別可能にして記録部に記録する。

【0052】
反応量検知部は、反応開始時点の後に記録された発汗量の検出値の中から、最初のピーク値を反応量として、いずれの要注意状況の反応量か識別可能にして記録部に記録する。

【0053】
判定部は、一例として、反応潜時が所定の最大許容時間を超えるとき、および/または、反応量が所定の最小反応量よりも小さいときに、危険性の認知、予測に対する運転特性が低いと判定する。この最大許容時間、および/または、最小反応量は、予め決定して、記録部に記録しておく。最大許容時間や最小反応量としては、多数の健常な運転者に模擬運転をさせ検出値を記録して、要注意状況に対するそれらの中の検出時間の最大値や反応量の最小値を用いてもよい。また、最大許容時間や最小反応量を、性別や年代別に対応させて変更して用いてもよい。

【0054】
判定部は、映像中の特徴のある1つの要注意状況で判定を行ってもよいし、映像中の複数の要注意状況で判定してもよい。判定部が、複数の要注意状況で判定する場合、運転特性が低いと判定される回数に応じて、さらに運転特性の良否を判定してもよい。また、判定部は、発汗量センサ6および皮膚電位センサ7の検出値とブレーキペダル踏込量センサ3aなどの操作量センサの検出値と組み合わせて運転特性を判断してもよい。

【0055】
反応潜時計測部、反応量検知部、および判定部は、模擬運転を行っている最中に作動させてもよく、模擬運転が終了してから作動させてもよい。
【実施例】
【0056】
図1に示される構成の本発明の自動車運転認知行動評価装置1を試作した。発汗センサ6として西澤電機製作所製の発汗計(SKINOS SKN-2000)を用いた。また、皮膚電位センサ7として、西澤電機製作所製の皮膚電位計(SKINOS SPN-01)を用いた。
【実施例】
【0057】
ディスプレイ8に表示させる映像として、「市街地コース」(松本市内)および「住宅地コース」(松本市郊外の住宅地)の2種類のコース選定し、自動車で実際に走行して、運転者の視線から見た映像をディジタルビデオカメラで撮影した。その映像を、コースごとにDVDに記録した。「市街地コース」は、2車線道路や信号機のある比較的交通量の多い道路環境で、停車車両の追い越しや車線変更、横断歩道を渡る歩行者に注意する要注意状況(場面)などを含んでいる。「住宅地コース」は、比較的道幅が狭く見通しの悪い道路環境で、自転車の追い越し、人の飛び出し、ボールの飛び出し等の危険場面を設定した。
【実施例】
【0058】
運転者として、自動車運転の経験を有し、本実験への参加について同意の得られたボランティアの健常成人30名(男性12名、女性18名、平均年齢22.7±11.3歳)を対象に実験を行った。実験は室温22.8±10.9℃、湿度36.4±8.6%に保った実験室内で実施した。被験者を模擬運転席2に椅座させ、左拇指指腹に発汗計のプローブを、左前腕部と手掌部に皮膚電位計の電極を装着した。ディスプレイ8に自動車運転映像を提示し、映像に合わせてブレーキ3、アクセル4、ハンドル5を模擬操作させ、これらの出力信号を手掌部発汗量、皮膚電位反射(SPR)の信号と共にサンプリング周波数10Hzで記録し、解析をおこなった。また、被験者のうち25名については、1週間後に「市街地コース」の映像を用いた再実験を行い、発汗反応の再現性を検討した。
【実施例】
【0059】
図6に、本装置を使って記録した「市街地コース」映像による各反応波形の一例を示す。Aは停車中のトラックを徐行し追い越す場面、Bは駐車車両の追い越し場面、Cは歩行者と自転車を避けた徐行場面、Dは交差点での一時停止後の発進場面、EとFは右折時に横断歩道を渡る歩行者と自転車を見送る場面、Gは人や自転車に注意しながらの徐行場面、Hは左折後に前方に停止している車両を発見した場面、Iは信号待ちの車両に近づき停止する場面を示している。発汗量波形の下の棒線は交差点の右左折、ブレーキ波形の上にハッチングで示した部分は自車が停車中であることを示し、停車時には発汗反応の減少が認められた。なお同図中、ブレーキおよびアクセルの踏込み量は、センサ3a,4aの検出した電圧値で示し、踏込みがないときを0mVで表示している。
【実施例】
【0060】
図7に「市街地コース」映像による被験者30名の平均波形を示す。発汗量波形の上のM1~M11で示した番号は、表1に記載した運転映像の場面であることを示す。手掌部発汗反応および皮膚電位反射は映像開始直後に大きな反応を示し、その後、交差点前の車線変更または一時停止、交差点での右左折、停止車両の追い越し、歩行者を避けた徐行、歩行者・自転車の横断、急な赤信号での停止等の映像場面で増加し、一時停止をしている(ブレーキを踏み続けている)場面、見通しの良い一方通行を直進する場面では減少する傾向を示した。
【実施例】
【0061】
図8に「住宅地コース」映像による被験者30名の平均波形を示す。発汗量波形の上のN1~N9で示した番号は、表2に記載した運転映像の場面であることを示す。手掌部発汗反応および皮膚電位反射は映像開始直後に大きな反応を示し、その後、見通しの悪い十字路の通過、歩行者を避けた徐行、狭い路地での対応車とのすれ違い、自転車追い越し時の徐行、ボールの飛び出し、歩行者の飛び出し等の場面で増加し、特に歩行者を避けた徐行や歩行者の飛び出し場面では顕著な反応量の増加が認められた。また、一時停止をしている場面では、発汗量が減少する傾向がみられた。
【実施例】
【0062】
表1に市街地コース、表2に住宅地コースの表中に示す各映像場面(10秒間)から求めた、被験者30名の平均発汗量(平均値と標準偏差)を男女別に示した。市街地コース・住宅地コースともに、何れの場面においても反応量は女性で多い傾向を示したが、統計的な有意差はなかった。
【実施例】
【0063】
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【実施例】
【0064】
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【実施例】
【0065】
図9に、「市街地コース」と「住宅地コース」の映像に含まれる運転場面より、手掌部発汗量が多かった場面と少なかった場面をそれぞれ2つずつ取り出し、反応量を比較した。「市街地コース」では、手掌部発汗量は場面M1とM2で多く、場面M7とM6で少なかった。「住宅地コース」では、発汗量は場面N8とN1で多く,場面N9とN5で少ない傾向にあった。
【実施例】
【0066】
これによって、交差点の車線変更、停車車両の追い越し、歩行者の飛び出し、見通しの悪い十字路の通過など、障害物や危険が予測される場面では手掌部発汗が有意に増加し、特に歩行者が飛び出す映像では発汗量が最も増加することが確認できた。また、一時停止や障害物のない直進走行など、危険を予期しにくい場面では反応量は比較的少なく、映像に提示される走行場面の状況・特徴によって、手掌部発汗量に明らかな差が生ずることが証明された。
【実施例】
【0067】
図10に、「市街地コース」の映像を用いて再実験を行った25名で平均波形を求め、1回目と2回目で比較した波形を示す。2回目には反応量は有意に低下したが、反応量の変動パターンは近似しており、両反応間には強い相関関係(r=0.72)が認められた。
【実施例】
【0068】
手掌部発汗反応には精神的な慣れ効果が生じやすいことが知られており、反応量の低下はこの慣れ効果によるものと思われる。しかし、波形パターンの再現性は、運転場面による影響の再現と捉えられ、映像に含まれる負荷要素の信頼性を示している。
【実施例】
【0069】
今回の実験において、手掌部発汗量が最も顕著に増加した「住宅地コース」の場面N8「歩行者飛び出し」映像による反応を取り出し、反応潜時の評価を行った。
【実施例】
【0070】
図11は、提示装置のディスプレイに「歩行者飛び出し」映像が現れ始めた瞬間を基点(0)とし、手掌部発汗、皮膚電位反射、ブレーキ動作の各反応が生じるまでの時間を例示したものである。歩行者飛び出し映像では、多くの被験者で、このようにブレーキ動作、皮膚電位反射、手掌部発汗の順に波形が立ち上がる傾向を示した。
【実施例】
【0071】
図12に、この方法で計測したブレーキ動作、皮膚電位反射、手掌部発汗の反応潜時を計測し比較した結果を示す。それぞれの反応潜時の平均値と標準偏差は、ブレーキ動作が2.28±0.49(最小0.30、最大2.9)秒、皮膚電位反射が2.65±1.21(最小0.50、最大4.4)秒、手掌部発汗が5.29±1.36(最小2.3、最大6.9)秒であり、手掌部発汗の反応潜時は、皮膚電位反射、ブレーキ動作に比べ有意に長かった。なお、ブレーキ動作の開始は、交差点などのあらかじめ危険が予測される場面では皮膚電位反射と発汗反応よりもさらに早く、個人差が大きかった。
【実施例】
【0072】
図13に、20歳女性、80歳男性が「市街地コース」を模擬運転した時の反応波形を示す。同図中A~Iで示す場面は図4の場面と同様である。それぞれを比較すると、発汗量は、高齢者の方が全体的に変動が小さく反応潜時が長い。皮膚電位反射は両者の変動ピーク値に大きな差は無くむしろ高齢者の変動が目立つ。この結果からわかるように、発汗量の変動の小さい高齢者を運転者としても、皮膚電位反射によって要注意映像を視認してからの反応開始時点を同定することができる。したがって、高齢者の危険性の認知、予測に対する運転能力も評価することができる。
【実施例】
【0073】
以上の実験結果から、皮膚電位反射を計測することで、要注意映像に対する反応の開始時点の同定が可能になり、発汗量の評価と反応潜時の評価がより正確に行えることが確認された。また、要注意映像の場面特徴に応じた反応量の評価では、危険が予測される場面、注意を払い慎重に運転する場面、危険を認知し咄嗟に回避する場面等で発汗量が増加し、一時停止や見通しの良い直線走行など、安全な場面では発汗量が明らかに減少することが確認された。さらに、若者から高齢者まで年齢によらず、皮膚電位反射を計測することで反応の開始時点の同定が可能であることが確認された。これらの結果は、本発明装置による評価の妥当性を示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の自動車運転認知行動評価装置は、自動車教習所や免許更新センターなどに設置して運転者の運転特性を把握することができる。また、病院に設置してリハビリテーションに用いることもよい。
【符号の説明】
【0075】
1,1aは自動車運転認知行動評価装置、2は模擬運転席、3はブレーキペダル、3aはブレーキペダル踏込量センサ、4はアクセルペダル、4aはアクセルペダル踏込量センサ、5はハンドル、5aは回転量センサ、6は発汗量センサ、7は皮膚電位センサ、8はディスプレイ、9は映像表示装置、10,10aはコンピュータ、11はA/D変換器、12はスピーカー、20は要注意状況を含む走行路の映像(要注意映像)、21は走行路、22は自転車、M1~M11は「市街地コース」における要注意状況を含む映像の場面,N1~N9は「住宅地コース」における要注意状況を含む映像の場面、S1,S2,S1’,S2’はタイミングである。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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