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明細書 :有限要素法解析方法、有限要素法解析装置及び有限要素法解析プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4973957号 (P4973957)
公開番号 特開2011-096190 (P2011-096190A)
登録日 平成24年4月20日(2012.4.20)
発行日 平成24年7月11日(2012.7.11)
公開日 平成23年5月12日(2011.5.12)
発明の名称または考案の名称 有限要素法解析方法、有限要素法解析装置及び有限要素法解析プログラム
国際特許分類 G06F  17/50        (2006.01)
FI G06F 17/50 612J
請求項の数または発明の数 4
全頁数 17
出願番号 特願2009-252199 (P2009-252199)
出願日 平成21年11月2日(2009.11.2)
審査請求日 平成22年9月28日(2010.9.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】梅谷 信行
【氏名】五十嵐 健夫
【氏名】三谷 純
【氏名】高山 健志
個別代理人の代理人 【識別番号】100100549、【弁理士】、【氏名又は名称】川口 嘉之
【識別番号】100090516、【弁理士】、【氏名又は名称】松倉 秀実
【識別番号】100123319、【弁理士】、【氏名又は名称】関根 武彦
【識別番号】100125357、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 剛
審査官 【審査官】加舎 理紅子
参考文献・文献 特開2008-243107(JP,A)
特開2006-301753(JP,A)
特開2005-174163(JP,A)
調査した分野 G06F 17/50
特許請求の範囲 【請求項1】
コンピュータが、解析モデルに対して有限要素法による解析を行う有限要素法解析方法であって、
コンピュータが、ユーザの操作により解析モデルの形状を変更するモデリング工程と、
コンピュータが、前記モデリング工程において解析モデルの形状が変更された場合に、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において計算したデータのうち、前記形状変更後の解析モデルに対する解析の精度が所定の基準を満たすように当該形状変更の程度に応じて決定される一部を再利用して当該形状変更後の解析モデルに対する解析を行う解析工程と、
コンピュータが、前記解析工程による解析結果を出力する出力工程と、
コンピュータが、前記形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュのノード数及び要素数を不変に保ち、該形状変更に応じてノードの位置を移動させることにより、該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュと同一のトポロジーを有するメッシュを生成する再配置メッシュ生成工程と、
コンピュータが、前記形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュのノード数及び要素数を不変に保ち、該形状変更に応じてノードの位置を移動させたメッシュにおいて局所的にトポロジーを変更したメッシュを生成する再接続メッシュ生成工程と、
を有し、
前記解析工程は、
(1)前記再配置メッシュ生成工程が生成したメッシュと、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いた係数行列Aの非零要素の場所を表す非零パターン行列Apと、該係数行列Aを反復法で解くための前処理行列Bの非零要素の場所を表す非零パターン行列Bpと、該前処理行列Bの非零要素の値を表す値リスト行列Bvと、を再利用するとともに、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において求めた解を反復法の初期推測ベクトルとして利用する第1のレベルと、
(2)前記再接続メッシュ生成工程が生成したメッシュと、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いた係数行列Aを反復法で解くための前処理行列Bの非零要素の場所を表す非零パターン行列Bpと、該前処理行列Bの非零要素の値を表す値リスト行列Bvと、を再利用するとともに、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において求めた解を反復法の初期推測ベクトルとして利用する第2のレベルと、
(3)当該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュ、行列及び解を
再利用しない第3のレベルと、
の3つの再利用のレベルのうちから一のレベルを選択することにより、前記再利用する部分を決定することを特徴とする有限要素法解析方法。
【請求項2】
コンピュータが、ユーザによる前記基準の設定を受け付ける設定工程を更に有する請求項1に記載の有限要素法解析方法。
【請求項3】
解析モデルに対して有限要素法による解析を行う有限要素法解析装置であって、
ユーザの操作により解析モデルの形状を変更するモデリング部と、
前記モデリング部において解析モデルの形状が変更された場合に、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において計算したデータのうち、前記形状変更後の解析モデルに対する解析の精度が所定の基準を満たすように当該形状変更の程度に応じて決定される一部を再利用して当該形状変更後の解析モデルに対する解析を行う解析部と、
前記解析部による解析結果を出力する出力部と、
前記形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュのノード数及び要素数を不変に保ち、該形状変更に応じてノードの位置を移動させることにより、該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュと同一のトポロジーを有するメッシュを生成する再配置メッシュ生成部と、
前記形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュのノード数及び要素数を不変に保ち、該形状変更に応じてノードの位置を移動させたメッシュにおいて局所的にトポロジーを変更したメッシュを生成する再接続メッシュ生成部と、
を有し、
前記解析部は、前記形状変更後の解析モデルに対する解析の精度が所定の基準を満たすように、当該形状変更の程度に応じて、
(1)前記再配置メッシュ生成部が生成したメッシュと、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いた係数行列Aの非零要素の場所を表す非零パターン行列Apと、該係数行列Aを反復法で解くための前処理行列Bの非零要素の場所を表す非零パターン行列Bpと、該前処理行列Bの非零要素の値を表す値リスト行列Bvと、を再利用するとともに、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において求めた解を反復法の初期推測ベクトルとして利用する第1のレベルと、
(2)前記再接続メッシュ生成部が生成したメッシュと、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いた係数行列Aを反復法で解くための前処理行列Bの非零要素の場所を表す非零パターン行列Bpと、該前処理行列Bの非零要素の値を表す値リスト行列Bvと、を再利用するとともに、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において求めた解を反復法の初期推測ベクトルとして利用する第2のレベルと、
(3)当該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュ、行列及び解を再利用しない第3のレベルと、
の3つの再利用のレベルのうちから一のレベルを選択することにより、前記再利用する部分を決定することを特徴とする有限要素法解析装置。
【請求項4】
コンピュータに解析モデルに対して有限要素法による解析を行わせる有限要素法解析プログラムであって、
コンピュータに、
ユーザの操作により解析モデルの形状を変更するモデリング工程と、
前記モデリング工程において解析モデルの形状が変更された場合に、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において計算したデータのうち、前記形状変更後の解析モデルに対する解析の精度が所定の基準を満たすように当該形状変更の程度に応じて決定される一部を再利用して当該形状変更後の解析モデルに対する解析を行う解析工程と、
前記解析工程による解析結果を出力する出力工程と、
前記形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュのノード数及び要素
数を不変に保ち、該形状変更に応じてノードの位置を移動させることにより、該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュと同一のトポロジーを有するメッシュを生成する再配置メッシュ生成工程と、
前記形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュのノード数及び要素数を不変に保ち、該形状変更に応じてノードの位置を移動させたメッシュにおいて局所的にトポロジーを変更したメッシュを生成する再接続メッシュ生成工程と、
を実行させ、
前記解析工程は、前記形状変更後の解析モデルに対する解析の精度が所定の基準を満たすように、当該形状変更の程度に応じて、
(1)前記再配置メッシュ生成工程が生成したメッシュと、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いた係数行列Aの非零要素の場所を表す非零パターン行列Apと、該係数行列Aを反復法で解くための前処理行列Bの非零要素の場所を表す非零パターン行列Bpと、該前処理行列Bの非零要素の値を表す値リスト行列Bvと、を再利用するとともに、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において求めた解を反復法の初期推
測ベクトルとして利用する第1のレベルと、
(2)前記再接続メッシュ生成工程が生成したメッシュと、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いた係数行列Aを反復法で解くための前処理行列Bの非零要素の場所を表す非零パターン行列Bpと、該前処理行列Bの非零要素の値を表す値リスト行列Bvと、を再利用するとともに、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において求めた解を反復法の初期推測ベクトルとして利用する第2のレベルと、
(3)当該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュ、行列及び解を再利用しない第3のレベルと、
の3つの再利用のレベルのうちから一のレベルを選択することにより、前記再利用する部分を決定することを特徴とする有限要素法解析プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、有限要素法による解析を行う解析方法、解析装置及び解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
物理現象を表現する偏微分方程式の初期値、境界値問題を数値的に解くための代表的な離散化方法の一つとして有限要素法がある。有限要素法では、解析モデルの物体や空間にメッシュを生成して有限要素に分割し、有限要素の中での変数分布として一次式等の単純な変数分布を仮定することにより、問題を線形方程式の求解に帰着させる。この線形方程式の近似解を行列計算により求め、解析モデルの複雑な変数分布を数値シミュレーションすることができる。
【0003】
有限要素法を用いたシミュレーションシステムは、解析モデルの形状、メッシュ、材料特性、境界条件等のデータを入力する入力部と、入力部に入力されるデータに基づいて有限要素法による解析を行う解析部と、解析部による解析結果を目的に応じた形式で可視化するなどして出力する出力部と、から構成される。シミュレーションシステムにおける計算コストの大部分は、線形方程式の求解に係る行列計算に費やされ、解析モデルの規模の増大に伴って行列計算の計算コストは指数的に増大する。そのため、行列計算を高速化するための種々の技術が開発されている。例えば、非特許文献1には、解に近づくベクトルを逐次計算する反復法による非対称行列の解法が記載されている。非特許文献2には、反復法によるスパース行列の解法の収束性を改善する技術が記載されている。
【0004】
加えて、近年の計算機性能の向上や、マウスを用いた直感的な形状入力が可能なGUIやメッシュの自動生成機能のユーザビリティの向上により、有限要素法によるシミュレーションシステムのユーザは、専用の大型計算機や熟練したオペレータを有する大企業や研究所等に限定されないものとなりつつある。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】VAN DER VORST, H.A. 1992. Bi-CGSTAB: A fast and smoothly converging variant of Bi-CG for the solution of nonsymmetric linear systems. SIAM J. Sci. Stat. Comput. 13,2, 631-644.
【非特許文献2】SAAD, Y. 2003. Iterative Methods for Sparse Linear Systems, 2 ed. Society for Industrial & Applied, 4.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような広範なユーザへの普及により、有限要素法を用いたシミュレーションシステムは、ある設計が特定の物理的制約を満たすか否かの検証を支援するツールとしての従来一般的な利用だけでなく、特定の物理的制約を満たす設計の探索及び発見を支援するツールとしても利用できるようになることが期待される。
【0007】
しかしながら、従来の有限要素法によるシミュレーションシステムでは、解析モデルの形状を変更する都度メッシュの生成や行列の構築が最初から実行されるため、形状変更に応じてシミュレーション結果を更新するための計算コストが高い。従って、ユーザによる形状編集に追随して即時応答的にシミュレーション結果が出力されるような実用的なインタラクティビティを備えたシステムを実現することは、少なくとも一般的なユーザが入手
可能なコンピュータ程度の計算機性能では困難だった。そのため、有限要素法を用いたシミュレーションシステムは、好適設計の探索及び発見を支援するツールとしては利用しにくいという課題があった。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、ユーザによる解析モデルの形状編集に応じて解析結果を更新するための計算コストを軽減し、ユーザによる形状編集に即時応答的に解析結果の出力を追随させることが可能な有限要素法解析方法、有限要素法解析装置及び有限要素法解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、発明者らは、ユーザがマウスのドラッグ等の操作によって解析モデルの形状を変更する場合、形状変更は微小な形状変更の連続であることが多く、個々の微小な形状変更について考えた場合、形状変更前の解析モデルに対する解析において計算されたデータを再利用して形状変更後の解析モデルに対する解析を行なっても、十分な精度の解析結果を得ることができる点に着目した。そして、以下のような有限要素法解析方法を考案した。
【0010】
すなわち、解析モデルに対して有限要素法による解析を行う有限要素法解析方法であって、
ユーザの操作により解析モデルの形状を変更するモデリング工程と、
前記モデリング工程において解析モデルの形状が変更された場合に、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において計算したデータの一部を再利用して当該形状変更後の解析モデルに対する解析を行う解析工程と、
前記解析工程による解析結果を出力する出力工程と、
を有することを特徴とする有限要素法解析方法である。
【0011】
この有限要素法解析方法によれば、形状変更後の解析モデルに対する解析に係る主な計算コストは、形状変更前後の形状の差分に対応するデータを計算するための計算コストのみである。従って、形状変更後の解析モデルに対する解析を最初から実行する場合と比較して、ユーザによる解析モデルの形状編集に応じて解析結果を更新するために要する計算コストを大幅に軽減することができる。よって、本発明の有限要素法解析方法によれば、極端に高い計算機性能を必要とせずに、モデリング工程におけるユーザの操作による解析モデルの形状編集に対して出力工程における解析結果の出力が高い応答性で追随する即時応答的なインタラクティビティを実現できる。このような有限要素法解析方法によれば、ユーザは、形状編集に対する解析結果のフィードバックに基づいて、より適切な形状を得るため行うべき編集の方向性を直感的に把握し易くなる。従って、本発明に係る有限要素法解析方法によれば、最適設計の探索及び発見を好適に支援することが可能となる。
【0012】
前記解析工程において再利用するデータとしては、形状変更前の解析モデルに対する解析において計算したメッシュ、行列又は解を挙げることができる。解を再利用する場合には、形状変更前の解析モデルに対する解析において求めた解を、反復法で行列を解く場合の初期推測ベクトルとして利用することにより、勝手な初期推測ベクトルを用いた場合と比較して反復法の収束を高速化させることができる。
【0013】
本発明の有限要素法解析方法においては、前記解析工程は、前記形状変更後の解析モデルに対する解析の精度が所定の基準を満たすように、当該形状変更の程度に応じて、前記形状変更前の解析モデルに対する解析において計算したデータのうち前記再利用する部分を決定しても良い。
【0014】
このような構成によれば、形状変更の程度が小さい場合には、形状変更前の解析におい
て計算したデータのうちより多くの部分を再利用して形状変更後の解析を行なうことで、解析結果の更新に要する計算コストを大幅に軽減することができる。一方、形状変更の程度が大きい場合には、形状変更前の解析において計算したデータのうちより多くの部分を再計算して形状変更後の解析を行なうことで、形状変更後の解析の精度を維持するようにすることができる。
【0015】
形状変更前の解析において計算したデータのうち、形状変更後の解析において再計算する部分が多くなるほど、解析結果の更新のために要する計算コストは増大し、ユーザによる形状編集に対する解析結果の更新の応答性は低下する。つまり、形状変更後の解析モデルに対する解析の精度と、形状編集に対する解析結果の更新の応答性とは、トレードオフの関係にある。精度と応答性とのバランスは、解析の目的によって異なると考えられる。例えば、設計の初期段階において解析モデルの形状を試行錯誤する場面では、より高い応答性が求められるが、設計がある程度完成形に近い段階において設計をより洗練させる場面では、より高い解析精度が求められる。従って、解析の目的に応じて、ユーザが、精度と応答性とのバランスを任意に設定することができることが好ましい。
【0016】
そこで、上記の構成において、前記形状変更後の解析モデルに対する解析の精度が満たすべき基準をユーザが設定する設定工程を有しても良い。
【0017】
このような構成によれば、ユーザは解析の目的に応じて、精度と応答性とのバランスを任意に設定することが可能となる。
【0018】
本発明の有限要素法解析方法において、前記解析工程は、前記形状変更前の解析モデルに対する解析において計算したデータのうち前記再利用する部分が異なる所定の複数の再利用のレベルのうちから一のレベルを選択することにより、前記再利用する部分を決定するようにしても良い。
【0019】
例えば、前記形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュのノード数及び要素数を不変に保ち、該形状変更に応じてノードの位置を移動させることにより、該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュと同一のトポロジーを有するメッシュを生成する再配置メッシュ生成工程と、
前記形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュのノード数及び要素数を不変に保ち、該形状変更に応じてノードの位置を移動させたメッシュにおいて局所的にトポロジーを変更したメッシュを生成する再接続メッシュ生成工程と、
を有し、
前記解析工程は、
(1)前記再配置メッシュ生成工程が生成したメッシュと、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いた係数行列Aの非零要素の場所を表す非零パターン行列Apと、該係数行列Aを反復法で解くための前処理行列Bの非零要素の場所を表す非零パターン行列Bpと、該前処理行列Bの非零要素の値を表す値リスト行列Bvと、を再利用するとともに、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において求めた解を反復法の初期推測ベクトルとして利用する第1のレベルと、
(2)前記再接続メッシュ生成工程が生成したメッシュと、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いた係数行列Aを反復法で解くための前処理行列Bの非零要素の場所を表す非零パターン行列Bpと、該前処理行列Bの非零要素の値を表す値リスト行列Bvと、を再利用するとともに、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において求めた解を反復法の初期推測ベクトルとして利用する第2のレベルと、
(3)当該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュ、行列及び解を再利用しない第3のレベルと、
の3つの再利用のレベルのうちから一のレベルを選択することにより、前記再利用する部
分を決定するようにしても良い。
【0020】
この場合、ユーザによる形状変更に応じて解析結果を更新するのに要する主な計算コストは、第1のレベルを選択した場合は、再配置メッシュ生成工程においてメッシュを生成する計算コストと、当該生成したメッシュに基づいて係数行列Aの非零要素の値を表す値リスト行列Avを再計算するための計算コストと、形状変更前の解析モデルに対する解析において用いた前処理行列Bを用いて該解析において求めた解を初期推測ベクトルとして反復法による求解を行うための計算コストである。
【0021】
また、第2のレベルを選択した場合は、再接続メッシュ生成工程においてメッシュを生成する計算コストと、当該生成したメッシュに基づいて係数行列Aの非零要素の場所を表す非零パターン行列Ap及び該係数行列Aの非零要素の値を表す値リスト行列Avを再計算するための計算コストと、形状変更前の解析モデルに対する解析において用いた前処理行列Bを用いて該解析において求めた解を初期推測ベクトルとして反復法による求解を行うための計算コストである。
【0022】
また、第3のレベルを選択した場合は、形状変更後の解析モデルに対して最初からメッシュを生成する計算コストと、該生成したメッシュに基づいて係数行列Aの非零パターン行列Ap、その値リスト行列Av、前処理行列Bの非零パターン行列Bp及びその値リスト行列Bvを再計算するための計算コストと、該前処理行列Bと勝手な初期推測ベクトルを用いて反復法による求解を行うための計算コストである。
【0023】
第1のレベル又は第2のレベルを選択した場合、第3のレベルを選択した場合と比較して、計算コストは大幅に軽減される。また、第1のレベルを選択した場合は、第2のレベルを選択した場合と比較して、計算コストは更に軽減される。ユーザの操作による形状変更は微小な形状変更である場合が多いため、形状変更の程度に応じてこれら3つの再利用のレベルのうちから一のレベルを選択する構成とした場合、形状変更後の解析モデルに対する解析のほとんどは第1のレベル又は第2のレベルが選択されて行われることになる。従って、ユーザによる形状編集に応じて解析結果を更新するための計算コストを大幅に軽減することが可能となる。
【0024】
上記の構成においても、選択する再利用のレベルを切り替えるための基準をユーザが任意に設定できるようにしても良い。これにより、ユーザが、解析の目的に応じて、第1のレベルがより選択され易くなるようにしたり、第2のレベルがより選択され易くなるようにしたりすることが可能となる。
【0025】
なお、解析モデルが非線形問題である場合には、係数行列Aの値リスト行列Av及び前処理行列Bの値リスト行列Bvは常に再計算する必要がある。従って、非線形問題の場合には、第1のレベルでは、前記再配置メッシュ生成工程が生成したメッシュと、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いた係数行列Aの非零要素の場所を表す非零パターン行列Apと、該係数行列Aを反復法で解くための前処理行列Bの非零要素の場所を表す非零パターン行列Bpと、を再利用するとともに、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において求めた解を反復法の初期推測ベクトルとして利用する。
【0026】
第2のレベルでは、前記再接続メッシュ生成工程が生成したメッシュと、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において用いた係数行列Aを反復法で解くための前処理行列Bの非零要素の場所を表す非零パターン行列Bpと、を再利用するとともに、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において求めた解を反復法の初期推測ベクトルとして利用する。
【0027】
第3のレベルは線形問題の場合と同じである。非線形問題の場合であっても、係数行列Aの非零パターン行列Apや前処理行列Bの非零パターン行列Bpについては再利用することができるので、第1のレベル又は第2のレベルが選択された場合には、第3のレベルが選択された場合と比較して、解析結果を更新するために要する計算コストは大幅に軽減される。
【0028】
本発明は、解析モデルに対して有限要素法による解析を行う有限要素法解析装置であって、
ユーザの操作により解析モデルの形状を変更するモデリング部と、
前記モデリング部において解析モデルの形状が変更された場合に、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において計算したデータの一部を再利用して当該形状変更後の解析モデルに対する解析を行う解析部と、
前記解析部による解析結果を出力する出力部と、
を有することを特徴とする有限要素法解析装置の発明として捉えることもできる。
【0029】
また、本発明は、コンピュータに解析モデルに対して有限要素法による解析を行わせる有限要素法解析プログラムであって、
コンピュータに、
ユーザの操作により解析モデルの形状を変更するモデリング工程と、
前記モデリング工程において解析モデルの形状が変更された場合に、当該形状変更前の解析モデルに対する解析において計算したデータの一部を再利用して当該形状変更後の解析モデルに対する解析を行う解析工程と、
前記解析工程による解析結果を出力する出力工程と、
を実行させることを特徴とする有限要素法解析プログラムの発明として捉えることもできる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、ユーザによる解析モデルの形状編集に応じて解析結果を更新するための計算コストを軽減することが可能となる。従って、一般的なユーザが入手可能なコンピュータ程度の計算機性能でも、ユーザによる形状編集に即時応答的に解析結果の出力を追随させることが可能な有限要素法解析方法、有限要素法解析装置及び有限要素法解析プログラムを実現することができる。これにより、有限要素法を用いたシミュレーションシステムを、特定の物理的制約を満たす設計の探索及び発見を支援するツールとして好適に利用できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本実施例に係る有限要素法解析方法の機能ブロックを表す図。
【図2】本実施例に係る有限要素法解析装置の概略構成を表す図。
【図3】ユーザの操作によりモデリング工程において解析モデルの形状変更が行なわれた時に解析工程により実行される解析処理を表すフローチャート。
【図4】本実施例の有限要素法解析において、形状変更後の解析において選択実行される3種類のメッシュ生成処理(再配置処理、再接続処理及び再構築処理)によるメッシュ生成例を示す図。
【図5】本実施例の有限要素法解析において、形状変更前の解析において計算されたデータのうち、形状変更後の解析において再利用する部分を定めた3種類のレベルを説明するための図。
【図6】本実施例の有限要素法解析によって解析した2次元振動解析問題を示す図。
【図7】本実施例の有限要素法解析によって2次元振動解析問題を解析した時の各再利用レベルの計算コストの計測値。
【図8】本実施例の有限要素法解析によって2次元振動解析問題を解析した時の各再利用レベルの発生頻度の計測値。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態の一例を説明する。なお、以下の実施例の記載内容はあくまで例示であり、本発明の技術的範囲をその記載内容に限定する趣旨のものではない。

【0033】
図1は、本実施例に係る有限要素法解析方法の機能ブロックを表す図である。図1に示すように、本実施例に係る有限要素法解析方法は、ユーザの操作により解析モデルの形状を変更するモデリング工程10と、モデリング工程10から入力される解析モデルの形状に基づいて有限要素法による解析を行なう解析工程20と、解析工程20による解析結果を出力する出力工程30と、から構成される。

【0034】
図2は、本実施例に係る有限要素法解析方法を実現する有限要素法解析装置の概略構成を表す図である。図2に示すように、本実施例に係る有限要素法解析装置は、キーボード40、マウス50、RAM60、記憶装置70、CPU80及びディスプレイ90が、バス100を介して相互に接続された一般的なパーソナルコンピュータを用いて構成される。記憶装置70は、ハードディスクやROM等で構成され、解析モデルの形状を編集するCAD等のモデリングプログラム、有限要素法解析を実行する解析プログラム、解析プログラムによる解析結果を処理して可視化処理等の後処理を実行して出力するポストプロセッサプログラム、オペレーティングシステム等を記憶している。ユーザは、キーボード40及びマウス50を操作して、解析モデルの形状を編集する操作や、解析モデルの材料定数や拘束条件等の有限要素法による解析を行なうために必要な情報を入力することができる。RAM60は、解析プログラムによる計算の中間生成データ等が一時的に格納される。CPU80は、RAM60や記憶装置70から前記各種プログラムを読み込んで実行する。

【0035】
本実施例に係る有限要素法解析方法では、ユーザによるマウス50のドラッグ操作等によりモデリング工程10において解析モデルの形状変更が行なわれると、解析工程20により該変更後の形状の解析モデルに対する解析が実行され、その解析結果が出力工程30に出力されるように構成された、インタラクティブな設計解析システムである。本実施例では、2次元の線形問題の解析モデルに対して三角形要素のメッシュを構築して有限要素法による解析を行なう場合を例に説明する。係数行列Aはスパースなので、非零要素の場所を表す非零パターン行列Apと非零要素の値を表す値リスト行列Avとの組み合わせによって表す。この係数行列Aを反復法により解く。反復法の収束を高速化するために、前処理行列Bを用いる。前処理行列Bも、非零要素の場所を表す非零パターン行列Bpと非零要素の値を表す値リスト行列Bvとの組み合わせにより表す。

【0036】
図3は、ユーザの操作によりモデリング工程10において解析モデルの形状変更が行なわれた時に、解析工程20が実行する解析処理を表すフローチャートである。

【0037】
ユーザの操作により解析モデルの形状変更が行なわれると、解析工程20は、ステップS101の処理を実行し、形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュのデータを読み込み、当該メッシュに対して再配置処理を行なう。具体的には、形状変更前の解析モデルの解析において用いたメッシュのノード数及び要素数を不変に保ちながら、形状変更に応じてノードの位置を移動させることにより、形状変更前の解析モデルのメッシュと同一のトポロジーを有するメッシュを生成する。ステップS101の処理内容が本発明における再配置メッシュ生成工程に相当する。

【0038】
次に、解析工程20は、ステップS102の処理に進み、ステップS101の再配置処
理により生成したメッシュにおいて反転した三角形要素が有るか否かを判定する。

【0039】
ステップS102において、反転した三角形要素が無いと判定された場合、解析工程20は、ステップS103の処理に進み、ステップS101の再配置処理により生成したメッシュにおいて歪みが大きい三角形要素が有るか否かを判定する。ここでは、内接円の半径と最長辺長さとの比により三角形要素の歪みを計る。この比は、歪みが大きいほど0に近い値をとる。ステップS103の判定処理では、この比が所定の基準値以下である三角形要素を、歪みが大きいと判定する。

【0040】
ステップS103において歪みが大きい三角形要素が無いと判定された場合、解析工程20はステップS104の処理に進む。

【0041】
ステップS104の処理では、解析工程20は、ステップS101の再配置処理によって生成したメッシュに基づいて、形状変更後の解析モデルに対する解析を再利用レベル1で実行する。具体的には、形状変更前の解析モデルに対する解析において計算した行列のうち、係数行列Aの非零パターン行列Ap、前処理行列Bの非零パターン行列Bp及び値リスト行列Bvを再利用するとともに、再配置処理によって生成したメッシュに基づいて係数行列Aの値リスト行列Avを再計算し、形状変更前の解析モデルに対する解析において求めた解を初期推測ベクトルとして利用し、前処理行列Bを用いた反復法により解を求める。そして、ステップS111の処理に進み、解析工程20は解析結果を出力工程30に出力する。

【0042】
ステップS102において、反転した三角形要素が有ると判定された場合、解析工程20は、ステップS105の処理に進み、ノードを形状変更前の位置に戻し、ステップS106の処理に進む。また、ステップS103において、歪みが大きい三角形要素が有ると判定された場合、解析工程20はステップS106の処理に進む。

【0043】
ステップS106では、解析工程20は、形状変更前の解析モデルに対する解析において用いたメッシュのデータを読み込み、当該メッシュに対して再接続処理を行なう。具体的には、形状変更前の解析モデルのメッシュのノード数及び要素数を不変に保ちながら、形状変更に応じてノードの位置を移動させて生成したメッシュにおいて局所的にトポロジーを変更したメッシュを生成する。トポロジーの変更は、ドロネー条件を満たさないエッジをスワップすることにより行なう。ステップS106の処理内容が本発明における再接続メッシュ生成工程に相当する。

【0044】
次いで、ステップS107において、解析工程20は、ステップS106の再接続処理においてスワップされたエッジが有るか否かを判定する。ステップS107において、ステップS106の再接続処理においてスワップされたエッジが有ると判定された場合、解析工程20はステップS108の処理に進む。

【0045】
ステップS108の処理では、解析工程20は、ステップS106の再接続処理によって生成したメッシュに基づいて、形状変更後の解析モデルに対する解析を再利用レベル2で実行する。具体的には、形状変更前の解析モデルに対する解析において計算した行列のうち、前処理行列Bの非零パターン行列Bp及び値リスト行列Bvを再利用するとともに、再接続処理によって生成したメッシュに基づいて係数行列Aの非零パターン行列Ap及び値リスト行列Avを再計算し、形状変更前の解析モデルに対する解析において求めた解を初期推測ベクトルとして利用し、前処理行列Bを用いた反復法により解を求める。そして、ステップS111の処理に進み、解析工程20は解析結果を出力工程30に出力する。

【0046】
ステップS107において、ステップS106の再接続処理においてスワップされたエッジが無いと判定された場合、解析工程20はステップS109の処理に進む。

【0047】
ステップS109の処理では、解析工程20は、形状変更前の解析モデルのメッシュを破棄し、形状変更後の解析モデルに対して最初からメッシュを構築し直す再構築処理を行なう。具体的には、ドロネー三角形分割及び局所最適化処理によりメッシュを生成する。

【0048】
次いで、ステップS110の処理に進み、解析工程20は、ステップS109の再構築処理によって生成したメッシュに基づいて、形状変更後の解析モデルに対する解析を再利用レベル3で実行する。具体的には、係数行列Aの非零パターン行列Ap及び値リスト行列Av、前処理行列Bの非零パターン行列Bp及び値リスト行列Bvを全て再計算し、勝手な初期推測ベクトルを用いて、前処理行列Bを用いた反復法により解を求める。そして、ステップS111の処理に進み、解析工程20は解析結果を出力工程30に出力する。すなわち、再利用レベル3による解析では、実際には形状変更前の解析モデルに対する解析で計算したデータの再利用は行なわずに、解析が行なわれる。

【0049】
図4は、上述した3種類のメッシュ生成処理(再配置処理、再接続処理及び再構築処理)によるメッシュ生成例を示す図である。図4(A)は形状変更前の解析モデルの形状及びメッシュを表す。図4(B)、(C)及び(D)は、ユーザのマウスドラッグ操作で図4(A)の形状の頂点Vを徐々に移動させることによって変化させられた解析モデルの形状及び該変更後の形状に対して生成されたメッシュを表す。

【0050】
図4(B)は、再配置処理によって生成されたメッシュを表し、図4(A)のメッシュと同一のトポロジーを有している。図4(B)の形状から更に変化させられると、右下の部分の三角形要素が反転するか、又は歪みが大きくなるため、再接続処理が行なわれ、図4(C)に示すような、図4(B)のメッシュと局所的にトポロジーが異なるメッシュが生成される。図4(C)の形状から更に変化させられると、局所的なトポロジーの変更ではメッシュの品質が維持できなくなるため、メッシュの再構築処理が行なわれ、図4(D)に示すように、図4(C)とは異なる新規のメッシュが生成される。

【0051】
図5は、上述した3種類の再利用レベルの内容をまとめた表である。

【0052】
再利用レベル1では、形状変更後の解析モデルの解析のためのメッシュは再配置処理により生成され、形状変更前の解析モデルの解析において計算した行列のうち、係数行列Aの非零パターン行列Ap、前処理行列Bの非零パターン行列Bp及び値リスト行列Bvが再利用され、形状変更前の解析モデルの解析において求めた解が反復法の初期推測ベクトルとして利用される。再配置処理によって生成されるメッシュは、形状変更前のメッシュのノードを僅かに移動させただけであり、形状変更前のメッシュと同一のトポロジーを有するので、係数行列Aの値リスト行列Avを再計算すれば、十分な精度で形状変更後の解析モデルに対する解析を行なうことができる。また、形状変更前後でノードの位置が僅かしか移動しないので、解も大きく変化しない。従って、形状変更前の解析において求めた解を反復法の初期推測ベクトルにすることによって、反復法の収束を大幅に高速化することができる。

【0053】
再利用レベル2では、形状変更後の解析モデルの解析のためのメッシュは再接続処理により生成され、形状変更前の解析モデルの解析において計算した行列のうち、前処理行列Bの非零パターン行列Bp及び値リスト行列Bvが再利用され、形状変更前の解析モデルの解析において求めた解が反復法の初期推測ベクトルとして利用される。再接続処理によって生成されるメッシュは、形状変更前のメッシュと局所的にトポロジーが異なるものの、形状変更前のメッシュとノード数及び要素数が等しく、ノードの移動も僅かであるので
、係数行列Aの非零パターン行列Ap及び値リスト行列Avを再計算すれば、十分な精度で形状変更後の解析モデルに対する解析を行なうことができる。また、形状変更前後でノードの位置が僅かしか移動しないので、再利用レベル1と同様、形状変更前の解析において求めた解を反復法の初期推測ベクトルにすることによって、反復法の収束を大幅に高速化することができる。

【0054】
再利用レベル3では、形状変更後の解析モデルの解析のためのメッシュは再構築処理により生成され、形状変更前の解析モデルの解析において計算した行列は再利用されず、反復法の初期推測ベクトルとして形状変更前の解析モデルの解析において求めた解が利用されることもない。

【0055】
このように、本実施例の有限要素法解析方法においては、形状変更の程度に応じて、3つの再利用レベルのうちから一のレベルを選択し、該選択した再利用レベルで形状変更後の解析モデルの解析を行う。そして、再利用レベル1及び再利用レベル2では、形状変更後の解析モデルのためのメッシュを、形状変更前の解析モデルのメッシュの情報を利用して生成するので、最初からメッシュを構築し直す場合と比較して、メッシュの生成に要する計算コストが軽減される。また、形状変更後の解析モデルのための行列を構築するための計算を一部省略することができるので、最初から行列を構築し直す場合と比較して、行列の構築に要する計算コストが軽減される。従って、形状変更後の解析モデルの解析において再利用レベル1又は2が選択された場合、形状変更に応じて解析結果を更新するために要する計算コストを大幅に軽減することができる。

【0056】
図6は、以下に説明する再利用レベル毎の計算コスト及び発生頻度を計測するために本実施例の有限要素法解析によって解析した2次元振動解析問題を示す図である。この解析では、図6に示すように、長方形の左側に窓を設けた解析モデルに対して1952個の三角形要素からなるメッシュを構築し、この窓をマウス50のドラッグ操作により徐々に右側に移動させる形状変形を行った。図6に示すように、本実施例の有限要素法解析装置では、マウス50の連続的なドラッグ操作に追随して、ディスプレイ90に表示される解析結果がインタラクティブに更新され続ける。CPU80として、2.5GHzのCPU、RAM60として2.0GBのRAMを搭載したコンピュータを用いて有限要素法プログラムを実行し、再利用レベル毎の計算コスト及び発生頻度を計測した。

【0057】
図7は、各再利用レベルの計算コストの計測値を示す図である。図7に示すように、形状変更に応じて解析結果を更新するための計算コストのうち、メッシュの再構築処理や前処理行列Bの再計算に要する計算コストが特に大きく、これらの計算を再利用レベル1及び2では簡略化又は省略できることが、再利用レベル1及び2の計算コストの軽減に大きく寄与している。図7に示す例では、再利用レベル2の計算コストは再利用レベル3の半分程度であり、再利用レベル1の計算コストは更に低い。

【0058】
図8は、各再利用レベルの発生頻度の計測値を示す図である。図8に示すように、一連の形状変更の最中に全部で159回の解析が実行されたが、そのうち156回の解析が再利用レベル1又は2で実行された。つまり、ユーザがマウス50のドラッグ操作により徐々に形状変形を行うような場合には、形状変形に応じて解析結果を更新するための計算のほとんど全てにおいて、直前の解析結果を再利用することができる。このことから、ユーザがマウス50の操作により解析モデルの形状変形を行う場合には、直前の解析において計算したデータの一部を再利用する解析手法が、計算コスト軽減のために極めて有効であることがわかる。

【0059】
従って、本実施例に係る有限要素法解析によれば、従来の有限要素法解析、すなわち、形状が変形される都度最初から解析を行う有限要素法解析と比較して、形状変形に対する
解析結果の出力の応答性を大幅に向上させることができる。例えば、図6に示した2次元振動解析問題と同様の条件の線形非定常問題に対して、従来の有限要素法解析による解析を行ったところ、形状変更が行われている最中にディスプレイ90に表示される解析結果出力のフレームレートは22.7fpsであったのに対し、本実施例の有限要素法解析に
よる解析を行った場合のフレームレートは103.0fpsであり、5倍弱の応答性の向
上が見られた。このような高いフレームレートで解析結果が更新される場合、ユーザは、形状編集に対する解析結果の応答をほぼリアルタイムに確認できる。このように、本実施例に係る有限要素法解析によれば、一般のユーザが容易に入手できるパーソナルコンピュータ程度の計算機性能で、ユーザによる形状編集に追随して即時応答的に解析結果が出力されるような実用的なインタラクティビティを備えた設計解析システムを実現することが可能となる。このような設計解析システムによれば、ユーザは、種々の形状の試行錯誤を自在に行うことができ、形状変更が解析結果に与えた影響を即座に確認して次に続く設計にフィードバックさせることが容易になる。従って、本実施例に係る有限要素法解析装置は、設計の初期段階や、直感や経験による最適設計の予想が困難な特殊な制約下の設計において、ユーザが最適設計を探索及び発見することを支援するツールとして好適に利用することが可能となる。

【0060】
以上説明した実施例は、2次元問題の有限要素法解析に本発明を適用した例であるが、本発明は3次元問題の有限要素法解析に対しても適用することが可能である。3次元問題の有限要素法解析では、メッシュ分割は四面体要素により行なわれる。従って、本発明を3次元問題に適用する場合には、解析モデルの形状変更に応じて、ノードの移動や局所的なノード間接続の変更等を行ない、形状変更前の解析モデルに対して構築した四面体メッシュのトポロジーをできるだけ維持しながら更新することによって、メッシュを更新する計算コストを軽減する。更に、そのようにして更新されるメッシュの形状変更前後の差分に応じた部分だけ係数行列や前処理行列の再計算を行ない、行列の多くの部分は形状変更前の解析モデルに対する解析において構築した行列を再利用することにより、形状変更後の解析モデルに対する解析において用いる行列の構築に要する計算コストを軽減する。このようなメッシュ及び行列の再利用を行なうことで、形状変更に応じて解析結果を更新するために必要な計算コストを大幅に軽減することができるので、一般的なユーザが入手可能なコンピュータ程度の計算性能で、ユーザによる形状編集に対して高い応答性で解析結果の更新が追随するインタラクティブなシミュレーションシステムを構成することが可能となる。なお、本発明の思想を3次元問題の有限要素法解析に対してより好適に適用するためには、上記のような方法で形状変更に応じて連続的に四面体メッシュを更新した場合のメッシュの品質を高める技術の開発が重要である。

【0061】
また、上記の実施例では、形状変更前の解析において計算したデータのうちメッシュ、係数行列、前処理行列及び解を形状変更後の解析において再利用する例について説明したが、再利用するデータはこれらに限定されない。例えば、ノードのリオーダリングを再利用することによっても、解析結果の更新に係る計算コストを軽減し、形状編集に対する解析結果の更新の応答性を改善することができる。

【0062】
また、上記の実施例では、解析精度と応答性とのバランスを決定する基準値、すなわち、第1の再利用レベルと第2の再利用レベルとを切り換える要素の歪みの基準値をある固定値にした例を説明したが、解析の目的に応じてユーザが任意の基準値を設定できるようにしても良い。例えば、設計の初期段階において種々の形状を試行錯誤する場面では、解析精度よりも応答性を優先させるために、基準値を小さい値に設定することにより、ノードの再配置である程度大きな歪みが生じている場合であってもノードの再接続が行なわれないようにすることができる。一方、ある程度設計が完成に近い段階において設計を洗練させる場面では、応答性よりも解析精度を優先させるために、基準値を大きい値に設定することにより、メッシュの品質を高めることができる。また、メッシュの密度についても
、ユーザが興味のある特定の領域のみ局所的に変更できるようにしても良い。これによりユーザが解析精度を制御することができる。

【0063】
また、上記の実施例では、解析モデルが線形問題である場合の有限要素法解析に本発明を適用した例を説明したが、本発明の有限要素法解析方法は非線形問題にも適用することができる。但し、非線形問題に適用した場合、係数行列の値リスト行列Av及び前処理行列Bの値リスト行列Bvは再計算レベルによらず常に再計算する必要がある。従って、非線形問題の場合には、再利用レベル1では、再配置処理により生成したメッシュと、形状変更前の係数行列Aの非零パターン行列Apと、前処理行列Bの非零パターン行列Bpと、を再利用し、形状変更前の解析において求めた解を反復法の初期推測ベクトルとして利用する。再利用レベル2では、再接続処理により生成したメッシュと、形状変更前の前処理行列Bの非零パターン行列Bpと、を再利用するとともに、形状変更前の解析において求めた解を反復法の初期推測ベクトルとして利用する。第3のレベルは線形問題の場合と同じである。

【0064】
このように、非線形問題の場合であっても、係数行列Aの非零パターン行列Apや前処理行列Bの非零パターン行列Bpについては再利用することができるので、再利用レベル1又は再利用レベル2が選択された場合には、解析結果を更新するために要する計算コストは大幅に軽減される。

【0065】
また、上記の実施例では、モデリング工程10、解析工程20及び出力工程30を、図2に示すようなコンピュータで実行可能なソフトウェアのプログラムとして実施した例を説明したが、各工程の機能を有する別個のハードウェアとして実施することもできる。その場合、モデリング工程10の機能を有するハードウェアが本発明におけるモデリング部の実施形態であり、解析工程20の機能を有するハードウェアが本発明における解析部の実施形態であり、出力工程30の機能を有するハードウェアが本発明における出力部の実施形態である。また、各工程の機能を実現するソフトウェアのプログラムをコンピュータに供給するための手段、例えば斯かるプログラムを格納したハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、磁気テープ、メモリカード等の記憶媒体として実施することもできる。また、コンピュータにおいて稼働しているオペレーティングシステムその他のアプリケーション等と協働して上記各工程の機能を実現するソフトウェアのプログラムとして実施することもできる。また、上記各工程の機能を実現するプログラムがコンピュータの機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットのメモリ等の記憶手段に格納されても良い。この場合、当該格納されたプログラムの指示に基づいて当該機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部又は全部を行ない、その処理によって上記各工程の機能が実現されることにより、本発明が実施される。また、上記各工程の機能を実現するプログラムを実行するサーバと、解析モデルを編集する機能及び解析結果を表示する機能を備え、サーバに対して解析モデルの形状データ等の解析に必要なデータとともに解析の実行依頼を送信するクライアントと、がインターネットやイントラネット等の電気通信回線上に設置され、サーバは電気通信回線を介してクライアントから受けた解析依頼に応じて解析を実行し、クライアントは電気通信回線を介してサーバが行なった解析結果を受け取り、解析結果の表示を行なうような実施形態も可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 モデリング工程
20 解析工程
30 出力工程
40 キーボード
50 マウス
60 RAM
70 記憶装置
80 CPU
90 ディスプレイ
100 バス
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
6
【図8】
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