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明細書 :細胞特異的ペプチド及びその用途

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5664992号 (P5664992)
公開番号 特開2011-046637 (P2011-046637A)
登録日 平成26年12月19日(2014.12.19)
発行日 平成27年2月4日(2015.2.4)
公開日 平成23年3月10日(2011.3.10)
発明の名称または考案の名称 細胞特異的ペプチド及びその用途
国際特許分類 C07K  14/78        (2006.01)
A61M  29/02        (2006.01)
A61F   2/06        (2013.01)
A61L  31/00        (2006.01)
A61L  27/00        (2006.01)
FI C07K 14/78 ZNA
A61M 29/02
A61F 2/06
A61L 31/00 Z
A61L 27/00 P
A61L 27/00 U
A61L 27/00 Q
A61L 27/00 V
請求項の数または発明の数 6
全頁数 14
出願番号 特願2009-195728 (P2009-195728)
出願日 平成21年8月26日(2009.8.26)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 発行所:社団法人化学工学会、刊行物名:化学工学会第41回秋季大会研究発表講演要旨集(CD)、発行日:2009年(平成21年)8月16日、第23頁、「AE3P20 医療機器被覆のための機能性ペプチドの探索」
特許法第30条第1項適用 発行所:社団法人日本生物工学会、刊行物名:第61回日本生物工学会大会講演要旨集、発行日:2009年(平成21年)8月25日、第154頁、「2Ka02 細胞特異的接着・増殖制御ペプチドの探索および評価」
審査請求日 平成24年8月24日(2012.8.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】本多 裕之
【氏名】大河内 美奈
【氏名】加藤 竜司
【氏名】蟹江 慧
【氏名】趙 瑛梓
【氏名】成田 裕司
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査官 【審査官】野村 英雄
参考文献・文献 特表2008-509980(JP,A)
特表2006-508022(JP,A)
特表2003-506410(JP,A)
特表平03-504722(JP,A)
特表2003-502019(JP,A)
特開2004-344469(JP,A)
特表2001-526570(JP,A)
特表2005-518409(JP,A)
特開2004-143057(JP,A)
国際公開第2009/033806(WO,A1)
特表2005-504037(JP,A)
SHEPPECK, J.E. et al.,"Synthesis of a statistically exhaustive fluorescent peptide substrate library for profiling protease specificity.",BIOORGANIC & MEDICAL CHEMISTRY LETTERS,2000年12月 4日,Vol.10, No.23,P.2639-2642
菅原毅、外4名,「ペプチドアレイを用いた血管新生阻害のための細胞接着ペプチドの探索」,日本生物工学会大会講演要旨集,2009年 8月25日,第61回,P.36,「2Cp24」欄
調査した分野 C07K 14/78
A61F 2/00-2/97
A61M 29/00-37/04
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
HHH、VVV、TTT、TGA、NNN、KKK、AAA、RRR、YYY、TTT、GAT、GGG、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGL、AVG、GHP、GLI、GVG、GPS、SPG、GPP、GIS、GYL、GEK、QGE、CNY、FPG、GAP、APG、GEC、LPG、GPR、PCG、GDV、IGG、CDG、AVA、FLM、GFD、GTP、GPY、VSG、DGR、GIT、GFL、ASG、GCP、NQG、SGL、GGA、PDG、QAL、GLK、GSP、GEP、GNS、AKG、DGY、TGP、VGP、SLW、AAG、AGA、ARG、GRD、EGF、GSC、PGQ、HSQ、EAP、RGP、PGD、CNI、GFG、GPT、GDQ、KGE、PFI、QGP及びSYWからなる群より選択されるいずれかのアミノ酸配列を有する、細胞特異的ペプチドをその表面に露出する状態で含有する、体内埋込型医療器具。
【請求項2】
体内埋込型医療器具がステント又は人工血管である、請求項に記載の体内埋込型医療器具。
【請求項3】
HHH、VVV、TTT、TGA、KKK、AAA、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGL、AVG、GHP、GLI、GVG、GPS、SPG、GPP、GIS、GYL、GEK、QGE、CNY、FPG、GAP、APG、GEC、LPG、GPR、PCG、GDV、IGG、CDG、AVA、FLM、GFD、GTP、GPY、VSG、DGR、GIT、GFL、ASG、GCP、NQG、SGL、GGA、PDG、QAL、GLK、GSP、GEP及びGNSからなる群より選択されるいずれかのアミノ酸配列を有し、内皮細胞特異性を示すペプチドをその表面に露出する状態で含有するステント。
【請求項4】
HHH、VVV、TTT、TGA、KKK、AAA、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGL、AVG、GHP、GLI、GVG、GPS、SPG、GPP、GIS、GYL、GEK、QGE、CNY、FPG、GAP、APG、GEC、LPG、GPR、PCG、GDV、IGG、CDG、AVA、FLM、GFD、GTP、GPY、VSG、DGR、GIT、GFL、ASG、GCP、NQG、SGL、GGA、PDG、QAL、GLK、GSP、GEP及びGNSからなる群より選択されるいずれかのアミノ酸配列を有し、内皮細胞特異性を示すペプチドをその内腔表面に露出する状態で含有する人工血管。
【請求項5】
RRR、YYY、TTT、GAT、AKG、DGY、TGP、VGP、SLW、AAG、AGA、ARG、GRD、EGF、GSC、PGQ、HSQ、EAP、RGP、PGD、CNI、GFG、GPT、GDQ、KGE、PFI、QGP及びSYWからなる群より選択されるいずれかのアミノ酸配列を有し、平滑筋細胞特異性を示すペプチドをその外表面に露出する状態で含有する、請求項に記載の人工血管。
【請求項6】
体内埋込型医療器具を製造するための、HHH、VVV、TTT、TGA、NNN、KKK、AAA、RRR、YYY、TTT、GAT、GGG、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGL、AVG、GHP、GLI、GVG、GPS、SPG、GPP、GIS、GYL、GEK、QGE、CNY、FPG、GAP、APG、GEC、LPG、GPR、PCG、GDV、IGG、CDG、AVA、FLM、GFD、GTP、GPY、VSG、DGR、GIT、GFL、ASG、GCP、NQG、SGL、GGA、PDG、QAL、GLK、GSP、GEP、GNS、AKG、DGY、TGP、VGP、SLW、AAG、AGA、ARG、GRD、EGF、GSC、PGQ、HSQ、EAP、RGP、PGD、CNI、GFG、GPT、GDQ、KGE、PFI、QGP及びSYWからなる群より選択されるいずれかのアミノ酸配列を有する、細胞特異的ペプチドの使用。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はペプチド及びその用途に関する。詳しくは、特定の細胞に対して特異性を示すペプチド及び当該ペプチドの医療器具への適用などに関する。
【背景技術】
【0002】
日本人の死因の第2位は心疾患である。米国においては、半世紀の間心疾患が死因の第1位であり、世界的にも心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患に苦しむ患者数は非常に多い。虚血性心疾患に対して、ステントと呼ばれる金属チューブを血管内に留置することによる、血栓や狭窄の治療が行われている。通常のステントについては留置後、血栓の形成や周囲組織の繊維化による再狭窄が多数報告されていたが、2004年3月に厚労省が認可した薬剤溶出ステント(DES:Drug Eluting Stent。例えば非特許文献1を参照)は再狭窄の発生を低減する効果を示し、心疾患治療の現場を変えた。しかし、DESが遅発性ステント血栓症を起こした例が報告されている。この血栓症の原因は、ステントの血管内壁への不十分な拡張や、細胞増殖抑制薬剤による不十分な内皮細胞の増殖、ポリマーに対するアレルギー反応等であり、DESに代わる新たなステントの素材・抗血栓剤の開発が急務となっている。
【0003】
現在でも様々なステントの開発が行われており、新たな薬剤としてバイオリムスA9を用いたステント(Nobori; Terumo, Japan)や循環内皮前駆細胞(EPCs)表面抗原に特異的な抗体(CD34)で覆った血管内皮前駆細胞捕捉ステント(GenousTM Bio-engineered R stent TM; Orbus Neich, フロリダ州、米国)や生体適合性ポリマーで作られたPLLA(Poly-L-Lactic acid)ステント(Igaki-Tamai; 株式会社 京都医療設計、日本)などが注目されている。
【0004】
一方、ステントの表面にペプチドを被覆することにより、内皮前駆細胞を特異的に吸着・接着させて再狭窄を抑制する技術が開発されている(特許文献1)。また、インプラントの表面にペプチドを被覆することも提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2004-344469号公報
【特許文献2】特表2001-526570号公報
【0006】

【非特許文献1】de la Fuente LM et al. Catheter Cardiovasc Interv. 2001 Aug;53(4):480-8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ステントについての最大の課題は、血管環境をいかに模倣するかということである。通常のステントでは、ステント挿入部分の血管内壁に傷が付き、内皮細胞や細胞外マトリックス(ECM)と呼ばれるタンパク質で覆われていた部分はむき出しの状態になる。ステント自体が炎症反応のもととなり、細胞が過剰に増殖し、再狭窄を引き起こす。このような現象を改善するステントとして、細胞増殖を抑える薬剤溶出ステントが使用されているが、このステントの問題点として、必要な内皮細胞の増殖さえも抑えてしまうため、不活性な血小板が接着し、結果的に遅発性ステント血栓症と呼ばれる、狭窄の原因を引き起こしてしまう。
【0008】
血管というものは、実によく均衡が保たれており、そこに異物であるステントを挿入する際には、単純な薬剤の使用でなく、生態適合性かつ、本来の血管の機能を果たすような作用が施されていなくてはならない。炎症反応は起こらず、過大な細胞増殖はしないが、必要な細胞増殖はするといったコントロールが必要である。つまり、再狭窄に繋がってしまう血管壁の過形成や、血栓症の原因となる内皮細胞の不足が起こらずに正常な内皮化が生ずるように、必要な場所に必要な細胞を接着及び増殖させることが必要となる。この点に関して上掲の特許文献1は、内皮細胞の接着を促すために有効なペプチドを開示するものの、当該ペプチドは平滑筋細胞への接着性も示し、細胞特異性が低い。
【0009】
周囲の環境に合わせた上記の如き制御の必要性は、ステントに限らず人工小血管、神経チューブ、人工弁など生体内へ移植ないし埋設される様々な医療器具(体内埋込型医療器具)にも当てはまる。
【0010】
そこで本発明の課題は、特定の細胞の制御に有用な、細胞特異性に優れたペプチド及びその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは細胞特異性を示すペプチドを見出すべく検討を重ねた。一つ目のアプローチとして、ペプチドを構成するアミノ酸の電荷、サイズ、疎水度などの様々な物理的性質に着目した。即ち、細胞によって好む物理的性質にも違いがあるとの仮説を立て、細胞が好むアミノ酸の物理的な性質から特異性が生じるのではないかと考え、20種類のアミノ酸トリマー(3残基ペプチド)を使用した実験を施行した。その結果、細胞の種類毎、細胞が好むアミノ酸の傾向が判明するとともに、高い細胞特異性を示すペプチドが特定された。また、特徴のある配列を組み合わせたペプチドをデザインしたところ、高い細胞特異性を示すペプチドが見出された。
【0012】
二つ目のアプローチとして、特定の環境に豊富に存在するタンパク質に特異的又は多く含まれる配列は機能的なものである、との作業仮説を立て、当該作業仮説の下、細胞特異的なペプチドを見出すことを目指した。このような手法は、タンパク質中の最も機能的な部分にのみ注目して機能的な配列を探索するという、従来の手法と顕著に異なる。上記作業仮説を適用する対象として、生内皮細胞に一番近い基底膜ECMを構成するコラーゲンIVに着目した。即ち、コラーゲンIVの中に、内皮細胞に高接着し且つ平滑筋には低接着なペプチドが存在すると予想し、コラーゲンIVの配列の中から細胞特異性を示すトリマーの配列を探索することにした。併せて、コラーゲンIV以外にも存在しているが、コラーゲンIVでの存在割合の高いペプチド配列をスクリーニングし、その細胞特異性を検討した。以上の検討の結果、コラーゲンIV由来の細胞特異的ペプチドを同定することに成功した。更に検討を進め、同定されたペプチドが集合的に集まるドメインをコラーゲンIVのアミノ酸配列中に見出すとともに、その細胞特異性を確認した。
下記の発明は、以上の成果に基づくものである。
[1]HHH、VVV、TTT、TGA、NNN、KKK、AAA、RRR、YYY、TTT、GAT、GGG、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGL、AVG、GHP、GLI、GVG、GPS、SPG、GPP、GIS、GYL、GEK、QGE、CNY、FPG、GAP、APG、GEC、LPG、GPR、PCG、GDV、IGG、CDG、AVA、FLM、GFD、GTP、GPY、VSG、DGR、GIT、GFL、ASG、GCP、NQG、SGL、GGA、PDG、QAL、GLK、GSP、GEP、GNS、AKG、DGY、TGP、VGP、SLW、AAG、AGA、ARG、GRD、EGF、GSC、PGQ、HSQ、EAP、RGP、PGD、CNI、GFG、GPT、GDQ、KGE、PFI、QGP、SYW、LPGFPGLK(配列番号1)、LPGFPGTP(配列番号2)、GPPGLSGPP(配列番号3)、FPGPPGPP(配列番号4)、LPGLPGPP(配列番号5)、FPGLPGPP(配列番号6)、GPPGPPGSPG(配列番号7)、LPGPPGPP(配列番号8)、FPGSPGFPG(配列番号9)、GSPGLPGTP(配列番号10)及びIGLSGEKG(配列番号11)からなる群より選択されるいずれかのアミノ酸配列を有する、細胞特異的ペプチド。
[2]HHH、VVV、TTT、TGA、NNN、KKK、AAA、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGL、AVG、GHP、GLI、GVG、GPS、SPG、GPP、GIS、GYL、GEK、QGE、CNY、FPG、GAP、APG、GEC、LPG、GPR、PCG、GDV、IGG、CDG、AVA、FLM、GFD、GTP、GPY、VSG、DGR、GIT、GFL、ASG、GCP、NQG、SGL、GGA、PDG、QAL、GLK、GSP、GEP、GNS、LPGFPGLK(配列番号1)、LPGFPGTP(配列番号2)、GPPGLSGPP(配列番号3)、FPGPPGPP(配列番号4)、LPGLPGPP(配列番号5)、FPGLPGPP(配列番号6)、GPPGPPGSPG(配列番号7)、LPGPPGPP(配列番号8)、FPGSPGFPG(配列番号9)、GSPGLPGTP(配列番号10)及びIGLSGEKG(配列番号11)からなる群より選択されるいずれかのアミノ酸配列を有し、内皮細胞特異性を示すことを特徴とする、[1]に記載の細胞特異的ペプチド。
[3]HHH、VVV、TTT、TGA、KKK、AAA、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGL、AVG、GHP、GLI、GVG、GPS、SPG、GPP、GIS、GYL、GEK、QGE、CNY、FPG、GAP、APG、GEC、LPG、GPR、PCG、GDV、IGG、CDG、AVA、FLM、GFD、GTP、GPY、VSG、DGR、GIT、GFL、ASG、GCP、NQG、SGL、GGA、PDG、QAL、GLK、GSP、GEP、GNS、LPGFPGLK(配列番号1)、LPGFPGTP(配列番号2)、GPPGLSGPP(配列番号3)、FPGPPGPP(配列番号4)、LPGLPGPP(配列番号5)、FPGLPGPP(配列番号6)、GPPGPPGSPG(配列番号7)、LPGPPGPP(配列番号8)、FPGSPGFPG(配列番号9)、GSPGLPGTP(配列番号10)及びIGLSGEKG(配列番号11)からなる群より選択されるいずれかのアミノ酸配列を有し、内皮細胞特異性を示すことを特徴とする、[1]に記載の細胞特異的ペプチド。
[4]RRR、YYY、TTT、GAT、AKG、DGY、TGP、VGP、SLW、AAG、AGA、ARG、GRD、EGF、GSC、PGQ、HSQ、EAP、RGP、PGD、CNI、GFG、GPT、GDQ、KGE、PFI、QGP及びSYWからなる群より選択されるいずれかのアミノ酸配列を有し、平滑筋細胞特異性を示すことを特徴とする、[1]に記載の細胞特異的ペプチド。
[5][1]~[4]のいずれか一項に記載のペプチドをその表面に露出する状態で含有する、体内埋込型医療器具。
[6]体内埋込型医療器具がステント又は人工血管である、[5]に記載の体内埋込型医療器具。
[7][3]に記載のペプチドをその表面に露出する状態で含有するステント。
[8][3]に記載のペプチドをその内腔表面に露出する状態で含有する人工血管。
[9][4]に記載のペプチドをその外表面に露出する状態で含有する、[8]に記載の人工血管。
[10]体内埋込型医療器具を製造するための、[1]~[4]のいずれか一項に記載のペプチドの使用。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ペプチド探索手法の概要を示す図。
【図2】20種類のアミノ酸トリマーの細胞特異性を比較したグラフ。HAECは大動脈の内皮細胞、SMCは大動脈の平滑筋細胞、HUVECは静脈の内皮細胞、NHDFは皮膚の線維芽細胞を表す。コントロールとしてRGDを用いた。RGDは、いずれの細胞も概ね強く接着・増殖させてしまうが、いくつかのペプチドは特徴的な効果を示した。
【図3】高い細胞特異性を認めたペプチドを示す表。
【図4】細胞特異的ペプチドを組合せて新たなペプチドをデザインする方法の概要を示す図。
【図5】図4の方法でデザインされたペプチドの細胞特異性を比較したグラフ。内皮細胞特異的なペプチドとしてTGA、平滑筋特異的なペプチドとしてGATが見出された。HAECは大動脈の内皮細胞、SMCは大動脈の平滑筋細胞を表す。
【図6】コラーゲンIV由来のトリペプチドの細胞特異性をまとめた表。内皮細胞に対してコントロール(RGD)よりも高い特異性を示したトリペプチドを列挙した。
【図7】コラーゲンIV由来のトリペプチドの細胞特異性をまとめた表。平滑筋細胞に対してコントロール(RGD)よりも高い特異性を示したトリペプチドを列挙した。
【図8】コラーゲンIV由来の細胞特異的ペプチドを探索する手法の概要。
【図9】内皮細胞特異的ペプチドが集合的に集まるドメインとしてコラーゲンIV中に見出されたペプチドの細胞特異性をまとめた表。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1の局面は細胞特異性を示すペプチドに関する。「細胞特異性」とは、特定の細胞に対する特異的な接着性(高い又は低い接着性)をいう。特定の細胞に対する特異的な増殖性(高い又は低い増殖性)を加味して「細胞特異性」を判断することが好ましい。従って、「細胞特異性」を示すペプチドの内で好ましいものは、特定の細胞に対して高い接着性及び増殖性を示すか、特定の細胞に対して低い接着性及び増殖性を示す。ここでの「特定の細胞」の例は、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞である。尚、細胞特異性を示すペプチドのことを本明細書では「細胞特異的ペプチド」と呼称する。

【0015】
本発明の細胞特異的ペプチドは、HHH、VVV、TTT、TGA、NNN、KKK、AAA、RRR、YYY、TTT、GAT、GGG、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGL、AVG、GHP、GLI、GVG、GPS、SPG、GPP、GIS、GYL、GEK、QGE、CNY、FPG、GAP、APG、GEC、LPG、GPR、PCG、GDV、IGG、CDG、AVA、FLM、GFD、GTP、GPY、VSG、DGR、GIT、GFL、ASG、GCP、NQG、SGL、GGA、PDG、QAL、GLK、GSP、GEP、GNS、AKG、DGY、TGP、VGP、SLW、AAG、AGA、ARG、GRD、EGF、GSC、PGQ、HSQ、EAP、RGP、PGD、CNI、GFG、GPT、GDQ、KGE、PFI、QGP、SYW、LPGFPGLK(配列番号1)、LPGFPGTP(配列番号2)、GPPGLSGPP(配列番号3)、FPGPPGPP(配列番号4)、LPGLPGPP(配列番号5)、FPGLPGPP(配列番号6)、GPPGPPGSPG(配列番号7)、LPGPPGPP(配列番号8)、FPGSPGFPG(配列番号9)、GSPGLPGTP(配列番号10)及びIGLSGEKG(配列番号11)からなる群より選択されるいずれかのアミノ酸配列を有する。上記のペプチドの内、HHH、VVV、TTT、TGA、NNN、KKK、AAA、RRR、YYY、TTT、GAT及びGGGは、アミノ酸の物理的性質に着目したアプローチによって見出されたものである。後述の実施例に示す通り、HHH、VVV、TTT、TGA、KKK及びAAA(以下、これらをまとめて「グループ1のペプチド」とも呼ぶ)並びにNNNは内皮細胞特異的ペプチドであり、RRR、YYY、TTT及びGAT(以下、これらをまとめて「グループ2のペプチド」とも呼ぶ)は平滑筋細胞特異的ペプチドであり、GGGは線維芽細胞特異的ペプチドである。他方、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGL、AVG、GHP、GLI、GVG、GPS、SPG、GPP、GIS、GYL、GEK、QGE、CNY、FPG、GAP、APG、GEC、LPG、GPR、PCG、GDV、IGG、CDG、AVA、FLM、GFD、GTP、GPY、VSG、DGR、GIT、GFL、ASG、GCP、NQG、SGL、GGA、PDG、QAL、GLK、GSP、GEP、GNS、AKG、DGY、TGP、VGP、SLW、AAG、AGA、ARG、GRD、EGF、GSC、PGQ、HSQ、EAP、RGP、PGD、CNI、GFG、GPT、GDQ、KGE、PFI、QGP、SYW、LPGFPGLK(配列番号1)、LPGFPGTP(配列番号2)、GPPGLSGPP(配列番号3)、FPGPPGPP(配列番号4)、LPGLPGPP(配列番号5)、FPGLPGPP(配列番号6)、GPPGPPGSPG(配列番号7)、LPGPPGPP(配列番号8)、FPGSPGFPG(配列番号9)、GSPGLPGTP(配列番号10)及びIGLSGEKG(配列番号11)はコラーゲンIV由来のペプチド配列である。この内、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGL、AVG、GHP、GLI、GVG、GPS、SPG、GPP、GIS、GYL、GEK、QGE、CNY、FPG、GAP、APG、GEC、LPG、GPR、PCG、GDV、IGG、CDG、AVA、FLM、GFD、GTP、GPY、VSG、DGR、GIT、GFL、ASG、GCP、NQG、SGL、GGA、PDG、QAL、GLK、GSP、GEP、GNS、LPGFPGLK(配列番号1)、LPGFPGTP(配列番号2)、GPPGLSGPP(配列番号3)、FPGPPGPP(配列番号4)、LPGLPGPP(配列番号5)、FPGLPGPP(配列番号6)、GPPGPPGSPG(配列番号7)、LPGPPGPP(配列番号8)、FPGSPGFPG(配列番号9)、GSPGLPGTP(配列番号10)及びIGLSGEKG(配列番号11)(以下、これらをまとめて「グループ3のペプチド」とも呼ぶ)は内皮細胞特異的ペプチドであり、AKG、DGY、TGP、VGP、SLW、AAG、AGA、ARG、GRD、EGF、GSC、PGQ、HSQ、EAP、RGP、PGD、CNI、GFG、GPT、GDQ、KGE、PFI、QGP及びSYW(以下、これらをまとめて「グループ4のペプチド」とも呼ぶ)は平滑筋特異的ペプチドである。

【0016】
グループ1及び3のペプチドは内皮細胞の接着及び増殖に有効であり、内皮細胞を捕捉・増殖させることが望まれる用途に有用である。一方、NNNは内皮細胞の非接着(接着させないこと)及び非増殖(増殖させないこと)に有効であり、内皮細胞を排除することが望まれる用途に有用である。また、グループ2及び4のペプチドは平滑筋細胞の接着及び増殖に有効であり、平滑筋細胞を捕捉・増殖させることが望まれる用途に有用である。GGGについては線維芽細胞の非接着(接着させないこと)及び非増殖(増殖させないこと)に有効であり、線維芽細胞を排除することが望まれる用途に有用である。

【0017】
グループ3のペプチドの中で、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGLは内皮細胞に対する特異性が特に高い。そこで、好ましい一態様ではPGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG及びLGLからなる群より選択されるいずれかのアミノ酸配列を有する、内皮細胞特異的ペプチドが提供される。同様に、グループ4のペプチドの中でAKG、DGY、TGPは平滑筋細胞に対する特異性が特に高い。そこで、好ましい一態様ではAKG、DGY及びTGPからなる群より選択されるいずれかのアミノ酸配列を有する、平滑筋細胞特異的ペプチドが提供される。

【0018】
本発明のペプチドは公知のペプチド合成法(例えば固相合成法、液相合成法)によって調製することができる。尚、自動ペプチド合成機を利用すれば容易かつ迅速に目的のペプチドを合成することができる。

【0019】
遺伝子工学的手法を用いて目的のペプチドを調製することにしてもよい。即ち、本発明のペプチドをコードする核酸を適当な宿主細胞に導入し、形質転換体内で発現されたペプチドを回収することにより目的のペプチドを得ることにしてもよい。回収されたペプチドは必要に応じて精製される。回収されたペプチドを適当な置換反応に供し、所望のペプチド修飾体に変換することもできる。

【0020】
所望の細胞特異性を維持する限り、上記のペプチドに何らかの修飾が施されていても良い。即ち、本発明の一態様は、上記ペプチドの修飾体(以下、「修飾ペプチド」という)を提供する。本発明における「修飾ペプチド」とは、基本構造としての特定のペプチドの一部(複数箇所であってもよい)を他の原子団等で置換すること、或いは他の分子を付加すること等の修飾を施すことによって、少なくとも一部において当該ペプチドと相違する構造の化合物をいう。当業者であれば、周知ないし慣用の手段を用いて上記のペプチドを基本とした置換体などの修飾体を設計することができる。また、かかる設計に基づき、周知ないし慣用の手段を用いて目的の修飾体を調製することができる。

【0021】
修飾ペプチドの代表例としては、ペプチドを構成するアミノ酸残基において側鎖の一部(原子又は原子団)が他の原子又は原子団で置換されたペプチド誘導体を挙げることができる。このようなペプチド誘導体は、最終生成物として当該ペプチド誘導体が得られるように設計された任意の製造工程によって調製することができる。したがって、目的のペプチド誘導体が、あるペプチドにおいて一部(例えば側鎖の一部である原子団)が特定の原子団によって見かけ上置換されたものである場合には、当該目的のペプチド誘導体はこの見かけ上基本となるペプチドを出発材料として当該特定の原子団を用いた置換反応によって製造されたものであっても、或いは例えば他の構造のペプチドを出発材料として適当な置換反応等(場合によって複数工程であってもよい)によって製造されたものであってもよい。ここでの他の原子又は原子団としては、ヒドロキシル基、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等)、アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等)、ヒドロキシアルキル基(ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)、アシル基(ホルミル基、アセチル基、マロニル基、ベンゾイル基等)等を例示することができる。

【0022】
尚、修飾ペプチドには、構成アミノ酸残基内の官能基が適当な保護基によって保護されているものも含まれる。このような目的に使用される保護基としては、アシル基、アルキル基、単糖、オリゴ糖、多糖等を用いることができる。このような保護基は、保護基を結合させるペプチド部位や使用する保護基の種類などに応じて、アミド結合、エステル結合、ウレタン結合、尿素結合等によって連結される。

【0023】
修飾ペプチドの他の例としては、糖鎖の付加による修飾が施されているものを挙げることができる。また、N末端又はC末端が他の原子等で置換されることによってアルキルアミン、アルキルアミド、スルフィニル、スルフォニルアミド、ハライド、アミド、アミノアルコール、エステル、アミノアルデヒド等に分類される各種ペプチド誘導体も修飾ペプチドの一つである。

【0024】
修飾ペプチドの更なる例は標識化ペプチドである。例えばN末端がビオチン標識やFITC標識されたペプチド、蛍光色素で標識化されたペプチドなどが標識化ペプチドに該当する。

【0025】
尚、以上で説明した各種の修飾方法を組み合わせることによって構成されるペプチド誘導体を本発明の修飾ペプチドとしてもよい。

【0026】
本発明の第2の局面は上記ペプチドの用途に関する。本発明のペプチドはその細胞特異性を利用して、特定の細胞の誘導、捕捉、増殖或いは排除などが望まれる用途に用いられる。用途の具体例として体内埋込型医療器具を挙げることができる。「体内埋込型医療器具」とは、体内に埋め込まれて(埋設されて)使用される、ステント、カテーテル、バルーン、人工血管、神経チューブ、人工弁、人工心肺装置、インプラント(人工骨など)などの医療器具をいう。本発明に係る体内埋込型医療器具では、本発明のペプチドがその表面に露出する状態で含有される。この特徴により、生体との接触面に細胞特異性が付与され、特定の細胞に対して特異性を発揮することになる。例えば、上記グループ1又は3のペプチド(内皮細胞特異的ペプチド)を適用した場合、内皮細胞に対して親和的な表面が形成され、そこでの内皮細胞の接着及び増殖が促される(見方を変えれば、内皮細胞以外の細胞の捕捉・増殖などを抑制できるといえる)。

【0027】
好ましい一態様として、本発明のペプチドを適用したステントが提供される。ステントとは血管、気道、食道等の閉塞や狭窄の治療・改善を目的として利用される医療器具であり、通常は筒状である。様々な形態のステントが開発・提案されている(背景技術の欄、特表平8-502428号公報、特表平8-507243号公報、特表平10-503676号公報等を参照)。

【0028】
二種類以上のペプチドを併用することにしてもよい。併用する場合、細胞特異性に関して同種のペプチドを組み合わせることにしても、或いは異種のペプチドを組み合わせることにしてもよい。前者の一例はグループ1又は3に含まれるペプチドの中から2以上を選択して併用する場合であり、後者の一例はグループ1に含まれるペプチド(1又は2以上)とグループ2に含まれるペプチド(1又は2以上)を併用する場合である。異種のペプチドを組み合わせる場合には、原則として、細胞特異性毎にペプチド含有領域を設定する。即ち、細胞特異性が異なるペプチドが混在することがないようにする。このようにすることで例えば、一の領域では内皮細胞を捕捉・増殖させると同時に他の領域では平滑筋細胞を捕捉・増殖させるというような、二種類以上の細胞の制御が可能になる。当該制御の具体例を挙げれば、グループ1又は3に含まれるペプチド(1又は2以上)をその内腔表面に露出する状態で含有するとともに、グループ2又は4に含まれるペプチド(1又は2以上)を外表面に露出する状態で含有する人工血管である。このような人工血管では内側に内皮細胞を誘導・捕捉し、そこでの増殖を促し、併せて外側に平滑筋細胞を誘導・捕捉し、そこでの増殖を促すことができる。これによって生体への生着率の向上、狭窄などの副作用の抑制を期待できる。

【0029】
ペプチドの含有態様は特に限定されない。例えば直接又はリンカー(スペーサー)を介して所望のペプチドを医療器具の表面に付着ないし固定する。リンカーの例としてPEG(ポリエチレングリコール)、PEG誘導体(ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール等)、C10~C18の炭素鎖をもつ化合物、生体構成脂質類(ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン)を挙げることができる。一方、ペプチドを含有する材料を医療器具の表面に被覆することにしてもよい。或いは、ペプチドを含有する材料で医療器具の表面を形成する(形成材料中にペプチドを混在させる)ことにしてもよい。

【0030】
ペプチドの使用量は特に限定されず、例えば100 pmol/cm2~100 mmol/cm2の密度でペプチドを含有させることができる。尚、ペプチドを含有させる領域においてペプチドの密度が均一でなくてもよい。例えば密度勾配が形成されるようにペプチド含有領域を設けることも細胞を特異部位に誘導する可能性が期待できる。

【0031】
体内埋込型医療器具の材質(特に、本発明のペプチドを含有する部分の材質)は特に限定されない。材質の例としてステンレス(例えばSUS316L)、タンタル、コバルトクロム合金ニッケル・チタン合金、マグネシウム合金などの金属材料、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、セルロースアセテートなどの高分子材料、セラミックスを挙げることができる。ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンなど生体分解性材料を用いることもできる。

【0032】
尚、本明細書で特に言及しない事項(条件、操作方法など)については常法に従えばよく、例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)、Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)、Current protocols in Immunology, John Wiley& Sons Inc等を参考にすることができる。
【実施例】
【0033】
<アミノ酸の物理的性質に着目した細胞特異的ペプチドの探索>
ペプチドを構成するアミノ酸の電荷、サイズ、疎水度などの様々な物理的性質に着目して細胞特異的ペプチドを探索した。アミノ酸の物理的性質は数値化されアミノ酸インデックス(AAindex: Amino Acid Index)として報告されている(Nucleic Acids Res. 2008 Jan;36(Database issue):D202-5. Epub 2007 Nov 12)。このような物理的性質と情報処理解析を用いた研究により、高接着なペプチド配列がスクリーニングされてきている(Biotechniques. 2008 Mar;44(3):393-402.)。細胞によって好む物理的性質にも違いがあるとの仮説を立て、細胞が好むアミノ酸の物理的な性質から特異性が生じるのではないかと考え、20種類のアミノ酸トリマーを使用した実験を施行した。
【実施例】
【0034】
1.方法(図1)
20種類のアミノ酸についてトリマー(トリペプチド)を合成した。Fmoc固相合成法を用いて各トリマーを1残基ずつアレイ表面に合成伸張し、ペプチドアレイとした。ペプチドアレイの各スポットを打ち抜き、培養プレートの各ウェルに装着した。各ウェルに細胞(大動脈の内皮細胞(HAEC)、静脈の内皮細胞(HUVEC)、大動脈の平滑筋細胞(SMC)、皮膚の線維芽細胞(NHDF))を播種した。表面上の非特異的吸着細胞を洗浄工程によって洗い流した後、カルセイン染色(30分)を行った。カルセインにより生細胞が染まったことを確認後、リン酸緩衝液で3回洗浄し、各ウェルの蛍光を検出した。蛍光値に基づき、接着した細胞数を推定した
【実施例】
【0035】
一方、同様の細胞播種実験を行った後、1日又は3日間、細胞がアレイに接着した状態でインキュベータにて細胞培養を行い、細胞の増殖を促した。1日後又は3日後に、表面上の非特異的吸着細胞を洗浄工程によって洗い流した後、カルセイン染色(30分)を行った。カルセインにより生細胞が染まったことを確認後、リン酸緩衝液で3回洗浄し、各ウェルの蛍光を検出した。蛍光値に基づき、接着した細胞数を推定した。
【実施例】
【0036】
基準のペプチド(コントロール)としてRGDを使用し、各ペプチド(検証ペプチド)の細胞接着性・増殖性を評価した。例えば、コントロールであるRGDペプチドを配置したペプチドアレイ上での生細胞の蛍光測定値が100であったとき、検証ペプチドを配置したペプチドアレイ上での生細胞の蛍光測定値が200であれば、200/100を計算し、その接着性・増殖性の比=2.0とした。
【実施例】
【0037】
2.結果・考察
各ペプチドの細胞特異性を図2に示す。コントロールであるRGDはいずれの細胞に対しても概ね強い接着性及び増殖性を示したのに対し、いくつかのペプチドは特定の細胞に対して強い接着性及び増殖性を示した。高い細胞特異性を認めたペプチドを図3の表にまとめた。表に示した通り、大動脈内皮細胞が好むペプチドはHHH、VVV及びTTTであった。他方、大動脈内皮細胞が忌避するペプチドはNNNであった。また、静脈内皮細胞が好むペプチドはKKK、AAA及びVVVであった。同様に大動脈平滑筋細胞が好むペプチドはRRR、YYY及びTTTであった。また、皮膚の線維芽細胞が忌避するペプチドはGGGであった。
【実施例】
【0038】
以上のように、内皮細胞に特異的なペプチド(HHH、VVV、TTT、KKK、AAA、NNN)、平滑筋細胞に特異的なペプチド(RRR、YYY及びTTT)、及び線維芽細胞に特異的なペプチド(GGG)が見出された。HHH、VVV、TTT、KKK、AAAは内皮細胞の特異的捕捉及び増殖(特異的培養)に、NNNは内皮細胞の特異的除去に、RRR、YYY及びTTTは平滑筋細胞の特異的捕捉及び増殖(特異的培養)に、GGGは線維芽細胞の特異的除去にそれぞれ有用であるといえる。
【実施例】
【0039】
以上の結果を受けた後、特定の細胞に対して特異性を示したペプチドの配列を組み合わせたペプチドをデザインし、その細胞特異性を調べた(図4)。その結果、内皮細胞特異的なペプチドとしてTGA、平滑筋特異的なペプチドとしてGATが見出された(図5)。前者は内皮細胞の特異的捕捉及び増殖(特異的培養)に、後者は平滑筋細胞の特異的捕捉及び増殖(特異的培養)にそれぞれ有用であるといえる。
【実施例】
【0040】
<コラーゲンIV由来の細胞特異的ペプチドの探索>
「特定の環境に豊富に存在するタンパク質に特異的又は多く含まれる配列は機能的なものである」との作業仮説の下、細胞特的ペプチドを探索することにした。この作業仮説は、(1)一般に、一定以上の接着能を持つ配列はタンパク質中に多数存在することと、(2)タンパク質そのものは、細胞特異性を持っているが、過去に報告された接着ペプチドは細胞特異性が無いこと(全体では細胞特異性があるが、1カ所だけの特異的ドメインは見つかっていない)から、「接着性を示すタンパク質の中に接着ペプチドは複数存在し、それらが複合的に関与して当該タンパク質の特徴・雰囲気を形成している」との考えに基づく。
【実施例】
【0041】
上記作業仮説を適用する対象として、生内皮細胞に一番近い基底膜ECMを構成するコラーゲンIVに着目し、「コラーゲンIVの中に、内皮細胞に高接着し且つ平滑筋細胞には低接着なペプチドが存在する」との予想の下、コラーゲンIVの配列の中から細胞特異性を示すトリマーの配列を探索することにした。併せて、コラーゲンIV以外にも存在しているが、コラーゲンIVでの存在割合の高いペプチド配列をスクリーニングし、その細胞特異性を検討した。
【実施例】
【0042】
1.方法
コラーゲンIVのアミノ酸配をコラーゲンI、II、III、Vの4種類のコラーゲン中のアミノ酸配列と比較し、5種類のコラーゲン中のトリペプチド3319個中、コラーゲンIVに内在する特徴的なトリペプチド配列(907種類)を抽出し、その中からより存在個数のお思いものを115配列解析した。一方、コラーゲンI、II、III、Vの4種類のコラーゲンに比較してコラーゲンIVで存在割合の高いトリペプチド配列(1071種類)中、より存在比率の高いものを139配列解析した。結果、合計254配列をアッセイしてトリペプチドの細胞特異性を以下の方法で調べた。まず、合成した各ペプチドを、Fmoc固相合成法を用いてセルロースメンブレン上に伸張合成し、ペプチドアレイとした(図1を参照)。ペプチドアレイの各スポットを打ち抜き、培養プレートの各ウェルに装着した。各ウェルに細胞(大動脈の内皮細胞(HAEC)、大動脈の平滑筋細胞(SMC))を添加した。カルセイン染色(30分)の後、1時間静置させた。その後、リン酸緩衝液で3回洗浄し、各ウェルの蛍光を検出した。蛍光値から接着した細胞数を推定した。以下の計算式によって得られる値を細胞特異性の指標とした。基準のペプチド(コントロール)としてRGDを使用し、各ペプチド(検証ペプチド)の細胞接着性・増殖性を評価した。例えば、コントロールであるRGDペプチドを配置したペプチドアレイ上での生細胞の蛍光測定値が100であったとき、検証ペプチドを配置したペプチドアレイ上での生細胞の蛍光測定値が200であれば、200/100を計算し、その接着性・増殖性の比=2.0とした。
【実施例】
【0043】
2.結果・考察
コントロール(RGD)よりも高い細胞特異性を示したペプチドを図6及7に示す。図6に示したペプチドは内皮細胞特異的なもの(内皮細胞に対する接着性が高いもの)であり、内皮細胞の特異的捕捉及び増殖(特異的培養)に有用であるといえる。他方、図7に示したペプチドは平滑筋細胞特異的なもの(平滑筋細胞に対する接着性が高い)であり、平滑筋細胞の特異的捕捉及び増殖(特異的培養)に有用であるといえる。ここで、PGH、GQA、QGD、GIG、EKG、KGK、QGF、GMK、GLS、CAG、CNG、KGT、PLG、NRG、CSG、LGLは、特異度が1.5以上であり(図6)、特に有用性が高い。同様にAKG、DGY、TGPは、特異度が-1.5以下であり(図7)、特に有用性が高い。
【実施例】
【0044】
同定された内皮細胞特異的ペプチドが集合的に集まるドメインがコラーゲンIVのアミノ酸配列の中に存在しないか検討した(図8)。その結果、以下に列挙する合計11種類の配列が見出されたため、それらの細胞特異性を上述の方法に準じて調べることにした。
LPGFPGLK(配列番号1)
LPGFPGTP(配列番号2)
GPPGLSGPP(配列番号3)
FPGPPGPP(配列番号4)
LPGLPGPP(配列番号5)
FPGLPGPP(配列番号6)
GPPGPPGSPG(配列番号7)
LPGPPGPP(配列番号8)
FPGSPGFPG(配列番号9)
GSPGLPGTP(配列番号10)
IGLSGEKG(配列番号11)
【実施例】
【0045】
細胞特異性の検討結果を図9に示す。いずれのペプチドも内皮細胞に対して高い特異性を示した。従って、これらのペプチドは内皮細胞の特異的捕捉及び増殖(特異的培養)に有用であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のペプチドは細胞特異性に優れる。本発明のペプチドを用いれば特定の細胞の接着及び増殖を制御できる。従って、例えばステントなど体内埋込型医療器具の表面を処理するための材料として本発明のペプチドを利用可能である。また、複数種類の細胞が二次元的又は三次元的に特定の局在状態で集合する組織体を構築するための材料として利用することも想定される。このように医療器具の分野での利用はもとより、組織工学の分野での利用も多いに期待できる。
【0047】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【配列表フリ-テキスト】
【0048】
配列番号1~11:人工配列の説明:コラーゲンIV由来ペプチド
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8