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明細書 :融合糖タンパク質から成るエンベロープを有する逆行性輸送ウィルスベクター系

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5123922号 (P5123922)
公開番号 特開2011-115077 (P2011-115077A)
登録日 平成24年11月2日(2012.11.2)
発行日 平成25年1月23日(2013.1.23)
公開日 平成23年6月16日(2011.6.16)
発明の名称または考案の名称 融合糖タンパク質から成るエンベロープを有する逆行性輸送ウィルスベクター系
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12N   7/02        (2006.01)
C07K  14/145       (2006.01)
A61K  35/76        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61P  25/16        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/00 102
C12N 7/02
C07K 14/145
A61K 35/76
A61K 48/00
A61P 25/16
請求項の数または発明の数 28
全頁数 19
出願番号 特願2009-274156 (P2009-274156)
出願日 平成21年12月2日(2009.12.2)
審査請求日 平成24年3月26日(2012.3.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】小林 和人
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100100181、【弁理士】、【氏名又は名称】阿部 正博
審査官 【審査官】白井 美香保
参考文献・文献 特開2009-034029(JP,A)
特表2004-517057(JP,A)
Neuroscience Research,2007年,vol.57,pp.550-558
MOLECULAR THERAPY,2001年,vol.4 no.2,pp.149-156
Human Molecular Genetics,2001年,vol.10 no.19,pp.2109-2121
調査した分野 IPC
C12N 15/00-15/90

DB名
CA/BIOSIS/MEDLINE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
CiNii
WPI
特許請求の範囲 【請求項1】
(1)HIV-1のgag 及びpol遺伝子を含むパッケージングプラスミド;
(2)HIV-1のアクセサリー遺伝子を含むパッケージングプラスミド;
(3)目的遺伝子を含むトランスファープラスミド;及び
(4)エンベロープ遺伝子として、狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)の細胞外ドメイン、狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)又は水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G) の膜貫通ドメイン、及び、水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G)の細胞内ドメインを含む融合ポリペプチドをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミド、を含む逆行輸送性ウィルスベクター調製用キット。
【請求項2】
融合ポリペプチドが配列番号2又は配列番号6に示されたアミノ酸配列を有し、パッケージングプラスミド(1)がpCAGkGP1.1Rであり、パッケージングプラスミド(2)がpCAG4-RTR2であり、且つ、トランスファープラスミドがpCL20c-MSCV-X(ここで、「X」は目的遺伝子を示す)であることを特徴とする、請求項1記載のウィルスベクター調製用キット。
【請求項3】
エンベローププラスミドにおいて、エンベロープ遺伝子がサイトメガロウィルスエンハンサー及びトリβアクチンプロモーターの制御下で発現する、請求項1又は2記載のウィルスベクター調製用キット。
【請求項4】
融合ポリペプチドをコードする遺伝子の塩基配列が配列番号1又は配列番号5に示されたものである、請求項3記載のウィルスベクター調製用キット。
【請求項5】
目的遺伝子がヒトの遺伝子である、請求項1~4のいずれか一項に記載のウィルスベクター調製用キット。
【請求項6】
目的遺伝子が脳神経疾患治療用の遺伝子である、請求項5に記載のウィルスベクター調製用キット。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のウィルスベクター調製用キット、及び、宿主細胞を含む、プロデューサー細胞作製用キット。
【請求項8】
感染細胞がHEK293T細胞である、請求項7記載のキット。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載のウィルスベクター調製用キットに含まれる、パッケージングプラスミド、トランスファープラスミド、及び、エンベローププラスミドを感染細胞にコトランスフェクションさせることから成る、プロデューサー細胞の作製方法。
【請求項10】
感染細胞がHEK293T細胞である、請求項9記載の作製方法。
【請求項11】
リン酸カルシウム法を用いてトランスフェクションする、請求項9又は10記載の作製方法。
【請求項12】
請求項9~11いずれか一項に記載の方法で得られたプロデューサー細胞。
【請求項13】
請求項12記載のプロデューサー細胞を培養し、培養上清からウィルス粒子を回収することからなる、ウィルスベクターの製造方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法によって製造された、逆行性輸送能を有するウィルスベクター。
【請求項15】
請求項14記載のウィルスベクターをヒト以外の動物の神経終末部に感染させ、該ウィルスベクターが該神経の軸索を逆行性に輸送されることにより脳内の標的領域にある該神経の細胞体に導入し、目的とする遺伝子を該細胞体内で発現させることから成る、遺伝子導入方法。
【請求項16】
神経終末部が線条体にあり、脳内の標的領域が線条体に投射する脳中枢領域である、請求項15記載の遺伝子導入方法。
【請求項17】
線条体に投射する脳中枢領域が一次運動皮質、一次体性感覚皮質、視床束傍核、及び/又は、黒質緻密部である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
腹側線条体(側坐核)に投射する脳中枢領域が梨状皮質、鉤状回、扁桃体基底外側核、室傍核前部、視床背内側核、及び/又は、外側視床下部である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
動物が哺乳類である、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
哺乳類が霊長類である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
請求項15記載のウィルスベクターを活性成分として含有する、遺伝子治療剤。
【請求項22】
請求項15~20いずれか一項に記載の方法で導入された目的遺伝子が標的領域における細胞の染色体に組み込まれ発現することを含む、脳疾患の遺伝子治療方法。
【請求項23】
請求項21記載の遺伝子治療剤をヒト以外の動物に投与することを含む、請求項22記載の治療方法。
【請求項24】
脳疾患がパーキンソン病である、請求項22又は23記載の治療方法。
【請求項25】
狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)の細胞外ドメイン及び膜貫通ドメイン並びに水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質(VSV-G)の細胞内ドメインを含む融合ポリペプチドから成る、レンチウィルスベクターのシュードタイプ化用のエンベロープ。
【請求項26】
レンチウィルスベクターがHIV-1レンチウィルスである、請求項25記載のエンベロープ。
【請求項27】
請求項25又は26記載の融合ポリペプチドから成るエンベロープをコードする遺伝子。
【請求項28】
請求項27記載の遺伝子を含むエンベローププラスミド。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、特に脳内において高度の逆行性輸送能を有し、生産効率が高いウィルスベクター系、特に、狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)の細胞外ドメイン及び膜貫通ドメイン並びに水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G)の細胞内ドメインを含む融合ポリペプチドによって、シュードタイプ化されたレンチウィルスベクター系、該ウィルスベクター系を使用する遺伝子導入方法及び遺伝子治療方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
非増殖(非複製)型組換え体レンチウィルスベクターは、目的遺伝子を中枢神経系(CNS)における非分裂細胞に輸送して長期間に亘る発現を維持する系等のさまざまな疾患に対する遺伝子治療用ベクターとして多くの研究に利用されている(非特許文献1~4)。特に、HIV-1 (human immunodeficiency virus type 1) に由来する霊長類のレンチウィルスベクターは遺伝子治療用のベクターとして最も実績のあるものである(非特許文献5~8)。
【0003】
一方、ある種の脳神経疾患に対する遺伝子治療のためには、神経終末部位より感染し、軸索を逆行性に輸送され、かかる感染部位より離れた場所に位置する標的部位にある細胞体に目的とする遺伝子を導入することのできるウィルスベクターが有益である(図1)。
【0004】
これまでに、エンベロープ糖タンパク質(エンベロープ遺伝子タンパク質)として、水泡性口内炎ウィルス(vesicular stomatitis virus:VSV)の糖タンパク質 (VSV-G)を利用(シュードタイプ化:pseudotyped)した組換え体HIV-1ウィルスを用いて、カニクイサル脳内における逆行性輸送システムが開発されてきたが、このベクターの逆行性輸送は効率的なものではなかった(非特許文献9)。この文献に記載された方法では、免疫染色により確認された結果、サルの線条体に注入された組換え体HIV-1ウィルスにより逆行性に感染された中枢神経系の細胞はごく僅かであった。
【0005】
一方で、狂犬病ウィルス(rabies virus: RV)は、シナプス終末より感染し、軸索を逆行性に輸送される活性を持つことが知られている。実際に、RV-Gによってウマ貧血ウィルスに基づく非霊長類レンチウィルスベクターの逆行性輸送能が亢進されることが報告されている(非特許文献10、11及び特許文献1)。
【0006】
更に、RV-Gでシュードタイプ化したHIV-1レンチウィルスが報告されているが(非特許文献3)、この報告では実際にこのウィルスベクターを使用した動物実験(インビボ)はなされていない。又、狂犬病の原因となる神経向性ウィルスである、モコラリッサウィルス(Mokola lyssavirus)の糖蛋白質又はVSV-Gでシュードタイプ化したHIV-1ベクターのCNSにおける遺伝子移入が研究されている。モコラリッサウィルスの糖蛋白質又はVSV-Gでシュードタイプ化したHIV-1ベクターをラットの鼻孔に注射した結果、嗅神経系までの逆行性輸送に関して、これらのベクターは互いに同程度であった(非特許文献12)。又、この文献には線条体経由でウィルスベクターを投与した例は記載されていない。
【0007】
これまでに本発明者等は、狂犬病ウィルスの糖タンパク質遺伝子(RV-G)でHIV-1レンチウィルスをシュードタイプ化したベクター(RV-G/HIV-1ベクター)を作製することよって、脳内のさまざま領域において高頻度な逆行性遺伝子導入を可能とすることを明らかにした(特許文献2、Hum. Gene Ther., 2007) 。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特表2004-517057号公報
【特許文献2】特開2009-34029号公報
【0009】

【非特許文献1】NALDINI, L., BLÖMER, U., GAGE, F.H., TRONO, D., and VERMA, I.M. (1996). Efficient transfer, integration, and sustained long-term expression of the transgene in adult rat brains injected with a lentiviral vector. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 11382-11388.
【非特許文献2】REISER, J., HARMISON, G., KLUEPFEL-STAHL, S., BRADY, R.O., KARLSSON, S., and SCHUBERT, M. (1996). Transduction of nondividing cells using pseudotyped defective high-titer HIV type 1 particles. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 15266-15271.
【非特許文献3】MOCHIZUKI, H., SCHWARTZ, J.P., TANAKA, K., BRADY, R.O., and REISER, J. (1998). High-titer human immunodeficiency virus type 1-based vector systems for gene delivery into nondividing cells. J. Virol. 72, 8873-8883.
【非特許文献4】MITROPHANOUS, K.A., YOON, S., ROHLL, J.B., PATIL, D., WILKES, F.J., KIM, V.N., KINGSMAN, S.M., KINGSMAN, A.J., and MAZARAKIS, N.D. (1999). Stable gene transfer to the nervous system using a non-primate lentiviral vector. Gene Ther. 6, 1808-1818.
【非特許文献5】KORDOWER, J.H., EMBORG, M.E., BLOCH, J., MA, S.Y., CHU, Y., LEVENTHAL, L., MCBRIDE, J., CHEN, E.-Y., PALFI, S., ROITBERG, B.Z., BROWN, W.D., HOLDEN, J.E., PYZALSKI, R., TAYLOR, M.D., CARVEY, P., LING, Z., TRONO, D., HANTRAYE, P., DÉGLON, N., and AEBISCHER, P. (2000). Neurodegeneration prevented by lentiviral vector delivery of GDNF in primate models of Parkinson’s disease. Science 290, 767-773.
【非特許文献6】MARR, R.A., ROCKENSTEIN, E., MUKHERJEE, A., KINDY, M.S., HERSH, L.B., GAGE, F.H., VERMA, I.M., and MASLIAH, E. (2003). Neprilysin gene transfer reduces human amyloid pathology in transgenic mice. J. Neurosci. 23, 1992-1996.
【非特許文献7】ROSENBLAD, C., GEORGIEVSKA, B., and KIRIK, D. (2003). Long-term striatal overexpression of GDNF selectively downregulates tyrosine hydroxylase in the intact nigrostriatal dopamine system. Eur. J. Neurosci. 17, 260-270.
【非特許文献8】LO BIANCO, C., SCHNEIDER, B.L., BAUER, M., SAJADI, A., BRICE, A., IWATSUBO, T., and AEBISCHER, P. (2004). Lentiviral vector delivery of parkin prevents dopaminergic degeneration in an α-synuclein rat model of Parkinson’s disease. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101, 17510-17515.
【非特許文献9】KITAGAWA, R., MIYACHI, S., HANAWA, H., TAKADA, M., and SHIMADA, T. (2007). Differential characteristics of HIV-based versus SIV-based lentiviral vector systems: gene delivery to neurons and axonal transport of expressed gene. Neurosci. Res. 57, 550-558.
【非特許文献10】MAZARAKIS, N. D., AZZOUZ, M., ROHLL, J.B., ELLARD, F.M., WILKES, F.J., OLSEN, A.L., CARTER, E.E., BARBER, R.D., BABAN, D.F., KINGSMAN, S.M., KINGSMAN, A.J., O’MALLEY, K., and MITROPHANOUS, K.A. (2001). Rabies virus glycoprotein pseudotyping of lentiviral vectors enables retrograde axonal transport and access to the nervous system after peripheral delivery. Human Mol. Genet. 10, 2109-2121.
【非特許文献11】AZZOUZ, M., RALPH, G.S., STORKEBAUM, E., WALMSLEY, L.E., MITROPHANOUS, K.A., KINGSMAN, S.M., CARMELIET, P., and MAZARAKIS, N.D. (2004). VEGF delivery with retrogradely transported lentivector prolongs survival in a mouse ALS model. Nature 429, 413-417.
【非特許文献12】DESMARIS, N., BOSCH, A., SALAÜN, C., PETIT, C., PRÉVOST, M.-C., TORDO, N., PERRIN, P., SCHWARTZ, O., DE ROCQUIGNY, H., and HEARD, J.M. (2001). Production and neurotropism of lentivirus vectors pseudotyped with lyssavirus envelope glycoproteins. Mol. Ther. 4, 149-156.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のRV-G/HIV-1ベクターは高い逆行性輸送能を持つ非常に優れた系であるが、生産効率が低く、高力価のベクターストックを必要とする生体内への遺伝子導入実験には不向きな場合がある。
従って、本発明の目的は、霊長類の哺乳動物を含む動物の脳内においてより高い効率の逆行性輸送能を保持し、且つ、より高い力価(機能的力価)を持つレンチウィルスベクター系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、N末側に狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)及びC末側に水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G)を含む融合ポリペプチドをエンベロープとしてレンチウィルスベクターをシュードタイプ化することによって、RV-G/HIV-1ベクターと同様又はそれ以上の脳内における高頻度な逆行性輸送能が発揮される一方で、細胞導入効率(機能的力価)が顕著に向上することを見出し、本発明を完成させた。
その一例として、狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)の細胞外ドメイン、狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)又は水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G) の膜貫通ドメイン、及び、水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G)の細胞内ドメインを含む融合ポリペプチドを挙げることが出来る。
【0012】
即ち、本発明は以下の態様に係るものである。
[態様1]
(1)HIV-1のgag 及びpol遺伝子を含むパッケージングプラスミド;
(2)HIV-1のアクセサリー遺伝子を含むパッケージングプラスミド;
(3)目的遺伝子(導入遺伝子)を含むトランスファープラスミド;及び
(4)エンベロープ遺伝子として、狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)の細胞外ドメイン、狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)又は水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G) の膜貫通ドメイン、及び、水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G)の細胞内ドメインを含む融合ポリペプチドをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミド、を含む逆行輸送性ウィルスベクター調製用キット。
[態様2]
本発明のウィルスベクター調製用キット、及び、宿主細胞を含む、プロデューサー細胞作成用キット。
[態様3]
本発明のウィルスベクター調製用キットに含まれる、パッケージングプラスミド、トランスファープラスミド、及び、エンベローププラスミドを感染細胞にコトランスフェクションさせることから成る、プロデューサー細胞の作製方法。
[態様4]
本発明の作製方法で得られたプロデューサー細胞。
[態様5]
本発明のプロデューサー細胞を培養し、培養上清からウィルス粒子を回収することからなる、ウィルスベクターの製造方法。
[態様6]
本発明のウィルスベクター製造の方法によって製造された、逆行性輸送能を有するウィルスベクター。
[態様7]
本発明のウィルスベクターを動物の神経終末部に感染させ、該ウィルスベクターが該神経の軸索を逆行性に輸送されることにより脳内の標的領域にある該神経の細胞体に導入し、目的とする遺伝子を該細胞体内で発現させることから成る、遺伝子導入方法。
[態様8]
本発明のウィルスベクターを活性成分として含有する、遺伝子治療剤。
[態様9]
本発明の方法で導入された目的遺伝子が標的領域における細胞の染色体に組み込まれ発現することを含む、脳疾患の遺伝子治療方法。
[態様10]狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)の細胞外ドメイン、狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)又は水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G) の膜貫通ドメイン、及び、水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G)の細胞内ドメインから成る、レンチウィルスベクターのシュードタイプ化用のエンベロープ。
[態様11]態様10記載の融合ポリペプチドから成るエンベロープをコードする遺伝子。
[態様12]態様11記載の融合ポリペプチドから成るエンベロープをコードする遺伝子を含むエンベローププラスミド。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、マウス等の哺乳動物を含む動物において、神経終末(シナプス終末)の存在する脳領域に導入目的の特定の遺伝子を持つ組換え体ウィルスベクターを注入し、このウィルスベクターが軸索を逆行性に輸送されることによって、ウィルスベクターの感染(注入)部位から遠く離れた位置にある中枢神経系の細胞体の領域に該目的遺伝子(導入遺伝子)を効率良く導入して発現させられることがインビボで実証された。特に、特定のパッケージングプラスミド、トランスファープラスミド及びエンベロープ遺伝子を用いるウィルスベクター調製用キットを使用することによって、予想以上に高いウィルス力価を有するウィルスベクターを得ることが可能となり、脳内において高頻度な逆行性輸送能を発揮する組換え体ウィルスベクターの作製が非常に有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】高頻度な逆行性輸送を示すHIV-1 pseudotypeベクターの概要を模式的に示す。
【図2】本発明の別の融合ポリペプチドの構造とベクター力価を示す。(A) FuG-A及び FuG-Bの構造。FuG-AはRV-Gの細胞外ドメインとVSV-Gの膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインから構成される。一方、FuG-BはRV-Gの細胞外ドメイン及び膜貫通ドメインとVSV-Gの細胞内ドメインから構成される。S,シグナルペプチド;TM,膜貫通ドメイン。(B) FACSにより測定した機能的力価。(C)ウイルス溶液からRNAを抽出し、逆転写—PCR法を用いて測定したRNA力価。数値は4回の実験の平均値である。*P < 0.001 (Student t-test)
【図3】線条体に投射する脳領域における導入遺伝子の発現を示す。(A) 注入部位の座標。(B) 線条体における導入遺伝子の発現。(C) FuG-Bベクター(1.2 X 1010 copies/ml)を線条体に注入した動物における逆行性輸送を介する導入遺伝子の発現。一次運動皮質(M1)、一次体性感覚皮質(S1)、視床束傍核 (PF)、黒質緻密部 (SNc) において多数の免疫陽性細胞が観察された。(D) RV-Gベクター 及びFuG-Aベクター (上記と同様のRNA力価を持つ) を線条体内に注入した動物における逆行性輸送による導入遺伝子の発現。拡大像のみ示す。スケールバー:500 μm。
【図4】ベクター力価に相関した逆行性遺伝子発現レベルの変化を示す。種々の力価 (3.0 X 108 - 2.4 X 109 TU/ml) のFuG-Bベクターを線条体内に注入し、一次運動皮質(M1)、一次体性感覚皮質(S1)、視床束傍核 (PF)、黒質緻密部 (SNc) の切片について抗GFP抗体を用いて免疫染色を行った。それぞれの脳領域において導入遺伝子を発現する細胞数をカウントした。個々の動物から数枚の切片を作製し、それぞれの脳領域における陽性細胞数を計測し、平均値を算出した。図の値は、4匹の個体から得られた数値の平均標準誤差を示す。ANOVA, *P < 0.05, **P < 0.01 (Tukey-HSD test).
【図5】側坐核に投射する脳領域における導入遺伝子の発現を示す。FuG-Bベクター(3 X 108 TU/ml)を側坐核内に注入した動物より脳切片を作製し、抗GFP抗体による免疫染色を行った。(A) 注入部位の座標。(B) 側坐核における導入遺伝子の発現。(C) 逆行性輸送を介する導入遺伝子の発現。梨状皮質 (Pir)、鉤状回 (Sub)、扁桃体基底外側核 (BLA)、室傍核前部 (PVA)、視床背内側核 (MN)、外側視床下部 (LH)において免疫陽性細胞が観察された。ac(前交連)、D3V(第三脳室)、LV(側脳室)。スケールバー:500 μm
【図6】筋肉内注入による運動ニューロンへの遺伝子導入の結果を示す。FuG-Bベクター(2.4 X 109 TU/ml) を舌筋あるいは後肢の筋肉内に注入した動物より後脳および脊髄(腰部)の切片を作製し、抗GFP抗体による免疫染色を行った。(A) 後脳舌下神経核および脊髄腹側における導入遺伝子の発現。(B) 切片の二重染色。GFP(緑)の発現はChAT(赤)の発現に重複する。スケールバー:200 μm(A)、50 μm(B)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施する形態について詳細に説明する。本発明のウィルスベクター調製用キットにおいて、「gag」はレトロウィルスのコア蛋白質をコードする遺伝子であり、「pol」は逆転写酵素等をコードする遺伝子である。又、「エンベロープ遺伝子」は、脂質二重膜からなるレトロウィルスの外皮膜であるエンベロープに存在するウィルス特異的な蛋白質であるエンベロープをコードする遺伝子である。エンベロープはウィルスが細胞に吸着し侵入するための重要な役割を担っている。更に、「アクセサリー遺伝子」とは、例えば、構造遺伝子の発現を調節するrev遺伝子等を意味する。

【0016】
本発明のウィルスベクター調製用キットの好適代表例においては、(1)HIV-1のgag 及びpol遺伝子を含むパッケージングプラスミド及び(2)HIV-1のアクセサリー遺伝子を含むパッケージングプラスミドとして、夫々、「pCAGkGP1.1R」及び「pCAG4-RTR2」を使用し、更に、トランスファープラスミドとして、「pCL20c-MSCV-X(ここで、「X」は目的遺伝子を示す)」を使用することを特徴とする。該トランスファープラスミドはマウス幹細胞ウィルスプロモーターの下流に導入の対象である目的遺伝子「X」がコードされている。

【0017】
上記のウィルスベクター調製用キットに含まれる各プラスミドは、St. Jude Children’s Research Hospital のArthur Nienhuis博士によって開発されたHIV-1ベクター系「SJ1」(HANAWA, H., et al., (2002) Mol. Ther. 5, 242-251; (2004). Blood 103, 4062-4069: St. Jude Children’s Research Hospitalから供与)に基づき構成されている。このベクター系は、HeLa細胞における力価が他のベクター系の約10倍あることが知られている。従って、当業者であれば、本願明細書及び上記文献を参照することによって、これら各プラスミドを容易に作製することができる。尚、上記の(1)及び(2)のパッケージングプラスミドは、一つのプラスミドとして構築されていても良い。

【0018】
本発明ウィルスベクター調製用キットのエンベローププラスミドに含まれるエンベロープ遺伝子は、狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)の細胞外ドメイン、狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)又は水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G) の膜貫通ドメイン、及び、水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G)の細胞内ドメインを含む融合ポリペプチドをコードする。尚、各ドメインの融合境界部分において、一個又は複数個のアミノ酸が削除・挿入・置換等のよって適宜変更させることが可能であり、各ドメインを構成するアミノ酸が全て含まれている必要はない。
このエンベロープ遺伝子の例として、配列番号2に示されたアミノ酸配列から成る融合ポリペプチド(FuG-B)をコードするエンベロープ遺伝子、好ましくは、配列番号1に示された塩基配列(配列番号1において、5’側の1,440個(開始コドン含む)の塩基がRV-G由来であり、3’側の87個の塩基がVSV-G由来である)を有する核酸分子を挙げることが出来る。更に、このエンベロープ遺伝子の別の例として、配列番号6に示されたアミノ酸配列から成る融合ポリペプチド(FuG-A)をコードするエンベロープ遺伝子、好ましくは、配列番号5に示された塩基配列(配列番号5において、5’側の1374個(開始コドン含む)の塩基がRV-G由来であり、3’側の147個の塩基がVSV-G由来である)を有する核酸分子を挙げることが出来る。当該塩基配列は、コドン縮重を考慮して、エンベローププラスミド内の他の要素に合わせて適宜最適コドンと成るように塩基を変更することが可能である。尚、狂犬病ウィルスの糖タンパク質(RV-G)のアミノ酸配列及びそれをコードする塩基配列の例を配列番号4及び3で示す。

【0019】
このように、上記の融合ポリペプチドは、各種のレンチウィルスベクター、特に、HIV-1レンチウィルスベクターのシュードタイプ化用のエンベロープとして有効である。従って、本発明は、該融合ポリペプチドから成るレンチウィルスベクターのシュードタイプ化用のエンベロープ、該融合ポリペプチドから成るエンベロープをコードする遺伝子、及び、該遺伝子を含むエンベローププラスミドそれ自体にも係る。

【0020】
本発明のウィルスベクター調製用キットに含まれる各プラスミドにおいて、夫々の遺伝子は、当業者に公知の任意の発現調節配列の発現制御下に結合されている。
「発現制御下」とは、所定のアミノ酸配列をコードしたDNAが、所定の条件下で、そのアミノ酸配列を有するタンパク質を発現させる能力を有するという意味である。所定のアミノ酸配列をコードしたDNAが発現調節配列の発現制御下に結合されていると、そのDNAは、所定の条件下で、所定のタンパク質を発現するということになる。ここで、「発現調節配列」とは、他の核酸配列の発現を調節する核酸配列のことを意味しており、他の核酸配列の転写、及び、好ましくは翻訳をも制御及び調節する。発現調節配列には、適当なプロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、タンパク質をコードする遺伝子における開始コドン(すなわちATG)、イントロンのためのスプライシングシグナル、ポリアデニル化部位、及びストップコドンが含まれる。

【0021】
「プロモーター」とは、転写を行うために必要最小限な配列のことを意味している。プロモーターには、細胞タイプ特異的、組織特異的、又は外部からの信号や調節剤によってプロモーター依存的に遺伝子の発現を制御するプロモーター要素も含まれる。プロモーター要素は、発現されるDNAの5'領域、又は3'領域のいずれかに結合される。また、プロモーターには、構成的なもの、又は誘導的なもののいずれも含まれる。プロモーターは、使用する目的遺伝子及びウィルスベクターの種類、治療対象となる動物及び脳疾患の種類、及び、患者の病態等に応じて、当業者に公知のものを適宜、選択することが出来る。

【0022】
例えば、本発明におけるエンベローププラスミドにおいては、エンベロープ遺伝子はサイトメガロウィルスエンハンサー及びトリβアクチンプロモーターの制御下で発現するように結合されていることが好ましい。このようなエンベローププラスミドは、常法に従い、上記のベクター系「SJ1」に含まれるエンベローププラスミド「pCAGGS-VSV-G」において、水泡性口内炎ウィルスの糖タンパク質 (VSV-G)の細胞外ドメイン及び膜貫通ドメインをコードする塩基配列を、乳飲みマウスの脳にて感染継代された狂犬病ウィルスCVS株の糖タンパク質(RV-G)(国立感染症研究所の森本金次郎先生から供与)をコードする核酸(cDNA)(Morimoto, K. et al., (1998) Proc Natl. Acad. Sci., USA 95, 3152-3156::配列番号3)における細胞外ドメイン及び膜貫通ドメインをコードする塩基配列と置換して得ることが出来る。従って、当業者であれば、本願明細書及び上記文献を参照することによって、これら上記プラスミドを容易に作製することができる。尚、狂犬病ウィルスCVS株の糖タンパク質(RV-G)は上記の配列番号3に示される塩基配列を有するものに限らず、その他の公知の狂犬病ウィルスの任意の株由来の糖タンパク質(RV-G)を利用することが出来る。

【0023】
トランスファープラスミドに含まれる目的遺伝子は、ウィルスベクターの使用目的、治療対象となる動物及び脳疾患の種類、及び、患者の病態等に応じて、当業者に公知のものを適宜、選択することが出来る。従って、マウス、サル、ヒト等の哺乳動物の各種遺伝子、例えば、パーキンソン病に代表される脳神経疾患又は神経変性疾患等の治療に使用される、黒質線条体系の生存又は保護に必要な遺伝子(例えば、チロシンヒドロキシラーゼ、グリア細胞株由来神経栄養因子)、又は、脳神経系の研究用としてインターロイキン2受容体αサブユニット(組み換え体イムノトキシンの標的分子)、及び光依存性イオンチャネル等の遺伝子を挙げることが出来る。

【0024】
本発明のプロデューサー細胞作製用キットに含まれる宿主細胞としては、上記ウィルスベクター調製用キットによって感染させることができ、その結果、「プロデューサー細胞」と呼ばれるレトロウィルス粒子を産生する細胞を作製できるような細胞であれば、特に制限はなく、当業者に公知の任意の細胞、例えば、HEK293T細胞(SV40 large T antigen が導入されている)等の市販されている適当な動物由来の細胞を使用することができる。

【0025】
本発明の各種キットには、その構成・使用目的などに応じて、上記各プラスミド及び/又は宿主細胞に加えて、例えば、各種試薬類、緩衝液、各種補助剤、反応プレート(容器)等の当業者に公知の他の要素又は成分を適宜含むことができる。

【0026】
本発明のプロデューサー細胞作製用キットを用いて、ウィルスベクター調製用キットに含まれる、パッケージングプラスミド、トランスファープラスミド、及び、エンベローププラスミドを感染細胞にコトランスフェクションさせることによって、プロデューサー細胞を作製することが出来る。このトランスフェクションは一過性であり、リン酸カルシウム法等の当業者に公知に任意の方法で行なうことが可能である。

【0027】
こうして得られたプロデューサー細胞を当業者に公知の任意の方法・手段で培養し、培養上清からウィルス粒子を回収することによって、脳内において逆行性輸送能を有し、高い力価を示すウィルスベクターを製造することが出来る。

【0028】
本発明のウィルスベクターを動物の神経終末部に感染させ、該ウィルスベクターが該神経の軸索を逆行性に輸送されることにより脳内の標的領域にある該神経の細胞体に導入し、目的とする遺伝子を該細胞体内で発現させることができる脳内の標的領域は、例えば、線条体に投射する一次運動皮質、一次体性感覚皮質、視床束傍核、黒質緻密部であり、腹側線条体(側坐核)に投射する梨状皮質、鉤状回、扁桃体基底外側核、室傍核前部、視床背内側核、外側視床下部のような脳中枢領域である。更に、本発明のウィルスベクターは脊髄運動ニューロンの軸索を逆行性に輸送される。

【0029】
従って、本発明のウィルスベクターは遺伝子治療剤の活性成分として有効である。この遺伝子治療剤には、活性成分と組合せて、薬学上許容できる、当業者に公知の任意の医薬キャリア-又は希釈剤等のその他の成分を含むことが出来る。

【0030】
本発明の活性成分の有効量は、ウィルスベクターに含まれる導入遺伝子の種類、脳疾患又は神経変性障害等の種類・重篤度、治療方針、患者の年齢、体重、性別、全般的な健康状態、及び患者の(遺伝的)人種的背景に応じて、当業者が適宜選択することができる。活性成分(ウィルスベクター)の投与量は、例えば、1回の投与当たり、数箇所の感染(注入)部位の総量10~10TU (Transducing Unit)とすることができる。尚、ウィルスベクター又は遺伝子治療剤は、当業者に公知の任意の投与方法・装置を用いて、患者の所定部位へ感染(注入)させることができる。

【0031】
本発明のウィルスベクターを患者に投与することによって、標的領域における所定の細胞に導入された遺伝子は該細胞の染色体に組み込まれ、目的遺伝子が安定的に発現される。従って、この遺伝子導入方法を利用して、ヒト等の霊長類を含む哺乳動物の脳疾患又は神経変性疾患(例えば、パーキンソン病)等の遺伝子治療を実施することが可能である。

【0032】
以下、実施例および試験例により本発明をより詳細に説明する。これらの例は、本発明の一部を示すものであり、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。又、特に記載のない場合には、各操作における実験条件等は本明細書に引用して文献記載の方法に準じて、又は、当該技術分野における標準的な方法に従った。
【実施例1】
【0033】
ウィルスベクターの調製:
本発明のウィルスベクターを、St. Jude Children’s Research Hospital のArthur Nienhuis博士によって開発されたHIV-1ベクター系を利用して調製した。即ち、gag及び pol遺伝子を含むパッケージングプラスミド(pCAGkGP1.1R)、アクセサリー遺伝子を含むパッケージングプラスミド(pCAG4-RTR2)、及び、目的遺伝子として緑色蛍光蛋白質(GFP)を含むトランスファープラスミド(pCL20c-MSCV-GFP)を使用した。エンベローププラスミドとしては、国立感染症研究所の森本金次郎先生から供与されたRV-G遺伝子の細胞外ドメイン及び膜貫通ドメインにVSV-G由来の細胞内ドメインを連結した融合ポリペプチド(FuG-B)であるエンベロープをコードする塩基配列(配列番号1)を含むベクターを常法に従い作製した(図2A下段)。同様にして、RV-G遺伝子の細胞外ドメインにVSV-G由来の膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインを連結した融合ポリペプチド(FuG-A)であるエンベロープをコードする塩基配列(配列番号1)を含むベクター作製した(図2A上段)。
【実施例1】
【0034】
これらのプラスミドを含むウィルスベクター溶液を、HEK293T細胞(10-cm ディッシュ、18枚)へリン酸カルシウム法を用いてトランスフェクションした。48時間培養後、培養上清よりウィルス粒子を回収し、遠心し、これを0.45 μmセルロースフィルターでろ過した。次に、ベクター粒子を遠心分離(10,000 X g、16-18時間)によって回収し、PBSに懸濁した。懸濁液をSepharose Q FFイオン交換カラムクロマログラフィーにかけ、PBSで洗浄後、0-1.5 M NaClの直線勾配により溶出し、分画を260/280 nmの吸光度でモニターした。ベクター粒子を含む分画を集め、限外濾過フィルターを用いて濃縮し、-80℃で保存した。
ウィルス力価を評価するために、HEK293T細胞を6ウェル細胞培養用プレート:MULTIWELL(登録商標) FALCON)に撒き、適当な濃度のウィルス溶液を該培養細胞に感染させ、形質転換3日後にFACS Calibur(Nippon Becton Dickinson Co., Tokyo, Japan)を用いて力価を測定した(図2B)。また、ベクターの生産効率を比較するために、ウィルスゲノムに含まれるRNAの量を逆転写—PCR法を用いて測定した。このRNA力価は両者のベクターで有意な変化はなかった(図2C)。細胞への導入効率を比較するために、機能的力価をRNA力価で割った値を求めたところ、RV-Gベクターは1.7 X 10-3、FuG-Aベクターは、5.0 X 10-3 、FuG-Bベクターは 2.5 X 10-2であった。RV-Gベクターの細胞導入効率に比較して、FuG-Aベクターの導入効率は約2.9倍に、FuG-Bベクターの導入効率は約15倍に増加したことが確認された。この結果、特にFuG-Bをエンベロープとして用いることにより、ベクターの生産効率に影響はしないが、機能性力価を顕著に向上できることが明らかとなった。
【実施例2】
【0035】
ウィルスベクターのマウス脳内への導入:
動物の飼育及び取り扱い操作は福島県立医科大学の動物実験委員会が制定したガイドラインに基づき実施した。
12週齢マウス(C57BL/6J)をペントバルビタールナトリウム(50 mg/kg, i.p.)で麻酔し、上記で作製したベクターを含む溶液(1.2 X 1010 copies/ml)を、マウスの脳内(線条体)に脳定位固定装置を利用して、マウス脳アトラス(PAXINOS, G., and FRANKLIN, K.B.J. (2001). The Mouse Brain in Stereotaxic Coordinates, 2nd edn. (Academic Press, San Diego))に従い、マイクロインジェクションポンプに連結したガラスマイクロインジェクションキャピラリーを介して線条体(striatum)の背部領域(dorsal region)にトラック上2箇所、1箇所あたり 2 μl の溶液を注入した(0.1 μl/min)。これを図3Aに示す。ブレグマ(bregma)からの前後(anteroposterior)、内外側(mediolateral)、及び背腹(dorsoventral)の方向の座標は、夫々、0.50 、2.00及び2.50/3.25(mm)であった。
【実施例2】
【0036】
注入の3週間後、マウスをペントバルビタールナトリウム(50 mg/kg, i.p.)で深く麻酔し、心臓経由で、4%ホルマリン及び0.1 Mリン酸塩緩衝液(PB: pH 7.4)を灌流固定して脳を摘出した。クライオスタットを用いて切片を作製し、免疫染色法を用いて解析した。FuG-Bベクターは、線条体の多数の細胞において導入遺伝子の発現を誘導した(図3B)。また、線条体に投射する脳領域の代表として、一次運動皮質、一次体性感覚皮質、視床束傍核、黒質緻密部において導入遺伝子の発現を免疫染色法により解析した結果、これらの領域において導入遺伝子を発現する多くの神経細胞が観察された(図3C)。RV-Gベクター及びFuG-Aベクターの導入効率と比較するために、同じRNA力価(1.2 X 1010 copies/ml)を持つこれらのベクターを同様に注入し、逆行性遺伝子導入のパターンを解析した(図3D)。一次運動皮質、一次体性感覚皮質、視床束傍核、黒質緻密部には少数の陽性細胞がみつかるのみであった。それぞれの切片の細胞数をカウントし、陽性細胞数を3種類のベクターで比較した(表1)。切片あたりの細胞数が、平均値標準誤差として示されている (n = 4)。*P < 0.001 vs RV-G (ANOVA/Tukey HSD)
【実施例2】
【0037】
【表1】
JP0005123922B2_000002t.gif
【実施例2】
【0038】
表1に示された結果から明らかなように、4種類のすべての脳領域で、FuG-BベクターはRV-Gベクターに比較して明らかな陽性細胞数の増加を示した。FuG-Bベクター増加の比率は、一次運動皮質、一次体性感覚皮質、視床束傍核、黒質緻密部の順で、夫々,12倍、12倍、8倍、及び14倍であった。一方、FuG-AベクターはRV-Gベクターに比較して陽性細胞数の増加傾向を示した。これらの結果から、特に、FuG-Bを用いたシュードタイプ化は逆行性輸送を介した遺伝子導入の効率を顕著に高めることが明らかとなった。
【実施例3】
【0039】
ベクター力価の逆行性遺伝子導入効率への影響を解析するために、実施例2と同様にして、種々の力価のFuG-Bベクター (3.0 X 108 - 2.4 X 109 TU/ml) を線条体に注入し、一次運動皮質(M1)、一次体性感覚皮質(S1)、視床束傍核 (PF)、黒質緻密部 (SNc)において導入遺伝子の発現を抗GFP抗体を用いて免疫染色法により解析した。それぞれの脳領域における陽性細胞数をカウントした(図4)結果、4種類の脳領域において、ベクター力価の上昇にしたがって、陽性細胞数の数も有意に増加した。これらの結果は、逆行性遺伝子導入効率はベクター力価に依存することが示された。
【実施例4】
【0040】
別の脳領域での遺伝子発現パターンを解析するために、腹側の線条体(側坐核)へFuG-Bベクター(3 X 108 TU/ml)を注入した(図5A)。FuG-Bベクターは、側坐核の多数の細胞において導入遺伝子の発現を誘導した(図5B)。また、側坐核に投射する梨状皮質 (Pir)、鉤状回 (Sub)、扁桃体基底外側核 (BLA)、室傍核前部 (PVA)、視床背内側核 (MN)、外側視床下部 (LH)において免疫陽性細胞が観察され、導入遺伝子の発現が検出された(図5C)。以上の結果から、FuG-Bベクターは脳内のさまざまな領域において高頻度な逆行性輸送を可能とすることが明らかとなった。
【実施例4】
【0041】
更に、筋肉内注入を介して後脳や脊髄の運動ニューロンへの遺伝子導入の可能性について検討した。FuG-Bベクター(2.4 X 109 TU/ml)を舌筋内あるいは後肢筋肉内へ注入した後、後脳の舌下神経核および脊髄(腰部)腹側において導入遺伝子の発現が観察された(図6A)。運動ニューロンのマーカーであるコリンアセチル転移酵素 (choline acetyltransferase, ChAT) に対する抗体と抗GFP抗体との二重染色の結果から、脊髄腹側での陽性細胞は運動ニューロンであることを確認した(図6B)。これらの結果から、FuG-Bベクターは中枢神経系のさまざまな領域において効率よく逆行性輸送されることが明らかとなった。
【実施例4】
【0042】
組織学的操作
アビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ法による免疫染色用に、クライオスタットを用いて横断切片(マウス用:厚さ30 μm)を調製し、ウサギ抗GFPポリクローナル抗体(Molecular Probes, Eugene, OR:1:2,000 希釈)でインキュベートし、更に、ビオチニル化ヤギ抗ウサギIgG抗体(Vector Laboratories, Burlingame, CA:1:1,000希釈)とインキュベートした。免疫反応シグナルはVectastain Elite ABC キット(Vector Laboratories, Burlingame, CA)で視覚化した。
【実施例4】
【0043】
二重免疫蛍光組織化学染色用に、切片を上記ウサギ抗GFPポリクローナル抗体、及び、抗コリンアセチル転移酵素マウス抗体(Chemicon, Temecula, CA: 1:100 希釈)のいずれか一つとインキュベートした。次に、切片をFITC結合ヤギ抗ウサギIgG及びCy3-結合ロバ抗マウス抗体(1:500 希釈、Jackson, ImmunoResearch Laboratories, West Groove, PA)とインキュベートした。蛍光画像は、FITC及びCy3蛍光チャンネル用の適当なフィルターキューブ仕様を備えた共焦点レーザースキャニング顕微鏡(LSM510, Zeiss, Thornwood, NY)下で捉えた。これら蛍光画像はZeiss Axiovision ソフトウェアパッケージにより調節された高級CCDカメラシステムで撮影した。
【実施例4】
【0044】
細胞計数
前脳及び中脳を通る一連の切片を使用して、上記のアビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ法による免疫染色を実施した。各脳領域における免疫染色された細胞の数はコンピュータ操作による画像プログラム(NIH Image 1.62, National Institutes of Health, Bethesda, MD)で計測した。ベクター注入部位における線条体細胞の同定の為に、代表的な切片を用いて二重免疫蛍光組織化学染色を行った。各動物において、対象領域内の免疫染色細胞数を画像プログラムにより計測した。各動物からの8~10個の切片を使用して計測し、切片辺りの平均を計算した。
【実施例4】
【0045】
本明細書中に引用される文献に記載された内容は、本明細書の一部として本明細書の開示内容を構成するものである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によって、動物の脳内において高頻度な逆行性輸送を示すレンチウィルスベクターを高収率に作製することが可能となった。このレンチウィルスベクターは、神経終末の存在する脳領域に注入することによって、このベクターを逆行性に輸送させ、細胞体の領域に目的の遺伝子を導入することが可能となる。従って、本発明はパーキンソン病等の脳神経疾患の遺伝子治療のために有効な技術を提供する。
更に、本発明は、脳神経疾患の遺伝子治療のための新規で且つ有効な実験技術、及び、病態モデルの作製のための技術を提供するものである。
図面
【図4】
0
【図1】
1
【図2】
2
【図3】
3
【図5】
4
【図6】
5