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明細書 :紫外近接場光学顕微鏡および先端増強ラマン分光顕微鏡法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5246667号 (P5246667)
公開番号 特開2010-286397 (P2010-286397A)
登録日 平成25年4月19日(2013.4.19)
発行日 平成25年7月24日(2013.7.24)
公開日 平成22年12月24日(2010.12.24)
発明の名称または考案の名称 紫外近接場光学顕微鏡および先端増強ラマン分光顕微鏡法
国際特許分類 G01Q  60/18        (2010.01)
FI G01Q 60/18
請求項の数または発明の数 12
全頁数 11
出願番号 特願2009-141244 (P2009-141244)
出願日 平成21年6月12日(2009.6.12)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 発行所 独立行政法人理化学研究所 刊行物名 エクストリームフォトニクスシンポジウム「光で繋ぐ理研の基礎科学」講演要旨 発行日 平成21年5月20日[刊行物等] ホームページのアドレス http://www3.interscience.wiley.com/cgi-bin/fulltext/122328612/PDFSTART 公開者 田口敦清、早澤紀彦、古澤健太郎、石飛秀和、河田聡 公開のタイトル John Wiley & Sons,Ltd.,Journal of Raman Spectrosco
審査請求日 平成24年6月8日(2012.6.8)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】田口 敦清
【氏名】早澤 紀彦
【氏名】河田 聡
個別代理人の代理人 【識別番号】100100549、【弁理士】、【氏名又は名称】川口 嘉之
【識別番号】100106622、【弁理士】、【氏名又は名称】和久田 純一
【識別番号】100089244、【弁理士】、【氏名又は名称】遠山 勉
審査官 【審査官】谷垣 圭二
参考文献・文献 特開2006-052965(JP,A)
特開2006-071448(JP,A)
特開2004-279359(JP,A)
特開平10-132831(JP,A)
特開2007-012223(JP,A)
調査した分野 G01Q 10/00-90/00
特許請求の範囲 【請求項1】
試料にレーザー光を集光させてラマン散乱光を発生させるラマン散乱光発生手段と、
前記試料に近接または接触させて前記ラマン散乱光を増強し散乱させる、先端が尖鋭なプローブと、
前記プローブによって散乱された散乱光からラマンスペクトルを検出する検出手段と、
を備え、
前記レーザー光の波長は140nm~300nmであり、
前記プローブの材料は、前記レーザー光の波長において誘電率が-2以下の金属である
ことを特徴とする紫外近接場光学顕微鏡。
【請求項2】
前記プローブの材料は、アルミニウムまたはロジウムであることを特徴とする請求項1に記載の紫外近接場光学顕微鏡。
【請求項3】
前記プローブは、表面に、前記レーザー光の波長において誘電率が-2以下の金属の薄膜を有することを特徴とする請求項1に記載の紫外近接場光学顕微鏡。
【請求項4】
前記薄膜の材料は、アルミニウムまたはロジウムであることを特徴とする請求項3に記載の紫外近接場光学顕微鏡。
【請求項5】
前記薄膜部の材料はアルミニウムであって、膜厚は10nm~30nmであることを特徴とする請求項3に記載の紫外近接場光学顕微鏡。
【請求項6】
前記薄膜部の材料はアルミニウムであって、直径10nm~20nmの大きさの粒状構造を有することを特徴とする請求項3に記載の紫外近接場光学顕微鏡。
【請求項7】
前記プローブのコーンアングルは30度以下であることを特徴とする請求項3~6のいずれかに記載の紫外近接場光学顕微鏡。
【請求項8】
140nm~300nmの波長領域に電子吸収スペクトルを有する試料を対象とする先端増強ラマン分光顕微鏡法であって、
前記試料の電子吸収スペクトルと重なる波長のレーザー光を前記試料に集光させてラマン散乱光を発生させるステップと、
先端が先鋭なプローブを前記試料に近接または接触させて前記ラマン散乱光を増強し散乱させるステップと、
を有し、
前記プローブとして、140nm~300nmの波長範囲において誘電率が-2以下の金属を材料とするプローブを用いる、
ことを特徴とする先端増強ラマン分光顕微鏡法。
【請求項9】
前記プローブとして、アルミニウムまたはロジウムにより作成したプローブ、もしくは表面にアルミニウムまたはロジウムの薄膜部が設けられたプローブを用いる、
請求項8に記載の先端増強ラマン分光顕微鏡法。
【請求項10】
前記プローブとして、膜厚が10nm~30nmのアルミニウムの薄膜部が表面に設けられたプローブを用いる、
請求項8記載の先端増強ラマン分光顕微鏡法。
【請求項11】
前記プローブとして、直径10nm~20nmの大きさの粒状構造を有するアルミニウムの薄膜部が表面に設けられたプローブを用いる、
請求項8に記載の先端増強ラマン分光顕微鏡法。
【請求項12】
前記プローブとして、コーンアングルが30度以下のプローブを用いる、
請求項8~11のいずれかに記載の先端増強ラマン分光顕微鏡法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外領域で利用可能な散乱型近接場光学顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
近接場光学顕微鏡は、光の回折限界に束縛されず、高い空間分解能を達成できる走査光学顕微鏡である。1980年代には、直径数10nm~数100nmの微小開口を光ファイバー先端に形成し、ファイバーに光を導入した際に微小開口部に染み出す近接場光(エバネッセント光)を光源に用いてサンプル上を二次元走査し、画像を構成する。このような近接場光学顕微鏡は、今日では開口型近接場光学顕微鏡と呼ばれている。しかし、分解能を高くするためにファイバー先端の開口径を極小化すると、開口から染み出す近接場光の強度が急激に低下し、画像化が困難になるという原理的な問題がある。このため、開口型近接場光学顕微鏡で達成できる空間分解能は実質的に数100nmにとどまっている。
【0003】
その後1994年に、試料近傍に発生した近接場光を、先端径を数10nmまで尖鋭化したプローブ先端で散乱させ、その散乱光を測定しながらプローブをサンプル上で二次元走査して画像を構成する、新しいタイプの近接場光学顕微鏡が考案された。このような近接場光学顕微鏡は、散乱型近接場光学顕微鏡、あるいは、無開口型近接場光学顕微鏡と呼ばれる。この散乱型近接場光学顕微鏡では、プローブ先端に微小開口を形成する必要がない。そのため,プローブ先端はいくらでも尖鋭化でき、プローブ先端を尖鋭化するほど空間分解能が向上するため、開口型近接場光学顕微鏡が持つ分解能と光量のジレンマから解放され、空間分解能が飛躍的に向上した。
【0004】
散乱型近接場光学顕微鏡に用いられるプローブの材質には、金や銀と入った貴金属材料が用いられる。先端径を数nmまで尖鋭化した金属プローブの先端に光が作用すると、プローブ先端に局在表面プラズモン(金属中の自由電子の集団的振動)が励起され、プローブ先端に強く増強された局在電場が生じる。その結果、近接場光は、1,000倍~100,000倍程度に増強され、その増強された近接場光がプローブによって散乱されて検出器に届くため、微弱な近接場光を高感度に検出できる。金属プローブを用いた散乱型近接場光学顕微鏡をラマン分光に応用した先端増強ラマン分光顕微鏡(TERS顕微鏡。TERS: Tip-Enhanced
Raman Spectroscopy)では、カーボンナノチューブやDNAネットワークのナノスケー
ル分析やイメージングが実現し、大きな注目を集めている。
【0005】
先端増強ラマン分光顕微鏡では、金属プローブ先端に生じる局在表面プラズモン共鳴が、本来は微弱なラマン散乱光を強く増強する。しかし、より小さなサンプルをより高速に分析するためには、ラマン散乱信号をさらに強くする必要がある。そのためには、共鳴ラマン散乱法が有効である。共鳴ラマン散乱は、試料分子の電子吸収と重なる波長の光で試料のラマン散乱を励起すると、その発色団の振動によるラマン散乱光強度が著しく増大する現象である。生体分子あるいはその複合系を研究する上で、そこに分布するそれぞれの物質の共鳴ラマンスペクトルを選択的に高感度に得ることができ、同定や分布調査、分子構造や環境の解析などを非破壊で行うことが可能である。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開平9-281122号公報
【特許文献2】特開2006-71448号公報
【0007】

【非特許文献1】Boon-Siang Yeo, et al., ” Tip-Enhanced Raman Spectroscopy Can See More: The Case of Cytochrome c”, J. Phys. Chem. C 2008, 112, 4867-4873
【非特許文献2】Yuika Saito, Masashi Motohashi, Norihiko Hayazawa, Masato Iyoki, and Satoshi Kawata, "Nanoscale characterization of strained silicon by tip-enhanced Raman spectroscope in reflection mode", Appl. Phys. Lett. 88, 143109, 2006.
【非特許文献3】Taro Ichimura, Norihiko Hayazawa, Mamoru Hashimoto, Yasushi Inouye, and Satoshi Kawata, "Tip-Enhanced Coherent Anti-Stokes Raman Scattering for Vibrational Nanoimaging", Phys, Rev. Lett., 92, 220801, 2004.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の共鳴ラマン散乱による高感度な解析手法と、近接場光学顕微鏡のナノスケール空間分解能を組み合わせれば、散乱光をさらに増強しつつ高分解能なイメージングを行うことが可能となり、共鳴効果による物質選択性とも相まって、バイオ・高分子(特に蛋白質や核酸)のナノイメージングや材料科学研究の分野で有用な分析手法になると考えられる。なお、生体分子の多くは紫外域に電子吸収スペクトルを有する。
【0009】
ところで、プローブ先端で局在プラズモンが励起されるためには、励起光は金属材料のプラズマ振動数よりも低い振動数を用いる必要がある。そのため、金や銀のプローブを用いる場合には、励起光の波長は可視光や近赤外光である必要があり、その結果、散乱型近接場光学顕微鏡の動作波長帯域はこれまで可視光から近赤外光までに限られていた。
【0010】
このように従来の近接場光学顕微鏡の使用できる波長域が可視領域に限られているため、紫外領域に吸収を持つ大部分の物質については,共鳴ラマン散乱を先端増強ラマン分光分析に適用することができなかった。なお、可視域における共鳴ラマン散乱と先端増強ラマン分光分析を組み合わせた測定は非特許文献1に報告がある。
【0011】
そこで、本発明は、近接場光学顕微鏡を紫外領域にも適用可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る紫外近接場光学顕微鏡は、励起レーザーとして波長140nm~300nmの紫外・深紫外レーザーを用い、レーザー光の波長において誘電率が-2以下の金属をプローブに用いることを特徴とする。


【0013】
より具体的には、本発明に係る紫外近接場光学顕微鏡は、試料にレーザー光を集光させ
てラマン散乱光を発生させるラマン散乱光発生手段と、前記試料に近接または接触させて前記ラマン散乱光を増強し散乱させる、先端が尖鋭なプローブと、前記プローブによって散乱された散乱光からラマンスペクトルを検出する検出手段と、を備え、前記レーザー光の波長は140nm~300nmであり、前記プローブの材料は前記レーザー光の波長において誘電率が-2以下の金属である、ことを特徴とする。

【0014】
局在プラズモン共鳴が生じるためには、プローブ材質の誘電率が-2以下である必要がある。このような金属材料として、アルミニウムやロジウムを挙げることができる。アルミニウムは波長140nm以上、ロジウムは波長200nm以上に誘電率が-2以下のプラズモン共鳴領域がある。したがって、これらの材料をプローブに用いれば、紫外・深紫外領域の局在プラズモンを生じさせることが可能となる。
【0015】
本発明におけるプローブは、その全体を上記の材料で作成しても良いし、プローブの表
面を上記材料で被膜しても良い。たとえば、シリコン製プローブの表面に、真空蒸着などの方法によりアルミニウムの薄膜部を設けた構造とすることができる。シリコンは、加工性に優れ、尖鋭な形状を再現性良く形成できるため、プローブ本体の材料として好適である。
【0016】
上記のアルミニウムの薄膜部は、その膜厚を10nm~30nmとすることが好ましい。また、上記薄膜部のアルミニウムが、直径10nm~20nmの大きさの粒状構造(粒径測定は顕微鏡法による)を有することが好ましい。また、プローブのコーンアングルは鋭角である方が強い増強が得られ、30度以下にすることが好ましい。このような条件を採用することにより、ラマン散乱光の増強度が大きくなることが判明した。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、近接場光学顕微鏡を紫外領域にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】各種材料の誘電率を示す図。
【図2】アルミニウムと銀ロッドの先端増強の比較(FDTD計算)。
【図3】クリスタルバイオレットの表面増強ラマン散乱スペクトル(A:アルミニウム薄膜10nm、B:アルミニウム薄膜20nm、C:石英基板のみ、D:銀薄膜20nm)。
【図4】アルミニウム薄膜表面のトポグラフィーを示す図(A:膜厚5nm、B:膜厚10nm、C:膜厚20nm)。
【図5】本発明の実施例に係るアルミニウムプローブ先端のSEM画像。
【図6】本発明の実施例に係る紫外近接場光学顕微鏡の概観図。
【図7】本発明の実施例に係る紫外近接場光学顕微鏡を用いて、アデニンナノ結晶のラマン散乱光強度を測定した結果(A:プローブ有り、B:プローブ無し)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〈紫外増強プローブの材料比較〉
まず、紫外領域の波長で用いるために必要なプローブの材料を検討した。いくつかの材料の誘電率を図1に示す。局在プラズモン共鳴が生じるためには、金属の誘電率εが-2以下である必要がある。従来からプローブ材料として用いられてきた金では波長500nm以上、銀では波長350nm以上がその条件を満たすが、いずれも可視・近赤外領域である。

【0020】
一方、アルミニウムでは140nm以上、ロジウムでは波長200nm以上に、誘電率が-2以下のプラズモン共鳴領域がある。したがって、これらの材料を近接場プローブの材料に用いれば、紫外・深紫外領域での局在プラズモン共鳴を生じさせることが可能である。

【0021】
〈プローブ先端の電場増強〉
次に、プローブの先端形状を変化させた場合の電場増強度を、アルミニウムと銀とで比較した。図2は、先端の直径10nm、長さ10nm、20nm、30nmのロッド先端の電場増強度を、アルミニウムと銀とで比較した結果である。この結果は、有限差分時間領域法(FDTD: Finite-Difference Time-Domain)により計算したものである。

【0022】
図から分かるように、銀ロッドのプラズモン共鳴が波長350nmから600nmの可視領域に現れるのに対して、アルミロッドの共鳴は100nmから300nmの紫外に現れることが分かる。このように、銀の代わりにアルミニウムを用いることで、紫外における電場増強効果を得ることができる。

【0023】
また、ロッド先端の長さを変化させると、紫外領域で局在プラズモン共鳴のピーク波長が変化する。このことから、プローブ先端のアルミの構造(形状)を精密に制御することにより、紫外領域における共鳴波長をコントロールできることも分かる。

【0024】
〈予備実験:表面増強ラマン散乱〉
アルミニウムが紫外プラズモニック材料として使えることを予備的に検討するために、表面増強ラマン散乱(SERS: Surface-Enhance Raman Scattering)実験を行った。SERSは先端増強ラマン散乱(TERS)と同様に、金属の局在プラズモン共鳴による増強電場を用いて分子のラマン散乱を増強させるが、探針ではなく金属薄膜を用いる点が異なる。

【0025】
石英(SiO2)基板の上に、アルミニウムを真空蒸着法により作成した。波長180nmから赤外までを透過域とする厚さ0.17mmの石英(SiO2)のスライドガラスを基板として用いた。蒸着速度は5Å/sとし、蒸着時間を100秒から400秒の間で変化させた。得られたアルミニウム膜の厚さは5nm~20nmであった。

【0026】
アルミニウム膜厚5nm、10nm、20nmの基板上に、濃度30μMのクリスタルバイオレット水溶液の上に滴下し、試料として用いた。波長266nmのレーザー光を励起光に用い、対物レンズ(NA0.25)を用いて、アルミニウム薄膜とクリスタルバイオレットとの界面に励起光を集光した。励起光強度は350μW、露光時間300秒で測定を行った。測定したラマンスペクトルの結果を、図3に示す。なお、アルミ膜厚5nmでは著しい表面増強効果が認められなかったので、結果を図示していない。また、比較のために、石英基板のみの場合、および、石英基板に銀を膜厚20nmで設けた場合をあわせて図示した。

【0027】
アルミニウム薄膜を設けずに石英基板の上に直接クリスタルバイオレットを滴下したラマン強度(図3C)に比べて、アルミがある場合(図3A,B)のラマン強度が強くなった。このことから、アルミ薄膜が実際に紫外励起のラマン散乱光を増強する効果を有していることが明らかとなった。また、アルミがある場合にピーク波数のシフトが発生していない。これはアルミニウム表面の自然酸化膜がサンプル-金属間の化学的相互作用を防止するためである。したがって、アルミニウム薄膜を用いてラマン散乱光の増強を行っても、サンプル評価・分析における定量性は損なわれないといえる。なお、厚さ20nmの銀の薄膜では、紫外領域でのラマン増強効果に使えないことが確認された(図3D)。最大の増強度は、厚さ10nmのアルミニウム薄膜を用いたときに得られた。

【0028】
図4に、原子間力顕微鏡(AFM: Atomic Force Microscopy)によって得た、5nm、10nm、20nmの厚さのアルミニウム薄膜の表面のトポグラフィーを示す。膜厚5nmの場合の表面は比較的滑らかでありPV(Peak-to-Valley)値が約3nmであった(図4A)。アルミニウムの膜厚が10nmになると、表面は粒状構造をとるようになる(図4B)。同様の傾向は膜厚20nmでも観察された(図4C)。アルミ粒子の大きさは膜厚の増大とともに大きくなり、膜厚10nmの場合で直径10nm~20nm、膜厚20nmの場合で約100nmであった。

【0029】
アルミニウムの膜厚が10nmの時に最大のラマン増強が得られ、この時のアルミ表面は直径10nm~20nmの粒状構造となっている。したがって、アルミニウムのプローブを真空蒸着によって作成するときには、このサイズの粒状構造がプローブ先端に形成されるように蒸着条件を設定すればよいと考えられる。なお、粒子の粒径測定は顕微鏡法による。

【0030】
〈アルミニウムプローブの作製〉
アルミニウムのプローブを作製するために、まず先端にシリコン製の探針(プローブ)を有するAFM用カンチレバーを用意する。プローブの形状は、エッチングなどによって所望の形状に加工し尖鋭化させておく。もっとも、このようなプローブを自ら製造する必要はなく、市販されているカンチレバーを用いても良い。

【0031】
そして、このようなシリコン製プローブにアルミニウムを真空蒸着した。蒸着速度0.5
Å/s、蒸着膜厚を25nmとした。図5に作製したアルミニウムプローブ先端のSEM画像を示す。プローブ先端に付着したアルミニウムは、直径が10~20nmの粒状構造を取っており、SERS実験の結果からも、この構造にレーザー光を当てれば局在共鳴プラズモンが励起されることが期待される。なお、蒸着膜厚が10nm~30nmの範囲であれば、アルミ粒子の構造が上記の範囲になるため効果的なラマン増強が得られることが期待される。膜厚が薄すぎる場合にはプローブ先端に十分なアルミ粒子が付着せず、十分な増強効果が得られず、逆に膜厚を厚くしすぎるとプローブ先端のアルミ粒子が大きくなり、局在プラズモン波長が紫外からずれて可視光領域に入ってしまう。また、蒸着したアルミニウムの表面には保護層は設けていないが、雰囲気環境にさらされると厚さ数nmのAl膜が形成され、内部の金属をさらなる酸化から保護する。また、本実施例におけるプローブのコーンアングルは約22度であった。プローブ先端は鋭角であるほど強い増強効果が得られ、30度以下であることが好ましい。

【0032】
〈紫外近接場光学顕微鏡の構成〉
本実施形態に係る紫外近接場光学顕微鏡の全体構成を、図6を参照しつつ説明する。

【0033】
原子間力顕微鏡(AFM)用のカンチレバー101は、その先端に尖鋭化されたプローブ102を有する。このプローブ102が上記のようにしてアルミニウムが蒸着されたプローブである。

【0034】
試料104の測定面に対して裏側に、開口数(NA)0.25の対物レンズ106を配置し、この対物レンズ106に、ビームエクスパンダー110により直径を広げられたレーザー光を入射することにより、試料104表面にレーザー光を集光させる。なお、この対物レンズはプローブで散乱されたラマン散乱光を検出するためにも使われるため、検出効率を上げるためにNAをなるべく大きくする方がよく、NA=1以上が好ましい。

【0035】
本実施例では、レーザー光として波長266nmの深紫外(DUV)レーザーを用いた。この深紫外レーザー光は、波長532nmのモードロックピコ秒レーザー(~12ps、76MHz、2W)の周波数をβホウ酸バリウム(BBO)結晶を用いて2倍化して得た。さらに、ハーフミラー112により光路が90度曲げられて、対物レンズ106に導かれる。

【0036】
次に、プローブ102と試料104表面間に働く原子間力をカンチレバー101の変位により検出し、原子間力が一定となるようにプローブ側に配置されたZ微動機構115によりプローブ102と試料104間の距離制御を行いながら、プローブ102をサンプル104表面のレーザー集光スポットに接触させる。このとき、プローブ102先端によりサンプルのラマン散乱光が散乱される。この散乱光は、励起に用いたものと同一の対物レンズ106により集光される。ここで、プローブ102にコートされたアルミニウムの表面には表面プラズモンが励起され、試料104とプローブ102先端のアルミニウムを接触させることにより、いわゆる先端増強ラマン散乱(TERS)が起こり、ラマン散乱光を増強させることが可能となる。

【0037】
これらの散乱光を対物レンズ106で集光し、レーリー散乱光をノッチフィルター(もしくはエッジフィルター)116で除去する。ノッチフィルター116を通過したラマン
散乱光を、結像レンズ117で分光器118のスリット119に結像し、分光器118で分光する。分光器118は、3600 grooves/mmの回折格子を備え、焦点距離が500mm
である。分光結果を液体窒素冷却CCD120で検出して分光スペクトルを測定することにより局所的なラマンスペクトルを得ることができる。

【0038】
また、試料104とプローブ102の距離をZ微動機構115で制御しながら、サンプル側に配置された2次元平面内で走査させるXY微動機構121でラスタスキャンし、分光器118に取り付けられた光電子増倍管(PMT)122でラマン散乱光強度を測定する。XY微動機構121の動作に対応させて、XY面内での強度分布をコンピュータ123上のモニタ(不図示)に表示させることで、試料面内のラマン散乱光の強度分布を測定することも可能である。

【0039】
なお、液体窒素冷却CCD120と分光器118はコントローラ124により制御され、XY微動機構121とZ微動機構115およびカンチレバー101の変位検出部(不図示)はコントローラ125により制御される。これらの動作はコンピュータ123上でコントロールされる。また、光電子増倍管122では検出フォトンに対応するパルス信号が出力されて、フォトンカウンター126でパルス数がカウントされる。その後、デジタル/アナログ変換器127によるアナログ変換、および増幅器128による増幅が行われ、コンピュータ上のモニタに表示される。また、対物レンズ106によるプローブ102とレーザー集光スポットの観察は、光路中にハーフミラー130を配置し、光路を90度曲げて、結像レンズ131で観察用CCDカメラ132に結像し、観察像をモニタ133に表示することにより行われる。

【0040】
〈TERS測定〉
上記のようにして作製したアルミニウムプローブを用いた、深紫外共鳴ラマン散乱の増強効果を実証するためのサンプルとして、アデニンナノ結晶を用意した。アデニンナノ結晶は、1μMのアデニンエタノール溶液20μLを石英基板上に滴下し乾燥させることにより作製した(大きさ~20nm)。

【0041】
プローブ102先端をサンプルに接触させた場合と離した場合のラマン散乱光強度を比較し、アルミニウムプローブによる先端増強効果を確認した。励起光強度は180μW、露光時間は60秒で測定を行った。

【0042】
図6は、アデニンナノ結晶のラマン散乱光強度を示す図であり、Aがプローブ(チップ)有りの場合を示し、Bがプローブ無しの場合を示す。プローブがサンプルに接触しているとき、ラマン散乱光が強く増強されていることが分かる。また、波数400~500cm-1付近に石英由来のブロードなラマン散乱信号があるが、石英のラマン信号には増強効果が見られず、アデニンナノ結晶のラマン散乱のみが増強されていることから、ラマン増強効果はプローブ先端に局在していることが分かる。また、図中に矢印でアデニンの吸収スペクトルを示している。アデニンの電子共鳴は励起光源266nmとほぼ一致しており、共鳴ラマン散乱が生じているものと考えられる。

【0043】
アデニンナノ結晶におけるこの結果は、生体関連分子の紫外共鳴ラマン散乱のプラズモニックな増強を初めて示した結果であり、紫外近接場光学顕微鏡による生体分子や細胞の共鳴ラマン散乱ナノイメージング実現に応用可能と考えられる。

【0044】
〈その他〉
上記の説明では波長266nmの深紫外レーザーを用いた例を説明しているが、紫外・深紫外領域におけるその他の波長であっても、プローブ先端材料の誘電率が-2以下となり局在プラズモン共鳴を生じる波長域であれば利用可能である。アルミプローブであれば
波長140nm以上のレーザー光を用いることができる。また、アルミニウム以外にロジウムを採用しても同様の効果が得られるが、ロジウムプローブの場合は波長200nm以上のレーザー光を用いる必要がある。このように、アルミニウムやロジウムなどの紫外域においても誘電率が-2となる金属を用いることで、金や銀のプローブでは不可能な、波長350nm以下の紫外・深紫外領域における共鳴ラマン分光をナノスケールで行うことができる。
【符号の説明】
【0045】
101 カンチレバー
102 プローブ
104 試料
106 対物レンズ
108 光源
118 分光器
120 CCD
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6