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明細書 :光2次非線形薄膜における1次及び2次光感受率異方性同時測定方法、当該方法を実行する装置及び当該方法をコンピュータに実行させるプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5382792号 (P5382792)
登録日 平成25年10月11日(2013.10.11)
発行日 平成26年1月8日(2014.1.8)
発明の名称または考案の名称 光2次非線形薄膜における1次及び2次光感受率異方性同時測定方法、当該方法を実行する装置及び当該方法をコンピュータに実行させるプログラム
国際特許分類 G01N  21/23        (2006.01)
G02F   1/37        (2006.01)
FI G01N 21/23
G02F 1/37
請求項の数または発明の数 6
全頁数 13
出願番号 特願2009-188069 (P2009-188069)
出願日 平成21年8月14日(2009.8.14)
審査請求日 平成24年8月9日(2012.8.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】佐々 高史
【氏名】和田 達夫
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100105463、【弁理士】、【氏名又は名称】関谷 三男
【識別番号】100102576、【弁理士】、【氏名又は名称】渡辺 敏章
【識別番号】100114546、【弁理士】、【氏名又は名称】頭師 教文
特許請求の範囲 【請求項1】
1つの光2次非線形性薄膜に対する2種類の基本波レーザー光の照射により実験的に測定される2種類のSH-MF曲線における各入射角の測定データ間の比の算出によりSH-MF比曲線を生成する処理と、
前記SH-MF比曲線に対応する理論関数式と実験測定曲線としての前記SH-MF比曲線との近似演算処理を実行し、前記理論関数式における2つの未知パラメータである複屈折率(Δn)と非線形光学定数比(d-ratio)を決定する処理と、
決定された前記複屈折率(Δn)と前記非線形光学定数比(d-ratio)を出力する処理と
を有する、光2次非線形薄膜における1次及び2次光感受率異方性同時測定方法。
【請求項2】
前記理論関数式は、次式で与えられる
ことを特徴とする請求項1に記載の光2次非線形薄膜における1次及び2次光感受率異方性同時測定方法。【数1】
JP0005382792B2_000013t.gif

ここで、θは光2次非線形薄膜に対する基本波レーザー光の入射角であり、Iratio(θ)は入射角θにおける2種類のSH-MF曲線の測定データ間の比であり、右辺第1項は実効非線形光学定数の比であり、右辺第2項は光2次非線形薄膜に至る基本波レーザー光の透過率の比である。
【請求項3】
前記光2次非線形性薄膜は、有機アモルファス薄膜である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光2次非線形薄膜における1次及び2次光感受率異方性同時測定方法。
【請求項4】
前記複屈折率(Δn)の算出時には、0°付近の第1の入射角θ1について近似演算処理を実行し、
前記非線形光学定数成分の比(d-ratio)の算出時には、前記第1の入射角θ1よりも大きい第2の入射角θ2について近似演算処理を実行する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の光2次非線形薄膜における1次及び2次光感受率異方性同時測定方法。
【請求項5】
1つの光2次非線形性薄膜に対する2種類の基本波レーザー光の照射により実験的に測定される2種類のSH-MF曲線における各入射角の測定データ間の比の算出によりSH-MF比曲線を生成する第1の演算部と、
前記SH-MF比曲線に対応する理論関数式と実験測定曲線としての前記SH-MF比曲線との近似演算処理を実行し、前記理論関数式における2つの未知パラメータである複屈折率(Δn)と非線形光学定数比(d-ratio)を決定する第2の演算部と、
決定された前記複屈折率(Δn)と前記非線形光学定数比(d-ratio)を出力する第3の演算部と
を有する、光2次非線形薄膜における1次及び2次光感受率異方性同時測定装置。
【請求項6】
1つの光2次非線形性薄膜に対する2種類の基本波レーザー光の照射により実験的に測定される2種類のSH-MF曲線における各入射角の測定データ間の比の算出によりSH-MF比曲線を生成する処理と、
前記SH-MF比曲線に対応する理論関数式と実験測定曲線としての前記SH-MF比曲線との近似演算処理を実行し、前記理論関数式における2つの未知パラメータである複屈折率(Δn)と非線形光学定数比(d-ratio)を決定する処理と、
決定された前記複屈折率(Δn)と前記非線形光学定数比(d-ratio)を出力する処理と
をコンピュータに実行させ、光2次非線形薄膜における1次及び2次光感受率異方性を同時に測定するプログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光2次非線形薄膜(光2次非線形性を有する薄膜)の感受率異方性を表す光学物性値である非線形光学定数成分の比(d-ratio)と複屈折率(Δn)を実験的に同時に決定する方法、当該方法を実行する装置及び当該方法をコンピュータに実行させるプログラムに関する。なお、光2次非線形性の代表例には、例えば電気光学(EO)効果がある。また、光2次非線形性薄膜の代表例には、例えば光2次非線形色素を含む高分子等の有機アモルファス材料によって作製される薄膜試料がある。
【背景技術】
【0002】
測定試料の光学物性値である非線形光学定数成分の比(d-ratio)と複屈折率(Δn)を実験的に同時に決定できる手法として、測定試料について測定された光第2高調波のメーカーフリンジ曲線(SH-MF曲線)を解析する方法が知られている。
【0003】
ここで、光第2高調波(SH波)は、光2次非線形性を有する試料に波長λのレーザー光(基本波と呼ぶ)を照射した場合に発生する波長λ/2を有する光波(レーザー光)のことをいう。例えば1μmの赤外波長のレーザー光を照射した場合に発生する波長0.5μmの緑色の光波をいう。
【0004】
他方、メーカーフリンジ曲線は、試料中を伝搬する基本波の光路長を連続的に変化させた場合に、高調波の測定強度が光干渉によって大→小→大→小…と周期的に変化する様子をプロットした曲線をいう。因みに、試料中を伝搬する基本波の光路長は、測定試料に対する入射角に応じて連続的に変えることができる。この曲線のうち基本波の入射角とSH波の強度との間に出現する周期的な変化をプロットした曲線を特にSH-MF曲線という。
【0005】
SH-MF曲線は、前述した二つの光学物性値によって、その振幅と周期が独立に変化するため、各変化量を解析することにより対応する光学物性値を求めることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ただし、SH-MF曲線の振幅変化と周期変化に基づく光学物性値の解析は、測定試料が十分に厚い(光路長が長い)場合に限られており、測定可能な試料に制限があった。実際、測定試料が十分な厚みを有していない場合、SH-MF曲線に周期的な変化が出現しない。その理由は、基本波の入射角を可変するために測定試料を回転させても、十分に広い範囲で基本波の光路長を変化させることができず、周期シフト量を読み出すことができないためと考えられる。従って、有機アモルファス材料のように、ほとんどが薄膜としてしか利用できない試料の場合には、従来手法を利用することができなかった。
【0007】
そこで、本発明は、光2次非線形性薄膜の1次及び2次光感受率の異方性を実験的に同時に測定できる手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、1つの測定試料に2種類の光を照射することで実験的に測定される2種類のSH-MF曲線の比(SH-MF比曲線)を使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明者は、SH-MF曲線の振幅変化と周期変化にそれぞれ対応する変化が、SH-MF比曲線の異なる入射角範囲に独立に出現することを見出した。そこで、本発明では、SH-MF比曲線に対応する理論関数式の2つの未知パラメータのそれぞれを対応する入射角範囲について独立に近似演算処理を実行することにより、SH-MF比曲線に近似する理論関数式を与える2つの未知パラメータを個別に決定する手法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、従来手法では、実験的に同時に測定できなかった光2次非線形性薄膜の2つの光学物性値を、同一測定試料に対する実験により同時に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】測定試料の構造例と基本波レーザー光の入射角を説明する図。
【図2】測定装置の全体構成例を説明する図。
【図3】複屈折率の決定原理を説明する図。
【図4】非線形光学定数比の決定原理を説明する図。
【図5】光学物性値の解析手順を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、後述する装置構成や処理動作の内容は一例であり、実施の形態と既知の技術との組み合わせや置換により他の実施の形態を実現することもできる。
【実施例】
【0012】
(1)測定試料の構造例
以下の実施例では、光2次非線形性薄膜が、有機薄膜(例えば有機アモルファス薄膜)である場合について説明する。図1に、この実施例で使用する測定試料10の構造例を示す。測定試料10の基本構造は、ガラスその他の透明基板11の表面に、有機アモルファス薄膜層12を堆積させた構造である。
【0013】
ところで、後述する(3)項に示すような単純化した理論関数式を用いて有機アモルファス薄膜層12の光学物性値を解析又は測定するには、有機アモルファス薄膜層12の厚みが予め定められた範囲に作製されていることが求められる。要求される厚みについては後述する(3)項において説明する。この他、有機アモルファス材料に光2次非線形性を付与するには、一般的に、薄膜内で光2次非線形色素を配向させる必要がある。配向処理方法としては、電界配向誘起法が最も一般的である。多くの場合、透明基板11に対して垂直な方向に分子が配列される。
【0014】
ただし、有機アモルファス薄膜層12にレーザー光を直接入射させる場合、入射角θが0°の付近でMF曲線をきれいに測定できないことがある。その原因の一つに、有機薄膜で発生したSH波が、有機アモルファス薄膜層12と空気との境界部分で反射することが考えられる。そこで、図1の場合には、有機アモルファス薄膜層12の表面に有機アモルファス薄膜層12と同様の屈折率を有し、かつ、使用するレーザー波長に比べて十分大きな厚みを有する透明層(透明バッファー層)13を付与する構造を採用する。なお、透明層13は、平行平板状に形成したものを使用する。
【0015】
この場合、透明層13は、有機アモルファス薄膜層12と完全に密着する必要があり、有機アモルファス薄膜層12に接していない側の面(層表面)は、光学的に平坦になるように形成されている必要がある。このような構造は、例えば光学シリコーン等のやわらかい材料をシート状に加工し、それを有機アモルファス薄膜層12の表面に貼り付けることで実現できる。透明層13の表面の平坦性が十分でない場合には、更にその上にガラスその他の透明な基板を完全に密着させて固定することが望ましい。
【0016】
(2)測定装置の全体構成例
透明基板11上に堆積された光2次非線形性を有する有機アモルファス薄膜層12は、ほとんどの場合、光学軸を透明基板11に対して垂直とする空間対称性を有している。このような特性を有する測定試料の場合、一般に、基本波レーザー光の二つの偏光(p偏光とs偏光)を用いることにより、各偏光に対応する2種類のSH-MF曲線Ipp及びIspを測定することができる。すなわち、p偏光に対応するSH-MF曲線Ippとs偏光に対応するSH-MF曲線Ispを測定することができる。
【0017】
図2に、測定試料の光学物性値である非線形光学定数比(d-ratio)と複屈折率(Δn)の測定に使用する測定装置100の構成例を示す。測定装置100は、SH-MF曲線測定光学系110と、物性値測定部120で構成される。
【0018】
SH-MF曲線測定光学系110は、s偏光とp偏光に対応するSH-MF曲線を実測するために使用される装置である。この実施例の場合、SH-MF曲線測定光学系110は、基本波レーザー源111、波長板112、SH波カットフィルター113、回転ステージ114、基本波カットフィルター115、検光子116、光電子倍増管117で構成する。
【0019】
波長板112は、基本波レーザー光の偏光方向(p方向又はs方向)の選択に使用される光学素子の一つである。s偏光に対応するSH-MF曲線を実測する場合に、波長板112は、s偏光を選択的に透過するように制御され、p偏光に対応するSH-MF曲線を実測する場合、波長板112は、p偏光を選択的に透過するように制御される。波長板112の偏光方向の選択は、外部の制御装置(例えば物性値測定部120)が用いられる。
【0020】
SH波カットフィルター113は、測定試料10に入射する基本波レーザー光(偏光)からSH波成分を除去する光学フィルターである。
【0021】
回転ステージ114は、測定試料10を取り付けた状態で回転駆動される可動機構である。この実施例の場合、回転ステージ114の回転角と測定試料10に対する基本波レーザー光の入射角θとが一致するように、測定試料10と回転ステージ114との取り付け位置と回転角が調整されている。このため、回転ステージ114の回転角の検出を通じ、基本波レーザー光の測定試料10に対する入射角θを検出することができる。回転ステージ114の回転は、外部の制御装置(例えば物性値測定部120)により制御される。
【0022】
一般に、回転ステージ114は、事前に定めた一定の範囲内で回動駆動される。この実施例では、入射角θが-70°から+70°の範囲で回転駆動されるものとする。なお、入射角θとは、測定試料10の法線面と基本波レーザーの光の入射方向との間に形成される角度をいう。従って、入射角θが0°とは、測定試料10の法線面と基本波レーザーの光の入射方向とが一致することをいう。因みに、SH-MF曲線を高精度で測定するためには、回転ステージ114の回転角の刻みは0.5°以下であることが好ましい。測定試料10に入射した基本波レーザー光は、有機アモルファス薄膜層12においてSH波を発生する。
【0023】
基本波カットフィルター115は、測定試料10の透過光に含まれる基本波レーザー光成分を除去する光学フィルターである。
【0024】
検光子116は、測定試料10で発生されるSH波のうちp偏光成分だけを選択的に透過する光学素子である。
【0025】
光電子増倍管117は、検光子116を通過したSH波の強度を測定する受光素子である。
【0026】
一方の物性測定部120は、SH-MF曲線測定光学系110によって実験的に測定される測定データに基づいて、測定試料10の光学物性値(特に、複屈折率(Δn)と非線形光学定数比(d-ratio))を測定する装置である。この実施例の場合、物性測定部120は、実測データ格納部121、SH-MF比曲線生成部122、未知パラメータ決定部123、パラメータ出力部124で構成される。
【0027】
なお、物性測定部120を構成する各処理部は、ハードウェアのみによっても、ソフトウェアのみによっても、ハードウェアとソフトウェアの混合構成によっても実現することができる。この実施例の場合、物性測定部120の各処理部は、コンピュータ上で実行されるプログラムを通じて実現されるものとする。従って、実施例における物性測定部120は、コンピュータの基本構造である算術論理ユニット、制御回路、記憶部、入出力装置等で構成されている。勿論、光学物性値の解析に使用されるプログラムは、記憶部に格納されている。
【0028】
実測データ格納部121は、光電子増倍管117を通じて測定された光強度(測定データ)と基本波レーザー光の入射角θの対応関係を記憶部に格納する処理部である。この実測データ格納部121は、前述した外部の制御装置としても機能する。すなわち、波長板112における偏光方向の選択や回転ステージ114における回転角の制御にも使用される。実測データ格納部121には、入射角θの可変範囲について測定されたs偏光に対応するSH-MF曲線の測定データIsp(θ)とp偏光に対応するSH-MF曲線の測定データIpp(θ)が格納される。
【0029】
SH-MF比曲線生成部122は、2つのSH-MF曲線の各入射角θに対応する測定データ間の比を算出し、SH-MF比曲線を生成する処理部である。この実施例の場合、入射角θに対応するSH-MF比曲線を次式で定義する。
ratio(θ)=Ipp(θ)/Isp(θ) (1)
【0030】
未知パラメータ決定部123は、実測データに基づいて算出されたSH-MF比曲線に、対応する理論関数式を近似させる複屈折率(Δn)と非線形光学定数比(d-ratio)を決定する処理を、既知の近似演算処理を通じて実現する処理部である。近似演算処理には、例えば最小二乗法を使用する。ここでの近似演算処理量を低減するための理論関数式の簡略化手法と、複屈折率(Δn)と非線形光学定数比(d-ratio)を決定する際の具体的な処理条件については後述する。
【0031】
パラメータ出力部124は、近似演算処理を通じて決定された複屈折率(Δn)と非線形光学定数比(d-ratio)を測定結果として外部に出力する処理部である。パラメータ出力部124は、例えばディスプレイや印刷装置などの出力装置に対して測定結果を出力する。また、パラメータ出力部124は、インターネットやイントラネットを通じて物性値測定部120に接続されたネットワーク装置に対して測定結果を出力する機能を搭載する。
【0032】
(3)SH-MF比曲線に対応する理論関数式
まず、理論関数式を示す上で必要になる定数を定義する。なお、ここでの定義は、測定試料10が図1に示す構造(すなわち、透明基板11、有機アモルファス薄膜層12、透明層13)を有する場合を想定する。また、基本波レーザー光は波長lを有し、入射角θで透明層13に入射するものとする。以下の説明では、「基本波レーザー光」を「基本波」ともいう。
【0033】
さらに、透明層13は等方媒質であり、基本波に対して屈折率n1cを有するものとする。また、光2次非線形効果を有する有機アモルファス薄膜層12は、配向処理前の等方媒質の屈折率として、基本波に対してn0を有し、SH波に対してn10+Δn120を有するものとする。また、配向処理後の有機アモルファス薄膜層12は、基本波に対して常光屈折率n1oと異常光屈折率n1e、発生するSH波に対して常光屈折率n2oと異常光屈折率n2eを有するものとする。このとき、求めるべき複屈折率Δnを、基本波とSH波に対してそれぞれΔn1とΔn2と定義すれば、以下のようになる。
【0034】
Δn1 =n1e-n1o (2)
Δn2 =n2e-n2o (3)
ただし、両者は波長依存を示す定数mによって、以下に示す関係式によって結びつけることができる。
【0035】
Δn2 =m・Δn1 (4)
ここで、Δn120、Δn1、mについては、光吸収のない波長域ではほぼ全ての有機アモルファス材料を網羅する以下の範囲を考える。
【0036】
0<Δn120<0.1 (5)
0<Δn1<0.1 (6)
2<m<4 (7)
配向処理前の屈折率n10については、ここでは代表値である1.7のみを考える。実際には、光吸収のない波長域では、ほぼ全ての有機アモルファス材料のそれは1.6~1.8の範囲に分布するが、以下で導かれる結論は変わらない。
【0037】
電気光学(EO)効果を有する薄膜の光2次非線形定数テンソルについては、以下の典型的な成分を考える。
【0038】
【数1】
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ただしd31=d32=d24=d15
【0039】
このとき、求めるべき非線形光学定数比は一種類となりd33/d31で与えられる。この比d33/d31が、特許請求の範囲における非線形光学定数比(d-ratio)に対応する。
【0040】
さて、前述したパラメータをもつ光2次非線形効果を有する薄膜(この実施例では、有機アモルファス薄層)に対するSH-MF曲線(Ipp(θ)とIsp(θ))の理論関数式は既に明らかになっている(例えば論文J. Opt. Soc. Am. B 12 (1995) 416を参照。)。それらを引用すれば、SH-MF比曲線に対する理論関数式は、以下のように整理できる。
【0041】
【数2】
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【0042】
ここで、(9)式の右辺第1項は、実効非線形光学定数比であり、次の(10)式で与えられる。
【0043】
【数3】
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【0044】
ただし、θ1p2pとγ1p2pは、次式で表すことができる。
【0045】
【数4】
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【0046】
【数5】
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【0047】
なお、θ1p,θ2pは、それぞれp偏光基本波,p偏光SH波の伝搬角((11)式)であり、γ1p,γ2pは、それぞれp偏光基本波,p偏光SH波に対するウォークオフ角((12)式)である。(10)式~(12)式より(9)式の右辺第1項は、求めるべき複屈折Δnと非線形光学定数比(d-ratio)の両者を含むことが分かる。
【0048】
さらに、(9)式の右辺第2項は、光2次非線形効果を有する薄膜(この実施例では、有機アモルファス薄膜層12)に至る基本波の透過率の比である。前述の通り、透過層13と有機アモルファス薄膜層12の屈折率がほぼ同じと仮定するときは、次式で表すことができる。
【0049】
【数6】
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【0050】
すなわち、(9)式の右辺第2項は、透過層13の屈折率と基本波の入射角θのみで記述できる。
さらに、(9)式の右辺第3項は、屈折率よりなる係数項である。
【0051】
【数7】
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【0052】
n11p),n11s)は、それぞれ入射角θ1p,θ1sで伝搬する基本波が感じる屈折率、n22p),n21p),n21s)はそれぞれ角度θ2p,θ1p,θ1sで伝搬するSH波が感じる屈折率を示す。
【0053】
さらに、(9)式の右辺第4項は、基本波(非線形分極波)とSH波の位相ずれに関する項である。
【0054】
【数8】
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【0055】
上記第3項と第4項は、光学的異方性媒質に特有に現れる項であり、異方性が大きくなるほど1からずれた値をもつ。
【0056】
このように、SH-MF比曲線に対する理論関数式((9)式~(15)式)は、一般に煩雑な形をもつ。しかしながら、これから示すように、第3項のA(θ)と第4項のB(θ)については、ある条件化では、異方性媒質であっても共にほぼ1(定数)とみなすことが可能となる。
【0057】
先ず、第3項のA(θ)について考える。(14)式からA(θ)の値の変化に支配的に寄与するn21s),n21p),n22p)に着目する。これらの変数は、いずれもθ,m,Δn1,Δn120に比例して大きくなる。しかし、この関係を考慮すると、設定条件では、n21p)とn22p)の値はn21s)に対して最大でもそれぞれ0.2%と0.6%ずれるだけであることが分かる。従って、A(θ)は1に対して1%よりはるかに小さなずれしか示さないため、最終的に定数1とみなしてよい。
【0058】
次に、第4項のB(θ)について考える。B(θ)の大きさは、λ/L,θ,Δn1,Δn120については比例関係にあるものの、mについては逆比例の関係にある。この関係を考慮すると、設定条件では、1からの最大のずれはλ/L=1のとき13%となる。このB(θ)のずれは、以下の項目で示す方法で算出する物性値に対しては5%程度のずれとなる。この程度のずれは本実験での測定誤差として一般的である。このため、厚さが基本波レーザー光の波長と同じ値(λ/L=1)よりも小さな光2次非線形効果を有する薄膜(この実施例では、有機アモルファス薄膜)を使うことで、A(θ)とB(θ)の両者を定数1として実質的にみてよいことになる。
【0059】
以上より、厚さが基本波レーザー光の波長と同じ値よりも小さな光2次非線形効果を有する薄膜を用いると、(9)式は近似的に簡略化された次式で表すことができる。
【0060】
【数9】
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【0061】
前述したように、(16)式では、右辺第1項のみが求めたい非線形光学定数比d33/d31と複屈折率Δn1,Δn2を含んでいる。更にその記述式((10)式~(12)式)については、θが0°付近では、次式が成立する。
【0062】
【数10】
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【0063】
すなわち、入射角θが0°付近の値は複屈折率を含む屈折率のみで記述できることが分かる。このことから、入射角θが0oの近傍付近のSH-MF比の値から複屈折率Δnを求めることができる。図3に、複屈折率Δnの可変制御によって理論関数式の形状に現れる変化のイメージを示す。なお、図3の横軸は入射角θであり、縦軸はSH-MF比である。
【0064】
図3より分かるように、複屈折率Δnの変化に伴うSH-MF比の振幅変化は、入射角θが0°付近で最大となり、入射角θが大きくなるほどSH-MF比の振幅変化は小さくなる。このため、入射角θが0°の近辺において、実験測定値であるSH-MF比曲線と理論関数式との近似演算処理を実行し、実験測定値のSH-MF比曲線に最も近似する理論関数式を与える複屈折率Δnを決定すれば、測定試料10の複屈折率Δnを測定できたことになる。
【0065】
一方で、(10)式より、非線形光学定数比d33/d31の影響は、入射角θが大きいほど大きく現れることが分かる。図4に、非線形光学定数比d33/d31の可変制御によって理論関数式の形状に現れる変化のイメージを示す。なお、図4の横軸は入射角θであり、縦軸はSH-MF比である。
【0066】
図4より分かるように、非線形光学定数比d33/d31の変化に伴うSH-MF比の振幅変化は入射角θが大きい領域ほど大きくなり、入射角θが0°に近づくほどSH-MF比の振幅変化は小さくなる。このため、入射角θが大きい領域において、実験測定値であるSH-MF比曲線と理論関数式との近似演算処理を実行し、実験測定値のSH-MF比曲線に最も近似する理論関数式を与える非線形光学定数比d33/d31を決定すれば、測定試料10の非線形光学定数比d33/d31を測定できたことになる。
【0067】
以上より、入射角θが0o付近のSH-MF比曲線Iratio(θ)の値からは複屈折率Δnが、入射角θが大きい範囲(例えばθ=±70°)の値からは非線形光学定数比d33/d31を求めることができることが分かる。
【0068】
(4)光学物性値の解析手順
図5を用いて、物性値測定部120において実行される光学物性値の解析手順の概要例を説明する。すなわち、未知パラメータ決定部123が、有機アモルファス薄膜の2つの光学物性値(複屈折率Δn(詳しくはΔn1とΔn)及び非線形光学定数比d33/d31)を、SH-MF比曲線の解析を通じて決定する際に実行される処理手順の概要を説明する。
【0069】
この解析処理では、実験測定値に基づいて得たSH-MF比曲線に理論関数式の曲線((16)式)を合わせこむことにより、複屈折率Δn1とΔn及び非線形光学定数比d33/d31の決定が実行される。ここでの合わせこみ処理を、フィッティング処理ともいう。
【0070】
合わせこみ処理には、例えば最小二乗法などの既知の近似演算処理が用いられる。具体的には、両曲線間の誤差が最も小さくなる複屈折率Δn1とΔn及び非線形光学定数比d33/d31を、コンピュータ上で実行される近似演算処理を通じて決定する。ただし、合わせこみ処理時の処理負荷を低減するには、SH-MF比曲線の理論関数式の未知パラメータ数を予め削減しておくことが好ましい。
【0071】
この実施例では、配向処理前の光2次非線形効果を有する薄膜のSH-MF比曲線に対応する理論関数式の5つの未知パラメータのうち3つのパラメータ、すなわちn10、Δn120、mを事前に測定し、パラメータ数を削減しておく(処理a)。因みに、n10、Δn120は、エリプソメトリー法やモードライン法等によって測定することができる。mは、例えば光吸収スペクトル測定によって得ることのできる吸収ピーク波長λegを、エネルギー2準位モデルに基づいて導いた次式に代入することにより求めることができる。
【0072】
【数11】
JP0005382792B2_000012t.gif

【0073】
この処理aの適用により、SH-MF比曲線の理論関数式((16)式)の未知パラメータは、Δn1とd33/d31の2つとなる。
【0074】
次に、未知パラメータ決定部123は近似演算処理を実行し、これら2つの未知パラメータを変数とする理論関数式((16)式)を、実験測定値であるSH-MF比曲線に合わせこむ処理bを実行する。
【0075】
未知パラメータ決定部123は、入射角θの0°付近について複屈折率Δn1を可変することで、実験測定値であるSH-MF比曲線に最も近似する理論関数式((16)式)を与える複屈折率Δn1を決定する。また、未知パラメータ決定部123は、入射角θが大きい領域(例えば70°)付近について複非線形光学定数比d33/d31を可変することで、実験測定値であるSH-MF比曲線に最も近似する理論関数式((16)式)を与える非線形光学定数比d33/d31を決定する。
【0076】
以上の処理の後、パラメータ出力部124は、処理bにおける合わせ込みで決定した2つのパラメータを最終値として出力する。すなわち、処理cを実行する。
【0077】
(5)まとめ
この実施例によれば、1つの測定試料10を回転テーブル114に装着した後は、1つの基本波レーザー光源111から射出されるp偏光とs偏光について2つのSH-MF曲線を実測するだけで、有機アモルファス薄膜等の非常に膜厚の小さい試料における複屈折率Δn1と複非線形光学定数比d33/d31とを同時に測定することができる。
【0078】
このように、実施例に係る測定装置100は、従来装置のように各光学物性値に応じて異なる試料や測定条件を用意しなくて済むため、測定結果の信頼性を高めることができる。
【符号の説明】
【0079】
10…測定試料、11…透明基板、12…有機アモルファス薄膜層、13…透明層、100…測定装置、110…SH-MF曲線測定光学系、111…基本波レーザー源、112…波長板、113…SH波カットフィルター、114…回転ステージ、115…基本波カットフィルター、116…検光子、117…光電子倍増管、120…物性値測定部、121…実測データ格納部、122…SH-MF比曲線生成部、123…未知パラメータ決定部、124…パラメータ出力部。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4