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明細書 :位置敏感時間分析型検出器、その作製方法およびそれを用いた三次元中エネルギーイオン散乱装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5429797号 (P5429797)
登録日 平成25年12月13日(2013.12.13)
発行日 平成26年2月26日(2014.2.26)
発明の名称または考案の名称 位置敏感時間分析型検出器、その作製方法およびそれを用いた三次元中エネルギーイオン散乱装置
国際特許分類 G01N  23/225       (2006.01)
G01T   1/29        (2006.01)
FI G01N 23/225
G01T 1/29 C
請求項の数または発明の数 9
全頁数 25
出願番号 特願2009-196289 (P2009-196289)
出願日 平成21年8月27日(2009.8.27)
審査請求日 平成24年8月13日(2012.8.13)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
発明者または考案者 【氏名】小林 峰
個別代理人の代理人 【識別番号】100087000、【弁理士】、【氏名又は名称】上島 淳一
特許請求の範囲 【請求項1】
ワイヤアノードを直交して配置した検出領域を備え、該検出領域に粒子が入射することにより、該粒子の到達位置ならびに到達時間を計測するための信号を出力する位置敏感時間分析型検出器において、
所定の第1の間隔を開けて配置した一対の第1の絶縁体と、
前記所定の第1の間隔を開けて配置した一対の第2の絶縁体と、
前記一対の第1の絶縁体に当接するようにして、互いに所定の第2の間隔を開け、かつ、同一方向に所定の回数だけ前記一対の第1の絶縁体に巻回され、前記一対の第1の絶縁体間に張設された一方のワイヤアノードと、
前記一対の第2の絶縁体に当接するようにして、互いに所定の前記第2の間隔を開け、かつ、同一方向に前記所定の回数だけ前記一対の第2の絶縁体に巻回され、前記一対の第2の絶縁体間に張設された他方のワイヤアノードと
を有し、
前記一方のワイヤアノードと前記他方のワイヤアノードとが互いに直交するように配置してなる位置敏感時間分析型検出器であって、
前記一対の第1の絶縁体と前記一対の第2の絶縁体とは、前記一方のワイヤアノードと前記他方のワイヤアノードとをそれぞれ巻回した際において、前記一方のワイヤアノードと前記他方のワイヤアノードとがそれぞれ当接する距離が同一となり、かつ、前記一対の第1の絶縁体に巻回された前記一方のワイヤアノードにより形成される空間内に、前記一対の第2の絶縁体に巻回された前記他方のワイヤアノードが接触することなく配置可能な形状を備えた
ことを特徴とする位置敏感時間分析型検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の位置敏感時間分析型検出器において、
前記一対の第1の絶縁体は、楕円柱を楕円の長軸で切断した形状を備えるとともに、該切断した形状における切断面を対向して前記所定の第1の間隔を開けて配置され、
前記一対の第2の絶縁体は、前記楕円柱と同一寸法の楕円柱を楕円の短軸で切断した形状を備えるとともに、該切断した形状における切断面を対向して前記所定の第1の間隔を開けて配置された
ことを特徴とする位置敏感時間分析型検出器。
【請求項3】
請求項1に記載の位置敏感時間分析型検出器において、
前記一対の第1の絶縁体は、矩形柱を矩形の対向する短辺の中点において切断した形状を備えるとともに、該切断した形状における切断面を対向して前記所定の第1の間隔を開けて配置され、
前記一対の第2の絶縁体は、前記矩形柱と同一寸法の矩形柱を矩形の対向する長辺の中点において切断した形状を備えるとともに、該切断した形状における切断面を対向して前記所定の第1の間隔を開けて配置された
ことを特徴とする位置敏感時間分析型検出器。
【請求項4】
請求項1に記載の位置敏感時間分析型検出器において、
前記一対の第1の絶縁体は、矩形形状の四角に対して同じ曲率のR加工が施された略矩形形状の断面を有する略矩形柱を、略矩形形状の対向する短辺の中点において切断した形状を備えるとともに、該切断した形状における切断面を対向して前記所定の第1の間隔を開けて配置され、
前記一対の第2の絶縁体は、前記略矩形柱と同一寸法の略矩形柱を、略矩形形状の対向する長辺の中点において切断した形状を備えるとともに、該切断した形状における切断面を対向して前記所定の第1の間隔を開けて配置された
ことを特徴とする位置敏感時間分析型検出器。
【請求項5】
ワイヤアノードを直交して配置した検出領域を備え、該検出領域に粒子が入射することにより、該粒子の到達位置ならびに到達時間を計測するための信号を出力する位置敏感時間分析型検出器の作製方法において、
所定の第1の間隔を開けて配置される一対の第1の絶縁体を形成し、
前記所定の第1の間隔を開けて配置される一対の第2の絶縁体を形成し、
一方のワイヤアノードを、前記一対の第1の絶縁体に当接するようにして、互いに所定の第2の間隔を開け、かつ、同一方向に所定の回数だけ前記一対の第1の絶縁体に巻回して前記一対の第1の絶縁体間に張設し、
他方のワイヤアノードを、前記一対の第2の絶縁体に当接するようにして、互いに所定の前記第2の間隔を開け、かつ、同一方向に前記所定の回数だけ前記一対の第2の絶縁体に巻回して前記一対の第2の絶縁体間に張設し、
前記一方のワイヤアノードと前記他方のワイヤアノードとが互いに直交するように配置する位置敏感時間分析型検出器の作製方法であって、
前記一対の第1の絶縁体と前記一対の第2の絶縁体とを、前記一方のワイヤアノードと前記他方のワイヤアノードとをそれぞれ巻回した際において、前記一方のワイヤアノードと前記他方のワイヤアノードとがそれぞれ当接する距離が同一となり、かつ、前記一対の第1の絶縁体に巻回された前記一方のワイヤアノードにより形成される空間内に、前記一対の第2の絶縁体に巻回された前記他方のワイヤアノードが接触することなく配置可能に形成する
ことを特徴とする位置敏感時間分析型検出器の作製方法。
【請求項6】
請求項5に記載の位置敏感時間分析型検出器の作製方法において、
前記一対の第1の絶縁体は、楕円柱を楕円の長軸で切断した形状を備えるように形成するとともに、該切断した形状における切断面を対向して前記所定の第1の間隔を開けて配置し、
前記一対の第2の絶縁体は、前記楕円柱と同一寸法の楕円柱を楕円の短軸で切断した形状を備えるように形成するとともに、該切断した形状における切断面を対向して前記所定の第1の間隔を開けて配置した
ことを特徴とする位置敏感時間分析型検出器の作製方法。
【請求項7】
請求項5に記載の位置敏感時間分析型検出器の作製方法において、
前記一対の第1の絶縁体は、矩形柱を矩形の対向する短辺の中点において切断した形状を備えるように形成するとともに、該切断した形状における切断面を対向して前記所定の第1の間隔を開けて配置し、
前記一対の第2の絶縁体は、前記矩形柱と同一寸法の矩形柱を矩形の対向する長辺の中点において切断した形状を備えるように形成するとともに、該切断した形状における切断面を対向して前記所定の第1の間隔を開けて配置した
ことを特徴とする位置敏感時間分析型検出器の作製方法。
【請求項8】
請求項5に記載の位置敏感時間分析型検出器の作製方法において、
前記一対の第1の絶縁体は、矩形形状の四角に対して同じ曲率のR加工が施された略矩形形状の断面を有する略矩形柱を、略矩形形状の対向する短辺の中点において切断した形状を備えるように形成するとともに、該切断した形状における切断面を対向して前記所定の第1の間隔を開けて配置し、
前記一対の第2の絶縁体は、前記略矩形柱と同一寸法の略矩形柱を、略矩形形状の対向する長辺の中点において切断した形状を備えるように形成するとともに、該切断した形状における切断面を対向して前記所定の第1の間隔を開けて配置した
ことを特徴とする位置敏感時間分析型検出器の作製方法。
【請求項9】
検出された信号を処理して、試料の表面または界面の構造解析を行う位置敏感時間分析型検出器を用いた三次元中エネルギーイオン散乱装置において、
内部に試料が載置される真空チャンバと、
前記試料に中エネルギーのパルスイオンビームを照射するビーム照射手段と、
前記真空チャンバ内において前記試料と所定の間隔を空けて配置されるとともに、前記試料から散乱する散乱粒子の到達位置と前記散乱粒子の到達時間とを測定するための信号を検出する検出部と
を有し、
前記検出部は、マイクロチャンネルプレートと請求項1、2、3または4のいずれか1項に記載の位置敏感時間分析型検出器とにより構成される
ことを特徴とする位置敏感時間分析型検出器を用いた三次元中エネルギーイオン散乱装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、位置敏感時間分析型検出器、その作製方法およびそれを用いた三次元中エネルギーイオン散乱装置に関し、さらに詳細には、直交して配設されたワイヤアノードにより2次元の検出領域が形成され、当該検出領域に入射した粒子の到達位置および到達時間を計測するための信号を検出する位置敏感時間分析型検出器、その作製方法およびそれを用いた三次元中エネルギーイオン散乱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、物質の表面や界面の構造解析を行う手段として、例えば、三次元中エネルギーイオン散乱(Three-dimensional Medium-energy Ion Scattering)法を用いることが知られている。
【0003】
ここで、こうした三次元中エネルギーイオン散乱(以下、「三次元中エネルギーイオン散乱」を「3D-MEIS」と適宜に称することとする。)法を用いて、物質の表面や界面の構造解析を行う三次元中エネルギーイオン散乱装置(3D-MEIS装置)を図1乃至図4を参照しながら説明する。
【0004】
なお、図1には、3D-MEIS装置を示す概略構成説明図が示されており、また、図2(a)には、マイクロチャンネルプレートを示す概略構成斜視説明図が示されており、また、図2(b)には、各チャンネルにおける2次電子の発生状態を模式的に示すマイクロチャンネルプレートの説明図が示されており、また、図3(a)には、3D-MEIS装置に使用される従来の位置敏感時間分析型検出器を示す概略構成斜視説明図が示されており、また、図3(b)には、図3(a)のA矢視説明図が示されており、また、図4には、現在使用されている図3(a)(b)に示す構造を備えた従来の位置敏感時間分析型検出器を斜め上方から撮影した写真が示されている。
【0005】
この3D-MEIS装置100は、内部に試料102が載置される真空チャンバ104と、試料102に中エネルギー(例えば、100keV程度である。)のパルスイオンビームを照射するビーム照射手段106と、真空チャンバ104内において試料102と所定の間隔を開けて配置されるとともにビーム照射手段106によるパルスイオンビームの照射により試料102を構成する原子によって散乱された散乱粒子(イオン)を検出する検出部108とを有して構成されている。
【0006】
ここで、検出部108は、複数のチャンネルを形成されるとともに当該チャンネルの開口部が位置する入射面110aを試料102と対向して配置して各チャンネル内に入射された粒子から2次電子を生じさせて増倍させる円形状のマイクロチャンネルプレート(Micro Channel Plate:MCPs)110(図2(a)を参照する。)と、マイクロチャンネルプレート110の各チャンネル内において増倍した2次電子を出射する出射面110bと対向して配置されるとともに、マイクロチャンネルプレート110により増倍して生成された2次電子を検出する位置敏感時間分析型検出器(Position Sensitive Time Resolving Detector)120とを有して構成されている。
【0007】
この位置敏感時間分析型検出器120は、軸線方向を平行に配置した略円柱形状を備えた一対の絶縁体122に対して互いに所定の間隔を開け、かつ、同一方向に所定の回数だけ巻回されて一対の絶縁体122間に張設された2本のワイヤアノード(Wire anodes)124、126と、絶縁体122より小径に形成されるとともに軸線方向を平行に配置した略円柱形状を備えた一対の絶縁体128に対して互いに所定の間隔を開け、かつ、同一方向に所定の回数だけ巻回されて一対の絶縁体128間に張設された2本のワイヤアノード130、132とを有して構成されている(図3(a)を参照する。)。
【0008】
これらワイヤアノード124、126、130、132は、全て同径であり、絶縁体128に巻回されたワイヤアノード130、132は、絶縁体122に巻回されたワイヤアノード124、126により形成された空間S1内を通るように配置され(図3(b)を参照する。)、ワイヤアノード124、126とワイヤアノード130、132とが互いに接触することなく直交して配置されている。
【0009】
位置敏感時間分析型検出器120においては、このワイヤアノード124、126とワイヤアノード130、132とが互いに接触することなく直交している領域が2次元の検出領域となり、当該検出領域に対向するようにしてマイクロチャンネルプレート110の出射面110bが配置されている。
【0010】
即ち、2次元の検出領域をXY平面とすると、例えば、ワイヤアノード124、126がX方向の一方のワイヤアノードとなり、一方、ワイヤアノード130、132がY方向の他方のワイヤアノードとなる。
【0011】
そして、マイクロチャンネルプレート110に設けられた全てのチャンネルが当該検出領域上に位置するように、検出部108の各種の寸法が設定されている。
【0012】
なお、互いに隣り合うように絶縁体122に順次に巻回されているワイヤアノード124とワイヤアノード126とは、隣り合うワイヤアノード124とワイヤアノード126とが所定の間隔、例えば、0.5mmの間隔を空けて絶縁体122に巻回されている。
【0013】
同様に、互いに隣り合うように絶縁体128に順次に巻回されているワイヤアノード130とワイヤアノード132とは、隣り合うワイヤアノード130とワイヤアノード132とが所定の間隔、例えば、0.5mmの間隔を空けて絶縁体128に巻回されている。
【0014】
なお、図3(a)(b)においては、上記した説明の理解を容易にするために、隣接するワイヤアノード同士の間隔を実際よりも広げて図示している。
【0015】
ここで、絶縁体122に巻回されているワイヤアノード124とワイヤアノード126とは、いずれか一方が信号用のワイヤアノードとなされており、他方がリファレンス用のワイヤアノードとなされている。
【0016】
同様に、絶縁体128に巻回されているワイヤアノード130とワイヤアノード132とは、いずれか一方が信号用のワイヤアノードとなされており、他方がリファレンス用のワイヤアノードとなされている。
【0017】
なお、このように信号用とリファレンス用との2本のワイヤアノードを巻回する理由は、以下の通りである。
【0018】
即ち、位置敏感時間分析型検出器120においては、信号用のワイヤアノードに電圧を加えて電子を収集するため、信号用のワイヤアノードは高電圧コンデンサーを介して信号を取り出さなければならない。
【0019】
このため、信号用のワイヤアノードだけでは信号の取り出しができないので、リファレンス用のワイヤアノードが信号用のワイヤアノードとともに巻回されているものである。
【0020】
また、信号用とリファレンス用との2本のワイヤアノードへそれぞれ電圧を印加する際には、一般的には、信号用のワイヤアノードへは520Vの電圧を印加し、リファレンス用のワイヤアノードへは480Vの電圧を印加している。
【0021】
なお、上記した信号用とリファレンス用との2本のワイヤアノードとを用いて信号を取り出す技術は、本願出願時に公知の技術であるので、その詳細な説明は省略する。
【0022】
以上の構成において、3D-MEIS装置100により試料102の表面や界面の構造解析を行うには、ビーム照射手段106から所定のパルス幅のパルスイオンビームを、高真空に設定された真空チャンバ104内に載置された試料102に対し照射する。
【0023】
上記のようにして、試料102にパルスイオンビームが照射されると、試料102を構成する原子と衝突して粒子(イオン)が散乱し(図5(a)を参照する。)、その散乱粒子が検出部108によって検出される。
【0024】
図6の3D-MEIS装置100における信号処理システムを表すブロック構成説明図に示すように、この検出部108の検出結果を示す信号が、コンピューターシステムにより構築された公知の処理部200へ送出され、処理部200においては当該検出した信号に基づいて、公知の処理ステップにより散乱粒子の2次元の検出領域における到達位置と到達時間とを算出するとともに、算出した散乱粒子の2次元の検出領域における到達位置に基づき、図5(b)に示すような散乱粒子の収量の2次元位置分布を作成する。
【0025】
上記のようにして得られた散乱粒子の到達時間と2次元位置分布とを利用して、試料102の表面または界面の構造解析を行うものである。
【0026】
この際、検出部108においては、まず、マイクロチャンネルプレート110のいずれかのチャンネル内に散乱粒子が入射すると、入射した散乱粒子がチャンネル内壁に衝突して2次電子を生じ、生じた2次電子が再びチャンネル内壁に衝突して、さらに2次電子を生じるということを繰り返すことにより、電子を増倍させる(図2(b)を参照する。)。
【0027】
このようにして増倍された電子は、マイクロチャンネルプレート110の出射面110b側から出射されて、位置敏感時間分析型検出器120の2次元の検出領域へ入射される。
【0028】
この位置敏感時間分析型検出器120の2次元の検出領域に電子が入射すると、入射した電子がワイヤアノードに衝突し、衝突した位置から電流が生じて当該ワイヤアノードの両端部に流れることとなり、こうした電流がワイヤアノードの両端部において信号として検出される。
【0029】
このとき、処理部200において、検出部108に入射した散乱粒子の2次元の検出領域における到達位置が、ワイヤアノード124、126およびワイヤアノード130、132のそれぞれの両端部に現れた信号の時間差によって算出され、また、散乱粒子の到達時間(飛行時間)はワイヤアノード124、126およびワイヤアノード130、132のそれぞれの両端部に現れた時間の和によって算出されることとなる。
【0030】
つまり、散乱粒子の到達位置(入射位置)および到達時間は時間情報から求められるものであり、こうした時間情報は、例えば、時間/デジタル変換器(図示せず。)によって測定すればよい。
【0031】
さらに、散乱粒子の到達時間、即ち、散乱粒子の飛行時間は、その散乱粒子のエネルギーに変換でき、当該エネルギーは散乱が起こった深さあるいはなにによって散乱したかに変換することができる。
【0032】
上記のようにして、3D-MEIS装置100の処理部200においては、散乱粒子の2次元の検出領域における到達位置(入射位置)および到達時間(飛行時間)を算出し、算出した到達位置およびその到達位置に到達した散乱粒子の収量などから2次元位置分布を作製して散乱粒子のブロッキングパターンを取得するとともに、取得したブロッキングパターンと算出した散乱粒子の到達時間とから試料102の表面または界面の構造解析を行う。
【0033】
なお、処理部200は、CPU202、入力装置204、表示装置206、増幅器(Amplifier)208、コンスタントフラクションディスクリミネーター(CFD)210、ゲートジェネレーター(Gate generator)212、高電圧パルスジェネレーター(High-voltage pulse generator for beam pulser)214、光ケーブル遅延回路(Optical cable delay)216、トリガー回路(Trigger)218、インターラプトおよびインプット/アウトプットレジスター(INTERRUPT & I/O REGISTER)220などを備えて構成されているが、こうした処理部200における上記した信号処理技術は公知の技術であるので、その詳細な説明は省略する。
【0034】
ところで、ワイヤアノード124、126およびワイヤアノード130、132のそれぞれの両端部に現れた信号の時間情報によって、散乱粒子の到達位置や到達時間を検出する位置敏感時間分析型検出器120においては、ワイヤアノード124、126とワイヤアノード130、132とが接触することがないようにするために、絶縁体122の径に比べて絶縁体128の径が小さく設計されている。
【0035】
ここで、ワイヤアノードを伝達する信号の速さについては、絶縁体(誘電体)中やワイヤアノードが絶縁体と接している部分を伝達する際の速さと、ワイヤアノードが絶縁体と接していない、即ち、ワイヤアノードの中空に張られている部分を伝達する際の速さとでは、両者においてその速さが異なる。
【0036】
なお、誘電体中を伝搬する信号の速度は、以下のように表すことができる。
【0037】
Vp=c/√ε
Vp:電磁波の速度(m/s)
c :真空中の高速の定義(m/s)=2.99792458e8
ε:誘電体の比誘電率(ε≧1)
上記の比誘電率は、温度によって変化する温度特性を持つ。
【0038】
従来の位置敏感時間分析型検出器120においては、ワイヤアノード124、126が巻回された絶縁体122の径とワイヤアノード130、132が巻回された絶縁体128の径とが異なり、絶縁体122の径に比べて絶縁体128の径が小さいため、ワイヤアノード124、126が絶縁体122に接している長さに対して、ワイヤアノード130、132が絶縁体128に接している長さのほうが短くなってしまい、ワイヤアノード124、126およびワイヤアノード130、132のそれぞれの両端部に現れる信号の時間情報に関して、ワイヤアノードにおける絶縁体との接触部分の長さの違いや温度変化による絶縁体(誘電体)の比誘電率の変化に起因する差異が生じてしまうこととなっていた。
【0039】
上記した差異の生じた信号の時間情報をそのまま処理して2次元位置分布を作成すると、当該作成した2次元位置分布の像が歪んでしまい、正確に試料102の表面または界面の構造解析ができなくなってしまうので、従来においては、位置敏感時間分析型検出器120で検出された信号の時間情報を適当な補正係数によって補正する処理を行っていた。
【0040】
しかしながら、こうした複数の要因に起因する差異を含んだ信号の時間情報を補正するには、補正係数を求めるための処理を行う必要があり、処理工程が多くなって処理が複雑になってしまい、解析作業が繁雑になるという問題点が指摘されていた。
【0041】
なお、上記した補正係数を求めるための処理としては、例えば、以下に説明するような処理がある。
【0042】
即ち、図7に示すように、所定の穴径(穴径は、例えば、4mmφである。)を備えた円形開口部302をX方向とY方向とにそれぞれ所定の間隔G(間隔Gは、例えば、7.5mm間隔である。)を開けて複数整列させて穿設したプレート300を準備し、そのプレート300をマイクロチャンネルプレート110の前方に配置して散乱イオン測定を行う。
【0043】
ここで、円形開口部302は規則正しい間隔で穿設されていることにより、本来的には散乱イオン測定により得られるイメージも規則正しい位置に信号が現れなければならない。
【0044】
しかしながら、実際に得られたイメージは、上記した本来得られるはずのイメージとはずれたものとなるもるので、このずれを解消する補正値を補正係数として求めるものである。
【0045】
なお、本願出願人が特許出願のときに知っている先行技術は、文献公知発明に係る発明ではないため、本願明細書に記載すべき先行技術文献情報はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0046】
本発明は、上記したような従来の技術の有する種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、検出された信号の時間情報に対する補正処理を必要としない位置敏感分析型検出器、その作製方法およびそれを用いた三次元中エネルギーイオン散乱装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0047】
上記目的を達成するために、本発明は、2組の一対の絶縁体のそれぞれにワイヤアノードを張設して当該ワイヤアノード同士が互いに直交するように配置した際に、ワイヤアノードが絶縁体とそれぞれ当接する距離が同一となり、かつ、一方の一対の絶縁体に張設されたワイヤアノードにより形成される空間内に、他方の一対の絶縁体に張設されたワイヤアノードが配置可能なように、2組の一対の絶縁体を構成したものである。
【0048】
即ち、本発明は、ワイヤアノードを直交して配置した検出領域を備え、該検出領域に粒子が入射することにより、該粒子の到達位置ならびに到達時間を計測するための信号を出力する位置敏感時間分析型検出器において、所定の第1の間隔を開けて配置した一対の第1の絶縁体と、上記所定の第1の間隔を開けて配置した一対の第2の絶縁体と、上記一対の第1の絶縁体に当接するようにして、互いに所定の第2の間隔を開け、かつ、同一方向に所定の回数だけ上記一対の第1の絶縁体に巻回され、上記一対の第1の絶縁体間に張設された一方のワイヤアノードと、上記一対の第2の絶縁体に当接するようにして、互いに所定の上記第2の間隔を開け、かつ、同一方向に上記所定の回数だけ上記一対の第2の絶縁体に巻回され、上記一対の第2の絶縁体間に張設された他方のワイヤアノードとを有し、上記一方のワイヤアノードと上記他方のワイヤアノードとが互いに直交するように配置してなる位置敏感時間分析型検出器であって、上記一対の第1の絶縁体と上記一対の第2の絶縁体とは、上記一方のワイヤアノードと上記他方のワイヤアノードとをそれぞれ巻回した際において、上記一方のワイヤアノードと上記他方のワイヤアノードとがそれぞれ当接する距離が同一となり、かつ、上記一対の第1の絶縁体に巻回された上記一方のワイヤアノードにより形成される空間内に、上記一対の第2の絶縁体に巻回された上記他方のワイヤアノードが接触することなく配置可能な形状を備えるようにしたものである。
【0049】
また、本発明は、上記した発明において、上記一対の第1の絶縁体は、楕円柱を楕円の長軸で切断した形状を備えるとともに、該切断した形状における切断面を対向して上記所定の第1の間隔を開けて配置され、上記一対の第2の絶縁体は、上記楕円柱と同一寸法の楕円柱を楕円の短軸で切断した形状を備えるとともに、該切断した形状における切断面を対向して上記所定の第1の間隔を開けて配置されたようにしたものである。
【0050】
また、本発明は、上記した発明において、上記一対の第1の絶縁体は、矩形柱を矩形の対向する短辺の中点において切断した形状を備えるとともに、該切断した形状における切断面を対向して上記所定の第1の間隔を開けて配置され、上記一対の第2の絶縁体は、上記矩形柱と同一寸法の矩形柱を矩形の対向する長辺の中点において切断した形状を備えるとともに、該切断した形状における切断面を対向して上記所定の第1の間隔を開けて配置されたようにしたものである。
【0051】
また、本発明は、上記した発明において、上記一対の第1の絶縁体は、矩形形状の四角に対して同じ曲率のR加工が施された略矩形形状の断面を有する略矩形柱を、略矩形形状の対向する短辺の中点において切断した形状を備えるとともに、該切断した形状における切断面を対向して上記所定の第1の間隔を開けて配置され、上記一対の第2の絶縁体は、上記略矩形柱と同一寸法の略矩形柱を、略矩形形状の対向する長辺の中点において切断した形状を備えるとともに、該切断した形状における切断面を対向して上記所定の第1の間隔を開けて配置されたようにしたものである。
【0052】
また、本発明は、上記した発明において、ワイヤアノードを直交して配置した検出領域を備え、該検出領域に粒子が入射することにより、該粒子の到達位置ならびに到達時間を計測するための信号を出力する位置敏感時間分析型検出器の作製方法において、所定の第1の間隔を開けて配置される一対の第1の絶縁体を形成し、上記所定の第1の間隔を開けて配置される一対の第2の絶縁体を形成し、一方のワイヤアノードを、上記一対の第1の絶縁体に当接するようにして、互いに所定の第2の間隔を開け、かつ、同一方向に所定の回数だけ上記一対の第1の絶縁体に巻回して上記一対の第1の絶縁体間に張設し、他方のワイヤアノードを、上記一対の第2の絶縁体に当接するようにして、互いに所定の上記第2の間隔を開け、かつ、同一方向に上記所定の回数だけ上記一対の第2の絶縁体に巻回して上記一対の第2の絶縁体間に張設し、上記一方のワイヤアノードと上記他方のワイヤアノードとが互いに直交するように配置する位置敏感時間分析型検出器の作製方法であって、上記一対の第1の絶縁体と上記一対の第2の絶縁体とを、上記一方のワイヤアノードと上記他方のワイヤアノードとをそれぞれ巻回した際において、上記一方のワイヤアノードと上記他方のワイヤアノードとがそれぞれ当接する距離が同一となり、かつ、上記一対の第1の絶縁体に巻回された上記一方のワイヤアノードにより形成される空間内に、上記一対の第2の絶縁体に巻回された上記他方のワイヤアノードが接触することなく配置可能に形成するようにしたものである。
【0053】
また、本発明は、上記した発明において、上記一対の第1の絶縁体は、楕円柱を楕円の長軸で切断した形状を備えるように形成するとともに、該切断した形状における切断面を対向して上記所定の第1の間隔を開けて配置し、上記一対の第2の絶縁体は、上記楕円柱と同一寸法の楕円柱を楕円の短軸で切断した形状を備えるように形成するとともに、該切断した形状における切断面を対向して上記所定の第1の間隔を開けて配置したものである。
【0054】
また、本発明は、上記した発明において、上記一対の第1の絶縁体は、矩形柱を矩形の対向する短辺の中点において切断した形状を備えるように形成するとともに、該切断した形状における切断面を対向して上記所定の第1の間隔を開けて配置し、上記一対の第2の絶縁体は、上記矩形柱と同一寸法の矩形柱を矩形の対向する長辺の中点において切断した形状を備えるように形成するとともに、該切断した形状における切断面を対向して上記所定の第1の間隔を開けて配置したものである。
【0055】
また、本発明は、上記した発明において、上記一対の第1の絶縁体は、矩形形状の四角に対して同じ曲率のR加工が施された略矩形形状の断面を有する略矩形柱を、略矩形形状の対向する短辺の中点において切断した形状を備えるように形成するとともに、該切断した形状における切断面を対向して上記所定の第1の間隔を開けて配置し、上記一対の第2の絶縁体は、上記略矩形柱と同一寸法の略矩形柱を、略矩形形状の対向する長辺の中点において切断した形状を備えるように形成するとともに、該切断した形状における切断面を対向して上記所定の第1の間隔を開けて配置したものである。
【0056】
また、本発明は、検出された信号を処理して、試料の表面または界面の構造解析を行う位置敏感時間分析型検出器を用いた三次元中エネルギーイオン散乱装置において、内部に試料が載置される真空チャンバと、上記試料に中エネルギーのパルスイオンビームを照射するビーム照射手段と、上記真空チャンバ内において上記試料と所定の間隔を空けて配置されるとともに、上記試料から散乱する散乱粒子の到達位置と上記散乱粒子の到達時間とを測定するための信号を検出する検出部とを有し、上記検出部は、マイクロチャンネルプレートと上記した本発明の位置敏感時間分析型検出器とにより構成されるようにしたものである。
【発明の効果】
【0057】
本発明は、以上説明したように構成されているので、検出された信号の時間情報に対する補正処理を必要としないという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1は、三次元中エネルギーイオン散乱装置(3D-MEIS装置)を示す概略構成説明図である。
【図2】図2(a)は、マイクロチャンネルプレートを示す概略構成斜視説明図であり、また、図2(b)は、各チャンネルにおける2次電子の発生状態を模式的に示す説明図である。
【図3】図3(a)は、従来の技術による位置敏感時間分析型検出器を示す概略構成斜視説明図であり、また、図3(b)は、図3(a)のA矢視図である。
【図4】図4は、現在使用されている図3(a)(b)に示す構造を備えた従来の位置敏感時間分析型検出器を斜め上方から撮影した写真である。
【図5】図5(a)は、照射したパルスイオンビームが試料の表面または界面を構成する原子に衝突して粒子を散乱した状態を模式的に示した説明図であり、また、図5(b)は、3D-MEIS装置において取得される2次元位置分布図の一例である。
【図6】図6は、3D-MEIS装置における信号処理システムを表すブロック構成説明図である。
【図7】図7は、従来の位置敏感時間分析型検出器で検出された信号の時間情報を補正するための補正係数を求める処理に用いるプレートの斜視説明図である。
【図8】図8(a)は、本発明による位置敏感時間分析型検出器を示す概略構成斜視説明図であり、また、図8(b)は、図8(a)のB矢視図である。
【図9】図9(a)(b)は、本発明による位置敏感時間分析型検出器に用いられる絶縁体を示す概略構成斜視説明図であり、また、図9(c)は、図9(a)のC-C線による断面図であり、また、図9(d)は、図9(b)のD-D線による断面図であり、また、図9(e)は、絶縁体を形成する際に使用する楕円柱形状を備えた絶縁材料を示す概略構成斜視説明図である。
【図10】図10は、本発明による位置敏感時間分析型検出器に用いられる絶縁体の具体例を示す構成説明図であり、図10(a)は、絶縁体の楕円周面を正面としたときの正面図であり、また、図10(b)は、絶縁体の楕円周面を正面としたときの左側面図であり、また、図10(c)は、絶縁体の楕円周面を正面としたときの底面図であり、また、図10(d)は、図10(c)の矢印Pで示す円で囲まれた部分を拡大した拡大説明図であり、図10(e)は、絶縁体の楕円周面を正面としたときの背面図である。
【図11】図11は、本発明による位置敏感時間分析型検出器に用いられる絶縁体の具体例を示す構成説明図であり、図11(a)は、絶縁体の楕円周面を正面としたときに正面図であり、また、図11(b)は、絶縁体の楕円周面を正面としたときの左側面図であり、また、図11(c)は、絶縁体の楕円周面を正面としたときの底面図であり、また、図11(d)は、図11(c)の矢印Qで示す円で囲まれた部分を拡大した拡大説明図であり、図11(e)は、絶縁体の楕円周面を正面としたときの背面図である。
【図12】図12は、ステンレスベースの具体例を示す構成説明図であり、図12(a)は、ステンレスベースの正面図であり、また、図12(b)は、ステンレスベースの平面図であり、また、図12(b)は、ステンレスベースの左側面図である。
【図13】図13(a)は、発明者によって作製された本発明による位置敏感時間分析型検出器を平面視から撮影した写真であり、また、図13(b)は図13(a)の一部を拡大した写真である。
【図14】図14は、本発明による位置敏感時間分析型検出器に用いられる絶縁体の変形例を示すための説明図であり、図14(a)は、変形例としての絶縁体を形成する際に使用する四角柱形状を備えた絶縁材料を示す概略構成斜視説明図であり、また、図14(b)(c)は、図14(a)に示す絶縁材料を切断した状態の絶縁体の変形例を示す概略構成斜視説明図である。
【図15】図15は、本発明による位置敏感時間分析型検出器に用いられる絶縁体の変形例を示すための説明図であり、図15(a)は、変形例としての絶縁体を生成する際に使用する略四角柱形状を備えた絶縁材料を示す概略構成斜視説明図であり、また、図15(b)(c)は、図15(a)に示す絶縁材料を切断した状態の絶縁体の変形例を示す概略構成斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による位置敏感時間分析型検出器、その作製方法およびそれを用いた三次元中エネルギーイオン散乱装置の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。

【0060】
なお、以下の説明においては、図1乃至図4を参照しながら説明した従来の位置敏感時間分析型検出器および3D-MEIS装置と同一または相当する構成については、上記において用いた符号と同一の符号を用いて示すことにより、その詳細な構成ならびに作用効果の説明は適宜に省略することとする。

【0061】
まず、図8(a)(b)および図9(a)(b)(c)(d)(e)を参照しながら、本発明による位置敏感時間分析型検出器について説明する。

【0062】
なお、図8(a)(b)においては、図3(a)(b)と同様に、本発明の理解を容易にするために、隣接するワイヤアノード同士の間隔を実際よりも広げて図示している。

【0063】
この図8(a)に示す位置敏感時間分析型検出器10は、略円柱形状を備えた一対の絶縁体122に代えて、楕円柱形状を備えた絶縁材料20を楕円の長軸で切断した形状の一対の絶縁体12を用いるとともに、略円柱形状を備えた一対の絶縁体128に代えて、楕円柱形状を備えた絶縁材料20を楕円の短軸で切断した形状の一対の絶縁体14を用いる点において、図3に示す位置敏感時間分析型検出器120と異なっている。

【0064】
そして、位置敏感時間分析型検出器10においては、軸線方向を平行に配置した一対の絶縁体12に対して、互いに第1の所定の間隔である間隔L1を開け、かつ、同一方向に所定の回数であるn回(「n」は、任意の正の整数である。)だけ2本のワイヤアノード124、126が巻回されており、また、軸線方向を平行に配置した一対の絶縁体14に対して、互いに間隔L1を開け、かつ、同一方向に上記所定の回数たるn回だけ2本のワイヤアノード130、132が巻回されている。

【0065】
より詳細には、絶縁体12と絶縁体14とは、それぞれ同一寸法の楕円柱形状を備えた絶縁材料20をそれぞれ加工して形成されている。

【0066】
即ち、絶縁体12は、楕円柱形状における楕円の長軸で絶縁材料20を切断して形成することができる(図9(e)を参照する。)。

【0067】
上記のようにして楕円の長軸で切断することにより形成された2つの部材が、一対の絶縁体12となるものであり、これら一対の絶縁体12が、第2の所定の間隔である間隔L2を開け、かつ、それぞれの切断面12bを対向するようにして配置されている(図9(a)を参照する。)。

【0068】
また、絶縁体14は、楕円柱形状における楕円の短軸で絶縁材料20を切断して形成することができる(図9(e)を参照する。)。

【0069】
上記のようにして楕円の短軸で切断することにより形成された2つの部材が、一対の絶縁体14となるものであり、これら一対の絶縁体14が、上記第2の所定の間隔である間隔L2を開け、かつ、それぞれの切断面14bを対向するようにして配置されている(図9(b)を参照する。)。

【0070】
そして、上記のように配置された一対の絶縁体12に対し、ワイヤアノード124、126が絶縁体12の楕円周面12aに当接するようにしてn回だけ巻回され、一対の絶縁体12間にワイヤアノード124、126が張設されている。

【0071】
同様に、上記のように配置された一対の絶縁体14に対し、ワイヤアノード130、132が絶縁体14の楕円周面14aに当接するようにしてn回だけ巻回され、一対の絶縁体14間にワイヤアノード130、132が張設されている。

【0072】
ところで、絶縁体12の高さH1は楕円柱形状を備えた絶縁材料20における楕円の長軸に相当し、一方、絶縁体14の高さH2は楕円柱形状を備えた絶縁材料20における楕円の短軸に相当するため、必然的に絶縁体12の高さH1は絶縁体14の高さH2に比べて高く(長く)なる。

【0073】
このため、絶縁体14に巻回されたワイヤアノード130、132を、絶縁体12に巻回されたワイヤアノード124、126と接することなしに、絶縁体12に巻回されたワイヤアノード124、126により形成された空間S2内に挿入した状態で配置することができ(図8(b)を参照する。)、これによりワイヤアノード124、126とワイヤアノード130、132とが接触することなく直交した状態に位置する2次元の検出領域が形成される。

【0074】
ここで、同一寸法の楕円柱形状の絶縁材料20から絶縁体12および絶縁体14を形成しているため、絶縁体12の楕円周面12aの円弧の長さと、絶縁体14の楕円周面14aの円弧の長さとは等しいものとなる。

【0075】
即ち、ワイヤアノード124、126が一対の絶縁体12と接触している長さ(距離)と、ワイヤアノード130、132が一対の絶縁体14と接触している長さ(距離)とは、互いに等しいものとなる。

【0076】
さらに、一対の絶縁体12と一対の絶縁体14とは、それぞれ間隔L2を開けて配置されており、こうした一対の絶縁体12ならびに一対の絶縁体14にそれぞれワイヤアノード124、126とワイヤアノード130、132とが間隔L1を開けてそれぞれn回巻回されているので、絶縁体に巻回されているワイヤアノードの長さ、つまり、ワイヤアノード124、126における点Qから点Rまでの長さとワイヤアノード130、132における点Sから点Tまでの長さとは同じ長さとなる。

【0077】
次に、本発明による位置敏感時間分析型検出器10を作製する際の一例について、具体的な寸法などを示しながら説明する。

【0078】
即ち、例えば、楕円柱形状における楕円の長軸の長さが12mm、当該楕円の短軸の長さが8mm、軸方向長さL3が120mmのセラミック製の絶縁材料20から、当該楕円の長軸において軸方向に沿って切断することにより絶縁体12を形成するとともに、当該楕円の短軸において軸方向に沿って切断することにより絶縁体14を形成する(図9(e)を参照する。)。

【0079】
このとき、絶縁体12は高さH1が12mm、幅W1が4mm、長さL4が120mmとなり(図9(a)(c)および図10(a)(b)(c)(d)(e)を参照する。)、絶縁体14は高さH2が8mm、幅W2が6mm、長さがL5が120mmとなる(図9(b)(d)および図11(a)(b)(c)(d)(e)を参照する。)。

【0080】
こうして形成された絶縁体12の楕円周面12aに、0.5mmピッチで幅0.25mm、深さ0.2mmの溝12cを形成する。

【0081】
同様に、上記のようにして形成された絶縁体14の楕円周面14aに、0.5mmピッチで幅0.25mm、深さ0.2mmの溝14cを形成する。

【0082】
上記した溝12c内にワイヤアノード124、126が巻回されることになり、また、上記した溝14c内にワイヤアノード130、132が巻回されることになるので、所望する間隔L1の寸法に応じて溝12c、14cを形成するピッチを調整すればよい。

【0083】
そして、一対の絶縁体14をそれぞれ切断面14bが間隔L2(間隔L2は、後述するステンレスベース30の寸法によって決定される。)を開けて対向するようにして、縦138mm×横138mmの略四角板形状の非磁性のステンレスベース30(図12(a)(b)(c)を参照する。)の対辺に固定的にそれぞれ配設する。

【0084】
なお、ステンレスベース30の高さH3は、絶縁体14の高さH2よりも低く(短く)なるように寸法設定されている。

【0085】
絶縁体14は、ステンレスベース30に対して、ステンレスベース30の外周縁面30aに切断面14bが当接し、かつ、絶縁体14の両端部たる端部14dと端部14eとが、それぞれ高さ方向においてステンレスベース30から突出するようにして固定されている。

【0086】
それから、ステンレスベース30を取り囲むようにして、溝14c内に位置決めされるようにワイヤアノード130、132となる径が0.2mmの2本の銅線を1mmピッチ(間隔L1=1mm)で巻き、ワイヤアノード130、132たる2本の銅線の両端部を固定する。

【0087】
なお、この具体例においては、間隔L2は、ステンレスベース30の寸法を適宜に設定することにより適宜に設定することができる。

【0088】
次に、一対の絶縁体12をそれぞれ切断面12bが間隔L2を開けて対向するようにして、絶縁体14が取り付けられていないステンレスベース30の残りの対辺に固定的にそれぞれ配設する。

【0089】
絶縁体12は、ステンレスベース30に対して、ステンレスベース30の外周縁面30aに切断面12bが当接し、かつ、絶縁体12の両端部たる端部12dと端部12eとが、それぞれ高さ方向においてステンレスベース30から突出するようにして固定されている。

【0090】
それから、ステンレスベース30を取り囲むようにして、溝12c内に位置決めされるようにワイヤアノード124、126となる径が0.2mmの2本の銅線を1mmピッチ(間隔L1=1mm)で巻き、ワイヤアノード124、126たる2本の銅線の両端部を固定する。

【0091】
これにより、図13(a)(b)に示すように、ワイヤアノード124、126とワイヤアノード130、132とが接触することなく直交した状態に位置する2次元の検出領域を備えた位置敏感時間分析型検出器を作製することができる。

【0092】
換言すれば、絶縁体12に巻回されたワイヤアノード124、126により形成された空間内に、絶縁体14に巻回されたワイヤアノード130、132が接触することなく配設されることになる。

【0093】
こうして作製された位置敏感時間分析型検出器10において、信号用のワイヤアノードには520Vを印加し、リファレンス用のワイヤアノードには480Vを印加して散乱された散乱粒子(イオン)を検出する。

【0094】
上記のようして作製された位置敏感時間分析型検出器10においては、絶縁体12の楕円周面12aの円弧の長さと絶縁体14の楕円周面14aの円弧の長さとが等しいものとなるため、ワイヤアノード124、126が絶縁体12に接触している長さとワイヤアノード130、132が絶縁体14に接触している長さとが等しくなる。

【0095】
さらに、ともに所定の間隔L2を開けて配置されている絶縁体12ならびに絶縁体14に対し、ワイヤアノード124、126ならびにワイヤアノード130、132がそれぞれ1mm間隔で所定の回数だけ巻回されているため、絶縁体12に巻回されている部分のワイヤアノード124、126の長さと絶縁体14に巻回されている部分のワイヤアノード130、132の長さとが等しくなる。

【0096】
従って、位置敏感時間分析型検出器10においては、各ワイヤアノードにおいて絶縁体と接触する部分の長さが全て等しくなり、また、各ワイヤアノードにおいて絶縁体と接触していない中空領域の部分の長さも等しくなるため、ワイヤアノードにおいて検出された信号の時間情報に関して各ワイヤアノード間で差異が生じることはないので、信号の時間情報の補正を行う必要がなくなる。

【0097】
つまり、位置敏感時間分析型検出器10においては、各ワイヤアノード間において、各ワイヤアノードを絶縁体に巻回することに起因する信号の時間情報の差異を生じることがない。

【0098】
さらに、誘電体の比誘電率は温度によって変化するものであるが、位置敏感時間分析型検出器10によれば、各ワイヤアノードにおいて絶縁体と接触する部分の長さが全て等しくなり、また、各ワイヤアノードにおいて絶縁体と接触していない中空領域の部分の長さも等しくなるため、温度が変化しても何らの補正を行う必要がない。

【0099】
このように、位置敏感時間分析型検出器10においては、ワイヤアノードと絶縁体との接触部分の長さや温度変化による絶縁体(誘電体)の比誘電率の変化に起因する信号の時間情報に関して、各ワイヤアノードで差異を生じることがない。

【0100】
即ち、各ワイヤアノード間において、従来の技術による位置敏感時間分析型検出器120においては、各ワイヤアノードを絶縁体に巻回することに起因する信号の時間情報の差異を補正する処理と、ワイヤアノードと絶縁体との接触部分の長さや温度変化による絶縁体(誘電体)の比誘電率の変化に起因する信号の時間情報の差異を補正する処理を行う必要があったが、本発明による位置敏感時間分析型検出器10においては、各ワイヤアノードを絶縁体に巻回することに起因する信号の時間情報の差異を生じることがなく、かつ、ワイヤアノードと絶縁体との接触部分の長さや温度変化による絶縁体(誘電体)の比誘電率の変化に起因する差異が生じない。

【0101】
このため、本発明による位置敏感時間分析型検出器10によれば、時間情報に関する補正処理を行う必要がなくなり、処理工程を簡素化することができるものである。

【0102】
さらにまた、物質の表面や界面の構造解析を行う際には、散乱粒子を測定したイメージ(2次元位置分布)の回転操作を行って、ブロッキングパターンなどを観察する場合があるが、本発明による位置敏感時間分析型検出器10においては、検出される信号の時間情報について各ワイヤアノード間で差異を生じないため、こうした際にも補正を行うことなくイメージの回転操作が可能となる。

【0103】
また、上記において説明した3D-MEIS装置100において、従来の位置敏感時間分析型検出器120に代えて本発明による位置敏感時間分析型検出器10を用いるようにして、位置敏感時間分析型検出器10とマイクロチャンネルプレート110とにより3D-MEIS装置100の検出部108を構成することができる。

【0104】
これにより、検出部108において検出された信号の時間情報に関する補正処理を行う必要がなくなるため、3D-MEIS装置100における処理工程が減少して、処理が簡素化されるようになる。

【0105】
また、物質の表面の汚染物評価などに用いられる飛行時間型分析二次イオン質量分析において、検出器として本発明による位置敏感時間分析型検出器10を用いることにより、3D-MEIS装置100の場合と同様に、検出された信号の時間情報に関する補正処理を行う必要がなくなるため処理工程が減少して、処理が簡素化されるようになる。

【0106】
なお、上記した実施の形態は、以下の(1)乃至(6)に示すように変形することができるものである。

【0107】
(1)上記した実施の形態においては、位置敏感時間分析検出装置10において、楕円柱形状を備えた絶縁材料20を楕円の長軸で切断した一対の絶縁体12と、楕円柱形状を備えた絶縁材料20を楕円の短軸で切断した一対の絶縁体14とを用いるようにしたが、これに限られるものではないことは勿論である。

【0108】
例えば、図14(a)に示すように、矩形柱形状の絶縁材料50を、図14(a)における破線部、即ち、矩形の対向する短辺の中点において切断して一対の絶縁体52を形成し(図14(b)を参照する。)、図14(a)における一点鎖線部、即ち、矩形の対向する長辺の中点において切断して一対の絶縁体54を形成する(図14(c)を参照する。)ようにしてもよい。

【0109】
そして、ワイヤアノード124、126およびワイヤアノード130、132は、切断面以外の面と当接するようにして、それぞれ絶縁体52および絶縁体54に所定の回数だけ巻回すればよい。

【0110】
また、図15(a)に示すように、矩形形状の四角に対して同じ曲率のR加工が施された略矩形形状の断面を有する略矩形柱の絶縁材料60を、図15(a)における破線部、即ち、略矩形形状の対向する短辺の中点において切断して一対の絶縁体62を形成し(図15(b)を参照する。)、図15(a)における一点鎖線部、即ち、略矩形形状の対向する長辺の中点において切断して絶縁体64を形成する(図15(c)を参照する。)ようにしてもよい。

【0111】
そして、ワイヤアノード124、126およびワイヤアノード130、132は、切断面以外の面と当接するようにして、それぞれ絶縁体62および絶縁体64に所定の回数だけ巻回すればよい。

【0112】
なお、図示は省略したが、断面が菱形の柱形状を備えた絶縁材料を、当該菱形における長対角線で切断して一対の絶縁体12に対応する絶縁体を形成し、また、当該菱形における短対角線で切断して一対の絶縁体14に対応する絶縁体を形成するようにしてもよいことは勿論である。

【0113】
要するに、一対の絶縁体12と一対の絶縁体14とは、ワイヤアノード124、126とワイヤアノード130、132とをそれぞれ巻回した際において、ワイヤアノード124、126とワイヤアノード130、132とがそれぞれ当接する距離が同一となり、かつ、一方の一対の絶縁体である絶縁体12に巻回されたワイヤアノード124、126により形成される空間内に、他方の一対の絶縁体である絶縁体14に巻回されたワイヤアノード130、132が配置可能なように形状ならびに寸法を設定すればよい。

【0114】
(2)上記した実施の形態においては、円形状のマイクロチャンネルプレートを用いるようにしていたが、矩形状のマイクロチャンネルプレートを用いるようにしてもよいことは勿論である。

【0115】
(3)上記した実施の形態において示した各種の寸法は一例に過ぎず、適宜に所望の寸法を用いて設計してよいことは勿論である。

【0116】
(4)上記した実施の形態においては、絶縁材料20を切断して絶縁体12ならびに絶縁体14を形成する場合について説明したが、絶縁体12ならびに絶縁体14は、絶縁材料20を切断して得られる形状と同一の形状を備えていればよいものであり、必ずしも絶縁材料20を切断して形成する必要はない。

【0117】
例えば、絶縁材料20を切断して得られる形状と同一の形状を備えるように、射出成形により絶縁体12や絶縁体14を形成するようにしてもよいし、あるいは、プレス成形により絶縁体12や絶縁体14を形成するようにしてもよい。

【0118】
要するに、絶縁体12ならびに絶縁体14は、絶縁材料20を切断して得られる形状と同一の形状を備えていればよいので、絶縁材料20を切断する手法以外に各種の手法を用いて絶縁体12ならびに絶縁体14を形成してもよいことは勿論である。

【0119】
(5)上記した実施の形態においては、信号用とリファレンス用との2本のワイヤアノードを用いた場合について説明したが、これに限られるものではないことは勿論であり、リファレンス用のワイヤアノードを用いなくてもよい場合には、1本のワイヤアノードのみを用いてこれを信号用とすればよい。

【0120】
(6)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(5)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、照射したイオンビームにより生じた散乱粒子を検出して物質の表面や界面を計測する際に用いることができる。
【符号の説明】
【0122】
10、120 位置敏感時間分析型検出器
12、14、52、54、62、64、122、128 絶縁体
20、50、60 絶縁材料
30 ステンレスベース
124、126、130、132 ワイヤアノード
100 3D-MEIS装置
102 試料
104 真空チャンバ
106 ビーム照射手段
108 検出部
110 マイクロチャンネルプレート
200 処理部
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図4】
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【図5】
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【図13】
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