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明細書 :認知機能評価システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5376595号 (P5376595)
登録日 平成25年10月4日(2013.10.4)
発行日 平成25年12月25日(2013.12.25)
発明の名称または考案の名称 認知機能評価システム
国際特許分類 A61B   5/11        (2006.01)
A61B   5/16        (2006.01)
A61B  10/00        (2006.01)
FI A61B 5/10 310A
A61B 5/16 300A
A61B 10/00 V
請求項の数または発明の数 11
全頁数 20
出願番号 特願2009-275168 (P2009-275168)
出願日 平成21年12月3日(2009.12.3)
審査請求日 平成24年11月29日(2012.11.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
【識別番号】505256434
【氏名又は名称】株式会社THF
発明者または考案者 【氏名】大藏 倫博
【氏名】尹 智暎
【氏名】小澤 多賀子
個別代理人の代理人 【識別番号】100110179、【弁理士】、【氏名又は名称】光田 敦
特許請求の範囲 【請求項1】
被測定者の身体機能の測定を行う装置と、身体機能の測定を行う装置で得られた数値データを処理して被測定者の認知機能を評価する評価装置を備えた認知機能評価システムであって、
前記身体機能の測定を行う装置は、タイムドアップアンドゴー測定装置、全身選択反応時間測定装置及びペグ移動測定装置であり、
前記タイムドアップアンドゴー測定装置は、被測定者が椅子から立ち上がって前方に一定距離をおいて設けたコーンを回り椅子に戻って着座するまでの時間を測定する手段であり、
前記全身選択反応時間測定装置は、複数の区画を有する区画付きマットと、被測定者が移動すべき移動先区画を指示する移動先区画指示装置及び移動時間計測装置とを備え、
前記ペグ移動測定装置は、上面に複数の孔の形成された盤と、該孔に挿脱可能な複数のペグとから成り、該孔に挿入された複数のペグを、前記盤のペグの挿入されていない孔に被測定者により移動して挿入可能な構成であり、
前記評価装置は、コンピュータが使用され、該コンピュータのCPUにより評価装置を統括的に制御する制御手段と、該制御手段に制御される認知機能評価値演算手段とを備え、該認知機能評価値演算手段は、前記身体機能の測定を行う装置で得られた数値データを処理して被測定者の認知機能評価値を算出する構成であることを特徴とする認知機能評価システム。
【請求項2】
前記全身選択反応時間測定装置の区画付きマットにおいて、複数の区画は、被測定者が移動の基本となるベース区画と移動先である移動先区画を備え、前記移動先区画指示装置は、被測定者がベース区画から移動すべき移動先区画を指示し、前記移動時間計測装置は、被測定者がベース区画から指示された移動先区画に全身移動するために要する時間を測定する構成であることを特徴とする請求項1に記載の認知機能評価システム。
【請求項3】
前記全身選択反応時間測定装置の区画付きマットは、平面視で十字型をしており、その中央がベース区画であり、該ベース区画の前後左右にそれぞれ移動先区画が形成されている構成であることを特徴とする請求項2記載の認知機能評価システム。
【請求項4】
前記認知機能評価値は脳パフォーマンス年齢であり、前記認知機能評価値演算手段は、身体機能の測定を行う装置で得られた数値データを下記の式1で脳パフォーマンス・スコアを算出し、該脳パフォーマンス・スコアに基づいて、下記の式2で脳パフォーマンス年齢を算出する構成であることを特徴とする請求項3記載の認知機能評価システム。
(式1)
脳パフォーマンス・スコア=1.76-0.279×X1-0.003×X2+0.070×X3
但し、X1:タイムドアップアンドゴー測定で得られた時間(秒)、X2:全身選択反応時間測定装置においてランダムに指示された前後左右の4方向の移動先区画への各3回、合計12回の全身移動動作についての1回あたりの全身選択反応時間の平均タイム(ミリ秒)、X3:ペグ移動個数/30秒
(式2)
脳パフォーマンス年齢=40.5+ 0.451×暦年齢-5.36×脳パフォーマンス・スコア
但し、暦年齢は、被測定者の満年齢のことである。
【請求項5】
前後左右の移動先区画のそれぞれの上面には符号が付されており、前記移動先区画指示装置は、被測定者がベース区画から移動すべき移動先区画を当該移動先区画に付された符号で指示する構成であることを特徴とする請求項3又は4記載の認知機能評価システム。
【請求項6】
前記移動先区画指示装置は、前記ベース区画の前方であって前記区画付きマットが敷設される床面の上方に設置されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の認知機能評価システム。
【請求項7】
タイムドアップアンドゴー測定装置における時間の測定装置として、ストップウォッチが使用される構成であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の認知機能評価システム。
【請求項8】
ペグ移動測定装置の盤は、互いに開閉可能な一対の半盤から折りたたみ自在に構成されており、前記複数の孔は、一対の半盤のそれぞれに同数、マトリクス状に形成されており、複数のペグは、一対の半盤のいずれか一方の複数の孔の全てに挿入される数だけ設けられており、被測定者により、一対の半盤の一方の半盤に挿入されている複数のペグを抜いて他方の盤に移動して挿入可能である構成を特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の認知機能評価システム。
【請求項9】
被測定者の身体機能の測定を行う装置と、身体機能の測定を行う装置で得られた数値データを処理して被測定者の認知機能を評価する評価装置を備えた認知機能評価システムであって、
前記身体機能の測定を行う装置は、通常歩行タイム測定装置、全身選択反応時間測定装置及びペグ移動測定装置であり、
前記通常歩行タイム測定装置は、一定の距離を被測定者が歩行するために要する時間を測定する手段であり、
前記全身選択反応時間測定装置は、複数の区画を有する区画付きマットと、被測定者が移動すべき移動先区画を指示する移動先区画指示装置及び移動時間計測装置とを備え、
前記ペグ移動測定装置は、上面に複数の孔の形成された盤と、該孔に挿脱可能な複数のペグとから成り、該孔に挿入された複数のペグを、前記盤のペグの挿入されていない孔に被測定者により移動して挿入可能な構成であり、
前記評価装置は、コンピュータが使用され、該コンピュータのCPUにより評価装置を統括的に制御する制御手段と、該制御手段に制御される認知機能評価値演算手段とを備え、該認知機能評価値演算手段は、前記身体機能の測定を行う装置で得られた数値データを処理して被測定者の認知機能評価値を算出する構成であることを特徴とする認知機能評価システム。
【請求項10】
前記認知機能評価値は脳パフォーマンス年齢であり、前記認知機能評価値演算手段は、身体機能の測定を行う装置で得られた数値データを下記の式1でパフォーマンス・スコアを算出し、該脳パフォーマンス・スコアに基づいて、下記の式2で脳パフォーマンス年齢を算出する構成であることを特徴とする請求項9記載の認知機能評価システム。
(式1)
脳パフォーマンス・スコア=2.52-0.766×X1-0.002×X2+0.062×X3
但し、X1:5m通常歩行タイム(秒)、X2:全身選択反応時間測定装置においてランダムに指示された前後左右の4方向の移動先区画への各3回、合計12回の全身移動動作についての1回あたりの全身選択反応時間の平均タイム(ミリ秒)、X3:ペグ移動個数/30秒
(式2)
脳パフォーマンス年齢=15.05+ 0.79×暦年齢-5.21×脳パフォーマンス・スコア
但し、暦年齢は、被測定者の満年齢である。
【請求項11】
通常歩行タイム測定装置は、前記一定の距離の始点及び終点にそれぞれ設けられたセンサと、被測定者が始点センサで検知されると時間計測を開始し終点センサで時間計測を終了する時間計測装置とを備えていることを特徴とする請求項9又は10に記載の認知機能評価システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者等の認知機能(脳機能、脳パフォーマンス)を向上させて、かつ評価する認知機能評価システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会を迎え、高齢者の人口が増加しているが、肉体的には健康を維持、増進し、認知症等により生じる認知機能の低下を少しでも防止することにより、家庭生活、社会生活等においても活き活きとした生活が送れるようなことが社会的に重要な課題となっている。
【0003】
そのために、各人の認知機能、具体的には脳機能(脳パフォーマンス)を客観的に評価し、その評価に基づいて、認知機能の低下を防止、或いは積極的に向上させるためのいろいろな方策、手段を検討し、実施することが要請されている。また、高齢者が目的をもって、しかも高齢者に無理なく、楽しくスポーツする手段も要請されている。
【0004】
このような事情を鑑み、本発明者らは、認知機能の低下に基づくものと考えられる高齢者等の転倒を予防する目的で、筋力および平衡感覚を向上させるための運動に用いる運動用具を提案している(特許文献1参照)。この運動用具は、平板状を呈するマット体に、境界部で仕切られ接地面及び開口部を有する複数の歩行表示部を有し、運動者を、接地面及び境界部により形成された所定高さの段差によって爪先立ちの状態に強制するものである。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特許第4191526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示すような、高齢者に適した運動用具は、高齢者の体力の向上に健康増進、病後の身体機能を回復させるリハビリテーション等に一定の成果をもたらす。このような運動用具による健康増進、リハビリテーションをする際に、使用者の身体機能の程度、運動能力を適正に客観的に評価して、その評価を基に適切なこれらの運動を続ければより健康増進、リハビリテーションの効果が生じる。
【0007】
ところで、本発明者が、この運動用具により高齢者の運動を指導する過程で、身体機能は、脳機能とも密接な関連性があり、いくつかの異なる運動をすることで、身体機能と脳機能の賦活を融合することが可能であり、また、運動を通して得られた身体機能の程度によって認知機能(脳機能)を評価できるという知見を得た。
【0008】
以上の知見を基に、本発明は、いくつかの異なる運動を通して得られた身体機能の程度により、認知機能の評価を可能とし、さらに認知機能の向上を可能とする認知機能の評価システムを実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために、被測定者の身体機能の測定を行う装置と、身体機能の測定を行う装置で得られた数値データを処理して被測定者の認知機能を評価する評価装置を備えた認知機能評価システムであって、前記身体機能の測定を行う装置は、タイムドアップアンドゴー測定装置、全身選択反応時間測定装置及びペグ移動測定装置であり、前記タイムドアップアンドゴー測定装置は、被測定者が椅子から立ち上がって前方に一定距離をおいて設けたコーンを回り椅子に戻って着座するまでの時間を測定する手段であり、前記全身選択反応時間測定装置は、複数の区画を有する区画付きマットと、被測定者が移動すべき移動先区画を指示する移動先区画指示装置及び移動時間計測装置とを備え、前記ペグ移動測定装置は、上面に複数の孔の形成された盤と、該孔に挿脱可能な複数のペグとから成り、該孔に挿入された複数のペグを、前記盤のペグの挿入されていない孔に被測定者により移動して挿入可能な構成であり、前記評価装置は、コンピュータが使用され、該コンピュータのCPUにより評価装置を統括的に制御する制御手段と、該制御手段に制御される認知機能評価値演算手段とを備え、該認知機能評価値演算手段は、前記身体機能の測定を行う装置で得られた数値データを処理して被測定者の認知機能評価値を算出する構成であることを特徴とする認知機能評価システムを提供する。
【0010】
前記全身選択反応時間測定装置の区画付きマットにおいて、複数の区画は、被測定者が移動の基本となるベース区画と移動先である移動先区画を備え、前記移動先区画指示装置は、被測定者がベース区画から移動すべき移動先区画を指示し、前記移動時間計測装置は、被測定者がベース区画から指示された移動先区画に全身移動するまでに要する時間を測定する構成であることが好ましい。
【0011】
前記全身選択反応時間測定装置の区画付きマットは、平面視で十字型をしており、その中央がベース区画であり、該ベース区画の前後左右にそれぞれ移動先区画が形成されている構成であることが好ましい。
【0012】
前記認知機能評価値は脳パフォーマンス年齢であり、前記認知機能評価値演算手段は、身体機能の測定を行う装置で得られた数値データを下記の式1で脳パフォーマンス・スコアを算出し、該脳パフォーマンス・スコアに基づいて、下記の式2で脳パフォーマンス年齢を算出する構成であることが好ましい。
(式1)
脳パフォーマンス・スコア=1.76-0.279×X1-0.003×X2+0.070×X3
但し、X1:タイムドアップアンドゴー測定で得られた時間(秒)、X2:全身選択反応時間測定装置においてランダムに指示された前後左右の4方向の移動先区画への各3回、合計12回の全身移動動作についての1回あたりの全身選択反応時間の平均タイム(ミリ秒)、X3:ペグ移動個数/30秒
(式2)
脳パフォーマンス年齢=40.5+ 0.451×暦年齢-5.36×脳パフォーマンス・スコア
但し、暦年齢は、被測定者の満年齢のことである。
【0013】
前後左右の移動先区画のそれぞれの上面には符号が付されており、前記移動先区画指示装置は、被測定者がベース区画から移動すべき移動先区画を当該移動先区画に付された符号で指示する構成であることが好ましい。
【0014】
前記移動先区画指示装置は、前記ベース区画の前方であって前記区画付きマットが敷設される床面の上方に設置されていることが好ましい。
【0015】
タイムドアップアンドゴー測定装置における時間の測定装置として、ストップウォッチが使用される構成であることが好ましい。
【0016】
ペグ移動測定装置の盤は、互いに開閉可能な一対の半盤から折りたたみ自在に構成されており、前記複数の孔は、一対の半盤のそれぞれに同数、マトリクス状に形成されており、複数のペグは、一対の半盤のいずれか一方の複数の孔の全てに挿入される数だけ設けられており、被測定者により、一対の半盤の一方の半盤に挿入されている複数のペグを抜いて他方の盤に移動して挿入可能である構成であることが好ましい。
【0017】
本発明は上記課題を解決するために、被測定者の身体機能の測定を行う装置と、身体機能の測定を行う装置で得られた数値データを処理して被測定者の認知機能を評価する評価装置を備えた認知機能評価システムであって、前記身体機能の測定を行う装置は、通常歩行タイム測定装置、全身選択反応時間測定装置及びペグ移動測定装置であり、前記通常歩行タイム測定装置は、一定の距離を被測定者が歩行するために要する時間を測定する手段であり、前記全身選択反応時間測定装置は、複数の区画を有する区画付きマットと、被測定者が移動すべき移動先区画を指示する移動先区画指示装置及び移動時間計測装置とを備え、前記ペグ移動測定装置は、上面に複数の孔の形成された盤と、該孔に挿脱可能な複数のペグとから成り、該孔に挿入された複数のペグを、前記盤のペグの挿入されていない孔に被測定者により移動して挿入可能な構成であり、前記評価装置は、コンピュータが使用され、該コンピュータのCPUにより評価装置を統括的に制御する制御手段と、該制御手段に制御される認知機能評価値演算手段とを備え、該認知機能評価値演算手段は、前記身体機能の測定を行う装置で得られた数値データを処理して被測定者の認知機能評価値を算出する構成であることを特徴とする認知機能評価システムを提供する。
【0018】
前記認知機能評価値は脳パフォーマンス年齢であり、前記認知機能評価値演算手段は、身体機能の測定を行う装置で得られた数値データを下記の式1でパフォーマンス・スコアを算出し、該脳パフォーマンス・スコアに基づいて、下記の式2で脳パフォーマンス年齢を算出する構成であることが好ましい。
(式1)
脳パフォーマンス・スコア=2.52-0.766×X1-0.002×X2+0.062×X3
但し、X1:5m通常歩行タイム(秒)、X2:全身選択反応時間測定装置においてランダムに指示された前後左右の4方向の移動先区画への各3回、合計12回の全身移動動作についての1回あたりの全身選択反応時間の平均タイム(ミリ秒)、X3:ペグ移動個数/30秒
(式2)
脳パフォーマンス年齢=15.05+ 0.79×暦年齢-5.21×脳パフォーマンス・スコア
但し、暦年齢は、被測定者の満年齢である。
【0019】
通常歩行タイム測定装置は、前記一定の距離の始点及び終点にそれぞれ設けられたセンサと、被測定者が始点センサで検知されると時間計測を開始し終点センサで時間計測を終了する時間計測装置とを備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る認知機能評価システムによれば、次のような効果が生じる。身体機能を測定することで、認知機能(年齢尺度)を評価することができるので、特別の認知機能検査などで精神的苦痛を感じることなく、むしろ体を動かす喜びや楽しさを感じながら認知機能の評価ができ、かつ、身体トレーニングによって認知機能の改善も可能とすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明及び実施例1の全体構成を説明する図である。
【図2】本発明の実施例1のタイムドアップアンドゴー測定装置を説明する図である。
【図3】本発明の実施例1の全身選択反応時間測定装置の具体的構成例を説明する図である。
【図4】本発明の実施例1のペグ移動測定装置の具体的構成例を説明する図であり、(a)はペグ移動測定装置の斜視図であり、(b)は測定状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施例1の評価装置を説明する図であり、(a)は構成を示し、(b)は評価装置が備える機能的に見た手段を説明する図である。
【図6】暦年齢と脳パフォーマンス年齢の関係を表す回帰直線を示す図であり、(a)は補正前の回帰直線を示し、(b)は補正後の回帰直線を示す。
【図7】本発明に係る認知機能評価システムを使用した実証テストの結果を示す図である。
【図8】本発明の実施例2の通常歩行タイム測定装置の具体的な構成例を説明する図である。(a)、(b)は構成例1の平面図及び側方から見た図であり、(c)は構成例2の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る認知機能評価システムを実施するための形態を実施例に基づき図面を参照して、以下説明する。

【0023】
(前提となる考え)
まず、本発明に係る認知機能評価システムを想到するに至った基礎(前提)となっている考え方を説明する。

【0024】
人は加齢とともに、老化する。この老化は、筋力や持久力の低下といった身体機能の低下に限ったことではなく、頭(脳)の老化も含まれる。脳の老化(変化)が異常に進むと発症するのが認知症である。認知症の診断には、ファンクショナル MRIなどの脳断層写真を用いた専門医による判断が必要であるが、簡便な問答形式の認知機能検査(mini-mental state examination:MMSEなど)でも、ある程度の診断が可能である。

【0025】
この簡便な認知機能検査では、記憶力、注意力、判断力、視空間認知能力、言語能力、学習能力など、いわゆる日常生活で必要とされる認知機能(脳機能)を評価する。ところが、例えば MMSEは、質問内容が一見幼稚でありながら、意外にも解答しづらい内容(例:「今日は何月何日何曜日ですか?」、「さきほど覚えた3つの物の名前を答えてください」など)が多く含まれており、被測定者(患者)はうまく答えられないと精神的苦痛(屈辱感、無力感、落胆)を感じることがあり、一般に高齢者には好まれないという本質的な弱点がある。

【0026】
本発明者は、高齢者において、認知機能(脳機能)は身体機能と相互に強く関連しあう相互フィードバックの関係にあることに着目した。つまり、認知機能に優れる者(高齢者)は身体機能も高く、逆に身体機能が高い高齢者は認知機能にも優れるという関係が成り立つ。

【0027】
以上のような状況を総合的に鑑みた結果、認知機能(年齢尺度)を身体機能から評価できれば、認知機能検査などで精神的苦痛を感じることなく、むしろ体を動かす喜びや楽しさを感じながら認知機能の評価ができ、かつ、身体トレーニングによって認知機能の改善も可能とすることが出来るという発想に至った。

【0028】
本発明者らは、実証のために、認知症でない高齢者100名余の認知機能と身体機能を測定し、身体機能と認知機能との相互関連性を検討したところ、次の(1)~(3)の3つの身体機能項目が認知機能と有意に関連しているという知見を得た。
(1)タイムドアップアンドゴー
(2)全身選択反応時間
(3)ペグ移動

【0029】
ここで、「タイムドアップアンドゴー」の測定とは、一言で表現すると「立ち上がり往復歩行時間」の測定を意味する。即ち、実施例1で詳細に説明するが、本明細書及び発明においては、椅子から立ち上がって前方に歩行(ゴー)し、一定距離をおいて前方に設けたコーンの周り椅子に戻って着座するまでの時間(タイム)を測定する内容を意味する。なお、後記の実施例2で説明するが、タイムドアップアンドゴーに替えて、通常歩行タイムの測定により本発明に係る認知機能評価システムを構築してもよい。

【0030】
なお、上記3項目の身体機能項目の測定を行うことは、認知機能の軽微な低下者に対するトレーニング対策ともなる。即ち、
(1)タイムドアップアンドゴーの測定を実施することで、立ち上がり及び着座における脚の屈伸運動と、歩行運動(ウォーキング)と、方向転換動作と、をおこなうことができる。
(2)全身選択反応時間の実施をすることで、素早い動きで敏捷性をトレーニングすることができる。
(3)ペグ移動について言えば、手先の器用さを必要とする動作、運動を行うことができる。
【実施例】
【0031】
以上の前提となる基本的な考えに基づいて想到された本発明に係る認知機能評価システムの実施例1を以下説明する。
【実施例】
【0032】
本発明に係る認知機能評価システム1は、いろいろな観点から身体機能の測定を行い、その結果得られた数値データを処理して認知機能を評価する(認知機能を評価する尺度となる値を算出する)システムであり、身体機能の測定を行う装置(認知機能の測定手段)2と、身体機能の測定を行う装置2で得られた数値データを処理して認知機能を評価する(認知機能を評価する尺度となる値を算出する)評価装置3とから成る。ここで、認知機能を評価する尺度となる値については、実施例1では、後記するが、「脳パフォーマンス年齢」という数値を採用した。
【実施例】
【0033】
(身体機能の測定を行う装置)
身体機能の測定は、実施例1では、前記した3つの測定、即ち(1)タイムドアップアンドゴーに要する時間、(2)全身選択反応時間、及び(3)所定時間でのペグ移動個数を対象として、これらの測定のために、実施例1では、タイムドアップアンドゴー測定装置4、全身選択反応時間測定装置5、及びペグ移動測定装置6を実施例1の認知機能評価システム1の構成要件としている。
【実施例】
【0034】
(1)タイムドアップアンドゴー測定装置
タイムドアップアンドゴー測定装置4は、被測定者9が椅子から立ち上がって(アップ)前方に歩行(ゴー)し、一定距離をおいて前方に設けたコーン11を回り椅子10に戻って着座するまでの時間(タイム)を測定するために必要な手段である。
【実施例】
【0035】
具体的には、図2(a)に示すように、椅子10と、椅子10から一定距離おいて設けたコーン11と、上記時間(タイム)を測定する時間計測装置12を備えている。最も簡単な時間計測装置12は、ストップウォッチである。なお、椅子10とコーン11の間の「一定距離」については、実施例1では、椅子10の中央からコーン11の中心までの距離を「3m」とした。
【実施例】
【0036】
ストップウォッチによる、具体的な測定の仕方は、椅子10に座った被測定者9が立ち上がった際にタイム測定を開始し、前方のコーン11まで歩行し、コーン11を周って椅子10まで歩行し、着座した点をタイム測定の終了とし、このようなタイム測定開始からタイム測定終了までの時間を少数第2位まで記録する。このような測定を2回行う。
【実施例】
【0037】
なお、タイムドアップアンドゴー測定では、次の点が留意されるべきである。
ア.コーン11の回り方は、右回りでも左回りでもよい。
イ.歩行は最大速度であることが好ましいが、走行(走る)ではない。
ウ.椅子10は、被測定者9が立ち上がる際、及び着座する際に、動かないように床に適宜固定するか、又は測定者が支持していることが好ましい。
【実施例】
【0038】
このタイムドアップアンドゴー測定において、被測定者9が椅子10から立ち上がり、歩行してコーン11を回って折り返し歩行して着座するまでの時間を測定するための時間計測装置12の別の態様として、図2(b)に示すように、椅子10の座部に被測定者9が座っているか否かを検知する検知センサ13を設け、この検知センサ13を時間計測装置12に接続した構成で、上記時間(タイム)を自動計測する構成としてもよい。
【実施例】
【0039】
このような検知センサ13としては、被測定者9が椅子10に座っている状態と、いない状態を検知する重量センサ(圧電素子等の圧力センサ)又は光センサを利用してもよい。この重量センサ又は光センサにより、被測定者9が椅子10から立ち上がって離れた状態を検知し、この検知信号により時間計測装置12によりタイム測定を開始し、コーン11を回って椅子10に戻り座った状態を検知し、この検知信号により時間計測装置12によりタイム測定を終了し、この間の時間が測定される。
【実施例】
【0040】
そして、時間計測装置12を、図2(b)に示すように、評価装置3として使用するコンピュータに接続して、タイムドアップアンドゴー測定で得られた測定時間に係る数値データを、評価装置3に入力できる構成とする。
【実施例】
【0041】
或いは、図2(c)に示すように、検知センサ13を評価装置3(コンピュータ)に接続して、被測定者9が椅子10から立ち上がった際に検知した検知信号及び着座した際の検知信号を、それぞれ評価装置3に送信して、コンピュータの機能を利用し時間測定を行いその結果をそのまま評価装置3で評価テータとして使用する構成としてもよい。
【実施例】
【0042】
(2)全身選択反応時間測定装置
この全身選択反応時間の測定装置は、被測定者9の身体的な反応性と判断力を測定する装置であり、いろいろな手段が考えられるが、この実施例1では、次のような測定装置を使用する。
【実施例】
【0043】
この全身選択反応時間測定装置20は、図3に示すように、複数の区画の形成された区画付きマット21と、移動先指示装置22と、移動時間計測装置23とを備えている。
【実施例】
【0044】
区画付きマット21は、実施例1では、平面視で十字型に形成されている。この十字型の区画付きマット21は、中央部24、前方部25、右方部26、後方部27及び左方部28の複数の区画から成り、前方部25、右方部26、後方部27及び左方部28の表面には、例えば、符号として1~4の番号が付与されている。
【実施例】
【0045】
中央部24の区画は、被測定者9が移動の基本位置として立つ場所であるからベース区画と称し、このベース区画24から前方部25、右方部26、後方部27及び左方部28のいずれかに移動し、さらにベース区画24に戻るので、前方部25、右方部26、後方部27及び左方部28を移動先区画と称する。
【実施例】
【0046】
移動先指示装置22は、左右上下の4方向への細長い方向表示29が選択的に赤く光る発光機31から構成されている。この方向表示29の選択的な発光は、検査者が遠隔操作で選択的に左右上下の4方向への方向表示29の選択スイッチを操作して逐次変化させる構成としてもよい。
【実施例】
【0047】
選択スイッチは、移動先指示装置22の本体に内蔵されていてもよいし、図3に示すように別体の選択スイッチ32として入力ライン33で移動先指示装置22に接続してもよい。この場合、選択スイッチは、手動で方向表示29を選択するような構成としてもよい。
【実施例】
【0048】
或いは、選択スイッチ32は、スイッチを入れると、自動的に、一定の時間間隔をおいて連続的かつランダム的若しくは規則的に、方向表示29を変化させる制御装置で制御可能な構成としてもよい。この場合は、制御装置として後記する評価装置3として使用するコンピュータを利用してもよい。即ち、移動先指示装置22の入力ライン33をコンピュータに接続し、移動先指示装置22を制御する制御装置として、コンピュータのCPUによる制御機能を利用するようにしてもよい。
【実施例】
【0049】
移動先指示装置22は、全身選択反応時間の測定においては、区画付きマット21の前方に設けられ、被測定者9が区画付きマット21上での移動運動を行いながら、前方において常に見える状態に設置する。この実施例1では、区画付きマット21の前方部25の最前端からの間隔L=100cmであり、かつ区画付きマット21の敷設された床面からの高さH=130cmの位置に設置される。
【実施例】
【0050】
移動時間計測装置23は、被測定者9がベース区画(中央部)24から、移動先指示装置22でランダムに指示された前方部25、右方部26、後方部27及び左方部28の全ての方向の部位に、順次、片足ずつ全身移動する全身移動動作を、前記全ての方向にそれぞれ3回、合計12回行いその各回毎に要する時間を計測する手段である。実際は、上記12回のそれぞれに要する時間を計測し、その合計時間(12回の全身移動動作に要する時間)を12で除した1回あたりの全身選択反応時間の平均タイムを後記する式1に入れる。
【実施例】
【0051】
具体的には、区画付きマット21の内部又は下方に、ベース区画(中央部)24、前方部25、右方部26、後方部27及び左方部28のそれぞれに対応して重量センサ((圧電素子等の圧力センサ等。図示せず)を設け、これらの重量センサを移動時間計測装置23に入力線34で接続し、前記12回の全身移動動作のために要する時間を計測する構成としてもよい。この場合も実際は、上記12回のそれぞれに要する時間を計測し、その合計時間(12回の全身移動動作に要する時間)を12で除した1回あたりの全身選択反応時間の平均タイムを使用する。
【実施例】
【0052】
(3)ペグ移動測定装置
ペグ移動測定装置6は、被測定者9の巧緻性(器用さ)及び集中力を検査する手段であり、盤40と複数のペグ(小さな杆)41とを備えている。盤40は、互いに開閉可能な一対の半盤(2枚の半盤)42、43から成り折りたたみ可能に構成されている。
【実施例】
【0053】
一方の半盤41を被測定者9から遠い位置とし、他方の半盤43を被測定者9から近い位置になるように、一対の半盤42、43を開いて水平な状態にして机等の上に載置して使用される。被測定者9から、遠い位置の半盤42を「遠位の半盤」と称し、近い位置の半盤43を「近位の半盤」と称する。遠位の半盤42及び近位の半盤43は、それぞれ複数の孔(例えば、48個の孔)44がマトリクス状に形成され、これらの孔44はいずれもペグ41が挿脱自在に構成されている。
【実施例】
【0054】
そして、ペグ移動測定装置6によってペグ移動の測定をする際には、遠位の半盤42及び近位の半盤43のいずれか一方の全ての複数の孔44に、複数(例えば、48本)のペグ41が挿入された状態となっている。被測定者9は、遠位の半盤42又は近位の半盤43の孔44に挿入されているペグ41を2本ずつ、近位の半盤43又は遠位の半盤42の孔44に移し変える。
【実施例】
【0055】
ペグ移動測定装置6を使用しペグ移動の測定は、定時間測定モードと定数測定モードがある。実施例1では、定時間測定モードを使用するが、この定時間測定モードでは、一定の時間(例えば、30秒間)の間に、遠位の半盤42又は近位の半盤43の孔44に挿入されているペグ41を2本ずつ、近位の半盤43又は遠位の半盤42の孔44に移し変え、その本数を測定実施者が目視で確認する。
【実施例】
【0056】
なお、定数測定モードは、実施例1では使用しないが、遠位の半盤42又は近位の半盤43の全ての孔44に挿入されているペグ41を2本ずつ、近位の半盤43又は遠位の半盤42の全ての孔44に移し変え、これに要した時間をストップウォッチで計測する測定モードである。必要に応じて、定数測定モードを採用し本発明に係る認知機能評価システムを構築してもよい。
【実施例】
【0057】
(評価装置)
評価装置3は、身体機能の測定を行う装置2で得られた数値データを処理して、脳機能を評価する装置であり、具体的には、通常のコンピュータを利用し、そのCPUの演算機能を使用するものである。実施例1では、認知機能の程度を評価する尺度である認知機能評価値として、造語ではあるが、「脳パフォーマンス年齢」という考えを導入し、評価装置3は、この脳パフォーマンス年齢を算出する評価手段として機能するものである。
【実施例】
【0058】
評価装置3の構成を説明する前に、本発明の前提として導入した「脳パフォーマンス年齢」を説明する。脳パフォーマンス年齢は、必ずしも、医学的(解剖学的、精神医学的等)及び生理学的に分析した結果から得られる、人の年齢相当の脳の機能を精密に示すようなものではなく、およそどのくらいの年齢の脳機能であるか、認知機能の程度を評価する一つの分かりやすい尺度になるものである。
【実施例】
【0059】
今後、本発明に係る認知機能評価システム1を使用して、多くの被測定者9についてデータを取得し(例えば、図7参照)て積み重ねることで、人の年齢相当の脳の機能の標準に資する評価が可能となるものと考えられる。また、「脳パフォーマンス年齢」は、実際には、身体機能(パフォーマンス)測定で代用され得るものである。
【実施例】
【0060】
認知機能を評価するために、「脳パフォーマンス年齢」を算出する手段は次のとおりである。まず、3つの身体機能項目に対して多変量解析で、「脳パフォーマンス・スコア」なる値を算出する次の算出式1を使用する。
【実施例】
【0061】
(式1)
脳パフォーマンス・スコア=1.76-0.279×X1-0.003×X2+0.070×X3
但し、X1:タイムドアップアンドゴー測定時間(秒)、X2:全身選択反応時間測定装置においてランダムに指示された前後左右の4方向の移動先区画への各3回、合計12回の全身移動動作についての1回あたりの全身選択反応時間の平均タイム(ミリ秒)、X3:ペグ移動個数/30秒
【実施例】
【0062】
ここで、主成分分析を施すことで算出する脳パフォーマンス・スコアについて、説明を補足する。主成分分析は、各測定項目の成分(要素)を抽出する手段である。例えば、握力や背筋力、脚伸展筋力といったヒトの筋力(筋機能)を評価するような体力測定項目データを用いて主成分分析を行うと、「筋機能得点(スコア)」と想定される成分が抽出される。
【実施例】
【0063】
本発明では、これと同様のやり方で、脳機能(脳パフォーマンス)と関連の強い3項目(タイムドアップアンドゴー、全身選択反応時間、ペグ移動)から脳機能(脳パフォーマンス・スコア)を反映すると考えられる成分を抽出したものである。なお、詳細は省略するが、上記式1は、統計解析専用のソフト「SPSS Statistics 17.0」(エス・ピ-・エス・エス株式会社、(英名)SPSS. Japan Inc.製、SPSSは登録商標名)を用いて、100名余の高齢者のデータで主成分分析を行って上記式1を作成した。係数は、上記ソフトで統計学的な計算を基に自動的に計算されて得られたものである。
【実施例】
【0064】
脳パフォーマンス・スコアに暦年齢の標準偏差を乗じ、対象高齢者の暦年齢の平均値を足すことで算出されるDubinaの補正項適用前の脳パフォーマンス年齢の算出式を次に示す。
(式1’)
Dubinaの補正項適用前の脳パフォーマンス年齢
=-5.36×脳パフォーマンス・スコア+73.9
但し5.36は対象高齢者の年齢の標準偏差であり、73.9は平均年齢である。
【実施例】
【0065】
そして、Dubinaの補正項を適用して、脳パフォーマンス・スコアや暦年齢を変数とする「脳パフォーマンス年齢」なる値を算出する次の算出式2を作成した。
(式2)
脳パフォーマンス年齢=40.5+ 0.451×暦年齢-5.36×脳パフォーマンス・スコア
但し、暦年齢は、被測定者の満年齢のことである
【実施例】
【0066】
ここで、脳パフォーマンス年齢について説明を補足する。脳パフォーマンス・スコアに暦年齢の標準偏差を乗じ、対象となった高齢者の暦年齢の平均値を足したものが脳パフォーマンス年齢である。しかし、この方法では、線形モデル固有のエラーが生じ、過大評価(真実より若過ぎる)または過小評価された(真実より老い過ぎる)年齢が算出される可能性がある。
【実施例】
【0067】
図6は、暦年齢と脳パフォーマンス年齢の関係を表す回帰直線を示す図である。図6中、Rは重相関係数を示す。また、P(P値)とは、probability value のことで、確率値とか危険値と訳される。一般にP値が0.05未満のとき、有意性が認められると解釈される。従って、図6に示す場合は、暦年齢と脳パフォーマンス年齢の関連性(重相関係数)は有意である。
【実施例】
【0068】
補正前(図6(a)参照)の暦年齢と脳パフォーマンス年齢の関係を表す回帰直線の傾きは0.5487であり、y=x(関数の一次方程式を表す直線。identity line)の傾き1.00と比べると有意に小さいことがわかる。
【実施例】
【0069】
例えば、暦年齢が平均値より高い80歳の場合、x = 80を補正前の回帰直線方程式y = 0.5487x + 33.36に代入すると脳パフォーマンス年齢は77.26歳と算出され、約3歳若く計算(過大評価)される傾向にあることがわかる。一方、平均値より若い65歳の場合、x = 65を補正前の回帰直線方程式y = 0.5487x + 33.36に代入すると脳パフォーマンス年齢は69.03歳と算出され、約4歳も老いて計算(過小評価)される傾向にあることがわかる。
【実施例】
【0070】
そこで、Dubinaら(1983)の補正項(個人の暦年齢を反映させる項目)を加える。補正後(図6(b)参照)には、回帰直線の傾きが顕著に改善し、ほぼ1.00になったことがわかる。
【実施例】
【0071】
以下、さらに詳細に説明すると、「Dubinaら(1983)の補正項」は統計学者の間では有名な方法である。脳パフォーマンス・スコアに暦年齢の標準偏差(5.36)を乗じ、対象となった高齢者の暦年齢の平均値(73.9歳)を足したものが脳パフォーマンス年齢(式1’参照)である。
【実施例】
【0072】
しかしながら、この式1’のままであると、上記のとおり、線形モデル固有のエラーが生じ、過大評価(真実より若過ぎる)または過小評価された(真実より老い過ぎる)年齢が算出される可能性がある。そこで、Dubinaらの補正項をこの式に加える(足す)ことで、回帰直線の傾きを1.00に近づけ、過大評価や過小評価を防ぐものである。
【実施例】
【0073】
ここでの「Dubinaらの補正項」とは、(1-暦年齢と脳パフォーマンス年齢の関係を表す回帰直線の傾き)×(暦年齢-平均年齢)で表される。即ち、すなわち本ケースでは(1-0.5487)×(暦年齢-73.9)であるから、これを展開して0.4513×暦年齢+33.4となる。
【実施例】
【0074】
これを式1’に示す脳パフォーマンス年齢の算出式(脳パフォーマンス年齢=-5.36×脳パフォーマンス・スコア+73.9)に加えることで、式2に示すDubinaの補正項によって補正された脳パフォーマンス年齢の算出式(脳パフォーマンス年齢=40.5+0.451×暦年齢-5.36×脳パフォーマンス・スコア)が最終的な算出式として得られる。
【実施例】
【0075】
評価装置3は、図5(a)に示すようなコンピュータが使用される。このコンピュータは、CPU(中央処理装置)50、メモリ(主メモリ)51、バス(データバス及びアドレスバス)52、入出力インターフェース部53、通信インターフェース部54、及び記憶装置55を備えている。
【実施例】
【0076】
入出力インターフェース部53は、マウス、キーボード、スキャナ等の入力装置、プリンタ、ディスプレイ等の入出力装置に接続される。必要に応じて、入出力インターフェース部53に、タイムドアップアンドゴー測定装置4、全身選択反応時間測定装置5等のデータの出力ラインを接続し、それらの測定を行って得られた数値データを直接入力可能な構成としてもよい。
【実施例】
【0077】
また、通信インターフェース部54は、インターネット56に接続されており、本発明に係る認知機能評価システム1を、統括的に管理するサーバ(図示せず)を設ければ、全国各地の学校、介護施設、家庭等(これらに設置された端末がクライアントとなる)で行った身体機能の測定で得られたデータをサーバに送信することで、サーバで認知機能を一括的に評価し、その結果や指導方針等を各クライアントに送信することが可能となる。
【実施例】
【0078】
評価装置3のメモリに、OSと、脳機能を評価する評価用ソフトが搭載されている。この評価用ソフトに従って、CPUが動作し、評価装置3を統括的に制御する。また、評価用ソフトには、脳パフォーマンス・スコアの値を算出する方程式及び脳パフォーマンス年齢を算出する方程式に沿って、脳パフォーマンス・スコアないし脳パフォーマンス年齢を算出する手順が含まれている。
【実施例】
【0079】
評価装置3の構成を、さらに機能的観点から図5(b)において説明する。評価装置3は、機能的には、制御手段57、脳機能評価値演算手段(脳パフォーマンス年齢演算手段)58及びデータベース59を備えている。制御手段57は、評価用ソフトに従ってCPU等により評価装置3を統括的に制御する部分であり、被測定者9の各人別の評価データをデータベースに登録したり検索したりする機能も備えている。
【実施例】
【0080】
脳機能評価値演算手段58は、制御手段57からの演算指示を受けて、入力された被測定者9の身体機能の測定で得られたデータに基づき、脳機能評価値を算出する。脳機能評価値は、実施例1では、上記のとおり脳パフォーマンス年齢であり、その意味で、脳機能評価値演算手段58は脳パフォーマンス年齢演算手段と称してもよく、入力された被測定者9の身体機能の測定で得られたデータに基づき、脳パフォーマンス・スコアの値を算出する方程式及び脳パフォーマンス年齢を算出する方程式に沿って、脳パフォーマンス・スコア及び脳パフォーマンス年齢を順次算出する。
【実施例】
【0081】
データベース59は、記憶装置55に登録(記録)される被測定者9の脳パフォーマンス年齢等の脳機能の評価データ等の各種のデータが蓄積されて構築される。また、必要に応じて、上記データが検索されて検索者に提示される。
【実施例】
【0082】
(作用)
以上の構成から成る本発明に係る認知機能評価システム1の作用について、実際の身体機能の測定から評価装置3による評価の過程に沿って説明する。
【実施例】
【0083】
まず、タイムドアップアンドゴー測定において、被測定者が椅子10から立ち上がり、歩行してコーン11を回って折り返し歩行して着座するまでの時間を測定する。このようなタイムドアップアンドゴー測定を2回行い、2回のそれぞれの時間をタイムドアップアンドゴー測定の結果の数値データとして得る。
【実施例】
【0084】
次に、全身選択反応時間の測定において、被測定者9は、区画付きマット21の上で、前方の移動先指示装置22を見ながら、移動先指示装置22が発光して指示する方向表示に従って、区画付きマット21のベース区画(中央部)24から、移動先区画のいずれか(前方部25、右方部26、後方部27又は左方部28)に片足毎に移動して全身移動し、さらに片足毎に移動して、中央部24に全身移動して戻る。
【実施例】
【0085】
この片足ずつ全身移動する全身移動動作を、前記全ての方向にそれぞれ3回、合計12回行い、この12回のそれぞれに要する時間を計測し、その合計時間(12回の全身移動動作に要する時間)を12で除した1回あたりの全身選択反応時間の平均タイムを全身選択反応時間の測定の結果の数値データとして得る。
【実施例】
【0086】
次に、ペグ移動の測定において定時間測定モードを採用し、被測定者9は、30秒間に、遠位の半盤の孔44に挿入されているペグ41を2本ずつ、近位の半盤の孔44に移し変え、その本数を測定実施者が目視で確認し、ペグ41の移動の測定の結果の数値データとして得る。
【実施例】
【0087】
そして、タイムドアップアンドゴー測定で得られた2回の数値データの平均値を、評価装置3に入力する。また、上記のとおり全身選択反応時間の測定で得られた12回の移動時間の平均タイム(平均値)である数値データを評価装置3に入力する。さらに、ペグ移動の測定で得られた30秒間に遠位の半盤42から近位の半盤43の孔44に移し変えたペグ41の本数の数値データを評価装置3に入力する。
【実施例】
【0088】
脳パフォーマンス年評価装置3は、制御手段57の演算指示を受けて、脳機能評価値演算手段(脳パフォーマンス年齢演算手段)58が機能し、上記3つのデースト結果の数値データに基づき、式1に沿い、脳パフォーマンス・スコアを算出し、さらに、算出された脳パフォーマンス・スコアを使用し、脳パフォーマンス年齢を算出する。このようにして算出された、脳パフォーマンス年齢は、入出力インターフェース部に接続された表示装置及び印刷装置で、表示され、印刷される。
【実施例】
【0089】
(実証テスト)
図7は、本発明に係る認知機能評価システムを使用した実証テストの結果を示す図である。この実証テストでは、地域在宅高齢者193名(平均年齢73.9±5.4歳、範囲65~85歳)を対象に、タイムドアップアンドゴー測定、全身選択反応時間測定及びペグ移動測定を行い、後記する評価装置により脳パフォーマンス年齢を算出した。なお、図7中のyは脳パフォーマンス年齢を示し、yは暦年齢である。Rは重相関係数で、Rは説明率である。
【実施例】
【0090】
一般に相関係数とは、1対1の関係を数値化したものであるが、重相関係数Rとは、2つ以上(複数)の項目によって構成された算出式から得られた推定値(ここでは脳パフォーマンス年齢)と実測値(暦年齢)の相関関係を指す。また、説明率Rは、重相関係数Rの2乗で計算され、寄与率とも言う。xによってyをどの程度確率で推定できるかを表す指標として使われる。図7中では、R=0.765の2乗であり、約58.6%となる。
【実施例】
【0091】
この実証テストの結果、脳パフォーマンス年齢は、平均73.9±7.0歳、範囲は61~107歳となった。また、両年齢(実年齢と脳パフォーマンス年齢)の重相関係数はR=0.767かつp < 0.05と有意な相関関係かつ中程度(重相関係数R = 0.4~0.8のとき、中程度な相関と言われることが多い。ちなみに、R = 0.4未満だと弱い相関、R = 0.8以上だと強い相関と言われるが、統計学的根拠はなく、一般通念上、そのような表現をされることが多い。あくまでも有意である(p < 0.05)か、有意でないか(p >0.05)が統計学的には重要である)の関連性を示したことから、上記脳パフォーマンス年齢の算出式(式2)は、妥当と考えられる。
【実施例】
【0092】
このような脳パフォーマンス年齢を算出することで、高齢者が精神的苦痛を伴うことなく、むしろ楽しみながら体を動かす中で認知機能(脳年齢)を評価することができ、介護予防の現場においては、認知(脳)機能の軽微な低下を早期に発見することができ、早期の対策を講じることが可能となる。
【実施例】
【0093】
図8は、本発明に係る認知機能評価システムの実施例2を説明する図である。この実施例2の認知機能評価システムは、実施例1とほぼ同じであるが、タイムドアップアンドゴー測定に替えて、通常歩行タイムの測定により本発明に係る認知機能評価システムを構築した例である。
【実施例】
【0094】
通常歩行タイム測定装置14は、被測定者が一定距離を通常歩行する際の、歩行速さを測定するために必要な手段であり、具体的には、一定距離を通常歩行するために要する時間を測定する手段である。最も簡単な手段は、ストップウォッチである。なお、被測定者が通常歩行する「一定距離」は、実施例2では、「5m」とした。
【実施例】
【0095】
ストップウォッチによる、具体的な測定の仕方は、スタート位置から11mの到着点まで、被測定者はその通常の普段通りの速さで歩き、その歩行過程におけるスタート地点から3m地点(始点)から8m地点(終点)までの間の時間を測定する。このような一定距離の歩行に要する時間計測を2回行う。
【実施例】
【0096】
この5メートル通常歩行タイム測定装置14の別の手段としては、スタート位置から到着位置との間において、スタート位置から3m位置で被測定者を検知する始点用検知センサと、8mの位置で被測定者を検知する終点用検知センサを設け、これらの検知センサを時間計測装置62に接続し、被測定者の歩行を3m位置の始点用検知センサで検知した時から8mの位置の終点用検知センサで検知した時までの時間を、時間計測装置62で自動計測する構成としてもよい。
【実施例】
【0097】
この構成により、被測定者が始点用検知センサで検知されると、時間計測装置62が時間計測動作を開始し、被測定者が終点用検知センサで検知されると、時間計測動作を終了し、始点位置から終点位置までの5mの歩行に要する時間が計測される。
【実施例】
【0098】
このように自動計測する通常歩行タイム測定装置14の具体的な2つの構成例を図8に示す。図8(a)、(b)に示す構成例1は、被測定者9(図8(b)中の足を示している)を検知する検知センサとして、被測定者が踏んだときに検知する重量センサ(圧電素子等の圧力センサ)を利用した構成である。即ち、スタート位置から3m位置に始点用検知センサ60として重量センサを設け、スタート位置から8mの位置に終点用検知センサ61として重量センサを設け、始点用検知センサ60及び終点用検知センサ61を、それぞれ時間計測装置62に接続した構成である。
【実施例】
【0099】
図8(c)に示す構成例2は、被測定者9を検知する検知センサとして、被測定者9の通過を投光器63と受光器64とから成る光センサ65を利用した構成である。即ち、スタート位置から3m位置に始点用検知センサ60として投光器63と受光器64とから成る光センサを設け、スタート位置から8mの位置に終点用検知センサ61として投光器63と受光器64とから成る光センサを設け、始点用検知センサ60及び終点用検知センサ61をそれぞれ時間計測装置62に接続した構成である。ここでの光センサは、被測定者9が通過した際に光を遮断して検知する構成としたが、被測定者9の通過を反射により検知する構成としてもよい。
【実施例】
【0100】
なお、時間計測装置62を後記する評価装置3として使用するコンピュータに接続して、通常歩行タイム測定装置で得られた数値データを、評価装置3に直接入力できる構成としてもよい。或いは、始点用検知センサ60及び終点用検知センサ61をそれぞれ評価装置3に接続してコンピュータを時間計測装置62として利用してもよい。
【実施例】
【0101】
本実施例2では、5メートル通常歩行タイム測定において、スタート位置から11mまで、被測定者9はその通常の普段通りの速さで歩き、その歩行過程におけるスタート位置から3mの位置から8mの位置までの間の時間を計測する。このような歩行時間の計測を2回行い、2回のそれぞれの時間を5メートル通常歩行タイム測定の結果の数値データとして得る。
【実施例】
【0102】
そして、以上の通常歩行タイム測定で得られた2回の数値データの平均値を、実施例1と同様に、評価装置3に入力する。また、実施例1で説明した全身選択反応時間の測定で得られた12回の移動時間の平均タイムである数値データを評価装置3に入力する。さらに、ペグ移動の測定で得られた30秒間に遠位の半盤42から近位の半盤43の孔44に移し変えたペグ41の本数の数値データを評価装置3に入力する。
【実施例】
【0103】
この実施例2における数値データを評価装置3では、認知機能を評価する「脳パフォーマンス年齢」を算出する手段は、次の算出式1及び算出式2によりその算出を行う。まず、3つの身体機能項目に対して多変量解析(主成分分析)を施すことで、「脳パフォーマンス・スコア」なる値を次の算出式1により算出する。
【実施例】
【0104】
(式1)
脳パフォーマンス・スコア=2.52-0.766×X1-0.002×X2+0.062×X3
但し、X1:5m通常歩行タイム(秒)、X2:全身選択反応時間測定装置においてランダムに指示された前後左右の4方向の移動先区画への各3回、合計12回の全身移動動作についての1回あたりの全身選択反応時間の平均タイム(ミリ秒)、X3:ペグ移動個数/30秒
【実施例】
【0105】
さらに重回帰分析等により、脳パフォーマンス・スコアや暦年齢を変数とする「脳パフォーマンス年齢」なる値を次の算出式2により算出する。
(式2)
脳パフォーマンス年齢=15.05+ 0.79×歴年齢-5.21×脳パフォーマンス・スコア
但し、暦年齢は、被測定者の満年齢である。
【実施例】
【0106】
以上、本発明に係る認知機能評価システムの実施の形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内でいろいろな実施例があることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明に係る認知機能評価システムを実施するための形態は上記のような構成であるから、高齢者、被介護者等の認知機能の評価と向上、及び健康増進だけでなく、学生も含め一般についても、心身の健康状態及び運動能力の評価、並びに健康増進等に利用可能である。
【符号の説明】
【0108】
(実施例1)
1 認知機能の向上及び評価システム
2 身体機能の測定を行う装置
3 評価装置
4 タイムドアップアンドゴー測定装置
5 全身選択反応時間測定装置
6 ペグ移動測定装置
9 被測定者
10 椅子
11 コーン
12 時間計測装置
13 検知センサ
14 通常歩行タイム測定装置
20 全身選択反応時間測定装置
21 区画付きマット
22 移動先指示装置
23 移動時間計測装置
24 中央部(ベース区画)
25 前方部
26 右方部
27 後方部
28 左方部
29 移動先指示装置の方向表示
31 発光機
32 選択スイッチ
33 入力ライン
34 入力線
40 盤
41 ペグ
42、43 一対の半盤(2枚の半盤)
44 盤に形成された孔
50 CPU(中央処理装置)
51 メモリ(主メモリ)
52 バス(データバス及びアドレスバス)
53 入出力インターフェース部
54 通信インターフェース部
55 記憶装置
56 インターネット
57 制御手段
58 脳機能評価値演算手段(脳パフォーマンス年齢演算手段)
59 データベース
(実施例2)
60 始点用検知センサ
61 終点用検知センサ
62 時間計測装置
63 投光器
64 受光器
65 光センサ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7