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明細書 :リン酸カルシウム結晶複合体およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5509408号 (P5509408)
公開番号 特開2010-208903 (P2010-208903A)
登録日 平成26年4月4日(2014.4.4)
発行日 平成26年6月4日(2014.6.4)
公開日 平成22年9月24日(2010.9.24)
発明の名称または考案の名称 リン酸カルシウム結晶複合体およびその製造方法
国際特許分類 C01B  25/32        (2006.01)
FI C01B 25/32 Q
C01B 25/32 B
請求項の数または発明の数 16
全頁数 23
出願番号 特願2009-057937 (P2009-057937)
出願日 平成21年3月11日(2009.3.11)
審査請求日 平成24年3月7日(2012.3.7)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
発明者または考案者 【氏名】大石 修治
【氏名】手嶋 勝弥
個別代理人の代理人 【識別番号】100077621、【弁理士】、【氏名又は名称】綿貫 隆夫
【識別番号】100092819、【弁理士】、【氏名又は名称】堀米 和春
審査官 【審査官】廣野 知子
参考文献・文献 特開平11-166171(JP,A)
特開2008-069041(JP,A)
特開2003-154001(JP,A)
特開2007-031226(JP,A)
特開2009-137792(JP,A)
特開平06-298505(JP,A)
調査した分野 C01B 25/00-25/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
支持体と、該支持体上に成長したリン酸カルシウムの繊維状結晶が多数寄り集まった繊維束からなる多数の結晶塊とから成るリン酸カルシウム結晶複合体であって、
前記支持体が、多数の繊維状物が絡まりあった、繊維状物間に空間を有する塊状をなし、
前記結晶塊の繊維束が、前記支持体の繊維状物の繊維軸に沿って、該繊維状物を包み込むように板状、棒状、フィルム状、もしくはバルク状に前記繊維状物の空間内に成長した繊維束であることを特徴とするリン酸カルシウム結晶複合体。
【請求項2】
支持体が所要形状に成形されていることを特徴とする請求項1記載のリン酸カルシウム結晶複合体。
【請求項3】
支持体がバイオセルロースからなることを特徴とする請求項1または2記載のリン酸カルシウム結晶複合体。
【請求項4】
前記繊維束の繊維がc軸方向に配向していることを特徴とする請求項1~3いずれか1項記載のリン酸カルシウム結晶複合体。
【請求項5】
前記結晶塊が、放射状もしくは立体網目状をなして支持体の繊維状物に囲まれるようにして位置していることを特徴とする請求項1~4いずれか1項記載のリン酸カルシウム結晶複合体。
【請求項6】
前記リン酸カルシウムの結晶塊が、下記化学組成式(1)~(8)のいずれかで表されるリン酸カルシウム化合物からなることを特徴とする請求項1~5いずれか1項記載のリン酸カルシウム結晶複合体。
Ca82(PO46・5H2O (1)
Ca10(OH)2(PO46 (2)
Ca10Cl2(PO46 (3)
Ca102(PO46 (4)
CaHPO4 (5)
CaHPO4・2H2O (6)
Ca3(PO42 (7)
Ca3(PO42・xH2O (8)
【請求項7】
支持体と、該支持体上に成長したリン酸カルシウムの繊維状結晶が多数寄り集まった繊維束からなる多数の結晶塊とから成るリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法であって、
複数口を有する反応容器内に支持体を配置する工程と、
前記反応容器内に、内部に前記支持体が位置するゲルマトリックスを形成する工程と、
反応容器の一方の口からリン酸イオン源溶液を供給し、他方の口からカルシウムイオン源溶液を供給して、前記リン酸イオン源溶液とカルシウムイオン源溶液との接触面からゲルマトリックス内にリン酸イオンとカルシウムイオンとを拡散させ、前記ゲルマトリックス内でリン酸イオンとカルシウムイオンとを反応させて支持体上にリン酸カルシウムの繊維状結晶の繊維束からなる結晶塊を生成する工程とを含ことを特徴とするリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法。
【請求項8】
支持体と、該支持体上に成長したリン酸カルシウムの繊維状結晶が多数寄り集まった繊維束からなる多数の結晶塊とから成るリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法であって、
反応容器内に支持体を配置する工程と、
前記反応容器内に、内部に前記支持体が位置するとともに、リン酸イオン源溶液とカルシウムイオン源溶液のうちの一方の液が混入したゲルマトリックスを形成する工程と、
リン酸イオン源溶液とカルシウムイオン源溶液のうちの他方の液を反応容器に供給し、該他方の液の接触面からゲルマトリックス内に前記他方の液のイオンを拡散させ、前記ゲルマトリックス内でリン酸イオンとカルシウムイオンとを反応させて支持体上にリン酸カルシウムの繊維状結晶の繊維束からなる結晶塊を生成する工程とを含むことを特徴とするリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法。
【請求項9】
ゲルマトリックスを溶解、除去し、得られた複合体を乾燥する工程を含むことを特徴とする請求項7または8記載のリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法。
【請求項10】
さらに、ゲルマトリックスの表面側に、水酸化物イオン源溶液またはハロゲン化物イオン源溶液の少なくとも1種の溶液を配設し、前記各イオン源溶液からリン酸イオ ンと、カルシウムイオンと、水酸化物イオンまたはハロゲン化物イオンの少なくとも1種のイオンをゲルマトリックス内に拡散させ、ゲルマトリックス内で、リン酸イオンと、カルシウムイオンと、水酸化物イオンまたはハロゲン化物イオンの少なくとも1種のイオンとを反応させて繊維状結晶からなるリン酸カルシウム結晶を生成することを特徴とする請求項7~9のいずれか1項に記載のリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法。
【請求項11】
ゲルマトリックスとして、寒天ゲル、ゼラチンゲル,シリカゲルまたはセルロース系ゲルを用いることを特徴とする請求項7~10のいずれか1項に記載のリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法。
【請求項12】
リン酸イオン源溶液として、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム、およびこれらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が溶解されている溶液を用いることを特徴とする請求項7~11のいずれか1項に記載のリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法。
【請求項13】
カルシウムイオン源溶液として、硝酸カルシウム,塩化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、二リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、シュウ酸カルシウム、酢酸カルシウム、およびこれらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が溶解されている溶液を用いることを特徴とする請求項7~12のいずれか1項に記載のリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法。
【請求項14】
前記支持体に、多数の繊維状物が絡まりあった、繊維状物間に空間を有する塊状をなす支持体を用いることを特徴とする請求項7~13いずれか1項に記載のリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法。
【請求項15】
前記支持体をあらかじめ所要形状に成形することを特徴とする請求項14記載のリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法。
【請求項16】
前記支持体にバイオセルロースからなる支持体を用いることを特徴とする請求項7~15のいずれか1項に記載のリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生体親和材料、特異原子・分子吸着材料、物性測定用標準材料等に用いることが可能なリン酸カルシウム結晶複合体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より,リン酸カルシウム系材料は生体親和材料,吸着材料あるいは物性測定用標準材料などに用いられている。また,リン酸カルシウム系結晶の製造方法としては溶液法や焼成法等が提案されている。
【0003】
溶液法では、例えばリン酸とカルシウム化合物との水懸濁液中から結晶を析出させることにより、鱗片状結晶や 柱状結晶が得られることが知られている(特許文献1)。また、リン酸カルシウム系結晶の一種であるリン酸アパタイトの製造方法として、界面活性剤-水-無極性有機液体系、または界面活性剤-水-アルカノール無極性有機液体系W/Oマイクロエマルジョン相に、Ca(NO/アンモニア水溶液および(NHHPO/アンモニア水溶液をそれぞれ可溶化させ、これら可溶化液を混合することにより球状アパタイト微粒子を製造する方法が知られている(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、上記の溶液法では結晶の成長速度が速いため、結晶成長や粒径の制御が困難であり、結晶性が低下するという問題があった。溶液を攪拌することにより反応させるため、結晶成長過程において核が発生したり、結晶同士の衝突により結晶が破壊するという不具合が生じ、品質が低下するという問題もあった。また、この方法では高品質のリン酸カルシウム系結晶を作製することはできない。
【0005】
一方、リン酸カルシウム系結晶の原料粉末を焼成して結晶を生成する焼成法では、長時間焼成を行うと結晶粒が粗大化するため機械的強度が低下するなどの問題があり、この方法においても高品質な結晶を得ることは困難である。また、高温で焼成するため無水物の結晶しか得られないという問題もある。さらに、結晶粒の粗大化を抑制するために、放電プラズマを用いて短時間で焼成する方法が特許文献3に開示されているが、この方法においても結晶成長の制御は十分ではなく、高品質のリン酸カルシウム系結晶を作製することができない。
【0006】
また、水熱法によりa、b軸方向に成長した板状アパタイト(特許文献4)やa面を優先的に成長させた板状アパタイト(特許文献5)も知られているが、結晶の育成期間が極めて長いため工業化に適さなく、装置が高価であるという問題がある。さらに、副生成物が生成する場合があるため、純粋な結晶を得ることは困難である。この方法でも高品質のリン酸カルシウム系結晶を作製することができない。
【0007】
さらにまた、上記溶液法においては結晶の析出後に焼成を行う場合が多く、上記いずれの方法においても反応条件として高温または高エネルギーを必要とするという問題がある。また、従来の溶液法および焼成法では結晶成長の制御が難しいことから、高品質のリン酸カルシウム系結晶を製造することは困難であった。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開平6-298505号公報
【特許文献2】特開平5-17111号公報
【特許文献3】特開平10-251057号公報
【特許文献4】特開平6-206713号公報
【特許文献5】特開平10-45405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、繊維状結晶がきれいに揃って配向した高品質のリン酸カルシウム結晶複合体およびその製造方法を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るリン酸カルシウム結晶複合体は、支持体と、該支持体上に成長したリン酸カルシウムの繊維状結晶が多数寄り集まった繊維束からなる多数の結晶塊とから成るリン酸カルシウム結晶複合体であって、前記支持体が、多数の繊維状物が絡まりあった、繊維状物間に空間を有する塊状をなし、前記結晶塊の繊維束が、前記支持体の繊維状物の繊維軸に沿って、該繊維状物を包み込むように板状、棒状、フィルム状、もしくはバルク状に前記繊維状物の空間内に成長した繊維束であることを特徴とする。
また、前記繊維束の繊維がc軸方向(<001>)に配向していることを特徴とする。
リン酸カルシウムの繊維束の繊維が一定方向にきれいに揃った高品質の結晶塊をなすことから、生体や細胞との親和性がよく、種々の生体材料として用いることができ、また、さまざまな物質を担持あるいは吸着する基材として使用することにも適する。
【0012】
特に、支持体にバイオセルロースを用い、このバイオセルロースとリン酸カルシウム結晶との複合体とすることで、生体材料や細胞培養基材等して使用する際に、生体や細胞との親和性がよく、生体活性も有して、生体物質の成長に有利に作用することが期待できる。
【0014】
さらに、リン酸カルシウムの結晶塊が、下記化学組成式(1)~(8)のいずれかで表されるリン酸カルシウム結晶からなることが好ましい。
Ca(PO・5HO (1)
Ca10(OH)(PO (2)
Ca10Cl(PO (3)
Ca10(PO (4)
CaHPO (5)
CaHPO・2HO(6)
Ca(PO (7)
Ca(PO・xHO(8)
【0015】
上記リン酸カルシウム化合物の結晶と支持体との複合体は、ゲル法により製造することが比較的容易である。
すなわち、本発明に係るリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法は、複数口を有する反応容器内に支持体を配置する工程と、前記反応容器内に、内部に前記支持体が位置するゲルマトリックスを形成する工程と、反応容器の一方の口からリン酸イオン源溶液を供給し、他方の口からカルシウムイオン源溶液を供給して、前記リン酸イオン源溶液とカルシウムイオン源溶液との接触面からゲルマトリックス内にリン酸イオンとカルシウムイオンとを拡散させ、前記ゲルマトリックス内でリン酸イオンとカルシウムイオンとを反応させて支持体上にリン酸カルシウムの繊維状結晶の繊維束からなる結晶塊を生成する工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法は、反応容器内に支持体を配置する工程と、前記反応容器内に、内部に前記支持体が位置するとともに、リン酸イオン源溶液とカルシウムイオン源溶液のうちの一方の液が混入したゲルマトリックスを形成する工程と、前記リン酸イオン源溶液とカルシウムイオン源溶液のうちの他方の液を反応容器に供給し、該他方の液の接触面からゲルマトリックス内に前記他方の液のイオンを拡散させ、前記ゲルマトリックス内でリン酸イオンとカルシウムイオンとを反応させて支持体上にリン酸カルシウムの繊維状結晶の繊維束からなる結晶塊を生成する工程とを含むことを特徴とする。
【0017】
ゲル法では、反応溶液がゲル中に徐々に拡散することにより結晶を育成することから、結晶成長速度をゲルマトリックス密度により制御することができ、純度が高く結晶性の良好な結晶を製造することができる。また、反応場がゲル中であることから、結晶同士の衝突による結晶の破壊を抑制することができ、高品質の結晶を製造することが可能となる。さらに、用いるゲルマトリックスの密度や厚さを調節することにより、ゲル中での反応溶液の拡散透過速度を制御することができ、ゲル中での反応速度を制御することが可能となり、結晶成長および粒径の制御だけでなく、結晶の形状等も制御することができるという効果も期待できる。また、ゲル法では低温条件で結晶を育成することができ、結晶成長の制御が可能であることから、欠陥の少ないリン酸カルシウム結晶を製造することができる。
【0018】
ゲルマトリックスとして、寒天ゲル、ゼラチンゲル,シリカゲルまたはセルロース系ゲルを用いることができる。
【0019】
リン酸イオン源溶液として、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リ ン酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム、およびこれらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が溶解されている溶液を用いることができる。
【0020】
また、カルシウムイオン源溶液として、硝酸カルシウム,塩化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、 リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、二リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、シュウ酸カルシウム、酢酸カルシウム、およびこれらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種が溶解されている溶液を用いることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、結晶塊が、繊維状に成長したリン酸カルシウムが多数きれいに寄り集まって板状の繊維束をなすこと、すなわち優れた結晶性を有すること、および複合体が、支持体繊維間に隙間を有するポーラス状をなすことから、生体材料や生体形成材料などの生体親和材料、細胞などの培養基材、特異原子・分子吸着材料、各種物質の担体、蛍光体材料、物性測定用標準材料等の種々の用途に用いることが可能なリン酸カルシウム結晶複合体を提供できる。
特に、結晶塊が上記のように優れたリン酸カルシウム結晶構造となっていることから、とりわけ優れた生体適合性、および生体活性を有するリン酸カルシウム結晶複合体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例10によって得られたリン酸カルシウム結晶複合体のSEM写真である。
【図2】図1の拡大写真である。
【図3】実施例11によって得られたリン酸カルシウム結晶複合体のSEM写真である。
【図4】図3の拡大写真である。
【図5】実施例12によって得られたリン酸カルシウム結晶複合体のSEM写真である。
【図6】図5の拡大写真である。
【図7】実施例13によって得られたリン酸カルシウム結晶複合体のSEM写真である。
【図8】図7の拡大写真である。
【図9】実施例13によって得られたリン酸カルシウム結晶複合体のガラス基板の反対側から見たSEM写真である。
【図10】図9の拡大写真である。
【図11】反応容器の説明図である。
【図12】実施例1によって得られたリン酸カルシウム結晶体のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明の好適な実施の形態を添付図面を参照して詳細に説明する。
本発明に係るリン酸カルシウム結晶複合体は、支持体と、該支持体の結晶核を基点として支持体上に成長したリン酸カルシウムの繊維状結晶が多数寄り集まった繊維束からなる多数の結晶塊とから成ることを特徴とする。

【0024】
結晶塊は種々の形態を取り得る。
図1、図2はリン酸カルシウム結晶複合体のSEM写真である。
図1、図2に示すものは、支持体に、バイオセルロースの繊維状物が多数絡まりあって、繊維状物間に空間を有する塊状をなすものを用いた(実施例では、直径10mm、厚さ5mm程度の円板状にあらかじめ作製したものを用いた)。
結晶塊は、図1、図2に明確なように板状をなしている。バイオセルロースの表面上には、水酸基などの親水性を有する官能基が存在し、この官能基を結晶核としてリン酸カルシウムが繊維状にc軸方向(<001>)に成長する。

【0025】
そして多数本の繊維状のリン酸カルシウム結晶が平行により集まった状態、すなわち、結晶軸がきれいに揃った状態で、かつ、支持体の繊維状物の繊維軸に沿って該支持体の繊維状物を包み込むように板状に所要長さ成長して結晶塊を形作っている。
この板状の結晶塊は、支持体の絡まりあった多数の各バイオセルロース上に1あるいは複数個形成され、支持体の多数のバイオセルロース間の隙間に伸長している。

【0026】
このように、板状の結晶塊が、c軸方向に繊維状に成長したリン酸カルシウムが多数きれいに寄り集まって板状の繊維束をなすこと、すなわち優れた結晶性を有すること、および図1、図2に示すように、複合体が、支持体繊維間に隙間を有するポーラス状をなすことから、複合体は、生体材料や生体形成材料などの生体親和材料、細胞などの培養基材、特異原子・分子吸着材料、各種物質の担体、蛍光体材料、物性測定用標準材料等の種々の用途に用いることが可能である。

【0027】
特に、複合体は、結晶塊が上記のように優れたリン酸カルシウム結晶構造となっていることから、とりわけ優れた生体適合性、および生体活性を有する。しかも多数本のバイオセルロースからなる支持体は、その作製時の容器形状に依存するため、目的形状の容器を用いることで、任意の形状のバイオセルロースを得ることが可能である。したがって、生体内に埋め込む形状に合わせて支持体をあらかじめ成形し、後記する方法によって、支持体にリン酸カルシウム結晶を付着、成長させて複合体に形成することによって、生体内に埋め込み可能な、優れた生体材料とすることができる。

【0028】
さらに、リン酸カルシウムの結晶塊を形成する結晶としては、リン、酸素、カルシウムを主たる構成元素のうち、P-O結合を含むものであれば特に限定されないが、中でも、下記化学組成式(1)~(8)のいずれかで表されるリン酸カルシウム結晶であることが好ましい。
Ca(PO・5HO (1)
Ca10(OH)(PO (2)
Ca10Cl(PO (3)
Ca10(PO (4)
CaHPO (5)
CaHPO・2HO(6)
Ca(PO (7)
Ca(PO・xHO(8)

【0029】
Ca、あるいはCa10のリン酸カルシウムが安定したアパタイトの構造をとるものであるが、上記(1)、(5)~(8)のCa分が不足した、アパタイト前駆体のものが特に好ましい。生体内に埋め込んだ場合に、生体内の骨の成長に合わせて、生体からCa分を取り込んで安定なアパタイトに成長、つまり、生体の骨の成長に伴って安定なアパタイトに成長可能で、生体とのなじみがよいからである。

【0030】
このように、リン酸カルシウム結晶体は、上述したように生体との親和性がよく、また図1、図2に示すように多数の空隙が存在し、表面積が大きいため、生体との複合体を形成しやすい。
また、上記のような支持体との複合体とすることによって、単独では強度的には優れないリン酸カルシウムの結晶体の取扱性が良好となり、また用途に応じたさまざまな形態の支持体を用いることにより、種々の用途に適合した複合体とすることができる。

【0031】
結晶塊の形状は板状に限られない。図3、図4に示すような、フィルム状のものや、厚い板状(バルク状)のもの、棒状のものなど調整可能である。図3、図4に示すフィルム状のものも、c軸方向に繊維状に成長したリン酸カルシウムが多数きれいに寄り集まってフィルム状の繊維束をなすこと、すなわち優れた結晶性を有することがわかる。

【0032】
図5、図6に示すものは、結晶塊が、支持体のバイオセルロースで囲まれる空間内に、バイオセルロースの結晶核を基点として、該基点から繊維束が放射状もしくは立体網目状に成長した、全体形状が球状の形態の結晶塊なす複合体となっている。
なお、リン酸カルシウムの結晶の構造および形態はX線回折装置や各種電子顕微鏡を用いてそれぞれ同定および観察するものとする。X線回折法では、リン酸カルシウム系結晶に起因する鋭い回折線が検出されれば、結晶は欠陥が少なく高品質であると判断される。また、透過型電子顕微鏡では、個々の繊維状結晶は結晶の特定方向に伸長することが観察され、さらに、走査型電子顕微鏡等では、繊維状結晶が複雑に絡み合った 多孔質の球晶であることを観察することができる。

【0033】
支持体は、上記では、バイオセルロースを用いた例で説明したが、これに限定されるものではない。
複合体を生体材料として用いるときは、支持体としてバイオセルロースの他に、コラーゲンスポンジなどを用いることもできる。
また、複合体を吸着材料などとして用いるときは、支持体に、活性炭、中空子膜、イオン交換樹脂などを用いて、これら支持体材料にリン酸カルシウム結晶を複合化させることも有効である。これら支持体材料自体、吸着性に優れる材料であることから、複合化したリン酸カルシウム結晶と相俟って、さらに優れた吸着特性を有する複合体を提供できる。

【0034】
さらに、支持体として、繊維状のものに限られず、チタン等の金属板、ガラス板、シリコン板など、板状のものも用途に応じて用いることができる。
図7、図8は、FAS3コーティングガラス基板上にリン酸カルシウム結晶を形成した複合体のSEM写真である。リン酸カルシウム結晶は、結晶塊が、該板状の支持体の表面に半球状をなすように成長している。図9、図10は、図7、図8のものをガラス基板の裏面側から透かして見たSEM写真である。図8、図9、図10に示すように、結晶塊は、リン酸カルシウムの繊維束が中心から放射状に成長していることがわかる。

【0035】
これら複合体は、結晶塊が各種材料を選択的に吸着することから、各種のセンシング材料として用いることができる。
結晶塊は、後記するようにゲル法によって好適に形成できる。ゲルマトリックスを板状基板上に微細パターンで形成し、このゲルマトリックスのパターンに沿って結晶塊を形成することによって、結晶塊を微細パターン状に形成することができる。

【0036】
次に、本実施の形態において、リン酸カルシウム結晶複合体はゲル法により作製されることが好ましい。
すなわち、本実施の形態に係るリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法は、複数口を有する反応容器内に支持体を配置する工程と、前記反応容器内に、内部に前記支持体が位置するゲルマトリックスを形成する工程と、反応容器の一方の口からリン酸イオン源溶液(外部反応溶液)を供給し、他方の口からカルシウムイオン源溶液(外部反応溶液)を供給して、前記リン酸イオン源溶液とカルシウムイオン源溶液との接触面からゲルマトリックス内にリン酸イオンとカルシウムイオンとを拡散させ、前記ゲルマトリックス内でリン酸イオンとカルシウムイオンとを反応させて支持体の結晶核を基点としてリン酸カルシウムの繊維状結晶の繊維束からなる結晶塊を生成する工程とを含むことを特徴とする。

【0037】
本実施の形態において、結晶成長に関与するさまざまなイオンが拡散し,反応し、結晶成長が可能なゲルマトリックスおよび外部反応溶液で構成する反応場において、ゲル中への外部反応溶液中に含まれるイオンの拡散を駆動力として結晶核生成および成長を促す方法である。

【0038】
上記外部反応溶液は、結晶成長に関与するさまざまなイオンを含む溶液であって、ゲルの外部から前記イオンをゲル内に供給するための溶液である。

【0039】
本実施の形態におけるゲル法は、外部反応溶液から結晶成長に関与するさまざまなイオンがゲル中に徐々に拡散することにより結晶を育成することから、結晶成長速度をゲルマトリックスの密度により制御することができ、 純度が高く結晶性の良好な結晶を得ることが可能となり、さらに、結晶粒径の制御も容易であるという利点を有する。また、結晶成長反応がゲル中であることから、結晶同士の衝突による結晶の破壊を抑制することができ、高品質の結晶とすることが可能となる。

【0040】
そして、ゲルマトリックス中に、前記の支持体を配置させておくことによって、支持体の結晶核を基点として支持体上にリン酸カルシウムの繊維状結晶が多数寄り集まった繊維束として成長し、板状、フィルム状、棒状、バルク状、あるいは球状等の結晶塊となって複合体を形成するのである。
ゲルマトリックスは溶解して除去され、そして乾燥することによってリン酸カルシウム結晶複合体を得ることができる。

【0041】
上記のように、リン酸カルシウム結晶を上述したゲル法により作製することにより、純度の高いものとすることができるが、具体的な純度としては、リン酸カルシウム結晶中に含まれる不純物の含有量が20重量%以下、中でも15重量%以下、特に10重量%以下であることが好ましい。

【0042】
なお、上記不純物の含有量は、X線光電子分光法、エネルギー分散型蛍光X線分析法、あるいは電子プローブマイクロ分析法を用いて測定した値とする。

【0043】
また、リン酸カルシウム結晶は、欠陥の少ないものであることが好ましい。結晶中に欠陥が存在する場合、リン酸カルシウム結晶の有する性質が変化する可能性があり、目的とする用途に用いることが困難となる場合があるからである。本実施の形態においては、リン酸カルシウム結晶は特定方向に成長した繊維状結晶で構成されていることから、欠陥の少ないものとすることができる。

【0044】
なお、欠陥が少ないとは、具体的にX線回折パターンにおけるピークの半値幅により判断することができる。ここでは、半値幅が小さいほど結晶中に欠陥が少ないとする。また、TEM観察による回折パターンや格子像からも判断することができる。

【0045】
一般に欠陥の生成は吸熱反応であることから、結晶中に欠陥が生じるにはエネルギーが必要であり、温度が高いほど多くの欠陥が導入されるといえる。本実施の形態のリン酸カルシウム結晶は、上述したようにゲル法により作製されることが好ましく、ゲル法では低温条件で結晶を育成することができ、かつ結晶成長の制御が可能であることから、欠陥の少ない結晶とすることができるのである。

【0046】
次に、本実施の形態におけるリン酸カルシウム結晶複合体の具体的な製造方法について説明する。
本実施の形態におけるリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法は、ゲル法により、特定方向に成長した繊維状結晶からなるリン酸カルシウム結晶を製造するものである。

【0047】
ゲル法とは、ゲルおよびそれに接触する2種あるいはそれ以上の外部反応溶液で構成される反応場において、ゲル中へのそれぞれの外部反応溶液の拡散を駆動力として結晶核生成および成長を促す方法である。ただし,外部反応溶液同士が直接接触してはならない。図11に、本実施の形態のリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法の一例を示す。

【0048】
図11に示すように、U字型試験管(2口反応容器)4の中央部に存在する寒天ゲル2をはさんで、片側にカルシウム供給材料を含む外部反応溶液1Aを、反対側にリン酸供給材料を含む外部反応溶液1Bを注入する。寒天ゲル2中には、あらかじめ支持体3を配置しておく。外部反応溶液1Aと1Bから、結晶成長に関与するさまざまなイオンが寒天ゲル2の中を拡散し、支持体3の表面の結晶核を基点として繊維状のリン酸カルシウム結晶が成長し、繊維束として成長しながらリン酸カルシウム複合体を形成するのである。

【0049】
このようにゲル法では外部反応溶液がゲル中に徐々に拡散することにより結晶を育成することから、結晶成長速度をゲルマトリックス密度により制御することができ、純度が高く結晶性の良好な結晶を製造することができる。また、反応場がゲル中であることから、結晶同士の衝突による結晶の破壊を抑制することができ、結晶面を有する高品質な結晶を製造することが可能となる。さらに、用いるゲルのマトリックス密度やゲルの厚さを調整することにより、ゲル中での外部反応溶液の拡散透過速度を制御することができ、ゲル中での反応速度を制御することが可能となるため、結晶成長および粒径の制御だけでなく、結晶の形状等も制御することができる。

【0050】
また一般に、結晶中の欠陥の生成は吸熱反応であることから、結晶中に欠陥が生じるにはエネルギーが必要であり、温度が高いほど多くの欠陥が導入される。従来の溶液法および焼成法においては高温条件を必要とし、結晶成長の制御が困難であることから、欠陥が生じやすいという不具合があったが、本実施の形態に用いられるゲル法は低温条件でよく、結晶成長の制御が可能であることから、欠陥の少ないリン酸カルシウム系球晶を製造することができる。

【0051】
したがって、本実施の形態により製造されたリン酸カルシウム結晶は、純度が高く結晶性が良好であり欠陥が少ないことから、生体材料や生体形成材料などの生体親和材料、細胞などの培養基材、特異原子・分子吸着材料、各種物質の担体、蛍光体材料、物性測定用標準材料等 の種々の用途に用いることが可能となる。

【0052】
本実施の形態におけるリン酸カルシウム結晶複合体の製造方法は、ゲルあるいは複数の外部反応溶液を調製する外部反応溶液調製工程と、前記ゲルおよび前記外部反応溶液を接触させ、ゲル中に外部反応溶液を拡散させて結晶を成長させる結晶成長工程と、前記結晶(複合体)および前記ゲルを分離する結晶分離工程とを有するものである。
以下、このようなリン酸カルシウム結晶の製造工程として説明する。

【0053】
1.ゲルおよび外部反応溶液の調製工程
まず、本実施の形態のリン酸カルシウム結晶の製造方法におけるゲル調製工程について説明する。本実施の形態においてゲル調製工程は、外部反応溶液を拡散させるゲルマトリックスを作製する工程である。

【0054】
本実施の形態に用いられるゲルとしては、外部反応溶液を支持することができるものであれば特に限定はされない。中でも本実施の形態においては、寒天ゲル、ゼラチンゲル,シリカゲルまたはセルロース系ゲルを用いることが好ましい。これらのゲルは、比較的マトリックス密度を制御しやすく、後述する外部反応溶液を効率的にゲル中に拡散させることができるからである。

【0055】
ここで、上記寒天ゲルは、所定の量の寒天粉末を温水中に溶解し、寒天溶液を冷却することにより得ることができる(なお、温水中に、上記支持体3をあらかじめ配置しておく)。寒天は、溶液の濃度や冷却速度などを調整することにより、マトリックス密度を制御でき、溶液冷却によりゲルマトリックスを形成するため、三次元網目構造の寒天ゲルとなる。

【0056】
次に、本実施の形態のリン酸カルシウム結晶の製造方法における外部反応溶液調製工程について説明する。本実施の形態における外部反応溶液調製工程は、外部反応溶液を調製する工程である。

【0057】
本実施の形態に用いられる外部反応溶液としては、前記ゲルと反応性を持たず、ゲルを通過することができ、リン酸供給材料またはカルシウム供給材料を含有するものであれば特に限定されるものではない。

【0058】
本実施の形態のリン酸カルシウム結晶の形成材料は、リン酸供給材料およびカルシウム供給材料に分けることができ、それぞれが別々の外部反応溶液に含有されているものである。また、リン酸あるいはカルシウム供給材料として2種以上の原料を使用する場合や、pH調整のための添加剤や反応調整剤などを使用する場合には、それらを別々の外部反応溶液として準備する必要がある。その場合、3種以上の外部反応溶液を用いることとなる。

【0059】
本実施の形態のリン酸供給材料としては、リンおよび酸素を主たる構成元素とする化合物であり、P-O結合を有するものであって、水溶性であり、前記ゲルと反応性を持たないものであれば特に限定はされないが、例えばリン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウ ム、リン酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム、リン酸マグネシウ ム、リン酸リチウム、およびこれらの水和物等が挙げられる。また、上記の化合物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、リン酸ア ンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム、およびこれらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。

【0060】
また、本実施の形態のカルシウム供給材料としては、カルシウムを主たる構成元素とする化合物であり、水溶性であって、上記ゲルと反応性を持たないものであれば特に限定はされないが、例えば硝酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、二リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、シュウ酸カルシウム、酢酸カルシウム、アルギン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、酪酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、グリピロリン酸カルシウム、ヨウ化カルシウム、乳酸カルシウム、酸化カルシウム、ピロリン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、およびこれらの水和物が挙げられる。また、上記の化合物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。 上記の中でも、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、二リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、シュウ酸カルシウム、酢酸カルシウム、およびこれらの水和物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。

【0061】
また、水酸化物イオン(OH)を供給する外部反応溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムなどの水溶性化合物からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、ハロゲン化物イオン(Cl、F)を供給する外部反応溶液としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩酸、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ酸などの水溶性化合物からなる群から、選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。

【0062】
上記外部反応溶液に用いられる溶媒としては、上記リン酸供給材料または上記カルシウム供給材料を溶解または分散させることができるものであれば特に限定はされないが、通常は水が用いられる。

【0063】
さらに、ゲル溶液に用いられる溶媒としては、ゲル粉末を溶解または分散させることができるものであれば特に限定はされないが、通常は水が用いられる。例えば、湯煎により溶解したゲル水溶液を冷却あるいは加熱することによりゲル化させる、あるいは ゲル溶液にpH調整剤を添加することでマトリックスを形成する方法等を用いることができる。

【0064】
また、上記ゲル中におけるリン酸供給材料またはカルシウム供給材料の濃度としては、これらの材料を水に溶解させる際、その飽和濃度以下であればよい。飽和濃度以下であれば、結晶の育成が可能であるからである。また、上記濃度により、結晶サイズや核発生数に影響が及ぼされると考えられるが、濃度の下限値としては特に限定はされない。

【0065】
なお、支持体3の大きさや密度も特に限定されるものではない。支持体3を足場としてリン酸カルシウムの結晶体が生成され、該結晶体を支持しうる形態や構造をなすものであればよい。外部反応溶液等と支持体との量的な比率も特に限定されない。反応時間の長短により、リン酸カルシウム結晶体の生成量を調整できるからである。

【0066】
2.結晶成長工程
次に、リン酸カルシウムの結晶成長工程について説明する。本実施の形態における結晶成長工程は、上記ゲルおよび2種以上の上記外部反応溶液を接触させ、上記ゲル中に上記外部反応溶液を拡散させて結晶を成長させる工程である。

【0067】
上記ゲルおよび上記外部反応溶液を接触させる方法としては、ゲルが破壊されない方法であれば特に限定されるものではないが、例えば図11に示すように、ゲル2が入った容器4に外部反応溶液1a,1bを注入するバッチ式作製方法等が挙げられる。さらに、流動しているゲルに外部溶液を接触させ、ゲルあるいは外部溶液を連続供給する連続式作製方法も挙げられる。

【0068】
本工程においては、ゲルマトリックスへのリン酸供給材料またはカルシウム供給材料の濃度が一定であるため、 時間の経過とともに結晶の成長速度が低下する傾向にある。したがって、結晶の成長速度を一定に保持したい場合は、外部反応溶液の濃度が濃くなるように適宜調製してもよく、または外部反応溶液の濃度を一定にして外部反応溶液の供給速度を速くしてもよい。

【0069】
本工程における温度としては、ゲルが破壊されない、あるいは結晶成長を妨げない温度であれば特に限定はされなく、通常は室温程度とする。

【0070】
3.結晶分離工程
次に、結晶(複合体)分離工程について説明する。本実施の形態における結晶分離工程は、上記結晶(複合体)および上記ゲルを分離する工程である。

【0071】
結晶(複合体)およびゲルを分離する方法としては、例えば温水中でゲル溶解させる方法等が挙げられる。ゲルを溶解させる媒体としては、温水に限定されるものではないが、経済的・環境的にも水系の媒体が最も有効である。水系の媒体として、温水の他に、沸騰水(熱水)も使用することができる。

【0072】
上記実施の形態では、ゲルマトリックスに対して、反応溶液をすべて外部反応溶液として外部から別々に供給するようにしたが、本発明では、リン酸イオン源溶液とカルシウムイオン源溶液とが直接接触することなく、リン酸イオンとカルシウムイオンとがゲルマトリックスを介して、すなわちゲルマトリックス内で接触して反応させるようにすればよい。したがって、ゲルマトリックス内にリン酸イオン源溶液とカルシウムイオン源溶液のうちの一方の溶液を内部反応溶液として、ゲルマトリックス中にあらかじめ混入させておくようにしてもよい。そして、リン酸イオン源溶液とカルシウムイオン源溶液のうちの他方の液を外部反応溶液として、結晶成長工程で外部から供給するようにするのである。

【0073】
上記のようにしても外部反応溶液がゲル中に徐々に拡散することにより結晶を育成することから、結晶成長速度をゲルマトリックス密度により制御することができ、純度が高く結晶性の良好な結晶を製造することができる。また、反応場がゲル中であることから、結晶同士の衝突による結晶の破壊を抑制することができ、結晶面を有する高品質な結晶を製造することが可能となる。さらに、用いるゲルのマトリックス密度やゲルの厚さを調整することにより、ゲル中での外部反応溶液の拡散透過速度を制御することができ、ゲル中での反応速度を制御することが可能となるため、結晶成長および粒径の制御だけでなく、結晶の形状等も制御することができる。

【0074】
なお、水酸化物イオン(OH)を供給する反応溶液や、ハロゲン化物イオン(Cl、F)を供給する反応溶液も、あらかじめ内部反応溶液としてゲルマトリックス中に混入させておいてもよいし、外部反応溶液として結晶成長工程で供給するようにしてもよい。

【0075】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0076】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
まず、実施例1~9は、支持体と複合化させない、リン酸カルシウム結晶体単体の生成をゲル法で行った実施例を示す。実施例10~13は複合体の実施例を示す。
【実施例】
【0077】
[実施例1]
60mlのイオン交換水をU字型試験管に入れ、寒天粉末(0.27g)を添加し、90℃の温水で湯煎しながら寒天粉末を溶解した。この試験管を水中で冷却し、ゲル化した。ゲル化後、外部反応溶液として0.25Mに調整したCa(NO・4HO水溶液(20ml)をゲルが破壊されないように一方の投入口から静かに注ぎ、もう一方の投入口から(NHHPO水溶液(20ml、0.15M)を同様にして注ぎ、37℃の恒温槽中に静置した。結晶育成後、温水中でゲルを溶解し、育成した球晶を分離した。20日間の育成後、最大直径約300μmに達する白色のCa(PO・5HO球晶を育成できた。得られた球晶のSEM写真を図12に示す。また、この結晶をTEM観察したところ、球晶を形成する個々の繊維状結晶は<001>伸長することが確認できた。
【実施例】
【0078】
[実施例2]
カルシウムイオン源を含む外部反応溶液として0.25Mに調整したCa(NO・4HO水溶液を用い,リン酸イオン源を含む外部反応溶液として0.15Mに調整したNaHPO・12HO,OH源を含む外部反応溶液として0.05Mに調整したNaOH(20ml)を用いた以外は実施例1と同様の方法で結晶を育成したところ,白色のCa(PO・5HOとともにCa10(OH)(PO球晶を育成できた。
【実施例】
【0079】
[実施例3]
カルシウムイオン源を含む外部反応溶液として0.25Mに調整したCa(NO・4HO水溶液を用い,リン酸イオン源を含む外部反応溶液として0.15Mに調整したNaHPO・12HO,OH源を含む外部反応溶液として0.05Mに調整したNaCl(20ml)を用いた以外は実施例1と同様の方法で結晶を育成したところ,白色のCa(PO・5HOとともにCa10Cl(PO球晶を育成できた。
【実施例】
【0080】
[実施例4]
カルシウムイオン源を含む外部反応溶液として0.25Mに調整したCa(NO・4HO水溶液を用い,リン酸イオン源を含む外部反応溶液として0.15Mに調整したNaHPO・12HO,OH源を含む外部反応溶液として0.05Mに調整したNaF(20ml)を用いた以外は実施例1と同様の方法で結晶を育成したところ,白色のCa(PO・5HOとともにCa10(PO球晶を育成できた。
【実施例】
【0081】
[実施例5]
カルシウムイオン源を含む外部反応溶液として0.20Mに調整したCaCl水溶液を用い,リン酸イオン源を含む外部反応溶液として0.15Mに調整したNaHPO・12HOを用いた以外は実施例1と同様の方法で結晶を育成し,生成した結晶を100℃の乾燥器にて乾燥したところ,白色のCa(PO・5HOとともにCaHPO球晶を育成できた。
【実施例】
【0082】
[実施例6]
カルシウムイオン源を含む外部反応溶液として0.20Mに調整したCaCl水溶液を用い,リン酸イオン源を含む外部反応溶液として0.15Mに調整したNaHPO・12HOを用いた以外は実施例1と同様の方法で結晶を育成したところ,白色のCa(PO・5HOとともにCaHPO・2HO球晶を育成できた。
【実施例】
【0083】
[実施例7]
カルシウムイオン源を含む外部反応溶液として0.15Mに調整したCa(NO・4HO水溶液を用い,リン酸イオン源を含む外部反応溶液として0.10Mに調整したNaHPO・12HOを用いた以外は実施例1と同様の方法で結晶を育成したところ,白色のCa(PO・5HOとともにCa(PO球晶を育成できた。
【実施例】
【0084】
[実施例8]
カルシウムイオン源を含む外部反応溶液として0.30Mに調整したCa(NO・4HO水溶液を用い,リン酸イオン源を含む外部反応溶液として0.15Mに調整したNaHPO・12HOを用いた以外は実施例1と同様の方法で結晶を育成したところ,白色のCa(PO・5HOとともにCa(PO・xHO球晶を育成できた。
【実施例】
【0085】
[実施例9]
実施例1で作製したCa(PO・5HO球晶(0.2g)あるいは水溶液法で作製したリン酸カルシウム系球晶(0.2g),メチレンブルー粉末(0.25mg)と100mlのイオン交換水をビーカーに入れ,攪拌し,結晶を遠心分離したところ, 実施例1で作製した球晶はメチレンブルーをすべて吸着したが,水溶液法で作製した結晶では一部メチレンブルーが水溶液中に残存した。
【実施例】
【0086】
[実施例10]
直径約10mmの試験管を用いてバイオセルロースを作製し、直径約10mm、厚さ約5mmの円板状の支持体を得た。内部反応溶液として0.25Mに調整したCa(NO・4HO水溶液(20ml)を反応容器に注ぎ、さらに、60mlのイオン交換水を入れ、寒天粉末(0.27g)を添加し、90℃の温水で湯煎しながら寒天粉末を溶解した。この反応容器の所定の位置に上述のバイオセルロースを設置した後、水中で冷却し、ゲル化した。ゲル化後、(NHHPO水溶液(20ml、0.25M)を外部反応溶液としてゲルが破壊されないように静かに注ぎ、37℃の恒温槽中に静置した。20日間結晶育成後、温水中でゲルを溶解し、リン酸カルシウム複合体を得た。得られた複合体のSEM写真を図1および図2に示す。また、このリン酸カルシウム結晶をTEM観察したところ、結晶を形成する個々の繊維状結晶は<001>伸長することが確認できた。
【実施例】
【0087】
[実施例11]
ゲルに0.3Mのシリカゲル、内部反応溶液に0.2Mに調整したCa(NO・4HO水溶液(20ml)、外部反応溶液に0.15Mに調整した(NHHPO水溶液(20ml)、育成期間を30日とした以外は実施例10と同じ。得られたリン酸カルシウム結晶複合体のSEM写真を図3および図4に示す。
【実施例】
【0088】
[実施例12]
ゲルに1mass%の寒天ゲル、内部反応溶液に1.0Mに調整したCa(NO・4HO水溶液(20ml)、外部反応溶液に0.75Mに調整した(NHHPO水溶液(20ml)、育成期間を20日とした以外は実施例10と同じ。得られたリン酸カルシウム結晶複合体のSEM写真を図5および図6に示す。
前記したように、絡み合ったバイオセルロースの繊維状物の空間内に、球状のリン酸カルシウム結晶体が生成しているのがわかる。
【実施例】
【0089】
[実施例13]
支持体にFAS3コーティングガラス板、ゲルに1mass%の寒天ゲル、内部反応溶液に0.05~0.15Mに調整したCaCl水溶液(20ml)、外部反応溶液に0.15Mに調整したNaHPO・12HO水溶液(20ml)、さらにNaOHおよびCHCOOHにてpHを9に調整した他は実施例10と同じ。得られたリン酸育成期間を20日とした以外は実施例10と同じ。得られたリン酸カルシウム結晶複合体のSEM写真を図7、図8および図9に示す。前記したように、リン酸カルシウム結晶体が支持体表面に半球状に形成されているのがわかる。
【実施例】
【0090】
[比較例1]
寒天ゲルマトリックスを使用せず、カルシウム供給材料を含んだ外部反応溶液とリン酸供給材料を含んだ外部反応溶液を混合したところ、非常に微細な結晶が生成するものの、その微結晶は自形を有しておらず、本発明特有の高品質な繊維状結晶がきわめて複雑に絡み合うことで多孔質体を形成するリン酸カルシウム系球晶を得ることができなかった。
【実施例】
【0091】
[比較例2]
カルシウム供給材料を含んだ外部反応溶液を加えない以外は、実施例1と同様にして結晶を育成したところ、結晶が生成しなかった。
【実施例】
【0092】
[比較例3]
リン酸供給材料を含んだ外部反応溶液を加えない以外は、実施例1と同様にして結晶を育成したところ、結晶が生成しなかった。
【符号の説明】
【0093】
1A 外部反応溶液
1B 外部反応溶液
2 寒天ゲル
3 支持体
4 反応容器
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11