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明細書 :平面脂質二重膜の形成方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5544186号 (P5544186)
公開番号 特開2011-167609 (P2011-167609A)
登録日 平成26年5月16日(2014.5.16)
発行日 平成26年7月9日(2014.7.9)
公開日 平成23年9月1日(2011.9.1)
発明の名称または考案の名称 平面脂質二重膜の形成方法
国際特許分類 B01J  19/00        (2006.01)
G01N  33/48        (2006.01)
FI B01J 19/00 M
G01N 33/48
請求項の数または発明の数 4
全頁数 10
出願番号 特願2010-032567 (P2010-032567)
出願日 平成22年2月17日(2010.2.17)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 (1)電気通信回線にて発表 電気通信回線掲載日:2009年8月21日 掲載アドレス:http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6TFC-4X24VKH-2&_user=10&_coverDate=12%2F15%2F2009&_rdoc=45&_fmt=high&_orig=browse&_srch=doc-info(%23toc%235223%232009%23999749995%231550203%FLA%23display%23Volume)&_cdi=5223&_sort=d&_docanchor=&_ct=51&_acct=C000050221&_version=1&_ur1Version=0&_userid=10&md5=193164129f0a239db265fda74e9f4591 刊行物名:Biosensorsand Bioelectronics 巻数・号数:Volume 25, Issue 4, 15 December2009, 掲載頁:931~934頁 公開のタイトル:Ra pid fabrication of Teflon micropores for artificial lipidbilayer formation (2)発行者:社団法人応用物理学会 刊行物名:2009年(平成21年)秋季 第70回 応用物理学会学術講演会 講演予稿集 巻数・号数:第3分冊 掲載頁:1256~1257頁 刊行物発行年月日:2009年9月8日
審査請求日 平成24年9月14日(2012.9.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
発明者または考案者 【氏名】田中 裕行
【氏名】橘田 晃宜
【氏名】川合 知二
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100096183、【弁理士】、【氏名又は名称】石井 貞次
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100101904、【弁理士】、【氏名又は名称】島村 直己
審査官 【審査官】近野 光知
参考文献・文献 特開2005-091305(JP,A)
実用新案登録第3071831(JP,Y2)
特開平11-056389(JP,A)
特開2008-194573(JP,A)
特開2006-312141(JP,A)
浜本敏郎ら,平面リン脂質二重層膜を使ったイオンチャンネルの測定,細胞工学,日本,1988年,vol.7,no.1,69-78
調査した分野 B01J 19/00~19/32
特許請求の範囲 【請求項1】
先鋭化した金属針を、発熱体を接触させることにより加熱した状態で、支持体上の樹脂フィルムに押し当てることにより樹脂フィルムに幅5μm未満の微小孔を設けること、および前記樹脂フィルムに設けた微小孔に脂質二重膜を形成することを含む、平面脂質二重膜の形成方法。
【請求項2】
発熱体が電流を流したニクロム線である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属針が、電解研磨によって先鋭化されたタングステン、白金、白金合金およびニッケルから選択される金属からなる針である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記樹脂がフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタラートおよびポリブチレンテレフタラートから選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電気生理学、バイオテクノロジー、バイオチップ、膜タンパク質分析、創薬スクリーニング、バイオセンサー、DNAシークエンシングなどの分野で用いられる平面脂質二重膜の形成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
1976年にNeherとSakmannによって開発されたパッチクランプ法によって、チャネルタンパクの機能が理解できるようになった。この方法は生細胞膜上に存在するチャネルタンパクをガラスピペットでパッチし、その構造変化に伴うイオンの流れを電流に増幅して検出するものであり、チャネル「1分子」の挙動を実時間で捉えたという点において、1分子計測法の先駆けである。
【0003】
一方、疎水性のプラスチックフィルムに開けた100μm~数十μmの穴に人工脂質二重膜を展開し、測定対象となるイオンチャネルの電流測定を行う人工平面膜法と呼ばれる研究手法が近年になって盛んに行われている。本手法の特徴は、パッチクランプ法と異なり細胞膜を人工的に再現した単純な再構成系で実験を行えると言うところにある。これにより脂質の種類や、溶液の塩濃度、組成、pH等の外的条件を自由に選択した系にチャネルを再構成できるため、実験条件を明確に限定することが可能となる。このように、できるだけ単純でコントロールされた系で実験を行うことによりイオンチャネルの基本的な機構をより深く研究できる点で、人工平面膜法はパッチクランプ法よりも優れた方法である。現在では人工平面膜法を高精度な1分子検出や薬物の診断、DNAの塩基識別などの種々のデバイス、バイオセンサーへと応用しようとする試みも多く報告されている。
【0004】
人工平面膜法を上記のような測定系へと拡張する場合、平面膜の不安定性が大きな問題である。その一方、膜を展開する孔の直径を縮小することで二重膜の安定性が向上すると言った報告が既になされている。また、孔径の縮小によって膜容量が低下し、電流のノイズが軽減することも報告されている。従って孔径の縮小は人工平面膜法を応用する上で重要であると考えられている。
【0005】
例えば特許文献1に記載されている平面脂質二重膜の形成方法では、シリコン基板の上下面に酸化膜を形成し、その酸化膜をパターニングして反応性イオンエッチングにより幅50~100μmの微小孔を形成している。また、特許文献2に記載されているような、樹脂にステンレス棒を押し付けて凹凸を形成し、その凸部分を剃刀などで削り取って微小孔を形成する方法も知られている。非特許文献1には、微細加工技術によりシリコンウェハに直径20~30μmの微小孔を設け、疎水処理を行った上で脂質二重膜を形成したところ、1Vの電圧をかけても破壊されない安定した膜が得られたことが開示されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】国際公開2005/071405号
【特許文献2】特開2005-91305号
【0007】

【非特許文献1】Langmuir 2010, 26(3), pp. 1949-1952
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1や非特許文献1のように微細加工技術を用いて微小孔を形成するには高価で大掛かりな装置が必要となる。また、微小孔を設ける材質としてシリコン基板を選択すると、加工途中で割れが生じるおそれがある。特許文献2のように樹脂を用いた場合には、そのような割れが生じるおそれはないが、同文献に記載されているような凹凸を形成し剃刀で削り取る方法では、樹脂に0.1~1mm程度の大きさの孔をあけるのが限界であり、数μmオーダーの微小孔をあけるのは困難である。そこで、簡単な操作で安定した平面脂質二重膜を形成する方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、非常に簡便かつ安価な方法で樹脂フィルムに微小孔を設けることに成功した。そして、その微小孔に平面脂質二重膜を形成すると、非常に安定した膜が得られ、チャネル電流記録が可能であることを見出した。本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)先鋭化した金属針を加熱して樹脂フィルムに押し当てることにより樹脂フィルムに微小孔を設けること、および前記樹脂フィルムに設けた微小孔に脂質二重膜を形成することを含む、平面脂質二重膜の形成方法。
(2)前記微小孔が幅50μm未満である、(1)に記載の方法。
【0010】
(3)前記樹脂がフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタラートおよびポリブチレンテレフタラートから選択される、(1)または(2)に記載の方法。
(4)前記金属針が、電解研磨によって先鋭化されたタングステン、白金、白金合金およびニッケルから選択される金属からなる針である、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の平面脂質二重膜の形成方法によれば、簡便な操作で安価に安定した平面脂質二重膜を形成することができる。本発明の方法により形成することができる脂質二重膜は非常に小さな孔に展開されているため、機械的特性(耐ショック性)において優れている。本発明の平面脂質二重膜の形成方法は、脂質二重膜を用いた実験研究や応用において非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】樹脂フィルムに微小孔を形成する本発明の方法の一例を示した図である。
【図2】図1に示した方法により微小孔を形成する際に観察された顕微鏡像である。樹脂フィルムを通して針の影が映っている。
【図3】A~C、E、G~Hは樹脂フィルムに形成された微小孔のSEM像である。D、Fは針先のSEM像である。Iは想定される微小孔の断面図を説明する図である。
【図4】脂質二重膜形成用セルの構成を説明する図である。
【図5】電流測定時の装置の状態を説明する図である。
【図6】チャネル電流記録の結果である。
【図7】A~Cは厚さ15μmのポリエチレンフィルムに、D~Eは厚さ15μmのポリプロピレンフィルムに形成した微小孔のSEM像である。
【図8】AおよびBは厚さ13μmのPETフィルムに、C~Eは厚さ13μmのPTFEフィルムに形成した微小孔のSEM像である。
【図9】A~Cは厚さが25μm、D、Eは50μmおよびF、Gは125μmのFEPフィルムに形成した微小孔のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法は、樹脂フィルムに設けられた微小孔に脂質二重膜を形成することを含む。脂質二重膜の形成は任意の公知の方法により行うことができる。脂質二重膜の形成方法としては、例えばペインティング法、張り合わせ法、ベシクルフュージョン法、あるいは細胞そのものを直接キャプチャーする方法が挙げられる。

【0014】
ペインティング法では、脂質分子をデカン溶媒に分散させ、その溶液を刷毛やピペットによって微小孔を塞ぐように塗布する。そうすると、脂質溶液が微小孔の両側から水溶液に挟まれた状態になり、疎水性相互作用によって脂質分子が自発的に二重層を形成するという原理である。張り合わせ法は、ラングミュア・ブロジェット(Langmuir-Blodgette)法という単分子膜形成技術を平面膜形成に応用したものである。まず、微小孔を挟んだ2つの溶液の気-液界面に脂質分子の単分子層を形成させる。次に、その単分子膜の界面を上昇させ、両側の単分子膜同士が微小孔の中で張り合わせるようにする。それにより、目的とする平面脂質二重層が形成される原理である。ベシクルフュージョン法は、溶液中に脂質分子を加えそれを分散させることにより、脂質二分子膜が溶液中で丸くなった球状小胞体(ベシクルと呼ばれる)を作製しておき、目的の基板をこの溶液に浸漬させることにより、ベシクルと基板表面との相互作用によって脂質二分子膜を基板表面に転写する手法である。

【0015】
本発明の方法で利用可能な樹脂フィルムは特に制限されないが、熱可塑性樹脂からなるフィルムであることが好ましい。そのような熱可塑性樹脂としては、例えばフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタラートおよびポリブチレンテレフタラートが挙げられる。ここでフッ素樹脂とはテフロン(登録商標)の一般名で知られる一群の樹脂であり、本明細書においてフッ素樹脂にはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)およびECTFE(クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体)が含まれる。熱可塑性樹脂としては、融点が100℃以下のものから400℃を超えるものまで、様々な樹脂を用いることができる。上記の樹脂の中でも、特にフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリエチレンテレフタラートが好ましく、とりわけPTFE、FEP、ETFE、ポリプロピレンおよびポリエチレンテレフタラートが好ましい。樹脂フィルムの厚さは1~500μmの範囲、特に5~200μmの範囲、とりわけ10~150μmの範囲であることが好ましい。

【0016】
樹脂フィルムに設けられた微小孔の幅は、50μm未満、特に20μm未満、とりわけ5μm未満であることが好ましい。微小孔のサイズが小さいほど、形成した平面脂質二重膜の安定性が高まる。なお、微小孔のサイズが非常に小さい場合は、脂質二重膜の形成をペインティング法で行った場合に溶媒が穴を塞ぎ膜が形成されないおそれがあるが、そのような場合はペインティング法以外の方法で脂質二重膜を形成すればよい。

【0017】
本発明の方法において、樹脂フィルム上の微小孔は、先鋭化した金属針を加熱して樹脂フィルムに押し当てることにより形成する。本明細書において「押し当てる」とは、樹脂フィルムに金属針の少なくとも一部を接触させること、あるいは金属針により樹脂フィルムを貫通させることを意味する。本発明の方法により得られる樹脂フィルム上の微小孔は、エッジが非常にシャープとなり、脂質二重膜の展開に有利である。

【0018】
金属針の材質は、加熱した際に溶融するものでなければ特に制限されるものではないが、例えばタングステン、白金、白金-イリジウムなどの白金合金あるいはニッケルなどを挙げることができる。金属針の先鋭化は、電解研磨、化学研磨および機械研磨など任意の研磨法により行うことができるが、特に電解研磨が好ましい。電解研磨により針を先鋭化する手法は、例えばSTM探針の分野において当業者に知られている。電解研磨による金属針の先鋭化とは、一般的に、針の母材先端部を電解液に浸し、電気化学反応により探針をエッチングして、形状の制御および最先端部の先鋭化を行うことをいう。

【0019】
金属針の加熱は、例えばニクロム線などの発熱体を接触させるなどの任意の方法により行うことができる。加熱は、金属針の温度が樹脂の融点付近の温度、例えば樹脂の融点±10℃、±5℃、±3℃あるいは±1℃となるよう行うことが好ましい。ニクロム線を針に接触させて加熱する場合には、ニクロム線に流す電流量により針の温度を調節することができる。電流量は所望の孔の大きさに応じて適宜調節すればよい。例えばニクロム線の太さが0.2mm、金属針の太さが0.5mmであり、ニクロム線を金属針の先鋭部近傍に数回程度(例えば2回)巻き付ける場合、電流量は数A程度、例えば0.5~2.5A程度が適切である。

【0020】
加熱した針を樹脂フィルムに押し当てる際、樹脂フィルムの針が当たる側と反対の側には、例えばガラス板のような支持体があることが好ましい。ガラス板がある場合には、針が刺さりすぎて孔が大きくなりすぎるのを防ぐ効果、および孔のエッジが丸くなるという効果が生じる。孔のエッジがなめらかであると、形成した脂質膜がより安定する。また、孔のエッジの断面がシャープであることも、形成した脂質膜の安定性に寄与する。さらに、例えば透明導電膜(ITO)を設けたガラス板を用いると、針のガラス板への接触を電気的に検出することが可能となり、針の制御がより容易になる。ただし、ガラス板などの支持体がなくとも、幅が50μm未満、20μm未満、あるいは5μm未満の微小孔を設けることは可能である。また、支持体をガラス板よりも硬度が低いもの、たとえば樹脂板にすると、支持体との接触により針が損傷することを防ぐことができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(1)フッ素樹脂(ETFE)フィルムへの微小孔の形成
中央に0.4mmの穴を開けた銀板(25mm四方、厚さ0.5mm)を用意した。銀板は、予め1M KClO水溶液に一晩浸した後にAg-AgCl処理を施した。この銀板にETFEフィルム(20mm四方、厚さ12μm)をエポキシ接着剤で貼り付け、ガラス板の上に裏返して乗せた。これを倒立型顕微鏡(オリンパスIX-50)の対物レンズ上に固定したステージにセットした。タングステン線(φ=0.5mm)を電解研磨(10% KOH、60Hz、20Vp-p)することで先鋭化して、孔をあけるための針とした。針にニクロム線(太さ0.2mm)を数回巻きつけ、このニクロム線に電気を流すことにより針を加熱できるようにし、針の加熱の程度はニクロム線に流す電流の大きさにより調整した。針を固定し、針の位置を顕微鏡で確認しながら(図2)、顕微鏡の照準装置を利用して針をETFEフィルムに押し付けて孔をあけた。図1に上述した微小孔の形成方法を模式的に示した。
【実施例】
【0022】
図3に種々の条件で作成した微小孔のSEM像を示した。(A)は加熱していない針を押し付けたETFEのSEM像である。ETFEの変形が不十分で微小孔が形成されないことが分かる。一方、加熱した針を用いた場合(B)、直径が3μmの微小孔が形成され、その周囲は美しい円錐形をしていた。これはETFEが針先の形状を反映して熱溶融形成された為であると考えられた。ただし、針を加熱しすぎた場合には、美しい円錐形の微小孔が形成されなかった(C)。
【実施例】
【0023】
先鋭度の高い針(D)を用いて作成した微小孔(E)は、より先鋭度の低い針(F)によって加工された微小孔(G)に比べてその開口角が小さくなっていた。このことから、微小孔の形状は針先の温度だけでなく、用いる針先の形状にも依存して変化すると考えられる。
【実施例】
【0024】
以上より、針先の温度とその先鋭度を調節することによって微小孔の形状を有る程度自由にコントロールすることが出来ると考えられる。先鋭度の低い針を最適な温度で用いることで開口角の大きい円錐形の微小孔を容易に加工できると考えられる。そのような微小孔は浮遊容量およびアクセス抵抗が小さく、チャネル電流測定に理想的であると考えられる。
【実施例】
【0025】
また、ガラス板側の微小孔の形状は針をあてた側と異なり平坦であった(H:Gの微小孔のガラス板側のSEM像)。そのため、作成した微小孔のエッジ部は、剃刀で削り取る従来法で得られる微小孔と同様、非常にシャープであると考えられる(I:想定される微小孔の断面図)。微小孔のエッジがシャープであると、脂質の薄膜化が促進される為、直径3μmの微小孔にもペインティング法を用いた脂質二重膜を展開する事が可能になると考えられる。
【実施例】
【0026】
(2)脂質二重膜形成用セル
二つのシリコン製O-リング(内径11.0mm、太さ2.6mm)と新たな銀板(25mm四方、厚さ0.8mm)を用意し、新たな銀板の上にO-リング、上記(1)のETFEフィルムが貼り付けられた銀板、O-リングの順に重ねた。二枚の銀板の四方には予め穴(φ2mm)を開けておき、そのそれぞれをM2ネジとビスで固定した。図4に上述したセルの作成方法を模式的に示した。シリコン製O-リングによりシス側(上側)とトランス側(下側)のそれぞれにチェンバーが設けられている。
【実施例】
【0027】
(3)人工脂質二重膜の形成
上記(2)のセルを用いて平面脂質二重膜を形成した。セルのトランス側とシス側のチェンバーを予めベース溶液(2M KCl、Hepes 10mM at pH7.4)で満たした。脂質二重膜の形成はペインティング法によって行った。脂質溶液として、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DphPC)(Avanti polar lipid社)をn-デカン(和光純薬工業社)に分散させ、最終濃度をDphPC 20mg/ml n-デカンとしたものを用いた。脂質溶液をマイクロピペット(20μL用)のチップ先端にごく少量付着させ、純水中で余分な溶媒を吹き飛ばした。その後、シス側のベース溶液中でピペット先端に気泡を作り、ETFEフィルムに設けられた微小孔を通過させることで脂質溶液を塗布した。大量の脂質溶液が微小孔に塗布され薄膜化が進まない場合は、新しいピペットで気泡を吹き付け、余剰の脂質溶液を除去し薄膜化を促進した。脂質二重の形成が確認された後、シス側を2M KCl溶液で置換した。
【実施例】
【0028】
(4)電流測定
上記(3)の直径3μmのETEF微小孔に設けた平面脂質二重膜にグラミシジンチャネルを導入し、銀板をgroundの電極として+100mVを印可した状態で電流測定を行った。グラミシジンの最終濃度は0.1nMであった。電流の測定にはパッチクランプアンプ(CEZ-2400、日本光電社)を用い、サンプリング周波数1kHzでデジタル化した。市販ソフトウェア(pClamp10.2、Axon社)を用いてデータを分析した。図5に電流測定時の装置の状態を模式的に示した。図6Aに電流測定の結果を示した。
【実施例】
【0029】
図6Aに示した電流測定の結果からは数秒ごとに変化する3pAのコンダクタンスステップが観測され、グラミシジンチャネルの振る舞いがとらえられた。このことは、3μmのETFE微小孔に脂質二重膜を形成できたことを示している。微小孔直径が数μmと小さい場合、溶媒の排出並びに脂質の薄膜化が進まずペインティング法を用いた脂質二重膜の形成は難しいと考えられているが、実験の結果からは容易に脂質二重膜を形成可能であることが明らかとなった。また、得られた電流測定の結果は、例えば上記で引用した非特許文献1のものと比べても電流変化が明確によみとれるものであった。
【実施例】
【0030】
(5)膜安定性試験
3μmのETFE微小孔に脂質二重膜を形成し、1000mVの膜電位を印可した場合どのような変化が起こるのか試験した。その結果を図6Bに示した。
【実施例】
【0031】
初めに+100mVを印可した状態で+1000mVを印可すると、膜電流は測定の飽和値に達した。しかし、膜電位を+100mVに戻すと電流が飽和値から回復していった。+1000mVの膜電位を印可する前にグラミシジンチャネルに由来するコンダクタンスの変化が記録されていることから、脂質二重膜が形成されている事は明らかであった。また、+1000mVを印可したことで二重膜が不可逆的に破壊された場合、電流値の回復現象は起こりえないため、この結果から二重膜が1000mVの膜電位を印可した状態でも破壊されずに安定に存在し続ける事がわかった。数十μm程度の微小孔に形成した二重膜は300~400mVを印可すると不可逆的に破壊されてしまうことが知られている。すなわち、この結果は数μmオーダーの微小孔に形成した二重膜は、それよりも圧倒的に安定していることを示している。
【実施例】
【0032】
[実施例2]
実施例1(1)の方法で他の材質の樹脂フィルムにも微小孔が形成可能であるかを検証した。図7A~Cは厚さ15μmのポリエチレンフィルムに、D~Eは厚さ15μmのポリプロピレンフィルムに形成した微小孔のSEM像である。図8AおよびBは厚さ13μmのPETフィルムに、C~Eは厚さ13μmのPTFEフィルムに形成した微小孔のSEM像である。図中には、針を加熱するためのニクロム線に流した電流の値をそれぞれ記載している。「ITOガラス使用」とは、樹脂フィルムを支持するガラス板としてITO(透明導電膜)を表面に備えたガラス板を使用し、ガラス板と針との接触を電気的に検出しながら孔を開けたことを意味している。「ガラス不使用」とは、樹脂フィルムを支持するガラス板を使用しないで孔を開けたことを意味している。
【実施例】
【0033】
これらのSEM像からもわかるように、いずれの材質のフィルムでも本発明の方法により幅が数μm~100μm程度の微小孔が形成可能であった。図9A~Cは厚さが25μm、D、Eは50μmおよびF、Gは125μmのFEPフィルムに形成した微小孔のSEM像である。いずれの厚さのFEPフィルムでも本発明の方法により幅が数μm~数十μm程度の微小孔が形成可能であることがわかった。これらの樹脂フィルムに形成した微小孔を利用することにより、安定した平面脂質二重膜が形成されることが期待される。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8