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明細書 :光触媒材料およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5582522号 (P5582522)
公開番号 特開2011-000506 (P2011-000506A)
登録日 平成26年7月25日(2014.7.25)
発行日 平成26年9月3日(2014.9.3)
公開日 平成23年1月6日(2011.1.6)
発明の名称または考案の名称 光触媒材料およびその製造方法
国際特許分類 B01J  35/02        (2006.01)
B01J  37/08        (2006.01)
B01J  37/18        (2006.01)
B01J  23/30        (2006.01)
FI B01J 35/02 J
B01J 37/08
B01J 37/18
B01J 23/30 Z
請求項の数または発明の数 9
全頁数 22
出願番号 特願2009-143575 (P2009-143575)
出願日 平成21年6月16日(2009.6.16)
審査請求日 平成24年5月18日(2012.5.18)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
発明者または考案者 【氏名】田中 勝己
【氏名】チュウ チャオキョン
【氏名】太田 淳
個別代理人の代理人 【識別番号】100070150、【弁理士】、【氏名又は名称】伊東 忠彦
審査官 【審査官】大城 公孝
参考文献・文献 特開2001-212457(JP,A)
特開昭63-213302(JP,A)
特開2005-203184(JP,A)
SHAN, Z. et al,Structure-dependent photocatalytic activities of MWO4 (M = Ca, Sr, Ba),Journal of Molecular Catalysis A: Chemical,2008年12月 3日,Vol.302, No.1-2,p.54-58,DOI:10.1016/j.molcata.2008.11.030
調査した分野 B01J 21/00-38/74
Science Direct
特許請求の範囲 【請求項1】
M1を、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、およびバリウム(Ba)のいずれか一つを含む+2価の元素とし、M2を、タングステン(W)およびモリブデン(Mo)のうちのいずれか一つを含む+6価の元素としたとき、一般式M1M2Oで表される化合物を有し、
酸素欠陥のため、M2の一部が(+4)の価数になっていることを特徴とする光触媒材料。
【請求項2】
量子収率F(%)を
【数1】
JP0005582522B2_000017t.gif
で表したとき、
波長が460nm~490nmの可視光の照射により、メチレンブルー試薬の分解に対して、0.01%以上の量子収率が得られることを特徴とする請求項1に記載の光触媒材料:
ここで、Np(個)は、前記可視光に含まれる光子の数であり、n(個)は、前記メチレンブルー試薬の分解された分子数である。
【請求項3】
M1は、カルシウム(Ca)であり、M2は、タングステン(W)であることを特徴とする請求項1または2に記載の光触媒材料。
【請求項4】
光触媒材料の製造方法であって、
(1)M1M2O試料を準備するステップであって、M1は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、およびバリウム(Ba)のいずれか一つを含み、M2は、タングステン(W)およびモリブデン(Mo)のうちのいずれか一つを含むステップと、
(2)前記試料を、還元性雰囲気下、1100℃以上の加熱温度で6時間以上、加熱するステップと、
を有する光触媒材料の製造方法。
【請求項5】
前記還元性雰囲気は、水素(H)を含む雰囲気であることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記加熱温度は、1100℃~1200℃の範囲であることを特徴とする請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記加熱するステップは、12時間以上行われることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一つに記載の製造方法。
【請求項8】
量子収率F(%)を
【数2】
JP0005582522B2_000018t.gif
で表したとき、
波長が460nm~490nmの可視光の照射により、メチレンブルー試薬の分解に対して、0.01%以上の量子収率が得られることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか一つに記載の製造方法:
ここで、Np(個)は、前記可視光に含まれる光子の数であり、n(個)は、前記メチレンブルー試薬の分解された分子数である。
【請求項9】
M1は、カルシウム(Ca)であり、M2は、タングステン(W)であることを特徴とする請求項4乃至8のいずれか一つに記載の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒に関し、特に、可視光で作動する光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球上では、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの増加に伴う温暖化や、窒素酸化物による酸性雨、ハロンなどのフロンガスによるオゾンホールの拡大など、様々な有害化学物質による環境汚染が進んでおり、大きな問題となっている。特に有機物は、このような有害化学物質のうちの多くの割合を占め、有機物の浄化が大きな課題となっている。
【0003】
そこで、このような有機物を、光触媒を使用して分解することが検討されている。光触媒は、バンドギャップエネルギーを超える光エネルギーを吸収した際に、励起電子(価電子帯から伝導帯に励起した電子)、およびこの電子に対応する正孔を生成する。従って、この励起電子および/または正孔で有機物を還元/酸化することにより、有機物を分解することができる。
【0004】
このような光触媒の代表的な例は、二酸化チタン(TiO)であり、この材料は、波長が約380nm~約390nm以下の光を吸収して、光触媒特性を示すことが知られている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】「可視光応答型光触媒開発の最前線」、発行所NTS、2002年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
二酸化チタン(TiO)は、約3.2eVのバンドギャップエネルギーを有し、このエネルギーは、光の波長に換算すると、約387nmに相当する。これは、二酸化チタン(TiO)は、波長が約387nm以下の光を照射しなければ、光触媒として作用しないことを意味する。
【0007】
この波長は、紫外線領域に近く、可視光領域(約360nm~約830nm)では、極低波長側に属する。従って、二酸化チタン(TiO)からなる光触媒を使用して、有機物を分解する場合、可視光では、有機物の分解効率が極めて悪くなる。このため、二酸化チタン(TiO)からなる光触媒を使用して有機物を分解する場合、通常は、紫外線が利用される場合が多い。
【0008】
しかしながら、紫外線を使用する方法では、可視光を使用する方法に比べて、煩雑な操作が必要となり、装置が複雑化し、有機物の分解処理コストが上昇するという問題がある。また、紫外線の使用は、安全面でも問題がある。
【0009】
従って、可視光領域の光を使用して、効率的に有機物を分解することの可能な光触媒が要望されている。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、本発明では、可視光領域においても、効率的に有機物の分解を行うことが可能な光触媒材料、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、
M1を、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、およびバリウム(Ba)のいずれか一つを含む元素とし、M2を、タングステン(W)およびモリブデン(Mo)のうちのいずれか一つを含む元素としたとき、M1M2Oで表される化合物を有し、
M2の一部が(+4)の価数になっていることを特徴とする光触媒材料が提供される。
【0012】
ここで、本発明による光触媒材料では、量子収率F(%)を
【0013】
【数1】
JP0005582522B2_000002t.gif
で表したとき、
波長が460nm~490nmの可視光の照射により、メチレンブルー試薬の分解に対して、0.01%以上の量子収率が得られても良い:
ここで、Np(個)は、前記可視光に含まれる光子の数であり、n(個)は、前記メチレンブルー試薬の分解された分子数である。
【0014】
また、本発明において、M1は、カルシウム(Ca)であり、M2は、タングステン(W)であっても良い。
【0015】
さらに、本発明では、光触媒材料の製造方法であって、
(1)M1M2O試料を準備するステップであって、M1は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、およびバリウム(Ba)のいずれか一つを含み、M2は、タングステン(W)およびモリブデン(Mo)のうちのいずれか一つを含むステップと、
(2)前記試料を、還元性雰囲気下、1100℃以上の加熱温度で6時間以上、加熱するステップと、
を有する光触媒材料の製造方法が提供される。
【0016】
ここで、前記還元性雰囲気は、水素(H)を含む雰囲気であっても良い。
【0017】
また、本発明による製造方法において、前記加熱温度は、1100℃~1200℃の範囲であっても良い。
【0018】
また、本発明による製造方法において、前記加熱するステップは、12時間以上行われても良い。
【0019】
また、本発明による製造方法において、量子収率F(%)を
【0020】
【数2】
JP0005582522B2_000003t.gif
で表したとき、
波長が460nm~490nmの可視光の照射により、メチレンブルー試薬の分解に対して、0.01%以上の量子収率が得られても良い:
ここで、Np(個)は、前記可視光に含まれる光子の数であり、n(個)は、前記メチレンブルー試薬の分解された分子数である。
【0021】
また、本発明による製造方法において、M1は、カルシウム(Ca)であり、M2は、タングステン(W)であっても良い。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、可視光領域においても、効率的に有機物の分解を行うことが可能な光触媒材料、およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による光触媒材料の製造方法のフローの一例を概略的に示した図である。
【図2】実施例1に係るサンプルのタングステン(W)に関するXPS測定結果である。
【図3】実施例2に係るサンプルのタングステン(W)に関するXPS測定結果である。
【図4】比較例1に係るサンプルのタングステン(W)に関するXPS測定結果である。
【図5】比較例2に係るサンプルのタングステン(W)に関するXPS測定結果である。
【図6】比較例3に係るサンプルのタングステン(W)に関するXPS測定結果である。
【図7】比較例4に係るサンプルのタングステン(W)に関するXPS測定結果である。
【図8】メチレンブルー試薬の吸収スペクトルの一例を示した図である。
【図9】サンプルの光触媒特性を評価するための試験装置を概略的に示した図である。
【図10】Hg-Xe光源から放射される光のスペクトルを示した図である。
【図11】サンプルの光触媒特性を評価するための別の試験装置を概略的に示した図である。
【図12】青色発光ダイオード光源から放射される光のスペクトルを示した図である。
【図13】図9に示した試験装置を用いた際の、各サンプルの有機物の分解試験結果である。
【図14】図11に示した試験装置を用いた際の、各サンプルの有機物の分解試験結果である。
【図15】メチレンブルー試薬の濃度Mと吸光度Aの関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について、詳しく説明する。

【0025】
前述のように、光触媒の代表的な材料である二酸化チタン(TiO)は、紫外線領域に近い波長(約380nm~約390nm以下)の光でなければ、光触媒特性を発揮しない。従って、通常の場合、二酸化チタン(TiO)に照射される励起光線には、紫外線が使用される。しかしながら、このような紫外線領域の光を使用する方法では、可視光を使用する方法に比べて、煩雑な操作が必要となり、装置が複雑化し、有機物の分解処理コストが上昇するという問題がある。また、紫外線の使用は、安全面でも問題がある。

【0026】
このような問題に鑑み、本願発明者らは、可視光領域(波長約360nm~約830nm)、特に波長が400nm~490nm程度の光においても、効率的に有機物を分解することの可能な、二酸化チタン(TiO)に代わり得る光触媒について、鋭意研究開発を進めてきた。

【0027】
そして、本願発明者らは、M1を、+2価の金属元素とし、M2を、+6価の金属元素としたとき、一般式がM1M2Oで表される一部の化合物において、酸素欠陥を導入することにより、可視光領域の光、特に波長が400nm~490nm程度の光でも、光触媒特性が発現されることを見出した。

【0028】
従って、本発明では、第1の態様として、
M1を、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、およびバリウム(Ba)のいずれか一つを含む元素とし、M2を、タングステン(W)およびモリブデン(Mo)のうちのいずれか一つを含む元素としたとき、M1M2Oで表される化合物を有し、
M2の一部が(+4)の価数になっていることを特徴とする光触媒材料が提供される。

【0029】
係る特徴を有するM1M2O化合物(以下、簡単のため、「本発明による化合物」と称する)は、波長が400nm~490nm程度の光においても、良好な光触媒特性を発揮する。従って、本発明による化合物を光触媒材料として使用することにより、可視光線の照射により、有機物を効率的に分解することができる。

【0030】
(考察)
次に、本発明による化合物において、可視光領域においても良好な光触媒特性が得られる理由について考察する。なお、以下の考察は、一つの例であって、本発明による化合物が、仮に別の機構によって光触媒特性を発現していたとしても、本発明の範囲は、なんら影響を受けないことに留意する必要がある。

【0031】
例えば、M1M2Oにおいて、M1をカルシウム(Ca)とし、M2をタングステン(W)とした場合、すなわちCaWO化合物について検討する。

【0032】
このCaWO化合物は、バンドギャップエネルギーが約4.0eVの半導体材料である。このエネルギーは、光の波長に換算すると、約310nmとなる。従って、通常の場合、CaWO化合物は、可視光線(波長約380nm~約830nm)では、光触媒として機能しない。

【0033】
しかしながら、この化合物の分子構造から、なんらかの影響により、一部の酸素原子が脱落すると、分子中に酸素欠陥が導入されることになる。ここで、例えば、1つの酸素原子が分子構造から脱落した場合、分子は、全体として、-2価の状態、すなわち2つの電子が過剰の状態になる。従って、分子全体としての電気的な中性が維持されるためには、カルシウム(Ca)原子またはタングステン(W)原子が、この過剰な電子と結びつく必要がある。ただし一般に、タングステン(W)原子は、カルシウム(Ca)原子に比べて、価数状態が比較的容易に変化し得る。従って、通常の場合、酸素欠陥により生じた電子過剰の状態は、タングステン(W)原子が+4価の状態となることにより、電気的に中和されると予想される。

【0034】
一方、CaWO化合物にこのような酸素欠陥が導入されると、この酸素欠陥がいわゆる不純物として機能し、CaWO化合物は、n型半導体としての特性を有するようになる。また、これにより、CaWO化合物は、不純物準位の形成により、通常のバンドギャップエネルギー(約4.0eV)よりも小さなバンドギャップエネルギーを有するようになると考えられる。

【0035】
従って、酸素欠陥を有するCaWO化合物は、光吸収エネルギー(バンドギャップエネルギー)が小さくなり、より波長の長い光、すなわち可視光に対しても、容易に光触媒特性を発揮するようになるものと予想される。

【0036】
なお、前述の説明において、タングステン(W)原子は、過剰電子と結びついた際に、+4価の状態ではなく、+5価の状態となることも予想される。しかしながら、本願発明者らにおいて、今のところ、+5価のタングステン(W)原子の存在は、認められていない。

【0037】
以上の説明は、M1M2O材料の一例として、CaWO化合物を選定した場合のものである。しかしながら、マグネシウム(Mg)およびバリウム(Ba)は、アルカリ土類金属の中でも、特にカルシウム(Ca)と近い化学的性質を有する。従って、M1の金属元素として、マグネシウム(Mg)またはバリウム(Ba)を採用しても良い。また、タングステン(W)と同様、モリブデン(Mo)が6価、5価、4価など、多数の価数を取り得ることは良く知られている。従って、M2の金属元素として、モリブデン(Mo)を採用しても良い。

【0038】
なお、本発明による化合物が+4価のM2金属を有することは、一般的なXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)分析により、容易に判断することができる。

【0039】
(本発明による光触媒の製造方法)
以下、図1を参照して、本発明よる光触媒の製造方法の一例について、説明する。なお、以下の説明では、本発明よる光触媒の材料として、M1=Ca、およびM2=W、すなわちCaWOを例に、本発明による光触媒の製造方法について説明する。

【0040】
図1には、本発明よる光触媒の製造方法のフローの一例を模式的に示す。図1に示すように、本発明による光触媒の製造方法は、
(1)CaWO試料を準備するステップ(S110)と、
(2)前記試料を、還元性雰囲気下、1100℃以上の温度で6時間以上、加熱するステップ(S120)と、
を有する。以下、各ステップについて、説明する。

【0041】
(ステップS110)
まず最初に、光触媒となる原料として、CaWO試料が準備される。CaWO試料の形態は、特に限られず、CaWO試料は、粉末状、ペレット状、膜状、または板状など、各種形態であっても良い。また、CaWO試料は、特殊な製造方法で製作されたものである必要はなく、市販の粉末であっても良い。

【0042】
(ステップS120)
次に、CaWO試料が熱処理される。

【0043】
熱処理雰囲気は、還元性雰囲気であり、例えば、一酸化炭素(CO)雰囲気、水素(H)雰囲気、または水素と不活性ガス(窒素、アルゴン等)との混合雰囲気である。

【0044】
熱処理温度は、1100℃以上であり、1100℃~1200℃の範囲であることが好ましい。熱処理温度は、例えば、1100℃、1150℃、または1200℃である。

【0045】
熱処理時間は、6時間以上であれば、いかなる時間であっても良く、例えば、12時間である。

【0046】
このステップにより、CaWO分子構造から、部分的に酸素原子が欠落する。従って、前述のような、+4の価数のタングステン(W)原子を含む、酸素欠損型のCaWO材料が得られる。

【0047】
以下、本発明による実施例について、説明する。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
まず、CaWOの粉末(純度99%、和光純薬株式会社製)を準備し、この粉末2.88g(0.01mol)を、アルミナボートに設置した。次に、このアルミナボートを、水素(H)を連続流通させた雰囲気炉に入れ、1100℃で12時間保持した。水素の供給流速は、40ml/分とした。その後、アルミナボートをそのまま炉内で冷却してから、炉から取り出し、塊状の物質を得た。これを粉砕して、実施例1に係るサンプルを得た。
【実施例】
【0049】
(実施例2)
実施例1と同様の方法により、実施例2に係るサンプルを得た。ただし、この場合、粉末の熱処理時間は、6時間とした。その他の条件は、実施例1と同様である。
【実施例】
【0050】
(比較例1)
実施例1の原料として使用したCaWOの粉末を、そのまま比較例1に係るサンプルとした。すなわち、この比較例1では、粉末の熱処理は、実施しなかった。
【実施例】
【0051】
(比較例2)
実施例1と同様の方法により、比較例2に係るサンプルを得た。ただし、この比較例2では、粉末の熱処理は、大気中で実施した。また、熱処理温度は、1100℃とし、熱処理時間は、12時間とした。
【実施例】
【0052】
(比較例3)
実施例1と同様の方法により、比較例3に係るサンプルを得た。ただし、この比較例3では、粉末の熱処理温度は、1000℃とし、熱処理時間は、12時間とした。
【実施例】
【0053】
(比較例4)
実施例1と同様の方法により、比較例4に係るサンプルを得た。ただし、この比較例4では、粉末の熱処理温度は、1100℃とし、熱処理時間は、1時間とした。
【実施例】
【0054】
表1には、各サンプルの調製条件をまとめて示した。
【実施例】
【0055】
【表1】
JP0005582522B2_000004t.gif
(分析)
得られた各サンプルを用いて、XPS分析を行った。分析には、X線光電子分光装置(ESCALAB220i)を使用した。
【実施例】
【0056】
図2~図7には、実施例1、2、および比較例1~4に係るサンプルについて得られたW4fの測定スペクトルを示す。また、表2には、各サンプルにおいて得られた、タングステンのW4fの波形分離結果をまとめて示す。
【実施例】
【0057】
【表2】
JP0005582522B2_000005t.gif
実施例1に係るサンプルでは、結合エネルギーが35.0eV(W(4f7/2))および37.1eV(W(4f5/2))の位置に、W6+に対応する大きなピークが認められた。さらに、結合エネルギーが29.8eV(W(4f7/2))および31.9eV(W(4f5/2))の位置に、W4+に相当する、小さなピークが得られた。同様に実施例2に係るサンプルでは、結合エネルギーが35.1eV(W(4f7/2))および37.2eV(W(4f5/2))の位置に、W6+に対応する大きなピークが認められた。さらに、結合エネルギーが30.1eV(W(4f7/2))および32.2eV(W(4f5/2))の位置に、W4+に相当する、小さなピークが得られた。
【実施例】
【0058】
これに対して、比較例1~4に係るサンプルでは、W4+に相当するピークは、認められなかった。
【実施例】
【0059】
このことから、実施例1および2に係るサンプルでは、+4価のタングステン(W)が生じているものの、比較例1~4に係るサンプルでは、+4価のタングステン(W)は、生じていないことが確認された。
【実施例】
【0060】
(光触媒特性評価)
次に、各サンプルを用いて、有機物の分解試験を行い、各サンプルの光触媒特性を評価した。
【実施例】
【0061】
有機物には、以下の分子構造で表される、メチレンブルー(C1618S・Cl)試薬(MERCK株式会社)を使用した。
【実施例】
【0062】
【化1】
JP0005582522B2_000006t.gif
図8には、メチレンブルー試薬の吸収スペクトルの一例を示す。メチレンブルー試薬の最大吸収強度が得られる波長は、約660nm~665nmの範囲である。
【実施例】
【0063】
有機物の分解試験には、図9に示す試験装置100を使用した。
【実施例】
【0064】
試験装置100は、光源120と、紫外光遮断フィルタ140と、プラスチックセル160とを有する。
【実施例】
【0065】
光源120には、水銀キセノン(Hg-Xe)ランプ(浜松ホトニクス社製)を使用した。光源の定格電圧/電流は、約20~30kV/7.5Aである。
【実施例】
【0066】
図10には、光源120によって放射される光のスペクトルを示す。この光源120から放射される光は、紫外線領域から赤外線領域までの、幅広い波長を有する。また、特に、波長約405nm、約450nm、約550nm、および約580nmの4領域に、大きなピークを有する。
【実施例】
【0067】
紫外光遮断フィルタ140には、縦10cm×横10cm×厚さ5mmのアクリル板を使用した。紫外光遮断フィルタ140は、光源120から放射された光のうち、紫外線領域の波長(約400nm未満の波長)を遮断することができる。従って、プラスチックセル160には、波長が400nm以上の光のみが照射される。
【実施例】
【0068】
プラスチックセル160は、縦10mm×横10mm×高さ45mmの外寸法であり、肉厚が1mmのものを使用した。プラスチックセル160の底部には、前述の方法で作製した、いずれかのCaWOのサンプル170を0.1g敷き詰めた。また、プラスチックセル160の内部には、濃度が1.0×10-5mol/Lのメチレンブルー試薬180を、約2.5mL充填した。サンプル170の光照射面積は、81mmである。
【実施例】
【0069】
光源120から、プラスチックセル160までの距離は、11cmとした。光源120のパワーは、7.0mWとした。
【実施例】
【0070】
また、別の構成として、図11に示すような試験装置200を使用した。この試験装置200は、光源220と、プラスチックセル160とを備える。ただし、この試験装置200では、前述の試験装置100における紫外光遮断フィルタ140は、排除されている。
【実施例】
【0071】
光源220には、青色発光ダイオード(LXHL-LB3C、Lumileds社製)を使用した。この光源220の定格電圧/電流は、約3.7V/0.7Aである。
【実施例】
【0072】
図12には、光源220によって放射される光のスペクトルを示す。この光源220の場合、光の波長は、460nm~490nmの範囲に限定される。
【実施例】
【0073】
プラスチックセル160には、前述の試験装置100の場合と同様、メチレンブルー試薬180が充填されており、底部にはサンプル170が設置されている。
【実施例】
【0074】
なお、試験装置200の場合、光源220のパワーは、6.0mWとした。
【実施例】
【0075】
このような試験装置100、または試験装置200を用いて、プラスチックセル160の上部から、試料サンプル170に光を照射した。試料サンプル170は、実質的に、長手方向が光源220の方を向くようにして配置した(図9および図11参照)。なお、実験は、暗室で行った。
【実施例】
【0076】
また、各光照射時間において、メチレンブルー試薬180の波長664nmにおける吸光度を、吸光光度計(Ubest-30、Jasco社製)で測定した。
【実施例】
【0077】
図13には、試験装置100を使用した場合、すなわち光源120として水銀キセノン(Hg-Xe)ランプを使用した場合の、実施例1および比較例1に係るサンプルにおいて得られた測定結果をまとめて示す。図13において、横軸は、照射時間(分)であり、縦軸は、メチレンブルー試薬の光照射前の吸光度A0に対する、光照射後の吸光度Aの比R(R=A/A0)を示している。
【実施例】
【0078】
なお、照射開始から2時間後に、一度、光源120の電源をオフにし、光照射を中断した。その後、照射開始から3時間後に、再度、光源120の電源をオンにし、光照射を再開した。
【実施例】
【0079】
この図から、比較例1に係るサンプルでは、サンプル170に光照射を行っても、メチレンブルー試薬180の吸光度の比Rは、ほとんど変化しないことがわかる。なお、比較例2、3に係るサンプルについても同様の測定を行ったが、比較例1に係るサンプルの場合と同様であった。(従って、明確化のため、比較例2、3に係るサンプルの結果は、図13には示していない。)
これに対して、実施例1に係るサンプルの場合、メチレンブルー試薬180の吸光度の比Rは、時間とともに低下した。例えば、120分の光照射後には、吸光度の比Rは、50%以上低下し、試験完了後には、90%近く低下した。
【実施例】
【0080】
このように、実施例1に係るサンプルは、波長400nm以上の光に対して、良好な光触媒特性を示すことがわかった。
【実施例】
【0081】
図14には、試験装置200、すなわち光源220として青色発光ダイオードを使用した場合の、実施例1、実施例2、および比較例4に係るサンプルにおいて得られた測定結果をまとめて示す。図14において、横軸は、照射時間(分)であり、縦軸は、メチレンブルー試薬の光照射前の吸光度A0に対する、光照射後の吸光度Aの比R(R=A/A0)を示している。なお、比較例1~3に係るサンプルについても同様の実験を行ったが、これらのサンプルでは、有意な吸光度の比Rの低下傾向を示さなかったため、図14には示していない(すなわち比較例の代表例として、比較例4に係るサンプルの結果のみを示している)。
【実施例】
【0082】
この図から、比較例4に係るサンプルでは、光照射を行っても、メチレンブルー試薬の吸光度の比Rは、僅かしか変化しないことがわかる。これに対して、実施例1および実施例2のサンプルに係る場合、メチレンブルー試薬の吸光度の比Rは、時間とともに大きく低下した。
【実施例】
【0083】
この結果から、実施例1および実施例2に係るサンプルは、波長が460nm~490nmの範囲の光に対しても、有意な光触媒特性を示すことがわかった。
【実施例】
【0084】
なお、比較例4に係るサンプルにおいても、僅かながら吸光度の低下が認められた原因として、次のことが考えられる。比較例4におけるサンプルは、CaWO粉末を水素雰囲気下において、1100℃で1時間熱処理することにより得られたものである。この時間は、実施例1および実施例2の熱処理時間である、12時間および6時間に比べると、著しく短い。しかしながら、この場合も、XPS分析では、検出することはできないものの、サンプル中には、極僅かながら酸素の欠陥が形成していることが考えられる。このため、サンプルへの光照射によって、わずかながら光触媒特性が生じたものと考えられる。ただし、この程度の酸素欠陥の導入では、安定した光触媒特性を発現させることは難しい。安定した光触媒特性を発現させるには、XPS分析によって、+4価のタングステン(W)が検出される程度の熱処理が必要であり、すなわち、6時間以上の熱処理を行う必要がある。
【実施例】
【0085】
(量子収率の計算)
次に、試験装置200を用いて得られた結果から、実施例1、実施例2、および比較例4のサンプルにおける量子収率を算出した。
【実施例】
【0086】
ここで、量子収率とは、光触媒に照射された光に含まれる光子1個で分解することのできる有機物分子数を意味する。量子収率は、サンプルの光触媒特性を評価する指標として使用することができる。
【実施例】
【0087】
量子収率F(%)は、以下の手順1~手順2から算出することができる。
【実施例】
【0088】
(手順I)メチレンブルー試薬の分解に使用された光子の数Npの算出
光子1個あたりのエネルギーE(J)は、cを光速(3.0×10m/s)とし、hをプランク定数(6.626×10-34Js)とし、λを光の波長としたとき、
【実施例】
【0089】
【数3】
JP0005582522B2_000007t.gif
で表される。
【実施例】
【0090】
また、実験中に光源からサンプルに照射された全エネルギーはEALL(J)は、Pを光源のパワーとし、tを照射時間としたとき、
【実施例】
【0091】
【数4】
JP0005582522B2_000008t.gif
で表される。
【実施例】
【0092】
従って、式(3)、(4)より、実験中にサンプルに照射された光子の数Np(個)は、
【実施例】
【0093】
【数5】
JP0005582522B2_000009t.gif
となる。
【実施例】
【0094】
(手順2)メチレンブルー試薬の分解分子数nの算出
一方、実験中に分解されたメチレンブルー試薬の分子数n(個)は、以下の手順により算出することができる。
【実施例】
【0095】
まず、メチレンブルー試薬の分子数n(個)と吸光度Aの関係を算出する。
【実施例】
【0096】
メチレンブルー試薬のモル濃度M(mol/L)は、メチレンブルー試薬の吸光度Aと比例関係にあり、
【実施例】
【0097】
【数6】
JP0005582522B2_000010t.gif
で表される。ここで、a((mol/L)-1)は、メチレンブルー試薬の濃度Mと吸光度Aの関係を表す検量線の傾きであり、bは、同じ検量線の切片である。
【実施例】
【0098】
メチレンブルー試薬の体積をv(mL)とすると、メチレンブルー試薬のモル数m(mol)は、
【実施例】
【0099】
【数7】
JP0005582522B2_000011t.gif
で求められる。また、メチレンブルー試薬の分子は、1mol当たり、6.02×1023個存在するので、メチレンブルー試薬の分子数n(個)は、
【実施例】
【0100】
【数8】
JP0005582522B2_000012t.gif
で表される。
【実施例】
【0101】
式(6)~式(8)から、メチレンブルー試薬の分子数n(個)は、メチレンブルー試薬の吸光度Aを用いて、
【実施例】
【0102】
【数9】
JP0005582522B2_000013t.gif
で表される。
【実施例】
【0103】
従って、実験中に分解されたメチレンブルー試薬の分子数n(個)は、メチレンブルー試薬の吸光度の変化量をΔA(すなわち、光照射前の吸光度A0と、光照射後の吸光度Aの差、ΔA=A0-A)としたとき、
【実施例】
【0104】
【数10】
JP0005582522B2_000014t.gif
で表される。
【実施例】
【0105】
よって、式(5)と式(10)から、量子収率F(%)は、
【実施例】
【0106】
【数11】
JP0005582522B2_000015t.gif
として算出することができる。
【実施例】
【0107】
表3には、各サンプルの実験によって得られた、吸光度の変化量ΔA(実照射時間が4時間での結果)、メチレンブルー試薬の分解された分子数n(個)、光子の数Np(個)、および式(11)から算出された各サンプルの量子収率F(%)をまとめて示す。
【実施例】
【0108】
【表3】
JP0005582522B2_000016t.gif
計算にあたって、光の波長λは、475nmとし、照射時間tは、7200秒(2時間)とした(図14の0分~120分の間)。パワーPの値は、青色発光ダイオードから放射される光のパワー6.0mWのうち、実際にサンプルに照射される割合とし、P=5.3×10-4Wとした。また、メチレンブルー試薬の濃度Mおよび体積vは、それぞれ、1.0×10-5mol/Lおよび2.5mLとした。
【実施例】
【0109】
図15には、メチレンブルー試薬の濃度Mと吸光度Aの関係を示す。この図から得られた検量線において、傾きaは、0.5263×10-5(mol/L)-1であり、切片bは、-0.0105であった。
【実施例】
【0110】
表3から、比較例4に係るサンプルでは、量子収率Fは、0.008%であるのに対して、実施例1および2に係るサンプルでは、量子収率Fは、0.019%を超えており、実施例1および2に係るサンプルは、良好な光触媒特性を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、可視光領域の波長の光を照射して、有機物等を分解する光触媒等に適用することができる。
【符号の説明】
【0112】
100、200 試験装置
120、220 光源
140 紫外光遮断フィルタ
160 プラスチックセル
170 サンプル
180 メチレンブルー試薬。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14