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明細書 :がん骨転移治療薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5610336号 (P5610336)
公開番号 特開2011-140450 (P2011-140450A)
登録日 平成26年9月12日(2014.9.12)
発行日 平成26年10月22日(2014.10.22)
公開日 平成23年7月21日(2011.7.21)
発明の名称または考案の名称 がん骨転移治療薬
国際特許分類 A61K  31/37        (2006.01)
A61P  35/04        (2006.01)
A61P  19/08        (2006.01)
A61K  31/66        (2006.01)
C07D 311/16        (2006.01)
FI A61K 31/37
A61P 35/04
A61P 19/08
A61K 31/66
C07D 311/16 101
請求項の数または発明の数 9
全頁数 13
出願番号 特願2010-001065 (P2010-001065)
出願日 平成22年1月6日(2010.1.6)
審査請求日 平成24年11月12日(2012.11.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】西田 佳弘
【氏名】浦川 浩
【氏名】新井 英介
【氏名】二村 尚久
【氏名】石黒 直樹
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査官 【審査官】長岡 真
参考文献・文献 A. Kultti et al.,Experimental Cell Research,2009年,vol.315,p.1914-1923
緒形昭彦ら,乳癌の臨床,2009年,vol.24, No.3,p.329-337
西田佳弘,骨・関節・靱帯,2004年,vol.17, No.4,p.323-330
中村浩彰ら,The Bone,2008年,vol.22, No.5,p.3-7
L. Y. W. Bourguignon et al.,The Journal of Biological Chemistry,2002年,vol.277, No.42,p.39703-39712
調査した分野 A61K 31/37
A61K 31/66
A61P 19/08
A61P 35/04
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、がん骨転移の進行抑制剤
【請求項2】
4-アルキルウンベリフェロンが4-メチルウンベリフェロンである、請求項1に記載のがん骨転移の進行抑制剤
【請求項3】
がん骨転移が、乳癌又は肺癌に伴う骨転移である、請求項1又は2に記載のがん骨転移の進行抑制剤
【請求項4】
ビスホスホネートを組み合わせてなる、請求項1~3のいずれか一項に記載のがん骨転移の進行抑制剤
【請求項5】
4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩とビスホスホネートを含有する配合剤である、請求項4に記載のがん骨転移の進行抑制剤
【請求項6】
4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩を含有する第1構成要素と、ビスホスホネートを含有する第2構成要素とからなるキットであることを特徴とする、請求項4に記載のがん骨転移の進行抑制剤
【請求項7】
4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩を含有し、投与時にビスホスホネートが併用投与されることを特徴とする、請求項4に記載のがん骨転移の進行抑制剤
【請求項8】
がん骨転移の進行抑制剤を製造するための、4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項9】
ビスホスホネートを併用することを特徴とする、請求項8に記載の使用。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は医薬に関する。詳しくは、がん骨転移治療薬及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
骨転移によって生ずる疼痛・骨折などは、進行期がん患者を苦しめる最大の要因である。特に乳癌や肺癌では骨への転移が多く、乳癌の場合、患者の約70%に骨転移が起こるとされる。骨転移が生じると病的骨折や脊柱管の狭窄などにより患者の生活の質(QOL:quality of life)が低下する。従って、骨転移を治療ないしコントロールすることは極めて重要である。
【0003】
ところで、4-メチルウンベリフェロン(以下、MUと略称する)がヒアルロン酸合成酵素HAS2遺伝子の発現抑制作用、ヒアルロン酸分解酵素HYAL1遺伝子の発現抑制作用、及びマトリックスメタロプロテアーゼMMP-9遺伝子の発現抑制作用を有し、がんの抑制に有効であることが報告されている(特許文献1)。また、MU又はその誘導薬剤を用いた実験報告として、膵臓がんに対する抗腫瘍効果(非特許文献1~3)、メラノーマに対する抗腫瘍効果 (非特許文献4、5)が存在する。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2007-1955号公報
【0005】

【非特許文献1】Hajime M et al, Int J Cancer 2007, 15; 2704-9
【非特許文献2】Morohashi H et al, Biochem Biophys Res Commun 2006, 345; 1454-9
【非特許文献3】Nakazawa H et al, Cancer Chemother Pharmacol 2006; 165-70
【非特許文献4】Yoshihara S et al, FEBS Lett. 2005, 579; 2722-6
【非特許文献5】Kudo D et al, Biochem Biophys Res Commun 2004, 321; 783-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、がん骨転移に対する新たな治療手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、MUに代表される4-アルキルウンベリフェロンに注目した。上記の通り、MUが抗腫瘍効果を示すことが報告されている。しかしながら過去の報告は、MUによる腫瘍の抑制に着目したにすぎず、QOL低下に直接関連する骨転移への有効性については何ら言及しない。がんの骨転移巣における微小環境は原発巣と異なり、治療法も原発巣に対するものと厳密に区別される。したがって、原発腫瘍に対するMUの効果を骨転移巣にそのまま適用することはできず、独自の評価が必要となる。このことは、実際に抗がん剤で骨転移病変治療に適応される薬剤が存在しないことからも明らかである。本発明者らはMUの骨転移巣に対する有効性を調べるため、骨転移の発生頻度が高い乳癌と肺癌を例として細胞レベル及び動物レベルの実験を施行した。その結果、MUが骨融解を抑制すること、即ち骨転移の進行を抑制することが明らかとなった。検討を進めた結果、がん骨転移に対する治療薬として頻用されるゾレドロネート(ビスホスホネートの一種)との併用が治療効果の向上に有効であるとの知見も得られた。この知見は、MUの併用によって、所望の治療効果を維持しつつビスホスホネートの使用量を低減できることを示唆する。ビスホスホネート(特にゾレドロネート)には顎骨壊死、顎骨骨髄炎、急性腎不全、うっ血性心不全等の重篤な副作用が報告されている。上記知見は、このような副作用を低減し得る新たな治療戦略をもたらすものであり、その意義は極めて大きい。
【0008】
以下に列挙する本発明は主として上記成果に基づく。
[1]4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、がん骨転移治療薬。
[2]4-アルキルウンベリフェロンが4-メチルウンベリフェロンである、[1]に記載のがん骨転移治療薬。
[3]がん骨転移が、乳癌又は肺癌に伴う骨転移である、[1]又は[2]に記載のがん骨転移治療薬。
[4]ビスホスホネートを組み合わせてなる、[1]~[3]のいずれか一項に記載のがん骨転移治療薬。
[5]4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩とビスホスホネートを含有する配合剤である、[4]に記載のがん骨転移治療薬。
[6]4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩を含有する第1構成要素と、ビスホスホネートを含有する第2構成要素とからなるキットであることを特徴とする、[4]に記載のがん骨転移治療薬。
[7]4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩を含有し、投与時にビスホスホネートが併用投与されることを特徴とする、[4]に記載のがん骨転移治療薬。
[8]がん骨転移治療薬を製造するための、4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩の使用。
[9]ビスホスホネートを併用することを特徴とする、[8]に記載の使用。
[10]がん骨転移を認める患者に対して治療上有効量の4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩を投与するステップを含む、がん骨転移の治療法。
[11]治療上有効量のビスホスホネートを併用投与することを特徴とする、[10]に記載の治療法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】MDA-MB-231乳癌細胞におけるMTTアッセイ(A)と浸潤アッセイ(B)の結果。データは平均±標準偏差で示した。* P<0.05(対 コントロール群(1%DMSO添加)) ** P<0.01(対 コントロール群(1%DMSO添加))。【図3】MU治療後のMDA-MB-231乳癌細胞のHAS(A)およびCD44(B)の発現。GAPDH比で示した。* P<0.05(対 コントロール群(1%DMSO添加)) ** P<0.001(対 コントロール群(1%DMSO添加))。【図6】コントロール群の治療0日目と14日目のレントゲン像。代表例として二匹(左と右)の結果を示した。
【図7】MU群の治療0日目と14日目のレントゲン像。代表例として二匹(左と右)の結果を示した。
【図8】ZA治療群の治療0日目と14日目のレントゲン像。代表例として二匹(左と右)の結果を示した。
【図9】MU+ZA治療群の治療0日目と14日目のレントゲン像。代表例として二匹(左と右)の結果を示した。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第1の局面は、がん骨転移に対する治療薬を提供する。「治療薬」とは、標的の疾病ないし病態である「がん骨転移」に対する治療的又は予防的効果を示す医薬のことをいう。治療的効果には、がん骨転移の進行、拡大などを抑制ないし遅延することや、がん骨転移に特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)等が含まれる。後者については、重症化を予防するという点において予防的効果の一つと捉えることができる。このように、治療的効果と予防的効果は一部において重複する概念であることから、明確に区別して捉えることは困難であり、またそうすることの実益は少ない。尚、予防的効果の典型的なものは、がん骨転移に特徴的な症状の再発を阻止ないし遅延することである。尚、がん骨転移に対して何らかの治療的効果又は予防的効果、或いはこの両者を示す限り、がん骨転移治療薬に該当する。

【0011】
本発明のがん骨転移治療薬の治療対象はがん骨転移である。「がん骨転移」とは悪性腫瘍が骨に転移した病態であり、痛み、手足の麻痺、骨折、高カルシウム血症などを誘発する。一般に、骨転移は乳癌、肺癌、前立腺癌、腎癌などで起こりやすい。対照的に、消化器系の癌(胃癌、膵癌、結腸癌、直腸癌)では骨転移は少ない。また、骨転移は、肋骨や胸椎、腰椎、骨盤、大腿骨などに生じ易い。骨転移の診断には、単純X線検査、骨シンチグラフィ、CT(コンピュータ断層撮影法)、MRI(磁気共鳴画像)等が利用される。画像診断の結果に基づき、骨転移は溶解型、造骨型、混合型及び骨梁間型に分類される。骨転移の治療として化学療法、ホルモン療法、放射線治療、外科的治療(手術)などが単独又は組み合わせて用いられている。

【0012】
「がん(例えば乳癌、肺癌)に伴う骨転移」とは、当該がん原発巣の有無に関わらず、当該がんを初発として骨に転移が生じた状態である。

【0013】
本発明のがん骨転移治療薬の有効成分は4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩である。4-アルキルウンベリフェロンとして、4-メチルウンベリフェロン(MU)、4-エチルウンベリフェロン、4-プロピルウンベリフェロン、4-ブチルウンベリフェロンなどの、4位に炭素数1~4のアルキル基を有するウンベリフェロン(7-ヒドロキシクマリン)を例示することができる。好ましくはMUを用いる。MUの構造を以下に示す。
【化1】
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【0014】
4-アルキルウンベリフェロンの薬学的に許容される塩としてナトリウム塩、カリウム塩を例示できるが、これらに限定されるものではない。尚、MU又はその薬学的に許容される塩は、和光純薬工業株式会社、東京化成工業株式会社、ナカライテスク株式会社などが販売しており、容易に入手可能である。

【0015】
本発明の一態様では、上記有効成分(4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩)とビスホスホネートを併用する。ビスホスホネートは破骨細胞の働きを抑える作用を有し、骨転移に対して治療効果を示す。使用可能なビスホスホネートは特に限定されない。ビスホスホネートの具体例を示すと、エチドロネート(大日本住友製薬株式会社がダイドロネル(登録商標)として提供する。)、クロドロネート、チルドロネート、パミドロネート(ノバルティスファーマ株式会社がアレディア(登録商標)として提供する。)、ネリドロネート、オルパドロネート、アレンドロネート(例えば万有製薬株式会社がオンクラスト(登録商標)として、帝人ファーマ株式会社がテイロック(登録商標)としてそれぞれ提供する。)、イバンドロネート、チルドロネート、インカドロネート(アステラス製薬株式会社がビスフォナール(登録商標)として提供する。)リセドロネート(エーザイ株式会社がアクトネル(登録商標)として、武田薬品工業がベネット(登録商標)としてそれぞれ提供する。)、ミノドロネート、ゾレドロネート(ノバルティスファーマ株式会社がゾメタ(登録商標)として提供する。)である。中でもゾレドロネートの作用が強いことから、好ましくはゾレドロネートを採用する。

【0016】
この態様の特徴は、4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩とビスホスホネートを組み合わせて用いることである。典型的には、4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩とビスホスホネートとを混合した配合剤として本発明のがん骨転移治療薬が提供されることになる。一方、例えば、4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩を含有する薬剤(第1構成要素)と、ビスホスホネートを含有する薬剤(第2構成要素)とからなるキットの形態で本発明のがん骨転移治療薬を提供することもできる。この場合、治療期間内に第1構成要素及び第2構成要素が最低1回ずつは投与されることになる。各要素の投与スケジュールは個別に設定することができる。両要素を同時に投与することにしてもよい。ここでの「同時」は厳密な同時性を要求するものではない。従って、両要素を混合した後に対象へ投与する等、両要素の投与が時間差のない条件下で実施される場合は勿論のこと、片方の投与後、速やかに他方を投与する等、両要素の投与が実質的な時間差のない条件下で実施される場合もここでの「同時」の概念に含まれる。

【0017】
4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩とビスホスホネートを併用する態様は以上のものに限定されず、例えば、有効成分として4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩を含有するがん骨転移治療薬とし、それによる治療期間内にビスホスホネート製剤も投与するようにしてもよい。

【0018】
本発明のがん骨転移治療薬の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。

【0019】
製剤化する場合の剤形も特に限定されない。剤形の例は錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤である。本発明の医薬には、期待される治療効果を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。本発明のがん骨転移治療薬の有効成分量は一般に剤形によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.1重量%~約95重量%の範囲内で設定する。

【0020】
本発明のがん骨転移治療薬はその剤形に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる(例えば、経口投与と同時に又は所定時間経過後に静脈注射等を行う等)。全身投与によらず、局所投与することにしてもよい。局所投与として、標的組織への直接注入又は塗布を例示することができる。

【0021】
本発明のがん骨転移治療薬の投与量は、期待される治療効果が得られるように設定される。治療上有効な投与量の設定においては一般に患者の症状、年齢、性別、及び体重などが考慮される。当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。例えば、成人(体重約60kg)を対象として一日当たりの有効成分量が約400mg、最大約3,600mgとなるよう投与量を設定することができる。投与スケジュールとしては例えば1日1回~数回、2日に1回、或いは3日に1回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、患者の症状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。好ましい投与スケジュールの一つは、長期間に亘って連続的な投与を行う投与スケジュールである。「長期間に亘る連続的な投与」とは、長期間に亘る投薬期間内に複数回の投薬を行うことを意味する。ここでの「長期間」とは1週間以上の期間を意味し、具体的には例えば1月~数年の間で投与期間を設定することができる。一日当たりの投与回数は例えば1~5回とする。骨転移が慢性的病態であり、その治療のためには薬剤が常に作用していることが好ましいことや有効成分の血中半減期を考慮すれば、投与スケジュールとして連日投与を採用することが好ましい。但し、患者の状態や経過によっては、投与しない日を設けることにしてもよい(即ち、隔日投与などの投与スケジュールを採用してもよい)。

【0022】
本発明のがん骨転移治療薬による治療と並行して、既存の治療法を適用することにしてもよい。既存の治療法としてホルモン療法、放射線治療、外科的治療(手術)を挙げることができる。二以上の既存の治療法を組み合わせて適用することにしてもよい。

【0023】
以上の記述から明らかな通り本出願は、患者に対して本発明のがん骨転移治療薬を治療上有効量投与することを特徴とする、がん骨転移の治療法も提供する。また、一態様として、4-アルキルウンベリフェロン又はその薬学的に許容される塩の投与に併せて、治療上有効量のビスホスホネートを併用投与する、がん骨転移の治療法が提供される。
【実施例】
【0024】
<乳癌骨転移に対する4-メチルウンベリフェロン(MU)の効果>
1.背景と目的
がんの中でも乳癌は骨への転移が最も多く、患者の約70%に骨転移が起こるとされる。骨転移は患者のQOLの低下を引き起こす。ヒアルロン酸(HA)は悪性腫瘍自身だけでなく間質に発現し、乳癌の進行や予後に関連する。従って、原発巣のみならず転移巣においてもヒアルロン酸は有力な治療の標的になると考えられる。多くの細胞においてHA合成を阻害することが報告されている4-メチルウンベリフェロン(MU)に注目し、MUによるHA合成阻害が乳癌細胞自身と骨転移巣においてどのような影響をもたらすかについてin vitro及びin vivoで検討した。
【実施例】
【0025】
2.方法
(1)培養条件
ヒト乳癌細胞株であるMDA-MB-231細胞(American Type Culture Collection, HTB-26)を温度37℃、5%炭酸ガスの条件の下、10%FBS(ウシ胎仔血清)及び抗生物質(ペニシリン及びストレプトマイシン)を添加したDMEM(Dulbecco's modified Eagle medium)を用いて培養した。MUは1%DMSOに溶解した。
【実施例】
【0026】
(2)MTTアッセイ
96ウェルプレートを用い、MUを0~1.0mMの濃度勾配で添加した培養液でMDA-MB-231細胞(1×104個/ウェル)を培養し、24、48、72時間後にMTTアッセイにより細胞増殖を評価した。
【実施例】
【0027】
(3)遊走能(motility)および浸潤能アッセイ
24時間の間にプレート・インサート(12μm孔)から遊走し外へ出てくる細胞を計数することにより、細胞の遊走能を評価した。プレート・インサート内には0、0.1、1.0mMのMUを添加した。浸潤能(invasion)の評価は、当該プレート・インサートをマトリゲル(商品名、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)でコートすることにより行った。
【実施例】
【0028】
(4)HABP染色
HAの蓄積をヒアルロン酸結合タンパク質(Hyaluronic Acid Binding Protein(HABP)、生化学工業株式会社)染色により評価した。
【実施例】
【0029】
(5)リアルタイムRT-PCR
0、0.1、1.0mMのMUによる治療後6時間と24時間のMDA-MB-231細胞のCD44、HAS2、HAS3のmRNAの発現レベルをリアルタイムRT-PCRにより評価した。それぞれのmRNAの発現をGAPDH比で比較した。
【実施例】
【0030】
(6)動物(in vivo)実験
MDA-MB-231細胞を4週齢のBALB/Cヌードマウス(SLCまたはチャールズリバー)の脛骨近位に接種し、軟X線にて骨透亮像を確認した後、MU(0又は10mg/匹)を2週間、連日投与(腹腔内注射)した。2週後に再度、軟X線撮影を行い、組織採取を行った。投与群と非投与群の骨透亮像の拡大率を比較した。
【実施例】
【0031】
(7)統計解析
多群間比較にボンフェローニ法(Bonferroni-Dunn post hoc test)、2群間比較にスチューデントのt検定(Student T test)を用いた。P値が0.05未満を有意とした。
【実施例】
【0032】
3.結果
(1)MTTアッセイ
コントロール群(1%DMSOを添加)と比較して0.4、0.8、1.0mMのMU添加において培養48時間後及び72時間後で細胞増殖に有意差を認めた(P<0.05、図1A)。 0.1mMと1.0mMのMU添加により、有意に遊走能と浸潤の抑制が見られた(P<0.05、図1B)。【0033】
(3)HABP染色
MDA-MB-231細胞のHAは主に細胞質や核に存在していた。MUによる治療(72時間)により、染色されるHAは著明に減少した(図2A~C)。
【実施例】
【0034】
(4)リアルタイムRT-PCR
HAS2 mRNAの発現は0.1mMと1.0mMのMU治療(6時間、24時間)によりコントロール群と比較して有意に減少した(図3A)。一方、HAS3 mRNAの発現については、24時間の時点でコントロール群と比較して差は認めなかった(図3A)。CD44 mRNAの発現は1.0mMのMU治療(24時間)によってコンとロール群と比較して有意に減少した(図3B)。
【実施例】
【0035】
(5)動物実験
MUによる治療は、軟X線における腫瘍による骨透亮像の拡大を抑制し(図4A)、腫瘍と骨の境界におけるHAの蓄積を減少させた(図4B、C)。
【実施例】
【0036】
4.考察
HA合成の抑制による抗腫瘍効果に加えて骨転移抑制効果をMUが示すことが判明した。Kulttiらは数種類のヒトの細胞株を用いた研究においてMUがHAS2やHAS3mRNA発現を抑制することを報告している(Exp Cell Res 315;1914-1923, 2009)。今回の実験ではMDA-MB-231細胞においてMUによるHAS2の抑制はみられたが、HAS3の発現の抑制はみられなかった。MUによるHASmRNA発現については更なる解明が必要である。
【実施例】
【0037】
いくつかの癌細胞株について、HAの発現を操作することにより進行を抑制できるとの報告がある。UdabageらはMDA-MB-231細胞においてHAS2のサイレンシングが細胞増殖や浸潤を抑制するとともに、動物実験において1次的および2次的な腫瘍形成を抑制したと報告している(Cancer Res 65; 6139-6150, 2005)。
【実施例】
【0038】
今回の実験結果は、MUが腫瘍形成のみならず骨転移に対しても抑制効果を発揮することを明らかにしたものであり、過去の報告とは一線を画する。アンチセンス技術などを利用したHAの産生抑制は技術的な問題や合併症の問題などから臨床応用には困難が予想される。対照的にMUは既に臨床応用されている薬剤であり、骨転移患者への導入は比較的容易であると考えられる。MUによる骨転移の治療によってがん患者のQOLが改善することが期待される。MUによる治療は、抗がん剤による治療と異なり、患者のQOLを維持する機能温存療法となり、臨床上の意義及び価値は高い。
【実施例】
【0039】
<マウス肺癌転移モデルに対する4-メチルウンベリフェロン(MU)の効果>
マウス肺癌転移モデルを用い、がん骨転移に対するMUの効果を調べた。
1.材料
マウス:C57BL/6マウス、6週齢、雄
細胞:マウス・ルイス肺癌細胞(Lewis Lung Cell Carcinoma Cell(mouse)、ATCC; American Type Culture Collection CRL-1642)
MU: 0.7%カルボキシメチルセルロースナトリウム(以下、CMC)を用いてMUのコロイド溶液を作製した。投与量は10mg/マウス(約500mg/kg)とした。
ゾレドロネート(以下、ZA):PBSで希釈したZAを用意した。投与量は2μg/マウス(約100μg/kg)とした。
【実施例】
【0040】
2.方法
(1)マウス肺癌転移モデルの作製、薬剤の投与
ルイス肺癌細胞を10% FBS(ウシ胎仔血清)含有DMEMを使用して単層培養した。セミコンフルエントの状態でトリプシン処理を行って細胞をフラスコより剥脱させ、細胞浮遊液を作製した。遠心処理を行って上清を吸引破棄し、ペレットにFBS含有DMEMを加えてピペッティングしてから細胞数を計測した。計測後、再び遠心処理した後、上清を交換した。PBSを添加して最終的に1×104細胞/μlの細胞浮遊液を作製した。
【実施例】
【0041】
C57BL/6マウスを28匹準備した。ネンブタールの腹腔内注射で麻酔をかけ、十分な麻酔深度を得てから、上記の細胞浮遊液をマウス左脛骨近位骨内に注入した。26G針を使用して左脛骨粗面部に骨孔を作製し、細胞浮遊液を10μl注入した。細胞接種後のマウスについて1週毎にレントゲン撮影を行い、画像評価した。骨透亮像が明らかになったマウスを無作為に4つの治療グループ、即ち無治療群(コントロール群)、MU治療群、ZA治療群、MU+ZA治療群、に割り振った。治療グループに割り振った日から、以下の通り腹腔内注射による薬剤投与を行った。尚、薬剤投与開始後も1週間に1回のレントゲン撮影を行うこととし、合計2週間の治療を行い、計2回のレントゲン撮影が終了した時点でマウスを屠殺した。
グループ1(コントロール群):0.7%CMC溶液の連日腹腔内注射 + PBSの週1回腹腔内注射
グループ2(MU治療群):MUコロイド含有0.7%CMC溶液の連日腹腔内注射 + PBSの週1回腹腔内注射
グループ3(ZA治療群):0.7%CMC溶液の連日腹腔内注射 + ZA含有PBS溶液の週1回腹腔内注射
グループ4(MU及びZA治療群):MUコロイド含有0.7%CMC溶液の連日腹腔内注射 + ZA含有PBS溶液の週1回腹腔内注射
【実施例】
【0042】
(2)評価
治療終了時点での骨透亮像の大きさについてScion Image(Scion Corporation)を用いてピクセル数を計測した。統計ソフトウエアSPSS(SPSS corporation、米国)を使用し、ボンフェローニ法(Bonferroni)で群間比較した。
【実施例】
【0043】
3.結果
28匹のマウスの内、25匹に骨透亮像が出現した。これら25匹のマウスをグループ1~4に割り振った。治療の途中で死亡するマウスはいなかった。MU治療群ではコントロール群に比較して骨透亮像の範囲が小さく、群間に有意差を認めた(P<0.05、図5)。ZA治療群についても、コントロール群より有意に骨透亮像の範囲が小さかった(P<0.0001、図5)。MU及びZA治療群は4群の中で骨透亮像の範囲は最小であった(図5)。MU治療群及びZA治療群では、14日目において後方の骨皮質の連続性が保たれるマウスが多く認められた(図7、8)。ZA治療群とZA及びMU治療群では骨透亮像が縮小するマウスも認められた(図8、9)。【0044】
4.考察
MUは肺癌の骨転移による骨融解範囲の拡大を有意に抑制した。即ち、骨転移に対して有意且つ著明な治療効果を発揮した。また、MUとZAを併用投与すると一層高い治療効果が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の医薬はがん骨転移の治療に用いられる。例えば、乳癌又は肺癌を原発巣とした骨転移の進行抑制に適用される。がん骨転移に対する既存の治療法との併用も可能である。
【0046】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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