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明細書 :ガス拡散電極、ガス拡散電極の製造方法、燃料電池および食塩電解セル

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5484120号 (P5484120)
公開番号 特開2010-219034 (P2010-219034A)
登録日 平成26年2月28日(2014.2.28)
発行日 平成26年5月7日(2014.5.7)
公開日 平成22年9月30日(2010.9.30)
発明の名称または考案の名称 ガス拡散電極、ガス拡散電極の製造方法、燃料電池および食塩電解セル
国際特許分類 H01M   4/90        (2006.01)
C25B  11/03        (2006.01)
C25B  11/10        (2006.01)
C23C  20/08        (2006.01)
B01J  21/06        (2006.01)
B01J  23/20        (2006.01)
B01J  23/14        (2006.01)
H01M   8/10        (2006.01)
FI H01M 4/90 X
C25B 11/03
C25B 11/10 A
C23C 20/08
B01J 21/06 M
B01J 23/20 M
B01J 23/14 M
H01M 8/10
請求項の数または発明の数 9
全頁数 14
出願番号 特願2010-034851 (P2010-034851)
出願日 平成22年2月19日(2010.2.19)
優先権出願番号 2009039383
優先日 平成21年2月23日(2009.2.23)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成25年2月12日(2013.2.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
【識別番号】390014579
【氏名又は名称】ペルメレック電極株式会社
発明者または考案者 【氏名】高須 芳雄
【氏名】杉本 渉
個別代理人の代理人 【識別番号】100090170、【弁理士】、【氏名又は名称】横沢 志郎
審査官 【審査官】高木 康晴
参考文献・文献 特開2000-340247(JP,A)
特開2006-134602(JP,A)
特開2006-176342(JP,A)
特開2005-87989(JP,A)
調査した分野 H01M 4/86-4/98
H01M 8/02
C25B 11/00-11/20
B01J 21/06
特許請求の範囲 【請求項1】
基材と、
前記基材の表面に形成された触媒層とを有し、
前記基材は、Tiからなり、
前記触媒層の主成分は、Zr、Ti、NbおよびTaから選ばれた1種の金属の酸化物、または、Zr、Ti、NbおよびTaから選ばれた2種以上の金属の複合酸化物からなることを特徴とするガス拡散電極。
【請求項2】
前記基材は、多孔性基材であることを特徴とする請求項1に記載のガス拡散電極。
【請求項3】
前記基材は、繊維状の多孔性基材または焼結体からなる多孔性基材であることを特徴とする請求項2に記載のガス拡散電極。
【請求項4】
前記触媒層の成分として、Snの酸化物が添加されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のガス拡散電極。
【請求項5】
基材表面に触媒層が形成されたガス拡散電極の製造方法において、
Tiからなる前記基材を用い、
Zr、Ti、NbおよびTaから選ばれた1種以上の金属のイオンを含む溶液を用い、ゾルゲル法により、前記基材の表面に前記金属の酸化物または前記金属の複合酸化物を前記触媒層として形成することを特徴とするガス拡散電極の製造方法。
【請求項6】
Zr、Ti、NbおよびTaから選ばれた1種以上の金属のイオン並びにSnのイオンを含む溶液を用い、ゾルゲル法により、前記基材の表面に前記金属の酸化物または前記金属の複合酸化物を前記触媒層として形成することを特徴とする請求項5に記載のガス拡散電極の製造方法。
【請求項7】
前記ゾルゲル法として、ディップコート法を用いることを特徴とする請求項5または6に記載のガス拡散電極の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至4の何れか一項に記載のガス拡散電極を備えていることを特徴とする燃料電池。
【請求項9】
請求項1乃至4の何れか一項に記載のガス拡散電極を備えていることを特徴とする食塩電解セル。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス拡散電極、ガス拡散電極の製造方法、燃料電池および食塩電解セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素酸化、メタノール酸化のアノード触媒、酸素還元のカソード触媒として、白金などの貴金属が一般的に使用される。しかしながら、白金は極めて高価である。そこで、本願発明者は、白金に代えて、酸化ルテニウムや酸化イリジウムなどの白金族酸化物を用いることを提案している(特許文献1参照)。かかる白金族酸化物は電気伝導性がよく、かつ、酸素還元反応に対する触媒活性が高いという利点がある。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2008-293698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、酸化ルテニウムや酸化イリジウムなどの白金族酸化物は、白金よりは安価であるが、それでも高価であるため、汎用性に欠けるという問題点がある。
【0005】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、白金や白金族酸化物よりも安価な触媒を用いたガス拡散電極、ガス拡散電極の製造方法、燃料電池および食塩電解セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のガス拡散電極は、基材と、前記基材の表面に形成された触媒層とを有し、前記基材は、Tiからなり、前記触媒層の主成分は、Zr(ジルコニウム)、Ti(チタン)、Nb(ニオブ)およびTa(タンタル)から選ばれた1種の金属の酸化物、または、Zr、Ti、NbおよびTaから選ばれた2種以上の金属の複合酸化物からなることを特徴とする。
【0007】
本発明において、「触媒層の主成分が、Zr、Ti、NbおよびTaから選ばれた1種の金属の酸化物、または、Zr、Ti、NbおよびTaから選ばれた2種以上の金属の複合酸化物からなる」とは、触媒層の全成分が、Zr、Ti、NbおよびTaから選ばれた1種の金属の酸化物からなる場合のほか、触媒層の全成分のうちの50%以上が、Zr、Ti、NbおよびTaから選ばれた1種の金属の酸化物からなる場合、または、触媒層の全成分のうちの50%以上がZr、Ti、NbおよびTaから選ばれた2種以上の金属の複合酸化物からなる場合がある。また、触媒層において、Zr、Ti、NbおよびTaの金属の酸化物または複合酸化物の他に、例えば、原子パーセントで10%以下のイリジウム、ルテニウムあるいはそれらの酸化物を添加して触媒層の導電率を高めた場合も含む意味である。
【0008】
本発明では、従来、金属酸化物カソード触媒として一切着目されていなかったZr、Ti、NbおよびTaの弁金属の酸化物を用いることを特徴とする。本願発明者は、種々検討した結果、Zr、Ti、NbおよびTaなどの弁金属の酸化物も、膜厚が薄い場合には酸素還元活性を備えた触媒として機能するという新たな知見を得、かかる知見に基づいて本発明に到達した。かかる金属材料は、白金や白金族酸化物よりもかなり安価であるため、本発明によれば、汎用性に優れたガス拡散電極を実現することができる。また、本発明によれば、酸化物の全面が触媒になっており、担体表面は露出していない。しかも、炭素材料や白金を用いないため、白金の溶解および炭素材料の酸化消耗による触媒性能の劣化が発生しない。すなわち、従来のカソードでは、白金などの超微粒子がカーボンブラックなどの担体に担持された構造であるため、白金触媒自体が溶解や凝集するだけでなく、カーボン担体が腐食し、炭酸ガスなどを発生する問題や、場合によっては炭素表面でヒドロキシルラジカルを発生し、固体高分子膜を腐食させるという問題があるが、本発明によれば、かかる問題が発生しない。
【0009】
本発明において、前記基材は、多孔性基材であることが好ましい。また、前記基材は、Tiなどの繊維状(フェルト状、スポンジ状)の多孔性基材または焼結体からなる多孔性基材であることが好ましい。多孔性基材であれば、実効表面積が広く、ガスとの接触面積が広いので、反応性に優れている。また、基体が多孔質であれば、連続体になっているため、粒子間の接触抵抗が無い。すなわち、従来のカソードでは、白金などの超微粒子がカーボンブラックなどの担体に担持された構造になっているため、カーボンブラック粒子間の接触抵抗が大きいという問題があるが、本発明によれば、かかる粒子間での接触抵抗が発生しない。
【0010】
本発明において、触媒層を形成する金属の酸化物または複合酸化物の粒子を微小なものとするためには、前記触媒層の成分として、Sn(スズ)の酸化物が添加されていることが望ましい。すなわち、本願発明者は、種々検討した結果、触媒層の成分としてSnの酸化物が添加されている場合には、触媒層を形成する金属酸化物の粒子として、1nm~200nmの微小な粒子を得ることができるという新たな知見を得た。ここで、触媒層を微小な粒子から形成すれば、触媒層の表面積が増加するので、酸素還元反応に対する触媒活性が高まる。また、触媒層の比表面積を大きくできるので、反応効率が優れる。この結果、Zr、Ti、NbおよびTaの弁金属の酸化物または複合酸化物によって基材表面に触媒層を形成する際に、酸素還元活性を備えた触媒として機能させながら、その膜厚を厚くできる。さらに、Snの酸化物が添加されることにより、触媒層の導電率を高めることができる。
【0011】
次に、本発明は、基材表面に触媒層が形成されたガス拡散電極の製造方法において、Tiからなる前記基材を用い、Zr、Ti、NbおよびTaから選ばれた1種以上の金属のイオンを含む溶液を用い、ゾルゲル法により、前記基材の表面に前記金属の酸化物または前記金属の複合酸化物を前記触媒層として形成することを特徴とする。
【0012】
本発明では、触媒層の主成分として用いた金属がZr、Ti、Nb、Taである。このため、ディップコート法などのゾルゲル法により、金属酸化物を形成する場合でも、焼成温度が400~650℃という低い温度でよいので、金属酸化物の結晶子が小さい。それ故、電極触媒層の比表面積が大きいので、反応効率が優れている。
【0013】
本発明において、触媒層を形成する金属の酸化物または複合酸化物の粒子を微小なものとするためには、Zr、Ti、NbおよびTaから選ばれた1種以上の金属のイオン並びにSnのイオンを含む溶液を用い、ゾルゲル法により、前記基材の表面に前記金属の酸化物または前記金属の複合酸化物を前記触媒層として形成することが望ましい。すなわち、本願発明者は、種々検討した結果、Zr、Ti、NbおよびTaから選ばれた1種以上の金属のイオンを含む溶液とSnのイオンを含む溶媒とを混合した溶液を用いて、ゾルゲル法により触媒層を形成すれば、触媒層を形成する金属の酸化物または複合酸化物の粒子として、1nm~200nmの微小な粒子を得ることができるという新たな知見を得た。ここで、触媒層を微小な粒子から形成すれば、触媒層の表面積が増加するので、酸素還元反応に対する触媒活性が高まる。また、触媒層の比表面積を大きくできるので、反応効率が優れる。この結果、Zr、Ti、NbおよびTaの弁金属の酸化物または複合酸化物によって基材表面に触媒層を形成する際に、酸素還元活性を備えた触媒として機能させながら、その膜厚を厚くできる。
【0014】
本発明において、前記ゾルゲル法として、ディップコート法を用いることが望ましい。ディップコート法によれば、酸化物層と基材のチタンとの界面に緻密層が出来るためチタン基材が腐食しない。また、ディップコート法によれば、基体に粒子を担持させるためのバインダーなどを一切使用せずに、全面に触媒層を形成できるという利点がある。さらに、塗布、乾燥、焼成の回数を変えれば、触媒層の厚さを任意に設定できるという利点がある。
【0015】
かかるガス拡散電極は、例えば、燃料電池や食塩電解セルの電極として使用可能である。この場合、触媒中に、従来の燃料電池の触媒で常用されているカーボン粉末を使用しないため、特に、燃料電池における活性酸素の発生が抑制され、電解性能が長期に亘って安定に作動する。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、従来、金属酸化物カソード触媒として一切着目されていなかったZr、Ti、NbおよびTaの弁金属の酸化物を用い、かかる金属は、白金や白金族酸化物よりもかなり安価である。従って、本発明によれば、汎用性に優れたガス拡散電極を実現することができる。また、ゾルゲル法で金属酸化物からなる触媒を生成させる際、用いた金属がZr、Ti、Nb、Taであるため、400~650℃という低温でよいので、金属酸化物の結晶子が小さい。それ故、電極触媒層の比表面積が大きいので、反応効率が優れている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)、(b)、(c)は各々、本発明を適用したガス拡散電極の断面構成を示す説明図、基材として用いたTi焼結体を電子顕微鏡で観察したときの説明図、およびTi焼結体の表面に触媒層を形成した様子を顕微鏡で観察したときの説明図である。
【図2】本発明を適用したガス拡散電極の製造方法を示す説明図である。
【図3】(a)、(b)は各々、本発明を適用したガス拡散電極を用いた燃料電池および食塩電解用の電解セルの説明図である。
【図4】本発明の実施例に係るガス拡散電極の電流電圧特性を示す説明図である。
【図5】本発明の実施例に係るガス拡散電極の電流電圧特性を示す説明図である。
【図6】本発明の実施例に係るガス拡散電極の電流電圧特性を示す説明図である。
【図7】本発明の実施例に係るガス拡散電極の電流電圧特性を示す説明図である。
【図8】本発明の実施例に係るガス拡散電極の電流電圧特性を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。

【0019】
[触媒層とその製造方法]
図1(a)、(b)、(c)は、本発明を適用したガス拡散電極の断面構成を示す説明図、基材として用いたTi焼結体を電子顕微鏡で観察したときの説明図、およびTi焼結体の表面に触媒層を形成した様子を顕微鏡で観察したときの説明図である。図2は、本発明を適用したガス拡散電極の製造方法を示す説明図である。

【0020】
図1(a)に示すように、本発明を適用したガス拡散電極は、基材の表面に触媒層が形成された構造を有している。本形態において、触媒層は、Zr、Ti、NbおよびTaから選ばれた1種以上の金属酸化物から構成されている。本形態において、基材は、その実効表面積が広いことが好ましいことから、基材として、繊維状または焼結体からなる多孔性基材が用いられている。かかる基材としては、図1(b)に示すように、チタン粒子の焼結体が好ましい。かかるチタン粒子の焼結体としては、「Tiporous(商品名)」を挙げることができ、ガスアトマイズ法により製造された真球状のチタン粉末の焼結体からなる。

【0021】
かかる構成のガス拡散電極を製造するにあたっては、まず、図2に示すように、金属酸化物前駆体を溶媒に溶解させ、金属酸化物前駆体溶液を調製する。金属酸化物前駆体としては、Zr、Ti、Nb、Taの金属イオンを含む化合物が用いられる。例えば、金属酸化物前駆体としては、Zr、Ti、Nb、Taの塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、有機錯体などが用いられる。これらの金属酸化物前駆体のうち、後述する熱分解後に原料塩の成分が残留しないことが好ましいので、硝酸塩、有機錯体が好ましい。また、金属酸化物前駆体溶液に用いる溶媒としては、水、アルコール、それらの混合溶液を用いることができる。なお、必要に応じて、金属酸化物前駆体溶液にイオノマーを添加してもよい。

【0022】
上記金属酸化物前駆体溶液を用い、ゾルゲル法のうち、ディップコート法により基材表面に触媒を形成する場合、基材を金属酸化物前駆体溶液に浸漬した後、引き上げて、基材表面に金属酸化物前駆体溶液を塗布する。次に、約60℃の温度で乾燥させた後、400~650℃の温度条件、例えば、450℃の温度条件で焼成する。その結果、基材の表面に、Zr、Ti、Nb、Taなどの酸化物からなる触媒層が形成される。かかる塗布、乾燥、焼成を5~10回繰り返し、基材の表面に金属酸化物からなる触媒層を形成する。その結果、ガス拡散電極が製造される。かかるガス拡散電極では、チタン粒子の焼結体からなる基材の表面全体に、数十nm~数千nmの金属酸化物(触媒層)が形成されている。

【0023】
このように塗布、乾燥、焼成は数回に分けて実施すると、均質な触媒層が得られるという利点がある。また、ディップコート法によれば、基体に粒子を担持させるためのバインダーなどを一切、使用する必要がないという利点もある。

【0024】
なお、触媒を形成させたガス拡散電極は通常親水性であり、ガス拡散性を向上させるために、疎水性材料を塗布し固着することが好ましい。疎水性材料としては、特に耐久性のあるフッ素樹脂を200℃から400℃の温度において焼成して使用することが好ましい。

【0025】
なお、触媒層を形成するにあたって、熱分解法を採用することもできる。この場合には、焼成温度として400~650℃に制御された雰囲気炉またはスプレードライアー内にて金属酸化物前駆体溶液を噴霧し、焼成時間10~60分で、微小の触媒粒子を製造し、これをサイクロン式の捕集装置等で回収する。さらに、錯体重合法で調製することも可能であり、代表的な製法としては、各金属のクエン酸錯体を生成させ、それにエチレングリコールを加えてポリエステル化し、さらに、それを空気中で350℃程度の低温で良好に固溶した多元系金属酸化物を合成する。また、各金属塩の溶液から金属種を同時に沈殿させる共沈法による合成も可能である。

【0026】
[触媒層の製造方法の別の例]
上記の触媒層の製造方法において、金属酸化物前駆体溶液を調製する際に、Snのイオンを含む化合物を添加してもよい(図2のカッコ書き参照)。

【0027】
より具体的には、金属酸化物前駆体として、Zr、Ti、Nb、Taの金属イオンを含む化合物を溶媒に溶解させた溶液と、Snのイオンを含む化合物を溶解させた溶液を混合することにより、金属酸化物前駆体溶液を調製する。Snのイオンを含む化合物を溶解させるために用いる溶媒としては、水、アルコール、それらの混合溶液を用いることができる。Snのイオンを含む化合物としては、例えば、SnO2(酸化第二スズ)、Sn(OC494(スズブトキシド)などのスズアルコキシドを用いることができる。このようにして金属酸化物前駆体溶液を調製すれば、Zr、Ti、Nb、Taの各金属とSnを塩から混合できるので、各金属とSnの密着性が上がり、形成される触媒層の導電性が高まる。

【0028】
そして、本例では、触媒層を、Zr、Ti、NbおよびTaから選ばれた1種以上の金属と、Snの酸化物との金属組成比が90:10~50:50の範囲となるように形成する。

【0029】
ここで、本願発明者は、このように調製した金属酸化物前駆体溶液を用いて、ゾルゲル法により触媒層を形成すれば、1nm~200nmの微小な金属酸化物の粒子によって触媒層を形成することができるという新たな知見を得ている。触媒層を微小な粒子から構成すれば、触媒層の表面積が増加するので、酸素還元反応に対する触媒活性が高まる。また、触媒層の比表面積を大きくできるので、反応効率が優れる。この結果、Zr、Ti、NbおよびTaの弁金属の酸化物または複合酸化物によって基材表面に触媒層を形成する際に、酸素還元活性を備えた触媒として機能させながら、その膜厚を厚くできる。

【0030】
なお、Zr、Ti、Nb、Taなどの金属イオンを含む化合物を溶媒に溶解させる際に、Snのイオンを含む化合物を添加して、金属酸化物前駆体溶液を調製することもできる。

【0031】
また、本例では、調製した金属酸化物前駆体溶液にイリジウム或いはアンチモンをドープすることにより、形成される触媒層の導電性を更に高めることができる。ここで、イリジウムおよびアンチモンは酸性浴では溶解してしまうので、これらをドープして形成した触媒層を備えるガス拡散電極はアルカリ浴のみでの使用となるが、後述する食塩電解セルはガス拡散陰極はアルカリ性なので、当該ガス拡散電極を使用することができる。

【0032】
[ガス拡散電極の利用例]
図3(a)、(b)は各々、本発明を適用したガス拡散電極を用いた燃料電池および食塩電解用の電解セルの説明図である。本発明を適用したガス拡散電極は、以下に説明するように燃料電池および食塩電解用の電解セルに用いられる。

【0033】
(燃料電池)
図3(a)は、本発明のガス拡散電極を使用した燃料電池を例示する概略断面図である。イオン交換膜燃料電池においては、イオン交換膜の特性が重要であるが、イオン交換膜として化学的安定性に優れたものには、ポリパーフルオロスルホン酸を成膜したものが知られており、例えば、米国デュポン社製:商品名ナフィオン、旭硝子(株)製:商品名フレミオン、旭化成ケミカルズ(株)製:商品名アシプレックス等がある。最近では、酸化耐性の優れた膜、PBIなどの炭化水素系膜でも高耐食性、メタノールなどの有機原料の透過防止性に優れた市販品もあり、利用可能である。

【0034】
燃料電池として作動させるために、作製したガス拡散電極に高分子固体電解質膜を積層して圧着する必要がある。この工程は膜が可塑性になる温度に加熱して圧着するのが好ましい。触媒は、高分子固体電解質膜に直接形成することも可能であり、この場合にはガス供給層として疎水性の多孔性材料を挟んで触媒を形成した膜と一体化すればよく、ガス拡散電極が反応層側を内側にして高分子固体電解質膜を両側で挟む構造とする。

【0035】
かかる燃料電池の具体的構成は、例えば、図3(a)に示すように表される。図3(a)において、高分子固体電解質として機能するイオン交換膜1の両面には、本発明を適用したガス拡散電極である板状の酸素極(カソード)2、および水素極(アノード)3がそれぞれの反応層側を内側にしてイオン交換膜1に密着し、両極でイオン交換膜1を密着状態で挟む構造(膜-電極接合体、MEA)となっている。酸素極2および水素極3には、Zr、Ti、NbおよびTaから選ばれた1種以上の金属酸化物からなる触媒層が形成されている。

【0036】
酸素極2および水素極3において、イオン交換膜1とは反対面の周縁には、額縁状の酸素極用ガスケット4と水素極用ガスケット5が密着しており、酸素極用ガスケット4と水素極用ガスケット5のそれぞれの内縁側には、多孔性の酸素極用集電体6と水素極用集電体7が酸素極2及び水素極3に接触するように設置されている。

【0037】
酸素極用ガスケット4には、イオン交換膜に向かう側に複数の凹面が形成された酸素極フレーム8の周縁が接触し、この酸素極フレーム8と酸素極2間に酸素極室9が形成されている。他方、水素極用ガスケット5には、イオン交換膜に向かう側に複数の凹面が形成された水素極フレーム10の周縁が接触し、この水素極フレーム10と水素極3間に水素極室11が形成される。

【0038】
12は酸素極フレーム8の上部に横向きに開口された酸素ガス供給口、13は酸素極フレーム8の下部に横向きに開口された未反応酸素ガス及び生成水取出口、14は水素極フレーム10の上部に横向きに開口された水素ガス供給口、15は水素極フレーム10の下部に横向きに開口された未反応水素ガス取出口である。このような構成の燃料電池では、酸素極2および水素極3にそれぞれ酸素含有ガスと燃料の水素を供給する。その結果、水素極3側で水素が水素イオンと電子に解離する。この電子が水素極端子から外部負荷に供給されてエネルギー付与を行った後、酸素極端子を通って酸素極2に達し、供給される酸素及び水素極からイオン交換膜を透過してくる水素イオンと反応して水を生成する。使用する酸素極2および水素極3の触媒は、Zr、Ti、NbおよびTaから選ばれた1種以上の金属酸化物からなるため、安価で、耐久性に優れ、触媒活性が長期間維持される。

【0039】
(食塩電解装置)
図3(b)は、本発明のガス拡散電極をガス拡散陰極に使用した食塩電解用の3室法電解セルを例示する概略断面図である。図3(b)に示す3室法電解セル21は、パーフルオロスルホン酸系の陽イオン交換膜22により、陽極室23と陰極室24と区画されている。陽イオン交換膜22の陽極室23側には、多孔性の陽極25が密着し、陽イオン交換膜22の陰極室側には間隔を空けて、ガス拡散陰極26が設置されている。かかるガス拡散陰極26によって、陰極室24は、陽イオン交換膜22側の陰極液室27と反対側の陰極ガス室28とに区画されている。

【0040】
かかる装置では、触媒を備えたガス拡散陰極26を用いているので、以下に示す陰極反応
2HO2 + 2e → 2OH-+ H2(-0.83V)
に代えて、陰極で以下の反応
2O2 + 2H2 + 4e → 4OH-(0.40V)
を行なわせる。このため、理論的には1.23V、実用的電流密度範囲でも0.8V程度の槽電圧を低減することができ、省電力化を図ることができる。

【0041】
本形態において、ガス拡散陰極26は、Zr、Ti、NbおよびTaから選ばれた1種以上の金属酸化物からなる触媒を備えており、燃料電池と場合と同様に製造できる。かかるガス拡散陰極26は安価で、耐久性に優れるため、過酷な条件で使用される食塩電解セルでも好適に使用できる。
【実施例】
【0042】
図4~図8は各々、本発明の実施例に係るガス拡散電極の電流電圧特性を示す説明図である。
【実施例】
【0043】
図4~図6は、Zr、Ti、Nb、Taなどの金属イオンを含む金属酸化物前駆体溶液を用い、ゾルゲル法のうち、ディップコート法(焼成温度450℃)により、チタン基板上に各触媒層を形成したガス拡散電極に対して、酸素還元開始電位(EORR)を評価した結果である。図4~図6では、電解液0.1 MのHClO4水溶液中(60℃)で、静止法によるサイクリックボルタンメトリー(5 mV/s)にて評価を行った。以下に示す結果において、酸素還元電流が急激に増加したときの電圧が酸素還元開始電位(EORR)である。
【実施例】
【0044】
まず、Ti基板上にTiOx(チタン酸化物)、TaOx(タンタル酸化物)、ZrOx(ジルコニウム酸化物)、Ti7Ta3x(チタンとタンタルとの複合酸化物)、Ti7Zr3x(チタンとジルコニウムとの複合酸化物)のサイクリックボルタンメトリーの結果を図4(a)、(b)、(c)、(d)、(e)に示す。なお、縦軸は、見かけの面積当たりの電流値j (geometric) / μA cm-2で示してある。また、図4には、電解液を窒素で飽和させたときの結果(点線)と、電解液を酸素で飽和させたときの結果(実線)を示してある。
【実施例】
【0045】
また、図5には、Ti基板上にTiOx(チタン酸化物)、TaOx(タンタル酸化物)、ZrOx(ジルコニウム酸化物)、Ti3Ta7x(チタンとタンタルとの複合酸化物)、Ti7Zr3x(チタンとジルコニウムとの複合酸化物)の電流電圧特性を示す。なお、縦軸は、単位重量当たりの電流値j (geometric) / mA g-1で示してある。
【実施例】
【0046】
さらに、図6には、Ti基板上にTiOx(チタン酸化物)、TaOx(タンタル酸化物)、Ti5Ta5x(チタンとタンタルとの複合酸化物)の電流電圧特性を示す。縦軸は、見かけの面積当たりの電流値j (geometric) / μA cm-2で示してある。
【実施例】
【0047】
図4、図5および図6から分るように、本発明を適用したガス拡散電極では、酸素還元電流が観察され、酸素の還元能を有することが確認された。また、本発明を適用したガス拡散電極は、比較的高い酸素還元開始電位(EORR)を有していることが確認できた。
【実施例】
【0048】
また、Ti3Ta7x(チタンとタンタルとの複合酸化物)や、Ti7Zr3x(チタンとジルコニウムとの複合酸化物など、複合酸化物を用いた場合にも高い酸素還元開始電位(EORR)が得られた。
【実施例】
【0049】
そこで、チタン酸化物とタンタル酸化物との複合酸化物において、チタン(Ti)とタンタル(Ta)のモル比を変化させた場合の酸素還元開始電位(EORR)を表1に示す。また、チタン酸化物とジルコニウム酸化物との複合酸化物において、チタン(Ti)とジルコニウム(Zr)の比を変化させた場合の酸素還元開始電位(EORR)も表1に示す。
【実施例】
【0050】
【表1】
JP0005484120B2_000002t.gif

【実施例】
【0051】
表1に示すように、いずれの組成においても、0.76V(vsRHE)以上の比較的高い酸素還元開始電位(EORR)を有していることが確認できた。
【実施例】
【0052】
次に、図7、図8は、Zr、Ti、Nb、Taなどの金属イオンおよびSnのイオンを含む金属酸化物前駆体溶液を用い、ゾルゲル法のうち、ディップコート法(焼成温度450℃)により、チタン基板上に各触媒層を形成した例に係るガス拡散電極の電流電圧特性を示す説明図である。図7、図8では、電解液0.5Mの硫酸溶液中(60℃)で、静止法によるサイクリックボルタンメトリー(5 mV/s)にて評価を行った。ディップコート法による塗布回数は5回である。
【実施例】
【0053】
図7は、Ti基板上にZr0.7x-Sn0.3(スズ酸化物が添加されたジルコニウム酸化物)の電流電圧特性を示す。本例では、塩化ジルコンおよびスズブトキシドの各ブタノール溶液を混合したものを金属酸化物前駆体溶液としてある。触媒層はZrの原子パーセントが70%であり、Snの原子パーセントが30%となっている。また、図7には、Ti基板上にZrOx(ジルコニウム酸化物、スズ酸化物の添加なし)の電流電圧特性、および、Ti基板上にIrO2(イリジウム酸化物 、スズ酸化物の添加なし)の電流電圧特性を示す。なお、縦軸は、見かけの面積当たりの電流値j (geometric) / μA cm-2で示してある。
【実施例】
【0054】
図8は、Ti基板上にTa0.7x-Sn0.3(スズ酸化物が添加されたタンタル酸化物)の電流電圧特性を示す。本例では、タンタルブトキシドおよびスズブトキシドの各ブタノール溶液を混合したものを金属酸化物前駆体溶液としてある。触媒層はTaの原子パーセントが70%であり、Snの原子パーセントが30%となっている。また、図8には、Ti基板上にTaOx(タンタル酸化物、スズ酸化物の添加なし)の電流電圧特性、および、Ti基板上にIrO2(イリジウム酸化物、スズ酸化物の添加なし) の電流電圧特性を示す。なお、縦軸は、見かけの面積当たりの電流値j (geometric) / μA cm-2で示してある。
【実施例】
【0055】
図7および図8から分るように、本発明を適用したガス拡散電極では、酸素還元電流が観察され、酸素の還元能を有することが確認された。また、本発明を適用したガス拡散電極は、比較的高い酸素還元開始電位(EORR)を有していることが確認できた。さらに、スズ酸化物が添加されている触媒層では、スズ酸化物が添加されていない触媒層と比較して、酸素還元反応に対する触媒活性が高まっていることが確認できた。
図面
【図3】
0
【図4】
1
【図5】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図8】
5
【図1】
6
【図2】
7