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明細書 :ダイヤモンドライクカーボン膜付基材の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5585983号 (P5585983)
公開番号 特開2011-214085 (P2011-214085A)
登録日 平成26年8月1日(2014.8.1)
発行日 平成26年9月10日(2014.9.10)
公開日 平成23年10月27日(2011.10.27)
発明の名称または考案の名称 ダイヤモンドライクカーボン膜付基材の製造方法
国際特許分類 C23C  16/27        (2006.01)
C01B  31/02        (2006.01)
B32B   9/00        (2006.01)
FI C23C 16/27
C01B 31/02 101Z
B32B 9/00 A
請求項の数または発明の数 11
全頁数 17
出願番号 特願2010-083685 (P2010-083685)
出願日 平成22年3月31日(2010.3.31)
審査請求日 平成25年3月6日(2013.3.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】齋藤 永宏
【氏名】高井 治
【氏名】稗田 純子
【氏名】白藤 立
個別代理人の代理人 【識別番号】100117606、【弁理士】、【氏名又は名称】安部 誠
【識別番号】100136423、【弁理士】、【氏名又は名称】大井 道子
【識別番号】100115510、【弁理士】、【氏名又は名称】手島 勝
審査官 【審査官】田中 則充
参考文献・文献 特開2003-342731(JP,A)
名古屋大学工学研究科 他,SiドーピングによるDLCの機能性の向上,日本金属学会講演概要 2010年春期(第146回)大会,2010年 3月28日,第447頁
調査した分野 C23C16/00-16/56
C01B31/02
B32B9/00
JSTPlus(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
樹脂基材上に可視光透過性のダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を有するDLC膜付基材を製造する方法であって、
高周波電源を用いた平行平板型プラズマCVDにより、CHとHとの混合ガスからDLC膜を形成する工程を包含し、
そのDLC膜形成工程では、前記プラズマCVDを、以下の条件:
(a)前記混合ガスにおけるHガス分圧をCHガス分圧の0.8倍以上とする;
(b)前記混合ガスの合計圧力を20Pa以上40Pa以下とする;および、
(c)前記高周波電源のパワーを225πcm当たり15W以上20W以下とする;
を満たすように行うことにより、以下の特性:
(A)膜厚200nmのとき、波長400nmにおける光透過率が70%以上である;および、
(B)硬度が5GPa以上である;
を満たすDLC膜を前記樹脂基材上に形成する、DLC膜付基材製造方法。
【請求項2】
前記混合ガスの合計圧力を30Pa以上40Pa以下とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記DLC膜形成工程に先立って、前記樹脂基材にプラズマを照射する工程をさらに包含する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記DLC膜形成工程に先立って、前記樹脂基材の表面に自己組織化単分子膜を形成する工程をさらに包含する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記自己組織化単分子膜は、前記DLC膜を構成する炭素原子との間にN-C結合を形成可能な末端基を有する膜形成材料を用いて形成される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記条件(b)および(c)に代えて、以下の条件:
(d)高周波電極にかかる自己バイアスを-85V~-115Vとする;
を満たすように前記プラズマCVDを行う、請求項1から5のいずれか一項に記載のDLC膜付基材製造方法。
【請求項7】
以下の特性:
(A)膜厚200nmのとき、波長400nmにおける光透過率が70%以上である;および、
(B)硬度が5GPa以上である;
を満たすDLC膜を製造する方法であって、
高周波電源を用いた平行平板型プラズマCVDによりCHとHとの混合ガスからDLC膜を形成する工程を包含し、
ここで、前記プラズマCVDを、以下の条件:
(a)前記混合ガスにおけるHガス分圧をCHガス分圧の0.8倍以上とする;
(b)前記混合ガスの合計圧力を20Pa以上40Pa以下とする;および、
(c)前記高周波電源のパワーを225πcm当たり15W以上20W以下とする;
を満たすように行う、DLC膜製造方法。
【請求項8】
波長400nmにおける光透過率が70%以上であり且つ硬度が5GPa以上であるDLC膜が、自己組織化単分子膜を介して基材上に設けられているDLC膜付き基材であって、
前記自己組織化単分子膜は、前記DLC膜を構成する炭素原子との間に化学結合を形成可能な末端基を有する膜形成材料を用いて形成されたものである、DLC膜付基材。
【請求項9】
前記自己組織化単分子膜は、前記DLC膜を構成する炭素原子との間にN-C結合を形成可能な末端基を有する膜形成材料を用いて形成されたものである、請求項8に記載のDLC膜付基材。
【請求項10】
波長400nmにおける光透過率が70%以上であり且つ硬度が5GPa以上であるDLC膜が、自己組織化単分子膜を介して基材上に設けられているDLC膜付き基材であって、
前記自己組織化単分子膜は、置換されたまたは置換されていないアミノ基、メルカプト基、水酸基、カルボキシル基、アルデヒド基、スルフォン酸基およびシアノ基からなる群から選択される末端基を有する膜形成材料を用いて形成されたものである、DLC膜付基材。
【請求項11】
波長400nmにおける光透過率が70%以上であり且つ硬度が5GPa以上であるDLC膜が、自己組織化単分子膜を介して基材上に設けられているDLC膜付き基材であって、
前記自己組織化単分子膜を形成する分子の集合状態の変化によって前記基材と前記DLC膜との熱膨張係数の相違に起因するストレスを緩和し得るように構成されている、DLC膜付き基材。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基材上にダイヤモンドライクカーボン膜を有するダイヤモンドライクカーボン付基材を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドライクカーボン(Diamond-Like Carbon;以下「DLC」と表記することもある。)は、ダイヤモンドと同様のSP結合およびグラファイトと同様のSP結合を含むカーボンネットワークを基本構造とするアモルファス状の炭素質材料を示す総称である。このDLCは、高硬度、耐摩耗性、低摩擦係数、表面平滑性等の機械的特性、耐薬品性、耐腐蝕性等の化学的特性、絶縁性等の電気的特性、等の種々の優れた特性を発揮し得る高機能材料として注目されている。
【0003】
DLCに期待される利用分野の一つとして、樹脂基材の表面にDLCの膜を設けることで該樹脂材料を傷付きから保護する用途が挙げられる。一般に、ポリカーボネート、アクリル樹脂等の樹脂(典型的には熱可塑性樹脂)は、軽量で安価であり、成形や加工も容易であるという特長を有する一方、ガラス等の無機材料や金属材料に比べて傷が付きやすい傾向にあるためである。樹脂基材上のDLC膜、該DLC膜の製造方法または製造装置に関連する従来技術文献として、特許文献1~5が挙げられる。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2009-221518号公報
【特許文献2】特開2009-35819号公報
【特許文献3】特開2008-31521号公報
【特許文献4】特開2010-30899号公報
【特許文献5】特開2008-229968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂基材のなかには、可視光(一般に、波長360nm~800nm程度の光を指す。)に対する透明性を特長とするものがある。この種の樹脂基材の表面保護膜として用いられるDLC膜は、硬度とともに、可視光をよく透過させる性質を有することが望ましい。しかし、保護膜として機能し得る硬度(典型的には、少なくとも一般的なガラスと同等以上の硬度)と高い可視光透過性とを兼ね備えたDLC膜を樹脂基材上に形成する技術は未だ確立されていない。例えば、特許文献1,5は、DLC膜により樹脂フィルムにガスバリア性を付与することを目的とし、DLC膜を樹脂フィルムの保護膜として利用するものではないため、DLC膜の硬度は考慮していない。特許文献4に記載の技術は、基材表面にダイヤモンド微粒子を付着させた後に表面波プラズマ処理を行うことでDLC膜を形成するという特殊な製造方法を前提としており、生産コスト等の点で難がある。特許文献2,3に記載の技術は、DLC膜の硬度や透明性の向上を目的としたものではない。
【0006】
かかる状況に鑑み、本発明は、安価で入手容易なメタン(CH)を用いて、保護膜として機能し得る硬度と高い可視光透過性とを兼ね備えたDLC膜を樹脂基材上に形成することにより、DLC膜付基材を製造する方法を提供することを一つの目的とする。関連する他の目的は、樹脂基材の保護膜として機能し得る硬度と高い可視光透過性とを兼ね備えたDLC膜を製造する方法の提供である。本発明の他の目的は、上記硬度および可視光透過性を有するDLC膜を樹脂基材上に備え、温度変化に対する耐久性に優れたDLC膜付基材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この明細書によると、樹脂基材上に可視光透過性のDLC膜を有するDLC膜付基材を製造する方法が提供される。その方法は、高周波(RF)電源を用いた平行平板型プラズマCVD(化学蒸着)により、CHとHとの混合ガスからDLC膜を形成する工程を包含する。そのDLC膜形成工程では、前記プラズマCVDを、以下の条件(a)~(c)の全てを満たすように行う。
(a)前記混合ガスにおけるHガス分圧(PH2)をCHガス分圧(PCH4)の0.8倍以上とする(すなわち、PH2/PCH4≧0.8)。
(b)前記混合ガスの合計圧力(P)を20Pa以上40Pa以下とする(すなわち、20Pa≦P≦40Pa)。
(c)前記高周波電源のパワーを225πcm当たり15W以上20W以下とする。
上記DLC膜形成工程により、以下の特性(A)および(B)を満たすDLC膜を、前記樹脂基材上に形成する。
(A)膜厚200nmのとき、波長400nmにおける光透過率が70%以上である。
(B)硬度が5GPa以上である。
【0008】
かかる製造方法によると、可視光に対して高い光透過性を示し且つ一般的なガラスと同等以上の硬度を有するDLC膜により表面が保護されたDLC膜付基材を、的確に製造することができる。
【0009】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、前記プラズマCVDを、前記(a)および(c)の両方を満たし、且つ前記混合ガスの合計圧力を30Pa以上40Pa以下とする条件で行う。かかる態様によると、膜厚200nmのとき、波長400nmにおける光透過率が80%以上および/または波長350nmにおける光透過率が70%以上であり、且つ硬度が5GPa以上(より好ましくは6GPa以上)のDLC膜が形成され得る。
【0010】
ここに開示される技術の一態様では、前記樹脂基材として、予め表面に自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer;以下「SAM」と表記することもある。)が形成された樹脂基材を用い、そのSAMを介してDLC膜を形成する。ここに開示されるDLC膜付基材製造方法は、例えば、前記DLC膜形成工程に先立って、前記樹脂基材の表面にSAMを形成する工程(すなわち、表面にSAMが形成された樹脂基材を作製する工程)をさらに包含する態様で実施され得る。かかる態様により製造されたDLC膜付基材によると、DLC膜と樹脂基材との界面にSAMが設けられていることにより、DLC膜と樹脂基材との熱膨張係数の違いに起因して生じ得るストレスを緩和することができる。したがって、温度変化に対する耐久性に優れた(例えば、DLC膜の剥がれやひび割れが起こり難い)DLC膜付基材となり得る。
【0011】
好ましい一態様では、前記SAMを、前記DLC膜を構成する炭素原子との間にN-C(窒素-炭素)結合を形成可能な末端基(例えば-NH基)を有する膜形成材料を用いて形成する。かかる態様によると、上記N-C結合によりSAMとDLC膜との密着性を高めることができるので、温度変化に対する耐久性がより効果的に改善されたDLC膜付基材が製造され得る。
【0012】
この明細書によると、また、樹脂基材上に可視光透過性のDLC膜を有するDLC膜付基材を製造する他の方法が提供される。その方法は、高周波電源を用いた平行平板型プラズマCVDにより、CHとHとの混合ガスからDLC膜を形成する工程を包含する。そのDLC膜形成工程では、前記プラズマCVDを、以下の条件:
(a)前記混合ガスにおけるHガス分圧をCHガス分圧の0.8倍以上とする;および、
(d)高周波電極(前記高周波電源に接続された電極)にかかる自己バイアスを-85V~-115Vとする;
を満たすように行う。このことによって、前記特性(A)および(B)を共に満たすDLC膜を前記樹脂基材上に形成する。かかる製造方法によると、可視光に対して高い光透過性を示し且つ一般的なガラスと同等以上の硬度を有するDLC膜により表面が保護されたDLC膜付基材を、的確に製造することができる。
【0013】
この明細書によると、また、波長400nmにおける光透過率が70%以上であり且つ硬度が5GPa以上であるDLC膜がSAMを介して樹脂基材上に設けられていることを特徴とする、DLC膜付基材が提供される。かかる構成のDLC膜付基材は、DLC膜と樹脂基材との界面にSAMが介在することにより、DLC膜と樹脂基材との熱膨張係数の違いに起因して生じ得るストレスを緩和することができる。したがって、温度変化に対する耐久性に優れたものとなり得る。
【0014】
この明細書によると、また、前記特性(A)および(B)を共に満たすDLC膜を製造する方法が提供される。その方法は、高周波電源を用いた平行平板型プラズマCVDによりCHとHとの混合ガスからDLC膜を形成する工程を包含する。そのDLC膜形成工程では、前記プラズマCVDを、前記条件(a)~(c)の全てを満たすように行う。かかるDLC膜製造方法によると、可視光に対して高い光透過性を示し且つ一般的なガラスと同等以上の硬度を有するDLC膜を、的確に製造することができる。
【0015】
なお、本明細書中において「DLC(ダイヤモンドライクカーボン)」とは、SP結合とSP結合とを含むカーボンネットワークを基本構造(基本骨格)とするアモルファス状の炭素質材料(水素化アモルファスカーボン)を指す概念である。SP結合とSP結合との割合は特に限定されない。例えばSP結合の割合が凡そ10~90%の範囲にあるDLCは、ここでいうDLCに含まれる典型例である。
【0016】
DLC膜が上記基本構造を有することは、例えば、該膜のラマンスペクトルを観察することにより把握され得る。例えば、ラマンスペクトルにおいて1350cm-1付近(Dバンド)にあらわれるDピークの強度(ID)と、1550cm-1付近(Gバンド)にあらわれるGピークの強度(IG)とから得られるID/IG比および該Gピークの位置に基づいて、DLC膜に含まれるsp結合の割合を見積もることができる。
【0017】
ここに開示される技術において、DLC膜の硬度を測定する方法としては、例えば、一般的なナノインデンテーション法を好ましく採用することができる。透過率特性(光透過性)を測定する方法としては、例えば、可視紫外分光光度計による計測法を好ましく採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】平行平板型プラズマCVD装置の構成例を模式的に示す説明図である。
【図2】チャンバ内の合計ガス圧とDLC成膜レートとの関係を示す特性図である。
【図3】RFパワーとDLC成膜レートとの関係を示す特性図である。
【図4】合計ガス圧を異ならせて作製した各サンプルの透過率特性を示す図である。
【図5】RFパワーを異ならせて作製した各サンプルの透過率特性を示す図である。
【図6】合計ガス圧と透過率および硬度との関係を示す特性図である。
【図7】RFパワーと透過率および硬度との関係を示す特性図である。
【図8】RFパワーおよび合計ガス圧と自己バイアスとの関係を示す特性図である。
【図9】自己バイアスと透過率および硬度との関係を示す特性図である。
【図10】合計ガス圧とDLC膜の付着力との関係を示す特性図である。
【図11】RFパワーとDLC膜の付着力との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書および図面に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。

【0020】
ここに開示される技術におけるDLC膜は、膜厚200nmにおいて、波長400nmの光を70%以上透過させる性能(特性A)を有するものであり得る。かかる特性を有するDLC膜は、典型的には、少なくとも波長400nm~800nmの領域全体にわたって70%以上の光透過率を示す(図4、図5参照)。好ましい一態様では、上記DLC膜が、膜厚200nmにおいて、(1)波長400nmの光を80%以上透過させる、および/または、(2)波長350nmの光を70%以上透過させる、の少なくとも一方の特性を満たす。上記(1)を満たすDLC膜は、典型的には、少なくとも波長400nm~800nmの領域全体にわたって80%以上の光透過率を示す。上記(2)を満たすDLC膜は、典型的には、少なくとも波長350nm~800nmの領域全体にわたって70%以上の光透過率を示す。上記(1),(2)の両方を満たすDLC膜がより好ましい。また、ここに開示される技術におけるDLC膜は、波長360nm~800nmの領域に目立った吸収を有しないことが好ましい。かかるDLC膜は、良好な可視光透過性を示し、且つ着色の少ない(無色または淡色の)ものとなり得る。

【0021】
膜厚200nmにおいて上記光透過性を満たすDLC膜は、膜厚をより小さくする(例えば、他のCVD条件は変えずにCVD時間を短くする)ことにより、より高い光透過性を示すものとなり得る。一方、DLC膜の硬度は該膜の厚みにそれほど依存しない。例えば、膜厚200nmのDLC膜に対し、他のCVD条件は変えずにCVD時間を短くすることでより薄いDLC膜を作製する場合、該膜の厚みが10nm以上(典型的には50nm以上、好ましくは100nm以上、より好ましくは120nm以上)であれば、膜厚200nmのときと概ね同等の硬度が維持され得る。ここに開示される技術は、膜厚10nm以上(典型的には50nm以上、好ましくは100nm以上、より好ましくは120nm以上)のDLC膜および該DLC膜を表面に有する樹脂基材(DLC膜付基材)の製造に好ましく適用され得る。DLC膜の厚みの上限は特に限定されないが、生産性や耐久性(例えば、温度変化に対する耐久性)等の観点から、通常は5μm以下(例えば1μm以下)のDLC膜への適用が好ましい。
なお、試料の透過率と膜厚とから計算される吸収係数を用いることにより、膜厚に依存せずに試料の透明度を比較することができる(ランベルト・ベールの法則)。また、このことによって、膜厚が200nmよりも薄いかまたは厚い試料を用いて測定された光透過率の値から、当該試料について、膜厚200nmのときの光透過率を算出する(膜厚200nmの場合における光透過率に換算する)ことができる。

【0022】
ここに開示される製造方法は、典型的には、平行平板型プラズマCVDによってDLC膜を形成する工程を包含する。一般的な平行平板型プラズマCVD装置の一構成例を図1に示す。このプラズマCVD装置1は、真空チャンバ2の内部に一対の板状電極12,14を備える。これらの電極12,14は、所定の間隔を隔てて対向するように平行配置されている。一方の電極(高周波電極)12には、典型的にはマッチングボックス18を介して、高周波(Radio Frequency;RF)電源16が接続されている。CVD処理の対象たる基材3(予め表面にSAMが形成された樹脂基材であり得る。)は、この高周波電極12の上に配置される。他方の電極(接地電極)14はアースされている。

【0023】
かかる構成の装置1を用いて基材3上にDLC膜を形成する操作は、例えば以下のようにして行うことができる。チャンバ2のガス排出口22に接続された真空ポンプを稼動させてチャンバ2内を減圧し、次いでチャンバ2のガス導入口24からCHガスおよびHガスを供給する。それらのガスの供給レートとガス排出口22からの排気レートとのバランスを調節することにより、チャンバ2内を、CHとHとを所定の分圧比で含み且つ所定の合計圧力の混合ガス雰囲気に調整する。RF電源16から高周波電極12に所定のRFパワーを供給することにより、上記混合ガスの少なくとも一部をプラズマ化する。これにより生じたプラズマP中の正イオンは、電界に沿って電極12側に加速され、基材3に衝突する。このようにしてDLC膜の堆積が進行する。

【0024】
ここに開示される製造方法の典型的な態様では、上記プラズマCVDを、CHとHとの分圧比(PH2/PCH4)が0.8以上の混合ガス雰囲気下にて行う。このPH2/PCH4の値が大きくなると、形成されるDLC膜の可視光透過率は上昇する傾向にある。一方、PH2/PCH4の値が大きくなると、形成されるDLC膜の硬度は低下する傾向にある。上記混合ガスの組成を、PH2/PCH4が0.8以上であって且つ目標とするDLC膜の硬度が実現される範囲(典型的には2.0以下、好ましくは1.5以下、例えば1.2以下)に設定することにより、良好な可視光透過性と所望の硬度(例えば5GPa以上、好ましくは6GPa以上、典型的には10GPa以下)とを兼ね備えたDLC膜を作製することができる。より高い透過性を有するDLC膜を作製する場合には、上記混合ガスの組成を、PH2/PCH4が0.9以上であって且つ目標とする硬度が実現される範囲に設定するとよい。好ましい一態様では、PH2/PCH4が概ね1(例えば、0.95≦PH2/PCH4≦1.04)である混合ガス雰囲気下でプラズマCVDを行う。

【0025】
上記プラズマCVDを行う雰囲気(チャンバ内のガス組成)は、CHおよびHに加えて、本発明の目的を達成し得る限度でAr,Ne,N等の不活性ガスを更に含有する混合ガス雰囲気であり得る。通常は、上記CVDを行う雰囲気ガスの全圧のうちPCH4とPH2との合計圧力(P)が75%以上であることが好ましく、90%以上(さらには95%以上、例えば99%以上)であることがより好ましい。好ましい一態様では、実質的にCHおよびHからなる混合ガス雰囲気下においてプラズマCVDを行う。

【0026】
ここに開示される方法の好ましい一態様では、上記プラズマCVDにおいて、上記混合ガスの合計圧力P(実質的にCHおよびHからなる混合ガスにおいてはPH2+PCH4)を20Pa以上40Pa以下とする。Pをこの範囲とすることにより、上記特性(A)および(B)を同時に満たすDLC膜が好適に形成され得る。Pを30Pa以上40Pa以下とすることがより好ましい。かかるCVD条件によると、より光透過性のよいDLC膜が形成され得る。

【0027】
CHガスおよびHガスのチャンバ内への供給レートは、両ガスの合計流量として、例えば10~500SCCM(標準状態における1分当たりの供給体積(cm))とすることができる。通常は、上記合計流量を50~200SCCM程度とすることが適当である。

【0028】
ここに開示される技術においてプラズマCVDに使用するRF電源の周波数は、例えば400KHz~100MHz程度とすることができる。通常は、13.56MHz、27MHzまたは40MHzのRF電源を好適に用いることができ、なかでも13.56MHzが好ましい。後述する実験例では13.56MHzのRF電源を使用した。上記プラズマCVDの好ましい一態様では、RF電源から高周波電極に供給される電力を、該電極の面積225πcm当たり15W以上20W以下とする。かかるCVD条件によると、上記特性(A)および(B)を同時に満たすDLC膜が好適に形成され得る。

【0029】
ここに開示される方法の好ましい一態様では、上記プラズマCVDにおいて、高周波電極にかかる自己バイアスを-85V~-115Vとする。かかるCVD条件によると、上記特性(A)および(B)を満たすDLC膜が的確に形成され得る。好ましい一態様では、上記自己バイアスを-85V~-110Vとする。かかるCVD条件によると、膜厚200nmにおいて波長350nmの光透過率が70%以上および/または波長400nmの光透過率が80%以上であり、且つ5GPa以上の硬度を有するDLC膜が形成され得る。より高硬度の(例えば6GPa以上の)DLC膜を形成するためには、上記自己バイアスを-90V~-115V(例えば-90V~-110V)とすることが好ましい。

【0030】
上記自己バイアスをマイナス側により大きくする手法としては、例えば、RFパワーを大きくする、上記混合ガスの合計圧力(合計ガス圧)を小さくする、直流電源による負電圧を印加する等の手法を、単独で、あるいは適宜組み合わせて採用することができる。例えば、RFパワーおよび/または合計ガス圧を調節することにより、自己バイアスがここに開示される好ましい範囲となるように調整することができる。なお、出力と自己バイアスとの関係、合計ガス圧と自己バイアスとの関係は、実際に使用する予定の雰囲気ガス組成(PH2/PCH4)について簡単な予備実験を行うことにより、容易に把握することができる。

【0031】
ここに開示される技術における樹脂基材としては、DLC膜付基材の目的および用途に応じた種々の樹脂材料からなるものを用いることができる。かかる樹脂材料を構成する樹脂の例としては、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド、ポリアミド(ナイロン)、アラミド(芳香族ポリアミド)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)共重合体樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、フェノール樹脂、ウレア樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれも使用可能である。このような樹脂の一種または二種以上に、着色剤(顔料、染料等)、充填材、装飾片(金属片、雲母片、短繊維等)、繊維強化材等が配合された組成の樹脂材料からなる樹脂基材であってもよい。

【0032】
一般に、熱可塑性樹脂は熱硬化性樹脂に比べて傷付きやすいことから、上記樹脂が熱可塑性樹脂である樹脂基材では、ここに開示されるDLC膜を表面に設ける意義(保護膜としての有用性)がより大きなものとなり得る。また、DLC膜の可視光透過性能を効果的に活用するという観点からは、可視光透過性の高い(無色透明または着色透明な)樹脂基材への適用が有意義である。もっとも、不透明な樹脂基材を用いる態様においても、その表面により光透過性の高いDLC膜を形成することにより、樹脂基材自体の有する模様、色調、質感等をDLC膜越しによりよく観察し得るという効果が発揮され得る。

【0033】
ここに開示される技術は、樹脂基材とDLC膜との間(界面)に自己組織化単分子膜が介在される態様で実施され得る。ここで「自己組織化単分子膜(SAM)」とは、原料分子が基材の表面(固体と液体との界面または固体と気体との界面)に集合して自律的に組みあがる単分子膜(分子一層による膜)をいう。上記原料分子としては、基材表面との化学結合等によって該基材に吸着可能な少なくとも一つの官能基(ヘッド基)と、それとは逆に基材の外側に向けて延びる少なくとも一つのテール基とを有する構造の分子(SAM形成材料)を好ましく採用し得る。例えば、Si,Ti等のコア原子にヘッド基およびテール基が結合した構造の化合物を用いることができる。コア原子がSiである化合物(有機ケイ素化合物)が特に好ましい。

【0034】
ヘッド基の一好適例として、アルコキシ基(アルコキシシリル基等)が挙げられる。例えば、炭素原子数1~4(より好ましくは炭素原子数1~3)のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基が特に好ましい。ヘッド基の他の好適例として、F,Cl,Br,I等のハロゲン原子が挙げられる。好ましいSAM形成材料の一例として、コア原子としてのSiに三つのアルコキシ基と一つのテール基とが結合した構造の化合物(トリアルコキシシラン類)が挙げられる。

【0035】
SAM形成材料の有するテール基は、例えば、置換されたまたは置換されていない脂肪族基または芳香族基であり得る。上記脂肪族基の炭素原子数は、例えば1~30(典型的には2~30)であり得る。上記芳香族基の炭素原子数は、例えば5~30(典型的には6~30)であり得る。このような脂肪族基または芳香族基は、炭素原子の一部がヘテロ原子(N,O,S等)で置き換えられた構造であってもよく、水素原子の一部または全部がハロゲン原子(F,Cl等)に置き換えられた構造であってもよい。

【0036】
好ましいテール基の他の一例として、少なくとも末端(コア原子とは反対側の端)に置換基を有する炭素原子数2以上(典型的には2~9、例えば2~6)の飽和または不飽和の脂肪族基(典型的には飽和脂肪族基)が挙げられる。上記末端基は、例えば、置換されたまたは置換されていないアミノ基、メルカプト基、水酸基、カルボキシル基、アルデヒド基、スルフォン酸基、シアノ基、ハロゲン原子等であり得る。DLC膜を構成する炭素とSAMとの間に化学結合を形成し得るテール基が好ましい。C-C結合よりも高強度の化学結合(例えばN-C結合)を形成し得るテール基が特に好ましい。かかるテール基を有するSAM形成材料の好適例として、末端にアミノ基を有するアミノアルキルアルコキシシラン類(例えばγ-アミノプロピルトリエトキシシラン)が挙げられる。アルキル基の炭素原子数が2~9程度の末端アミノアルキルアルコキシシランが好ましい。上記化学結合は、SAM上にプラズマCVDによりDLC膜を形成する際に形成され得る。

【0037】
基材表面にSAMを形成する操作は、従来公知の方法により行うことができる。例えば、SAM形成材料を含む溶液に基材を浸漬する方法(液相法)、SAM形成材料を基材に化学蒸着する方法(気相法または熱CVD法と称されることもある。)、等を適宜採用することができる。気相法によるSAMの形成には、液相法に比べてSAM形成材料を効率よく利用し得る、廃液量を低減し得る、等の利点がある。一方、耐熱性の低い基材にSAMを形成する場合には液相法を好ましく採用し得る。

【0038】
上記基材には、必要に応じて、SAMの形成に先立って適切な前処理を施すことができる。かかる前処理は、基材表面を洗浄する処理、基材表面に官能基(典型的にはSAM形成材料の吸着に適した官能基、例えば水酸基)を導入する処理、基材表面を改質する処理(例えば、表面に酸化膜を形成する処理)等から選択される一種または二種以上を含み得る。このような前処理が施された基材を用いることにより、該基材の表面に高品質のSAMをより適切に作製することができる。そのSAMの上からDLC膜を形成することにより、より高品質の(例えば、光透過性、硬度、温度変化に対する耐久性のうち少なくとも一つが改善された)DLC膜、ひいてはより高品質のDLC膜付基材が実現され得る。

【0039】
上記前処理の一好適例として、基材に紫外光(波長が100nm~380nmの範囲にある紫外線)を照射する処理が挙げられる。真空紫外光(波長が100nm~200nmの範囲にある紫外線;VUV)を照射することがより好ましい。このVUV処理は、酸素(典型的にはO)を含む雰囲気下で好ましく実施され得る。例えば、常圧あるいは減圧(例えば凡そ1Pa~1500Pa、好ましくは凡そ10Pa~1000Pa)の大気中で基材にVUVを照射することにより、該基材の表面に水酸基を適切に導入することができる。VUVの光源としては、エキシマランプ、Hランプ等を用いることができる。上記前処理の他の例としては、減圧のAr雰囲気、減圧のAr-O混合ガス雰囲気、大気圧の空気雰囲気、大気圧のNガス雰囲気等の雰囲気条件下において、基材にプラズマを照射する処理が挙げられる。

【0040】
ここに開示される技術を実施するにあたり、DLC膜と樹脂基材との界面にSAMを介在させることにより温度変化に対する耐久性が向上する理由を明らかにする必要はないが、例えば以下のことが考えられる。すなわち、一般的な樹脂(PC、PET、PMMA、PVC、エポキシ樹脂、ポリイミド等)の熱膨張係数は50×10-6~80×10-6/K程度の範囲にあるのに対し、一般的なDLCの熱膨張係数は2×10-6/K程度であり、その間には20倍以上の(典型的には25~40倍程度の)違いがある。このように熱膨張係数が大きく異なるため、DLC膜付基材が温度変化を受けると、該温度変化に対する膨張収縮の程度の相違によって樹脂基材とDLC膜との間にストレスが生じる。例えば、温度上昇時には樹脂基材の膨張によりDLC膜の面方向(広がり方向)に引張応力がかかり、温度低下時には樹脂基材の収縮によりDLC膜に圧縮応力がかかる。ここで、樹脂基材とDLC膜との間にSAMを介在させると、そのSAM形成材料(膜形成分子)の一端および他端は樹脂基材およびDLC膜に化学結合する(繋がれる)一方、それらの膜形成分子は主として分子間力により集合しており、該分子相互の間には化学結合による強固なネットワークが実質的に存在しない。このため、上記膜形成分子の集合状態の変化によって、樹脂基材とDLC膜との熱膨張係数の相違に起因するストレスの少なくとも一部を緩和(吸収)し得るものと考えられる。

【0041】
以下、本発明に関連するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定する意図ではない。

【0042】
<実験例1>
(サンプル1~8の作製)
図1と同様の概略構成を有する市販の平行平板型プラズマCVD装置(株式会社エヌ工房製、型式「P-CVD-DLC300」)を用いて樹脂基材の表面にDLC膜を形成した。このプラズマCVD装置は、直径30cmの円板形(面積225πcm)の高周波電極を備える。樹脂基材としては、厚さ500μmのポリカーボネート(PC)フィルムを1.5cm×3.0cmの長方形にカットしたものを使用した。両電極間の距離は6.5cmに設定した。チャンバ内を2×10-5Paまで減圧した後、CHガスとHガスとを1:1の流量比で供給して、チャンバ内を所定の合計ガス圧(P)の混合ガス雰囲気(PH2/PCH4=1の分圧比)に調整した。13.56MHzのRF電源から高周波電極に所定のRFパワーを供給してプラズマCVDを行うことにより、PCフィルムの表面に厚さ約200nmのDLC膜を形成した。CVDを行う時間は、目標とする厚みのDLC膜が形成されるように調節した。CHガスおよびHガスの合計供給レート(合計流量)は100SCCMとした。

【0043】
高周波電極に供給されるRFパワー(すなわち、高周波電極の面積225πcm当たりのRFパワー)を15W~30Wの範囲で異ならせ、チャンバ内の合計ガス圧を10Pa~50Paの範囲で異ならせて、これらの組合せにより、表1に示す8種類の条件で樹脂基材上にDLC膜を形成してDLC膜付基材サンプル1~8を得た。

【0044】
各サンプルにつき、DLC膜の厚みおよびCVD時間から成膜レートを算出した。DLC膜の厚みは、樹脂基材の一部に予めマスクテープを貼った状態で成膜を行い、成膜後に上記マスクテープを剥がすことでDLC膜が形成された箇所と形成されていない箇所(基材表面が露出した箇所)との間に段差をつくり、その段差の高さを触針式の段差計または粗さ計で計測することにより測定した。得られた結果を図2(サンプル1~5)および図3(サンプル4,6~8)に示す。
図2に示されるように、本実験例の範囲では、合計ガス圧が高くなるにつれて成膜レートは向上する傾向にあった。これは、膜堆積の前駆体であるCHの生成量が圧力上昇に伴って増加するためと考えられる。ただし、合計ガス圧が30Paを超えると成膜レートの向上が鈍化した。これは、平均自由行程の減少によりCHが基材表面に到達し難くなったためと考えられる。また、図3に示されるように、本実験例の範囲では、RFパワーが大きくなるにつれて成膜レートが向上する傾向にあった。これは、原料の供給速度が一定であり、RFパワーが比較的小さいので基板温度が低温に維持されたため、表面反応律速で膜が堆積したためと考えられる。

【0045】
(透過率特性)
株式会社島津製作所製の光透過率測定装置、型式「UV-2550」を用いて、DLC膜を有しない樹脂基材(PCフィルム)をリファレンスとするダブルビーム法により、サンプル1~8の透過率特性を測定した。得られた結果を図4(サンプル1~5)および図5(サンプル4,6~8)に示す。また、各サンプルにつき、波長350nmにおける光透過率および波長400nmにおける光透過率を表1に示す。これらの図表に示されるように、DLC膜形成時のガス圧力が高くなるにつれて透過率は向上し、RFパワーが大きくなるにつれて透過率は低下する傾向がみられた。また、いずれのサンプルについても、波長350~800nmの範囲では波長350nmにおける光透過率が最も低く、波長400~800nmの範囲では波長400nmにおける光透過率が最も低かった。したがって、波長350nmまたは400nmにおける光透過率を比較することにより、可視光の波長域全体の光透過性を評価することができる。

【0046】
(硬度測定)
Hysitron社製の硬度測定装置、「Triboscope」を用いて、サンプル1~8の硬度をナノインデンテーション法により測定した。得られた結果を図6(サンプル1~5)、図7(サンプル4,6~8)および表1に示す。これらの図表に示されるように、本実験例の範囲では、RFパワーが大きくなるにつれて硬度が上昇し、成膜時のガス圧が高くなるにつれて硬度が低下する傾向にあった。

【0047】
図6,7には、硬度の測定結果と併せて、波長350nmおよび400nmにおける光透過率を併せて示している。これらの図6,7および表1からわかるように、PCH4:PH2=1:1において、合計ガス圧(PCH4+PH2)を20Pa以上40Pa以下とし、且つ225πcm当たりのRFパワーを15W以上20W以下としたサンプル2,3,4,6によると、400nmにおける光透過率が70%以上であり、且つ硬度が5GPa以上であるDLC膜が製造された。なかでも、合計ガス圧を30Pa以上40Pa以下としたサンプル3,4,6では、350nmにおける光透過率が70%以上、400nmにおける光透過率が80%以上という、特に優れた光透過性能が実現された。

【0048】
【表1】
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【0049】
(自己バイアスの測定)
所望の特性を満たすDLC膜が形成される条件を、平行平板型プラズマCVD装置の自己バイアスの観点から検討した。まず、サンプル1~8の作製時と同様にチャンバ内をPCH4:PH2=1:1のガス組成に調整し、合計ガス圧10Pa,20Pa,30Pa,40Pa,50Paの5水準にて、それぞれ225πcm当たりのRFパワーが5~50Wの範囲について、直流電圧計を用いて自己バイアスを測定した。得られた結果を図8に示す。RFパワーが大きくなるにつれて自己バイアスは大きくなる。また、合計ガス圧が小さくなるにつれて、自己バイアスは大きくなる傾向にある。これは、プラズマ化により生じたイオンの平均自由行程が増加するためと考えられる。

【0050】
上記の自己バイアス測定結果より、サンプル1~8の各作製条件(RFパワーおよび王系ガス圧)における自己バイアスは、それぞれ表1に示す値であることがわかる。図9は、サンプル1~8の波長350nmにおける光透過率および硬度と、各サンプルの作製時における自己バイアスとの関係をプロットしたグラフである。実線で結んだプロットは、RFパワーを一定値(ここでは15W)として合計ガス圧を異ならせることにより自己バイアスを変化させたサンプル(サンプル1~5)の特性を示している。点線で結んだプロットは、合計ガス圧を一定値(ここでは40Pa)としてRFパワーを異ならせることにより自己バイアスを変化させたサンプル(サンプル4,6~8)の特性を示している。

【0051】
この図9および表1からわかるように、自己バイアス-85V~-110Vの条件で作製されたサンプル3,4,6によると、波長350nmにおいて70%以上(さらに、波長400nmにおいて80%以上)の光透過率を示し、且つ5GPa以上の硬度を有するDLC膜が実現された。なかでも、自己バイアス-90V~-110Vの条件で作製されたサンプル3,6では、6GPa以上の硬度を有するDLC膜が実現された。また、表1からわかるように、自己バイアス-85V~-115Vの条件で作製されたサンプル2,3,4,6によると、波長400nmにおいて70%以上の光透過率を示し、且つ5GPa以上の硬度を有するDLC膜が実現された。

【0052】
また、図9からわかるように、350nmの光透過率の自己バイアス依存性に関しては、合計ガス圧を異ならせた場合(実線)とRFパワーを異ならせた場合(点線)とでそれほど大きな違いはみられなかった。一方、硬度に関しては、合計ガス圧を異ならせた場合(実線)のほうがRFパワーを異ならせた場合(点線)よりも、同程度の自己バイアスにおいて、より高い硬度を示すDLC膜が形成された。この結果は、自己バイアスをマイナス側により大きくする手法として、合計ガス圧を小さくする手法を採用することにより、RFパワーを大きくする手法を採用する場合に比べてより高硬度のDLC膜を、光透過率を大きく低下させることなく製造し得ることを示している。

【0053】
(付着力評価)
サンプル1~8と同様のプラズマCVD条件により、ただし樹脂基材の代わりに2cm×2cmのサイズのシリコンウエハを用いて、該シリコンウエハ(基材)上に厚み200nmのDLC膜を作製した。それらのDLC膜付基材(サンプル1~8に対応づけて、それぞれサンプル1B~8Bという。)につき、RHESCA社製のスクラッチ試験機、型式「Model CSR-2000」を用いて、基材に対するDLC膜の付着力を評価した。すなわち、23℃、50%RHの測定環境下において、上記試験機の連続荷重モードにて円錐型のダイヤモンド製圧子(先端の曲率半径 10μm)をサンプル表面に接触させ、54.12mN/mmのレートで荷重を増加させつつ25μm/秒の速度で一方向に擦過するスクラッチ試験を行った。そのスクラッチ痕(圧痕)を光学顕微鏡により観察し、DLC膜が最初に剥離した位置に対応する荷重(Critical load)により付着力を評価した。得られた結果を、図10(サンプル1B~5B)および図11(サンプル4B,6B~8B)に示す。サンプル8Bを除き、いずれも250mNを超える付着力を示すことが確認された。

【0054】
<実験例2>
大気雰囲気中において、厚さ500μmのPCフィルム(樹脂基材)の表面に真空紫外光を照射した。これによりPCフィルムの表面を親水化(例えば、水酸基を導入)して、SAMモノマーが表面化学吸着されやすいように調製した。次いで、上記親水化処理が施されたPCフィルムを1.5cm×3.0cmの長方形にカットし、SAM形成材料としてのγ-アミノプロピルトリエトキシシラン(HNCHCHCHSi(OCH)とともに熱CVD装置のチャンバ内にセットした。そのチャンバ内を150℃に2時間加熱することにより、γ-アミノプロピルトリエトキシシランに由来するSAMを表面に有するPCフィルムを得た。このPCフィルムのSAM形成面上に、サンプル3と同じプラズマCVD条件により、厚さ200nmのDLC膜を形成した。このようにして、PCフィルム上にSAMを介してDLC膜が形成されたDLC膜付基材(サンプル3C)を作製した。このサンプル3Cは、サンプル3と略同等の透明性を有していた。

【0055】
上記で得られたサンプル3Cに対し、0℃の冷凍庫に入れて1分間保持する操作と、40℃の乾燥機に入れて1分間保持する操作とを交互に10回繰り返す耐久性試験を行った。その後、サンプル3Cを目視観察したところ、DLC膜の剥がれやひび割れは認められなかった。一方、DLC膜とPCフィルムとの間にSAMを有しないサンプル3について、上記と同様の耐久性試験を行ったところ、10回の繰り返しを終える前にDLC膜の剥がれが発生した。この結果から、樹脂基材とDLC膜との界面にSAMを介在させることにより、温度変化に対する耐久性が向上することが確認された。

【0056】
なお、この明細書により開示される事項には、熱膨張係数の異なる二つの材料の間にSAMを介在させることにより、温度変化に伴って両材料間に生じ得るストレスを緩和する技術が含まれる。すなわち、樹脂基材とDLC膜との間(界面)にSAMを介在させることにより、熱膨張係数の違いに起因して生じ得るストレスを緩和するという上述の作用効果は、DLC膜の特性(例えば光透過性、硬度等)を問わず、同様に発揮され得る。また、DLC膜と熱膨張係数が異なる基材であれば、該基材の材質を問わず、同様の作用効果が発揮され得る。さらに、樹脂基材とDLC膜との組合せに限定されず、熱膨張係数の異なる材料からなる部分が重なった構造を有する複合材料であれば、それらの材料の間にSAMを介在させることにより、同様の作用効果が発揮され得る。

【0057】
したがって、この明細書により開示される事項には、熱膨張係数の異なる材料からなる第一部分および第二部分を備え、両部分の間(界面)にSAMを有する複合材料が包含される。かかる複合材料の一例として、基材上にDLC膜を備え、前記基材と前記DLC膜との界面に自己組織化単分子膜を有するDLC膜付基材が挙げられる。第一部分と第二部分との熱膨張係数が2倍以上(典型的には5倍以上、好ましくは10倍以上、例えば20倍以上)異なる場合には、それらの部分の間にSAMを介在させることによる意義が特に大きい。第一部分および第二部分のいずれかが厚み10nm~1μm程度の薄膜である場合には、SAMによるストレス緩和効果がよりよく発揮され得る。
【符号の説明】
【0058】
1:プラズマCVD装置
12:高周波電極
14:接地電極
16:高周波(RF)電源
18:マッチングボックス
2:真空チャンバ
22:ガス排出口
24:ガス導入口
3:樹脂基材
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
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【図11】
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