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明細書 :電子供与体供給剤、電子供与体供給剤の製造方法、およびそれを用いた環境浄化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5392719号 (P5392719)
登録日 平成25年10月25日(2013.10.25)
発行日 平成26年1月22日(2014.1.22)
発明の名称または考案の名称 電子供与体供給剤、電子供与体供給剤の製造方法、およびそれを用いた環境浄化方法
国際特許分類 C02F   3/34        (2006.01)
B09C   1/10        (2006.01)
C02F   3/00        (2006.01)
C12N   1/00        (2006.01)
C12N   1/20        (2006.01)
C08L 101/16        (2006.01)
FI C02F 3/34 101C
B09B 3/00 ZBPE
C02F 3/00 G
C12N 1/00 F
C12N 1/20 D
C12N 1/20 F
C08L 101/16
請求項の数または発明の数 10
全頁数 19
出願番号 特願2009-264383 (P2009-264383)
出願日 平成21年11月19日(2009.11.19)
審査請求日 平成24年11月6日(2012.11.6)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
発明者または考案者 【氏名】平石 明
【氏名】辻 秀人
【氏名】山田 剛史
特許請求の範囲 【請求項1】
微生物による生物学的処理に用いられ、該微生物に電子供与体を供給する電子供与体供給剤において、
重量平均分子量が略12000以下、結晶化度が10%以上で且つ40%以下であって使用環境の温度下で固体状態にあるポリ乳酸系樹脂を含むことを特徴とする電子供与体供給剤。
【請求項2】
前記ポリ乳酸系樹脂は、重量平均分子量が略9500以上であることを特徴とする請求項1に記載の電子供与体供給剤。
【請求項3】
微生物による生物学的処理に用いられ、該微生物に電子供与体を供給する電子供与体供給剤の製造方法において、
原料のポリ乳酸系樹脂の分子量を低下させる低分子量化工程と、
その低分子量化工程にて低分子量化されたポリ乳酸系樹脂を、その融点以上の温度で融解する融解工程と、
その融解工程により融解されたポリ乳酸系樹脂を、融点未満の温度でアニールするアニール工程とを有し、
そのアニール工程により結晶化させて固体状態としたポリ乳酸系樹脂を用いて電子供与体供給剤を製造することを特徴とする電子供与体供給剤の製造方法。
【請求項4】
前記低分子量化工程は、重量平均分子量が略9500以上で且つ略12000以下の範囲となるように、原料のポリ乳酸系樹脂を低分子量化するものであることを特徴とする請求項3に記載の電子供与体供給剤の製造方法。
【請求項5】
前記アニール工程は、前記ポリ乳酸系樹脂の結晶化度が、10%以上で且つ40%以下となるようにアニールを行うものであることを特徴とする請求項3又は4に記載の電子供与体供給剤の製造方法。
【請求項6】
生物学的処理によって被処理物質中の特定成分を無害化する環境浄化方法において、
請求項1若しくは2に記載の電子供与体供給剤又は請求項3から5のいずれかに記載の製造方法によって製造された電子供与体供給剤を用いて生物学的処理を行うことを特徴とする環境浄化方法。
【請求項7】
前記被処理物質は水系の液体であり、
前記特定成分は、窒素化合物であり、
前記電子供与体供給剤を用いて液中の窒素化合物を除去する脱窒処理を行うことを特徴とする請求項6に記載の環境浄化方法。
【請求項8】
前記ポリ乳酸系樹脂に含まれるポリ乳酸が、前記被処理物質中において、略3w/v%の濃度となるように投入されていることを特徴とする請求項7に記載の環境浄化方法。
【請求項9】
前記被処理物質は、土壌であり、
前記特定成分は、窒素化合物であり、
前記電子供与体供給剤を用いて土壌中の窒素化合物を除去する脱窒処理を行うことを特徴とする請求項6に記載の環境浄化方法。
【請求項10】
酢酸と乳酸とが添加された硝酸含有水溶液を用い、該水溶液中で増殖する微生物を集積培養し、その集積培養微生物を前記被処理物質中に添加することを特徴とする請求項7から9のいずれかに記載の環境浄化方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的処理において使用される電子供与体供給剤、その製造方法、及びそれを用いた環境浄化方法に関し、特に、加水分解性を向上させても使用環境下において固体状態とすることができ、且つ、加水分解に伴った電子供与体の放出速度を制御することのできるポリ乳酸系樹脂を含む電子供与体供給剤、その製造方法、及びそれを用いた環境浄化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、生活廃水や工場廃水などの影響による河川、湖沼の富栄養化や、農地への窒素肥料の施肥による周辺水環境(地下水、河川、湖沼)への汚染を防止するために、廃水処理が行なわれている。
【0003】
かかる廃水処理は、一般的にコスト的に有利な生物学的処理によって行なわれる。廃水処理施設では、処理槽に導入された汚水が活性汚泥の存在下で曝気され、汚水に含まれる有機物(BOD(Biochemical Oxygen Demand)源)は、活性汚泥中の好気性微生物の作用によって分解される。この活性汚泥による処理では、窒素成分を除去する機能が弱く、アンモニア等の窒素成分は残存しやすい。
【0004】
冨栄養化の原因物質の一つは硝酸塩(窒素成分)であり、廃水中の有機物が完全に取り除かれたとしても、最終放流水中にかかる窒素成分が多く含まれていると、植物性プランクトンの異常増殖を促進してしまうなどして廃水処理は意味を失ってしまう。
【0005】
そこで、近年では、活性汚泥処理の後に、硝化菌によってアンモニアを硝酸塩とする硝化処理が行われ、次いで、嫌気性条件下で、脱窒菌による脱窒処理にて窒素成分の除去が行なわれている。
【0006】
この脱窒処理は、有機物(即ちBOD源)をエネルギー源とし、硝酸塩を電子受容体とする脱窒菌の還元作用を利用したものであり、エネルギー源である有機物は電子供与体となって還元反応に必要な電子を供給する。これにより、硝酸塩は、亜硝酸、一酸化窒素、一酸化二窒素を経て窒素まで還元され、その結果、廃水中の各種窒素化合物は、窒素ガスとして大気中に放散されて除去される。
【0007】
この脱窒処理には、上記したように微生物のエネルギーとなる電子供与体が必要であるが、活性汚泥による処理にて電子供与体となりうる有機物は大部分が既に取り除かれているので、脱窒に必要な還元力が不足してしまう。このため、現状では、メタノールや酢酸などの低分子有機物を電子供与体として、処理槽に添加している。
【0008】
しかし、メタノールや酢酸などは、液体であるため作業性が悪い上、槽内での消費量を把握することが難しい。このため、かかる電子供与体の添加のタイミングや添加量の的確な判断が困難となって、本来の必要量に対して電子供与体の過不足が生じ易い。電子供与体が不足する場合には、脱窒が不十分となって河川等の富栄養化を招きかねず、電子供与体が過剰である場合には、添加した電子供与体による二次汚染を引き起こしかねない。
【0009】
そこで、固形有機物を電子供与体として用いるいわゆる固相脱窒法が提案されている。例えば非特許文献1~4には、この固相脱窒法において、生分解性プラスチックであるポリ(3-ヒドロキシ酪酸)(PHB)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)を活性汚泥や廃水中に添加することで窒素除去を試みた報告がされている。
【0010】
更には、生分解性プラスチックを電子供与体として用いた生物学的処理により、窒素化合物のみならず有機塩素系化合物や石油系炭化水素の分解、除去できることが知られている。
【0011】
また、特許文献1には、生分解性プラスチックであるポリカプロラクトンを電子供与体として用いて、水、土壌の脱窒を行う技術が開示されている。
【0012】
特許文献2には、脱窒菌などの微生物が固定された高分子ゲルの一面にて処理液に接触し、他面において電子供与体となる固体型の生分解性プラスチックを接触するように設けたバイオリアクターが開示されている。
【0013】
特許文献3には、処理液を脱窒するために、生分解性プラスチックと、硝化菌および脱窒菌とをポリビニルアルコールで包括固定化した技術が開示されている。かかる特許文献2および3には、当該技術で用いる生分解性プラスチックの1としてポリ乳酸が例示されている。
【0014】
ここで、生分解性プラスチックの1つであるポリ乳酸は、微生物にて直接産生するのではなく、発酵法で産生する乳酸を基に化学合成にて産生できる汎用性生分解性プラスチックであり、工業ベースでの生産が開始され、医療、住宅、車など様々な分野へと用途展開されている。また、今後も需要の拡大が見込まれる生分解性プラスチックである。
【0015】
特許文献4には、このポリ乳酸を利用した環境浄化の技術として、繰り返し単位数が2~10の低分子量のポリ乳酸と多官能アルコールとを反応させて半固体状のポリエステル(ポリ乳酸系樹脂)を作製し、かかるポリエステルから乳酸を電子供与体として徐放させ、微生物により有機塩素系化合物を分解する技術が開示されている。
【0016】
また、特許文献5には、公知の生分解性プラスチックを熱分解や加水分解によってオリゴマーとしたものを用い、有機塩素系化合物や石油系炭化水素を分解して土壌浄化を行う技術が開示されており、公知の生分解性プラスチックの1としてポリ乳酸についての例示がなされている。
【先行技術文献】
【0017】

【特許文献1】特開2004-209364号公報
【特許文献2】特開2003-117587号公報
【特許文献3】特開2003-265170号公報
【特許文献4】特許第3239899号
【特許文献5】特開2006-218457号公報
【0018】

【非特許文献1】Mller, W.R., Heinemann, A., Schfer,C., Wurmthaler, J., Reutter, T.: Water Supply 10:7990 (1992)
【非特許文献2】Hiraishi, A. S. T. Khan, S.T.: Appl. Microbiol.Biotechnol. 61:103109 (2003)
【非特許文献3】Watanabe, A., Uemoto, H., Morisa,M., Saitoh, S., Yoshizaki, R.:Biol. Sci. Space 18:142-143 (2004)
【非特許文献4】Horiba, Y., Khan, S.T., Hiraishi,A.: Microbes Environ. 20:25-33 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)やポリカプロラクトンなどの生分解性プラスチックは、生産コストが高く実用的でないという問題点があった。一方で、汎用性生分解性プラスチックとして生産されているポリ乳酸は、一般的に、生分解し難い難分解性であり、微生物の基質(即ち電子供与体)にはなり難いという問題点があった。特許文献4においては、生分解性を有する半固体状のポリ乳酸系樹脂が提案されてはいるが、製造方法が煩雑である。また、特許文献5においては、高分子量の生分解性プラスチックからオリゴマー化した生分解性プラスチックを、環境浄化に用いることが提案されているが、得られるオリゴマーは流動性の高いものであり、かかる方法で得られた低分子量ポリ乳酸を固相脱窒法に適用することは難しいという問題点があった。
【0020】
更には、浄化対象となる汚染の原因物質は多岐にわたるため、生物学的処理にて環境浄化を行う場合、微生物群集が汚染の原因物質を分解する分解速度はまちまちとなる。ここで、電子供与体の供給、即ち、ポリ乳酸からの乳酸の放出は、ポリ乳酸が加水分解されることによって進行するが、除去対象の汚染原因物質を微生物が分解する分解速度に応じて放出されることが重要である。除去対象の汚染原因物質の分解速度に比して乳酸等の放出速度が遅すぎると、栄養源が枯渇してしまい、微生物が増殖不能となって汚染の原因物質の分解が遅々として進行しない。一方、除去対象の汚染原因物質の分解速度に比して乳酸の徐放速度が早すぎると、該原因物質を分解する微生物の増殖と共に他の微生物も増殖してしまい、往々にして、汚染の原因物質を分解するために必要な微生物の増殖を阻害してしまう。
【0021】
しかし、上記したように、電子供与体供給源として用いることのできる程度の生分解性(加水分解性)を有する固体状態のポリ乳酸を得ることが困難である上、更に、生分解に伴って放出される電子供与体の徐放速度が調整されたものを得ることは益々困難であるという問題点があった。このため、かかるポリ乳酸を利用した生物学的処理によって環境浄化を行なうことも困難であった。
【0022】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、加水分解性を向上させても使用環境下において固体状態とすることができ、且つ、生分解に伴った電子供与体の放出速度を制御することのできるポリ乳酸系樹脂を含む電子供与体供給剤、その製造方法、及びそれを用いた環境浄化方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この目的を達成するために、請求項1記載の電子供与体供給剤は、微生物による生物学的処理に用いられ、該微生物に電子供与体を供給するものであって、重量平均分子量が略12000以下、結晶化度が10%以上で且つ40%以下であって使用環境の温度下で固体状態にあるポリ乳酸系樹脂を含むものである。尚、ここで、使用環境とは、生物学的処理を行なうために電子供与体供給剤が投入される環境を意味しており、例えば、水処理槽、汚水槽、河川、湖沼、土壌が例示される。また、使用環境の温度とは、自然界にて上記環境がとり得る温度範囲であり、例えば、0℃から40℃の範囲である。
【0024】
請求項2記載の電子供与体供給剤は、請求項1に記載の電子供与体供給剤において、前記ポリ乳酸系樹脂は、重量平均分子量が略9500以上である。
【0025】
請求項3記載の電子供与体供給剤の製造方法は、微生物による生物学的処理に用いられ、該微生物に電子供与体を供給する電子供与体供給剤の製造方法であって、原料のポリ乳酸系樹脂の分子量を低下させる低分子量化工程と、その低分子量化工程にて低分子量化されたポリ乳酸系樹脂を、その融点以上の温度で融解する融解工程と、その融解工程により融解されたポリ乳酸系樹脂を、融点未満の温度でアニールするアニール工程とを有し、そのアニール工程により結晶化させて固体状態としたポリ乳酸系樹脂を用いて電子供与体供給剤を製造するものである。
【0026】
請求項4記載の電子供与体供給剤の製造方法は、請求項3に記載の電子供与体供給剤の製造方法において、前記低分子量化工程は、重量平均分子量が略9500以上で且つ略12000以下の範囲となるように、原料のポリ乳酸系樹脂を低分子量化するものである。
【0027】
請求項5記載の電子供与体供給剤の製造方法は、請求項3又は4に記載の電子供与体供給剤の製造方法において、前記アニール工程は、前記ポリ乳酸系樹脂の結晶化度が、10%以上で且つ40%以下となるようにアニールを行うものである。
【0028】
請求項6記載の環境浄化方法は、生物学的処理によって被処理物質中の特定成分を無害化する方法であって、請求項1若しくは2に記載の電子供与体供給剤又は請求項3から5のいずれかに記載の製造方法によって製造された電子供与体供給剤を用いて生物学的処理を行うものである。
【0029】
請求項7記載の環境浄化方法は、請求項6に記載の環境浄化方法において、前記被処理物質は水系の液体であり、前記特定成分は、窒素化合物であり、前記電子供与体供給剤を用いて液中の窒素化合物を除去する脱窒処理を行うものである。
【0030】
請求項8記載の環境浄化方法は、請求項7に記載の環境浄化方法において、前記ポリ乳酸系樹脂に含まれるポリ乳酸が、前記被処理物質中において、略3w/v%の濃度となるように投入されているものである。
【0031】
請求項9記載の環境浄化方法は、請求項6に記載の環境浄化方法において、前記被処理物質は、土壌であり、前記特定成分は、窒素化合物であり、前記電子供与体供給剤を用いて土壌中の窒素化合物を除去する脱窒処理を行うものである。
【0032】
請求項10記載の環境浄化方法は、請求項7から9のいずれかに記載の環境浄化方法において、酢酸と乳酸とが添加された硝酸含有水溶液を用い、該水溶液中で増殖する微生物を集積培養し、その集積培養微生物を前記被処理物質中に添加するものである。
【発明の効果】
【0033】
請求項1記載の電子供与体供給剤によれば、重量平均分子量が略12000以下、結晶化度が10%以上で且つ40%以下であって使用環境の温度下で固体状態にあるポリ乳酸系樹脂を含むものである。よって、該ポリ乳酸系樹脂を、生物学的処理において微生物の基質となり得る十分な加水分解性を備えつつ固体状態のものとすることができるという効果がある。その結果、本剤全体を固体状態の剤形で形成できるという効果がある。
【0034】
このため、使用者等が反応系に投入した電子供与体供給剤の消費程度を視認によって確認することができ、その消費量(分解量)を容易に把握することができる。従って、消費量に応じて、適宜、電子供与体供給剤の添加量を調整して、必要な反応を十分に行わせることができる上、過剰な電子供与体による二次汚染の発生を回避できるという効果がある。
【0035】
更には、ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量と結晶化度との2つのパラメータを調整することで、本剤を、ポリ乳酸系樹脂の加水分解性が異なる、即ち、同一条件下での加水分解速度が異なる一群のものとすることができる。言い換えれば、本剤は、電子供与体となる乳酸の供給速度に多様性を有する一群のものとできる。
【0036】
例えば、生物学的処理によって、環境浄化を行う場合、対象となる汚染物質は多種に及ぶため、微生物群集が汚染物質を分解する分解速度(即ち電子供与体を微生物が消費する消費速度)はまちまちとなる。ここで、汚染物質を分解する微生物が電子供与体を消費する消費速度と電子供与体の供給速度とに大きな差があると、当該微生物が必要とする電子供与体が不足して汚染物質が分解不良になるという不具合が生じてしまう。しかし、本剤は、同一条件下での電子供与体供給速度が様々なものとできるので、汚染物質を分解する微生物の特性に応じて適切なものを選択でき、かかる不具合の発生を回避できるという効果がある。
【0037】
請求項2記載の電子供与体供給剤によれば、請求項1に記載の電子供与体供給剤の奏する効果に加え、ポリ乳酸系樹脂は、重量平均分子量が略9500以上であるので、使用環境下において良好に固体状態を保持することができるという効果がある。
【0038】
請求項3記載の電子供与体供給剤の製造方法によれば、原料のポリ乳酸系樹脂を低分子量化工程により、その分子量を低下させる。低分子量化されたポリ乳酸系樹脂は、融解工程によりその融点以上の温度で融解され、その後、アニール工程にて、融点未満の温度でアニールされる。このアニール工程により、ポリ乳酸系樹脂は結晶化されて固体状態となる。そして、かかる固体状態のポリ乳酸系樹脂を用いた電子供与体供給剤が製造される。
【0039】
よって、生物学的処理において微生物の基質となり得る十分な加水分解性を備えると共に固体状態のポリ乳酸系樹脂を得ることができ、これを用いた電子供与体供給剤を提供することができるという効果がある。また、固体状態のポリ乳酸系樹脂を用いることができるので、電子供与体供給剤を固体状態の剤形で形成することができる。
【0040】
更に、該ポリ乳酸系樹脂は、高分子量のポリ乳酸系樹脂を低分子量化して作製できるので、わざわざ、重合によってモノマーから新たに合成する必要がない。このため、例えば、高分子量で製造されている汎用のポリ乳酸系樹脂の廃棄物を原料として利用することができ、低コストで本剤を製造できるうえ、廃棄物となるポリ乳酸系樹脂を有効利用することができるという効果がある。
【0041】
請求項4記載の電子供与体供給剤の製造方法によれば、請求項3に記載の電子供与体供給剤の製造方法の奏する効果に加え、低分子量化工程にて、重量平均分子量が略9500以上で且つ略12000以下の範囲となるように、原料のポリ乳酸系樹脂は低分子量化されるので、使用環境下において良好に固体状態を保持することができるポリ乳酸系樹脂を確実に得ることができるという効果がある。
【0042】
ここで、高分子量のポリ乳酸系樹脂を改質して低分子量化する場合、一般に、低分子量とするほど処理時間が長くなり、また、得られるポリ乳酸系樹脂は分子量分布が広くなりやすい。その結果、低分子量化された樹脂は非結晶性となり易く固体状態を保つことが困難となる。しかし、本剤のポリ乳酸系樹脂は、高分子量のポリ乳酸系樹脂を低分子量化工程にて低分子量化しても、重量平均分子量が略9500以上であるので、良好な加水分解性を備えつつ固体状態を維持することができる。
【0043】
請求項5記載の電子供与体供給剤の製造方法によれば、請求項3又は4に記載の電子供与体供給剤の製造方法の奏する効果に加え、アニール工程により、ポリ乳酸系樹脂の結晶化度が、10%以上で且つ40%以下となるようにアニールが行われるので、同一分子量でも同一条件下での加水分解速度が異なるポリ乳酸系樹脂を得ることができるという効果がある。このため、様々な加水分解特性を有する一群のポリ乳酸系樹脂を製造することができ、特定の用途に適した加水分解速度、即ち、電子供与体の供給速度を有する電子供与体供給剤を提供できる。
【0044】
請求項6記載の環境浄化方法によれば、請求項1若しくは2に記載の電子供与体供給剤又は請求項3から5のいずれかに記載の製造方法によって製造された電子供与体供給剤を用いて生物学的処理を行うものであるので、生物学的処理において微生物の基質となり得る十分な加水分解性を備えつつ、固体状態で取り扱うことができるポリ乳酸系樹脂を利用して、被処理物質中の特定成分を無害化することができるという効果がある。
【0045】
ここで、ポリ乳酸系樹脂は、非生物学的加水分解によって分解されるので、固形基質分解菌が優占せず、加水分解速度に依存したプロセス制御を実現できるという効果がある。つまり、微生物の基質となる電子供与体は化学反応によって供給されるので、例えば、pHを調整するといった簡便な手法で電子供与体の供給速度を制御でき、固形基質分解菌に依存して電子供与体を供給する場合に比べて、生物学的処理のプロセスを簡便に制御することができるのである。
【0046】
請求項7記載の環境浄化方法によれば、請求項6に記載の環境浄化方法の奏する効果に加え、被処理物質は水系の液体であり、特定成分は、窒素化合物であり、電子供与体供給剤を用いて液中の窒素化合物を除去する脱窒処理を行うものである。ここで、本法に用いられる電子供与体供給剤は、請求項1若しくは2に記載の電子供与体供給剤又は請求項3から5のいずれかに記載の製造方法によって製造された電子供与体供給剤であるので、微生物の基質となり得る十分な加水分解性を備えつつ固体状態のものであるポリ乳酸系樹脂を電子供与体供給源として、固相脱窒法により、例えば、廃水の脱窒処理を行なうことができるという効果がある。
【0047】
請求項8記載の環境浄化方法によれば、請求項7に記載の環境浄化方法の奏する効果に加え、ポリ乳酸系樹脂に含まれるポリ乳酸が、被処理物質中において、略3w/v%の濃度となるように投入されているので、当該濃度で良好に脱窒を行なうことができるという効果がある。更には、濃度が規定されているので、過剰に電子供与体供給剤が被処理物質に添加されることを回避でき、更には、作業者が不慣れであっても、当該濃度を目安とすることで的確に脱窒処理を行なうことができるという効果がある。
【0048】
請求項9記載の環境浄化方法によれば、請求項6に記載の環境浄化方法の奏する効果に加え、、被処理物質は、土壌であり、特定成分は、窒素化合物であり、電子供与体供給剤を用いて土壌中の窒素化合物を除去する脱窒処理を行うものである。
【0049】
ここで、本法に用いられる電子供与体供給剤は、請求項1若しくは2に記載の電子供与体供給剤又は請求項3から5のいずれかに記載の製造方法によって製造された電子供与体供給剤であるので、微生物の基質となり得る十分な加水分解性を備えつつ固体状態のものであるポリ乳酸系樹脂を電子供与体供給源として、固相脱窒法により、例えば、汚染された土壌の脱窒処理を行なうことができるという効果がある。
【0050】
請求項10記載の環境浄化方法によれば、請求項7から9のいずれかに記載の環境浄化方法の奏する効果に加え、酢酸と乳酸とが添加された硝酸含有水溶液を用い、該水溶液中で増殖する微生物を集積培養し、その集積培養微生物を被処理物質中に添加するので、被処理物質中において乳酸を電子供与体として窒素化合物を無害化する微生物にて、良好に脱窒を行なうことができるという効果がある。浄化対象の被処理物質は様々であるが、本法によれば、窒素化合物を無害化する活性を備えている微生物を被処理物質中に十分に存在させることができるので、初期状態の被処理物質にかかる微生物が不在である場合や活性が弱い場合などであっても、脱窒を促進できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】分子量と生物学的硝酸除去速度との関係を示した図である。
【図2】低分子量化したポリ乳酸(重量平均分子量=略10000)の結晶化度と加水分解速度との関係を示した図である。
【図3】結晶化度の異なる低分子量化したポリ乳酸(重量平均分子量=略10000)を基質としたときの活性汚泥の脱窒速度を示した図である。
【図4】改質したポリ乳酸(重量平均分子量=略10000、結晶化度40%)を基質としたときの活性汚泥の脱窒速度を示した図である。
【図5】炭素源を変更して馴養した脱窒菌群集による硝酸除去特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明について詳細に説明する。

【0053】
本発明の電子供与体供給剤は、ポリ乳酸系樹脂を分子量と結晶化度とを組み合わせて改質したものを電子供与体の供給源とするものであり、効率的な環境浄化、特に窒素除去を行うことのできるものである。また、本発明の電子供与体供給剤は、生物学的処理において微生物の基質となり得る十分な加水分解性を備えつつ固体状態のものとすることができるものである。

【0054】
本電子供与体供給剤中のポリ乳酸系樹脂は、主に非生物学的加水分解によって、電子供与体となる乳酸または乳酸の誘導体を産生するものであり、かかる乳酸等が脱窒菌のエネルギー源である電子供与体、即ち基質となる。

【0055】
ここで、本発明に用いられるポリ乳酸系樹脂は、ポリ乳酸のホモポリマー(例えば、ポリ(L-乳酸))や、ポリ乳酸誘導体である。ポリ乳酸誘導体としては、ポリ乳酸と同程度の結晶性と生分解性(加水分解性)とを備えるものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリ乳酸骨格(-OCHCH3CO-)のα炭素に結合される原子または原子団が、メチル基と水素との組み合わせ以外で、アルキル基、アリ‐ル基、アリル基、ビニル基、ベンジル基、ホルミル基等の炭化水素基、アルコキシ基及びその誘導体とされたものが挙げられる。その他、かかる原子団として、アミノ基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基等を挙げることもできる。更には、上記のうち、炭素数1~3の炭化水素基若しくはアルコキシ基又は水素原子としたものが好ましい。更に好ましくは、炭化水素基及びアルコキシ基は直鎖状のものとする。より具体的には、当該原子団として、メチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシル基等が挙げられる。更には、これらの誘導体を用いることもできる。誘導体としてこれら炭化水素基及びアルコキシ基の水素原子を置換しうる原子及び原子団には、塩素等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、カルバモイル基、ホルミル基、アルコキシカルボニル基等を挙げられる。また、α炭素に結合される原子としては、水素、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子を挙げられる。

【0056】
本発明に用いられるポリ乳酸系樹脂は、加水分解速度を制御し、安定的な微生物活性の電子供与体として作用させることができるように分子量、結晶化度の物性が規定される。本ポリ乳酸系樹脂は、11量体以上であって、重量平均分子量が14000以下にある範囲のものとされ、好適には、重量平均分子量が略9500以上、略12000以下の範囲とされている。

【0057】
ポリ乳酸系樹脂は、10量体以下では非結晶性となって固体状態となり難い。このため、本ポリ乳酸系樹脂は、11量体以上であることが必要である。また、重量平均分子量14000を越えると水中や土壌中といった環境下での加水分解速度が著しく低下し、微生物のエネルギー源となる基質の産生が(即ち、本ポリ乳酸系樹脂を微生物の基質とすることが)実質的に不能となる。更には、環境下において固体状態を保証でき、生物学的処理による環境浄化を行うために適切な加水分解性を確保するためには、固形損失を考慮すると重量平均分子量が略9500以上、略12000以下の範囲であることが望ましい。

【0058】
ここで、固形損失とは非生物学的加水分解によって減少する固形重量分を指し、重量平均分子量が略9500以下では、著しくそれが大きくなる。

【0059】
尚、本発明で重量平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィを用い、標準ポリスチレン換算値にて求めたものとされている。

【0060】
また、重量平均分子量は、平均値であるため、十分な加水分解性を備えつつ固体状態であるポリ乳酸系樹脂の分子量範囲を厳格に既定することは困難である。このため、下限値、上限値はそれぞれ略9500、略12000とされており、具体的には、下限値は8000~9900の範囲であり、また、上限値は11000から14000の範囲である。

【0061】
本ポリ乳酸系樹脂は、10%以上40%以下の結晶化度を備えるものである。本ポリ乳酸系樹脂は、上記したように加水分解可能な分子量まで低分子量化されているが、更に、結晶化度を上げることにより直線的に加水分解性を上げることができる。

【0062】
本発明では、結晶化度は、ΔHccを結晶化エンタルピー、ΔHmを融解エンタルピー、ΔHm0を標準試料の結晶化度100%(結晶厚が無限大の結晶)のエンタルピーとして、下記の(1)式にて規定される。

【0063】
結晶化度(%)=[(ΔHm+ΔHcc)/ΔHm0)]×100・・・(1)
ポリ乳酸の場合には、ΔHm0として135(J・g-1)が用いられる。本発明では、ポリ乳酸誘導体のΔHm0についても、ポリ乳酸と同じ135(J・g-1)を用いて、その結晶化度としている。尚、結晶化エンタルピーと融解エンタルピーとは、測定対象のポリ乳酸系樹脂のDSC分析によって求められる。

【0064】
ここで、結晶化度が10%未満では、加水分解速度が実用的な基質供給速度以下になるため、それ以上であることが望ましい。また、結晶化度40%以下であれば、後述の改質方法により、汎用の生分解性樹脂として生産されている高分子量のポリ乳酸系樹脂に単純な熱処理を行なうだけで得ることができる。このため、本発明に用いるポリ乳酸系樹脂を簡便な製法で製造でき、また、廃棄物とされたポリ乳酸系樹脂を利用して製造できるという利点がある。

【0065】
故に、本発明では、ポリ乳酸系樹脂の結晶化度は、10%以上40%以下とされているのである。尚、本ポリ乳酸系樹脂は、高分子量のポリ乳酸系樹脂を改質して作製されるものに限定されるものではなく、モノマーから合成して作製されても良い。

【0066】
このように、ポリ乳酸系樹脂を、分子量の範囲と結晶化度とを規定することで、その物性の変化に応じて加水分解速度、すなわち乳酸等の電子供与体遊離速度を制御することができる。特に、分子量略9500以上略12000以下の範囲で、且つ、結晶化度10%以上40%以下の範囲とすれば、更に、精度良く加水分解速度を制御でき、また、汎用品として生産されているポリ乳酸系樹脂を用いた簡便な手法にて本ポリ乳酸系樹脂を生産することができる。

【0067】
また、ポリ乳酸系樹脂は、ポリ乳酸の生分解性(基質となる乳酸を微生物がエネルギー源とできる現実的な供給速度で放出できる加水分解性)を損なわず、且つ、固体状態(上記の結晶化度)を保持できる比率の範囲で他の高分子を含む共重合体であっても良い。ポリ乳酸と共重合体を形成する高分子としては、各種高分子を用いることができるが、好適には生分解性高分子が用いられる。かかる生分解性高分子としては、特に限定されるものではない。具体的には、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)、ポリヒドロキシバリレート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステルカーボネート、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン及びポリ(2-オキセタノン)、デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、及び天然ゴム、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール及びポリリンゴ酸などが挙げられる。これらの高分子は、単独で使用されても複数使用されても良い。

【0068】
更には、本電子供与体供給剤は、ポリ乳酸系樹脂のみで構成されてもよく、ポリ乳酸系樹脂以外の添加剤を含んで構成されても良い。添加剤としては、例えば、pH調整剤が例示され、かかるpH調整剤としては、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム及び水酸化マグネシウムが例示される。尚、かかるpH調整剤は、1種または2種以上を混合して用いても良い。

【0069】
また、本発明の電子供与体供給剤の剤形は、特に限定されるものではなく、粉末状、粒状、塊状、成形体、フィルム、シート状などにすることができる。

【0070】
以上説明したように、本発明の電子供与体供給剤によれば、ポリ乳酸系樹脂の分子量と結晶化度とを規定することで、生物学的処理において微生物の基質となり得る十分な加水分解性を備えつつ使用環境下で固体状態のものとすることができる。例えば、水処理槽、汚水槽、河川、湖沼、土壌などの浄化処理を通年で行なおうとすれば、当然、夏場の気温上昇に伴って使用環境の温度が上昇する。しかし、本剤のポリ乳酸系樹脂は、使用環境の温度下で固体状態にあるよう設計されているので、一年を通じて固体状態で利用することができる。

【0071】
次に、本発明の電子供与体供給剤の製造方法について説明する。本製造方法は、低分子量化工程、融解工程、アニール工程を経て、電子供与体供給剤を製造するように構成されている。

【0072】
低分子量化工程は、原料の高分子量のポリ乳酸系樹脂の分子量を低下させる工程である。原料ポリ乳酸系樹脂の分子量は、重量平均分子量で、15万から30万とされており、低分子量化工程では、加熱、加圧、粉砕等によって、原料ポリ乳酸系樹脂の分子量を低下させる。好適には、高温高圧処理が用いられる。高温高圧処理では、原料ポリ乳酸系樹脂の分子量や特性と所望の目標分子量とに応じ、その処理条件が、120℃、1.05atmで設定され、任意時間処理が行われる。この低分子量化工程において、より高温で、より高圧で、より長時間の処理を行うほど、低分子量化されたポリ乳酸系樹脂を生成することができる。また、所定の条件で処理することにより、重量平均分子量が略9500以上、略12000以下のポリ乳酸系樹脂を得ることができる。該低分子量化工程が、請求項に記載の低分子量化工程に該当する。

【0073】
この低分子量化工程では、原料ポリ乳酸系樹脂を目標分子量まで一度の処理によって低分子量化を行っても良く、複数回に分けて低分子量化を行っても良い。また、処理した樹脂を、分子量分画して分子量分布の分散度を調整する操作を行っても良い。

【0074】
尚、低分子量化工程による処理によって得られたポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィを用い、標準ポリスチレン換算値にて求められる。

【0075】
融解工程は、低分子量化工程にて低分子量化されたポリ乳酸系樹脂を融解する工程である。この融解工程では、ポリ乳酸系樹脂が融点以上の温度で加熱されて融解される。尚、加熱温度は、ポリ乳酸系樹脂の融点に依存するが、この融点は、DSC測定によって決定されても良く、重量平均分子量に基づいて決定されても良い。尚、該融解工程が、請求項に記載の融解工程に該当する。

【0076】
アニール工程は、ポリ乳酸系樹脂を結晶化させるための工程であり、融解されたポリ乳酸系樹脂を、融点よりも20℃~30℃低温側の温度で、任意時間保持して熱処理し、その後室温まで除冷する工程である。尚、本発明では、アニールは、残留歪除去のための焼きなまし処理ではなく、融点未満の任意温度で結晶化のために一定時間保持することを意味している。このアニール工程において、保持時間を変更することにより、ポリ乳酸系樹脂の結晶化度を調整することができる。これにより、結晶化度が10%以上40%以下の範囲で任意の結晶化度を備えた固体状態のポリ乳酸系樹脂が生成される。尚、該アニール工程が請求項に記載のアニール工程に該当する。

【0077】
アニール工程を経て得られたポリ乳酸系樹脂は、生物学的処理を行う場合の電子供与体供給源として適した生分解性を備えると共に、固体状態となっている。このため、得られたポリ乳酸系樹脂のみで電子供与体供給剤を構成することが可能となる。また、得られたポリ乳酸系樹脂に結着剤やpH調整剤などの添加剤を加えて電子供与体供給剤を構成しても良い。

【0078】
更には、アニール工程の後に、得られたポリ乳酸系樹脂や、ポリ乳酸系樹脂と添加物との混合物を成形する成形工程を設けても良い。この成形工程は、電子供与体供給剤の剤形を成形体に加工する工程であり、例えば、ポリ乳酸系樹脂の粉末をプレス成形などによりタブレット状とするものである。このように、電子供与体供給剤の剤形が成形体に加工されることで、その取扱性を向上させることができる。

【0079】
また、低分子量化工程の前に、原料ポリ乳酸系樹脂の洗浄、乾燥などの前処理を適宜行う理工程を設けても良い。

【0080】
このように、本製造方法によれば、汎用品として生産されているポリ乳酸系樹脂を用いた簡便な手法にて、良好な生分解性(加水分解性)を備えつつ固体状態であるポリ乳酸系樹脂を得ることができ、更に得られるポリ乳酸系樹脂の分子量の範囲と結晶化度とを規定することができるので、加水分解速度、すなわち乳酸等の電子供与体遊離速度を制御することのできるポリ乳酸系樹脂を製造でき、かかるポリ乳酸系樹脂を含むことにより、生物学的処理において有用な電子供与体供給剤を製造することができる。

【0081】
次に、本発明の環境浄化方法について説明する。

【0082】
本発明の環境浄化方法は、上記した本発明の電子供与体供給剤を用いて微生物を活性化し、その還元作用によって特定の成分を無害化するものである。

【0083】
被処理物質は、水溶液、廃水、汚水、湖沼、河川等の水や、土壌である。被処理物質が水であり、脱窒処理を行う場合には、上記の水のBOD源の除去と硝化菌による硝化処理とが行われた後に、本発明の電子供与体供給剤を微好気あるいは嫌気的条件下で水相に投入することで、脱窒菌を活性化させ窒素成分の除去を行う。

【0084】
ここで、水中のポリ乳酸系樹脂濃度は、実用的かつ効果的に硝酸除去が達成できる範囲として、含まれているポリ乳酸が、1w/v%~5w/v%となる範囲が望ましく、好適には、略3w/v%とされる。

【0085】
特に、重量平均分子量を略9500以上略12000以下の範囲で且つ、結晶化度40%のポリ乳酸で形成された電子供与体供給剤が窒素除去に最適であり、さらに、添加濃度を略3w/v%とすることにより、最大の脱窒効率を得ることができる。

【0086】
尚、かかる環境下で活動する脱窒菌としては、ベータプロテオバクテクテリア綱コマモナス科Comamonadaceaeおよびアルカリゲネス科Alcaligenaceaeに属する脱窒性細菌種(Comamonas属菌種、Alcaligenes属菌種など)が主体である。

【0087】
また、被処理物質が土壌である場合には、本発明の電子供与体供給剤を土中に漉き込むことや埋設することで脱窒菌を活性化させ窒素成分の除去を行うことができる。

【0088】
ここで、ポリ乳酸系樹脂は、固形基質分解菌が優占せず、非生物学的加水分解によって分解されるので、必要に応じて、被処理物質のpH調整を行って電子供与体の供給速度を調整してもよい。このため、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)やポリカプロラクトンの固形基質を用いた環境浄化方法のように、生分解性に優れているために分解微生物の存在量にポリマーの分解が依存してしまい脱窒速度の制御が困難になるといったことがない。

【0089】
また、嫌気的条件下においては、本発明の電子供与体供給剤をエネルギー源として有機塩素系化合物を無害化する微生物を活性化することもできる。ここで、有機塩素系化合物の生物学的処理による分解は他の有機化合物の分解に比べて非常に低速度で進行する。しかし、本発明の電子供与体供給剤は、電子供与体の放出速度を制御できるので、有機塩素系化合物の無害化に寄与する微生物が、電子供与体を消費する速度に応じて電子供与体を供給し得、当該微生物の微生物活性を安定に維持することができる。

【0090】
更に、本発明の環境浄化方法では、酢酸と乳酸とが添加された硝酸含有水溶液を用い、該水溶液中で増殖する微生物を予め集積培養し、その集積培養微生物を被処理物質中に添加するようにしてもよい。

【0091】
ポリ乳酸系樹脂を電子供与体供給源とする固相脱窒プロセスでは遊離した乳酸のみならず、その代謝産物である酢酸も基質として働くため、上記の集積培養によって乳酸と酢酸に親和性のある脱窒微生物が集積された集積培養微生物を得ることができる。そして、かかる集積培養微生物を添加することで当該固相脱窒プロセスを初発から効率的に動かすことができる。

【0092】
脱窒は還元的なプロセスであり、電子供与体を必要とする。それ故、微生物が利用しやすい電子供与体を如何に確保するか、制御するかが、効率的かつ安定的な脱窒を達成するための鍵であるが、本発明の環境浄化方法は、良好な加水分解性を備えつつ、その分解速度、すなわち乳酸等の電子供与体遊離速度を制御することのできるポリ乳酸系樹脂を用いて形成された電子供与体供給剤を利用するので、効率的かつ安定的な脱窒、即ち、環境浄化を達成することができる。
【実施例】
【0093】
以下、実施例に基づいて本発明を詳述する。本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に制約されるものではない。尚、実施例中に示す測定値は次に示すような条件で測定を行い、算出した。
【0094】
(重量平均分子量の測定)
ゲル浸透クロマトグラフィを用いて、以下に示す条件下で測定し、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
【0095】
機種:商品名HLC8020GPC(東ソー(株)製)
溶媒:クロロホルム
サンプル溶解条件:60℃、2時間
温度:40℃
測定濃度:50mg/50mL
注入量:100μL
カラム:商品名TSKgelGMHHR-H(東ソー(株)製)2本
なお、標準ポリスチレン(東ソー(株)製)を用いてユニバーサルキャリブレーション法によりカラム溶出体積を校正した。
【0096】
(結晶化度の測定)
示差走査型熱量計(島津製作所社製、商品名DSC50)を用いて、融解エンタルピーと結晶化エンタルピーとを測定した。試料3mgをアルミニウム製のパンに装填し、昇温速度10℃/分で測定を行なった。算出した融解エンタルピーと結晶化エンタルピーとを用い、上記した(1)式に基づいて結晶化度を算出した。
【0097】
(硝酸塩濃度の測定)
イオンクロマトグラフィを用いて、以下に示す条件下で測定し、硝酸イオン濃度を測定した。
【0098】
機種:導電率検出器 (日立ハイテクノロジーズ社製、商品名L7470)、ポンプ(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名L-7110)、オーブン(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名L7300)
検出器: 商品名溶媒:2.3Mフタル酸2.5Mトリス水溶液
流速:1.5mL/ml
温度:40℃
注入量:100μL
カラム:商品名#2720(日立ハイテクノロジーズ社製)
【0099】
(遊離乳酸量の測定)
高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を用いて、以下に示す条件下で測定し、遊離乳酸濃度を測定した。
【0100】
機種:ダイオードアレイ検出器 (日立ハイテクノロジーズ社製、商品名L7455)、ポンプ(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名L-7100)、オーブン(日立ハイテクノロジーズ社製、商品名L7300)
溶媒:0.1%H3PO4水溶液
流速:1.0mL/ml
温度:40℃
注入量:100μL
カラム:商品名Organic Acid(Waters社製)
【0101】
(実施例1)
実施例1は、本実施形態に係る電子供与体供給剤の有効性を評価するために、改質して低分子量化したポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量の変化が脱窒速度に及ぼす影響を試験したものである。
【0102】
原料ポリ乳酸系樹脂として、ポリ乳酸(重量平均分子量193300)を用い、オートクレーブにて表1に示す条件で改質処理し、低分子量化を行った。
【0103】
【表1】
JP0005392719B2_000002t.gif

【0104】
低分子量化されたポリ乳酸(低分子量化ポリ乳酸)は、ゲル浸透クロマトグラフィを用いて上述した条件で重量平均分子量を測定した。表1には、加熱温度、加熱時間に対応つけてその右側欄に、得られた各低分子量化ポリ乳酸の重量平均分子量を示す。また、各低分子量化ポリ乳酸の結晶化度は、45%であった。
【0105】
次に、各低分子量化ポリ乳酸を基質とし、嫌気的条件下で、活性汚泥による脱窒試験を行なった。
【0106】
具体的には、活性汚泥による脱窒試験として、125ml容バイアル瓶に100ml人工排水(0.2%KNO3、0.2%NH4Cl、0.7%KH2PO4、0.85%K2PO4、0.02%NaCl、0.02%MgCl2・6H2O、0.045%CaCl2・2H2Oおよび0.1%SL8溶液)を添加して行った。このとき、SL8溶液とは、0.5%EDTA・2Na、0.1%FeCl2・4H2O、0.03%HBO3、0.01%CoCl2、0.005%ZnCl2、0.003%MnCl2・4H2O、0.003%NaMoO4・2H2O、0.03%NiSO4・6H2Oおよび0.001%CuCl2・2H2Oを含む溶液である。さらに、これらのバイアル瓶には、活性汚泥を2000mg/mlとなるように調整して添加した。脱窒試験は、各低分子量化ポリ乳酸毎に3回行い、硝酸除去速度の平均値と標準偏差を算出した。各バイアル瓶には、更に、各低分子量化ポリ乳酸ペレット1gを添加した。これらのバイアル試験はすべて25℃、撹拌速度120rpm/分での条件で行った。
【0107】
脱窒活性は、添加した硝酸塩の減少をイオンクロマトグラフィを用いて上述した条件で測定することにより、追跡して評価した。結果を図1に示す。
【0108】
図1は、低分子量化ポリ乳酸の重量平均分子量と生物学的硝酸除去速度との関係を示した図であり、横軸は分子量を、縦軸は硝酸除去速度を示している。図1からも分かるように、重量平均分子量が14000を越えると、硝酸除去速度が0(mg/g/h)近傍まで低下している。つまり、重量平均分子量が14000を超えると、脱窒速度が極端に低下することが示されている。また、重量平均分子量が略12000(重量平均分子量11500のもの、図1においてaで示す黒丸)以下では、硝酸除去速度が1(mg/g/h)を超えており、現実的に脱窒処理を行うことのできる十分な硝酸除去速度が得られることが示されている。
【0109】
一方、得られた低分子量化ポリ乳酸のうち、重量平均分子量が略10000(重量平均分子量9900のもの、図1においてbで示す黒丸)では固体状態であったが、それ以下の重量平均分子量が略8000(重量平均分子量7900のもの、図1においてcで示す黒丸)のものは、液状化していた。
【0110】
以上の結果から、固形損失を考慮して、重量平均分子量が略9500以上、略12000以下の範囲が、良好な脱窒を行なうことができる分子量範囲であることが示された。
【0111】
(実施例2)
実施例2は、本実施形態に係る電子供与体供給剤の有効性を評価するために、改質した低分子化ポリ乳酸系樹脂の結晶化度の変化が加水分解速度と脱窒速度とに及ぼす影響を試験したものである。
【0112】
重量平均分子量が略10000(重量平均分子量9900)の低分子量化ポリ乳酸を120℃で融解した後、表2に示した条件で結晶化度を約10%、20%、30%、40%となるように変化させた。各条件による処理後の低分子量化ポリ乳酸の結晶化度を、各条件に対応つけて表2の最右端の欄に示した。
【0113】
【表2】
JP0005392719B2_000003t.gif

【0114】
その後、125ml容バイアル瓶に実施例1と同様の人工排水100mlおよび結晶化度を調整したPLA1gを添加し、水中における加水分解速度を遊離乳酸量のHPLC測定によって評価した。その結果を図2に示す。図2は、低分子量化ポリ乳酸(重量平均分子量=略10000)の結晶化度と加水分解速度との関係を示した図であり、横軸に結晶化度、縦軸に乳酸遊離速度が示されている。図2に示したように、結晶化度が上がるに連れて直線的に乳酸遊離量(速度)は上昇した。
【0115】
また、これらの結晶化度を変えた低分子量化ポリ乳酸を基質として、実施例1と同様の活性汚泥による脱窒試験を行った。脱窒活性は実施例1と同様に添加した硝酸塩の減少をイオンクロマトグラフィで追跡して評価した。その結果を図3に示す。図3は、結晶化度の異なる低分子量化ポリ乳酸(重量平均分子量=略10000)を基質としたときの活性汚泥の脱窒速度を示した図であり、横軸に結晶化度、縦軸に脱窒速度が示されている。図3に示すように、結晶化度の高い低分子量化ポリ乳酸を基質として用いた場合ほど、脱窒速度は高かった。また、脱窒速度は、結晶化度に比例して直線的に増加する相関関係が認められた。
【0116】
このように、本発明に係る電子供与体供給剤の製造方法により、分子量と結晶化度との両パラメータを制御できること及び本発明に係る電子供与体供給剤によって電子供与体供給速度および脱窒速度を制御できることが示された。
【0117】
(実施例3)
実施例3は、本実施形態に係る電子供与体供給剤について、被処理物質に添加する濃度が脱窒速度に及ぼす影響を試験したものである。低分子量化ポリ乳酸(重量平均分子量=略10000、結晶化度40%)を基質として、実施例1と同様の活性汚泥による脱窒試験を行った。その結果を、図4に示す。
【0118】
図4は、改質したポリ乳酸(重量平均分子量=略10000、結晶化度40%)を基質としたときの活性汚泥の脱窒速度を示した図であり、横軸に硝酸水溶液中の低分子量化ポリ乳酸の濃度、縦軸に脱窒速度が示されている。図4からも分かるように、低分子量化ポリ乳酸濃度が3w/v%の場合に脱窒速度が極大値となった。尚、ポリ乳酸の濃度が5w/v%以内で、水中のpHは適正(pH5.0以上)に保たれた。
【0119】
(実施例4)
実施例4は、本実施形態に係る電子供与体供給剤を用いた環境浄化方法の有効性を評価するために、予め異なる炭素源で集積培養した集積培養微生物を被処理物質中に添加した場合の脱窒速度に及ぼす影響を試験したものである。
【0120】
下水活性汚泥を採取し、20mM硝酸カリウムを含む無機培地(pH7.0)にペプトン(5gL-1)、10mMグルコース、10mM乳酸塩、10mM酢酸塩、あるいは5mM酢酸塩+5mM乳酸塩を唯一のエネルギー炭素源として添加した5種類の異なる培地で脱窒培養(25℃、静置培養)した。23日毎に培養液の半量を取り出し、新鮮な培地に摂取し、培養を続けた。この回分培養操作を一ヶ月間続けて馴養したものを用いて3%ポリ乳酸(PLA)を含む培地における硝酸除去特性を調べた。結果を図5に示す。
【0121】
図5は、炭素源を変更して馴養した脱窒菌群集による硝酸除去特性を示した図であり、横軸は時間を縦軸は硝酸塩の残存量を示している。図5中、ペプトンをエネルギー炭素源としてものを黒塗りの四角で、グルコースをエネルギー炭素源としてものを白抜きの四角で、乳酸塩をエネルギー炭素源としてものを黒塗りの三角で、酢酸塩をエネルギー炭素源としてものを黒塗りの丸で、酢酸塩+乳酸塩をエネルギー炭素源としてものを白抜きの丸で示している。図5に示すとおりに酢酸+乳酸で馴養した汚泥について最も速い除去活性が認められた。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4