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明細書 :円偏光発光の制御方法および円偏光発光材料

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5360890号 (P5360890)
公開番号 特開2010-260951 (P2010-260951A)
登録日 平成25年9月13日(2013.9.13)
発行日 平成25年12月4日(2013.12.4)
公開日 平成22年11月18日(2010.11.18)
発明の名称または考案の名称 円偏光発光の制御方法および円偏光発光材料
国際特許分類 C09K  11/06        (2006.01)
C08G  73/04        (2006.01)
FI C09K 11/06 610
C08G 73/04
請求項の数または発明の数 8
全頁数 26
出願番号 特願2009-112574 (P2009-112574)
出願日 平成21年5月7日(2009.5.7)
審査請求日 平成24年1月16日(2012.1.16)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
発明者または考案者 【氏名】内藤 昌信
【氏名】中村 匡志
【氏名】安井 研一郎
個別代理人の代理人 【識別番号】110000338、【氏名又は名称】特許業務法人原謙三国際特許事務所
審査官 【審査官】馬籠 朋広
参考文献・文献 特表2003-518084(JP,A)
特開2005-289882(JP,A)
シクロデキストリン-基礎と応用-,産業図書株式会社,1995年 3月15日,初版,62-71頁
調査した分野 C09K 11/06
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
芳香族炭化水素誘導体をγ‐シクロデキストリンに包接させてなる複合体から左円偏光を発光させる方法であって、
下記(a)の芳香族炭化水素誘導体をγ‐シクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを12以下に調整すること、または、下記(b)の芳香族炭化水素誘導体をγ‐シクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを14以上に調整することによって左円偏光を発光させることを特徴とする方法:
(a)1-ピレンメチルアミン塩酸または1-ピレン酪酸;
(b)1-ピレンカルボン酸または1-ピレンスルホン酸。
【請求項2】
芳香族炭化水素誘導体をγ‐シクロデキストリンに包接させてなる複合体から右円偏光を発光させる方法であって、
下記(a)の芳香族炭化水素誘導体をγ‐シクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを14以上に調整すること、または、下記(b)の芳香族炭化水素誘導体をγ‐シクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを12以下に調整することによって右円偏光を発光させることを特徴とする方法:
(a)1-ピレンメチルアミン塩酸または1-ピレン酪酸;
(b)1-ピレンカルボン酸または1-ピレンスルホン酸。
【請求項3】
下記(c)の芳香族炭化水素誘導体をγ‐シクロデキストリンに包接させてなる複合体から発光される円偏光の発光方向を反転させる方法であって、
上記複合体を含む溶液のpHを12以下の値または14以上の値に調整することによって円偏光の発光方向を反転させることを特徴とする方法:
(c)1-ピレンメチルアミン塩酸、1-ピレン酪酸、1-ピレンカルボン酸または1-ピレンスルホン酸。
【請求項4】
下記ポリマー(d)を含む溶液のpHを7に調整することによって、下記ポリマー(d)から生じる、波長430nm以上490nm以下の円偏光が示す発光スペクトル強度の絶対値を、下記ポリマー(d)を含む溶液のpHが14である場合の上記強度の絶対値よりも増加させ、
下記ポリマー(d)を含む溶液のpHを14に調整することによって、下記ポリマー(d)から生じる、波長430nm以上490nm以下の円偏光が示す発光スペクトル強度の絶対値を、下記ポリマー(d)を含む溶液のpHが7である場合の上記強度の絶対値よりも減少させることを特徴とする、円偏光の強度を制御する方法:
(d)1-ピレン酪酸をγ‐シクロデキストリンに包接させてなる複合体が、ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーを介して複数個結合されてなるポリマー。
【請求項5】
下記ポリマー(e)を含む溶液のpHを7に調整することによって、下記ポリマー(e)から生じる、波長450nm以上550nm以下の円偏光が示す発光スペクトル強度の絶対値を、下記ポリマー(e)を含む溶液のpHが14である場合の上記強度の絶対値よりも増加させ、
下記ポリマー(e)を含む溶液のpHを14に調整することによって、下記ポリマー(e)から生じる、波長450nm以上550nm以下の円偏光が示す発光スペクトル強度の絶対値を、下記ポリマー()を含む溶液のpHが7である場合の上記強度の絶対値よりも減少させることを特徴とする、円偏光の強度を制御する方法:
(e)1-ピレンスルホン酸をγ‐シクロデキストリンに包接させてなる複合体が、ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーを介して複数個結合されてなるポリマー。
【請求項6】
下記ポリマー(f)を含む溶液の温度を5℃から65℃まで増加させることによって、下記ポリマー(f)から生じる、波長450nm以上600nm以下の円偏光が示す蛍光スペクトルの強度を温度依存的に減少させ、
下記ポリマー(f)を含む溶液の温度を65℃から5℃まで減少させることによって、下記ポリマー(f)から生じる、波長450nm以上600nm以下の円偏光が示す蛍光スペクトルの強度を温度依存的に増加させることを特徴とする、円偏光の強度を制御する方法:
(f)芳香族炭化水素誘導体をγ‐シクロデキストリンに包接させてなる複合体を、ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーを介して複数個結合させてなるポリマーであって、上記芳香族炭化水素誘導体は1-ピレンメチルアミン塩酸、1-ピレン酪酸、1-ピレンカルボン酸または1-ピレンスルホン酸である
【請求項7】
1-ピレンメチルアミン塩酸、1-ピレンカルボン酸または1-ピレンスルホン酸γ‐シクロデキストリンに包接させてなる円偏光発光材料。
【請求項8】
請求項に記載の円偏光発光材料を、ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーを介して複数個結合させてなる円偏光発光材料。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、円偏光発光の制御方法および円偏光発光材料に関し、具体的には、円偏光発光材料の官能基およびpHの選択によって円偏光の発光方向を制御する方法、円偏光発光材料のpHを変化させることによって円偏光の発光方向を制御する方法、ポリマー化した円偏光発光材料のpHまたは温度を変化させることによって円偏光の強度を制御する方法、および上記方法に用いることが可能な新規円偏光発光材料に関する。
【背景技術】
【0002】
円偏光発光とは、光学活性分子から発せられる右円偏光と左円偏光の発光強度の差分のことである。円偏光発光は、蛍光プローブが存在するキラル環境を調べることで溶液中におけるタンパク質のコンフォメーションを決定する、優れた感度を持つ手法の一つとして発展してきた。最も研究されているのはランタニドやアクチニド錯体などである。例えば、ランタニド錯体を用いた系で円偏光発光を発現させた例として、非特許文献1に記載の発明を挙げることができる。この系は量子収率が非常に高く、かつ1種類の配位子にて数種のランタニドカチオンの円偏光発光を可視領域に発現できたことが評価されている。また円偏光発光は、CDスペクトルが基底状態のキラリティーを観測するように、励起状態のキラリティーを観測するためにも用いられる。
【0003】
一方、近年、発光材料として円偏光性発光材料を用いる例が出てきており、本質的な円偏光光源の構築が試みられている。例えば、共役高分子を用いた円偏光発光は、安定した薄膜形成能や共役長の変化を利用したセンサーや発光波長の制御などがメリットになると期待されている。この種の円偏光性発光材料として、共役高分子の側鎖にキラルな置換基を導入することで共役高分子にらせん構造を付与し、円偏光発光の機能を発揮させるものが知られている(例えば特許文献1、2)。
【0004】
また、らせん構造を呈する天然の多糖を用い、これを非共有結合的に共役高分子にコンジュゲートさせて得られる多糖/共役高分子複合体を円偏光発光材料として利用する発明が開示されている(例えば特許文献3)。
【0005】
さらに、環状糖化合物であるガンマシクロデキストリン内に包接されたピレンからのエキシマー発光が左円偏光発光シグナルを示すことを報告している(非特許文献2)。
【0006】
円偏光発光材料から発光される偏光を自由に制御することが出来れば、種々の発光デバイスや、センサー、液晶ディスプレイ用デバイス、有機偏光板、多元メモリーデバイスなど多くの分野に有用であると考えられる。円偏光の発光方向を制御する方法としては、ガンマシクロデキストリンを化学的に修飾する方法が知られている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2004-107542号公報(2004年4月8日公開)
【特許文献2】特開2004-109707号公報(2004年4月8日公開)
【特許文献3】特開2008-303306号公報(2008年12月18日公開)
【0008】

【非特許文献1】A. Satrijo,S. C. J. Maskers, T. M. Swager, J. Am. Chem. Soc., 128, 9030 (2006).
【非特許文献2】K. Kano et al, J. Am. Chem. Soc., 107, 6117 (1985).
【非特許文献3】K. Kano et al, J. Am. Chem. Soc., 110, 204 (1988).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1~3、非特許文献1,2には、開示された材料が円偏光を発光できることが記載されているのみであり、右円偏光と左円偏光とを希望に応じて作り分けることはできていない。また、非特許文献3では、ガンマシクロデキストリンの6位を修飾することで、円偏光の発光方向を反転させることに成功しているが、環状糖化合物であるシクロデキストリンの化学修飾は非常に困難であるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、円偏光発光材料の官能基およびpHの選択によって円偏光の発光方向を制御する方法、円偏光発光材料のpHを変化させることによって円偏光の発光方向を制御する方法、ポリマー化した円偏光発光材料のpHまたは温度を変化させることによって円偏光の強度を制御する方法、および上記方法に用いることが可能な新規円偏光発光材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題に鑑み、シクロデキストリンに包接させる芳香族炭化水素誘導体の官能基を規則性にしたがって選択し、シクロデキストリンと芳香族炭化水素誘導体との複合体を含む溶液のpHを調整することによって、上記複合体から発光される円偏光の発光方向を特定できることを見出した。また、上記複合体を含む溶液のpHを調整するのみで、上記複合体から発光される円偏光の発光方向を所望の方向に自在に変換できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明にかかる方法は、芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体から左円偏光を発光させる方法であって、下記(a)の芳香族炭化水素誘導体を、シクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを12以下に調整すること、または、下記(b)の芳香族炭化水素誘導体を、シクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを14以上に調整することによって左円偏光を発光させることを特徴としている。
【0013】
(a)2個以上5個以下の六員環からなる骨格構造を有し、当該六員環のうち1個が、シクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる酸素原子または水素原子を備えた官能基を1個有しており、上記酸素原子または水素原子のうち、上記官能基が結合している上記六員環の炭素原子から最も近傍に位置する酸素原子または水素原子が、上記官能基が結合している上記六員環の炭素原子をゼロ番目としたとき奇数番目に位置する芳香族炭化水素誘導体。
【0014】
(b)2個以上5個以下の六員環からなる骨格構造を有し、当該六員環のうち1個が、シクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる酸素原子または水素原子を備えた官能基を1個有しており、上記酸素原子または水素原子のうち、上記官能基が結合している上記六員環の炭素原子から最も近傍に位置する酸素原子または水素原子が、上記官能基が結合している上記六員環の炭素原子をゼロ番目としたとき偶数番目に位置する芳香族炭化水素誘導体。
【0015】
また、本発明にかかる方法は、芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体から右円偏光を発光させる方法であって、下記(a)の芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを14以上に調整すること、または、下記(b)の芳香族炭化水素誘導体を、シクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを12以下に調整することによって右円偏光を発光させることを特徴としている。
【0016】
(a)2個以上5個以下の六員環からなる骨格構造を有し、当該六員環のうち1個が、シクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる酸素原子または水素原子を備えた官能基を1個有しており、上記酸素原子または水素原子のうち、上記官能基が結合している上記六員環の炭素原子から最も近傍に位置する酸素原子または水素原子が、上記官能基が結合している上記六員環の炭素原子をゼロ番目としたとき奇数番目に位置する芳香族炭化水素誘導体。
【0017】
(b)2個以上5個以下の六員環からなる骨格構造を有し、当該六員環のうち1個が、シクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる酸素原子または水素原子を備えた官能基を1個有しており、上記酸素原子または水素原子のうち、上記官能基が結合している上記六員環の炭素原子から最も近傍に位置する酸素原子または水素原子が、上記官能基が結合している上記六員環の炭素原子をゼロ番目としたとき偶数番目に位置する芳香族炭化水素誘導体。
【0018】
本発明者は、上記(a)に示す芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させた複合体を含む溶液のpHを12以下とすること、または、上記(b)に示す芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させた複合体を含む溶液のpHを14以上とすることによって左円偏光を得ることができることを見出した。
【0019】
また、本発明者は、上記(a)に示す芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させた複合体を含む溶液のpHを14以上とすること、または、下記(b)の芳香族炭化水素誘導体を、シクロデキストリンに包接させた複合体を含む溶液のpHを12以下とすることによって右円偏光を得ることができることを見出した。
【0020】
つまり、上記複合体から発光される円偏光の発光方向は、上記芳香族炭化水素誘導体に導入する官能基が有する、シクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる酸素原子または水素原子の位置、および上記複合体が溶解している溶液のpHによって決まることを見出し、官能基およびpHの選択によって円偏光の発光方向を制御できることを見出した。それゆえ上記構成によれば、円偏光の発光方向を確実に所望の方向に決定することができる。
【0021】
上記芳香族炭化水素誘導体は、カルボキシル基、カルボン酸基、スルホン酸基またはアミノアルキル基を1個有するピレン誘導体であることが好ましい。
【0022】
本発明にかかる円偏光の発光方向を反転させる方法は、下記(c)の芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体から発光される円偏光の発光方向を制御する方法であって、上記複合体を含む溶液のpHを12以下の値または14以上の値に調整することによって円偏光の発光方向を反転させることを特徴としている。
【0023】
(c)2個以上5個以下の六員環からなる骨格構造を有し、当該六員環のうち1個が、シクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる酸素原子または水素原子を有する官能基を1個備えている芳香族炭化水素誘導体。
【0024】
本発明者は、上記複合体を含む溶液のpHが円偏光の発光方向に影響を与えることを見出した。上記溶液のpHが12以下の場合は、円偏光の発光方向は、上記芳香族炭化水素誘導体の官能基の構造に起因する一定の方向であるが、上記溶液のpHを12超に上昇させていくと、上記pHが12超14未満の範囲において、円偏光発光の発光方向が反転する点が現れることを見出した。
【0025】
例えば上記溶液のpHが12以下の場合に右円偏光が得られているならば、当該pHを14以上に調整すると、円偏光を左円偏光に変化させることができ、例えば上記溶液のpHが14以上の場合に左円偏光が得られているならば、当該pHを12以下に調整すると、円偏光を右円偏光に変化させることができる。また、例えば上記溶液のpHが12超14未満である場合は、当該pHを12以下または14以上に調整すると円偏光の発光方向を反転させることができる。
【0026】
上記構成によれば、上記複合体を含む溶液のpHを変化させるという簡単な操作のみで、円偏光の発光方向を自在に制御することができる。それゆえ、円偏光発光のスイッチングを行うことによる利点が期待される高輝度液晶ディスプレイ、3次元ディスプレイ、記憶材料、光通信などの分野に好適に利用することができる。
【0027】
上記芳香族炭化水素誘導体は、カルボキシル基、カルボン酸基、スルホン酸基またはアミノアルキル基を1個有するピレン誘導体であることが好ましい。
【0028】
本発明にかかる円偏光の強度を制御する方法は、下記ポリマー(d)を含む溶液のpHを7に調整することによって、下記ポリマー(d)から生じる、波長430nm以上490nm以下の円偏光が示す発光スペクトル強度の絶対値を、下記ポリマー(d)を含む溶液のpHが14である場合の上記強度の絶対値よりも増加させ、下記ポリマー(d)を含む溶液のpHを14に調整することによって、下記ポリマー(d)から生じる、波長430nm以上490nm以下の円偏光が示す発光スペクトル強度の絶対値を、下記ポリマー(d)を含む溶液のpHが7である場合の上記強度の絶対値よりも減少させることを特徴としている。
【0029】
(d)1-ピレン酪酸をシクロデキストリンに包接させてなる複合体が、ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーを介して複数個結合されてなるポリマー。
【0030】
また、本発明にかかる円偏光の強度を制御する方法は、下記ポリマー(e)を含む溶液のpHを7に調整することによって、下記ポリマー(e)から生じる、波長450nm以上550nm以下の円偏光が示す発光スペクトル強度の絶対値を、下記ポリマー(e)を含む溶液のpHが14である場合の上記強度の絶対値よりも増加させ、下記ポリマー(e)を含む溶液のpHを14に調整することによって、下記ポリマー(e)から生じる、波長450nm以上550nm以下の円偏光が示す発光スペクトル強度の絶対値を、下記ポリマー(d)を含む溶液のpHが7である場合の上記強度の絶対値よりも減少させることを特徴としている。
【0031】
(e)1-ピレンスルホン酸をシクロデキストリンに包接させてなる複合体が、ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーを介して複数個結合されてなるポリマー。
【0032】
本発明にかかる円偏光の強度を制御する方法では、下記ポリマー(f)を含む溶液の温度を5℃から65℃まで増加させることによって、下記ポリマー(f)から生じる、波長450nm以上600nm以下の円偏光が示す蛍光スペクトルの強度を温度依存的に減少させ、下記ポリマー(f)を含む溶液の温度を65℃から5℃まで減少させることによって、下記ポリマー(f)から生じる、波長450nm以上600nm以下の円偏光が示す蛍光スペクトルの強度を温度依存的に増加させることを特徴としている。
【0033】
(f)芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体を、ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーを介して複数個結合させてなるポリマーであって、上記芳香族炭化水素誘導体は2個以上5個以下の六員環からなる骨格構造を有し、当該六員環のうち1個は、シクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる酸素原子または水素原子を備えた官能基を1個有する。
【0034】
本発明にかかる円偏光の強度を制御する方法では、上記芳香族炭化水素誘導体は、カルボキシル基、カルボン酸基、スルホン酸基またはアミノアルキル基を1個有するピレン誘導体であることが好ましい。
【0035】
本発明者は、上記(c)の芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体の代わりに上記ポリマー(d)、(e)または(f)を用いた場合、ポリマー(d)、(e)または(f)を含む溶液のpHまたは温度を変化させることによって、ポリマー(d)、(e)または(f)から生じる、所定波長の円偏光の強度が大きく変化することを見出した。
【0036】
芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体は親油性、親水性のいずれのポリマーにも結合させることができる。上記ポリマー(d)、(e)または(f)は、上記複合体が親油性または親水性のポリマーを介して複数個結合した構造をとっているため、フィルム状またはゲル状に成形することが可能である。
【0037】
したがって、上記構成によれば、円偏光発光材料がフィルム状またはゲル状である方が使用しやすい用途、例えば有機偏光板、液晶ディスプレイ用デバイス等に適用し、円偏光の強度を調整することができる。
【0038】
本発明にかかる円偏光発光材料は、カルボキシル基、炭素数が2、3、5、6もしくは10のカルボン酸基、スルホン酸基、またはアミノアルキル基を1個有するピレンまたはナフタレンをシクロデキストリンに包接させてなることを特徴としている。
【0039】
上記構成によれば、官能基の構造によって円偏光の発光方向が特定できるため、例えば本発明にかかる方法の供試体として使用することができる。
【0040】
また、本発明にかかる円偏光発光材料は、カルボキシル基、炭素数が2、3、5、6もしくは10のカルボン酸基、スルホン酸基、またはアミノアルキル基を1個有するピレンまたはナフタレンをシクロデキストリンに包接させてなる円偏光発光材料を、ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーを介して複数個結合させてなるものであってもよい。
【0041】
このような円偏光発光材料は、pHまたは温度を変化させることにより、ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーの脱プロトン化や、芳香族炭化水素の包接方向の変化等が起こるため、pHまたは温度の変化による円偏光の強度制御が可能となる。また、フィルム状またはゲル状に成形することが可能である。それゆえ、円偏光発光材料がフィルム状またはゲル状である方が使用しやすい用途、例えば有機偏光版、液晶ディスプレイ用デバイス等に用い、本発明にかかる方法による円偏光の強度制御のために用いることができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明にかかる芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体から左円偏光を発光させる方法は、上記(a)の芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを12以下に調整すること、または、上記(b)の芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを14以上に調整することによって左円偏光を発光させる方法である。
【0043】
また、本発明にかかる芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体から右円偏光を発光させる方法は、上記(a)の芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを14以上に調整すること、または、上記(b)の芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを12以下に調整することによって右円偏光を発光させる方法である。
【0044】
それゆえ、円偏光の発光方向を確実に決定することができるため、円偏光の発光方向を容易に制御することができるという効果を奏する。
【0045】
また、本発明にかかる、上記(c)の芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体から発光される円偏光の発光方向を反転させる方法は、上記複合体を含む溶液のpHを12以下の値または14以上の値に調整することによって円偏光の発光方向を反転させる方法である。それゆえ、上記複合体を含む溶液のpHを変化させるという簡単な操作のみで、円偏光の発光方向を自在に制御することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】1-ピレンカルボン酸をシクロデキストリンに包接させた複合体からのCPLとPLとを、上記複合体を含む溶液のpHが7の場合と、14の場合とについて示したものである。
【図2】1-ピレンスルホン酸をシクロデキストリンに包接させた複合体からのCPLとPLとを、上記複合体を含む溶液のpHが7の場合と、14の場合とについて示したものである。
【図3】1-ピレンメチルアミン塩酸をシクロデキストリンに包接させた複合体からのCPLとPLとを、上記複合体を含む溶液のpHが7の場合と、14の場合とについて示したものである。
【図4】1-ピレン酪酸をシクロデキストリンに包接させた複合体からのCPLとPLとを、上記複合体を含む溶液のpHが7の場合と、14の場合とについて示したものである。
【図5】芳香族炭化水素誘導体とシクロデキストリンとの複合体を含む溶液のpHを変化させた場合のpHとgCPLとの関係を、1-ピレンスルホン酸を用いた場合について示すものである。
【図6】芳香族炭化水素誘導体とシクロデキストリンとの複合体を含む溶液のpHを変化させた場合のpHとgCPLとの関係を、1-ピレンメチルアミン塩酸を用いた場合について示すものである。
【図7】芳香族炭化水素誘導体とシクロデキストリンとの複合体を含む溶液のpHを変化させた場合のpHとgCPLとの関係を、1-ピレン酪酸を用いた場合について示すものである。
【図8】Poly-1の合成経路を示す図である。
【図9】1-ピレン酪酸を用いた場合について、芳香族炭化水素誘導体とシクロデキストリンとの複合体を含む溶液のpHが7または14の場合のCPLおよびPLの測定結果を示すものである。
【図10】1-ピレンスルホン酸を用いた場合について、芳香族炭化水素誘導体とシクロデキストリンとの複合体を含む溶液のpHが7または14の場合のCPLおよびPLの測定結果を示すものである。
【図11】γ-シクロデキストリンの環状構造を示す図である。
【図12】シクロデキストリンによる芳香族炭化水素誘導体の包接の様子を示す模式図である。
【図13】ポリマー(d)の構造の一例を示す図である。
【図14】Poly-1に1-ピレン酪酸を包接させた複合体のPL測定結果を示すものである。
【図15】Poly-1に1-ピレンスルホン酸を包接させた複合体のPL測定結果を示すものである。
【図16】Poly-1に1-ピレンカルボン酸を包接させた複合体のPL測定結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の実施の形態について説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。尚、本明細書中において範囲を示す「A~B」は、A以上B以下であることを示す。

【0048】
(1.芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体から左円偏光または右円偏光を発光させる方法)
本実施形態にかかる、芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体から左円偏光を発光させる方法は、下記(a)の芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを12以下に調整すること、または、下記(b)の芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを14以上に調整することによって左円偏光を発光させる方法である。

【0049】
また、本実施形態にかかる、芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体から右円偏光を発光させる方法は、下記(a)の芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを14以上に調整すること、または、下記(b)の芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを12以下に調整することによって右円偏光を発光させる方法である。

【0050】
(a)2個以上5個以下の六員環からなる骨格構造を有し、当該六員環のうち1個が、シクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる酸素原子または水素原子を備えた官能基(以下、単に「官能基A」ともいう)を1個有しており、上記酸素原子または水素原子のうち、上記官能基が結合している上記六員環の炭素原子から最も近傍に位置する酸素原子または水素原子(以下、単に「最も近傍の酸素原子または水素原子」という)が、上記官能基が結合している上記六員環の炭素原子をゼロ番目としたとき奇数番目に位置する芳香族炭化水素誘導体。

【0051】
(b)2個以上5個以下の六員環からなる骨格構造を有し、当該六員環のうち1個が、上記官能基Aを1個有しており、上記最も近傍の酸素原子または水素原子が、上記官能基が結合している上記六員環の炭素原子をゼロ番目としたとき偶数番目に位置する芳香族炭化水素誘導体。

【0052】
上記芳香族炭化水素誘導体(a)、(b)の骨格構造(芳香族炭化水素)は、2個以上5個以下の六員環からなる構造であれば、特に限定されるものではない。当該構造であれば、シクロデキストリンの環状構造が有する空洞の大きさに鑑みて、シクロデキストリン1分子あたりに芳香族炭化水素誘導体の二量体を十分に包接させることができる。上記骨格構造としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、ピレン、ベンゾピレン、クリセン、ナフタセン、トリフェニレン、ペンタセン等を用いることができる。中でも、シクロデキストリンの空洞サイズに対し、ピレン2分子の体積が最適なサイズであるため、ピレンを特に好ましく用いることができる。

【0053】
本実施形態にかかる上記方法は、上記「最も近傍の酸素原子または水素原子」が、官能基Aが結合している上記六員環の炭素原子をゼロ番目としたとき奇数番目に位置するか、偶数番目に位置するかという規則性と、上記複合体を含む溶液のpHとの組み合わせとによって、上記複合体から発光する円偏光の発光方向が決まるということを見出したことに基づくものである。

【0054】
上記六員環のうち1個は、官能基Aを1個有している。つまり、上記2個以上5個以下の六員環のうち、1つの六員環が官能基Aを1個有している。上記2個以上5個以下の六員環のうちの1つであれば、官能基Aが結合する六員環がどの六員環であるかは特に限定されるものではない。また、官能基Aが結合する当該六員環上の炭素の位置も特に限定されるものではない。

【0055】
本明細書において、シクロデキストリンは従来公知のものを用いることができる。また、シクロデキストリンの重合度は特に限定されるものではなく、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、δ-シクロデキストリン、ε-シクロデキストリンのいずれであってもよい。

【0056】
「シクロデキストリンの水酸基」とは、一級水酸基および二級水酸基のいずれであってもよい。ここで、「一級水酸基」とは、水酸基が結合している炭素原子に1個の炭素原子が結合している水酸基をいい、「二級水酸基」とは、水酸基が結合している炭素原子に2個の炭素原子が結合している水酸基をいう。図11は、γ-シクロデキストリンの環状構造を示す図である。一級水酸基は、例えば図11において符号1で示す水酸基であり、二級水酸基は、図11において符号2で示す水酸基である。

【0057】
シクロデキストリンの水酸基は一部が他の官能基に置換されていてもよい。置換基としては、例えばアルコキシ基、アミノ基、メルカプト基等を用いることができる。当該置換によって、シクロデキストリンの有機溶媒への溶解性を高めることができ、その結果、シクロデキストリンの包接能の向上という効果を得ることができる。なお、これらの置換基による水酸基の置換割合は、限定されるものではなく、全く置換されていなくてもよいし、全ての水酸基が置換されていてもよい。

【0058】
官能基Aは、シクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる酸素原子または水素原子を備えている。官能基Aとしては、特に限定されるものではないが、例えばカルボキシル基、カルボン酸基、スルホン酸基、アミノ基、アミノアルキル基、ヒドロキシル基等を挙げることができる。また、上記酸素原子または水素原子としては、例えば、カルボキシル基におけるカルボニル酸素原子、スルホン酸基におけるスルホニル酸素原子、アミノ基を構成する水素原子等を挙げることができる。

【0059】
上記芳香族炭化水素誘導体(a)、(b)としては、例えば、1-ピレンカルボン酸、1-ピレンスルホン酸、1-ピレンメチルアミン塩酸、1-ピレンエタン酸、1-ピレンプロパン酸、1-ピレン酪酸、1-ピレンペンタン酸、1-ピレンヘキサン酸等を挙げることができる。中でも、カルボキシル基、カルボン酸基、スルホン酸基またはアミノアルキル基を1個有するピレン誘導体であることが好ましい。

【0060】
上記芳香族炭化水素誘導体(a)、(b)は、市販のものであってもよい。また、ピレン等の上記骨格構造に、従来公知の方法によって官能基Aを導入したものであってもよい。例えば、Friedel-Crafts反応等の手法を用いることによって、上記骨格構造に官能基Aを導入することができる。

【0061】
「上記最も近傍の酸素原子または水素原子が、官能基Aが結合している上記六員環の炭素原子をゼロ番目としたとき奇数番目に位置する」とは、官能基Aが置換基として結合している上記六員環の炭素原子をゼロ番目とし、当該炭素原子に隣接する官能基A上の原子を1番目と数えたときに、シクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる酸素原子または水素原子のうち、ゼロ番目の炭素原子に最も近い酸素原子または水素原子の位置が奇数番目であることをいう。

【0062】
例えば、化学式(1)に示す1-メチルアミン塩酸は、アミノメチル基が置換基として結合している炭素原子をゼロ番目とし、当該炭素原子に隣接するアミノメチル基上の炭素原子を1番目と数えたときに、アミノメチル基の窒素原子が2番目、当該窒素原子に結合した水素原子が3番目となり、当該水素原子はシクロデキストリンの水酸基と水素結合しうるので、1-メチルアミン塩酸は上記(a)の芳香族炭化水素誘導体に該当する。

【0063】
【化1】
JP0005360890B2_000002t.gif

【0064】
上記(b)の芳香族炭化水素誘導体において「上記最も近傍の酸素原子または水素原子が、官能基Aが置換基として結合している上記六員環の炭素原子をゼロ番目としたとき偶数番目に位置する」も同様であり、官能基Aが置換基として結合している上記六員環の炭素原子をゼロ番目とし、当該炭素原子に隣接する官能基A上の原子を1番目と数えたときに、シクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる酸素原子または水素原子のうち、ゼロ番目の炭素原子に最も近い酸素原子または水素原子の位置が偶数番目であることをいう。

【0065】
例えば、化学式(2)に示す1-ピレンスルホン酸は、スルホン酸基が置換基として結合している六員環上の炭素原子をゼロ番目とし、当該炭素原子に隣接する硫黄原子を1番目と数えたときに、スルホニル酸素が2番目となり、当該スルホニル酸素はシクロデキストリンの水酸基と水素結合しうるので、1-ピレンスルホン酸は上記(b)の芳香族炭化水素誘導体に該当する。

【0066】
【化2】
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【0067】
本実施形態にかかる、芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体から左円偏光を発光させる方法では、上記(a)の芳香族炭化水素誘導体を、シクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを12以下に調整すること、または、下記(b)の芳香族炭化水素誘導体を、シクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを14以上に調整することによって左円偏光を発光させる。

【0068】
上記複合体は、従来公知の方法によって得ることができる。例えば、シクロデキストリンを従来公知のpH緩衝液等に溶解させ、ついで、芳香族炭化水素誘導体を添加し、混合することによって上記複合体を得ることができる。シクロデキストリン1分子の環状構造に由来する空洞中では、二つの芳香族炭化水素誘導体の分子がエキシマーを形成し、円偏光を発光する。

【0069】
シクロデキストリンおよび芳香族炭化水素誘導体の濃度は特に限定されないが、上記複合体を含む溶液には、シクロデキストリンが10-2M~10-3M、芳香族炭化水素誘導体が10-4M~10-5M溶解していることが好ましい。

【0070】
図12は、シクロデキストリンによる芳香族炭化水素誘導体の包接の様子を示す模式図である。上記二量体は、シクロデキストリンの環状構造に由来する空洞に疎水的に取り込まれる。図12において、3は芳香族炭化水素誘導体の二量体を表し、4はシクロデキストリンを表している。

【0071】
包接の態様としては、図12の(a)に示すように、上記二量体が1分子のシクロデキストリンのみに取り込まれていてもよいし、図12の(b)に示すように、上記二量体のうち、上記空洞からはみ出している部分が、さらに他のシクロデキストリンに取り込まれていてもよい。つまり、シクロデキストリン1分子あたりに芳香族炭化水素誘導体の二量体が包接されていればよい。

【0072】
円偏光の発光方向は、上記「最も近傍の酸素原子または水素原子」の位置の規則性の影響を受ける。上記芳香族炭化水素誘導体がシクロデキストリンに包接された際に、上記官能基Aにおける「最も近傍の酸素原子または水素原子」がシクロデキストリンの水酸基に水素結合によって固定される。そして、上記「最も近傍の酸素原子または水素原子」が、官能基Aが結合している上記六員環の炭素原子をゼロ番目としたとき奇数番目に位置するか、偶数番目に位置するかによって、芳香族炭化水素部分の立体配座のねじれ角が異なることになる。例えば官能基Aがブタン酸基である場合と、官能基Aがペンタン酸基である場合とでは、芳香族炭化水素部分の立体配座のねじれ角が互いに逆になっている。

【0073】
このように、上記「最も近傍の酸素原子または水素原子」の位置によって、芳香族炭化水素部分の立体配座のねじれ角が互いに逆になることに基づき、円偏光の発光方向に規則性が生じるものと考えられる。さらに、本発明者は、円偏光の発光方向の規則性は、上記複合体を含む溶液のpHの影響を受けることを明らかにした。

【0074】
上記(a)の芳香族炭化水素誘導体を、シクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを12以下に調整するのは、本発明者が、当該溶液のpHが12以下であれば、上記複合体から発光される円偏光は左円偏光で一定であることを見出したことに基づく。

【0075】
また、上記(b)の芳香族炭化水素誘導体を、シクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを14以上に調整するのは、本発明者が、当該溶液のpHが12以下の場合、上記複合体から発光される円偏光は右円偏光で一定であるが、上記pHが12より大きくなるように上昇させていくと、発光方向の反転が見られる点が存在し、pHが14以上の場合は、左円偏光への変化が完了することを見出したことに基づく。

【0076】
本実施形態にかかる、芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体から右円偏光を発光させる方法では、上記(a)の芳香族炭化水素誘導体を、シクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを14以上に調整すること、または、上記(b)の芳香族炭化水素誘導体を、シクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを12以下に調整することによって右円偏光を発光させる。

【0077】
上記(a)の芳香族炭化水素誘導体を、シクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを14以上に調整するのは、本発明者が、上記(a)の芳香族炭化水素誘導体とシクロデキストリンとの複合体を含む溶液のpHが12以下であれば、上記複合体から発光される円偏光は左円偏光で一定であるが、上記pHが12より大きくなるように上昇させていくと、発光方向の反転が見られる点が存在し、pHが14以上の場合は、右円偏光への変化が完了することを見出したことに基づく。

【0078】
また、上記(b)の芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体を含む溶液のpHを12以下に調整するのは、本発明者が、上記(b)の芳香族炭化水素誘導体とシクロデキストリンとの複合体を含む溶液のpHが12以下であれば、上記複合体から発光される円偏光は右円偏光で一定であることを見出したことに基づく。

【0079】
なお、pHが12以下の場合のpHの下限は特に限定されるものではないが、pH調整の簡便性を考慮すると、下限はpH=0であることが好ましい。また、pHが14以上の場合のpHの上限も特に限定されるものではないが、pH調整の簡便性を考慮すると、上限はpH=15であることが好ましい。

【0080】
このように、上記「最も近傍の酸素原子または水素原子」が、官能基Aが結合している上記六員環の炭素原子をゼロ番目としたとき奇数番目に位置するか、偶数番目に位置するかという位置の規則性と、芳香族炭化水素誘導体とシクロデキストリンとの複合体を含む溶液のpHとの組み合わせによって、上記複合体から発光する円偏光の発光方向を制御できることが本発明によって初めて明らかとなった。これにより、用途に応じて芳香族炭化水素誘導体の官能基とpHとを選択するだけで、所望の発光方向を有する円偏光を容易に得ることができる。

【0081】
本発明にかかる右円偏光または左円偏光を発光させる方法の用途としては、例えば紙幣、書類等のセキュリティ向上を挙げることができる。例えば、芳香族炭化水素としてピレンを用いる場合、ピレン誘導体から発光される円偏光は、発光方向に関わらず緑色光である。しかしながら、上記官能基およびpHを選択し、円偏光の発光方向を右または左に予め調整しておけば、上記複合体をセキュリティ用ペイントとして紙幣、書類等に含ませておき、検査対象が発光する円偏光の方向と、真正品が発光する円偏光の方向とを比較することによって、単に発光の有無を確認する場合よりも真贋の判定精度を向上させることができる。

【0082】
また、上記官能基およびpHを選択することによって円偏光の発光方向を確定できるので、例えば量子通信の暗号の要素として発光方向を加えることが可能となる。よって、通信の秘密保持性を向上させることができる。

【0083】
(2.円偏光の発光方向を反転させる方法)
本発明にかかる円偏光の発光方向を反転させる方法は、下記(c)の芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体から発光される円偏光の発光方向を反転させる方法であって、上記複合体を含む溶液のpHを12以下の値または14以上の値に調整することによって円偏光の発光方向を反転させる方法である。

【0084】
(c)2個以上5個以下の六員環からなる骨格構造を有し、当該六員環のうち1個が、シクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる酸素原子または水素原子を有する官能基を1個備えている芳香族炭化水素誘導体。

【0085】
上記(c)の骨格構造は、上記芳香族炭化水素誘導体(a)、(b)と同様に、2個以上5個以下の六員環からなる構造であれば、特に限定されるものではない。中でも、シクロデキストリンの空洞サイズに対し、ピレン2分子の体積が最適なサイズであるため、ピレンを特に好ましく用いることができる。シクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる酸素原子または水素原子を有する官能基、シクロデキストリンの重合度、シクロデキストリンの水酸基については、上記(1.)の項で説明したとおりである。

【0086】
本実施形態にかかる円偏光の発光方向を反転させる方法は、上記複合体を含む溶液のpHを調整することによって円偏光の発光方向を反転させる方法であるため、上記官能基としては、(1.)で説明した「最も近傍の酸素原子または水素原子」が、官能基Aが結合している上記六員環の炭素原子をゼロ番目としたとき奇数番目に位置するものを用いてもよいし、偶数番目に位置するものを用いてもよい。

【0087】
上記複合体を含む溶液とは、(c)の芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体が溶解している溶液であればよい。例えば、上記複合体が従来公知のpH緩衝溶液に溶解している溶液等を挙げることができる。濃度は特に限定されないが、シクロデキストリンが10-2M~10-3M、上記(c)が10-4M~10-5M溶解していることが好ましい。上記溶液は、例えばシクロデキストリンをpH緩衝溶液に溶解させ、(c)の芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリン1分子あたり2分子添加し、酸または塩基によってpHを調整することによって調製することができる。

【0088】
本発明者は、上記溶液のpHが12以下である場合、および14以上である場合は、pHがその範囲にある限り円偏光の発光方向が変化することはないが、pHが12超14未満の範囲において、上記発光方向が反転するpHが存在することを見出した。それゆえ、上記複合体を含む溶液のpHを12以下または14以上のいずれかに調整することによって、上記複合体から発光される円偏光の発光方向を確実に反転させることができる。

【0089】
例えば、上記複合体を含む溶液のpHが12以下である場合は、当該pHを低下させても円偏光の発光方向は変わらないが、当該pHを14以上とすることによって発光方向を反転させることができる。また、上記複合体を含む溶液のpHが14以上の場合は、当該pHを上昇させても円偏光の発光方向は変わらないが、当該pHを12以下とすることによって発光方向を反転させることができる。上記複合体を含む溶液のpHが12より大きく14未満の場合は、当該pHを12以下または14以上のいずれかに調整することによって、円偏光の発光方向を反転させることができる。

【0090】
なお、上記反転は可逆的であり、pHを調整することにより、自在に右円偏光と左円偏光とを切り替えることができる。

【0091】
上記複合体は、シクロデキストリンの二級水酸基間の分子内水素結合および上記官能基とシクロデキストリンの一級水酸基または二級水酸基との間の水素結合によって、比較的対称性のよい構造をとっている。しかし、上記pHを12以下または14以上に調整するという外部刺激が加わると、二級水酸基からの脱プロトン化が生じ、酸素原子間の静電反発によってシクロデキストリンの構造が変化する。これによってシクロデキストリンの環状構造内に取り込まれた芳香族炭化水素誘導体分子の配向が変化し、円偏光発光の発光方向の反転が起こると考えられる。

【0092】
A.Ueno et al.J. Am. Chem. Soc., 111, 6391-6397 (1989) には、γ-シクロデキストリンの一級水酸基にピレンが共有結合してピレン:γ-シクロデキストリン=2:2である会合体を形成し、pHを変化させると会合二量体が分解してピレン:γ-シクロデキストリン=1:1の会合体が形成されることが開示されている。しかしながら、円偏光はエキシマー発光であるため、上記1:1の会合体からは生成されない。よって、本発明にかかる方法は、上記 A.Ueno et al.に開示された技術とは全く異なるものである。

【0093】
上記「発光方向の反転」とは、円偏光が右円偏光である場合は左円偏光に変化させ、円偏光が左円偏光である場合は右円偏光に変化させることをいう。上記pHを調整する方法は特に限定されるものではなく、例えば従来公知の酸やアルカリを用いて適宜調整することができる。

【0094】
上記溶液のpHが12以下であれば、pHをさらに低下させても発光方向が変化することはないため、pHの下限値は特に限定されるものではないが、pH調整の容易さに鑑みると下限値は0であることが好ましい。また、上記溶液のpHが14以上であれば、pHをさらに上昇させても発光方向が変化することはないため、pHの上限値は特に限定されるものではないが、pH調整の容易さに鑑みると上限値は15であることが好ましい。

【0095】
上記方法によって、非特許文献3のように、非常に困難な手法であるγ-シクロデキストリンの化学修飾を行うことなく、上記複合体から発光される円偏光が右円偏光であるか、左円偏光であるかに関わらず、上記複合体を含む溶液のpHを調整するという簡単な操作のみで、円偏光の発光方向を容易に反転させることができる。そのため、円偏光の発光方向を制御可能な有機ELディスプレイ、種々の発光デバイス、センサー、有機偏光板、多元メモリーデバイス、セキュリティ用ペイントなどへの応用が可能であると考えられる。

【0096】
(3.ポリマーから生じる円偏光の強度を制御する方法)
一実施形態において、本発明にかかる円偏光の強度を制御する方法は、下記ポリマー(d)を含む溶液のpHを7に調整することによって、下記ポリマー(d)から生じる、波長430nm以上490nm以下の円偏光が示す発光スペクトル強度の絶対値を、下記ポリマー(d)を含む溶液のpHが14である場合の上記強度の絶対値よりも増加させ、下記ポリマー(d)を含む溶液のpHを14に調整することによって、下記ポリマー(d)から生じる、波長430nm以上490nm以下の円偏光が示す発光スペクトル強度の絶対値を、下記ポリマー(d)を含む溶液のpHが7である場合の上記強度の絶対値よりも減少させる方法である。

【0097】
(d)1-ピレン酪酸をシクロデキストリンに包接させてなる複合体が、ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーを介して複数個結合されてなるポリマー。

【0098】
また、他の実施形態において、本発明にかかる円偏光の強度を制御する方法は、下記ポリマー(e)を含む溶液のpHを7に調整することによって、下記ポリマー(e)から生じる、波長450nm以上550nm以下の円偏光が示す発光スペクトル強度の絶対値を、下記ポリマー(e)を含む溶液のpHが14である場合の上記強度の絶対値よりも増加させ、下記ポリマー(e)を含む溶液のpHを14に調整することによって、下記ポリマー(e)から生じる、波長450nm以上550nm以下の円偏光が示す発光スペクトル強度の絶対値を、下記ポリマー(d)を含む溶液のpHが7である場合の上記強度の絶対値よりも減少させる方法である。

【0099】
(e)1-ピレンスルホン酸をシクロデキストリンに包接させてなる複合体が、ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーを介して複数個結合されてなるポリマー。

【0100】
ポリマー(d)または(e)は、それぞれ、1-ピレン酪酸または1-ピレンスルホン酸をシクロデキストリンに包接させた複合体が、ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーを介して複数個結合した構造を有している。図13は、ポリマー(d)または(e)の構造の一例を示す図である。図中、上記複合体は四角形として簡略化して表示しており、ポリマー(d)または(e)の一例として、上記複合体を、ポリエチレンイミンを介して結合させた構造を示している。

【0101】
ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーとしては、ポリエチレンイミンに限定されるものではなく、従来公知のポリマーを用いることができる。例えば、ポリアミン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルアルコール等を用いることができる。

【0102】
上記ポリアミンとしては、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレンイミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、メンセンジアミン、イソフォロンジアミンなどの環状脂肪族ポリアミンおよびこれらの誘導体または変成物、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族ポリアミンおよびこれらの変性物などを用いることができる。

【0103】
ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーの分子量は、1000~1000000であることが好ましく、10000~500000であることがより好ましい。

【0104】
また、上記ポリマー(d)または(e)を調製するためには、1-ピレン酪酸もしくは1-ピレンスルホン酸と、シクロデキストリンと、ヒドロキシル基もしくはアミノ基を備えるポリマーとを、ポリマー過剰(例えばモル比で1:100)で用いることが好ましい。

【0105】
ポリマー(d)または(e)を調製する方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法によることができる。例えば、ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーおよびシクロデキストリンをジメチルスルホキシド等の溶媒に溶解させ、さらに1-ピレン酪酸または1-ピレンスルホン酸を添加して混合することによって調製することができる。

【0106】
また、ポリマー(d)または(e)を含む溶液は、ポリマー(d)または(e)を、例えば従来公知のpH緩衝溶液等に溶解させることによって調製することができる。上記溶液中に含まれるポリマー(d)または(e)の濃度は、例えば10-4M~10-5Mであることが好ましい。

【0107】
上記複合体を上記ポリマー(d)または(e)とすることにより、形態をフィルム状またはゲル状に成形することが可能となる。そのため、本実施形態にかかる方法によれば、ポリマー(d)または(e)を、円偏光発光材料がフィルム状またはゲル状である方が使用しやすい用途、例えば有機偏光版、液晶ディスプレイ用デバイス等に用い、pHを調整することによって、これらの用途における円偏光の強度の制御を行うことができる。ポリマー(d)または(e)をフィルム状またはゲル状に成形する方法は、特に限定されるものではない。例えばドロップキャスト、スピンコート、交互浸漬法、スプレイ等の方法を用いることができる。

【0108】
上記複合体を上記ポリマー(d)または(e)とすることにより、ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーの脱プロトン化や、芳香族炭化水素の包接方向の変化が起こるため、上記ポリマー(d)または(e)を含む溶液のpHを調整することによって、円偏光の強度を制御することができるものと考えられる。

【0109】
pHの調整は、酸または塩基を用い、適宜行うことができる。フィルム化した場合は、一旦適当な有機溶媒に溶解後、有機溶媒に溶解可能な酸または塩基(例えばトリフルオロ酢酸、有機酸、有機塩基など)を用い、pHを調整すればよい。ゲル(例えばヒドロゲル)状である場合は、緩衝溶液中で酸またはアルカリを用いることにより、pHを調整することができる。また、上記強度の増強および減少は可逆的であり、上記溶液のpHを調整することにより、上記強度の増強および減少を任意に行うことができる。

【0110】
他の実施形態において、本発明にかかる円偏光の強度を制御する方法は、下記ポリマー(f)を含む溶液の温度を5℃から65℃まで増加させることによって、下記ポリマー(f)から生じる、波長450nm以上600nm以下の円偏光が示す蛍光スペクトルの強度を温度依存的に減少させ、下記ポリマー(f)を含む溶液の温度を65℃から5℃まで減少させることによって、下記ポリマー(f)から生じる、波長450nm以上600nm以下の円偏光が示す蛍光スペクトルの強度を温度依存的に増加させる方法である。

【0111】
(f)芳香族炭化水素誘導体をシクロデキストリンに包接させてなる複合体を、ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーを介して複数個結合させてなるポリマーであって、上記芳香族炭化水素誘導体は2個以上5個以下の六員環からなる骨格構造を有し、当該六員環のうち1個は、シクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる酸素原子または水素原子を備えた官能基を1個有する。

【0112】
上記複合体を上記ポリマー(f)とすることにより、分子運動が激しくなり、芳香族炭化水素誘導体が挿入されにくくなるため、上記ポリマー(f)を含む溶液の温度調整によって、上記ポリマー(f)からの円偏光の強度を制御することができるものと考えられる。

【0113】
上記「芳香族炭化水素誘導体」については、(2.)で説明したものと同様の誘導体を用いることができ、カルボキシル基、カルボン酸基、スルホン酸基またはアミノアルキル基を1個有するピレン誘導体であることが好ましい。また、シクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる酸素原子または水素原子を有する官能基、シクロデキストリンの重合度、シクロデキストリンの水酸基については、上記(1.)の項で説明したとおりであり、「ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマー」については、(3.)で説明したとおりである。

【0114】
ポリマー(f)は、上記芳香族炭化水素誘導体と、シクロデキストリンと、ヒドロキシル基もしくはアミノ基を備えるポリマーとを、ポリマー過剰(たとえばモル比で1:100)で用いて調製することが好ましい。

【0115】
ポリマー(f)を調製する方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法によることができる。例えば、ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーおよびシクロデキストリンをジメチルスルホキシド等の溶媒に溶解させ、さらに上記芳香族炭化水素誘導体を添加して混合することによって調製することができる。

【0116】
また、ポリマー(f)を含む溶液は、ポリマー(f)を、例えば従来公知のpH緩衝溶液等に溶解させることによって調製することができる。上記溶液中に含まれるポリマー(f)の濃度は、例えば10-4M~10-5Mであることが好ましい。

【0117】
ポリマー(f)を含む溶液の温度は、5℃から65℃まで増加、または、65℃から5℃まで減少させる。これによって、ポリマー(f)から生じる円偏光の強度を温度依存的に増減させることができる。すなわち、5℃から65℃までの範囲で温度を上昇させると、それに伴って、円偏光の強度が低下し、65℃から5℃までの範囲で温度を下降させると、それに伴って、円偏光の強度が増加する。

【0118】
温度の調整を行う方法は特に限定されるものではなく、従来公知のペルチェ法、クライオスタット、湯浴等を用いることによって行うことができる。円偏光の強度の増減は可逆的であり、上記ポリマー(f)を含む溶液の温度を調整することにより、上記強度の増減を任意に行うことができる。

【0119】
このような、溶液の温度の調整による円偏光の強度の増減は、上記複合体を上記ポリマー(f)としない場合は起こらず、ポリマー(f)を調製することによって初めて行うことが可能となるものである。

【0120】
(4.円偏光発光材料)
一実施形態において、本発明にかかる円偏光発光材料(以下、「円偏光発光材料A」と称する)は、カルボキシル基、炭素数が2、3、5、6もしくは10のカルボン酸基、スルホン酸基、またはアミノアルキル基を1個有するピレンまたはナフタレン(以下、「芳香族炭化水素誘導体A」と称する)をシクロデキストリンに包接させてなるものである。

【0121】
上述のように、これらの官能基は、シクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる酸素原子または水素原子を有しているため、当該酸素原子または水素原子が、上記官能基が結合している上記六員環の炭素原子をゼロ番目としたとき奇数番目に位置するか、偶数番目に位置するかという規則性と、上記円偏光発光材料を含む溶液のpHとの組み合わせとによって、上記円偏光発光材料から発光する円偏光の発光方向を特定することができる。

【0122】
上記芳香族炭化水素誘導体Aとしては、例えば、1-ピレンカルボン酸、1-ピレンスルホン酸、1-ピレンメチルアミン塩酸、1-ピレンエタン酸、1-ピレンプロパン酸、1-ピレンペンタン酸、1-ピレンヘキサン酸、1-ピレンデカン酸等を挙げることができる。

【0123】
上記包接を行う方法は特に限定されるものではなく、例えば、従来公知のpH緩衝溶液にシクロデキストリンを溶解させ、芳香族炭化水素誘導体Aを添加して混合することによって行うことができる。

【0124】
他の実施形態において、本発明にかかる円偏光発光材料は、上記円偏光発光材料Aを、ヒドロキシル基またはアミノ基を備えるポリマーを介して複数個結合させてなるものであり、上記(3.)で説明したポリマー(d)、(e)または(f)に該当するものである。

【0125】
ポリマー(d)~(f)は、上述のように、ポリマー(d)、(e)または(f)を含む溶液のpHまたは温度を調整することによって、ポリマー(d)、(e)または(f)から生じる円偏光の強度を変化させることができる。また、形態をフィルム状またはゲル状とすることができるので、例えば有機偏光版、液晶ディスプレイ用デバイス等において、円偏光の強度を変化させることが可能な円偏光発光材料として用いることができる。

【0126】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0127】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0128】
(実施例1:官能基の選択およびpHによる円偏光発光方向の制御)
ガンマシクロデキストリン(γ-CD、JUNSEI製)に種々のピレン誘導体を包接させてなる複合体の円偏光発光スペクトル(CPL)と蛍光スペクトル(PL)とを測定した。γ-CD(38.91mg、0.01M)を溶解させた所定のpH緩衝溶液(3ml)に、1-ピレンカルボン酸(TCI製)、1-ピレンスルホン酸(ALDRICH製)、1-ピレンメチルアミン塩酸(ALDRICH製)または1-ピレン酪酸(TCI製)をそれぞれ2.0×10-4M溶解させ、水酸化ナトリウム水溶液(WAKO製)または塩酸(WAKO製)を用いてpHを7または14に調整後、CPLおよびPLの測定を行った。pHはpHメータ(HORIBA製、Navih、D-51)により測定した。
【実施例】
【0129】
なお、上記所定のpH緩衝溶液としては、0.2Mのリン酸二水素ナトリウム(WAKO製)51.0mlと、0.2Mのリン酸水素ナトリウム(WAKO製)49.0mlとを調製して混合し、脱イオン水を用いて最終容積を200mlに調整することによって得たリン酸緩衝溶液(pH=6.8)、または、0.1Mのグリシン(WAKO製)50mlと、0.1Mの水酸化ナトリウム(WAKO製)45.5mlとを調製して混合し、脱イオン水を用いて最終容積を100mlに調整することによって得たグリシン緩衝溶液(pH=10.6)を用いた。
【実施例】
【0130】
CPLおよびPLの測定はすべて1cm×1cmの石英セルを用いて行い、測定装置としてはJASCO CPL-200 CPL測定装置を用いた。測定条件はすべて温度5℃に設定した。走査速度は200nm/min、レスポンスは1sec、バンド幅は10.0nm(Em)、10.0nm(Ex)、励起波長は280nm、測定範囲は700-350nm、データ取り込み間隔は2nmである。
【実施例】
【0131】
図1~4は、それぞれ、1-ピレンカルボン酸、1-ピレンスルホン酸、1-ピレンメチルアミン塩酸、1-ピレン酪酸をシクロデキストリンに包接させた複合体からのCPLとPLとを、上記複合体を含む溶液のpHが7の場合と、14の場合とについて示したものである。図中、細い点線はpHが7の場合のCPL強度、太い点線はpHが14の場合のCPL強度、細い実線はpHが7の場合のPL強度、太い実線はpHが14の場合のPL強度を示している。横軸は、上記複合体から発光される円偏光の波長、縦軸は左がCPL強度、右がPL強度を示している。
【実施例】
【0132】
1-ピレンカルボン酸は、カルボキシル基が置換基として結合しているピレンの炭素原子をゼロ番目とし、当該炭素原子に隣接するカルボキシ炭素原子を1番目と数えたときに、カルボニル酸素が2番目となり、当該カルボニル酸素はシクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる。図1より、ほぼ全波長帯において、上記溶液のpHが7のときCPLが負の値を示し、上記溶液のpHが14のとき、CPLが正の値を示していることが分かる。特に、約480~約600nmにおいて、上記溶液のpHが7のとき、CPLが顕著な負の値を示しており、上記溶液のpHが14のとき、CPLが顕著な正の値を示している。
【実施例】
【0133】
図1は、図1に示された波長帯全体で見れば、上記溶液のpHが7のとき右円偏光が発光され、pHが14のとき左円偏光が発光されていることを示している。
【実施例】
【0134】
1-ピレンスルホン酸は、スルホン酸基が置換基として結合しているピレンの炭素原子をゼロ番目とし、当該炭素原子に隣接する硫黄原子を1番目と数えたときに、スルホニル酸素が2番目となり、当該スルホニル酸素はシクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる。図2より、ほぼ全波長帯において、上記溶液のpHが7のときCPLが負の値を示し、上記溶液のpHが14のとき、CPLが正の値を示していることが分かる。特に約450~約530nmにおいて、上記溶液のpHが7のとき、CPLが顕著な負の値を示しており、上記溶液のpHが14のとき、CPLが顕著な正の値を示している。
【実施例】
【0135】
図2は、図2に示された波長帯全体で見れば、上記溶液のpHが7のとき右円偏光が発光され、pHが14のとき左円偏光が発光されていることを示している。
【実施例】
【0136】
1-ピレンメチルアミン塩酸は、アミノメチル基が置換基として結合しているピレンの炭素原子をゼロ番目とし、当該炭素原子に隣接するアミノメチル基上の炭素原子を1番目と数えたときに、アミノメチル基の末端のアミノ基を構成する水素原子が3番目となり、当該水素原子はシクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる。図3より、ほぼ全波長帯において、上記溶液のpHが7のときCPLが正の値を示し、上記溶液のpHが14のとき、CPLが負の値を示していることが分かる。特に約420~約550nmにおいて、上記溶液のpHが7のとき、CPLが顕著な正の値を示しており、上記溶液のpHが14のとき、CPLが顕著な負の値を示している。
【実施例】
【0137】
図3は、図3に示された波長帯全体で見れば、上記溶液のpHが7のとき左円偏光が発光され、pHが14のとき右円偏光が発光されていることを示している。
【実施例】
【0138】
1-ピレン酪酸は、ブタン酸基が置換基として結合しているピレンの炭素原子をゼロ番目とし、当該炭素原子に隣接するブタン酸基上の炭素原子を1番目と数えたときに、カルボニル酸素が5番目となり、当該カルボニル酸素はシクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる。図4より、ほぼ全波長帯において、上記溶液のpHが7のときCPLが正の値を示し、上記溶液のpHが14のとき、CPLが負の値を示していることが分かる。特に約450~約520nmにおいて、上記溶液のpHが7のとき、CPLが顕著な正の値を示しており、上記溶液のpHが14のとき、CPLが顕著な負の値を示している。
【実施例】
【0139】
図4は、図4に示された波長帯全体で見れば、上記溶液のpHが7のとき左円偏光が発光され、pHが14のとき右円偏光が発光されていることを示している。
【実施例】
【0140】
以上のように、シクロデキストリンの水酸基と水素結合しうる酸素原子または水素原子が、芳香族炭化水素誘導体の官能基が結合している上記六員環の炭素原子をゼロ番目としたとき奇数番目に位置するか、偶数番目に位置するかという位置の規則性と、芳香族炭化水素誘導体とシクロデキストリンとの複合体を含む溶液のpHとの組み合わせによって、上記複合体から発光する円偏光の発光方向を制御できることが分かる。
【実施例】
【0141】
次に、上記複合体を含む溶液のpHをより幅広い範囲で変化させてCPLを求め、当該CPLを非対称性因子(gCPL)で規格化し、定量的に評価した。gCPLは次の式1で表される。
【実施例】
【0142】
CPL=ΔI/I=2(I-I)/I+I・・・(1)
ここで、I、Iはそれぞれ左、右の円偏光発光の強度を示す。
【実施例】
【0143】
図5~7は、上記複合体を含む溶液のpH(以下、この項において単に「pH」という)を変化させた場合のpHとgCPLとの関係を、それぞれ1-ピレンスルホン酸、1-ピレンメチルアミン塩酸、1-ピレン酪酸を用いた場合について示すものである。図5は、図2においてPL強度が極大値を示す波長(pH12未満のとき484nm、pH12以上のとき490nm)、図6は、図3においてPL強度が極大値を示す波長(pH12未満のとき480nm、pH12以上のとき484nm)、図7は、図4においてPL強度が極大値を示す波長(pH12未満のとき480nm、pH12以上のとき486nm)の円偏光を測定対象としたものである。
【実施例】
【0144】
図5に示すように、1-ピレンスルホン酸を用いた場合、gCPLはpHが12.5まではほぼ一定の負の値を示し、pHが14のときは正の値を示している。
【実施例】
【0145】
また、図6,7に示すように、1-ピレンメチルアミン塩酸、1-ピレン酪酸を用いた場合、gCPLはpHが12.5まではほぼ一定の正の値を示し、pHが14のときは負の値を示している。なお、gCPLが負の値のときは右円偏光、正の値のときは左円偏光が発光される。
【実施例】
【0146】
図5~7より、上記pHを12以下の値または14以上の値に調整することによって、上記複合体からの円偏光の発光方向を反転させることができることが分かる。
【実施例】
【0147】
(実施例2:pHによる円偏光の強度の制御)
分岐型ポリエチレンイミン(28.2mg,1.13×10-3mM、ALDRICH製、Mw=25000)と6-mono-tosyl-γ-CD(250mg、0.17mM、TCI製)を10mlのジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解させ、65℃で72時間撹拌させた。得られた反応物をゲル濾過カラムにより分取し、γ-CD-graft-polyethylenimine (以下、Poly-1と称する)を得た。図8は、Poly-1の合成経路を示す図である。
【実施例】
【0148】
Poly-1に1-ピレンスルホン酸または1-ピレン酪酸を包接させた複合体のCPLとPLとを測定した。測定はすべて1cm×1cm石英セルで行い、測定条件はすべて温度5℃に設定した。Poly-1を溶解させた所定のpH緩衝溶液(3ml)に、種々の1-ピレンスルホン酸または1-ピレン酪酸(2.0×10-4M)を溶解させ、JASCO CPL-200 CPL測定装置を用い、走査速度200nm/min、レスポンス1sec、バンド幅10.0nm(Em)、10.0nm(Ex)、励起波長280nm、測定範囲700~350nm、データ取り込み間隔2nmの条件でCPLおよびPLの測定を行った。
【実施例】
【0149】
図9、10は、それぞれ1-ピレン酪酸、1-ピレンスルホン酸を用いた場合について、上記複合体を含む溶液のpHが7または14の場合のCPLおよびPLの測定結果を示すものである。横軸は発光される円偏光の波長を表し、縦軸は左がCPL強度、右がPL強度を示している。
【実施例】
【0150】
図9より、1-ピレン酪酸を用いた場合、上記pHが7のときは、430~490nmにおいてCPL強度が正となり、左円偏光が発光されているが、pHが14のときは、CPLの強度はpH7の場合より大幅に低下して約0~-1になっていた。つまり、430~490nmにおいて、上記pHを7から14に変化させることによって、発光していた円偏光をほぼ消光させることができることが分かった。
【実施例】
【0151】
また、図10より、1-ピレンスルホン酸を用いた場合、pHが7のときは420~550nmにおいてCPL強度が負となり、右円偏光が発光されていた。一方、pHが14のときは、CPLは420~550nmにおいてpH7の場合とは発光方向が逆になっていた。また、450nm~540nmの範囲では、CPL強度の絶対値が、pH7の場合の方がpH14の場合よりも大きくなっていた。特に450~520nmの範囲では、pH7の方が大幅にCPL強度の絶対値が大きくなっており、450~520nmにおいて、上記pHを7から14に変化させることによって、発光していた円偏光をほぼ消光させることができることが分かった。
【実施例】
【0152】
以上の結果から、Poly-1に1-ピレンスルホン酸または1-ピレン酪酸を包接させた複合体、すなわち1-ピレンスルホン酸または1-ピレン酪酸をシクロデキストリンに包接させてなる複合体を、ポリエチレンイミンを介して複数個結合させてなるポリマーを含む溶液のpHを調整することによって、円偏光の強度を制御できることが分かった。
【実施例】
【0153】
(実施例3:温度による円偏光の強度の制御)
Poly-1に1-ピレン酪酸、1-ピレンスルホン酸または1-ピレンカルボン酸を包接させた複合体のPLを測定した。測定はすべて1cm×1cm石英セルで行った。Poly-1を溶解させた所定のpH緩衝溶液(3ml)に、1-ピレン酪酸、1-ピレンスルホン酸または1-ピレンカルボン酸(2.0×10-4M)を溶解させ、溶液の温度を5℃、25℃、45℃、65℃として、JASCO CPL-200 CPL測定装置を用い、走査速度200nm/min、レスポンス1sec、バンド幅10.0nm(Em)、10.0nm(Ex)、励起波長280nm、測定範囲700~350nm、データ取り込み間隔2nmの条件でCPLの測定を行った。
【実施例】
【0154】
図14~16は、それぞれ、Poly-1に1-ピレン酪酸、1-ピレンスルホン酸または1-ピレンカルボン酸を包接させた複合体のPL測定結果を示すものである。横軸は上記複合体から発光される円偏光の波長、縦軸はCPL強度を表している。図から明らかなように、上記溶液の温度が低下するにしたがって、450nm~600nmにおいて、エキシマー発光の強度が顕著に減少している。このことは、上記溶液の温度によって、円偏光発光の強度を制御することができることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明にかかる方法は、シクロデキストリンに包接させる芳香族炭化水素誘導体の官能基を規則性にしたがって選択し、シクロデキストリンと芳香族炭化水素誘導体との複合体を含む溶液のpHを調整することによって、上記複合体から発光される円偏光の発光方向を特定することができる。また、上記複合体のpHを調整するのみで、上記複合体から発光される円偏光の発光方向を所望の方向に自在に変換することができる。
【0156】
それゆえ、本発明にかかる方法は円偏光の発光方向を制御可能な有機ELディスプレイ、種々の発光デバイス、センサー、有機偏光板、多元メモリーデバイス、セキュリティシステムなどへの応用が可能である。
【符号の説明】
【0157】
1 一級水酸基
2 二級水酸基
3 芳香族炭化水素誘導体の二量体
4 シクロデキストリン
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15