TOP > 国内特許検索 > 亜鉛発光プローブ及び発光体 > 明細書

明細書 :亜鉛発光プローブ及び発光体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5636644号 (P5636644)
公開番号 特開2011-013102 (P2011-013102A)
登録日 平成26年10月31日(2014.10.31)
発行日 平成26年12月10日(2014.12.10)
公開日 平成23年1月20日(2011.1.20)
発明の名称または考案の名称 亜鉛発光プローブ及び発光体
国際特許分類 G01N  31/00        (2006.01)
G01N  31/22        (2006.01)
G01N  21/78        (2006.01)
FI G01N 31/00 T
G01N 31/00 U
G01N 31/22 122
G01N 21/78 C
請求項の数または発明の数 3
全頁数 13
出願番号 特願2009-157638 (P2009-157638)
出願日 平成21年7月2日(2009.7.2)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 ▲1▼ 発行所名 社団法人日本化学会 発行者名 太田 暉人 刊行物名 日本化学会第89春季年会-講演予稿集II 発行年月日 平成21年3月13日
審査請求日 平成24年6月20日(2012.6.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
発明者または考案者 【氏名】湯浅 順平
【氏名】小川 拓哉
【氏名】河合 壯
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】三木 隆
参考文献・文献 特開2007-031444(JP,A)
特開2005-022985(JP,A)
国際公開第02/102795(WO,A1)
特開2000-239272(JP,A)
Angew Chem Int Ed,2010年,Vol.49, No.30, Page.5110-5114
調査した分野 G01N 31/00
G01N 21/78
G01N 31/22
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記一般式(2)
【化1】
JP0005636644B2_000009t.gif
〔式中、アントラセン骨格及びベンズイミダゾール骨格に含まれる炭素原子と直接結合した任意の水素原子は、同一又は異なって、ハロゲン原子;ヒドロキシ基;カルボキシ基;アミノ基(-NH);カルバモイル基(-CONH);C~C炭化水素基;C~Cアルコキシ基;Cアリーロキシ基;C~Cアシル基;C~Cアシロキシ基;C~Cアルコシキシカルボニル基;式-NHR21で示される基(但し、R21は、C~Cアルキル基);式-NR2122で示される基(但し、R21及びR22は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);式-C(O)-NHR21で示される基(但し、R21は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);式-C(O)-NR2122で示される基(但し、R21及びR22は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);5~7員炭素環;又は1~3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5~7員複素環により置換されていてもよい。〕
で示される、亜鉛イオンを検出するための亜鉛発光プローブ。
【請求項2】
請求項1に記載の亜鉛発光プローブ3モルと亜鉛イオン1モルとを含む平面型の錯体構造が2層積層した会合体であり、層間にπ-スタック構造が形成されている発光体。
【請求項3】
被分析物中の亜鉛イオンの存在を検出する方法であって、
(1)請求項1に記載の亜鉛発光プローブと前記被分析物とを含む溶液を調製する工程1、及び
(2)前記溶液に光を照射して前記溶液のエキシマー発光(白色発光)の有無を観測する工程2、
を含む亜鉛イオン検出方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛イオンを選択的に検出可能な亜鉛発光プローブ及び発光体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体系又は環境中の微量金属の検出には、発光プローブが用いられている。微量金属と発光プローブとが結合すると、発光する性質を利用し、この発光を測定することにより、微量金属を検知するものである。なお、典型的には、発光は蛍光であると考えられている。
【0003】
生体系においては亜鉛イオンを含むタンパク質が多数存在することから、微量の亜鉛を検知できる発光プローブの存在は重要である。従来、亜鉛イオンを検出する発光プローブ(亜鉛発光プローブ)として、以下の例示のように、各種のものが知られている。
【0004】
特許文献1には、亜鉛イオン蛍光センサーに関し、具体的には、N,N,N’,N’-テトラキス(2-キノリルメチル)エチレンジアミン及びその誘導体などの発光プローブについて記載されている。特許文献1では、この発光プローブを亜鉛イオン蛍光センサーと称している。特許文献1には、N,N,N’,N’-テトラキス(2-キノリルメチル)エチレンジアミン中のキノリル基に置換基が導入された誘導体も記載されている。また、特許文献1には、[(N,N,N’,N’-テトラキス(2-キノリルメチル)エチレンジアミン)亜鉛](ClOの物性を開示し、この錯体の単結晶X線構造解析も示されている。N,N,N’,N’-テトラキス(2-キノリルメチル)エチレンジアミンそのものは蛍光を発しないが、この亜鉛錯体は発光する。
【0005】
非特許文献1には、亜鉛イオンを選択的に検出する発光プローブについて記載されている。非特許文献1では、この発光プローブを選択的亜鉛センサーと称している。この発光プローブは、N,N-ビス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミンの窒素原子に、ベンゼン環を介して、キサンテン(xanthene)骨格を導入した構造を有する(例えば、ZnAF-2、ZnAF-2M、ZnAF-2MM)。
【0006】
これらの従来の亜鉛発光プローブには、次のような問題がある。つまり、亜鉛イオンと作用する部分と発光部とが別であり、構造が複雑で合成が困難である点、長期安定性が良くない点、更には選択性・感度等が不十分である点が挙げられる。
【0007】
この点に関して、非特許文献2には、非特許文献1に記載の亜鉛発光プローブ(ZnAF-2)の亜鉛選択性について報告されている。それによれば、ZnAF-2は亜鉛イオンと亜鉛発光プローブとが1:1で結合することにより発光するが、亜鉛イオンだけでなくカドミウムイオン、ニッケルイオン等の2価金属にも感度を示すことが報告されている。なお、亜鉛イオンの感度は他の金属イオンよりも高いが、カドミウムイオンやニッケルイオンが多量に含まれている場合には、もはや亜鉛イオンの存在を正確には検知できない。
【0008】
従って、合成が比較的容易であり、長期安定性が良好であり、亜鉛イオンのみを選択的に検知可能な亜鉛発光プローブ及び発光体の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開2005-194244号公報
【0010】

【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.2005、127、10197-10204
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.2000、122、12399-12400
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、合成が比較的容易であり、長期安定性が良好であり、亜鉛イオンのみを選択的に検知可能な亜鉛発光プローブ及び発光体を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定構造の発光プローブが亜鉛イオンのみを選択的に検知でき、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、下記の亜鉛発光プローブ及び発光体に関する。
1. 下記一般式(1)
【0014】
【化1】
JP0005636644B2_000002t.gif

【0015】
〔式中、Xは置換基を有していてもよい2環以上の縮合6員芳香族炭素環を示す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子;ハロゲン原子;ヒドロキシ基;カルボキシ基;アミノ基(-NH);カルバモイル基(-CONH);C~C炭化水素基;C~Cアルコキシ基;Cアリーロキシ基;C~Cアシル基;C~Cアシロキシ基;C~Cアルコシキシカルボニル基;式-NHR21で示される基(但し、R21は、C~Cアルキル基);式-NR2122で示される基(但し、R21及びR22は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);式-C(O)-NHR21で示される基(但し、R21は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);式-C(O)-NR2122で示される基(但し、R21及びR22は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);5~7員炭素環;或いは1~3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5~7員複素環を示すか、又は、R及びRは閉環して、式中のイミダゾール環とともに置換基を有していてもよいベンズイミダゾールを示す。〕
で示される、亜鉛イオンを検出するための亜鉛発光プローブ。
2. 下記一般式(2)
【0016】
【化2】
JP0005636644B2_000003t.gif

【0017】
〔式中、アントラセン骨格及びベンズイミダゾール骨格に含まれる炭素原子と直接結合した任意の水素原子は、同一又は異なって、ハロゲン原子;ヒドロキシ基;カルボキシ基;アミノ基(-NH);カルバモイル基(-CONH);C~C炭化水素基;C~Cアルコキシ基;Cアリーロキシ基;C~Cアシル基;C~Cアシロキシ基;C~Cアルコシキシカルボニル基;式-NHR21で示される基(但し、R21は、C~Cアルキル基);式-NR2122で示される基(但し、R21及びR22は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);式-C(O)-NHR21で示される基(但し、R21は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);式-C(O)-NR2122で示される基(但し、R21及びR22は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);5~7員炭素環;又は1~3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5~7員複素環により置換されていてもよい。〕
で示される、上記項1に記載の亜鉛発光プローブ。
3. 上記項1又は2に記載の亜鉛発光プローブ3モルと亜鉛イオン1モルとを含む平面型の錯体構造が2層積層した会合体であり、層間にπ-スタック構造が形成されている発光体。
4. 被分析物中の亜鉛イオンの存在を検出する方法であって、
(1)上記項1又は2に記載の亜鉛発光プローブと前記被分析物とを含む溶液を調製する工程1、及び
(2)前記溶液に光を照射して前記溶液のエキシマー発光(白色発光)の有無を観測する工程2、
を含む亜鉛イオン検出方法。
【0018】
以下、本発明の亜鉛発光プローブ及び発光体について詳細に説明する。
【0019】
本発明の亜鉛発光プローブは、下記一般式(1)
【0020】
【化3】
JP0005636644B2_000004t.gif

【0021】
〔式中、Xは置換基を有していてもよい2環以上の縮合6員芳香族炭素環を示す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子;ハロゲン原子;ヒドロキシ基;カルボキシ基;アミノ基(-NH);カルバモイル基(-CONH);C~C炭化水素基;C~Cアルコキシ基;Cアリーロキシ基;C~Cアシル基;C~Cアシロキシ基;C~Cアルコシキシカルボニル基;式-NHR21で示される基(但し、R21は、C~Cアルキル基);式-NR2122で示される基(但し、R21及びR22は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);式-C(O)-NHR21で示される基(但し、R21は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);式-C(O)-NR2122で示される基(但し、R21及びR22は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);5~7員炭素環;或いは1~3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5~7員複素環を示すか、又は、R及びRは閉環して、式中のイミダゾール環とともに置換基を有していてもよいベンズイミダゾールを示す。〕で示される。
【0022】
上記特徴を有する本発明の亜鉛発光プローブは、従来の亜鉛発光プローブと比べて比較的合成が容易であり、しかも亜鉛イオン(Zn2+)のみを選択的に検出することができる。とりわけ、亜鉛イオンと会合体を形成することにより得られる発光は、いわゆるエキシマー発光と称される特徴的な白色発光であり、他の金属イオンと当該プローブが結合することにより得られる発光とは明確に区別される(図2参照)。そして、本発明では、発光量子収率は、好ましい実施態様では49%もの高収率である。これにより、本発明の亜鉛発光プローブは、被分析物中の亜鉛イオンの存在のみを選択的に検知することができる。
【0023】
上記一般式(1)中のXは、置換基を有していてもよい2環以上の6員芳香族炭素環を示している。2環以上の6員芳香族炭素環としては限定的ではないが、例えば、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、テトラセン環、クリセン環、トリフェニレン環、テトラフェン環、ピレン環、ペンタセン環、ピセン環、ペリレン環等が挙げられる。これらの中でも、アントラセン環、ピレン環等が好ましいものとして挙げられる。
【0024】
2環以上の6員芳香族炭素環が有していてもよい置換基としては、一般式(1)中のR、Rに該当し得る置換基が挙げられる。つまり、ハロゲン原子;ヒドロキシ基;カルボキシ基;アミノ基(-NH);カルバモイル基(-CONH);C~C炭化水素基;C~Cアルコキシ基;Cアリーロキシ基;C~Cアシル基;C~Cアシロキシ基;C~Cアルコシキシカルボニル基;式-NHR21で示される基(但し、R21は、C~Cアルキル基);式-NR2122で示される基(但し、R21及びR22は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);式-C(O)-NHR21で示される基(但し、R21は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);式-C(O)-NR2122で示される基(但し、R21及びR22は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);5~7員炭素環;或いは1~3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5~7員複素環が挙げられる。
【0025】
上記C~C炭化水素基には、C~Cアルキル基;C~Cアルケニル基;C~Cアルカンジエニル基;C~Cアルキニル基などが含まれる。C~C炭化水素基は、C~C炭化水素基であることが好ましい。例えば、C~Cアルキル基;C~Cアルケニル基;Cアルカンジエニル基;C~Cアルキニル基が好ましい。
【0026】
上記C~Cアルコキシ基は、C~Cアルコキシ基が好ましい。上記C~Cアシル基は、C~Cアシル基が好ましい。上記C~Cアシロキシ基は、C~Cアシロキシ基が好ましい。また、上記C~Cアルコシキシカルボニル基は、C~Cアルコシキシカルボニル基が好ましい。
【0027】
上記式-NHR21で示される基(式中、R21は、C~Cアルキル基)、式-NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、同一又は異なって、C~Cアルキル基)、式-C(O)-NHR21で示される基(式中、R21は、同一又は異なって、C~Cアルキル基)、及び、式-C(O)-NR2122で示される基(式中、R21及びR22は、同一又は異なって、C~Cアルキル基)において、R21及びR22は、同一又は異なって、C~Cアルキル基が好ましい。
【0028】
上記ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を意味し、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が好ましい。
【0029】
上記5~7員炭素環は、飽和環であってもよいし、不飽和環であってもよいし、芳香族環、即ち、ベンゼン環であってもよい。5~7員炭素環は、5~6員炭素環が好ましい。
【0030】
上記1~3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む、5~7員複素環としては、フラン、チオフェン、ピロール、2H-ピロール、ピラン、チオピラン、ピリジン、オキサゾール(oxazole)、イソキサゾール(isoxazole)、チアゾール、イソチアゾール、フラザン、イミダゾール、ピラゾール、ピロリジン(pyrrolidine)、イミダゾリジン(imidazolidine)、ピラゾリジン(pyrazolidine)、ピペリジン(piperidine)、ピペラジン(piperazine)、ピロリン(pyrroline)、イミダゾリン(imidazoline)、ピラゾリン(pyrazoline)、モルフォリン(morpholine)、アゼピンなどが挙げられる。そして、「1~3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5~7員複素環」は、飽和環であってもよいし、不飽和環であってもよい。1~3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む、5~7員複素環は、1~2個の酸素原子又は窒素原子を含む、5~7員複素環が好ましく、1~2個の酸素原子又は窒素原子を含む、5~6員複素環が更に好ましい。
【0031】
一般式(1)中のR、Rについては、水素原子のほか、上記置換基のいずれかが該当してもよく、更にはR及びRは閉環して、式中のイミダゾール環とともに置換基を有していてもよいベンズイミダゾールを示してもよい。
【0032】
一般式(1)で示される亜鉛発光プローブの中でも、合成が容易である点、亜鉛イオンの選択的感度が大きい点において、下記一般式(2)で示される、Xがアントラセン環であり、R及びRが閉環して、式中のイミダゾール環とともにベンズイミダゾールを形成したものが好ましい。なお、一般式(2)で示される亜鉛発光プローブ中では、アントラセン骨格及びベンズイミダゾール骨格が置換基を有しない態様が最も合成が容易であり、更に長期安定性も優れている。
【0033】
【化4】
JP0005636644B2_000005t.gif

【0034】
〔式中、アントラセン骨格及びベンズイミダゾール骨格に含まれる炭素原子と直接結合した任意の水素原子は、同一又は異なって、ハロゲン原子;ヒドロキシ基;カルボキシ基;アミノ基(-NH);カルバモイル基(-CONH);C~C炭化水素基;C~Cアルコキシ基;Cアリーロキシ基;C~Cアシル基;C~Cアシロキシ基;C~Cアルコシキシカルボニル基;式-NHR21で示される基(但し、R21は、C~Cアルキル基);式-NR2122で示される基(但し、R21及びR22は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);式-C(O)-NHR21で示される基(但し、R21は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);式-C(O)-NR2122で示される基(但し、R21及びR22は、同一又は異なって、C~Cアルキル基);5~7員炭素環;又は1~3個の酸素原子、窒素原子若しくは硫黄原子を含む5~7員複素環により置換されていてもよい。〕
本発明の亜鉛発光プローブは、亜鉛発光プローブ3モルと亜鉛イオン1モルとを含む平面型の錯体構造が2層積層した会合体(自己会合錯体)であり、層間にπ-スタック構造が形成されることにより発光体となる。このような発光体の分子モデルを図1に示す。
【0035】
図1には、置換基を有しない、一般式(2)で示される亜鉛プローブを用いた発光体の分子モデルが示されている。図中のアントラセン6量体が平面型の錯体構造であり、この錯体構造が層間にπ-スタック構造を有するように2層積層して会合体を形成している。
【0036】
当該会合体に光を照射すると、亜鉛イオンを含む場合にのみエキシマー発光(白色発光)が観測される。特に560nmのエキシマー発光強度が確認できれば、エキシマー発光が生じていると判断できる。このようなエキシマー発光は、亜鉛以外の金属イオン、例えば、生体内に豊富に存在するマグネシウムイオンやカルシウムイオンに対しては得られない。よって、亜鉛イオンのみを選択的に検出することが可能となる。
【0037】
本発明の発光体は、上記亜鉛発光プローブ6モルと亜鉛イオン2モルを反応させ、上記会合体(6:2錯体)を形成することにより調製することができる。典型的には、本発明の発光体は、上記亜鉛発光プローブと、亜鉛を含む被分析物とを含む溶液を調製することにより液相で合成することができる。
【0038】
溶液調製に用いる溶媒は有機溶媒であってもよいし、水であってもよいし、有機溶媒と水との混合溶媒であってもよい。有機溶媒は極性溶媒であることが更に好ましい。亜鉛の溶解度は、極性溶媒が無極性溶媒より高いからである。有機溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1-メチルー2-プロリドン、アセトン、アセトニトリル、ジエチルエーテル等を用いることができる。
【0039】
調製温度は、例えば、-20℃~80℃であってもよく、0℃~60℃であってもよく、10℃~40℃であってもよく、室温であってもよい。
【0040】
調製圧力は、例えば、0.1~10気圧であってもよく、好ましくは0.5~3気圧、更に好ましくは0.8~1.5気圧、更になお好ましくは、ほぼ1気圧の圧力下で行われてもよい。
【0041】
溶液調製は、空気中で行ってもよいし、不活性雰囲気下で行ってもよい。不活性雰囲気としては、窒素又はアルゴン雰囲気が挙げられる。
【0042】
液相で合成された発光体は、光を照射することによりエキシマー発光(白色発光)する。とりわけ本発明の発光体は、液相に含まれる亜鉛イオン濃度に比例したエキシマー発光の強度を示し、液相に10μM以上の亜鉛イオンを含む場合に確実に肉眼観察により発光を確認することができる(図3、図4参照)。
【0043】
照射する光は、可視光及び/又は紫外線を含むことが好ましい。光は、例えば、180~800nmの波長を有してもよく、180~500nmの波長を有してもよく、200nm~400nmの波長を有していてもよい。本発明では、465nmの可視光(例えば、蛍光灯の光)を照射することによってエキシマー発光を得ることができ、細胞試料に含まれる亜鉛イオンの有無を確認する場合(細胞イメージング)等、紫外線によるダメージを抑制する必要がある分野でも有用性が高い。
【0044】
以上を踏まえ、本発明は、被分析物中の亜鉛イオンの存在を検出する方法であって、
(1)本発明の亜鉛発光プローブと前記被分析物とを含む溶液を調製する工程1、及び
(2)前記溶液に光を照射して前記溶液のエキシマー発光(白色発光)の有無を観測する工程2、を含む亜鉛イオン検出方法も包含する。
【発明の効果】
【0045】
本発明の亜鉛発光プローブは、従来の亜鉛発光プローブと比べて比較的合成が容易であり、しかも亜鉛イオン(Zn2+)のみを選択的に検出することができる。とりわけ、亜鉛イオンと会合体を形成することにより得られる発光は、いわゆるエキシマー発光と称される特徴的な白色発光であり、他の金属イオンと結合することにより得られる発光とは明確に区別される。これにより、本発明の亜鉛発光プローブは、被分析物中の亜鉛イオンの存在のみを選択的に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明発光体の分子モデルを示す図である。
【図2】実施例1、参考例1~18の結果(エキシマー発光の有無)を示す図である。
【図3】実施例2におけるエキシマー発光強度を示す図である。
【図4】実施例2における560nmの発光強度をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、実施例及び参考例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。

【0048】
合成例1(亜鉛発光プローブの合成)
一般式(2)で示される亜鉛発光プローブ(但し置換基を有さない)を下記step1~3に基づいて合成した。

【0049】
【化5】
JP0005636644B2_000006t.gif

【0050】
9-bromoanthracene 2.0 g (7.8 mmol)、trimethylsilylacetylene 1.5 g (15 mmol)、copper(I)iodide 74 mg (0.38 mmol、約5%)、PPh3 0.25 g (0.95 mmol)にtriethylamine 30 ml、THF 10 mlを加え20分窒素バブリングした。これにPd(PPh3)2Cl20.25 g (0.35mmol、5%)を加え100 ℃で8時間還流撹拌した。

【0051】
溶媒を減圧留去し赤色油状物(一部固体)を得た。酢酸エチルを加えてろ過し溶媒を減圧留去した後、アルミナカラム(ヘキサン)で精製しオレンジ色固体を得た。ゲルパーミエションクロマトグラフィ(GPC:クロロホルム)で精製し黄色固体を得た。

【0052】
収量・収率 2.0 g (7.4 mmol)、95%
Rf = 0.65 (アルミナ、ヘキサン)、0.45 (シリカ、ヘキサン)

【0053】
【化6】
JP0005636644B2_000007t.gif

【0054】
フレームドライし、窒素置換した四つ口フラスコに、1-methylbenzimidazole (1.0 g, 7.9 mmol),dry THF (50 mL)を入れ、-78 ℃まで冷却しn-BuLi (1.6 M in hexane, 6 mL)を20分かけてゆっくりと滴下し、30分撹拌した。これとは別にフレームドライし、窒素置換した二口フラスコにI2 (2.3 g, 9.0 mmol),dry THF (5 mL)を入れ、溶解した。

【0055】
この溶液をゆっくりと滴下した。穏やかに室温に戻した後、6時間撹拌した。sodium thiosulfate水溶液 (10 mL)を加え、CHCl3で抽出し、有機層を回収し、MgSO4を加えて脱水した。濾過した後、カラムクロマトグラフィー (SiO2, 酢酸エチル)で第一バンドを回収した。溶媒を減圧留去した後、再結晶 (hexane + 5% toluene)し、薄いアイボリー色の針状結晶を得た。

【0056】
収量・収率 830 mg (3.2 mmol), 41%
Rf = 0.77 (SiO2, 酢酸エチル)

【0057】
【化7】
JP0005636644B2_000008t.gif

【0058】
フレームドライし、窒素置換した四つ口フラスコに、2-iode-1-methylbenzimidazole (260 mg, 1.0 mmol), (anthracene-9-elethynyl)trimethylsilane (280 mg, 1.0 mmol), CuI (10 mg, 0.053 mmol), TBAF (in THF 1 M, 2.8 mL), dry THF (25 mL), TEA (25 mL)を入れ、20分間N2バブリングした。Pd(PPh3)2Cl2(38 mg, 0.054 mmol)を加え、還流(窒素雰囲気下, 90 ℃, 6時間)した。溶液を濾過し、褐色固体(1.6 g)を得た。これをカラムクロマトグラフィー(アルミナ, CHCl3)を行い、第二成分を回収し、黄色固体 (310 mg, 0.93 mmol, 93%)を得た。

【0059】
以上のstep1~3を経て本発明の亜鉛発光プローブを合成した。

【0060】
実施例1及び参考例1~18(エキシマー発光の観測)
溶媒としてアセトニトリルを用いて、金属イオン濃度50μM、十分量の本発明亜鉛発光プローブを含有する試料溶液を調製した。

【0061】
金属としてZnを用いた場合を実施例1とし、金属としてY、Sr、Sc、Rb、Pd、Pb、Na、Mg、Lu、Li、K、Hg、Eu、Cu、Cs、Cd、Ca及びAgを用いた場合を参考例1~18とした。

【0062】
各試料溶液に365nmの光を照射し、エキシマー発光(白色発光)の有無を調べた。

【0063】
測定結果を図2に示す。

【0064】
図2の結果から明らかなように、Znを用いた場合にのみ選択的に、白色のエキシマー発光が得られることが分かる。

【0065】
実施例2(亜鉛イオン濃度とエキシマー発光強度との関係)
実施例1の試料溶液において、亜鉛イオンの濃度を0μM~150μMまで変化させてエキシマー発光強度を測定した。結果を図3に示す。図3中、0μL~300μLの数値は試料溶液の量であり、0μLは亜鉛イオン0μMに対応し、300μLは亜鉛イオン150μMに対応する。

【0066】
図3の吸収スペクトルからは、465nm(可視光)において吸収があることが分かる。発光スペクトルからは、いずれの濃度でもエキシマー発光が観測されることが分かる。この発光スペクトルにおいて、ピーク波長近傍の560nmのエキシマー発光強度を抽出した結果を図4に示す。図4中、(a)は亜鉛イオン濃度0μMであり、(b)は亜鉛イオン濃度5μMであり、いずれもエキシマー発光強度が弱く、肉眼では認識困難である。他方、(c)は亜鉛イオン濃度70μMであり、エキシマー発光強度が強く、肉眼で容易に認識可能である。図4のグラフからは、10μM以上であれば肉眼で容易にエキシマー発光を確認できることが分かる。この特性を利用して、亜鉛イオンを含む試料溶液において、エキシマー発光が肉眼で確認できることにより、亜鉛イオンが10μM以上含まれていると判断することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3