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明細書 : ヒドロキシラジカルによるリグニンの低分子化方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B1)
特許番号 特許第4803684号 ( P4803684)
登録日 平成23年8月19日(2011.8.19)
発行日 平成23年10月26日(2011.10.26)
発明の名称または考案の名称 ヒドロキシラジカルによるリグニンの低分子化方法
国際特許分類 C07G   1/00        (2011.01)
C08H   7/00        (2011.01)
FI C07G 1/00
請求項の数または発明の数 4
全頁数 10
出願番号 特願2010-143296 ( P2010-143296)
出願日 平成22年6月24日(2010.6.24)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 平成21年度金沢大学工学部 物質化学工学科(Bコース)(開催者:国立大学法人金沢大学、平成22年2月18日)卒業論文要旨集及び発表スライド
審査請求日 平成23年2月25日(2011.2.25)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
発明者または考案者 【氏名】高橋 憲司
【氏名】比江嶋 祐介
【氏名】井口 真吾
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100081086、【弁理士】、【氏名又は名称】大家 邦久
【識別番号】100121050、【弁理士】、【氏名又は名称】林 篤史
審査官 【審査官】福澤 洋光
参考文献・文献 特開2006-149343(JP,A)
特開2009-207485(JP,A)
木材保存,1999年,Vol.25-1,p.24-27
Cellulose Commun.,2001年,Vol.8, No.1,p.16-20
Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry,1999年,Vol.128,p.1-13
調査した分野 C07G1/00-99/00
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus(JDreamII)
PubMed
要約 【課題】大量に焼却されているリグニンの有効利用を図るため、強固なリグニン構造を光化学反応により破壊して、各種有用化学物質の原料として利用できる低分子化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】リグニンの低分子化物は溶解するがリグニンは溶解しない溶媒の共存在下で、リグニン粉末を亜硝酸ナトリウム水溶液中に懸濁させ、紫外線を照射して発生させたヒドロキシラジカルと反応させることを特徴とするリグニンの低分子化方法、及び低分子化合物の製造方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
水不溶性のリグニンを含むリグニン粉末を、リグニンの低分子化物が溶解しリグニンが溶解しない溶媒の共存下に亜硝酸ナトリウム水溶液中で懸濁させながら、紫外線、電子線、またはガンマ線を照射して発生させたヒドロキシルラジカルと反応させることを特徴とするリグニンの低分子化方法。
【請求項2】
溶媒が、エーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、ヘキサン及び酢酸エチルから選択される請求項1に記載のリグニンの低分子化方法。
【請求項3】
水不溶性のリグニンを含むリグニン粉末を、リグニンの低分子化物が溶解しリグニンが溶解しない溶媒の共存下に亜硝酸ナトリウム水溶液中で懸濁させながら、紫外線、電子線、またはガンマ線を照射して発生させたヒドロキシルラジカルと反応させることを特徴とする低分子化合物の製造方法。
【請求項4】
溶媒が、エーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、ヘキサン及び酢酸エチルから選択される請求項3に記載の低分子化合物の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシラジカルによるリグニンからの低分子化方法に関する。さらに詳しく言えば、本発明は、これまで大量に焼却処分されているリグニンの有効利用法を提供するものであって、光化学反応により選択的に生成させたヒドロキシルラジカルをリグニンと反応させることにより、強固なリグニン構造を破壊するリグニンの低分子化方法、及び低分子化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンは木質バイオマスの20~30%を占めている。しかし、フェノール系の物質が3次元で入り組んだ非常に複雑な構造を有するため、分解が困難で反応性に乏しいなどの特徴を持つ。そのため、同じ木質バイオマスの一つであるセルロースと比べると利用が進められておらず、現在国内だけで年間700万トンが焼却されている。また、木材を利用してバイオエタノールを大量に作ることが将来的に予想されるが、その際には、さらに大量のリグニンを焼却・処分することが予想され、その有効利用法の確立が求められている。
【0003】
リグニンの分解・利用についての既存の研究としては超臨界水でのリグニンの低分子化(例えば、特開平11-292799号公報;特許文献1)、白色腐朽菌による分解(非特許文献1)、コンクリート減水材への利用(例えば、Amel Kamoun, Ahmed Jelidi, Moncef Chaabouni; Cement and Concrete Research, 33, 2003, 995-1003;非特許文献2)等が挙げられる。
【0004】
特許文献1の超臨界水中でのリグニンの分解処理の研究は、374℃、22.1MPaの高温・高圧下で行われ、処理後得られる物質として、シリンガアルデヒド、シリンガ酸、バニリンなどが確認されている。高温高圧という非常に高いエネルギーを必要とする問題があるが、リグニン分解の効率は高い。しかし、まだ研究段階であり、工業的には実施されていない。
【0005】
非特許文献1による白色腐朽菌によるリグニンの分解は、主に木質バイオマスのセルロースをリグニンから分離することを目的として研究されている。白色腐朽菌はリグニンのみを選択的に分解できるため、利用しやすいが、白色腐朽菌による分解反応は菌が産出したラジカルによりリグニンを分解するなど反応が複雑であり、反応過程の解明が難しく、菌の改良も困難であるという問題がある。これもまだ研究段階であり、工業的には実施されていない。
【0006】
非特許文献2によるコンクリート減水材への利用は、リグニンを化学変性させたリグニンスルホン酸の優れたセメント分散性と適度の空気連行性を利用するものである。しかし、近年ではコンクリート材料に適する砂や砂利等が減少し、リグニンスルホン酸の性能では不十分な場合が生じてきた。そのため、リグニンスルホン酸にアミノスルホン酸系の縮合物を複合したものなどが使用されるようになってきており、リグニンのコンクリート減水材への使用量は減少している。
以上のように、リグニンの分解・利用については多くの研究がなされてはいるが、問題も多く、現実に利用されているのはコンクリート減水材への利用のみである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
特開平11-292799号公報
【非特許文献】
【0008】
Andrzej Leonowicz, Anna Matuszewska; Fungal Genetics and Biology, 1999, 27, 175-185Amel Kamoun, Ahmed Jelidi, Moncef Chaabouni; Cement and Concrete Research, 33, 2003, 995-1003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の課題は、これまで有効利用されることなく大量に焼却されており、今後益々焼却処分量の増加が予測されているリグニンの有効利用を図るため、強固なリグニン構造を光化学反応により破壊して、各種有用化学物質の原料として利用できる低分子化合物を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、いわゆる活性酸素と呼ばれる分子種の中でも最も酸化力が強く、脂質やタンパク質、糖質などと反応することが知られているヒドロキシラジカル(「活性酸素」,日本化学会,高柳輝夫,大坂武男編,丸善(株)出版(1998)参照)の反応性に着目して、リグニンの低分子化について鋭意研究を重ねた。
【0011】
これまでリグニンの分解にヒドロキシルラジカルを使用した研究報告は無いが、これはリグニンが本来水に溶けないために、水溶液(水溶媒)中での反応が好ましいヒドロキシルラジカルとの反応については注目されなかったことによると考えられる。
【0012】
なお、背景技術で説明した白色腐朽菌もヒドロキシルラジカルを生成することが報告されているが(Hidetoshi Katsuki, Michael H. Gold; BIOCHEMICAL AND BIOPHYSICAL RESEARCH COMMUNICATIONS, 1982, 109, 302)、そこで生成するヒドロキシルラジカルは白色腐朽菌本来のリグニンを分解する働きを阻害してしまうため、このヒドロキシルラジカルについては除去することが好ましい旨記載されており、リグニンの分解にヒドロキシルラジカルが寄与していることを示唆するものではない。
【0013】
ヒドロキシラジカルの芳香族化合物との代表的な反応としては、次式に示すような置換反応、付加反応、及び脱水素反応が知られている(O. Lanzalunga, M. Bietti; J. Photochem. Photobiol. B: 56 (2000) 85-108)。
【化1】
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したがって、ヒドロキシラジカルは反応性に乏しい強固なリグニン構造と反応する可能性があると考えて検討した。
【0014】
本発明者らは、先ず、比較的水に溶けやすいと考えられるスルホ基を有する市販のリグニン(リグニン・アルカリ(Lignin Alkali),アルドリッチ社製)を使用し、その水溶性成分と亜硝酸ナトリウムを含む水溶液に紫外線を照射する光化学反応により生成させたヒドロキシルラジカルを作用させたところ、リグニンが反応して低分子化合物に変換されることを確認した。さらに、原料リグニンとして水溶性と水不溶性のリグニンを含む微粉末を使用し、リグニンの低分子化物は溶解するがリグニンは溶解しない溶媒の共存下、撹拌しながら同様にヒドロキシルラジカルを作用させたところ、水不溶性のリグニンも反応して低分子化合物に変換され、前記溶媒中に移行することを確認した。
本発明は上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0015】
すなわち、本発明は下記1~10のリグニンの低分子化方法及び低分子化合物の製造方法を提供する。
1.リグニンをヒドロキシラジカルと反応させることを特徴とするリグニンの低分子化方法。
2.水に、紫外線、電子線、またはガンマ線を照射して発生させたヒドロキシルラジカルを使用する前項1に記載のリグニンの低分子化方法。
3.亜硝酸ナトリウム水溶液に紫外線を照射して発生させたヒドロキシラジカルを使用する前項2に記載のリグニンの低分子化方法。
4.原料リグニンが水溶性のリグニンである前項1に記載のリグニンの低分子化方法。
5.原料リグニンとして水不溶性のリグニンを含む粉末を使用し、リグニンの低分子化物が溶解しリグニンが溶解しない溶媒の存在下で、撹拌しながらリグニンをヒドロキシラジカルと反応させる前項1に記載のリグニンの低分子化方法。
6.溶媒が、エーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、ヘキサン、酢酸エチル及び水から選択される前項5に記載のリグニンの低分子化方法。
7.リグニンをヒドロキシラジカルと反応させることを特徴とする低分子化合物の製造方法。
8.水に、紫外線、電子線、またはガンマ線を照射して発生させたヒドロキシルラジカルを使用する前項7に記載の低分子化合物の製造方法。
9.亜硝酸ナトリウム水溶液に紫外線を照射して発生させたヒドロキシラジカルを使用する前項8に記載の低分子化合物の製造方法。
10.原料リグニンが水溶性のリグニンである前項7に記載の低分子化合物の製造方法。
11.原料リグニンとして水溶性のリグニンを含む粉末を使用し、リグニンの低分子化物が溶解しリグニンが溶解しない溶媒の存在下で、撹拌しながらリグニンをヒドロキシラジカルと反応させる前項7に記載の低分子化合物の製造方法。
12.溶媒が、エーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、ヘキサン、酢酸エチル及び水から選択される前項11に記載の低分子化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、水溶液に紫外線を照射してヒドロキシラジカルを発生させる系にリグニンを溶解または懸濁させてリグニンとヒドロキシラジカルを反応させて低分子化する方法、及び低分子化合物の製造方法を提供したものである。本発明の方法によれば、光化学反応により水から発生させたヒドロキシラジカルを用いてこれまで大量に焼却処理されていたリグニンを各種有用な化学物質の原料として利用できる低分子化合物に変換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】初期試料の吸光度と試料中のリグニン及び亜硝酸ナトリウムの吸光度を示す。
【図2】(A)は試料に光を照射した場合の吸光度の経時変化を示し、(B)はλ=270nmにおける光照射した試料の吸光度の経時変化を示す。
【図3】(A)は亜硝酸ナトリウムを除いた試料に光を照射した場合の吸光度の経時変化を示し、(B)はλ=270nmにおける亜硝酸ナトリウムを除いた試料に光を照射した場合の吸光度の経時変化を示す。
【図4】エーテル抽出後の抽出物の蛍光スペクトルと、そのスペクトルをガウス関数でフィッティングした蛍光スペクトルa~eを示す。
【図5】エーテル抽出後の抽出物のNMRスペクトルを示す。
【図6】エーテル抽出後の抽出物の蛍光スペクトル及びTLCにより分離した低分子化合物の1つ(図5中、aのスペクトルに対応)の蛍光スペクトルを示す。
【図7】TLCにより分離した低分子化合物の1つの蛍光スペクトル、及びリグニンを構成するモデル物質であるフェノール(f)、グアヤコール(g)、イソオイゲノール(h)及びリグニン(i)の蛍光スペクトルを示す。
【図8】TLCにより分離した低分子化合物の1つのNMRスペクトルを示す。
【図9】TLCにより分離した低分子化合物の1つについてのNMRスペクトルから予想される化学構造式を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の方法について詳しく説明する。
本発明では、ヒドロキシルラジカル生成に光子1つのエネルギーが高く、高いエネルギーを有するヒドロキシルラジカルを容易に生成することができ、またそのエネルギーを選択的に物質に与えることができる光化学反応を利用する。

【0019】
本発明のリグニンの低分子化方法において使用するヒドロキシラジカルは、水に、紫外線、電子線、あるいはガンマ線等を照射して発生させたヒドロキシルラジカルである。その方法は特に限定されないが、好ましい例として、下記に反応式を示す亜硝酸ナトリウム水溶液に紫外線を照射する方法について説明する。
【化2】
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【0020】
まず、常温の水に亜硝酸ナトリウムを溶解させる。亜硝酸ナトリウムは水中で電離し、ナトリウムイオン(Na+)と亜硝酸イオン(NO2-)になる。亜硝酸イオンは300~400nmの紫外線の波長域に吸収を有する。亜硝酸イオンに例えば、高圧水銀ランプによる366nmの波長(λ)の光を照射すると、亜硝酸イオンが励起状態([NO2-*)になる。この励起状態の亜硝酸イオンは一酸化窒素ラジカル(NO)と酸素ラジカルアニオン(O・-)になり、酸素ラジカルアニオンと水が反応してヒドロキシルラジカルが生成する。

【0021】
本発明では、上記の亜硝酸ナトリウム水溶液に紫外線を照射するヒドロキシラジカル生成系に水溶性リグニンを溶解させて反応させることにより、または水不溶性リグニン粉末を低分子化した化合物は溶解するがリグニンは溶解しない溶媒の共存下、懸濁させて反応させることによりリグニンを低分子化して、低分子化合物を製造する。

【0022】
原料に用いる水不溶性のリグニンは、平均粒径が100~1,000μm、好ましくは10~100μmの微粉末であり、これを反応系中に懸濁させた状態で反応させる。

【0023】
リグニンを低分子化した化合物を溶解するがリグニンを溶解しない溶媒としては、ジエチルエーテル、クロロホルムが挙げられるが、中でもジエチルエーテルが好ましい。
本発明で使用する紫外線照射源としては、高圧水銀ランプやブラックライトが挙げられるが、照射したい波長の光を出す高圧水銀ランプが好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例及び比較例を示す。なお、下記の例において用いた試薬等は以下の通りである。
・原料リグニン:リグニン・アルカリ(Lignin Alkali,アルドリッチ社製スルホ基を含み、21℃で水に約15質量%溶解する。)、
・亜硝酸ナトリウム:関東化学社製(試薬特級)、
・塩酸:関東化学社製(試薬特級)、
・溶媒:水、
・紫外線照射源:溝尻光学工業所(株)製 高圧水銀ランプ(100W)(光子発生量:120.1[μmol/m2s]
・低分子化合物抽出溶媒:ジエチルエーテル。
【実施例】
【0025】
実施例1:水溶性リグニンの分解
リグニン・アルカリ(Lignin Alkali,Aldrich社製)、亜硝酸ナトリウム(関東化学)、塩酸(関東化学)を使用し、溶媒として水を使用した。リグニン・アルカリは水に約15質量%溶解するため、水に溶解した水溶性リグニンのみのヒドロキシルラジカルによる分解を行った。光励起の際の光源としては高圧水銀ランプ(100W)を使用した。水銀ランプは特定の波長にシャープなスペクトルを持つ光を出すが、本実験では、高圧水銀ランプの出すλ=366nmの光を使用した。なお、実験に用いた高圧水銀ランプはフェニルグリオキシル酸を使用した光量計の予備実験により120.1[μmol/m2・s]の光子を放出していることが確認された。
実験には、リグニン0.021wt%、亜硝酸ナトリウム30mM、塩酸1mM(pH=3)の水溶液を使用した。酸素ラジカルアニオンと酸素が反応するとオゾンアニオンを生成してしまうため、副反応を防ぐ目的でアルゴンにて溶液中の酸素を脱気した。1回の反応に用いた溶液は51mLで、その中に含まれるリグニン量は11.9mgであった。また、リグニン水溶液は、リグニン・アルカリを水中で3時間撹拌し、水不溶分をろ過したものを使用した。
【実施例】
【0026】
実験1:リグニンの分解の確認
ヒドロキシルラジカルによるリグニンの分解を確認するために、溶液を撹拌しながら、レンズで集光した高圧水銀ランプの光を0~24時間照射し、時間ごとの吸光度を測定した。初期試料、試料中のリグニン及び亜硝酸ナトリウムの吸光度を図1に示す。その結果、光照射0~6時間まではλ=271nmを中心に試料溶液の吸光度が増加したが、それ以降は吸光度が減少した(図2(A)及び(B))。。
これは、0~6時間まではリグニンの分解により生成した化合物によって吸光度が増加するが、6時間以降は、生成された化合物が光照射によって重合などの二次的な反応によって再び高分子化するために吸光度が減少するためと考えられる。
【実施例】
【0027】
比較実験1:
比較のために、実験1において水溶液に亜硝酸ナトリウムを添加しない系について、同様にして光照射実験を行った。
その結果は図3(A)及び(B)に示すように、光を24時間まで照射したが、吸光度の変化は殆ど見られなかった。これは、亜硝酸ナトリウムを用いなかったためヒドロキシルラジカルが生成されず、リグニンが分解されなかったことを示している。
【実施例】
【0028】
実験2:低分子化合物の定量分析
実験1に記載の方法において、水銀ランプ光の照射を3時間として調製した照射した試料溶液を7個用意した。それらをまとめて、低分子化された化合物をジエチルエーテルで抽出し、無水硫酸マグネシウムにて脱水、ろ過、エーテル除去後の質量を測定し、リグニン投入量と比較した。この時の全リグニン投入量は84mgであり、ランプ強度と試料吸光度より求めた試料が吸収した光子数は1.83mmolであった。なお、リグニン及び亜硝酸ナトリウムはジエチルエーテルに不溶であることが確認されているため、ジエチルエーテル抽出によってリグニンが分解した低分子化合物のみが抽出されると考えられる。結果として、エーテル抽出物として69mgが得られた。これはリグニン投入量の82%であり、高効率でリグニンを分解、抽出ができることが確認された。
【実施例】
【0029】
実験3:低分子化合物の定性分析
上記実験2の方法で得られた低分子化合物がどのようなものかを検証する実験を行った。 まず、エーテル抽出後に得られた化合物をメタノールに溶解させ、蛍光スペクトルを測定した。その結果、図4中にaで示すようにいくつかの蛍光スペクトルが重なりあったスペクトルが得られた。得られた蛍光スペクトルをガウス関数でフィッティングしたところ、図4中にb~eで示す少なくとも5つのスペクトルが重なりあったものであった。したがって、エーテル抽出物は少なくとも5つの化合物の混合物であることが分かった。
次に、エーテル抽出物を重クロロホルムに溶解させて、NMR測定を行った。その結果、図5に示すようにカルボキシル基、ベンゼン環、ケト基、メトキシ基、アルキル基などが確認されたが、この結果からは混合物を構成する各化合物の構造を特定することは出来なかった。
次に、エーテル抽出物を薄層クロマトグラフィー(TLC)で分離し、その後、蛍光スペクトル及びNMRスペクトルを測定することにより、分離した化合物の帰属を試みた。TLCで分離する際の展開溶媒としてはヘキサン:酢酸エチル=7:1の混合溶媒を溶液を使用した。
【実施例】
【0030】
その結果は図6及び7中に示すように、TLCでエーテル抽出物を分離すると、6つの化合物に分離することができた。次に分離したもののうち4つについて蛍光スペクトルを測定したところ、ガウス分布曲線が得られ、分離した化合物がほぼ単一の化合物からなることが確認された。また、得られた蛍光スペクトル(図7中のa~d)をいくつかのリグニンモデル物質(フェノール(f)、グアヤコール(g)、イソオイゲノール(h)及びリグニン(i))自体と比較してみたが、一致するものはなかった。さらに、そのうちの1つについてNMRを測定してみたところ、ベンゼン環、ケト基、ヒドロキシル基、及びアルキル基が確認された(図8)。このNMRデータから予測されるこの化合物の化学構造式を図9に示す。
【実施例】
【0031】
実施例2:水に不溶性リグニンの分解
実施例1で用いた水に溶解した水溶性リグニンの代わりに水不溶性リグニンを85%含むリグニン・アルカリ(Lignin Alkali)0.16wt%、亜硝酸ナトリウム30mM、塩酸1mM(pH=3)を使用した。酸素を脱気するためにアルゴン(Ar)で溶液を飽和させた。また、予備的実験から、低分子化合物に光を照射し続けると、重合して高分子化してしまう可能性が認められたので、水層の上に水:エーテル=2:1(vol%)のエーテル層を作り、分解で生成する低分子化合物がエーテル層に移動できるようにした。その際、エーテル層には高圧水銀ランプから集光した光が当たらないようにした。
【実施例】
【0032】
実験:
上記の試料を撹拌しながら光を24時間照射したものと48時間照射したものを用意し
た。その後溶液をろ過し、不溶分を乾燥させ、質量を測定した。予備実験から、Lignin Alkaliはエーテルに不溶であり、水には約15%溶解することがわかっているので、それと比較することによりどれだけのLignin Alkaliが水またはエーテルに可溶になったかを測定した。結果として、光を24時間照射した方の試料では、17.2%のリグニン・アルカリ(Lignin Alkali)が水またはエーテルに溶解し、光を48時間照射した方の試料では、24.1%のリグニン・アルカリ(Lignin Alkali)が水またはエーテルに溶解していた。水にリグニン・アルカリ(Lignin Alkali)を溶解させただけの場合と比較すると24時間では約2%、48時間では約9%多く水またはエーテルに溶解していた。また、24時間と48時間で比較してみると、48時間光を照射した方が7%多くリグニン・アルカリ(Lignin Alkali)を分解したことがわかった。
これらの結果から、ヒドロキシルラジカルによりリグニンの水不溶分の分解も可能であ
ることが確認された。

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の方法によれば、光化学反応により発生させたヒドロキシラジカルを用いて、これまで大量に焼却処理されていたリグニンを各種有用な化学物質の原料として利用できる低分子化合物に変換することができる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8