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明細書 :子宮頸癌の検出方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5526378号 (P5526378)
公開番号 特開2010-203988 (P2010-203988A)
登録日 平成26年4月25日(2014.4.25)
発行日 平成26年6月18日(2014.6.18)
公開日 平成22年9月16日(2010.9.16)
発明の名称または考案の名称 子宮頸癌の検出方法
国際特許分類 G01N  33/574       (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
FI G01N 33/574 A
G01N 33/53 D
C12N 15/00 ZNAA
C12N 15/00 A
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
請求項の数または発明の数 8
全頁数 13
出願番号 特願2009-051447 (P2009-051447)
出願日 平成21年3月5日(2009.3.5)
審査請求日 平成24年1月11日(2012.1.11)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】福島 千加子
【氏名】村上 明弘
【氏名】杉野 法広
審査官 【審査官】赤坂 祐樹
参考文献・文献 特開2008-058161(JP,A)
特表2005-537027(JP,A)
特表2006-514823(JP,A)
国際公開第06/095905(WO,A1)
調査した分野 G01N 33/50-33/68
G01N 33/15
C12N 15/09
特許請求の範囲 【請求項1】
生体試料におけるクリスタリン(Crystallin)のうち、アルファクリスタリンB鎖の発現減弱を検出することを特徴とする、子宮頸癌の検出方法。
【請求項2】
生体試料におけるアルファクリスタリンB鎖の発現減弱と、トランスジェリン(Transgelin)及び/またはプロテインジスルフィドイソメラーゼ(Protein disulfide isomerase;以下PDIともいう)の発現増大とを検出することを特徴とする、請求項1に記載の子宮頸癌の検出方法。
【請求項3】
アルファクリスタリンB鎖の検出において配列番号1に記載のポリペプチドまたは配列番号1と95%以上の相同性を有するポリペプチドを抗原として得られる抗体を用いる、請求項1または請求項2に記載の子宮頸癌の検出方法。
【請求項4】
トランスジェリンの検出において配列番号2に記載のポリペプチドまたは配列番号2と95%以上の相同性を有するポリペプチドを抗原として得られる抗体、及び/またはPDIの検出において配列番号3に記載のポリペプチドまたは配列番号3と95%以上の相同性を有するポリペプチドを抗原として得られる抗体を用いる、請求項3に記載の子宮頸癌の検出方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の方法を実施するための、子宮頸癌の検出または診断用キット。
【請求項6】
請求項3または請求項4に記載の抗体を含む、子宮頸癌の検出または診断用キット。
【請求項7】
被検細胞におけるアルファクリスタリンB鎖発現の増大を指標とする、子宮頸癌治療薬のスクリーニング方法。
【請求項8】
被検細胞におけるアルファクリスタリンB鎖発現の増大、トランスジェリン及び/またはプロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)発現の減弱を指標とする、子宮頸癌治療薬のスクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、女性に特有の癌、詳しくは子宮頸癌、より詳しくは子宮頸部扁平上皮癌の検出方法に関するものであり、具体的には、癌組織と非癌組織で発現しているタンパク質の網羅的な発現解析によって明らかにされた、癌特異的に発現が亢進または減少しているタンパク質からなる子宮頸部扁平上皮癌のマーカー及びこれを用いた癌の検出方法並びに癌治療薬のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮頸癌は子宮頸部と呼ばれる子宮の出口に発生する癌で、子宮に発生する「子宮癌」の多くが相当する。子宮頸癌の大半は子宮頸部に生じる扁平上皮癌であり、他に粘液腺癌、粘表皮癌などが知られる。このうち子宮頸部扁平上皮癌については、ヒトパピローマウィルス(HPV)の持続的な感染が原因で引き起こされるものがほとんどで、発症初期にはほとんど自覚症状が無いという特徴を有する。
【0003】
癌対策においては外科的手術や内科的治療法などが試みられるが、何よりも重要なのは早期に発見し適切な治療法を選択することである。この観点から、従来、子宮頸癌のスクリーニングには子宮頸部細胞診が用いられてきた。これは子宮頸部から採取した細胞に色素染色等を施し、異常な細胞が無いかどうか顕微鏡観察する伝統的な検査法で、癌または前癌病変を検出するには有効な方法であるが、現在わが国における子宮癌検診の受診率が20%程度と先進国中では低く、また若年層(HPVが性交渉により感染するため他の癌に比べ子宮頸癌の発症リスクが高い)の検診率が低迷しているという大きな問題があった。実際、子宮頸癌発症の若年化が指摘され罹患者数の増加も指摘されている(非特許文献1,2)。検診受診率を増加させ早期発見につなげるためには、より受け入れやすいスクリーニング、例えば血液採取による腫瘍マーカーの測定といった手法の開発とその普及が望まれる。
【0004】
例えば前立腺癌においては、血液から測定可能な腫瘍マーカーとして前立腺特異的抗原(Prostatic pecific antigen=PSA)が発見され、このマーカー検査を導入することで早期癌の発見率を60%以上に引き上げる事につながった。また、前立腺癌の腫瘍マーカーとしてプロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)が知られている(特許文献1)。子宮頸癌においては、従来使用されている腫瘍マーカーとしてSCCやCYFRAなど数種が知られるが、既に進行した子宮頸癌における治療効果のモニター、或いは子宮頸癌再発の目安として有用ではあるが早期子宮頸癌における陽性率は十分でなく、子宮頸癌の早期発見手段は確立していないのが現状であった(非特許文献3,4)。
【0005】
また子宮頸癌の治療法として外科的手術或いは放射線療法の他に化学療法が採用されるが、これまでのところ子宮頸癌に対する化学療法の効果は十分でなく、特に進行子宮頸癌や再発子宮頸癌での予後が非常に悪いのが特徴であった(非特許文献5)。近年、各種の癌において分子標的治療薬が登場し、大きく治療法を変えつつある。分子標的治療薬は癌特異的に発現する分子をターゲットとするため、少ない投与量、副作用で効果的に腫瘍の増殖を抑制できると期待されている。この様な薬剤を開発するためには、癌組織/非癌組織における網羅的なタンパク質の発現解析を行い、創薬のターゲットとなる分子を同定することが鍵となる。各種の癌においてプロテオミクス法を用いた癌組織/非癌組織の比較とバイオマーカーの検索は、現在広く行われるようになった手法の一つである。通常は同一個体においてこの様な比較を行い、癌特異的に発現が増加或いは減弱しているタンパク質等を同定することでバイオマーカーの検索を行うという手法である。
【0006】
しかしながら子宮頸癌では、多くの場合病変が子宮頸部全体を占め、非癌組織が残存していることが少ないという問題がある。また近年、放射線治療例が増加して手術検体を得ることが少なくなり、同一個体におけるプロテオミクス法を用いた比較が困難という問題もあった。この問題を解決するため、Gu Y.らは細胞診を行ったスライドから正常細胞と腫瘍細胞を分離し、それぞれにおけるタンパク質の発現について検討を行っている(非特許文献6)。この手法は同一人由来の検体を用いたという点で評価されるものの、正常及び腫瘍細胞の判別を形態的変化のみで判定しており、生体内での組織としての特徴や腫瘍に対する生体反応を見逃していた。Ono A.ら(非特許文献7)はホルマリン固定されパラフィンに包埋された保存検体を用いたプロテオミクス解析を行っているが、正常組織と癌組織は異なる患者さんから採取されたものであり、また非常に強い前処理を施しているためその影響を無視できないという問題や、腫瘍に対する生体反応が組織固定の過程で流出したり修飾されたりする可能性を排除できないという問題があった。
また子宮癌のマーカーとして、核マトリックスタンパク質、サイトケラチン、Nup358、ラミンAの発現変動(特許文献2)、質量4769±3(m/z)、6254±4(m/z)または11792±6(m/z)のいずれかを有するタンパク質の発現変動(特許文献3)、ヒスタミン放出因子(HRF)タンパク質の発現変動(特許文献4)を利用するものや、HPV-16ゲノムDNAのCpGメチル化を指標とした子宮癌の検出方法(特許文献5)などがこれまでに開示されているが、いずれも十分な効果をあげているとは言えないのが現状であった。
この様に、未だ子宮頸癌においては、有効な腫瘍マーカーとこれを利用した治療薬等のスクリーニング手法が確立していないことから、子宮頸癌を高精度かつ高効率に検出可能なマーカーの開発が望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の現状を鑑み、本発明は、女性特有の癌、特に子宮頸癌を高精度に検出可能で、かつ腫瘍マーカーや創薬ターゲットとして利用可能なバイオマーカータンパク質、これを用いた子宮頸癌の検出方法及び子宮頸癌治療薬のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【0008】
上記課題の解決のため、本発明者らは、プロテオミクス法を用いた網羅的な解析により子宮頸癌特異的に発現するタンパク質の検出を試みた。この方法を用いる際には、個体差の除外や統計学上十分な症例数の確保が必要である。前述の通り、子宮頸癌においては、同一人から非癌組織と癌組織の両方を得ることは非常に困難であるが、この問題の解決のため、まず本発明者らは複数人の子宮頸部における非癌組織でのタンパク質の発現を解析した。その結果、これらの組織ではタンパク質の発現に大きな差が認められなかったため、次の段階として癌組織と非癌組織とを比較検討し、発現が異なるタンパク質を同定した。更に症例数を増やし、また子宮頸癌の進行度による発現量の差異を検討するため、正常例(非癌検体)10例、子宮頸癌10例(早期子宮頸癌5例、進行期子宮頸癌5例)を追加し、ウェスタンブロッティング法を用いて先に同定されたタンパク質の発現量を詳細に検討した。
以上の手順により、本発明者らは、従来の様な腫瘍細胞だけでなく腫瘍組織全体として、かつ前処理の無い新鮮な組織を統計学的に十分な症例を確保し、個体差を除外して子宮頸癌特異的に発現の変動するタンパク質、すなわちクリスタリン、トランスジェリン、プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)を見出した。本発明者らは、これらのタンパク質が個体差によらず子宮頸癌において有意にその発現が増加あるいは減弱しているタンパク質であり、これをマーカーとして用いることで子宮頸癌の検出を効率よく行うことが出来ることを見いだし、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明の第1の態様は、生体試料におけるクリスタリン(Crystallin)のうち、アルファクリスタリンB鎖の発現減弱を検出することを特徴とする、子宮頸癌の検出方法を提供する。
【0010】
本発明の第2の態様は、生体試料におけるアルファクリスタリンB鎖の発現減弱と、トランスジェリン(Transgelin)及び/またはプロテインジスルフィドイソメラーゼ(Protein disulfide isomerase;以下PDIともいう)の発現増大とを検出することを特徴とする、第1の態様に記載の子宮頸癌の検出方法を提供する。
【0011】
本発明の第3の態様は、アルファクリスタリンB鎖の検出において配列番号2に記載のポリペプチドまたは配列番号2と95%以上の相同性を有するポリペプチドを抗原として得られる抗体、及び/またはPDIの検出において配列番号3に記載のポリペプチドまたは配列番号3と95%以上の相同性を有するポリペプチドを抗原として得られる抗体を用いる、第1または第2の態様に記載の子宮頸癌の検出方法を提供する。
【0012】
本発明の第4の態様は、トランスジェリンの検出において配列番号2に記載のポリペプチドまたは配列番号2と95%以上の相同性を有するポリペプチドを抗原として得られる抗体、及び/またはPDIの検出において配列番号3に記載のポリペプチドまたは配列番号3と95%以上の相同性を有するポリペプチドを抗原として得られる抗体を用いる、第3の態様に記載の子宮頸癌の検出方法を提供する。
【0013】
本発明の第5の態様は、第1または第2の態様に記載の方法を実施するための、子宮頸癌の検出または診断用キットを提供する。
【0014】
本発明の第6の態様は、第3または第4の態様に記載の抗体を含む、子宮頸癌の検出または診断用キットを提供する。
【0015】
本発明の第7の態様は、被検細胞におけるアルファクリスタリンB鎖発現の増大を指標とする、子宮頸癌治療薬のスクリーニング方法を提供する。
【0016】
本発明の第8の態様は、被検細胞におけるアルファクリスタリンB鎖発現の増大、トランスジェリン及び/またはプロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)発現の減弱を指標とする、子宮頸癌治療薬のスクリーニング方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明を利用することにより、子宮頸癌の効率的な検出が可能となる。また本発明の提供するスクリーニング方法を利用することにより、子宮頸癌の新規な治療薬の探索が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】N群で発現しているタンパク質の2次元電気泳動像の一例を示す。
【図2】C群で発現しているタンパク質の2次元電気泳動像の一例を示す。
【図3】抗クリスタリン抗体を用いた子宮頸癌及びその周辺組織におけるクリスタリン発現の検出結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明を実施するための形態を示す。本発明の第1の態様は、生体試料におけるクリスタリンの発現減弱を検出することを特徴とする、女性特有の癌、特に子宮頸癌の検出方法を提供する。クリスタリンは眼球の水晶体を構成する構造タンパク質の一種で、α、β、γの3つのタイプが知られる。骨格筋、心筋、腎臓などに存在し、一部のクリスタリンについては酵素活性も知られている。またα-クリスタリンについては低分子量の熱ショックタンパク質(Heat shock protein=HSP)との一次構造の類似性が指摘されており、また神経疾患との関連性も指摘されている。しかしながら、子宮頸癌においてクリスタリンが疾患のマーカーになるという事実はこれまで見出されておらず、本発明はクリスタリンの発現減弱を指標とする子宮頸癌の検出方法を提供するものである。下記実施例に示すとおり、クリスタリンは子宮頸癌の患者さんにおいて個体差を越えて特異的にその発現が減弱しており、これを検出することによって子宮頸癌の検出、または子宮頸癌と他の子宮内の良性疾患、例えば良性腫瘍、子宮筋腫、子宮内膜増殖症との判別が可能となる。検出の方法は従来用いられているものの中から適宜選択し組み合わせれば良く、本発明を限定するものではないが、被検細胞から抽出したmRNA(またはmRNAから合成したcDNA)を鋳型とし、標識した相補的配列からなるプローブを用いて発現量を検出する手法や、クリスタリン特異的プライマーを用いた定量的PCR、または被検細胞や組織、血液、体液等から抽出したタンパク質試料に対して標識した抗クリスタリン抗体を反応させ、予め求めておいた正常(=子宮頸癌でない)状態におけるクリスタリンの発現との定性的または定量的な対比により子宮頸癌を検出する手法などが適している。

【0020】
本明細書におけるクリスタリンの「発現減弱」とは、生物学的には癌組織において非癌状態からダウンレギュレーションを受けた状態であり、下記実施例で示す通り、子宮頸癌組織でのタンパク質発現と非癌組織でのタンパク質発現との比較から導かれたものであるが、定量的・数値的な指標としては正常状態の30%以下、適切には25%以下、より適切には20%以下であれば癌と判定するのが適している。正常状態との比較においては、患者さん本人の正常組織での発現と癌が疑われる組織での発現を比較しても良いし、例えば同年代のグループ等での正常時における発現量を予め平均値などの形で数値化しておき、これと癌が疑われる組織での発現量とで比較を行っても良い。定量的な比較についてはクリスタリンの絶対量やタンパク質単位重量あたりの割合などを求めても良いが、簡便化のため抗クリスタリン抗体を用いた免疫的検出を行い、抗体の反応した量(2次抗体の発光強度等)で代替するのが良い。

【0021】
また本発明の取りうる態様として、クリスタリンの発現減弱に加え、トランスジェリン(Transgelin)及び/またはプロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)の発現増大を指標とする子宮頸癌の検出方法もあげられる。トランスジェリンとPDIは、下記実施例に示す通り子宮頸癌の患者さんにおいて個体差を越えて特異的にその発現が増大しており、癌が疑われる被検細胞や組織、血液、体液等から抽出された生体試料においてクリスタリンの発現減弱に加え、トランスジェリン及び/またはPDIの発現増大を検出することにより、より正確な癌の検出が可能となる。クリスタリンの発現減弱と組み合わせるトランスジェリンとPDIの発現については、どちらか片方でも良いし、両方でも良い。発現の検出方法は上記クリスタリンの発現の検出方法と同様、被検細胞または組織、血液、体液等における核酸またはタンパク質試料を用い、非癌状態との定性的または定量的発現比較を行うことで、子宮頸癌を検出するという手法が適している。

【0022】
本明細書におけるトランスジェリン及び/またはPDIの「発現増大」とは、生物学的には癌組織において非癌状態からアップレギュレーションを受けた状態であり、クリスタリンの発現減弱と同様、子宮頸癌組織でのタンパク質発現と非癌組織でのタンパク質発現との比較から導かれたものであるが、定量的・数値的な指標としては上記クリスタリンの発現減弱に加え、トランスジェリンにおいて正常状態から25%以上の増大、より適切には30%以上の増大があれば癌と判定、及び/または、上記クリスタリンの発現減弱に加え、PDIにおいて正常状態から15%以上の増大、より適切には20%以上の増大があれば癌と判定するのが望ましい。正常状態との比較においては、患者さん本人の正常組織での発現と癌が疑われる組織での発現を比較しても良いし、例えば同年代のグループ等での正常時における発現量を予め平均値などの形で数値化しておき、これと癌が疑われる組織での発現量とで比較を行っても良い。定量的な比較についてはトランスジェリン及び/またはPDIの絶対量やタンパク質単位重量あたりの割合などを求めても良いが、簡便化のため抗トランスジェリン抗体及び/または抗PDI抗体を用いた免疫的検出を行い、抗体の反応した量(2次抗体の発光強度等)で代替するのが良い。

【0023】
本発明の取り得る態様として、適している態様は、被検細胞におけるクリスタリンタンパク質の発現を検出する手法である。クリスタリンタンパク質の発現検出方法としては、定法として用いられている手法のうちから適宜選択可能であるが、特に抗体を用いた検出方法が非癌細胞との定量的比較の容易性の面からも適している。ここで抗クリスタリン抗体とは、より適切には配列番号1(NCBIデータベース:P02511にて参照可能)に記載のポリペプチド、または配列番号1と95%以上の相同性を有するポリペプチドを抗原として得られる抗体、更に適切には標識された前記抗体であって、ヒトクリスタリンタンパク質に対する特異性があればモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でも良い。作製方法も配列番号1に記載のポリペプチドまたは前記ポリペプチドの部分配列を用いればどの様な方法でも良い。これらの抗体を用いたクリスタリンの検出手法も定法より適宜選択可能であるが、例えばIF法やEIA法などの手法があげられる。

【0024】
本発明の取り得る対応として、抗体を用いたクリスタリン発現の検出に合わせ、抗トランスジェリン抗体及び/または抗PDI抗体を用い、これらの抗原となるタンパク質の発現増大を定性的或いは定量的に検出することで、クリスタリンをマーカーとして用いた子宮頸癌の検出精度をより高めることが可能となる。ここで抗トランスジェリン抗体とは、適切には配列番号2(NCBIデータベース:P37802にて参照可能)に記載のポリペプチドまたは配列番号2と95%以上の相同性を有するポリペプチドを抗原として得られる抗体、更に適切には標識された前記抗体であって、ヒトトランスジェリンタンパク質に対する特異性があればモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でも良い。またここで抗PDI抗体とは、配列番号3(NCBIデータベース:P07237にて参照可能)または配列番号3と95%以上の相同性を有するポリペプチドを抗原として得られる抗体、更に適切には標識された前記抗体であって、ヒトPDIタンパク質に対する特異性があればモノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でも良い。これらの抗体を用いたトランスジェリン及び/またはPDIの検出方法も、定法より適宜選択可能であるが、例えばIF法やEIA法などの手法があげられる

【0025】
本発明はまた、子宮頸癌の検出または診断用キットも提供する。ここでいう検出または診断用キットとは、取りうる例としては適切なバッファーに溶解された抗クリスタリン抗体(または抗クリスタリン抗体-標識2次抗体複合体)と、対照となるタンパク質に対する抗体と、染色用の試薬と、ブロッキング用の試薬と、細胞/組織よりタンパク質試料を抽出するための溶液と、抽出したタンパク質試料をマウントし抗体を反応させるためのメディアとを含むものが考えられ、それぞれの構成要素については通常用いられるものの中から適宜選択すれば良い。

【0026】
上記の検出または診断用キットにおいては、抗クリスタリン抗体に加え、抗トランスジェリン抗体及び/または抗PDI抗体を含んでも良い。ここでいう抗クリスタリン抗体とは、配列番号1に記載のポリペプチド、または配列番号1と95%以上の相同性を有するポリペプチドを抗原として得られる抗体が適当な例であり、抗トランスジェリン抗体とは配列番号2に記載のポリペプチドまたは配列番号2と95%以上の相同性を有するポリペプチドを抗原として得られる抗体が適当な例であり、抗PDI抗体とは配列番号3に記載のポリペプチドまたは配列番号3と95%以上の相同性を有するポリペプチドを抗原として得られる抗体が適当な例である。

【0027】
本発明は更に、被検細胞におけるクリスタリン発現増大を指標とする、子宮頸癌治療薬のスクリーニング方法をも提供する。上述の通り、子宮頸癌の細胞においては正常細胞に比べてクリスタリンの発現が正常の20%程度にまで減弱しており、このことは逆に被検細胞、例えば培養子宮頸癌細胞や子宮頸部より採取した前癌病変組織由来の細胞などにおいて、ある化合物を作用させ、クリスタリン発現の上昇が見られるかどうか検出するという系を用いれば、子宮頸癌に特異的かつ効果的な治療薬のスクリーニングをも可能にすると考えられる。前記スクリーニングの過程において、クリスタリン発現の検出方法については定法のうちから適宜選択すれば良く、本発明を限定するものではない。

【0028】
本発明は更に、被検細胞におけるクリスタリンの発現増大に加え、トランスジェリン及び/または(PDI)発現の減弱を指標とする、子宮頸癌治療薬のスクリーニング方法をも提供する。上述の通り、子宮頸癌の細胞においては正常細胞に比べてトランスジェリン、PDIの発現が20-30%も増大しており、このことは逆に被検細胞、例えば培養子宮頸癌細胞や子宮頸部より採取した前癌病変組織由来の細胞などにおいて、ある化合物を作用させ、クリスタリンの発現上昇に加え、トランスジェリン及び/またはPDI発現の減弱が見られるかどうかを検出する系を用いれば、より子宮頸癌に特異的かつ効果的な治療薬のスクリーニングをも可能にすると考えられる。前記スクリーニングの過程において、トランスジェリン及び/またはPDI発現の検出方法については定法のうちから適宜選択すれば良く、また検出対象はトランスジェリンとPDIの両方でも良いし、どちらか片方でも良い。
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
(臨床検体を用いた発現タンパク質の網羅的解析)
インフォームドコンセントのもと組織採取と研究利用に書面にて同意が得られた子宮頸部正常扁平上皮(N群)5症例、および扁平上皮癌(C群)5症例の合計10検体の組織をそれぞれホモジナイズし、遠心後の上清をタンパク質サンプルとした。具体的な手順としては、下記1-4の手順で行った。
1.子宮膣部に病変のない良性疾患のため子宮摘出を行った標本から、正常子宮膣部扁平上皮を採取し、生理食塩水で洗浄した後、-80℃で凍結保存
2.組織を1mlの可溶化溶液(8M 尿素,3% NP-40,40mM Trisに適量のタンパク分解酵素阻害剤)と共に、氷上でホモジナイズ
3.150,000rpm、4℃の条件下で15分間、遠心した後、0.45μmのフィルターを通し、-80℃で保存
4.タンパク質濃度は2-D Quant Kit(GE healthcare社)を用いて定量
【実施例1】
【0030】
上記で調整したサンプルを、2次元電気泳動にて分離しスポットの比較を行った。具体的には以下の手順で行った。
1次元目 IEF
pH3-10,11cmストリップゲル(Bio-rad)を用いた。
膨潤化バッファーにサンプル 10μl(蛋白量 200μg)を添加し、13.5時間膨潤化した。その後、500V,1h,1000V,1h,8000V,1h30mで泳動した。
2次元目 SDS-PAGE
平衡化バッファー及び泳動用バッファーで前処理した後、ポリアクリルアミドゲル(12.5% アクリルアミド,0.375M Tris、0.1% SDS,0.033% 過硫酸アンモニウム、0.05% TEMED)2枚を用いて30mAの定電流で泳動した。
解析 CBB染色を行い,スポットの発現を観察した。
【実施例1】
【0031】
N群と比較しC群での発現が視覚的に増加あるいは減弱している共通したスポットで、なおかつ発現強度が個体間で安定しているスポットを選出した。その上で、質量分析はMALDI-TOF-MSによるペプチドマスフィンガープリンティングを行い(アジレント社のLC-MS/MS with Spectrum Mill MS Proteomics Workbenchを使用)、蛋白質の同定はSwiss-Protデータベース検索によって行った。さらに、同定した蛋白質に対する抗体を用いたウェスタンブロッティングでその発現を確認した。下記表1に、臨床検体の由来や特性についてまとめた。表中N1-N5及びC1-C5を2次元電気泳動に、他の試料をウェスタンブロッティングに供した。
【実施例1】
【0032】
【表1】
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【実施例1】
【0033】
(結果)タンパク質発現比較の結果は以下の通りであった。
N群で発現しているタンパク質のパターン等に個体差を認めなかった。図1にN群のタンパク質の2次元電気泳動像(代表例)を示す。
N群と比較し、C群で発現が増加したものは27スポット、減弱したものは1スポットであった。図2にC群のタンパク質の2次元電気泳動像(代表例)を示す。
N群とC群で差のあったスポットのうち、発現強度が安定している計7スポット(増加6、減弱1)について解析した結果、部分アミノ酸配列の情報から、これら7スポットのうち発現が増大していたものは、プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)のプリカーサー、熱ショックタンパク質β-1(HSP27)、トランスジェリン(Transgelin)、熱ショック70kDaタンパク質1(HSP70.1)、ケラチン,タイプI細胞骨格タンパク質19(CK19)、GAPDH、であり、一方発現が減弱していたものはアルファクリスタリンB鎖(CRYAB;クリスタリン)であると同定された。
【実施例2】
【0034】
(ウェスタンブロッティング)実施例1で同定されたタンパク質のうち、C群での発現変動が個体差を越えて生じているタンパク質でとしてクリスタリン(減弱)、トランスジェリン及びPDI(増大)に着目し、これらのタンパク質の発現状況をウェスタンブロッティングで確認して定量化するため、下記の実験を行った。
N群、C群の細胞からの各抽出液を蛋白量100μgずつ12.5% SDS-ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動した。泳動後、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(ATTO社製)にセミドライブロッティング法にて転写した。この膜をブロッキング溶液(5% スキムミルク、0.1% Tween-20、1M Tris-HCl,pH7.5)でブロッキングした後、各々の抗体を用いて抗原抗体反応をおこさせた後、
組織抽出液は2次元電気泳動法と同様の方法で作成する。12.5%のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、PVDF膜(ATTO社製)に転写した。1次抗体としてそれぞれの蛋白に対する抗体[anti-protein disullfied isomerase (PDI);(Santa Cruz Biotechnology社),anti-transgelin-2;(ProteinTech社),anti-αB-Crystallin(CRYAB);(Epitomics社)]を用い、2次抗体としてHRP(Horseradish Peroxidase:西洋ワサビ過酸化酵素)標識抗体(DAKO社)を用いた。ECL Western blotting detection system (GEヘルスケア社)により反応させ、フィルムに感光させたのち現像し、発現強度を比較した。
【実施例2】
【0035】
デンシトメトリーによる発現倍率の結果(癌/正常比)は以下の通りとなった。
PDI:1.2倍以上
Transgelin:1.3倍以上
CRYAB:0.2倍未満
すなわち実施例1で発現が増大しているタンパク質として同定されたPDI、トランスジェリンについては、デンシメトリーによって子宮頸癌細胞で正常の1.2倍から1.3倍、発現が増大しており、発現が減弱しているタンパク質として同定されたCRYABは、子宮頸癌細胞で正常の0.2倍(1/5)まで大幅に発現が減弱していることが示され、実施例1での網羅的解析の結果が裏付けられた。
【実施例3】
【0036】
(クリスタリンによる子宮頸癌の免疫染色)実施例2で用いた抗クリスタリン抗体を用い、臨床組織を用いた免疫染色を行った。免疫染色のプロトコルについては定法に従った。図3に、免疫染色の結果を示す。
図中矢印で示した領域は癌の段階をそれぞれ表し、左から異形成、上皮内癌、微傷浸潤癌となり微小浸潤癌がこの中では最も進展した段階である。異形成の段階では、子宮頸部扁平上皮の基底層と中上層に染色性(図中○で囲んだ部分)がみられた。一方、上皮内癌領域ではこれらの染色性は著しく低下し、微小浸潤癌では染色性は消失する過程が明瞭に示され、クリスタリンの発現減弱が癌の進行と並行して起こっている事が示された。クリスタリンの染色性の低下は正常と進行癌で差が認められるだけではなく、上皮内癌を含む極めて初期の癌の検出に有効であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、子宮頸癌、特に扁平上皮癌のマーカーや診断用キット、あるいは子宮頸癌治療薬の創薬探索用のスクリーニングといった分野に利用することが可能である。また本発明の利用法として、異形成の段階であってもクリスタリンの染色性が低下している症例ではタンパク発現のレベルでは癌としての性格を持つとみなし、早期の治療を勧めるなど、治療方針の決定にも寄与すると考えられる。
【先行技術文献】
【0038】

【特許文献1】特表2007-527001 がんに関する診断マーカー
【特許文献2】特表2001-500609 子宮頸ガンの検出のための方法および組成物
【特許文献3】特開2007-271370 子宮癌検出用マーカー
【特許文献4】特開2005-049343 子宮内膜症関連疾患の診断方法
【特許文献5】特表2006-522607 子宮頸がんを診断する方法およびキット
【0039】

【非特許文献1】日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会報告1982年度患者年報
【非特許文献2】日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会報告2004年度患者年報
【非特許文献3】Gaarenstroom KN.et al.2000.Gynecol.Oncol.77(1):164-170.
【非特許文献4】Pastner B.et al.1989.Obset Gynecol.74(5):786-788.
【非特許文献5】Lehman M.2001.Int.J.Gynecol.Cancer 11(2):87-99.
【非特許文献6】Gu Y.2007.J.Proteome Res.6(11):4256-4268.
【非特許文献7】Ono A.et al.2008.Hum.Pathol.Aug.26.
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2