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明細書 :「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5467399号 (P5467399)
公開番号 特開2011-214179 (P2011-214179A)
登録日 平成26年2月7日(2014.2.7)
発行日 平成26年4月9日(2014.4.9)
公開日 平成23年10月27日(2011.10.27)
発明の名称または考案の名称 「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法
国際特許分類 D02G   3/02        (2006.01)
D04H   1/728       (2012.01)
FI D02G 3/02 ZNM
D04H 1/728
請求項の数または発明の数 16
全頁数 20
出願番号 特願2010-081737 (P2010-081737)
出願日 平成22年3月31日(2010.3.31)
審査請求日 平成25年3月12日(2013.3.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
【識別番号】513023170
【氏名又は名称】株式会社ナノア
発明者または考案者 【氏名】金 翼水
【氏名】金 ビョンソク
【氏名】金 圭梧
【氏名】渡邊 圭
個別代理人の代理人 【識別番号】100104709、【弁理士】、【氏名又は名称】松尾 誠剛
審査官 【審査官】増田 亮子
参考文献・文献 特表2007-518891(JP,A)
特開2007-154007(JP,A)
特開2008-031610(JP,A)
特開平02-175914(JP,A)
特開平03-161539(JP,A)
特表2010-537438(JP,A)
調査した分野 D02G 1/00- 3/48
D02J 1/00-13/00
D01D 1/00-13/02
D04H 1/00-18/04
特許請求の範囲 【請求項1】
内部にナノ構造物が分散された高分子ナノ繊維からなる帯状不織布を製造する第1工程と、
前記帯状不織布を撚り糸装置内に通過させて前記帯状不織布から「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造する第2工程とをこの順序で含むことを特徴とする「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、
前記ナノ構造物がカーボンナノ構造物であることを特徴とする「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、
前記第2工程において、前記帯状不織布を撚り糸装置内に通過させて延伸及び弱い加熱を行いながら「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造することを特徴とする「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、
前記第2工程実施後、前記「高分子ナノ繊維からなる糸」を撚りと延伸とを行いながら前記「高分子ナノ繊維からなる糸」に紫外線を照射して前記高分子ナノ繊維を構成する高分子の架橋処理を行うことにより前記「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化する第3工程をさらに含むことを特徴とする「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、
前記「高分子ナノ繊維からなる糸」を撚りと延伸とを行いながら、前記「高分子ナノ繊維からなる糸」を加熱して前記高分子ナノ繊維同士を部分的に結合する部分結合処理を行うことにより前記「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化する第3工程とをこの順序でさらに含むことを特徴とする「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、
前記部分結合処理を、前記「高分子ナノ繊維からなる糸」に対してレーザー光を照射するレーザー照射処理により行うことを特徴とする「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、
前記レーザー照射処理を、前記「高分子ナノ繊維からなる糸」の平均直径の2倍以下の直径を有するビームスポットに絞ったレーザー光を用いて行うことを特徴とする「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、
前記レーザー照射処理を、レーザー光を所定の手順に従って走査しながら行うことを特徴とする「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法。
【請求項9】
請求項6~8のいずれかに記載の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、
前記レーザー照射処理を、所定の周期又はデューティ比を持ったパルス状レーザー光を用いて間欠的に行うことを特徴とする「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法。
【請求項10】
請求項6~9のいずれかに記載の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、
前記レーザー照射処理を、2つ以上のレーザー光を用いて行うことを特徴とする「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法。
【請求項11】
請求項5に記載の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、
前記部分結合処理を、前記「高分子ナノ繊維からなる糸」に対して熱風を照射する熱風照射処理により行うことを特徴とする「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法。
【請求項12】
請求項5に記載の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、
前記部分結合処理を、リング状ヒーターに前記「高分子ナノ繊維からなる糸」を通過させることにより行うことを特徴とする「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法。
【請求項13】
請求項5に記載の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、
前記部分結合処理を、前記「高分子ナノ繊維からなる糸」に対して光又は赤外線を集光して照射する急速加熱処理により行うことを特徴とする「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法。
【請求項14】
請求項5~13のいずれかに記載の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、
前記第1工程においては、前記帯状不織布として、前記部分結合処理を促進可能な添加物を加えた帯状不織布を製造することを特徴とする「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、
前記第1工程は、コレクターとノズルとの間に高電圧が印加された状態で電界紡糸を行うことによりナノ構造物を分散した高分子材料溶液又は溶融高分子材料からシート状不織布を製造する工程と、前記シート状不織布を切断して前記帯状不織布を製造する工程とをこの順序で含むことを特徴とする「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法。
【請求項16】
請求項1~14のいずれかに記載の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、
前記第1工程は、ドラム外周面に周方向に延在する帯状のコレクターが形成された「ドラム状コレクター」における前記コレクターとノズルとの間に高電圧が印加された状態で電界紡糸を行うことにより、ナノ構造物を分散した高分子材料溶液又は溶融高分子材料から前記高分子ナノ繊維を前記コレクター上に堆積し、前記高分子ナノ繊維からなる前記帯状不織布を製造する工程であることを特徴とする「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法に関する。なお、本発明において、ナノ繊維とは、平均直径が1000nm程度又はそれ以下の繊維のことをいう。
【0002】
「高分子ナノ繊維からなる糸」はナノ繊維が集合して糸状になったものであり、極めて大きい比表面積及び高い強度を有する。このため、「高分子ナノ繊維からなる糸」は、空気清浄用フィルター、各種産業用フィルター、ワイピングクロース、おむつ、人工皮革、人工透析用フィルター、人工血管、人工骨などに用いることができる。
【背景技術】
【0003】
従来、「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法として、以下のような「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。すなわち、電界紡糸法(エレクトロスピニング法ということもある。)によって製造した高分子ナノ繊維を帯状に切断して、高分子ナノ繊維からなる帯状不織布を製造する。そして、当該帯状不織布を撚り糸装置内に通過させて延伸することにより「高分子ナノ繊維からなる糸」(連続フィラメント)を製造するというものである。
【0004】
図13に示す従来の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法によれば、別途の紡績工程を行わなくても、電界紡糸法によって製造された高分子ナノ繊維からなる帯状不織布を用いて、高強度の「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造することができる。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特表2007-518891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、産業界においては、より高強度の「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造することのできる製造方法が望まれている。
【0007】
そこで、本発明は、従来の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法の場合よりも高強度の「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造可能な「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意努力を重ねた結果、「高分子ナノ繊維からなる糸」を構成する高分子ナノ繊維内部に高強度のナノ構造物が分散された高分子ナノ繊維を使用して「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造することとすれば、当該「高分子ナノ繊維からなる糸」においては、引っ張り応力がかかっても高分子ナノ繊維自体の引っ張り強度が高くなっているため高強度の「高分子ナノ繊維からなる糸」が製造可能となることを見出した。
【0009】
[1]すなわち、本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法は、内部にナノ構造物が分散された高分子ナノ繊維からなる帯状不織布を製造する第1工程と、前記帯状不織布を撚り糸装置内に通過させて延伸し前記帯状不織布から高強度化された「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造する第2工程とをこの順序で含むことを特徴とする。
【0010】
このため、本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法によれば、「高分子ナノ繊維からなる糸」を構成する高分子ナノ繊維内部に高強度のナノ構造物が分散された高分子ナノ繊維を使用して「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造するため、当該「高分子ナノ繊維からなる糸」においては、引っ張り応力がかかっても高分子ナノ繊維自体の引っ張り強度が高くなっているため高強度の「高分子ナノ繊維からなる糸」が製造可能となる。
【0011】
また、高分子ナノ繊維表面にナノ構造物が付着することにより、高分子ナノ繊維の高強度化以外に、触媒機能、導電機能、電磁吸収機能などの機能を「ナノ繊維からなる糸」に付与することも可能となる。
【0012】
なお、本発明「ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、ナノ構造物とはナノメートルオーダーの構造物のことを言い、金属ナノ微粒子、後述するカーボンナノ構造物などを好ましく例示できる。
【0013】
金属ナノ微粒子としては、光触媒機能を持つTiOナノ微粒子、導電性を持つITO(インジウムすず酸化物)ナノ微粒子、磁性体微粒子であるFeやγ-Feのナノ微粒子、染料(弁柄)として用いられているα-Feナノ微粒子などを好ましく例示できる。
【0014】
[2]本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法においては、前記ナノ構造物がカーボンナノ構造物であることが好ましい。
【0015】
このような方法とすることにより、軽量でより高強度な「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造することができる。
【0016】
なお、本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、「カーボンナノ構造物」とは、ほぼ炭素元素のみにより構成されたナノメートルオーダーの構造体のことを言い、グラファイト構造を持つシートであるグラフェンシート、1つのグラフェンシートが筒状になった単層カーボンナノチューブ、2つ以上のグラフェンシートが筒状に層をなしている多層カーボンナノチューブ、ナノメートルサイズの直径を持つカーボン繊維が直径1000nm以内でらせん状になったカーボンナノコイル、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノカプセルなどを好ましく例示できる。
【0017】
[3]本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法においては、前記第2工程において、前記帯状不織布を撚り糸装置内に通過させて延伸及び弱い加熱を行いながら「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造することが好ましい。
【0018】
このような方法とすることにより、高分子ナノ繊維中に分散したナノ構造物を高分子ナノ繊維の延伸軸と略平行の方向に配向させて高分子ナノ繊維をさらに強化することが可能であり、その結果、さらに高強度な「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造可能となる。なお、本発明において、「弱い加熱」とは、帯状不織布を構成する高分子ナノ繊維のガラス転移温度付近の温度で加熱を行うことをいう。
【0019】
[4]本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法においては、前記第2工程実施後、前記「高分子ナノ繊維からなる糸」を撚りと延伸とを行いながら前記「高分子ナノ繊維からなる糸」に紫外線を照射して前記高分子ナノ繊維を構成する高分子の架橋処理を行うことにより前記「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化する第3工程をさらに含むことが好ましい。
【0020】
このような方法とすることにより、引っ張り応力がかかっても高分子ナノ繊維自体の引っ張り強度が高くなっているため、上記[1]~[3]に記載の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法の場合と同様、従来の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法の場合よりも高強度の「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造可能となる。
【0021】
また、架橋処理を実施して高分子が硬化することにより、ナノ構造物が高分子ナノ繊維内部でより強く固定化されるため、より一層高強度の「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造可能となる。
【0022】
[5]本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法においては、前記「高分子ナノ繊維からなる糸」を撚りと延伸とを行いながら、前記「高分子ナノ繊維からなる糸」を加熱して前記高分子ナノ繊維同士を部分的に結合する部分結合処理を行うことにより前記「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化する第3工程とをこの順序でさらに含むことが好ましい。
【0023】
このような方法とすることにより、「高分子ナノ繊維からなる糸」を撚りと延伸とを行いながら「高分子ナノ繊維からなる糸」を加熱して高分子ナノ繊維同士を部分的に結合する部分結合処理を行うこととしているため、当該部分結合処理後の「高分子ナノ繊維からなる糸」においては、引っ張り応力がかかっても高分子ナノ繊維同士に滑りが生じ難くなり、その結果、従来の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法の場合よりも高強度の「高分子ナノ繊維からなる糸」が製造可能となる
【0024】
また、「高分子ナノ繊維からなる糸」を撚りと延伸とを行いながら「高分子ナノ繊維からなる糸」を加熱して高分子ナノ繊維同士を部分的に結合する部分結合処理を行うこととしているため、「高分子ナノ繊維からなる糸」全体で高分子ナノ繊維が溶融して単繊維からなる糸になったり、高分子ナノ繊維同士が接触している部位のすべてが結合して「高分子ナノ繊維からなる糸」が剛直化してしまったりすることはなく、それゆえ、「高分子ナノ繊維からなる糸」中に存在するナノレベルの凹凸構造による極めて大きな比表面積及び「高分子ナノ繊維からなる糸」のしなやかさを維持したまま、「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化することが可能となる。
【0025】
なお、本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法において、「高分子ナノ繊維同士を部分的に結合する」とは、高分子ナノ繊維同士が接触している箇所についての全部ではなく一部が結合することをいう。
【0026】
[6]本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法においては、前記部分結合処理を、前記「高分子ナノ繊維からなる糸」に対してレーザー光を照射するレーザー照射処理により行うことが好ましい。
【0027】
このような方法とすることにより、レーザー照射の照射強度、照射範囲、照射位置その他の照射条件を適宜制御することにより、高分子ナノ繊維同士が部分的に結合される程度、結合点の密度、結合点の分散度合いなどを調整して、適切な条件で「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化することが可能となる。
【0028】
[7]本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法においては、前記レーザー照射処理を、前記「高分子ナノ繊維からなる糸」の平均直径の2倍以下の直径を有するビームスポットに絞ったレーザー光を用いて行うことが好ましい。
【0029】
このような方法とすることにより、効率良く「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化することが可能となる。
【0030】
[8]本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法においては、前記レーザー照射処理を、レーザー光を所定の手順に従って走査しながら行うことが好ましい。
【0031】
このような方法とすることにより、レーザー照射の照射位置を走査しながら、適切な条件で「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化することが可能となる。
【0032】
例えば、レーザー光を「高分子ナノ繊維からなる糸」の延伸軸に沿った方向に走査すれば、「高分子ナノ繊維からなる糸」の延伸軸に沿った方向に部分結合処理を行うことが可能となる。
【0033】
また、2本以上の「高分子ナノ繊維からなる糸」を並列に配置し、すべての「高分子ナノ繊維からなる糸」を交差するようにレーザー光を走査すれば、1つのレーザー光により2本以上の「高分子ナノ繊維からなる糸」に部分結合処理を行うことが可能となる。
【0034】
[9]本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法においては、前記レーザー照射処理を、所定の周期又はデューティ比を持ったパルス状レーザー光を用いて間欠的に行うことが好ましい。
【0035】
このような方法とすることにより、前記レーザー照射処理を間欠的に行えば、適切な条件で「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化することが可能となる。
【0036】
パルス周期又はデューティ比を調整することにより、特に、「高分子ナノ繊維からなる糸」に形成される部分結合の密度を調整することができる。
【0037】
パルス光の周期を短くする、または、デューティ比を大きくしてレーザー照射を行うことにより、高密度に部分結合を形成することが可能となる。逆に、パルス光の周期を長くする、かつ、デューティ比を小さくしてレーザー照射を行うことにより、低密度に部分結合を形成することが可能となる。
【0038】
[10]本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法においては、前記レーザー照射処理を、2つ以上のレーザー光を用いて行うことが好ましい。
【0039】
このような方法とすることにより、「高分子ナノ繊維からなる糸」のより多くの面にレーザー光を照射できるようになるため、「高分子ナノ繊維からなる糸」に対してレーザー照射処理をより均一に行うことができる。
【0040】
[11]本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法においては、前記部分結合処理を、前記「高分子ナノ繊維からなる糸」に対して熱風を照射する熱風照射処理により行うことが好ましい。
【0041】
このような方法とすることによっても、上記[5]に記載の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法の場合と同様に、熱風照射の照射強度、照射範囲、照射位置その他の照射条件を適宜制御することにより、高分子ナノ繊維同士が部分的に結合される程度、結合点の密度、結合点の分散度合いなどを調整して、適切な条件で「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化することが可能となる。
【0042】
[12]本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法においては、前記部分結合処理を、リング状ヒーターに前記「高分子ナノ繊維からなる糸」を通過させることにより行うことが好ましい。
【0043】
このような方法とすることによっても、リング状ヒーターの温度、加熱領域の長さ、「高分子ナノ繊維からなる糸」の通過速度その他の加熱条件を適宜制御することにより、高分子ナノ繊維同士が部分的に結合される程度、結合点の密度、結合点の分散度合いなどを調整して、適切な条件で「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化することが可能となる。
【0044】
リング状ヒーターとしては、「高分子ナノ繊維からなる糸」が通過する領域を囲む位置にヒーターが配置された電気炉、「高分子ナノ繊維からなる糸」が通過する領域を囲む位置に赤外線源が配置された赤外線炉、半導体製造などに用いられる拡散炉を好ましく例示することができる。
【0045】
「高分子ナノ繊維からなる糸」がリング状ヒーターの加熱領域を通過する時間は、加熱領域の長さを調整することによっても、「高分子ナノ繊維からなる糸」の通過速度を調整することによっても、またはそれら両方を調整することによっても可能である。
【0046】
[13]本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法においては、前記部分結合処理を、前記「高分子ナノ繊維からなる糸」に対して光又は赤外線を集光して照射する急速加熱処理により行うことが好ましい。
【0047】
このような方法とすることによっても、急速加熱処理の条件を適宜制御することにより、高分子ナノ繊維同士が部分的に結合される程度、結合点の密度、結合点の分散度合いなどを調整して、適切な条件で「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化することが可能となる。
【0048】
[14]本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法においては、前記第1工程においては、前記帯状不織布として、前記部分結合処理を促進可能な添加塩を加えた帯状不織布を製造することが好ましい。
【0049】
このような方法とすることにより、高分子ナノ繊維を構成する高分子材料のガラス転移温度を低下するため、高分子ナノ繊維同士が結合し易くなり、部分結合処理を一層容易に行うことが可能となり、より一層高強度の「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造可能となる。
【0050】
なお、添加塩としては、例えばFeSO・7HOを好ましく例示することができる。
【0051】
[15]本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法においては、前記第1工程は、コレクターとノズルとの間に高電圧が印加された状態で電界紡糸を行うことによりナノ構造物を分散した高分子材料溶液又は溶融高分子材料からシート状不織布を製造する工程と、前記シート状不織布を切断して前記帯状不織布を製造する工程とをこの順序で含むことが好ましい。
【0052】
このような方法とすることにより、内部にナノ構造物が付着された高分子ナノ繊維からなる帯状不織布を高い生産性でもって効率良く製造することが可能となる。
【0053】
[16]本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法においては、前記第1工程は、ドラム外周面に周方向に延在する帯状のコレクターが形成された「ドラム状コレクター」における前記コレクターとノズルとの間に高電圧が印加された状態で電界紡糸を行うことにより、ナノ構造物を分散した高分子材料溶液又は溶融高分子材料から前記高分子ナノ繊維を前記コレクター上に堆積し、前記高分子ナノ繊維からなる前記帯状不織布を製造する工程であることが好ましい。
【0054】
このような方法とすることによっても、内部にナノ構造物が付着された高分子ナノ繊維からなる帯状不織布を高い生産性でもって効率良く製造することが可能となる。また、不織布を切断する工程が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施形態1に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法における各工程を説明するために示す図である。
【図2】実施形態1に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法における各工程を説明するために示す図である。
【図3】実施形態2における部分結合処理を説明するために示す図である
【図4】変形例1における部分結合処理を説明するために示す図である。
【図5】変形例2における部分結合処理を説明するために示す図である。
【図6】変形例3における部分結合処理を説明するために示す図である。
【図7】変形例4における部分結合処理を説明するために示す図である。
【図8】変形例5における部分結合処理を説明するために示す図である。
【図9】変形例6における部分結合処理を説明するために示す図である。
【図10】変形例7における部分結合処理を説明するために示す図である。
【図11】変形例8における部分結合処理を説明するために示す図である。
【図12】変形例9における第1工程を説明するために示す図である。
【図13】従来技術における「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造装置を説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。

【0057】
[実施形態1]
図1及び図2は、実施形態1に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法における各工程を説明するために示す図である。このうち、図1は実施形態1に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法における第1工程を説明するために示す図であり、図2は第2工程を説明するために示す図である。図1(a)は電界紡糸装置100を用いて高分子ナノ繊維12からなるシート状不織布14を製造する様子を示す図であり、図1(b)はシート状不織布14を切断して帯状不織布16を製造する様子を示す図である。図2(a)は帯状不織布16を撚り糸装置200を通過させて「高分子ナノ繊維からなる糸18」を製造する様子を示す図である。

【0058】
実施形態1に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法は、図1及び図2に示すように、内部にカーボンナノ構造物11が分散された高分子ナノ繊維12からなる帯状不織布16を製造する第1工程と、帯状不織布16を撚り糸装置200内に通過させて帯状不織布16から「高分子ナノ繊維からなる糸18」を製造する第2工程とこの順序で含む。以下、製造工程に従って、実施形態1に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法を詳細に説明する。

【0059】
(1)第1工程
第1工程は、原料タンク102にカーボンナノ構造物11を分散した高分子原料溶液10を供給し、コレクター108とノズル106との間に高電圧が印加された状態で電界紡糸を行うことにより高分子材料溶液からシート状不織布14を製造する工程と、シート状不織布14を切断して帯状不織布16を製造する工程とをこの順序で含む。

【0060】
まず、シート状不織布14を製造する工程は、以下のようにして行う。すなわち、図1(a)に示すように、電界紡糸装置100に備え付けられた原料タンク102に高分子ナノ繊維12の原料となるカーボンナノ構造物11を分散した高分子材料溶液10を充填しバルブ104を開けノズル106に原料供給可能な状態とする。高圧電源110を用いてノズル106とコレクター108との間に高電圧を印加することによりノズル106とコレクター108との間の空間にカーボンナノ構造物が分散された高分子ナノ繊維12が紡糸され、ノズル106とコレクター108との間に生じる電界により高分子ナノ繊維12がコレクター108へ堆積し、高分子ナノ繊維12からなるシート状の不織布14が製造される。

【0061】
シート状の不織布14の厚さは、例えば5μm~50μmである。高分子ナノ繊維の平均直径は、例えば300nm~800nmである。なお、電界紡糸装置100は、図示はしていないが、ナノ繊維を連続して巻き取る機構を有しており、長尺のシート状の不織布14が製造される。

【0062】
原料として用いる高分子材料としては、ポリプロピレン(PP)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ポリウレタン(PUR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ乳酸グリコール酸(PLGA)などを用いることができる。用途に応じて最適なものを選択すればよい。

【0063】
高分子ナノ繊維内部に分散するカーボンナノ構造物としては、グラフェンシート、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノカプセルなどを用いることができる。用途に応じて最適なものを選択することができる。

【0064】
電界紡糸装置100を用いてシート状不織布を製造する際に、ノズル106とコレクター108の間に印加する電圧は、ノズル106とコレクター108の距離や用いる原料などにより異なるが、数kV~数10kVである。高分子原料や電界紡糸装置100の構造に応じて適宜最適な値を選択することができる。

【0065】
次に、帯状不織布16を製造する工程は、以下のようにして行う。すなわち、図1(b)に示すように、シート状不織布14を1~100mm程度の幅に切断し撚糸可能な帯状不織布16を製造する。

【0066】
図1(b)の符号R1で示す領域を拡大すると、帯状不織布16は高分子ナノ繊維12が堆積して構成されていることがわかる。また、符号R2に示す領域にある高分子ナノ繊維12の断面を見ると、高分子ナノ繊維内部にカーボンナノ構造物が分散して存在していることがわかる。

【0067】
(2)第2工程
第2工程は、帯状不織布16を撚り糸装置200内に通過させて帯状不織布16から「高分子ナノ繊維からなる糸18」を製造する工程である。すなわち、図2(a)に示すように、第1工程で製造した帯状不織布16を主撚り糸装置202を用いて撚糸化することにより図2(b)に示すような「高分子ナノ繊維からなる糸18」を製造することができ、糸送り装置204,206を用いて「高分子ナノ繊維からなる糸18」を図2(a)の左から右に撚りながら糸送りすることにより強固に撚り糸された「高分子ナノ繊維からなる糸18」が連続的に製造できる。

【0068】
糸送り装置204,206を用いて糸送りするときに、糸送り装置206の糸送り速度V1を糸送り装置204の糸送り速度V2よりも速くすれば、「高分子ナノ繊維からなる糸18」の延伸を行うこともできる。

【0069】
本第2工程で製造される「高分子ナノ繊維からなる糸18」は、図示による説明は省略するが、高分子ナノ繊維12が「高分子ナノ繊維からなる糸18」の延伸軸に対して約30度の角度をもって配向している。

【0070】
第2工程で製造される「高分子ナノ繊維からなる糸」の直径は、例えば10μm~2000μmである。

【0071】
以上の工程を経て、「高分子ナノ繊維からなる糸18」を製造することができる。

【0072】
実施形態1に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法によれば、「高分子ナノ繊維からなる糸18」を構成する高分子ナノ繊維12内部に高強度のナノ構造物11が分散された高分子ナノ繊維12を使用して「高分子ナノ繊維からなる糸18」を製造するため、当該「高分子ナノ繊維からなる糸18」においては、引っ張り応力がかかっても高分子ナノ繊維12自体の引っ張り強度が高くなっているため高強度の「高分子ナノ繊維からなる糸」が製造可能となる。

【0073】
また、実施形態1に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法によれば、ナノ構造物がカーボンナノ構造物11であるため、軽量でより高強度な「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造することができる。

【0074】
さらにまた、実施形態1に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法によれば、ノズル106と平面状のコレクター108との間に高電圧を印加し電界紡糸を行うことにより高分子材料溶液からシート状不織布14を製造し、シート状不織布14を切断して帯状不織布16を製造しているため、ナノレベルの直径を持った高分子ナノ繊維12からなる帯状不織布を高い生産性でもって効率良く製造することが可能となる。

【0075】
[実施形態2]
図3は、実施形態2における部分結合処理を説明するために示す図である。図3(a)は「高分子ナノ繊維からなる糸18」にレーザー光を照射することにより部分結合処理を行う様子を示す図であり、図3(b)は、図3(a)を上部より見た図である。

【0076】
実施形態2に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法は、基本的には実施形態1に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法と同様であるが、実施形態1に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造後に「高分子ナノ繊維からなる糸」をレーザー照射にて加熱して高分子ナノ繊維同士を部分的に結合する部分結合処理を行うことにより「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化する第3工程をさらに含むこととしている点が異なる。

【0077】
図3を参照しながら実施形態2における部分結合処理を説明する。「高分子ナノ繊維からなる糸18」を撚りと延伸とを行いながら当該「高分子ナノ繊維からなる糸18」を加熱して高分子ナノ繊維12同士を部分的に結合する部分結合処理を行うことにより「高分子ナノ繊維からなる糸18」を高強度化する工程である。具体的には、「高分子ナノ繊維からなる糸18」を撚りと延伸とを行いながらレーザー発生装置302とレンズ304からなるレーザー光照射装置300を用いてレーザー光を「高分子ナノ繊維からなる糸18」の所定の位置に照射すると、レーザー光が照射された部分R3においては「高分子ナノ繊維からなる糸18」が加熱され、R4領域に存在する高分子ナノ繊維12の温度が高分子ナノ繊維12のガラス転移温度以上になり、高分子ナノ繊維12同士が溶融して結合点20を形成する。

【0078】
一方、レーザー光が照射されていない部分R5においては、「高分子ナノ繊維からなる糸18」が加熱されないため、高分子ナノ繊維12同士の結合は見られない。

【0079】
なお、レーザー光を用いて部分結合処理を行う際は、レーザー光照射された部分に存在する高分子ナノ繊維のすべてが結合して単繊維化しまわないように、照射するレーザー光の強度を調整する。

【0080】
レーザー発生装置は、半導体レーザー、炭酸ガスレーザーやヘリウムネオンレーザーといったガスレーザーなどを用いることができる。加熱に必要なレーザーの波長や出力などに応じて選択すればよい。

【0081】
また、「高分子ナノ繊維からなる糸18」の延伸は、糸送り装置308の糸送り速度V3を糸送り装置306の糸送り速度V4よりも速くすることにより行う。

【0082】
なお、「高分子ナノ繊維からなる糸」の送り速度は、例えば1m/min~30m/minである。また、レーザー光のパワーは、20W~600Wである。レーザー光が照射された部位における高分子ナノ繊維の温度は例えば100℃~300℃である。

【0083】
以上の工程を経て、「高分子ナノ繊維からなる糸18」を製造することができる。

【0084】
このように実施形態2に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法は、第3工程が加わる点が実施形態1に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法の場合とは異なるが、「高分子ナノ繊維からなる糸18」を構成する高分子ナノ繊維12内部に高強度のカーボンナノ構造物11が分散された高分子ナノ繊維12を使用して「高分子ナノ繊維からなる糸18」を製造するため、当該「高分子ナノ繊維からなる糸18」においては、引っ張り応力がかかっても高分子ナノ繊維12自体の引っ張り強度が高くなっているため高強度の「高分子ナノ繊維からなる糸」が製造可能となる。

【0085】
また、実施形態2に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法によれば、「高分子ナノ繊維からなる糸18」を撚りと延伸とを行いながら「高分子ナノ繊維からなる糸18」をレーザー照射により加熱して高分子ナノ繊維12同士の部分結合処理を行うこととしているため、「高分子ナノ繊維からなる糸18」を構成する高分子ナノ繊維12同士が部分的に結合された状態となる。このため、「高分子ナノ繊維からなる糸18」に引っ張り応力がかかっても高分子ナノ繊維12同士に滑りが生じ難くなり、従来よりも高強度の「高分子ナノ繊維からなる糸」が製造可能となる。

【0086】
また、実施形態2に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法によれば、「高分子ナノ繊維からなる糸18」を加熱して高分子ナノ繊維12同士を部分的に結合する部分結合処理を行うこととしているため、「高分子ナノ繊維からなる糸18」全体で高分子ナノ繊維12が溶融して単繊維からなる糸になったり、高分子ナノ繊維12同士が接触している部位のすべてが結合して「高分子ナノ繊維からなる糸18」が剛直化してしまったりすることはなく、それゆえ、「高分子ナノ繊維からなる糸18」中に存在するナノレベルの凹凸構造による極めて大きな比表面積及び「高分子ナノ繊維からなる糸18」のしなやかさを維持したまま、「高分子ナノ繊維からなる糸18」を高強度化することが可能となる。

【0087】
また、実施形態2に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法によれば、部分結合処理を、前記「高分子ナノ繊維からなる糸18」に対してレーザー光を照射することにより行っているため、レーザー照射の照射強度、照射範囲、照射位置その他の照射条件を適宜制御することにより、高分子ナノ繊維同士が部分的に結合される程度、結合点の密度、結合点の分散度合いなどを調整して、適切な条件で「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化することが可能となる。

【0088】
なお、実施形態2に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法は、第3工程が加わる点以外については、実施形態1に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法と同様の工程を含むため、実施形態1に係る「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法が有する効果のうち該当する効果を有する。

【0089】
以上、本発明の「高分子ナノ繊維からなる糸」の製造方法を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。

【0090】
(1)上記各実施形態において示した各要素の寸法、形状、位置、材料は例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において任意に決定することができる。

【0091】
(2)上記各実施形態においては、ナノ構造物としてカーボンナノ構造物を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。ナノ構造体として、例えば、TiOナノ微粒子、ITO(インジウムすず酸化物)ナノ微粒子、Feやγ-Feのナノ微粒子、α-Feナノ微粒子等の金属ナノ微粒子を用いてもよい。

【0092】
(3)上記実施形態2~4においては、レーザー光照射装置300を移動させてもよい。図4は、変形例1における部分結合処理を説明するために示す図である。図4(a)はレーザー光照射装置300aを「高分子ナノ繊維からなる糸18」の延伸軸に対して垂直に移動させることを示す図であり、図4(b)は図4(a)を「高分子ナノ繊維からなる糸18」の延伸軸に沿って見た図である。図5は、変形例2における部分結合処理を説明するために示す図である。図5(a)はレーザー光照射装置300bを「高分子ナノ繊維からなる糸18」の延伸軸に沿って走査しレーザー照射を行っていることを示す図であり、図5(b)はレーザー光照射装置300bを用いて複数の「高分子ナノ繊維からなる糸18」の延伸軸に対して平行な方向と垂直な方向に走査しレーザー照射を行っていることを示す図である。例えば、図4に示すように、レーザー光照射装置を「高分子ナノ繊維からなる糸」の延伸軸に対して垂直に移動させてもよい。このようにすることにより、ビームスポットの大きさを調整することができる。また、図5(a)に示すように、レーザー光照射装置を「高分子ナノ繊維からなる糸」の延伸軸に沿って走査させてもよい。このようにすることにより、「高分子ナノ繊維からなる糸」の延伸軸に沿って部分結合処理を行うことができる。さらに、図5(b)に示すように、複数の「高分子ナノ繊維からなる糸」を交差するようにレーザー光照射装置を走査させてもよい。このようにすることにより、1つのレーザー光照射装置で複数の「高分子ナノ繊維からなる糸」に部分結合処理を行うことができる。つまり、レーザー光照射装置を移動させることにより、レーザー照射の照射位置を走査しながら、適切な条件で「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化することが可能となる。

【0093】
(4)上記実施形態2~4においては、レーザー照射処理を、所定の周期又はデューティ比を持ったパルス状レーザー光を用いて間欠的に行うこととしてもよい。図6は、変形例3における部分結合処理を説明するために示す図である。図6(a)~図6(c)はパルス状レーザー照射を行い間欠的にレーザー光照射を行う様子を示す図であり、図6(d)はパルス状レーザー照射の実行と停止を時間軸でグラフ化した図であり、図6(e)は図6(d)で示したレーザー照射パターンで部分結合処理を行った後の「高分子ナノ繊維からなる糸18」を示す図である。例えば、図6(a)に示すように、時間T1のときにレーザー光照射装置300cからパルス状レーザー光を発生し部分結合処理22を形成する。次に、時間T2のときにはパルス状レーザー光照射を行わず(図6(b)参照。)、時間T3において再びパルス状レーザー光を発生させ部分結合処理22を形成し(図6(c)参照。)、図6(d)に示すようなパターンで間欠的にレーザー照射処理を行うと、図6(e)に示すようにパルス状レーザー光が照射された部分にのみ部分結合処理が施された「高分子ナノ繊維からなる糸18」が製造される。このような方法によっても、適切な条件で「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化することが可能となる。また、 パルス周期又はデューティ比を調整することにより、特に、「高分子ナノ繊維からなる糸」に形成される部分結合の密度を調整することができる。

【0094】
(5)上記実施形態2~4においては、1つのレーザー光照射装置300を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。図7は、変形例4における部分結合処理を説明するために示す図である。図7(a)は2本のレーザーでレーザー照射を行っていることを示す図であり、図7(b)は図7(a)を延伸軸に沿って見た図であり、図7(c)は3つのレーザーを120°の角度で配置してレーザー照射を行うことを示す図であり、図7(d)は4つのレーザーを90°の角度で配置してレーザー照射を行うことを示す図である。図7に示すように、2つ~4つのレーザー光照射装置を用いてもよく、また、5つ以上のレーザー光照射装置を用いてもよい。このような方法とすることにより、「高分子ナノ繊維からなる糸」のより多くの面にレーザー光を照射できるようになるため、「高分子ナノ繊維からなる糸」に対してレーザー照射処理をより均一に行うことができる。

【0095】
(6)上記実施形態2~4においては、レーザー照射処理により部分結合処理を行ったが、本発明はこれに限定されるものではない。図8は、変形例5における部分結合処理を説明するために示す図である。図8に示すように、熱風を照射する熱風照射処理により部分結合処理を行ってもよい。熱風照射処理は、例えば、ホットガン装置(図8における符号310参照。)により行うことができる。このような方法とすることによっても、熱風照射の照射強度、照射範囲、照射位置その他の照射条件を適宜制御することにより、高分子ナノ繊維同士が部分的に結合される程度、結合点の密度、結合点の分散度合いなどを調整して、適切な条件で「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化することが可能となる。なお、ホットガン装置310は、気流吸引装置316及び気流吸引ポンプ318をさらに供えており、熱風照射処理は、気流吸引装置316により気流を吸引しながら行う。熱風314の温度は、熱風314が「高分子ナノ繊維からなる糸18」に照射されたときに、高分子ナノ繊維12の温度が少なくともガラス転移温度以上になるような条件を採用することが好ましい。

【0096】
(7)上記実施形態2~4においては、レーザー照射処理により部分結合処理を行ったが、本発明はこれに限定されるものではない。図9は、変形例6における部分結合処理を説明するために示す図である。リング状ヒーターに前記「高分子ナノ繊維からなる糸」を通過させることにより部分結合処理を行ってもよい。例えば、変形例6においては、図9に示すように、糸送り装置306,308により「高分子ナノ繊維からなる糸18」を撚りと延伸とを行いながら、リング状ヒーター320の中を「高分子ナノ繊維からなる糸18」を通過させることにより「高分子ナノ繊維からなる糸18」が加熱され、「高分子ナノ繊維からなる糸18」の部分結合処理が行われる。リング状ヒーターとしては、「高分子ナノ繊維からなる糸18」が通過する領域を囲む位置にヒーター322が配置された電気炉を用いる。その他、「高分子ナノ繊維からなる糸」が通過する領域を囲む位置に赤外線源が配置された赤外線炉、半導体製造などに用いられる拡散炉をも用いることができる。このような方法とすることによっても、リング状ヒーターの温度、加熱領域の長さ、「高分子ナノ繊維からなる糸」の通過速度その他の加熱条件を適宜制御することにより、高分子ナノ繊維同士が部分的に結合される程度、結合点の密度、結合点の分散度合いなどを調整して、適切な条件で「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化することが可能となる。

【0097】
(8)上記実施形態2~4においては、レーザー照射処理により部分結合処理を行ったが、本発明はこれに限定されるものではない。図10は、変形例7における部分結合処理を説明するために示す図である。図10(a)は急速加熱処理装置330を用いて部分結合処理を行っている様子を示す図であり、図10(b)は急速加熱処理装置330の内部構造を示す図である。光又は赤外線を集光して照射する急速加熱処理により部分結合処理を行ってもよい。例えば、変形例7においては、急速加熱処理装置330の中を「高分子ナノ繊維からなる糸18」が通過することにより「高分子ナノ繊維からなる糸18」が加熱され、「高分子ナノ繊維からなる糸18」の部分結合処理が行われる。急速加熱処理装置330は、図10(b)に示すように、糸送り装置306,308を用いて「高分子ナノ繊維からなる糸18」を撚りと延伸とを行いながら、光又は赤外線発生装置332から発生した光又は赤外線を集光ミラー334により集光し、「高分子ナノ繊維からなる糸18」上に加熱エネルギーを集中することで急速加熱を行う。このような方法とすることによっても、急速加熱処理の条件を適宜制御することにより、高分子ナノ繊維同士が部分的に結合される程度、結合点の密度、結合点の分散度合いなどを調整して、適切な条件で「高分子ナノ繊維からなる糸」を高強度化することが可能となる。

【0098】
(9)上記実施形態2~4においては、前記帯状不織布として、前記部分結合処理を促進可能な添加塩(例えば、FeSO・7HO)を加えた帯状不織布を製造してもよい。このような方法とすることにより、高分子ナノ繊維同士が結合し易くなるため、部分結合処理を一層容易に行うことが可能となり、より一層高強度の「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造可能となる。

【0099】
(10)上記実施形態2~4においては、加熱により部分結合処理を行ったが、本発明はこれに限定されるものではない。図11は、変形例8における部分結合処理を説明するために示す図である。紫外線により架橋処理を行ってもよい。例えば、変形例8においては、図11に示すように、糸送り装置306,308により「高分子ナノ繊維からなる糸18」を撚りと延伸を行いながら、紫外線発生装置340を用いて紫外線342を「高分子ナノ繊維からなる糸18」に対して照射することにより紫外線照射を行い、架橋処理を行う。なお、高分子材料としては、シンナモイル基を有する高分子材料を好適に用いることができる。このような方法とすることにより、高分子ナノ繊維とその表面に付着したナノ構造物との付着力が増し、高分子ナノ繊維自体の引っ張り強度が増加するため、さらに高強度の「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造可能となる。

【0100】
(11)上記各実施形態においては、高分子材料溶液を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。溶融高分子材料も用いることができる。

【0101】
(12)上記各実施形態においては、 第1工程は、コレクター106とノズル108との間に高電圧が印加された状態で電界紡糸を行うことによりナノ構造物11を分散した高分子材料溶液シート状不織布14を製造する工程と、シート状不織布14を切断して帯状不織布16を製造する工程とをこの順序で含む工程であったが、本発明はこれに限定されるものではない。図12は、変形例9における第1工程を説明するために示す図である。図12(a)及び図12(b)はドラム状コレクター400を用いて帯状不織布16を製造する様子をそれぞれ異なる角度から見たときの図である。例えば、図12に示すように、第1工程は、ドラム外周面に周方向に延在する帯状のコレクター402が形成された「ドラム状コレクター400」におけるコレクター402とノズル106との間に高電圧が印加された状態で電界紡糸を行うことにより、ナノ構造物11を分散した高分子材料溶液10から高分子ナノ繊維12をコレクター402上に堆積し、高分子ナノ繊維12からなる帯状不織布16を製造する工程であってもよい。このような方法とすることによっても、内部にナノ構造物が付着された高分子ナノ繊維からなる帯状不織布を高い生産性でもって効率良く製造することが可能となる。また、不織布を切断する工程が不要となる。

【0102】
(13)上記各実施形態においては、第2工程において、帯状不織布を撚り糸装置内に通過させて延伸及び弱い加熱を行いながら「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造してもよい。このような方法とすることにより、高分子ナノ繊維中に分散したナノ構造物を高分子ナノ繊維の延伸軸と略平行の方向に配向させて高分子ナノ繊維をさらに強化することが可能であり、その結果、さらに高強度な「高分子ナノ繊維からなる糸」を製造可能となる。
【符号の説明】
【0103】
10…高分子原料溶液、11…カーボンナノ構造物、12…高分子ナノ繊維、14…シート状不織布、16…帯状不織布、18…「高分子ナノ繊維からなる糸」、20…結合点、22…部分結合処理、100,101…電界紡糸装置、102…原料タンク、104…バルブ、106…ノズル、108…コレクター、110…高圧電源、200…撚り糸装置、202…主撚り糸装置、204,206,306,308…糸送り装置、300,300a,300b,300c…レーザー光照射装置、302…レーザー発生装置、304…レンズ、310…ホットガン装置、312…ホットガン、314…熱風、316…気流吸引装置、318…気流吸引ポンプ、320…リング状ヒーター、322…ヒーター、324…電源、330…急速加熱処理装置、332…光又は赤外線発生装置、334…集光ミラー、340…紫外線発生装置、342…紫外線、400…ドラム状コレクター、402…コレクター、404…導電体の軸、406…導電体ディスク、408…非導電体ディスク、410…軸受、412…モーター、414,416…搬送用ローラー、418…巻き取りドラム
図面
【図2】
0
【図3】
1
【図4】
2
【図5】
3
【図6】
4
【図7】
5
【図8】
6
【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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