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明細書 :新規アミロイドβ凝集体結合性ペプチドおよび新規アミロイドβ凝集体結合性ペプチドを用いたアミロイド病の検査方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5554528号 (P5554528)
公開番号 特開2011-057582 (P2011-057582A)
登録日 平成26年6月6日(2014.6.6)
発行日 平成26年7月23日(2014.7.23)
公開日 平成23年3月24日(2011.3.24)
発明の名称または考案の名称 新規アミロイドβ凝集体結合性ペプチドおよび新規アミロイドβ凝集体結合性ペプチドを用いたアミロイド病の検査方法
国際特許分類 C07K   7/06        (2006.01)
G01N  33/68        (2006.01)
C07K   1/04        (2006.01)
FI C07K 7/06 ZNA
G01N 33/68
C07K 1/04
請求項の数または発明の数 9
全頁数 17
出願番号 特願2009-206771 (P2009-206771)
出願日 平成21年9月8日(2009.9.8)
審査請求日 平成24年8月31日(2012.8.31)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
発明者または考案者 【氏名】北松 瑞生
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
【識別番号】100152319、【弁理士】、【氏名又は名称】曽我 亜紀
【識別番号】100163544、【弁理士】、【氏名又は名称】平田 緑
審査官 【審査官】櫛引 明佳
参考文献・文献 国際公開第2005/016957(WO,A1)
特表平11-514333(JP,A)
特表2008-530194(JP,A)
特表2004-534511(JP,A)
Tiernberg et al,JBC,Vol.274,No.18,p.12619-12625(1999)
調査した分野 C07K
C12N 15/00
CAplus/REGISTRY/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
アミノ酸配列HQKLVFFAED(配列番号1)にて表されるアミロイドβの部分ペプチドであって、配列番号1のアミノ酸配列における1~4個のアミノ酸基が非天然アミノ酸の(β,β-ジフェニル)-アラニル基に置換されてなる、アミロイドβ凝集体結合性ペプチド。
【請求項2】
配列番号1のアミノ酸配列におけるVFFの1個以上のアミノ酸基が、非天然アミノ酸の(β,β-ジフェニル)-アラニル基に置換されてなる、請求項1に記載のアミロイドβ凝集体結合性ペプチド。
【請求項3】
配列番号1のアミノ酸配列における、6番目のフェニルアラニン(Phe)が非天然アミノ酸の(β,β-ジフェニル)-アラニル基に置換されてなる、請求項1または2に記載のアミロイドβ凝集体結合性ペプチド。
【請求項4】
標識物が付加された、請求項1~3のいずれか1に記載のアミロイドβ凝集体結合性ペプチド。
【請求項5】
固相ペプチド合成方法による、請求項1~4のいずれか1に記載のアミロイドβ凝集体結合性ペプチドを作製する方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1に記載のアミロイドβ凝集体結合性ペプチドを用いた、アミロイドβ凝集体の分析方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1に記載のアミロイドβ凝集体結合性ペプチドを含む、アミロイドβ凝集体分析用試薬。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1に記載のアミロイドβ凝集体結合性ペプチドを用いた、アミロイド病の検査方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1に記載のアミロイドβ凝集体結合性ペプチドを含む、アミロイド病検査用試薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、新規アミロイドβ凝集体結合性ペプチド、新規アミロイドβ凝集体結合性ペプチドを用いたアミロイド病の検査方法、アミロイドβ凝集体結合性ペプチドをスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミロイド病とは、アミロイドが全身の臓器の細胞外に沈着するものであり、この疾患にはアルツハイマー病を始めとして、パーキンソン病、プリオン病、2型糖尿病などが含まれる。
【0003】
アルツハイマー病は老人性痴呆症の一種であり、脳自体が萎縮していく疾患である。アルツハイマー病の症状は、記憶障害、構成障害、判断力低下、妄想、失語、失行、失認などが知られ、病状が進行すれば介護上の上でも大きな困難を伴う。アルツハイマー病の患者数は増加傾向にあり、2050年には1億人を超えるかもしれないという分析結果もある(Brookmeyer R, Johnson E, Ziegler-Graham K, Arrighi HM, Forecasting the Global Burden of Alzheimer's Disease. Alzheimer's and Dementia, 3, 186-191 (2007))。アルツハイマー病の発症は、65歳以上に多いが、65歳以下の若年性のものあり、若年性のものは進行も早い。アルツハイマー病は、全ての年齢層にとって無視することのできないものであり、アルツハイマー病の治療や予防は深刻な課題である。アルツハイマー病の治療は、症状が軽度の間に行うことにより、良好な結果が得られることが知られる。このため、アルツハイマー病の早期発見、早期治療が重要であると考えられている。
【0004】
アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβタンパク質(以下「Aβ」とも称する)と呼ばれるペプチドは、アミノ酸が40残基もしくは42残基で構成されており、それぞれAβ(1-40)およびAβ(1-42)と呼ばれている。アルツハイマー病の患者の脳内では、Aβが集合して形成されるアミロイドβ凝集体(以下「Aβ凝集体」とも称する)の蓄積が見られる。このAβ凝集体は脳細胞を破壊する作用があり、10年単位の長期間に渡る蓄積によってアルツハイマー病を引き起こすと考えられている。
【0005】
Aβ凝集体をアルツハイマー病の診断、治療の標的とする研究が進められており、Aβ凝集体の研究にはAβ凝集体に結合する物質が有効なツールである(特許文献1~3)。Aβ凝集体に結合する物質としてチオフラビンT、コンゴレッドやそれらの誘導体などが公知である。しかし、これらはAβ凝集体への特異性が低いことや微量の繊維を定量するには不向きであるなどの問題のため、診断のための実用化にまでは至っていない。
【0006】
Aβ凝集体に特異的に結合する物質として、Aβの14残基から23残基からなるペプチド(以下「Aβ(14-23)」とも称する)が知られている。さらに、Aβ凝集体を検出するために、Aβ(14-23)の改変体を作製する研究が、行われている(非特許文献1、特許文献4)。非特許文献1では、Aβ(14-23)のアミノ酸を別の天然アミノ酸で置換したAβ(14-23)ペプチドや、さらに当該改変体のアミノ酸を非天然アミノ酸で置換した分子が開示されている。しかしながら、Aβ凝集体への特異性などの問題のため、いまだAβ(14-23)の改変体の実用化には至っていない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特表2008-530194号公報
【特許文献2】特表2008-506665号公報
【特許文献3】特表2004-534511号公報
【特許文献4】特開2005-60336号公報
【0008】

【非特許文献1】「酵素・タンパク質をはかる・とらえる・利用する バイオ研究のフロンティア 2」 編者 岡畑恵雄・三原久和、2009年2月10日発行、工学図書株式会社 第54~65ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規アミロイドβ凝集体結合性ペプチド、新規アミロイドβ凝集体結合性ペプチドを用いたアミロイド病の検査方法、およびアミロイドβ凝集体結合性ペプチドをスクリーニングする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討を行った結果、Aβ(14-23)を非天然アミノ酸により置換して改変体を作製する際に、Aβ(14-23)の改変体に蛍光色素を付加してスクリーニングを行うことにより、Aβ凝集体に特異的な結合性を示すペプチドをスクリーニングし得ることに着目し、Aβ凝集体に特異的な結合性を示すペプチドをスクリーニングする方法を提供し得、かつ、かかるスクリーニング方法によりAβ凝集体への結合性の高いペプチドを提供し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.アミノ酸配列HQKLVFFAED(配列番号1)にて表されるアミロイドβの部分ペプチドであって、1個以上のアミノ酸基が非天然アミノ酸に置換されてなる、アミロイドβ凝集体結合性ペプチド。
2.1~4個のアミノ酸残基が非天然アミノ酸に置換されてなる、前項1に記載のアミロイドβ凝集体結合性ペプチド。
3.配列番号1のアミノ酸配列における、6番目のフェニルアラニン(Phe)が非天然アミノ酸に置換されてなる、前項1または2に記載のアミロイドβ凝集体結合性ペプチド。
4.標識物が付加された、前項1~3のいずれか1に記載のアミロイドβ凝集体結合性ペプチド。
5.固相ペプチド合成方法による、前項1~4のいずれか1に記載のアミロイドβ凝集体結合性ペプチドを作製する方法。
6.前項1~4のいずれか1に記載のアミロイドβ凝集体結合性ペプチドを用いた、アミロイドβ凝集体の分析方法。
7.前項1~4のいずれか1に記載のアミロイドβ凝集体結合性ペプチドを含む、アミロイドβ凝集体分析用試薬。
8.前項1~4のいずれか1に記載のアミロイドβ凝集体結合性ペプチドを用いた、アミロイド病の検査方法。
9.前項1~4のいずれか1に記載のアミロイドβ凝集体結合性ペプチドを含む、アミロイド病検査用試薬。
10.アミロイドβ凝集体に結合する非天然アミノ酸を含むペプチドをスクリーニングする方法であって、以下の工程を含む方法:
1)非天然アミノ酸を含むペプチドを2以上含む候補ペプチド群を、アミロイドβタンパク質および/またはアミロイドβ凝集体を含む溶液に添加してインキュベートする工程;
2)アミロイドβ凝集体の沈殿物を得て、アミロイドβ凝集体を溶解する工程;
3)工程2)により得られたアミロイドβ凝集体の溶解液について、蛍光スペクトルおよび/または吸収スペクトルを測定する工程;並びに
4)蛍光スペクトルおよび/または吸収スペクトルの測定結果を解析する工程。
11.工程1)において、アミロイドβ凝集体を含む溶液に候補ペプチドを添加し、インキュベーションが、1分間~24時間行われる、前項10に記載の方法。
12.工程1)において、アミロイドβタンパク質を含む溶液に候補ペプチドを添加し、インキュベーションが、1時間~7日間行われる、前項10に記載の方法。
13.前項10~12のいずれか1に記載のアミロイドβ凝集体に結合する、非天然アミノ酸を含むペプチドをスクリーニングする方法に使用される、蛍光物質、非天然アミノ酸、アミロイドβ凝集体を形成するペプチドを含む、試薬キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスクリーニング方法を用いれば、Aβ凝集体に特異的な結合性を有するペプチドを候補ペプチド群からスクリーニングすることが可能である。また本発明のスクリーニング方法における候補ペプチド群に含まれるペプチドは、Aβ凝集体に結合するAβ(14-23)をベースにしたものであり、Aβ凝集体への結合性を有すると考えられる。本発明のスクリーニング方法によりスクリーニングされたAβ凝集体結合性ペプチドは、他のAβ凝集体に結合し得るペプチドに比べて、よりAβ凝集体への特異性の高いペプチドを得ることが可能と考えられる。
また、本発明におけるAβ凝集体結合性ペプチドは、非天然アミノ酸を含まないAβ(14-23)に比べて、2.6倍といった高い結合性を有し、Aβ凝集体についての分析や、Aβ凝集体を検出することによるアミロイド病の検査方法などに用いるのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】Aβ(1-42)溶液中におけるチオフラビンTの蛍光強度の経時変化を示す図である。(参考例)
【図2】実施例1にて使用した蛍光アミノ酸、非天然アミノ酸および水溶性リンカーから成るアミノ酸を示す図である。(実施例1)
【図3】実施例1にて合成したFl-AβbPepのMALDI-TOF Massの結果を示す図である。(実施例1)
【図4】方法1による、Aβ凝集体へのFl-AβbPepの結合量を示す図である。(実施例2-1)
【図5】方法2による、Aβ凝集体へのFl-AβbPepの結合量を示す図である。(実施例2-2)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、アミロイドβ凝集体に結合する非天然アミノ酸を含むペプチドをスクリーニングする方法であって、以下の工程を含む方法に関する:
1)非天然アミノ酸を含むペプチドを2以上含む候補ペプチド群を、アミロイドβタンパク質および/またはアミロイドβ凝集体を含む溶液に添加してインキュベートする工程;
2)アミロイドβ凝集体の沈殿物を得て、アミロイドβ凝集体を溶解する工程;
3)工程2)により得られたアミロイドβ凝集体の溶解液について、蛍光スペクトルおよび/または吸収スペクトルを測定する工程;並びに
4)蛍光スペクトルおよび/または吸収スペクトルの測定結果を解析する工程。

【0015】
本発明のスクリーニング方法における候補ペプチド群には、少なくとも2種類のペプチドが含まれる。ペプチドとは、1以上のアミノ酸が結合してなる化合物を意味する。アミノ酸とは、1つの同一分子中に、アミノ基とカルボン酸基を含むものである。ペプチドはいかなるものであってもよいが、アミノ酸残基数1~50個のペプチドであることが好ましく、アミノ酸残基数1~30個のペプチドであることがより好ましく、アミノ酸残基数6~15個であることがさらに好ましい。

【0016】
特に好ましい態様では、本発明の候補ペプチド群におけるペプチドは、Aβの部分ペプチドにおいて、1個以上のアミノ酸残基が非天然アミノ酸により置換されているペプチドである。前記Aβの部分ペプチドとは、Aβ凝集体への結合性を示すものが好ましく、例えば、Aβ(14-23)が例示される。Aβ(14-23)において、1個以上のアミノ酸残基が非天然アミノ酸により置換されているものを、本明細書において「Aβ(14-23)の改変体」とも称する。本発明の候補ペプチド群におけるペプチドに含まれる非天然アミノ酸は、天然アミノ酸以外のアミノ酸であれば、いかなるものであってもよく、既に公知の非天然アミノ酸であってもよいし、将来得られるであろう非天然アミノ酸であってもよい。

【0017】
候補ペプチド群に含まれるペプチドは、ペプチド1分子につき、蛍光物質1分子で標識されている。蛍光物質は少なくとも2種類以上が用いられ、ペプチドを区別可能とするために、候補ペプチド群に含まれるペプチドの種類ごとに、各々異なる種類の蛍光物質が付加されることが好ましい。なお、ペプチドを複数種含むようにグループ分けし、グループごとに異なる種類の蛍光物質を付加してスクリーニングを行うことも可能である。ペプチドと蛍光物質の組み合わせは、スクリーニングの目的に応じて適宜決定することができる。例えば、スクリーニングを複数回行う場合などは、各スクリーニングに用いられる各候補ペプチド群において、ペプチドと蛍光物質の組み合わせを変更する必要がある。

【0018】
蛍光物質は自体公知のものであっても良いし、今後開発される新たなものであっても良いが、複数種の蛍光物質が互いに異なる蛍光波長及び/または励起波長を有することにより、区別可能であればよい。蛍光物質として蛍光標識した非天然アミノ酸(以下「蛍光アミノ酸」とも称する。)を用いることができる。表1に使用可能な蛍光性非天然アミノ酸を例示する。

【0019】
【表1】
JP0005554528B2_000002t.gif

【0020】
本発明のスクリーニング方法では、使用する蛍光物質が多ければ多いほど、多様なペプチドについてのスクリーニングを一度に行うことが可能となる。蛍光物質は、少なくとも2種類以上であればよく、好ましくは4~50種類、より好ましくは6~20種類である。

【0021】
ペプチドに蛍光物質を付加する方法は、特に限定されず、自体公知の方法を適用することができる。例えば、蛍光標識した非天然アミノ酸を蛍光物質として用いる場合は、Fmocペプチド固相合成法により、ペプチドに蛍光物質を付加することも可能であるし、その他の一般的な合成方法によることも可能である。また、本発明において、蛍光物質とペプチドが互いに機能を阻害し合うことを防ぐために、スペーサを介して、蛍光物質がペプチドに結合していることが好ましい。かかるスペーサは、自己蛍光を有さないものであればいかなるものでもよく、自体公知のものを使用することができる。

【0022】
本発明におけるアミロイドβタンパク質(Aβ)とは、凝集体の構成要素であるが凝集体を形成していない状態のものを意味し、Aβモノマーや可溶性Aβオリゴマーを意味する。アミロイドβ凝集体(Aβ凝集体)とは、Aβを試験管内でインキュベーションすることにより、Aβが自発的に集合化して形成する、βシート構造に富んだアミロイド線維を意味する。Aβ凝集体は、いわゆる高分子集合体であり、高分子集合体とはミセルなどの脂質集合体を含む概念であり、細胞やタンパク質とは区別される。

【0023】
本発明のスクリーニング方法においては、まず1)蛍光物質を付加したペプチドを含む候補ペプチド群を、Aβおよび/またはAβ凝集体を含む溶液に添加してインキュベートを行う。
溶液の組成は、Aβ凝集体とペプチドとの結合反応を妨げないものであればよく、生化学的反応に用いる一般的な緩衝液、例えばリン酸緩衝液やトリス緩衝液や、酢酸緩衝液、HEPES緩衝液などを用いることができる。緩衝液の濃度やpHは、一般的なものであればよく、例えば5 mM~1.0 Mの範囲、および、pH 5.5~pH 9.0のものを使用すればよい。

【0024】
インキュベーションの時間は特に限定されないが、1分間~7日程度である。例えば、Aβ凝集体を含む溶液に候補ペプチド群を添加する場合、インキュベーションの時間は、既に存在するAβ凝集体に対するペプチドの結合性を検出するために十分な時間であればよく、1分間~24時間、好ましくは1時間~4時間である。あるいは、Aβを含む溶液に候補ペプチド群を添加する場合、インキュベーションの時間は、AβがAβ凝集体を形成するために十分な時間であればよく、1時間~7日間、好ましくは1時間~4日間である。

【0025】
次に、2)アミロイドβ凝集体の沈殿物を得て、アミロイドβ凝集体を溶解する。Aβ凝集体の沈殿物は簡便に得ることができ、例えば候補ペプチド群とAβ凝集体の混合溶液を遠心分離し、上清を廃棄して沈殿物を得ればよい。得られた沈殿物を、溶解液により溶解する。溶解液は、アミロイドβ凝集体を溶解可能であり、蛍光スペクトル測定を妨害しない溶液であればいかなるものであってもよいが、極性溶媒が好ましく、例えばDMF、DMSO、NMP、メタノール等が例示される。

【0026】
次に、3)アミロイドβ凝集体の溶解液について、蛍光スペクトルを測定する。蛍光スペクトルの代わりに、吸収スペクトルを測定しても良く、蛍光スペクトルと吸収スペクトルの両方を測定しても良い。さらには、二次元蛍光スペクトルを用いても良い。具体的には、Aβ凝集体の溶解液について、通常の方法を用いて吸収スペクトルおよび/または蛍光スペクトルを測定すればよい。例えば紫外線(UV)を用いてスペクトルを測定し、スクリーニングを行うのに比較すると、蛍光物質を用いたスクリーニングは、変数が増加するため極めて有利である。

【0027】
さらに、得られた蛍光スペクトルの測定結果を用いて、蛍光スペクトル解析を行い、解析結果に基づき、Aβ凝集体に高い結合性を有するペプチドを、Aβ凝集体に特異的に結合するペプチド(アミロイドβ凝集体結合性ペプチド)としてスクリーニングする。蛍光スペクトル解析のためには、候補ペプチド群に含まれる各蛍光物質の結合したペプチド、および、ペプチドと結合していない蛍光物質について、予め蛍光スペクトルを測定しておくことが必要である。

【0028】
蛍光スペクトルの解析は、自体公知の方法により解析することができる。蛍光スペクトルのみを用いた場合は、反応後の溶解液について得た蛍光スペクトルの測定値から、各ペプチドのアミロイドβ凝集体への結合量を算出することができる。蛍光スペクトルとして二次元蛍光スペクトルを用いた場合は、例えば最小二乗法や多変量解析法の原理を利用した解析用ソフトを用いて、測定値から溶解液中の各ペプチドの量を得ることができる。

【0029】
本発明は、本発明のスクリーニング方法に用いるためのスクリーニングキットをも対象とする。本発明のスクリーニングキットの構成物としては、少なくとも2種類以上の蛍光物質が含まれ、その他、非天然アミノ酸、アミロイドβ凝集体、スクリーニングに必要な試薬や容器などを含んでいても良い。さらには、スクリーニングの解析に必要な解析ソフトを含んでいても良く、解析用機器を含んでいても良い。上述の試薬、容器、ソフト及び機器等は、本発明のスクリーニングに利用可能であれば、自体公知の既存のものであっても良いし、今後開発されるより好適なものであってもよい。

【0030】
また本発明は、前記のスクリーニング方法により得られるアミロイドβ凝集体結合性ペプチドを包含する。アミロイドβ凝集体結合性ペプチドは、アミノ酸配列HQKLVFFAED(配列番号1)にて表されるアミロイドβタンパク質の部分ペプチド(Aβ(14-23))において、1個以上のアミノ酸基が非天然アミノ酸に置換されてなる、Aβ(14-23)改変体である。本発明のアミロイドβ凝集体結合性ペプチドにおいて、非天然アミノ酸に置換されるアミノ酸残基の個数は、1~10個であり、好ましくは1~4個である。また置換されるアミノ酸残基の位置はいかなる場所であってもよいが、好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列のうち、VFFのいずれか1以上の位置である。

【0031】
本発明のアミロイドβ凝集体結合性ペプチドに導入される非天然アミノ酸はいかなるものであってもよい。非天然アミノ酸とは、同一分子内にアミノ基とカルボン酸基を有する天然に存在しない人工のあらゆる化合物を指す。非天然アミノ酸は、種々の化合物をアミノ酸骨格(アミノ酸中のカルボン酸基、アミノ基、およびこれらを連結する部分を含むものをさす)に結合させることにより作製することができる。本発明における非天然アミノ酸は、側鎖に芳香環および/または複素環を有するものが好ましい。例えば、図2に記載のPri(((3-ピリジル)-アラニル基)、Bph((4,4'-ビフェニル)-アラニル基)、Dph((β,β-ジフェニル)-アラニル基)、Thi((2-チエニル)-アラニル基)、Thz((4-チアゾリル)-アラニル基)、Fur((2-フリル)-アラニル基)などを非天然アミノ酸として例示することができ、これらの芳香環および/または複素環において、水素原子の1以上が置換基により置換されていてもよい。芳香環および/または複素環において置換基が2以上ある場合、置換基は互いに同じものであっても、異なっていてもよい。「置換基」とは、炭化水素基、アミノ基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノカルボニル基、ヒドロキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基およびアルキルカルボニル基などが例示されるが、これらに限定されない。

【0032】
本発明のアミロイドβ凝集体結合性ペプチドの具体例は、アミノ酸配列がHQKLVFurFAED、HQKLVPriFAED、HQKLVThiFAED、HQKLVThzFAED、HQKLVDphFAED、HQKLVBphFAED(配列番号2)で表される6種類のペプチドであり、好ましくは、HQKLVDphFAEDである。

【0033】
本発明のアミロイドβ凝集体結合性ペプチドは、自体公知の方法によって合成することが可能であるが、例えばFmocペプチド固相合成法により合成することが可能である。

【0034】
また本発明のアミロイドβ凝集体結合性ペプチドは、放射性同位元素を含む原子団や蛍光物質等の種々の標識物により標識化されていてもよい(以下「標識化ペプチド」とも称する)。標識化ペプチドは、それぞれの標識物に応じた方法を用いて、直接的に、または標識物が酵素基質または抗原性物質である場合などは酵素化学的手法または酵素免疫化学的手法などの間接的手法により、検出および精製することができ、医学、薬学、高分子化学、生化学等に関連する様々な技術分野において様々な用途への利用が期待される。

【0035】
本発明の標識化ペプチドにおいて、標識物は蛍光物質が好ましい。蛍光物質は自体公知のものであっても良いし、今後開発される新たなものであっても良いが、例えば蛍光アミノ酸が例示される。蛍光アミノ酸として、上述の表1に挙げたものが例示される。

【0036】
本発明の標識化ペプチドにおいては、蛍光物質とペプチドが互いに機能を阻害し合うことを防ぐために、スペーサを介して蛍光物質がペプチドに結合していることが好ましい。スペーサは、アミロイドβ凝集体結合性ペプチドの機能を阻害しないようなものであれば、自体公知のものを使用することができる。例えば、カルボン酸基およびアミノ基を連結する部分に、二価の炭化水素基(-R1-)、エステル基(-C(=O)O-R2-、-OC(=O)-R2-)、エーテル基(-O-R2-(オキシアルキレン基(-O-R3-)およびオキシアリーレン基(-OAr-)を含む))、シリレン基(-Si-R2-)及びオキシシリレン基(-OSi-R2-)、アミド基(-C(=O)-N-R2-)、アミノ基(-N-R2-)、チオエーテル基(-S-R2-)からなる群より選ばれる少なくとも一種類の構成単位を1以上含むアミノ酸などが例示される。

【0037】
ここで、「-R1-」は炭素数が2~12の炭化水素基であり、飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であってもよく、鎖状でも環状でもよく、本発明の目的に沿うような置換基を1以上含んでいてもよく、置換基が2以上の場合は、置換基は互いに同じものであっても、異なっていてもよい。「-R2-」は炭素数が1~12の二価の炭化水素基であり、飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であってもよく、鎖状でも環状でもよく、本発明の目的に沿うような置換基を1以上含んでいてもよく、置換基が2以上ある場合、置換基は互いに同じものであっても、異なっていてもよい。「-R3-」は、炭素数が1~12の二価の炭化水素基であり、飽和炭化水素基であって、本発明の目的に沿うような置換基を1以上含んでいてもよく、置換基が2以上ある場合、置換基は互いに同じものであっても、異なっていてもよい。「-Ar-」は炭素数6~10のアリーレン基であり、本発明の目的に沿うような置換基を1以上含んでいてもよく、置換基が2以上ある場合、置換基は互いに同じものであっても、異なっていてもよい。「置換基」とは、水素原子、炭化水素基、アミノ基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノカルボニル基、ヒドロキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基およびアルキルカルボニル基などが例示されるが、これらに限定されない。

【0038】
スペーサであるアミノ酸には、上記の構成単位の少なくとも1種類を繰り返して2以上含むものが好ましい。具体的にはスペーサは、ポリエーテル基(ポリ(オキシアルキレン)基またはポリ(オキシアリーレン)基を含む)を有するアミノ酸が例示され、好ましくはポリ(オキシエチレン)基を有するアミノ酸が挙げられる。例えば、かかるアミノ酸において、オキシエチレン単位の繰返し数は、特に制限されないが、通常2以上、好ましくは6以上、また、通常100以下、好ましくは50以下、更に好ましくは30以下の範囲である。

【0039】
さらに本発明の標識化ペプチドは、所望により水溶性を上げるためにグルタミン酸などのユニットが付加されていてもよい。

【0040】
標識化ペプチドは、ペプチドに蛍光物質を付加することにより作製可能であるが、これには自体公知の方法を適用することができる。例えば、蛍光標識した非天然アミノ酸を蛍光物質として用いる場合は、Fmocペプチド固相合成法によることも可能であるし、その他の一般的な合成方法によることも可能である。

【0041】
本発明は、固相ペプチド合成方法による、前記のアミロイドβ凝集体結合性ペプチドおよび/または標識化ペプチドを作製する方法、アミロイドβ凝集体結合性ペプチドおよび/または標識化ペプチドを用いた、アミロイドβ凝集体の分析方法、ならびに、アミロイドβ凝集体結合性ペプチドおよび/または標識化ペプチドを含む、アミロイドβ凝集体分析用試薬を包含する。

【0042】
さらに本発明は、アミロイドβ凝集体結合性ペプチドおよび/または標識化ペプチドを用いた、アミロイド病の検査方法、ならびに、アミロイドβ凝集体結合性ペプチドおよび/または標識化ペプチドを含む、アミロイド病検査用試薬を包含する。アミロイド病(「アミロイドーシス」とも称する。)は、アミロイドが全身の臓器の細胞外に沈着するものであり、アルツハイマー病を始めとして、パーキンソン病、プリオン病、2型糖尿病などが含まれる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
(参考例)
Aβ凝集体はAβ(1-42)(蛋白研究所製)から作製した。Aβ凝集体の形成の確認はチオフラビンT(以下「ThT」と称する)を用いて蛍光により調べた。なおThTはAβ凝集体と結合することで、蛍光発光することが知られている。
【実施例】
【0045】
実験方法は以下の通りである。まず、Aβ(1-42)の終濃度が14.4μM、ThTの終濃度が1.44μMになるようにHEPES水溶液 1200μL(pH7.4, 10% DMSO含有)を調製した。この混合溶液をそれぞれ0, 2, 4, 6, 24, 48, 72, 96, 120, 144時間後に励起波長380nm、蛍光波長474nmで蛍光スペクトルを測定した。
【実施例】
【0046】
各時間におけるThTの蛍光強度の変化を図1に示す。ThTの蛍光強度は、まず時間とともに急激に上昇し、その後緩やかな上昇に変わり、80時間以降はほぼ一定の値をとった。この結果は、Aβ(1-42)が凝集体を形成し、80時間以降でほぼ平衡状態になることを示している。Aβ(1-42)溶液は2日後に白濁が目視できた。これらの結果を踏まえ、今後Aβ(1-42)凝集体の実験はAβ(1-42)溶液を4日程度静置したものを用いることにした。
【実施例】
【0047】
(実施例1)蛍光アミノ酸を含むAβ凝集体結合性ペプチド候補の合成
蛍光アミノ酸を使用して、蛍光アミノ酸を含んだAβ凝集体結合ペプチド(以下「Fl-AβbPep」とも称する)を、慣例法であるFmocペプチド固相合成法によって得た。蛍光アミノ酸のうち、Fmoc-Lys(MOC)-OH、Fmoc-Lys(HOC)-OH、Fmoc-Lys(MOCA)-OH、Fmoc-Lys(DEAC)-OH、Fmoc-Lys(DMACA)-OH、Fmoc-Ala(Acd)-OH を渡辺化学から購入し、Fmoc-Lys(FAM)-OH、Fmoc-Lys(TMR)-OHを、ABD Bioquest社から購入した。Fmoc化された水溶性リンカーから成るアミノ酸はMerck社より購入した。その他のFmoc化された天然アミノ酸やペプチド合成に必要な試薬類はいずれも渡辺化学工業より購入した。また、蛍光アミノ酸および、以下の実施例にて用いた非天然アミノ酸の化学構造を、図2に示す。Fmoc化された蛍光アミノ酸および天然アミノ酸はいずれもL体である。図2中、いずれもペプチド中のアミノ酸ユニットとして示した。
【実施例】
【0048】
「Fl-AβbPep」の合成を以下のようして行った。樹脂(Tentagel amide resin)を膨潤させるためジメチルホルムアミド(DMF)中で一晩室温で放置した。脱保護溶液として20%ピペリジンDMF溶液、キャッピング溶液として5%無水酢酸 DMF溶液、カップリング溶液としてHBTU/NMM DMF溶液を用いた。合成はIntervis社製ペプチド自動合成機Res Pepで行った。樹脂はDMFで洗浄した後、脱保護を行い、次いでカップリング、キャッピングという操作を1サイクルとして、このサイクルを繰り返すことで、樹脂表面上にペプチドを伸長させた。目的の配列まで伸長したペプチドの樹脂にトリフルオロ酢酸/水/トリイソプロピルシラン(= 95/2.5/2.5 v/v/v)を加えて、切り出した。これにより樹脂から切り出された目的のペプチドの溶液は風乾後、メタノール溶液(10% DMSO溶液)として冷凍庫に保管した。本実施例では、以下の8種類のFl-AβbPepを合成した。Fl-AβbPepの略称および配列を以下に示す。
【実施例】
【0049】
(1)TMR-Phe: Ac-EE-TMR-EE-Sp6-HQKLVFFAED-NH2 (配列番号1)
(2)FAM-Fur: Ac-EE-FAM-EE-Sp6-HQKLVFurFAED-NH2 (配列番号2)
(3)MOC-Pri: Ac-EE-MOC-EE-Sp6-HQKLVPriFAED-NH2 (配列番号2)
(4)HOC-Thi: Ac-EE-HOC-EE-Sp6-HQKLVThiFAED-NH2 (配列番号2)
(5)MOCA-Thz: Ac-EE-MOCA-EE-Sp6-HQKLVThzFAED-NH2 (配列番号2)
(6)DEAC-Dph: Ac-EE-DEAC-EE-Sp6-HQKLVDphFAED-NH2 (配列番号2)
(7)DMACA-Bph: Ac-EE-DMACA-EE-Sp6-HQKLVBphFAED-NH2 (配列番号2)
(8)Acd-Tyr: Ac-EE-Acd-EE-Sp6-HQKLVYFAED-NH2 (配列番号3)
ここで、AcはペプチドのN末端がアセチル基で保護されていることを示している。天然アミノ酸ユニットは1文字表記で示している。NH2はペプチドのC末端が第一アミドであることを示している。Sp6はエチレングリコールユニットから成るアミノ酸ユニットであり、非天然アミノ酸ユニットを含むAβ凝集体結合ペプチド部分と蛍光アミノ酸ユニットとをつなげるスペーサの役割をもつ。蛍光アミノ酸の両側のEはグルタミン酸ユニットであり、蛍光アミノ酸を含めたことで生じる水溶性の低さをカバーする役割がある。TMR-Pheのペプチドのアミノ酸配列はAβ(14-23)であり、Aβ凝集体に結合することが知られているので参照として加えた。今回用いたペプチドのうちDEAC-Dphの化学構造を以下に例示する。
【化1】
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【実施例】
【0050】
Fl-AβbPepを、MALDI-TOF Mass(Applied Biosystems 社Voyager DE-Pro)により同定した。その結果を図3に示す。今回得られたFl-AβbPep溶液の濃度はいずれもUVスペクトルから算出した。以後の実験は、これにより得られた濃度を用いて行った。
【実施例】
【0051】
(実施例2-1)候補ペプチドの凝集性等の確認
まずFl-AβbPepのみで、凝集体を形成するかについて確認を行った。Fl-AβbPepを添加して、2日程度静置して、次のようにして種々の時間における沈殿物中のFl-AβbPepの量を確認した。まず遠心分離によって沈殿物を回収し、上澄み液を採取し、沈殿物に20μLのDMSOを添加して懸濁し、沈殿物を再溶解させた。沈殿物の溶解したDMSO溶液のうち5μLを、MeOH/HEPES(pH=7.4)=1/1(v/v)2000μLに加えて、蛍光スペクトルを測定した。また、採取した上澄み液のうち5μLを、MeOH/HEPES(pH=7.4)=1/1(v/v) 2000μLに加えて、蛍光スペクトルを測定した。測定した蛍光スペクトルを予め測定していたコンポーネントスペクトル(各Fl-AβbPepの蛍光スペクトル)によって最小二乗解析することで、溶液中の各Fl-AβbPepの濃度を求めた。
【実施例】
【0052】
沈殿物についての結果を表2に示す。
【表2】
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Fl-AβbPepのみの本実験では、目視によると沈殿物を確認することはできなかった。また表2の結果より、沈殿物が存在すると考えられる画分にはFl-AβbPepはほとんど検出されないことが分かった。また時間の経過とともに沈殿物画分においてFl-AβbPepの量の増加が見られることもなかった。よってFl-AβbPepはそれら自身でAβ凝集体を形成することはない考えられる。
【実施例】
【0053】
上澄み液についての結果を表3に示す。
【表3】
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上澄み液には計算上最大で1440pmolのFl-AβbPepが検出されるはずある。表3の結果によると、いずれのFl-AβbPepについても、1440pmolよりは数値が大きいが、これは実験上の誤差と考えられる。上澄み液中のFl-AβbPep量について、時間に依存した変化は認められなかった。よって、Fl-A bPepは反応容器等に吸着することはないことがわかった。
従って、本発明の蛍光アミノ酸の付加したペプチドによる、Aβ凝集体結合性ペプチドをスクリーニングする方法により、Aβ凝集体に結合したFl-AβbPepを検出可能であることがわかった。
【実施例】
【0054】
(実施例2-2)Aβ凝集体結合性ペプチドのスクリーニング
2種類の条件によってAβ凝集体に結合するFl-AβbPepのスクリーニングを行った。
<方法1> Aβ凝集体を形成させた後、Fl-AβbPepを加える方法
(1)Aβ溶液(14.4 μM, 1200μL)を4日間、室温で放置した。はじめは無色透明だった溶液内で、繊維状の白色析出物(Aβ凝集体)が目視できるほどにまで成長した。
(2)(1)の溶液に8種類の全てのFl-AβbPepの入った混合溶液(それぞれ144μM)を10μL加えた。各成分の終濃度は以下のようになった。
Aβ:14.4μM*1200μL/(1200+10)μL = 14.28μM
Fl-AβbPep:144μM*10μL/(1200+10)μL = 1.19μM
(3)(2)の溶液を0時間、1時間、2時間、または4時間、室温で放置した。
(4)(3)の各時間の経過した溶液について遠心分離を行い、沈殿物を回収し、さらに20μLのDMSOによって、その沈殿物を再溶解させた。
(5)(4)のDMSO溶液のうち5μLを、MeOH/HEPES(pH=7.4)=1/1(v/v)2000μLに加えて、蛍光スペクトルを測定した。また、遠心分離した後に得られた上澄み液(1210μL)のうち5μLを、MeOH/HEPES(pH=7.4)=1/1(v/v) 2000μLに加えて、蛍光スペクトルを測定した。
(6)測定した蛍光スペクトルを予め測定していたコンポーネントスペクトル(各Fl-AβbPepの蛍光スペクトル)によって最小二乗解析することで、(5)の溶液中の各Fl-AβbPepの濃度を求め、Aβ凝集体に結合したFl-AβbPepのモル量とAβ凝集体に結合しなかった(溶液中に残存した)Fl-AβbPepのモル量を算出した。
【実施例】
【0055】
<方法2> Aβ溶液に予めFl-AβbPepを加えた後、Aβ凝集体を形成させる方法
(1)Aβ溶液(14.4μM, 1200μL)に8種類の全てのFl-AβbPepの入った混合溶液(それぞれ144μM)を10μL加え、4日間、室温で放置した。はじめは桃色透明だった溶液内で、繊維状の桃色析出物(AβとFl-AβbPepとの凝集体)が目視できるほどにまで成長した。なお各成分の終濃度は以下のとおりである。
Aβ:14.4μM*1200μL/(1200+10)μL = 14.28μM
Fl-AβbPep:144μM*10μL/(1200+10)μL = 1.19μM
(2)(1)の溶液について、遠心分離によって沈殿物を回収し、さらに20μLのDMSOによって、その沈殿物を再溶解させた。
(3)(2)のDMSO溶液のうち5μLを、MeOH/HEPES(pH=7.4)=1/1(v/v) 2000μLに加えて、蛍光スペクトルを測定した。また、遠心分離した後に得られた上澄み液(1210μL)のうち5μLを、MeOH/HEPES(pH=7.4)=1/1(v/v) 2000μLに加えて、蛍光スペクトルを測定した。
(4)測定した蛍光スペクトルを予め測定していたコンポーネントスペクトル(各Fl-AβbPepの蛍光スペクトル)によって最小二乗解析することで、(5)の各溶液中の濃度を求め、Aβ凝集体に結合した(取り込まれた)Fl-AβbPepのモル量とAβ凝集体に結合しなかった(溶液中に残存した)Fl-AβbPepのモル量を算出した。
【実施例】
【0056】
方法1の結果を表4と図4に示す。実験は2回行い、その平均を示した。図4はそのうち1回の結果を代表として示すものである。
【表4】
JP0005554528B2_000006t.gif
【実施例】
【0057】
いずれのFl-AβbPepとも、時間が経過するにつれ、Aβ凝集体への結合量が増えていくのがわかる。TMR-Pheは置換のないAβ(14-23)であるが、Aβ凝集体への結合量は4時間後で88 pmolであった。Aβ(14-23)の6番目のFを天然アミノ酸のYに置換することにより、Aβ凝集体への結合性が低下することが知られている。これに対応するAcd-Tyrは本実験においても4時間後で33 pmolと、結合量が低下していた。また、Aβ(14-23)の6番目のFを非天然アミノ酸であるFurまたはBphに置換した、FAM-FurおよびDMACA-Bphは、置換のないAβ(14-23)とほぼ同程度の結合量を示した。一方、MOC-Pri、HOC-Thi、MOCA-Thzらは置換のないAβ(14-23)よりも結合性が低いことがわかった。さらにDEAC-Dphでは、置換のないAβ(14-23)よりも結合性が明らかに高いことがわかった。例えばDEAC-Dphは、4時間後においては239 pmol結合しており、TMR-Pheと比較して2.7倍の結合量の増加を示した。本実験において、Fl-AβbPepは溶液中に各1440 pmol存在していたことから、DEAC-Bphは溶液中からAβ凝集体へ239/1440*100= 17%結合したことがわかった。またAβは系内に17280 pmol存在しており、このような溶液の条件下では、DEAC-DphはAβ70分子に対して1分子が結合に関与することがわかった。
【実施例】
【0058】
次に、方法2の結果を表5と図5に示す。
【表5】
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【実施例】
【0059】
表5および図5において、参照としてAβの入っていない溶液での実験も行った。本条件では、沈殿物からは57 pmolのTMR-Pheが検出された。また、全体的にAβ凝集体へのFl-AβbPepの結合は、方法1の場合と同様の結果であった。ただし、DEAC-Dphの結合量は379 pmolであり、置換のないAβ(14-23)(TMR-Phe)と比較して397/57=6.6倍も強く結合することがわかった。また、上澄み液中のDEAC-Dphの量(1079pmol)と沈殿物中のDEAC-Dphの量(379pmol)の和は、計算上のDEAC-Dph全量(1667pmol)とほぼ一致することから、本方法が妥当であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のスクリーニング方法によれば、簡便かつ容易に多種のペプチドについて、アミロイドβ凝集体への結合性を確認することができ、有用である。また本発明のスクリーニング方法により得られたペプチドは、非天然アミノ酸を含むことから、生体内の酵素に対する耐性が得られうるため、生体内投与に適したペプチドであると考えられる。本発明のアミロイドβ凝集体結合性ペプチドは、アミロイドβ凝集体に関する疾患(アミロイド病)の検査、治療などに使用しうる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4