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明細書 :プラズマ加工方法およびプラズマ加工装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5565690号 (P5565690)
公開番号 特開2012-014958 (P2012-014958A)
登録日 平成26年6月27日(2014.6.27)
発行日 平成26年8月6日(2014.8.6)
公開日 平成24年1月19日(2012.1.19)
発明の名称または考案の名称 プラズマ加工方法およびプラズマ加工装置
国際特許分類 H05H   1/32        (2006.01)
B23K   9/013       (2006.01)
FI H05H 1/32
B23K 9/013 B
請求項の数または発明の数 5
全頁数 19
出願番号 特願2010-150422 (P2010-150422)
出願日 平成22年6月30日(2010.6.30)
審査請求日 平成25年6月28日(2013.6.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
発明者または考案者 【氏名】高井 治
【氏名】齋藤 永宏
【氏名】高橋 英昭
【氏名】白藤 立
個別代理人の代理人 【識別番号】110000578、【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
審査官 【審査官】鳥居 祐樹
参考文献・文献 特開平06-226451(JP,A)
特開平09-295156(JP,A)
特開平10-034343(JP,A)
調査した分野 H05H 1/26- 1/44
B23K 9/00- 9/013
B23K 9/04
B23K 9/14-10/02
特許請求の範囲 【請求項1】
加工ワークにプラズマジェットを照射することにより、前記加工ワークに穴あけ加工を行うプラズマ加工方法であって、
前記プラズマジェットを、略円筒状のノズルを通過させて前記加工ワークに照射し、
前記ノズルの内部において、窒素ガスおよび水素ガスを添加ガスとして添加し、
窒素ガスの添加位置が、水素ガスの添加位置よりも前記ノズルの先端側である
ことを特徴とするプラズマ加工方法。
【請求項2】
前記加工ワークにおける穴あけがなされる加工領域から5mm離間した点における温度が650℃以下となるように前記プラズマジェットの照射を行う
ことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ加工方法。
【請求項3】
前記加工ワークは、高張力鋼板である
ことを特徴とする請求項2に記載のプラズマ加工方法。
【請求項4】
ラズマジェットを発生し、略円筒状のノズルを通過して前記プラズマジェットを外部に照射するプラズマジェット発生手段と、
前記ノズル内部に窒素ガスを添加する窒素ガス供給口と、前記ノズル内部に水素ガスを添加する水素ガス供給口と、を備え、
前記窒素ガス供給口は、前記水素ガス供給口よりも前記ノズルの先端側に位置する
ことを特徴とするプラズマ加工装置。
【請求項5】
前記ノズルは、前記窒素ガス供給口の位置する領域から先端側における流路の断面積が、前記領域よりも前記ノズルの後端側における流路の断面積と比較して大きくなるように形成されている
ことを特徴とする請求項4に記載のプラズマ加工装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、加工ワークにプラズマジェットを照射することにより、前記加工ワークに穴あけ加工を行うプラズマ加工方法およびプラズマ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属および非金属からなる加工ワークにプラズマジェットを照射することにより加工ワークを加工することが行われている。大気圧アークプラズマの中心部はおよそ10000℃と言われており、例えば5000℃付近の高温を利用して加工ワークの穴あけ加工および切断を行ったり、より低温の条件下にて表面処理や半田・ロウ付けなどの加工を行うことができる。
【0003】
ところで、近年、高張力鋼板が採用された製品が広く使用されている。高張力鋼板とは、ハイテン鋼板とも呼ばれる高級鋼板のひとつであって、通常の鋼板より薄くて軽く、高い強度と優れたじん性を有している。従来、高張力鋼板にプラズマジェットを照射することにより、金属体表面を加熱して表面酸化膜を還元する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開平4-52211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来のプラズマジェットによる穴あけ加工では、加工ワークにおける加熱部(穴あけ加工する領域)が非常に高温になる。そのとき、その周辺部も熱伝導によって高温になる。
【0006】
ここで、例えば上述した高張力鋼板は、熱の影響を受けると、結晶粒の粗大化や上部ベイナイトの生成などによってそのじん性は大きく劣化する。このように、加工ワークの材質によっては高温で品質が低下するため、なるべく低温で処理することが望まれる。
【0007】
特許文献1の技術は、加工ワークをプラズマジェットから離して配置しているため、加工ワークの劣化は抑制できるものの、加工ワークの切断が実現できるものではなかった。
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、加工ワークに与える熱量を抑制しつつ穴あけ加工が可能となるプラズマ加工方法およびプラズマ加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した問題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、加工ワークにプラズマジェットを照射することにより、前記加工ワークに穴あけ加工を行うプラズマ加工方法であって、前記プラズマジェットを、略円筒状のノズルを通過させて前記加工ワークに照射し、前記ノズルの内部において、窒素ガスおよび水素ガスを添加ガスとして添加し、窒素ガスの添加位置が、水素ガスの添加位置よりも前記ノズルの先端側であることを特徴とするプラズマ加工方法である。
【0009】
このようなプラズマ加工方法であれば、添加ガスをプラズマによって活性状態にして加工ワークに照射することで、加工ワークの穴あけ加工が促進される。そして、プラズマジェットが通過するノズルの内部において添加ガスを添加するため、添加ガスの作用を効率よく得ることができる。
【0010】
仮に、ノズルの噴射口から噴射された後のプラズマジェットに添加ガスを添加した場合、添加ガスがプラズマジェットに接触した時点でプラズマジェットは拡散しているため、添加ガスが充分に活性状態とならず、添加ガスの作用を充分に得ることができない。また、プラズマジェットの照射開始位置において添加ガスを添加すると、プラズマ発生のための電極を劣化させたり、添加位置から加工ワークまでの距離が離れるため活性化(原子化)した添加ガスの再結合が生じて活性状態でなくなりその作用が充分に得られなくなる。なお、加工ワークを照射開始位置に接近させると、再結合した添加ガスの割合は低くなるが、加工ワークがプラズマジェットにおけるより高温な領域と接触することとなるため、加工ワークが高温になり好ましくない。
【0011】
それに対し、上述した本発明のプラズマ加工方法では、ノズルの中を通過する密度の高い状態のプラズマジェットに添加ガスを添加するため、その添加ガスを効果的に活性化させることができる。よって、プラズマジェットによる加工能力が向上するため、加工ワークがプラズマジェットから離れた位置で、または短いプラズマ照射時間で穴あけ加工ができるようになり、加工ワークに与える熱量を小さくして穴あけ加工が実現できる。これにより、加工ワークの品質低下を抑制できる。
【0012】
なお、穴あけ加工を実行しつつ、プラズマジェットと加工ワークの位置を相対的に移動させることで、加工ワークの切断を行うことも可能となる。
また、プラズマジェットを発生させる具体的な構成は特に限定されず、様々な方法をとることができる。例えば、電極と、その電極を覆うように配置されるノズルと、の間にアルゴンなどの放電支援ガスを通過させ、その状態で電極とノズルとの間に直流電圧を放電させてプラズマジェットを発生する方法が一般的に用いられるが、それ以外の方法でプラズマジェットを発生してもよい。
【0016】
なお請求項1に記載のプラズマ加工方法であれば、ノズルから噴出するプラズマジェットの外周側は、活性状態となった窒素ガスが分布するようになる。よって、加工ワークにおける穴あけ加工が為された端面付近には水素ガスが接触しにくくなり、水素ガスによる加工ワークの脆性の発生が抑制される。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のプラズマ加工方法において、前記加工ワークにおける穴あけがなされる加工領域から5mm離間した点における温度が650℃以下となるように前記プラズマジェットの照射を行うことを特徴とする。
【0018】
このようにプラズマジェット照射を行えば、加工ワークにおける加工領域以外の部分が熱の影響を受けて劣化してしまうことが抑制される。
なお、加工領域の周辺の温度を下げるためには様々な方法が考えられる。例えばプラズマジェットの出力調整や、加工ワークとプラズマジェット発生位置との距離の調整を行うことなどにより温度を下げることができる。
【0019】
加工ワークの材質は特に限定されないが、高温に曝されることによってその品質の低下が起こりやすいものほど適しているといえる。
なお、上述した請求項2のプラズマ加工方法を用いる場合には、請求項3に記載のように、加工ワークとして高張力鋼板を用いてもよい。
【0020】
高張力鋼板は、熱の影響を受けてその品質を低下させてしまいやすいが、本発明のプラズマ加工方法であれば、その品質低下を抑制しつつ穴あけ加工を行うことができる。
請求項4に記載の発明は、プラズマジェットを発生し、略円筒状のノズルを通過して前記プラズマジェットを外部に照射するプラズマジェット発生手段と、前記ノズル内部に窒素ガスを添加する窒素ガス供給口と、前記ノズル内部に水素ガスを添加する水素ガス供給口と、を備え、前記窒素ガス供給口は、前記水素ガス供給口よりも前記ノズルの先端側に位置することを特徴とするプラズマ加工装置である。
【0021】
本発明のプラズマ加工装置では、加工ワークにプラズマジェットを照射するときに、プラズマジェットに添加ガスが添加されることによって加工能力が向上する結果、加工領域の周辺の温度を比較的低温に維持することができる。
【0022】
即ち、本発明のプラズマ加工装置であれば、請求項1のプラズマ加工方法と同様に、加工ワークに与える熱量を小さくして穴あけ加工が実現できる。これにより、加工ワークの品質低下を抑制できる。
【0023】
また、プラズマジェットと加工ワークの位置を相対的に移動させる移動手段をさらに設けることで、加工ワークの切断を行うことも可能となる
【0026】
なお請求項4に記載のプラズマ加工装置であれば、ノズルから噴出するプラズマジェットの外周側に、活性状態となった窒素ガスを分布させることができる。よって、加工ワークにおける穴あけ加工が為された端面付近には水素ガスが接触しにくくなり、水素ガスによる加工ワークの脆性の発生を抑制することができる。
【0027】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のプラズマ加工装置において、前記ノズルが、前記窒素ガス供給口の位置する領域から先端側における流路の断面積が、前記領域よりも前記ノズルの後端側における流路の断面積と比較して大きくなるように形成されていることを特徴とする。
【0028】
このように構成されたプラズマ加工装置では、窒素ガスが供給されたときに窒素ガスがプラズマジェットの外周に分布しやすくなる。そのため、水素ガスのプラズマジェットの外周面における分布が小さくなり、加工ワークの脆性の発生をさらに抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】プラズマ加工装置を示す模式図
【図2】穴あけ加工後の加工ワークを示す写真
【図3】穴あけ加工後の加工ワークを示す写真
【図4】穴あけ加工における加工ワークの温度を示すグラフ
【図5】穴あけ加工後の加工ワークを示す写真
【図6】変形例のプラズマ加工装置を示す図
【図7】エッチングガス供給口の最適位置のシミュレーションのモデル場
【図8】反応レート係数を定めるために用いたグラフ
【図9】シミュレーション結果を示す図
【図10】シミュレーション結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
(1)プラズマ加工装置の構成
本実施例のプラズマ加工装置1の模式図を図1に示す。プラズマ装置加工装置1は、プラズマジェット発生部11においてプラズマジェット13を発生させ、容器部15に配置された加工ワーク17にプラズマジェット13を照射して加工ワーク17に穴あけ加工を行う装置である。

【0031】
プラズマジェット発生部11は、先端(加工ワーク17側)が尖った略円柱形状の陰極21と、陰極21の先端の外周を覆う略円筒形状である陽極23と、を備えている。陰極21は高温となるため、高融点金属であるタングステンを用いている。また、陽極23は内部に冷却水を通すことで水冷しているため熱伝導率のよい銅を用いている。陰極21と陽極23との間には放電支援ガスが通過する放電ガス通路25が形成されている。また、陽極23の先端側は、プラズマジェット13を照射する円筒形のノズル27として形成されている。

【0032】
放電支援ガスは第1ガス供給口29から放電ガス通路25に供給され、ノズル27から加工ワーク17側に向けて噴出する。
ノズル27には第2ガス供給口31が形成されており、この第2ガス供給口31からノズル27にエッチング支援ガス(本発明における添加ガス)が供給される。

【0033】
加工ワーク17が配置される容器部15は、チャンバ33と、蓋部35と、ワーク設置台37と、を備える。
チャンバ33には、観測窓41が設けられている。観測窓41は、チャンバ33内部の状態を外部から視認することができる。

【0034】
蓋部35には、噴出口45と、排気弁47とが設けられている。噴出口45は、ノズル27の直径と同径に形成された穴である。排気弁47からは供給されたガスが排気される。

【0035】
ワーク設置台37は、チャンバ33内部に配置されており、加工ワーク17を保持するものである。
なお、陰極21の先端から噴出口45までの距離D1は20mm、陰極21の先端から第2ガス供給口31の中心までの距離D2は15mmである。また、ノズル27径(噴出口45の径)D3はφ4mmである。

【0036】
プラズマジェット13を生成する際には、放電支援ガスが放電ガス通路25を流れる状態で陰極21と陽極23の間に電流を印加して放電を行わせる。すると、電離された導電性を持つ放電支援ガスがプラズマジェット13としてノズル27を通じて加工ワーク17側に噴出される。

【0037】
このようにして発生したプラズマジェット13が加工ワーク17を溶融して、穴あけ加工が行われる。
(2)プラズマ加工装置1による穴あけ加工
[実施例1]
上述したプラズマ加工装置1を用いて穴あけ操作を行った。また、全く同条件で3回の操作を行い、加工ワークの温度を3点において測定した。

【0038】
加工ワークとして、引張強度1470N/mm2の高張力鋼板(25mm×25mm×t1.2mm)を用いた。
プラズマ照射条件を以下に示す。

【0039】
電流,電圧:100A,18.5V
放電支援ガス:Ar 3L/min
エッチング支援ガス:N2 3L/min
プラズマジェット照射時間:3秒
ワーク‐噴射口間距離(図1中、距離D4):20mm
加工ワークの温度は熱電対によって測定した。熱電対は、3つの加工ワークにおけるプラズマジェット照射の中心位置からの距離をそれぞれ変化させて配置した。

【0040】
上記条件でプラズマジェット照射を行った結果、いずれも約3Φの貫通穴が形成された。いずれも貫通穴の周辺に脆性が生じた箇所はなかった。照射後の加工ワークのうち2点を図2、図3に示す。各図において、(A),(B)はそれぞれ表面および裏面を示している。図2においては、貫通穴101のエッジから熱電対103までの距離が5mmとなった。図3においては同距離が8mmとなった。図示しないもう1点の加工ワークでは、熱電対は貫通穴のエッジ部分の温度を測定した。

【0041】
上記操作における加工ワークの各点の最高温度を図4のグラフに示す。エッジ部分の温度は約1550℃、エッジから5mmの点の温度は600℃、エッジから8mmの点では310℃となった。
[実施例2]
実施例1と同様のプラズマ加工装置1および加工ワークを用い、加工ワーク‐噴射口間距離を10mm、プラズマジェット照射時間を4秒にした以外は実施例1と同じ条件にてプラズマジェット照射を行った。

【0042】
上記条件でプラズマジェット照射を行った結果、直径5mmの貫通穴が形成された(図5(A)参照)。貫通穴のエッジ部分から5mmの点の温度は650℃まで上昇したが、貫通穴の周辺に脆性が生じた箇所はなかった。
[実施例3]
加工ワーク‐噴射口間距離を12mmとした以外は実施例2と同じ条件にてプラズマジェット照射を行った。

【0043】
その結果、直径約3mmの貫通穴が形成された。貫通穴の周辺に脆性が生じた箇所はなかった。
[実施例4]
加工ワーク‐噴射口間距離を15mmとした以外は実施例2と同じ条件にてプラズマジェット照射を行った。

【0044】
その結果、照射の中心位置を中心として加工ワークの一部が溶解した(図5(B)参照)。
[実施例5]
実施例1と同様のプラズマ加工装置1および加工ワークを用い、エッチング支援ガスをN2に変えてH2を用い、加工ワーク‐噴射口間距離を10mm、プラズマジェット照射時間を4秒に変更してプラズマジェット照射を行った。

【0045】
エッチング支援ガス:H2 3L/min
その結果、直径約3mmの貫通穴が形成された。貫通穴の周辺に脆性が生じた箇所はなかった。
[参考例1]
加工ワーク‐噴射口間距離を25mmとした以外は実施例2と同じ条件にてプラズマジェット照射を行った。

【0046】
その結果、加工ワークは溶解しなかった(図5(C)参照)。
[参考例2]
加工ワーク‐噴射口間距離を30mmとした以外は実施例2と同じ条件にてプラズマジェット照射を行った。

【0047】
その結果、加工ワークは溶解しなかった(図5(D)参照)。
[参考例3]
エッチング支援ガスを供給しない以外は実施例2と同じ条件にてプラズマジェット照射を行った。

【0048】
その結果、加工ワークは溶解しなかった。
[結果]
エッチング支援ガスとしてN2またはH2を使用することで、貫通穴のエッジから5mm離れた位置の温度が650℃以下となるプラズマジェット照射条件によって貫通穴を形成することができた。また、実施例4と同様の操作でプラズマジェット照射時間を長くすることにより、温度を上昇させることなく貫通穴を形成することができた。
(3)発明の効果
本実施例のプラズマ加工装置1では、ノズル内部にエッチング支援ガスを供給することで、高張力鋼板の温度を比較的低温に維持したままプラズマジェット照射による穴あけ加工を実現できた。このように加工された高張力鋼板は、そのじん性などの品質を低下させることがない。
(4)変形例
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上記実施例に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態をとり得ることはいうまでもない。

【0049】
例えば、上記実施例においては、プラズマ加工装置1は穴あけ加工のみが実行できる構成を例示したが、加工ワーク17とプラズマジェット13とを相対的に移動させる移動手段を備えることで、加工ワーク17の切断が可能となるように構成してもよい。

【0050】
また、プラズマジェット発生部11の構成を、プラズマジェット13の周囲がN2/Arの流れであり、プラズマジェット13の中心部がH2/Arの流れとなるように構成してもよい。これによって、加工後に残るエッジ部分の水素脆弱性を抑制することができる。このように構成されたプラズマ加工装置を図6(A)に示す。図6(A)はプラズマジェット発生部周辺のみを示している。図1と同様の構成は同じ符号を付けて説明を省略する。

【0051】
陰極51には、水素ガスを添加するための水素ガス供給口53と、窒素ガスを添加するための窒素ガス供給口55と、が形成されている。窒素ガス供給口55は、水素ガス供給口53よりもノズル57の先端側に位置する。またノズル57は、窒素ガス供給口55の位置する領域から先端側における流路の断面積(ノズル径)が、その上流側(後端側)における流路の断面積と比較して大きくなるように形成されている。

【0052】
このようなプラズマ加工装置であれば、ノズル57から噴出するプラズマジェット13の外周側には、活性状態となった窒素ガスが主に分布する領域13aが形成される。よって、加工ワークにおける穴あけ加工が為された端面付近には水素ガスが接触しにくくなり、水素ガスによる加工ワークの脆性の発生が抑制される。また、窒素ガス供給口55から下流のノズル径が広いことにより、供給された窒素ガスがプラズマジェット13の外周に分布しやすくなる。そのため、上述した領域13aにおける水素ガスの分布をさらに小さくできる。

【0053】
図6(A)におけるA-A断面図を図6(B),(C)に示す。図6(B)に示すように、窒素ガス供給口55はノズル57の軸を中心に分散して配置することで、プラズマジェット13の外周に窒素ガスを偏り無く添加することができる。窒素ガス供給口55の数は特に限定されない。

【0054】
また、図6(C)に示すように、窒素ガス供給口55を、ノズル57の内側壁面に沿うように角度をつけて配置してもよい。このように配置することで、外周からのガス流が竜巻状になり、外周部を流れるガス流と中央部を流れるガス流とが混合してしまうことを抑制できる。
(5)エッチングガス供給口の最適位置の設計
エッチングガス供給口の位置設定による加工ワーク近傍の窒素原子密度の変化をシミュレーションした。
(5.1)計算条件
モデル場(軸対象場)を図7に示す。なお、基板位置には障害物を置かずに計算した。

【0055】
圧力:1atm
流量:Ar=3L/min,N2=3L/min
温度:プラズマ領域中心=9727K,壁面300K(冷却)
2供給口は、5mm(試験条件A),10mm(同B),15mm(同C)とした。

【0056】
また、考慮した反応を以下に示す。
(A)N2+e→N+N+eの反応のレート係数を定める。
d[N]/dt=k1[e][N2]-k2[N][N][M]であるから、k1[e]という積が生成項の値を決めている。下記参考文献1のFig.7を参照し(図8に示す)、零次元方程式を解いた時に、図8とほぼ同じ[N]の定常値となるようにk1[e]の値を定めた。

【0057】
大気圧アークプラズマの中心部はおおよそ10,000℃(9727K)と言われている。この温度に相当するN原子の密度(~1024-3)になるようにk1[e]をアジャストした。電子密度はr=0,z=15~20mmに発生源があるとした。

【0058】
参考文献1:P. Andre, J. Aubreton, M. F. Elchinger, P. Fauchais, and A. Lefort: "A New Modified Pseudoequilibrium Calculation to Determine the Composition of Hydrogen and Nitrogen Plasmas at Atmospheric Pressure", Plasma Chemistry and Plasma Processing, 21 (2001) 83‐105.
(B)N+N+M→N2+M
k2=5.0E+14*1.0E‐12*exp(‐4182/(8.314472*T)) (単位:m6 mol-1 s-1
NISTデータベースによる(温度の単位はK)。

【0059】
参考文献2:M. A. A. Clyne, D. H. Stedman: "Rate of recombination of nitrogen atoms", Journal of Physical Chemistry, 71, 3071‐3073 (1967).
(5.2)計算結果
計算結果を図9(A)~(C)に示す。(A)~(C)がそれぞれ試験条件A~Cに対応している。N2の導入口をプラズマジェット発生位置から遠ざけることで、逆に基板がおかれる場所近傍のN原子密度が増えていることがわかる。

【0060】
図9(A)~(C)のコントラストだけでは、定量的なN原子密度がわからないため、図10に、r=0におけるz位置依存性のグラフを示す。この図より、プラズマ発生部とN2導入口の距離を接近させると、プラズマ発生部近傍のN原子密度は大きくなるが、下流でのN原子密度は大きく減少する。これは、N2導入口からz=0のノズル位置に到達するまでの空間が狭いために、N原子同士の再結合頻度が高くなるためである。むしろ、プラズマ発生部とN2導入口の距離を離した方がノズル位置(z=0)よりも下流のN原子密度が高くなる。これは、ノズル位置よりも下流になると、上流の場合のように閉じ込められていないため、発生したN原子同士が会合して再結合する頻度が低減し,より遠方まで高いN原子密度を維持することができるためである。

【0061】
以上の結果より、エッチングガス供給口は、プラズマジェットの照射開始位置よりも基板位置(加工ワークの配置される位置)に寄せて配置されることが好ましいことが分かる。但し、ノズルの位置よりも加工ワーク側にてエッチングガスを添加すると、プラズマジェットの拡散によりエッチングガスが効率よく活性状態とならないことから、ノズルの先端近傍に配置することが好ましい。
【符号の説明】
【0062】
1…プラズマ加工装置、11…プラズマジェット発生部、13…プラズマジェット、15…容器部、17…加工ワーク、21…陰極、23…陽極、25…放電ガス通路、27…ノズル、29…第1ガス供給口、31…第2ガス供給口、33…チャンバ、35…蓋部、37…ワーク設置台、41…観測窓、45…噴出口、47…排気弁、51…陰極、53…水素ガス供給口、55…窒素ガス供給口、57…ノズル、101…貫通穴、103…熱電対
図面
【図10】
0
【図1】
1
【図2】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
6
【図7】
7
【図8】
8
【図9】
9