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明細書 :イヌ精子の凍結保存剤および凍結保存方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5234896号 (P5234896)
公開番号 特開2009-022214 (P2009-022214A)
登録日 平成25年4月5日(2013.4.5)
発行日 平成25年7月10日(2013.7.10)
公開日 平成21年2月5日(2009.2.5)
発明の名称または考案の名称 イヌ精子の凍結保存剤および凍結保存方法
国際特許分類 C12N   5/076       (2010.01)
A01K  67/00        (2006.01)
FI C12N 5/00 202F
A01K 67/00 Z
請求項の数または発明の数 10
全頁数 9
出願番号 特願2007-188779 (P2007-188779)
出願日 平成19年7月19日(2007.7.19)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 40th Annual meeting、Society for the Study of Reproduction講演予稿集(平成19年7月10日発行)第237-8頁に発表
審査請求日 平成22年7月14日(2010.7.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504300088
【氏名又は名称】国立大学法人帯広畜産大学
発明者または考案者 【氏名】鈴木 宏志
【氏名】阿部 靖之
個別代理人の代理人 【識別番号】110000109、【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
審査官 【審査官】幸田 俊希
参考文献・文献 特開2006-204180(JP,A)
特開2005-270006(JP,A)
特開2005-269919(JP,A)
特開2001-328901(JP,A)
特開2000-239101(JP,A)
ROTA,A. et al.,Effect of the inclusion of skimmed milk in freezing extenders on the viability of canine spermatozoa after thawing.,J. Reprod. Fertil. Suppl.,2001年,Vol.57,pp.377-81
KANEKO,T. et al.,Long-term cryopreservation of mouse sperm.,Theriogenology,2006年 9月15日,Vol.66, No.5,pp.1098-101
AGCA,Y. et al.,Osmotic characteristics of mouse spermatozoa in the presence of extenders and sugars.,Biol. Reprod.,2002年11月,Vol.67, No.5,pp.1493-501
NAKAGATA,N.,Cryopreservation of mouse spermatozoa.,Mamm. Genome,2000年 7月,Vol.11, No.7,pp.572-6
調査した分野 CA/BIOSIS/MEDLINE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
PubMed
特許請求の範囲 【請求項1】
糖とスキムミルクとを含有する水溶液Aおよび糖とスキムミルクとグリセロールを含有する水溶液Bとからなる、但し、水溶液Aおよび水溶液Bは卵黄を含有しない、イヌ精子の凍結保存剤。
【請求項2】
水溶液Aは、糖を0.1~1M含有し、スキムミルクを1~100mg/mlを含有する請求項1に記載の凍結保存剤。
【請求項3】
水溶液Bは、糖を0.1~1M含有し、スキムミルクを1~100mg/mlを含有し、グリセロールを1~30質量%含有する請求項1または2に記載の凍結保存剤。
【請求項4】
糖が、グルコース、フルクトース、シュクロース、ラフィノース、トレハロースおよびキシロースから成る群から選ばれる少なくとも1種の糖である請求項1~3のいずれかに記載の凍結保存剤。
【請求項5】
凍結保存が液体窒素温度における保存である請求項1~4のいずれかに記載の凍結保存剤。
【請求項6】
イヌ精子を水溶液Aと混合し、得られた分散液を0~8℃で保存した後に、水溶液Bと混合し、得られた分散液を液体窒素温度にすることで使用される請求項1~5のいずれかに記載の凍結保存剤。
【請求項7】
糖とスキムミルクとを含む水溶液Aにイヌ精子を分散し、得られた分散液を0~8℃で保存した後、保存後の分散液を糖とスキムミルクとグリセロールを含む水溶液Bと混合し、得られた混合液を液体窒素温度において保存する、但し、水溶液Aおよび水溶液Bは卵黄を含有しない、イヌ精子の凍結保存方法。
【請求項8】
水溶液Aは、糖を0.1~1M含有し、スキムミルクを1~100mg/mlを含有する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
水溶液Bは、糖を0.1~1M含有し、スキムミルクを1~100mg/mlを含有し、グリセロールを1~30質量%含有する請求項に記載の方法。
【請求項10】
糖が、グルコース、フルクトース、シュクロース、ラフィノース、トレハロースおよびキシロースから成る群から選ばれる少なくとも1種の糖である請求項7~9のいずれかに記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、イヌ精子の凍結保存剤および凍結保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イヌ精子の凍結保存は、外国など遠隔地からの精子輸送や世代を超えた繁殖を実現し、効率的な育種改良を可能とする技術である。凍結保存では、凍結障害から精子を保護する物質から構成される希釈液と精液を混和し凍結保存するが、これまで、卵黄を用いて多くの成功例が報告されてきた(非特許文献1、2)。しかし、世界的な鳥インフルエンザウィルスの流行により、ウィルスの国内流入を防ぐため、卵黄を用いて凍結保存した精子を外国から輸入することは困難となっている。そのため、卵黄を用いない精子の凍結保存法の開発が望まれているが、組成が明らかな希釈液では全て卵黄が用いられている。
【0003】
卵黄に代わる物質としてスキムミルクがある。スキムミルクや数種の糖には、卵黄と同様な保護効果があり、マウス(非特許文献3~5)やウマ(非特許文献6)、イルカ精子(非特許文献7)の凍結保存において有効性が報告されている。イヌ精子においても、卵黄と組み合わせた希釈液を用いた凍結保存(非特許文献8)やスキムミルク液を用いた冷蔵保存(非特許文献9)では効果が報告されている。

【非特許文献1】Hori T, Odaka S, Oba H, Mizutani T, Kawakami E, Tsutsui T. Effects of liquid nitrogen vapor sensitization conditions on the quality of frozen-thawed dog spermatozoa. J Vet Med Sci 2006; 68: 1055-1061.
【非特許文献2】Martins-Bessa A, Rocha A, Mayenco-Aguirre A. Comparing ethylene glycol with glycerol for cryopreservation of canine semen in egg-yolk TRIS extenders. Theriogenology 2006; 66: 2047-2055.
【非特許文献3】Nakagata N. Cryopreservation of mouse spermatozoa. Mamm Genome 2000; 11: 572-576.
【非特許文献4】Kaneko T, Yamamura A, Ide Y, Ogi M, Yanagita T, Nakagata N. Long-term cryopreservation of mouse sperm. Theriogenology 2006; 66: 1098-1101.
【非特許文献5】Agca Y, Gilmore J, Byers M, Woods EJ, Liu J, Critser JK. Osmotic characteristics of mouse spermatozoa in the presence of extenders and sugars. Biol Reprod 2002; 67: 1493-1501.
【非特許文献6】Kareskoski AM, Reilas T, Andersson M, Katila T. Motility and plasma membrane integrity of spermatozoa in fractionated stallion ejaculates after storage. Reprod Domest Anim 2006; 41: 33-38.
【非特許文献7】Robeck TR, O'Brien JK. Effect of cryopreservation methods and precryopreservation storage on bottlenose dolphin (Tursiops truncatus) spermatozoa. Biol Reprod 2004; 70: 1340-1348.
【非特許文献8】Rota A, Frishling A, Vannozzi I, Camillo F, Romagnoli S. Effect of the inclusion of skimmed milk in freezing extenders on the viability of canine spermatozoa after thawing. J Reprod Fertil Suppl 2001; 57: 377-381.
【非特許文献9】Pinto CR, Paccamonti DL, Eilts BE. Fertility in bitches artificially inseminated with extended, chilled semen. Theriogenology 1999; 52: 609-616.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、イヌ精子凍結保存において、卵黄を用いないイヌ精子の凍結保存法の開発が望まれているにも関わらず、卵黄を用いない方法は知られていない。
【0005】
そこで本発明の目的は、卵黄を用いずにイヌ精子凍結保存が可能な手段、具体的には、凍結保存剤と凍結保存方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが、種々検討した結果、スキムミルク、糖およびグリセロールから構成されるシンプルな希釈液が、上記目的を達成できるものであることを見いだして、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、卵黄を用いないイヌ精子の凍結保存が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のイヌ精子の凍結保存剤は、糖とスキムミルクとを含有する水溶液Aおよび糖とスキムミルクとグリセロールを含有する水溶液Bとからなる。
【0009】
水溶液Aは、例えば、糖を0.1~1M含有し、スキムミルクを1~100mg/mlを含有するものであることができる。好ましくは糖を0.2~0.5M含有し、スキムミルクを10~50mg/mlを含有するものである。
【0010】
水溶液Bは、例えば、糖を0.1~1M含有し、スキムミルクを1~100mg/mlを含有し、グリセロールを1~30質量%含有するものであることができる。好ましくは糖を0.2~0.5M含有し、スキムミルクを10~50mg/mlを含有し、グリセロールを5~20質量%含有するものである。
【0011】
糖は、例えば、グルコース、フルクトース、シュクロース、ラフィノース、トレハロースおよびキシロースから成る群から選ばれる少なくとも1種の糖であることができる。糖の種類によって、凍結保存安定性は異なり、例えば、グルコース、フルクトース、およびシュクロースから成る群から選ばれる少なくとも1種の糖であることが好ましい。
【0012】
本発明の凍結保存剤が用いられる凍結保存は、液体窒素温度における保存であることができる。液体窒素温度は、約-196℃である。
【0013】
本発明の凍結保存剤は、イヌ精子を水溶液Aと混合し、得られた分散液を0~8℃で保存した後に、水溶液Bと混合し、得られた分散液を液体窒素温度にすることで使用される。使用方法については、凍結保存方法の説明において詳述する。
【0014】
本発明のイヌ精子の凍結保存方法は、糖とスキムミルクとを含む水溶液Aにイヌ精子を分散し、得られた分散液を0~8℃で保存した後、保存後の分散液を糖とスキムミルクとグリセロールを含む水溶液Bと混合し、得られた混合液を液体窒素温度において保存することを含む。
【0015】
水溶液Aは、凍結保存剤において説明したものと同様であり、例えば、糖を0.1~1M含有し、スキムミルクを1~100mg/mlを含有するものであることができる。水溶液Bも、凍結保存剤において説明したものと同様であり、例えば、糖を0.1~1M含有し、スキムミルクを1~100mg/mlを含有し、グリセロールを1~30質量%含有するものであることができる。
【0016】
糖は、凍結保存剤において説明したものと同様であり、例えば、グルコース、フルクトース、シュクロース、ラフィノース、トレハロースおよびキシロースから成る群から選ばれる少なくとも1種の糖であることができる。
【0017】
水溶液Aとイヌ精子とは、イヌ精子が、例えば、106~109精子/mlの範囲となるように混合して精子を分散し、得られた分散液を0~8℃で保存する。この保存は、例えば、冷蔵庫で行うことができる。保存時間は、例えば、1~10時間とすることができる。次いで、保存後の分散液を水溶液Bと混合する。水溶液Bの量は、分散液量に対して0.1~5容量倍の範囲とすることができ、好ましくは分散液量と等量とする。得られた混合液は、液体窒素温度において保存するが、保存の前に、保存用の容器、例えば、ストロー精液管に得られた混合液を格納した後に保存する。さらに、液体窒素温度における保存は、混合液を格納した保存用の容器を、1~60分、液体窒素の液面近くで、予備冷却した後に液体窒素中に浸漬して行うことが好ましい。
【0018】
本発明において、グリセロールを含有しない水溶液Aとグリセロールを含有する水溶液Bを分けて使用する理由は、液体窒素温度において保存は、グリセロールを含有しない水溶液で行うより、グリセロールを含有する水溶液で行う方が、解凍後の精子の運動状態が活発であり好ましいが、グリセロールは、生体に対する毒性があることから、凍結前に長時間、精子とグリセロールとが接触することは回避することが好ましいためである。
【0019】
また、本発明において、精子の分散液を0~8℃で一定時間保存した後に液体窒素温度における保存を行う理由は、一般的に、イヌ精子は低温感受性が高いことが知られており、凍結温度に曝す前に前処理として上記の温度で一定時間の平衡を行うことが有効だからである。
【0020】
本発明の凍結保存剤および凍結保存方法を用いて液体窒素温度における保存をした後の試料は、使用前に、液体窒素から取り出し、例えば、室温に放置して、融解することができる。融解した後の精子分散液は、例えば、そのまま人工授精等に使用することができる。人工授精に使用する以外に、融解した後の精子分散液は、体外受精、あるいは顕微授精等に使用することもできる。
【実施例】
【0021】
<材料と方法>
(1)精液の採取
人為的に陰茎を刺激することで、雄ビーグルまたはラブラドール・レトリバーから射出精液を採取した。
【0022】
(2)精子運動性に対する糖の影響
採取したビーグル射出精液(n=3)を0.3 M フルクトース、グルコース、ラフィノース、シュクロース、トレハロースまたはキシロース溶液で5または10倍希釈した後、37℃で5または10分間インキュベートした。その後、精液運動解析装置(HAMILTON THORNE BIOSCIENCES、HTM-CEROS-S)により運動性(表1)を測定し、イヌ精子に適した糖を選別した。
【0023】
【表1】
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【0024】
【表2】
JP0005234896B2_000003t.gif

【0025】
<結果>
・精子運動性に対する糖の影響
10倍希釈に比べ5倍希釈が良好な運動性を示した(表2)。また、フルクトース、グルコースおよびシュクロースが他の糖に比べ良好な運動性を示した。これらの結果を総合的に判断し、以下の実験ではグルコースを使用した。
【0026】
(3)精液の凍結・融解試験
(i)希釈液の作製
一次希釈液としてSG液またはEY液を用いた。SG液の作製手順として、30 mg/mlスキムミルク(DIFCO)、0.3 M グルコース(和光純薬)を蒸留水に溶解し、60℃に30分間加熱した後、遠心(10,000×g、室温、15分間)し上清を回収した。この操作を再び行い、シリンジフィルター(ADVANTEC、0.45 (m)を用いて濾過滅菌したものをSG液とした。EY液の作製手順として、24 mg/ml トリス(和光純薬)、14 mg/ml クエン酸一水和物(和光純薬)、0.8 mg/mlグルコース(和光純薬)、0.65 mg/ml ペニシリンGカリウム(MEIJI)、1 mg/ml 硫酸ストレプトマイシン(MEIJI)を蒸留水に溶解し、60℃に30分間加熱した。次に、新鮮な鶏卵から採取した卵黄を20% [v/v]加え、4℃で一晩以上静置し、上清をEY液とした。二次希釈液は、それぞれの一次希釈液に14%グリセロールを添加した。
【0027】
(ii)精液の凍結・融解
採取したラブラドール・レトリバー精液を、精子濃度が2×108精子/mlとなるように室温の一次希釈液で希釈した後、4℃条件下で静置した。3時間の平衡後、精子懸濁液と等量の二次希釈液を数回に分けて混和し、再び静置した。 15分後、ストロー精液管(富士平工業、0.25ml)に充填し、発泡スチロールボックス(24.5 × 17.5 × 17.5 cm)中において液体窒素液面6cm上方で15分間冷却した後、液体窒素に投入した。融解処理として、液体窒素中から取り出したストロー精液管を37℃のお湯に1分間浸漬し、ストロー精液管から精子懸濁液を取り出した後、精液運動解析装置により運動性を測定した。また、融解した精子懸濁液を雌ラブラドール・レトリバーの子宮内へ注入し、人工授精した。
【0028】
(iii)統計解析
実験区間の比較には、T検定を行い、有意差水準を5%とした。
【0029】
<結果>
スキムミルク含有希釈液を用いたイヌ精子の凍結保存
各サンプルについて全精子に対する運動精子の割合を見ると、半数以上で50%以上であり、EY区とSG区の間に有意な差は認められなかった(図1)。また、その他の運動性を表す項目についても実験区間に差は認められなかった(図2)。
【0030】
さらに、人工授精した結果、2頭の雌ラブラドール・レトリバーから計6頭の産子が得られた(表3)。
【表3】
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【0031】
(4)凍結・融解後の精子運動性に対するグリセロールの影響
採取したラブラドール・レトリバー精液を、精子濃度が2×108精子/mlとなるように室温のSG液で希釈した後、4℃条件下で静置した。3時間の平衡後、精子懸濁液と等量のSG液(グリセロール非添加区)または二次希釈液(グリセロール添加区)を数回に分けて混和し、再び静置した。 15分後、ストロー精液管(富士平工業、0.25ml)に充填し、発泡スチロールボックス(24.5 × 17.5 × 17.5 cm)中において液体窒素液面6cm上方で15分間冷却した後、液体窒素に投入した。融解処理として、液体窒素中から取り出したストロー精液管を37℃のお湯に1分間浸漬し、ストロー精液管から精子懸濁液を取り出した後、精液運動解析装置により運動性を測定した。
【0032】
<結果>
凍結・融解後の精子運動性に対するグリセロールの影響
全精子に対する運動精子の割合は、グリセロール非添加区が29.0%であったのに対しグリセロール添加区では42.5%であり、添加区が高かった(図3)。前進運動精子についても同様な結果だった(非添加区;10.0%、添加区;18.0%)。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、イヌの飼育分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】各サンプルの全精子に対する運動精子の割合とそれらの平均値。■EY区、□SG区、-▲-EY区に対するSG区の割合(%)。
【図2】運動性の測定項目とそれぞれの平均値。■EY区、□SG区、-▲-EY区に対するSG区の割合(%)。
【図3】グリセロール非添加区および添加区における、全精子に対す運動精子および前進運動精子の割合。■運動精子および□前進運動精子の割合。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2