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明細書 :ナトリウム/プロトン対向輸送体遺伝子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3955938号 (P3955938)
登録日 平成19年5月18日(2007.5.18)
発行日 平成19年8月8日(2007.8.8)
発明の名称または考案の名称 ナトリウム/プロトン対向輸送体遺伝子
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
C07K  14/415       (2006.01)
C07K  16/16        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12P  21/02        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01H 5/00 A
C07K 14/415
C07K 16/16
C12N 5/00 C
C12P 21/02 C
C12Q 1/68 A
請求項の数または発明の数 15
全頁数 24
出願番号 特願2000-589698 (P2000-589698)
出願日 平成11年12月22日(1999.12.22)
国際出願番号 PCT/JP1999/007224
国際公開番号 WO2000/037644
国際公開日 平成12年6月29日(2000.6.29)
優先権出願番号 1998365604
優先日 平成10年12月22日(1998.12.22)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成15年6月24日(2003.6.24)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】福田 篤徳
【氏名】田中 喜之
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100108774、【弁理士】、【氏名又は名称】橋本 一憲
審査官 【審査官】田村 明照
参考文献・文献 特開2000-157287(JP,A)
Plant Cell Physiol,1998年,39,196-201
バイオテクノロジーシンポジウム予稿集,1998年11月13日,245-250
調査した分野 C12N 15/00-15/90
SwissProt/PIR/Geneseq
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
MEDLINE/CA/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
Science Direct
JSTPlus(JDream2)
特許請求の範囲 【請求項1】
下記(a)または(b)に記載のDNA。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
【請求項2】
単子葉植物由来のNa+/H+対向輸送体をコードする下記(a)または(b)に記載のDNA。
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において20個以内のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAと42℃の通常の条件でハイブリダイゼーションを行なった後、高ストリンジェントな条件下で洗浄することにより単離されるDNA。
【請求項3】
単子葉植物がイネ科植物である、請求項2に記載のDNA。
【請求項4】
請求項1または2に記載のDNAを含むベクター。
【請求項5】
請求項1若しくは2に記載のDNAまたは請求項4に記載のベクターを保持する形質転換細胞。
【請求項6】
植物細胞である、請求項5に記載の形質転換細胞。
【請求項7】
請求項1または2に記載のDNAによりコードされるタンパク質。
【請求項8】
請求項5に記載の形質転換細胞を培養し、該細胞またはその培養上清から発現させたタンパク質を回収する工程を含む、請求項7に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載の形質転換細胞を含む形質転換植物体。
【請求項10】
単子葉植物である、請求項9に記載の形質転換植物体。
【請求項11】
イネ科植物である、請求項10に記載の形質転換植物体。
【請求項12】
イネである、請求項11に記載の形質転換植物体。
【請求項13】
請求項9から12のいずれかに記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
【請求項14】
請求項9から13のいずれかに記載の形質転換植物体の繁殖材料。
【請求項15】
請求項7に記載のタンパク質に結合する抗体。
発明の詳細な説明 技術分野
本発明は、植物由来の新規なNa+/H+対向輸送体、該輸送体によりコードされるDNA、並びにそれらの製造および用途に関する。
背景技術
植物の耐塩性は農業および環境保全上重要な問題である。現在、地球上の約3分の1は乾燥地に属しているといわれ、現在も耕地や緑地の砂漠化が進んでいることから、その割合は将来増加することが予想される。2050年には世界人口が現在の1.5倍以上になるといわれ、食糧問題はますます深刻化することを考えると、耕作不適地、特に乾燥地でも育つ作物品種や栽培技術の開発は緊急を要する課題である。そこで、乾燥地の農業において問題となっているのは、土壌における塩分集積の問題である。乾燥気候下では、蒸発散量が降水量を上回るため、排水が不完全な状態で潅漑を続けた場合、塩分を含んだ地下水位の上昇が促進されて塩分が地表に析出するため、土壌における多量な塩分集積に結びつく。その結果耕作が不能になる例は、チグリス—ユーフラテス文明の滅亡を代表に太古の昔から知られており、現在でも未だ問題になることが多い。以上のことから、作物の耐塩性を高めることは、乾燥地や塩分集積地の農業を進める上で重要な課題となっている(但野利秋 (1983) 化学と生物 21, 439-445 作物の耐塩性とその機構; 内山泰孝 (1988) 化学と生物 26, 650-659 塩性環境の農業利用)。
植物に対する塩ストレスを考える場合、2種類のストレス、つまり浸透圧ストレスとイオンストレスが問題になる。浸透圧ストレスとは、植物を取り囲む環境が高い濃度の塩分のため高浸透圧となり、植物の水分吸収の妨げになると同時に植物体から水を奪う結果となることから、乾燥ストレスと同じ作用をするストレスである。植物にはこの浸透圧ストレスを回避する機構が存在することが知られており、その中心的働きをするのがイオン(K+、Na+、Cl-、有機酸など)や適合溶質と呼ばれる物質である。適合溶質とは、細胞内に高濃度蓄積されても種々の代謝系を乱さず酵素活性を阻害しない糖、アミノ酸の一種プロリン、四級アンモニウム化合物のグリシンベタインなどのことを指し、植物はこれらを細胞内に蓄積して外界との浸透圧バランスをとっている(石谷学, 荒川圭太, 高部鉄子 (1990) 植物の化学調節 25, 149-162 植物耐塩性の分子機構)。
イオンストレスについては、植物の回避機構についてほとんど研究が進んでいない。過剰なNa+が植物の細胞内に吸収されると、細胞内の酵素反応が阻害され代謝障害が起こる(間籐徹 (1997) 植物の化学調節 32, 198-206 植物の耐塩性メカニズム)。そのため、細胞内に蓄積したNa+を細胞外に排出したり、液胞などの細胞内器官に隔離する必要がある。その中心的な働きをすると考えられているのがNa+/H+対向輸送体(ナトリウム/プロトン対向輸送体)である。植物のNa+/H+対向輸送体は、細胞質膜や液胞膜に存在すると考えられ、H+を輸送するH+ポンプ(H+-ATPaseやH+-PPase)によって形成される生体膜を介したpH勾配をエネルギー源として利用して、細胞質に存在するNa+を細胞外や液胞内に輸送する。また、高塩処理を受けた植物は、細胞質内のK+/Na+比率を高く保たねばならず、Na+/H+対向輸送体によって液胞にNa+を蓄積することにより、外界との浸透圧バランスをとるとも考えられている。
細胞質膜に局在するNa+/H+対向輸送体については、動物、酵母、細菌などでよく調べられている。動物細胞の細胞質膜では、細胞内のH+バランスをとるために、Na+/K+-ATPaseによって形成された膜内外のNa+濃度勾配を利用してNa+/H+対向輸送体がH+を輸送する。このため、この対向輸送体は、細胞内のpH調整、細胞容量のコントロール、細胞質膜を介したNa+輸送などに強く関与していると考えられている(Orlowski, J. and Grinstein, S. (1997) J. Biol. Chem. 272, 22373-22376; Aronson, P.S. (1985) Ann. Rev. Physiol. 47, 545-560)。動物では、Na+/H+対向輸送体は様々な細胞に存在し、6種類のアイソフォーム(NHE1-6)が報告されている(Orlowski, J. and Grinstein, S. (1997) J. Biol. Chem. 272, 22373-22376)。酵母では、まず分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)でNa+輸送と耐塩性に関連した遺伝子としてクローニングされ(sod2)(Jia, Z.P., McCullough, N., Martel, R., Hemmingsen, S. and Young, P.G. (1992) EMBO J. 11: 1631-1640)、これと高い相同性を持つ遺伝子が出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)やZygosaccharomyces rouxiiで見つかっている(それぞれNHA1、ZSOD2と名付けられている)(Prior, C. et al.(1996) FEBS Letter 387, 89-93; Watanabe, Y. et al. (1995) Yeast 11, 829-838)。大腸菌では、異なった2種類のNa+/H+対向輸送体遺伝子(nhaA、nhaB)が単離されており(Karpel, R. et al. (1988) J.Biol. Chem. 263, 10408-10410; Pinner, E. et al. (1994) J.Biol. Chem. 269, 26274-26279)、それぞれNa+輸送と耐塩性に強く関与している。植物では、藻類などで活性が調べられている(Katz, A. et al. (1989) Biochim. Biophys. Acta 983: 9-14)。
一方、液胞膜に局在しているものについては植物のみから活性についての報告があるにすぎない。液胞膜のNa+/H+対向輸送体は、塩濃度の高い環境に生育する塩生植物(Matoh, T. et al. (1989) Plant Physiol. 89: 180-183; Hassidim, M. et al.(1990) 94: 1795-1801; Barkla, B.J. et al.(1995) Plant Physiol. 109: 549-556)やオオムギやテンサイなどの耐塩性の高い中生植物(Hassidim, M. et al.(1990) 94: 1795-1801; Blumwald, E. et al.(1987) Plant Physiol. 85: 30-33; Garbarino, J. and DuPont, F.M. (1988) Plant Physiol. 86: 231-236; Garbarino, J. and DuPont, F.M. (1989) Plant Physiol. 89:1-4; Staal, M. et al.(1991) Physiol. Plant. 82: 179-184)において耐塩性と結びつけて現在まで調べられている。以上のことは、Na+/H+対向輸送体と植物の耐塩性が密接な関係にあることを示している。液胞膜のNa+/H+対向輸送体の性質についてはいくつか報告がある。その輸送体活性のNa+に対するKm値は約10 mMであり、哺乳類の細胞質膜のものと似ている(Blumwald, E. et al.(1987) Plant Physiol. 85: 30-33; Garbarino, J. and DuPont, F.M. (1988) Plant Physiol. 86: 231-236; Orlowski, J. (1993) J. Biol. Chem. 268: 16369-16377)。また、Na+輸送体の特異的阻害剤であるアミロライドやアミロライド誘導体は、それらの対向輸送体両方を競合的に阻害することが知られている(Blumwald, E. et al.(1987) Plant Physiol. 85: 30-33; Orlowski, J. (1993) J. Biol. Chem. 268: 16369-16377; Tse, C.M. et al.(1993) J. Biol. Chem. 268:11917-11924; Fukuda, A. et al.(1998) Plant Cell Physiol. 39: 196-201)。これらのことは、植物の液胞膜のNa+/H+対向輸送体の性質が哺乳類の細胞質膜のものと類似していることを示唆している。以上のように、植物のNa+/H+対向輸送体の活性については様々な報告があるが、その本体、つまり遺伝子やタンパク質については、今まで様々な試みがなされてきたが、その解析は遅れていた(Katz, A. et al.(1989) Biochim. Biophys. Acta 983: 9-14; Barkla, B. and Blumwald, E. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 11177-11181; Katz, A., Kleyman, T. R., and Pick, U. (1994) Biochemistry 33: 2389-2393)。
最近になり、アラビドプシスにおいて既知のNa+/H+対向輸送体のアミノ酸配列と相同性を有するタンパク質をコードすると予想される遺伝子がクローニングされたが、その機能については解明されていない(M.P. Apse et al., (1998) Final Programme and Book of Abstracts "11th International Workshop on Plant Membrane Biology", Springer; C.P. Darley et al., (1998) Final Programme and Book of Abstracts "11th International Workshop on Plant Membrane Biology", Springer)。
植物において単離されたNa+/H+対向輸送体遺伝子は、上記の双子葉植物であるアラビドプシスの例にとどまり、産業上有用な農作物であるイネやトウモロコシなどを含む単子葉植物については、いまだ遺伝子の単離は報告されていない。
発明の開示
重要な農作物の中でも、特にイネは耐塩性の低い作物であり、耐塩性の高い作物であるオオムギが250mMのNaClで生長が半分に抑えられるのに対し、イネは150mMで同じ阻害を受ける。Garbarino等は、オオムギでは根の液胞にNa+を蓄積することで茎葉へのNa+の流れを抑えて耐塩性を高めているのではないかと報告している(Garbarino, J. and DuPont, F.M. (1988) Plant Physiol. 86: 231-236)。これを裏付ける結果として、オオムギ根の液胞膜のNa+/H+対向輸送活性は塩処理によって上昇し、イネよりはるかに高い活性をもつことが分かっている(Garbarino, J. and DuPont, F.M. (1988) Plant Physiol. 86: 231-236; Fukuda, A., Yazaki, Y., Ishikawa, T., Koike, S., and Tanaka, Y. (1998) Plant Cell Physiol. 39: 196-201)。
一方、イネにおいては塩処理により活性は上昇しない(Fukuda, A., Yazaki, Y., Ishikawa, T., Koike, S., and Tanaka, Y. (1998) Plant Cell Physiol. 39: 196-201)。さらに、イネにおける根から茎葉へのNa+輸送は、同じイネ科の植物である耐塩性の高いヨシより高いことが分かっているため(Matsushita, N. and Matoh, T. (1991) Physiol. Plant. 83: 170-176)、根の液胞膜のNa+/H+対向輸送活性の強さがイネの耐塩性に強く関係している可能性がある。これらの報告は、イネ根のNa+/H+対向輸送活性を高めることが、イネの耐塩性を高め得る可能性を示唆している。このためイネのNa+/H+対向輸送体活性を高め得る遺伝子の単離が強く望まれていた。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたなされたものであり、その目的は、単子葉植物、好ましくはイネ由来のNa+/H+対向輸送体および該輸送体をコードするDNA、並びにそれらの製造および用途を提供することにある。本発明は、本発明のDNAの好ましい用途として、耐塩性植物体の作出のための該遺伝子の利用を提供する。
本発明者らは、出芽酵母のNa+/H+対向輸送体(NHX1)遺伝子とホモロジーがある塩基配列をGeneBankの高等植物のデータベースから解析し、イネの花序由来のcDNAクローンを同定した。この配列をプローブとして用いて、イネcDNAライブラリーをスクリーニングし、イネのNa+/H+対向輸送体をコードすると予想される、「OsNHX1」と命名された新規遺伝子の全長をクローニングすることに成功した。
単離されたOsNHX1 cDNAは約2.3kbであり、535アミノ酸からなるタンパク質をコードしていると予想される(図1)。アミノ酸の疎水性解析の結果、該タンパク質には12の膜貫通領域が検出された(図2)。
OsNHX1から予想されるアミノ酸配列は、NHX1や哺乳類のNa+/H+対向輸送体(NHE)のアミノ酸配列と有意な相同性が検出された(表1)。特に、イオン輸送に関係していると思われる膜貫通領域で高い相同性が見られた(図3)。
現在まで報告されている種々のNa+/H+対向輸送体について系統樹を作成すると、出芽酵母のNHX1、哺乳類のNHE6、OsNHX1の3つがクラスターをつくることが判明した(図4)。NHX1は後期エンドソームで発現しているという報告があり(Nass, R. and Rao, R. (1998) J. Biol. Chem. 273: 21054-21060)、また、NHE6も細胞内で発現していることが示唆されている(Numata, M., Petrecca, K., Lake, N., and Orlowski (1998) J., J. Biol. Chem. 273: 6951-6959)ことから、本発明のOsNHX1は、液胞などの細胞内器官で発現し、液胞膜へのNa+輸送に重要な働きをしていると考えられる。
本発明者等は、さらに、アグロバクテリウム法を利用して、単離したOsNHX1遺伝子をイネカルスに導入し、これを再分化させてトランスジェニック植物体を得ることにも成功した。
本発明は、単子葉植物由来の新規なNa+/H+対向輸送体および該輸送体をコードするDNA、並びにそれらの製造および用途、特に耐塩性植物の作出のための用途に関し、より具体的には、
1.下記(a)または(b)に記載のDNA、
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
2.単子葉植物由来のNa+/H+対向輸送体をコードする下記(a)または(b)に記載のDNA、
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA。
3. 単子葉植物がイネ科植物である、(2)に記載のDNA、
4. (1)または(2)に記載のDNAを含むベクター、
5. (1)若しくは(2)に記載のDNAまたは()に記載のベクターを保持する形質転換細胞、
6. 植物細胞である、(5)に記載の形質転換細胞、
7. (1)または(2)に記載のDNAによりコードされるタンパク質、
8. (5)に記載の形質転換細胞細胞を培養し、該細胞またはその培養上清から発現させたタンパク質を回収する工程を含む、(7)に記載のタンパク質の製造方法、
9. (6)に記載の形質転換細胞を含む形質転換植物体、
10. 単子葉植物である、(9)に記載の形質転換植物体、
11. イネ科植物である、(10)に記載の形質転換植物体、
12. イネである、(11)に記載の形質転換植物体、
13 (9)から(12)のいずれかに記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体、
14. (9)から(13)のいずれかに記載の形質転換植物体の繁殖材料、
15. (7)に記載のタンパク質に結合する抗体、
16. 配列番号:1に記載のDNAとハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有する核酸分子、を提供するものである。
本発明は、単子葉植物由来の新規なNa+/H+対向輸送体および該輸送体をコードするDNAを提供する。本発明者等により単離されたイネ由来のNa+/H+対向輸送体「OsNHX1」をコードするcDNAの塩基配列を配列番号:1に、該cDNAがコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。
「OsNHX1」遺伝子は、既知の複数のNa+/H+対向輸送体のアミノ酸配列と有意な相同性を有しており、特にイオン輸送に関連する部分において高い相同性が認められた。この事実は、「OsNHX1」タンパク質が、イネにおけるNa+輸送に重要な役割を果たしていることを示唆する。植物のNa+/H+対向輸送体は、高塩ストレス下においては、植物体内の浸透圧のバランスの確保に関与していることが考えられている。従って、「OsNHX」遺伝子は、特に、植物の耐塩性品種の作出などへの応用が可能であると考えられる。
本発明には、「OsNHX1」タンパク質のみならず、これと同等の機能を有するタンパク質も含まれる。本発明において「「OsNHX1」タンパク質と同等の機能を有する」とは、対象となるタンパク質がNa+/H+対向輸送体として機能することを指す。Na/H対向輸送体活性は、例えば、単離した生体膜小胞内外にH-ATPaseによって形成させたH濃度勾配をアクリジンオレンジの蛍光消光によってモニターし、Na添加による生体膜小胞内からのHの排出を蛍光の回復として測定することができる(Fukuda, A., Yazaki, Y., Ishikawa, T., Koike, S., and Tanaka, Y. (1998) Plant Cell Physiol. 39: 196-201.)。
「OsNHX1」タンパク質と同等な機能を有するタンパク質の1つの態様は、「OsNHX1」タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:2)において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/若しくは付加したアミノ酸配列を有し、「OsNHX1」タンパク質と同等な機能を有する変異タンパク質である。このようなタンパク質は、例えば、以下の方法により調製することが可能である。当業者によく知られた方法としては、例えば、「OsNHX1」タンパク質のアミノ酸に変異を導入する方法が挙げられる。即ち、当業者であれば、例えば、タンパク質の活性を高めるなどの目的で、部位特異的変異導入法(site-directed mutagenesis法)(Kramer, W.& Fritz,H.-J. Oligonucleotide-directed construcyion of mutagenesis via gapped duplex DNA.Methods in Enzymology, 154: 350-367, 1987)などを利用して、「OsNHX1」タンパク質(配列番号:2)中のアミノ酸配列を改変し、「OsNHX1」タンパク質と同等の機能を有する改変タンパク質を調製することが可能である。また、アミノ酸の変異は自然界において生じることもある。本発明のタンパク質には、このように人工的であると天然由来であるとを問わず、天然型の「OsNHX1」タンパク質のアミノ酸配列(配列番号:2)において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加したアミノ酸配列を有し、該タンパク質と同等の機能を有するタンパク質が含まれる。タンパク質におけるアミノ酸の改変部位および改変個数は、改変後のタンパク質が天然型の「OsNHX1」タンパク質と同等の機能を有する限り、特に制限はない。アミノ酸の改変は、一般的には、100アミノ酸以内であり、好ましくは50アミノ酸以内であり、さらに好ましくは20アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内である。
また、「OsNHX1」タンパク質と同等な機能を有するタンパク質の他の態様は、「OsNHX1」タンパク質をコードするDNA(配列番号:1)とハイブリダイズする単子葉植物由来のDNAがコードするタンパク質であって、「OsNHX1」タンパク質と同等な機能を有するタンパク質である。このようなタンパク質を調製するために、当業者によく知られた他の方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E.M.: Journal of Molecular Biology, Vol. 98, 503, 1975.)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K. et al. Science, vol.230, 1350-1354, 1985、Saiki, R. K. et al. Science, vol.239, 487-491, 1988)が挙げられる。即ち、当業者にとっては、「OsNHX1」遺伝子の塩基配列(配列番号:1)もしくはその一部をプローブとして、また「OsNHX1」遺伝子の塩基配列(配列番号:1)に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、イネ若しくは他の単子葉植物から「OsNHX1」遺伝子と高い相同性を有するDNAを単離し、該DNAから「OsNHX1」タンパク質と同等の機能を有するタンパク質を得ることは通常行いうることである。このようにハイブリダイズ技術やPCR技術により単離しうる「OsNHX1」タンパク質と同等の機能を有する単子葉植物由来のタンパク質もまた本発明のタンパク質に含まれる。
ハイブリダイズ技術やPCR技術により遺伝子を単離するための植物としては、単子葉植物、好ましくはイネ科植物が挙げられる。イネ科植物としては、例えば、イネ以外に、オオムギ(Hordeum vulgare)、コムギ(Triticum aestivum)、トウモロコシ(Zea mays)などが挙げられるが、これらに制限されない。
上記の技術を利用して、「OsNHX1」タンパク質と同等な機能を有するタンパク質をコードするDNAを単離する方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられるが、これらに限られない。例えば、32P等でラベルしたプローブ(例えば、配列番号:1に記載の塩基配列からなるDNAまたはその一部)を用いて、単子葉植物から調製したcDNAあるいはゲノミックライブラリーを用いたハイブリダイゼーションを行う。32Pでラベルしたプローブを用いたハイブリダイゼーションの条件は、ハイブリダイゼーション溶液(50% formamide, 5x SSPE, 2x Denhard's solution, 0.1% (w/v) SDS, and 100 μg/ml of herring sperm DNA (Sambrook J, Fritsch EF, Maniatis T (1989) Molecular cloning : A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Lab., Cold Spring Harbor, NY), 2nd Ed.))を用いて緩やかな条件では25℃(formamideを含まない)、通常の条件では42℃で行う。プレハイブリダイゼーションは少なくとも1時間以上行い、ハイブリダイゼーションの時間を24時間で行う。ハイブリダイゼーションを行ったフィルターの洗浄は、緩やかな条件(低ストリンジェントな条件)では25℃(洗浄用溶液: 2x SSC, 0.1% SDS)、通常の条件では42 ℃(洗浄用溶液: 2x SSC, 0.1% SDS)、厳しい条件(高ストリンジェントな条件)では56℃(洗浄用溶液: 0.1x SSC, 0.1% SDS)で行う。
これにより単離されたDNAがコードするタンパク質が「OsNHX1」タンパク質と同等の機能を有す場合、通常、「OsNHX1」タンパク質とアミノ酸配列において高い相同性を有する。高い相同性とは、少なくとも60%以上の相同性、好ましくは80%以上の相同性、さらに好ましくは85%以上の相同性、さらに好ましくは90%以上の相同性を指す。アミノ酸配列の相同性は、例えば、GENETYXソフトウエア(ソフトウエア開発株式会社)のホモロジー解析プログラム(Lipman, D.J. and Pearson, W.R. (1985) Science 227, 1435-1441)により算出することができる。
本発明のタンパク質は、当業者に公知の方法により、組み換えタンパク質として、また天然のタンパク質として調製することができる。組み換えタンパク質は、後述するが、例えば、本発明のタンパク質をコードするDNAを適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを適当な細胞に導入し、該形質転換細胞から精製することにより調製することが可能である。また、天然のタンパク質は、例えば、調製した組み換えタンパク質若しくはその部分ペプチドを適当な免疫動物に免疫することにより調製した抗体を結合したアフィニティーカラムに、本発明のタンパク質を発現している細胞(例えば、イネ細胞)などから調製した抽出液を接触させて、該カラムに結合するタンパク質を精製することにより調製することができる。
また、本発明は、上記本発明のタンパク質をコードするDNAを提供する。本発明のDNAは、本発明のタンパク質をコードし得るものであれば特に制限はなく、ゲノムDNA、cDNA、および化学合成DNAなどが含まれる。本発明のDNAに含まれる「OsNHX1」cDNAの塩基配列を配列番号:1に示す。
ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。例えば、ゲノムDNAは、本発明の遺伝子の塩基配列情報から適当なプライマー対を設計してPCRを行い、得られる増幅DNA断片をプローブとして用いてゲノミックライブラリーをスクリーニングすることによって単離することができる。また、例えば、同様にしてcDNAライブラリーからcDNAを単離することができる。
本発明のDNAは、例えば、組み換えタンパク質の調製や耐塩性の形質転換植物体の作出などに利用することが可能である。組み換えタンパク質を調製する場合には、通常、本発明のタンパク質をコードするDNAを適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを適当な細胞に導入し、形質転換細胞を培養して発現させたタンパク質を精製する。
組み換えタンパク質は、例えば、本発明のタンパク質をコードするDNAが挿入されたベクターを、エレクトロポレーション法やリン酸カルシウム法などの公知の遺伝子導入法を利用して、大腸菌等のバクテリア、酵母、昆虫細胞、哺乳動物細胞などに導入し、これら細胞内で組み換えタンパク質を発現させて調製することができる。宿主細胞内で発現させた組み換えタンパク質は、当業者に公知の方法により精製することが可能である。例えば、大腸菌ではpGEX(Pharmacia)などの発現ベクターを用いてグルタチオン S-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として発現させ、グルタチオンカラムを用いて精製することができる(大野茂男, 西村善文 (1997) 細胞工学別冊タンパク実験プロトコール, 秀潤社)。
また、本発明のDNAを利用して形質転換植物体を作製する場合には、本発明のタンパク質をコードするDNAを適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させる。植物細胞への植物発現ベクターの導入には、植物細胞の種類に応じて、例えば、アグロバクテリウムを介する方法や直接細胞に導入する方法を用いることが可能である。アグロバクテリウムを介する方法としては、例えば、Nagelらの方法(Microbiol. Lett. 67, 325 (1990))やイネの場合Raineriらの方法(BIO/TECHNOLOGY 8, 33-38 (1990))が用いられる。これらの方法は、植物発現ベクター(pUC系のベクターなど。例えば、pCAMBIAベクター(Medical Research Council)など)を用いてアグロバクテリウムを形質転換し、形質転換されたアグロバクテリウムをリーフディスク法やカルス法等によって植物細胞に導入する方法である。植物発現ベクターを直接細胞に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、リン酸カルシウム法、及びポリエチレングリコール法などが挙げられる。
ベクターを挿入する植物細胞としては、特に制限はないが、単子葉植物、好ましくはイネ科植物の細胞である。イネ科植物としては、イネ以外に、例えばトウモロコシなどが挙げられる。なお、本発明の「植物細胞」には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。
ベクターを挿入したトランスジェニック植物細胞からトランスジェニック植物体の再生には、植物の種類に応じて、例えば、カルスの再分化法(Kyozuka, J. and Shimamoto, K. (1991) Plant Tissue Culture Manual. Kluwer Academic Publishers, pp B1, 1-16、Toki, S. (1997) Plant Molecular Biology 15, 16-21)やプロトプラストを用いた再分化法(Shimamoto, K. et al. (1989) Nature 338, 274-276 ; Kyozuka, J. et al. (1987) Mol. Gen. Genet. 206, 408-413)などが用いられ得る。
これにより作出されたトランスジェニック植物体は、野生型植物体と比較して高いNa+/H+対向輸送体活性を示し、これにより耐塩性が付与されると考えられる。また、一旦、ゲノム内に本発明のDNAが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明のDNAが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、並びに該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。
このような野生型植物体と比較した高いNa+/H+対向輸送体活性は、Na+/H+対向輸送体の高発現(量的変化)によって達成しても、より高い活性を有するNa+/H+対向輸送体の発現(質的変化)によって達成しても、これら双方であってもよい。
また、本発明は、上記本発明のタンパク質に結合する抗体を提供する。本発明の抗体には、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体が含まれる。抗体の作製は、当業者に公知の方法、例えば、Harlowらの方法(Harlow, E. and Lane, D. (1988) Antibodies : A laboratory manual. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York)を用いることができる。ポリクローナル抗体は、ウサギに大腸菌などで合成させた融合タンパク質や合成ペプチドを抗原として注射し、得られた抗血清をアフィニティーカラムにかけて抗体を精製することで得られる。モノクローナル抗体は、マウスやラットに抗原を注射し、ハイブリドーマを調製してクローニングを行い、得られた抗体をアフィニティーカラムにかけることで得られる。
また、本発明は、本発明のタンパク質をコードするDNAとハイブリダイズする、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有する核酸分子を提供する。このような核酸分子は、例えば、本発明のタンパク質をコードするDNAを検出または単離するためのプローブとして、また増幅するためのプライマーとして利用することが可能である。このような核酸分子は、好ましくは本発明のタンパク質をコードするDNAと特異的にハイブリダイズする。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、本発明のタンパク質をコードするDNAとハイブリダイズし、他のタンパク質をコードするDNAとハイブリダイズしないことを指す。
また、このような核酸分子は本発明のタンパク質の発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム等として利用することも可能である。アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、それらの誘導体や修飾体を使用することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、タンパク質の発現を抑制し得る限り、DNAまたはmRNAの所定の領域を構成するヌクレオチドに対し完全に相補的である必要はなく、1 又は複数個のヌクレオチドのミスマッチが存在していてもよい。本発明のタンパク質の発現を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチドやリボザイムは、本発明のタンパク質の機能を解析するための非常に有用なツールとなる。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
[実施例1] イネNa+/H+対向輸送体遺伝子のクローニング
出芽酵母で得られたNa+/H+対向輸送体(NHX1)とホモロジーがあるシーケンスをGeneBankの高等植物のデータベースから解析し、イネの花序由来のcDNAクローンを同定した。そのクローンから予想されるアミノ酸配列は、NHX1と37%のホモロジーがあった。得られたcDNAクローンは全長の塩基配列が挿入されていないことが予想されたので、そのcDNAクローンをプローブとして、イネ(Oryza sativa L.cv Nipponbare)幼植物の根から調製したmRNAを鋳型にして合成したcDNAライブラリーから、全長が挿入されたcDNAクローンの選抜を試みた。
イネは、一晩浸水させ、栄養塩類溶液(0.5 mM NH4H2PO4, 1 mM KNO3, 0.5 mM MgSO4, 12.5 μM Fe-EDTA, 1 mM CaCl2, micronutrients)を用いて水耕栽培した。昼(光度40 μmol m-2 s-1)14時間30℃、夜10時間25℃、湿度75%の栽培条件で7日間栽培した。
cDNAライブラリーは、イネ幼植物の根からポリ(A+) RNAを調製し、5から25%のスクロース密度勾配遠心によってサイズ分画を行い、比較的大きいポリ(A+) RNAを含む分画から構築した(Tanaka, Y. et al.(1989) Plant Physiol. 90, 1403-1407)。サイズ分画を行ったポリ(A+) RNAは、GublerとHoffmanの方法(Gubler, U. and Hoffman, B.J. (1983) Gene 25, 263-269)によってオリゴdTをプライマーとして2本鎖cDNAを合成し、Asahipack GS710カラム(Asahi Chemical Industry Co. Ltd., Tokyo; 2.5X50 cm)を用いて高速液体クロマトグラフィー(Tosoh, Tokyo, model CCPD)によってサイズ分画を行った。2kb以上のcDNAをλgt11のEco RI サイトに挿入した。
構築したcDNAライブラリーをもつλファージを用い、NHX1とホモロジーのあるcDNAクローンをプローブとしてプラークハイブリダイゼーションを行った。シグナルのあったプラークの中から、ベクターに挿入されたcDNAが最も長いものを選び、切り出したcDNA をpBluescript (KS+)ベクター(Stratagene社)に挿入してクローニングを行った。得られたcDNAクローンが全長であることの確認は、そのクローンをプローブとして、イネ植物体から抽出したRNAを用いたノーザンハイブリダイゼーションによって得られたシグナルのサイズによって確認した。単離された遺伝子(OsNHX1と称する)全長が挿入されたcDNAクローンの全塩基配列を決定した(図1)。
[実施例2] OsNHX1遺伝子の塩基配列およびアミノ酸配列の解析
全長は2330塩基対、5'非翻訳領域は296塩基対、翻訳領域は1608塩基対、3'非翻訳領域は426塩基対であった。OsNHX1がコードしているタンパク質は535アミノ酸と予想され、分子量の計算値は59,070であった。予想されるアミノ酸配列は、59%の疎水性, 22%の中性, 19%の親水性アミノ酸から成り、疎水性の高いタンパク質であることが考えられた。KyteとDoolittleの方法(Kyte, J. and Doolittle, R. F. (1982) J.Mol. Biol. 157, 105-132)による疎水性解析の結果を図2に示す。TMpred program(Hofmann, K. and Stoffel, W. (1993) Biol. Chem. Hoppe-Seyler 374, 166)による解析によって、12回膜貫通領域を検出した。
OsNHX1から予想されるアミノ酸配列は、NHX1や哺乳類のNa+/H+対向輸送体(NHE)のアミノ酸配列と有意な相同性が検出された(表1;表中、NHX1は酵母[S. cerevisiae]由来、NHE6はヒト由来、NHE1~4はラット由来である。また、表中の数値の算出には、GENETYX (ver.10)ソフトウエア(ソフトウエア開発株式会社)のホモロジー解析プログラムを用いた(Lipman, D.J. and Pearson, W.R. (1985) Science 227, 1435-1441)。特に、イオン輸送に関係していると思われる膜貫通領域で高い相同性が見られた(図3)。OsNHX1のアミノ酸部分配列である83LFFIYLLPPI92の領域は、NHX1やNHEでも非常によく保存されており、真核生物のNa+/H+対向輸送体を阻害するアミロライドの結合部位と考えられている(Counillon, L. et al., (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 4508-4512)(図3A)。また、真核生物のNa+/H+対向輸送体では、6番目と7番目の膜貫通領域がよく保存されており、Na+とH+の輸送に重要な働きをしていると考えられている(Orlowski, J. and Grinstein, S. (1997) J. Biol. Chem. 272, 22373-22376)が、OsNHX1の5番目と6番目の膜貫通領域はこれらの領域と相同性が高かった(図3B)。以上のことは、OsNHX1がコードするタンパク質がNa+/H+対向輸送活性を持つことを示唆している。
表1
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OsNHX1と他のNa+/H+対向輸送体とのアミノ酸配列の相同性(%)
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OsNHX1 NHX1 NHE6 NHE1 NHE2 MHE3 NHE4
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OsNHX1 100 29.5 33.0 30.1 29.4 26.7 27.7
NHX1 100 36.1 28.6 29.1 29.3 32.0
NHE6 100 31.9 29.1 31.8 28.6
NHE1 100 48.9 37.1 45.5
NHE2 100 44.7 66.0
NHE3 100 44.6
NHE4 100
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現在まで報告されている種々のNa+/H+対向輸送体、すなわち、哺乳類のNHE、出芽酵母(S. cerevisiae)のNHX1およびNHA1、分裂酵母(S. pombe)の細胞質膜で発現していると思われるSod2、酵母(Zygosaccharomyces rouxii)のZSod2、大腸菌(E. coli)のNhaAおよびNhaB、及びOsNHX1(図中「OsNHX1」と表記)についてNJ 法により系統樹を作成すると、NHX1、NHE6、OsNHX1の3つがクラスターをつくることが判明した(図4)。NHX1が後期エンドソームで発現しているという報告があり(Nass, R. and Rao, R. (1998) J. Biol. Chem. 273: 21054-21060)、また、NHE6も細胞内で発現していることが示唆されている(Numata, M., Petrecca, K., Lake, N., and Orlowski, J., J. Biol. Chem. 273: 6951-6959)。これらのことから、OsNHX1が液胞などの細胞内器官で発現し、これら器官においてNa+輸送に重要な働きをしていると考えられる。
[実施例3] イネNa+/H+対向輸送体遺伝子を発現する形質転換イネの作出
pBluescript KS+(STRATAGENE社)のBamHIサイトに挿入したOsNHX1をKpnIとNotIにより切り出し、Ti-plasmid由来でカナマイシンとハイグロマイシン耐性遺伝子を導入したpMSH1(高発現用)およびpMSH2(発現抑制用)ベクター(pMSH1については、Kawasaki, T. et al.,(1999) Proceedings of the National Academy of Sciences of the U.S.A. 96, 10922-10926. pMSH2はpMSH1のマルチクローニングサイトが逆向きになったもの)のカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター下流に挿入した。構築したベクターを用いて、アグロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens )によりイネカルスを形質転換した。カルスは種子から誘導し、アグロバクテリウム感染後の選抜をハイグロマイシンで行った。選抜したカルスを再分化させ、形質転換植物体を得た。なお、形質転換および再分化は土岐の方法(Toki, S. (1997) Plant Molecular Biology 15, 16-21)に基本的に従って行なった。
産業上の利用の可能性
本発明において、単離されたNa+/H+対向輸送体遺伝子は、植物体内で発現させることにより、該植物体に塩耐性を付与することができると考えられる。このため、例えば、イネなど有用農作物に導入することにより耐塩性を向上させ、乾燥地等においても塩害を受けず、農作物の収穫量を増大させる上で大いに貢献しうる。
【配列表】
JP0003955938B2_000002t.gifJP0003955938B2_000003t.gifJP0003955938B2_000004t.gifJP0003955938B2_000005t.gifJP0003955938B2_000006t.gifJP0003955938B2_000007t.gifJP0003955938B2_000008t.gifJP0003955938B2_000009t.gifJP0003955938B2_000010t.gifJP0003955938B2_000011t.gifJP0003955938B2_000012t.gifJP0003955938B2_000013t.gif
【図面の簡単な説明】
図1は、イネのNa/H対向輸送体(OsNHX1)cDNAの塩基配列、および予想されるアミノ酸配列を示す図である。アミノ酸配列は一文字表記で表した。
図2は、OsNHX1タンパク質のアミノ酸の疎水性プロットを示す図である。横軸はアミノ酸残基、縦軸は疎水度を示す。予想される膜貫通領域をボックス内の数字で示した。
図3は、OsNHX1と他のNa/H対向輸送体とのアミノ酸配列の比較を示す図である。膜貫通領域(M3~M6)を配列の上部に示した。全てのアミノ酸が同一の場合は「*」を、類似したアミノ酸の場合は、類似度が高い順に「:」または「.」をアミノ酸の下部に示した。AのボックスはNa輸送体の特異的阻害剤アミロライドの結合部位を表し、Bのボックスは哺乳類のNa/H対向輸送体において相同性が高い部位を表す。
図4は、ClustalX(Thompson,J.D.et al.,(1994)Nucleic Acids Research,22:4673-4680)(最近隣(NJ)法)を用いたNa/H対向輸送体の系統発生学的解析の結果を示す図である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3