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明細書 :タバコのレトロトランスポゾンを利用した遺伝子破壊法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4543161号 (P4543161)
登録日 平成22年7月9日(2010.7.9)
発行日 平成22年9月15日(2010.9.15)
発明の名称または考案の名称 タバコのレトロトランスポゾンを利用した遺伝子破壊法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12N 15/00 A
C12N 5/00 C
請求項の数または発明の数 4
全頁数 17
出願番号 特願2000-620076 (P2000-620076)
出願日 平成11年5月25日(1999.5.25)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第1項適用 第21回日本分子生物学会年会プログラム・講演要旨集(平成10年11月25日)第256ページに発表
国際出願番号 PCT/JP1999/002749
国際公開番号 WO2000/071699
国際公開日 平成12年11月30日(2000.11.30)
審判番号 不服 2007-013472(P2007-013472/J1)
審査請求日 平成15年7月24日(2003.7.24)
審判請求日 平成19年5月9日(2007.5.9)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】廣近 洋彦
【氏名】岡本 裕行
個別代理人の代理人 【識別番号】100078282、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 秀策
【識別番号】100062409、【弁理士】、【氏名又は名称】安村 高明
【識別番号】100113413、【弁理士】、【氏名又は名称】森下 夏樹
参考文献・文献 重点領域研究「植物器官プラン」総括班,植物の可変的な器官プランの分子的基礎,平成6年度研究成果報告集,1995,p.114-115
Plant Cell,1996,Vol.8,p.725-734
EMBO J.,1995,Vol.14,p.2364-2373
調査した分野 C12N15/00-15/90
C12N5/00-5/10
A01H5/00
JSTPlus(JDreamII)
PubMed
AGRICOLA/BIOSIS(STN)
WPIDS/CROPU(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
タバコレトロトランスポゾンTto1を用いて植物における遺伝子を破壊する方法であって、
該レトロトランスポゾンTto1を該植物に導入する工程;
該レトロトランスポゾンTto1が導入された植物を培養することにより再分化させ、形質転換植物を作出する工程
該レトロトランスポゾンTto1を1コピー数で含有する植物を選抜する工程
該選抜された形質転換植物から後代植物を得る工程;および
該後代植物を組織培養して植物体に再分化させる工程
を包含する方法。
【請求項2】
前記植物がタバコ以外の植物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記植物が作物植物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記植物がシロイヌナズナである、請求項2に記載の方法。
発明の詳細な説明 技術分野
本発明は、トランスポゾンタギングによる遺伝子破壊および遺伝子単離に関する。より詳細には、本発明は、タバコレトロトランスポゾンを使用する異種植物(例えば、シロイヌナズナ)の遺伝子破壊に関する。
背景技術
挿入因子による遺伝子破壊は、有用遺伝子の単離および機能解析において重要な手段となっている。モデル植物として研究の進められているシロイヌナズナにおいては、挿入因子として、T-DNAおよびトランスポゾンが用いられている。
T-DNAの場合、アグロバクテリアを用いてTiプラスミドを形質転換させると、Tiプラスミドの一部であるT-DNAが植物染色体に挿入され、遺伝子が破壊される。しかし、T-DNAによる遺伝子破壊では、変異体がT-DNAがうまく組み込まれなかったことにより実質的にタグされていない例が50~60%にのぼるという報告がある。
トランスボゾンの場合、形質転換の過程もしくはその後の転移の過程で遺伝子破壊が生じる。トランスポゾンは、動物、酵母、細菌および植物のゲノムに遍在することが知られる変異誘発遺伝子である。トランスポゾンは、その転移(trans position)機構により2つのクラスに分類されている。クラスIIに属するトランスポゾンは、複製することなくDNAの形態で転移する。クラスIに属するトランスポゾンは、レトロトランスポゾンとも呼ばれ、複製し、そしてRNA中間体を介して転移する。
クラスIIに属するトランスポゾンとして、トウモロコシ(Zea mays)のAc/Ds、Spm/dSpmおよびMu要素(Fedoroff、1989、Cell 56、181-191;Fedoroffら、1983、Cell 35、235-242;Schiefelbeinら、1985、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82、4783-4787)、キンギョソウ(Antirrhinum majus)のTam要素(Bonasら、1984、EMBO J、3、1015-1019)が知られている。クラスIIに属するトランスポゾンは、トランスポゾン・タッギングを利用する遺伝子単離に広く利用されている。この技術は、トランスポゾンがゲノム上で転移して、ある遺伝子中に挿入されると遺伝子の生理学的および形態学的変異が起こり、遺伝子が制御する表現型が変化することを利用する。この変化を検出することにより影響を受けた遺伝子を単離する(Bancroftら、1993、The Plant Cell、5、631-638;Colasantiら、1998、Cell、93、593-603;Grayら、1997、Cell、89、25-31;Keddieら、1998、The Plant Cell、10、877-887;Whithamら、1994、Cell、78、1101-1115)。しかし、DNA型のトランスポゾンによるタギングでは、トランスポゾンが切り出されてしまったためタグされていない変異体が報告されている(Bancroftら、1993、The Plant Cell、5、631-638)。これらのトランスポゾンはまた、主に染色体上の近傍の部位に転移する性質を有することが知られている(BancroftおよびDean、1993、Genetics、134、1221-1229;Kellerら、1993、Theor.Appl.Genet.、86、585-588)。すべての遺伝子を綱羅した破壊系統を作出するためには、これらのトランスポゾンとは異なり染色体上をランダムに転移するトランスポゾンの利用が望まれている。また、これらの因子の組み込みの標的部位にそれぞれ特徴があるため、これらの因子とは異なった因子による遺伝子破壊系の作出が望まれている。
クラスIトランスポゾンは、最初、ショウジョウバエおよび酵母で同定され、そして特徴付けられたが、最近の研究により植物ゲノム中に遍在し、そのかなりの部分を占めていることが明らかにされている(Bennetzen、1996、Trends Microbiolo.、4、347-353;Voytas、1996、Science、274、737-738)。レトロトランスポゾンの大部分は、非移動性の組み込みユニットであるようである。レトロトランスポゾンは、両端に同方向反復配列であるLTRをもち、その内側にウイルス様粒子を構成するgagタンパクと逆転写酵素polタンパクなどをコードする領域を有する。LTRプロモーターから転写されて生じたRNAはpolタンパクによって逆転写されてcDNAとなり、宿主染色体に挿入される。レトロトランスポゾンの使用は、転移がそれ自身のコードするタンパクによって行われ、また転移コピーが切り出されることはないため、遺伝子破壊の手法としては優れている。
最近の研究は、レトロトランスポゾンのいくつかが、創傷、病原体の攻撃および細胞培養などのストレス条件下で活性化されることを示している(Grandbastien、1998、Trends in Plant Science、3、181-187;Wessler、1996、Curr.Biol.6,959-961;Wesslerら、1995、Curr.Opin.Genet.Devel.5,814-821)。例えば、タバコではTnt1AおよびTto1(Pouteauら、1994、Plant J.、5、535-542;Takedaら、1988、Plant Mol.Biol.、36、365-376)、およびイネではTos17(Hirochikaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、93、7783-7788(1996))について、ストレス条件下における活性化が報告されている。
イネにおいては、イネレトロトランスポゾンTos17が、培養により活性化され、遺伝子内に転移する(Hirochikaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、93、7783-7788(1996))ことから、イネの大量遺伝子破壊の手段として利用されている。
ところが、シロイヌナズナでは、転移活性のあるレトロトランスポゾンはこれまでに単離されていない。Grandbastlenらにより単離されたタバコレトロトランスポゾンTnt1がシロイヌナズナに形質転換により導入される過程で転移することが報告されたが、遺伝子内に転移するかどうかは明らかになっていない(Lutasら、1995、EMBO J.、14、2364-2393)。タバコレトロトランスポゾンTto1もまた、シロイヌナズナに導入される過程で転移することが示された(HirochikaおよびKakutani、投稿準備中)。Tto1は、イネにおいて培養によって転移する(Hirochikaら、1996、Plant、Cell、8、725-734)ことから、幅広い宿主で転移能を持つことが示唆される。しかし、転移の頻度は系統により異なっていて、必ずしも高頻度の転移が再現よくみられたわけではなかった。発明の開示
シロイヌナズナにおいてもタバコレトロトランスポゾンTto1が転移して遺伝子破壊を生じるかどうかを検討した。Tto1を低コピーで有するシロイヌナズナを培養して再分化させ、Tto1の転写量およびTto1標的部位における隣接配列の系統的な分析を行ったところ、培養細胞でTto1が転移し、クローン細胞から再分化した形質転換個体が提供された。Tto1の隣接配列を増幅して配列決定し、相同性解析を行った結果、様々な遺伝子の内部にTto1が挿入された多数の例が認められた。
以上の結果は、Tto1が、活性なレトロトランスポゾンを持たないとされるシロイヌナズナにおいて、トランスポゾンタギングによる遺伝子単離の新たな手段として利用可能であることを示している。シロイヌナズナにおける、レトロトランスポゾンを用いた遺伝子破壊および遺伝子単離の可能性を示したのは本研究が初めてである。内在性ではなく異種のレトロトランスポゾンを用いても、トランスポゾンタギングによる遺伝子破壊および遺伝子単離が可能であることが、本願により明らかにされた。
本発明は、タバコレトロトランスポゾンを用いて植物における遺伝子を破壊する方法であって、当該レトロトランスポゾンを該植物に導入する工程;および当該レトロトランスポゾンが導入された植物を培養することにより再分化させ、形質転換植物を作出する工程を包含する、方法に関する。
本発明の1つの実施態様では、上記レトロトランスポゾンはTto1である。
本発明の1つの実施態様では、上記植物は、タバコ以外の植物である。好ましくは、上記植物は作物植物である。好ましくは、上記植物はシロイヌナズナである。
本発明の1つの実施態様では、上記レトロトランスポゾンが導入された植物は、当該レトロトランスポゾンを低コピー数で含有する。低コピー数とは、1~5コピーを意味し、好ましくは、1~3コピーであり、より好ましくは、1~2コピーであり、最も好ましくは1コピーである。
本発明の1つの実施態様では、上記方法は、上記形質転換植物から後代植物を得る工程、および該後代植物を組織培養して植物体に再分化させる工程をさらに包含する。
発明を実施するための最良の形態
本発明によれば、タバコレトロトランスポゾンを用いて植物における遺伝子を破壊する方法が提供される。
本願明細書で用いる用語「遺伝子を破壊する」とは、細胞にDNAを導入し、転移による組換え体を選択することにより、目的の特定遺伝子に突然変異を導入し、その結果、その遺伝子を破壊することを意味する。従って、本願発明の遺伝子破壊が達成されるためには、レトロトランスポゾンは、単に植物細胞内に入るだけではなく、植物細胞内に含まれる遺伝子のゲノム上に組み込まれることを必要とする。本願明細書で用いる用語「転移」は、組み込まれたレトロトランスポゾンがゲノム上の別の部位にさらに組み込まれることを指す。
本発明で用いられるタバコレトロトランスポゾンは、好ましくは、Tto1である。Tto1は、全長が5.3kbであって、574bpのLTRを両端に有し、1338アミノ酸からなるORFを有するTyl/copiaタイプのレトロトランスポゾンである。Tto1は、タバコにおいて、培養および傷、ジャスモン酸、ウイルス感染などのストレスにより活性化される。Tto1は、タバコにおいて、培養により転移を活性化することが知られていた。本願では、Tto1が、タバコとは異種の植物であるシロイヌナズナに対しても転移を生じ、さらにシロイヌナズナにおける遺伝子の破壊をも生じた。
用語「植物」は、遺伝子導入のできるいずれの植物をも包含する。「植物」は、単子葉植物および双子葉植物を包含する。このような植物には、モデル植物であるシロイヌナズナおよび任意の作物植物が含まれる。作物植物としては、例えば、イネ、コムギ、トウモロコシ、ジャガイモ、ナタネ(アブラナ科)、トマト、ダイズなどが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の「タバコレトロトランスポゾンを用いて植物における遺伝子を破壊する方法」は、該レトロトランスポゾンを該植物に導入する工程;および該レトロトランスポゾンが導入された植物を培養することにより再分化させ、形質転換植物を作出する工程を包含する。
植物体へのレトロトランスポゾンの導入には、当業者に公知の方法が用いられ得る。例えば、アグロバクテリウムを介する方法と直接細胞に導入する方法とが周知である。アグロバクテリウムを介する方法は、例えば、Nagelらの方法(Micribiol.Lett.、67、325(1990))が用いられ得る。この方法は、まず、例えば発現ベクターをエレクトロポレーションによってアグロバクテリウムに形質転換し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをPlant Molecular Biology Manual(S.B.Gelvin et al.、Academic Press Publishers)に記載の方法で植物細胞に導入する方法である。遺伝子を直接細胞に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、遺伝子銃法が知られている。
遺伝子が導入された細胞は、まずハイグロマイシン耐性等の薬剤耐性で選択され、次いで、常法により、植物体に再生され得る。植物体への再生に用いられ得る培養は、通常当該分野で用いられ得る固形培地および液体培地のいずれもが使用され得る。固形培地での培養の場合、誘導培地中の植物ホルモン(オーキシンおよびサイトカイニン)の量を調節することにより、カルス、シュート、および根を誘導させ得る。液体培地を用いる懸濁培養では、カルスから不定胚を形成させることにより完全な植物体へ再分化させ得る。不定胚の形成のためには、胚軸、葉などのような組織を培養する際に、まず初めにオーキシン含有培地で培養する。黄色粒状カルス(EC)が増殖し、このECは、さらに継代培養できる。次いでこれをオーキシン非含有培地に移植することにより不定胚が形成される。例えば、上記誘導に用いられる培地としては、通常の固体または液体のMurashige-Skoogの基本培地(Murashige T,Skoog F.1962.Physiol.Plant.15:473-497)が用いられ得る。これら植物ホルモンは、天然に存在するものよりもホルモン活性を有する人工的に合成した化合物を用いることが好ましい。植物体への再分化で用い得る好ましい培地としては、Valuekensら、PNAS,85,5536-5540(1988)に記載される再分化培地が挙げられる。培養条件は、例えば、22℃で約4週間培養で実施され得る。
次いで、再生された植物体を、レトロトランスポゾンの転移について解析し得る。このような解析に用いられ得る技術としては、DNAを調べるサザンハイブリダイゼイションおよびRNAを調べるノーザンハイブリダイゼイションが挙げられる。解析のために、例えば、イントロンを逆方向に有するマーカー遺伝子を、転写と逆向に組み込んだ改変レトロトランスポゾンを用いる手法も用いられ得る。このような解析は、当代植物を繁殖させて得た次代植物でも可能である。なぜなら、Tto1は、本願により明らかにされたように、メンデル様式で安定に次代に遺伝するからである。Tto1の転移は、Tto1が導入されてから当代の形質転換植物作成の過程で生じている。
Tto1は、タバコにおいて、培養により転移が活性化されることが知られている(Hirochika、EMBO J.12,2521-2528(1993))。よって、シロイヌナズナについても、培養により転移が活性化されるか否かを検討した。転移コピー数の多く見られた形質転換植物で転移の高活性化が起こると期待されたが、予想に反し、全くまたはほとんど転移をしていない形質転換植物を用いた場合にのみ高度な転移の活性化が見られた(図2)。
本発明の遺伝子破壊のために用いられる植物は、レトロトランスポゾンを低コピー数で有し得る。「低コピー数」とは、1~5コピーを意味し、好ましくは、1~3コピーであり、より好ましくは、1~2コピーであり、最も好ましくは、1コピーである。低コピー数を有する形質転換植物を選抜し、次いでこの植物を組織培養して再分化させることにより、非常に効率よく転移を生じさせ、遺伝子破壊を行い得る。この選抜のために、上記のような解析が用いられ得る。
破壊された遺伝子を解析するために、再分化植物において、転移されたレトロトランスポゾンを標的としてプローブし、その隣接配列を回収し得る。この隣接配列は、PCRによって増幅され得る。PCR増幅の方法は、当該分野で周知である(PCR Technology:Principles and Applications for DNA Amplification、HAErlich編、Freeman Press、NewYork、NY(1992);PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications、Innis、Gelfland、Snisky、およびWhite編、Academic Press、San Diego、CA(1990);Mattilaら(1991)Nucleic Acids Res.19:4967;Eckert、K.A.およびKunkel、T.A.(1991)PCR Methods and Applications 1:17;PCR、McPherson、Quirkes、およびTaylor、IRL Press、Oxford、これらは、本明細書中で参考として援用する)。ここで用いられるオリゴヌクレオチドプライマーは、代表的には、本明細書に記載の方法に従って得られるが、本発明に開示された配列を基に、化学合成によっても得られ得る。例えば、本発明で用いられるオリゴヌクレオチドプライマーは、Applied Bio Systemsのオリゴヌクレオチド合成機を用いて製造業者によって提供される仕様書に従って合成され得る。次いで、隣接配列を当該分野で周知の方法により配列決定し得る。決定された配列を当該分野で周知の相同性検索プログラムを用いて同定し得る。
本発明の方法によって遺伝子破壊が行われる遺伝子は、以下の表1に例示されるが、これらの遺伝子に限定されない。
本発明の1つの実施態様では、上記形質転換植物から後代植物を得る工程、および該後代植物を組織培養して植物体に再分化させる工程をさらに包含する。上述したように、レトロトランスポゾンTto1は、メンデル形式で遺伝するため、レトロトランスポゾンが転移された当代植物のさらに後代の植物を用いても、遺伝子破壊を行い得る。
Tto1が、活性なレトロトランスポゾンを持たないとされるシロイヌナズナにおいて、トランスポゾンタギングによる遺伝子単離の新たな手段として利用可能であることが示された。レトロトランスポゾンの培養・再分化によって独立な遺伝子破壊系統を得るという手法は、イネのTos17などの内在性のレトロトランスポゾンについては有効な手段であることが明らかにされていたが、異種由来のレトロトランスポゾンにおいても適用可能であることが本研究により初めて明らかにされた。
また、DNAタイプのトランスポゾンとは異なり、染色体上をランダムに転移する性質を有することも明らかにした。この系を利用することによりシロイヌナズナのすべての遺伝子を網羅した破壊系統を効率的に作出することが可能になった。
本発明の遺伝子破壊方法は、シロイヌナズナに限定されず、遺伝子導入のできるいずれの植物にも適用可能である。
以上のように、レトロトランスポゾンを用いる遺伝子破壊方法が確立されれば、植物における遺伝子の機能解析および未知遺伝子の単離の可能性が拡大される。
実施例
以下、本願発明を実施例を挙げて説明する。以下の実施例は、本発明の例示するものであって、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1.バイナリープラスミドpBITto1(-36)の構築とアグロバクテリウムへの導入
図1にpBTto1(-36)の構造を示す。すでに報告したTto1のクローンpSKTto1(-36)(Hirochikaら、1996、Plant Cell、8、725-734)からTto1の5’部分をHindIIIとPstIで、3’部分をPstIとXhoIできりだし、HindIIIとSaIIで処理したバイナリーベクターpBI101-Hm(Akamaら、Plant cell Rep.12,7-11(1992))に挿入することにより、Tto1を組み込んだバイナリーベクターpBITto1(-36)を構築した。構築したプラスミドを電気穿孔法によりAgrobacterium tumefacience EHA101株(Hoodら、J.Bacteriol.168,1291-1301(1986))に導入した。Tto1が導入された株を、50ug/mlのカナマイシンおよび50ug/mlのハイグロマイシンを含むLB寒天培地(pH7.0)(Bacto Tryptone(Difco社製)10g/l、Bacto Yeast Extract(Difco社製)5g/l、NaCl 10g/l、Bacto Agar(Difco社製)15g/l、硫酸カナマイシン、およびハイグロマイシンB(Sigma)を含む)で選抜した。
実施例2.植物への感染
以下の全ての実験において、シロイヌナズナ生態型Wassileuskija(WS)を使用した。アグロバクテリウムのシロイヌナズナの根または胚軸への感染は、Akamaら1992の方法(Plant Cell Rep.、12,7-11)にしたがった。本実施例で使用された培地は、Valuekensら、PNAS,85,5536-5540(1988)に記載される。要約すれば、無菌的に育成させたシロイヌナズナの胚軸および根の断片を、カルス誘導培地CIM(Gamborg’s B5 3.1g/l、グルコース20g/l、MES-KOH(pH5.7)0.5g/l、2,4-D 0.5mg/l、カイネチン0.05mg/lを含む;5g/lのGellan Gumで固形化された)で22℃で約10日間(16時間明条件および8時間暗条件)培養した。次いでこれら胚軸および根の断片にアグロバクテリウムを感染させた。培地を新しいCIMと取り替えた後、これら胚軸および根の断片を、アグロバクテリウムと3日間共存培養した。
アクロバクテリウムを洗浄した後、上記根または胚軸の断片を、50ug/mlのハイグロマイシンを含むSIM(シュート誘導培地;Gamborg’s B5 3.1g/l、グルコース20g/l、MES-KOH(pH5.7)0.5g/l、IAA(インドール-3-酢酸)0.15mg/l、3-ip N-(2-イソペンテニル)アデニン 5mg/lを含む;5g/lのGellan Gumで固形化)で、22℃で4週間、16時間明条件および8時間暗条件下で培養した。1週間ごとに新しい培地に移植し、培養を続けた。形質転換植物(T0)を得た。再生したシュートをGM(発芽培地;Murashige and Skoog Salt 4.4g/l、スクロース10g/l、およびMES-KOH(pH5.7)0.5g/lを含む;5g/lのGelln Gumで固形化)に移して培養し、その後培地RIM(根誘導培地;Murashige and Skoog Salt 4.4g/l、スクロース10g/l、MES-KOH(pH5.7)0.5g/l、IBA(インドール-3-酪酸)20μl/lを含む;5g/lのGellan Gumで固形化)に移して培養した。
実施例3.サザンハイブリダイゼーションによる転移の確認
実施例2で得られた形質転換植物から、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)沈澱法(MurrayおよびThompson,Nucleic Acids Res.8,4321-4325(1980))によってDNAを調製した。得られたDNAを制限酵素EcoRVで切断し、アガロース電気泳動後、ナイロンメンブレンに吸着させた。プラスミドpSKTto1(-36)から調製したTto1領域のDNA断片を32P-dCTPで標識し、記載のようにサザンハイブリダイゼイションを行った(Hirochika,EMBO J.,12,2521-2528(1993))。また、導入された遺伝子のコピー数を、32P-dCTP(Multiprime DNA labelling system,Amersham Pharmacia Biotech)で標識したハイグロマイシン耐性遺伝子を用いたサザンハイブリダイゼイションにより調べた(Hirochika,EMBO J.,12,2521-2528(1993))。
転移が起こると、導入された遺伝子のコピー数よりもTto1のコピー数が増えることが期待される。解析の結果、全く転移の起こっていない形質転換植物から、15コピーも転移した形質転換植物まで得られたことがわかった。
形質転換植物の次代(T1)について同様の解析を行った。その結果、Tto1の配列はメンデル様式で安定に次代に遺伝すること、新たな転移は起こらないことが示された。このことは、形質転換植物(T0)で見られたTto1の転移は形質転換植物作成の過程で生じたことを示している。
実施例4.培養による転移の活性化
Tto1はタバコにおいて培養によって活性化されることが知られている(Hirochika、EMBO J.12,2521-2528(1993))。従って、本実施例では、培養によるTto1の転移の活性化について調べた。
実施例2の記載からアグロバクテリウムの感染を除いた工程により、無菌的に育成させた形質転換植物(T2)の葉および根の断片を培養して、298の再分化植物体(R0)を得た。植物を鉢上げした。同時に、これらの植物をDNA抽出のためにプールした。255個の再生株から種子が得られ、残りの株は不稔であった。R0植物のシュートからDNAを、実施例3と同様にして調製し、そしてササンハイブリダイゼイションによりTto1の転移活性(コピー数の増加)を調べた。
図2は、Tto1が1コピー導入された形質転換体(T1)の次代のT2世代の幼植物の葉および根を用いて行った実験の結果を示す。転移コピー数の多く見られた形質転換植物で転移の高活性化が起こると期待された(結果は示さず)が、予想に反し、全く転移をしていない形質転換植物を用いた場合にのみ高度な転移の活性化が見られた(図2)。
実施例5.遺伝子破壊の解析
実施例4で同定された、培養によりTto1の転移が活性化されコピー数の増加した再分化植物から、実施例3に記載のCTAB法によりDNAを調製した。このDNAを鋳型として用いて、TAIL-PCRによりTto1の隣接配列を増幅した。反応条件および熱サイクリング設定は記載の通りである(Liuら、Plant J.8,457-463(1995))。要約すると、LA-Taq(宝酒造)をTaqポリメラーゼのために使用した。Tto1特異的プライマーの配列は、以下の通りであった:
Tto1-R1、5’-TGGATATGAATAGTGCCCGTATGG-3’(外側ネステッドプライマー(Tto1の652~629に対応する));Tto1-R2、5’-TACTCTAACCAAAGCTCTGATACC-3’(内側ネステッドプライマー(Tto1の601~578に対応する))。これらと共に、3つの異なる任意プライマーを使用した。それらの配列は、以下の通りである:
AD1、5’-NGTCGA(G/C)(A/T)GANA(A/T)GAA-3’;
AD2、5’-GTNCGA(G/C)(A/T)CANA(A/T)GTT-3’;
AD3、5’-(A/T)GTGNAG(A/T)ANCANAGA-3’。
二次TAIL-PCR産物を1.2%低融点アガロースゲル(SeaPlaque GTG、FMC、Rockland、ME)上の電気泳動により分離した。PCR産物をアガロースゲル薄片からQiaquick Gel Extraction Kit(Giagen,Valencia,CA)により精製した。精製された産物を、Big Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reactionキット(Perkin Elmer/Applied Biosystems,Foster City,USA)を用いてABI 377 DNAシーケンサー(Perkin Elmer/Applied Biosystems)で直接配列決定した。使用した配列決定プライマーは、以下の通りであった:
Tto1-R1、5’-CTCACTAAGGAGAGTTGCATC-3’(Tto1の69~49に対応する))。
Tto1の隣接配列の相同性検索をBLAST(Altrschalら、Nucleic.Acids Res.25,3389-3402(1997))を利用して行った。その結果の一部を以下の表1に示す。
JP0004543161B2_000002t.gifJP0004543161B2_000003t.gif表1において、様々な遺伝子の内部にTto1が挿入された多数の例が認められた。
実施例6.Tto1の転移標的部位のマッピング
BLASTを利用する相同性解析により、Tto1が、これまでに解析された配列の中に挿入する多数の例が多数見られた。これらの内いくつかの配列は、染色体上にマッピングされている。この情報に基づいて、Tto1の点標的部位をマッピングし得る(図3)。図3に示されるように、タバコレトロトランスポゾンTto1は、トウモロコシのトランスポゾンとは異なり、染色体上にほぼランダムに転移する性質を有した。3番染色体にマップされる例が見つからないのは、この染色体の塩基配列情報がデータベースに極めて少ないことに起因していると考えられる。*印は、同一のBACクローンの塩基配列内に、複数の転移個所が同定された部位を示す。
上記の実施例は、本発明の種々の局面、および本発明の特定のオリゴヌクレオドがどのように作成され、および利用されるのかを例示して記載している。本発明の範囲を制限するものではない。
産業上の利用可能性
活性なレトロトランスポゾンが存在しないとされるシロイヌナズナにおいて、トランスポゾンタギングによる遺伝子破壊および遺伝子単離の新たな手段が提供された。レトロトランスポゾンの培養・再分化によって独立な遺伝子破壊系統を得るという手法は、異種由来のレトロトランスポゾンにおいても適用可能であることが明らかにされた。本発明の遺伝子破壊方法は、シロイヌナズナに限定されるものではなく、遺伝子導入のできるいずれの植物にも適用可能である。
本発明で使用されるレトロトランスポゾンTto1はまた、DNAタイプのトランスポゾンとは異なり、染色体上をランダムに転移する性質を有することも明らかになった。この系を利用することにより、モデル植物であるシロイヌナズナのすべての遺伝子を網羅した破壊系統を効率的に作出することが可能になった。
【配列表】
JP0004543161B2_000004t.gifJP0004543161B2_000005t.gifJP0004543161B2_000006t.gif
【図面の簡単な説明】
図1は、pBITto1(-36)の構造を示す図である。
図2は、シロイヌナズナにおけるTto1の転移のDNAゲルブロット分析を示す写真である。独立した再生植物から単離した1.0μgのゲノムDNAをXbaIで消化し、そして電気泳動した。ブロットをTto1の32P標識0.3kbのXbaI/PstIフラグメント(4284~4688に対応)を用いてプローブした。元のT-DNAコピーに対応するバンドおよび線状分子に対応するバンドを示す。レーン1~12は、葉外植片から再生した植物から単離されたDNAであり、レーン13~24は、根外植片から再生した植物から単離されたDNAである。
図3は、Tto1の転移標的部位のマッピングを示す図である。マッピングされたTto1挿入を有する遺伝子座をRIマップ(ListerおよびDean、Plant J.4,745-750 1993)と並べ、矢印で示す。各矢印は、独立した挿入事象を示している。染色体長の目盛を右側に示す。いくつかの染色体マーカーをマップ中に示す。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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