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明細書 :植物培養細胞を用いたジベレリン応答性遺伝子の同定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4982727号 (P4982727)
登録日 平成24年5月11日(2012.5.11)
発行日 平成24年7月25日(2012.7.25)
発明の名称または考案の名称 植物培養細胞を用いたジベレリン応答性遺伝子の同定方法
国際特許分類 C12Q   1/02        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
FI C12Q 1/02
C12N 15/00 ZNAA
C12Q 1/68 A
請求項の数または発明の数 1
全頁数 47
出願番号 特願2003-561313 (P2003-561313)
出願日 平成14年12月20日(2002.12.20)
国際出願番号 PCT/JP2002/013376
国際公開番号 WO2003/054192
国際公開日 平成15年7月3日(2003.7.3)
優先権出願番号 2001388993
優先日 平成13年12月21日(2001.12.21)
優先権主張国 日本国(JP)
審判番号 不服 2008-029622(P2008-029622/J1)
審査請求日 平成17年7月8日(2005.7.8)
審判請求日 平成20年11月20日(2008.11.20)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501167644
【氏名又は名称】独立行政法人農業生物資源研究所
発明者または考案者 【氏名】南 栄一
【氏名】渋谷 直人
【氏名】デイ ロバート ビー.
個別代理人の代理人 【識別番号】100102978、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 初志
【識別番号】100128048、【弁理士】、【氏名又は名称】新見 浩一
参考文献・文献 特開2000-279046(JP,A)
特表2001-511652(JP,A)
Biol. Bull. NTNU., 33(1) (1998) p.1-11
日本作物学会紀事, 40 (1971) p.27-33
日本作物学会紀事, 42 (1973) p.315-321
Plant Cell Physiol., 39 (1998) p.1127-1132
Plant Physiol., 127 (2001.10.) p.645-654
育種・作物学会北海道談話会会報, 31 (1991) p.33
北陸作物学会報, 30 (1995) p.77-79
Japan J. Breed, 36 (1986) p.1-6
植物組織培養, 10 (1993) p.176-179
Science, 160 (1968) p.421-422
Plant Physiol., 95 (1991) p.943-947
Journal of Plant Growth Regulation, 9 (1990) p.243-246
Plant Physiol., 65 (1980) p.472-477
Plant Cell Physiol., 37 (1996) p.563-567
Plant Mol Biol(1998),Vol.38,No.6,p.1053-1060
Biochim Biophys Acta.(2001 Jul),Vol.1520,No.1,p.54-62
J Biol Chem(1997),Vol.272,No.40,p.24747-24750
Plant Cell Physiol.(1996),Vol.37,No.5,p.686-691
Plant Mol Biol(1999),Vol.40,No.4,p.645-657
調査した分野 C12N15/09
BIOSIS/WPI(DIALOG)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII)
特許請求の範囲 【請求項1】
イネの培養細胞において被験遺伝子のジベレリン応答性の有無を評価する方法であって、
(a)オーキシンを含む培地で培養したイネの培養細胞を、オーキシンを含まない培地で2時間前培養する工程、
(b)工程(a)で前培養した細胞を、該オーキシンを含まない培地でジベレリンと接触させる工程、
(c)ジベレリンが接触されたイネの培養細胞における被験遺伝子の発現を測定する工程、
を含み、上記被験遺伝子の発現が、ジベレリンを接触させない場合と比べ変化している場合に、被験遺伝子がジベレリン応答性を有すると判定される方法。
発明の詳細な説明 技術分野
本発明は、植物培養細胞を用いたジベレリン応答性遺伝子の同定方法およびスクリーニング方法、並びに、植物培養細胞を用いて、被験遺伝子のジベレリン応答性の有無を評価する方法に関する。
背景技術
ジベレリンは、植物ホルモンの一種で、植物の発芽、伸長成長、花芽形成等のライフサイクルに重要な役割をもつ。よって、ジベレリンに応答性を示す遺伝子は、上記の発芽、伸長成長、花芽形成等が修飾された組み換え作物の作製などへの応用が期待されている。
これまでに、ジベレリンによって発現が誘導される遺伝子としては、発芽種子におけるデンプン分解酵素(αアミラーゼ)遺伝子、オオムギGamyb(αアミラーゼ遺伝子の転写調節因子)、イネOsCa-atpase(Ca ATPase)、イネUBC(Ubiqutin-conjugating enzyme)、オートムギAspk10(ribosomal protein kinase)、イネOs-Exp2 and 4(expansin;a cell wall protein)、イネcycOs1,2(mitotic cyclin)、イネcdc2Os-2(cdc2 homologue)、イネR2(cdc2 activating kinase)、イネRPA1(replication protein A1)、キュウリCHRC(carotenoid associate protein)、アラビドプシスGASA1およびGASA4、並びに、キュウリCRG16が報告されている(山口信次郎、植物ホルモンのシグナル伝達、植物細胞工学シリーズ10、福田裕穂、町田泰則、神谷勇治、服部束穂 監修、1998年、p97-106)。また、イネexpansin geneのうち、OsEXPB3、OsEXPB4、OsEXPB6、およびOsEXPB11の四種類がジベレリンによって誘導されることが報告されている(Lee,Y.and Kende,H.Plant Physiology,2001,645-654.)。さらに、ジベレリンによって発現が抑制される遺伝子としては、ジベレリン生合成に関与する遺伝子、オートムギAspk9(MAP kinase)、アズキAB-ACO1(ACC oxidase)、アラビドプシスGA4(gibberellin 3beta-hydroxylase)、および、アラビドプシスAt2301(GA5;gibberellin 20-oxidase)が報告されている(山口信次郎、植物ホルモンのシグナル伝達、植物細胞工学シリーズ10、福田裕穂、町田泰則、神谷勇治、服部束穂 監修、1998年、p97-106)。
これら遺伝子は、すべて、植物体またはその切片を利用して、ジベレリン応答性が同定されたものである。しかしながら、植物体またはその切片は不均一な細胞から構成されており、また、扱いにくいため、これらを利用して、ジベレリン応答性遺伝子を網羅的かつ簡便に同定し、単離することは困難であった。
発明の開示
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ジベレリン応答性遺伝子を網羅的かつ簡便に同定し、単離することが可能な方法を提供することにある。
これまでに、培養細胞がジベレリンに応答するとは、当業者においては全く考えられていなかった。しかし、ジベレリン応答性遺伝子を網羅的かつ簡便に同定し、単離するには、均一で扱いやすい培養細胞が好適である。このような培養細胞の利点に鑑み、本発明者は、あえて、培養細胞を利用してジベレリン応答性遺伝子を同定・単離する方法の開発を試みた。具体的には、本発明者は、まず、イネの懸濁培養細胞にジベレリンの一つGA3を処理することで、遺伝子発現の変化が検出されるか否かを検討した。しかしながら、遺伝子発現の変化は検出されなかった。培養細胞の培地には細胞の分裂能を維持するために植物によって代謝されにくいオーキシンが含まれている。そこで、本発明者は、オーキシンがジベレリンの作用を抑制している可能性を考え、次に、培養細胞をオーキシンを含まない培地であらかじめ培養した後、遺伝子発現の変化が検出されるか否かの検討を行った。その結果、驚くべきことに、いくつかの遺伝子について、ジベレリン処理後、短時間で、発現の変化が検出されることが判明した。
ジベレリンはentジベラン骨格をもつ化合物の総称であるが、これらの遺伝子発現誘導には活性型ジベレリンのみが有効であった。このことは、これらの遺伝子の発現誘導がジベレリンの受容体を介したシグナル伝達を介するものであることを強く示唆していた。また、タンパク質リン酸化酵素阻害剤、およびタンパク質脱リン酸化酵素阻害剤を用いた解析結果から、遺伝子発現に至るシグナル伝達過程ではタンパク質リン酸化酵素、およびタンパク質脱リン酸化酵素が関与していることが示唆された。また、このようなジベレリン依存的な遺伝子発現に関し、植物体の緑葉と培養細胞との間に相関が認められた。このことは、植物体におけるジベレリン応答性遺伝子を、培養細胞を用いて同定し、単離することができることを示すものである。
即ち、本発明者は、世界で初めて植物の培養細胞を用いてジベレリン応答性遺伝子を同定し、単離する方法を開発することに成功し、本発明を完成した。本発明は、より具体的には、
〔1〕以下の(a)~(c)の工程を含む、ジベレリン応答性遺伝子の同定方法、
(a)植物培養細胞にジベレリンを接触させる工程
(b)ジベレリンが接触された植物培養細胞において、遺伝子の発現を検出する工程
(c)ジベレリンを接触させない場合と比べ発現が変化している遺伝子を同定する工程
〔2〕以下の(a)~(d)の工程を含む、ジベレリン応答性遺伝子のスクリーニング方法、
(a)植物培養細胞にジベレリンを接触させる工程
(b)ジベレリンが接触された植物培養細胞において、遺伝子の発現を検出する工程
(c)ジベレリンを接触させない場合と比べ発現が変化している遺伝子を同定する工程
(d)工程(c)で同定された遺伝子を単離する工程
〔3〕被験遺伝子のジベレリン応答性の有無を評価する方法であって、
(a)植物培養細胞にジベレリンを接触させる工程、
(b)ジベレリンが接触された植物培養細胞における被験遺伝子の発現を測定する工程、
を含み、上記被験遺伝子の発現が、ジベレリンを接触させない場合と比べ変化している場合に、被験遺伝子がジベレリン応答性を有すると判定される方法、
〔4〕オーキシンを含まない培地で培養した植物細胞を用いる、〔1〕~〔3〕にいずれかに記載の方法、
を提供するものである。
本発明においては、植物培養細胞を利用したジベレリン応答性遺伝子の同定方法を提供する。本発明の同定方法においては、まず、植物培養細胞にジベレリンを接触させる。
本発明において「ジベレリン応答性遺伝子」とは、ジベレリンに依存して発現が変化する遺伝子を意味する。ここで、「発現が変化する」とは、発現が増加または減少することを意味する。さらに、発現が増加または減少する場合には、一過的に増加または減少する場合も含まれる。また、発現が減少する場合には、発現が完全に停止する場合も含まれる。
本発明における「ジベレリン」は、entジベランと称される基本構造を有する四員環ジテルペノイドカルボン酸を意味する。これまでに、GA1、GA3、GA4、GA13、GA17、GA18、GA19、GA20、GA21およびGA22を含む約120個のジベレリンが知られている。本発明におけるジベレリンとしては、上記のジベレリン群を例示できるが、これらに制限されるものではない。
本発明におけるジベレリンは、天然型ジベレリンであれば、所望の植物から、公知の方法で精製することが可能である。また、GA1、GA3およびGA4であれば、和光純薬の市販品(cat #077-04191,075-02811,072-02821)を使用できる。また、合成型ジベレリンの調製方法は、当業者らに周知である。
本発明において用いる培養細胞の由来する植物としては、特に限定されず、例えば、穀類、野菜、および果樹等の有用農作物、観葉植物等の鑑賞用植物等が挙げられる。具体的には、該植物として、イネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、ナタネ、ダイズ、ワタ、トマト、ジャガイモ、キク、バラ、カーネーション、シクラメン等を例示することができる。好ましくは、イネ科植物であり、最も好ましくはイネである。
また、本発明における植物培養細胞の調製方法としては、特に制限はない。例えば、イネ(主として日本晴)では、籾殻を除去した種子(玄米)を、市販のMS培地に2,4D(2,4 dichlorophenoxyacetic acid:2,4ジクロロフェノキシ酢酸)を2mg/L添加した寒天培地(1%寒天)上で25℃暗黒化で2週間程度保温することでカルスを得、これを2,4D(1mg/L)を含むL培地(N6に類似)液体培地中で継代培養して得ることが可能である。また、細胞は週一回新しい培地に継代し、25℃120rpmで旋回培養する。上記L培地は、KNO:2830mg/L、(NHSO:463mg/L、CaCl/2HO:166mg/L、MgSO/7HO:185mg/L、KHPO:400mg/L、FeSO/7HO:5.6mg/L、Na/EDTA:7.5mg/L、MnSO/4HO:4.4mg/L、ZnSO/7HO:1.5mg/L、KI:0.8mg/L、HBO:1.6mg/L、CuSO/5HO:0.025mg/L、NaMoO/2HO:0.25mg/L、CoCl/6HO:0.025mg/L、Nicotinic acid:0.5mg/L、Thiamine-HCl:0.1mg/L、Pyridoxine-HCl:0.5mg/L、myo-inositol:100mg/L、Glycine:2mg/L、2,4D:1mg/Lおよびショ糖30g/Lを溶かしてKOHでpHを5.8に調整後、オートクレーブすることで調製することができる。
また、植物細胞の培養条件としては、特に制限はなく、所望の植物細胞に適した培養条件を適宜選択することができる。
植物細胞は、遺伝子発現の検出前に、シベレリンへの応答を阻害する物質を含まない培地で培養する。培地は、好ましくは、オーキシンを含まない培地である。本発明において「オーキシン」とは、植物ホルモンの一種であり、植物の茎の先端で合成され、極性的に移動しながら植物の成長を促進・調節する物質、および、それと同等の活性を示す合成化合物を意味する。本発明におけるオーキシンとしては、特に制限はなく、天然型オーキシンであるインドール酢酸、合成型オーキシンである2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、ナフタレン酢酸等が例示できる。
ジベレリンの植物培養細胞への接触は、通常、植物培養細胞の培養液にジベレリンを添加することにより行うが、植物培養細胞のジベレリンへの応答を誘導できる限り特に制限はない。
本発明の同定方法においては、次いで、ジベレリンが接触された植物培養細胞において、遺伝子の発現を検出する。
本発明における「遺伝子の発現」には、転写および翻訳の双方が含まれる。転写量(mRNA量)を指標にした検出方法としては、例えば、DNAマイクロアレイ法、RNAディスプレー法等が挙げられるが、これらの方法に限定されない。該DNAマイクロアレイ法では、例えば、細胞より抽出したpoly(A)-RNAをcy5-dCTP存在下逆転写して一本鎖cDNAプローブを作成し、ハイブリダイゼーションの結果をアレイスキャナー(Microarray scanner FLA8000(Fujifilm))を用いて解析することで遺伝子発現を検出することができる。また、上記のRNAディスプレー法では、抽出したRNAの逆転写産物を任意のプライマーを用いてPCRで増幅しその産物を比較することで遺伝子発現を検出することができる。
また、翻訳量を指標にした検出方法としては、特に制限はなく、例えば、タンパク質を含む画分を定法に従って回収し、該タンパク質の発現をSDS-PAGE、二次元電気泳動法等の電気泳動法で検出する方法が挙げられる。
本発明の同定方法においては、次いで、ジベレリンを接触させない場合(対照)と比べ発現が変化している遺伝子を同定する。特定の遺伝子の発現が、対照と比べ増加している場合には、該遺伝子はジベレリンに応答して発現が誘導される遺伝子として同定される。一方、対照と比べ減少している場合には、該遺伝子はジベレリンに応答して発現が抑制される遺伝子として同定される。
本発明は、また、ジベレリン応答性遺伝子のスクリーニング方法を提供する。該スクリーニング方法においては、上記同定方法で同定された遺伝子を単離する。遺伝子の単離方法としては、特に制限はない。例えば、遺伝子発現の検出において、DNAマイクロアレイ法を使用した場合は、誘導されると判定されたスポットに対応するクローンを(ジーンバンク等から)入手することで遺伝子を単離することができる。また、RNAディスプレー法を使用した場合は、増幅が確認されたバンドをゲルから切り出してPCRで増幅し、クローニング後、ライブラリーをスクリーニングして全長鎖cDNAを得ることができる。単離された遺伝子は、ノーザンハイブリダイゼーション法などを利用して、ジベレリン依存的な発現の誘導を確認することが好ましい。
本発明は、さらに、被験遺伝子について、ジベレリン応答性の有無を評価する方法を提供する。
本発明の評価方法においては、まず、植物培養細胞にジベレリンを接触させる。被験遺伝子としては、特に制限はない。ジベレリン応答性の有無を評価したい所望の遺伝子を被験遺伝子とすることができる。用いる植物培養細胞の由来および調製、用いるジベレリン、およびジベレリンの植物培養細胞への接触は、上記本発明の同定方法と同様である。
本発明の評価方法においては、次いで、ジベレリンが接触された植物培養細胞における被験遺伝子の発現を測定する。
被験遺伝子の発現は、本発明の同定方法と同様に、転写レベルで検出しても翻訳レベルで検出してもよい。転写レベルでの検出は、例えば、ジベレリンを接触させた培養細胞からmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAに対して、被検遺伝子に対応するmRNAにハイブリダイズするポリヌクレオチドをプローブとしてハイブリダイゼーション反応を行うノーザンハイブリダイゼーション法、また上記のようにして抽出したmRNAを鋳型に、被検遺伝子に対応するmRNAにハイブリダイズする一対のオリゴヌクレオチドをプライマーとしてポリメラーゼ連鎖反応を行うRT-PCR法を実施することによって行うことができる。
一方、翻訳レベルでの検出は、被験遺伝子によりコードされるタンパク質に対する抗体を用いたウェスタンブロッティング法、二次元電気泳動法によるスポットの出現位置などを利用して行うことができる。検出に用いる抗体は、当業者に公知の方法で調製することができる。
本発明の評価方法においては、次いで、上記被験遺伝子の発現が、ジベレリンを接触させない場合(対照)と比べ変化している場合に、被験遺伝子がジベレリン応答性を有すると判定される。即ち、被験遺伝子の発現が、対照と比べ増加している場合には、該遺伝子はジベレリンに応答して発現が誘導される遺伝子として同定される。一方、被験遺伝子の発現が、対照と比べ減少している場合には、該遺伝子はジベレリンに応答して発現が抑制される遺伝子として同定される。
発明を実施するための最良の形態
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。なお、実施例は、下記の材料および方法に従って実施した。
(1)イネ培養細胞; イネ培養細胞は発芽イネ(Oryza sativa cv Nipponnbare)種子より1PPMの2,4D(2,4-ジクロロフェノキシ酢酸)を含むN6寒天培地上で誘導し、N6液体培地で以下のように継代した。週に一度生体積約1ml程度の細胞を150mlのN6培地に植え継いだ。2週に一度20-meshの金網を通して細胞塊を小さくする操作を行った。ノーザンブロットのRNA抽出に供する細胞は裏ごししないで30mlの培地に植え継いだ細胞を4~6日間振とう培養したものを用いた。
(2)RNA抽出; イネ培養細胞および緑葉からの全RNA抽出はフェノールSDS法に従って行った。組織体積の約10倍以上のフェノール(水で90%程度飽和させたもの)およびこれと等量の抽出緩衝液(50mM Tris-HCl pH9.0,1%SDS,50mM NaCl)存在下ポリトロンホモジェナイザーで組織を磨砕した。遠心分離によって得た水層を繰り返しフェノール抽出した後、0.6容のイソプロパノールを加えて攪拌し、全核酸を沈殿させた。これを水に溶かした後その0.25容の10M LiClを加えて氷冷し高分子RNAを遠心分離によって回収した。これを70%エタノールで洗浄したのち少量の水に溶解させてRNA標品とした。
(3)培養細胞および緑葉のジベレリン処理方法; 培養細胞をあらかじめ2,4Dを含まないN6培地で数回洗浄後同じ培地に懸濁し25℃で2時間浸透した。ジベレリン(GA3:エタノール溶液)をそれぞれの終濃度になるように加えて所定時間振とう培養後RNA抽出に供した。播種後3週間の日本晴植物体にジベレリンをスプレーで噴霧処理しタイムコースを追って3,4葉をサンプリングし、全RNAを抽出した。エリシター処理はイネ培養細胞に直接エリシター水溶液を投与することにより行った。
(4)ハイブリダイゼーション; ノーザンハイブリダイゼーションのためのRNA変性はグリオキサル法によった。10μgの全RNA(3.7μl)に2.7μlのグリオキサル(終濃度1M)、1.6μlのリン酸ナトリウム(pH7.0、終濃度10mM)、8μlのジメチルスルフォキシド(終濃度50%)を加えて50℃で1時間保温したのち1.4%アガロース(10mMリン酸ナトリウムpH7.0)中で電気泳動した。泳動後RNAをナイロン膜(バイオダインA)にブロットし80℃、2時間処理をしてRNAを膜に固定した。ハイブリダイゼーションは50%フォルムアミド、0.1%SDS、0.1mg/mlサケ精子DNA,5xSSPE(0.9MNaCl,50mMリン酸ナトリウム,5mMEDTA pH7.4)、5xデンハルト溶液(0.1%牛血清アルブミン、0.1%フィコール、0.1%ポリビニルピロリドン)中で42℃一昼夜行い、その後0.1xSSC(15mMNaCl,1.5mMクエン酸ナトリウム)で、室温で5分間3回、65℃で30分間、2回洗浄した後X線フィルムに露光した。
(5)DNAマイクロアレイ解析; マイクロチップ(http://cdna01.dna.affrc.go.jp/RMOS/index.html)はイネゲノムプロジェクトにより1265クローンのイネESTを用いて作成された。エリシター無処理および15分処理した細胞より抽出したpoly(A)-RNAをcy5-dCTP存在下逆転写して一本鎖cDNAプローブを作成し、その結果をアレイスキャナー(Microarray scanner FLA8000(Fujifilm))を用いて解析した。
[実施例1]
これまでに、イネイモチ病菌細胞壁の主要成分の一つ、キチンのオリゴマー(N-アセチルキトオリゴ糖)がイネ培養細胞に対して種々の防御反応を低濃度で誘導する、すなわち強力なエリシター(生体防御反応を誘導する物質)として作用することが見出されている(Yamada,A.,Shibuya,N.,Kodama,O.,and Akatsuka,T.Induction of phytoalexin formation in suspension-cultured rice cells by N-acetylchitooligosaccharides.Biosci.Biotech.Biochem.,1993,57,405-409.)。その過程で、これまでも知られていた防御関連酵素遺伝子、PAL、キチナーゼ、グルカナーゼが発現すること(He,D.-Y.,Yazaki,Y.,Nishizawa,Y.,Takai,R.,Yamada,K.,Sakano,K.,Shibuya,N.,and Minami,E.Gene activation by cytoplasmic acidification in suspension-cultured rice cells in response to the potent elicitor,N-acethylchitoheptaose.Mol.Plant-Microbe Int.,1998,12,1167-1174.Nishizawa,Y.,Kawakami,A.,Hibi,T.,He,D.-Y.,Shibuya,N.,and Minami,E.Regulation of the chitinase gene expression in suspension-cultured rice cells by N-acetylchitooligosaccharides:differences in the signal transduction pathways leading to the activation of elicitor-responsive genes.Plant Mol.Biol.,1999,39,907-914.)、これ以外により速いタイムコースでEL2、EL3、EL5という3種の新規な初期遺伝子が発現することを見出されている(Minami,E.,Kuchitsu,K.,He,D.-Y.,Kouchi,H.,Midoh,N.,Ohtsuki,Y.,and Shibuya,N.Two novel genes rapidly and transiently activated in suspension-cultured rice cells by treatment with N-acetylchitoheptaose,a biotic elicitor for phytoalexin production.Plant Cell Physiol.,1996,37,563-567.Takai,R.,Hasegawa,K.,Kaku,K.,Shibuya,N.,and Minami,E.Isolation and analysis of expression mechanisms of a rice gene,EL5,which shows structural similarity to ATL family from Arabidopsis,in response to N-acetylchitooligosaccharide elicitor,Plant Sci.,2001,160,577-583.)。
本発明者は、DNAマイクロアレイでエリシター処理15分でシグナルが有意に増加した2つのEST(c72495,AU094860)を農林水産ジーンバンクより入手して全塩基配列を解読し、両者の推定アミノ酸配列について、既知配列との相同性検索を行った。その結果、既知のGRASファミリー遺伝子と相同性を有することが判明した(図1および図2)。
GRASとは、シロイヌナズナの根および茎の断面構造形成を司る遺伝子であり、転写因子と推定されている遺伝子(Scarecrow)(Laurenzio,L.,D.,Wysocka-Diller,J.,Malamy,J.E.,Pysh,L.,Helariutta,Y.,Freshour,G.,Hahn,M.G.,Feldmann,K.A.,and Benfey,P.N.The SCARECROW gene regulated an asymmetric cell division that is essential for generating the radial organization of the Arabidopsis root.Cell,1996,86,423-433.)、アラビドプシスにおいて、ジベレリンのシグナルを負に制御する2種類の遺伝子(GAI、RGA)(Peng,J.,Carol,P.,Richards,D.E.,King,K.E.,Cowling,R.J.,Murphy,G.P.,and Harberd,N.P.Genes and Development,1997,11,3194-3205.Silverstone,A.L.,Ciampaglio,C.N.,and Sun,T-P.The Arabidopsis RGA gene encodes a transcriptional regulator repressing the gibberellin signal transduction pathway.The Plant Cell,1998,10,155-169.)の頭文字をとって命名された遺伝子ファミリーである(Pysh,L.D.,Wysocka-Diller,J.W.,Camilleri,C.,Bouchez,D.,and Benfey,P.N.The GRAS gene family in Arabidopsis:sequence characterization and basic expression analysis of the SCARECROW-LIKE genes.The Plant J,1999,18,111-119.)。GRASファミリーのアミノ酸配列は、相同性の低いN末領域、ロイシンヘプタド構造,VHIID領域等によって特徴づけられる。このような構造は動物や微生物では知られておらず、植物に特有のものである。
エリシター処理によって誘導された両遺伝子はVHIID領域を有し、C末側のアミノ酸配列はScarecrowおよびそのファミリーとの間でよく保存されていたが典型的なロイシンヘプタド構造は認められなかった。またジベレリンシグナルリプレッサーに特徴的であり、ジベレリンのシグナルをキャッチする上で重要な働きをしているDELLA配列(Herbard,N.P.,King,K.,E.,Carol,P.,Cowling,R.J.,Peng,J.,and Richards,D.E.BioEssays,1998,20,1001-1008.)は存在しなかった。以後、C72495をCIGR1遺伝子(塩基配列を配列番号:1、アミノ酸配列を配列番号:2に記す)、AU94860をCIGR2遺伝子(塩基配列を配列番号:3、アミノ酸配列を配列番号:4に記す)と命名した。ヌクレオチドレベルでの両者の相同性は57%、アミノ酸配列レベルでの相同性は40%であった。ゲノミックサザンハイブリダイゼーションの結果、両遺伝子はそれぞれ1コピー存在するものと考えられた(図3)。
図4は両遺伝子産物ならびにこれまでに構造が明らかになったGRASファミリー遺伝子産物の推定分子進化系統を示す。CIGR2遺伝子はCIGR1遺伝子よりもむしろアラビドプシスのAtSCL5に近縁であると考えられた。またジベレリンシグナルリプレッサーは一つのサブファミリーを形成し、イネOsGAI(SLR)はCIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子よりもトウモロコシやアラビドプシスのリプレッサーにより近縁であることが示唆された。
[実施例2]
GRASファミリー遺伝子産物は転写調節因子であると考えられているがそれらがどのような遺伝子発現の調節に関わっているかについての知見は得られていない。アラビドプシスのScarecrowは典型的な核移行シグナルをもたないが、N末側にセリン、スレオニン、プロリン、グルタミンが多いこと等の理由から転写因子と推測された。アラビドプシスのジベレリンシグナルリプレッサーの一つ、GAIおよびそれと極めてよく似た遺伝子GRSには核移行シグナル様の配列が存在した(Peng,J.,Carol,P.,Richards,D.E.,King,K.E.,Cowling,R.J.,Murphy,G.P.,and Harberd,N.P.Genes and Development,1997,11,3194-3205.)。またもう一つのリプレッサーであるRGAが、GFPとの融合タンパク質を用いた実験で核に局在することが示された(Silverstone,A.L.,Ciampaglio,C.N.,and Sun,T-P.The Arabidopsis RGA gene encodes a transcriptional regulator repressing the gibberellin signal transduction pathway.The Plant Cell,1998,10,155-169.)。CIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子についてその細胞内局在性を検討するためこれらの翻訳領域をGFPにin frameで連結したキメラプラスミドをパーティクルガン法によってタマネギ表皮細胞に導入し、融合タンパク質の挙動をGFPの蛍光を指標として追跡したところ、CIGR2・GFP融合タンパク質が細胞核に局在している像が観察された(図5)。またGFP単独ではそのような像は観察されなかったことから、CIGR2遺伝子産物は核に局在すると結論した。
[実施例3]
CIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子はいずれもDNAマイクロアレイ解析によってエリシター応答性遺伝子として同定された。そこでこれらの両遺伝子のエリシター応答性をノーザンブロットハイブリダイゼーション法によって解析した。両遺伝子ともキチン7量体処理5分後にそのmRNA量の顕著な増加が観察されはじめ90分に至るまで発現量は増加し続けた(図6a)。キチンオリゴマーのイネに対するエリシター活性はそのサイズに依存し、7または8量体がもっとも強い活性をもつこと、脱アセチル体であるキトサンオリゴマーは活性が極めて低いことがこれまでの研究により明らかになっている。そこで1~7量体のキチンオリゴマーおよび4,7量体のキトサンオリゴマーを処理したときのこれら両遺伝子の発現誘導を調べた。両者ともキチンの7量体にもっとも強く応答し、キトサンのオリゴマーには有意な応答を示さなかった(図6b)。
[実施例4]
芦刈ら(Ashikari,M.,Wu,J.,Yano,M.,Sasaki,T.,and yoshimura,A.Rice gibberellin-insensitive dwarf mutant gene Dwarf 1 encodes the alpha-subunit of GTP-binding protein.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1999,96,10284-10289.)、藤澤ら(Fujisawa,Y.,Kato,T.,Ishikawa,A.,Kitano,H.,Sasaki,T.,Asahi,T.,and Iwasaki,Y.Suppression of the heterodimeric G protein causes abnormal morphology,including dwarfism,in rice.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1999,96,7575-7580.)は独立に、イネわい性変異体d1の原因遺伝子(D1)が3量体型Gタンパク質αサブユニットをコードしていることを見いだした。動物細胞においては3量体型Gタンパク質は7回膜貫通型受容体と共役して細胞外の情報を伝達する重要な役割をもつことが知られている(Neer,E.J.Heterotorimeric G proteins:Organizers of transmembrane signals.1995,Cell 50,1011-1019.)。
一方、エリシターシグナルの伝達過程においてはこの阻害剤あるいは活性化剤を用いた研究からその関与が示唆されている(Legendre,L.,Heinsyein,P.F.,and Low,P.S.Evidence for participation of GTP-binding proteins in elicitation of the rapid oxidative burst in cultured soybean cells.J.Biol.Chem.1992,267,20140-20147.)がこれらの阻害剤はその特異性が必ずしも明確でないなどの問題点が指摘されており(Ephritikhine,G.,Pradier,J.-M.,and Guern,J.Complexity of GTPγS binding to tobacco plasma membranes.Plant Physiol.Biochem.1993,31,573-584.)、D1遺伝子産物の関与についても明確な結論は得られていない。
塚田らはd1系統の種子由来のカルスにおけるエリシター応答性諸反応を野生型と詳細に比較し、有意な差が認められないことを示した(Tsukada,K.,Ishizaka,M.,Fujisawa,Y.,Iwasaki,Y.,Yamaguchi,T.,Minami,E.,and Shibuya,N.Rice receptor for chitin oligosaccharide elicitor does not couple to heterotrimeric G-protein:Elicitor responses of suspension cultured rice cells from Daikoku dwarf(d1)mutants lacking a functional G-protein α-subunit.Physiol.Plantrum,2002,116,373-382)。
予備的実験の結果からCIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子のd1系統におけるエリシター誘導も野生型と同じタイムコースをたどることを確認した。
一方、上口-田中ら(Ueguchi-Tanaka,M.,Fujisawa,Y.,Kobayashi,M.,Ashikari,M.,Iwasaki,Y.,Kitano,H.,and Matsuoka,M.Rice dwarf mutant d1,which is defective in the α subunit of the heterotrimeric G protein,affects gibberellin signal transduction.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2000,97,11638-11643.)は発芽種子アリューロンにおけるαアミラーゼの誘導を指標として、ジベレリンのシグナル伝達にD1遺伝子が関与していることを示した。これより先にSchumacherら(Schumacher,K.,Schmitt,T.,Rossberg,M.,Schmitz,G.,and Theres,K.The Lateral suppressor(Ls)gene of tomato encodes a new member of the VHIID protein family.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1999,96,290-295.)はトマトの腋芽抑制遺伝子の産物がScarecrowと同じ遺伝子ファミリーに属することを明らかにし、その形態形成における役割の考察においてこの遺伝子産物とジベレリンとの何らかの相互作用の可能性を指摘した。
そこでCIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子についてそのジベレリン応答性を検討した。懸濁培養細胞に活性型ジベレリンの一つGA3を処理し、タイムコースを追ってこれら両遺伝子の発現変化を解析したが、処理3時間後まで見る限りでは両遺伝子ともその発現量に有意な変化は認められなかった。培養細胞の培地には細胞の分裂能を維持するために植物によって代謝されにくいオーキシンの一つである2,4Dが含まれている。これがジベレリンの作用を抑制している可能性が考えられたため、細胞を2,4Dを含まない培地であらかじめ洗浄した後、同じ培地中で2時間前培養し、GA3を処理したところ、処理10分後をピークとする一過的な発現が観察された(図7)。
これまで、ジベレリンシグナル伝達の研究は穀物種子のアリューロン組織におけるαアミラーゼの誘導を指標とした解析が中心であり、培養細胞を用いた例は上記の結果が初めてである。そこでジベレリンによるCIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子の培養細胞での発現を指標としてその応答性をさらに詳細に解析した。
図8はこれら両遺伝子の発現誘導に対するGA3の濃度効果をみたものである。両遺伝子とも10-MのGA3処理によってその発現が誘導されはじめ、10-4Mでほぼ飽和に達した。Vishnevetskyら(Vishnevetsky,M.,Ovadis,M.,Itzhaki,H.,and Vainstein,A.CHRC,encoding a chromoplast-specific carotenoid-associated protein,is an early gibberellic acid-responsive gene.J.Biol.Chem.1997,272,24747-24750.)はキュウリ花弁色素体のカロチノイド結合タンパク質、CHRCのジベレリンによる誘導には少なくとも10-7MのGA3が必要で、10-4Mまでほぼ直線的に発現量が増大することを報告しており、材料、遺伝子が異なるがGA3の有効濃度に関しては似たような結果となっている。
[実施例5]
ジベレリンはオーキシンやサイトカイニンと異なり、生理活性ではなくentジベラン骨格をもつ化合物として定義されているため、その活性には大きな差がある。これまで述べてきたCIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子のGA3による発現誘導がその生理活性に基づくものかそれともentジベラン骨格自体にこの両遺伝子を誘導する活性があるのかを調べるために活性型(GA1、GA3、GA4)、不活性型(GA13、GA17)のジベレリン(Crozier,A.,Kuo,C.C.,Durley,R.C.,and Pharis,R.P.The biological activities of 26 gibberellins in nine plant bioassays.Canadian J.Botany 1970,48,867-877.)によるこれら両遺伝子の発現誘導を解析した。その結果、両遺伝子とも活性型ジベレリンによってのみその発現が誘導された(図9)。この結果はこれまでに述べてきたジベレリンによるCIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子の発現誘導がジベレリンの受容体を介したシグナル伝達を介するものであることを強く示唆している。
[実施例6]
培養細胞はオーキシン存在下で脱分化状態にあると考えられており、葉緑体をもたないために従属栄養条件下で生育するなど、植物体とは組織学的、生理学的に大きく異なるものである。したがってこれまで述べてきたCIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子のジベレリンによる誘導現象は培養細胞における特殊な現象である可能性が否定できない。そこでイネ緑葉において両遺伝子がジベレリンにどのように応答するかを解析した。播種後3週間のイネの3,4葉にGA3(50μM)をスプレーしタイムコースを追って全RNAを抽出して両遺伝子の発現量変化を解析した。その結果両遺伝子ともスプレー後30分をピークとする極めて迅速な一過的発現を示した(図10)。したがって培養細胞における、ジベレリン受容体を介したシグナルは培養細胞特有のものではなく、イネ植物体においても機能していることが強く示唆された。
[実施例7]
Kuoら(Kuo,A.,Cappelluti,S.,Cervantes-Cervantes,M.,Rodriguez,M.,and Bush,D.S.Okadaic acid,a protein phosphatase inhibitor,blocks calcium changes,gene expression and cell death induced by gibberellin in wheat aleurone cells.The Plant Cell 1996,8,259-269.)はコムギアリューロン層におけるαアミラーゼのジベレリンによる誘導がタンパク質脱リン酸化酵素阻害剤の一つであるオカダ酸によって特異的に阻害されることを見いだした。オカダ酸は動物のタンパク質脱リン酸化酵素のうちPP1、PP2Bを阻害することが知られている。
一方タンパク質リン酸化酵素阻害剤であるスタウロスポリン、K-252-Aはほとんど阻害しなかったことから、ジベレリンからαアミラーゼ遺伝子に至るシグナル伝達にはタンパク質リン酸化、特にタンパク質脱リン酸化酵素が重要な関与をしていると推測した。
一方、これまでの我々の結果ではエリシター応答性遺伝子の発現誘導はK-252-Aの前処理によって強く阻害されることが明らかになっている(He,D.-Y.,Yazaki,Y.,Nishizawa,Y.,Takai,R.,Yamada,K.,Sakano,K.,Shibuya,N.,and Minami,E.Gene activation by cytoplasmic acidification in suspension-cultured rice cells in response to the potent elicitor,N-acethylchitoheptaose.Mol.Plant-Microbe Int.1998,12,1167-1174.Nishizawa,Y.,Kawakami,A.,Hibi,T.,He,D.-Y.,Shibuya,N.,and Minami,E.Regulation of the chitinase gene expression in suspension-cultured rice cells by N-acetylchitooligosaccharides:differences in the signal transduction pathways leading to the activation of elicitor-responsive genes.Plant Mol.Biol.1999,39,907-914.)。
そこでイネ培養細胞におけるCIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子のジベレリンおよびエリシターによる誘導における種々の阻害剤の影響を検討した。まずKuoらの結果を参照してオカダ酸を前処理した細胞では両遺伝子のキチン7量体による誘導はほとんど阻害されなかったのに対してGA3による誘導はほぼ完全に阻害された(図11B)ことから、イネ培養細胞におけるCIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子へのジベレリンからのシグナル伝達にはタンパク質脱リン酸化酵素の関与が推定された。つぎにタンパク質リン酸化酵素阻害剤について検討した。受容体型チロシンキナーゼの阻害剤として知られるラベンダスチンAはオカダ酸とほぼ同様の阻害を示し、キチン7量体による誘導をほとんど阻害しないのに対しGA3による誘導をほぼ完全に阻害した(図11C)。タンパク質セリン・スレオニンリン酸化酵素、タンパク質チロシンリン酸化酵素のいずれをも阻害するとされるK-252-Aは両遺伝子のキチン7量体およびGA3による誘導をほぼ完全に阻害した(図11D)。
コムギアリューロン層におけるαアミラーゼのジベレリンによる誘導はオカダ酸によって阻害されるがK-252-Aによっては阻害されないと報告されている(Kuo,A.,Cappelluti,S.,Cervantes-Cervantes,M.,Rodriguez,M.,and Bush,D.S.Okadaic acid,a protein phosphatase inhibitor,blocks calcium changes,gene expression and cell death induced by gibberellin in wheat aleurone cells.The Plant Cell 1996,8,259-269.)。
図11の結果は、培養細胞におけるCIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子のジベレリン誘導においてもオカダ酸によって阻害されるタンパク質脱リン酸化酵素の関与のほかに、K-252-A、ラベンダスチンAによって阻害されるタンパク質リン酸化酵素の関与を示唆するものであり、アリューロン層におけるシグナル伝達との共通性、相違点が認められた。また、ジベレリンからのシグナル伝達はキチン7量体からのものとは質的に異なると考えられる。
Richardら(Donald E.Richards,Jinrong Peng,and Nicholas P.Harberd BioEssays vol22,p573-577(2000))は、GRASファミリーは後生動物に幅広く見いだされる転写因子、STATに対応するものであるという仮説を提唱している。STATではC末領域には動物の転写因子、STATファミリーに共通したSH2領域に類似した構造が見いだされる。SH2領域のC末端付近に動物のSTATでもよく保存されリン酸化を受けることが知られているチロシン残基、およびこのリン酸化チロシンと静電的に相互作用するとされるアルギニン残基が保存されている。アミノ酸配列のN-末付近はC末側に比べると相同性が低くなっている。これはGRASファミリーに一般的である。CIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子のヌクレオチドレベルでの相同性は57%であった。一方、ゲノミックサザンハイブリダイゼーションの結果これら両遺伝子は1コピーずつ存在するものと推定された(図3)。イネのゲノムDNA 5μgを制限酵素BamHI(B)、EcoRI(E)、HindIII(H)で完全消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後、ニトロセルロース膜に転写した。これを32Pで標識したCIGR1、CIGR2でハイブリダイズしたところcDNAのマップと一致するパターンが得られた。
このことからcDNAの全長鎖はそれぞれ対応する遺伝子産物と特異的にハイブリダイズするものと考えられた。両遺伝子ともジベレリンシグナルの負の制御因子であるGAI/RGAサブファミリーに共通するDELLA配列を有していない。
産業上の利用の可能性
本発明により、ジベレリン応答性遺伝子を網羅的かつ簡便に同定し、単離することが可能となった。また、本発明により、特定の遺伝子がジベレリン応答性を有するか否かを簡便に評価することが可能となった。本発明の方法により同定されたジベレリン応答性遺伝子は、発芽、伸長成長、花芽形成等が修飾された組み換え作物の作製などへの応用が期待される。
【配列表】
JP0004982727B2_000002t.gifJP0004982727B2_000003t.gifJP0004982727B2_000004t.gifJP0004982727B2_000005t.gifJP0004982727B2_000006t.gifJP0004982727B2_000007t.gifJP0004982727B2_000008t.gifJP0004982727B2_000009t.gifJP0004982727B2_000010t.gifJP0004982727B2_000011t.gifJP0004982727B2_000012t.gifJP0004982727B2_000013t.gifJP0004982727B2_000014t.gifJP0004982727B2_000015t.gifJP0004982727B2_000016t.gifJP0004982727B2_000017t.gifJP0004982727B2_000018t.gifJP0004982727B2_000019t.gifJP0004982727B2_000020t.gifJP0004982727B2_000021t.gifJP0004982727B2_000022t.gifJP0004982727B2_000023t.gifJP0004982727B2_000024t.gifJP0004982727B2_000025t.gifJP0004982727B2_000026t.gifJP0004982727B2_000027t.gifJP0004982727B2_000028t.gifJP0004982727B2_000029t.gifJP0004982727B2_000030t.gifJP0004982727B2_000031t.gifJP0004982727B2_000032t.gif
【図面の簡単な説明】
図1は、CIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子からコードされるアミノ酸配列とGRASファミリーとの比較を示す図である。SLR(OsGAI)はイネジベレリンシグナルリプレッサー(配列番号:5)、Tomato Lsはトマト腋芽抑制因子(配列番号:6)を示す。4種類全てで保存されているアミノ酸を*で、3種類で保存されているアミノ酸を・で示す。
図2は、図1の続きを示す図である。
図3は、CIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子のゲノミックサザンハイブリダイゼーションの結果を示す写真である。Aは、CIGR1遺伝子を示す。Bは、CIGR2遺伝子を示す。
図4は、アミノ酸レベルでのCIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子の進化系統を示す図である。AtSCRはアラビドプシスScarecrow、AtSCLnはScarecrow様遺伝子、AtGRSはAtGAIに類似の機能不明の遺伝子、AtGRAはアラビドプシスのジベレリンシグナルリプレッサー、AtGAIはアラビドプシスのジベレリンシグナルリプレッサー(GRAとの機能分担については不明)、OsSLRはイネのジベレリンシグナルリプレッサー、Tomato Lsはトマトの腋芽抑制因子、アラビドプシスの光シグナル伝達因子、AtSCL21はアラビドプシスのScarecrow様遺伝子(機能不明)、CIGR2は本研究で報告したイネ遺伝子、AtsCL13はアラビドプシスのScarecrow様遺伝子(機能不明)、AtSCL5はアラビドプシスのScarecrow様遺伝子(機能不明)、CIGR1は本研究で報告したイネ遺伝子を示す。
図5は、CIGR1およびCIGR2遺伝子の核局在を示す写真である。35S/CIGR1/GFPまたは35S/CIGR2/GFP融合遺伝子をパーティクルガン法でタマネギ表皮細胞に導入し、レーザー共焦点顕微鏡で観察した。対照として35S/GFP融合遺伝子を用いた。aは35S/GFP、bは35S/CIGR1/GFP、cは35S/CIGR2/GFPを表す。
図6は、CIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子のキチンオリゴマーへの応答性を示す写真である。aは、キチン7量体処理による発現のタイムコース(分)を示す。bは、キチンおよびキトサンオリゴマーの誘導活性を示す。
図7は、CIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子のGA3応答に対する2,4Dの効果を示す写真である。時間は、GA3処理後の時間を示す。
図8は、CIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子の発現誘導に及ぼすGA3の濃度効果を示す図および写真である。aは、各濃度(単位はモル濃度)のGA3を10分間処理した後に抽出した全RNAのノーザンブロットハイブリダイゼーション法による解析結果を示す写真である。bは、イメージアナライザーによるaのシグナルの定量結果を示す図である。四角がCIGR1遺伝子、白抜き三角がCIGR2遺伝子を示す。
図9は、ジベレリンの生理活性と遺伝子発現を示す図および写真である。イネ培養細胞に活性型(GA1、GA3、GA4)、不活性型(GA13、GA17)のジベレリンを10分間処理し、全RNAを抽出した。ノーザンブロットハイブリダイゼーション法で解析した結果を写真で示す。
図10は、GA3処理後のイネ緑葉におけるCIGR1遺伝子およびCIGR2遺伝子の発現を示す写真である。イネ植物体にGA3をスプレー処理し、タイムコースを追って3,4葉をサンプリングした。3,4葉より抽出した全RNAをノーザンブロットハイブリダイゼーション法で解析した。
図11は、エリシター応答とジベレリン応答に対するタンパク質リン酸化阻害剤の効果を示す写真である。(A)エリシター応答のポジティブコントロール、(B)オカダ酸(1μM)、(C)ラベンダスチンA(30μM)、(D)K-252-A(20μM)をキチン7量体(GN7)またはジベレリン(GA3)処理10分前に投与した。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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