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明細書 :種子中のタンパク質含量が低減した植物ならびにその作出法および利用法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第4644777号 (P4644777)
登録日 平成22年12月17日(2010.12.17)
発行日 平成23年3月2日(2011.3.2)
発明の名称または考案の名称 種子中のタンパク質含量が低減した植物ならびにその作出法および利用法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
A01H   5/00        (2006.01)
A23L   1/10        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
A23G   3/48        (2006.01)
A23G   3/50        (2006.01)
A23G   3/34        (2006.01)
C12G   3/02        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
A01H 5/00 A
A23L 1/10 E
C12N 5/00 103
A23G 3/00 104
A23G 3/00 106
C12G 3/02 119A
請求項の数または発明の数 76
全頁数 73
出願番号 特願2004-562037 (P2004-562037)
出願日 平成15年12月9日(2003.12.9)
国際出願番号 PCT/JP2003/015753
国際公開番号 WO2004/056993
国際公開日 平成16年7月8日(2004.7.8)
優先権出願番号 2002369700
優先日 平成14年12月20日(2002.12.20)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成18年11月17日(2006.11.17)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501203344
【氏名又は名称】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
発明者または考案者 【氏名】黒田 昌治
個別代理人の代理人 【識別番号】100078282、【弁理士】、【氏名又は名称】山本 秀策
【識別番号】100062409、【弁理士】、【氏名又は名称】安村 高明
【識別番号】100113413、【弁理士】、【氏名又は名称】森下 夏樹
審査官 【審査官】長井 啓子
参考文献・文献 国際公開第98/040489(WO,A1)
特開昭54-140744(JP,A)
Plant Biotechnol., vol.16(2), pp.103-113 (1999)
Nature, vol.407, pp.319-320 (2000)
調査した分野 C12N 15/00
A01H 1/00, 5/00
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
(a)配列番号1に示される核酸配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;または
(b)配列番号2に示されるアミノ配列を有するポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド
に相補的な、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の核酸配列を含む核酸分子であって、該イネのプロラミンポリペプチドの発現を減少させるアンチセンス活性によって該核酸分子を含まない該イネと比較して該イネにおける種子タンパク質の総量を減少させる活性を有する核酸分子。
【請求項2】
前記相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長は、少なくとも50の連続するヌクレオチド長である、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
(a)配列番号1に示される核酸配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;または
(b)配列番号2に示されるアミノ配列を有するポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド
に由来する、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の核酸配列を含む核酸分子であって、該イネのプロラミンポリペプチドの発現を減少させるアンチセンス活性によって該核酸分子を含まない該イネと比較して該イネにおける種子タンパク質の総量を減少させる活性を有する核酸分子。
【請求項4】
(A)(a)配列番号1に示される核酸配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;または
(b)配列番号2に示されるアミノ配列を有するポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド
に由来する、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の核酸配列を含む核酸配列A;および
(B)(a)配列番号1に示される核酸配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;または
(b)配列番号2に示されるアミノ配列を有するポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド
に相補的な、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の核酸配列を含む核酸配列B、
を含む因子であって、該イネのプロラミンポリペプチドの発現を減少させることによって該因子を含まない該イネと比較して該イネにおける種子タンパク質の総量を減少させるRNAiを引き起こす因子。
【請求項5】
前記核酸配列Aと前記核酸配列Bとは、互いに実質的に相補的である部分を含む、請求項4に記載の因子。
【請求項6】
前記核酸配列Aと前記核酸配列Bとは、互いに実質的に相補的である、請求項4に記載の因子。
【請求項7】
さらに、スペーサー配列を含む、請求項4に記載の因子。
【請求項8】
前記スペーサー配列は、イントロン配列を含む、請求項4に記載の因子。
【請求項9】
前記スペーサー配列は、前記核酸配列Aと前記核酸配列Bとの間に含まれる、請求項8に記載の因子。
【請求項10】
(a)配列番号1に示される核酸配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;または
(b)配列番号2に示されるアミノ配列を有するポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド
に相補的な、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の核酸配列を含む核酸配列Bを含む核酸カセットであって、該イネのプロラミンポリペプチドの発現を減少させるアンチセンス活性によって該核酸カセットを含まない該イネと比較して該イネにおける種子タンパク質の総量を減少させる活性を有する核酸分子を含む、核酸カセット。
【請求項11】
外来遺伝子をコードする核酸配列をさらに含む、請求項10に記載の核酸カセット。
【請求項12】
(a)配列番号1に示される核酸配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;または
(b)配列番号2に示されるアミノ配列を有するポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド
に由来する、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の核酸配列を含む核酸配列Aをさらに含む、請求項10に記載の核酸カセット。
【請求項13】
さらに、スペーサー配列を含む、請求項12に記載の核酸カセット。
【請求項14】
前記スペーサー配列は、イントロン配列を含む、請求項13に記載の核酸カセット。
【請求項15】
前記スペーサー配列は、前記核酸配列Aと、前記核酸配列Bとの間に含まれる、請求項13に記載の核酸カセット。
【請求項16】
さらに、シグナル配列を含む、請求項12に記載の核酸カセット。
【請求項17】
前記シグナル配列は、前記外来遺伝子の上流に配置される、請求項16に記載の核酸カセット。
【請求項18】
前記シグナル配列は、貯蔵タンパク質のシグナル配列である、請求項16に記載の核酸カセット。
【請求項19】
前記シグナル配列は、プロラミンシグナル配列である、請求項16に記載の核酸カセット。
【請求項20】
さらに、プロモーター配列を含む、請求項11に記載の核酸カセット。
【請求項21】
前記プロモーター配列は、前記外来遺伝子および前記核酸配列Bの両方に作動可能に連結される、請求項20に記載の核酸カセット。
【請求項22】
前記外来遺伝子および前記核酸配列Bの両方に、独立して別個のプロモーター配列が作動可能に連結される、請求項11に記載の核酸カセット。
【請求項23】
前記外来遺伝子に作動可能に連結されるプロモーター配列(プロモーター配列A)と、前記核酸配列Bに作動可能に連結されるプロモーター配列(プロモーター配列B)とは互いに異なる、請求項22に記載の核酸カセット。
【請求項24】
前記プロモーター配列Bは、種子に高いレベルで発現されるプロモーター配列である、請求項23に記載の核酸カセット。
【請求項25】
前記プロモーター配列Bは、貯蔵タンパク質プロモーターに由来する、請求項23に記載の核酸カセット。
【請求項26】
前記プロモーター配列Bは、貯蔵タンパク質プロモーターに由来し、前記プロモーター配列Aとは異なる、請求項23に記載の核酸カセット。
【請求項27】
前記プロモーター配列Bは、ポリユビキチンプロモーター、26kグロブリンプロモーター、グルテリンAプロモーター、グルテリンBプロモーター、16kDaプロラミンプロモーター、13kDaプロラミンプロモーターおよび10kDaプロラミンプロモーターからなる群より選択されるプロモーターに由来する、請求項23に記載の核酸カセット。
【請求項28】
前記プロモーター配列Aは、貯蔵タンパク質プロモーターに由来する、請求項23に記載の核酸カセット。
【請求項29】
前記プロモーター配列Aは、前記核酸配列Bに天然に付随するプロモーター配列である、請求項23に記載の核酸カセット。
【請求項30】
前記プロモーター配列Aは、26Kグロブリンプロモーター、グルテリンAプロモーター、グルテリンBプロモーター、16kDaプロラミンプロモーター、10kDaプロラミンプロモーターおよび13kDaプロラミンプロモーターからなる群より選択されるプロモーターに由来する、請求項23に記載の核酸カセット。
【請求項31】
前記プロモーター配列Aは、プロラミンプロモーターである、請求項23に記載の核酸カセット。
【請求項32】
前記プロモーター配列Aは、プロラミンプロモーターに由来し、前記プロモーター配列Bは、該プロラミンプロモーター以外のプロモーターに由来する、請求項23に記載の核酸カセット。
【請求項33】
前記外来遺伝子と前記プロモーター配列との間にインフレームでシグナル配列を含む、請求項21に記載の核酸カセット。
【請求項34】
さらに、ターミネーター配列を含む、請求項12に記載の核酸カセット。
【請求項35】
前記ターミネーター配列は、10kDaプロラミンのターミネーター配列である、請求項34に記載の核酸カセット。
【請求項36】
さらに外来遺伝子を含み、そして該外来遺伝子は、前記核酸配列Aおよび前記核酸配列Bよりも上流に存在する、請求項12に記載の核酸カセット。
【請求項37】
前記核酸配列Aと前記核酸配列Bとの間にスペーサー配列を含む、請求項36に記載の核酸カセット。
【請求項38】
前記核酸配列Aと前記核酸配列Bとの間にイントロン配列を含む、請求項36に記載の核酸カセット。
【請求項39】
核酸カセットを製造するための方法であって、該核酸カセットは、イネのプロラミンポリペプチドの発現を減少させるアンチセンス活性によって該核酸カセットを含まない該イネと比較して該イネにおける種子タンパク質の総量を減少させる活性を有し、
A)(a)配列番号1に示される核酸配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;または
(b)配列番号2に示されるアミノ配列を有するポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド
に相補的な、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の核酸配列を含む核酸配列Bと、
(a)配列番号1に示される核酸配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;または
(b)配列番号2に示されるアミノ配列を有するポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド
に由来する、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の核酸配列を含む核酸配列Aと
を含むセットの上流に作動可能にプロモーター配列Bを有し、
外来遺伝子が該プロモーター配列Bよりも上流または下流に配置され、
該外来遺伝子には作動可能にプロモーター配列Aが連結されている、核酸カセットを提供する工程、
B)該核酸カセットを用いて植物を形質転換する工程;および
C)該形質転換された植物について、プロラミンの発現量が一部減少しているものを選択する工程、
を包含する、方法。
【請求項40】
請求項1に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項41】
プロモーター活性を有する配列をさらに含む、請求項40に記載のベクター。
【請求項42】
前記プロモーター活性を有する配列は、貯蔵タンパク質のプロモーターである、請求項41に記載のベクター。
【請求項43】
前記プロモーター活性を有する配列は、前記プロラミンのプロモーターである、請求項40に記載のベクター。
【請求項44】
ターミネーターをさらに含む、請求項40に記載のベクター。
【請求項45】
選択マーカーをコードする配列をさらに含む、請求項40に記載のベクター。
【請求項46】
請求項1に記載の核酸分子とは異なる外来遺伝子をコードする配列をさらに含む、請求項40に記載のベクター。
【請求項47】
請求項1に記載の核酸分子を含む、プロラミンポリペプチドの発現が減少されたイネ細胞。
【請求項48】
請求項1に記載の核酸分子とは異なる外来遺伝子をコードする核酸分子をさらに含む、請求項47に記載の細胞。
【請求項49】
ジャポニカ種のイネ細胞である、請求項47に記載の細胞。
【請求項50】
2対の染色体の両方に、請求項1に記載の前記核酸分子が導入された、請求項47に記載の細胞。
【請求項51】
前記イネは低グルテリン含量イネである、請求項47~50のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項52】
前記低グルテリン含量イネはLGC-1である、請求項51に記載の細胞。
【請求項53】
請求項47~52のいずれか1項に記載の細胞を含む、イネ組織。
【請求項54】
請求項1に記載の核酸分子を含む、プロラミンポリペプチドの発現が減少されたイネ植物体。
【請求項55】
請求項1に記載の核酸分子とは異なる外来遺伝子をコードする核酸分子をさらに含む、請求項54に記載の植物体。
【請求項56】
ジャポニカ種のイネ植物体である、請求項54に記載の植物体。
【請求項57】
2対の染色体の両方に、請求項1に記載の前記核酸分子が導入された、請求項54に記載の植物体。
【請求項58】
低グルテリン含量イネである、請求項54~57のいずれか1項に記載の植物体。
【請求項59】
前記低グルテリン含量イネはLGC-1である、請求項58に記載の植物体。
【請求項60】
請求項54~59のいずれか1項に記載の植物体から生産された、イネ種子。
【請求項61】
請求項5に記載の植物体、または請求項55に記載の植物体から生産されたイネ種子から生産された、前記外来遺伝子の遺伝子産物を含む、組成物。
【請求項62】
イネ植物において種子中のタンパク質の発現量を減少させる方法であって、
A)請求項1に記載の核酸分子を提供する工程;
B)該核酸分子を該イネ植物の細胞に導入する工程;
C)該イネ細胞を再分化させてトランスジェニックイネ植物を作出する工程;および
D)該トランスジェニックイネ植物から種子を得る工程、
を包含する、方法。
【請求項63】
前記導入する工程は、アグロバクテリウム法による、請求項6に記載の方法。
【請求項64】
さらに、
E)前記核酸分子が導入されたイネ植物の細胞を選択する工程、
を包含する、請求項6に記載の方法。
【請求項65】
前記選択する工程は、抗生物質に対する耐性を判定することによって行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項66】
前記イネ植物は低グルテリン含量イネである、請求項6~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項67】
前記低グルテリン含量イネはLGC-1である、請求項6に記載の方法。
【請求項68】
イネ植物種子中で外来遺伝子を発現させる方法であって、
A)請求項1に記載の核酸分子を提供する工程;
B)該外来遺伝子をコードする核酸分子を提供する工程;
C)該請求項1に記載の核酸分子および該外来遺伝子をコードする核酸分子を該イネ植物の細胞に導入する工程;
D)該細胞を再分化させてトランスジェニックイネ植物を作出する工程;ならびに
E)該トランスジェニックイネ植物から種子を得る工程、
を包含する、方法。
【請求項69】
前記導入する工程は、アグロバクテリウム法による、請求項6に記載の方法。
【請求項70】
さらに、
F)前記核酸分子が導入されたイネ植物の細胞を選択する工程、
を包含する、請求項6に記載の方法。
【請求項71】
前記選択する工程は、抗生物質に対する耐性を判定することによって行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項72】
さらに
G)前記種子から前記外来遺伝子の遺伝子産物を分離する工程、
を包含する、請求項6に記載の方法。
【請求項73】
前記イネ植物は、低グルテリン含量イネである、請求項6~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項74】
前記低グルテリン含量イネはLGC-1である、請求項7に記載の方法。
【請求項75】
請求項6~7のいずれか1項に記載の方法によって生産された、前記外来遺伝子の遺伝子産物を含む、組成物。
【請求項76】
イネ植物において種子中のタンパク質の発現量を減少させるための、請求項1に記載の核酸分子の使用。
発明の詳細な説明 【技術分野】

本発明は、植物の機能改良に関する。より詳細には、本発明は、貯蔵タンパク質の発現を低減させる方法および外来タンパク質を効率よく発現させる方法ならびにそれらに使用するアンチセンス構築物、RNAi構築物、組成物、装置などに関する。別の局面では、本発明は、ネイティブのタンパク質に代えて目的のタンパク質を置き換えて発現させる方法に関する。
【背景技術】

イネなどの穀物を含む植物の機能改良は、植物の遺伝子操作技術の進歩とともに、顕著な進展を見せている。当初は病虫害抵抗性や除草剤耐性など、主に農家を対象とした栽培面における改良が進められたが、最近ではむしろ、消費者にアピールできる要素の大きい食用部分の形質変換に力が入れられるように変わってきている。様々な生理機能ペプチドや抗体のような外来機能性タンパク質を植物に発現させる研究は世界中で行われており、特に種子については、長期に安定して保存できることから、そのような外来機能性タンパク質の生産装置として注目されており(特開2002-58492号公報、Molecular Breeding 9:149-158(2002))、同時に種子に発現させるためのプロモーターの研究もされている(Plant Cell Physiol.39:885-889(1998))。
イネなどの穀物種子では、種子中のタンパク質含量は数%~10%とされており、その大部分は貯蔵タンパク質という形態で存在している。貯蔵タンパク質は、発芽の際に窒素栄養源となるもので、それ以外の生理機能は有さないとされている。一般にタンパク質は、その溶解性に基づいて、グルテリン、プロラミン、グロブリン、アルブミンの4つに大別されるが、貯蔵タンパク質のタイプには植物種ごとに特徴がある。マメ科種子においてはグロブリンが主要貯蔵タンパク質であることが多い一方、穀類などの単子葉植物では、一部例外を除いてプロラミンが主要貯蔵タンパク質である(J.Exp.Botany 53:947-958(2002))。
イネは、穀類の中では例外的にグルテリンが主要な貯蔵タンパク質で、種子タンパクの60~70%を占める。グルテリン遺伝子群は、ハプロイドゲノムあたり約10個の遺伝子より構成されており、これらの遺伝子群はコード領域においてアミノ酸レベルで60~65%の相同性を示す2つサブファミリーGluAおよびGluBに分類される。また、それぞれのサブファミリーにはアミノ酸レベルで80%以上の相同性を示す5個程度の遺伝子が含まれている。グルテリンは、進化的にはマメの貯蔵タンパク質グロブリンと類縁関係を持っており、アミノ酸組成は比較的必須アミノ酸に富んでいて栄養価が高い。いっぽうプロラミンは、イネ種子タンパク質の20~30%を占め、グルテリンに次ぐ含有量を持つ。特徴としては、グルタミンを多量に含み、またプロリンも比較的多く含まれる一方、必須アミノ酸であるリジンは極めて少なく、栄養価が低い。プロラミンはゲノム中に、少しずつアミノ酸配列が異なっている類似した構造の遺伝子が複数存在することが知られており、その総数は25~100の間であると推定されている。このほかの貯蔵タンパクとしては、分子量26KDaのグロブリンが数%を占めている。種子中においては、貯蔵タンパク質は、プロテインボディと呼ばれる顆粒状の細胞内構造に蓄積される。種子をタンパク質の製造工場とするなら、プロテインボディはタンパク質の倉庫の役割を果たす。イネでは、由来・外観が全く異なる2種のプロテインボディを胚乳中に共存させている点でも特徴的であり、それぞれプロテインボディ1(プロラミンが蓄積)、プロテインボディ2(グルテリンとグロブリンが蓄積)と呼ばれる(Plant Cell Physiol.28:1517-1527(1987);Plant Physiol.88:649-655(1988);Plant Biotechnology,16:103-113(1999);醸協(1993)414-420;稲学大成第3巻32-39(1990)および稲学大成第3巻317-325(1990))。
貯蔵タンパク質を改変する試みは、いろいろな作物でなされており、主に栄養価の改善、加工特性の改善をめざしたものである。イネの場合は、日本酒醸造や米加工食品の原料として低タンパクであることが好まれるため、放射線照射または変異原処理したイネ変異体プールより、主要な種子貯蔵タンパク質の含量や組成が低減した変異系統の探索が精力的に行われている(Iida,S.et al.(1997)Theor.Appl.Genet.94,177-183;Iida,S.et al.(1993)Theor.Appl.Genet.87,374-378;Crop Sci.39:825-831(1999);育種学研究4(別1)66(2002);育種学雑誌47(別2)632(1997);育種学雑誌47(別2)176(1997);育種学雑誌45(別2)502(1995);および育種学雑誌45(別1)508(1995))。これまでのところ、特定のグルテリンおよびグルテリン含有量が減少した変異イネは研究が進んでおり、これはグルテリンがイネの主要な貯蔵タンパクであり、ターゲットとして有力であることにも起因している。代表的な低グルテリンイネ系統としては、突然変異によるLGC-1と、アンチセンス法による組換え低グルテリンイネ系統(特許3149951号公報;育種学研究3:139-149(2001)およびMolecular Breeding 8:273-284(2001))が知られている。このうちLGC-1については、変異の原因遺伝子は1遺伝子で優性遺伝することが明らかにされ、最近単離された(The Plant Cell 15,1455-1467,(2003))。その構造は、本来は向かいあわせに2つのグルテリン遺伝子(GluB4とGluB5)が転写されるゲノム領域のうち、2つの遺伝子に挟まれた両者のターミネーター領域が欠落していた。これにより、GluB4プロモーターによる転写は、本来の終結点を超えてGluB5遺伝子までをアンチセンス方向に転写し、その結果GluB4とGluB5の相同領域が2本鎖RNAを形成することで、RNAi現象による貯蔵タンパク質グルテリン全般の発現抑制が起きていた。突然変異はそのまま交配育種に利用できることから、自身や他のイネと交配した後代の系統が品種登録にまで至っている(農業技術55(10)、26-29(2000)および育種学研究4:33-42(2002))。ただし、LGC-1遺伝子はグルテリン発現抑制のための最適構造をとっているとは言いがたく、そのためにLGC-1においても、なお原品種の30~50%に及ぶグルテリンが残っている。なお本発明においても貯蔵タンパク質の発現抑制のためにRNAi現象を利用しているが、最適な構造の構築遺伝子を用いることにより、発現抑制の効率を大きく上昇させ、技術的に大きな進歩をもたらしていることに意義がある。また低グルテリンイネ系統に共通する問題点としては、確かにグルテリンは原品種より大きく減少しているが、その反動としてプロラミンの著しい増大が見られる。これは一般に種子内のタンパク質を一定に保とうとする調節機構が働いており、グルテリンが足りないことを感知してプロラミン合成を増大させるためである。その意味では。低グルテリン系統は、貯蔵タンパク組成を改変した米であっても、低タンパク質化には十分成功していない。
いっぽう、プロラミンについては、栄養価に乏しく、消化性が悪く、米の加工特性や米飯の味を低下させるとされていることから、低下させることが望まれている。既にいくつかの変異イネが知られているものの(Iida,S.et al.(1997)Theor.Appl.Genet.94,177-183;Iida,S.et al.(1993)Theor.Appl.Genet.87,374-378;育種学研究4(別1)66(2002);育種学雑誌47(別2)632(1997);育種学雑誌47(別2)176(1997);育種学雑誌45(別2)502(1995);および育種学雑誌45(別1)508(1995)15~19)、プロラミン低下の度合いが小さい、あるいは別の変異が同時に起こって稔実しなかったなどの理由から、有望系統の選抜は遅れている。このため、プロラミンが著しく増大するという、一連のグルテリン低減系統の問題点を解決する目処はたっていない。このように、低プロラミンイネの開発は今後の課題として残っている。
冒頭に述べた通り、種子を有用タンパク質の製造装置(バイオリアクター)として利用する研究が注目を集めている。種子は食品として長く食べてきた歴史もあるため、有害物質の混入のリスクが小さいメリットがあり、また特別な精製操作なしに、そのまま食べられる点も大きい。このような場合に貯蔵タンパク質が減少した種子を使えば、余剰のアミノ酸が効率良く外来タンパク質合成にまわるため、発現が増大する可能性がある。貯蔵タンパク質を減少させ、その分を有用タンパク質におきかえたとしても、窒素源としての機能は果たし得るので、種子生理的にも問題はおきにくいと考えられる。また、イネの場合、グルテリンとプロラミンは厳密にわけられて別々の顆粒に集積することから、そのしくみをうまく使って、プロテインボディに集積させることでより発現量を高めたり、有用タンパク質を精製しやすくすることも考えられている。例えば、貯蔵タンパク質プロラミンのシグナル配列は、同一種はもとより、イネ科種子、例えばコムギ、オオムギ、トウモロコシの貯蔵タンパク質でもホモロジーが高いことから、これらの配列を用いてプロテインボデイ1にタンパク質を集積させることができる可能性がある。
しかし、機能性作物の創出をめざして種子に外来タンパク質を発現させた既存の成果(特開2002-17187号公報;特開平7-213185号公報;および特表2001-518305号公報、育種学研究5(別2)294(2003))においては、多くの場合は通常の品種が発現に用いられている。その場合、種子内のアミノ酸プールの大部分がイネの貯蔵タンパク質合成に消費され、有用タンパク質生産のために使える量は非常に限定されてしまう。結果として、有用タンパク質発現レベルが限定され、機能改変の効率は良くない。また、貯蔵タンパク質変異イネを外来タンパク質発現に使った例(特開2002-58492号公報)においても、グルテリン低減イネは種子タンパク質総量としてはオリジナルとほぼ同等のため、やはり有用タンパク質と貯蔵タンパク質で種子内のアミノ酸プールの競合の問題は解決されていない。このように既存の技術においては、外来タンパク質の効率的な発現系を用いているとは言えない。
低タンパク質イネがあれば、何らかの形で米のタンパク質を除去して用いる場合にも、少ない労力でタンパク質を除けることから有用である。一般的な食用米や米加工食品原料としても、低タンパク質であることが好ましい(「種子のバイオサイエンス」種子生理生化学研究会編 学会出版センター2.イネ 251-257(1995);「種子のバイオサイエンス」種子生理生化学研究会編 学会出版センター4.コメの加工製品 359-365(1995)および「種子のバイオサイエンス」種子生理生化学研究会編 学会出版センター5.日本酒・清酒 366-371(1995))が、近年ニーズが増している領域には、アレルゲン低減米の材料が考えられる。なんらかのアレルギーを持つ人々は日本人の約1/3にのぼるといわれ、その中で従来はあまりアレルギーが問題となっていなかった米についても、アレルギー患者が増大しつつある。このような場合、栄養的には代替食品を摂取することですむものの、食べ慣れた米が突然食べられなくなることは、精神的な苦痛がはるかに大きい。そこで、米アレルギー患者向けに、アレルゲンを低減化した加工米のニーズが高まっている。米においてアレルゲンとなっているのはグロブリンタンパク質が主であり、例えば特開平2-167040号公報ではアレルゲン除去に米にタンパク質分解酵素を作用させ、グロブリンタンパク質の分解除去を試みている。また、特許第3055729号公報では、低タンパク質米を原材料にアルカリ洗浄でアレルゲンを溶解除去する方法が述べられている。いずれもタンパク質を除去することに主眼があることから、低タンパク質米のほうがタンパク質抽出除去効率がよくなるはずであるが、実際に用いているイネ系統は通常の系統か、貯蔵タンパクの組成が変化しているが低タンパクにはなっていない系統であり、効率的ではない。また特許第3055729号公報では、既存のいろいろな変異イネを試しているだけで、戦略的に機能性作物を開発しているわけではない。さらに、その結果好ましいとされた低グルテリンまたは低プロラミンの特性は、現在の品種では両立しておらず、単独品種で広い分子量の範囲に分布するアレルゲンの包括的な除去には成功していない。
以上のことから、米および米加工品の高度利用、機能性植物・種子の作出などの分野において、低タンパク質の種子の提供、および種子における外来タンパク質の発現を向上させることに対する需要は高い。
本発明は、種子のタンパク質含量を減少させる方法およびそのために必要な技術の開発、そのような方法によって開発された植物およびその種子、ならびにそのような植物および種子の利用法を提供することを課題とする。
【図面の簡単な説明】

図1は、本発明におけるプロラミンアンチセンス遺伝子カセット、有用遺伝子発現カセットおよびそれらを用いたベクターの構築を容易ならしめるための、既存のベクターおよびプロモーターの改変バージョンを示したものである。これらを利用することにより、迅速な発現カセット、発現ベクターの構築が可能となる。さらに複数の発現カセットを同時に導入するような、複雑な構造の構築遺伝子も迅速かつ容易に構築できる。
図2は、実際に構築して導入した、プロラミンアンチセンス遺伝子ベクターの構造の概略を示した図である。
図3は本発明の種子であるLP13K系統(13kDaプロラミンアンチセンス遺伝子カセットを導入した系統)における種子タンパク質をSDS-PAGEによる電気泳動法により分析した結果である。タンパク質の検出はクマシーブリリアントブルー染色により行った。電気泳動写真の横には、主要な貯蔵タンパク質に相当するバンドとして,A:10kDaプロラミン、B:13kDaプロラミン、C:16kDaプロラミン、D:グルテリン塩基性サブユニット、E:26kDaグロブリン、F:グルテリン酸性サブユニットを表記し、また縦に示した数字は分子量の目安である。これらの表記は以降の図にも共通してもちいる。LP13K系統であるレーン4、5、6においては、他のレーンと比較して、13kDaプロラミンに相当するBのバンドの濃度が著しく低下しており、13kDaプロラミン含量が減少していることが明示されている。
図4は様々な構造の13kDaプロラミンアンチセンス遺伝子カセットを導入した種子のタンパク質をSDS-PAGEにより分析した結果である。ハイグロマイシン抵抗性(図中にRで表記)のレーンでは例外なく13kDaプロラミンに相当するBのバンドの濃度が著しく低下している。
図5は、様々な構造のプロラミンアンチセンス遺伝子発現カセットを導入したイネのうち、抑制効果が顕著である系統について、種子をランダムに選び、プロラミン低減形質を抗13kDaプロラミン(日本晴)抗体を用いたウェスタンブロット解析により調査したものである。図中a)では、SDS-PAGE後にクマシーブリリアントブルー染色を行った(種子抽出タンパク質15μlを使用した)。b)では、SDS-PAGE後にPVDF膜に転写し、抗13kDaプロラミン(日本晴)ポリクローナル抗体でウェスタン解析を行った(種子抽出タンパク質0.5μlを使用した)。レーン下にバンドの吸光度の相対比率を示した。
図6(aおよびb)はLP13Kの胚乳表層細胞を透過電顕で観察した映像を示す。aでは観察像そのままを提示しており、bではそれにプロテインボディのタイプを重ねて表示している。プロテインボディ1は、グレーの球形をした顆粒である(プロラミンが蓄積する)。b)では、黒三角で示す。プロテインボディ2は、色が黒く(濃く)見えるやや大きめの顆粒である(グルテリンおよびグロブリンが蓄積する)。b)では、白三角で示す。
通常品種における観察像(b2)と比較して、LP13K(b1)ではプロラミンが蓄積するはずのプロテインボディ1の数が大きく減少している。LGC-1(b3)においては逆にプロテインボディ2の数が大きく減少する一方でプロテインボディ1の数は大きく増加している。このように、プロラミンを制御することでプロテインボディ形成を制御し得ること、かつ表層細胞の内部の状態を大きく変えることができることが示された。
図7は、様々な品種の種子タンパク質のSDS-PAGEの結果と、抗13kDaプロラミンポリクローナル抗体によるウエスタン解析の結果を示す。ジャポニカ、インディカいずれの品種においても、抗体に良く反応する13kDaプロラミンが検出されており、構造が高度に保存されていることを示している。
図8は、本発明を有用タンパク質発現システムとしての応用の可能性を検証するために用いた発現ベクター構造の例を示したものである。
図9(A-B)は、代表的なプロラミンの配列の比較図である。
図10は実施例8における実験例および電気泳動の結果を示す。
図11は、実施例11の、GFPをモデルタンパク質としたイネ種子での外来遺伝子発現実験に用いた構築遺伝子の構造を示す。13kDaプロラミン発現抑制カセットを同時に導入すること、すなわち貯蔵タンパク質を低減させることがGFPの発現を増強することが示された。
図12は、実施例11の結果を踏まえて、実施例12で用いた構築遺伝子の構造を示す。
図13は、図12における遺伝子5および6を導入したイネ種子のタンパク質の電気泳動の結果およびGFP量の定量結果を示す。本発明の技術を用いることで、従来の予想を大きく上回るレベルでのGFPの発現に成功し、種子タンパク質の電気泳動パターンが一般品種のものと大きく異なる、新規なイネ種子の創出に成功したことを明示している。
図14は、図12の構築遺伝子において、予想した通りにシグナル配列が切除され、設計通りに正しいGFPタンパク質が発現されていることを、タンパク質のN末端シーケンスにより直接確認した結果である。本発明の構築遺伝子の構造の優秀性を証明している。
図15は、実施例13において、本発明の技術を用いて実際の有用タンパク質であるシスタチンの生産を行った例である。予想通り、既存の成果を大きく上回るレベルでのシスタチン発現が達成された。
図16は、本発明の過程で解明された、イネ種子における貯蔵タンパク質組成の調節様式をまとめたものである。これにより、本発明の基礎理論となる、貯蔵タンパク質に使われるアミノ酸を効率的に外来タンパク質に転用する方法が明らかになった。
図17は、全ての結果を総括し、種子における効率的な外来タンパク質発現に、普遍的に有用な構築遺伝子の概念を提示したものである。
配列表の説明
配列番号1:13kDaプロラミン(RM9)の核酸配列
配列番号2:13kDaプロラミン(RM9)のアミノ酸配列
配列番号3:13kDaプロラミン(RM1)の核酸配列
配列番号4:13kDaプロラミン(RM1)のアミノ酸配列
配列番号5~30:代表的な13kDaプロラミンの配列
配列番号31~32:代表的な16kDaプロラミンの配列
配列番号33~46:代表的な10kDaプロラミンの配列
配列番号47:イネ10kDaプロラミン遺伝子に由来するプロモーター配列
配列番号48:イネグルテリンB1遺伝子に由来するプロモーター配列
配列番号49:CaMV35S遺伝子に由来するプロモーター配列
配列番号50:13kDaプロラミンをコードするcDNA全長(配列番号1)のアンチセンス
配列番号51:13kDaプロラミンをコードするcDNAのN末端の67bpのアンチセンス配列
配列番号52:13kDaプロラミンをコードするcDNAのN末端の15bpのアンチセンス配列
配列番号53:ネガティブコントロール配列
配列番号54:ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ
配列番号55:Nosターミネーター
配列番号56:改変遺伝子mHPTアミノ酸配列
配列番号57:CaMV35Sプロモーターおよびnosターミネーターと制限酵素で切断されないように連結した選抜マーカー発現カセット
配列番号58:mRUbiPプロモーターの配列
配列番号59:GUS遺伝子断片
配列番号60:13kDaプロラミンプロモーター配列
配列番号61:10kDaプロラミンターミネーター配列
配列番号62:グルテリンA3プロモーター配列
配列番号63~72:アンチセンスの他の例示配列
配列番号73~84:アンチセンスの例示配列の対応アミノ酸配列
配列番号85~88:プロラミンの特徴モチーフ
配列番号89:RM4アミノ酸配列
配列番号90:RM5アミノ酸配列
配列番号91:RM7アミノ酸配列
配列番号92:RM10アミノ酸配列
配列番号93:RM16アミノ酸配列
配列番号94:RM4核酸配列
配列番号95:RM5核酸配列
配列番号96:RM7核酸配列
配列番号97:イネアスパラギン酸プロテアーゼ遺伝子イントロン配列
配列番号98:13kDaプロラミンのコンセンサス配列例1
配列番号99:13kDaプロラミンのコンセンサス配列例2
配列番号100:13kDaプロラミンのコンセンサス配列例3
配列番号101:13kDaプロラミンのコンセンサス配列例4
配列番号102:13kDaプロラミンのコンセンサス配列例1のコード核酸配列
配列番号103:13kDaプロラミンのコンセンサス配列例2のコード核酸配列
配列番号104:13kDaプロラミンのコンセンサス配列例3のコード核酸配列
配列番号105:13kDaプロラミンのコンセンサス配列例4のコード核酸配列
配列番号106:16kDaプロラミンプロモーター配列
配列番号107:26kDaグロブリンプロモーター配列
配列番号108:10kDaプロラミンシグナル配列(核酸)
配列番号109:10kDaプロラミンシグナル配列(アミノ酸)
配列番号110:13kDaプロラミンシグナル配列(核酸)
配列番号111:13kDaプロラミンシグナル配列(アミノ酸)
配列番号112:16kDaプロラミンシグナル配列(核酸)
配列番号113:16kDaプロラミンシグナル配列(アミノ酸)
配列番号114:グルテリンB1シグナル配列(核酸)
配列番号115:グルテリンB1シグナル配列(アミノ酸)
配列番号116:26kDaグロブリンシグナル配列(核酸)
配列番号117:26kDaグロブリンシグナル配列(アミノ酸)
配列番号118:実施例11における決定配列。
【発明の開示】

本発明者らは、ある種のプロラミンをコードする遺伝子配列の少なくとも一部(少なくとも15塩基あれば十分)に対して相補的なアンチセンス分子が、プロラミン多重遺伝子群の発現全体を顕著に減少させその結果として、種子のタンパク質含量を減少させ得ることを見出したことによって、上記課題を解決した。
従って、本発明は、以下を提供する。
1. プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列に相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列または上記相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列に対して少なくとも約70%相同な核酸配列を含む、核酸分子。
2. 上記プロラミンポリペプチドをコードする遺伝子配列に相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列を含む、項目1に記載の核酸分子。
3. 上記プロラミンは、イネのものである、項目1に記載の核酸分子。
4. 上記プロラミンは、ジャポニカ種のイネのものである、項目1に記載の核酸分子。
5. 上記相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長は、少なくとも50の連続するヌクレオチド長である、項目1に記載の核酸分子。
6. 上記相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列は、上記プロラミンポリペプチドをコードする全長配列の相補配列を含む、項目1に記載の核酸分子。
7. 上記相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列は、上記プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列の5’末端のものである、項目1に記載の核酸分子。
8. 上記相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長は、50ヌクレオチド以下のヌクレオチド長である、項目1に記載の核酸分子。
9. 上記相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長は、30ヌクレオチド以下のヌクレオチド長である、項目1に記載の核酸分子。
10. 上記相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長は、配列番号98~101からなる群より選択される1つのアミノ酸をコードする核酸配列のうち少なくとも15ヌクレオチド長を有する配列を含む、項目1に記載の核酸分子。
11. 上記プロラミンは、13kDaプロラミンである、項目1に記載の核酸分子。
12. (a)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43および45からなる群より選択される配列番号に示される核酸配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44および46からなる群より選択される配列番号に示されるアミノ配列を有するポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44および46からなる群より選択される配列番号に示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43および45からなる群より選択される配列番号に示される核酸配列からなるDNAの対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44および46からなる群より選択される配列番号に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体またはオルソログをコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)~(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)~(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
に相補的な、少なくとも15の連続するヌクレオチド長の核酸配列を含む、項目1に記載の核酸分子。
13. アンチセンス活性を有する、項目1に記載の核酸分子。
14. 上記アンチセンス活性は、上記プロラミンポリペプチドの発現を減少させるものである、項目13に記載の核酸分子。
15. プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列に由来する少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列または上記相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列に対して少なくとも約70%相同な核酸配列を含む、核酸分子
16.
(A)プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列に由来する少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列または上記相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列に対して少なくとも約70%相同な核酸配列を含む核酸配列A;および
(B)プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列に相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列または上記相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列に対して少なくとも約70%相同な核酸配列を含む核酸配列B、
を含む、核酸分子。
17. 上記核酸配列Aと上記核酸配列Bとは、互いに実質的に相補的である部分を含む、項目16に記載の核酸分子。
18. 上記核酸配列Aと上記核酸配列Bとは、互いに実質的に相補的である、項目16に記載の核酸分子。
19. さらに、スペーサー配列を含む、項目16に記載の核酸分子。
20. 上記スペーサー配列は、イントロン配列を含む、項目19に記載の核酸分子。
21. 上記スペーサー配列は、上記核酸配列Aと上記核酸配列Bとの間に含まれる、項目19に記載の核酸分子。
22. プロラミンポリペプチドをコードする遺伝子配列に対してRNAiを引き起こす、因子。
23. プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列に相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列または上記相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列に対して少なくとも約70%相同な核酸配列Bを含む、核酸カセット。
24. 外来遺伝子をコードする核酸配列をさらに含む、項目23に記載の核酸カセット。
25. プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列に由来する少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列または上記相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列に対して少なくとも約70%相同な核酸配列を含む核酸配列Aをさらに含む、項目23に記載の核酸カセット。
26. さらに、スペーサー配列を含む、項目25に記載の核酸カセット。
27. 上記スペーサー配列は、イントロン配列を含む、項目26に記載の核酸カセット。
28. 上記スペーサー配列は、上記核酸配列Aと、上記核酸配列Bとの間に含まれる、項目26に記載の核酸カセット。
29. さらに、シグナル配列を含む、項目25に記載の核酸カセット。
30. 上記シグナル配列は、上記外来遺伝子の上流に配置される、項目29に記載の核酸カセット。
31. 上記シグナル配列は、貯蔵タンパク質のシグナル配列である、項目29に記載の核酸カセット。
32. 上記シグナル配列は、プロラミンシグナル配列である、項目29に記載の核酸カセット。
33. さらに、プロモーター配列を含む、項目24に記載の核酸カセット。
34. 上記プロモーター配列は、上記外来遺伝子および上記核酸配列Bの両方に作動可能に連結される、項目33に記載の核酸カセット。
35. 上記外来遺伝子および上記核酸配列Bの両方に、独立して別個のプロモーター配列が作動可能に連結される、項目24に記載の核酸カセット。
36. 上記外来遺伝子に作動可能に連結されるプロモーター配列(プロモーター配列A)と、上記核酸配列Bに作動可能に連結されるプロモーター配列(プロモーター配列B)とは互いに異なる、項目35に記載の核酸カセット。
37. 上記プロモーター配列Bは、種子に遺伝子を発現させうるプロモーター配列である、項目36に記載の核酸カセット。
38. 上記プロモーター配列Bは、貯蔵タンパク質プロモーターに由来する、項目36に記載の核酸カセット。
39. 上記プロモーター配列Bは、貯蔵タンパク質プロモーターに由来し、上記プロモーター配列Aとは異なる、項目36に記載の核酸カセット。
40. 上記プロモーター配列Bは、ポリユビキチンプロモーター、26kグロブリンプロモーター、グルテリンAプロモーター、グルテリンBプロモーター、16kDaプロラミンプロモーター、13kDaプロラミンプロモーターおよび10kDaプロラミンプロモーターからなる群より選択されるプロモーターに由来する、項目36に記載の核酸カセット。
41. 上記プロモーター配列Aは、貯蔵タンパク質プロモーターに由来する、項目36に記載の核酸カセット。
42. 上記プロモーター配列Aは、上記核酸配列Bに天然に付随するプロモーター配列である、項目36に記載の核酸カセット。
43. 上記プロモーター配列Aは、26kDaグロブリンプロモーター、グルテリンAプロモーター、グルテリンBプロモーター、16kDaプロラミンプロモーター、10kDaプロラミンプロモーターおよび13kDaプロラミンプロモーターからなる群より選択されるプロモーターに由来する、項目36に記載の核酸カセット。
44. 上記プロモーター配列Aは、プロラミンプロモーターである、項目36に記載の核酸カセット。
45. 上記プロモーター配列Aは、プロラミンプロモーターに由来し、上記プロモーター配列Bは、上記プロラミンプロモーター以外のプロモーターに由来する、項目36に記載の核酸カセット。
46. 上記外来遺伝子と上記プロモーター配列との間にインフレームでシグナル配列を含む、項目33に記載の核酸カセット。
47. さらに、ターミネーター配列を含む、項目25に記載の核酸カセット。
48. 上記ターミネーター配列は、10kDaプロラミンのターミネーター配列である、項目47に記載の核酸カセット。
49. さらに外来遺伝子を含み、そして上記外来遺伝子は、上記核酸配列Aおよび上記核酸配列Bよりも上流に存在する、項目25に記載の核酸カセット。
50. 上記核酸配列Aと上記核酸配列Bとの間にスペーサー配列を含む、項目49に記載の核酸カセット。
51. 上記核酸配列Aと上記核酸配列Bとの間にイントロン配列を含む、項目49に記載の核酸カセット。
52. 核酸カセットを製造するための方法であって、
A)プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列に相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列または上記相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列に対して少なくとも約70%相同な核酸配列Bと、プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列に由来する少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列または上記相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列に対して少なくとも約70%相同な核酸配列を含む核酸配列Aと含むセットの上流に作動可能にプロモーター配列Bを有し、
外来遺伝子が上記プロモーター配列Bよりも上流または下流に配置され、
上記外来遺伝子には作動可能にプロモーター配列Aが連結されている、核酸カセットを提供する工程、
B)上記核酸カセットを用いて植物を形質転換する工程;および
C)上記形質転換された植物について、プロラミンの発現量が一部減少しているものを選択する工程、
を包含する、方法。
53. 項目1に記載の核酸分子を含む、ベクター。
54. プロモーター活性を有する配列をさらに含む、項目53に記載のベクター。
55. 上記プロモーター活性を有する配列は、貯蔵タンパク質のプロモーターである、項目54に記載のベクター。
56. 上記プロモーター活性を有する配列は、上記プロラミンのプロモーターである、項目53に記載のベクター。
57. ターミネーターをさらに含む、項目53に記載のベクター。
58. 選択マーカーをコードする配列をさらに含む、項目53に記載のベクター。
59. 項目1に記載の核酸分子とは異なる外来遺伝子をコードする配列をさらに含む、項目53に記載のベクター。
60. 項目1に記載の核酸分子を含む、植物細胞。
61. 項目1に記載の核酸分子とは異なる外来遺伝子をコードする核酸分子をさらに含む、項目60に記載の植物細胞。
62. 上記プロラミンが由来する植物種と、上記植物の種とは、同種のものである、項目60に記載の植物細胞。
63. 上記プロラミンが由来する植物種と、上記植物の種とは、同一品種のものである、項目60に記載の植物細胞。
64. 上記プロラミンが由来する植物種および上記植物の種は、イネである、項目60に記載の植物細胞。
65. 上記プロラミンが由来する植物種および上記植物の種は、ジャポニカ種のイネである、項目60に記載の植物細胞。
66. 2対の染色体の両方に、項目1に記載の上記核酸分子が導入された、項目60に記載の植物細胞。
67. 項目60に記載の植物細胞を含む、植物組織。
68. 項目1に記載の核酸分子を含む、植物体。
69. 項目1に記載の核酸分子とは異なる外来遺伝子をコードする核酸分子をさらに含む、項目68に記載の植物体。
70. 上記プロラミンが由来する植物種と、上記植物の種とは、同種のものである、項目68に記載の植物体。
71. 上記プロラミンが由来する植物種と、上記植物の種とは、同一品種のものである、項目68に記載の植物体。
72. 上記プロラミンが由来する植物種および上記植物の種は、イネである、項目68に記載の植物体。
73. 上記プロラミンが由来する植物種および上記植物の種は、ジャポニカ種のイネである、項目68に記載の植物体。
74. 2対の染色体の両方に、項目1に記載の上記核酸分子が導入された、項目68に記載の植物体。
75. 項目68に記載の植物体から生産された、種子。
76. 項目69に記載の植物体から生産された、種子。
77. 項目68に記載の植物体、または項目75に記載の種子から生産された、デンプン調製物。
78. 項目69に記載の植物体、または項目76に記載の種子から生産された、上記外来遺伝子の遺伝子産物を含む、組成物。
79. 植物において種子中のタンパク質の発現量を減少させる方法であって、
A)項目1に記載の核酸分子を提供する工程;
B)上記核酸分子を上記植物の細胞に導入する工程;
C)上記細胞を再分化させてトランスジェニック植物を作出する工程;および
D)上記トランスジェニック植物から種子を得る工程、
を包含する、方法。
80. 上記導入する工程は、アグロバクテリウム法による、項目79に記載の方法。
81. さらに、
E)上記核酸分子が導入された植物の細胞を選択する工程、
を包含する、項目79に記載の方法。
82. 上記選択する工程は、抗生物質に対する耐性を判定することによって行われる、項目81に記載の方法。
83. 植物種子中で外来遺伝子を発現させる方法であって、
A)項目1に記載の核酸分子を提供する工程;
B)上記外来遺伝子をコードする核酸分子を提供する工程;
C)上記項目1に記載の核酸分子および上記外来遺伝子をコードする核酸分子を上記植物の細胞に導入する工程;
D)上記細胞を再分化させてトランスジェニック植物を作出する工程;ならびに
E)上記トランスジェニック植物から種子を得る工程、
を包含する、方法。
84. 上記導入する工程は、アグロバクテリウム法による、項目83に記載の方法。
85. さらに、
F)上記核酸分子が導入された植物の細胞を選択する工程、
を包含する、項目83に記載の方法。
86. 上記選択する工程は、抗生物質に対する耐性を判定することによって行われる、項目85に記載の方法。
87. さらに
G)上記種子から上記外来遺伝子の遺伝子産物を分離する工程、
を包含する、項目83に記載の方法。
88. 項目83に記載の方法によって生産された、上記外来遺伝子の遺伝子産物を含む、組成物。
89. 植物において種子中のタンパク質の発現量を減少させるための、項目1に記載の核酸分子の使用。
90. 植物の種子中で外来遺伝子を発現させるための、項目1に記載の核酸分子の使用。
91. 上記種子中における上記植物の天然のタンパク質発現が低減している、項目90に記載の使用。
以下に、本発明の好ましい実施形態を示すが、当業者は本発明の説明および当該分野における周知慣用技術からその実施形態などを適宜実施することができ、本発明が奏する作用および効果を容易に理解することが認識されるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】

以下に本発明の好ましい形態を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など、独語の場合の「ein」、「der」、「das」、「die」などおよびその格変化形、仏語の場合の「un」、「une」、「le」、「la」など、スペイン語における「un」、「una」、「el」、「la」など、他の言語における対応する冠詞、形容詞など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
(用語)
本明細書において「種子タンパク質」は、作物の種子に蓄積するタンパク質をさす。溶媒に対する溶解性の違いで呼び分けることが多く、水溶性のアルブミン、塩水溶液可溶性のグロブリン、含水アルコールに可溶のプロラミン、希酸または希アルカリに可溶なグルテリンに大別される。
本明細書において「プロラミン」は50~90%程度の含水アルコールに可溶であるタンパク質の総称であり、穀類種子は、このプロラミンタイプのタンパク質が主要な貯蔵タンパク質であることに特徴がある。穀類ごとに独特の呼び名があり、代表的なものとしては、コムギグルテニン、オオムギホルディン、トウモロコシゼイン、オートムギアベニンなどがあげられるが、イネの場合は単にプロラミンと呼ばれる。ただしイネの場合は、グルテリンが種子タンパク質の60~70%をしめる主要タンパク質で、プロラミンはそれに次いで含有量が20~30%、グロブリンが数%とされている。プロラミンの分子量は植物種ごとに異なっていることが多いが、共通する特徴としては、それらのアミノ酸配列がグルタミンに富み、それが連続する(例えばGln-Gln、Gln-Gln-Glnなど)領域または一定アミノ酸ごとに出現する(例えばGln-Xaa-Gln-Xaa-Gln))領域があることがあげられる。また、グルタミン以外にプロリンおよびシステインなどを含めた数アミノ酸以上よりなるモチーフ(例えばGlu-Phe-Val-Arg-Gln-Gln-Cys-Ser-Pro(配列番号85)、あるいはCys-Gln-Val-Met-Gln-Gln-Gln-Cys-Cys-Gln-Gln(配列番号86)およびその1または数個の置換、付加もしくは欠失を含む配列)が、プロラミン遺伝子のアミノ酸配列に共通的に保存されていることも特徴である。SS結合に関与するCys残基の位置もよく保存されている。さらに、これらのモチーフは同一植物内のプロラミン遺伝子に限らず、異なる植物種間でも保存されている場合が多いことから、進化的には共通祖先を持つプロラミン遺伝子スーパーファミリーを形成するとされている(Shewry,PE et al.,Plant Cell 7,945-956,1995)。他の貯蔵タンパク質の場合と同様に、プロラミン遺伝子はゲノム中に多コピー存在し、多重遺伝子族(マルチジーン)であることが知られている。それぞれの遺伝子から作られた、アミノ酸配列が少しずつ異なるタンパク質が混合して種子に存在している。
イネプロラミンは、55~60%の1-プロパノールにより効率良く抽出される(Sugimoto,T.et al.,Agric.Biol.Chem.50,2409-2410,1986)。また、ゲノミックサザン分析、cDNAクローニングや等電点電気泳動により、遺伝子の数は25~100と推定されている。これらはいくつかのサブファミリーに分類することができ、研究者によって、また実験に使われた品種によって分類方法とタンパクの呼称は様々にあるが、もっとも一般的な分類としては、1次元のSDS電気泳動における分子量によるものがあげられる。その場合は、10KDa、13KDa(インディカ種では14KDaと記述される場合があり、本明細書において13KDaプロラミンというときはこの14KDaも含む)、16KDa(インディカ種では18KDaと記述される場合がある。本明細書において16KDaプロラミンというときはこの18KDaも含む)などのものが存在する。それぞれのプロラミンのバンドは、1次元のSDS電気泳動では1本であっても、その中には多数の種類のタンパク質が混合しており、10KDaについては1種以上、16KDaについては3種以上、もっとも多重度の高い13KDaについては確認されただけで12種類、実際はそれ以上あることがわかっている。13KDaプロラミンについて、タンパク質スポットとcDNAの対応関係から詳細に分類した研究(Mitsukawa,N et al.,Plant Biotech.16,103-113,1999)では、SS結合を還元するかしないかで溶解性が変化する性質、アミノ酸配列の相同性とシステイン残基の数によりタイプを4つに分類した例がある。このほか、コムギの分類例にならって、イオウ含有量(主にシステイン残基の含有量)によりsulphur-richタイプ、sulphur-poorタイプという分類の例もあり、sulphur-poorタイプにはシステインが含まれていない。プロラミンはいずれもタンパク質のN末端がブロックされているため、プロテイン配列による解析が困難であることから、タンパク質・cDNAいずれのレベルでも未同定であるプロラミンや、cDNAとの対応関係が不明確であるプロラミンが、依然として多数存在すると考えられる。しかし、どのような分類法・呼称をとるとしても、そのタンパク質がプロラミンに属するものかどうかは、1)含水アルコールに溶解する、2)グルタミンに富むアミノ酸配列(少なくとも10%以上)または、リジンが極めて少ない(3%以下)か、1つもない、3)1~数アミノ酸ごとにグルタミン残基が出現する、またはグルタミンが2個以上連続して出現する場所が複数存在する4)グルタミンを核として、プロリン、システインなどのアミノ酸を含む配列モチーフ(Glu-Phe-Val-Arg-Gln-Gln-Cys-Ser-Pro(配列番号85)、あるいはCys-Gln-Val-Met-Gln-Gln-Gln-Cys-Cys-Gln-Gln(配列番号86)またはそれと50%以上の相同性を有するモチーフ)が、保存されているといった共通事項があり、当業者には容易に判別し得る。4)について例をあげるなら、Gln-Gln-Cys-Cys-Gln-Gln(配列番号87)というモチーフは、イネプロラミンにもコムギグルテニンにも高度に保存されているし、またGlu-Phe-Val-Arg-Gln-Gln(配列番号88)はイネプロラミンとトウモロコシグリアジン、オートムギアベニンなどに保存されている。このように、分子量の違いやタンパク質全体の相同性が低い場合があても、穀物プロラミンは祖先遺伝子を同じくするプロラミン遺伝子スーパーファミリーとして認識されている(Shewry,PE et al.,Plant Cell 7,945-956,1995)。イネプロラミンこれまでに論文として報告されたものでは、cDNAレベルではλRM1、λRM2、λRM4、λRM7、λRM9、1pS18、pS23、pX24、pProl7、pProl14、pProl17、λRP16、λRP10といったものがあるが、それに限定されない。そのようなプロラミンとしては、例えば、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29(13kDaプロラミン)、31(16kDaプロラミン)、33、35、37、39、41、43および45(10kDaプロラミン)からなる群より選択される配列番号に示される核酸配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド、ならびに配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30(13kDaプロラミン)、32(16kDaプロラミン)、34、36、38、40、42、44および46(10kDaプロラミン)からなる群より選択される配列番号に示されるアミノ配列を有するポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチドが挙げられるがそれに限定されない。そのようなプロラミンの遺伝子は、Genbank、NCBI、EBML、DDBJなどのような遺伝子バンクにおいて登録されているプロラミン遺伝子であれば、上記以外のものでも使用することができる。
本明細書において「13KDaプロラミン」は、一般にジャポニカイネにおいてSDS電気泳動法において分子量が13KDa付近にくるプロラミンを示し、イネに最も多く含まれるプロラミンである。その遺伝子もゲノムにもっとも多数存在し、cDNAクローニングや等電点電気泳動などで解析された結果、少しずつアミノ酸配列の異なる遺伝子が最低でも12以上あることが確認されており、実際はさらに数が多いと推定されている。代表的なものとして配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27または29に示される核酸配列および配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28または30に示されるアミノ酸配列を含むプロラミン、ならびにそれに対応した他植物のプロラミン遺伝子スーパーファミリーのものもあげられるが、それに限定されない。
本明細書において「貯蔵タンパク質」とは、植物の種子において特に高度に蓄積し、酵素活性など植物内で他の生理機能を有さないタンパク質をいい、通常はプロテインボディに集積される。
本明細書において「プロテインボディ」は、貯蔵タンパク質を集積する顆粒状の細胞内構造をいう。通常は1つの植物に1種類存在することが多いが、イネとオートムギでは、外観、形態が明確に異なる2種類のプロテインボディが形成される。イネの場合は、プロラミンが蓄積するプロテインボディタイプ1と、グルテリンおよびグロブリンが蓄積するプロテインボディタイプ2がある。両者は外観、形態、サイズ、由来などがはっきりと異なっており、プロテインボディと貯蔵タンパク質の対応関係は厳密に制御されている。
本発明において有用なプロラミン保存配列としては、以下のようなものが挙げられる。本発明では、このような保存配列をコードするアンチセンス配列が好ましい配列として例示され得る。
JP0004644777B2_000002t.gifJP0004644777B2_000003t.gif 本発明では、上記配列のうち、少なくとも5アミノ酸をコードする配列に対してアンチセンスである配列を実際のプロラミン遺伝子発現の抑制に用いることができることが示されている。
本明細書において使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされ得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」を含む。「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’-O-メチル-リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’-P5’ホスホロアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC-5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC-5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC-5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine-modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’-O-プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’-メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605-2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91-98(1994))。
用語「核酸分子」はまた、本明細書において、核酸、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用され、cDNA、mRNA、ゲノムDNAなどを含む。本明細書では、核酸および核酸分子は、用語「遺伝子」の概念に含まれ得る。ある遺伝子配列をコードする核酸分子はまた、「スプライス変異体(改変体)」を包含する。同様に、核酸によりコードされた特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を包含する。その名が示唆するように「スプライス変異体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされ得る。スプライス変異体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
本明細書において「精製された」生物学的因子(例えば、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
本明細書において、「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列しているが染色体外のものも遺伝形質を規定する限り遺伝子の範疇に入る。タンパク質の一次構造を規定する構造遺伝子といい、その発現を左右する調節遺伝子という。
本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」をさすことがある。本明細書においてはまた、「遺伝子産物」とは、遺伝子によって発現された「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」をさす。当業者であれば、遺伝子産物が何たるかはその状況に応じて理解することができる。
本明細書において遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。本明細書において、遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「類似性」とは、上記相同性において、保存的置換をポジティブ(同一)とみなした場合の、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、保存的置換がある場合は、その保存的置換の存在に応じて同一性と類似性とは異なる。また、保存的置換がない場合は、同一性と類似性とは同じ数値を示す。
本明細書では塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。
本明細書において「外来遺伝子」とは、ある植物において、その植物には天然には存在しない遺伝子をいう。そのような外来遺伝子は、その植物に天然に存在する遺伝子を改変したものであってもよく、天然において他の植物に存在する遺伝子であってもよく、人工的に合成した遺伝子であってもよく、それらの複合体(例えば、融合体)であってもよい。そのような外来遺伝子を含む植物は、天然では発現しない遺伝子産物を発現し得る。
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
本明細書において「外来遺伝子」は、植物において発現し得るものであれば、どのようなものでもよい。従って、1つの実施形態において「外来遺伝子」は、大量に発現されることが企図される有用なタンパク質をコードするものであれば、どのようなものでもよく、そのようなものもまた、本発明の範囲内に含まれる。そのような外来遺伝子としては、例えば、医薬活性のあるペプチド(例えば、サイトカイン類(インターロイキン類、ケモカイン類、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、multi-CSF(IL-3)、エリスロポエチン(EPO)、白血病抑制因子(LIF)、c-kitリガンド(SCF)のような造血因子、腫瘍壊死因子、インターフェロン類、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)など)、ホルモン類(インスリン、成長ホルモン、甲状腺ホルモンなど))、ワクチン抗原、血液製剤、農業生産上有用なペプチド、例えば抗菌タンパク質、生理作用・薬理作用を持つ二次代謝産物を合成する様々な酵素や加水分解酵素、酵素反応を調節するインヒビター、血圧効果作用を持つとされるダイズグリシニン、あるいは消化管内で酵素分解を受けることで生理活性ペプチドが切り出されるようにデザインされた人工タンパク質といったものがあげられるがそれらに限定されない。また栄養学的に意義のある物質としては、カゼイン、マメ類のアルブミンやグロブリン、あるいはビタミン類・糖・脂質の合成酵素などがあげられるがそれらに限定されない。さらに様々な加工食品の原料として加工特性に関与するタンパク質として、例えばコムギグルテニン(製パン)、ダイズグロブリン群(豆腐)、ミルクカゼイン群(チーズ)など、また食品の嗜好性や機能性を強化するタンパク質、例えばシクロデキストリンやオリゴ糖、γアミノ酢酸などの特殊な糖・アミノ酸類の合成酵素群、外観を良くする色素合成酵素や味覚成分合成に関与するタンパク質群、あるいは、消化管内で酵素消化を受けることにより、生理作用をもつペプチド(例えば血圧効果作用をもつ、アンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドなど)が切り出されるようにデザインされた人工タンパク質などがあげられるがこれらに限定されない。
本明細書において「糖鎖」とは、単位糖(単糖および/またはその誘導体)が1つ以上連なってできた化合物をいう。単位糖が2つ以上連なる場合は、各々の単位糖同士の間は、通常、グリコシド結合による脱水縮合によって結合する。このような糖鎖としては、例えば、生体中に含有される多糖類(グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、シアル酸ならびにそれらの複合体および誘導体)の他、分解された多糖、糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖脂質などの複合生体分子から分解または誘導された糖鎖など広範囲なものが挙げられるがそれらに限定されない。したがって、本明細書では、糖鎖は、「多糖(ポリサッカリド)」、「糖質」、「炭水化物」と互換可能に使用され得る。また、特に言及しない場合、本明細書において「糖鎖」は、糖鎖および糖鎖含有物質の両方を包含することがある。
本明細書において「単糖」とは、これより簡単な分子に加水分解されず、少なくとも1つの水酸基および少なくとも1つのアルデヒド基またはケトン基を含む、ポリヒドロキシアルデヒドまたはポリヒドロキシケトンならびにその誘導体をいう。通常単糖は、一般式C2nで表されるがそれらに限定されず、フコース(デオキシヘキソース)、N-アセチルグルコサミンなども含まれる。ここで、上の式において、n=2、3、4、5、6、7、8、9および10であるものを、それぞれジオース、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース、オクトース、ノノースおよびデコースという。一般に鎖式多価アルコールのアルデヒドまたはケトンに相当するもので、前者をアルドース,後者をケトースという。本明細書において特に言及するときは、単糖の誘導体は、置換されていない単糖上の一つ以上の水酸基が別の置換基に置換され、結果生じる物質をいう。そのような単糖の誘導体としては、カルボキシル基を有する糖(例えば、C-1位が酸化されてカルボン酸となったアルドン酸(例えば、D-グルコースが酸化されたD-グルコン酸)、末端のC原子がカルボン酸となったウロン酸(D-グルコースが酸化されたD-グルクロン酸)、アミノ基またはアミノ基の誘導体(例えば、アセチル化されたアミノ基)を有する糖(例えば、N-アセチル-D-グルコサミン、N-アセチル-D-ガラクトサミンなど)、アミノ基およびカルボキシル基を両方とも有する糖(例えば、N-アセチルノイラミン酸(シアル酸)、N-アセチルムラミン酸など)、デオキシ化された糖(例えば、2-デオキシ-D-リボース)、硫酸基を含む硫酸化糖、リン酸基を含むリン酸化糖などがあるがそれらに限定されない。本明細書では、単糖という場合は、上記誘導体も包含する。あるいは、ヘミアセタール構造を形成した糖において、アルコールと反応してアセタール構造のグリコシドもまた、単糖の範囲内にある。
本明細書においてアスパラギン結合型糖鎖構造の表示は、高橋らの命名法(http://www.gak.co.jp;本明細書においてアスパラギン結合型糖鎖構造の表示は、高橋らの命名法(http://www.gak.co.jp;高橋禮子編著、生化学実験法23、糖蛋白質糖鎖研究法、学会出版センター、1989年;Takahashi N,Tomiya N:Analysis of N-linked oligosaccharides:Application of glycoamidase A:in Handbook of endoglycosidases and glycoamidases (Takahashi N,Muramatsu T eds.).pp.209-241,CRC Press,Boca Raton,FL,1992に準ずる。これは、1)N-アセチルラクトサミン型(コンプレックス型)糖鎖の場合には、(A)分岐の数を3桁の数字の最初の数で示す。(B)還元末端のN-アセチルグルコサミンにα1,6結合にてフコースが結合しているときは1を、結合していないときには0を3桁の数字の真ん中に入れる。(C)コア構造5糖のβマンノースにN-アセチルグルコサミンがβ1,4で結合しているときは1を、結合していないときには0を3桁の数字の最後に入れる。3桁の数字の後に.を置きその右側には固有番号をつける。2)高マンノース型(ハイマンノース型)糖鎖は最初にMを、次にマンノース残基の数を入れる。その後に.を置きその右側には固有記号をつける。還元末端のN-アセチルグルコサミンにα1,6結合にてフコースが結合しているときはMの後にFを入れる。3)混成型(ハイブリッド型)糖鎖は最初にHを、次にマンノース残基数を入れる。その後に.を置きその右側には固有記号をつける。還元末端のN-アセチルグルコサミンにα1,6結合にてフコースが結合しているときはHの後にFを入れる。4)還元末端のN-アセチルグルコサミンにα1,3結合にてフコースが結合しているときはFを、コア構造5糖のβマンノースにキシロースがβ1,2で結合しているときはXを全体の後に入れる。その両方を有するときにはFXの順に入れる。5)N-アセチルガラクトサミンをガラクトースの代わりに有する場合は、ガラクトースとして記号をつけた後に、N-アセチルがラクトサミンの数が1ならa、2ならb、3ならc・・・と数に対応した小文字アルファベットを最後につける。6)コア構造5糖のようにN-アセチルラクトサミン型と高マンノース型若しくは混合型の何れにも分類できる場合はN-アセチルラクトサミン型の命名を優先する。7)シアル酸を有する場合には、シアル酸の残基数を書き、次にシアル酸の分子種がN-アセチルノイラミンサンの場合にはAを、さらに固有番号のセットを、上記糖鎖構造の前につけて-で結ぶ。そのような表示方法の例としては、ガラクトースβ1,4-N-アセチルグルコサミンβ1,2-マンノースα1,3-(マンノースα1,3-(マンノースα1,6-)マンノースα1,6-)マンノースβ1,4-N-アセチルグルコサミンβ1,4-N-アセチルグルコサミンをH5.12などと呼ぶ方式が挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において本発明によって作製されたタンパク質は、植物における翻訳後修飾を受け特定の糖鎖が結合する。このような糖鎖は、動物への利用が目的の場合、同一であることが好ましく、植物における修飾が同一であれば、問題なく使用することができ、実質的に同一であれば問題はない。また、糖鎖の修飾様式が異なっている場合であっても、動物において有効に作用し、好ましくは副作用がなければ問題なく利用することができる。修飾様式を変更したい場合は、酵素学的などの手法を用いて修飾を変更することができる。
発現されるべき外来遺伝子はまた、上述の天然型の外来遺伝子と相同性のあるものが使用され得る。そのような相同性を有する外来遺伝子としては、例えば、Blastのデフォルトパラメータを用いて比較した場合に、比較対照の外来遺伝子に対して、少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%の同一性または類似性を有する核酸配列を含む核酸分子または少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%の同一性または類似性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド分子が挙げられるが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一形態であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
従って、本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」の「減少」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に減少することをいう。好ましくは、発現の減少は、ポリペプチドの発現量の減少を含む。より特定すると、発現の量が減少するとは、因子の作用前に比べて作用後の発現量が少なくとも約10%減少していることをいい、より好ましくは少なくとも約20%、さらに好ましくは少なくとも約30%、さらに好ましくは少なくとも約40%、さらに好ましくは少なくとも約50%、さらに好ましくは少なくとも約75%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらに好ましくはほぼ100%減少していることをいう。本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」の「増加」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に増加することをいう。好ましくは、発現の増加は、ポリペプチドの発現量の増加を含む。より特定すると、発現の量が増加するとは、因子の作用前に比べて作用後の発現量が少なくとも約10%増加していることをいい、より好ましくは少なくとも約20%、さらに好ましくは少なくとも約30%、さらに好ましくは少なくとも約40%、さらに好ましくは少なくとも約50%、さらに好ましくは少なくとも約75%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらに好ましくは約100%以上、さらに好ましくは約200%増加していること、あるいは、作用前には発現していなかったものが発現するようになることをいう。
本明細書において、「アミノ酸」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体アミノ酸」または「アミノ酸アナログ」とは、天然に存在するアミノ酸とは異なるがもとのアミノ酸と同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体アミノ酸およびアミノ酸アナログは、当該分野において周知である。用語「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL-異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ-カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体であるが、D体のアミノ酸を用いた形態もまた本発明の範囲内にある。用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ-ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ-フルオロフェニルアラニン、3-アミノ-2-ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD-フェニルアラニンが挙げられる。「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2-メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。
本明細書において「対応する」アミノ酸または核酸とは、あるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸またはヌクレオチドと同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸またはヌクレオチドをいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。例えば、アンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。このような「対応する」アミノ酸または核酸は、一定範囲にわたる領域またはドメインであってもよい。従って、そのような場合、本明細書において「対応する」領域またはドメインと称される。
本明細書において、「対応する」遺伝子(例えば、ポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子)とは、ある種において比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予想される、別の種における遺伝子をいい、しばしば特定のアミノ酸配列が高度に保存されている領域が共通して見られる。このような特徴は、それらが進化的には同一祖先を有するものであり、ある遺伝子の対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。対応する遺伝子は、同族遺伝子を包含する。例えば、イネプロラミンに対応するコムギ遺伝子は、コムギグルテニンであり得る。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。したがって、例えば、ある生物における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子(例えば、イネのプロラミンなどの遺伝子)の配列をクエリ配列として用いてその生物(例えばコムギ、トウモロコシなど)の配列データベースを検索することによって見出すことができる。
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体ヌクレオチド」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド-核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1~n-1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または下限としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリペプチドまたはタンパク質)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能を発揮する活性が包含される。例えば、ある因子がアンチセンス分子である場合、その生物学的活性は、対象となる核酸分子への結合、それによる発現抑制などを包含する。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。
本明細書において「アンチセンス活性」とは、標的となる遺伝子の発現を特異的に抑制または減少させることができる活性をいう。より具体的には細胞内に導入したあるヌクレオチド配列に依存して、その配列と相補的なヌクレオチド配列領域をもつ遺伝子のmRNA量を特異的に低下させることで、タンパク発現量を減少させ得る活性をいう。手法としては、標的となる遺伝子からつくられるmRNAに相補的なRNA分子を直接的に細胞に導入する方法と、細胞内に目的遺伝子と相補的なRNAを発現させ得る構築ベクターを導入する方法に大別されるが、植物においては、後者のほうが一般的である。
アンチセンス活性は、通常、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列によって達成される。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。そのような核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、95%相同な核酸配列が含まれる。そのようなアンチセンス活性は、目的とする遺伝子の核酸配列の5’末端の配列に対して相補的であることが好ましい。そのようなアンチセンスの核酸配列には、上述の配列に対して、1つまたは数個あるいは1つ以上のヌクレオチドの置換、付加および/または欠失を有するものもまた含まれる。したがって、本明細書において、「アンチセンス活性」には、遺伝子の発現量の減少が含まれるがそれらに限定されない。
一般的なアンチセンス技術については、教科書に記載されている(Murray,JAH eds.,Antisense RNA and DNA,Wiley-Liss Inc,1992)。さらに最新の研究でRNA interference(RNAi)と呼ばれる現象が明らかになり、アンチセンス技術の発展をもたらした。RNAiは、標的遺伝子に相同な配列をもつ短い長さの2本鎖RNA(20ベース程度)を細胞内に導入すると、そのRNA配列に相同な標的遺伝子のmRNAが特異的に分解されて発現レベルが低下する現象である。当初線虫において発見されたこの現象は、植物を含めて生物に普遍的な現象であることがわかってきて、アンチセンス技術で標的遺伝子の発現が抑制される分子レベルのメカニズムは、このRNAiと同様のプロセスを経ることが解明された。従来は、標的遺伝子のヌクレオチド配列に相補的である1つのDNA配列を適当なプロモーターに連結して、その制御下に人工mRNAを発現させるような発現ベクターを構築して、細胞内に導入することが行われた。最近の知見においては、細胞内に2本鎖RNAを構成できるようにデザインされた発現ベクターが用いられる。基本構造はある標的遺伝子に相補的な1種のDNA配列をプロモーター下に1つを連結し、それと同じ物をさらに逆向きにもう1つ連結してつくられる。この構築遺伝子から転写された1本鎖のmRNAでは、逆向きにつながれた1種類のヌクレオチド配列部分が相補的な関係にあるため対合してヘアピン様の二次構造を持つ2本鎖RNA状態をとり、これがRNAiのメカニズムに従って標的遺伝子のmRNA分解を引き起こすわけである。植物においてはシロイヌナズナで用いられた例が報告されている(Smith,NA et al.,Nature 407.319-320,2000)。またRNAi全般については、最近の総説にまとめられている(森田と吉田、蛋白質・核酸・酵素47、1939-1945、2002)。これらの文献に記載された内容は、本明細書おいてその全体を参考として援用する。
本明細書において「RNAi」とは、RNA interferenceの略称で、二本鎖RNA(dsRNAともいう)のようなRNAiを引き起こす因子を細胞に導入することにより、相同なmRNAが特異的に分解され、遺伝子産物の合成が抑制される現象およびそれに用いられる技術をいう。本明細書においてRNAiはまた、場合によっては、RNAiを引き起こす因子と同義に用いられ得る。
本明細書において「RNAiを引き起こす因子」とは、RNAiを引き起こすことができるような任意の因子をいう。本明細書において「遺伝子」に対して「RNAiを引き起こす因子」とは、その遺伝子に関するRNAiを引き起こし、RNAiがもたらす効果(例えば、その遺伝子の発現抑制など)が達成されることをいう。そのようなRNAiを引き起こす因子としては、例えば、標的遺伝子の核酸配列の一部に対して少なくとも約70%の相同性を有する配列またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む、少なくとも10ヌクレオチド長の二本鎖部分を含むRNAまたはその改変体が挙げられるがそれに限定されない。ここで、この因子は、好ましくは、3’突出末端を含み、より好ましくは、3’突出末端は、2ヌクレオチド長以上のDNA(例えば、2~4ヌクレオチド長のDNAであり得る。
あるいは、本発明において用いられるRNAiとしては、例えば、短い逆向きの相補的配列(例えば、15bp以上であり、例えば、23bpなど)のペアが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において、「アンチセンス遺伝子」とは、アンチセンス活性をもたらしうる遺伝子ないしは構築物(発現カセット)を示す。同様に「RNAi遺伝子」は、RNAiを引き起こす遺伝子ないしは構築物(発現カセット)を示す。「発現抑制遺伝子」は、「アンチセンス遺伝子」と「RNAi遺伝子」両者の総称として用いる。
本明細書において、外来遺伝子のポリペプチドを生産する方法としては、例えば、遺伝子操作手法を利用して、そのポリペプチドをコードする遺伝子を適切な発現ベクターに組み込み、これを用いて発現宿主を形質転換し、この形質転換細胞の培養上清から組換えポリペプチドを得ることができる。上記宿主細胞は、外来遺伝子の少なくとも1つの生理活性を保持するポリペプチドを発現するものであれば、特に限定されず、従来から遺伝子操作において利用される各種の宿主細胞(例えば、植物細胞のほか、大腸菌、酵母、動物細胞など)を用いることが可能である。このようにして得られた細胞に由来するポリペプチドは、天然型のポリペプチドと実質的に同一の作用を有する限り、アミノ酸配列中の1以上のアミノ酸が置換、付加および/または欠失していてもよく、糖鎖が置換、付加および/または欠失していてもよい。
あるアミノ酸は、相互作用結合能力の明らかな低下または消失なしに、例えば、カチオン性領域または基質分子の結合部位のようなタンパク質構造において他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的機能を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がアミノ酸配列において、またはそのDNAコード配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的有用性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたペプチドまたはこのペプチドをコードする対応するDNAにおいて行われ得る。
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105-132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(-0.4);スレオニン(-0.7);セリン(-0.8);トリプトファン(-0.9);チロシン(-1.3);プロリン(-1.6);ヒスチジン(-3.2);グルタミン酸(-3.5);グルタミン(-3.5);アスパラギン酸(-3.5);アスパラギン(-3.5);リジン(-3.9);およびアルギニン(-4.5))である。
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。
タンパク質の改変においては、親水性指数もまた、考慮され得る。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(-0.4);プロリン(-0.5±1);アラニン(-0.5);ヒスチジン(-0.5);システイン(-1.0);メチオニン(-1.3);バリン(-1.5);ロイシン(-1.8);イソロイシン(-1.8);チロシン(-2.3);フェニルアラニン(-2.5);およびトリプトファン(-3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例としては、例えば、親水性指数または疎水性指数が、±2以内のもの同士、好ましくは±1以内のもの同士、より好ましくは±0.5以内のもの同士のものが挙げられるがそれらに限定されない。従って、保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。そのような対立遺伝子変異体は、通常その対応する対立遺伝子と同一または非常に類似性の高い配列を有し、通常はほぼ同一の生物学的活性を有するが、まれに異なる生物学的活性を有することもある。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトおよびマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子およびβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。また、システインプロテアーゼインヒビターである、ヒトのシスタチンAと、イネのオリザシスタチンとを比較すると、標的となるプロテアーゼとの相互作用に重要と考えられる3箇所の短いアミノ酸モチーフが保存されているだけで、他の部分のアミノ酸の共通性は非常に低い。しかし、両者はともにシスタチン遺伝子スーパーファミリーに属し、共通祖先遺伝子を持つとされていることから、単に全体的なアミノ酸の相同性に限らず、局所的に高い相同性を持つアミノ酸配列が共通して存在する場合も、オルソログたり得る。このように、オルソログは、通常別の種においてもとの種と同様の機能を果たしていることがあり得ることから、本発明のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。本発明においてターゲットとなるプロラミンは、数多くのメンバーを有するファミリーを形成し、そのようなものは、保存的に改変された改変体ということもできる。
「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての核酸配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント変異を記載する。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。このような塩基配列の改変法としては、制限酵素などによる切断、DNAポリメラーゼ、Klenowフラグメント、DNAリガーゼなどによる処理等による連結等の処理、合成オリゴヌクレオチドなどを用いた部位特異的塩基置換法(特定部位指向突然変異法;Mark Zoller and Michael Smith,Methods in Enzymology,100,468-500(1983))が挙げられるが、この他にも通常分子生物学の分野で用いられる方法によって改変を行うこともできる。
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドを作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1~3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
本明細書において使用される用語「ペプチドアナログ」または「ペプチド誘導体」とは、ペプチドとは異なる化合物であるが、ペプチドと少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ペプチドアナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のアミノ酸アナログまたはアミノ酸誘導体が付加または置換されているものが含まれる。ペプチドアナログは、その機能が、もとのペプチドの機能(例えば、pKa値が類似していること、官能基が類似していること、他の分子との結合様式が類似していること、水溶性が類似していることなど)と実質的に同様であるように、このような付加または置換がされている。そのようなペプチドアナログは、当該分野において周知の技術を用いて作製することができる。したがって、ペプチドアナログは、アミノ酸アナログを含むポリマーであり得る。
本明細書において、「ポリヌクレオチドアナログ」、「核酸アナログ」は、交換可能に用いられ、ポリヌクレオチドまたは核酸とは異なる化合物であるが、ポリヌクレオチドまたは核酸と少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ポリヌクレオチドアナログまたは核酸アナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のヌクレオチドアナログまたはヌクレオチド誘導体が付加または置換されているものが含まれる。
本明細書において使用される核酸分子は、発現されるポリペプチドが天然型のポリペプチドと実質的に同一の活性を有する限り、上述のようにその核酸の配列の一部が欠失または他の塩基により置換されていてもよく、あるいは他の核酸配列が一部挿入されていてもよい。あるいは、5’末端および/または3’末端に他の核酸が結合していてもよい。また、ポリペプチドをコードする遺伝子をストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、そのポリペプチドと実質的に同一の機能を有するポリペプチドをコードする核酸分子でもよい。このような遺伝子は、当該分野において公知であり、本発明において利用することができる。
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変位誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加および/または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、ホルモン、サイトカインの情報伝達機能など)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
本明細書において、遺伝子が「特異的に発現する」とは、その遺伝子が、植物の特定の部位または時期において他の部位または時期とは異なる(好ましくは高い)レベルで発現されることをいう。特異的に発現するとは、ある部位(特異的部位)にのみ発現してもよく、それ以外の部位においても発現していてもよい。好ましくは特異的に発現するとは、ある部位においてのみ発現することをいう。
本明細書において、遺伝子が「特異的に抑制される」とは、その遺伝子が、植物の特定の部位または時期において他の部位または時期とは異なる(好ましくは高い)レベルで抑制されることをいう。特異的に発現するとは、ある部位(特異的部位)にのみ抑制されてもよく、それ以外の部位においても抑制されていてもよい。好ましくは特異的に抑制されるとは、ある部位においてのみ抑制されることをいう。
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるものをいう。そのようなベクターとしては、原核生物細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物個体および植物個体等の宿主細胞において自律複製が可能であるか、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書においてベクターは、発現ベクター、組換えベクターなどであり得る。
本明細書においてベクターとしては、遺伝子実験に用いられる一般的なバクテリア(代表的なものとして大腸菌K12株由来の大腸菌株)で複製可能かつ単離精製可能な物があげられる。これは植物に導入する目的遺伝子を構築するために必要である。具体的には、例えば大腸菌のpBR322プラスミドやpUC18、pUC19、pBluescript、pGEM-Tといった市販構築プラスミドがある。エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法といった直接的に遺伝子断片を植物細胞に導入して形質転換する場合には、このような市販されている一般的なプラスミドを用いて導入する遺伝子の構築を行えばよい。また、ベクターの特殊な例として、アグロバクテリウムを介した遺伝子導入法を用いて植物細胞を形質転換する場合は、大腸菌とアグロバクテリウム双方の複製開始点、および植物に導入され得る境界領域を示すT-DNA由来の境界配列(Left borderおよびRight Border)に相当するヌクレオチド配列を有する「バイナリーベクター」と呼ばれるプラスミドを用いる必要がある。例えばpBI101(Clontech社より市販)、pBIN(Bevan,N.,Nucleic Acid Research 12,8711-8721,1984)、pBINPlus(van Engelen,FA et al.,Tranegenic Research 4,288-290、1995)、pTNまたはpTH(Fukuoka H et.al.,Plant Cell Reports 19,2000)、pPZP(Hajdukiewicz P et al.,Plant Molecular Biology 25,989-994,1994)などがあげられるがそれらに限定されない。このほか、植物に利用され得るベクターとしては、タバコモザイクウイルスベクターも例示されるが、このタイプのベクターは目的遺伝子を植物染色体に導入するわけではないので、遺伝子導入した植物を種子を介して増殖させること必要がない場合に用途が限定されるが、本発明に使用し得る。
本明細書において「発現カセット」は、ある構造遺伝子、およびその発現を調節するプロモーター配列や種々の調節エレメント、およびmRNA転写を終結させるターミネーター配列を、宿主の細胞中で構造遺伝子が動作し得る状態で連結してある人工構築遺伝子の1単位を示す。代表的なものとしては、遺伝子導入された宿主細胞のみを選択するための選択マーカー(例えばハイグロマイシン耐性遺伝子)発現カセット、あるいは宿主細胞内に発現させたい有用タンパク質遺伝子の発現カセットといったものが例示される。準備するべき発現カセットの種類・構造と数については、生物・宿主細胞・目的に応じて使い分けられるべきであり、その組み合わせは当業者には周知である。
本明細書において「発現ベクター」は、上記の「発現カセット」を1つ以上含み得る「ベクター」として定義される。植物に導入を行うべき目的遺伝子発現カセットごとに別々のベクター上に配置しても良いし、1つのベクター上に全ての発現カセットを連結しても良い。本発明に用いる植物用の発現ベクターは、バイナリーベクタータイプであり得る。さらにはこのベクターには導入する目的遺伝子発現カセットと同時に、宿主植物に適した選択マーカー(例えばハイグロマイシン耐性遺伝子)発現カセットを含み得る。
本明細書において使用される選択マーカーとしては、例えばハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ、変異型アセト酪酸シンターゼなどがあげられるがそれらに限定されない。選択マーカー発現カセットに利用し得るプロモーターとしては、CaMV35Sプロモーターおよびその改変プロモーター、ユビキチンプロモーターなど、ターミネーターとしてはNosターミネーター、Tmlターミネーター、10kDaプロラミンターミネーター、13kDaプロラミンターミネーター、16kDaプロラミンターミネーターが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「ターミネーター」とは、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターとしては、CaMV35Sターミネーター、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)、タバコPR1a遺伝子のターミネーターが挙げられるが、これに限定されない。本発明では、植物においてターミネーターの活性を示すものであれば、どのような配列でも使用することができる。
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域に見出されることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモータ領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の中または下流にも存在し得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在するがそれに限定されず、それ以外にもプロモーターは存在する。好ましくは、本発明では、特異的に発現させるプロモーターが使用され得る。そのような特異的プロモーターとしては、貯蔵タンパク質における特異的な発現を駆動するプロモーターが好ましいがそれに限定されない。より好ましくは、本発明では、プロモーターは、貯蔵タンパク質(例えば、プロラミン)に由来するものが使用され得るが、それに限定されない。1つの好ましい実施形態では、16kDaプロラミンに由来するプロモーター、13kDaプロラミンに由来するプロモーター、10kDaプロラミンに由来するプロモーターが使用され得る。ターミネーターの選択は発現強度に影響を及ぼす場合があるが、一般にはこれまでの使用実績を踏まえて、用いるプロモーターが異なっても、NOSターミネーターを使う場合がほとんどであった。しかし、1つの好ましい実施形態では、本発明はプロラミン(特に10kDaプロラミン)に由来するターミネーターを用いている。このターミネーターは塩基配列の長さが短く、マルチクローニング部位に存在するような制限酵素サイトがなく、様々な貯蔵タンパク質プロモーター、ユビキチンプロモーター、アクチンプロモーター、CaMV35Sプロモーターと組み合わせて用いることができることが示されており、NOSターミネーターに代替しうる新たな植物(イネ)由来の汎用的ターミネーターが得られた点に留意すべきである。
本明細書において、遺伝子の発現について用いられる場合、一般に、「部位特異性」とは、生物(例えば、植物)の部位(例えば、植物の場合、プロテインボディー、根、茎、幹、葉、花、種子、胚乳、胚芽、胚、果実など)におけるその遺伝子の発現の特異性をいう。「時期特異性」とは、生物(たとえば、植物)の発達段階(例えば、植物であれば生長段階(例えば、プロテインボディの形成の特定の時期、発芽後の芽生えの日数))に応じたその遺伝子の発現の特異性をいう。そのような特異性は、適切なプロモーターを選択することによって、所望の生物に導入することができる。
本明細書において、本発明のプロモーターの発現が「構成的」であるとは、生物のすべての組織において、その生物の生長の幼若期または成熟期のいずれにあってもほぼ一定の量で発現される性質をいう。具体的には、本明細書の実施例と同様の条件でノーザンブロット分析したとき、例えば、任意の時点で(例えば、2点以上(例えば、5日目および15日目))の同一または対応する部位のいずれにおいても発現がみられるとき、本発明の定義上、発現が構成的であるという。構成的プロモーターは、通常の生育環境にある生物の恒常性維持に役割を果たしていると考えられる。本発明のプロモーターの発現が「ストレス(または刺激)応答性」であるとは、少なくとも1つのストレス(または刺激)が生物体に与えられたとき、その発現量が変化する性質をいう。特に、発現量が増加する性質を「ストレス(または刺激)誘導性」といい、発現量が減少する性質を「ストレス(または刺激)減少性」という。「ストレス(または刺激)減少性」の発現は、正常時において、発現が見られることを前提としているので、「構成的」な発現と重複する概念である。これらの性質は、生物の任意の部分からRNAを抽出してノーザンブロット分析で発現量を分析することまたは発現されたタンパク質をウェスタンブロットにより定量することにより決定することができる。ストレス(または刺激)誘導性のプロモーターを本発明のポリペプチドをコードする核酸とともに組み込んだベクターで形質転換された植物または植物の部分(特定の細胞、組織など)は、そのプロモーターの誘導活性をもつ刺激因子を用いることにより、ある条件下でのみ貯蔵タンパク質の低減およびそれに伴う目的のタンパク質の発現を行うことができる。
本明細書において「エンハンサー」とは、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。植物において使用する場合、エンハンサーとしては、例えば、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域が好ましい。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
本明細書において「サイレンサー」とは、遺伝子発現を抑制し静止する機能を有する配列をいう。本発明では、サイレンサーとしてはその機能を有する限り、どのようなものを用いてもよく、サイレンサーを用いなくてもよい。
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
本明細書において、核酸分子を細胞に導入する技術は、どのような技術でもよく、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.およびその3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
また、ベクターの導入方法としては、細胞にDNAを導入する上述のような方法であればいずれも用いることができ、例えば、トランスフェクション、形質導入、形質転換など(例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法など)、リポフェクション法、スフェロプラスト法[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,1929(1978)]、酢酸リチウム法[J.Bacteriol.,153,163(1983)]、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)記載の方法が挙げられる。
本明細書において「遺伝子導入試薬」とは、遺伝子導入方法において、導入効率を促進するために用いられる試薬をいう。そのような遺伝子導入試薬としては、例えば、カチオン性高分子、カチオン性脂質、ポリアミン系試薬、ポリイミン系試薬、リン酸カルシウムなどが挙げられるがそれらに限定されない。トランスフェクションの際に利用される試薬の具体例としては、種々なソースから市販されている試薬が挙げられ、例えば、Effectene Transfection Reagent(cat.no.301425,Qiagen,CA),TransFastTM Transfection Reagent(E2431,Promega,WI),TfxTM-20 Reagent(E2391,Promega,WI),SuperFect Transfection Reagent(301305,Qiagen,CA),PolyFect Transfection Reagent(301105,Qiagen,CA),LipofectAMINE 2000 Reagent(11668-019,Invitrogen corporation,CA),JetPEI(×4)conc.(101-30,Polyplus-transfection,France)およびExGen 500(R0511,Fermentas Inc.,MD)などが挙げられるがそれらに限定されない。
本発明を植物において利用する場合、植物細胞への植物発現ベクターの導入には、当業者に周知の方法、例えば、アグロバクテリウムを介する方法および直接細胞に導入する方法、が用いられ得る。アグロバクテリウムを介する方法としては、例えば、Nagelらの方法(Nagelら(1990)、Microbiol.Lett.,67,325)が用いられ得る。この方法は、まず、例えば植物に適切な発現ベクターでエレクトロポレーションによってアグロバクテリウムを形質転換し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをGelvinら(Gelvinら編(1994)、Plant Molecular Biology Manual(Kluwer Academic Press Publishers))に記載の方法で植物細胞に導入する方法である。植物発現ベクターを直接細胞に導入する方法としては、エレクトロポレーション法(Shimamotoら(1989)、Nature、338:274-276;およびRhodesら(1989)、Science、240:204-207を参照のこと)、パーティクルガン法(Christouら(1991)、Bio/Technology 9:957-962を参照のこと)ならびにポリエチレングリコール(PEG)法(Dattaら(1990)、Bio/Technology 8:736-740を参照のこと)が挙げられる。これらの方法は、当該分野において周知であり、形質転換する植物に適した方法が、当業者により適宜選択され得る。
植物発現ベクターを導入された細胞は、まずハイグロマイシン耐性、カナマイシン耐性などの薬剤耐性で選択される。次いで、当該分野で周知の方法により、植物組織、植物器官および/または植物体に再分化され得る。さらに、植物体から種子が取得され得る。導入した遺伝子の発現は、ノーザンブロット法またはPCR法により、検出し得る。必要に応じて、遺伝子産物たるタンパク質の発現を、例えば、ウェスタンブロット法により確認し得る。
本発明は、植物において特に有用であることが示されているが、他の生物においても利用することができる。本発明において使用される分子生物学技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.およびその第3版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
本明細書において「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞等が例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれ、本明細書においてそれらの形態をすべて包含するが、特定の文脈において特定の形態を指し得る。
形質転換を行う方法において、物理的手法には、ポリエチレングリコール法(PEG法)、電子穿孔(エレクトロポレーション)法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法がある。これらの方法は、単子葉、双子葉の両植物体に適用できる点で有用性が高い。しかし、ポリエチレングリコール法とエレクトロポレーション法では、細胞壁が障害となるため、プロトプラストを用いなければならない上、導入された遺伝子の植物細胞の染色体DNAへの組込み頻度が低いことが問題である。また、プロトプラストを用いずに、カルスや組織を用いたマイクロインジェクション法では、針の太さや組織の固定等に関して困難が多い。組織を用いたパーティクルガン法でも、変異がキメラの形で出現してくる等の問題がある。また、これら物理的手法では、一般に、導入された外来遺伝子が核ゲノムに不完全な状態で多コピーの遺伝子として組込まれやすい。外来遺伝子が多コピー導入されると、その遺伝子が不活化されやすいことが知られている。
他方、生物を利用して単離遺伝子を導入する方法には、アグロバクテリウム法、ウイルスベクター法、および近年開発されている、花粉をベクターとして用いる方法がある。これらの方法は、プロトプラストを用いず植物のカルス、組織または植物体を用いて遺伝子導入を行うため、培養が長期間に及ぶことがなく、またソマクローナル変異等の障害を受けにくいという長所を有している。これらのうち花粉をベクターとして用いる方法は、まだ実験例も少なく、植物の形質転換法としては未知数の部分が多い。ウイルスベクター法は、ウイルスに感染した植物体全体に導入すべき遺伝子が広がるという利点はあるものの、各細胞内で増幅されて発現されるだけで、次世代に伝えられるという保証がないという点、および長いDNA断片を導入できないという点に問題がある。アグロバクテリウム法は、約20kbp以上のDNAを大きな再編成なしに染色体に導入できること、導入される遺伝子のコピー数が、数コピーと少ないこと、および再現性が高いこと等、多くの利点がある。イネ科植物等の単子葉植物にとってアグロバクテリウムは宿主範囲外であるため、イネ科植物への外来遺伝子導入は、従来は、先に述べたような物理的手法により行われてきた。しかしながら、近年、単子葉植物でもイネ等、培養系が確立されている植物においては、アグロバクテリウム法が適用されるようになっており、むしろ現在ではアグロバクテリウム法が好んで用いられている。
アグロバクテリウム法による外来遺伝子の導入では、TiプラスミドVir領域に植物が合成するアセトシリンゴン等の低分子フェノール化合物が作用すると、TiプラスミドからT-DNA領域が切り出され、幾つかの過程を経て植物細胞の核染色体DNAに組み込まれる。双子葉植物では、植物自身がそのようなフェノール化合物の合成機構を備えているため、リーフディスク法等により容易に外来遺伝子を導入することができ、再現性も高い。これに対し、単子葉植物では、そのようなフェノール化合物を植物自身が合成しないため、アグロバクテリウムによる形質転換植物の作出は困難であった。しかし、アグロバクテリウムの感染時にアセトシリンゴンを添加することで、単子葉植物への外来遺伝子導入も現在では可能となっている。
本発明において、形質転換体では、目的とする核酸分子(導入遺伝子)は、染色体に導入されていても導入されていなくてもよい。好ましくは、目的とする核酸分子(導入遺伝子)は、染色体に導入されており、より好ましくは、2つの染色体の両方に導入されている。
植物細胞としては、本明細書において以下に記載されるものが挙げられ、イネ、ポテト、タバコ、トウモロコシ、アブラナ、大豆、トマト、ニンジン、小麦、大麦、ライ麦、アルファルファ、亜麻のほか、木本植物(例えば、ポプラ)の細胞などを挙げることができる。より好ましくは、植物細胞は、イネであり得る。イネとしては、ジャポニカ種、インディカ種のものが挙げられるがそれらに限定されない。一つの好ましい実施形態では、イネは、ジャポニカ種のものであり得る。本明細書において、イネの品種としては、例えば日本晴、ニホンマサリ、金南風、農林22号、中生旭、コシヒカリ、あきたこまち、どんとこい、ヒノヒカリ、マンゲツモチ、カグラモチ、ハクチョウモチ、LGC-1、春陽、豊雪わい性、Tetep、Basmati、IR8、ヒョクモチ、ヒメノモチ、こがねもち、風の子もちなどが挙げられるがそれらに限定されない。別の好ましい実施形態では、イネは、インディカ種のものであり得る。インディカ種の品種としては、Tetep、Basmati、IR8、湖南早などが挙げられるがそれらに限定されない。植物細胞への組換えベクターの導入方法としては、植物細胞にDNAを導入する方法であれば、本明細書において他の場所で詳述したように、いずれも用いることができ、例えば、アグロバクテリウム(Agrobacterium)(特開昭59-140885、特開昭60-70080、WO94/00977)、エレクトロポレーション法(特開昭60-251887)、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法(特許第2606856、特許第2517813)等が例示される。
本明細書において「植物」とは、植物界に属する生物の総称であり、クロロフィル、かたい細胞壁、豊富な永続性の胚的組織の存在,および運動する能力がない生物により特徴付けられる。代表的には、植物は、細胞壁の形成・クロロフィルによる同化作用をもつ顕花植物をいう。「植物」は、単子葉植物および双子葉植物のいずれも含む。好ましい植物としては、例えば、イネ、コムギ、トウモロコシ、オオムギ、ソルガムなどのイネ科に属する単子葉植物が挙げられる。より好ましくは、植物は、イネであり得る。イネとしては、ジャポニカ種、インディカ種のものが挙げられるがそれらに限定されない。より好ましくは、イネは、ジャポニカ種のものであり得る。本明細書において、イネの品種としては、例えば日本晴、ニホンマサリ、金南風、農林22号、中生旭、コシヒカリ、あきたこまち、どんとこい、ヒノヒカリ、マンゲツモチ、カグラモチ、ハクチョウモチ、LGC-1、春陽、豊雪わい性、Tetep、Basmati、IR8、ヒョクモチ、ヒメノモチ、こがねもち、風の子もちなどが挙げられるがそれらに限定されない。インディカ種の品種としては、Tetep、Basmati、IR8、湖南早、Kasalathなどが挙げられるがそれらに限定されない。もっとも好ましくは、例えばLGC-1のような他の貯蔵タンパク質(例えば、グルテリン、グロブリンなど)の発現が低減されるように改変されたイネが本発明において使用される。好ましい植物は作物に限られず、花、樹木、芝生、雑草なども含まれる。特に他で示さない限り、植物は、植物体、植物器官、植物組織、植物細胞、および種子のいずれをも意味する。植物器官の例としては、根、葉、茎、および花などが挙げられる。植物細胞の例としては、カルスおよび懸濁培養細胞が挙げられる。
イネ科の植物の例としては、Oryza、Hordenum、Secale、Scccharum、Echinochloa、またはZeaに属する植物が挙げられ、例えば、イネ、オオムギ、ライムギ、ヒエ、モロコシ、トウモロコシなどを含む。
本発明の生産方法に用いられる植物は、好ましくは単子葉植物であり、より好ましくは、イネ科植物である。さらに好ましくは、イネであり得る。さらにより好ましくは、本発明の生産方法に用いられる植物は、日本晴、どんとこい、LGC-1、豊雪わい性品種、Tetep、Basmati、コシヒカリ、五百万石、コガネモチ、Kasalathであり得る。日本晴はゲノム配列が公開されているので、遺伝子が導入されている染色体位置を容易に把握できることから好ましい。どんとこいは食味がよくコシヒカリより背が低くて作りやすいことから好ましい。LGC-1はプロラミンアンチセンスがより効果的にでることから好ましい。豊雪わい性は植物体が非常に小さい(20cmくらい)ものの種子は正常な大きさなのでインキュベーター内で生産できることから好ましい。コシヒカリは、日本の主力品種で低タンパク化により食味等の品質が上昇するから好ましい。五百万石は酒米として低タンパクなものが求められるため好ましい。コガネモチはモチ菓子などの米加工品用として低タンパクなものが求められるため好ましい。Tetep、Basmati、Kasalathは、本州北陸地方以南の温帯地域において普通に栽培して種子を得ることができることから、ある実施形態において好ましい。
本明細書において、生物の「組織」とは、細胞の集団であって、その集団において一定の同様の作用を有するものをいう。従って、組織は、器官の一部であり得る。器官内では、同じ働きを有する細胞を有することが多いが、微妙に異なる働きを有するものが混在することもあることから、本明細書において組織は、一定の特性を共有する限り、種々の細胞を混在して有していてもよい。
本明細書において、「器官」とは、1つ独立した形態をもち、1種以上の組織が組み合わさって特定の機能を営む構造体を形成したものをいう。植物では、カルス、根、茎、幹、葉、花、種子、胚芽、胚、果実、胚乳などが挙げられるがそれらに限定されない。
本明細書において「生物体」(または、植物の場合「植物体」)とは、当該分野における最も広義に用いられ、生命現象を営むもの(または植物)をいい、代表的には、細胞構造、増殖(自己再生産)、成長、調節性、物質代謝、修復能力など種々の特性を有し、通常、核酸のつかさどる遺伝と、タンパク質のつかさどる代謝の関与する増殖を基本的な属性として有する。生物には、原核生物、真核生物(植物、動物など)などが包含される。好ましくは、本発明では、生物は、植物であり得る。本明細書では、好ましくは、そのような植物体は稔性であり得る。より好ましくは、そのような植物体は、種子を生産し得る。
本発明の遺伝子構築物、因子(agent)、組成物および方法は、単子葉植物だけでなく双子葉植物および動物を含む他の生物において機能することが企図される。
本明細書において、「トランスジェニック」とは、特定の遺伝子がある生物に組み込むことまたは組み込まれた生物(例えば、植物(イネなど)を含む)をいう。
本明細書では、植物の栽培は当該分野において公知の任意の方法により行うことができる。植物の栽培方法は、例えば、モデル植物の実験プロトコール-イネ・シロイヌナズナ編-」:細胞工学別冊植物細胞工学シリーズ4;イネの栽培法(奥野員敏)pp.28-32、およびアラビドプシスの栽培法(丹羽康夫)pp.33-40(監修 島本功、岡田清孝)に例示されており、当業者であれば容易に実施することができることから本明細書では詳述する必要はない。例えば、シロイヌナズナの栽培は土耕、ロックウール耕、水耕いずれでも行うことができる。白色蛍光灯(6000ルクス程度)の下、恒明条件で栽培すれば播種後4週間程度で最初の花が咲き、開花後16日程度で種子が完熟する。1さやで40~50粒の種子が得られ、播種後2~3ケ月で枯死するまでの間に10000粒程度の種子が得られる。種子の休眠期間は短く、完熟種子は1週間程度乾燥させれば吸水後2~3日で発芽する。ただし、吸水・播種後2~4日間4℃で低温処理を行うと発芽が斉一化される。イネの栽培は主に土耕で行い、10000ルクス以上の光条件下で生育させる。播種後40日程度以後に短日条件とすることで出穂が誘導され、出穂誘導後30日程度で開花し、開花後40日程度で完熟種子が得られる。
植物細胞、植物組織および植物体の培養、分化および再生のためには、当該分野で公知の手法および培地が用いられる。このような培地には、例えば、Murashige-Skoog(MS)培地、GaMborg B5(B)培地、White培地、Nitsch&Nitsch(Nitsch)培地などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。これらの培地は、通常、植物生長調節物質(植物ホルモン)などが適当量添加されて用いられる。
本明細書において、植物の場合、その植物を「再分化」するとは、個体の一部分から個体全体が復元される現象を意味する。例えば、再分化により、細胞(葉、根など)のような組織片から器官または植物体が形成される。
形質転換体を植物体へと再分化する方法は当該分野において周知である。そのような方法としては、Rogers et al.,Methods in Enzymology 118:627-640(1986);Tabata et al.,Plant Cell Physiol.,28:73-82(1987);Shaw,Plant Molecular Biology:A practical approach.IRL press(1988);Shimamoto et al.,Nature 338:274(1989);Maliga et al.,Methods in Plant Molecular Biology:A laboratory course.Cold Spring Harbor Laboratory Press(1995)などに記載されるものが挙げられるがそれらに限定されない。従って、当業者は、上記周知方法を目的とするトランスジェニック植物に応じて適宜使用して、再分化させることができる。このようにして得られたトランスジェニック植物には、目的の遺伝子が導入されており、そのような遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
本発明による貯蔵タンパク質などの発現調節の解析は、DNAアレイを用いた遺伝子解析方法によっても行われ得る。DNAアレイについては、(秀潤社編、細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」)に広く概説されている。また、DNAアレイを用いた植物の解析についても最近行われるようになっている(Schenk PMら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)97:11655-11660)。
DNAアレイ技術において利用される微細加工については、例えば、Campbell,S.A.(1996).The Science and Engineering of Microelectronic Fabrication,Oxford University Press;Zaut,P.V.(1996).Micromicroarray Fabrication:a Practical Guideto Semiconductor Processing,Semiconductor Services;Madou,M.J.(1997).Fundamentals of Microfabrication,CRC 15 Press;Rai-Choudhury,P.(1997).Handbook of Microlithography,Micromachining,&Microfabrication:Microlithographyなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
本発明による貯蔵タンパク質遺伝子およびその下流遺伝子などの発現の調節はまた、ディファレンシャルディスプレイ(differential display)技術を用いた遺伝子解析でも解析することができる。
本明細書において「ディファレンシャルディスプレイ(技術)」とは、発現変動する遺伝子を検出または同定するための方法である。この方法では、2つ以上のサンプルからcDNAをそれぞれ作製し、任意のプライマーセットを用いてPCRにより増幅し、その後、生成された複数のPCR産物をゲル電気泳動により分離し、パターン化した後、各バンドの相対的なシグナル強度変化をもとに、発現変動遺伝子がクローニングされる。
本発明では、本発明の開示をもとに、コンピュータモデリングによる薬物が提供されることも企図される。
本発明は、他の実施形態において、本発明のアンチセンス構築物に対する調節活性についての有効性のスクリーニングの道具として、コンピュータによる定量的構造活性相関(quantitative structure activity relationship=QSAR)モデル化技術を使用して得られる化合物を包含する。ここで、コンピューター技術は、いくつかのコンピュータによって作成した基質鋳型、ファーマコフォア、ならびに本発明の活性部位の相同モデルの作製などを包含する。一般に、インビトロで得られたデータから、ある物質に対する相互作用物質の通常の特性基をモデル化することに対する方法は、最近CATALYSTTMファーマコフォア法(Ekins et al.、Pharmacogenetics,9:477~489,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.&Exp.Ther.,288:21~29,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,290:429~438,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,291:424~433,1999)および比較分子電界分析(comparative molecular field analysis;CoMFA)(Jones et al.、Drug Metabolism & Disposition,24:1~6,1996)などを使用して示されている。本発明において、コンピュータモデリングは、分子モデル化ソフトウェア(例えば、CATALYSTTMバージョン4(Molecular Simulations,Inc.,San Diego,CA)など)を使用して行われ得る。
他の局面において、本発明は、本発明のアンチセンス構築物を含む組成物を提供する。そのような組成物は、農業用組成物であり得る。そのような農業用組成物は、日本の農林水産省または他の国における監督官庁が規定した規則にのっとった形式で提供される。そのような農業用組成物はまた、倫理的な問題も解決した形で提供される。
本発明が農業用組成物として処方される場合、そのような組成物には、農学的に受容可能なキャリアが含有され得る。そのようなキャリアとしては、当該分野において公知の任意の物質が挙げられる。
そのような適切な農学的に受容可能な因子としては、以下が挙げられるがそれらに限定されない:抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または農学的アジュバント。代表的には、本発明の農薬組成物は、本発明の因子を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに組成物の形態で投与され得る。農薬組成物の場合は、そのようなキャリアは農薬投与に適切な水などであり得る。
例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、その生成物は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0-8.5のTris緩衝剤またはpH4.0-5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。その溶液のpHはまた、種々のpHにおいて、本発明の因子の相対的溶解度に基づいて選択されるべきである。
組成物における溶媒は、水性または非水性のいずれかの性質を有し得る。さらに、そのビヒクルは、処方物の、pH、容量オスモル濃度、粘性、明澄性、色、滅菌性、安定性、等張性、崩壊速度、または臭いを改変または維持するための他の処方物材料を含み得る。同様に、本発明の組成物は、有効成分の放出速度を改変または維持するため、または有効成分の吸収もしくは透過を促進するための他の処方物材料を含み得る。
本発明を実施するための最良の形態
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
1つの局面において、本発明は、プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列のアンチセンス分子を提供する。詳細には、本発明は、プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列のに相補的な少なくとも10ヌクレオチド長、より好ましくは15ヌクレオチド長の連続する核酸配列または該核酸配列に対して少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約80%、さらに好ましくは約90%相同な核酸配列を含む、核酸分子を提供する。そのような配列は、1つ以上のヌクレオチドの置換、付加または欠失を含んでいてもよい。このような改変型配列は、アンチセンス活性を発揮できる限り、これらの数値よりも低いものであってもよい。そのような核酸分子を提供することによって、植物の種子において貯蔵する貯蔵タンパク質を含む、多重遺伝子族であるプロラミン遺伝子群全体の発現を抑制し、かつ他の貯蔵タンパク質の発現に中立であったことにより、種子タンパク質の低減化を実現し得ることが予想外に発見された。理論に束縛されることを希望しないが、一般には、ある種子タンパク質の発現が減少した場合には、ホメオスタシスの維持機構により他のタンパク質の発現が増大してその分を補うことで、種子タンパク質総量は変化しないというのが定説であり、事実グルテリン発現が抑制された系統では、その分がプロラミンに配分されて発現が著しく増大し、結果として種子タンパク質総量はほとんど変化していないことが確かめられている。しかし、本発明においては、低グルテリンである系統でプロラミンの発現抑制を行っても、やはり低グルテリンの特徴は保持され、かつグロブリンが著しく増大することもなかったことから、予想外の驚くべき成果と言える。
別の実施形態において、アンチセンス分子は、単純に逆向きの部分配列を持つものであってもよいが、RNAiの現象を利用して同一の逆向きの部分配列を2つ利用したヘアピン様RNA構造を用いてもよい。このような配列は、完全同一であってもよく、一部が一致しないものであってもよい。好ましくは、アンチセンス分子の発現を促進するために、10kDaプロラミンプロモーター、13kDaプロラミンプロモーター、グルテリンB1プロモーター、ユビキチンプロモーターなどが使用される。また、アンチセンス分子の発現の制御を行うために、Nosターミネーター、13kDaプロラミンターミネーター、10kDaプロラミンターミネーターなどが使用され得る。
上記核酸分子は、1つの実施形態において、アンチセンス活性を有する。具体的には、そのようなアンチセンス活性は、例えば、プロラミンのmRNAの発現量の減少、プロラミンポリペプチドの発現量の減少などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明では、本発明の核酸分子を植物に提供することによって、プロラミンのポリペプチドの発現量が減ったのみならず、種子中に発現されるタンパク質の量も減少することが予想外に発見された。そのような事象は従来見出されておらず、しかも示唆さえされていなかったことであり、本発明は顕著な効果を奏するといえる。
1つの実施形態において、上記プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列に相補的な少なくとも15ヌクレオチド長の連続的な核酸配列を含む。より好ましくは、そのような核酸配列は、少なくとも20ヌクレオチド長の連続的な、少なくとも25ヌクレオチド長の連続的な、少なくとも30ヌクレオチド長の連続的な、少なくとも40ヌクレオチド長の連続的な、少なくとも50ヌクレオチド長の連続的な、少なくとも60ヌクレオチド長の連続的な、少なくとも70ヌクレオチド長の連続的な、少なくとも80ヌクレオチド長の連続的な、少なくとも90ヌクレオチド長の連続的な、少なくとも100ヌクレオチド長の連続的な、核酸配列であってもよい。より好ましくは、そのような核酸配列は、プロラミンポリペプチドをコードする全長配列の相補配列を含むであってもよい。アンチセンス活性を発揮するには、通常15ヌクレオチド長の連続的な相補核酸配列を提供することで十分であり得るが、より確実にアンチセンス活性を発揮させるためには、より長い配列、例えば、少なくとも20ヌクレオチド長の、または少なくとも30ヌクレオチド長の連続的な核酸配列を提供することが好ましい。
本発明の核酸分子に含まれる上記核酸配列は、別の実施形態において、プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列の5’末端に相補的な核酸配列であり得る。プロラミンは、5’末端に相同性の高い配列が多いからである。また、そのような5’末端の配列に相補的な核酸配列を提供することによって、遺伝子の転写および/または翻訳が反応初期から阻害されることから、そうでない配列を提供するよりも効率よく遺伝子の発現を阻害することができるが、本発明では、アンチセンス効果を有する限り、目的とするポリペプチドをコードする核酸配列の5’末端の配列に相補的な核酸配列以外の配列を使用してもよい。
本発明の核酸分子に含まれる上記核酸配列は、プロラミンに由来するものであればどのようなものでも使用することができるが、イネ13kDaプロラミンまたはそれに対応する他の種のオルソログに由来するものを使用することが好ましい。本発明において使用されるプロラミンは、イネのものであり得る。好ましくは、上記プロラミンは、ジャポニカ種のイネのものであり得る。さらにより好ましくは、上記プロラミンは、ジャポニカ種のイネ13kDaプロラミンである。最も好ましくは、上記プロラミンはRM9またはRM1のプロラミンである。なお、13kDaプロラミンが好ましい理由としては、イネ種子に含まれるプロラミンのうち、13kDaプロラミンに相当するタンパク質の含量が最も多いため、発現を低減できた場合の効果がより高いからである。
別の好ましい実施形態において、本発明の核酸分子は、
(a)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43および45からなる群より選択される配列番号に示される核酸配列またはそのフラグメント配列を有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44および46からなる群より選択される配列番号に示されるアミノ配列を有するポリペプチドまたはそのフラグメントをコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44および46からなる群より選択される配列番号に示されるアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が、置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つの変異を有する改変体ポリペプチドであって、生物学的活性を有する改変体ポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド;
(d)配列番号1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43および45からなる群より選択される配列番号に示される核酸配列からなるDNAの対立遺伝子変異体である、ポリヌクレオチド;
(e)配列番号2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44および46からなる群より選択される配列番号に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの種相同体またはオルソログをコードする、ポリヌクレオチド;
(f)(a)~(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドにストリンジェント条件下でハイブリダイズし、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(g)(a)~(e)のいずれか1つのポリヌクレオチドまたはその相補配列に対する同一性が少なくとも70%である塩基配列からなり、かつ生物学的活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
に相補的な、少なくとも15ヌクレオチド長の連続する核酸配列を含み得る。より好ましくは、この核酸配列は、少なくとも20ヌクレオチド長、より好ましくは、少なくとも30ヌクレオチド長、最も好ましくは少なくとも50ヌクレオチド長の連続する相補部分を含み得る。
好ましい実施形態では、上記配列は、配列番号1または3、ならびに配列番号2または4であり得る(それぞれRM9およびRM1に対応する)。
別の局面において、本発明は、プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列に由来する少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列または該相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列に対して少なくとも約70%相同な核酸配列を含む、核酸分子を提供する。このような配列は、センス配列であり、RNAiの一部を担う因子としても有用である。そのような配列は、15ヌクレオチド長もの短さで発現抑制効果を発揮することができる。
別の局面において、本発明は、(A)プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列に由来する少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列または該相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列に対して少なくとも約70%相同な核酸配列を含む核酸配列A;および(B)プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列に相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列または該相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列に対して少なくとも約70%相同な核酸配列を含む核酸配列B、を含む、核酸分子を提供する。このような核酸分子は、本明細書では、RNAi核酸分子とも称する。ここで、核酸配列Aおよび核酸配列Bは、それぞれセンス配列およびアンチセンス配列と呼ぶことができる。このような二種類の配列を有する核酸分子は、RNAiを引き起こす因子として作用し、その結果、ターゲットとなるプロラミンの発現を全般的に抑制し、ひいては、種子タンパク質の発現量を減少させた。このようなことは、他の種子タンパク質では起こらなかったことから、プロラミンの発現を抑えることによる効果は予想外であるということができる。なぜなら、従来されているグルテリンでは、発現を抑えたとしても他の種子タンパク質または他のタンパク質の種子中での発現が増加し、総タンパク質量としては変化がないからである。従って、本発明がもたらす効果は、当業者に予想外の効果であったといえる。本発明のRNAi核酸分子は、アンチセンスおよびセンスにあたる配列が、ターゲットとなるプロラミン配列に対して15bp、好ましくは23bpほどの短さであっても効果が奏される。
好ましい実施形態では、本発明のRNAi核酸分子に含まれる核酸配列Aと核酸配列Bとは、互いに実質的に相補的である部分を含む。このように相補的である部分をAとBとが含むことによって、RNAiの効果が発揮されやすくなるからである。より好ましくは、この核酸配列Aと核酸配列Bとは、互いに実質的に相補的であり、さらに好ましくは完全に相補的である。理論に束縛されることは望まないが、RNAiの効果は相補性が実質的に完全であることによってより高まるからである。
1つの実施形態において、本発明のRNAi核酸分子は、スペーサー配列を含み、好ましくは、本発明のRNAi核酸分子において、核酸配列Aと核酸配列Bとの間には、スペーサー配列が挿入されていることが好ましい。理論に束縛されることは望まないが、RNAiの効果はスペーサー配列の適切な配置によってより高まるからである。
好ましい実施形態では、このスペーサー配列は、イントロン配列であることが好ましい。イントロン配列としては、例えば、γグロビン、βアクチンのイントロン配列が挙げられるがそれらに限定されない。理論に束縛されることを好まないが、植物においては遺伝子のコード領域中にイントロンを挿入することにで発現が増強されることが知られており、またプレmRNAのイントロン部分が切り出される際に、立体構造的に2本鎖RNAの形成が促進されると考えられているからである。
別の局面において、本発明は、プロラミンポリペプチドをコードする遺伝子配列に対してRNAiを引き起こす、因子を提供する。本発明のプロラミンに対するRNAiは、他のRNAiに比較して、種子タンパク質の顕著な減少および/または外来タンパク質の顕著な強制発現といった効果を奏する。RNAi因子としては、siRNA、shRNAといった形式も可能であるが、本発明では、核酸構築物中に相補鎖が含まれている形式が好ましい。理論に束縛されることを望まないが、siRNA、shRNAよりも核酸構築物中に相補鎖を含んでいる形式のほうが、植物においては汎用的とされているからである。
別の局面において、本発明は、プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列に相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列または該相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列に対して少なくとも約70%相同な核酸配列Bを含む、核酸カセットを提供する。このような核酸カセットは、アンチセンスカセットとして利用可能である。
1つの好ましい実施形態において、本発明の核酸カセットは、外来遺伝子をコードする核酸配列をさらに含む。
外来遺伝子は、本発明の核酸カセットを用いて植物などを改変する場合にプロラミンまたは種子タンパク質に代わって発現されることが企図される遺伝子であれば、どのようなものであっても使用することができる。
そのような外来遺伝子としては、例えば、マーカー(蛍光物質、燐光物質など)、医薬活性のあるペプチド(例えば、サイトカイン類(インターロイキン類、ケモカイン類、GM-CSF、M-CSF、G-CSF、multi-CSF(IL-3)、EPO、LIF、SCFのような造血因子、TNF、インターフェロン類、PDGF、EGF、FGF、HGF、VEGFなど)、ホルモン類(インスリン、成長ホルモン、甲状腺ホルモンなど))、ワクチン抗原、血液製剤、農業生産上有用なペプチド(例えば抗細菌、防虫、抗菌タンパク質)、生理作用・薬理作用を持つ二次代謝産物を合成する酵素、酵素反応を調節するインヒビター、レセプター、レセプターリガンド、人工タンパク質、栄養学的に意義のある物質(例えば、カゼイン、マメ類のアルブミン、グロブリン、ビタミン類・糖・脂質の合成酵素)、加工特性に関与するタンパク質(例えば、コムギグルテニン(製パン)、ダイズグロブリン群(豆腐)、ミルクカゼイン群(チーズ)など、また食品の嗜好性や機能性を強化するタンパク質(例えばシクロデキストリン、オリゴ糖、γアミノ酢酸などの特殊な糖・アミノ酸類の合成酵素群、外観を良くする色素合成酵素群、呈味タンパク質群および味覚成分合成に関与するタンパク質群、または他の人工タンパク質など)があげられるがこれらに限定されない。
好ましい実施形態において、本発明の核酸カセットは、プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列に由来する少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列または該相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列に対して少なくとも約70%相同な核酸配列を含む核酸配列Aをさらに含む。このような2種類の核酸配列Aおよび核酸配列Bを有することによって、本発明の核酸カセットは、RNAi作用を発揮することができる。
本発明の核酸カセットは、核酸配列Aおよび核酸配列Bに加えて、スペーサー配列を含んでいてもよい。理論に束縛されることを望まないが、スペーサー配列を含ませることによって、RNAi作用は増強されるからである。そのようなスペーサー配列の選定は、当業者が、適宜選択することができるが、好ましくは、イントロン配列を用いることができる。このようなスペーサー配列、好ましくはイントロン配列は、核酸配列Aと、核酸配列Bとの間に含まれることが有利である。理論に束縛されることを望まないが、イントロン配列の適切な配置は、細胞内でプレmRNAのイントロン部分が切り出される際に、RNAi作用をもたらす分子構造へより効率的に変換されると考えられているからである。
別の好ましい実施形態において、本発明の核酸カセットは、シグナル配列を含んでいてもよい。このようなシグナル配列は、外来遺伝子の上流に配置され、好ましくはインフレームに配置される。このような配置は、さらに好ましくは外来遺伝子の翻訳開始部位の直前であることが有利である。シグナル配列を含ませることによって、所望の部位での外来遺伝子の発現をより効率的に実現することができるからである。
好ましい実施形態において、本発明において用いられるシグナル配列は、貯蔵タンパク質のシグナル配列であることが有利である。貯蔵タンパク質は、シグナル配列の効果により小胞体内に輸送され、そこから適宜プロテインボディに運ばれて安定かつ大量に集積する。よってこのプロセスを模倣することにより、貯蔵タンパク質シグナル配列の下流に配置される外来遺伝子がコードするタンパク質は、種子により効率的に集積されるからである。
より好ましくは、このシグナル配列は、プロラミンシグナル配列であることが有利である。本明細書の実施例を通して、外来遺伝子の発現にはプロラミンプロモーターを用いることがより効果的であることがわかったため、それと組み合わせて用いるにはプロラミンシグナル配列がよりふさわしい。プロラミンシグナル配列としては、例えば10kDaプロラミン、13kDaプロラミン、16kDaプロラミンのシグナル配列があげられるが、それらに限定されない。
このようなシグナル配列の配置は、当該分野において周知の技術を用いて実現することができる。例えば、シグナル配列の配列が公知の場合には、そのような配列が含まれるようにPCR反応を行ったり、すでにそのシグナル配列を含む核酸分子を有している場合には、目的となる配列を切り出し、所望の位置に接続することによって所望の位置への配置を行うことができることが理解される。
別の実施形態において、本発明の核酸ベクターは、プロモーター配列をさらに含む。このようなプロモーター配列を有することによって、本発明のプロラミン抑制効果をより効率よくすることができ、および/または外来遺伝子の発現をより効率よくあるいは所望の特異性をもって実現することができる。プロモーターの配置もまた、当該分野において周知の技術を用いて当業者が任意に行うことができる。
好ましくは、プロモーター配列は、外来遺伝子および前記核酸配列Bの両方に作動可能に連結される。両方の遺伝子(外来遺伝子およびアンチセンス遺伝子)の発現を駆動するまたは誘導・増強することができるからである。好ましくは、外来遺伝子および核酸配列Bの両方に、独立して別個のプロモーター配列が作動可能に連結されることが有利である。このような独立の別個のプロモーターを含ませることによって、別々の発現制御を行うことができるからである。
より好ましい実施形態では、本発明の核酸カセットにおいて使用される外来遺伝子に作動可能に連結されるプロモーター配列(プロモーター配列A)と、核酸配列Bに作動可能に連結されるプロモーター配列(プロモーター配列B)とは互いに異なることが有利である。このような構成にすることによって、1つのプロモーターの遺伝子発現能力が、プロラミンの発現抑制と外来遺伝子の高発現に分散されて効率が落ちるリスクを回避することができる。さらに、プロラミンの発現制御を行いそれを確認した後に外来遺伝子の発現を駆動することが可能になるなど、制御のやり方のバリエーションを増やし、より効率的な外来遺伝子発現系を構築できるからである。
別の実施形態において、本発明において用いられるプロモーター配列Bは、種子に発現されるプロモーター配列であり、より好ましくは種子に高いレベルで発現されるプロモーター配列である。発現レベルが高いプロモーターのほうが、より効率的・効果的にプロラミンの発現を抑制できると考えられる。このような種子で高いレベルで発現されるプロモーターとしては、例えば貯蔵タンパク質群(例えばグルテリン、グロブリン、プロラミン)プロモーターや、細胞の生命活動に必須な遺伝子(ポリユビキチン、アクチンなど)プロモーターに由来する。貯蔵タンパク質の1種であるプロラミンの効率的な抑制を実現するには、プロラミン自身のプロモーターの利用は必須の条件ではなく、上記のような特定のプロモーターを用いることによっても達成できることが、本発明において初めて予想外に示されたからである。
より好ましい実施形態では、本発明のプロモーター配列Bは、貯蔵タンパク質プロモーターに由来し、前記プロモーター配列Aとは異なることがさらに有利である。理論に束縛されることを望まないが、このような構成をとることによって、本発明の核酸カセットは、外来遺伝子とプロラミン抑制を効率よく制御することができ、発現を最大にすることが可能となる。
本発明において用いられ得るプロモーター配列Bとしては、ポリユビキチンプロモーター、26kDaグロブリンプロモーター、グルテリンAプロモーター、グルテリンBプロモーター、16kDaプロラミンプロモーター、13kDaプロラミンプロモーターおよび10kDaプロラミンプロモーターならびにこれらの改変体または融合物などが挙げられるがそれらに限定されない。
別の実施形態において、本発明において用いられるプロモーター配列Aは、貯蔵タンパク質プロモーターに由来する。貯蔵タンパク質プロモーターは発現の特異性が種子に限定され、かつ発現レベルは高い。よって、外来遺伝子に接続されるプロモーターとして、特定の貯蔵タンパク質プロモーター(例えば、グルテリン、グロブリン、プロラミン)を用いることによって、植物体の他の部位に外来タンパク質が無駄に発現されてエネルギーを消耗させるリスクを回避しつつ、種子内で効率的かつ高度に発現させることができる。さらには、外来遺伝子に接続されるプロモーターとしては、抑制の標的となる貯蔵タンパク質(例えば13kDaプロラミン)と同じ種類の貯蔵タンパク質に由来するプロモーター(例えば、配列番号60)を使用することが好ましい。理由としては、発現抑制を打破するために標的となる貯蔵タンパク質のmRNAレベルを上昇させる場合があり、その波及効果を外来遺伝子の発現に利用できるからである。従ってプロモーター配列Aは核酸配列Bに天然に附随するプロモーターでありうる。好ましくは、プロモーターとしては、13kDaプロラミンないしは10kDaプロラミンに由来するプロモーターを用いることができる。理論に束縛されることを望まないが、13kDaプロラミンは多重遺伝子族であるもののプロラミンの中で最も含有量が多いこと、また低グルテリン系統などのタンパク質変異イネにおいて、最も顕著に発現が上昇する特徴がある。一方、10kDaプロラミンは単一遺伝子で電気泳動パターンで存在が確認できるほど、定常状態での高い発現量が保証されており、また低グルテリン系統などのタンパク質変異イネにおいて、発現が上昇する特徴がある。これらのことから、いずれもプロモーター活性は非常に高いと考えられ、より有用である。13kDaプロラミンと10kDaプロラミンのいずれのプロモーターが有利であるかについては、導入する原品種の特徴および発現させる外来遺伝子の特徴により判断するべきである。
本発明において用いられる外来遺伝子に接続されるプロモーター配列Aとしては、26Kグロブリンプロモーター、グルテリンAプロモーター、グルテリンBプロモーター、16kDaプロラミンプロモーター、10kDaプロラミンプロモーターおよび13kDaプロラミンプロモーターなどが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、プロモーター配列Aとして、プロラミンプロモーター、より好ましくは、13kDaプロラミンプロモーターないしは10kDaプロラミンプロモーターを用いることができる。
1つの実施形態において、本発明の核酸カセットにおいて、プロモーター配列Aは、プロラミンプロモーターに由来し、プロモーター配列Bは、該プロラミンプロモーター以外のプロモーターに由来する。このような組み合わせの例示としては、13kDaプロモーターと10kDaプロモーターとが挙げられるがそれらに限定されない。
1つの好ましい実施形態において、本発明の核酸カセットでは、外来遺伝子とプロモーター配列との間にインフレームでシグナル配列を含む。
別の好ましい実施形態において、本発明の核酸カセットは、ターミネーター配列を含む。ターミネーターの適切な配置によって発現を適切に制御することができる。ターミネーター配列は、10kDaプロラミンのターミネーター配列であることが好ましい。10kDaプロラミンのターミネーター配列は、これまで利用された実績はなかったが、様々なプロモーターとの組み合わせで遺伝子発現制御に汎用的に利用できることが、本発明により初めて示されたことは格別の成果である。植物(イネ)由来の配列で、本発明を適用する主な対象器官である種子に発現している遺伝子由来であることから、バクテリア由来のNOSターミネーターよりもより好ましいと言える。
1つの実施形態において、本発明の核酸カセットに含まれる外来遺伝子を含み、そしてこの外来遺伝子は、核酸配列Aおよび核酸配列Bよりも上流に存在することが好ましい。理論に束縛されることを望まないが、このような配置を採ることによって、プロラミンの抑制を確認した後に外来遺伝子の発現を行うことができることなどの利点が考えられるがそれらに限定されない。
従って、本発明において好ましい実施形態では、本発明の核酸カセットは、核酸配列Aと核酸配列Bとの間にスペーサー配列、好ましくはイントロン配列を含むことが有利である。RNAi効果が促進されるからである。
1つの局面において、本発明は、核酸カセットを製造するための方法を提供する。この方法は、A)プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列に相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列または該相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列に対して少なくとも約70%相同な核酸配列Bと、プロラミンポリペプチドをコードする核酸配列に由来する少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列または該相補的な少なくとも15の連続するヌクレオチド長を有する核酸配列に対して少なくとも約70%相同な核酸配列を含む核酸配列Aと含むセットの上流に作動可能にプロモーター配列Bを有し、外来遺伝子が該プロモーター配列Bよりも上流または下流(好ましくは、上流であるがそれに限定されない)に配置され、該外来遺伝子には作動可能にプロモーター配列Aが連結されている、核酸カセットを提供する工程;B)該核酸カセットを用いて植物を形質転換する工程;およびC)該形質転換された植物について、プロラミンの発現量が一部減少しているものを選択する工程、を包含する。
このような製造法では、プロラミンの発現量をより効率的に減少させる活性を持つものを優先的に選択していることから、本発明の核酸カセットの製造効率と本発明を利用する利便性が格段に上がる。
別の局面において、本発明は、本発明の核酸分子を含むベクターを提供する。従って、本発明のベクターは、上述の核酸カセットを含むベクター形態として提供され得る。
好ましくは、このベクターは、プロモーター配列などの調節配列(エレメント)を含み得る。調節配列としては、例えば、エンハンサー、プロモーター、転写終止配列、翻訳終止配列、転写起点、イントロン配列などが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、このベクターは、プロモーター活性を有する配列をさらに含む。
このプロモーター活性を有する配列は、好ましくは貯蔵タンパク質のプロモーターであり得る。貯蔵タンパク質のプロモーターであれば、種子中での転写促進活性が期待されるからである。本発明では、貯蔵タンパク質のタイプによらず、どの貯蔵タンパク質にプロモーター由来の配列であっても、プロラミンのアンチセンス配列の活性発現に有用であることが判明した。同時に、プロラミンのプロモーター由来の配列は、他の貯蔵タンパク質由来のものよりも、アンチセンス配列の活性発現により有用であることも示された。このようなことは本発明において初めて証明された格別の成果である。
より好ましくは、上記プロモーター活性を有する配列は、作動可能に連結されるアンチセンス配列が由来する構造遺伝子のプロモーターであり得る。
好ましい実施形態では、プロモーターは、アンチセンス配列が由来する植物と同じ植物種起源であり得る。同じ植物種起源のものを使用する方が、より良好に機能することが期待されるからである。
本発明のベクターは、好ましくは、ターミネーターをさらに含み得る。本発明のベクターは別の実施形態において、選択マーカーをさらに含み得る。このような選択マーカーは、どのようなものでもよいが、簡便を考えると、抗生物質耐性付与遺伝子(例えば、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼなど)が好ましい。選択マーカーを含むベクターを使用する場合、本発明のアンチセンス構築物を用いて形質転換した植物細胞を選択することが極めて容易になるが、この選択マーカーは必ずしも必要というわけではない。
別の実施形態において、本発明のベクターは、アンチセンス配列とは異なる外来遺伝子(例えば、GFP遺伝子のようなマーカー遺伝子または有用遺伝子)をコードする配列を含み得る。このような外来遺伝子は、構造遺伝子であり得る。このような外来遺伝子は、大量に発現することが望まれるタンパク質であり得る。そのようなタンパク質としては、例えば、医薬活性のあるペプチド(例えば、サイトカイン類(インターロイキン類、ケモカイン類、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、multi-CSF(IL-3)、エリスロポエチン(EPO)、白血病抑制因子(LIF)、c-kitリガンド(SCF)のような造血因子、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン類、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)など)、ホルモン類(インスリン、成長ホルモン、甲状腺ホルモンなど))、ワクチン抗原、血液製剤、農業生産上有用なペプチド、例えば抗菌タンパク質、生理作用・薬理作用を持つ二次代謝産物を合成する様々な酵素や加水分解酵素、酵素反応を調節するインヒビター、血圧効果作用を持つとされるダイズグリシニン、あるいは消化管内で酵素分解を受けることで生理活性ペプチドが切り出されるようにデザインされた人工タンパク質といったものがあげられるがそれらに限定されない。また栄養学的に意義のある物質としては、カゼイン、マメ類のアルブミンやグロブリン、あるいはビタミン類・糖・脂質の合成酵素などがあげられるがそれらに限定されない。さらに様々な加工食品の原料として加工特性に関与するタンパク質として、例えばコムギグルテニン(製パン)、ダイズグロブリン群(豆腐)、ミルクカゼイン群(チーズ)など、また食品の嗜好性や機能性を強化するタンパク質、例えばシクロデキストリンやオリゴ糖、γアミノ酢酸などの特殊な糖・アミノ酸類の合成酵素群、外観を良くする色素合成酵素や味覚成分合成に関与するタンパク質群、あるいは、消化管内で酵素消化を受けることにより、生理作用をもつペプチド(例えば血圧効果作用をもつ、アンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドなど)が切り出されるようにデザインされた人工タンパク質などがあげられるがこれらに限定されない。
このような外来遺伝子は、プロモーターに作動可能に連結されていることが好ましい。この場合、そのようなプロモーターは、どのようなものでも使用することができるが、好ましくは、貯蔵タンパク質に由来するものが好ましい。より好ましくは、そのようなプロモーターとしては、プロラミンに由来するもの(10kDaプロラミンプロモーター、13kDaプロラミンプロモーター、16kDaプロラミンプロモーターなど)が用いられる。
別の局面において、本発明は、本発明の核酸分子を含む植物細胞を提供する。あるいは、本発明はまた、本発明のベクターで形質転換した植物細胞を提供する。このような植物細胞は、本発明のベクターで一過的に形質導入されていてもよく、恒久的に形質転換されていてもよい。本発明の植物細胞はまた、本発明のアンチセンス構築物とは異なる外来遺伝子をコードする核酸分子を含み得る。そのような外来遺伝子の例示は、上述したとおりである。
好ましくは、本発明において利用されるプロラミンが由来する植物種と、本発明の植物細胞の植物種とは、同種であっても異種であってもよい。好ましくは、両者の植物種は同種であり得る。この両者の植物の品種は、同一品種であっても異なる品種であってもよい。好ましくは、両者の植物品種は、同一品種であり得る。好ましくは、本発明のプロラミンが由来する植物種および/または植物細胞の植物種は、イネであり得る。より好ましくは本発明のプロラミンが由来する植物種および/または植物細胞の植物種は、ジャポニカ種またはインディカ種のイネであり得る。
好ましい実施形態において、本発明の植物細胞には、本発明の核酸分子は、両側の染色体に導入され得るが、一対のみに導入されたものもまた有用であり得る。
別の局面において、本発明は、本発明の植物細胞を含む植物組織を提供する。本発明はまた、本発明の核酸分子を含む、植物組織も提供する。そのような植物細胞または核酸分子は、上述の好ましい形態であり得る。
したがって、本発明は、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターを含む植物組織(または生体の部分、部位など)を提供する。そのような植物の組織としては、例えば、種子またはそれに由来する部分が挙げられる。従って、プロテインボディを形成しうる組織であればどのような組織でも使用され得る。好ましくは、本発明の組識は、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターで形質されたものであり得る。本発明の組織は、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターで一過的に形質転換されていても恒常的に形質転換されていてもよい。そのような形質転換によって導入された本発明のポリヌクレオチドは、構成的にまたは特異的に発現され得る。
別の局面において、本発明は、本発明の核酸分子を含む植物体を提供する。このような植物体を提供することによって、低タンパク質含有種子を生産することができる。この植物体は、好ましくはイネであり得る。この植物体は、本発明のアンチセンス構築物とは異なる外来遺伝子をコードする核酸分子をさらに含み得る。そのような植物は、本明細書においてトランスジェニック植物ともいい、本発明の植物細胞または組織から当該分野において周知の技術を用いて再分化(再生)させることによって得ることができる。
一旦所望のポリヌクレオチド(例えば、本発明のポリヌクレオチドまたはベクター)で形質転換された細胞(例えば、植物細胞)が得られたなら、一定の割合以上でそのような形質転換細胞から所望のポリヌクレオチドを含むトランスジェニック生物(例えば、植物)が得られることは、当該分野において周知である。従って、形質転換することができる生物の細胞が利用可能な生物であれば、どのような生物でも本発明のポリヌクレオチドまたはベクターを含むトランスジェニック生物を生産することができる。
そのようなトランスジェニック生物を作製する方法は、当該分野において周知である。本発明の生物が植物である場合、トランスジェニック植物は、例えば、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターで形質転換された細胞を増殖させ、組織または器官とし、それを再分化させることによって植物体とすることができる。そのような組織または器官は、どのようなものでもよく、例えば、カルス、根、茎などが挙げられるがそれらに限定されない。植物はどのような器官であっても、基本的に全能性を有していることから、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターを含む器官または組織であれば、どのような組織または器官であっても植物体の再分化に利用することができる。本発明が木本植物の場合、本明細書において記載されるもののようなプロトコルを利用してトランスジェニック植物を作出することができる。
本発明の植物体において、プロラミンが由来する植物の種と、その植物体の種とは同種であっても異種であってもよい。好ましくは、その両方の種は同種であり得る。この場合、その両方の種は、同一品種であっても異なる品種であってもよい。好ましくは、両方の種は、同一品種であり得る。
好ましい実施形態では、本発明の植物体の植物種および/またはプロラミンが由来する植物種は、イネであり得る。より好ましくは、この両方の植物種は、ジャポニカ種のイネであり得る。このイネは、好ましくは、LGC-1であってもよい。
好ましい実施形態において、本発明の植物体には、本発明の核酸分子は、両側の染色体に導入され得るが、一対のみに導入されたものもまた有用であり得る。
別の局面において、本発明は、本発明の植物体から生産された種子を提供する。この場合、本発明の植物体が本発明のアンチセンス構築物を含む場合、その種子におけるタンパク質含有量(特に、プロラミン)は顕著に低減している。したがって、そのような種子を食用に用いる場合、低タンパク質が好ましい用途において特に本発明の種子が有用であることが理解される。本発明の植物体がさらに外来遺伝子をコードする核酸分子を含む場合、そのような外来遺伝子がコードするポリペプチドの発現が顕著であることが認められる。したがって、本発明の種子は、有用タンパク質の生産装置(バイオリアクター)として利用され得る。
本発明はまた、本発明の種子から調製されたデンプン調製物を提供する。このようなデンプン調製物は、プロラミンなどの貯蔵タンパク質を含むタンパク質含有量が顕著に減少している。したがって、そのようなデンプン調製物は、低タンパク質が好ましい用途において利用され得る。
また、本発明のデンプン調製物は、本発明の種子を生産する植物が外来遺伝子をコードする核酸分子を含む場合、その外来遺伝子がコードするポリペプチドを含む。そのようなポリペプチドは有用タンパク質であり得ることから、このようなデンプン調製物は、そのような有用タンパク質の原料として、または、そのような有用タンパク質ないしは有用タンパク質の機能に由来する2次代謝産物が添加された食品を提供するために好ましい。
本発明は、本発明の植物体または本発明の種子から生産された外来遺伝子の遺伝子産物を含む組成物を提供する。そのような外来遺伝子の遺伝子産物は、本発明のシステムを用いることによって効率よく食用部分の中に生産されることから、食用として、栄養補助物、農薬、化粧品、医薬としてまたは他の用途として用いるのに非常に好ましい。
別の局面において、本発明は、植物において種子中のタンパク質の発現量を減少させる方法を提供する。この方法は、A)本発明の核酸分子を提供する工程;B)上記核酸分子を上記植物の細胞に導入する工程;C)上記細胞を再分化させてトランスジェニック植物を作出する工程;およびD)上記トランスジェニック植物から種子を得る工程、を包含する。ここで、本発明の核酸分子を提供する技術は、当該分野において周知であり、どのような技術を用いても本発明の核酸分子を提供することができることが理解される。核酸分子を植物の細胞に導入する技術もまた、当該分野において周知であり、そのような技術は、本発明において引用した文献などに十分記載されている。核酸分子の植物の細胞への導入は、一過的であっても恒常的であってもよい。一過性または恒常性の遺伝子導入の技術はそれぞれ当該分野において周知である。本発明において用いられる細胞を分化させてトランスジェニック植物を作出する技術もまた当該分野において周知であり、そのような技術は、本発明において引用した文献などに十分記載されていることが理解される。トランスジェニック植物から種子を得る技術もまた、当該分野において周知であり、そのような技術は、本発明において引用した文献などに記載されている。
したがって、このように、本発明の種子中のタンパク質の発現量を減少させる方法は周知の技術を用いて実施することができる。
本発明において用いる遺伝子導入技術は、当該分野において公知の技術であればどのような技術であっても使用することができる。好ましい実施形態において、本発明において用いる遺伝子導入工程は、アグロバクテリウム法を用いる。
好ましい実施形態において、本発明の植物において種子中のタンパク質の発現量を減少させる方法はさらに、E)本発明の核酸分子が導入された植物の細胞を選択する工程、を包含する。この工程を包含することにより、より効率よく、遺伝子導入植物を生育することができるが、本発明の実施においては必ずしも選択することが必要というわけではない。そのような選択方法は、導入された核酸分子の特性によって変動し、例えば、抗生物質(例えば、ハイグロマイシン、カナマイシンなど)に対する耐性遺伝子が導入された場合は、その特定の抗生物質を用いて目的の細胞を選択することができる。あるいは、標識遺伝子(例えば、緑色蛍光遺伝子など)を用いれば、そのような標識を目安に目的の細胞を選択することができる。
別の局面において、本発明は、植物種子中で外来遺伝子を発現させる方法を提供する。この方法は、A)本発明の核酸分子を提供する工程;B)上記外来遺伝子をコードする核酸分子を提供する工程;C)上記請求項1に記載の核酸分子および上記外来遺伝子をコードする核酸分子を上記植物の細胞に導入する工程;D)上記細胞を再分化させてトランスジェニック植物を作出する工程;ならびにE)上記トランスジェニック植物から種子を得る工程、を包含する。ここで、本発明の核酸分子および外来遺伝子をコードする核酸分子を提供する技術は、当該分野において周知であり、どのような技術を用いても本発明の核酸分子を提供することができることが理解される。これらの2つの核酸分子は、一緒に提供されてもよく、別々に提供されてもよい。好ましくは、同一のベクター中に両者が提供され得る。同一のベクター中に両者が提供されることにより、一度にその核酸分子を植物の細胞に導入することができる。
核酸分子を植物の細胞に導入する技術もまた、当該分野において周知であり、そのような技術は、本発明において引用した文献などに十分記載されている。核酸分子の植物の細胞への導入は、一過的であっても恒常的であってもよい。一過性または恒常性の遺伝子導入の技術はそれぞれ当該分野において周知である。本発明において用いられる細胞を分化させてトランスジェニック植物を作出する技術もまた当該分野において周知であり、そのような技術は、本発明において引用した文献などに十分記載されていることが理解される。トランスジェニック植物から種子を得る技術もまた、当該分野において周知であり、そのような技術は、本発明において引用した文献などに記載されている。
本発明の外来遺伝子の発現方法において用いる遺伝子導入技術は、当該分野において公知の技術であればどのような技術であっても使用することができる。好ましい実施形態において、本発明において用いる遺伝子導入工程は、アグロバクテリウム法を用いる。本発明のアンチセンス構築物と、外来遺伝子をコードする核酸分子とが別々に提供され細胞に導入される場合、細胞への導入は、それぞれ同一の方法で行われてもよく、異なる方法で行われてもよい。
好ましい実施形態において、本発明の植物において種子中のタンパク質の発現量を減少させる方法はさらに、F)本発明の核酸分子が導入された植物の細胞を選択する工程、を包含する。この工程を包含することにより、より効率よく、遺伝子導入植物を生育することができるが、本発明の実施においては必ずしも選択することが必要というわけではない。そのような選択方法は、導入された核酸分子の特性によって変動し、例えば、抗生物質(例えば、ハイグロマイシン、カナマイシンなど)に対する耐性遺伝子が導入された場合は、その特定の抗生物質を用いて目的の細胞を選択することができる。あるいは、標識遺伝子(例えば、緑色蛍光遺伝子など)を用いれば、そのような標識を目安に目的の細胞を選択することができる。あるいは、外来遺伝子そのものが表現型に識別可能な差異を生じさせる場合は、そのような差異を目安に遺伝子導入細胞を選択してもよい。そのような識別可能な差異としては、例えば、色素の発現の有無などがあるがそれに限定されない。
本発明の外来遺伝子の発現方法はまた、好ましくはさらに、G)上記種子から上記外来遺伝子の遺伝子産物を分離する工程、を包含する。
そのような遺伝子産物の分離技術は当該分野において周知であり、遺伝子産物(例えば、タンパク質またはmRNAなど)を分離することができる技術であれば、どのような技術を用いてもよい。したがって、本発明の形質転換体の培養物から、本発明の外来遺伝子の遺伝子産物のようなポリペプチドを単離または精製するためには、当該分野で周知慣用の通常のタンパク質の単離または精製法を用いることができる。例えば、本発明のポリペプチドが本発明の形質転換体の細胞外に本発明のポリペプチドが分泌される場合には、その培養物を遠心分離等の手法により処理し、可溶性画分を取得する。その可溶性画分から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化学)等レジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用い、精製標品を得ることができる。
本発明の外来遺伝子の遺伝子産物のようなポリペプチドが本発明の形質転換体の細胞内に溶解状態で蓄積する場合には、培養物を遠心分離することにより、培養物中の細胞を集め、その細胞を洗浄した後に、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモジナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。その無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース(Sepharose)、DIAION HPA-75(三菱化学)等レジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用いることによって、精製標品を得ることができる。
また、本発明の外来遺伝子の遺伝子産物のようなポリペプチドが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより得られた沈澱画分より、通常の方法によりそのポリペプチドを回収後、そのポリペプチドの不溶体をポリペプチド変性剤で可溶化する。この可溶化液を、ポリペプチド変性剤を含まないあるいはポリペプチド変性剤の濃度がポリペプチドが変性しない程度に希薄な溶液に希釈、あるいは透析し、本発明のポリペプチドを正常な立体構造に構成させた後、上記と同様の単離精製法により精製標品を得ることができる。また、細胞内の特定のオルガネラ、例えば、プロテインボディに蓄積され得る場合には、そのオルガネラを分離後、タンパク質を精製することもできる。
通常のタンパク質の精製方法(J.Evan.Sadlerら:Methods in Enzymology,83,458)に準じて精製できる。例えば、本発明の外来遺伝子の遺伝子産物のようなポリペプチドを他のタンパク質との融合タンパク質として生産し、融合したタンパク質に親和性をもつ物質を用いたアフィニティークロマトグラフィーを利用して精製することもできる[山川彰夫,実験医学(Experimental Medicine),13,469-474(1995)]。例えば、Loweらの方法(Larsen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227(1989)、Kukowska-Latallo JF、Genes Dev.,4,1288(1990))に記載の方法に準じて、本発明のポリペプチドをプロテインAとの融合タンパク質として生産し、イムノグロブリンGを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。
また、本発明のポリペプチドをFLAGペプチドとの融合タンパク質として生産し、抗FLAG抗体を用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる(Larsen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227(1989)、Kukowska-Latallo JF、Genes Dev.,4,1288(1990))。
さらに、本発明のポリペプチド自身に対する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製することもできる。本発明のポリペプチドは、公知の方法[J.Biomolecular NMR,6,129-134、Science,242,1162-1164、J.Biochem.,110,166-168(1991)]に準じて、in vitro転写・翻訳系を用いてを生産することができる。
本発明は、本発明の方法によって生産された、外来遺伝子の遺伝子産物を含む組成物を提供する。そのような組成物が含む遺伝子産物は、使用される外来遺伝子に応じて変動するが、好ましくはタンパク質であり得る。
別の局面において、本発明は、植物において種子中のタンパク質の発現量を減少させるための、本発明の核酸分子の使用に関する。
他の局面において、本発明は、植物の種子中で外来遺伝子を発現させるための、本発明の核酸分子の使用に関する。ここで、外来遺伝子が発現される植物の種子において、植物の天然のタンパク質発現が低減していることが好ましい。天然のタンパク質発現が低減することによって、目的とする外来遺伝子の遺伝子産物(特に、タンパク質)の発現は、顕著に効率的となる。
これらの各々の使用において、その各要素について本明細書において詳細に説明した好ましい実施形態は、そのまま適用することができることが理解される。
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】

(実施例1:アンチセンス構築物の作製)
本実施例では、本発明の例示として以下に示すアンチセンス配列を以下に示すプロモーター配列と組み合わせたアンチセンス構築物を構築した。以後、特に断わりのない限り、プロラミンを低減させる目的のアンチセンス構築物を「LP遺伝子ないしはLPカセット」、それを導入した組換えイネ系統を「LP系統」、もっとも含有量の多い13kDaプロラミンが低下した系統を「LP13K系統」と総称する。導入する品種については、日本晴をH、LGC-1をLG、その他の品種はそのまま表記する。例えば、「H-LP13K」とは、「LP遺伝子を導入してプロラミンが低減した日本晴」を示す。
プロモーター配列:
A)イネ10kDaプロラミン遺伝子に由来する配列(配列番号47)
B)イネグルテリンB1遺伝子に由来する配列(配列番号48)
C)CaMV35S遺伝子に由来する配列(配列番号49)
アンチセンス配列:
A)13kDaプロラミンをコードするcDNA全長(配列番号1)のアンチセンス(配列番号50)
B)13kDaプロラミンをコードするcDNAのN末端の67bpのアンチセンス(配列番号51)
C)13kDaプロラミンをコードするcDNAのN末端の15bpのアンチセンス(配列番号52)
D)コントロール配列(配列番号53)
アンチセンス構築物の構築は以下のようにして行った。
上述の組み合わせの配列および形質転換のイネの選抜用として、ハイグロマイシンに対する抵抗性を付与するカセットとして、CaMV35Sプロモーター(配列番号49)、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(配列番号54)およびNosターミネーター(配列番号55)を含むものを使用した。
以後の発現ベクター構築には、大腸菌JM109を用いて、分子生物学実験における常法に従って行った。
一連の遺伝子構築操作に先立って、構築過程の効率化のために、構築過程の効率化のための改変ベクターの作製をおこなった。図1に示したものは、バイナリーベクターpPZP202(Plant Molecular Biology 25,989-994,1994)、構築用サポートプラスミドとしてpUC19を用いた例であるが、他のバイナリーベクターやプラスミドを同様に改変しても良い。過程を概説すると、オリジナルである2つのベクターpUC19およびバイナリーベクターpPZP202(Plant Molecular Biology 25,989-994,1994)をベースに、当該分野において公知の(Transgenic Research 4,p288-290,1995)の方法を参考にして8塩基認識部位AscIおよびPacIを導入した改変ベクターpUC198AP、pUC198AA、pUC198PPおよびpPZP2028を構築した。同様の手法で、AscIおよびそれと連結可能な6塩基認識酵素であるMluIのサイトを1つずつ持つpUC198AMも作製した。また、選抜マーカー遺伝子であるHPT遺伝子は、内部にあるEcoRI、PstI、NcoI部位を部位指定変換で消去した改変遺伝子mHPTを作製し(アミノ酸配列番号56)、それをCaMV35Sプロモーターおよびnosターミネーターと制限酵素で切断されないように連結した選抜マーカー発現カセット(塩基配列番号57)として構築した。これを、やはり制限酵素で切断されないようにpPZP2028に組み込んでpZH2Bを構築した。また、イネポリユビキチンプロモーター断片についても、配列中に存在するXbaI、EcoRI、PacI、PstI、XhoIを、やはり部位指定変換で消去した改変イネポリユビキチンプロモーター(mRUbiP、配列番号58)を構築しておいた。以降の実施例は、これらのプラスミドを用いて行った。
具体的な発現ベクターの構造の例を図2に示した。まずpZH2BベクターのSacI-EcoRIにターミネーターを連結し、次にHindIII-XbaIにプロモーターを連結した。アンチセンス用遺伝子フラグメントは、XbaI-SacI部位の間に連結した。RNAiタイプの2本鎖RNA発現ベクターについては、SacI-EcoRIにnosターミネーター、HindIII-XbaIに改変イネポリユビキチンプロモーターを連結した後、図2に示した制限酵素部位(5’側にXbaIとBglII、3’にSpeIとBamHI)を両側に付加したGUS遺伝子断片(配列番号59)またはイネアスパラギン酸プロテアーゼ遺伝子イントロン配列(配列番号97)をXbaI-BamHIに連結することで、基本となるRNAi発現ベクターを構築した。あとは、抑制をかける適当なプロラミン遺伝子断片を1種類選び、XbaIまたはBglIIに1つ、SpeIまたはBamHIに1つ、向きが逆になるように連結して完成させた。
目的としたアンチセンス発現ベクターが構築されているかどうかは、各断片を増幅するPCRプライマーを用いたPCR、および/またはDNA配列決定を行うことで確認した。
ベクターは、以下の実施例において使用するまで、-20℃で保存した。
(実施例2:アンチセンス構築物を用いたイネの形質転換)
実施例1において生産したアンチセンス構築物を含むベクターを用いて、イネ2品種(日本晴およびLGC-1)を形質転換し、トランスジェニックイネを生産した。日本晴は、イネとして代表的な品種として使用した。LGC-1は、ニホンマサリの放射線変異によるイネで、種子中のグルテリン量が大きく低下し、プロラミンが増加していることから、本発明のプロラミンへの影響をより明確に確認するために使用した。
その具体的な手順は以下のとおりである。
図2に示したそれぞれのアンチセンスプロラミン遺伝子発現ベクターは、まずアグロバクテリウムEHA101にエレクトロポレーションで導入し、ベクターを保持した菌を100mg/Lのスペクチノマイシンを含むLB寒天培地で選抜した。アグロバクテリウム感染までは、Raineriらの方法(Raineri DM.,Bio/Technology 8,33-38,1990)を一部改変して実施し、感染以降の培養操作と培地については、Tokiらの方法(Toki.S.,Plant Molecular Biology Reporter 15,159-164,1997)に従って行った。Tokiらの方法で形質転換イネが得られない品種については、Fukuokaらの方法(Fukuoka H.et al.,Plant Cell Reports 19,815-820,2000)に記された培地組成に従って行った。
手順を簡単に記述するが、特に断りがないかぎり、イネ細胞は28℃にて培養した。また、培地の支持体は0.4%濃度のゲルライト(和光純薬)を用いた。籾をはずしたイネの種子を70%エタノールにつけ、続いて有効塩素濃度2%程度の次亜塩素酸に浸せきすることで殺菌し、十分な滅菌水で洗浄の後、2mg/Lの2.4-Dを含むカルス誘導培地(KNO 2830mg/L,(NHSO 460mg,CaCl・2H2O 166mg/L,MgSO・7HO 185mg/L,KHPO 400mg/L,FeSO・7HO 27.8mg/L,EDTA-2Na 37.3mg/L,MnSO・4HO 4.4mg/L,ZnSO・7HO 1.5mg/L,KI 0.8mg/L,HBO 1.6mg/L,ニコチン酸0.5mg/L、チアミン塩酸1.0mg/L、ピリドキシン塩酸0.5mg/L、グリシン2mg/L、ミオイノシトール100mg/L、プロリン2.88g/L、カザミノ酸300mg/L、ショ糖30g/L、pH=5.8)に置床し培養した。5日後、置床した種子をそのまま回収し、導入目的遺伝子を保持したアグロバクテリウムをAAM培地(MnSO・4HO 10mg/L,HBO 3mg/L,ZnSO・7HO 2mg/L,NaMoO・5HO 0.25mg/L,CuSO・5HO 0.025mg/L,CoCl・6HO 0.025mg/L,CaCl・2HO 150mg/L,MgSO・7HO 250mg/L,Fe-EDTA 40mg/L,NaHPO・2HO 150mg/L,ニコチン酸1mg/L、チアミン塩酸10mg/L、ピリドキシン塩酸1mg/L、ミオイノシトール100mg/L、L-アルギニン174mg/L、グリシン7.5mg/L、pH=5.2)にけん濁した菌液(濃度はOD600=0.03程度にあわせる)に2分間つけこみ、滅菌ペーパータオル上で水気をきって、2mg/Lの2.4-Dを含む共存培養培地(KNO 2830mg/L,(NHSO 460mg,CaCl・2HO 166mg/L,MgSO・7HO 185mg/L,KHPO 400mg/L,FeSO・7HO 27.8mg/L,EDTA-2Na 37.3mg/L,MnSO・4HO 4.4mg/L,ZnSO・7HO 1.5mg/L,KI 0.8mg/L,HBO 1.6mg/L,ニコチン酸0.5mg/L、チアミン塩酸1.0mg/L、ピリドキシン塩酸0.5mg/L、グリシン2mg/L、ミオイノシトール100mg/L、グルコース10g/L、カザミノ酸300mg/L、ショ糖30g/L、pH=5.2)へならべた。25℃暗所で3日間培養した後、十分な滅菌水で種子を洗浄し、最後に500mg/Lのカルベニシリンを含む滅菌水に5分間つけた。このようにしてアグロバクテリウムを完全に除去した種子は、ハイグロマイシン50mg/Lの濃度で含む選抜培地(KNO 2830mg/L,(NHSO 460mg,CaCl・2HO 166mg/L,MgSO・7HO 185mg/L,KHPO 400mg/L,FeSO・7HO 27.8mg/L,EDTA-2Na 37.3mg/L,MnSO・4HO 4.4mg/L,ZnSO・7HO 1.5mg/L,KI 0.8mg/L,HBO 1.6mg/L,ニコチン酸0.5mg/L、チアミン塩酸1.0mg/L、ピリドキシン塩酸0.5mg/L、グリシン2mg/L、ミオイノシトール100mg/L、プロリン2.88g/L、カザミノ酸300mg/L、ショ糖30g/L、pH=5.8)で2週間培養した。その後、胚乳と芽をはずした細胞塊を、やはりハイグロマイシン50mg/Lの濃度で含み、かつホルモンとしてカイネチン2mg/L,NAA 0.02mg/Lを含む再分化培地(NHNO 1650mg/L,KNO 1900mg/L,CaCl・2HO 440mg/L,MgSO・7HO 370mg/L,KHPO 1700mg/L,FeSO・7HO 27.8mg/L,EDTA-2Na 37.3mg/L,MnSO4・4HO 22.3mg/L,ZnSO・7HO 8.6mg/L,CuSO・5HO 0.025mg/L,NaMoO・2HO 0.25mg/L,CoCl・6HO 0.025mg/L,KI 0.83mg/L,HBO 6.2mg/L,ニコチン酸0.5mg/L、チアミン塩酸0.1mg/L、ピリドキシン塩酸0.5mg/L、グリシン2mg/L、ミオイノシトール100mg/L,カザミノ酸2g/L、ショ糖30g/L、ソルビトール30g/L、pH=5.8)におきかえ、同じ培地に1週間ごとに3回うえつぎを行った。途中、緑化してシュートを生じた細胞集団1つにつき、生長の旺盛なシュートを2本選んでハイグロマイシン50mg/Lを含むホルモンフリー培地(NHNO 1650mg/L,KNO 1900mg/L,CaCl・2HO 440mg/L,MgSO・7HO 370mg/L,KHPO 170mg/L,FeSO・7HO 27.8mg/L,EDTA-2Na 37.3mg/L,MnSO・4HO 22.3mg/L,ZnSO・7HO 8.6mg/L,CuSO・5HO 0.025mg/L,NaMoO・2HO 0.25mg/L,CoCl・6H2O 0.025mg/L,KI 0.83mg/L,HBO 6.2mg/L,ニコチン酸0.5mg/L、チアミン塩酸0.1mg/L、ピリドキシン塩酸0.5mg/L、グリシン2mg/L、ショ糖30g/L、pH=5.8)にうつしかえた。約1ヶ月後、2本のうち十分に育ったほうのシュートを鉢に植え、隔離温室または陽光定温器内で育成して種子を収穫した。別々の細胞集団より再分化したシュートは、独立の組換え系統として扱った。
このようにして得た形質転換体は、このベクター中にコードされるハイグロマイシン遺伝子によりハイグロマイシンに対する抵抗性を付与されていた。
(実施例3:形質転換体の生育)
市販の培養土(微意量栄養素入りのホーネンス培養土)をビニールポット(直径15cm)に入れ、ホルモンフリー培地にうつして1ヶ月経過したイネ植物体を移植した。通常は、それを隔離温室で天然光の下でおいて種子を実らせた。場合によっては、人工気象器(日本医化FH301など)内で、16時間明期(15000ルクス以上、30℃)-8時間暗期(25℃)のサイクルで2ヶ月、続いて12時間明期(15000ルクス以上、30℃)-12時間暗期25℃)のサイクルで2ヶ月~3ヶ月おいて種子を実らせた。
(実施例4:組換え当代の種子タンパク質の電気泳動による分析)
実施例3において収穫した種子を用いて、種子内に存在するタンパク質の状態について解析した。その詳細な手順を以下に示す。
当該分野において周知の技法である、SDS-PAGE方を用いて、18%濃度のアクリルアミドゲルにより種子タンパク質の組成を解析した。独立な1つの組換えイネ系統あたり、種子を任意に12粒選んで1粒ずつ番号をつけ、対応関係がわかるように2分割し、胚のついた半分をハイグロマイシン50mg/Lを含むホルモンフリー培地に播種した。のこり半粒は、折りたたんだアルミホイルにはさんでハンマーでたたいて良く粉砕し、種子タンパク質抽出バッファー(25mMトリス、pH6.8、8M尿素、5%の2-メルカプトエタノール、4%SDSを含む)を200マイクロリットル入れてボルテックスを1分かけてタンパク質を抽出した。遠心操作後の上清を8マイクロリットルとりわけ、色素溶液(25mMトリス、pH6.8で10%グリセロール、0.025%ブロムフェノルブルー、5%2-メルカプトエタノールを含む)2マイクロリットルと混合した後にゲルで電気泳動し、クマシーブリリアントブルーで検出した。タンパク質量の簡易的定量としては、上記ゲルのバンドの濃度をOneD/ZeroD Scan(Analysistics Inc.)により測定した。
(系統選抜)
上記の分析で13KDaプロラミンがおおむね50%以下になっている系統を選抜した。種子を次世代の種子を収穫し、再びハイグロマイシンを含むホルモンフリー培地(NHNO 1650mg/L,KNO 1900mg/L,CaCl・2HO 440mg/L,MgSO・7HO 370mg/L,KHPO 170mg/L,FeSO・7HO 27.8mg/L,EDTA-2Na 37.3mg/L,MnSO・4HO 22.3mg/L,ZnSO・7HO 8.6mg/L,CuSO・5HO 0.025mg/L,NaMoO・2HO 0.25mg/L,CoCl・6HO 0.025mg/L,KI 0.83mg/L,HBO 6.2mg/L,ニコチン酸0.5mg/L、チアミン塩酸0.1mg/L、ピリドキシン塩酸0.5mg/L、グリシン2mg/L、ショ糖30g/L、pH=5.8)への播種と電気泳動による確認を行った。これを3世代分繰り返し、ランダムに選んだ10粒すべての種子が同じように13KDaプロラミンが50%以下になった系統を詳細に調べた。種子5粒を乳鉢で粉砕して15mlのチューブに入れ、5mlのジエチルエーテルを加えて激しく攪拌して脱脂を行い、遠心後にエーテルを除去し、残った種子粉末をドラフト内で乾燥させた。次に、5mlの25mMトリス緩衝液(pH6.8)を加えて激しく攪拌して水溶性タンパク質を抽出し、再度遠心して種子粉末を回収した。ここに種子タンパク質抽出バッファーを2.5mlを加えて激しく攪拌して、遠心処理後の液層を種子タンパク質抽出液とした。
以上の結果を図3に示す。主要な貯蔵タンパク質は、ゲル写真右に提示してある。レーン1、2および7にあるような一般品種(日本晴、ニホンマサリ)ではグルテリン(DとF)がもっとも多く、次いで13KDaプロラミン(B)が多い。これらにプロラミンアンチセンス遺伝子を導入すると、レーン4、5にあるように13KDaプロラミン(B)が著しく減少し、また10KDaや16KDaプロラミンもやや減少した。グルテリンやグロブリンの発現に変化はなかった。
また、レーン3、8にあるように、ニホンマサリの放射線突然変異で低グルテリン含量イネ(LGC-1)では、その反動としてプロラミン(A~C)およびグロブリン(E)が著しく増大して、グルテリン含量の低下の大部分を相殺している。しかし、これにプロラミンアンチセンス遺伝子を導入すると、レーン6にあるように、プロラミン(A~C)の含量は著しく減退し、一方で低グルテリン含量の特徴が保持され、かつグロブリンも増えていなかった。このようにして、本発明の遺伝子はいずれの品種に導入しても、プロラミンを低下させ、おおむねその分だけ種子タンパク質が減少することがわかり、低タンパク質米の作出に非常に有効であることがわかった。
また、図4においていろいろな構築遺伝子を導入した系統の種子を分析した結果を示したが、ハイグロマイシン耐性の形質を持った種子では、プロラミン低減がおきていることがわかり、プロラミン低減の効果は導入遺伝子に由来することを確認した。
(デンシトメータによる測定)
次に、タンパク質量を相対的に数値化して比較するために、SDS-PAGEのゲルをデンシトメータにより測定した。上記の抽出液を適量(例えば5μl、15μl、30μl)用いてSDS-PAGEを行い、同様にバンドの濃度を定量してタンパク量を推定した。また、電気泳動後にPVDF膜に転写し、それにウエスタンブロットキット(BioRad社など)に従って、抗13KDaポリクローナル抗体を用いて13KDaプロラミンを検出した。検出したバンドについては、SDS-PAGEと同様に濃度を定量してタンパク量を推定した。デンシドメータの結果を下の表に示したが、貯蔵タンパク質の吸光値の合計は、プロラミンアンチセンス遺伝子を導入した系統が明らかに少なく。低タンパク化が達成できていることを示している。また、図5にウエスタンブロットの結果を示すが、原品種に比較して、13KDaプロラミンを認識するバンドの吸光値は10%~28%まで低下しており、SDS-PAGEでの測定結果より、さらにプロラミンが低減している可能性も示唆された。
デンシトメータで測定した主要な貯蔵タンパク質のバンド濃度結果を以下の表に示す。
JP0004644777B2_000004t.gif 上記表からも明らかなように、本発明のアンチセンス構築物は、プロラミンの発現を減少させたのみならず、他の貯蔵タンパク質に対しても抑制または中立の効果をもっていた。この結果は、低グルテリン植物においてプロラミンが増加し、結果として種子タンパク質の総量がほとんど変化していなかったこととは全く異なるものである。このようなことは予想外の結果である。
(窒素量測定)
粗タンパク質含量がどのように変化しているかを、玄米窒素含有量を測定して検証した。簡潔に述べると以下のとおりである。方法は、窒素量の化学分析の常法であるケルダール法を用いた。種子10粒を専用試験管に入れ、そこに分解促進剤と水2mL、硫酸5mLを加えて370℃で加熱分解し、手で持てるくらいに冷えた後に試験管標線まで静かに蒸留水を注いで希釈した。この状態で、種子の窒素はアンモニア-アンモニウムとなって硫酸の中に保持されている。この分解液10mLに、等量の30%水酸化ナトリウムを添加し、水蒸気蒸留して発生したアンモニアを、飽和ホウ酸溶液にトラップした。このホウ酸溶液にpH指示薬を入れ、塩酸で滴定して中和点より、アンモニア量を定量し、そこから窒素量を算出した。その結果を以下の表に示す。
JP0004644777B2_000005t.gif 2つの隔離温室でイネを栽培して分析を行った。温室ごとの環境の差が窒素含有量に影響することは広く知られており、日本晴の窒素含有量も2つの温室で違う値を示している。しかし、LP遺伝子を導入した系統では、いずれにおいても原品種より低い窒素含有量を示しており、粗タンパク質含量が減少していることがわかる。それが貯蔵タンパク質の減少に由来することは明白である。
上述の表からも明らかなように、本発明のアンチセンス構築物は、種子タンパク質の窒素含有量すなわち、種子タンパク質量を有意に減少させたことが分かり、すなわち、低タンパク質化を達成しているといえる。
(結果)
以上をまとめると、本発明の上記構築物を用いると、13kプロラミンの発現量は顕著に減少した。他のプロラミン(10k、16k)もまた、同等であるか若干の減少を示した。グルテリンおよびグロブリンの発現は、本発明の上記構築物を導入する前の原品種と同等であった。従って、この結果から、本発明の構築物は、種子タンパク質の総発現量を顕著に減少させるといえる。
(実施例5:独立な系統より得られた種子の電気泳動パターン)
次に、1穂に実った種子について、複数の種子を抽出し、実施例4に記載のように電気泳動により解析した。結果を図4に示したが、これによれば、ハイグロマイシン耐性の形質を示す種子では、プロラミン低下の形質が見られたことから、本発明のアンチセンス構築物が片方の染色体にさえ挿入されていれば、プロラミン抑制に充分であることが示されたことになる。
(実施例6:アンチセンス効果)
次に、本発明のアンチセンス構築物のアンチセンス効果を確認するために、独立して組換えイネを複数作出し、分析を行った。その手順および結果を以下に示す。
本発明のプロラミンアンチセンス遺伝子の構造と、それがもたらすプロラミン低減効果の関係について、いろいろな種類の構築遺伝子について組換えイネを作出した。それぞれについて10以上の独立な系統の種子を、系統選抜の方法に従って10粒ずつ分析して以下のように結果をまとめた。
JP0004644777B2_000006t.gif これらの形質転換イネを、1)13kDaプロラミン量が低下した種子を1粒以上つけた系統数、2)13kDaプロラミン量が非形質転換体の50%以下になった種子をつけた系統の数、3)ハイグロマイシン抵抗性を示した種子のすべてにおいて13kDaプロラミン量が低下していたものについて解析した。
1)13kDaプロラミン量が低下した種子を1粒以上つけた系統数は、13kDaプロラミンの発現量が20%減少した種子を計数した。
2)13kDaプロラミン量が非形質転換体の50%以下になった種子については、非形質転換体の種子抽出物と比較対照の種子抽出物とを電気泳動のゲル上での比較によって行った。
3)ハイグロマイシン抵抗性については、ハイグロマイシン含有培地において生存する個体を選択した。プロラミン量の低下については、1)と同様の判断基準を採用した。
実際の比較は、電気泳動後のゲルをゲルリーダーで読み取り、その指数の絶対値に関して、非形質転換体を100%とすることによって比較対照のものの値を算出した。
以下に結果を示す。
JP0004644777B2_000007t.gif 上記項目1および2の結果は、構築物に13KDaプロラミンの発現を抑制する力がどのくらいあるかをはかる指標であり、それぞれの項目で数字が大きい程、効率的であることを示す。本発明のアンチセンス構築物は、対象となる13KDaプロラミンの発現を効率良く抑制している様子がうかがえるが、構築物の構造(特にプロモーター)によって、効率に差が有ることも示している。項目3の結果では、ハイグロマイシン抵抗性とアンチセンスの表現形が完全には一致しないケースが出ていることをしめす。このことは、2対ある染色体のいずれか一つに導入遺伝子が入っただけでは13kDaプロラミンの抑制効果を十分に発揮できない場合があることを示す。従って、本発明では、2ついある染色体の両方に導入遺伝子が入ることが好ましくあり得る。一般に組換えイネにおいては、導入された遺伝子はランダムに染色体に組みこまれ、その入った位置などによって発現の程度に差が出てくることがよく知られている。同じ遺伝子を導入した100の個体を作っても、導入遺伝子が良く発現する個体から全く発現しない個体まで、発現程度がばらつくことは、当業者においては常識のことである。また、遺伝子の発現があまりない個体においては、片方の染色体に組み込まれた個体と両方の染色体に組み込まれた個体と、また導入遺伝子が1つ入った個体と2つ入った個体で表現型に差が出る場合があることもしられている。本来は、図4にのせたように片方の染色体に1つのアンチセンス構築物が挿入されていれば、アンチセンス効果を発揮し得るのであるが、例えば、染色体上の挿入位置が悪い場合には、アンチセンス構築物の個数により表現型にばらつきがでてくることは十分にあり得るのである。
以上のように、1、2およびこの項目3で示された数字が大きい程、高い確率で安定してアンチセンス効果を発揮し得る優れた構築物ということができる。その意味では、10KDaプロラミンプロモーターが、他のプロモーターと比較してアンチセンス効果が強く出ている系統が得られやすく、またアンチセンスに使う遺伝子断片を短くした場合(67~15bp)にも効果を発揮することがわかった。従って本発明は非常に有用性が高いことを示す。
(実施例7:RNAiタイプ発現カセットを用いたアンチセンス)
アンチセンス遺伝子の別の形態として、標的遺伝子に相補的な2つのフラグメントを用いたRNAiタイプのLP遺伝子を導入して、効果を同様に検証した。既存の文献であるNature 407:319-320(2000)を参考にし、構築した遺伝子の構造は図2に示した。それらのうち、表3、4では用いていなかったイネポリユビキチンプロモーターを用いて構築した表5に示した分を比較した。表6にその結果を示したが、方法については表4に準じている。
JP0004644777B2_000008t.gifJP0004644777B2_000009t.gif 結果をみると、RNAiタイプのLP遺伝子は、解析した系統数と1)と3)の数字が一致しており、遺伝子が導入されていれば確実にプロラミンを低減できることを示している。スペーサー配列としてGUS断片とアスパラギン酸プロテアーゼイントロンを比較すると、アスパラギン酸プロテアーゼイントロンのほうが2)の数字が高く、アンチセンス効果が顕著に現れる確率がより高いことを示している。また45bp、23bpといった短いフラグメントを用いた場合も、アンチセンス効果が顕著に現れる系統が得られることがわかる。フラグメントさらに短くした場合(15bp)でもアンチセンス効果が発揮された。
また、プロラミン抑制用フラグメントとして、16kDaプロラミンに由来する配列(配列番号31、32)用いた場合、出現する確率が低いものの、16kDaプロラミンと13kDaプロラミンが同時に抑制された系統が得られた。16kDaプロラミンと13kDaプロラミンは局部的にはアミノ酸配列の共通性が高い部分があり、その部分が双方にアンチセンス作用をおこしたものと考えられる。このことと前章の結果も考えあわせると、多重遺伝子族の発現を包括的に抑制する際には、アミノ酸配列の局所的な共通性が重要であることを示しており、本発明の構築物は他の作物の貯蔵タンパク質抑制にも有効でありうることを示唆している。
なお、実際のSDS-PAGEの結果のいくつかは図10に示した。
一般に、RNAiタイプのアンチセンス遺伝子は、1つの逆向きフラグメントを用いたアンチセンス遺伝子よりも、標的遺伝子の発現を効率良くかつ強力に抑制することが良く知られている。表4および6を比較すると、プロラミン抑制においても同様の傾向が見られており、特にプロラミンが顕著に低下した系統を得られる確率はRNAiタイプのアンチセンス遺伝子の場合のほうが明らかに高い。しかし、1つの逆向きフラグメントでも顕著にプロラミンが低下した系統を得ることは十分に可能であることも示されており、いずれの構造のアンチセンス遺伝子も有用性が高い点に変わりはないと結論できる。
(実施例8:透過電顕写真によるプロテインボディでの観察)
次に、実施例6で作出された種子におけるプロテインボディを観察した。プロテインボディの観察は、以下の手順で行った。
開花した籾にマーキングし、7日、10日、14日、21日後にサンプリングした。すぐに種子の上下にカミソリで切れ目を入れた後、3%グルタルアルデヒド溶液に入れ、氷上、減圧条件下で15分、その後4℃で12時間以上おいて、固定処理を行った。種子を3分割し、LR-White樹脂(応研商事より販売)に包埋し固化させた後に、ダイヤモンドナイフを用いて90nmの切片を切り出した。以下、通常の透過型電顕サンプル処理方法に従って切片を処理し、胚乳表層の細胞について日本電子の透過型電顕を用いて観察した。
開花後14日目の種子の観察結果を図6に示す。6aにおいては、観察写真をそのままのせた。やや薄いグレーで滑らかな球形をしているのは、プロラミンが蓄積するプロテインボディ1、それより濃い色で大型でややいびつな形をしたのがグルテリンとグロブリンが蓄積するプロテインボディ2である。タンパク質顆粒がぎっしりつまっている様子がよく見える。6bには、6aと同じ写真にプロテインボディのタイプをマーキングして表示した。同一面積の視野で観察すると、LP13K系統(6b-1)では、一般品種(6b-2)と比較して、明らかにプロテインボディ1の数が少ないことが見て取れる。このことは、プロテインボディ1の形成には13KDaプロラミンが重要な役割を果たしており、その発現を制御することでプロテインボディ形成数を制御できることを示している。一方、低グルテリンかつ高プロラミンの特徴を持つLGC-1(6b-3)においては、プロテインボデイ2の数とサイズは大きく減少する一方で、プロテインボディ1の数は大きく増加しており、グルテリンの減少分がプロラミンに分配されている様子がよく見て取れる。LG-LP13K(LGC-1にプロラミンアンチセンス遺伝子を導入)した系統では、2つのプロテインボディが共に減少している様子が観察された。糠層ほどではないとしても、胚乳細胞の表層はタンパク質に非常に富み、食用・加工用いずれにおいてもできるだけ除去する方が好ましいことが知られているが、プロラミンアンチセンス遺伝子の効果で表層のタンパク質がを大きく減少させていれば、そのような過程を簡略化しても同等の品質の製品が得られるメリットがある。また、種子のホメオスタシスの仕組みにより、低下したタンパク質を別のもので補おうとするはずであり、そこに有用タンパク質の遺伝子を強制発現させてやれば、優先的にアミノ酸が分配されて、おそらくはこの表層細胞内に蓄積すると期待される。
(実施例9:他のアンチセンス構築物の作製)
次に、他のプロラミン遺伝子のアンチセンスおよびプロモーターならびに必要に応じてシグナル配列でも同様の効果が出ることを確認した。この実施例で作製したプロモーター配列およびアンチセンスの配列は、配列番号63~72(アンチセンス)、102~105(アンチセンス)、47および58(プロモーター)、106~107(プロモーター)、108~113(シグナル配列)に示されている。
この配列を用いて、実施例1~8に示される手順にしたがって、効果の解析を行ったところ、これらのアンチセンス配列についても同様のプロラミンおよび種子タンパク質抑制効果があることが観察された。
このことは、アンチセンス効果が、そのプロラミンのみならず、他にもあることを示す。
次に、実施例6および7に記載のように、アンチセンス効果についてさらなる分析を行ったところ、同様に、アンチセンス効果があったこと、および特にRNAi型で試みた場合は15bpのペアまたは20bpのペアのような短い配列でも効果があったことが実証された。
(実施例10:他の品種における効果)
この実施例では、本発明のアンチセンス構築物を用いて、他の品種でも同様の効果が得られるかを検証した。対象にはこれまでの実施例で使用していないジャポニカ(一般飯用米、モチ米、酒米、わい性などの形態変異イネ)、またはインディカ種である、Te Tep、Basmati、IR8、湖南早、およびカサラスを選んだ。形質転換以降の操作は、すべて実施例2~4と同様に行った。図7はこれらの品種のうちのいくつかについて、種子タンパク質の電気泳動パターンと、日本晴のプロラミンをウサギに免疫して得られた抗13KDaプロラミンポリクローナル抗体を用いてウエスタン解析を行った結果である。一見してわかるとおり、どの品種においても電気泳動パターンは極めて類似しており、抗体とも非常によく反応していることから、プロラミン遺伝子が品種間でも高度に保存されていることを明示している。
本発明のアンチセンスプロラミン(LP)遺伝子を導入したところ、全ての品種においてプロラミン発現の顕著な低下が観察された。いくつかのSDS-PAGEの結果を図10に示したが、いずれにおいてもLP遺伝子を導入したイネでは、現品種より著しくプロラミンに相当するタンパク質バンドが薄くなっており、プロラミンタンパク質含量の低下を反映している。このような結果から、交配・遺伝子導入を問わず、本発明の構築物を含むイネは、プロラミンが低減し、低タンパク化すると結論され、イネ全般において本発明の有用性が証明された。なお、図7においてモチ品種のバンドが他の品種と比較して簿くなっているのは、これらのデンプンが抽出操作中に著しく膨張して、タンパク質の回収効率を大きく低下させるためであり、含まれるタンパク質が少ないわけではない。
(実施例11:低プロラミンイネを用いた外来遺伝子の発現例)
上記実施例で得られた一連のLP13Kの種子および原品種の双方に、有用タンパク質発現カセットを導入して比較するやり方もできるが、いろいろな品種で効果を検証したい場合は、いちいちその品種でLP13Kタイプを作っておく必要があり、効率が良くない。本実施例のように、事前に構築しておいた図1のプラスミドの特性を最大限に生かすほうが効率的で優れている。
本実施例では、図8に例示したとおり、pUC198AMまたはpUC198AAで導入する有用タンパク質発現カセットを構築し、それをバイナリーベクターのAscIサイトに挿入する方法を用いた。これにより、同一プラスミド上に連結された有用タンパク質発現カセットとプロラミンアンチセンスカセットが、確実に同時にイネに導入される。特にpUC198AMで構築した有用タンパク質発現カセットを挿入した場合は、挿入カセットのターミネーター側のMluIとベクターのAscIが連結されて部位が消滅する一方で、プロモーター側のAscIは生き残るため、そのAscIにさらに追加して発現カセットを挿入することができる。
以下、有用タンパク質発現用の構築遺伝子のシリーズを作製して、プロラミン低減種子(低タンパク質種子)のバイオリアクターとしての有用性を検証した。
図11に示したような遺伝子1~4を構築して日本晴に導入し、GFPの発光を観察するとともに、実施例2~4および7と同様にして、SDS-PAGEおよびウエスタン解析を行った。発光強度は、ライカ製顕微鏡の蛍光観察システムを用いて、輝度を比較して行った。遺伝子1と2を比較した場合、LPカセットが入っている2のほうが、明らかに強い発光が観察された。また遺伝子3のように、遺伝子2のLPカセットの部分をGUSと入れ換えてみたところ、遺伝子1と同レベルの発光強度であったことから、発光の増強効果はLPカセットに由来すると判断された。また、遺伝子2のGFP部分をGUSと入れ換えた4では、全く蛍光は観察されず、発光はあくまでGFPに由来するものと判断された。抗GFP抗体を用いたウエスタン解析では、GFP発現量は遺伝子2の場合は1の場合の2倍以上と見積もられた。以上の結果から、プロラミン低減種子では外来タンパク質の発現が増大することが明示された。しかし、いずれの遺伝子を導入した場合も、SDS-PAGE上でGFPタンパク質を判別するのは困難であり、バイオリアクターとしてのポテンシャルは十分に発揮されていない。
そこで、図12のように10kDaプロラミンのシグナル配列をGFPの前に挿入した構造を持つ遺伝子5、6を構築して同様の解析を行った。その結果、それらの種子のGFP発光強度は、それによる発現量比較が困難なレベルまで増大した。図13AのSDS-PAGEに示したように、遺伝子5を導入したイネ(レーン2)では、GFPと推定される原品種にない明確なバンドが検出されるレベルに達した。また遺伝子5の場合に比較して、LPカセットが入っている遺伝子6(レーン3)の場合は、さらに発現量が1.2倍以上に上昇し、1粒当たり50μg以上蓄積していると見積もられた。このように、シグナル配列を併用することで、プロラミン低減種子のバイオリアクターとしての有用性は一層明確に示されたと言える。
図13で見られた原品種にない明確なバンドが、確かにGFPであることは、抗GFP抗体によるウエスタン解析で確認した。また正しい構造のタンパク質ができているかどうかを、アミノ酸配列で検証した。図14Aにおいて、導入したGFP遺伝子の構造は、10kDaプロラミンシグナル配列の後に連結配列を挟んでGFP遺伝子本体があり、推定されるアミノ酸配列は塩基配列に下に示してある。図14Bにおいて、原品種(レーン1)と比較して、遺伝子6を導入した組換えイネ(レーン2)ではプロラミンの位置のバンド濃度(*)が減少し、ボックスでかこった位置に明確なバンドが出現している。このバンドをPVDF膜に写し取り、N末端配列を決定したところ、SerArgAlaMetValSerLysGly(配列番号118)の配列が得られ、推定アミノ酸配列のうち、連結部分以降の配列と100%一致する。このように、10kDaプロラミンシグナル配列だけが計画通り切除されて、正常にGFPタンパク質が発現されており、本発明における導入遺伝子の構造が目的に極めて合致していることが証明された。
より有用性を高めるために、遺伝子6をLGC-1に導入して効果を検証した。その結果図13Bのように、日本晴に導入した場合(レーン3)よりもLGC-1に導入した場合(レーン5)のほうがGFPの発現量の増大が観察され、しかもよりプロラミンがより減少している系統(レーン6)のほうがさらにGFPの発現量が高くなった。
レーン3の場合において、GFPは1粒当たり150μg以上蓄積していると見積もられ、外来タンパク質が種子胚乳にもっとも多量に存在するタンパク質となった。レーン1の日本晴のSDS-PAGEパターンと比較して、別の植物のものと見まごうほど隔絶しており、従来の予想を遥かに超える画期的な発明であることが十分に理解される。本発明の使用により、既存の米とは全く違う特性をもつ組換えイネ品種の創出研究が大きく加速されることが理解される。
(実施例12:低プロラミンイネを用いた有用外来遺伝子の発現例-シスタチンの場合)
この実施例では、シスタチンを用いて外来遺伝子の発現を試みた。
これまでGFPを用いて検討してきた系を、実際の有用タンパク質生産に適用したのが図15の例である。ここで使われたシスタチンは、システインプロテアーゼを特異的に阻害する機能がある。システインプロテアーゼは、鞘翅目・半翅目害虫の消化酵素や、あるいは様々なウイルスの増殖に必須の因子として重要な働きをしている。よって作物中のシスタチンを増強してそれらのシステインプロテアーゼの働きを抑えれば、害虫抵抗性やウイルス抵抗性が付与出来ることになる。
シスタチンは、もともと作物の食べる部分に含まれているので長い食経験があり、利用するリスクが極めて低いと考えられる。よって薬剤処理が困難な食べる部分に発現させる利用法も十分にありうる。例えば米で発現させた場合は、貯穀害虫であるコクゾウや登熟中の籾に被害を与えるカメムシの防除に役立ち、同時に消化管から感染するウイルスを抑える機能性米としての利用もできるのである。
このように有効利用が非常に期待されるシスタチン遺伝子であるが、従来実用化の目処はたっていなかった。その最大の原因は、作物に高いレベルで蓄積させることができていないことにある。作物本来のシスタチン含有量は非常に低いレベルであることが知られており、発現を低く抑えるなんらかの調節機構があるか、またはタンパク質の安定性が低い(分解されやすい)可能性が指摘されている。米に発現させてコクゾウ抵抗性を付与できたとの報告もあるが、発現レベルは低くわずかな発育遅延を達成できたのみで、到底実用に耐えるレベルではない。
そこで本発明をトウモロコシシスタチンに応用し、シスタチン蓄積米の作出と評価を試みた。遺伝子5および6のGFP部分をそれぞれトウモロコシシスタチン遺伝子に交換した遺伝子7および8を構築して日本晴に導入した。本実施例は、種子からのタンパク質の抽出法の部分を除いて、実施例2~4に準じて行った。変更点としては、評価に用いる種子タンパク質抽出液は、種子を粉砕後に200mMの塩化ナトリウムを含むpH6.0のリン酸バッファーで抽出後、上清を沸騰水中で1分処理して調製した。
その結果を図15に示した。発現量の大小については、GFPで観察されたものと全く同じパターンを示し、プロラミンプロモーター+シグナル配列+シスタチン遺伝子をプロラミンアンチセンスカセットと連結して(遺伝子8)同時に導入した系統が、もっとも多くシスタチンを蓄積していた。特に、プロラミンアンチセンスカセットをつけた場合の増強効果は、GFPの場合よりもずっと大きく出ている。シスタチンを植物種子に導入して、SDS-PAGEでタンパク質を検出した例は初めてであり、本発明の有用性をより明確に示した例と言える。
(実施例13:本発明の遺伝子構築物の他の貯蔵タンパク質への適用)
本発明で用いたRNAiタイプの発現抑制カセットを用いて、実施例7および9に従ってグルテリンおよびグロブリンに対するRNAi遺伝子を構築して導入し、実施例2~4に従って分析評価した。その結果、グルテリン、グロブリンいずれも顕著に発現が抑制された。この結果と図1に示したベクターシステムを組み合わせ、グルテリン、グロブリン、プロラミンぞれぞれの発現抑制カセットと外来遺伝子発現カセットを全て連結したベクターを構築して導入たところ、様々な品種においても全ての貯蔵タンパク質を抑制しつつ、外来タンパク質を効率的に発現させることができた。同様に、グルテリン、グロブリン、プロラミンの3つの遺伝子フラグメントをあらかじめ連結した人工フラグメントをRNAiタイプの発現抑制カセットに用いた場合も(図17に例示)、全ての貯蔵タンパク質を抑制しつつ、外来タンパク質を効率的に発現させることができた。
また、有用タンパク質をイネ種子に発現させるプロモーターとして、グルテリンB1プロモーターやグロブリンプロモーターがしばしば用いられ、またこれらのシグナル配列が発現を増大させるのに有効であることが報告されている。遺伝子5および6の有用タンパク質カセット部分について、プロモーター(配列番号47、48、60、62、106、107)やシグナル配列(配列番号108~117)をいろいろな組み合わせで置き換えて検討したところ、やはり遺伝子6タイプのほうが5タイプより発現が増強された。この場合はプロラミンが減少して生じた細胞内の空間がうまく利用された結果と考えられた。
以上のように、本発明の遺伝子構築物とその構造は、種子のバイオリアクター化を図る目的に汎用的に用いることができることが示され、従来にはない格別の成果が得られたと言える。
本発明の過程において明らかになった、イネ種子における貯蔵タンパク質組成の調節様式では(図16)、ホメオスタシスにより種子タンパク生産力の余剰分の大部分は、最終的にプロラミンの生産に振り向けられる。また、プロラミンは種子登熟の後半でも良く発現される特性は良く知られている。以上のことを考慮すると、有用タンパク質をプロラミンプロモーターで発現させる本発明の構造物は、全てのイネ種子貯蔵タンパク質量をできるだけ抑えつつ、余剰生産力を効率的に有用タンパク質発現に転用する目的に、より一層合致していることが理解される。しかも本実施例においては、図14のように実際に発現されたタンパク質のN末端シーケンスの確認までしており、そこまで検証した例は既報にはない。これらの結果を総括するなら、遺伝子6の構造は、現在ある中で最も優れているイネ種子用の有用タンパク質発現カセットの1つである。
本発明の技術的思想は、他の作物種子、とりわけ単子葉作物種子において、十分な普遍性および敷衍性を持つものであることは、当該業者であれば容易に理解できる。すなわち、遺伝子組換えないしは突然変異によってある種子貯蔵タンパク質Aを抑制しつつ、その貯蔵タンパク質Aの遺伝子プロモーターないしはその代用となるプロモーター+シグナル配列+有用タンパク質という構築遺伝子を導入することで、有用タンパク質を大量に蓄積した、画期的新作物を創出しうるのである。以下の表および図17に総括したように、本発明は、これまで漠然と想像されていた作物種子のバイオリアクター化技術について、具体的な導入遺伝子の構造にまで実証例を示した格別の成果である。
JP0004644777B2_000010t.gif (実施例14:米を用いた調理・加工食品への本発明の利用)
米の加工食品製造において重要な作業過程は、精米後(ないしは粉砕して米穀粉にした後)に水に十分に浸漬して吸水させ、加熱によりデンプンを十分に糊化させるところにある。一般に、タンパク質(とりわけプロラミン)の多い米では、吸水が悪くでんぷんの糊化が不十分となり、加熱後の米の膨化やねばり、餅生地の膨潤性・伸展性が劣り、製品の品質低下を招くことが知られている。そこで上記の点について、これまでの実施例で得られた低タンパク米(日本晴およびコガネモチにプロラミンアンチセンス遺伝子を導入したもの)と原品種と比較したところ、低プロラミン米では浸漬時間を短縮しても、ねばりや膨潤性が原品種と同等ないしは勝る炊飯米、蒸し米、生地が得られた。この結果から、レトルト米飯などの外食産業向け大量炊飯の場合や、せんベい・あられ・だんごといった加工食品に、本発明が有用であることが示された。
(実施例15:日本酒醸造における本発明の利用)
米の別の利用場面としては、日本酒の醸造があげられる。そこで、これまでの実施例で得られた低タンパク米の中からLG-LP13K(LGC-1にプロラミンアンチセンス遺伝子を導入したもの)を用いて、日本酒の醸造試験を試みた。LGC-1は酒造用の米ではないが、一般食用品種でも日本酒製造は十分可能であり、LGC-1自体は醸造米としては、通常の品種と同等であることが確かめられている。
日本酒醸造においては、原料米のタンパク質は、様々な雑味や好ましくないにおいのもとになるため、できるだけ低い方が望ましいとされている。粒の外側の糠層は油脂、ミネラル、タンパク質に極めて富んでおり、ここを削り落とす操作をとう精(あるいは精米)と呼ぶ。どのくらいとう精したかを示すのに、とう精前と後の重量比によるとう精歩合という指標が用いられるが、白米を炊飯して食する場合のとう精歩合は90%程度である。しかし、図6の電顕写真で分かる通り、白米表層細胞はタンパク質に富むため、日本酒醸造の場合はさらに表面を削ってとう精歩合70%以下のものを使うのが一般的であり、品評会用の最高級のものでは30%以下までというレベルで削り込みを行う。
本発明の種子を用いると、原料のとう精歩合が高いままでも低タンパク質であり得るので、そのような過程を簡略化できる原料米として有用である。また洗米においても、もともとのタンパク質が少ないため、この過程も簡略化できる。タンパク質が少ないほうが、デンプンの膨潤糊化が良いため、この部分でも利用するメリットがある。
精米過程を簡略化したLG-LP13Kと、通常のように精米したLGC-1で比較したところ、風味に顕著な差は見られなかったことから、本発明の低タンパク質植物は、食品産業においても有用性が示された。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】

栄養価に乏しいプロラミンが減少した分だけ、相対的にアミノ酸栄養価は高まり、タンパク源としての機能が強化された米を提供出来るという利点がある。あるいは、低タンパク質な米が求められる場面において、一般食用、米加工品、日本酒醸造、腎臓病等アミノ酸摂取の絶対量が制限される疾病の治療食といった用途に有用である。さらには、外来有用タンパク質を効率的に発現できるバイオリアクターとしても高いポテンシャルをもち、外来有用タンパク質の機能に由来する新規作物(新規な形質を持つ米)の創出を通して、米の産業的用途の拡大に大きく貢献できる。このように、本発明は従来の技術では達成できなかった、多方面にインパクトをもたらす格別の成果である。
【発明の効果】
本発明におけるプロラミン発現抑制遺伝子により、種子中の総タンパク質含量が減少したイネおよびその種子が得られた。一義的な効果としては、栄養価に乏しいプロラミンが減少した分だけ、相対的にアミノ酸栄養価は高まり、タンパク源としての米の機能を強化し得る。また特に日本においては、低タンパク質な米が求められる場面が多いことから、一般食用、米加工品,日本酒醸造、腎臓病等アミノ酸摂取の絶対量が制限される疾病の治療食といった用途に有用である。さらには、外来有用タンパク質を効率的に発現できるバイオリアクターとしても高いポテンシャルを持つ。このように、本発明は従来の技術では達成できなかった、多方面にインパクトをもたらす格別の成果である。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
3
【図5】
4
【図】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図10】
8
【図11】
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【図12】
10
【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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