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明細書 :酸性糖質の製造法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第3713530号 (P3713530)
公開番号 特開平11-032788 (P1999-032788A)
登録日 平成17年9月2日(2005.9.2)
発行日 平成17年11月9日(2005.11.9)
公開日 平成11年2月9日(1999.2.9)
発明の名称または考案の名称 酸性糖質の製造法
国際特許分類 C12P  7/58      
A23L  1/09      
A23L  1/30      
A23L  1/304     
C07C 59/105     
A61K 31/70      
C07H  7/033     
FI C12P 7/58
A23L 1/09
A23L 1/30 Z
A23L 1/304
C07C 59/105
A61K 31/70 ADZ
C07H 7/033
請求項の数または発明の数 2
全頁数 9
出願番号 特願平09-210166 (P1997-210166)
出願日 平成9年7月22日(1997.7.22)
審判番号 不服 2000-008755(P2000-008755/J1)
審査請求日 平成9年7月22日(1997.7.22)
審判請求日 平成12年6月14日(2000.6.14)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】501145295
【氏名又は名称】独立行政法人食品総合研究所
発明者または考案者 【氏名】小林 幹彦
【氏名】小林 昭一
個別代理人の代理人 【識別番号】100074077、【弁理士】、【氏名又は名称】久保田 藤郎
【識別番号】100086221、【弁理士】、【氏名又は名称】矢野 裕也
参考文献・文献 Methods Enzymol.,vol.1(1955)p.340-345
J.Bio.Chem.,vol.218(1956)p.425-436
日本農芸化学会誌、第71巻、臨時増刊号(1997.Mar)p.42
応用糖質化学、第44巻、第2号(1997.Jun)p.213-221
Biochem.Biophys.Acta.,vol.24(1957)p.206-207
調査した分野 C12P 7/58, A23L 1/00-1/304
CA(STN), REGISTRY(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
グルクロン酸、ガラクツロン酸及びガラクトサミンよりなる群から選ばれた糖質にグルコースオキシダーゼを作用させることを特徴とする酸性糖質の製造法。
【請求項2】
請求項1記載の酸性糖質の製造法において、糖質にグルコースオキシダーゼを作用させる際に、カルシウムを添加することを特徴とする酸性糖-カルシウム塩の製造法。
発明の詳細な説明 【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、糖質にグルコースオキシダーゼを作用させて酸性糖質を製造する方法及び当該酸性糖質とカルシウム塩を結合させた、食品素材として有用な酸性糖-カルシウム塩を製造する方法に関する。詳しくは、糖質のアルデヒド基や一級水酸基を酵素作用によってカルボキシル基に変換して有用な酸性糖質を製造する方法並びに当該酸性糖質を食品素材に応用する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、酸性糖質の製造法としては、グルコース、ガラクトースなどの中性糖を過マンガン酸カリ等の酸化試薬で処理し、そのアルデヒド基や一級水酸基をカルボキシル基に酸化する方法、モノクロロ酢酸による酸化又は臭素とカルシウムの存在下での電解酸化でマルトースからマルトビオン酸を製造する方法が知られている。
【0003】
さらに、オリゴ糖の還元末端をヨウ素/メタノール反応系で酸化し、オリゴシルラクトン体を合成したこと、並びにオリゴ糖酸化酵素をオリゴ糖に作用させてアルドン酸を生成したことが報告されている(高田 正保ら、糖質関連酵素化学シンポジウム講演要旨、4頁、平成8年9月20日)。
また、村上らは、ラクトースの高度利用を目的として、ラクトースを資化、変換する微生物を探索し、ラクトースの還元末端を酸化してラクトビオン酸を生成する酵素を見出している。この酵素はガラクトース、グルコース、マルトース、セロビオースをも顕著に酸化すると述べている(村上 洋ら、日本農芸化学会大会講演要旨、42頁、平成9年4月1日)。
【0004】
最近、食中毒などの感染症が広域で頻発していることから、抗菌性を持つ食材が強く求められている。また、従来の食品素材に機能性を賦与した新しい食品素材の開発も要望されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、糖質の酸化物がこれらの要求に適合し得るものと考え、酸性糖質を製造する方法について検討した。しかし、これまでの化学的な酸化方法では、原料化合物が化学的処理を受けるため、生成物を食品素材として利用することに難点があった。しかも、この方法によると、生成物に食品として不適当な成分を含む場合があり、例えば金属やハロゲン元素が混入することがあり、これらを除去し精製するための費用を要して高価なものとなり、実用化が困難なことがある。
【0006】
従来、糖質の酸化酵素としては、グルコースオキシダーゼ(EC 1.1.3.4) が知られており、β-D- グルコース+O2 → D-グルコノ- δ- ラクトン+H2O2の反応を触媒する。この酵素は、α-D- グルコース、1-D-グルコゾン、2-デオキシグルコース等には僅かに作用するが、D-マンノース、D-キシロース、D-ガラクトースなどは基質とならない( 丸尾 文治、田宮 信雄監修、「酵素ハンドブック」、64~69頁、朝倉書店、1993年4月20日)。
ヘキソースオキシダーゼ(EC 1.1.3.5) も上記の反応を触媒し、グルコース以外の糖質も酸化できる。
【0007】
この他に、L-グロノラクトンオキシダーゼ(EC 1.1.3.8) は L- グロノ- β-ラクトン+ O2 → L- キシロ- ヘキスロノラクトン+H2O2の反応を触媒し、ガラクトオキシダーゼ(EC 1.1.3.9) はD-ガラクトース+ O2 → D- ガラクト- ヘキソジアルドース+H2O2の反応を触媒するが、D-ガラクトースに特異的で、D-フルクトース、D-グルコース、D-マンノースは基質とならず、ガラクトシドやガラクトースを含むオリゴ糖には作用する。
ピラノースオキシダーゼ(EC 1.1.3.10)はD-グルコース+ O2 → D-グルコソン+H2O2の反応を触媒し、D-キシロース、L-ソルボース、D-グルコノ-1,5- ラクトンも酸化できる。
したがって、これらの酵素を利用すれば、酸性糖質を生産できる可能性はあるが、少なくとも通常の四炭糖、五炭糖、六炭糖、さらにはオリゴ糖を酸化できるような酵素の開発が求められている。
【0008】
そのため、上記した酵素以外の新規酵素の探索も進んでいるが、現状では探索された酵素を入手することが困難であり、当該酵素を利用して糖質関連酸化素材を生産することは不可能である。
そこで、本発明者らは、各種の市販糖質酸化用酵素剤を集め、これらの中から酸性糖質を生成し得るものを見出すと共に、生成した酸性糖質を食品素材として利用する技術を開発した。
【0009】
まず、市販のグルコースオキシダーゼを用いてグルコースに作用させたところ、グルコースからグルコン酸が生成した。さらに反応を進めたが、グルコン酸からグルコ糖酸には変換しなかった。したがって、グルコースを定量的に測定することができることになる。
ところが、この酵素をグルコース以外の単糖、糖質関連有機化合物に作用させたところ、これらに反応して酸性糖質又は酸性糖質関連化合物を生成することを見出した。この反応は、これまで何人も予想だにしなかったことである。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたのである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の本発明は、グルクロン酸、ガラクツロン酸及びガラクトサミンよりなる群から選ばれた糖質にグルコースオキシダーゼを作用させることを特徴とする酸性糖質の製造法である。
請求項2記載の本発明は、請求項1記載の酸性糖質の製造法において、糖質にグルコースオキシダーゼを作用させる際に、カルシウムを添加することを特徴とする酸性糖-カルシウム塩の製造法である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明に用いるグルコースオキシダーゼは、市販品でよく、例えば東洋紡製(以下、 GODT酵素と略記する。)、和光純薬工業製(以下、 GODW酵素と略記する。)、オリエンタル酵母工業製(以下、 GODO酵素と略記する。)などがあるが、その他のものでも使用可能である。一般に、酸化酵素は糖質の還元末端と一級アルコール基を酸化することができるので、何れの酸化酵素でも、広い特異性を示すものであれば、本発明の方法に適用することができる。例えば、グリセリン、ソルビトール、キシリトール、フルクトース等も酸化する酵素の存在が予想される。
【0012】
糖質にグルコースオキシダーゼを作用させて酸性糖質を製造する反応は、通常酸性糖質ではpH3.5、アミノ糖等ではpH7.5で30~40℃の温度で12~48時間の条件で行う。
【0013】
本発明の方法により得られる酸性糖質は、食品素材もしくは食品として用いられるが、その種類、用途などに制限はなく、例えば酸味としての利用、カルシウムキャリアー、可食性抗菌剤などとしての利用がある。さらに、pHを4~5に調整して用いれば、虫歯防止作用が期待される。また、コレステロール蓄積防止、肥満防止、免疫機能の亢進などにも有効であると考えられる。
酸性糖質は、単独で使用してもよいが、他の食品素材などと混合、調理したり、高温及び/又は高圧処理により有用な素材を製造できる可能性がある。さらに、機能性食品素材やその原料等としても有用である。
【0014】
【実施例】
以下に、本発明を実施例などにより詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
試験例1
グルコースオキシダーゼ( GODT酵素)を40mM酢酸緩衝液(pH5.2)に濃度1%となるように溶解して調製した酵素液を[GOD] とする。
この酵素液を用いて糖質等の反応性を以下のようにして試験した。
▲1▼グルコース測定キットのGlucose B-Test Wako には、グルコースオキシダーゼの他に、反応により生じたH2O2を分解するパーオキシダーゼ、共役して着色させるフェノール及び4-aminophenazoneが混合されており、これを沸騰水中で10分間処理して酵素を失活させた溶液を[R] とする(発色剤を活用するため)。
▲2▼ワサビのパーオキシダーゼ(和光純薬工業製、100単位/mg)を5mgとり、1mlの67mMリン酸緩衝液(pH7.6)に溶解し、同緩衝液で25倍に希釈した溶液を[P] とする。
▲3▼基質のグルクロン酸(Aldrich 製、Na塩、1水和物)とガラクツロン酸(和光純薬製、1水和物)を6M NaOHで中和した。その他の基質は試薬特級であり、10%濃度に調整して用いた。基質を[S] とする。
なお、緩衝液としては、pH3~11:TEMED-HCl 0.2M、pH3~8.5:Tris-acetate 50mM、pH3.5と7.5:Tris-HCl 0.2M、pH4:HCl-acetate 0.2Mを用いた。
【0015】
反応液〔[GODT] 20μl+[S] 10μl+緩衝液20μl〕を30℃で20分間振盪反応させた後、1N NaOH25μlを加えて反応を止め、1N HCl25μlを加えて中和した。次に、[R] 100μlと[P] 25μlを加えて30℃で10分間振盪反応を行い発色させた後、375μlの水を加えて505nmで比色し、得た値を基準糖質の吸光度で除して各々の糖質等の作用度を求めた。結果を図1に示す。図中、●はガラクツロン酸の、○はグルコースの曲線である。
【0016】
至適pHは、グルコースなどの中性糖の場合、図1に示したように、8であるが、pH7~9.5の範囲では80%以上の相対活性であった。一方、ガラクツロン酸などの酸性糖の場合、至適pHは3.5であり、pH3~4の範囲では80%以上の相対活性であった。グルコサミンは中性糖と同様の傾向であった
【0017】
試験例2
グルコースオキシダーゼとして市販の3種( GODT酵素、 GODW酵素、 GODO酵素)を用いてウロン酸に対する作用度を比較した。結果を第1表に示す。
表から明らかなように、 GODW酵素のガラクツロン酸への作用度を1とした場合、 GODT酵素のガラクツロン酸への作用度は非常に高い。また、 GODO 酵素はグルクロン酸への作用度が著しく高い。これに対して、 GODW酵素は何れの基質に対する作用度も低い。このように、酵素製品により基質に対する作用度が異なるので、目的に応じて適宜選択することができる。なお、 GODT酵素のグルコースへの作用度は108.7であった。
【0018】
【表1】
第1表 ウロン酸に対する市販酵素の作用度の比較
JP0003713530B2_000002t.gif【0019】
試験例3
この例では、各種pHでのガラクツロン酸に対するグルコースオキシダーゼ( GODT酵素)の作用度を調べた。結果を図2に示す。図中、●は還元力を示し、△はパーオキシダーゼによる呈色の測定値である。
図示したように、ソモジー・ネルソン法での還元力測定では、pHの低下と共に還元力が低くなり、低pH領域で反応が進み、ガラクツロン酸の還元末端が酸化されて還元性が小さくなる。一方、作用度はpH3~4で最大であり、高pH領域となるにしたがって小さくなり、還元力測定値と対照的な曲線となる。
【0020】
試験例4
試験例1と同様の方法により、反応液〔[GODT] 20μl+[S] 10μl+緩衝液50μl〕を30℃で20分間振盪反応させた後、比色を行い、グルコノδ-ラクトンの吸光度を基準として各種基質に対する作用度を求めた。結果を第2表に示す。
表から明らかなように、酸性糖では一般に還元末端のC1位が酸化されてグルコン酸になったものは酸化を受けにくいが、6位がカルボキシル化されていても反応は進行する。さらに、還元末端を持たないショ糖、サイクロデキストリン、糖アルコール、グルタルアルデヒド等も種類によって程度は異なるが、酸化を受ける。このことから、グルコースオキシダーゼは一級水酸基、アルデヒド基を酸化できるものと推定される。
なお、本表において、1以下の値は殆ど酸化されないことを示し、本条件下ではソルビトール、キシリトール、エタノール、α-、β-サイクロデキストリンは作用を受けない。
【0021】
【表2】
第2表 各基質におけるグルコースオキシダーゼの作用度
JP0003713530B2_000003t.gif【0022】
上記試験における生成物の分析は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)とペーパークロマトグラフィー(PPC)により行った。図3は試験例4で得られたグルクロン酸とガラクツロン酸からの生成物を示す。HPLCの分析条件は、カラム:Bio-Rad Aminex Carbohydrate HPX-87C 300mm × 7.8mm、0.6ml/min、52kg pressure 、water 、RI detector である。図中、(1)はグルクロン酸からの生成物の結果を示し、(2)はガラクツロン酸からの生成物の結果を示している。また、a,bは反応20時間後の結果を、c,dは反応開始時の溶出物の結果を示しており、p,p,pは生成物を示す。図において、グルクロン酸からの生成物が単一ピークにならないのは、各種のラクトンが形成されることによるものと考えられる。
【0023】
また、PPCでの分析条件は、反応液〔[GODT ] 100μl+[S] 100μl+緩衝液(HCl-acetate 50mM、pH4)250μl〕を30℃で20分間振盪反応させた後、沸騰水中で失活処理した反応液を直接、濾紙(No.50)に10μlスポットし、65% n-プロパノール展開溶媒にて60℃、3時間で1回展開した後、硝酸銀発色をした。通常、硝酸銀発色では、還元力を持たない糖質は発色しない筈であるが、本試験で得られた生成物は発色程度は弱いが、明確なスポットを示した。
【0024】
両法による分析で得た糖質の保持時間を第3表に示す。一般に、糖酸は1,4-ラクトン、3,6-ラクトン、ジラクトン型もとり、単一成分にならないため、純品でも2個以上の値を示すことがある。
【0025】
【表3】
第3表 標準糖質と反応生成物の保持時間
JP0003713530B2_000004t.gif【0026】
実施例
ガラクツロン酸5gを400mlの純水に溶解し、1N NaOHでpHを3.5に調整した後、グルコースオキシダーゼ( GODT酵素)250mgを加え、全体量を500mlとし、温度コントローラー、pH調整装置付きの2L容ジャーファーメンターに入れ、1N NaOHでpHを3.5に調整し、空気を通しながら30℃で24時間反応させたところ、半量程度のガラクツロン酸がガラクタル酸に変換した。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、グルコースオキシダーゼを用いて各種糖質を酸化して対応する酸性糖質を得ることができる。
本発明に係る酸性糖質は抗菌性を示す。さらに、酸性糖質にカルシウム等を結合させることにより、一層抗菌性を高めたり、生体に必須の金属を担持させることができる。特に、カルシウムのキャリアーとすることによりカルシウム不足を補う食品素材を得ることができる。
【0028】
さらに、これら酸性糖質の金属塩は、優れた抗菌性の他に、酵素阻害剤としての利用も考えられ、肥満防止、虫歯予防などの作用のある機能性食品素材としての利用が期待される。
本発明を工業的に実施するためには、酵素を固定化したカラムの利用が有効であるが、反応の進行と共にpHが低下するので、炭酸カルシウム等の連続的負荷が必要である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 グルコースオキシダーゼによるグルコースとガラクツロン酸の酸化に及ぼすpHの影響を示すグラフである。
【図2】 グルコースオキシダーゼによるガラクツロン酸の酸化に及ぼすpHの影響を示すグラフである。
【図3】 グルクロン酸及びガラクツロン酸からの生成物のHPLC分析の結果を示す。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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